関連審決 |
不服2017-10588 |
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事件 |
平成
30年
(行ケ)
10147号
審決取消請求事件
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原告高山商事株式会社 同訴訟代理人弁理 士福田信雄 被告特許庁長官 同 指定代理人小林裕和 内藤弘樹 正田毅 豊田純一 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2019/04/18 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2017-10588号事件について平成30年8月27日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,意匠登録出願拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,下記2の意匠登録を受けようとする意匠が,下記3の意匠1及び意匠2の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合を「形態」ということがある。)に基づいて容易に創作をすることができたかどうか(意匠法3条2項)である。 1 特許庁における手続の経緯(乙16,弁論の全趣旨) 原告は,平成28年4月22日,下記2の意匠について意匠登録出願をしたところ(意願2016-008920号。以下「本願」という。,平成29年4月6日 )付けで拒絶査定を受けたため,同年7月14日,拒絶査定不服審判を請求した(不服2017-10588号)。 特許庁は,平成30年8月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年9月18日,原告に送達された。 2 本願意匠 本願の意匠登録を受けようとする意匠(以下「本願意匠」という。)は,別紙第1のとおりである(乙16)。 3 審決の理由の要点 (1) 本願意匠 本願意匠の意匠に係る物品は, 「卓上敷マット」であり,その形態は,以下のとおりである。 ア 全体の構成態様 全体は,平面視略横長長方形(縦横比は約1:1.7)のシート状であり,長手方向に多数敷かれた真菰が略等間隔の5本の糸で短手方向に編まれて,外周縁に細帯状の化粧縁布が設けられている。 イ 編み糸の色彩 編み糸の色彩は平面視左から緑,赤,白,紫,黄である。 ウ 化粧縁布の模様 化粧縁布には濃緑色の地に金色の亀甲文様が配されて,その亀甲中央に金色の菱紋状模様が表されている。 (2) 意匠1 意匠1(別紙第2の2頁に掲載。3頁は拡大図)の意匠に係る物品は,机の上に敷かれた「マット」であって,真菰で形成されており,その形態は以下のとおりである。 ア 全体の構成態様 全体は,平面視略横長長方形(縦横比は約1:1.8)のシート状であり,長手方向に多数敷かれた真菰が略等間隔と推認される5本の糸で短手方向に編まれて,外周縁に細帯状の化粧縁布が設けられている。 イ 編み糸の色彩 編み糸の色彩は,別紙第2の1頁によると左端寄りに緑(載置されたハス葉の上に現れている),中央から右に白,赤,黄であり,別紙第2の2,3頁によると右端寄りに緑,その左が紫であるから,別紙第2の1頁の置き方によると,平面視左から緑,紫,白,赤,黄の順に並んでいる。 ウ 化粧縁布の模様 化粧縁布には濃緑色の地に金色の亀甲文様が配されて,その亀甲中央に金色の菱紋状模様が表されている。 (3) 意匠2 別紙第3の意匠2に係る物品は,盆飾りを載せる「盆茣蓙」であり,その形態は,以下のとおりである。 ア 全体の構成態様 全体は,平面視略横長長方形(縦横比は約1:1.8)のシート状であり,長手方向に多数敷かれた真菰が略等間隔の5本の糸で短手方向に編まれて,外周縁に細帯状の化粧縁布が設けられている。 イ 編み糸の色彩 編み糸の色彩は平面視左から緑,紫,白,赤,黄である。 ウ 化粧縁布の模様 化粧縁布には濃緑色の地に金色の亀甲文様が配されて,その亀甲中央に金色の菱紋状模様が表されている。 (4) 創作容易性の判断 ア 「自由な発想から問題解決を行う」ことをポイントにして, 「単一の業界展示会では成しえない,業種の垣根を越えた新たな出会いがある,価値ある見本市」を標榜する「東京インターナショナル・ギフト・ショー春2016」や「東京インターナショナル・ギフト・ショー春2015」などのような異業種交流の見本市や展示会では,テーブル掛けなどの物品分野のものだけではなく,慶弔用品も併せて出展されている。そして,@このような見本市などにおいて,慶弔用品の業界や,「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の業界が出会い,交わる可能性があること, 「卓上敷マット」 A を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者は,上記見本市などをよく訪問し,慶弔用品に触れる機会は多いといえることからすると,「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が,慶弔用品の形態に基づいてテーブル掛けなどの物品分野の意匠の創作をすることは容易である。 イ 慶弔用品の物品分野において,意匠1のように,机(経机など)の上に敷くマットとして真菰で形成されたものを使用することは,本願の出願前に広く知られていたと認められるから,テーブル掛けなどの物品分野の当業者が, 「卓上敷マット」について真菰で形成されたものを創作することが困難であるとはいえない。 ウ そして,本願意匠に見られるような,全体を平面視略横長長方形のシート状にして,長手方向に多数敷かれた真菰を略等間隔の5本の糸で短手方向に編み,外周縁に細帯状の化粧縁布を設けて,編み糸の色彩を平面視左から緑,紫,白,赤,黄の5色とし,化粧縁布の地を濃緑色にして金色の菱紋状模様付き亀甲文様を配した形態は,意匠2のとおり,本願の出願前に公然知られている。 エ 本願意匠は,意匠2の形態に基づいて,@全体の縦横比を約1:1.8から約1:1.7に調整し,A編み糸の色彩の順序を平面視左から緑,赤,白,紫,黄に変更したものであるが,前者については,テーブル掛けには様々な縦横比のものが存在することを踏まえると,テーブル掛けなどの物品分野の当業者にとってテーブル掛けの縦横比を若干調整することは容易であり,そこに格別の創作性を見いだすことはできない。後者についても,テーブル掛けには様々なカラーバリエーションが存在することを踏まえると,本願意匠の構成要素である編み糸の色彩を適宜変更することはありふれた手法であるというべきであり,また,両意匠の色彩が同じ5種類であることに変更はなく,意匠2の編み糸の配列に基づいて,左から2番目と4番目の編み糸の色彩を交換することが特別な創作であるということはできない。 オ したがって,本願意匠は,「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者が意匠1及び意匠2の形態に基づいて容易に創作することができたものである。 |
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原告主張の審決取消事由(容易創作性の判断の誤り)
1 意匠1及び意匠2の形態を「卓上敷マット」に転用することは困難であること (1) 審決は,意匠1について,慶弔用品としての真菰で形成されたマットが,一般の机の上に敷かれることについても広く知られている旨認定しているが,これは誤りである。なぜなら,意匠1の真菰で形成されたマットが敷かれているのは, 「供物机」や「経机」と呼ばれる主に仏壇などと組み合わされる仏具の一種である。真菰で形成されたマットが一般の机やテーブルに敷かれる例は皆無であり,このことは慶弔用品の物品分野の当業者にとっては常識である。日常生活で一般に使用されている机に慶弔用品を祀ることは,浄・不浄の概念からも決してあり得ないことであり,また,当該慶弔用品としての真菰で形成されたマットを用いた儀礼からみても,一般需要者が日常的に使用する机に敷くことは決してあり得ることではない。 (2) また,意匠2に係る物品である「盆茣蓙」と本願意匠に係る物品である「卓上敷マット」とでは,その用途や機能が異なっていて非類似である。なぜなら, 「卓上敷マット」は,「テーブルマット」や「ランチョンマット」とも呼ばれるもので,テーブル上に敷かれて上に花瓶などを載置するほか,単にテーブル上に敷かれてテーブルを装飾するために使用されるものである。これに対し, 「盆茣蓙」とは,現在では盂蘭盆において仏壇に敷いてお供え物を載置するために使用されるといった,慶弔用品の一種となっている。 「卓上敷マット」と「盆茣蓙」とは,何かを載置するために使用される点で一部の機能が共通するものの, 「卓上敷マット」は何も載置せずに使用される場合があるのに対し, 「盆茣蓙」が何も載置しない使用態様は皆無である点で,両物品の全ての機能が共通するものではない。また, 「卓上敷マット」が日常的に花瓶などを載置するものであるのに対し, 「盆茣蓙」がお盆の時期といった一定の時期にお供え物を載置するものである点で,両物品の用途は全く相違する。 さらに, 「卓上敷マット」が日常的に使用される食卓机などの上に敷かれるものであるのに対し, 「盆茣蓙」は慶弔用品であって祭壇や「供物机」「経机」と呼ばれる仏 ,壇などと組み合わされる仏具の上に敷かれるものである点でも,両物品の用途は全く相違する。 (3) 審決は, 「東京インターナショナル・ギフト・ショー春2016」や「東京インターナショナル・ギフト・ショー春2015」などのような異業種が集う見本市などに慶弔用品が出展されることがあるところ,@このような見本市などにおいて,慶弔用品の業界や, 「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の業界が出会い,交わる可能性があること,A「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者は,異業種交流の見本市などをよく訪問し,慶弔用品に触れる機会は多いといえることから, 「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の通常の知識を有する者が,慶弔用品の形態に基づいてテーブル掛けなどの物品分野の意匠を創作することは容易である旨認定している。 ア しかし,上記のような審決の論理からすると,例えば百貨店や大型量販店など,分野に関係なくあらゆる商品が同スペースにて展示され得る状況下において,全てのあらゆる物品分野間で創作容易性を肯定せざるを得なくなる。 イ 審決が重視する前記ギフトショーの展示の趣旨等についても,単に異業種交流を示唆しているものにすぎない。 自らの商品デザインにつき異業種商品のデザインを盗用することは信義に反する行為であり,前記ギフトショーの趣旨は,デザイン盗用を積極的に奨めるものではない。また,たとえ同じ見本市などに出展されることがあったとしても,機能も用途も異なる商品に係る異業種間において,物品デザインを積極的に類似させようとすること自体が稀であり,創作容易性を認定し得るものではない。 ウ 意匠1や意匠2のような慶弔用品は,盆や祀事などの慶弔事に使用され,一時的に飾られ短期間で終わってしまう季節ものであり,当該慶弔用品を目にする取引者,需要者も,そういった慶弔事に使用される特別な用品として看取するのが通常である。他方,本願意匠のようないわゆる日用品は,広く一般に使用され,比較的長期的に日常生活の中で使用されるものであり,取引者,需要者も,そういった日頃使用される一般的な用品として看取するのが通常である。慶弔用品に接する取引者,需要者が,それを日常的に使用される消費財へ転用しようとは,常識的に考えつくものではない。 また,前記ギフトショーに慶弔用品として真菰で形成されたマットのみが出展された事実については確認できない。原告が「東京インターナショナル・ギフト・ショー春2016」に出展した「お盆飾り」も,真菰で形成されたマットと,その上に載置されるお供え物のセット商品であって,展示もお供え物が載置された状態でされたものであり,それに接した取引者,需要者は,真菰で形成されたマットそのものではなく,上に載置されたお供え物の方へ注意をひかれる。 エ 以上のとおり,前記ギフトショーにおいて,慶弔用品として真菰で形成されたマットに接した取引者,需要者は,それを消費財の物品分野に属する「卓上敷マット」に転用することを考えない。 2 意匠2の形態に基づいて本願意匠の形態を創作することは容易でないこと 審決は,本願意匠は,意匠2の形態に基づき編み糸の色彩の順序を平面視左から緑,赤,白,紫,黄に変更し,全体の縦横比を約1:1.8から約1:1.7に調整したまでであるとしている。 しかし,畳や茣蓙,むしろなどの物品に係る形態は,真菰や井草の本数・密度・質感・色彩,化粧縁布の幅や模様,全体幅の比率など,ごく細部の相違によって特徴が創出されるものであり,看者をしてその様な細部によって美感が想起されることは,当該物品の取引者,需要者にとって当然の事実である。現に,意匠登録第1406899号をはじめとする,畳(畳表材)や茣蓙,化粧縁布などに関する多数の登録例が存在しかつそれらの登録例における相違点を参照すると分かるとおり,特許庁での審査においてもこのような論は認められている。 本願意匠と意匠2とでは,真菰と直交方向に配置された5色の糸の配色に相違が存し,この5色の糸の配色は,全体が同一色系の真菰地の中にあって明らかに目立つものであり,取引者,需要者に必ず看取されるものであって,視覚に与える影響は決して少なくなく,真菰の本数や化粧縁布の幅,全体幅の比率と併せて,強く別異の印象をもたらし得る特徴的な部分である。 全体の縦横比についても,意匠2が約1:1.8に対し,本願意匠が約1:1.7を採用しており,全体幅の比率についても明らかな相違が見受けられる。 これらの本願意匠と意匠2との相違点は,共通点を凌駕し得る非常に重要かつ大きな特徴的相違といえる。このように複数の相違点が存在すると共に,それらの相違が取引者,需要者の視覚に大きな影響を与えて強く別異の印象をもたらし得る特徴的な部分であることからすると,本願意匠と意匠2とは,非類似であることは明らかであり,仮に意匠2の形態に基づいたとしても,本願意匠の形態について当業者といえども容易に創作し得るものではない。 |
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被告の主張
1 本願意匠の形態の創作容易性について (1) 意匠1及び意匠2の形態を「卓上敷マット」に転用することについて ア 本願意匠に係る物品は,「卓上敷マット」であり,「卓」の字義が広辞苑によると「テーブル。机。」であること(乙1の1頁)及び本願の願書の【意匠に係る物品の説明】 「卓上敷マット」 に の用途が何ら記載されていないことからすると,本願意匠の用途は特に限定されず,卓上に使われる汎用途のものであると解され,慶弔用品としても用いられ得るものである。 イ 意匠1は,慶弔用品の一部を構成する経机の上に置かれているところ,経机が小さな机であるから,小さな机の上,すなわち卓上に意匠1が使われている。 意匠2に係る物品は,「盆茣蓙」であるが,「盆茣蓙」の字義が日本国語大辞典によると,「盂蘭盆の時に,精霊棚に敷くござ。」であること(乙2の1頁)及び精霊棚を作ることに代えて,現在では仏壇の前に小机をおくだけで十分であるとされていること(乙3の1頁)からすると,意匠2に見られるような盆茣蓙は,仏壇の前におかれた小さな机の上,すなわち,卓上に敷かれることがあると解される。そして,実際に,盆茣蓙が小机などに敷かれることが説明として記載されている登録意匠も存在する(乙4)。 ウ 本願の出願前に開催された「東京インターナショナル・ギフト・ショー」では,単一の業界展示会では成しえない, 「 業種の垣根を越えた新たな出会いがある,価値ある見本市」が標榜されている(乙5〜8)。また,原告は,上記ギフトショーにおいて慶弔用品を出展しており,同ギフトショーのガイドブックの中で, 「お盆用品セット」を紹介し,東京ビッグサイトのブースに「お盆飾り」を出展している(乙5〜7)。これらに加え,@上記ギフトショーのガイドブック(乙5〜8)が大量に配布されるなどしていたこと,A上記ギフトショーには,延べ19万人以上の多くの来場者があり,かつ来場者が所属する会社の主な取扱商品で最も多いのが「生活雑貨」であったこと(乙12〜14),B異業種が集う見本市などは,上記ギフトショー以外にもあったこと(乙15)からすると,異業種が集う見本市などにおいて,「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者が,慶弔用品に触れる機会は多いといえ,同当業者が,慶弔用品の業界で創作されている慶弔用品の形態からヒントなどを得て,テーブル掛けなどの物品分野の業界における意匠の創作に,その形態を採り入れることは大いにあり得るというべきである。 エ 前記イのとおり,意匠1(意匠に係る物品「マット」)と意匠2(意匠に係る物品「盆茣蓙」)は,共に卓上に使われるものである一方,本願意匠(意匠に係る物品「卓上敷マット」)も,前記アのとおり,卓上に使われる汎用途のものであって用途は限定されておらず,本願意匠の意匠に係る物品は,意匠1及び意匠2の意匠に係る物品と,物品分野は異なるものの,卓上に使われるという点では共通している。 そして,卓上敷マットを含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者は,前記ウのとおり,前記ギフトショーのような見本市などで触れる機会の多い慶弔用品の形態に基づいてテーブル掛けなどの物品分野の意匠の創作をすることは容易である。また,そのような当業者にとって同一の素材を複数並べて「卓上敷マット」を創作することもありふれた手法であるから,慶弔用品に触れる機会を通じて,当業者が多数の真菰を並べて敷いてシート状に形成した「卓上敷マット」を創作することは容易であるということができる。 (2) 意匠2の形態に基づいて本願意匠の形態を創作することが容易であること テーブル掛けには様々な縦横比のものが存在することを踏まえると,テーブル掛けなどの物品分野の当業者にとってテーブル掛けの縦横比を若干調整することはありふれた手法であり(乙10) 意匠2の形態に基づいて本願意匠の全体形状の平面 ,視縦横比を約1 1. : 7に調整することに格別の創作性を見いだすことはできない。 また,テーブル掛けには様々なカラーバリエーションが存在すること(乙9)を踏まえると,本願意匠の構成要素である編み糸の色彩を適宜変更することはありふれた手法であるというべきであり,意匠2の編み糸の配列に基づいて,左から2番目と4番目の編み糸の色彩を交換することが特別な創作であるということはできない。 2 原告の主張に対する反論 (1) 原告は,審決が,「意匠1に係る物品である慶弔用品としての真菰で形成されたマットが,机の上に敷かれることについても広く知られている」と認定したことを論難するが,審決は,真菰で形成されたマットを机の上に敷くことが,慶弔用品の物品分野において本願の出願前に広く知られていると認定しており,居間などに置かれている日常生活で一般に使用されている机の上に真菰で形成されたマットを敷くことが本願の出願前に広く知られていると認定したわけではなく,その認定に誤りはない。 (2) 原告は,取引者,需要者は,慶弔用品の形態を「卓上敷マット」のような消費財で異なる物品分野に属するものに転用することは考えつかないと主張する。 しかし,意匠法3条2項の判断に当たっては,意匠2のような出願前に公然知られた形態を選択し,それに基づいて本願意匠の創作が容易であると判断するのであり,選択の元になる意匠2に係る物品が,本願意匠の意匠に係る物品と異なっていたとしても,同項の規定による創作容易性の判断に影響はない。 また,本願意匠を容易に創作することができたか否かの主体は取引者,需要者ではなく,テーブル掛けなどの物品分野の当業者である。 審決は,当業者が,慶弔用品である盆茣蓙の形態に基づいて本願意匠を容易に創作することができたと判断したのであって,慶弔用品としての用途及び機能を有する慶弔用品を,卓上敷マットを含むテーブル掛けなどの物品分野にそのまま適用することが容易であると判断したものではなく,具体的専用的な用途及び機能を有する慶弔用品そのものを日常的に使用される消費財へ転用することの是非を述べる原告の主張は失当である。 (3) 原告は,審決が,慶弔用品が一般の消費財を展示する前記ギフトショーをはじめとする見本市などに出展されることがあることを創作容易性の根拠としたことを批判する。 しかし,異業種が集う見本市などにおいて,テーブル掛けなどの物品分野の当業者(インテリア・デザイナーなど)が,慶弔用品に触れる機会は多く,同当業者が,慶弔用品の業界で創作されている慶弔用品の形態からヒントなどを得て,テーブル掛けなどの物品分野の業界における意匠の創作に,その形態を採り入れることは大いにあり得るのは前記のとおりである。 また,原告は,前記ギフトショーの趣旨は,デザイン盗用を積極的に奨めるものではないとも主張するが,デザイン盗用を推奨する異業種交流はあり得ず,盗用対策と異業種交流は両立する。 (4) 原告は,意匠2と本願意匠の相違点が取引者,需要者の視覚に大きな影響を与えて強く別異の印象をもたらし得る特徴的な部分であることからすると,創作非容易であると主張する。 しかし,意匠法3条2項の創作容易性の判断は,当業者の観点から見て意匠の創作が容易であるかの判断であって,同条第1項の新規性の判断のように需要者の観点から見た意匠の美感の異同についての判断とは異なるものであり,本願意匠が意匠2と印象や美感が異なっていたとしても,創作容易性の判断に影響はない。 原告が引用する意匠登録第1406899号は,茣蓙,畳表,座布団及びマットレスや枕などの寝具類の表地として使用する「茣蓙地」の意匠であるから,卓上敷マットを含むテーブル掛けなどの物品分野の例ではない。 |
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当裁判所の判断
1 意匠法3条2項について 意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合を基準として,それからその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,上記公然知られたモチーフを基準として,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性を問題とするものである(最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和48年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号287頁参照)。 2 本願意匠の認定 本願意匠は,別紙第1に記載されたもので,審決が認定した前記第2の3(1)のとおりのものであると認められる。 3 意匠2の認定 意匠2は,別紙第3に記載されたもので,審決が認定した前記第2の3(3)のとおりのものであると認められる(乙18) 。 4 本願意匠と意匠2の対比 (1) 前記2,3からすると,本願意匠と意匠2は,以下の点において共通する。 ア 全体は,平面視略横長長方形のシート状であり,長手方向に多数敷かれた真菰が略等間隔の5本の糸で短手方向に編まれて,外周縁に細帯状の化粧縁布が設けられている点。 イ 前記化粧縁布には濃緑色の地に金色の亀甲文様が配されて,その亀甲中央に金色の菱紋状模様が表されている点。 (2) 前記2,3からすると,本願意匠と意匠2は,以下の点において相違する。 ア 平面視略横長長方形の縦横比について,本願意匠は,約1:1.7であるのに対し,意匠2は,約1:1.8である点(相違点1)。 イ 短手方向に編まれた5本の編み糸の色彩について,本願意匠は,平面視左から緑,赤,白,紫,黄であるのに対し,意匠2は,平面視左から緑,紫,白,赤,黄である点(相違点2)。 5 創作容易性についての判断 (1) 意匠1及び意匠2の形態を本願意匠に係る物品である「卓上敷マット」に転用することについて ア(ア)a 証拠(乙3,4,17)及び弁論の趣旨によると,別紙第2記載の意匠1は,審決が認定した第2の3(2)のような形態であり,本願の出願日前に慶弔用品の分野において,真菰を並べて形成されたマットを仏壇の前に置かれた経机や小机の上に敷くことは広く知られていたものと認められる。 b 原告は,審決が,真菰を並べて形成されたマットが一般的な机の上に敷かれることが広く知られていると認定したのが誤りであるとするが,審決は,その13頁14〜16行目で, 「机(経机など)の上に敷くマットとして真菰で形成されたものを使用することは,慶弔用品の物品分野において本願の出願前に広く知られている」と認定しているから,審決のいう広く知られている対象となる「机」は一般的な机ではなく, 「慶弔用品」である「経机」などを指すことは明らかである。 したがって,原告の上記主張はその前提を欠いている。 (イ) 証拠(乙18)及び弁論の全趣旨によると,意匠2が記載された意匠公報は,平成14年8月26日に発行されており,意匠2に係る物品である「盆茣蓙」の形態は,本願の出願日前に公然知られていたと認められる。 イ 次に,本願意匠に係る物品である「卓上敷マット」の物品分野の当業者が,慶弔用品の分野における意匠1及び意匠2の形態を「卓上敷マット」に転用することを容易に想到するかどうかについて検討する。 (ア) 「卓上敷マット」は一般のテーブルや机に敷かれるものを含む日常生活に用いられる物品である一方,証拠(乙2〜4,17,18)及び弁論の全趣旨によると,意匠1の「マット」や意匠2の「盆茣蓙」は,現在では主として盆の時期に精霊棚や仏壇の前に置く経机や小机の上に敷き,上に位牌やお供え物などを置く慶弔用品の分野の物品であり,その物品分野は「卓上敷マット」とは異なるものである。 しかし,いずれもテーブルや机という「卓」(乙1によると,「卓」にはテーブルや机が含まれると認められる。)の上に敷かれて使用されるものであるという点でその用途が共通している。また,意匠1の「マット」や意匠2の「盆茣蓙」の形状は,いずれも「卓上敷マット」と同じマット状であり,上に物を載置することができる点においてその機能が共通している。 (イ) そして,証拠(乙5〜8,12〜15)及び弁論の全趣旨によると,本願の出願日前において, 「盆茣蓙」のような慶弔用品と「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品が,同一の見本市などに出品されることがあり, 「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者が, 「盆茣蓙」のような慶弔用品の形態に接する機会は十分あったものと認められる。 (ウ) 以上を考え併せると「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者は,物品分野は異なるものの,意匠1から着想を得て,真菰を並べて形成された「卓上敷マット」を想到し,更に真菰を並べて形成された慶弔用品の「盆茣蓙」である意匠2の形態を本願意匠に係る物品である「卓上敷マット」に転用することを容易に想到することができたと認められる。 なお, 「卓上マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野と「盆茣蓙」などの慶弔用品の物品分野では,常に物が載置されるかどうかや一定の時期にのみ使用されるかどうかに違いがあるとしても,これらの違いは,上記認定の用途や機能の共通性に比べるとささいな違いというほかなく,上記判断が左右されることはない。 ウ 原告は,@「盆茣蓙」と「卓上敷マット」とは,用途や機能が異なっていて非類似であること,A意匠1や意匠2のような真菰で形成されたマットは,慶弔用品で仏具の上に敷かれるものであるところ,日常生活で使用されている机に慶弔用品を祀ることは,浄・不浄の概念からもあり得ないこと,B前記ギフトショーについての審決の論理を前提とすると,百貨店などであらゆる商品が同スペースで展示されていることから,全てのあらゆる物品分野間で創作容易性が肯定されてしまうこと,C自らの商品デザインにつき異業種商品のデザインを盗用することは信義に反すること,D慶弔用品としての真菰で形成された「盆茣蓙」に接した取引者,需要者は,「盆茣蓙」の上にあるお供え物に注目することなどを理由として,「盆茣蓙」についての形態を「卓上敷マット」に転用することを考えないと主張する。 (ア) 上記@について,前記1で説示したとおり,意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的な公然知られたモチーフを基準として,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性を問題とするものであるから,物品が非類似であることが直ちに創作が容易でないことに結びつくものではない。そして,本件で転用を容易に想到できることは前記イのとおりである。 (イ) 上記Aについて,原告の主張は, 「盆茣蓙」が慶弔用品であって,宗教的感情によって転用が妨げられるというものであると解されるが,証拠(乙2)によると, 「盆茣蓙」について,かつては, 「丁半博打で,壺を伏せる場所へ敷くござ」という慶弔用品以外の用途もあったと認められる上,前記イ(ア)認定の用途や機能の共通性に照らすと,宗教的感情によって当業者における意匠1及び意匠2の形態の転用が妨げられるとは解されない。 (ウ) 上記Bについて,前記イの判断は,見本市などにおいて,慶弔用品と「卓上敷マット」を含む物品が出品されていることのみを理由とするものではなく,前記イ(ア)認定の用途や機能の共通性も理由としているから,全てのあらゆる物品分野間で形態の創作容易性が認定されてしまうことにはならない。 (エ) 上記Cについて,本願意匠に創作容易性を認めたからといって,デザインの盗用を認めることにはならず,デザインの盗用とは関係がない。 (オ) 上記Dについて,創作容易性の基準となるは取引者,需要者ではなく,「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者であって,その視点や着眼点が取引者,需要者と同じとはいえず,また,当業者において転用を容易に想到できることは前記イのとおりである。 (カ) 以上からすると,原告の上記主張は採用することができない。 (2) 相違点1,2についての判断 前記(1)のとおり,意匠2の形態を本願意匠に係る物品である「卓上敷マット」に転用することは容易であると認められるから,次に,前記4で認定した意匠2と本願意匠との相違点1,2について,創作が容易であるかについて検討する。 ア 相違点1について,証拠(乙9,10)及び弁論の全趣旨によると, 「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者にとって, 卓上敷マット」 「の縦横比を必要に応じて適宜調整することはありふれた手法であると認められる。 したがって,意匠2の平面視略横長長方形の縦横比を本願意匠の縦横比に変更することについて,意匠の着想の新しさや独創性があるとはいえない。 イ 相違点2について,本願意匠と意匠2で用いられている編み糸の色彩自体に違いはなく,本願意匠の構成は,意匠2の構成から紫色の糸と赤色の糸の配置を入れ替えたにすぎないものである。また,証拠(乙9)及び弁論の全趣旨によると, 「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野において,色彩を適宜変更することはよく見られる手法であると認められる。 そうすると,意匠2の5本の編み糸のうち,紫色の糸と赤色の糸の配置を入れ替えて本願意匠の構成にすることについて,意匠の着想の新しさや独創性があるとはいえない。 ウ 以上からすると,本願意匠は,意匠2の形態に基づいて,当業者において容易に創作できたものと認められる。 エ 原告は,本願意匠と意匠2との間には,縦横比や5本の編み糸の色彩といった,共通点を凌駕し得る非常に重要かつ大きな特徴的相違があるから,本願意匠と意匠2は非類似であり,意匠2の形態に基づいたとしても,本願意匠は,当業者において容易に創作できないと主張する。 しかし,前記1のとおり,意匠法3条2項は,公然知られたモチーフを基準として,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性を問題とする規定であって,物品の意匠について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とする同条1項3号とは考え方の基礎を異にするものである。したがって,意匠法3条1項3号の類似性の判断と同条2項の創作容易性の判断とは必ずしも一致しないものである。そして,これまでに検討してきたところに照らすと,本願意匠と意匠2の相違点1,2は,いずれも「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者であれば容易に創作できたものであるといえ,これに反する原告の主張を採用することはできない。 |
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結論
以上のとおり,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |