関連審決 |
不服2013-14650 |
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事件 |
平成
26年
(行ケ)
10162号
審決取消請求事件
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原告三星電子株式会社 訴訟代理人弁護士 濱田広道 同 菅野典浩 同 横手聡 被告 特許庁長官 指定代理人綿貫浩一 同 斉藤孝恵 同 橘崇生 同 内山進 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2015/01/28 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2013-14650号事件について平成26年2月25日に した審決を取り消す。 |
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事案の概要
11 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。) 原告は,意匠に係る物品「携帯情報端末」に関する部分意匠につき,平成 24年7月5日を出願日とする意匠登録出願(意願2012-15989号。 パリ条約に基づく優先権主張・2012年1月6日(以下「優先日」という。, ) 大韓民国。以下「本願」という。また,本願に係る意匠を「本願意匠」とい う。)をした。 原告は,平成25年4月24日付けで拒絶の査定を受け,同年7月31日, 拒絶査定に対する不服の審判(不服2013-14650号事件)を請求した。 特許庁は,平成26年2月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との 審決をし,その謄本を,同年3月11日,原告に送達した(出訴期間90日附 加)。 原告は,平成26年7月8日,上記審決の取消しを求めて,本件訴えを提起 した。 2 本願意匠の形態(甲1) 本願意匠の形態は,別紙第1のとおりであり,実線で表した部分が,部分意 匠として意匠登録を受けようとする部分(以下「本願実線部分」という。)で ある。 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願意匠は,優 先日前の平成22年12月28日に出願され,平成24年3月2日に登録され, 優先日以降の同年4月2日に意匠登録公報が発行された意匠登録第14372 82号の意匠(意匠登録に係る物品,携帯電話機。以下「引用意匠」といい, 本願意匠に相当する正面パネル部分を「引用相当部分」という。別紙第2参照。 また,本願意匠と引用意匠を併せて「両意匠」という。)に類似する意匠であ り,意匠法3条の2の規定により,意匠登録を受けることができない,という ものである。 2 審決が認定した本願実線部分と引用相当部分(以下,本願実線部分及び引用相当部分とを併せて「両部分」という。)の各形態の主な共通点及び相違点は以下のとおりである(以下,各共通点及び相違点を示す場合は,審決において付された符号を用いる。。 ) 共通点 「基本的構成態様として, (A) 正面視において,前面パネル部の外形を長辺と短辺の長さの比率 を約2:1とする略縦長俵形とし,側面視において,前面側に向けて,ごく わずかに湾曲させている点, において共通する。 具体的構成態様として, (B) 略縦長俵形の長辺及び短辺の中央部分を緩やかに膨らませている 点, (C) 略縦長俵形のパネル部の四隅を大きな丸みとしている点, において共通する。」 相違点 「具体的構成態様として, 正面視において, (ア-1)本願実線部分は,短辺の中央部をわずかに膨らませているのに 対して,引用相当部分は,短辺の中央部分の膨らみが本願意匠よりもやや大 きい点, (ア-2)本願実線部分は,縦長長方形の表示部を前面パネル部を左右幅 略一杯,上下中央に設け,上下の余地部を同程度としているのに対して,引 用相当部分は,縦長長方形の表示部をやや上方よりに設けているため,上方 の余地部より下方の余地部がやや広くなっている点, 側面視及び平底面視において, 3 本願実線部分は,本体部とパネル部の接合面がわずかに湾曲しているのに 合わせて,パネル部の接合面を本体側にわずかに膨らませている態様である のに対して,引用相当部分は,本体部とパネル部の接合面が直線であるため, パネル部の本体側接合面は直線的に表れる点, において相違する。」 |
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原告主張の取消事由
以下のとおり,審決には,共通点及び相違点に関する評価に誤りがあり,こ れらの誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消される べきである。 1 共通点に関する評価の誤り 審決は,基本的構成態様に係る共通点(A),具体的構成態様に係る共通点 (B)及び(C)は,本願実線部分及び引用相当部分の形態において基調を形 成し,看者に共通の印象を強く与えるものであって,類否判断に支配的な影響 を及ぼしている旨判断している。 しかし,以下のとおり,共通点(A)ないし(C)は,「携帯情報端末であ るがゆえの通常の形状」であるため類否の判断で考慮すべきでないものである か,又は,看者に異なった印象を与える部分を共通点としているものであり, 看者に両意匠が共通であるとの印象を支配的に与える要素ではない。本願意匠 のデザインと引用意匠のデザインとの間には相違点が存在する結果,本願意匠 のデザインを見たときに看者が受ける全体的な印象と引用意匠のデザインを見 たときに看者が受ける全体的な印象とは異なる。したがって,上記共通点 (A)ないし(C)が,「類否判断に支配的な影響を及ぼしている」とはいえ ない。審決は,共通点として考慮すべきでない点を共通点として取り上げ,そ れが類否判断に支配的な影響を及ぼすとして,その中に相違点を埋没させてい るのであり,判断枠組みの設定自体が不合理である。 共通点(A)について 4ア 長辺と短辺の比率について 審決は,長辺と短辺の比率が,本願実線部分においても引用相当部分に おいても,約2対1であるとする。 携帯情報端末(スマートフォン)は,手に持って耳にあてながら通話に 使用することが想定される製品であり,通話中に手で持ちやすい形状でな ければならないから,そのデザインは,通常,長辺と短辺の比率が約2対 1となる(ただし,本願意匠の長辺は,短辺の2倍よりも若干短い。。し ) かし,携帯情報端末であってもデザインは様々であり,実際に,消費者は, 携帯情報端末のデザインを差別化して,商品購入の際の考慮要素にしてい る。携帯情報端末の中でも,デザインが差別化され得るのは,長辺と短辺 の比率が約2対1であるというような,「携帯情報端末であるがゆえの通 常の形状」以外の部分に差異があるからである。 したがって,意匠の類否を判断する際には,「携帯情報端末であるがゆ えの通常の形状」以外の部分に着目すべきであり,共通点(A)のうち, 長辺と短辺の比率が約2対1である点は,捨象して考えるべきであって, 両意匠の類否判断を行うに際して支配的な影響を及ぼしているとはいえな い。 れも携帯情報端末(スマートフォン)のものではない。 イ 側面視でごく僅かに湾曲している点について 審決は,共通点(A)のうち,「側面視において,前面側に向けて,ご くわずかに湾曲させている点」を共通点として挙げ,「類否判断に支配的 な影響を及ぼしている」ことの一つの理由としている。 しかし,後記 のとおり側面視にも相違点が存在するために,側面視 で看者に与える印象は異なるのであるから,この点を共通点として挙げ, 「類否判断に支配的な影響を及ぼしている」ことの一つの理由とするのは, 5 誤りである。 共通点(B)(長辺及び短辺の膨らみ)について 審決は,「略縦長俵形の長辺及び短辺の中央部分を緩やかに膨らませてい る点」を共通点(B)としているが,本願意匠と引用意匠とでは,膨らみの 程度,曲率が異なっている。そのため,本願実線部分は,直線的で完全な長 方形に近い形状をしているのに対し,引用相当部分は,曲線的な形状をして いる。その結果,本願意匠は,ストレートでスマートな印象を与えるのに対 して,引用意匠は,丸みを帯びてやわらかい印象を与える。 したがって,長辺及び短辺の膨らみの程度・曲率の違いは,両意匠の全体 的な印象を異ならせるものであるから,長辺及び短辺の膨らみがあることを もって,「看者に共通の印象を強く与える」と評価することは誤りである。 共通点(C)(四隅の丸み)について 審決は,「略縦長俵形のパネル部の四隅を大きな丸みとしている点」を, 共通点(C)としているが,この点を共通点とすべきではない。 すなわち,前記 のとおり,本願意匠と引用意匠とでは,長辺及び短辺の 膨らみの程度並びに曲率が異なっているところ,パネル部の四隅はそれと連 動して本願実線部分の全体的なデザインを形作り,その結果,全体的に,看 者へ独特の印象を与えるデザインを構成しているのであるから,「四隅の丸 み」の点だけを切り取って議論すべきではない。長辺及び短辺の膨らみと併 せて,全体として見た場合に,本願実線部分が引用相当部分と類似している かどうかを検討すべきである。 2 相違点に関する評価の誤り ア 相違点(ア-1)について 審決は,相違点(ア-1)につき,膨らみの大きさの相違はごく僅かな ものであるから余り目立たず,共にパネル部四隅の丸みから連続する僅か 6 な曲線をなし,直線に近いなめらかな印象を看者に与えるものであって, 類否判断に大きな影響を及ぼすものではない,と判断している。 しかし,短辺の膨らみの程度が異なることは,本願実線部分と引用相当 部分を対比してみれば明らかであり,その相違は,「余り目立たず」とは いえない。引用相当部分の短辺は,曲がり方の度合いが大きいことから, 看者に対して曲線的な印象を与えるのに対し,本願実線部分の短辺は直線 状であるため,看者に対してストレートでスマートな印象を与える。 また,本願実線部分においては,短辺の膨らみ具合が小さいことに加え て,長辺の大部分が直線となっており,長辺は,上端ないし下端に近い位 置で湾曲するのみであるのに対し,引用相当部分は,長辺が全体的に曲線 状になっており,両意匠には,長辺についても違いがある。このことも, 本願実線部分が看者に対してストレートでスマートな印象を与えるのに対 し,引用相当部分が丸みを帯びた柔らかい印象を与える一因となっている。 以上によれば,相違点(ア-1)が存在する結果,本願実線部分は,全 体として直線的な印象を,引用相当部分は,曲線的な印象を与えている。 イ 相違点(ア-2)について 審決は,相違点(ア-2)につき,表示部の僅かな配置の相違であって, 下方余地部の面積の差もさほど大きなものではなく,類否判断に大きな影 響を及ぼすものではない,と判断している。 しかし,引用意匠においては,下側余白部分が上側余白部分よりも広く, 約1.5倍もの広さになっており,下側余白部分と上側余白部分の広さが 同程度である本願意匠とは異なっているのであって,この差異は軽視すべ き程度のものではない。また,本願意匠におけるディスプレイ部分は,左 右幅略一杯にまで張り出しているが,引用意匠におけるディスプレイ部分 は,本願意匠と比較すれば,左右に若干広い余白部分を残しており,左右 の余白部分の違いも存在する。 7 以上のように,上下の余白部分の大きさの違いに加えて,左右の余白部分の大きさの違いがあることから,本願意匠は,引用意匠と比較して,正面パネルの大きさが際立って大きな印象を与え,看者に強いインパクトを与える。 審決は,本願実線部分の本体側接合面の膨らみはごく僅かであって,子細に観察して初めて看取できる程度のものであり,引用相当部分との当該部位における相違は,ほとんど類否判断に影響を与えるものではない旨判断している。 しかし,本願意匠においては,正面パネル部分が側面部にまで広がっている(甲9参照)ため,側面視においても,本願実線部分がデザインの一部として明確に観察される。 他方,引用意匠の正面パネルは側面部にまで広がっておらず,側面視においては厚みとしてしか観察されることはない。 以上のとおり,このように,側面視において,本願意匠と引用意匠とは,本願実線部分がデザインの一部として観察されるか否かの点で異なっているのであり,この相違を軽視すべきではない。そして,このような相違点が存在することは,両意匠の全体的な印象を異ならせる要因となっている。 まとめ以上のとおり,相違点(ア-1)が存在することにより,本願実線部分が看者に対してストレートでスマートな印象を与えるのに対し,引用相当部分は丸みを帯びた柔らかい印象を与えるものとなっている。そして,相違点(アー2)が存在することから,正面パネルの大きさが際立って大きな印象を与え,両意匠が看者に与える印象は,より一層異なったものとなっている。 また,相違点 が存在し,本願意匠においては,正面パネル部分が側面部にまで広がっていることも相まって,看者が両意匠から受ける印象は,一層異 8 なったものとなる。 そして,携帯情報端末は日常的に使用するものであることから,細部につ いてまで日常的な観察の対象となる。また,携帯情報端末に旺盛な購買意欲 を示す若者は多いが,それら若者は,携帯情報端末のデザインにおける微妙 な差異についてもこだわり,自らが選んだ携帯情報端末を大切にする傾向が ある。これらの事情を併せ考えると,上記の各相違点が,携帯情報端末(ス マートフォン)の購買者に対して異なる印象を与えることは明らかである。 |
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被告の反論
以下のとおり,審決の認定判断に誤りはない。 1 共通点に関する評価の誤りについて 様々な形態の携帯情報端末等が存在する以上(乙1〜10),共通点に係る 形態が「携帯情報端末であるがゆえの通常の形状」などとはいえるものではな いし,以下のとおり,審決は,両部分の共通点と相違点をそれぞれ認定し,そ の評価をした上で,結果的には,両部分の共通点の形態において基調を形成し, 看者に共通の印象を強く与えるものであるから,類否判断に支配的な影響を及 ぼすところとなっているとしたものであって,審決の判断に誤りはない。 共通点(A)について ア 長辺と短辺の比率について 携帯情報端末,スマートフォンや携帯電話機などの携帯情報端末等の物 品分野においては,本体形状の縦横比が約3:1の携帯電話(乙1),前 面パネル部を表示画面としつつ,操作パネルを兼ねているようにした携帯 情報端末機等において,前面パネル部の縦横比が約3:1の携帯電話機 (乙2)や約4:1強の無線電話機(乙3)等,様々な比率のものが存在 している。 そうすると,携帯情報端末等の分野においては,長辺と短辺の長さの比 率が,約2:1以外のものも数多く存在しており,様々な比率が存在する 9 中においては,長辺と短辺の長さを約2:1とした比率に基づいた形状が, 必ずしも「携帯情報端末であるがゆえの通常の形状」であるということは できない。また,長辺と短辺の長さを約2:1とした比率に基づいた形状 は,一定程度の共通感をもたらすものであるから,両意匠を対比観察する 場合において,「正面視において,前面パネル部の外形を長辺と短辺の長 さの比率を約2:1とする略縦長俵形」と認定して共通点(A)とした審 決の認定に誤りはない。 イ 側面視でごく僅かに湾曲している点について 前面パネル部を表示画面兼操作パネルとした携帯情報端末等においては, その出現以来本願出願直前までは,前面パネル部が前面側に湾曲していな い平坦面(フラット面)の携帯情報端末等のみが存在していた(乙4, 5)ところ,本願出願日の直前になって初めて前面パネル部が前面側に湾 曲した(ラウンド面状の)もの(引用意匠及び乙6)が現れ,その後に本 願意匠の出願がなされたのであるから,この状況下において,(前面パネ ル部を)側面視において,前面側に向けてごく僅かに湾曲させた点を共通 点として挙げ,類否判断に支配的な影響を及ぼしていることの一つの理由 とした審決の認定に誤りはない。 なお,原告が側面視につき相違点として主張する点は,審決においても 相違点として取り上げて正当に評価しているのであるから,審決に誤りは ない。 共通点(B)(長辺及び短辺の膨らみ)について 携帯情報端末等においては,前面パネル部の形状が,従来,角丸長方形状で,長辺及び短辺には膨らみがなく,直線状であったところ(乙7,8),本願出願時直前においては,短辺のみ膨らませている携帯情報端末等が出現しつつあり(乙9,10),本願出願時点においては,大部分の携帯情報端末等の形状は角丸長方形で,短辺のみを膨らませたものが僅かに存在してい 10 たという状況であって,短辺だけでなく長辺においても,僅かに膨らませた ものはほとんど存在せず,本願出願時では,両意匠に共通する特徴的な態様 であって,「略縦長俵形の長辺及び短辺の中央部分を緩やかに膨らませてい る点」を共通点としたことに誤りはない。 そして,原告が主張する「膨らみの程度,曲率が異なっている」点につい ては,審決においても,短辺の膨らみ具合の相違を抽出して認定し,その後, 共通点と相違点のそれぞれの評価を行って判断しているのであるから,審決 に誤りはない。 共通点(C)(四隅の丸み)について 本願出願時点において,パネル部の四隅に丸みを設けている携帯情報端末 等のうち,両意匠ほどの大きな丸みを設けているものはなく,したがって, 前面パネル部の四隅を大きな丸みとしている点を両意匠の共通点として挙げ た審決の認定に誤りはない。 また,審決は,共通点(C)と併せて,正面視における具体的構成態様と して,短辺の膨らみの相違点を抽出して認定し,その後,共通点と相違点の それぞれの評価を行った後に,本願実線部分全体と引用相当部分全体の評価 として判断した結果,(両部分の)形態において,共通点が両意匠の類否判 「 断に及ぼす影響が大きいというべきであるのに対して,相違点はいずれも微 弱であって,相違点の印象は,共通点の印象を覆すには至らないものであ る」(審決書4頁28行〜30行)として,本願意匠は,引用意匠に類似す る,と結論付けており,審決の認定判断に誤りはない。 2 相違点に関する評価の誤りについて ア 相違点(ア-1)について 原告の主張は,両意匠を二つ並べ,両意匠の短辺のみに着目し,正面図 同士のみで比較した場合のものにすぎない。両意匠の普通の観察状況,ご 11 く一般的な使用状態での観察(例えば,斜めからの観察)によれば,本願 の願書に添付した斜視図のように見え,両意匠共に短辺が湾曲している共 通感は認識できるが,その曲率が異なっているとか,どちらが大きいかど うかは,把握し難い程度の差でしかない。審決は,この点につき,具体的 構成態様の共通点(B)として「略縦長俵形の長辺及び短辺の中央部分を 緩やかに膨らませている点」とし,かつ,具体的構成態様の相違点として 「(正面視において,)本願実線部分は,短辺の中央部をわずかに膨らませ ているのに対して,引用相当部分は,短辺の中央部分の膨らみが本願意匠 よりもやや大きい点」と,正しく認定した後に,総合評価である両意匠の 類否判断に及んでいるのであるから,審決の認定判断に誤りはない。 携帯情報端末等において,短辺だけでなく 長辺においても僅かに膨らませたものは,本願出願時では,両意匠に共通 する特徴的な態様であったのだから,相違点の評価として,「膨らみの大 きさの相違はごくわずかなものであるから余り目立たず,ともにパネル部 四隅の丸みから連続するわずかな曲線をなし,直線に近いなめらかな印象 を看者に与えるものであって,類否判断に大きな影響を及ぼすものではな い」(審決書3頁29行〜32行)とした審決の認定判断に誤りはない。 イ 相違点(ア-2)について 携帯情報端末等の分野においては,縦長長方形の表示部と,前面パネル 部との上下の余白部分の広さを同程度とし,表示部を前面パネルの左右幅 略一杯にまで張り出しているものは,本願出願前に既に存在していたもの であるから(乙11),上記形態が本願のみの特徴とはいえず,相違点 (ア-2)につき,「表示部のわずかな配置の相違であって,下方余地部 の面積の差もさほど大きなものではなく,類否判断に大きな影響を及ぼす ものではない」(審決書4頁9行〜11行)とした審決の判断に誤りはな い。 12 幅は,図面上たった1ミリにも満たない幅であり, その幅は,前面パネル部の前面部分の前面側に向けて,ごく僅かに湾曲して いる(ラウンド面の)突出部分の幅も含む幅であるはずであるから,その側 面側まで回り込んでいる(側面にまで広がっている)部分の幅は,上記の幅 以下であって,僅かなものである。したがって,相違点の評価として,「本 願実線部分の本体側接合面の膨らみはごくわずかであって,子細に観察して 初めて看取できる程度のものであり,引用相当部分との当該部位における相 違は,ほとんど類否判断に影響を与えるものではない」(審決書4頁12行 〜15行)とした審決の認定判断に誤りはない。 原告は,携帯情報端末は日常的に使用するものであることから,細部につ いてまで,日常的な観察の対象となるほか,携帯情報端末に旺盛な購買意欲 を示す若者は,携帯情報端末のデザインにおける微妙な差異についてもこだ わる,などとも主張する。 確かに,携帯情報端末等は手に持つものであり,手元であらゆる方向から 各部まで観察されるものではあるが,それは携帯情報端末等の判断基準であ り,本願実線部分である,透明な前面パネルの形状のみについてそれほどこ だわる若者がいるとは考えられず,その他の部分(本願意匠においては「本 願実線部分以外の部分)を含めて,携帯情報端末等の全体又は各部のデザイ ンにこだわっていると見るのが相当であると考えられ,かつ,当該若者でさ え,その前面パネルのみを原告が主張するところまで細かく判断することも ないであろうから,審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
当裁判所も,本願意匠と引用意匠とは類似するので,本願意匠は意匠法3条 の2の規定により意匠登録を受けることはできないとした審決の判断には誤り はないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 131 類否判断の前提となる事実 本願意匠と引用意匠が,それぞれその意匠に係る物品を共通にしているこ とは当事者間に争いがない。 本願実線部分と引用相当部分は,共に携帯型の端末機の前面パネル部であ って,その用途及び機能が共通し,位置,大きさ,及び範囲が一致すること は当事者間に争いがない。 本願実線部分と引用相当部分 (A) 及び(B)が存在すること(ただし,原告は,共通点(A)につき,本願意 匠の長辺は短辺の2倍よりも若干短く,正面視や側面視で受ける印象は異な ること,共通点(B)につき,膨らませ方が異なることをそれぞれ指摘して いる。,及び, ) あることは当事者間に争いがない。 また,本願実線部分(甲1)と引用相当部分(甲8)とを対比すると,略 縦長俵形のパネル部の四隅を大きな丸みとしている点において共通する(共 通点(C))ことが認められる。 2 両意匠の類否判断 共通点について 携帯情報端末の性質,用途,使用方法に照らすと,需要者が携帯情報端末 を観察する際には,携帯情報端末の全体の形状,及び一見して目に入り,か つ,操作の際に最も使用頻度が高いものと考えられるパネル画面等の正面視 の形状,並びにこれらのまとまりが最も注意を惹く部分であるということが できる。 そして,本願意匠が携帯情報端末の前面パネル部に関する部分意匠である ことに鑑みると,本願意匠と引用意匠とを全体として観察した場合,意匠全 体の支配的な部分を占め,全体として一つの意匠的なまとまりを形成し,需 要者に視覚を通じて一つの美感を与えて,需要者の注意を強く惹くのは,正 14面視における形状及び携帯情報端末全体の形状に関わる部分の形状であるというべきである。 本願実線部分と引用相当部分における基本的構成態様の共通点である前面パネル部の外形を長辺と短辺の長さの比率を約2:1とする略縦長俵形とした点(共通点(A),具体的構成態様である略縦長俵形の長辺及び短辺の中 )央部分を緩やかに膨らませている点(共通点(B))及び略縦長俵形のパネル部の四隅を大きな丸みとしている点(共通点(C))は,いずれも携帯情報端末全体の形状に関わる部分に関するもので,かつ,正面視における共通点であり,側面視において,前面側に向けて,ごく僅かに湾曲させている点(共通点(A))は,携帯情報端末全体の形状に関わる部分における共通点である。 加えて,共通点(B)につき,本願出願前には同様の形状の携帯情報端末等があまり見られなかったこと(乙7〜10)も併せ考えると,上記の各共通点は類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものといえる。 相違点(ア-1)及び(ア-2)についてア 相違点(ア-1)について 他方,正面視において,本願実線部分は,短辺の中央部を僅かに膨らま せているのに対して,引用相当部分は,短辺の中央部分の膨らみが本願意 匠よりもやや大きい点が相違している(相違点(ア-1)。 ) しかし,膨らみの大きさの相違は,正面視において両意匠を対比して観 察した場合に看取し得るものではあるが,その程度はごく僅かなものにす ぎず,例えば斜め方向から観察した際にはその差異は大きなものではない のであって(甲1及び8の各斜視図参照),携帯情報端末全体の形状から 生じる美感に与える影響については大きいものとはいえない。 そして,上記の点に加え,原告の主張する四隅の丸みの付け方が異なる 点(前記第3の1 15 も,本願実線部分及び引用相当部分の短辺及び長辺は,いずれも,直線と 比較してやや丸みを帯びた印象を看者に与え,正面視全体としてみても, 両部分ともにやや丸みを帯びた長方形の形状であるとの美感を共通して与 えるものというべきであるから,上記相違点等は,需要者の視覚を通じて 起こさせる全体から生じる美感に与える影響は少ないものといえる。 したがって,上記相違点等は,類否判断に大きな影響を及ぼすものとは いえない。 イ 相違点(ア-2)について 両部分についてみると,本願実線部分は,縦長長方形の表示部を前面パ ネル部を左右幅略一杯,上下中央に設け,上下の余地部を同程度としてい るのに対して,引用相当部分は,縦長長方形の表示部をやや上方寄りに設 けているため,上方の余地部より下方の余地部がやや広くなっている点に おいて相違する(相違点(ア-2)。 ) 上記相違点は,正面視に係る形状の与える美感に影響を与えるものでは あるものの,引用相当部分における上方の余地部と下方の余地部との広さ の差はさほど大きなものではなく,本願実線部分における上下の余地部の 広さと比較してもさほど大きな違いはないものであって,両部分とも縦長 長方形の表示部を前面パネルの大部分にわたり配置している点では共通し ている。その上,携帯情報端末等の分野において,縦長長方形の表示部と 前面パネル部との上下の余白部分の広さを同程度とし,表示部を前面パネ ルの左右幅略一杯にまで張り出しているものが本願出願前に既に存在して いたこと(乙11)も併せ考えると,相違点(ア-2)が需要者の美感に 及ぼす影響は大きなものではないというべきである。 なお,原告は,本願意匠におけるディスプレイ部分は,左右幅略一杯に まで張り出しているが,引用意匠におけるディスプレイ部分は,本願意匠 と比較すれば,左右に若干広い余白部分を残しており,左右の余白部分の 16違いも存在する旨主張するが ,その差異はごく僅かであり,上記の点が類否判断に影響を及ぼすものとはいえず,原告の上記主張は採用することができない。 ,本願意匠において需要者の注意を強く惹くのは,正面視における形状及び全体の形状に関わる部分であるというべきところ, 側面視及び平底面視に係るものであり,需要者の注意を強く惹く部分とはいえない。 しかも,両部分は,側面視において,前面側に向けて,ごく僅かに湾曲させている点についても共通しており(共通点(A),この点が類否判断に大 )本願実線部分の本体部とパネル部の接合面が僅かに湾曲しているのに合わせて,パネル部の接合面を本体側に僅かに膨らませている点については,引用相当部分と比較したその膨らみの程度の差はごく僅かなものにすぎない。 は,類否判断に大きな影響を与えるものではない。 小括以上によれば,両部分の間の相違点(ア-1)及び(ア-2)並びに特段需要者の注意を惹くものではなく,類否判断に及ぼす影響は大きいとはいえず,上記各相違点が, 共通点から得られる美感の共通性を凌駕するものであるとは認められない。 よって,本願意匠と引用意匠の形態は類似するものというべきである。 原告の主張についてア 原告は,意匠の類否を判断する際には,「携帯情報端末であるがゆえの通常の形状」以外の部分に着目すべきであり,共通点(A)のうち,長辺と短辺の比率が約2対1である点は,捨象して考えるべきである旨主張す 17 しかし,本願出願前に前面パネル部の縦横比が約3:1の携帯電話機 (乙2)や約4:1強の無線電話機(乙3)が存在しているところ,これ らは,前面パネル部をタッチパネルとして機器を操作する携帯型の電子情 報機器である点で本願に係る携帯情報端末と共通していることに照らすと, 長辺と短辺の比率が約2対1であるとの点が,本願意匠に係る物品につい て通常の形状であるということはできない(なお,原告は,本願意匠の長 辺は短辺の2倍よりも若干短いことを指摘するが,その比率を約2対1と みることを妨げるような相違があるとは認められないし,両意匠から生じ る美感に相違をもたらすものでもない。。 ) よって,原告の上記主張は採用することができない。 イ 原告は,共通点(B)及び(C)並びに相違点(ア-1)に関し,引用 相当部分の短辺は,曲がり方の度合いが大きいことから,看者に対して曲 線的な印象を与えるのに対し,本願実線部分の短辺は直線状であるため, 看者に対してストレートでスマートな印象を与えるほか,本願実線部分は, 長辺の大部分が直線となっており,長辺は,上端ないし下端に近い位置で 湾曲するのみであるのに対し,引用相当部分は,長辺が全体的に曲線状に なっているため,本願実線部分が看者に対してストレートでスマートな印 象を与えるのに対し,引用相当部分が丸みを帯びた柔らかい印象を与える 一因となっている,加えて,パネル部の四隅は長辺及び短辺の膨らみの程 度並びに曲率が異なっていることと連動して本願実線部分の全体的なデザ インを形作り,その結果,全体的に,看者へ独特の印象を与えるデザイン を構成している , ア)。 しかし,原告の主張する上記各点の存在により,本願実線部分と引用相 当部分につき需要者に異なる美感を与える おいて説示したとおりであり,原告の上記主張は採用することができない。 ウ 原告は,相違点(ア-2)に関し,引用意匠においては,下側余白部分 18 が上側余白部分よりも広く,約1.5倍もの広さになっており,下側余白 部分と上側余白部分の広さが同程度である本願意匠とは異なっているので あって,この差異は軽視すべき程度のものではないし,本願意匠における ディスプレイ部分は,左右幅略一杯にまで張り出しているが,引用意匠に おけるディスプレイ部分は,本願意匠と比較すれば,左右に若干広い余白 部分を残しており,左右の余白部分の違いも存在する旨主張するが(前記 ,前記 において説示したとおり,原告の上記主張は採 用することができない。 エ 原告は,相違点 本願意匠においては,正面パネル部分が側面 部にまで広がっているため,側面視においても,本願実線部分がデザイン の一部として明確に観察されるのに対し,引用意匠の正面パネルは側面部 にまで広がっておらず,側面視においては厚みとしてしか観察されること はない 因となっている旨主張する しかし, において説示したとおり,そもそも側面視が需要者の注 意を惹く部分であるとはいい難い上に,上記のようなデザインの差異があ るとしても,本願意匠における正面パネルが側面部に広がる幅はごく僅か にすぎない(甲1)のであるから,上記の点が類否判断に大きな影響を及 ぼすものとはいえない。 よって,原告の上記主張は採用することができない。 オ 原告は,携帯情報端末は日常的に使用するものであることから,細部に ついてまで,日常的な観察の対象となるほか,携帯情報端末に旺盛な購買 意欲を示す若者は多いが,それら若者は,携帯情報端末のデザインにおけ る微妙な差異についてもこだわり,自らが選んだ携帯情報端末を大切にす る傾向があることを併せ考えると,各相違点が,携帯情報端末(スマート フォン)の購買者に対して異なる印象を与えるものである旨主張する(前 19 確かに,携帯情報端末は,手に持って使用されるもので,日常の観察の 対象となり得るものである。しかし,前記 の携帯情報端 末の性質,用途,使用方法に照らすと,需要者が携帯情報端末を観察する 際には,意匠全体の支配的な部分を占める全体の形状,及び一見して目に 入り,かつ,操作の際に最も使用頻度が高いものと考えられるパネル画面 等の正面視の形状,並びにこれらのまとまりが最も注意を惹く部分である ということができる。他方,本願意匠は,携帯情報端末の一部分である前 面パネルに係る部分意匠である上に, 部分に関するものではないし,また, において説示したと おり,相違点(ア-1)及び(ア-2)並びに 状の差異が美感 に与える影響も小さいものである以上,原告の主張する点を踏まえても, 各相違点が存在することにより,本願意匠が需要者に対して引用意匠とは 異なる美感を与えるものということはできない。 よって,原告の上記主張は採用することができない。 3 まとめ 以上によれば,本願意匠と引用意匠とは類似し,本願意匠は,意匠法3条の 2の規定により意匠登録を受けることができないものというべきであるから, 審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。 |
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結論
よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 |