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事件 平成 28年 (ワ) 7185号 意匠権侵害差止請求事件

原告株式会社誠文社
同訴訟代理人弁護士 木村圭二郎
同 松井亮行
同補佐人弁理士 倉内義朗
同 宇治美知子
被告株式会社アーテック
同訴訟代理人弁護士 高橋英伸
同 吉田興平
同訴訟代理人弁理士 内山邦彦
同 岡田充浩
同補佐人弁理士 杉本勝徳
同 辻忠行
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2017/05/18
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙「被告製品目録」記載の製品を製造し,譲渡し,譲渡の申出をしてはならない。
2 被告は,前項の製品を廃棄せよ。
事案の概要
1 本件は,意匠に係る物品を植木鉢とする後記意匠権を有する原告が,被告による別紙被告製品目録記載の植木鉢(以下「被告製品」という。)の製造販売行為が同意匠権の侵害となると主張して,被告に対し,@意匠法37条1項に基づき,被告 製品の製造,譲渡,譲渡の申出の差止め,A同条2項に基づき,被告製品の廃棄を求めている事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠又は弁論の全趣旨により明らかに認められる。) (1) 当事者 原告は,図書の出版及び販売,並びに,学校の教材の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
被告は,図画,工作のための学習用教材の企画,販売,並びに,教育出版物,教育機器,玩具の製作販売及びレンタルを目的とする株式会社である。
(2) 原告の有する意匠権 原告は,以下の意匠権(以下, 「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件意匠」という)を有している(甲3,甲4)。
ア 意匠登録番号 第1244149号 イ 出願日 平成16年12月28日 ウ 登録日 平成17年5月13日 エ 意匠に係る物品 植木鉢 オ 本件意匠 添付公報のとおり(部分意匠) (3) 被告の行為 被告は,遅くとも平成28年から,学童向けの植木鉢である被告製品を製造,販売するほか,被告の発行するカタログに掲載するなどしている(甲5,甲6)。
(4) 被告製品の形状 被告製品の外観及び形状(以下「被告意匠」という。)は,別紙「被告製品目録」記載の各図のとおりである。
2 (5) 本件に至る経緯 原告は,被告に対し,平成28年3月14日付け内容証明郵便を送付し,被告による被告製品の製造,譲渡等が本件意匠を侵害しているとして,警告を行った。
被告は,同月30日,被告意匠につき意匠登録を出願し(意願2016-006950) 同時に, , 平成27年12月25日に被告製品の販売申出を行ったチラシにつき,新規性喪失の例外証明書を提出したが,被告自らが有する実用新案権の公報(実用新案登録第3203006号)の図1ないし図5に記載している植木鉢を先行の公知意匠とする指摘を受けて,拒絶査定された(乙14の1及び2,乙16ないし乙18,乙21の1ないし3)。
原告は,平成28年7月22日,当庁に本訴を提起した。
2 争点及び争点についての当事者の主張 本件における争点は,本件意匠と被告意匠とが類似するか否かである。
(1) 原告の主張 ア 本件意匠 本件意匠は,添付公報の図面において実線で表された図面からなる,植木鉢本体に形成された給水用のペットボトル保持部の形状に関する部分意匠である。本件意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,別紙「本件意匠の形状」の「原告主張」欄記載のとおりである(別紙「本件意匠の構成態様説明図(原告)」参照)。
なお,被告が指摘する本件意匠の【参考斜視図】と【B-B断面図】の差異は,本件意匠の意匠公報を全体としてみたときに,誤記であることが明らかであるから,本件意匠の特定に影響を与えるものではない。
イ 被告意匠 被告意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,別紙「被告意匠の形状」 「原 の告主張」欄記載のとおりである(別紙「被告意匠の構成態様説明図(原告)」参照)。
ウ 本件意匠と被告意匠との類否 (ア) 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視 3 覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものであるところ,その判断に当たっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,需要者の注意が惹き付けられる部分を要部として把握した上で,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美感を共通にするか否かを判断すべきであるとされている。
本件意匠に係る物品及び被告製品は,いずれも学童向けの植木鉢であり,その主たる需要者は,学童及び学童が所属する小学校等の初等教育機関の教員である。したがって,本件意匠と被告意匠の類否判断においては,学童及び初等教育機関の教員の視覚を基準とすべきである。また,本件意匠に係る物品及び被告製品はいずれも植木鉢であり,その主たる用途,使用態様の特徴は,植木鉢に給水するために,ペットボトルの飲み口を下側にしてペットボトルを倒立状態で挿入し,これを保持する点にあることから,本件意匠と被告意匠の類否を判断する上でも,このような用途,使用態様を参酌する必要がある。
(イ) 本件意匠の要部 本件意匠は,その用途,使用態様から,基本的に上方から見下ろされることとなる。
また,本件意匠に係る植木鉢は,本件意匠登録以前の公知意匠が本件意匠と全く異なるデザインであり,多少近い実用新案(乙4)であっても,着脱可能な容器ホールダーがデザインされているものであるから,従前の植木鉢と大きく異なる特徴は,植木鉢にペットボトル挿入部が一体となって設けられた点にある。
そうすると,その需要者である学童及び初等教育機関の教員は,本件意匠に係る植木鉢を見る際,植木鉢の上方に従前の植木鉢と比較して新しく設置されたペットボトル挿入部に注意を惹き付けられるということができる。
したがって,本件意匠の要部は,ペットボトル挿入部の円形の中心が,植木鉢の背面の両角を結んだ線上付近に位置するように形成され,かつ,植木鉢の背面の中央付近で,ペットボトル挿入部の円形部分の植木鉢の内側への侵入範囲と外側への 4 突出範囲とが概ね同等程度となっている点である。
(ウ) 類否 a 基本的構成態様 本件意匠と被告意匠の基本的構成態様は,共通している。
b 具体的構成態様 @ 本件意匠におけるペットボトル挿入部は,平面視で円形をし,植木鉢の背面の両角を結んだ直線上の中心に位置し,円形部分の植木鉢の内側への侵入範囲と外側への突出範囲とが概ね同等程度となっており,被告意匠におけるペットボトル挿入部分も同様であり,両者は類似している。
A 本件意匠における内側侵入部は,ぺットボトル挿入部の外周に沿う形で形成された部分と,土入れ部背面の上縁を折り返した部分とからなるところ,被告意匠における内側侵入部分も同様であり,両者は類似している。
なお,本件意匠と被告意匠とでは,被告意匠の内側侵入部分の外縁が,ペットボトル挿入部分の円形に概ね沿いつつも,平面視で台形の形をしている点,及び,垂下して土入れ部背面を形成している下縁に4本のスリットが形成されている点で一応の差異点が認められるが,本件意匠の要部におけるものではなく,需要者の美感に影響を与えない。
B 本件意匠における外側突出部は,植木鉢の外側に向かって,内縁がペットボトル挿入部の円形の外周を形成し,かつ,外縁が緩やかなカーブを描いて植木鉢の外側に突出する形状で形成されているところ,被告意匠における外側突出部分も同様であり,両者は類似している。
なお,本件意匠と被告意匠とでは,本件意匠の外側突出部及び被告意匠の外側突出部分の外縁に形成された段差の点,及び,背面視したところ,本件意匠の下垂が内側に湾曲して形成されているのに対して,被告意匠は長方形型で形成されている点で一応の差異点が認められるが,本件意匠の要部におけるものではなく,需要者の美感に影響を与えない。
5 c 小括 以上から,本件意匠と被告意匠とが類似していることは明らかである。
d 被告の主張について 本件意匠及び被告意匠の各基本的構成態様及び具体的構成態様については,そのように細かく分節する必要性はないものの,本件意匠と被告意匠との間に,被告の指摘する差異点があることは概ね認める。しかし,これらの差異点は,瑣末な違いであり,需要者である学童及び初等教育機関の教員の注意を惹くものではなく,全体としての美感に影響を与えるものではない。
(2) 被告の主張 ア 本件意匠 本件意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,別紙「本件意匠の形状」 「被 の告主張」欄記載のとおりである(別紙「本件意匠の構成態様説明図(被告)」参照)。
なお,本件意匠公報の【参考斜視図】及び【背面図】における「外側突出部」について中央部の高さと両側部の高さの比率が不一致であるなど,本件意匠について不明確で特定されていない部分がある。
イ 被告意匠 被告意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,別紙「被告意匠の形状」 「被 の告主張」欄記載のとおりである(別紙「被告意匠の構成態様説明図(被告)」参照)。
ウ 本件意匠と被告意匠との類否 (ア) 原告の主張は一般論としては認める。
(イ) 本件意匠の要部 a 原告の主張は否認ないし争う。
b 公知意匠 本件意匠の登録出願前に,植木鉢へ給水するために給水ボトル挿入用の円形孔部を形成したものは,意匠登録第1091154号公報(乙3),実用新案登録第3095556号公報(乙4),実開平6-54号公報(乙5),特開2003-111 6 523号公報(乙6),特開2000-354431号公報(乙7),特開平11-89454号公報(乙8),特開平11-56136号公報(乙9),特開平10-191815号公報(乙10) (以下それぞれ「乙1公報」, 「乙2公報」などという。)等から公知である。
c 要部 本件意匠は,給水ボトル挿入用の円形孔部が形成された枠体部と土入れ部背面部に係る部分意匠であるから,需要者の注意を惹く意匠の要部としては,植木鉢の背面斜め上から見た給水ボトル挿入用の円形孔部が形成された枠体部であるとするのが妥当である。
そして,給水ボトル挿入用の円形孔部自体については,公知意匠にもあるありふれた構成であり,かつ,土入れ部背面部については需要者の注意を惹く構成とはなり難いから,本件意匠の要部は,円形孔部及び枠体部の具体的な構成である。すなわち,本件意匠の具体的構成態様エないしケのうち, 「枠体部が外側枠体部と内側枠体部とから形成され,円形孔部における内側孔部の上端が外側孔部の上端より低い段差状であって,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面よりも低い段差状に形成されるとともに,内側枠体部の厚みが外側枠体部の左右方向中央部の厚みより小さく形成され,内側枠体部の奥側形状が円弧状部に形成され,外側枠体部の下縁が円弧状に形成された構成」である。
なお,原告の主張は,部分意匠でない破線で描かれた本件意匠の構成でない部分(「植木鉢の背面の両角を結んだ線上」)を前提とするもので,誤りである。部分意匠として意匠登録を受けた部分が,物品全体の形態との関係において,どこに位置し,どのような大きさを有し,物品全体に対しどのような割合を占める大きさであるかは,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかないとしても,部分意匠制度の趣旨から,部分意匠の類似判断において,意匠登録にかかる部分とそれに相当する部分の位置等の差異については,その趣旨を没却することがないよう,破線部の形状等や部分意匠の内容等に照らし,通常考え得る範囲での位置等の 7 変更など,予定されていると解釈し得る程度の差異は,部分意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
(ウ) 類否 a 基本的構成態様 本件意匠と被告意匠とは,全て共通する。
b 具体的構成態様 (共通点) @ 円形孔部は下端が面一に形成されている。
A 円形孔部が形成された枠体部は外側枠体部と内側枠体部とを備えている。
(差異点) @ 円形孔部 本件意匠は内側孔部の上端が外側孔部の上端よりも低い段差状に形成されているのに対し,被告意匠は,内側孔部の上端が外側孔部の上端よりも高く,かつ,中央孔部の上端が段差部分と丸み部とで形成されている。円形孔部は下端が面一に形成されている。
A 枠体部 本件意匠は外側枠体部と内側枠体部とから形成されているのに対し,被告意匠は外側枠体部と内側枠体部と両枠体部を連結する中央枠体部とから形成されている。
B 外側枠体部の下縁 本件意匠は円弧状に形成されているのに対し,被告意匠は水平状に形成されている。
C 内側枠体部の奥側形状 本件意匠は円弧状部に形成されているのに対し,被告意匠は直線状部に形成されている。
D 内側枠体部と外側枠体部の厚み 本件意匠は内側枠体部の厚みが外側枠体部の左右方向中央部の厚みの略2/3で 8 あるのに対し,被告意匠は内側枠体部の左右方向中央部の厚みが外側枠体部の左右方向中央部の厚みの略3/2である。
E 中央枠体部の有無 本件意匠に無く,被告意匠に有る。
F 内側枠体部の上面と外側枠体部の上面 本件意匠は内側枠体部の上面が外側枠体部の上面より低い段差状に形成されているのに対し,被告意匠は内側枠体部の上面が外側枠体部の上面より高く,中央枠体部の上面が内側枠体部の上面よりも低い段差部分と段差部分から外側枠体部の上面に及ぶ凸面部とで形成されている。
G 土入れ部背面部の形状 本件意匠は水平断面が湾曲した湾曲板が若干末広状に垂下して形成されているのに対し,被告意匠は4本の縦方向のスリットが形成された平面板に形成されている。
(エ) 小括 上記のとおり,本件意匠の要部において被告意匠と共通点はなく,本件要部に対応する被告意匠における「枠体部が外側枠体部と中央枠体部と内側枠体部とから形成され,円形孔部における内側孔部の上端が外側孔部の上端より高く,かつ,中央孔部の上端が段差部分と丸み部とで形成されて,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面よりも高く,中央枠体部の上面が内側枠体部の上面よりも低い段差部分と段差部分から外側枠体部の上面に及ぶ凸面部とで形成されるとともに,内側枠体部の左右方向中央部の厚みが外側枠体部の左右方向中央部の厚みより大きく形成され,内側枠体部の奥側形状が水平状に形成され,外側枠体部の下縁が水平状に形成された構成」の本件意匠との差異点の印象は,共通点の印象を凌駕し,異なる美感を与えるものである。本件意匠が控えめで変化に乏しいシンプルな美観を看者に与えるのに対し,被告意匠は威圧的で変化に富む美感を看者に与えるものであり,したがって,被告意匠は本件意匠に類似するものではない。
当裁判所の判断
9 1 登録意匠とそれ以外の意匠との類否の判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされており(意匠法24条2項),この類否の判断は,両意匠を全体的に観察することを要するが,意匠に係る物品の用途,使用態様,更には公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,当該意匠に係る物品の看者となる需要者が視覚を通じて注意を惹きやすい部分を把握し,この部分を中心に対比した上で,両意匠が全体的な美感を共通にするか否かによって類否を決するのが相当であると解される。
2 本件意匠及び被告意匠 添付公報,甲5及び6並びに弁論の全趣旨によれば,本件意匠は,別紙「本件意匠の形状」の「裁判所の認定」欄記載の,被告意匠は,別紙「被告意匠の形状」の「裁判所の認定」欄記載のとおりであると認められる。なお,本件意匠が特定されていない旨の被告の指摘は,添付意匠公報の図面を合理的に解釈すれば,背面図における外側枠体部の下端が下に向かって凸状となっている部分は誤記と理解されることから,特定を欠くものではない。
3 本件意匠の要部 (1) 本件意匠に係る物品である植木鉢の用途,使用態様等 本件意匠に係る植木鉢は,給水用のボトルを倒立状態で保持するための保持孔が背面側のフランジ部に形成されたものである。(甲4) そして,本件意匠に係る植木鉢が,主として,学童向けのあさがお等の育成に用いられるものであることからすれば,本件物品の需要者は,学童あるいは初等教育機関の教員であるといえる。これらの需要者は,植物の世話をしたり,給水用の容器であるペットボトル等を入れ替えたりすることから,植木鉢を背面の斜め上から見下ろすことになるため,本件意匠においては,その上部に主として注目するものと考えられる。
(2) 公知意匠 乙3公報ないし乙10公報には,本件意匠の登録出願前に,植木鉢へ給水するた 10 めの給水容器,給水容器のホルダー,給水容器の保持具等として,給水容器挿入用の円形孔部を形成したものが記載されていることから,給水容器の挿入部の形状が円形孔部である意匠は公知であったと認められ,また,ペットボトル等本体が円柱状の給水容器を差し込む用途の物である以上,円形孔部はありふれた形状であるといえる。他方,これらの公報に記載された植木鉢へ給水を行うためのペットボトル等の給水容器やそのホルダー等は,植木鉢と連結された別の容器に設置されるもの(乙3公報,乙8公報,乙9公報,乙10公報),植木鉢のフランジ部にホルダー等別部材を引っかけるもの(乙4公報,乙5公報),植木鉢内の土に差し込むもの(乙6公報)であり,乙7公報に記載されている植物栽培器は,栽培容器に溜めた養液において植物を栽培するもので,土を入れる栽培床に給水するものではないが,細長い形状の植物栽培器の上部に設置する細長い栽培枠体の一端に養液収納容器(養液タンク)の取付部が形成され,酸素供給手段を装着する部分を置いて隣接するその余の部分に土入れ部である栽培床が形成されており,養液収納容器の取付部と土入れ部である栽培床が,栽培枠体として一体となっているものであることが認められる。
(3) 要部の認定 本件意匠の物品にかかる植木鉢の用途,需要者の注目する部分のほか,上記(2)の公知意匠からすれば,本件意匠の基本的構成態様における給水ボトル挿入用の円形孔部は,公知の意匠であって新規な形態とは認められず,また,公知の意匠として,土を入れる容器と水分を供給する容器を取り付ける部分とが同一の枠内で一体となったものがあることからすれば,本件意匠において新規で創作性の認められる部分は,給水容器の保持部が植木鉢の内側に入り込む形で一体となっている形状,すなわち,円形孔部が植木鉢の背面の上方に内側に侵入する状態で内側枠体部及び土入れ部背面部が形成され,円形孔部の一部が外側に突出する状態で外側枠体部が形成されている点にあるといえる。
そして,上記(1)のとおり,本件意匠の物品に係る植木鉢において,需要者は通常 11 植木鉢の背面の斜め上から見るもので,本件意匠の上部である円形孔部及びその周辺の意匠に注目することからすれば,枠体部の奥になって見えなくなる土入れ部背面部を除いた,植木鉢の背面上方に形成された給水ボトル保持部を形成する枠体部の形状が要部であるといえる。
この点,原告は,本件意匠の要部は,円形孔部の中心が植木鉢の背面の両角を結んだ線上付近に位置するように形成され,かつ,植木鉢の背面の中央付近で円形孔部の内側への侵入範囲と外側への突出範囲とが概ね同程度となっている点である旨主張する。確かに,本件意匠は,それまでの公知意匠にない,給水容器の保持部が植木鉢に入り込む形で一体となった形状である点において新規であるが,給水ボトル保持部の内側が円形孔部であることはありふれた形態であることからすれば,原告の主張は植木鉢の背面と枠体部の位置関係だけをいうに等しいものであり,上記のとおり,需要者が斜め上から見る場合,原告が主張するような円形孔部と植木鉢のフランジ部との位置関係だけでなく,給水ボトルの保持部がどのような形をしているかについても注目するはずであり,それを加味して全体として美感を形成しているといえることからすれば,原告の主張は採用できない。
また,被告は,外側枠体部の下端の形状についても要部である旨主張するが,植木鉢の背面上方から見た場合,外側枠体部の下端は死角となる部分であり,上から給水ボトルを差し込む際も下端の形状を見ることはないから,この点を要部とみることはできない。
4 本件意匠と被告意匠との対比 (1) 基本的構成態様 本件意匠と被告意匠の基本的構成態様は共通している (2) 具体的構成態様 本件意匠と被告意匠との主な共通点と差異点は次のとおりである。
ア 共通点 円形孔部が形成された枠体部は,植木鉢背部の内側に侵入して形成された内側枠 12 体部と,外側に突出して形成された外側枠体部を備えており,内側枠体部は植木鉢背面が折り返されて形成されている点 イ 差異点 (ア) 円形孔部 本件意匠は,内側孔部と外側孔部から構成され,内側孔部の上端が外側孔部の上端よりも低い段差状に形成されているのに対し,被告意匠は,内側孔部,外側孔部及び中央孔部から構成され,内側孔部の上端が外側孔部の上端より高く,かつ,内側孔部の上端は僅かな垂直の段差を挟んでなだらかに外側に凸の円弧状となっている中央孔部によって外側孔部の上端に連結されている点 (イ) 枠体部 @ 本件意匠は,内側枠体部と外側枠体部から構成されているのに対し,被告意匠は,内側枠体部,外側枠体部及び中央枠体部から構成されている点 A 内側枠体部の上部は,本件意匠においては内側孔部の円弧に沿って形成されているのに対し,被告意匠においては内側孔部の円弧を取り囲むように,略台形に形成されている点 B 外側枠体部は,本件意匠においては外縁が緩やかな円弧状に形成されているのに対し,被告意匠においては,平面視において植木鉢背面部から外に張り出すようになだらかな山状の形を形成している点 C 本件意匠は,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面より低い段差状に形成されているのに対し,被告意匠は,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面より高く,中央枠体部の上面が内側枠体部の上面から外側枠体部の上面を連結する外側に凸の円弧状に形成されている点 D 本件意匠は,外側枠体部の下端が上方に凸の緩やかな円弧状となっているのに対し,被告意匠は,外側枠体部の下端が水平となっている点 (ウ) 土入れ部背面部 本件意匠は,内側枠体部の上縁が折り返された背面視奥側から円弧状に湾曲した 13 湾曲板が垂下して形成されているのに対し,被告意匠は,内側枠体部において折り返された背面視奥側の水平状部から平面状に垂下した平面板が形成されている点 (3) 類否 ア 以上を踏まえて検討すると,上記のとおり,本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様が共通しているところ,土入れ部背面部自体は要部ではないが,植木鉢の背面上方に円形孔部が形成された枠体部は本件意匠の要部であることからすれば,円形孔部が形成された枠体部が植木鉢背部の内側に侵入して形成された枠体部を有する本件意匠と被告意匠とは,一定の美感の共通性が生じているといえる。
しかし,本件意匠の要部である枠体部の具体的形状において,両意匠は多くの点で異なっている。すなわち,本件意匠と被告意匠は,内側枠体部,外側枠体部がある点については共通するものの,本件意匠においては内側枠体部も外側枠体部も 円形孔部の円弧に沿うようにほぼ円形であるのに対し,被告意匠は,平面視において,内側枠体部は略台形状で直線的な形状であり,外側枠体部についてもなだらかな山状の形で,その稜線部分が直線状であることから,その印象は異なっている。また,本件意匠においては,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面に比して低い段差状に形成されているのに対し,被告意匠においては,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面より高く,しかも,両者の間に中央枠体部が構成され,中央枠体部の上面が内側枠体部の上面から外側枠体部の上面を連結する外側に凸の円弧状に形成されていることから,両者の枠体部の上面の凹凸は異なっており,上から見た印象を異なるものとしている。
イ 以上の点をふまえ,本件意匠と被告意匠を全体としてみると,両意匠はいずれも植木鉢背面内側に入り込む給水ボトル挿入用の円形孔部を形成する枠体部が存在することによって一定の印象の共通性は生じるものの,その枠体部の構成,枠体部を構成する各部の高さやその形状が異なることにより,本件意匠は,枠体部が円形孔部に沿ってほぼ円形で,背部から見た場合,奥まった内側枠体部が手前に見える外側枠体部の上面より低い形状になっていたとしてもさほどの段差感を受けるこ 14 とがないから,全体的に丸くシンプルな印象を受けるのに対し,被告意匠は,内側枠体部が略台形,外側枠体部が山形といった直線的な形状をしており,さらに,外側枠体部が内側枠体部の上面より低くなっていることから,内側枠体部の形状がより看取しやすく,また,枠体部の上部において内側,中央,外側部分が凸凹になっていることとも相まって,直線的でごつごつした印象を受けるものであるから,それぞれの意匠を全体として観察したときに,本件意匠と被告意匠とが類似の美感を生じるとまでは認められず,両意匠が類似しているということはできない。
5 結論以上によれば,被告製品は本件意匠と類似しないから,原告の意匠権を侵害するものではなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 松宏之
裁判官 林啓治郎
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