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関連ワード 意匠の実施 /  意匠の創作 /  物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  組物の意匠(8条) /  3条1項3号 /  類似する意匠 /  類似の意匠 /  意匠の類否 /  全体観察 /  関連意匠(10条) /  本意匠 /  先使用(29条) /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  通常実施権 /  権利濫用(権利の濫用) /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 14年 (ワ) 8765号 意匠権に基づく差止請求権不存在確認請求事件
原告 ニプロ株式会社
訴訟代理人弁護士 小松陽一郎
同 宇田浩康
同 小野昌延
被告 株式会社大塚製薬工場
訴訟代理人弁護士 三山峻司
補佐人弁理士 藤本昇
同 松井宏記
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/07/15
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
原告が別紙物件目録原告案記載の輸液バッグを製造することについて、被告が別紙意匠目録1記載の意匠権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
事案の概要
1 本件は、原告が、別紙物件目録原告案記載の輸液バッグを製造することについて、被告が別紙意匠目録1記載の意匠権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めた事案である。
2 基礎となる事実 (1)当事者 原告は、医科用医療及び動物用医療機械器具、医薬品、試薬の製造、販売並びに輸出入、医薬部外品、化粧品の製造、販売等を業とする株式会社である。
(当事者間に争いがない。) 被告は、医薬品、医薬部外品、化粧品、動物用医薬品、医療用具、医療用器具・機械・装置の製造、販売並びに輸出入等を業とする株式会社である。(当事者間に争いがない。) (2)原告による輸液バッグの製造販売 原告は、別紙イ号図面記載の輸液バッグ(商品名「フルマリンキット静注用1g」。以下、別紙イ号図面記載の輸液バッグを「イ号製品」といい、その意匠を「イ号意匠」という。)を製造販売している。(当事者間に争いがない。ただし、イ号意匠の構成を文言によりどのように特定するかについては、後記争点(1)のとおり争いがある。) (3)被告の意匠権 被告は、別紙意匠目録1記載の意匠権を有している(以下、別紙意匠目録1記載の意匠権を「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という。)。(当事者間に争いがない。) 被告は、本件登録意匠本意匠とする関連意匠5件(意匠登録第1107512号、第1108821号、第1108822号、第1108823号、第1108824号)の意匠権を有している。(甲第35号証の1、2、第42ないし第45号証の各1、2。上記関連意匠登録意匠は別紙意匠目録3ないし7のとおり。) 3 争点 (1)イ号意匠の構成の特定 (2)本件登録意匠の構成の特定 (3)本件登録意匠の要部 (4)イ号意匠と本件登録意匠の類否 (5)先使用の成否 (6)本件登録意匠の明白な無効理由の有無
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(イ号意匠の構成の特定)について (1)被告の主張 イ号意匠の構成は、文言により特定すると、別紙物件目録被告案の2(文言による特定)記載のとおりである。
(2)原告の主張 イ号意匠の構成は、文言により特定すると、別紙物件目録原告案の第2(構成)、2(文言による特定)記載のとおりである。
2 争点(2)(本件登録意匠の構成の特定)について (1)被告の主張 本件登録意匠の構成は、次のとおりである。
ア 基本的構成態様 @ 全体が縦長の形状を有してなるプラスチック製の輸液バッグで、
A 輸液バッグ本体は、上半側となる製剤収納室を有する袋体と、下半側となる溶解液収納室を有する袋体とが一連に連続して形成されてなり、
B 前記製剤収納室側の袋体の上端部には、略長方形状の吊下部の略中央部に吊下用孔が形成され、
C 溶解液収納室側の袋体の下端部には、強シール部からなる底部の略中央部に円筒状の注出口栓が装着されてなり、
D 前記上下二室の境界部における中央部には帯状の弱シール部が形成され、
E しかも前記製剤収納室側の正面には、吊下部の下端から該収納室側を覆うアルミシートからなるカバー体が剥離可能に貼着されてなり、
F 前記溶解液収納室側の袋体は、正面視及び背面視においてその両側の上端縁肩部には、袋体の上端中央部側を内方に向けて幅狭とする内側シール線が略斜め下方に形成されて幅広な一対の強シール部を形成してなり、
G さらに製剤収納室側の袋体の背面視において、前記中央部の帯状の弱シール部の両側には該弱シール部より幅広で太い強シール部が一対形成されてなり、
H しかも輸液バッグ本体は側面視上下の連設部を介し上半側の袋体に比し下半側の袋体は略両側に膨出した袋状部として形成されるとともに該下半側の袋体の略上方中央部には強シール線が形成されてなる。
イ 具体的構成態様 @ 輸液バッグ本体の縦と横の寸法比は約3対1である、
A 吊下部の両側上端縁は小さなアールとして形成されてなり、
B 溶解液収納室側の袋体の下端の強シール部からなる底部は大きな弧状に形成されてなり、
C 上下袋体の境界となる中央部の両側端には略台形状のくびれ部が形成されてなり、
D 前記製剤収納室の上面を覆うカバー体は、吊下部直下から前記くびれ部の略中央位置まで形成され、
E 該カバー体の下端中央には下方向に膨出する小半円状の剥離用ツマミ部が形成され、
F 溶解液収納室側の袋体の両側上端縁肩部に形成された一対の強シール部は略ハの字状に形成されてなり、
G 製剤収納室側の袋体の背面視において、該収納室直下側の弱シール部を除く収納室の周縁は強シール部によって囲繞されてなり、
H 側面視において、中央の境界シール部を介して上方の袋体はやや両側に膨出した形状で、下方の袋体は前記上方の袋体より更に両側に大きく膨出して形成されてなり、しかも袋体の縦方向中央部にはシール線の下端が下方の袋体の略上方位置まで形成されてなる。
(2)原告の主張 本件登録意匠の構成は、次のとおりである。
ア 基本的構成態様 @ 全体が縦長の形状を有している輸液バッグである。
A 上半側となる製剤収納側の袋体と、下半側となる溶解液収納側の袋体とが連続して形成されてある。
B 上半側となる製剤収納側の袋体の上端部一定幅をシールして吊下部を形成し、その中央部に吊下用孔が形成されてある。
C 下半側となる溶解液収納側の袋体には下端部中央に円筒状の注出口栓が装着されている。
D 前記製剤収納袋体の正面に吊下部の下端から溶解液収納袋の上端に至る部分を覆い隠しているアルミカバーシートを有している。
E 輸液バッグ全体の左右両側面視において、下方の溶解液収納袋の肩部及び底部の各強シール線が中央に直線状に表れていて、それを挟む状態で下方部が一定の幅を有する平行線状の膨らみを、上方部が紡錘状をなす膨らみを各々有しており、上方の製剤収納袋の正面視における左右両側端の強シール線が中央に直線状に表れていて、それを挟む状態で左右のアルミラミネートシートを貼着したビニール袋の左右両側部が中央部において外方に下半袋体よりも幅狭に膨出する緩やかな曲線を呈し、上下両端部において合体する状態に表れている。
イ 具体的構成態様 F 輸液バッグ本体の縦と横の寸法比は約33対10である。
G 両袋体の境界となる中央部においては、左右両側端に略台形状のくびれ部が形成されてある。
H 上半側となる製剤収納側の袋体は、吊下部、及び製剤収納部の四周がシールされ、前後に膨らみのある袋体である(背面図及び右側面図参照)。
I 製剤収納袋の正面を覆うアルミカバーシートには下端中央に下方向に膨出する極めて小さな半円状の剥離用ツマミ部を形成してあり、このカバーは剥離可能なように外周を貼着してあるが、シール線は表れていない。
J 製剤収納袋の背面側には、上端左右コーナー部にアールを有する長方形状の下方部両側を内方に向け斜めにカットしたコップ形状の薬剤収納部を残して外周に幅狭のシール線が表されている。
K 同上記外周シール部のうち、溶解液収納袋体との接合線の上に弱シール部となる幅狭で比較的に短い帯状のシール線が表れている。
L 同吊下部の上端左右コーナー部にはアールが形成されている。
M 下半側となる溶解液収納側の袋体は、上端左右コーナー部、及び下端部全長一定幅をシールし、その余の両側端はシールされていないチューブ状の袋体である。
N 同上記下端部シール部は、その上下両端シール線を大きな湾曲形状に形成され、その中央部に上記注出口栓が装着されている。
O 同上記上端左右コーナーのシール部の内側シール線は斜め下方にハの字形をなす比較的に長い直線状のシール線が表れている。
P 同袋体の左右両側端は正背面視において直線状に表れている。
3 争点(3)(本件登録意匠の要部)について (1)被告の主張 ア(ア)本件登録意匠に係る商品である医療用バッグにおいては、製剤収納室と溶解液収納室が上下に区分けされており、使用時に両室が連通して薬剤がスムーズに溶解されることが必須不可欠で生命線となるため、これを使用する医療関係者にとって、前記両室(上下の袋体)の境界における形態は極めて重要視されることとなる。したがって、本件登録意匠の弱シール部と強シール部からなるダンベル状のシール形態や溶解液収納室側の袋体の両側上端縁肩部の強シール形態は、十分に目立ち、視覚的に認識し得る審美感を有する。
(イ)公知意匠である乙第1号証、第3、第4号証記載の輸液バッグには、基本的構成態様のD、F、Gの構成は全く存在しない。
(ウ)本件登録意匠関連意匠5件と本件登録意匠を対比すると、基本的構成態様のD、F、Gの構成を備える点においてすべて共通しており、これらの共通する構成から、特許庁において、本件登録意匠関連意匠とが相互に類似するものと判断され、関連意匠が登録されたと考えられる。
イ したがって、基本的構成態様のD、F、Gの構成、すなわち、製剤収納室と溶解液収納室の境界部において、中央部に帯状の弱シール部を設けた構成(D)と、該帯状の弱シール部が背面視において該弱シール部の両側に該シール部より幅広で太い強シール部を一対形成した構成(ダンベル形状)(G)と、正面及び背面視において溶解液収納室側の袋体の両側の上端縁肩部に袋体の上端中央部側を内方向に向けて幅狭とする内側シール線が略斜め下方に形成されて幅広な一対の強シール部を形成した構成(F)が、本件登録意匠の創作ポイントで特徴的部分であり、これが看者の注意力を喚起する部分であって、意匠の要部である。
ウ 原告が本件登録意匠の要部であると主張する構成のうち、薬剤収納側の袋体正面のアルミカバーシートにシール線が表れていない点は、アルミカバーシートの外周が貼着されていることから表されていないだけであり、これが本件登録意匠の特徴になることはあり得ない。
原告が本件登録意匠の要部であると主張する構成のうち、アルミカバーシートの下端中央に下方向に膨出する小さな半円状の剥離用ツマミが形成されている点は、関連意匠にツマミの位置や形状、大きさが異なる意匠も登録されていることから、本件登録意匠の要部にはなり得ない。
(2)原告の主張 ア(ア)本件登録意匠やイ号意匠に係るダブルバッグタイプの輸液バッグにおいては、アルミカバーシートが残存している限り、未だ混合作業がされていないことが一目瞭然に分かるから、シングルバッグの輸液バッグを使い慣れている医師や看護師が混合作業を忘れて患者に注入する事故を防ぐため、アルミカバーシートの視認性が最も重要である。
本件登録意匠のアルミカバーシートに関して、従来にない新規な特徴であり、かつ本件登録意匠関連意匠5件に共通する形態上の特徴は、(@)上方の製剤収納袋の吊下部を残して全面を覆う、貼着部のシール線が表れていない方形状のアルミカバーシートの周辺部のいずれかに、一つの小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片を設けた点であり、この点が本件登録意匠の要部である。
(イ)また、(A)輸液バッグ全体の左右両側面視において、下方の溶解液収納袋の肩部及び底部の各強シール線が中央に直線状に表れていて、それを挟む状態で、下方部が一定の幅を有する平行線状の膨らみを、上方部が紡錘状をなす膨らみを各々有しており、上方の製剤収納袋の正面視における左右両側端の強シール線が中央に直線状に表れていて、それを挟む状態で左右のアルミラミネートシートを貼着したビニール袋の左右両側部が中央部において外方に膨出する緩やかな曲線を呈し、上下両端部において合体する状態に表れている点、(B)正面視及び背面視において、下方の溶解液収納袋体の上端左右両側部に表れている大きく、かつ明確な下すぼまりのシール線が表れている点も、本件登録意匠関連意匠5件のすべてに共通し、本件登録意匠の出願前の公知意匠(乙第1号証、第3、第4号証、第44ないし第46号証)のいずれにも存せず、新規でかつ看者の注意を強く引く特徴であるから、本件登録意匠の要部である。
イ(ア)被告は、背面図における被告主張の基本的構成態様D、F、Gの構成を結合して形成されるダンベル形状のシール線をもって要部と主張しているものと解される。しかし、ダンベル形状のシール線のうち、下方の溶解液収納袋体の上端左右コーナー部に表れるシール線は極めて視認性が高いものの、背面図にのみ表れる上方の製剤収納袋体のシール線は、実際上視認性が極めて低いものであり、看者が全体としてダンベル形状と明確に認識できるものとは到底いうことができない。
弱シール、強シールとは、物品の理解を助けるための技術的な機能説明を表すにすぎず、視認性の高いものしか意匠の構成要素となり得ないのは当然のことであり、
いわんや意匠の要部とは到底いえない。
(イ)医師や看護師が混合作業時に薬剤がスムーズに溶解されたか否かを確認するのは、正面側上方の薬剤収納袋の透明窓を注視してされるものであるが、正面側のダンベル形状のシール線の一部をなすシール線は本件意匠の権利を要求する必要図中には一切表れておらず、必要図として背面側のみに表れているにすぎない。したがって、背面側のみに表れているダンベル形状のシール線は、上記混合作業時には作業者の目に触れないから、これをもって本件登録意匠の要部とは到底いえない。
4 争点(4)(イ号意匠と本件登録意匠の類否)について (1)被告の主張 ア 共通点 (ア)イ号意匠と本件登録意匠は、基本的構成態様@ないしHにおいていずれも共通する。
(イ)イ号意匠と本件登録意匠の具体的構成態様の共通点は、次のとおりである。
a 溶解液収納室側の袋体下端の底部の強シール部が大きな弧状に形成されている点(各具体的構成態様B) b 上下袋体の境界となる中央部の両側端にくびれ部が形成されている点(各具体的構成態様C) c カバー体は吊下部直下から前記くびれ部の略中央位置まで形成されている点(各具体的構成態様D) d カバー体に剥離用つまみ部が突設されている点(各具体的構成態様E) e 製剤収納室側の袋体の背面視における強シールによる囲繞形状と弱シール部とその両側の強シール部とによって形成されたダンベル形状の点(各具体的構成態様G) f 側面視において袋体の縦方向中央部にはシール線の下端が下方の袋体の略上方位置まで形成されている点(各具体的構成態様H) イ 相違点 イ号意匠と本件登録意匠の相違点は、次のとおりである。
(ア)バッグ本体の縦と横の寸法比が、本件登録意匠は約3対1であるのに対し、イ号意匠は約26対10である。(各具体的構成態様@) (イ)吊下部の両側上端縁は、本件登録意匠は小さなアールであるが、イ号意匠は下端部がアールで上端部がエッジ状である。(各具体的構成態様A) (ウ)両側縁のくびれ部において、本件登録意匠は略台形状であるのに対し、イ号意匠は円弧状である。(各具体的構成態様C) (エ)剥離用ツマミ部において、本件登録意匠はカバー体の下端中央に下方向に膨出する小さな半円状であるのに対し、イ号意匠は上端左側の上方吊下部に向けて大きく膨出する舌片状で、かつ矢印が印刷されている。(各具体的構成態様E) (オ)溶解液収納室側の袋体の両側上端縁に形成された一対の強シール部は、本件登録意匠ではハの字形をなす比較的長い直線状のシールであるのに対し、
イ号意匠では円弧状に形成されている。(各具体的構成態様F) (カ)製剤収納室の背面の外周において、本件登録意匠はその外周に幅狭のシール線があるのに対し、イ号意匠はやや幅広な外周シール線がある。(各具体的構成態様G) ウ 類否 (ア)前記イ(ア)記載の相違点は、本件登録意匠関連意匠における縦横の寸法比に鑑みると、細部的事項にすぎない。
前記イ(イ)記載の吊下部の両側上端縁のわずかな形状の相違は微細な事項である。
前記イ(ウ)記載のくびれ部の形状の相違は、本件登録意匠関連意匠(例えば意匠登録第1108823号、第1108824号)との間でも見られるから、細部的事項である。
前記イ(エ)記載のツマミ部の形状や大きさ及び位置の相違は、本件登録意匠関連意匠との間でも見られ、原告の意匠登録出願(意願2000-7931号)に対する拒絶理由通知書(乙第2号証の2、丙第5号証)、拒絶査定(乙第2号証の4、丙第4号証)に示された特許庁の見解からしても、細部的事項である。
前記イ(オ)記載の強シール部の形状の相違は、本件登録意匠関連意匠との間でも見られるから、微差である。
前記イ(カ)記載の製剤収納室の背面の外周シール線に係る相違は、
関連意匠にそのような外周シール線が存在しないことに鑑みれば、微差である。
したがって、本件登録意匠とイ号意匠の相違点は、両意匠を全体観察した場合に、いずれも細部的な事項にすぎないものである。
(イ)イ号意匠と本件登録意匠は、意匠の要部のみならず、その基本的構成態様のすべてにおいて共通し、しかも、その具体的構成態様においても、くびれ部を有し、剥離用ツマミ部を有する点などで共通し、意匠全体として看者に共通の視覚的な印象を与える。
イ号意匠及び本件登録意匠に係る輸液バッグの看者は、医師や看護師など、輸液バッグを使用する医療関係者であり、これらの者は、弱シール部の開通のしやすさなど利便性を重視する観点から輸液バッグを見るため、看者の注意力は連通部である弱シール部の形態に集められ、この部分の形態がより一層重視される。そのため、基本的構成態様のうち、意匠の要部である、製剤収納室と溶解液収納室との連設部の形態、特に中央部の帯状弱シール部とその両側の幅広で太い強シール部からなるダンベル状の形態と、溶解液収納室の上方両側端肩部に形成した一対の強シール部の形態は看者の注意を喚起せしめ、さらに具体的形態であるくびれの存在は特に看者の注意を喚起せしめる。イ号意匠と本件登録意匠は、これらの共通する形態によって、共通の意匠的効果を有し、看者に共通の審美感を与え、出所の混同を惹起せしめるに十分な類似性を有する。
(ウ)したがって、イ号意匠は本件登録意匠と類似する。
(2)原告の主張 ア 共通点 (ア)イ号意匠と本件登録意匠は、基本的構成態様@ないしDにおいていずれも共通する。
(イ)イ号意匠と本件登録意匠の具体的構成態様の共通点は、次のとおりである。
a 製剤収納袋体と溶解液収納袋体との接合線の上に帯状の弱シール線が表れている点で概括的に一致する。(各具体的構成態様K) b 溶解液収納側の袋体の形態において共通する。(各具体的構成態様M) c 溶解液収納袋体の上端左右コーナー部のシール線の形状において概括的に一致する。(各具体的構成態様O) イ 相違点 イ号意匠と本件登録意匠の相違点は、次のとおりである。
(ア)左右両側面視の構成が相違する。(各基本的構成態様E) (イ)輸液バッグの縦横の寸法比が、本件登録意匠は約33対10であるのに対し、イ号意匠は約26対10である。(各具体的構成態様F) (ウ)製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界となる中央部の左右両側端のくびれ部の形状が、本件登録意匠は略台形状であるのに対し、イ号意匠は円弧状である。(各具体的構成態様G) (エ)上半側となる製剤収納側の袋体の形状が、本件登録意匠は、吊下部、
及び製剤収納部の四周がシールされた前後に膨らみのある袋体であるのに対し、イ号意匠は、吊下部、及び製剤収納部の四周がシールされた前後面共にほとんど膨らみのない袋体である。(各具体的構成態様H) (オ)製剤収納袋の正面側における吊下部の下端から溶解液収納袋の上端部分を覆い隠しているアルミカバーシートの形態が相違する。(各具体的構成態様I) (カ)製剤収納袋の背面側の形態が相違する。(各具体的構成態様J) (キ)吊下部の形態が相違する。(各具体的構成態様L) (ク)溶解液収納袋の下端シール部の形態が相違する。(各具体的構成態様N) (ケ)溶解液収納袋の上端左右コーナーのシール部の内側シール線が相違する。(各具体的構成態様O) (コ)本件登録意匠においては、溶解液収納袋背面に数字又は目盛りの印刷はないが、イ号意匠においては、背面左側方に25、50、75の数字とともに目盛りが印刷されている。(イ号意匠の具体的構成態様Q) ウ 類否 (ア)a 本件登録意匠とイ号意匠は、5つの基本的構成態様において共通するが、このうち基本的構成態様@ないしCは、本件登録意匠の出願前に周知な形態であり(乙第1号証、第3、第4号証、第38ないし第40号証)、全体観察上、看者の注意を強く引く部分とはいえない。被告も、本件登録意匠の出願前から、本件登録意匠の基本的構成態様を具備した製品(甲第17号証)を販売している。さらに、本件登録意匠の基本的構成態様Dは、原告が有する別紙意匠目録2記載の意匠権の登録意匠(以下、別紙意匠目録2記載の意匠権(意匠登録第1016887号、意匠公報は乙第1号証、丙第2号証)の登録意匠を「原告公知意匠」という。)に採用された形態部分である。
b 本件登録意匠とイ号意匠は、3つの具体的構成態様において共通するが、このうち各具体的構成態様Kに示す帯状の弱シール線は、概括的に一致しているものの、視認性が低く、看者の注意を強く引くものとはいえない。
各具体的構成態様Mに示す溶解液収納袋の形態は、本件登録意匠の出願前に知られたものであり(乙第38号証、第44号証)、全体観察上、重視するに値しない。
本件登録意匠とイ号意匠の各具体的構成態様Oに示す溶解液収納袋の上端左右コーナー部のシール線の形状は、概括的に一致するとはいえるものの、
本件登録意匠及びその関連意匠5件の上記コーナー部のシールは、いずれも非常に大きいのに対し、イ号意匠のそれは比較的小さく、この概括的な一致点のみで両意匠が全体観察上類似するとまでは到底いい得ない。
(イ) 本件登録意匠とイ号意匠は、アルミカバーシートの形態について、
前記イ(オ)記載のとおり異なるところ、アルミカバーシートの視認性は重要であり、その構成は、本件登録意匠及びイ号意匠の要部である。イ号意匠のアルミカバーシートにおける「アルミカバーシートの上端左側に上方の吊下部に向けて大きく膨出する舌片状の剥離用ツマミ部」と、そのツマミ部に表された「鏃を下方向に向けた大きな矢印」は、本件登録意匠と従来の輸液バッグの意匠のいずれにもなかった新規な部分であり、全体観察上、看者の注意を強く引く。
本件登録意匠とイ号意匠は、左右両側面視の構成について、前記イ(ア)記載のとおり異なるところ、左右両側面視の構成は、本件登録意匠及びイ号意匠の要部である。左右両側面視の構成の相違は、全体観察上看者の注意を強く引き、異別の印象を与えるポイントとなっている。
(ウ) 本件登録意匠とイ号意匠は、前記ア(ア)、(イ)記載のとおり8つの共通点を有するが、そのうち本件登録意匠及びイ号意匠の要部に関する共通点は1つにすぎず、しかもその共通点から受ける全体観察上の印象は極めて低く、他方、他の共通点は要部でないところのものにすぎない。これに対し、本件登録意匠とイ号意匠の間には、前記(イ)記載のとおり、要部に関する相違点が2つ存し、
いずれも全体観察上の比重は大きく、他にも要部以外の部分とはいえ、多くの相違点があり、全体観察上、本件登録意匠とイ号意匠は看者に異別の印象を与えている。したがって、イ号意匠と本件登録意匠は類似しない。
5 争点(5)(先使用の成否)について (1)原告の主張 ア 先使用権を主張する者は、先使用権の成立要件である「登録意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業」又は「その事業の準備」に該当する具体的な事実を主張し、立証すれば足りるのであり、その実施である事業又は事業の準備の過程で存在する個々の製品の意匠及びこれとイ号意匠との異同をいちいち正確に特定して主張する必要はない。
また、先使用の対象となる意匠は、登録意匠出願の際に現に実施されていた意匠だけでなく、これと類似する意匠を含む。
イ(ア)先使用の経緯は次のとおりである。
a 原告は、平成8年3月ころ、塩野義製薬株式会社(以下「塩野義」という。)に対し、粉末抗生物質と溶解液を弱シール部で接続したダブルバッグタイプの輸液バッグの提案を行い、その後、塩野義が製造販売していた抗生剤フルマリン静注用1gと生理食塩水100mlを一体化したフルマリンキット静注用1gを共同開発することとなった。
b 塩野義は、フルマリンキット静注用1gの有用性試験を実施することを決定し、平成11年5月21日、同社の医薬開発部長から治験薬品質管理者に対して、フルマリンキット静注用1gの基礎実験用サンプル250バッグの製造を依頼する依頼書が発せられた(乙第6号証、丙第8号証)。
c 平成11年5月27日、塩野義の治験薬製造管理責任者は、上記製造依頼に係る基礎実験用サンプルの製造番号をBF9002号とすることを決定し、医薬開発部に対しその旨通知した(乙第7号証、丙第9号証)。
d 平成11年6月1日、原告、塩野義、菱山製薬株式会社(以下「菱山」という。後にニプロファーマ株式会社となった。)は、フルマリンキット静注用1gについて共同開発契約を締結した(共同開発契約書は乙第5号証、丙第7号証)。共同開発契約書には、別紙Tとして、原告、塩野義、菱山の作業分担を記載した作業分担表が添付されていた。
e 平成11年6月8日、塩野義の治験薬製造管理責任者は、治験薬製剤責任者に対し、「基礎実験用検体製造指図書(包装)」と題する書面を発し、上記基礎実験用サンプル(基礎実験用検体)の製造の実施を指図した(乙第8号証、
丙第10号証)。
f 原告は、共同開発契約書別紙Tに規定された作業分担のとおり、キット構成部材を生産して菱山に供給し、この部材の供給を受けた菱山は、包装前の基礎実験用サンプルの製造を行い、塩野義に入庫した。塩野義の同社製剤研究所は、入庫された基礎実験用サンプルに包装作業を行い、製造依頼された250バッグ(25ケース)を、平成11年6月15日ころ、製造依頼者である医薬開発部に入庫した(乙第9号証の1、2、丙第11号証の1、2)。
g 塩野義は、A大学病院薬剤部のB外1名にフルマリンキット静注用1gの有用性試験の実施を委託し、平成11年6月26日から同年7月13日までの間、有用性試験が行われた(乙第10号証、丙第12号証) (イ)検乙第1号証は、有用性試験に使用するために製造された250バッグのうちの一つである。
ウ(ア) 原告は、上記のとおり、有用性試験に使用されるキットの構成部材を生産して菱山に供給し、この部材の供給を受けた菱山は、包装前の基礎実験用サンプルの製造を行って塩野義に入庫し、塩野義が包装を施し、それが有用性試験に使用されたから、上記のような原告の行為は、意匠法29条の「登録意匠又はこれに類似する意匠」の「実施である事業」に該当する。
(イ)原告は、上記のとおり、即時実施の意図をもって、本件登録意匠の出願前に、被告が本件登録意匠に類似すると主張するイ号意匠の実施のために必要な準備行為を行っていたから、このような原告の行為は、意匠法29条の「その事業の準備」に該当する。
(ウ)塩野義、原告らが、イ号製品若しくは有用性試験のサンプルを開発若しくは製造する過程で行った試作品の製造、設計図等の作成、試作金型や本金型の製作、製造承認申請等の行為は、意匠法29条の「その事業の準備」に該当する。
(2)被告の主張 原告が主張する先使用対象の意匠とは何か、その意匠がいつ完成したのかは明らかでない。
被告は、先使用の事実を裏付ける証拠として、輸液バッグの現物(検乙第1号証)、金型説明図面(乙第27号証)、製造工程案図面(乙第47号証)及び印刷見本図面対象図・印刷見本図面(乙第50号証の1ないし3)を提出するところ、本件登録意匠の要部であるダンベル形状は、検乙第1号証の輸液バッグに表れているだけであり、その他の証拠には示唆又は開示されていないから、ダンベル形状を備えた検乙第1号証の輸液バッグは、本件登録意匠の出願前に存在したとは考えられない。
6 争点(6)(本件登録意匠の明白な無効理由の有無)について (1)原告の主張 本件登録意匠の意匠登録出願前の公知意匠である原告公知意匠の構成は、
別紙「原告公知意匠の構成」記載のとおりである。本件登録意匠と原告公知意匠を対比すると、基本的構成態様については共通し、具体的構成態様の多くも共通しており、相違点は看者の注意を強く引くところではない。したがって、本件登録意匠は原告公知意匠に類似するから、意匠法3条1項3号に該当し、無効理由(同法48条1項1号)の存在が明らかであって、本件意匠権に基づく差止請求権の行使は権利の濫用であり、許されない。
(2)被告の主張 原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(イ号意匠の構成の特定)について 甲第10、第11号証、検甲第1号証及び第2号証の各1、2及び弁論の全趣旨によれば、イ号意匠の構成は次のとおりであると認められる。
(1)基本的構成態様 @ 全体が縦長の形状を有している輸液バッグである。
A 上半側となる製剤収納部を有する袋体と、下半側となる溶解液収納部を有する袋体とが連続して形成されている。
B 製剤収納側の袋体の上端部全長の一定幅をシールして略長方形状の吊下部を形成し、その中央部に吊下用孔が形成されている。
C 溶解液収納側の袋体の下端部の中央に円筒状の注出口栓が装着されている。
D 製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の中央には、帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側には、弱シール部より幅の広い強シール部が形成されている。
E 製剤収納側の袋体の正面には、吊下部の下端から溶解液収納側の袋体の上端に至る部分を覆い隠しているアルミカバーシートが貼着されている。
F 側面視において、全体が薄型の形状をしており、上半側となる製剤収納側の袋体及び下半側となる溶解液収納側の袋体の正面及び背面がそれぞれ膨出している。
(2)具体的構成態様 G 輸液バッグ本体の縦と横の寸法比は約26対10である。
H 製剤収納側の袋体の吊下部の両側上端縁は、下端部が小さなアールで、
上端部がエッジで、その間が直線として形成されている。
I 製剤収納側の袋体は、上端に吊下部があり、背面視において、吊下部の下に製剤収納部がある。製剤収納部は、上端左右コーナー部にアールが付されており、下方はいったん狭まった後広がる形状で、全体として外側端がお椀形状をなすシール線として表れている。
J 製剤収納部の下端は直線をなすが、更にその下方の製剤収納側の袋体の下方左右コーナー部には、強シール部が設けられており、強シール部は、弱シール部の左右両側に、弱シール部よりも幅広に設けられている。
K 製剤収納側の袋体の正面を覆うカバーシートの上端左側に、上方の吊下部に向けて大きく膨出する舌片状の剥離用ツマミが形成されており、かつ、ツマミ部には鏃を下方向に向けた大きな矢印が印刷されており、このカバーの四周には、
幅狭の外周シール部が形成され、その内側のコーナー部にはアールが付されている。
L 製剤収納側と溶解液収納側の両袋体境界部の左右両側端に円弧状のくびれ部が形成されている。
M 溶解液収納側の袋体は、上端辺、上端左右コーナー部、及び下端部全長の一定幅をシールし、両側端はシールされていないチューブ状の袋体であり、左右両側端は、正面視及び背面視においてわずかに内側に湾曲している。
N 溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部におけるシールの内側の線は、斜め下方に広くなるハの字形をなす。
O 上記ハの字形をなすシール線は直径の大きな円弧状の線である。
P 溶解液収納側の袋体の下端部全長における一定幅のシールの上端の線は大きな湾曲形状をなし、下端の線は、下端左右コーナー部にアールが付され、下端辺が直線状で、中央部が若干広幅に形成されて、その部分に円筒状の注出口栓が装着されている。
Q 溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部のシール部は、製剤収納側の袋体の帯状の弱シール部の左右両側に設けられた強シール部の下に続いている。
R 溶解液収納側の袋体の背面左側方に25、50、75の数字とともに目盛りが印刷されている。
S 左右両側面視において、上半側では、製剤収納側の袋体の左右両側端のシール線が中央に直線状に表れていて、それを挟む状態で、製剤収納部が正面及び背面にわずかに膨出するが、膨出した部分の正面及び背面の線は、中央に表れたシール線に平行な直線状を呈し、下半側では、溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部及び下端部の各シール線が中央に直線状に表れていて、それを挟む状態で、正面及び背面が、上下端がすぼまり、下方の膨らみが上方の膨らみより若干大きい砲弾状に形成されており、溶解液収納側の袋体の膨らみの方が製剤収納側の袋体の膨らみより大きく、製剤収納側の袋体の下端と溶解液収納側の袋体の上端が連続している。
2 争点(2)(本件登録意匠の構成の特定)について 甲第2号証によれば、本件登録意匠の構成は次のとおりであると認められる。
(1)基本的構成態様 @ 全体が縦長の形状を有している輸液バッグである。
A 上半側となる製剤収納部を有する袋体と、下半側となる溶解液収納部を有する袋体とが連続して形成されている。
B 製剤収納側の袋体の上端部全長の一定幅をシールして略長方形状の吊下部を形成し、その中央部に吊下用孔が形成されている。
C 溶解液収納側の袋体の下端部の中央に円筒状の注出口栓が装着されている。
D 製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の中央には、帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側には、弱シール部より幅の広い強シール部が形成されている。
E 製剤収納側の袋体の正面には、吊下部の下端から溶解液収納側の袋体の上端に至る部分を覆い隠しているアルミカバーシート(アルミラミネートシート)が貼着されている。
F 側面視において、全体が薄型の形状をしており、上半側となる製剤収納側の袋体及び下半側となる溶解液収納側の袋体の正面及び背面がそれぞれ膨出している。
(2)具体的構成態様 G 輸液バッグ本体の縦と横の寸法比は約33対10である。
H 製剤収納側の袋体の吊下部の両側上端縁は、小さなアールとして形成されている。
I 製剤収納側の袋体は、上端に吊下部があり、背面視において、吊下部の下に、四周を幅狭のシールに囲まれた製剤収納部がある。製剤収納部の上端左右コーナー部はアールが付されており、下端左右コーナー部は、斜めに下方が狭くなる形状とされている。
J 製剤収納部の下端左右コーナー部の外側のシール部は、製剤収納側と溶解液収納側の両袋体境界部の帯状の弱シール部より幅が広く、弱シール部の左右両側の強シール部の上半分を形成している。
K 製剤収納側の袋体の正面を覆うカバーシートの下端中央には、下方向に膨出する小さな半円状の剥離用ツマミ部が形成されている。
L 製剤収納側と溶解液収納側の両袋体境界部の左右両側端に略台形状のくびれ部が形成されている。
M 溶解液収納側の袋体は、上端辺、上端左右コーナー部、及び下端部全長の一定幅をシールし、両側端はシールされていないチューブ状の袋体であり、左右両側端は、正面視及び背面視において直線状である。
N 溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部におけるシールの内側の線は、斜め下方に広くなるハの字形をなす。
O 上記ハの字形をなすシール線は直線である。
P 溶解液収納側の袋体の下端部全長における一定幅のシールの上下の線は大きな湾曲形状をなし、下端部のシールの中央に円筒状の注出口栓が装着されている。
Q 溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部のシール部は、製剤収納側と溶解液収納側の両袋体境界部の帯状の弱シール部より幅が広く、弱シール部の左右両側の強シール部の下半分を形成している。
R 左右両側面視において、上半側では、製剤収納側の袋体の左右両側端のシール線が中央に直線状に表れていて、それを挟む状態で、製剤収納部の正面及び背面が中央部において外方に幅狭に膨出する緩やかな曲線を呈し、下半側では、溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部及び下端部の各シール線が中央に直線状に表れていて、それを挟む状態で、正面及び背面が、下方部が一定の幅を有する平行線状の膨らみを有し、上方部が紡錘状をなす膨らみを有する形状に形成されており、溶解液収納側の袋体の膨らみの方が製剤収納側の袋体の膨らみより大きく、製剤収納側の袋体の下端と溶解液収納側の袋体の上端が連続している。
3 争点(3)(本件登録意匠の要部)について (1)ア(ア)本件登録意匠意匠に係る物品は輸液バッグであり、側面視において、全体が薄型の形状をしているから、通常、看者の目に多く触れるのは、正面及び背面であると認められる。そして、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部は、正面及び背面のほぼ中央にあり、また、輸液バッグの使用時には、同境界部の弱シール部を連通させて使用することから、同境界部付近は、看者の注意を引く位置にあるものと認められる。
(イ)同境界部付近の構成をみると、その基本的構成は、同境界部の中央に帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部より幅の広い強シール部が形成されている(基本的構成態様D)というものである。
そして、その具体的構成は、製剤収納部の下端左右コーナー部の外側のシール部は、弱シール部より幅が広く、弱シール部の左右両側の強シール部の上半分を形成しており(具体的構成態様J)、溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部のシール部は、弱シール部より幅が広く、弱シール部の左右両側の強シール部の下半分を形成している(具体的構成態様Q)というものである。
このような同境界部付近の構成において、同境界部の中央に帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部より幅の広い強シール部が形成されているという基本的構成態様Dは、同境界部付近の構成の骨格を特徴づけており、看者の注意を引くものと認められる。
(ウ)基本的構成態様Dは、その全体の構成が、本件登録意匠の意匠公報の必要図中、背面図にのみ表れている。しかし、本件登録意匠に係る輸液バッグは、前記のとおり、側面視において全体が薄型の形状をしているから、正面と背面が、通常、看者の目に触れるものと認められ、また、イ号意匠において、溶解液収納側の袋体の目盛り及び数字が背面側のみに記載されていることも合わせ考えると、本件登録意匠及びイ号意匠に係る輸液バッグにおいては、アルミカバーシートが付された正面のみならず、背面も、看者の目に多く触れることが認められる。したがって、基本的構成態様Dの全体の構成が必要図中の背面図にしか表れていないとしても、それによって、基本的構成態様Dを要部と認定することが妨げられることはないというべきである。なお、本件登録意匠の意匠公報の【アルミラミネートシートをはがした状態の参考正面図】においては、アルミラミネートシートをはがした状態で、正面にも基本的構成態様Dの構成が表れることが示されている。もとより、登録意匠の権利範囲を確定する上で、参考図はあくまでも参考にとどまるが、同参考図によれば、基本的構成態様Dが、本件登録意匠の構成中において、少なくとも無視されるべき構成でないことは認められるといえる。
イ 本件登録意匠の出願前の公知意匠と比較すると、基本的構成態様Dは、
出願前の公知意匠である甲第12ないし第16号証(オーツカCEZ注-MCのパンフレット)、第24号証(特許第3060132号公報)、第25号証(特許第3060133号公報)、甲第33号証(「カルバペネム系抗生物質メロペネム(メロペン)キット製剤の有用性に関する実験的研究」新薬と臨床Vol.47No.6)、第46号証(「ホスホマイシンナトリウムダブルバッグ製剤(溶解液付き固形注射剤)の有用性に関する実験的研究」新薬と臨床Vol.47No.2)、乙第1号証(意匠登録第1016887号公報)、第3号証(甲第12号証と同一)、第4号証(「溶解液付き注射用固形抗生物質キット製剤のキット有用性に関する実験的研究」日本包装学会誌Vol.4No.1)、第37、第38号証(味の素ファルマ株式会社ピーエヌツインのパンフレット)、第39号証(本件登録意匠の出願前に発行された公開特許公報に記載されたダブルバッグタイプの輸液バッグの図面)、第44号証(特開2000-72925号公開特許公報)、第45号証(特開平7-155361号公開特許公報)、第46号証(特開平5-68702号公開特許公報)各記載の輸液バッグには見られず、本件登録意匠の創作的な部分であると認められる。
ウ 本件登録意匠関連意匠である意匠登録第1107512号(甲第42号証の1、2)、意匠登録第1108821号(甲第43号証の1、2)、意匠登録第1108822号(甲第44号証の1、2)、意匠登録第1108823号(甲第35号証の1、2)、意匠登録第1108824号(甲第45号証の1、
2)の各登録意匠には、いずれも基本的構成態様Dが見られる。
エ 以上によれば、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の中央に帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部より幅の広い強シール部が形成されているという基本的構成態様Dは、本件登録意匠の中で需要者の注意を最も引きやすい意匠の要部に該当するというべきである。
(2)ア(ア) 原告は、ダブルバッグタイプの輸液バッグにおいて、アルミカバーシートの視認性が重要であり、上方の製剤収納袋の吊下部を残して全面を覆う、貼着部のシール線が表れていない方形状のアルミカバーシートの周辺部のいずれかに、一つの小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片を設けた点が本件意匠の要部であると主張する。
(イ) しかし、本件登録意匠のアルミカバーシートに貼着部のシール線が表れていない点は、それ自体、外観上、目立つところではない。また、製剤収納側の袋体の吊下部を残して全面を覆うアルミカバーシートは、原告公知意匠に見られ、そのアルミカバーシートには、貼着部のシール線が表れているが、そのシール線は、製剤収納側の袋体の縁に沿って幅狭に存在するにすぎず、それほど目立つものではないから、それとの対比からしても、本件登録意匠においてアルミカバーシートに貼着部のシール線が表れていない点は、看者の注意を引くとは認められない。
また、本件登録意匠のアルミカバーシートの周辺部に設けられた一つの小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片は、その大きさ、形状に鑑み、目立つものではなく、本件登録意匠関連意匠5件の各正面図においても、
引き剥がし用突片は、位置は様々であるが、いずれもそれ程目立つものではないことを併せ考えると、本件登録意匠のアルミカバーシートの周辺部に設けられた引き剥がし用突片は、看者の注意を引くとは認められない。
したがって、原告の主張に係る、上方の製剤収納袋の吊下部を残して全面を覆う、貼着部のシール線が表れていない方形状のアルミカバーシートの周辺部のいずれかに、一つの小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片を設けた点は、看者の注意を引くものではなく、本件登録意匠の要部であるとは認められない。
イ(ア)原告は、輸液バッグ全体の左右両側面視における構成を要部として主張する。
(イ)しかし、本件登録意匠に係る輸液バッグは、側面視において、全体が薄型の形状をしており、通常、看者の目に触れるのは正面及び背面であり、しかも、本件登録意匠の側面の構成は、特に顕著な特徴を備えるものであるとは認められないから、側面視における構成は要部とはならないというべきである。
ウ(ア)原告は、正面視及び背面視において下方の溶解液収納袋体の上端左右両側部に表れている大きく、かつ明確な下すぼまりのシール線を本件登録意匠の要部であると主張する。
(イ)しかし、原告の主張に係る上記シール線は、下方の溶解液収納袋体の上端左右両側部に表れているシール線のみである。前記のとおり、基本的構成態様Dの構成が背面の中央部付近に表れており、本件登録意匠全体の中においてより一層目立つことからすると、基本的構成態様Dが要部に当たるというべきであり、本件登録意匠において基本的構成態様Dの下半分の構成に該当する、溶解液収納側袋体の上端左右両側部に表れているシール線のみをもって、要部ということはできないというべきである。
(3)イ号意匠の要部について検討すると、イ号意匠においても、全体の構成の中で、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の中央に、帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部より幅の広い強シール部が形成されているという基本的構成態様Dが看者の注意を引くと認められるから、この基本的構成態様Dが要部であるというべきである。
4 争点(4)(イ号意匠と本件登録意匠の類否)について (1)共通点 イ号意匠と本件登録意匠の共通点は、次のとおり認められる。
ア 基本的構成態様 イ号意匠の基本的構成態様@ないしFと本件登録意匠の基本的構成態様@ないしFは、それぞれ共通する。
イ 具体的構成態様 (ア)製剤収納側の袋体は、上端に吊下部があり、背面視において、製剤収納部の上端左右コーナー部はアールが付されている点で共通する。ただし、製剤収納部の下方の形状は、後記(2)ウ記載のとおり異なる。(各具体的構成態様I) (イ)製剤収納側と溶解液収納側の両袋体境界部の左右両側端にくびれ部が形成されている点で、イ号意匠と本件登録意匠は共通する。ただし、くびれ部の形状は、後記(2)カ記載のとおり異なる。(各具体的構成態様L) (ウ)溶解液収納側の袋体は、上端辺、上端左右コーナー部、及び下端部全長の一定幅をシールし、両側端はシールされていないチューブ状の袋体である点で、イ号意匠と本件登録意匠は共通する。ただし、左右両側端は、後記(2)キ記載のとおり異なる。(各具体的構成態様M) (エ)溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部におけるシールの内側の線が、斜め下方に広くなるハの字形をなす点で、イ号意匠と本件登録意匠は共通する。(各具体的構成態様N) (オ)イ号意匠及び本件登録意匠は、左右両側面視において、上半側で、製剤収納側の袋体の左右両側端のシール線が中央に直線状に表れていて、それを挟む状態で、製剤収納部の正面及び背面が存する点、下半側で、溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部及び下端部の各シール線が中央に直線状に表れていて、それを挟む状態で、正面及び背面が存する点、溶解液収納側の袋体の膨らみの方が製剤収納側の袋体の膨らみより大きく、製剤収納側の袋体の下端と溶解液収納側の袋体の上端が連続している点が共通する。ただし、左右両側面視において、製剤収納側の袋体の正面及び背面が膨出する形状、溶解液収納側の袋体の正面及び背面の膨らみが中央線を挟んで形成する形状は、後記(2)シ記載のとおり異なる。(本件登録意匠の具体的構成態様R、イ号意匠の具体的構成態様S) (2)相違点 イ号意匠と本件登録意匠は、具体的構成態様において次のとおり異なる。
ア 輸液バッグ本体の縦と横の寸法比は、イ号意匠は約26対10であるが、本件登録意匠は約33対10である。(各具体的構成態様G) イ 製剤収納側の袋体の吊下部の両側上端縁は、イ号意匠は、下端部が小さなアールで、上端部がエッジで、その間が直線として形成されているが、本件登録意匠は、小さなアールとして形成されている。(各具体的構成態様H) ウ 製剤収納部の下方は、イ号意匠は、いったん狭まった後広がる形状で、
全体として外側端がお椀形状をなすシール線として表れているのに対し、本件登録意匠は、下端左右コーナー部が斜めに下方が狭くなる形状とされている。(各具体的構成態様I) エ イ号意匠は、製剤収納部の下端は直線をなすが、更にその下方の製剤収納側の袋体の下方左右コーナー部には、強シール部が設けられており、強シール部は、弱シール部の左右両側に、弱シール部よりも幅広に設けられているのに対し、
本件登録意匠は、製剤収納部の下端左右コーナー部の外側のシール部は、製剤収納側と溶解液収納側の両袋体境界部の帯状の弱シール部より幅が広く、弱シール部の左右両側の強シール部の上半分を形成している。(各具体的構成態様J) オ イ号意匠は、製剤収納側の袋体の正面を覆うカバーシートの上端左側に、上方の吊下部に向けて大きく膨出する舌片状の剥離用ツマミが形成されており、かつ、ツマミ部には鏃を下方向に向けた大きな矢印が印刷されており、このカバーの四周には、幅狭の外周シール部が形成され、その内側のコーナー部にはアールが付されているのに対し、本件登録意匠は、製剤収納側の袋体の正面を覆うカバーシートの下端中央には、下方向に膨出する小さな半円状の剥離用ツマミ部が形成されている。(各具体的構成態様K) カ 製剤収納側と溶解液収納側の両袋体境界部の左右両側端のくびれ部の形状は、イ号意匠は円弧状であるが、本件登録意匠は略台形状である。(各具体的構成態様L) キ 溶解液収納側の袋体の左右両側端は、イ号意匠は、正面視及び背面視においてわずかに内側に湾曲しているが、本件登録意匠は、正面視及び背面視において直線状である。(各具体的構成態様M) ク 溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部におけるシールの内側のハの字形をなす線は、イ号意匠は直径の大きな円弧状の線であるが、本件登録意匠は直線である。(各具体的構成態様O) ケ イ号意匠では、溶解液収納側の袋体の下端部全長における一定幅のシールの上端の線は大きな湾曲形状をなし、下端の線は、下端左右コーナー部にアールが付され、下端辺が直線状で、中央部が若干広幅に形成されて、その部分に円筒状の注出口栓が装着されているのに対し、本件登録意匠では、溶解液収納側の袋体の下端部全長における一定幅のシールの上下の線は大きな湾曲形状をなし、下端部のシールの中央に円筒状の注出口栓が装着されている。(各具体的構成態様P) コ イ号意匠では、溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部のシール部は、製剤収納側の袋体の帯状の弱シール部の左右両側に設けられた強シール部の下に続いているのに対し、本件登録意匠では、溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部のシール部は、製剤収納側と溶解液収納側の両袋体境界部の帯状の弱シール部より幅が広く、弱シール部の左右両側の強シール部の下半分を形成している。(各具体的構成態様Q) サ イ号意匠では、溶解液収納側の袋体の背面左側方に25、50、75の数字とともに目盛りが印刷されているが(イ号意匠の具体的構成態様R)、本件登録意匠には、そのような数字、目盛りはない。
シ 左右両側面視において、イ号意匠は、上半側では、製剤収納部の膨出した部分の正面及び背面の線は、中央に表れたシール線に平行な直線状を呈し、下半側では、溶解液収納側の袋体は、正面及び背面の上下端がすぼまり、下方の膨らみが上方の膨らみより若干大きい砲弾状に形成されているのに対し、本件意匠は、上半側では、製剤収納部の正面及び背面が中央部において外方に幅狭に膨出する緩やかな曲線を呈し、下半側では、溶解液収納側の袋体は、正面及び背面の下方部が一定の幅を有する平行線状の膨らみを、上方部が紡錘状をなす膨らみを各々有している。(イ号意匠の具体的構成態様S、本件登録意匠の具体的構成態様R) (3)類否 ア 共通点の検討 イ号意匠と本件登録意匠は、両意匠の要部である各基本的構成態様Dにおいて共通し、その余の基本的構成態様のすべて及び具体的構成態様の一部においても共通しているから、看者に同様の美感を与えるものというべきである。
イ 相違点の検討 イ号意匠と本件登録意匠には、前記(2)アないしシ記載のとおり相違点があるから、それらの相違点について検討する。
(ア)前記(2)ア記載の相違点について 輸液バッグ本体の縦と横の寸法比は、イ号意匠も本件登録意匠も、約3対1の縦長の形状である点において共通しているということができ、また、本件登録意匠関連意匠中に、本件登録意匠とは縦と横の比が大きく異なり、本件登録意匠よりも横長の印象を与えるもの(意匠登録第1107512号、第1108822号、第1108824号)が存在することからすれば、前記(2)ア記載の相違点は微差というべきである。
(イ)前記(2)イ記載の相違点について 製剤収納側の袋体の吊下部の両側上端縁は、イ号意匠も本件登録意匠も、大きく見れば、直角の角が丸みを帯びて処理された形状であるということができ、前記(2)イ記載の相違点は、大きな差異とはいえない。
(ウ)前記(2)ウ記載の相違点について 製剤収納部の下方の形状は、イ号意匠と本件登録意匠とで異なるが、
製剤収納側の袋体の中央付近の面積のうちの大きな割合を製剤収納部が占めていることは変わらず、その下方の形状の相違点は、全体から見れば、大きな差異とはいえない。
(エ)前記(2)エ記載の相違点について イ号意匠と本件登録意匠とで、製剤収納側の袋体の下端部の形状は異なるが、製剤収納側と溶解液収納側の両袋体境界部の帯状の弱シール部の両側に弱シール部より幅の広い強シール部が形成されているという基本的構成態様Dにおいては共通するから、製剤収納側の袋体の下端部の形状の相違点は、大きな差異とはいえない。
(オ)前記(2)オ記載の相違点について イ号意匠において、製剤収納側の袋体の正面を覆うカバーシートが、
カバーの四周に幅狭の外周シール部が形成され、その内側のコーナー部にアールが付されている点は、カバーシートにこのような外周シール部が形成されていない本件登録意匠の構成とは異なるものであるが、イ号意匠のように、ほぼ四角形のカバーシートの内側にその外周と平行にコーナー部にアールを設けた四角形の線を形成してカバーシートの縁部を作出することは、ありふれたものであり、特に看者の注意を引くものとは認められない。また、イ号意匠のカバーシートの上端左側に形成された舌片状の剥離用ツマミは、本件登録意匠のアルミカバーシートの下端中央に形成された剥離用ツマミに比べて、位置、大きさ、形状において異なっており、しかも、大きな矢印が印刷されていることから、目立つものになっているといえる。
しかし、イ号意匠におけるこの剥離用ツマミは、カバーシートの端部を指で摘んでめくりやすいようにされたもので、意匠的な意味ではありふれたものであるといえるし、ツマミに印刷された矢印も、美感を起こさせる模様としてというよりは、剥離場所を指示する情報伝達手段として記載されているとみるべきであり、模様として見たとしても意匠的にはありふれたもので、格別特徴のあるものとはいえない。
したがって、イ号意匠における、上記の本件意匠との相違点は、微差にとどまるというべきである。
(カ)前記(2)カ記載の相違点について 製剤収納側と溶解液収納側の両袋体境界部の左右両側端のくびれ部の形状の相違は、微差にとどまるというべきである。
(キ)前記(2)キ記載の相違点について 溶解液収納側の袋体の左右両側端は、イ号意匠において、正面視及び背面視においてわずかに内側に湾曲しているにすぎないから、この点に関する相違点は、微差にとどまるというべきである。
(ク)前記(2)ク記載の相違点について 溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部におけるシールの内側のハの字形をなす線は、イ号意匠において、直径の大きな円弧状の線であるが、円弧といっても、円の直径は大きく、その線は、ほとんど直線に近いともいえるから、この点に関する相違点は、微差にとどまるというべきである。
(ケ)前記(2)ケ記載の相違点について イ号意匠の溶解液収納側の袋体の下端部の形状は、細部において本件登録意匠の溶解液収納側の袋体の下端部の形状と異なるが、大きく見れば、いずれの形状も、全体が大きな湾曲形状をなすとみることができ、この点に関する相違点は、大きな差異とはいえない。
(コ)前記(2)コ記載の相違点について イ号意匠と本件登録意匠とで、溶解液収納側の袋体の上端部の形状は異なるが、製剤収納側と溶解液収納側の両袋体境界部の帯状の弱シール部の両側に弱シール部より幅の広い強シール部が形成されているという基本的構成態様Dは共通するから、溶解液収納側の袋体の上端部の形状の相違点は、大きな差異とはいえない。
(サ)前記(2)サ記載の相違点について 溶解液収納側の袋体の背面にイ号意匠において数字及び目盛りが印刷されており、本件登録意匠においてこれらがない点は、微差にとどまるというべきである。
(シ)前記(2)シ記載の相違点について イ号意匠及び本件登録意匠に係る輸液バッグは、全体が薄型の形状をしているから、通常、看者の目に触れるのは、正面及び背面であり、側面視の構成は、看者の注意を集めるとは認められない。そして、イ号意匠及び本件登録意匠は、左右両側面視においても、前記(1)イ(オ)記載のとおり共通点があるから、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の各膨らみの形状の相違は、微差にとどまるというべきである。
ウ 類否の結論 以上によれば、イ号意匠と本件登録意匠との相違点は、いずれも大きな差異ではなく、又は微差にとどまるというべきであり、さらに、これらの相違点を総合しても、相違点が共通点を凌駕することはなく、イ号意匠と本件登録意匠は、
全体として看者に同様の美感を与えるものであり、類似するというべきである。
5 争点(5)(先使用の成否)について (1)意匠法29条により、意匠登録出願の際、現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者として、意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権が認められるためには、意匠登録出願の際に、出願に係る意匠と同一又は類似の意匠を完成し、又は少なくともそのような意匠が完成に近い状態にあり、それについて意匠の実施である事業をし、又は事業の準備をしている必要があるというべきである。
前記3(1)エ認定のとおり、本件登録意匠の要部は、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の中央に、帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部より幅の広い強シール部が形成されていること(基本的構成態様D)にあるから、本件登録意匠類似の意匠であるといえるためには、少なくとも、本件登録意匠の上記要部を備える必要があるというべきである。そうであるとすれば、本件において、意匠法29条に基づく先使用の抗弁が認められるためには、本件登録意匠の出願の際に、本件登録意匠と同一の意匠が完成し、若しくは少なくとも完成に近い状態にあったことが立証されるか、又は本件登録意匠類似の意匠、すなわち、本件登録意匠の上記要部を備える意匠が完成し、
又は少なくとも完成に近い状態にあったことが認められなければならないというべきである。
(2)ア 本件において原告が先使用に関連して提出した証拠のうち、本件登録意匠の出願前に作成されたとされる図面、検証物等で、本件登録意匠の要部を備える意匠に係るものは、検乙第1号証の輸液バッグのみである。そこで、検乙第1号証の意匠が、本件登録意匠の出願時に完成されており、又は完成に近い状態にあったと認められるかについて検討する。
イ 原告は、検乙第1号証の輸液バッグについて、平成11年6月26日から同年7月13日までの間に有用性試験に使用するために製造された250バッグのうちの一つである旨主張する。
ウ(ア)検乙第1号証の輸液バッグの背面に貼付されたラベルには、「有用性試験用サンプル」、「フルマリンキット静注用1g」、「注意-医師等の処方せん・指示により使用すること」、「最終有効年月:2000.5」、「製造番号BF9002」などと記載されており、その記載は、乙第20号証(フルマリンキット静注用1gの製造記録書)に添付されたラベルと同一である。しかし、乙第20号証によれば、キット用ラベルは、塩野義の医薬開発部に平成11年6月3日、
600枚受け入れられ、有用性試験のために254枚使用され、346枚残ったことが認められるから、有用性試験の後に至ってキット用ラベルを貼付することは可能と考えられる。したがって、このラベルが貼付されていることをもって、直ちに、検乙第1号証の輸液バッグが平成11年6月ないし7月の有用性試験に使用するために製造されたものであると認めることはできない。
(イ)ところで、乙第50号証の2は、「1999・3・22」との日付けの記載された輸液バッグの印刷見本図面、乙第50号証の3は、「1999・4・5」との日付けの記載された印刷見本図面であり、これらの日付けからすると、製剤収納側の袋体の上端両側のコーナーの形状が、乙第50号証の1に示されたように、乙第50号証の2記載の形状から第50号証の3記載の形状へ変更されたものと認められる。
しかし、検乙第1号証の輸液バッグと乙第50号証の2、3の図面を比較すると、(@)アルミカバーシート上の表示、(A)アルミカバーシートの矢印やツマミ部の形態、(B)製剤収納側の袋体の背面の態様、(C)製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の態様、(D)溶解液収納側の袋体の印刷表示がいずれも異なる。また、本件登録意匠の要部である基本的構成態様Dに該当する形態は、検乙第1号証の輸液バッグには見られるが、乙第50号証の2、3の図面には見られない。
(ウ)乙第47号証は、その記載内容に照らすと、有用性試験のサンプルの製造工程案を検討した際の平成10年9月8日付けの図面であると認められ、
乙第48号証の2、3は、同サンプルの印刷図面を検討した際の同年9月9日付け(同年10月15日付けのスタンプ印が押されている。)の図面であると認められるが、いずれの図面にも、検乙第1号証の輸液バッグのうちに見られる、本件登録意匠の要部である基本的構成態様Dに該当する部分の形態は、描かれていない。
(エ)乙第11号証の1(フルマリンキット静注用1gの医薬品製造承認申請書、丙第13号証の1と同一)、第11号証の2(差換え願、丙第13号証の2と同一)、第12号証(医薬品製造承認書、丙第14号証と同一)の各別紙図面には、ダブルバッグタイプの輸液バッグの図が描かれているが、これらの図面と検乙第1号証の輸液バッグを比較すると、正面の溶解液収納側の袋体の左右上端のシールの形状、同袋体の底部のシール部の形状が相違する。また、本件登録意匠の要部である基本的構成態様Dに該当する形態は、検乙第1号証の輸液バッグには見られるが、乙第11号証の1、2、第12号証の各別紙図面には見られない。
(オ)乙第43号証は、平成11年6月26日から同年7月13日までの間に有用性試験を行ったA大学病院薬剤部部長Bの平成15年3月18日付け陳述書であり、当該有用性試験に用いたサンプルが、同陳述書添付の別紙1及び2で特定されたものに相違ない旨記載されており、同陳述書添付の別紙1及び2は、検乙第1号証の輸液バッグの写真である。しかし、同人の別の陳述書(平成15年4月30日付け)である甲第47号証には、乙第43号証は、当該有用性試験に使用したサンプルがダブルバッグであったので押印したものであり、サンプルの形状を記憶していたものではない旨記載されている。乙第53号証は、乙第43号証が作成されたときの状況を記載した塩野義の知的財産部長の陳述書であるが、乙第53号証の記載を考慮に入れても、甲第47号証に照らすと、乙第43号証の記載の信用性は減殺されているものというべきであり、Bが、乙第43号証の陳述書を作成する際に、有用性試験に用いたサンプルの形状を記憶していて同陳述書を作成したものとは認められない。
(カ)本件においては、原告の金型図面が提出されている(乙第29ないし第32号証の各1、第33号証の1、2、第34号証の1、第35号証の3ないし6、第36号証の3、4)。しかし、これらのうち、乙第35号証の3ないし6は、作成日付けが平成11年(1999年)8月であり、同年6月から7月にかけて行われた有用性試験のサンプルの作成に使用されたと認めることはできない。
また、提出された金型図面のうちには、検乙第1号証の輸液バッグのうちに見られる、本件登録意匠の要部である基本的構成態様Dに該当する部分の形態に対応する金型の図面が存在するとは認められない。
(キ)以上によれば、有用性試験が行われた平成11年7月当時までに作成された輸液バッグの図面には、検乙第1号証の意匠、又は同意匠及び本件登録意匠の要部である基本的構成態様Dに該当する部分を描いたものが存在するとは認められない。また、金型図面中にも、検乙第1号証の意匠及び本件登録意匠の要部である基本的構成態様Dに該当する部分を作成するための金型図面が存在するとは認められない。
そうすると、検乙第1号証の輸液バッグは、前記(ア)認定のとおり、乙第20号証に添付されたラベルと記載が同一のラベルが貼付されているが、
平成11年6月26日から同年7月13日までの間の有用性試験に使用されたバッグのサンプルのうちの一つであると認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。そして、本件登録意匠の出願当時、検乙第1号証の意匠が完成され、若しくは完成に近い状態にあったことを認めるに足りる証拠はないし、また、本件登録意匠、若しくは本件登録意匠類似の意匠、すなわち、本件登録意匠の要部である基本的構成態様Dに該当する部分を備える意匠が完成され、又は完成に近い状態にあったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、原告による先使用の主張は理由がない。
6 争点(6)(本件登録意匠の明白な無効理由の有無)について 原告は、本件登録意匠は原告公知意匠に類似するから、意匠法3条1項3号に違反して意匠登録されたという無効理由(同法48条1項1号)が存在することが明らかであると主張する。
しかし、本件登録意匠の要部は、前記3(1)エ認定のとおり、基本的構成態様Dであると認められるところ、原告公知意匠には、これに該当する部分はないから、本件登録意匠は原告公知意匠に類似するとは認められず、本件登録意匠に、
意匠法3条1項3号に違反して意匠登録されたという無効理由(同法48条1項1号)が存在することが明らかであるとはいえない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
7 差止請求権の存否 以上によれば、イ号意匠は、本件登録意匠に類似し、イ号製品の製造は、本件意匠権を侵害し、被告は、原告に対し、本件意匠権に基づき、イ号製品の製造について差止請求権を有するというべきである。
なお、イ号意匠の構成の文言による特定は、前記1のとおりされるべきであり、これは、別紙物件目録原告案記載の文言による特定と異なる点があるが、同目録はイ号図面によっても特定を行っているから、イ号製品の特定として足りるものと認められ、被告は、本件意匠権に基づき、原告による同目録記載の輸液バッグの製造を差し止める権利を有するものと認められる。
8 念のために、確認の利益について付言する。
原告は、本件の口頭弁論終結後、@原告は、ニプロファーマ株式会社(以下「ニプロファーマ」という。)が製造した輸液バッグを購入して、塩野義、富山化学株式会社、ワイス株式会社に販売していること、Aニプロファーマは、平成15年8月以降、イ号製品を含むダブルバッグタイプの抗生剤の形状を、イ号意匠と異なる形状に変更することを検討していたこと、Bニプロファーマは、平成15年12月、形状変更について関係各所で稟議決裁を行い、平成16年1月から製造ラインの改造を始め、新形状製品の安定性・安全性に係る試験を行い、本件口頭弁論終結後の同年4月22日までに、製造ラインをすべて改造し、イ号意匠と異なる形状の新形状製品を生産するように、生産の切り替えを完了したこと、B原告が塩野義、富山化学株式会社、ワイス株式会社に販売するために製造されたイ号製品はすべて販売済みであり、原告には、イ号製品の在庫はないこと、Cニプロファーマがイ号製品を新形状製品に変更するために、設備改造費、広告宣伝費などを要したことを主張した。
しかし、仮に原告の上記主張に係る事実が認められるとしても(なお、原告は、イ号製品の市場での流通が現段階ですべて終了したことまで主張しているわけではない。)、本件において、被告は、イ号製品の製造が本件意匠権を侵害する旨主張し、原告は、本件訴訟を通じてこれを全面的に争っているのであり、このことからすると、原告主張のとおりイ号製品の形状が変更されたことを考慮したとしても、原告は、イ号製品の製造について被告が本件意匠権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める確認の利益をなお有するというべきである。
9 結論 よって、本訴請求は理由がないから、これを棄却し、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 守山修生
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