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事件 |
平成
28年
(ワ)
13870号
意匠権侵害差止等請求事件
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原告 ジー・オー・ピー株式会社 同訴訟代理人弁護士 小林幸夫 弓削田博 河部康弘 藤沼光太 神田秀斗 同訴訟代理人弁理士 久保司 被告 株式会社ピカコーポレイション 同訴訟代理人弁護士 鎌田邦彦 北井歩 毒島光志 松永貴裕 同訴訟代理人弁理士 安田幹雄 片桐務 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2017/01/31 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は,別紙1被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製 造し,販売し,貸し渡し,又は販売若しくは貸渡しのために展示してはならな い。 2 被告は,被告製品及び半製品(別紙2被告意匠目録記載の構成態様を具備し ているが製品として完成するに至らないもの)を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,1078万5000円及びこれに対する平成28年5 月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,意匠に係る物品を「運搬台車」とする意匠権を有する原告が,被告 による被告製品(ただし,被告による正確な名称は「アルミ台車 CAF- 6」)の製造等が上記意匠権を侵害すると主張して,被告に対し,意匠法37 条1項に基づき被告製品の販売等の差止めを,同条2項に基づき被告製品及び その半製品の廃棄を,民法709条及び意匠法39条2項に基づき損害賠償金 1078万5000円及びこれに対する不法行為の後である平成28年5月1 2日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による 遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に 認められる事実) 当事者 ア 原告は,土木建築用仮設資材の製造販売等を業とする株式会社である (弁論の全趣旨)。 イ 被告は,各種登高機器,一般機械工具及び部品の製造販売及び修理等を 業とする株式会社である。 原告の意匠権 原告は,次の意匠登録に係る意匠権を有している(以下「本件意匠権」と 2 いい,その登録意匠を「本件意匠」という。)。 登 録 番 号 意匠登録第1399969号 意匠に係る物品 運搬台車 出 願 日 平成20年5月9日 登 録 日 平成22年9月24日 登 録 意 匠 別紙3意匠公報の【図面】記載のとおり 被告の行為等 ア 被告は,平成28年3月頃から,アルミ製の運搬台車である被告製品の 製造販売等をしている。 イ 被告製品の意匠(以下「被告意匠」という。)は,別紙2被告意匠目録 記載のとおりである。 2 争点 本件意匠と被告意匠の類否(物品の同一性については,当事者間に争いが ない。) 間接侵害の成否 原告の損害額3 争点に関する当事者の主張 (原告の主張) ア 本件意匠の要部 本件意匠においては,最も多くの面積を占め,物品を運搬するという 用途の要である載置面が需要者にとって最も目に入りやすい部分である。 本件意匠の載置面には,略正方形状で載置面を15等分した場合の一 つ分に相当する大きさの凹部が規則的に6個形成され,滑らかで光沢を 有する天板が配設されているところ,公知意匠にはこのような特徴を有 する台車は存在しない。したがって,本件意匠の要部は,載置面に略正 3 方形状の大きな凹部が規則的に6個形成されている形態及び滑らかで光 沢を有する載置面の天板である。 被告は,台車の骨格や車輪取付板の形状が要部であると主張するが, 台車の骨格は裏面からしか見ることができず,需要者の目に触れにくい 部分であるから,本件意匠の要部ではない。 また,本件意匠の斜視図によると車輪取付板は凹部の底にあって視認 することができないところ,台車は斜め上方から観察されるのが通常で あり,台車を真上から見るという状況は想定し難い上,台車に関するカ タログやウェブサイトでも主に台車の斜視図が掲載されているから,建 設現場の作業員及び台車を購入する建設会社やリース会社等の需要者が 凹部の車輪取付板の形状に着目することはあり得ない。台車本来の用途 からしても需要者が凹部の車輪取付板の形状に着目することはないし, 車輪取付板は機能的な観点から設けられたものにすぎず,台車のデザイ ンとは無関係である。また,台車を積み重ねて保管する際には,凹部に 他の台車の車輪がはめ込まれるため,車輪取付板は当該車輪に覆われて 視認できなくなる。したがって,車輪取付板の形状が本件意匠の要部で ないことは明らかである。 なお,本件意匠は手押し棒を備える一方,被告製品は手押し棒を備え ないが,手押し棒は台車本体とは別々に取引されるものであり,汎用品 かつ特徴のない形状であるから,手押し棒が本件意匠の要部となること はない。 イ 本件意匠と被告意匠の類否 本件意匠と被告意匠は,載置面において略正方形状の大きな凹部が規則 的に6個形成されている形態及び滑らかで光沢を有する天板という要部を 共通にしており,両者ともに幾何学的で洗練された美感を生じさせる。 そして,本件意匠と被告意匠は,凹部から視認される車輪取付板の形状 4 や手押し棒の有無が異なるが,前記ア 要者が着目することはないから,これらの相違点は被告意匠と本件意匠の 要部に係る構成の共通性から受ける印象を上回るものではない。 したがって,被告意匠は本件意匠に類似する。 (被告の主張) ア 本件意匠の要部 台車の需要者は,建築会社やリース会社,取引を行う卸売業者等である。 そして,台車は建設現場等の過酷な環境下で重い荷物の運搬用として使用 されるものであるから,台車の選択においては,その剛性や耐久性,整備 性が極めて重要な要素となる。このような用途や特性等に照らすと,需要 者が最も着目するのは台車の骨格構造や車輪とその取付部の構造である。 したがって,本件意匠の要部は,車台の四隅に手押し棒を有する台車に おいて,骨格が額縁状の外枠と外枠内に配置された縦横桟とによって形成 される5×3方眼の井桁格子状である点及び車輪1輪を有する扁平六角形 の車輪取付板が上記方眼の一マスに斜交い状に添設され,車輪取付板の上 面が凹部内に斜交い状かつ扁平六角形状として表れ,凹部の対抗する二つ の角に大小二つの三角形状の透孔が形成されている点である。 イ 本件意匠と被告意匠の類否 本件意匠は手押し棒が車台の四隅から上方に伸びた形状であるのに対 し,被告意匠は手押し棒を有しておらず,両者の全体的な形状は全く異 なるから,要部について検討するまでもなく,被告意匠は本件意匠に類 似しない。 被告意匠の台車の骨格は「目の字状」であり,車輪取付板の形状は凹 部内に長方形のスリット状の1本の透孔が形成される形状であるから, 本件意匠と被告意匠とは要部の形状を異にし,需要者に全く異なる美感 を与える。したがって,本件意匠と被告意匠は類似しない。 5 (原告の主張) 仮に,手押し棒の有無により本件意匠と被告意匠が非類似であると判断さ れるとしても,手押し棒の有無を除き本件意匠と被告意匠は類似している。 そして,手押し棒を用いない態様での台車の使用は考えられないこと,被告 意匠には手押し棒となる単管パイプを挿入するためのコーナー金具が四つ存 在していることなどからすれば,被告製品は,本件意匠に係る物品に「のみ」 用いられるものであるといえる。 したがって,被告による被告製品の製造販売等の行為は,意匠法38条1 号の間接侵害に該当する。 (被告の主張) 被告製品には,単管パイプ等を4本立設して使用する方法以外にも,単管 パイプ等を2本のみ立設して使用する方法や,単管パイプ等を立設せず,台 車をパレット代わりにしてフォークリフト等で運搬する等の使用方法がある から,本件意匠権の間接侵害は成立しない。 (原告の主張) 被告製品の販売代金は1台当たり7万1900円であり,販売台数は月3 00台,利益率は25%を下回らないから,被告が被告製品の販売開始時期 である平成28年3月1日からの2か月間で得た利益の額は1078万50 00円である。したがって,同額が本件意匠権侵害による原告の損害額と推 定される(意匠法39条2項)。 (被告の主張) 争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点 (本件意匠と被告意匠の類否)について 6 本件意匠の構成は別紙3意匠公報の【図面】のとおり,被告意匠の構成は別紙2被告意匠目録のとおりであり,本件意匠が台車本体の四隅に立設された4本の手押し棒(台車本体の短辺より長く,長辺より短い高さのもの)を有するのに対し,被告意匠には手押し棒に対応する部分がないため,両意匠は正面視,側面視等において明らかに形状を異にする。したがって,本件意匠と被告意匠は類似しないと判断すべきものである。 ただし,上記意匠公報に,意匠に係る物品の説明として手押し棒が着脱自在に立設される旨の記載があり,参考図として手押し棒を外した状態の斜視図が掲載されていることから,念のため,本件意匠のうち手押し棒以外の部分と被告意匠の類否について検討する。 ア 本件意匠の構成は,手押し棒を除くと,次のとおりである(別紙3意匠 公報参照)。 @ 台車本体は平面視で縦横比略5:3の略長方形状である。 A 載置面の天板は十字を二つ重ねた形状(片仮名の「キ」の字に類似し た形状)であり,滑らかで光沢を有している。 B 載置面の四隅部及び台車本体の長辺の中央部の計6か所に車輪取付板 を底面とする略正方形の凹部が形成されている。 C 各凹部の下に,車輪取付板を介して6輪の車輪が取り付けられている。 D 底面視において,6輪の車輪は6枚の扁平六角形の車輪取付板を介し て略正方形のマス目に1輪ずつ取り付けられている。 E 平面視において,凹部上方から視認される車輪取付板は斜交い状かつ 扁平六角形状であり,当該凹部の対向する二つの角に大小二つの三角形 状の透孔が形成されている。 F 底面視において,台車の骨格は額縁状の外枠と外枠内に配置された縦 横桟とによって形成される長辺方向に5列×3行の方眼の井桁格子状で ある。 7 G 四隅部のコーナー金具は,平面視において角が丸みを帯びた略L字形 状である。 イ 被告意匠の構成は,次のとおりである(別紙2被告意匠目録参照)。 @ 台車本体は平面視で縦横比略5:3の略長方形状である。 A 載置面の天板は十字を二つ重ねた形状(片仮名の「キ」の字に類似し た形状)であり,滑らかで光沢を有している。 B 載置面の四隅部及び台車本体の長辺の中央部の計6か所に車輪取付板 を底面とする略正方形(ただし,中央部のものは長辺に平行な辺がやや 短い長方形)の凹部が形成されている。 C 各凹部の下に,車輪取付板を介して6輪の車輪が取り付けられている。 D 底面視において,6輪の車輪が台車本体の短辺に平行な3枚の長方形 状の車輪取付板を介して2輪1組で取り付けられている。 E 平面視において,凹部上方から視認される車輪取付板は凹部に台車本 体の短辺と平行状に表れており,凹部の中央に細長い長方形のスリット 状の1本(四隅のものはこれに加えて台車本体の短辺側に1本)の透孔 が形成されている。 F 底面視において,台車の骨格は額縁状の外枠と2本の縦桟とで形成さ れる目の字状である。 G 四隅部のコーナー金具は,平面視において角が丸みを帯びた略L字形 状である。 ウ 上記ア及びイによれば,本件意匠と被告意匠は,上記@の台車本体の形 状,Aの載置面の天板の形状及び質感,Cの車輪の数及び位置,Gのコー ナー金具の形状を共通にし,Bの凹部の配置及び形状をほぼ共通にする一 方,Dの車輪取付板の形状及び車輪の取付態様,Eの凹部上方から視認さ れる車輪取付板の形状,Fの骨格の形状を異にすると認められる(このほ か,正面視における台車本体の厚さ,側面視におけるコーナー金具の形状 8 等や,載置面及び底面に記された原告の会社名を示すロゴの有無も相違す るが,結論に影響しないので,検討を省略する。)。 原告は,本件意匠の要部は上記Aの載置面の天板の形状及び質感並びに Bの凹部の配置にあり,被告意匠はこれらを共通にするから本件意匠に類 似すると主張するのに対し,被告は,上記D〜Fの車輪取付板及び骨格の 形状が要部であるから,両意匠は類似しない旨主張するものである。 エ そこで判断するに,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実 が認められる。 本件意匠に係る物品である運搬台車は,建築現場における物資の運搬 等のために作業員らにより使用される。原告の運搬台車のカタログ等に は,斜視図(斜め上方から見た図。なお,「図」には写真を含む。以下 同じ。)が大きく配されるとともに,底面図,側面図等が合わせて掲載 されている。上記斜視図においては,載置面の凹部の底面に設けられた 車輪取付板の形状(ただし,本件意匠のものとは異なる。)を認識する ことが可能である。また,他社の運搬台車の広告類においても,斜視図 に加えて,車輪の取付法,耐久性等に関する説明文を付した底面図等が 掲載されており,これにより車輪の取付態様や台車の骨格を視認するこ とができる。(甲16,27,乙12,29〜32) 被告製品のパンフレット等には,斜視図に加え,載置面の凹部を上方 から写した図が「キャスター部天板はゴミがたまりにくい構造」との説 明文を付して掲載されている。同図及び上記斜視図のいずれにおいても, 車輪取付板及び透孔の形状を認識することが可能である。(甲17,2 4,25,36,乙21〜23) 本件意匠の出願前に公知であった運搬台車の意匠として,台車本体が 平面視で縦横比略5:3の略長方形状で,台車本体の四隅部及び長辺の 中央部の計6か所に6輪の車輪を取り付けたもの,複数の台車本体を重 9 ねられるよう,載置面の車輪に対応する位置に縦長の凹部を設けたもの がある。(乙1〜3,5,7) オ 上記事実関係によれば,運搬台車を購入しようとする建設会社等の需要 者及びこれを使用する作業員らは,斜め上方から台車本体の載置面を見る だけでなく,車輪の取付態様その他底面の構成を観察するものと解される。 また,本件意匠に係る運搬台車又は被告製品の台車本体を斜め上方から見 る際には,載置面の表面だけでなく,凹部から車輪取付板の形状を認識す るということができる。なお,この点に関し,原告は,斜め上方からでは 凹部の底にある車輪取付板は視認できない旨主張するが,その主張の裏付 けとする写真(甲28)は,台車から約2m離れた地点において,約1m の高さから撮影したものであり,作業員らが通常の使用態様においてその ような位置のみから台車を観察するとは解し難いから,原告の主張は失当 というべきである。 そうすると,本件意匠及び被告意匠においては,原告が要部であると主 張する載置面の天板の形状等だけでなく,凹部上方から視認される車輪取 付板の形状及び底面視における車輪の取付態様や台車の骨格等も,これに 接した者の注意を引くと認められる。そして,前記ウのとおり,本件意匠 と被告意匠はこれらの点が相違するのであり,これにより両意匠から需要 者が受ける印象が異なるということができるから,前記ウの共通部分を踏 まえても,全体として異なる美感を生じさせると解される。 以上によれば,手押し棒の有無にかかわらず,本件意匠と被告意匠が類似 するとは認められないと判断するのが相当であって,原告の前記主張を採用 することはできない。 2 争点 (間接侵害の成否)について 原告は,被告製品は四隅に手押し棒(単管パイプ)を立設する態様でのみ使 用されるから,被告意匠が手押し棒の有無により本件意匠に類似しないとして 10 も間接侵害(意匠法38条1号)が成立する旨主張する。 そこで判断するに,手押し棒を除いても本件意匠と被告意匠が類似するとい えないことは前項で判示したとおりであるが,これに加え,証拠(乙12〜1 5,18〜20,34)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品のような載置面 が平板な台車は,四隅に手押し棒を立設する態様のほか,手押し棒を2本立設 する態様,手押し棒を立設しない態様等でも建設現場における資材の運搬等の 用に供されると認められる。 したがって,間接侵害をいう原告の主張も失当というべきである。 3 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいず れも理由がない。 |
裁判長裁判官 | 長谷川浩二 |
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裁判官 | 萩原孝基 |
裁判官 | 林雅子 |