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関連審決 不服2015-3063
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事件 平成 28年 (行ケ) 10108号 審決取消請求事件

原告 ザ プロクターアンド ギャンブル カンパニー
同訴訟代理人弁理士 朝倉悟
同訴訟代理人弁護士 吉武賢次
同 宮嶋学
同訴訟代理人弁理士 副田圭介
同訴訟代理人弁護士 田泰彦
同 柏延之
同 砂山麗
被告特許庁長官
同 指定代理人正田毅
同 本多誠一
同 橘崇生
同 田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/11/10
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間1を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2015-3063号事件について平成27年12月16日に した審決を取り消す。
前提事実(いずれも当事者間に争いがない。)
1 本願意匠 意願2013-12836号(以下「本願」という。)は,平成24年12 月7日のアメリカ合衆国への出願に基づくパリ条約による優先権の主張を伴っ て,平成25年6月7日に意匠登録出願されたものである。その意匠(以下 「本願意匠」という。)は,意匠に係る物品を「包装用容器」とし,その形態 を,別紙審決書(写し)の別紙第1(以下,別紙審決書(写し)添付の各別紙 につき「別紙第1」のようにいう。)のとおりとするものである。
2 特許庁における手続の経緯等 本願につき平成26年11月13日付けで拒絶査定がされたことから,原告 は,平成27年2月18日付けで拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は,この請求を不服2015-3063号事件として審理し,同年1 2月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(附加期間とし て90日を付加。以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,平成28年 1月5日,原告に送達された。
原告は,同年5月6日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
3 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,その要旨は, 以下のとおりである。
(1) 本願意匠の認定 本願意匠は,その意匠に係る物品は「包装用容器」であり,その形態は, 2 (1)スリーブ付き容器本体部の上部に凸状注出口付きキャップ部を突出す るように設け(以下「構成(1)」という。(2)以下についても同様に表 記する。),(2)容器本体部は,全体を口部がほんの少し突出した略円柱 形状体とし,口部上端は鍔状に表れ,肩部は,その幅が口径の約2倍で,緩 やかな傾斜で張り出し,胴部は,側面視縦横比が約5対2のやや細長形状で, 胴部の下端から約4分の1の高さ付近が最も括れるように,上端及び下方 (底部寄りの垂直面付近を除く)から径が漸次細くなり,その括れ部の径の 大きさは胴部上下端部の径の約80%とし,(2-1)胴部の下端から肩部 の少し入ったところまでをフィルムで密着するように覆われたものであり, (3)キャップ部は,その上面中央に凸状注出口を備えたやや扁平な(幅と 高さの比率を約3対1とする)略円柱形状で,周側面には天板部の周縁を除 いて筋状凸部による垂直線模様が密に等間隔に表れ,天板部の周縁部分が周 側面の上端から僅かに水平に張り出したものであり,(3-1)キャップ部 上面に表れる注出口部は,円柱形状部と,その上部に屋根のように表れる扁 平な略円錐台形状部からなるものであり,その頂部が少し突出したもの,と 認められる。
(2) 引用した公知意匠の認定 ア 意匠1 意匠1(日本国特許庁が平成18年2月27日に発行した意匠公報に 記載の意匠登録第1263924号包装用瓶の意匠の「容器本体部」の 形状。別紙第2参照。以下「引用意匠1」という。)は,容器本体部の 形態について,全体を口部がほんの少し突出した略円柱形状体とし,口 部上端は鍔状に表れ,肩部は,その幅が口径の約2倍で,緩やかな傾斜 で張り出し,胴部は,側面視縦横比が約5対2のやや細長形状で,胴部 の下端から約4分の1の高さ付近が最も括れるように,上端及び下方 (底部寄りの垂直面付近を除く)から径が漸次細くなり,その括れ部の 3 径の大きさは胴部上下端部の径の約80%としたものである。
イ 意匠2 意匠2(特許庁総合情報館が1991年9月20日に受け入れた大韓 民国特許庁が1991年8月3日に発行の大韓民国意匠公報に記載の製 品番号116323号包装用瓶の意匠の「注出口付きキャップ部」の形 状。別紙第3参照。以下「引用意匠2」という。)は,キャップ部の形 態について,その上面中央に凸状注出口を備えたやや扁平な(幅と高さ の比率を約2対1とする)略円柱形状とし,周側面には天板部の周縁を 除いて筋状凸部による垂直線模様が密に等間隔に表れ,その筋状凸部が 天板部の周縁部分よりも僅かに突出したものであり,また,天板上部中 央(注出口部の直下)には扁平な円錐台状の突出部が形成されている。
ウ 意匠3 意匠3(日本国特許庁が平成24年1月10日に発行した意匠公報に 記載の意匠登録第1430963号包装用容器の意匠の「注出口部」の 形状。別紙第4参照。以下「引用意匠3」という。)は,キャップ部上 面に表れる注出口部について,円柱形状部と,その上部に屋根のように 表れる扁平な略円錐台形状部からなり,その頂部が少し突出したもので ある。
エ 意匠4ないし6 意匠4(日本国特許庁が平成15年5月21日に公開した公開特許公 報に記載の特開2003-146361号【図1】の包装用容器の意匠。
別紙第5参照),意匠5(日本国特許庁が平成18年11月24日に公 開した公開特許公報に記載の特開2006-317654号【図1】の 包装用容器の意匠。別紙第6参照)及び意匠6(日本国特許庁が平成2 1年10月29日に公開した公開特許公報に記載の特開2009-24 9002号【図1】(a)の包装用容器の意匠。別紙第7参照。以下, 4 意匠4ないし6を一括して「引用意匠4ないし6」という。)は,いず れも,容器本体部の胴部の下端から肩部の少し入ったところまでをフィ ルムで密着するように覆われたものである。
(3) 本願意匠の創作容易性 キャップ部や注出口部を異なる形態のものと置き換える変更がありふれ た手法といえる包装用容器の物品分野において,本願意匠は,引用意匠1の 容器の注出口付きキャップ部を,引用意匠2の容器の注出口付きキャップ部 と置き換えるとともに,その注出口部を引用意匠3の容器の注出口部と置き 換え,引用意匠4ないし6に見られるとおり,ごく普通に見られる手法によ って胴部下端から肩部の少し入ったところまでをフィルムで密着するように 覆ったものと認められるものであり,公知の形状に基づいて容易に創作する ことができた意匠というほかなく,意匠法(以下「法」という。)3条2項 に該当し,意匠登録を受けることができないものである。
当事者の主張
1 原告の主張-本願意匠の創作容易性に関する判断の誤り (1) 本願意匠の構成態様 本願意匠の意匠に係る物品が「包装用容器」であること,本件審決にお いて認定されている構成が本願意匠の構成態様として考慮されるべきである ことは争わないが,本件審決の認定は,引用意匠との比較において重要とな る構成態様のすべてを網羅するものではない。
すなわち,本願意匠の属する物品分野における物品の性質上,機能的な 制約により形状選択の幅が限られる本体中央部分より,キャップ(注出口部 及びキャップ部),キャップと本体との接合部分(鍔状部,首肩部及び肩部 からなる部分)及び本体底部の形状において製品ごとに特徴が見られること から,これらの形状がそれぞれ本願意匠の構成態様となるが,それらの部分 の配置間隔も意匠全体の美感に大きく影響することから,この点も同様に考 5 慮することが適当であり,本願意匠は,注出口部,キャップ部,接合部分及び円筒状底部が略同一の高さで均等に配置されているという特徴を有している。また,多層構造でありながらすべて略同一の回転体となっていることも本願意匠の特徴的形状であるところ,これによって包装用容器という枠にとどまらない,現代的なタワー状構造物のような統一感のある印象を与えることに鑑みると,この点も本願意匠の構成態様として考慮すべきである。
以上を踏まえると,本願意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様(以下,「構成態様A」のようにいう。)は,以下のとおり認定するのが適切である。
<基本的構成態様>A:略円筒形のスリーブ付き容器本体部の上部に凸状注出口付きキャップ部 を突出するように設けている。
B:キャップ及び容器本体はどの方向から観察しても略同一の回転体となっ ている。
<具体的構成態様>C:容器本体部は,全体を口部がほんの少し突出した略円柱形状体とし,口 部上端は鍔状に表れ,肩部は,その幅が口径の約2倍で,緩やかな傾斜 で張り出し,胴部は,側面視縦横比が約5対2のやや細長形状で,胴部 の下端から約4分の1の高さ付近が最も括れるように,上端及び下方 (底部寄りの垂直面付近を除く)から径が漸次細くなり,その括れ部の 径の大きさは胴部上下端部の径の約80%となっている。
D:本体の底部寄りに明確な円筒状部分が表れており,底部寄りの垂直面付 近が円筒状となっている。
E:本体胴部の下端から肩部の少し入ったところまでをフィルムで密着する ように覆われている。
F:キャップ部は,その上面中央に凸状注出口を備えたやや平な(幅と高さ 6 の比率を約3対1とする)略円柱形状で,周側面には天板部の周縁を除 いて筋状凸部による垂直線模様が密に等間隔に表れ,天板部の周縁部分 が周側面の上端から僅かに水平に張り出したものである。
G:キャップ部上面に表れる注出口部は,円柱形状部と,その上部に屋根の ように表れる平な略円錐台形状部からなるものであり,その頂部が少し 突出したもの,となっている。
H:キャップの凸状注出口部の高さは,@キャップ部,A容器本体の鍔状口 部上端から肩部の略上部に至る首肩部の高さ及びB上記本体の底部寄り の垂直面付近の高さと略同一となっている。
(2) 本願意匠から生じる美感 本願意匠の外観は,水平方向に見れば,どの方向から観察しても同一視 し得る回転体となっているという構成態様Bに基づく特徴により,バランス が良い印象を与えるものとなっており,垂直方向に見ても,高さαを一つの 基準寸法(モジュール)として繰り返し用いているという構成態様Hに基づ く特徴により,多層的かつ数理的に秩序立った統一感のある印象を与えるも のになっている。また,本願意匠は,底部寄りの垂直面付近が円筒状となっ ているという構成態様Dにより,円筒状部が台座を想起させ,安定感のある 印象を与えるものとなっている。さらに,キャップに係る構成態様F及びG が相まって,本願意匠は,あたかもタワー状構造物の頂部のような装飾であ りながらもシンプルで落ち着いた印象を与えるものとなっている。
これらの特徴点により,全体として見た場合,本願意匠は,多層的であ りながらも落ち着いていて,均整のとれたスタイルを備えた安定感のある現 代的なタワー状構造物のような美感を生じるものとなっている。
(3) 本願意匠と各引用意匠との相違 ア 本願意匠と引用意匠1との相違 引用意匠1の容器本体の形態は,胴部の下部付近が括れる曲線状のシ 7 ルエットからなる略円柱形状体であり,高さ方向の中央部分のシルエッ ト自体は本願意匠と近似している。
しかし,両者は,容器本体の下端部寄りの形態につき,本願意匠の方 が引用意匠1よりも側面視垂直面が明瞭に表れている点(構成態様D) において相違しており,引用意匠1の容器本体には,本願意匠の容器本 体にはみられない,連続的で丸い美感があらわれている。その結果,本 願意匠では隣接するボトル同士が「線」で接するのに対し,引用意匠1 では「点」でのみ接することとなり,この相違から,本願意匠は引用意 匠1よりも安定した印象を与えることになる。
また,引用意匠1のキャップ部には垂直線模様(構成態様F)は存在 せず何ら造形が施されていない印象を与える上に,注出口部にはヒンジ が存在することにより,構成態様Gとは全く異なる形態となっている。
その結果,正面,背面,左側面,右側面が各々異なった形状として観察 されるバランスに偏りのある印象を与えるのみならず,いかにもボトル の形状という印象を与えることになり,本願意匠においてタワー状構造 物の頂部の装飾のような印象を与えることとは全く相容れないものとな っている。
このように,本願意匠と引用意匠1では,デザインコンセプトもその 外観によってもたらされる美感も明確に異なるものであり,引用意匠1 を基に本願意匠を創作しようとする動機付けや本願意匠のような美感に 至るコンセプトは何ら存在しない。
イ 本願意匠と引用意匠2との相違 引用意匠2は,正面視において包装用容器の全体の高さと横幅の比率 が約3対1となっており,平面視において横幅と奥行きの比率が約2対 1の略長方形となっており,全体として縦長の略直方体の包装用容器で ある。引用意匠2のキャップの形態は,その上面中央に凸状注出口を備 8 えたやや平な(幅と高さの比率を約2対1とする)略円柱形状とし,周側面には天板部の周縁を除いて筋状凸部による垂直線模様が密に等間隔に表れ,その筋状凸部が天板部の周縁部分よりも僅かに突出したものである。
特に,本願意匠のキャップと引用意匠2のそれを比較すると,キャップ部(注出口部を除く。)の形態につき,その幅と高さの比率について本願意匠は引用意匠2よりも平らである点,周側面に形成された筋状凸部の間隔及び形状が異なる点,本願意匠は天板部の周縁部分が周側面の上端から僅かに水平に張り出しているのに対し,引用意匠2は周側面の筋状凸部が天板部の周縁部分よりも僅かに突出している点において相違している。
以上を踏まえ,本願意匠と引用意匠2のキャップ形状を比較すると,本願意匠では,構成態様F及びGが相まって,あたかもタワー状構造物の頂部のような装飾でありながらもシンプルで落ち着いた印象を与えるのに対し,引用意匠2は,大振りでごつごつした縦長かつ多様な形態の組合せによる複雑な印象を与えることになる。また全体観察した際,本願意匠では,どの方向から観察しても略同一の回転体となっている本体形状と相まって,多層的でありながらも安定感のある均整のとれたスタイルを備えた現代的なタワー状構造物のような美感を生じるのに対し,引用意匠2では本体部分が縦長の略直方体の典型的な包装用容器形状であるため,上記キャップ形状も単なる包装用容器という以上の印象を与えるものではない。
以上のことから,本願意匠のキャップ形状と引用意匠2のキャップ形状を比較すると,キャップ形状それ自体の美感が異なっているのみならず,本体部分も含めた包装容器全体として見た際の位置付けについても,両者の美感には大きな違いが生じている。
9 ウ 本願意匠と引用意匠3との相違 引用意匠3は,円柱形状部とその上部に屋根のように表れる頂部が少 し突出した平な略円錐台形状部を組み合わせた注出口部と,三方の突起 周縁を有するキャップ部が一体的に形成されたキャップと,細身の肩部, 膨らんだ胸部,括れた腰部,胸部よりやや小さい底部が滑らかな曲面で 形成された容器本体との組合せによる包装用容器である。
このうち,そのキャップ形状は,キャップ部の三方の突起周縁と頂部 が少し突出した平な略円錐台形状部を組み合わせた注出口部の形状が相 まって,あたかも比較的大きめの花芯を有する三枚花弁の大輪の花のよ うな印象を与えている。加えて,大胆な曲面構成による丸みを帯びた容 器本体の美感と相まって,包装用容器全体として見た場合に,女性的な 印象を与えるものとなっている。
これに対し,本願意匠のキャップ形状は,あたかもタワー状構造物の 頂部のような装飾でありながらも,シンプルで落ち着いた印象を与える ものとなっている。また,本体形状は腹部が引き締まった男性のような 印象を与える形状となっており,キャップ形状も含めて全体として見た ときに安定感のある落ち着いた印象を与えるものとなっている。
以上のことから,本願意匠のキャップ形状と引用意匠3のキャップ形 状を比較した場合においても,キャップ形状それ自体の美感が異なって いるのみならず,本体部分も含めた包装容器全体として見た際の位置付 けについても,両者の美感には大きな違いが生じているといえる。
エ 本願意匠と引用意匠4ないし6との相違 引用意匠4ないし6は,容器本体部の胴部の下端から肩部の少し入っ たところまでをフィルムで密着するように覆われたものである。
本願意匠と引用意匠4ないし6を比較すると,肩部におけるフィルム の終端位置について,本願意匠が肩部の少し入ったところであるのに対 10 して,意匠4ないし意匠6は肩部からかなり入ったところである点にお いて相違している。肩部におけるフィルムの終端位置をどの位置に配置 するかについては,包装用容器全体の最終的な印象を決定する上で,重 要な要素となりうるものである。
なお,本願意匠と引用意匠4ないし6の全体的な印象が大きくことな っていることについては,それぞれの構成態様を列記し比較するまでも なく明らかである。
オ 以上のとおり,そもそも本願意匠と各引用意匠では,デザインコンセプ トもその外観によってもたらされる美感も明確に異なるものであり,引 用意匠1を基に本願意匠を創作しようとする動機付けや本願意匠のよう な美感に至るコンセプトは何ら生じ得ない。
(4) 引用意匠1に他の引用意匠を適用することの非容易性 ア 当業者はただ闇雲に各公知意匠のパーツパーツを組み合わせて新たな意 匠を作るのではなく,一定のデザインコンセプトの基に創作活動を行う ところ,上記のとおり,本願意匠は,各構成態様が相まって,全体とし て見たときに,多層的でありながらも落ち着いていて,均整のとれたス タイルを備えた安定感のある現代的なタワー状構造物のような美感を生 じるものとなっており,各引用意匠のいずれを参酌しても本願意匠のデ ザインコンセプトや美感を看取することはできない以上,引用意匠1に 引用意匠2のキャップ部及び引用意匠3の注出口部を選択して組み合わ せるべき動機付けは全く存在しない。
イ また,包装用容器のキャップは,注出口部とキャップ部を独立して創作 するものではなく,それらは常に一体的に創作されるものであることは, 引用意匠1ないし3のいずれの公知例においても示唆されている。キャ ップは包装用容器全体から見た場合に占める範囲としては狭い範囲では あるものの,当該物品の意匠を特徴付ける構成として看者の注意を惹く 11 部分であり,これらの僅かな突起やへこみが全体の美感に与える影響は 決して小さいものではなく,包装用容器のデザイナーはこのようなディ テールに細心の注意を払いつつ,包装用容器全体の創作を完成するもの である。
実際,本願意匠に係るボトルのキャップに係る意匠に関し,そのキャ ップ部と注出口部は物理的に結合して一体となっており,かつこれらが 相まって一つのデザインコンセプトとなるものであるから,一般的に異 なる意匠のキャップ部と注出口部にそれぞれ着目して組み替えるという ことは行われていないし,その動機付けも全く存在しない。
ウ 仮に各引用意匠の組合せによる仮想意匠(別紙「仮想意匠」)を想定す ることができたとしても,本願意匠と仮想意匠との間にも構成態様にお いて明らかな相違があり,それらの相違によって両意匠はそれぞれ異な った美感を生じさせるものであり,いずれにしても本願意匠が創作性を 有するという結論には変わりがない。
すなわち,まず,仮想意匠では,別個独立のコンセプトのもとに創作 された注出口部とキャップ部と容器本体が無理矢理寄せ集められたため, キャップ部が大きく目立ち,細かな突起やへこみがバランスを崩すノイ ズとなり,本願意匠のような落ち着きのあるバランスの良い美感が生じ ていない。また,本体部分も含めて観察すると,仮想意匠では,容器本 体に垂直面が表れない一方,キャップ部には縦長でごつごつした垂直面 が突如として表れるため,全体として頭でっかちで威圧感があり,容器 形状として異様な印象を与えたり,容器との調和を乱したりするなどの 欠点を有している。そのため,仮想意匠は引用意匠1にも増して安定感 に欠ける印象を与えるものとなっており,本願意匠のような安定感のあ る美感とは全く相容れない。さらに,仮想意匠は,高さの単位となる基 準寸法がどこにも表れていないため,注出口部,キャップ部及び容器本 12 体がそれぞれバラバラに浮き上がるような印象となり,容器全体として の統一感に欠けるものとなっており,本願意匠のような多層的かつ数理 的に秩序立った統一感のある美感を生じていない。
しかも,本願意匠は,多層的でありながらも落ち着いていて,均整の とれたスタイルを備えた安定感のある現代的なタワー状構造物のような 美感を生じるものとなっているのに対し,仮想意匠は,各部のデザイン や形状・大きさに関して統一感のない粗雑な印象を与えると共に,キャ ップ部が頭でっかちで威圧感があり,置いたときの安定感に欠けるとい う印象を与えるものとなっており,本願意匠のデザインコンセプトや美 感とは全く相容れないものとなっている。
以上のとおり,仮に各引用意匠に基づいて仮想意匠を想定することが できたとしても,本願意匠と仮想意匠との間にも構成態様において明ら かな相違があり,それらの相違によって両意匠はそれぞれ異なった美感 を生じさせるものであるから,本願意匠は創作性を有する。
(5) 以上のとおり,引用意匠1等の引用意匠を基に本願意匠を容易に創作で きたとする審決の判断には誤りがあり,その誤りは審決の結論に影響を与え るものである。
2 被告の主張 (1) 法3条2項は,先行する意匠(物品の形態)を直接的に対比することに 止まらず,その先行する意匠を構成する各部位の形態を構成要素として抽出 したり,また,物品を離れた形態そのものをモチーフとして判断のための材 料としても使用し,当業者が行う創作という観点から,出願された意匠が, それら先行する形態に基づいて容易に創作することができないものであるか どうか,つまり,保護に値する価値ある意匠であるか否かを判断するもので ある。したがって,創作容易性の判断において基礎となる判断資料は,当該 出願意匠と直接的な対比のみを行うためのものばかりではなく,当該出願意 13 匠の着想の新しさや構成の斬新さの有無を問うための判断資料としても提示 されているものである。
そして,出願された意匠が当業者にとって容易に創作をすることができ たか否かの判断は,その基礎となる形態が当該出願の出願前に公然知られた ものであり,その公然知られた形態をほとんどそのままか,又は,当該意匠 の属する物品分野においてよく見られる多少の改変やありふれた改変を加え た程度で,当該意匠の属する物品分野においてありふれた手法により,公然 知られた形態の全部又は一部について単なる組合せや置き換え等がなされた ものにすぎないものであるか,の観点を踏まえて行うものである。
したがって,法3条2項の判断においては,新規性(同条1項)の判断 のように,本願意匠と先行公知意匠の全体を観察して形態の比較検討を行い, 両方の意匠が類似するか否かについて判断するものではない。
(2) 一般的に,液体を入れる包装用容器の形態の創作は,商品である,その 容器に入れる液体の使用の目的や用途,使用方法,包装用容器そのものの使 用状態等様々な事情を考慮して,その形状,大きさ等を検討することによっ て行われる。
本願意匠や引用意匠1ないし3等は,いずれも細口で,かつ,キャップ 部に設けた注出口部から洗剤液を少量ずつ吐出させる同じタイプの包装用容 器であり,その容器本体部については,例えば,使用時に洗剤で手が滑るこ となども考慮した握りやすい形状とするなどの点,キャップ部については, 例えば,洗剤を詰め替える際にキャップ部を手で回しやすい形状とするなど の点,キャップ部上面の注出口部については,スライド式であれば,上に引 き上げるのに指先で摘みやすい形状とするなどの点,を踏まえて創作がなさ れたものと考えられる。そうすると,本願意匠のような包装用容器の意匠の 創作においては,例えば,過去の形態であっても良い部分は引き続き採用し, 改善すべき部分は新しいものと置き換える等,全体のみならず各構成要素に 14 ついても考慮しつつ創意工夫により意匠の創作がなされるといえる。
本願意匠は,商品企画から定まる内容量と容器本体部の握りやすさ等か ら決定したとうかがわれる縦横寸法比のものであって,かつ,握りよいよう に小指側(容器本体部下側)を漸次細くし,また,内容物を抽出する際に容 器本体部を逆さにしたときに手掌から抜け落ちにくいように,下端部を太く しており,まるで野球のバットの手元端のような形状をしているが,この全 体的な形態は引用意匠1にも見られるものである。また,本願意匠は,キャ ップ部を回転式のスクリューキャップとして,手指の滑り止めに,そのキャ ップ部の周面に垂直方向の筋(ギザ)を設けているが,引用意匠2にもある ように,これは当該物品分野において極めて普通に見られる態様である。さ らに,吐出量を微調整する口径の小さな注出口部については,本願意匠や引 用意匠3に見られるとおりのスライド式の抽出口部を用いることも,引用意 匠1に表れているようなヒンジ式の抽出口部を用いることも,ごく普通に行 われている手法である。
よって,本願意匠に係る「包装用容器」の形態を創作するに当たっては, 原告のいう何らかのデザインコンセプトに基づいて行われたとしても,その 結果である本願意匠は,上記のとおり,引用意匠1ないし3を基にして容易 になされたと考えられる。
当裁判所の判断
1 本願意匠の創作容易性について (1) 法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内 又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合 (公然知られた形態)を基準として,それからその意匠の属する分野におけ る通常の知識を有する者(当業者)が容易に創作することができた意匠でな いことを登録要件としたものであり,上記公然知られた形態を基準として, 当業者の立場から見た意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするもので 15 ある(平成10年法律第51号による改正前の法3条2項につき,最高裁判 所第三小法廷昭和49年3月19日判決・民集28巻2号308頁,最高裁 判所第二小法廷昭和50年2月28日判決・裁判集民事114号287頁参 照)。
(2) 本願意匠及び各引用意匠の構成 ア 弁論の全趣旨によれば,本願意匠及び各引用意匠の構成は,いずれも, 本件審決の認定(前記第2の3(1)及び(2))のとおりと認められる。
イ これに対し,原告は,本願意匠の構成につき構成態様AないしHのとお り認定すべき旨主張する。
しかし,原告の主張に係る構成態様のうち,構成態様Aは本件審決の 認定に係る構成(1),構成態様Cは構成(2),構成態様Eは構成 (2-1),構成態様Fは構成(3),構成態様Gは構成(3-1)と 同一といってよい。
また,構成態様Bに関しては,本件審決が「容器本体部は, 全体を… 略円柱状体とし」(構成(2)),「キャップ部は,…やや扁平な…略 円柱形状で」(構成3),「注出口は,円柱形状部と,その上部に屋根 のように表れる扁平な略円錐台形状部からなるものであり」(構成(3 -1))としていることを踏まえると,本件審決も本願意匠のキャップ 及び容器本体につきどの方向から観察しても略同一の回転体であること を念頭に置いていることがうかがわれることから,本件審決の認定に係 る本願意匠の構成に含まれているといってよい。
構成態様Dに関しても,本件審決が「容器本体部は,全体を…略円柱 状体とし,胴部は,上端及び下方(底部寄りの垂直面付近を除く)から …」(構成(2))としていることを踏まえると,本件審決も本願意匠 の容器本体部底部寄りに垂直面があり,その付近が円筒状となっている 形状を念頭に置いていることがうかがわれることから,本件審決の認定 16 に係る本願意匠の構成に含まれているといってよい。
他方,構成態様Hに関しては,本件審決の認定に係る本願意匠の構成 として明示され,又はこれに含まれているとはいい難い。しかし,仮に 原告主張に係る各部の高さが略同一となっており,かつ,構成態様Hを 本願意匠の構成として認定すべきものとしても,後記のとおり,この点 は本願意匠の創作容易性に関する本件審決の評価の誤りにつながるもの ではない。
(3) 本願意匠の創作容易性について ア 本願意匠の容器本体部の形態のうち,構成(2)については,引用意匠 1により,本願の出願前に公知の形態と認められる。また,構成(2- 1)については,引用意匠4ないし6に鑑みれば,本願の出願前からご く普通に知られているものといってよい。
本願意匠のキャップ部の形態のうち,構成(3)については,その上 面中央に凸状注出口を備えたやや扁平な略円柱形状とし,周側面には天 板の周縁部を除いて筋状凸部による垂直線模様が密に等間隔に表れたも のが,引用意匠2により本願の出願前に公知の形態と認められる。また, 構成(3-1)については,引用意匠3により,本願の出願前に公知の 形態と認められる。
さらに,構成(1)も,引用意匠2ないし6等から,本願の出願前か らごくありふれた形態であったことが認められる。
イ 本願意匠に係る物品は「包装用容器」であり,より具体的には洗剤等を 入れて使用する包装用容器である(甲1【意匠に係る物品の説明】)と ころ,この種の物品の分野において,その容器に入れる洗剤等の使用の 目的や用途,使用方法,包装用容器そのものの使用状態等様々な事情を 考慮して,当該容器の形態を創作することは当然行われていることであ ると推察されるところ,その際,必要に応じて容器本体部やキャップ部, 17 注出口部等につき公知の形態を組み合わせ,また,他の公知の形態に置 き換え,あるいは,こうして組合せ,置換等をした結果に,通常思い付 く程度の調整を加える等の変更が当業者にとってありふれた手法である ことも,明らかといってよい。
この手法によれば,引用意匠1の容器本体部に引用意匠2の注出口付 きキャップ部を組み合わせるとともに,その注出口部を引用意匠3の注 出口部に置き換え,かつ,ごく普通に知られている手法によって容器本 体部の下端から肩部の少し入ったところまでをフィルムで密着するよう に覆った結果に,通常思い付く程度の調整を加えることにより,本願意 匠を創作することができる。また,このような組合せや置換えの障害と なるべき事情も格別うかがわれない。
ウ したがって,本願意匠は,本願の前に当業者が公然知られた形態に基づ き容易に創作することができた意匠であるといってよい。すなわち,本 願意匠は法3条2項に該当するから,意匠登録を受けることができない。
エ これに対し,原告は,本願意匠と各引用意匠ではデザインコンセプトも その外観によってもたらされる美感も明確に異なり,引用意匠1を基に 本願意匠を創作しようとする動機付けや本願意匠のような美感に至るコ ンセプトは生じ得ないなどと指摘して,引用意匠1を基に本願意匠を容 易に創作し得たとは認められない旨主張する。
そもそも,本件審決は,引用意匠1ないし3については包装用瓶の意 匠の特定の部分の各形状につき,引用意匠4ないし6については容器本 体部をフィルムで覆う形状につき公知の形態であることを示すものとし て引用しており,本願意匠と各引用意匠とではデザインコンセプトや美 感が相違することはむしろ当然であるが,そのことは直ちに各引用意匠 を組み合わせる動機付けの欠如を意味するものではない。
また,本願意匠と各引用意匠を組み合わせてなる意匠(例えば仮想意 18 匠)との間に原告主張のとおり全体的なデザインコンセプトや美感の相 違があるとしても,本願意匠は,容器本体部,注出口付きキャップ部, 注出口部の各形状等個別の構成要素として各引用意匠に係る形状を選択 し,その結合に当たって通常思い付く程度の調整を加えることにより容 易に創作し得るものというべきであって,意匠登録を認めるに足りる程 度の創意工夫が施されているとはいえない。この点,原告は,本願意匠 の構成につき構成態様Hが認定されるべきであり,構成態様Hを含む本 願意匠は,多層的かつ数理的に秩序だった統一感ある印象を与えるもの となっているなどと指摘するけれども,洗剤等を入れて使用する包装用 容器に係る意匠である本願意匠においては,需要者は,真正面からだけ ではなく真上ないし斜め上から見下ろす角度で見ることがむしろ多いと 考えられるところ,その場合構成態様Hの意匠的効果は発揮されないか 限定的なものにとどまり,ひいては,原告主張に係る本願意匠の多層的 かつ数理的に秩序立った統一感ある印象を与えるという意匠的効果も同 様に発揮されないか限定的なものにとどまることとなるから,その特徴 は顕著なものとはいえない。また,構成Hのように,キャップ部,首肩 部,本体の底部寄りの垂直面の各高さを略同一にする程度のことは,各 部の形状を結合する際に,通常思い付く程度の調整の範疇にとどまるも のでもある。そうである以上,原告の上記指摘を考慮しても,創作容易 性に関する上記判断はなお異ならない。
その他原告がるる指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の 主張は採用し得ない。
(4) 以上のとおり,本願意匠は各引用意匠に係る形状から容易に創作するこ とができるものと認められるから,本願意匠につき法3条2項に該当すると して意匠登録を受けることができないものとした本件審決の判断に誤りはな い。
19 2 結論 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお り判決する。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 杉浦正樹
裁判官 寺田利彦