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関連審決 無効2012-880008
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事件 平成 27年 (行ケ) 10104号 審決取消請求事件

原告 株式会社エム.シー.アイ. エンジニアリング
同訴訟代理人弁理士 柿澤紀世雄
同 柿澤惠子
被告 株式会社むつ家電特機
同訴訟代理人弁護士 五藤昭雄
同 川淳一
同訴訟代理人弁理士 小林正治
同 小林正英
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/04/20
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2012-880008号事件について平成27年4月17日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告代表者である A(以下「A」という。)は,平成17年8月9日,同人を創作者として,以下の部分意匠(以下「本件意匠」という。)を出願し(意願2005-23092号),平成19年11月22日,設定登録を受けた(意匠登録第1318240号。以下「本件意匠登録」という。甲1,乙1)。
意匠に係る物品:「貝吊り下げ具」イ 本件意匠の態様:別紙1の実線で表された部分のとおり (2) A は,平成23年10月19日,被告に対し,本件意匠登録に係る意匠権を移転した(乙1)。
(3) 原告は,平成24年5月18日,本件意匠登録の無効審判請求をした(乙1)。
(4) 特許庁は,これを無効2012-880008号事件として審理し,平成27年4月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月27日,原告に送達された。
(5) 原告は,平成27年5月26日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,本件意匠登録は,その意匠登録が創作者でない者であって,その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しない者の意匠登録出願に対してされたものであるということはできず,意匠法48条1項3号の規定により無効にされるべきものであるとはいえない,というものである。
(2) なお,本件審決は,本件意匠と金型設計図(甲2の1・2)の意匠のうち本件意匠に相当する部分(以下「設計図部分」という。)との形態を対比した上,両意匠は,以下の相違点によって明らかに形態が異なり,同一のものであるということはできない旨認定した。
ア 相違点ア 連結部について,本件意匠は,端面が小円形状のごく細いものであるのに対し,設計図部分は,端面が偏平な長方形状で,正背面視突起部と同幅である点。
イ 相違点イ 左右2本の連結部と上下2本のピンで囲まれた横長長方形状部分の縦横比について,本件意匠は,約1:1.6であるのに対し,設計図部分は,約1:1.8である点。
3 取消事由 冒認出願に関する判断の誤り
当事者の主張
〔原告の主張〕 以下のとおり,本件意匠の創作者は原告代表者である B(以下「B」という。)であり,本件意匠登録は,冒認出願に対してされたものであるから,本件審決が,本件意匠登録は冒認出願に対してされたものではないとした判断は,誤りである。
(1) 本件意匠の創作経緯 ア 原告は,B の創作の下,金型設計図(甲2の1・2)に基づき,金型(甲3の1〜3)を製作し,この金型で製造した甲4の形状のフープピンを,被告に対し,平成17年6月20日及び同年7月20日に納品した。A は,原告から納品された甲4のフープピンの形状を見て,平成17年8月9日,本件意匠について意匠登録出願をしたものであって,本件意匠の創作者が A でないことは明らかである。
イ @原告は,被告から甲46の1の形状のフープピンの製造を依頼されたことから,その製造方法について検討し,平成16年11月17日,被告に対し,サンプルを送付した(甲51の11の1),Aその後,原告は,甲46の1の形状のフープピンを「フープピンT型」と称して,平成17年4月20日及び同年5月10日,被告に納入した(甲12の1,甲57),B原告は,平成17年2月12日,甲46の1の形状のフープピンの「増面U型」の生産に着手したが,成形後の巻取 りの際に,連結部が延ばされてピッチの間隔が不揃いになる,切断しやすい等の不具合が多発したため,B において,連結部に2本の線を用いることを発案し,高橋技研に金型の設計変更を依頼した,Cこれを受け,高橋技研は,同年3月1日,連結部に2本の線を用いた金型設計図(甲2の1)を作成した,Dこの金型設計図に基づき製作した金型(甲3の1〜3)を使用して,平成17年3月20日に初度品として甲4のフープピンを製造した。以上の経緯に照らせば,納品書(控)(甲14の1,甲15の1)に「フープピンU型」とあるのは,甲46の1の形状のものではなく,甲4の形状のフープピンであることが明らかである。
なお,甲4の形状のフープピンを平成17年6月20日及び同年7月20日に納品した後,原告と被告は,平成18年2月18日,「フープピンU型」についての協議を行い,その結果,被告は,原告に対し,同年11月14日,「フープピンU型」を発注したのであるが(甲19の1),納品書(控)(甲14の1,甲15の1)にある「フープピンU型」が甲4の形状のものであることは,上記協議に係る「今後についての打ち合わせと決定事項」と題する書面に「MCIでの新デザインピン(ロープ止め内側に2本の細い線状でフープ状にし貝抜け止め付,サンプルは2又アゲだがそれ以外でもよい)」と記載されていることからも明らかである。
ウ 本件審決は,A を創作者とする甲25の1,甲26の1,甲47の意匠登録出願があったことを根拠に,被告が本件意匠を創作した旨認定した。
しかし,これらの意匠登録出願は,いずれも,刊行物に記載された意匠に基づいて容易に創作することができる形状であるなどとして,拒絶査定を受け,登録に至っていないのであるから,上記意匠登録出願があることは,本件意匠を A が創作したことの根拠となるものではない。
(2) 本件意匠と甲4のフープピンの形状との対比 ア 本件意匠において,「ハ」の字状の突起部の先端部と連結部とのわずかな間隔に,意匠としての審美性が表れており,この間隔は,ピンとしての有用性,ピンとロープとの固着性などの意匠に係る物品としての機能を高めている。
したがって,本件意匠においては,「ハ」の字状の突起部の先端部と2本の連結部との間隔が,対比においても重視されなければならない。
上記観点に基づき本件意匠と甲4のフープピンの形状とを対比すると,両意匠は同一のものであるというべきである。
イ 本件審決は,本件意匠と設計図部分を対比して,両意匠が同一のものであるということはできないとした。
しかし,原告が被告に対して納入した製品は甲4の形状のフープピンであるから,本件意匠と甲4の形状(その拡大図である甲30の8の形状)とを対比しなければならない。
設計図部分について,本件審決が,@相違点アとして認定した,連結部の端面が扁平な長方形状で,正背面視突起部と同幅である点や,A相違点イとして認定した,連結部の縦横比などは,金型設計図から金型を作成する際に,熟練工が任意に調整するようなものであって,金型設計図の記載から,甲4のフープピンの形状が相違点ア及びイのとおりのものであると認定することはできない。
ウ 本件審決は,本件意匠と設計図部分を対比して,相違点ア及びイを認定し,両意匠が同一のものであるということはできないとした。
(ア) しかし,甲4のフープピンは,連結部の端面が小円形状のごく細いものであるから,本件意匠と甲4のフープピンの形状とを対比すると,相違点アに係る相違は存しない。
(イ) そして,相違点イは,視覚を通じて別異の美観を起こさせるような本質的な相違ではない。すなわち,2本の紐状の連結部は,貝吊り下げ具(ピン)をロープに取り付けたり,貝を取り付けたりする場面では切り離されてしまうのであり,一時的なピンの間隔を保持するという仮の機能を果たすにすぎない部分であるから,連結部の縦横比は,意匠としての審美性が問題となるような重要な形状ではない。
そもそも,本件審決は,連結部の縦横比に相違があることが,なぜ意匠としての同一性を否定する理由となるのかについて,何ら説明していない。縦横比の寸法の 相違は,納品された甲4の形状のフープピンを見て,この意匠について意匠登録出願をする際の観察のずれや,作図の際の誤差により生じる程度のものにすぎない。
連結部の縦横比のわずかな相違は,本件意匠と甲4の形状のフープピンとの同一性を否定するようなものではないから,かかる相違は,本件意匠が甲4の形状のフープピンを模倣して意匠登録出願されたものであるという事実を覆すものではない。
エ 被告は,原告に対し,警告書(甲21)を送付し,原告の製品の連結部の形状が本件意匠の範囲に属し,意匠権を侵害するものである旨警告し,さらに,相殺書(甲22)を送付し,買掛金債務と本件意匠登録に係る意匠権の侵害に基づく損害賠償請求権とを相殺する旨の意思表示をした。
上記事実に照らせば,被告は,本件意匠と原告の製品(甲4の形状のフープピン)とが同一の意匠であることを認めているということができる。
〔被告の主張〕 以下のとおり,本件意匠登録は,冒認出願に対してされたものではないから,本件意匠登録は冒認出願に対してされたものではないとした本件審決における判断に,誤りはない。
(1) 本件意匠の創作の経緯について ア 被告は,本件意匠登録に係る出願日前に,原告から甲4の形状のフープピンを納品されたことはない。
原告は,「フープピンU型」なる製品を納入した証拠として納品書(控)(甲14の1,甲15の1)を提出し,これらでいうところの「フープピンU型」が,甲4に示す形状の貝吊り下げ具であると主張する。
しかし,上記各納品書(控)と甲4の「フープピンU型の実物写真」とを結びつける証拠は一切提出されておらず,証拠による裏付けがない。被告に納品された「フープピンU型」なる製品は,甲46の1の形状のものであり,「フープピンT型」なる製品は,甲45の1の形状のものである。
イ A は,原告が甲4の形状のフープピンを被告に納品したと主張する納品日より も前から,原告が主張する「フープピンU型」とは関係なく,独自に種々の形態のフープピンを創作し,自らが創作したこれらフープピンについて,本件意匠登録に係る出願日よりも前である平成14年9月19日及び平成15年3月13日に意匠登録出願(甲25の1,甲26の1,甲27の1,甲47)を行っている。
A は,平成15年当時,既に突起部の間を2本の紐状の連結部でつないだ態様の貝吊り下げ具について,意匠登録出願していたのであり,この先行する意匠登録出願の意匠に基づいて,本件意匠を創作し,これについて意匠登録出願をしたものである。
(2) 本件意匠と甲4のフープピンの形状との対比 ア 原告は,無効審判請求書において,金型設計図(甲2の1・2)の仕様に基づいて金型(甲3の1〜3)が製作され,甲4のフープピンはその金型で成形されたものであると主張していた。
金型設計図(甲2の1)における連結部の端面は扁平な長方形状であることから,甲4のフープピン(成形品)が,金型設計図(甲2の1)の仕様に基づいて製作された金型(甲3の1〜3)で成形されたものであるとするならば,当該成形品の連結部の端面も当然扁平な長方形状になるはずである。
本件審決は,原告の上記主張に基づき,意匠に係る物品である「貝吊り下げ具」の形状を特定するにあたって,金型設計図(甲2の1)との対比を行ったのであり,この判断に何ら誤りはない。
原告は,金型を製作するに当たり,その設計図の寸法や形状を適宜調整するのが通常であるかのような主張をするが,金型をその設計図の寸法のとおりに製作することは,技術常識であり,指定された寸法や形状を勝手に変更することなどあり得ない。仮に寸法などを変更する場合は,図面に変更箇所,変更内容,変更日時,変更者名等を記載するのが設計の常識である。
イ 本件意匠は,設計図部分と相違点ア及びイの点で相違し,両意匠が同一のものであるということはできない。
(ア) 金型(甲3の1〜3)及び甲4の「フープピンU型の実物写真」には,2本の連結部の切断した端面形状は示されていない。
他方,金型設計図(甲2の1)の「4倍拡大図」に示されている2本の連結部は,切断した端面が扁平な長方形状であって,小円形ではない。
したがって,本件意匠と設計図部分とは,連結部の端面形状が異なる。
(イ) 連結部の縦横比の相違は,多数本のピンが連結されている本件意匠においては,隣接するピン間に繰り返し現れるため,原告が B の創作によるものであるとする意匠(甲2〜4)との美感の違いとして顕著に表れ,別異の意匠を形成する相違点である。
当裁判所の判断
1 本件意匠の構成について 本件意匠は,別紙1の実線で表された部分であり,貝の養殖に使用する貝吊り下げ具のうち,細長い棒状のピンを多数平行に配置し,そのピンの中央部において,左右両端寄りから斜め上側中央向きで左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として,そのロープ止め突起の内側直近に左右対称状に2本の連結紐を一体形成したものを上下等間隔に多数連結した部分の形状であり,これにより,それぞれの連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角形の空間を形成するとともに,2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐と上下のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長長方形の空間を形成している。
そして,横長長方形(内側)の縦対横の比率は,約4.7対7である。また,三角形(内側)の底辺の長さと長方形(内側)の底辺の長さの比率は約4対7である。
さらに,2本の連結紐は,切断した端面が小円形状のごく細い紐状であり,ロープ止め突起の先端は円弧状で丸く,正背面視で連結紐よりも太く,ピンの水平棒状部よりもやや細い(甲1)。
2 原告の主張について (1) 原告は,B の創作の下,金型設計図(甲2の1・2)に基づき,金型(甲3 の1〜3)を製作し,この金型で製造した甲4の形状のフープピンを,被告に対し,平成17年6月20日及び同年7月20日に納品したところ(甲14の1,甲15の1),A は,原告から納品された甲4のフープピンの形状を見て,同年8月9日,本件意匠について意匠登録出願をしたものである旨主張する。
(2) 甲4の形状のフープピンの納品について ア 平成17年6月20日付けの納品書(控)(甲14の1)及び同年7月20日付けの納品書(控)(甲15の1)には,「フープピンU型」との記載がある。
しかし,原告は,この「フープピンU型」とは,甲4の形状のフープピンである旨主張するのに対し,被告は,「フープピンU型」とは,甲46の1の形状のフープピンである旨主張するところ,ここにいう「フープピンU型」がいかなる形状のフープピンであるかを的確に認定し得るに足る証拠は存しない。
したがって,上記証拠をもって,甲4の形状のフープピンが平成17年6月20日及び同年7月20日に被告に納品されたとの事実を認めるに足りない。
イ 原告が甲4の形状のフープピンのもとになったと主張する金型設計図(4倍拡大図。甲2の1)からは,2本の連結紐を切断した端面の形状は,偏平な長方形状(幅1o,厚み0.5o)であることが見て取れる。
他方,金型写真(甲3の1〜3)からは,成形品の形状の詳細を見て取ることはできない。なお,原告は,上記写真に係る金型は既に廃棄したとして,当裁判所にその現物を示さない。また,成形品の写真(甲4及びその拡大図であるという甲30の8)からも,成形品の形状の詳細を見て取ることは困難である。
原告は,本件意匠と甲4のフープピンの意匠とを対比すれば,本件審決が認定した相違点アは存しないとして,甲4のフープピンは,2本の連結紐を切断した端面の形状が,本件意匠と同様に,小円形状である旨主張するところ,原告の上記主張を前提とすれば,甲4のフープピンと金型設計図(甲2の1)とでは,2本の連結紐の形状が相当に異なるから,甲4のフープピンが金型設計図(甲2の1・2)に基づき製作された金型で成形されたものであるとは,にわかに認め難い。原告は, 連結紐の切断した端面の形状等は,金型設計図から金型を製作する際に,金型の製作者において任意に調整するような事柄である旨主張するが,連結部の形状は,予期せぬピンの切断や,ピンの切離し作業に直接影響するものであることに照らせば,上記指摘は容易に採用し難い。
ウ 原告は,B の創作の下で,甲4の形状のフープピンを製造し,被告に対し,平成17年6月20日及び同年7月20日に納品したとする。
しかし,被告は,従前,原告に製造を発注する製品の仕様については,形状,寸法,角度等の細部に至るまで図面で指示していたことがうかがわれること(甲8,甲9の1〜3,甲10の1),金型の製作には数百万円という多額の費用がかかること(例えば,甲5では,60個取りの金型の製作費用が300万円であるとされている。)等に照らすと,原告が,金型製作の前に,被告との間で,製品の仕様の詳細について事前の打合せを経ずに,独自に製品の仕様を発案し,金型を製作するとは考え難い。しかるに,原告は,甲4の形状のフープピンを製造するための金型を製作するに至った経緯について,合理的な説明をしているとはいえない。
エ 以上に照らせば,原告が挙げる証拠をもって,原告が,本件意匠登録の出願日より前に甲4の形状のフープピンを被告に納品していたとの事実を認めるに足りないと言わざるを得ない。
(3) 本件意匠と甲4の形状のフープピンの意匠との同一性について 原告が,本件意匠登録の出願日より前に甲4の形状のフープピンを被告に納品していたとの事実を認めるに足りないと言わざるを得ないことは,前記(2)のとおりであるが,この点を措いて,原告が主張するように,本件意匠と甲4のフープピンの意匠とを対比しても,両意匠は,左右2本の連結紐と上下2本のピンで囲まれた横長長方形状部分の縦横比が相違する(なお,甲4及び甲30の8からは,甲4のフープピンにおける縦横比を的確に認定することはできないが,少なくとも,本件審決が認定した約1対1.8を上回ることが見て取れる。)。
本件意匠は,貝吊り下げ具のうち,ピンを多数平行に配置し,そのピンの左右両 端寄りから斜め上側で左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として,その間に上記小突起寄りに左右対称状に2本の連結紐を一体形成したものを上下等間隔に多数連結した連結部にかかる部分意匠であることに照らせば,左右2本の連結紐と上下2本のピンで囲まれた長方形の形状(縦横比の相違)は,これが多数連なった場合,両意匠の美観に少なからず相違を生じる点であるというべきである。
したがって,上記の点で相違する本件意匠と甲4のフープピンの意匠とが同一のものであるともいうことはできない。
(4) 以上のとおり,甲4の形状のフープピンを被告に納品していたとの事実を認めるに足りず,しかも本件意匠と甲4のフープピンの意匠とが同一のものであるともいうことはできないから,いずれにせよ,原告の前記主張は,採用の限りでない。
3 本件意匠の創作経緯について(1) 認定事実後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告は,漁具の設計製造販売等を目的とする会社であって,本件意匠登録以前から貝の養殖に使用する貝吊り下げ具を販売しており,平成14年頃から,原告に対し,貝吊り下げ具(フープピン)の製造,納入を発注するようになった(甲5,21)。
被告の代表者である A は,平成13年4月6日には,ピンを多数平行に配置し,そのピンの中央部において,ピンの左右両端寄りから斜め下側中央向きで左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として備える貝吊り下げ具の意匠を創作し,意匠登録出願して登録を受けた(意匠登録第1153379号。甲32)。
イ A は,その後も,貝吊り下げ具について,同人を創作者とする複数の意匠登録出願をしており,このうち平成14年9月19日を出願日とする意匠登録出願(意願2002-025569号)の意匠は,以下の構成を有するものである(甲27の1)。なお,上記意匠登録出願に対しては,意匠法17条に該当することを理由 として,平成15年12月25日付けで拒絶査定がされた(甲27の3・5)。
ピンを多数平行に配置し,そのピンの中央部において,ピンの左右両端寄りから斜め上側中央向きで左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として,そのロープ止め突起の内側中央部に1本の連結紐を一体形成したものを上下等間隔に多数連結した貝吊り下げ具である。そして,1本の連結紐は,切断した端面が小円形状のごく細い紐状であり,ロープ止め突起の先端は円弧状で丸く,正背面視で連結紐よりも太く,ピンの水平棒状部よりもやや細い。
ウ A は,同人を創作者として,平成15年3月13日を出願日とする意匠登録出願(意願2003-006624号)をした。上記意匠登録出願の意匠は,以下の構成を有するものである(甲25の1)。なお,上記意匠登録出願に対しては,意匠登録第1153379号の意匠(甲32)と類似し,意匠法3条1項3号に該当することを理由として,同年10月24日付けで拒絶査定がされた(甲25の2・4)。
ピンを多数平行に配置し,そのピンの中央部において,ピンの左右両端寄りから斜め上側中央向きで左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として,そのロープ止め突起の内側に左右対称状に2本の連結紐を一体形成したものを上下等間隔に多数連結した貝吊り下げ具であり,それぞれの連結紐とロープ止め突起との間には台形状の空間(ロープ止め突起の先端部と連結紐との間に隙間があるため,三角形状までには至らない。)を形成するとともに,2本の連結紐と上下のピンの間には縦長長方形の空間を形成している。そして,縦長長方形(内側)の縦対横の比率は,約5対4である。また,台形(内側)の底辺の長さと長方形(内側)の底辺の長さの比率は約6対4である。さらに,2本の連結紐は,切断した端面が小円形状のごく細い紐状であり,ロープ止め突起の先端は円弧状で丸く,正背面視で連結紐よりも太く,ピンの水平棒状部よりもやや細い。
エ A は,同人を創作者として,平成15年3月13日を出願日とする意匠登録出願(意願2003-006631号)をした。上記意匠登録出願の意匠は,以下の 構成を有するものである(甲47)。なお,上記意匠登録出願に対しては,拒絶査定がされた(甲51の1)。
ピンを多数平行に配置し,そのピンの中央部において,ピンの左右両端寄りから斜め上側中央向きで左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として,そのロープ止め突起の内側にロープ止め突起の先端部と接するようにして左右対称状に2本の連結紐を一体形成したものを上下等間隔に多数連結した貝吊り下げ具であり,それぞれの連結紐とロープ止め突起との間には三角形の空間を形成するとともに,2本の連結紐と上下のピンの間には横長長方形の空間を形成している。そして,横長長方形(内側)の縦対横の比率は,約5対12である。また,三角形(内側)の底辺の長さと長方形(内側)の底辺の長さの比率は約3対12である。さらに,2本の連結紐は,切断した端面が小円形状のごく細い紐状であり,ロープ止め突起は,正背面視で連結紐よりも太く,ピンの水平棒状部よりもやや細い。
オ A は,同人を創作者として,前記ウの意匠と2本の連結紐の切断した端面が偏平な長方形状であるほかは同様の構成を有する意匠についても,平成15年3月13日を出願日とする意匠登録出願(意願2003-006625号)をしたが(甲26の1),前記ウと同じ理由により,同年10月24日付けで拒絶査定がされた(甲26の2・5)。
カ A は,同人を創作者として,前記ウの意匠と連結部が1本の帯状の薄片で構成されているほかはおおむね同様の構成を有する意匠についても,平成15年3月13日を出願日とする意匠登録出願(意願2003-006622号)をし,上記意匠登録出願に係る意匠については,同年7月18日意匠登録された(意匠登録第1184322号。甲28)。
キ A は,同人を創作者として,甲46の1の形状のフープピンとおおむね同様の構成を有する連結部に係る部分意匠について,平成16年11月9日を出願日とする意匠登録出願(意願2004-34119号)をし,上記意匠登録出願に係る意匠については,平成17年9月2日意匠登録された(意匠登録第1253339号。
甲51の3)。
ク 被告は,平成17年頃,甲45の1の形状のフープピンやその改良型である甲46の1の形状のフープピンを販売していたが,その販売については,株式会社東北総合研究社の有する特許権(甲36)の侵害となることを避けるため,同社との間で実施許諾契約を締結し,同社に対し,実施料を支払っていた(甲51の1・4)。
そこで,被告は,実施料の負担を避けるため,上記特許権抵触するおそれのない形状に改造する必要が生じ,2本の連結紐により連結部を構成する形状のフープピンを製品化することにし,製品化に当たり,本件意匠について意匠登録出願をした(甲51の1・5)。
(2) 本件意匠の創作について ア 本件意匠と先行意匠との関係 (ア) A が,本件意匠登録に係る意匠登録出願日よりも前である平成15年3月13日に出願した前記(1)ウの意匠は,本件意匠の構成と,2本の連結紐をロープ止め突起の内側直近に形成するか,ロープ止め突起の内側であるがやや離れた位置に形成するかの違いがあるほかは,同様の構成の意匠である。本件意匠と前記(1)ウの意匠とは,ロープ止め突起と2本の連結紐の形成する空間の形状や2本の連結紐と上下のピンとが形成する空間の形状に違いがあるが,これらの違いは,ロープ止め突起と2本の連結紐との位置関係の相違により生じるものである。
(イ) A が,平成15年3月13日に出願した前記(1)エの意匠は,ロープ止め突起の先端部が2本の連結紐に接している点で本件意匠とは異なるが,2本の連結紐と上下のピンの間には横長長方形の空間を形成するものである。
イ 前記アのとおり,A は,本件意匠登録に係る意匠登録出願日より前に,自らを創作者として,本件意匠と一部のみにおいて異なる意匠の意匠登録出願をしていたことが認められ,これらの事実に照らせば,先行意匠登録出願に係る意匠において,さらに2本の連結紐を形成する位置を工夫した本件意匠を独自に創作したとしても, 不自然ではない。なお,原告は,上記先行意匠登録出願は拒絶査定を受け,その意匠は意匠登録に至っていないから,上記先行意匠登録出願の存在は,A が本件意匠を創作したことの証拠とはならない旨主張するが,A を創作者とする上記先行意匠登録出願がされたことは,これらの出願に対し拒絶査定がされたか否かにかかわらないから,上記指摘は当たらない。
そして,前記(1)クに認定した事実によれば,本件意匠登録出願の経緯についても,特段不合理な点は認められない。
(3) 以上によれば,A において,本件意匠を創作し,意匠登録出願したとする経緯に,特段の不自然さや不合理さは認められないのであって,本件意匠は A が創作したものであると推認することができる。
4 結論 以上のとおり,原告の主張は採用することができず,本件意匠は A が創作したものであると推認することができる。よって,本件意匠登録は,その意匠登録が創作者でない者であって,その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しない者の意匠登録出願に対してされたものであるということはできない。
したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 柵木澄子
裁判官 鈴木わかな
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