関連審決 | 無効2018-880005 |
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事件 |
平成
30年
(行ケ)
10181号
審決取消請求事件
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原告株式会社イマック 同訴訟代理人弁護士 伊原友己 同訴訟代理人弁理士 楠本高義 三雲悟志 藤河恒生 被告 シーシーエス株式会社 同訴訟代理人弁理士 西村竜平 齊藤真大 上村喜永 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2019/07/03 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2018-880005号事件について平成30年11月27日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 被告は,平成16年4月12日,意匠に係る物品を「検査用照明器具」とする別紙1「本件意匠図面」記載の形態(図面の実線で表された部分)の部分意匠(以下「本件意匠」という。)の出願をし,同年10月22日に意匠権の設定登録を受けた(意匠登録第1224615号。甲29の2。以下「本件意匠登録」という。。 ) ? 原告は,平成30年5月10日,本件意匠登録について無効審判の請求をし,特許庁は,同請求を無効2018-880005号事件として審理した。 ? 特許庁は,同年11月27日, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年12月6日にその謄本が原告に送達された。 ? 原告は,同月27日,本件審決の取消しを求める本件訴えを提起した。 2 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本件意匠については,@下記アないしウの各意匠(順に,「引用意匠1」 「引用意匠2」 ,及び「引用意匠3」という。)との共通点及び相違点を検討したところによれば,本件意匠が上記各引用意匠に類似する意匠に該当するとはいえず,また,A上記各引用意匠のそれぞれに基づき,引用意匠1及び同2に基づき,又は引用意匠1及び同3に基づいて,当業者が容易に創作することができた意匠に該当するともいえないから,意匠法3条1項3号又は同条2項のいずれによっても,その登録を無効とすることはできない,というものである。 ア 引用意匠1:国峰尚樹「エレクトロニクスのための熱設計完全入門」(日刊工業新聞社,平成9年7月18日発行。甲1)171頁「図15-7代表的ヒートシンクの形状」に「タワー型」と記載された意匠(別紙2「引用意匠1図面」参照) イ 引用意匠2:Aほか1名の作成に係る平成30年5月8日付け「説明書(T)」(甲2)に記載された製品の意匠(別紙3「引用意匠2図面」参照) ウ 引用意匠3:意匠登録第1175712号公報(発行日平成15年6月16日。 甲3)に係る意匠(別紙4「引用意匠3図面」参照) ? 本件審決は,本件意匠について,以下のとおり認定した。 本件意匠は,部分意匠として意匠登録を受けようとするものである。その形態は,別紙1「本件意匠図面」記載の図面の実線で表された部分(以下「本件実線部分」ともいう。)のとおりであり,これを具体的に説明すれば次のとおりである。 ア 全体の構成態様 正面から見て,横向き円柱状の軸体にそれよりも径が大きい3つのフィン部が等間隔に設けられて一体になっている(以下,本件意匠と各引用意匠とを通じて,軸体の後端に設けられたフィンを「後端フィン」といい,軸体の中間に設けられたフィンを「中間フィン」という。 。 ) 2つの中間フィンは同形同大であるが,後端フィンは,中間フィンとほぼ同形であるものの,幅(厚み)が中間フィンに比べて大きく,後端面の外周角部が面取りされている。 イ 各フィンの右側面形状 各フィンを右側面(又は右側面斜め方向)から見るとその外周は円形状である。 ウ 各フィンの正面形状 各フィンを正面から見ると,中間フィンの横幅:縦幅は約1:24で,後端フィンのそれは約1:12である。後端フィンの厚みは,中間フィンの約2倍である。 エ 軸体と各フィンの構成比 正面から見た軸体の縦幅と各フィンの最大縦幅の比は,約1:5である。また,軸体の横幅(=各フィンの間隔)と中間フィンの最大横幅の比は,約3:1である。 3 取消事由 ? 引用意匠1に基づく取消事由 ア 本件意匠と引用意匠1の類否判断の誤り(取消事由1) イ 引用意匠1に基づく創作容易性判断の誤り(取消事由2) ウ 引用意匠1及び同2に基づく創作容易性判断の誤り(取消事由3) エ 引用意匠1及び同3に基づく創作容易性判断の誤り(取消事由4) ? 引用意匠2に基づく取消事由 ア 本件意匠と引用意匠2の類否判断の誤り(取消事由5) イ 引用意匠2に基づく創作容易性判断の誤り(取消事由6) ? 引用意匠3に基づく取消事由 ア 本件意匠と引用意匠3の類否判断の誤り(取消事由7) イ 引用意匠3に基づく創作容易性判断の誤り(取消事由8) |
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当事者の主張
1 取消事由1(本件意匠と引用意匠1の類否判断の誤り)について 〔原告の主張〕 ? 引用意匠1の物品認定及び意匠認定について 本件意匠は,検査用照明器具において放熱機能を担う放熱部のみを抽出した部分意匠である。これに対し,引用意匠1の意匠に係る物品は,電子機器等に一体的に取り付けられ使用される汎用的な放熱装置(ヒートシンク)であり,そのうち平板な円盤が等間隔で連設されているタワー型放熱フィンであると認定すべきである。 また,引用意匠1の認定も誤っている。本件審決は,引用意匠1の各放熱フィンが凸レンズ状であるか,又は不明であるとしているが,タワー型のヒートシンクであることや掲載されている図面からは,平板な円盤が等間隔で連設されているものが通常イメージされるのであり,そのように認定すべきである。 ? 本件意匠と引用意匠1の類否判断について 本件意匠と引用意匠1の相違点の認定及び判断は,誤っている。 本件審決は,引用意匠1の各放熱フィンが凸レンズ状であるか,又は不明であるとしているが,引用意匠1の各フィン部の形状は,平板で,略長矩形状であると受け止めるのが常識的である。また,本件審決は,軸体と各フィン部の構成比の相違点について,引用意匠1については不明であるとしているが,軸体の縦幅と各フィン部の縦幅の比は約1:2.7であり,軸体の横幅(=各フィン部の間隔):フィン部の横幅の比は約6:1であって,いずれも不明ではない。 本件意匠に係る類否の判断は,検査用照明器具を検査装置に組み入れて使用する電子機器製造業者の観点で行い,判断に当たっては家庭用懐中電灯のようにその物品のデザイン性によって顧客を吸引する分野ではないことに留意する必要がある。 本件意匠は,前記のとおり,検査用照明器具の一部として取り付けた場合の放熱フィンの部分意匠であり,引用意匠1とその用途,機能等を共通にするので,取引者・需要者の観点からすれば,タワー型放熱フィンの一適用場面としか受け止められない。 このように両者の基本的形状はほぼ同じであり,その他の部分でも特段の美感の差異を認定できない以上,両者は類似するものと判断するのが素直である。 〔被告の主張〕 意匠の類否を検討する場合には,物品が同一であることが前提となると解すべきである。本件意匠に係る物品は検査用照明器具であり,タワー型放熱フィンである引用意匠1と物品が共通しないから,類否を検討する前提を欠く。 2 取消事由2(引用意匠1に基づく創作容易性判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件意匠の創作容易性の判断は,検査用照明器具を含む電子機器の製造者を主体(当業者)としてすべきである。 引用意匠1は,タワー型放熱フィンとして汎用的・一般的な形状をしており,検査用照明器具の後方部に同軸上の略同径でタワー型放熱フィンを設ける意匠は周知・慣用され,後端フィンを分厚くすることや,その後端フィンの後端面の角を面取りすることもありふれている。 よって,引用意匠1に基づき本件意匠を創作することは当業者に容易である。 〔被告の主張〕 本件意匠と引用意匠1とは,その形態において明らかに異なり,本件意匠を引用意匠1から容易に創作することはできない。 3 取消事由3(引用意匠1及び同2に基づく創作容易性判断の誤り)及び取消事由4(引用意匠1及び同3に基づく創作容易性判断の誤り)について 〔原告の主張〕 ? 公知意匠 本件意匠の出願当時,引用意匠1の汎用的・一般的なタワー型放熱フィンが技術常識として存在し,検査用照明器具の後方部にタワー型放熱フィンを位置づけることが公知・慣用の意匠であるという状況にあった。 ? 引用意匠1及び同2に基づく創作容易性 上記の状況の下において,後端フィンを中間フィンよりも厚くし,後端面の後端側角の面取りをすることは,周知意匠である引用意匠2にもみられ,電子機器の製造者(当業者)の通常の創作能力からすれば,引用意匠1及び同2の形態に基づき,軸体の太さやフィン間隔を適宜調整することはありふれている。 よって,引用意匠1及び同2に基づき本件意匠を創作することは当業者に容易である。 ? 引用意匠1及び同3に基づく創作容易性 同様に,前記の状況の下において,後端フィンを中間フィンよりも厚くし,後端面の後端側角の面取りをすることは,周知意匠である引用意匠3などにもみられ,前記の当業者の通常の創作能力からすれば,引用意匠1及び同3の形態に基づき,各引用意匠から軸体の太さやフィン間隔を適宜調整することはありふれている。 よって,引用意匠1及び同3に基づき本件意匠を創作することは当業者に容易である。 〔被告の主張〕本件意匠の出願の当時において知られていた検査用照明器具の形態は,電源ケーブルを後方部材であるフィンの後端から引き出すというものであり,引用意匠2及び同3もその従前のデザイン発想を示すものであることからすれば,これらを引用意匠1と組み合わせても,当業者としては電源ケーブルをフィンの後端から引き出す形態の検査用照明器具にすることになる。そうである以上,引用意匠1と同2又は同3に基づいて本件意匠を創作することが当業者に容易であるとはいえない。 4 取消事由5(本件意匠と引用意匠2の類否判断の誤り)について 〔原告の主張〕 引用意匠2の意匠に係る物品は,同軸スポット照明の後方部材に当たる放熱フィンであり,基本的な形状や全体意匠において部分意匠の占める位置関係や相対的な大きさにおいて本件意匠と共通し,この共通点が類否判断に及ぼす影響は大きい。これに対し,審決の指摘する差異はいずれも美感の差異を決定付けない。 〔被告の主張〕 引用意匠2は,本件意匠との間で物品としての同一性はある。 しかし,引用意匠2では,後端フィンの右端面にケーブルとの接続部が設けられているのに対し,本件意匠にそのような接続部は設けられていないなど両者の形態は著しく異なるから,本件意匠と引用意匠2は類似しないというべきである。 5 取消事由6(引用意匠2に基づく創作容易性判断の誤り)について 〔原告の主張〕 引用意匠2の意匠に係る物品は,同軸スポット照明の後方部材に当たる放熱フィンである。その形状は同軸上・略同径のタワー型で,周知の形状である上,中間フィンと比べて後端フィンが分厚く,その後端面の後端側角に面取りしてあることが本件意匠と共通し,軸体の太さを違えることやフィンの間隔を違えることも意匠としてありふれている。 よって,引用意匠2に基づき本件意匠を創作することは当業者に容易である。 〔被告の主張〕 本件意匠は,特にその右端面にケーブルとの接続部が設けられていない点において,引用意匠2を含む従前の公知意匠には見られない形態を有しているから,本件意匠を引用意匠2から容易に創作することはできない。 6 取消事由7(本件意匠と引用意匠3の類否判断の誤り)について 〔原告の主張〕 引用意匠3の意匠に係る物品は,検査用照明器具の後方部材に当たる放熱フィンである。本件意匠と対比すると,円盤状の放熱フィンが同軸に等間隔に連設されている点,後端フィンのみ厚くなっている点,後端フィンの後端側角が面取りされている点,全体意匠において部分意匠の占める位置関係や相対的な大きさなどにおいて共通点があり,この共通点が類否判断に及ぼす影響は大きい。他方,中間フィンの枚数,軸体の太さ,各フィンの間隔,後端フィンの後端面における孔部の有無は異なるが,これらは取引者・需要者にとって美感の差異を決定付けない。 よって,本件意匠と引用意匠3は類似する。 〔被告の主張〕 引用意匠3は,フィン部分の貫通孔に電源ケーブルが取り付けられるものであるのに対し,本件意匠にそのような貫通孔は設けられていないことなど,両者の形態は著しく異なるから,本件意匠と引用意匠3は類似しないというべきである。 7 取消事由8(引用意匠3に基づく創作容易性判断の誤り)について 〔原告の主張〕 引用意匠3に係る物品は,検査用照明器具である。その後方部に同軸上・略同径のタワー型放熱フィンが設けられており,形状は周知である上,中間フィンと比べて後端フィンが分厚く,その後端面の後端側角に面取りしてあるところが本件意匠と共通する。タワー型放熱フィンの意匠において,軸体の太さを違えることやフィンの間隔を多少違えることは,意匠としてありふれたものである。中間フィンの枚数に差異があるものの,本件意匠については枚数相違のものが関連意匠として登録されていることに鑑みれば,なお類似の範囲内にある。 よって,引用意匠3に基づき本件意匠を創作することは当業者に容易である。 〔被告の主張〕 本件意匠は,後方の部材において電源ケーブルを挿入するための貫通孔がないこと,換言すれば,後端フィンの表面が平坦であるという点において,従前の公知意匠には見られない形態を有している。したがって,本件意匠を引用意匠3から容易に創作することはできないというべきである。 |
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当裁判所の判断
1 本件意匠及び引用意匠1ないし3について 証拠(甲1ないし3,29の2,29の3)及び弁論の全趣旨によれば,本件意匠及び引用意匠1ないし3の構成態様等について,次の各事実を認めることができる。 ? 本件意匠 ア 本件意匠の意匠に係る物品は,検査用照明器具であり,工場等において製品の傷やマーク等の検出に用いられる。LEDや光学素子が内蔵されており,先端の光導出ポートから,製品に向けて光が照射される。本件意匠は,部分意匠であり,部分意匠として意匠登録を受けるのは,本件実線部分である。 イ 本件実線部分は,検査用照明器具のうち正面右上の3つのフィン部及びそれをつなぐ軸体が一体になった部分で,器具の放熱という用途及び機能を有し,正面視全幅の約5分の1の横幅の大きさ及び範囲を占め,正面視右上に位置する。 ウ 本件実線部分の形態は,以下のとおりのものであると認められる。 基本的構成態様 a 前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であり,後方部材の後方に電源ケーブルを設けていない。 b 中心に,前方部材の後端面より後方に延伸する支持軸体が設けられている。 c 支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よりも径の大きい,同一径のフィンが複数枚,間隔を空けて垂直方向に設けられている。 d 複数枚のフィンのうち,後端フィンは,中間フィンよりも厚くなっている。 具体的構成態様 e フィンの枚数は3枚で,そのうち,中間フィンの枚数は2枚である。 f 各フィンは,中心軸を合致させ,かつ,互いに等しい間隔で設置されており,その間隔と中間フィンの横幅の比は,約3:1である。 g 各フィンの厚みは,フィンの上下で差はなく,中間フィンでは直径の24分の1で,後端フィンは,中間フィンと比べると約2倍の厚みである。 h 後端フィンの後面(後端面)の縁の全てに面取りが施してある。 i 支持軸体は,円柱状,同一径で,直径はフィンの直径の約5分の1である。 j 各フィンの各面は,支持軸体の通過部分以外は,平滑である。 ? 引用意匠1 ア 引用意匠1は,書籍「エレクトロニクスのための熱設計完全入門」の171頁右上の図に記載された「タワー型ヒートシンク」の意匠であり,同書籍は,本件意匠の出願前である平成9年7月18日に発行されている。意匠に係る物品は,電子機器用の部品としてのタワー型ヒートシンクであり,本体である電子機器を放熱により冷却する用途ないし機能を有する。 イ 引用意匠1の形態は,別紙2「引用意匠1図面」のとおりであり,4枚のフィンが水平方向に並べて設けられている。 なお,本件審決と同様,本件意匠と対比しやすいように右に90°回転させると,以下のとおりのものであると認められる。 基本的構成態様 a 機器に設けられる放熱部であり,前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)ではない。 b その中心に支持軸体が設けられている。 c 支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よりも径の大きい,同一径のフィンが複数枚,間隔を空けて設けられている。 d 複数枚のフィンにおいて中間フィンと後端フィンの区別はなく,各フィンの間の厚みの違いも明らかには認められない。 具体的構成態様 e フィンの枚数は4枚である。 f 各フィンが,中心軸を合致させ,かつ,互いに等しい間隔で設置されている。 g 各フィンは,中央部で最も厚く,上下にいくにつれて次第に薄くなっている。 h 後端フィンの後面(後端面)の縁に面取りは施されていない。 i 支持軸体は,円柱状,同一径で,直径はフィンの直径の約3分の1である。 j 各フィンの各面は,支持軸体の通過部分以外は,平滑である。 ? 引用意匠2 ア 引用意匠2は,原告の製品「IHV-27R」の意匠で,本件意匠の登録出願前である平成14年までに日本国内又は外国において公然知られたものである。意匠に係る物品は,同軸スポット照明で,ワーク検査の用途と,LEDを集光する機能を有している。引用意匠2のうち本件意匠と対比される部分は,本件実線部分に相当する,以下の部分である(以下「甲2相当部分」という。 。 ) イ 甲2相当部分は,同軸スポット照明の本体部のうち後方の各フィン及びそれを繋ぐ軸体が一体になった部分である。放熱に係る用途及び機能を有し,正面視本体部全幅の約9分の2の横幅の大きさ及び範囲を占め,正面視本体部右側に位置する。 ウ 甲2相当部分の形態は,別紙3「引用意匠2図面」のとおりであり,具体的には,以下のとおりのものであると認められる。 基本的構成態様 a 前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であり,その後方に電源ケーブルを設けている。 b 中心に,前方部材の後端面より後方に延伸する支持軸体が設けられている。 c 支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よりも径の大きい,同一径のフィンが複数枚,間隔を空けて垂直方向に設けられている。 d 複数枚のフィンのうち,後端フィンは,中間フィンよりも厚くなっている。 具体的構成態様 e フィンの枚数は4枚であり,そのうち中間フィンの枚数は3枚である。 f 各フィンは,中心軸を合致させ,かつ,互いに等しい間隔で設置されており,その間隔と中間フィンの横幅の比は,約10:17である。 g 各フィンの厚みは,フィンの上下で差はなく,中間フィンでは直径の18分の1で,後端フィンは,中間フィンに比べて約1.6倍の厚みである。 h 後端フィンの後面(後端面)の縁の全てに面取りが施してある。 i 支持軸体は,円柱状,同一径で,直径はフィン直径の約13分の10である。 j 各フィンのうち後端フィンの後端面にケーブルとの接続部が設けられている。 ? 引用意匠3 ア 引用意匠3は,意匠登録第1175712号の意匠で,平成15年6月16日に意匠公報が発行され,本件意匠の登録出願前に日本国内又は外国において公然知られたものである。意匠に係る物品は,検査用照明器具で,工場等において製品の外観や傷等の検査に用いられる。引用意匠3において本件意匠と対比される部分は,本件実線部分に相当する,以下の部分である(以下「甲3相当部分」という。) イ 甲3相当部分は,検査用照明器具のうち,正面右側の2つのフィン部及びそれを繋ぐ軸体が一体になった部分である。甲3相当部分は,検査用照明器具の放熱に係る用途及び機能を有し,正面視本体部全幅の約7分の1の横幅の大きさ及び範囲を占め,正面視本体部右側に位置する。 ウ 甲3相当部分の形態は,別紙4「引用意匠3図面」のとおりであり,具体的には,以下のとおりのものであると認められる。 基本的構成態様 a 前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であり,後方からケーブルを挿入するための貫通孔が各フィンに設けられている。 b 中心に,前方部材の後端面より後方に延伸する支持軸体が設けられている。 c 支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よりも径の大きい,同一径のフィンが複数枚,間隔を空けて垂直方向に設けられている。 d 複数枚のフィンのうち,後端フィンは,中間フィンよりも厚くなっている。 具体的構成態様 e フィンの枚数は2枚であり,そのうち中間フィンの枚数は1枚である。 f 各フィンは,中心軸を合致させ,かつ,互いに等しい間隔で設置されており,その間隔と中間フィンの横幅の比は,約9:4である。 g 各フィンの厚みは,フィンの上下で差はなく,中間フィンでは直径の23分の1で,後端フィンは,中間フィンに比べて約2.3倍の厚みである。 h 後端フィンの後面(後端面)の縁の全てに面取りが施してある。 i 支持軸体は,円柱状,同一径で,直径はフィン直径の約24分の10である。 j 各フィンには,支持軸体の通過部分があるほか,ケーブルを挿入するための円形の貫通孔が右側面視上端寄りに設けられている。 2 各取消事由の当否について ? 取消事由1(本件意匠と引用意匠1の類否判断の誤り) ア 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行われる(意匠法24条2項参照)。本件意匠に係る物品である照明用検査器具は,工場等において製品の傷やマーク等の検出を行うために用いられるものであるから,本件意匠に係る類否判断における「需要者」とは,そのような業務に携わる者及びこれらの物品を取り扱う者である。 引用意匠1に係る物品は,電子機器用の部品としてのタワー型ヒートシンクであるから,それ自体としては,本件意匠の物品との間に同一性又は類似性はないが,意匠登録の対象である本件実線部分が検査用照明器具のうち放熱機能を有する部材であることから,更に本件意匠と引用意匠1との共通点及び相違点を検討する。 イ 本件意匠と引用意匠1との共通点及び相違点 本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられているのに対し,タワー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に並べて設けられており,両意匠は,縦横の位置関係が異なる。 そこで,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみると,本件意匠との共通点及び相違点は,次のとおりである。 前記の認定(1??)によれば,本件意匠と引用意匠1とは,aのうち,ともに機器に設けられる放熱部であるという限度で重なり合うところがあり,また,bその中心に支持軸体が設けられ,c支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よりも径の大きい,同一径のフィンが複数枚,間隔を空けて設けられ,f各フィンが,中心軸を合致させ,互いに等しい間隔で設置されているという点,j各フィンの各面が,支持軸体の通過部分以外は平滑である点においても共通する。 他方,aについても,本件意匠が前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるのに対し,引用意匠1は汎用的なタワー型ヒートシンクであるという点では相違し,また,eフィンの枚数について,本件意匠では中間フィンと後端フィンを合わせて3枚であるのに対し,引用意匠1では4枚である点,gフィンの厚みについて,本件意匠ではフィンの上下で差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,i本件意匠の支持軸体の直径がフィンの直径の約5分の1であるのに対し,引用意匠1では約3分の1である点においても相違する。 ウ 本件意匠と引用意匠1との類否縦横の位置関係からして,全く異なる。 また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみたとしても,@本件意匠が,前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるのに対し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという点,A本件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍であるのに対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点,B本件意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,C支持軸体の直径が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,これらの相違点が前記の共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と引用意匠1とでは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。 したがって,本件意匠と引用意匠1とは類似しないというべきである。 エ よって,取消事由1は理由がない。 ? 取消事由2(引用意匠1に基づく創作容易性判断の誤り) ア 意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合を基準として,そこからその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,その要件の該当性を判断するときには,上記の公知のモチーフを基準として,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性が問題となる(最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和48年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号287頁参照)。 イ 検討 これを本件についてみると,複数のフィンが水平方向に並べて設けられている,「タワー型」の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べることの動機付けを認めるに足りる証拠はないから,引用意匠1に基づいて本件意匠を創作することが容易であるとはいえない。 また,引用意匠1を右に90°回転させて対比した場合の前記(?イ)の各相違点に係る本件意匠の構成が,周知のもの又はありふれたものと認めるに足りる証拠もないから,引用意匠1のみに基づいて当業者が本件意匠を創作することが容易であったとは認められない。 ウ よって,取消事由2は理由がない。 ? 取消事由3(引用意匠1及び同2に基づく創作容易性判断の誤り)及び取消事由4(引用意匠1及び同3に基づく創作容易性判断の誤り) ア 原告は,引用意匠1に同2又は同3をそれぞれ組み合わせれば,それらに基づき本件意匠を容易に創作することができたとも主張する。 イ 検討 しかしながら,本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられているのに対し,タワー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に並べて設けられているところ,タワー型の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べることの動機付けを認めるに足りる証拠はないから,引用意匠1及び同2又は同3に基づいて本件意匠を創作することが容易であるとはいえない。 また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみても,@本件意匠が,前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるのに対し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという点,A本件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍であるのに対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点,B本件意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,C支持軸体の直径が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,これらの相違点が前記の共通点を凌駕することは,前記?のとおりである。そして,タワー型ヒートシンクである引用意匠1に検査用照明器具に係る引用意匠2又は同3を組み合わせる動機付けを認めるに足りる証拠はない。また,少なくとも相違点Cに係る本件意匠の構成が引用意匠2又は同3にあらわれているということができないことからすれば,引用意匠1に引用意匠2又は同3を組み合わせてみても,本件意匠には至らない。したがって,それらに基づき当業者において本件意匠を創作することが容易であったとは認められない。 ウ よって,取消事由3及び4は理由がない。 ? 取消事由5(本件意匠と引用意匠2の類否判断の誤り) ア 引用意匠2に係る物品は,同軸スポット照明であり,本件意匠に係る物品と類似する。 イ 本件意匠と引用意匠2との共通点及び相違点 前記の認定(1??)によれば,本件意匠と引用意匠2とは,aのうち,ともに前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるという限度で重なり合うところがあり,また,bその中心に支持軸体が設けられ,c支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よりも径の大きいフィンが複数枚,間隔を空けて設けられ,f各フィンが,中心軸を合致させ,互いに等しい間隔で設置されているというところも共通する。 他方,@本件意匠では後方部材の後方に電源ケーブルを設けていないのに対し,引用意匠2ではそれが設けられているという点で相違し,また,Aフィンの枚数について,本件意匠では中間フィンと後端フィンを合わせて3枚であるのに対し,引用意匠2では4枚である点,B本件意匠の支持軸体の直径がフィンの直径の約5分の1であるのに対し,引用意匠2では約13分の10である点が相違し,軸体の太さにおいて顕著な差異がある。 ウ 本件意匠と引用意匠2との類否 本件意匠においては,後方部材の後方に電源ケーブルが設けられていないのに対し,引用意匠2ではそれが設けられている。電源ケーブルの引き出し位置は検査用照明器具としての使用態様に大きく関わるから,この点は,工場等において製品の傷やマーク等の検出を行う業務に携わる者及びこれらの物品を取り扱う者(需要者)が最も着目する点であり,これらの需要者にとって,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。 この点に関連して原告の提出する証拠(甲35)によれば,本件意匠に係る物品や引用意匠2に係る物品は,通常は,より大きな装置の一部として組み込まれて使用されるというのであり,その場合には物品の全体が観察されることはないことがうかがわれる。しかし,需要者が製品の美感を考慮するのは,主として当該製品を購入するか否かを判断する際であると解されることからすれば,物品の使用中その全体が観察されることがないという点は,上記の認定判断を左右しない。 また,本件意匠の支持軸体の直径がフィンの直径の約5分の1であるのに対し,引用意匠2では約13分の10であり,本件意匠に比べて軸体が太いところに特徴があり,これらの相違点が前記の共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と引用意匠2とでは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。 したがって,本件意匠と引用意匠2とは類似しない。 エ よって,取消事由5は理由がない。 ? 取消事由6(引用意匠2に基づく創作容易性判断の誤り) ア 本件意匠と引用意匠2とは,前記?のとおり,ケーブル接続部の有無,フィンの枚数,軸体の太さなどにおいて明らかに異なっている。 証拠(甲2,3)によれば,本件意匠出願の当時,検査用照明器具の電源ケーブルをどこから引き出すかについて,後方部材であるフィンの後端から引き出す形態は知られていたことがうかがわれるものの,フィン後端以外の位置から引き出す形態が知られていたと認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件意匠については,電源ケーブルをフィンの後端から引き出すこととせず,したがって,フィンにケーブル接続部分を設けない点において,意匠の着想の新しさないし独創性がある。 また,本件証拠上,本件意匠登録の出願前に知られていた意匠の支持軸体の直径は,各フィンの直径の約12分の5という引用意匠3(対象をヒートシンクに拡大すれば,各フィンの直径の約3分の1という引用意匠1)が最も細かったものであり,本件意匠のように支持軸体の直径が細い形態が知られていたと認めるに足りる証拠もない。そうすると,本件意匠については,支持軸体の直径をフィンの直径の約5分の1という細い形状にした点においても,意匠の着想の新しさないし独創性がある。 そして,少なくとも,前記?イの相違点@及びBに係る本件意匠を創作する動機付けは認められない。 以上によれば,引用意匠2に基づいて当業者が本件意匠を創作することが容易であったとは認められないというべきである。 イ よって,取消事由6は理由がない。 ? 取消事由7(本件意匠と引用意匠3の類否判断の誤り) ア 引用意匠3に係る物品は,検査用照明器具であり,本件意匠に係る物品と同一である。 イ 本件意匠と引用意匠3との共通点及び相違点 前記の認定(1??)によれば,本件意匠と引用意匠3とは,aのうち,ともに前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるという限度で重なり合うところがあり,また,bその中心に支持軸体が設けられ,c支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よりも径の大きいフィンが複数枚,間隔を空けて設けられ,f各フィンが,中心軸を合致させ,互いに等しい間隔で設置されているというところも共通する。 他方,@本件意匠では後方部材の後方からケーブルを挿入するための貫通孔を各フィンに設けておらず,各フィンが平滑であるのに対し,引用意匠3では,それが設けられているという点で顕著に相違し,また,Aフィンの枚数について,本件意匠では中間フィンと後端フィンを合わせて3枚であるのに対し,引用意匠3では2枚であることや,B本件意匠の支持軸体の直径がフィンの直径の約5分の1であるのに対し,引用意匠3では約12分の5である点が相違し,軸体の太さにおいても相違点がある。 ウ 本件意匠と引用意匠3との類否 本件意匠においては,本件意匠では後方部材の後方からケーブルを挿入するための貫通孔が設けられていないのに対し,引用意匠3では,それが設けられている。前記?と同様に,電源ケーブルの引き出し位置は検査用照明器具としての使用態様に大きく関わるから,この点は,工場等において製品の傷やマーク等の検出を行う業務に携わる者及びこれらの物品を取り扱う者(需要者)が最も着目する点であり,これらの需要者にとって,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。 また,本件意匠の支持軸体の直径がフィンの直径の約5分の1であるのに対し,引用意匠3では約12分の5であり,本件意匠に比べて軸体が太いところに特徴があり,これらの相違点が前記の共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と引用意匠3とでは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。 したがって,本件意匠と引用意匠3は類似しない。 エ よって,取消事由7は理由がない。 ? 取消事由8(引用意匠3に基づく創作容易性判断の誤り) ア 本件意匠と引用意匠3とは,前記?のとおり,ケーブルを挿入するための貫通孔の有無,フィンの枚数,軸体の太さにおいて明らかに異なっている。 本件意匠については,前記?と同様に,電源ケーブルをフィンの後端から引き出すこととせず,したがって,フィンにそのための貫通孔を設けない点において,意匠の着想の新しさないし独創性がある。また,本件意匠については,支持軸体の直径をフィンの直径の約5分の1という細い形状にした点においても,意匠の着想の新しさないし独創性がある。 そして,少なくとも,前記?イの相違点@及びBに係る本件意匠を創作する動機付けは認められない。 以上によれば,引用意匠3に基づいて当業者が本件意匠を創作することが容易であったとは認められないというべきである。 イ よって,取消事由8は理由がない。 ? 原告のその他の主張について 原告は,取消事由ごとの主張に加えて,現状では一般に登録される意匠の創作レベルが低く,創作非容易性の水準を引き上げる必要があるとの指摘がされているとも主張し,これに沿う証拠(甲36)を提出するが,各取消事由に沿った検討と判断は先に述べたとおりであり,原告の上記主張は,立法的提言としてはともかく,現行法の解釈や個別の登録の適否に係る認定判断を直ちに左右するものとは解されない。 3 結論 以上のとおりであるので,原告の主張する取消事由はいずれも理由がないというべきである。 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |