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関連審決 不服2017-18949
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事件 平成 30年 (行ケ) 10152号 審決取消請求事件

原告 コーニンクレッカフィリップス エヌ ヴェ
訴訟代理人弁理士 笛田秀仙
同 五十嵐貴裕
被告特許庁長官
指定代理人温品博康
同 正田毅
同 阿曾裕樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/04/11
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2017-18949号事件について平成30年6月18日に した審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 1 (1) 原告は,平成28年(2016年)7月14日,意匠に係る物品を「Handle for electric toothbrush」とし,意匠の形態を別紙1のとおりとする意匠(以 下「本願意匠」という。)について,国際意匠登録出願(意願2016-50 1017号。パリ条約による優先権主張日同年2月22日。以下「本願」とい う。)をした。
原告は,平成29年10月18日付けで拒絶査定(甲10)を受けたため, 同年12月21日,拒絶査定不服審判を請求した(甲11)。
特許庁は,上記請求を不服2017-18949号事件として審理し,平 成30年6月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下 「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月28日,原告に送達された。
(2) 原告は,平成30年10月26日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を 提起した。
2 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。その要旨は,本 願意匠と本願の優先日前に頒布された刊行物である意匠公報(甲1)に記載 された意匠登録第1432629号(意匠に係る物品「電気歯ブラシ本体」) の意匠(以下「引用意匠」という。別紙2参照。)は,意匠に係る物品が共通 し,形態においても,相違点を総合しても,その視覚に訴える意匠的効果とし ては,共通点が生じさせる効果のほうが大きく,意匠全体として需要者に共 通の美感を起こさせるものであり,両意匠は類似するから,本願意匠は,意匠 法3条1項3号に掲げる意匠に該当し,意匠登録を受けることができないと いうものである。
(2) 本件審決が認定した本願意匠及び引用意匠の各形態,本願意匠と引用意匠 の共通点及び相違点は,以下のとおりである。なお,本件審決は,両意匠の対 比のため,本願意匠に係る別紙1の「1.2」を正面図,「1.3」を背面図, 「1.4」を左側面図,「1.5」を右側面図,「1.6」を平面図,「1. 2 7」を底面図と認定した。
ア 本願意匠の形態 (ア) 全体は,隅丸長方形状の底部より,僅かに正面側に偏心しながら,円 状の上面にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の電動歯ブラシ本体把 持部と,該本体把持部上面に設けられた,該上面の略半径の長さを直径 とする略円柱状の基台部とその上に配された縦長板状のシャフト(以下 「シャフト部」という。)によって構成され, (イ) シャフトについて,本体把持部の偏心に沿って正面側に僅かに傾倒 し,正面視中央部に横断する段差が設けられ,背面側には略縦長矩形状 の凹部が設けられ, (ウ) 本体把持部の正面には,上端より全長の約3分の1の箇所と,約2 分の1の箇所に,僅かに凹部をなす略円状の電動歯ブラシ動作制御用釦 が縦に2つ配され, (エ) 本体把持部の上端近くに,上面と平行になるように環状細線が配さ れ, (オ) 本体把持部の下部には,下面と平行になるように切り替え線が設け られ,該切り替え線より下部は極僅かに窄まり, (カ) シャフト部の基台部については,基台部周側面中央に,僅かに緩や かな段差を設けてその下部を拡径するものとしている。
イ 引用意匠の形態 (ア) 全体は,隅丸長方形状の底部より,僅かに正面側に偏心しながら,円 状の上面にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の電動歯ブラシ本体把 持部と,該本体把持部上面に設けられた,該上面の略半径の長さを直径 とする略円柱状の基台部とその上に配された略縦長板状のシャフト(以 下「シャフト部」という。)によって構成され, (イ) シャフトについて,本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒 3 し,正面視中央部に横断する段差が設けられ,背面側には縦長矩形状の 凹部が設けられ, (ウ) 本体把持部の正面には,上端より全長の約3分の1の箇所に,僅か に凹部をなし二重の外形線を有す略円状の電動歯ブラシ動作制御用釦が 配され, (エ) 本体把持部の上端より全長の約22分の1の箇所に,上面と平行に なるように環状細線が設けられ, (オ) シャフト部の基台部については,該基台部全体の約3分の2にあた る下部の形状を円柱状とし,約3分の1をなす上端部は下部より僅かに 太い円盤状とし,さらに上端に向けて僅かに縮径するねじ山状としてい る。
ウ 共通点(共通点1) 全体は,隅丸長方形状の底部より,僅かに正面側に偏心しながら,円状の 上面部にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の電動歯ブラシ本体把持部 と,該本体把持部上面に設けられた,該上面の略半径を直径とする略円柱 状の基台部とその上に配された縦長板状のシャフト(以下「シャフト部」と いう。)で構成をされている点。
(共通点2) シャフトについて,本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒し, 正面視中央部に横断する段差が設けられ,背面側には略縦長矩形の凹部が 設けられている点。
エ 相違点(相違点1) 本願意匠は,本体把持部の正面に上端より全長約3分の1の箇所と,約 2分の1の箇所に僅かに凹部をなす略円状の電動歯ブラシ動作制御用釦が 4 縦に2つ配されているのに対して,引用意匠は,上端より全長約3分の1 の箇所に1つ配されるものとなっている点。
(相違点2) 本願意匠は,電動歯ブラシ動作制御用釦の外形線が一重の円状であるの に対して,引用意匠は,該動作制御用釦の外形線が二重の円状となってい る点。
(相違点3) 本願意匠は,本体把持部の上端から僅かに下部に環状細線が配されてい るのに対して,引用意匠は,上端より全長の約22分の1にあたるところ に環状細線を設けている点。
(相違点4) 本願意匠は,本体把持部の下部には,本体把持部下端面と平行になるよ うに切り替え線が設けられ,該切り替え線下部は僅かに窄まっているのに 対して,引用意匠には切り替え線が設けられてなく,本体把持部の下端は 窄まることなくそのまま垂下している点。
(相違点5) 本願意匠は,シャフト部の基台部について,基台部周側面中央に,緩やか な段差を設けてその下部を拡径するものとしているのに対し,引用意匠は, 該基台部の全体の約3分の2を占める下部を略円柱状で形成し,約3分の 1をなす上部については,下部よりも僅かに太い円盤状とし,その上には 上端に向けて縮径するねじ山状を形成している点。
3 取消事由 本願意匠と引用意匠の類否判断の誤り
当事者の主張
1 原告の主張 (1) 本願意匠の要部 5 電動歯ブラシの需要者である使用者は,通常立てかけてある電動歯ブラシ に手を伸ばし,その本体把持部を持ち,所望の動作モードに対応する動作を させるよう,本体にある動作制御釦を押すことにより,歯を磨くことからす れば,持ちやすさや使いやすさという観点からは,電動歯ブラシ本体全体の 基本的構成態様が需要者の注意をひく部分であるとともに,歯を磨くという 電動歯ブラシの機能の観点からは,需要者が電動歯ブラシを操作する動作制 御釦の位置,大きさ及び形態が最も強く需要者の注意をひく部分であり,要 部であるということができる。
(2) 本願意匠の基本的構成態様 甲2(意匠登録第1478109号の意匠公報),甲3(意匠登録第121 9080号の意匠公報),甲4(意匠登録第1412970号の意匠公報)及 び甲5(意匠登録第1298712号の意匠公報)によれば,電動歯ブラシ本 体の基本的構成態様において,本体部のおおまかな形状が上部に向かってや や窄めた略円柱状になること,動作制御釦部が本体把持部を把持した際に指 で操作しやすいような位置に配置されること,上部に取り外し可能な替えブ ラシを着脱するための縦長板状のシャフト部を有することは,ありふれたも のである。
そうすると,共通点1に係る「全体は,隅丸長方形状の底部より円状の上部 にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の本体把持部と,略円柱状の基台部 と略縦長板状のシャフトとを有する電動歯ブラシ本体」の構成態様は特徴的 な形状であるとはいえない。
また,共通点1のうち,「本体把持部が僅かに偏心していること」は,需要 者に与える印象という観点からは,従来から存在する上部にかけて側面視背 面側をただ窄めただけの形状と明確な区別のつくものではないため,特徴的 な形状とはいえない。
さらに,共通点2に係る「シャフト部の背面側に略縦長形状の凹部が設け 6 られている点」は,その部位があまりに小さく,背面に備えられていることと 相まって,需要者の注意をひく部分とはなり得ないため,これも特徴的な形 状ということはできない。
したがって,本願意匠の基本的構成態様は,需要者である使用者の注意を 強くひくものとはいえないから,共通点1及び2に係る態様は,需要者に共 通の美感を起こさせ,両意匠の類否判断を決定付けるものであるとした本件 審決の判断は誤りである。
(3) 本願意匠の動作制御釦部 ア 電動歯ブラシの動作制御釦は,電動歯ブラシを動作させたり,止めたり, 動作モードを選択する際に必ず操作する部分であり,常に注意が向けられ る。また,需要者である使用者は,どのようなモードで使用するかを検討し ながら,電動歯ブラシに手を伸ばすため,常に露出されている動作制御釦 部は,電動歯ブラシを使用しようとした瞬間から動作が開始するまでの間, 必然的に注視し続ける対象となる。このように需要者である使用者が電動 歯ブラシを使用する際に必ず動作制御釦部を観察するから,動作制御釦部 が,全体と比較して僅かな範囲のものであるとしても,需要者である使用 者に対し,強い印象を与えるものということができる。
また,需要者は,釦が1つの場合は,歯を磨く際に迷わずその釦を押すこ とにより電動歯ブラシを動作させるが,釦が2つの場合は,それぞれの釦 の機能を考慮しながら釦を操作するため,2つの釦を注視することとなり, 釦の形態により注意が向けられる。
したがって,本願意匠の釦が,2つ縦に配され,僅かに凹部をなし,上の 釦の径より,下の釦の径がやや小さく形成している点は,最も強く需要者 の注意をひく部分であり,需要者である使用者の視覚を通じて起こさせる 美感に大きな影響を与えるというのが相当である。
イ 甲2及び甲3には,本体把持部に釦を縦に2つ配される態様の電動歯ブ 7 ラシの動作制御釦の記載があるが,当該釦の形態は,僅かに凹部をなし,上 の釦の径より,下の釦の径がやや小さく形成されている形態とは大きく相 違することから,それぞれの釦の形状が有する印象や更には両釦が互いに 相まって与える印象は,本願意匠の釦に係る印象と相違する。
したがって,甲2及び甲3から,電動歯ブラシ本体において,2つ縦に配 された釦が僅かに凹部をなし,上の釦の径より,下の釦の径がやや小さく 形成したものがありふれているということはできず,本願意匠の釦が需要 者の注意をひく部分でないということもできない。
(4) 類否判断の誤り 本願意匠と引用意匠とは,その態様が共通する部分については,使用に際 し特に注視する部分ではなく,需要者の注意を強くひくものとはいえないの に対し,本願意匠の釦が縦に2つ配されている態様(相違点1に係る本願意 匠の態様)は,上の釦の径より,下の釦の径がやや小さく形成されているとい う点と相まって,需要者の注意を強くひき,異なる美感を起こさせるもので あり,それ以外の共通点から生じる印象に埋没するものではない。
したがって,本願意匠と引用意匠とは,意匠に係る物品が共通し,形態にお いても類似する部分があるものの,本願意匠の要部である動作制御釦が需要 者に与える印象は引用意匠とは大きく異なるから,全体として類似しない。
(5) 小括 以上のとおり,本願意匠と引用意匠とは,全体として類似しないから,本願 意匠が意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当するとした本件審決の判断は 誤りである。
2 被告の主張 (1) 本願意匠の要部の主張に対し 電動歯ブラシの一般的な需要者は,電動歯ブラシの使用を勧める医療関係 者及び電動歯ブラシを使用するエンドユーザーであって,むし歯や歯周病予 8 防といった口腔ケアに関心の高い消費者である。
このような需要者は,電動歯ブラシ本体把持部のシャフト部に替えブラシを 取り付け,奥歯を含めた歯列全体の歯磨きをしている状態を想定し,本体把持 部を持つことによって効果的に歯磨きができるかについて注意を払うから,持 ちやすさに影響を及ぼす本体把持部の中央部の外形状や,歯に当たるブラシの 角度に影響する本体把持部とシャフト部がなす軸の態様に最も注目する。
したがって,本体把持部の動作制御釦の位置,大きさ及び形態は,操作時に 需要者の一定の注意をひく部分であるとしても,最も強く需要者の注意をひく 部分である旨の原告の主張は,失当である。
(2) 本願意匠の基本的構成態様の主張に対し ア 本体把持部の握りやすさや操作の容易さを重視する需要者は,本体把持部 の全体形状に特に注目することから,本体把持部が僅かに偏心している形状 を,本体把持部の底面に対して軸を垂直にしたまま上部にかけて側面視背面 側をただ窄めただけの形状とは区別する。そして,本体把持部が僅かに偏心 していることを認定した共通点1は,本願意匠と引用意匠の全体の骨格を成 すものであり,本体把持部の握りやすさや操作の容易さを重視し,本体把持 部の全体形状に特に注目をする需要者に対し,顕著な共通感を与えるもので あるから,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
また,シャフト部の背面側に設けられた略縦長形状の凹部は,シャフトの 正面視中央部に設けられた横断する段差と相まって,需要者が歯ブラシ部を 接続する際に目に付きやすく,その特徴を印象づける部位となっており,共 通点2は,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものである。
したがって,共通点1及び2に係る態様は,需要者に共通の美感を起こ させ,両意匠の類否判断を決定付けるものであるとした本件審決の判断に 誤りはない。
イ これに対し原告は,本願意匠と引用意匠の共通点1及び2は特徴的な形 9 状とはいえない旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,本件審決認定の共通点2のうち,シャ フトが本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒している点及びシャ フトの正面視中央部に横断する段差が設けられている点を看過している。
そして,シャフトが本体把持部の偏心にそって正面側に傾倒している点は, 把持する手と歯ブラシの角度を特定する要素である本体把持部とシャフト 部がなす軸の態様に係るものであり,需要者が注目をするものであるから, これを看過することはできない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(3) 本願意匠の動作制御釦部及び類否判断の誤りの主張に対し ア 前記(1)のとおり,需要者は,電動歯ブラシの本体把持部の握りやすさや 歯磨きのしやすさを重視するから,本体把持部の中央部を中心とした外形 状,把持する手と歯ブラシの角度を特定する要素である本体把持部とシャ フト部がなす軸の態様に注目をし,注意を注ぐものといえる。
他方で,動作制御釦の数が1つであるのか,2つであるのかの相違は,需 要者に特異な印象を与えるものとはいえない。また,本願意匠の2つの動 作制御釦は,1つは,本体把持部上端より全長約3分の1の箇所に配され, 引用意匠の動作制御釦とその位置が共通し,他の1つは,上記動作制御釦 の垂下にあたる本体把持部上端より全長約2分の1の箇所に配され,特異 な位置にあるとの印象を与えるものではない。さらに,本体把持部の上部 側に配された動作制御釦の直径より,その下部に配された動作制御釦の直 径が僅かに小さく形成されている2つの動作制御釦を有する本体把持部の 形態も,本願の優先日前に見られた態様であることからすると(乙1),需 要者の注意を特にひくものとはいえない。
したがって,本願意匠の2つの動作制御釦は,特に注意をひき,需要者に 格別に大きく異なる印象を与えるものではない。
10 そして,略円状の動作制御釦の1つを本体把持部中央上寄りに配した電 動歯ブラシと,上記のように配した1つの動作制御釦とその垂下に他の1 つの動作制御釦の2つの動作制御釦を設けた電動歯ブラシの合計2種類を 製造し,これらを同時に商品カタログに掲載して,販売のための申出を行 うことは,本願の優先日前から,ごくありふれたことである(乙1,2)。
イ 以上によれば,本願意匠と引用意匠は類似するから,本願意匠が意匠法 3条1項3号に掲げる意匠に該当するとした本件審決の判断に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由は理由がない。
当裁判所の判断
1 本願意匠と引用意匠の類否について (1) 本願意匠(別紙1)及び引用意匠(別紙2)の各形態,本願意匠と引用意 匠の共通点及び相違点に関する本件審決の認定(前記第2の2(2))に誤りが ないことは,当事者間に争いがない。
両意匠の意匠に係る物品は,電動歯ブラシの本体(把持部)であり,主な需 要者は,電動歯ブラシを使用する一般消費者である。そして,かかる需要者が, 電動歯ブラシを使用するときは,通常,シャフト部にブラシヘッドを装着した 電動歯ブラシの本体を手に取り,歯磨き粉を付けたブラシヘッドを口腔内に 入れてから本体の動作制御釦を押して始動した後,本体を把持しながら,ブラ シヘッドを歯に当てて歯磨きを行うことからすると,本体把持部の握りやす さや操作の容易さを重視し,本体把持部の全体形状に特に注目をするものと 認められる。
しかるところ,両意匠は,「全体は,隅丸長方形状の底部より,僅かに正面 側に偏心しながら,円状の上面部にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の電 動歯ブラシ本体把持部と,該本体把持部上面に設けられた,該上面の略半径を 直径とする略円柱状の基台部とその上に配された縦長板状のシャフト(シャフ ト部)で構成をされている点」(共通点1)及び「シャフトについて,本体把 11 持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒し,正面視中央部に横断する段差が設 けられ,背面側には略縦長矩形の凹部が設けられている点」(共通点2)で共 通する。
そして,共通点1は,底面に対して僅かに正面側に偏心した本体把持部の全 体形状に係るものであって,本体把持部の握りやすさ及び操作の容易性に及ぼ す影響が大きいこと,共通点2は,本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに 傾倒したシャフト部の形状に係るものであって,本体把持部の偏心した形状と 相まって歯に当たるブラシヘッドの角度に影響を及ぼすことに照らすと,共通 点1及び共通点2は,これを見る需要者に対し,全体として,共通の美感を起 こさせるものと認められる。
他方で,両意匠は,相違点1(本願意匠は,本体把持部の正面に上端より全 長約3分の1の箇所と,約2分の1の箇所に僅かに凹部をなす略円状の電動歯 ブラシ動作制御用釦が縦に2つ配されているのに対して,引用意匠は,上端よ り全長約3分の1の箇所に1つ配されるものとなっている点),相違点2(本 願意匠は,電動歯ブラシ動作制御用釦の外形線が一重の円状であるのに対して, 引用意匠は,該動作制御用釦の外形線が二重の円状となっている点),相違点 3(環状細線の位置),相違点4(本体把持部の下部の形状及び切り替えの有 無)及び相違点5(シャフト部の基台部の形状)において相違するが,これら の相違点から受ける印象は,両意匠の上記共通点から受ける印象を凌駕するも のではない。
したがって,本願意匠と引用意匠は,これらの相違点を考慮しても,需要 者の視覚を通じて起こさせる全体的な美感を共通にしているものと認めら れるから,本願意匠は,引用意匠に類似するものと認められる。
(2)ア これに対し原告は,@共通点1に係る「全体は,隅丸長方形状の底部よ り円状の上部にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の本体把持部と,略 円柱状の基台部と略縦長板状のシャフトとを有する電動歯ブラシ本体」の 12 構成態様は特徴的な形状であるとはいえない,A共通点1のうち,「本体 把持部が僅かに偏心していること」は,需要者に与える印象という観点か らは,従来から存在する上部にかけて側面視背面側をただ窄めただけの形 状と明確な区別のつくものではないため,特徴的な形状とはいえない,B 共通点2に係る「シャフト部の背面側に略縦長形状の凹部が設けられてい る点」は,その部位があまりに小さく,背面に備えられていることと相ま って,需要者の注意をひく部分とはなり得ないため,特徴的な形状という ことはできないとして,本願意匠の基本的構成態様は,需要者である使用 者の注意を強くひくものとはいえず,共通点1及び2に係る態様は,需要 者に共通の美感を起こさせるものとはいえない旨主張する。
しかしながら,上記@の点は,共通点1のうち,一般的な電動歯ブラシ の本体が有する形状と共通する一部の形状のみを取り上げたものであり, 共通点1の有する全ての形状について言及したものとはいえない。
また,上記Aの点は,本体把持部の全体形状に特に着目する需要者(前 記(1))においては,本体把持部が僅かに偏心している本願意匠の形状と 本体把持部の底面に対して軸を垂直にしたまま上部にかけて側面視背面 側を窄めただけの形状とを容易に区別するものと認められる。
さらに,上記Bの点は,共通点2のうち,一部の形状のみを取り上げた ものであり,シャフトが本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒し ている点及びシャフトの正面視中央部に横断する段差が設けられている 点を看過している。
以上のとおり,原告の上記主張は,共通点1及び共通点2の形状の一部 のみに着目したものであって,これらの共通点の全体が与える視覚的効果 を踏まえたものといえないから,採用することができない。
イ 次に,原告は,@歯を磨くという電動歯ブラシの機能の観点からは,需要 者が電動歯ブラシを操作する動作制御釦の位置,大きさ及び形態が最も強 13 く需要者の注意をひく部分であり,要部である,A需要者は電動歯ブラシを使用する際に必ず動作制御釦部を観察するから,動作制御釦部が,全体と比較して僅かな範囲のものであるとしても,需要者に対し,強い印象を与えること,釦が2つの場合は,それぞれの釦の機能を考慮しながら釦を操作するため,2つの釦を注視することとなり,釦が1つの場合と比べて,釦の形態により注意が向けられることに照らすと,本願意匠の釦が縦に2つ配されている態様(相違点1に係る本願意匠の態様)は,上の釦の径より,下の釦の径がやや小さく形成されているという点と相まって,需要者の注意を強くひくものであり,釦が1つ配されている態様の引用意匠とは異なる美感を起こさせるものであるとして,本願意匠の要部である動作制御釦が需要者に与える印象は引用意匠とは大きく異なるから,両意匠は,全体として類似しない旨主張する。
しかしながら,前記(1)認定の電動歯ブラシの通常の使用態様に照らすと,需要者は,本体把持部の握りやすさや操作の容易さを重視し,本体把持部の全体形状に特に注目をするものと認められ,動作制御釦の位置,大きさ及び形態は,電動歯ブラシの操作時に需要者の一定の注意をひく部分であるとしても,最も強く需要者の注意をひく部分であるとはいえない。
また,甲2(意匠登録第1478109号の意匠公報)記載の「電動歯ブラシ本体」の意匠(別紙3)及び甲3(意匠登録第1219080号の意匠公報)記載の「電動歯ブラシ」の意匠(別紙4)によれば,電動歯ブラシに動作制御釦を2つ配することは,本願の優先日前に,普通に行われていたものと認められる。そして,本願意匠の2つの動作制御釦は,1つは,本体把持部上端より全長約3分の1の箇所に配され,引用意匠の動作制御釦とその位置が共通し,他の1つは,上記動作制御釦の垂下にあたる本体把持部上端より全長約2分の1の箇所に配され,特異な位置にあるとの印象を与えるものではない。
14 加えて,本体把持部の上部側に配された動作制御釦の直径より,その下部 に配された動作制御釦の直径が僅かに小さく形成されている2つの動作制 御釦を有する電動歯ブラシの本体把持部の形態は,本願の優先日前に公知 であったこと(乙1)に照らすと,本願意匠の動作制御釦が,2つ縦に配さ れ,僅かに凹部をなし,上の釦の径より,下の釦の径がやや小さく形成して いる点は,特徴的なものとはいえず,需要者の注意を特にひくものとはいえ ないから,本願意匠の動作制御釦と引用意匠の動作制御釦の構成態様の違 いが需要者の視覚を通じて起こさせる両意匠の全体的な美感に影響するも のと認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 以上のとおり,本願意匠は,引用意匠に類似するものと認められるから, これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
2 結論 以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消 すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 古河謙一