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事件 平成 28年 (ワ) 5104号 不正競争行為差止等請求事件

原告 コモライフ株式会社
同訴訟代理人弁護士 吉田興平
被告 株式会社フェリシモ
同訴訟代理人弁護士 松村信夫
同 坂本優
同 藤原正樹
同訴訟代理人弁理士 市川友啓
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2017/06/15
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙原告商品目録記載の商品の販売が意匠登録第1540828号意匠権を侵害するとの事実を告知し,又は流布してはならない。
2 被告は,原告に対し,55万円及びこれに対する平成28年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを6分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文第1項同旨 2 被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する平成28年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,被告による原告取引先に対する,別紙原告商品目録記載の商品(以下「原告商品」という。)の販売が意匠権侵害となる旨警告する書面の送付行為が,原告に対する不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当すると主張して,原告が被告に対し,同法3条1項に基づき同行為の差止めを求めるとともに,同法4条に基づき,これにより原告に生じた損害合計330万円及びこれに対する不正競争が行われた日の後である平成28年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 判断の基礎となる事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実) (1) 当事者等 ア 原告は,生活用品の企画,製造,販売等を業とする株式会社である。
イ 被告は,衣服,雑貨等の販売を業とする株式会社である。
ウ 生活協同組合コープP(以下「コープP」という。)は,原告製造に係る商品を取り扱っている生活協同組合である。
(2) 原告商品 ア 原告は,平成27年8月から原告商品の製造,販売を開始した。
イ 原告商品は,手洗器付きのトイレタンクのボウル部分への汚れの付着等を防ぐために,同ボウル部分の表面に敷いて使用するポリプロピレン製のシートであり,その意匠は別紙原告意匠の正面図のとおりである(以下「原告意匠」という。)。
また,その基本的構成及び具体的構成の構成態様は別紙対比表の原告意匠欄記載のとおりである。
(3) 被告の意匠権 被告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件意匠」という。)を有しており,本件意匠の願書に添付した図面は,別紙意匠図面のとおりである。また,その基本的構成及び具体的構成の構成態様は別紙対比表の本件意匠欄記載のとおりである(甲3)。
登録番号 意匠登録第1540828号 出願番号 意願2015-8886 出願日 平成27年4月20日 登録日 平成27年11月27日 意匠に係る物品 手洗器付トイレタンクのボウル用シート 意匠に係る物品の説明 本物品は,使用状態を示す参考図に示すように,手洗器付トイレタンクのボウルに取り付け,ボウルの表面への埃,水垢等の付着を防止することができる使い捨てシートである。本物品は,柔軟性を有する合成樹脂製である。本物品を手洗器付トイレタンクのボウルに取り付けるときは,例えば,本物品の裏面を湿らせてボウルの表面に密着させる。
意匠の説明物品は,透明材質である。裏面図は,表面図と同一に表れるため省略する。
(4) 被告による告知行為(本件告知行為) ア コープPが,平成28年1月頃に組合員向けに発行した注文書回収日を同月23日まで,配達予定日を同月26日からとする宅配カタログ「めーむ くらし編1月2回」(以下「本件カタログ」という。)には,原告商品が取扱商品として掲載されていたが,同所には原告商品名の製造メーカ名の記載はなく,また原告商品について「店舗では購入できません」との記載があった(甲10)。
イ 被告は,平成28年1月25日頃,上記カタログに接し原告商品を発見し,同月27日頃,コープPに対して下記記載を含む「通知書」と題する書面(以下「本件通知書」という。)を送付した(甲4,以下,これを「本件告知行為」という)。
記 「貴組合商品に係る意匠は,全体が四隅を丸めた長方形のシート状であって,中央部に貫通孔を形成した態様において弊社の意匠権に係る意匠と共通し,更には,一対の長辺のうち一方の中間部を内側に大きく湾曲させた態様においても弊社の意匠権に係る意匠と共通しています。したがって,貴組合商品に係る意匠は,弊社の意匠権に係る意匠と明らかに類似する関係にあり,貴組合商品の販売は,弊社の意匠権を侵害するものです。よって,弊社は,貴組合に対し,貴組合商品の販売の即時停止,回収,並びに在庫品の廃棄を請求致します。」 「貴組合商品に係る次の事項について書面による回答を請求致します。
@ 販売の即時停止,回収,並びに在庫品の廃棄の請求に対する貴組合の対応A 製造元及び購入先B 販売数量及び販売金額C 販売の開始時期D 在庫数量 もし,上記期間内に誠意あるご回答がいただけなかった場合には,法的措置をとらざるを得ませんので,予めご了承ください。」 ウ コープPは,原告商品を平成27年10月にも取り扱っていたもので,本件告知行為を受けた後も,本件カタログに基づいて受注した原告商品は予定通り販売したが,企画を進めていた原告商品の平成28年3月中の取扱いを中止した(甲6,甲9ないし甲11)。
2 争点 (1) 原告商品の販売は,本件意匠権の侵害にならないといえるか。
(原告の主張) ア 原告意匠と本件意匠の類否 本件意匠の要部は,@四隅の丸みの形状,A貫通孔の形状,B湾曲部の形状であるところ,原告意匠と本件意匠を比較すると,具体的構成態様において以下に述べるとおりの差異点があり,看者に明らかに異なる美感を起こさせるものである。
(ア) 四隅の丸みの形状について(別紙対比表のBとB’) 本件意匠の四隅の丸みの半径はシートの短辺の寸法の約1/7未満の長さであるのに対し,原告意匠の四隅の丸みの半径はシートの短辺の寸法の約1/3の長さである。原告意匠は大きく角丸めがなされていることにより,全体的な形状が長方形よりも横長楕円に近いものとなっている。
本件意匠の全体的な形状が長方形に近く,看者に対してやや角ばった固めの印象を与える美感であるのに対し,原告意匠は横長楕円に近い形状であるため,看者に対してやわらかな印象を与える美感となっている。
(イ) 貫通孔と湾曲部の形状について(別紙対比表のHとH’) 本件意匠は「貫通孔」が「湾曲部」と離間して形成されているのに対し,原告意匠は「貫通孔」が「湾曲部」の中央部と細い四角孔部によって接続されている。
原告意匠の四角孔部は,本件意匠の貫通孔に比べて,シートの全体をトイレボウルに密着させやすいという機能的な外観を看者に与えるものとなっている。
なお,被告は,原告意匠の四角孔部は使用状態においては消失し,流通時のみに視覚観察される態様であるから,全体の美感に与える影響は小さいものであると主張するが,四角孔部はトイレボウルの立体的形状に合わせて調整するものであり,使用状態において必ず消失するというものではない。
(ウ) シート表面の模様(別紙対比表のDとD’) 本件意匠が無模様であるのに対し,原告意匠にはシートの表面全体に青色の花柄模様などが分散配置されている。
シートの模様はトイレの美感に大きな影響を与えるものであるから,購入者の注意を最も惹く部分である。原告意匠の模様はありふれたデザインではなく,高い創作性を有するものであり,花柄模様が看者に対して爽やかな印象を与える美感となっている。
(エ) 以上のとおり,原告意匠は本件意匠とは異なる美感を起こさせるものであり,両意匠は類似していない。
利用関係について 原告意匠においては,四角孔部はシート自体の切れ込みとして設けられており,花柄等の模様も,シートの表面に付されているものであって,これらの構成要素は,原告意匠のその他の構成要素と区別しうる態様ではない。
したがって,原告意匠からこれらの要素を除いて本件意匠と類似であるとして,原告意匠が本件意匠と利用関係にあるということはできない。
ウ したがって,原告商品の販売は,本件意匠権の侵害にならない。
(被告の主張) ア 本件意匠の実施品は,手洗器付トイレタンクのボウルの表面への埃,水垢等の付着を防止するという課題を解決するアイデア商品であって,その当時,市場に同種の用途,機能を有する物品はなかった。本件意匠は,「手洗器付トイレタンクのボウル用シート」が属する分野におけるパイオニア意匠であるから,全体が,略長方形の「シート」であって,シートの一方の長辺の中間部を内側に湾曲させた「湾曲部」を形成し,略中央部に「貫通孔」を形成した態様という基本的構成態様が,有機的なつながりを持った一体的なものとして意匠全体の美感に与える影響が大きく,需要者に美感を与える要部といえる。
イ そして本件意匠と原告意匠は,意匠全体の美感に大きく影響を与える基本的構成態様が完全に共通する上,具体的構成態様のうち,「シート」の長辺:短辺の比率が約2:1になるように形成されている点(別紙対比表の@と@’),「シート」の四隅に丸みを形成した点(別紙対比表のAとA’),「シート」が透明素材であり,透明色を基調とする点(別紙対比表のCとC’),「湾曲部」の端縁の曲率半径は,「シート」の短辺の寸法の約1/2である点(別紙対比表のEとE’),「湾曲部」が形成されている領域の「シート」の長辺方向の寸法が「シート」の長辺全体の寸法の1/3以上1/2未満である点(別紙対比表のFとF’),及び「貫通孔」が円形に形成されている点(別紙対比表のGとG’)で共通しており,これらの共通点も,意匠に占める割合が比較的大きく,意匠全体の美感に大きく影響を 与えている。
ウ 他方,原告意匠と本件意匠との間には,四隅の丸みの形状(別紙対比表のBとB’),シート表面の模様(別紙対比表のDとD’),貫通孔と湾曲部の形状(別紙対比表のHとH’)について差異点があるが,四隅の丸みの差異は,「シート」の四隅という部分的な態様における丸みの程度の大小にすぎず,やわらかな印象が強いか弱いかといった程度の違いにすぎない。「シート」の模様(別紙対比表のDとD’)の差異点も,散りばめられた小さな花柄模様については,透明色を基調とする表面に付加されたものにすぎず,原告商品全体の美感に与える影響は小さい。
貫通孔と湾曲部の形状(別紙対比表のHとH’)の差異点も,原告商品をトイレタンクのボウルに取り付けた使用状態においては,細い四角孔部(スリット)は閉じて消失し,容易に判別されず,流通時のみ視覚観察される態様にすぎない。
したがって,これらの差異点は全体の美感に影響を与えない微差にすぎず,意匠の骨格を成す基本的構成態様を含む共通点から受ける印象を凌駕するものではないから,原告意匠は本件意匠と類似しているといえる。
利用関係 仮に,シートの模様及び貫通孔と湾曲部の形状の差異点により,原告商品と本件意匠が全体としては類似しないとしても,原告意匠は,その構成要素中に本件意匠に類似する意匠の全部をその特徴を破壊することなく,シートの模様に係る態様及び貫通孔と湾曲部の形状に係る態様と区別し得る態様において包含しているから,両者の間には利用関係が成立する。
オ したがって,原告商品の販売は本件意匠権の侵害となる。
(2) 本件告知行為による不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争の成否(原告の主張) ア 原告意匠は本件意匠に類似しておらず,したがって原告商品の販売は本件意匠権の侵害とならないから,本件告知内容は虚偽の事実である。そして,被告は,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を競争関係にある原告の取引先であるコー プPに告知したのであるから,この行為は不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。
イ 被告は,本件告知行為は本件意匠権の権利行使の一環として違法性が阻却される旨主張するが,競業者の取引先に対する警告について,違法性の阻却が認められるのは,当該取引先が意匠権侵害を請求原因とする訴訟の相手方となり得る場合であったとしても,@意匠権侵害の主張が事実的,法律的根拠を欠くことを容易に知り得ない場合であって,かつ,Aその他の諸般の事情を考慮しても,権利行使の内容,態様が社会通念上許容される限度を超えていない場合である。
しかし,以下のとおり本件告知行為は上記要件を充足せず,違法性は阻却されない。
(ア) 本件告知行為が事実的,法律的根拠を欠くことを被告が容易に知り得たこと 原告意匠と本件意匠とを並べて比べてみれば両意匠が類似しないことは一目瞭然である。
意匠権侵害訴訟を提起するためには,本件意匠の要部が何であるのか,原告意匠と本件意匠とを比較して要部において構成態様が合致するのか,美感に影響する差異点はないかなどの検討を当然に行うところ,被告が,かかる検討を行えば,本件告知行為が事実的,法律的根拠を欠いていることを容易に知り得たことは明らかである。
(イ) 権利行使の内容,態様が社会通念上許容される限度を超えていること 競業者の製品が意匠権侵害品である旨を競業者の取引先に対して警告する行為は,競業者の営業に致命的な打撃を与えることもあり得る。また,競業者の取引先への警告は,競業者に反論の機会を与えることなく解決を図ろうとするものであり,競業者の反論を受けて自らの主張が誤りであることに気づくこともあり得るのであるから,取引先に対する警告を行う前に,製品を製造する競業者への警告が検討されて然るべきである。
平成28年1月当時,原告商品は,大手インターネット通販サイトなどでも原告 が製造元として表示された上で販売されており,原告商品のパッケージにもその旨記載されている。
また,コープPが原告商品の製造元が原告であることを被告に対して秘匿する理由がなく,被告の担当者がコープPに問い合わせすれば,原告商品の製造元が原告である旨の回答を得られたはずである。
このように,被告は,原告が原告商品の製造元であることを容易に知り得たにもかからず,それを調査した上で原告との交渉をするなどの努力をせず,本件商品を原告から仕入れて販売しているにすぎないコープPに対して本件告知行為を行ったものであるから,原告による本件告知行為は,社会通念上許容される限度を超えている。
(被告の主張) ア 競業者の取引先に対する警告(告知)が,当該被警告者に対する知的財産権の権利行使の一環として行われた場合は,知的財産権の権利行使を委縮させないためにも,当該行為は正当な知的財産権の権利行使として不正競争に該当しないか,営業誹謗行為としての違法性が阻却されるべきものである。
この場合,当該警告(告知)行為がかような知的財産の権利行使として行われたものか,外形的に権利行使の形式をとっていても,その実質が競業者の取引先に対する信用を毀損し当該取引先との取引ないし市場での競争において優位に立つことを目的としてなされたものであるかを当該告知文書等の形式・文面のみによって決すべきものではなく,当該告知に先立つ経緯,告知文書等の配布時期・期間,配布先の数・範囲,告知文書等の配布先である取引先の業種・事業内容,事業規模,競業者との関係・取引態様,当該侵害被疑製品への関与の態様,知的財産権争訟への対応能力,告知文書等の配布先である当該取引先の対応,その後の知的財産権者及び当該取引先の行動等,諸般の事情を総合して判断するのが相当である。
イ 以下の事情に照らせば,本件告知行為は,コープPに対する知的財産権の権利行使の一環としてなされたものであり,原告の取引先に対する信用を毀損し当該 取引先との取引ないし市場での競争関係において優位に立つことを目的に行われたものでないから,本件告知行為については違法性が阻却される。
(ア) 本件告知行為が事実的法律的根拠を欠くことを容易に知り得たとはいえないこと 本件意匠は,同一又は類似する物品で先行する意匠がないパイオニア意匠であり,本件意匠と原告意匠は基本的構成態様,シートの長辺:短辺の比率等が共通しており,一般に類似する意匠と考えられること,あるいは,仮にそうでないとしても原告意匠は本件意匠を利用したものであると考えられることから,被告が通常必要とされる事実調査及び法律的検討をすれば意匠権侵害に当たらないことを容易に知り得たといえるものではない。
(イ) 本件通知書送付に至る経緯,その内容,態様等について a 通知書の形式・文面 被告は,本件通知書において,コープPによる原告商品の販売が被告の本件意匠権を侵害すると判断する根拠を具体的に記述しており,コープPにおいて上記被告の主張の当否を判断するに必要な情報を提供している。
そして,その内容も知的財産権の侵害品を販売している事業者に対する通知書においては一般的な記載がなされているにすぎず,殊更に原告の信用を毀損するようなものではない。
b 通知書を送付するに至る経緯,送付時期,期間,送付先の数・範囲 本件カタログの記載内容等に照らせば,原告商品が本件カタログでのみ取扱いのある商品であると認識してもやむを得ない事情があったというべきであり,かつ,被告が本件カタログにおいて原告商品を発見したのは原告商品販売の直前であり,本件告知行為時においては,かなり切迫した状況にあった。
そのような状況の中,被告が原告の取引先に本件通知書を送付したのは,コープPに対する1通のみであり,コープPの代理人弁理士から,本件告知行為に対する「回答書」にて,コープPが販売している原告商品は原告が製造した商品であるこ とや,原告がコープP以外にも原告商品を販売していることを被告が知った後は,原告に対してのみ,意匠権侵害の告知行為を行っており,特に他の原告の取引先への告知行為は行っていない。
c コープPの対応能力等 本件告知行為を受けたコープPは,知的財産権侵害の成否を判断する能力が十分ある事業者であり,かつ,弁理士を代理人に立て,本件告知行為から10日程度で詳細な反論を行っていることから明らかなとおり,その判断能力に基づき,意匠権侵害の成否につき判断を行うことができた。
(3) 原告の被告に対する虚偽事実の告知行為の差止請求は認められるか。
(原告の主張) 被告が今後も原告の取引先に対して原告商品が本件意匠権の侵害品である旨の虚偽の事実を告知するおそれがあるから,原告の被告に対する上記虚偽事実の告知行為の差止請求は認められるべきである。
(被告の主張) 上記(2)(被告の主張)で主張したとおり,被告による本件告知行為は,不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当しないか,違法性が阻却されるから,原告の被告に対する虚偽事実の告知行為の差止請求は認められない。
仮にそうでないとしても,被告は,コープPに対して本件告知行為をした以外に告知行為を継続しているわけではなく,判決において本件意匠権の侵害がないと判断されるなら,被告が,今後,同種の告知行為をするおそれはないから,原告の被告に対する虚偽事実の告知行為の差止請求は認められない。
(4) 本件告知行為につき被告に過失があるか。
(原告の主張) コープPは単に原告から仕入れた原告商品を販売するにすぎないから,被告は,本件告知行為に先立ち,原告商品が本件意匠権を侵害するかどうかについて慎重に調査及び検討すべき義務を負っていたところ,以下に述べる事情からすれば,被告 が慎重な調査及び検討をすることなく本件告知行為に及んだことは明らかであり,過失がある。
すなわち,原告意匠と本件意匠には,前記(1)(原告の主張)欄記載のとおり大きな相違があり,原告意匠と本件意匠が類似しないことは,両意匠を並べて見比べれば一目瞭然である。
そして,原告意匠が本件意匠と類似するかどうかについて慎重に検討するためには,原告商品の現物又は原告商品の現物を明瞭に撮影した写真を確認することが必要であるが,被告は,平成28年1月25日頃,コープPの本件カタログに原告商品が掲載されていることを発見した後,原告商品を入手することなく,同月27日には本件告知行為に及んだということであり,本件告知行為に先立って,原告商品の現物等の確認をしていない。
なお,原告商品は平成28年1月当時,大手インターネット通販サイトのアマゾンや楽天市場などでも販売されており,被告が原告商品を入手することは容易であった。
以上によれば,被告は慎重な調査及び検討をすることなく本件告知行為に及んだことは明らかであり,被告には過失がある。
したがって,被告は,本件告知行為により原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
(被告の主張) 本件告知行為が不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当し,本件意匠権の正当な権利行使としての違法性阻却が認められないとしても,上記(2)被告の主張欄記載の事実関係からすると,本件告知行為をしたことについて被告には故意過失がないというべきである。
したがって,原告の被告に対する本件告知行為を理由とする損害賠償請求には理由がない。
(5) 原告の損害 (原告の主張) 原告は,被告による本件告知行為によって次のとおり少なくとも330万円の損害を被った。
ア 無形損害 300万円 原告は,平成27月10月から平成28年1月までの間のコープPに対する原告商品の販売により合計105万9669円(税込)の売上げを得ていた。
被告が,本件告知行為により,原告が違法な販売行為を行っているような誤解をコープPに与えた結果,原告は平成28年2月1日,コープPから,今後,原告商品及び原告の新規商品の購入は行わない旨を通知されたものであり,本件告知行為により,原告の信用が大きく損なわれたのは明らかであって,その損害の額は,300万円を下るものではない。
イ 弁護士費用相当の損害 30万円 弁護士費用相当の損害の額は上記損害額の1割が相当である。
(被告の主張) 原告の主張は争う。
コープPは,本件告知行為の後も,既に原告から納入された商品については販売を続けていたものであり,仮にその後,コープPが原告商品の取扱いを中止したとしても,本件告知行為とは別の理由により中止したものと推測される。
本件告知行為とコープPによる原告商品の取扱い中止との間には因果関係がない。
当裁判所の判断
1 争点1(原告商品の販売は,本件意匠権の侵害にならないといえるか)について (1) 本件意匠と原告意匠の対比 本件意匠と原告意匠とを対比すると,いずれも全体が,略長方形の「シート」であって,シートの一方の長辺の中間部を内側に湾曲させた「湾曲部」を形成し,略 中央部に「貫通孔」を形成した態様のものであるという基本的構成態様において共通し,また具体的構成態様についても,@「シート」の長辺と短辺の比率は,約2:1になるように形成されている点(別紙対比表の@と@’),A「シート」の四隅に丸みを形成している点(別紙対比表のAとA’),B「シート」は,透明素材であり,透明色を基調とする点(別紙対比表のCとC’),C「湾曲部」の端縁の曲率半径は,「シート」の短辺の寸法の約1/2である点(別紙対比表のEとE’),D「湾曲部」が形成されている領域の「シート」の長辺方向の寸法は,「シート」の長辺全体の寸法の1/3以上1/2未満である点(別紙対比表のFとF’),E「貫通孔」は,円形に形成されている点(別紙対比表のGとG’)で共通している。
他方で,具体的構成態様につき,@本件意匠は,「シート」の四隅の丸みの半径は,「シート」の短辺の寸法の1/7未満であるのに対し,原告意匠のそれは約1/3である点(別紙対比表のBとB’),A本件意匠の「シート」は無模様であるのに対し,原告意匠のそれは,散りばめられた小さな花柄を主体とする模様が表面に付されている点(別紙対比表のDとD’),B本件意匠では,貫通孔は,湾曲部と離間しているのに対し,原告意匠では,貫通孔は,「湾曲部」の中央部と細いスリットによって接続されている点(別紙対比表のHとH’)で相違している。
(2) 本件意匠の要部 ア 登録意匠と対比すべき相手方の意匠とが類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされており,意匠を全体として観察することを要するが,その際には,意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様,さらには公知意匠にはない新規な創作部分の存否その他の事情を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察すべきものである。
イ 本件意匠の要部について検討すると,本件意匠に係る物品は,その物品の説明によれば,柔軟性を有する合成樹脂製のシートであり,裏面を湿らせて手洗器付 トイレタンクのボウルに密着させて取り付け,ボウルの表面への埃,水垢等の付着を防止することができる使い捨てシートであると認められる。そして,これに別紙意匠図面中の【使用状態を示す参考図】を参考にすると,その形状は,取り付ける先の一般的な長方形の手洗器付トイレタンクのボウルの形状に規定されているものということができるから,取引者・需要者は,その規定された形状を前提として,本件意匠につき,その形状がボウルの表面の埃,水垢等の付着し易い部分を十分カバーしているものであるか,その形状がボウルに密着して取り付け易いものであるか,さらには取り付け易くなるよう工夫が施されるかなどの点に注目するものと考えられる。
したがって,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分,すなわち要部は,基本的構成態様ではなく,具体的構成態様のうちでも,ボウルに装着した場合の使用状態を決めることになる,本件意匠の外周の形状,すなわち「シート」の四隅の丸みの半径の大きさの点や,ボウルの孔に対応する「シート」に設けられた貫通孔と湾曲部の形状及びその位置関係などの点であると認められる。
この点,被告は,本件意匠の実施品は,手洗器付トイレタンクのボウルの表面への埃,水垢等の付着を防止するという課題を解決するアイデア商品であって,その当時,市場に同種の用途,機能を有する物品はなかったことから,本件意匠はパイオニア意匠であるとして,意匠に係る物品全体の形態,すなわち基本的構成態様そのものが要部であるように主張する。
しかし,本件意匠の実施品が新品種の商品であって,その基本的構成態様が新規なものであったとしても,意匠に係る物品の説明に明らかなように,その物品の使用目的から,取引者・需要者は,その基本的構成態様が,取り付ける先のボウルの形状に規定されているものにすぎないことは容易に理解できるところであるから,本件意匠の基本的構成態様そのものをもって,最も注意を惹きやすい部分ということはできず,その点に要部があると認めることはできないから,被告の上記主張は採用できない。
(3) 本件意匠と原告意匠の類否 以上により本件意匠と原告意匠の類否について検討すると,本件意匠と原告意匠の共通点は,いずれも本件意匠の要部にかかわらないものであるといえる。
他方,シートの四隅の丸みの半径の大きさが異なること,本件意匠では貫通孔が湾曲部と離間して設けられているのに対し,原告意匠では湾曲部の中央部と細いスリットによって接続されるように設けられているという具体的構成態様における差異点は,いずれも本件意匠の要部にかかわるものであり,とりわけ後者のスリットを設けられている点は,本件意匠に類似する要素はなく,シートをボウルに取り付ける際に,シートをボウルの湾曲形状に密着させるための微調整を容易にさせる工夫として取引者・需要者の注意を強く惹くものということができる。
そうすると,本件意匠が無模様であり原告意匠に模様が施されているという差異点を捨象したとしても,両意匠を全体として観察した場合,看者に対して異なる美感を起こさせるものと認められるから,原告意匠は本件意匠に類似していないということができる。
(4) 利用関係について 被告は,原告意匠は本件意匠と利用関係にあり,原告商品の販売等は本件意匠権を侵害するものと主張する。
しかし,上記(3)に説示したとおり,原告意匠は,要部に係る具体的構成態様において本件意匠と大きく異なる構成となっており,それによって全体として本件意匠とは異なる美感を起こさせているものであるから,原告意匠が本件意匠に係る構成態様全てをその特徴を破壊することなく包含しているとは認められない。
したがって,原告意匠は本件意匠と利用関係にあるとして,利用による侵害をいう被告の主張は失当である。
2 争点2(本件告知行為による不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争の成否)について (1) 上記1で検討したところによれば原告意匠は本件意匠と類似するものではな いから,原告商品の販売は意匠権侵害にはならず,したがって本件通知書の記載内容は虚偽の事実であるということになる。
そして,そのような事実は原告商品を製造販売する原告の営業上の信用を害する事実であるというべきところ,原告と被告は,ともに生活用品等を販売する競争関係にある事業者であるから,被告が原告の取引先であるコープPに対してした本件告知行為は,「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」する行為といえ,原告に対する不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。
(2) 被告は,コープPによる原告商品の販売は本件意匠権を侵害する行為であり,これに対する侵害の停止,予防を図るためにする本件告知行為は,知的財産権の権利行使の一環として行われたもので,実質的にも競業者の取引先に対する信用を毀損し当該取引先との取引ないし市場での競争において優位に立つことを目的としてなされたものではないから不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当しないか,少なくとも違法性が阻却される旨主張する。
しかしながら,不正競争防止法は,不正競争の行為類型を同法2条において主観的要件の要否を含め個別具体的に規定するとともに,同法3条差止請求権の,同法4条損害賠償請求権の発生要件を規定し,他方で同法19条において当該行為類型を充足して不正競争が成立しても差止請求,損害賠償請求等の規定を適用しない場合を具体的に定めているのであるから,同法2条に規定された不正競争の成否を判断するに当たり,条文にない主観的要件を解釈により加え,これにより要件該当性,違法性阻却を論じることは,不正競争防止法の趣旨に沿うものではないといえる。また被告の主張によれば,裁判手続において虚偽事実であると判断されたとしても,同法2条1項15号所定の不正競争であること自体が否定され得るというのだから,その場合,同法3条の他の要件が認められたとしても,そもそも不正競争でないとして将来の差止請求が認められないということになる。なお被告は,知的財産権の権利行使の一環として行われた侵害警告を不正競争とすることが,知的 財産権の権利行使を委縮させかねない点も指摘するが,侵害警告の段階に留まるのであれば,これを知的財産権に基づく訴訟提起と同様に扱うことはできないし,また他方で,客観的には権利行使とはいえない侵害警告により営業上の信用を害された競業者の事後的救済の観点も十分に考慮されるべきである。
したがって,被告の上記主張を採用することはできず,このような知的財産権の権利行使の一環であったとの主観的事情を含む被告が違法性阻却事由として主張する事実関係については,不正競争であることを肯定した上で,指摘に係る権利行使を委縮させるおそれに留意しつつ,そもそもの知的財産権侵害事案における侵害判断の困難性という点も考慮に入れて,同法4条所定の過失の判断に解消できる限度で考慮されるべきである。
3 争点3(原告の被告に対する虚偽事実の告知行為の差止請求は認められるか)について 上記2で検討したとおり被告による本件告知行為は不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。
そして,本件において被告は,原告意匠が本件意匠に類似する旨争うとともに,コープPに対してした本件告知行為が被告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知であることも争っているから,同様の告知行為をするおそれが,なおあるものと認められる。
原告は,上記虚偽事実の告知により営業上の信用を害されるおそれがあり,他方,被告は,上記虚偽事実の告知をするおそれがあるから,原告の被告に対する虚偽事実の告知の差止請求には理由がある。
4 争点4(本件告知行為につき被告に過失があるか) (1) 後掲各証拠によれば次の事実が認められる。
ア 被告が原告商品を発見したというコープPの平成28年1月12日発行の本件カタログの6ページ目には,原告商品が掲載されているが,その掲載スペースは,1面の8分の1足らずである。そして,原告商品の形状を認識し得る正面図に相当 する写真は,その掲載箇所の右隅に,その掲載箇所のさらに9分の1程度の大きさで掲載されていた。
カタログの掲載商品には,製造者名を付記しているものもあるが,多くは製造者名が付記されておらず,同カタログの原告商品の掲載部分には,「店舗では購入できません」と記載され,その製造者名は記載されていなかった(甲10)。
イ 被告は,本件カタログに基づき,原告商品の意匠が本件意匠に類似すると判断し,上記カタログで原告商品を発見した2日後である同月27日,コープP宛てに本件通知書を送付して本件告知行為を行った。その際,被告は,原告商品の商品名をインターネットで検索するなどして本件カタログ以外での販売状況を調べようとせず,また原告商品そのものを入手しておらず,また入手しようともしなかった(甲4)。
ウ 本件通知書の記載内容は,上記第2の1(4)イ記載のとおりであり,その要旨は,原告商品の販売が本件意匠権の侵害に当たることを断定した上でコープPに販売の停止を求めるとともに,製造元の開示を求めるものであった。なお原告は,本件告知行為前に,原告商品の製造元等を確かめようとしなかった(甲4)。
エ 原告は,その当時,原告商品をアマゾン,楽天のインターネットショップでも販売しており,同所では,原告商品は,本件カタログに記載されているものと同じ商品名で取り扱われていた(甲15,17)。
オ コープPの代理人弁理士は,同年2月9日,被告に対し,本件通知書に対する回答書を送付し,両意匠の四隅の丸みの形状及び貫通孔のスリットの有無を含む全体の形状の差異を理由に,原告意匠は本件意匠に類似せず,実物を確認すれば違いが理解できる旨の見解を示した。また,それとともに原告商品の製造者は原告商品の箱裏面に記載されている原告であること,原告商品はコープP以外でも広く流通していることを付言した(乙1の1,2)。
カ 被告は,同月29日,原告意匠は本件意匠に類似するものであり,原告商品の販売は意匠権侵害に当たることから,原告商品の製造,輸入及び販売の停止等を 求める内容の「通知書」と題する書面を原告に対して送付したが,同書面における意匠の類否判断の理由は,同年 1 月27日,コープP宛てに送付した本件通知書と全く同じものであった(甲21)。
(2) 知的財産権を有する者が,侵害行為を発見した場合に,その侵害行為の差止を求めて侵害警告をすることは,基本的に正当な権利行使であり,その侵害者が侵害品を製造者から仕入れて販売するだけの第2次侵害者の場合であっても同様である。しかし,侵害品を事業として自ら製造する第1次侵害者と異なり,これを仕入れて販売するだけの第2次侵害者は,当該侵害品の販売を中止することによる事業に及ぼす影響が大きくなければ,侵害警告を不当なものと考えても,紛争回避のために当該侵害品の仕入れをとりあえず中止する対応を採ることもあり,その場合,侵害警告が誤りであっても,第1次侵害者に対する販売の差止めが実現されたと同じ結果が生じてしまうから,こと第2次侵害者に対して侵害警告をする場合には,権利侵害であると判断し,さらに侵害警告することについてより一層の慎重さが求められるべきである。したがって,正当な権利行使の意図,目的であったとしても,権利侵害であることについて,十分な調査検討を行うことなく権利侵害と判断して侵害警告に及んだ場合には,必要な注意義務を怠ったものとして過失があるといわなければならない。
以上により本件についてみるに,本件通知書の記載内容(上記第2の1(4)イ)からすると,被告は,コープPが本件意匠権の侵害者であるとしても,製造者ではなく仕入れて販売する第2次侵害者にすぎないことを認識していたと認められる。
しかし,本件告知行為に至る経緯をみると,被告は,原告商品を本件カタログで発見するや実物を確認することなく本件意匠権の侵害品であると断定し,僅か2日後には,第1次侵害者である製造者を探索しようともせずに,製造者の取引先ともなるコープPに対し,権利侵害であることを断定した上で侵害警告に及んだというのである。
すなわち,上記認定した本件告知行為に至る経緯において,被告が,警告内容が 誤りであった場合に,製造者に及ぼす影響について配慮した様子は全く見受けられず,不用意に本件告知行為に及んだものといわなければならない。
また,そもそも原告商品が本件意匠権の侵害品であるとの判断自体についてみても,本件については,本件告知行為を受けたコープPの代理人弁理士が,当裁判所と同様の判断内容で原告意匠と本件意匠が非類似である旨を短期間のうちに回答しているように,両意匠が意匠法的観点からは類似していないというべきことは比較的明らかなことといえるが(被告は,本件意匠の実施品が同種商品の存しない新種のアイデア商品であり,先行意匠が存しないことから,意匠権で保護されるべき範囲を過大に考えていたように思われる。),そうであるのに被告は,原告商品を発見して極く短期間のうちに意匠権侵害であると断定して侵害警告に及んだというのであるから,この点でも,侵害判断が誤りであった場合に製造者である原告の営業上の信用を害することになるおそれについて留意した様子が全くうかがえず,不用意に本件告知行為に及んだものといえる。
以上のとおり,被告は原告商品の販売が本件意匠権の侵害であるとの事実を原告の取引先であるコープPに対して警告するに当たり,原告商品の販売が本件意匠権の侵害との判断が誤りであった場合,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知となって,製造者である原告の営業上の信用を害することになることなどを留意することなく本件告知行為をしたものと推認すべきであり,意匠権の権利行使を目的として上記行為に及んだことを考慮しても,以上の事実関係のもとでは,そのような誤信がやむを得なかったとはいえないから,被告は,本件告知行為をするに当たって必要な注意義務を尽くしたとはいえず過失があったというべきである。
したがって,被告は,本件告知行為により原告が受けた損害を賠償する責任がある。
5 争点5(原告の損害)について (1) 本件告知行為が,原告の営業上の信用を害する行為であることは既に認定したとおりである。
(2) 原告は,これによる無形損害として300万円の損害を主張しているところ,上記第2の1(4)の事実及び後掲の各証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア コープPは,本件告知行為を受けた平成28年1月28日の当日中に,原告に対し,説明に来訪するよう求めた。これを受けて,原告の担当者2名がコープPを訪問し,原告商品開発の経緯等について説明等したが,3月に予定していた原告商品の取扱いは中止することを伝えられ,また翌日までに見解をメールで伝えるよう求められた(甲6)。
イ 原告は,同年1月29日,コープPに対し,原告商品の開発経緯及び本件意匠権の侵害とならない旨の見解をまとめた報告書をメールで送信した(甲7,甲8)。
ウ 同年2月1日,コープPの担当者から原告宛てに連絡があり,原告の開発商品は,今後,原告商品のみでなく新規商品も取り扱わない旨連絡があった。ただし,本件カタログに基づき受注済みであった原告商品は,そのまま販売された(甲23)。
エ 本件告知行為以前からある原告とコープP間の取引は,本件告知行為後も影響を受けなかったものの,新規商品については,上記経緯があったため一旦中断し,同6月頃,コープPのインターネット販売で取り扱われるようになり,同年10月になってカタログ掲載商品として扱われるようになった。ただ,被告が取り扱う商品と同種の商品は取り扱われない状態が,なお継続している(甲23)。
(3) 以上によれば,原告は,本件告知行為後,原告商品に意匠権侵害の問題がないことをコープPに説明するための努力を尽くしていたのに,コープPからは新たな原告商品の取扱いを拒否されるようになっただけでなく,新規商品の取扱いもされないようになったものであるから,原告の信用毀損の結果は,取引上,具体的な影響として現れたということができる。
しかし,その一方で既存の取引関係がある商品は,継続して販売されていたというのであり,また取引全体額が大きく減少したことを認めるに足りる立証はないから,その毀損された信用は新規商品の関係についてだけということができるが,その新規商品であっても,どの程度の販売見込額の商品の取扱いが中断されたか明ら かではないし,その点をおいても,平成28年6月頃からは,一部の新規商品につきインターネット販売用としての販売が開始され,同年10月頃からは,一部の新規商品がチラシに掲載されるようにもなったというのであるから(甲23),その毀損の程度はその限度に留まっているということができる。
なお,コープPは,現在も原告商品を取り扱わないだけでなく,被告取扱商品と競合する商品を取り扱わない状態が継続しているということであるが,これは原告と被告間に本件訴訟が係属して係争中であることからコープPがその経営判断としてされている対応と解され,本件告知行為と直ちに因果関係があるということはできない。
これらの事情からすれば,本件告知行為による原告の営業上の信用毀損により生じた無形損害の額は,50万円と認めるのが相当である。
また,本件事案の内容等を考慮すれば,弁護士費用相当の損害の額としては5万円の限度で認めるのが相当である。
6 以上より,原告の請求は,虚偽事実の告知行為の差止め並びに被告に対して55万円の損害賠償及びこれに対する本件告知行為後である平成28年2月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからその限度で認容することとし,その余の請求には理由がないことからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 野上誠一
裁判官 大川潤子
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