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事件 |
平成
27年
(ネ)
10077号
意匠権侵害差止等請求控訴事件
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控訴人(原告) Xデザイン事務所こと X 被控訴人(被告) 株式会社シュゼット 訴訟代理人弁護士 木村耕太郎 補佐人弁理士 田邉哲通 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/01/27 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。 2 被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成26年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
1 本件は,意匠に係る物品を包装用箱とする意匠登録第1440898号の意匠権(本件意匠権)を有する原告が,被告に対し,被告による別紙1物件目録記載の各商品(被告商品)の生産,譲渡,引渡し,譲渡の申出(以下「販売等」という。)が,本件意匠権を侵害すると主張して,意匠法37条1項に基づき,被告商品の販売等の差止め,同条2項に基づき,被告商品及びこれに使用した各包装用箱の廃棄,同法41条に基づき,信用回復の措置として謝罪広告の掲載,並びに,同法39条3項に基づき,意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償金300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年6月11日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原判決は,原告の請求をいずれも棄却した。これに対し,原告は,原判決が損害賠償請求を棄却した部分について,100万円及びこれに対する平成26年6月11日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で原判決の変更を求めて一部控訴した(なお,上記の販売等の差止め,被告商品等の廃棄及び謝罪広告の掲載を求める部分については,当審において取下げにより終了した。。 ) 2 前提事実 原判決「事実及び理由」の第2,「2 前提事実」記載のとおりである。 3 争点及びこれに対する当事者の主張 争点は,原判決「事実及び理由」の第2,「3 争点」の(1),(2)及び(4)記載のとおりであり,争点についての当事者の主張は,原判決6頁20行目「また,本件意匠」から23行目「共通に感じさせる。」までを削除し,以下に,当審における当事者の主張を付加するほかは,第3「争点に対する当事者の主張」1及び2記載のとおりである。 (1) 被告意匠は本件意匠と類似するか(原告の主張) ア 本件意匠の認定について (ア) 原判決は,本件意匠では,アクセントパネルとは別の面に包装用箱の開口部が設けられ,アクセントパネルは開口部としての機能を有していないのに対し,被告意匠では,アクセントパネルが開口部として配置されていることにより,開口部としての機能を有している点においても差異があると認定した。 しかし,部分意匠制度は,破線で示された物品全体の形態について,同一又は類似の物品の意匠と異なるところがあっても,部分意匠に係る部分の意匠と同一又は類似の場合に,登録を受けた部分意匠を保護しようとするものなのであるから,破線で示された部分の形状等が,部分意匠の認定において,意匠を構成するものとして,直接問題とされるものではない(知財高裁平成18年(行ケ)第10317号平成19年1月31日判決(以下「プーリー判決」という。) )。したがって,本件意匠において破線で示された「開口部」は,意匠を構成するものとして直接問題とされるものではない。 また,プーリー判決は, 「部分意匠の性質上,破線によって具体的に示される形状等は,意匠登録を受けようとする部分を表すため,当該物品におけるありふれた形状等を示す以上の意味がない場合もあれば,当該物品における特定の形状等を示して,その特定の形状等の下における意匠について,意匠登録を受けようとしている場合もあり,部分意匠において,意匠登録を受けようとする部分の位置等については,願書及びその添付図面等の記載並びに意匠登録を受けようとする部分の性質等を総合的に考慮して決すべきである。」としているところ,「アクセントパネル」は他の破線部の構成要素に依存するものではないから,本件意匠において破線で示された「開口部」の位置は, 「当該物品におけるありふれた形状等を示す以上の意味のない場合」に該当するのであり,部分意匠の解釈において参酌されるべきものではない。 したがって,原判決の上記判断は,部分意匠である本件意匠の範囲を誤って解釈したものである。 (イ) 被告の主張(1)ア(イ)に対し 本件意匠は,動的意匠ではなく,被告は,意匠法の解釈を誤っている。 別添意匠公報(以下「本件公報」という。)の「参考開口図」「参考折りたたみ図」 ,及び「折りたたみ線を示す参考図」 (以下,これらをまとめて「本件各参考図」ともいう。)は,本件意匠が三角錐を基本としたものであり,三角錐を基本とした包装用箱の形態が従来ほとんど見られない形態であるので,意匠に係る物品が包装用箱であることの理解のため,あえて参考図として記載したものである。 イ 本件意匠の構成態様の認定について 原判決は,構成態様A及び構成態様Bにおいて, 「組立時において」としたが,本件意匠は,本件公報の図面にあるように組立ての工程に関係なく,物品の外観としての全体形状として登録を受けているものであるため,このような認定は誤りである。 また,原判決は,「概ね」の認定であるとしながら,構成態様Eについて,「アクセントパネルの縦の長さと中央部分(2つの二等辺三角形の底辺に当たる部分)の幅の比は,約8対1」と認定した。本件意匠は,アクセントパネルが三角錐の1か所の稜線部の頂点と頂点を結ぶ稜線部全体の位置に形成されていることにより,三角形面とアクセントパネルにより一体状に構成された多面体として明確に看取されるというものである。したがって,本件意匠の「概ね」の認定としては,三角形面とアクセントパネルで構成された一体状の多面体としての略三角錐形状を基本的構成態様とすることを,明確に認定すべきである。 したがって,本件意匠の構成態様としては,以下のとおり認定されるべきである。 (ア) 基本的構成態様A 略三角錐形状の多面体の包装用容器であってB 天頂に位置する頂点から底面を形成する面に至る3本の稜線のうち1本の稜線に,C 当該稜線の縦方向中央を水平方向に横切る谷折り線を最大幅として頂点及び底辺において収斂する左右の辺で囲われた平面(アクセントパネル)を形成し,D アクセントパネルは,縦方向中央部が最もへこんだ屈曲面となっている。 (イ) 具体的態様a アクセントパネルは,正面視縦長の菱形であり,b アクセントパネルの縦の長さと中央部分(上記Cの2つの二等辺三角形の底辺に当たる部分)の幅の比は,約8対1である。 ウ 本件意匠の要部の認定について (ア) 本件において,上記イ(ア)の基本的構成態様を備えた先行意匠は提出されていない。特に,アクセントパネルが三角錐の1か所の稜線部の頂点と頂点を結ぶ稜線部全体の位置に形成されていることは,一体形状の多面体としての略三角錐として,単純な形態である三角錐の中において強調された形態となっており,特徴的形態として看取される。 したがって,本件意匠の要部は,上記に述べた基本的構成態様そのものであり,他の要素を加えて要部と認定しなければならない事情はない。 (イ) 三角錐形状の包装用箱が公知だとしても,公知部分であることから直ちに要部から除外するなどということは,明らかな誤りである。意匠全体の類否判断に当たって,部分について観察した場合,当該部分が公知であれば需要者の注意を惹きにくいということだけであって,意匠全体として需要者に美感を起させる構成態様がどのようなものかは,構成態様全体として観察し,改めて要部を認定することが普通の手法である。 原判決は,本件意匠の構成態様Aの略三角錐形状の基本形状を要部に含めないまま,天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうち1本の稜線 「に(構成態様B) ・・・略菱形状の面(アクセントパネル)を形成したこと(構成態様C)を要部と認定しているが,そうすると, 「3本の稜線のうち1本の稜線」とは,どのような形状における稜線を指すものであるか明示していないことになり,よって,アクセントパネルが,略三角錐形状の3本の稜線のうち1本の稜線に斜面状に位置するものと認定したのであるか,全体形状を不問とし単に稜線に当たる部分に位置するものと認定したのであるか,また,全体形状とは関わりなくアクセントパネル部分のみを要部と認定したのか等,どのような形態を要部としたのであるか不明確であり,要部を認定しているものとはいえない。 (ウ) 相違点となるアクセントパネルの具体的形状とは,形状として認識できる面形状自体である「略菱形状」か「略紡錘形状」かとの点であるが,菱形状も紡錘形状も,古くからありふれたものとして公然知られた形状であるため, 「略菱形状」及び「略紡錘形状」の面形状自体の印象も新規なものではなく,容器の形状全体の中で,その違いはわずかなものであるから,類否判断に影響を与える要部とはならない。 エ 類否判断について (ア) 本件意匠と被告意匠とは,基本的構成態様において共通しており,具体的態様において, 「アクセントパネル」が縦長の菱形であるか,縦長の紡錘形であるか,また, 「アクセントパネル」の縦横比が8:1であるか,4:1であるかという点で差異を有する。 ここで,三角錐形状の包装用容器において,稜線に「アクセントパネル」を設けた意匠は,本件意匠出願前には存在せず,かかる態様が看者の注視するところとなることは明らかである。 そして,上下中央部が幅広で上下端に収斂する「面」を形成しようとするとき,本件意匠のように「縦長の菱形」とするか,被告意匠のように「縦長の紡錘形」とするかは,二者択一的な選択の問題にすぎない。アクセントパネルの形状自体は,公知であり,これらの具体的形状に差異があっても,類似であると判断されることは,甲8ないし10の意匠について,全体形状が包装用箱においては極めてありふれた略直方体であるので,類否判断に及ぼす影響は弱いと考えられるところ,差異点であるアクセントパネル自体の形状については,いずれも公知形状であり,アクセントパネルの配設の態様の共通性が,アクセントパネル自体の形状の差異を凌駕し類似するものとされている点が参考となる。 さらに,アクセントパネルの縦横比は,数字で示すと「2倍の差異」ということになるが,容器全体との関係で見ると, 「位置」 「大きさ」 「範囲」の共通性の中に埋没する程度のものであって,看者に異なる美感を起こさせるほどのものということはできない。 (イ) アクセントパネルの具体的形状は,上下両端を尖らせ中央部を幅広とした全体の形状としては共通するものであり,差異は,左右両辺が直線であるか曲線であるかにすぎないものであるので,アクセントパネル全体としては,むしろ共通の印象が強いものである。被告意匠の当該尖った形状部分は本件意匠と同様のシャープな印象を与えるので,直線部分と曲線部分のみを対比させて印象が異なるとするのは誤った判断である。 (ウ) 開口部については,前記アにおいて述べたとおり,本件意匠においては登録の範囲には含まれない部分であるから差異とならない。 包装用箱がいかに需要者を惹きつけるかは,包装用箱の販売時における店頭の外観形状で判断されるものであり,仕組みについて着目する事業者においても,箱を購入する際の判断は,販売時の外観形状が一般消費者の注意を惹くものかどうかである。被告意匠の開口部については,一般消費者が店頭において購入する際には,その蓋は2枚が重ねられ透明なシールで接合されて1枚のように見える形状を呈し,店頭時はもちろん,被告のウェブサイトの公式オンラインショップにおいても開口部の存在は確認しにくく,注目すべき点として認識されるとは思えない。特別に仕組みを強調したい場合は,甲42に見られるように,開口部にそれなりの表示が施されるのが普通である。 また,被告意匠のアクセントパネルが開口部を兼ねたものであっても,この種物品の流通時には,開口部は接着等によって閉じられた状態であるのが一般的であるので,開口状態が外観に表れたものでなく,開口部の位置を示す表示もなく,また,開封のためのミシン目等が設けられたものでもないので,一般消費者は,開口部ではない形態と同様の形態として視覚的に受け止めるものである。よって,被告意匠のアクセントパネル部は,外観に表れない開口の構造を有しているにすぎず,意匠としての差異点として要部にはなり得ない。 さらに,開口部は,一般消費者にとって,全体形状を観察して選択し購入した後に,内容物を取り出す時にようやく注意を払う程度の構成要素であることがごく一般であるので,開口部の構成態様がいかなるものかに注意を払うとしても,極めてわずかな注意にすぎない。しかも,被告意匠の開口部の構成態様は,2枚のパネルこれは,普通に知られた開口構造であるので,なおさら注意を惹くものでない。 (エ) したがって,被告意匠は本件意匠に類似するというべきである。 (被告の主張) ア 原告の主張(1)アに対し (ア) 原判決及びプーリー判決が判示するように,本件意匠の「意匠登録を受けようとする部分」である実線部分の機能及び用途を確定するに当たっては,破線部分によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。また,本件意匠の「意匠登録を受けようとする部分」である実線部分が,物品全体の形態との関係において,どこに位置するか等は,破線部分によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。言い換えれば,破線部分が「部分意匠の認定において,意匠を構成するものとして,直接問題とされるものではない」ということは,破線部分を単なる例示であると決め付けてよいということではないし,まして,破線部分を無視して実線部分を解釈してよいということでもない。 本件意匠の図面において,実線で描かれたアクセントパネルが開口部としての機能を備えていないことは,六面図だけを見ても,破線部分を参酌すれば明らかであるし,本件各参考図をも参酌すれば,より一層明らかである。 したがって,本件意匠のアクセントパネルが開口部を兼ねないことは,本件公報の実線部の解釈の問題であって,この認定に誤りがあるとはいえない。 (イ) 本件意匠は,意匠法6条4項の「意匠に係る物品の形状・・・がその物品の有する機能に基づいて変化する場合において,その変化の前後にわたるその物品の形状・・・について意匠登録を受けようとするとき」に該当するもの(いわゆる動的意匠)に当たる。このことは,本件意匠の意匠登録願(以下「本件意匠登録願」という。)には明示されていないが,本件意匠に係る図面である本件各参考図を六面図と同様に参酌すれば, 「包装用箱」である本件意匠に係る物品が平面的に折りたたまれた状態(「参考折りたたみ図」)から出発して,同図の右端にあたる線と左端にあたる線とを中央方向につぶしながら立体に組み立てる途中経過の状態「参 (考開口図」 が図示され, ) 両図上端の頂点を円弧状の切り込み線に挿し込んで立体を完成させた状態(「折りたたみ線を示す参考図」)が,六面図と整合する実線及び破線により図示されているのであり,出願人(原告)自らが動的意匠と理解していることが,明らかである。 したがって,開口部の位置がどこであるか,換言すればアクセントパネルが開口部としての機能を有するか否かは本件意匠の範囲の問題ではないとする原告の主張は,本件意匠の図面に基づかない主張であり,誤りである。 イ 原告の主張(1)イに対し 前記のとおり,本件意匠は動的意匠であり,組立完成時における静的な観察のみならず,平面的に折り畳まれた状態から立体に起こし,内容物を収納し,三角錐形状に組み立てるまで,さらには,三角錐形状に組み立てられた後,開口し,内容物を取り出すまでの時間軸に沿った全体を総合的に観察して構成態様を認定すべきであるから,原判決の認定した構成態様A及びBの「組立時において」とは, 「組み立てられた状態において」の意味に解するべきである。原判決の認定する構成態様A〜Eは,このような組立ての途中経過を考慮しているものでないから,その点においては正しいものではない。 原告の主張するように,本件意匠の構成態様を「基本的構成態様」と「具体的態様」とに分けて認定するか,原判決のようにまとめて認定するかは,表現上の違いにすぎず,原判決の認定が誤りであるとする理由にはならない。 ウ 原告の主張(1)ウに対し (ア) 三角形4面で形成される三角錐形状を基本形状とする包装容器の意匠は, 「テトラパック」の意匠に見られるように古くから周知の形状であり,少なくとも本件意匠の出願前に公知である(乙1)。 他方,包装容器の稜線部分に平面又は曲面のアクセントパネルを形成した意匠もありふれたものである(乙2〜6,甲8〜10)公知のアクセントパネルの形状は, 。 アクセントパネルが1か所のもの(乙5,6)もあれば2か所のもの(甲8〜10,乙2〜4)もあり,外郭線が直線のみで構成されるもの(甲8,10,乙2〜4)もあれば曲線のみで構成されるもの(甲9,乙5),直線と曲線とで構成されるもの(乙6)もある。また,アクセントパネルが稜線の全長にわたって形成されるもの(乙2,3,5)もあれば稜線の全長より短いもの(甲8〜10,乙6)もあり,アクセントパネルが対称形のもの(甲8〜10,乙5,6)もあれば非対称形のもの(乙2,3)もある。 このように様々な形状のアクセントパネルを有する包装容器の意匠が公知なのであるから,縦方向中央を垂直に横切る谷折り線を底辺として2つの二等辺三角形を接続する形で凹状にへこませた全体として略菱形状の面を形成し,縦横比が約8対1であるというアクセントパネルの具体的な形状が,本件意匠の要部として認定されなければならないことは当然である。 (イ) 意匠の要部認定において,公知部分を除外して意匠の特徴的部分を把握することは,通常認められた手法であるところ,本件意匠において全体の基本形状が略三角錐であることは,公知意匠との共通部分であるから,これを除外して要部を認定することに何の問題もない。 (ウ) 「包装用箱」という物品の需要者には,一般消費者のみならず,食品メーカや小売業者などの,プロフェッショナルとして一般消費者よりも高度の観察力を持ち,かつ,一般消費者とは異なる観点からも包装用箱の意匠を観察する「事業者」を含む。そのような事業者は,箱そのものを平面に折りたたまれた状態で購入し,自ら組み立てて使用するのであり,箱が組み立てられた状態における形態のみに着目するわけではないから,組立後の形態のみならず,平面的に折り畳まれた状態から立体に起こし,内容物を収納し,三角錐形状に組み立てるまでの全体を観察する。また,一般消費者は,組立完成時の形態のみを静的に観察するということはなく,三角錐形状に組み立てられた後,開口し,内容物を取り出すまでの全体を観察するし,当該観点は,事業者も当然有している。 したがって, 「需要者」の観点から本件意匠の要部を把握するということは,組立完成時の形態のみを静的に観察するのではなく,平面的に折り畳まれた状態から立体に起こし,内容物を収納し,三角錐形状に組み立てるまで,さらには,三角錐形状に組み立てられた後,開口し,内容物を取り出すまでの時間軸に沿った全体を総合考慮して,意匠の要部を認定するべきである。 エ 原告の主張(1)エに対し (ア) 原判決の類否判断は,概ね正当である。ただし,原判決の認定は,包装用箱が組み立てられた状態における比較を中心とするものであるところ,本件意匠と被告意匠との類否判断は,包装用箱が組み立てられた状態において静的に観察する比較のみではなく,包装用箱が平面に折りたたまれた状態から,少なくとも立体に組み立てるまでの時間軸に沿って動的に観察する比較を行うべきである。 原告の主張は,包装用箱が組み立てられた状態において静的に観察する比較のみを行うことを前提に,アクセントパネルと開口部との位置関係,換言すれば,アクセントパネルが開口部としての機能を兼ねるものであるか否かという本件意匠と被告意匠との本質的に重要な相違点を無視した主張をしており,前提において誤っている。 (イ) 類否判断の「需要者」は,当然に「包装用箱」自体の需要者であるメーカや小売業者等の事業者を含むものであるし,そのような事業者はもちろんのこと,一般消費者であっても,包装用箱を組み立てられた状態において静的にのみ観察するということはなく,内容物の収納及び取出しという「箱」としての基本的機能に関しても注意を払うものであるから,開口部の位置や開口の仕方については当然に着目する。そして,そのような需要者がアクセントパネルに着目するということは,アクセントパネルと開口部との位置関係,換言すればアクセントパネルが開口部としての機能を兼ねるものであるか否かについても着目する。 被告意匠における開口部の構造がありふれたものであるからといって,アクセントパネルと開口部との位置関係の相違点に需要者が着目しない理由にはならない。 (2) 損害額(原告の主張) 被告は,被告の店舗及び売場の合計83か所及び公式オンラインネットショップ通販サイトにおいて,平成26年1月8日から同年3月10日までの少なくとも合計62日間にわたり,被告商品を販売した。1日当たりの販売数は,被告商品がバレンタイン特集等の春季催事企画商品の1つであり,通常に比べ限定期間内の販売数量は多くなることを考慮し,1店舗の1日当たりの平均売上げを30箱とすると,83店舗全体で2490箱となり,1 日当たりのインターネットによる販売数を2000箱とすると,1 日当たりの総販売個数は4490箱となる。販売日数が62日として総販売数は27万8380箱となり,総売上額は被告商品の定価が500円であることから1億3919万円となる。 「現代産業選書『ロイヤルティ料率データハンドブック』〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」平成22年(2010年)8月31日初版第1刷発行/経済産業省知的財産政策室編/発行 財団法人 : 経済産業調査会」により,本件意匠の相当実施料率を4%とする。 以上より,原告は,被告に対し,少なくとも500万円の損害賠償請求権を有し,その一部である100万円を請求する。 (被告の主張) 原判決15頁12行目から20行目末尾までの【被告の主張】記載のとおりである。 被告商品の価値の大部分は内容物であるチョコレートフィナンシェによって構成されており, 「包装用箱」の意匠権に基づいて,箱入りの洋菓子全体の売上(1箱当たり500円)に基づく損害賠償請求権が発生するはずがない。 |
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当裁判所の判断
当裁判所も,本件意匠と被告意匠とは類似しないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求を棄却した原判決の認定判断は相当であって,原告の請求は理由がないものと判断する。その理由は,以下の1に付加訂正するほかは,原判決「第4 当裁判所の判断」に示すとおりであり,当審における主張に対する判断は2のとおりである。 1 付加訂正 (1) 原判決16頁25行目「受けた部分が」の次に「物品において」を加える。 (2) 原判決17頁2行目「の機能」を「の物品における機能」と改める。 (3) 原判決17頁14行目「(1) 本件意匠の構成態様」から18頁6行目末尾までを以下のとおり改める。 「(1) 本件意匠の構成態様 前記前提事実及び証拠(甲2,乙9)によれば,本件意匠は,本件公報の【意匠に係る物品の説明】にあるとおり, 「4面で形成される三角錐形状を基本形とした構造体の頂点と底面を形成する点とを2本の折れ曲がった線で結ぶことにより,新たにアクセントパネルとしての面が生まれ,多面体としての新しい見え方を可能にしている包装用箱」を本件意匠に係る物品とし,本件公報の【図面】の実線で示された部分意匠であるところ,その構成態様は,以下のとおりと認められる。 (基本的構成態様)A 本体の基本形状を三角形4面で形成される略三角錐形状とし,B 本体の天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうちの1本の稜線に沿って,凹状の面(アクセントパネル)を頂点間の全長にわたり設け,C 上記アクセントパネルを含む本件公報の【図面】の実線で示された部分を部分意匠とする。 (具体的構成態様)a アクセントパネルは,当該稜線の縦方向中央を垂直に横切る谷折り線を底辺とし,天頂に位置する点を頂点とする二等辺三角形と,上記谷折り線を底辺とし,底面を形成する点を頂点とする二等辺三角形の2つの平坦面からなる二等辺三角形を,底辺部分で上下に接続させた略菱形状の面であり,b アクセントパネルの上下中央部分(上記二等辺三角形の底辺部分)は,最もへこんだ最大幅部を形成し,c アクセントパネルの縦の長さと中央部分(上記aの2つの二等辺三角形の底辺に当たる部分)の幅の比は,約8対1である。」 (4) 原判決18頁25行目「そして,」から19頁11行目末尾までを次のとおり改める。 「 そして,4面の三角形状で形成される略三角錐形状をした包装用箱の意匠それ自体は,少なくとも本件意匠登録の出願前に日本国内において公然知られたものである(乙1,弁論の全趣旨)一方,略三角錐形状をした包装用箱の天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうちの1本の稜線に沿って,凹状の面(アクセントパネル)を頂点間の全長にわたり設けた構成は,本件意匠登録の出願前に公知でなかったことに照らすと,本件意匠の要部は,上記の基本的構成態様を前提として,当該稜線の縦方向中央を垂直に横切る谷折り線を底辺とし,天頂に位置する点を頂点とする二等辺三角形と,上記谷折り線を底辺とし,底面を形成する点を頂点とする二等辺三角形の2つの平坦な二等辺三角形を,底辺部分で上下に接続させて略菱形状の面(アクセントパネル)を形成したこと(構成態様a),アクセントパネルの上下中央部分(上記二等辺三角形の底辺部分)は,最もへこんだ最大幅部を形成していること(構成態様b) アクセントパネルの縦の長さと中央部分 ,(上記aの2つの二等辺三角形の底辺に当たる部分)の幅の比は,約8対1であること(構成態様c)にあると認めるのが相当である。」 (5) 原判決19頁12行目「(3) 被告意匠の構成態様」から26行目末尾までを以下のとおり改める。 「(3) 被告意匠の構成態様 前記前提事実及び証拠(乙8,甲46添付の「イ号意匠(写真)(本判決別紙2) 」 )によれば,被告意匠の部分意匠である本件意匠に相当する部分の構成態様は,以下のとおりと認められる。 (基本的構成態様)A 本体の基本形状を三角形4面で形成される略三角錐形状とし,B 本体の天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうちの1本の稜線に沿って,凹状の面(アクセントパネル)を頂点間の全長にわたり設けた。 (具体的構成態様)a アクセントパネルは,当該稜線の三角錐の天頂に位置する点と底面を形成する点とを,稜線の縦方向中央部分にかけてふくらむように円弧状の側辺で結び,当該稜線を中心線として円弧状の側辺が左右対称になった略紡錘形状の面であり,b アクセントパネルの上下中央部分は,アクセントパネルに含まれない2つの頂点を結んでアクセントパネルを横断する折れ線部が水平方向に現れ,最もへこんだ最大幅部を形成し,c アクセントパネルの縦の長さと中央部分の幅の比は約4対1であり,d アクセントパネルは,包装用箱の開口部として配置されている。」 (6) 原判決20頁2行目「ア 共通点」から8行目末尾までを次のとおり改める。 「ア 共通点 本件意匠と被告意匠は,本体の基本形状を三角形4面で形成される略三角錐形状とし,本体の天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうちの1本の稜線に沿って,凹状の面(アクセントパネル)を頂点間の全長にわたり設けたという基本的構成態様において共通する。また,アクセントパネルの上下中央部分は,最もへこんだ最大幅部を形成し,天頂部及び底面を形成する上下頂点へ向けて,徐々に先すぼまりとなっている点において共通する。」 (7) 原判決20頁17行目「具体的形状が異なっている。」の次に, 「また,本件意匠のアクセントパネルの上下中央部分は,2つの平坦面からなる二等辺三角形の底辺部分をなし,上記2つの二等辺三角形が上下中央部分で接続され,当該接続部に明らかな折曲が見られる形状であるのに対し,被告意匠のアクセントパネル上下中央部分は,アクセントパネルに含まれない2つの頂点を結んでアクセントパネルを横断する折れ線部が水平方向に現れるものの,折曲していない点においても,アクセントパネルの具体的形状が異なっている。」を加える。 (8) 原判決20頁18行目「また」を「さらに」と改める。 (9) 原判決21頁4行目「また,」の次に「アクセントパネル上下中央部分の具体的形状の差異により,本件意匠のアクセントパネルは,二等辺三角形の底辺部分をあえて折曲部分とした形状が際立っており,多面体としての外観上の装飾機能を強く感じるのに対し,被告意匠のアクセントパネル上下中央部分は,アクセントパネルに含まれない2つの頂点を結んでアクセントパネルを横断する折れ線部が水平方向に現れたにすぎず,折曲していないため,看者にとって単なる折り目として認識されるにすぎない点において,そこから受ける美観が異なる。さらに,」を加える。 (10) 原判決21頁18行目「箱を開口しても」から20行目「消失してしまうかは」までを削除する。 (11) 原判決22頁11,14,20〜21行目の各「凸状の面」をそれぞれ「凹状の面」と改める。 (12) 原判決22頁16行目「凹状の面」を「もの」と改める。 (13) 原判決23頁10行目「そして,」から12行目末尾までを削除する。 2 当審における当事者の主張に対する判断 (1) 原告の主張(1)ア(本件意匠の認定)について ア 原告は,本件意匠において,破線で示された「開口部」は,意匠を構成するものではなく,部分意匠の解釈において参酌されるべきではないから,開口部としての機能を有している点を差異と認定する原判決は,部分意匠である本件意匠の解釈を誤ったものであると主張する。 部分意匠制度は,破線で示された物品全体の形態について,同一又は類似の物品の意匠と異なるところがあっても,部分意匠に係る部分の意匠と同一又は類似の場合に,登録を受けた部分意匠を保護しようとするものであるから,部分意匠の認定において,破線で示された部分の形状等が,当該意匠を構成する一部などとして直接問題とされるべきものでない点については,原告の述べるとおりである。 しかし,原判決第4,1において述べたように,一定の機能及び用途を有する「物品」を離れての意匠はあり得ず,部分意匠においても,部分意匠に係る物品において,意匠登録を受けた部分がどのような機能及び用途を有するものであるかを,その類否判断の際に参酌すべき場合があり,また,物品全体の形態との関係における,部分意匠として意匠登録を受けた部分の位置,大きさ,範囲についても,破線などによって具体的に示された形状を参酌して定めるべき場合がある。 原判決も,上記のとおり,本件公報の図面に破線部で示された開口部の具体的な形状や位置を本件意匠を構成する部分として認定するのではなく,本件意匠において特徴的部分をなすアクセントパネルの機能について見る際に,本件意匠に係る物品である物を収納する包装用箱において,アクセントパネル以外の部分に開口部が設けられていることが本件公報の図面において明らかとなっていることから,少なくとも,アクセントパネルが開閉する開口部蓋としての機能を有していないことを,被告意匠との対比において認定したにすぎない。 したがって,原判決は,本件意匠の権利範囲でない破線部分の形状や位置を構成態様や要部として認定したものではないから,部分意匠の解釈に誤りはなく,上記主張は採用できない。 イ なお,被告は,本件意匠は動的意匠であり,組立完成時における静的な観察のみならず,平面的に折り畳まれた状態から立体に起こし,内容物を収納し,三角錐形状に組み立てるまで,さらには,三角錐形状に組み立てられた後,開口し,内容物を取り出すまでの時間軸に沿った全体を総合的に観察して,本件意匠を認定すべきであると主張する。 しかし,本件意匠登録願(甲46の添付書類)及び本件公報(甲2)のいずれにも本件意匠が動的意匠(意匠法6条4項)であることは示されておらず,また,いわゆる六面図及び斜視図のいずれにも組立経過中のものは示されていない。被告がその根拠とする本件各参考図は,あくまで参考図であって,意匠登録を受けようとする意匠の理解を助ける目的で記載されたものにすぎない。さらに,被告は,本件各参考図は,平面的に折りたたまれた状態から立体を完成させた状態までをそれぞれ図示していると主張するが,当初の本件意匠登録願には, 「折りたたみ線を示す参考図」は記載されていなかったところ,意匠登録を受けようとする部分の範囲及び形状が特定しないとの審査官の拒絶理由を踏まえて,出願人(原告)が補正によって加えたものにすぎないから,原告が包装用箱の組立ての経過を動的意匠として出願したとは到底考えられず,上記主張は失当である。 (2) 原告の主張(1)イ(本件意匠の構成態様の認定)について 原告は,原判決の認定した本件意匠の構成態様は誤りがあり,原告の主張(1)イのとおり認定すべきと主張する。 しかし,基本的構成態様については,意匠を概括的に捉えた際の骨格的態様をいうものであり,公知意匠を斟酌した上で,被疑侵害意匠と共通する部分のすべてを盛り込まねばならないというものではない。本件意匠を具体的に観察して把握される態様ではない骨格的態様としては,前記1(1)において原判決を訂正したとおりに認定するのが相当である(もっとも,基本的構成態様をいかに捉えようと,結局は,本件意匠の要部をどのように捉え,被疑侵害意匠との関係でどのように対比し,評価するかが重要であるから,基本的構成態様に関する見解の相違は,直ちに結論を左右するものではない。。 ) (3) 原告の主張(1)ウ(本件意匠の要部の認定)について 原告は,本件意匠の基本的構成態様そのものが要部であって,他の要素を加えて要部と認定しなければならない事情はない旨主張する。 確かに,略三角錐形状を基本とする包装用箱,及び,直方体等の包装用箱の1稜線上にアクセントパネルを設けた構成は,それぞれ本件意匠の出願前において公知であったといえるものの,本件意匠のように,略三角錐形状の頂点を結んだ当該稜線上にアクセントパネルを設けた公知意匠は見当たらないことからすれば,このような基本的構成態様は,本件意匠の要部と認められる。 しかし,そうだからといって,具体的構成態様がすべて要部とならないわけではない。本件意匠は,本件公報の【図面】の実線で示された部分を権利範囲とするものであり,その権利範囲をアクセントパネル部分に限定するものではないところ,略三角錐形状を基本とし,頂点と底面の点を結ぶ1稜線上に設けられたアクセントパネル面が,需要者の注意を最も惹きつけるものであり,アクセントパネルが稜線上の全長にわたり設けられ,多面体の1つの面としての機能を果たしているがゆえにその形状は最も目につきやすいものであることからすれば,全体の美観において,アクセントパネル自体の形状から受ける美観の印象は強く,その幅や凹凸,形状等の具体的構成態様が異なれば,同一の基本的構成態様を前提としても全く異なる印象の美観を生じさせ得るものである。 原告の主張によれば,基本的構成態様を同じくする限り,アクセントパネルなどの具体的構成態様がどのような形状であっても,意匠としての要部をすべて共通することとなり,相当とはいえない。 そうすると,具体的構成態様であるアクセントパネルの形状についても,全体の美観を左右するものとして,本件意匠の要部に当たるというべきである。 (4) 原告の主張(1)エ(類否判断)について ア 原告は,三角錐形状の包装用容器において,稜線に「アクセントパネル」を設けた意匠は本件意匠出願前には存在せず,かかる態様が看者の注視するところとなることは明らかであり,アクセントパネルの形状は,看者に異なる美感を起こさせるほどのものということはできない旨主張する。 本件意匠と被告意匠は,本体の基本形状を三角形4面で形成される略三角錐形状とし,本体の天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうちの1本の稜線に沿って,凹状の面(アクセントパネル)を頂点間の全長にわたり設けたという基本的構成態様において共通するものであり,前記のとおり,略三角錐形状の頂点を結んだ当該稜線上にアクセントパネルを設けた公知意匠が見当たらないことからすれば,需要者は,まず,そのような基本的構成態様に注目するものと考えられる。 一方,上記のとおり,アクセントパネルが稜線上の全長に設けられ,多面体の1つの面としての機能を果たしていることからすれば,当該面の形状等は目につきやすく,そこから受ける印象の違いは,全体の美観に大きく影響するものというべきである。 そして,前記のとおり,本件意匠のアクセントパネルにおける直線で構成された略菱形状は,一般的にシャープで固い印象を与えるのに対し,被告意匠の曲線で構成された略紡錘形状は,一般的に丸く,やわらかな印象を与える。また,アクセントパネルの縦の長さと中央部分の幅の比が,本件意匠では約8対1であり,ほっそりと鋭い感じを与えるのに対し,被告意匠では約4対1であり,ふくよかでゆるやかな印象を与える。 さらに,アクセントパネル上下中央部分の具体的形状の差異により,本件意匠のアクセントパネルは,平坦な二等辺三角形2つを二等辺三角形の底辺部分(アクセントパネルの上下中央部分)で接続し,折曲部位とした形状が際立ち,多面体としての外観上の装飾機能を看者に強く感じさせるのに対し,被告意匠のアクセントパネル上下中央部分は,アクセントパネルに含まれない2つの頂点を結んでアクセントパネルを横断する折れ線部が水平方向に現れたにすぎず,折曲していないため,看者にとって単なる折り目として認識されるにすぎない点において,看者が受ける美観が異なる。 加えて,両者は,アクセントパネルの上下中央部分が,最もへこんだ最大幅部を形成し,天頂部及び底面を形成する上下頂点へ向けて徐々に先すぼまりとなっている点において共通するものの,右側面から見た場合,証拠(乙8の写真D,甲46の別添イ号写真「右側面図」,本件公報の「右側面図」)に示されるとおり(下記図参照) 被告意匠は, , アクセントパネルを形成する2本の側辺が丸いカーブを描く曲線であることから,略三角錐の本体の基本形状の印象が薄れるのに対し,本件意匠は,本体の略三角錐の印象が薄れることなく保たれている点においても,異なった印象を受ける。 本件公報 右側面図 被告意匠 右側面写真 イ この点,原告は,アクセントパネル部の具体的形状は,上下両端を尖らせ中央部を幅広とした全体の形状としては共通するものであり,差異は,左右両辺が直線であるか曲線であるかにすぎないので,アクセントパネル全体としては,むしろ共通のシャープな印象が強いものであると主張する。 そこで,検討するに,確かに,アクセントパネルの側辺が円弧状であるとしても,その曲率が小さい場合には,側辺は限りなく直線的に見え,また,その幅が狭い場合には,本件意匠と同様にシャープな印象を与え,類似する可能性が高いものと解される。しかし,被告意匠は,前記のとおり,長さと幅を約4:1とし,ある程度大きな曲率でカーブする円弧状の側辺であることから,紡錘状の葉様のふくよかでずんぐりとした印象を与え,上下両端を尖らせ中央部を幅広とした本件意匠と共通する形状の印象を凌駕するものと認められる。 したがって,両者のアクセントパネルが,上下両端を尖らせ中央部を幅広とした全体形状である点で共通するとしても,全体から受ける美観が異なるから,原告の上記主張は採用できない。 ウ また,原告は,アクセントパネルの形状としては,本件意匠も被告意匠も公知の形状であり,甲8ないし10の意匠について,極めてありふれた略直方体における差異点であるアクセントパネル自体の形状において差異があるのに,これらが類似とされていることが参考とされるべき旨主張する。 しかし,甲8ないし10の意匠は,直方体状の包装用容器の長辺のうちの1本について,その両端を除く部分に,甲8及び甲10の意匠については,2つの略菱形状の凹状の面が2つ,甲9の意匠については,2つの略紡錘状の凹状の面が設けられたものである。そうすると,これらの意匠は,そもそも直方体状であることから,三角錐形状とは本体形状の面及び辺の数が異なり,当該意匠において1つの辺が占める注目度が小さなものである上,本件意匠や被告意匠のように,包装用箱の稜線の全長にわたってアクセントパネルが1つ設けられることにより,多面体の1面としての印象を強く有する意匠とは異なることから,参考とすべきものとは解されない。 エ さらに,原告は,被告意匠の開口部については,外観上現れた差異ではなく,本件意匠においては登録の範囲には含まれない部分であるから,意匠の対比において斟酌できない旨主張する。 しかし,意匠の当該部分に着目する場合に,当該形状から受ける単なる美観だけではなく,それが物品においてどのような機能と結び付いているかによって,需要者の払う注意力の程度や,そこから受ける印象,感銘力が異なるのは当然のことである。本件意匠と対比されるべき被告意匠におけるアクセントパネルは,前記のとおり,開口部としての機能を有するものであることから,それを差異として認識し,相違点として認定することに誤りはない。 また,原告は,被告意匠のアクセントパネル部が開口部を兼ねたものであっても,この種物品の流通時には,開口部は接着等によって閉じられた状態であるのが一般的である上,開口状態が外観に表れたものでなく,その態様も普通に知られた態様であるので,注意を惹くものでない旨主張する。 しかし,本件意匠に係る物品が包装用箱である以上,物を出し入れする包装用箱の開口部の位置,形状がいかなるものかについては,一般消費者のみならず,取引業者も関心を持つのが通常であるところ,被告意匠のように略紡錘形状のパネルが2枚重ねられて蓋を形成するのは,原告も主張するとおり,特に目新しい形態ではなく,被告商品の開口部に貼られたテープの存在や,パネルが2枚重なった開口部分の様子,他の面に開口部らしき部分を有さないところから,アクセントパネルが蓋であることは,外観からも容易に認識できるものである。そして,このような蓋は,斬新なものではなく,看者が,蓋としての機能を有するアクセントパネルに直ちに着目するとはいえないとしても,前記のとおり,看者にとって,当該形状から受ける単なる美観だけではなく,それがどのような機能と結び付いているかによって,注意力の程度や,そこから受ける印象,感銘力が異なるのは当然のことである。 そうすると,前記のとおり,多面体の1面として注意を惹く部分であるアクセントパネルが,被告意匠において開口部蓋としての機能をも有することは,看者に異なる印象を与え,専ら装飾としてのシャープで洗練されたイメージのアクセントパネルを有する本件意匠とは,異なる美観を生じさせ得るものと認められる。 したがって,原告の主張は採用できない。 3 以上によれば,原告の被告に対する請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却すべきであり,同旨の原判決は相当である。 |
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結論
よって,本件控訴には理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 中村恭 |
裁判官 | 中武由紀 |