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事件 令和 2年 (ネ) 10053号 意匠権侵害行為差止請求控訴事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/02/16
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
令和3年2月16日判決言渡

令和2年(ネ)第10053号 意匠権侵害行為差止請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所令和元年(ワ)第16017号)

口頭弁論終結日 令和3年1月19日

5 判 決



控 訴 人 株 式 会 社 寺 岡 精 工



同訴訟代理人弁護士 三 縄 隆

10 同 森 本 晃 生

同訴訟代理人弁理士 福 田 哲 也

同補佐人弁理士 岩 ア 孝 治

同 永 芳 太 郎



15 被 控 訴 人 株 式 会 社 バ ル テ ッ ク



同訴訟代理人弁護士 櫛 田 泰 彦

同訴訟代理人弁理士 大 塚 明 博

同 大 塚 匡

20 主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨

25 1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は,原判決別紙被告製品目録記載の券売機を生産し,使用し,譲渡


1
し,貸し渡し,輸出若しくは輸入し又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはな

らない。

3 被控訴人は,その占有する前項の券売機を廃棄せよ。

4 被控訴人は,控訴人に対し,1100万円及びこれに対する令和元年7月3

5 日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要(以下,略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。)

1 事案の要旨

本件は,意匠に係る物品を「自動精算機」とする意匠登録第1556717

号の意匠権(本件意匠権)を有する控訴人が,被控訴人に対し,原判決別紙被

10 告製品目録記載の券売機(被告製品)の販売等が本件意匠権を侵害するとして,

意匠法37条1項に基づき被告製品の販売等の差止めを,同条2項に基づき被

告製品の廃棄を,民法709条に基づき損害賠償金1億0400万円(弁護士

費用等400万円を含む。)の内金1100万円(代理人費用等100万円を

含む。)及びこれに対する遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。

15 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人は,原判決を不服と

して本件控訴を提起した。

2 前提となる事実

原判決3頁2行目の「記載のとおり(部分意匠)」を「記載のとおりであり,

実線で表された部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である

20 (【意匠の説明】)。」と改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2

の2に記載のとおりであるから,これを引用する。

3 争点

原判決の「事実及び理由」欄の第2の3に記載のとおりであるから,これを

引用する。

25 4 争点に関する当事者の主張

? 争点1(被告意匠は本件意匠と類似するか)について


2
ア 控訴人の主張

(ア) 本件意匠の認定

本件意匠の構成態様は,次のように認定される(別紙1「参考図1」

参照)。

5 a 基本的構成態様

略縦長直方体の自動精算機本体の正面上部右辺寄りに,本体の上辺

より上方に突出し後傾する態様で設けられた平板状タッチパネル部の

正面及び周側面の下側面について,正面視縦長長方形状の平板状タッ

チパネル部の正面中央が縦長長方形のディスプレイとされている。

10 b 具体的構成態様

@ タッチパネル部は,正面縦寸法に対する横寸法の比率を概ね1.7

対1として,約15度の角度で後傾させ,タッチパネル部下側面が

自動精算機本体の正面から前方に突出する態様で設けられている。

A タッチパネル部正面は,周側面との角部を細幅の面取り状に形成

15 され,四辺内側の等幅額縁状枠部に囲まれた中央が縦長長方形のデ

ィスプレイとされている。

B タッチパネル部下側面は,タッチパネル部正面縦幅の約17分の

1幅であり,正面から背面に向けて側面視末広がりになる斜面状に

形成されている。

20 c 被控訴人の主張(後記イ(ア))に対して

本件意匠は,タッチパネル部を操作する需要者が自動精算機本体の

圧迫感を感じることなく操作できるように,本体をタッチパネル部の

下半部より下に納めることで,軽快な視覚的印象のタッチパネル部を

形成したものであって,破線部は,単に本件意匠がタッチパネル部を

25 有する略縦長直方体形状の自動精算機であることを示すものではな

く,タッチパネル部を本体の上辺より上方に突出させている点に創作


3
の主旨があることを,位置,大きさ,範囲として表したものである。

(イ) 被告意匠の認定

被告意匠の構成態様は,次のように認定される。

a 基本的構成態様

5 略縦長直方体のタッチパネル式券売機の本体の正面上部左辺寄り

に,本体の上辺より上方に突出し後傾する態様で設けられた平板状タ

ッチパネル部について,全体形状を正面視縦長長方形状とした平板状

タッチパネル部の正面中央が縦長長方形のディスプレイとされてい

る。

10 b 具体的構成態様

@ タッチパネル部は,正面縦寸法に対する横寸法の比率を概ね1.3

対1として,約30度の角度で後傾させ,タッチパネル部下側面が

券売機本体の正面から前方に突出する態様で設けられている。

A タッチパネル部正面は,周側面との角部を細幅の面取り状に形成

15 され(別紙3「被告製品参考図」参照),四辺内側の等幅額縁状枠

部に囲まれた中央が縦長長方形のディスプレイとされている。

B タッチパネル部の下側面を含む周側面は,タッチパネル部正面縦

幅の約37分の1幅であり,正面に対して垂直に形成されている。

(ウ) 共通点

20 本件意匠と被告意匠とは,次の点で共通する。

a 基本的構成態様

略縦長直方体の本体の正面上部に,本体の上辺より上方に突出し後

傾する態様で設けられた平板状タッチパネル部について,全体形状

正面視縦長長方形状とした平板状タッチパネル部の正面中央が縦長長

25 方形のディスプレイとされている点。

b 具体的構成態様


4
(共通点A)後傾させたタッチパネル部の下側面が,本体正面から前方

に突出する態様で設けられている点。

(共通点B)タッチパネル部の正面と周側面との角部が細幅の面取り状

に形成されている点。

5 (共通点C)タッチパネル部正面が,四辺内側の等幅額縁状枠部に囲ま

れ,その中央が縦長長方形のディスプレイとされている点。

(エ) 差異点

本件意匠と被告意匠とは,次の点に差異がある。

(差異点1)本件意匠は,タッチパネル部が本体の正面上部の右辺寄り

10 に設けられているのに対して,被告意匠は,タッチパネル部が本体

の正面上部の左辺寄りに設けられている点。

(差異点2)本件意匠のタッチパネル部は,正面縦寸法に対する横寸法

の比率を概ね1.7対1として,約15度の角度で後傾させられてい

るのに対して,被告意匠のタッチパネル部は,正面縦寸法に対する

15 横寸法の比率を概ね1.3対1として,約30度の角度で後傾させら

れている点。

(差異点3)本件意匠は,タッチパネル部下側面を,タッチパネル部正

面縦幅の約17分の1幅として,正面から背面に向けて側面視末広

がりになる斜面状に形成されているのに対して,被告意匠のタッチ

20 パネル部下側面は,タッチパネル部正面縦幅の約37分の1幅とし

て,正面に対して垂直に形成されている点。

(オ) 類否判断

a 被告製品は券売機であり,本件意匠に係る物品は自動精算機である

から,物品が類似する。

25 b 本件意匠と被告意匠が共に,略縦長直方体の本体正面上部に,平板

状タッチパネル部を本体の上辺より上方に突出させて後傾する態様で


5
設けられている点は,本体正面にタッチパネル部全体を埋め込んで構

成した意匠が多くある中で,一定の特徴がある基本的構成態様に係る

共通性として,類否判断に大きく影響を与える要素になっている。

c 差異点1については,タッチパネル部が本体の左右いずれの辺寄り

5 に設けられるにせよ,タッチパネル部を本体正面の略中央に設けたも

のとは明らかに異なる基調が形成され,むしろ,左右非対称のアンバ

ランスな配置との共通した印象を与えるといえる。差異点2について

は,タッチパネル部の全体形状を縦長長方形状として本体に対して後

傾させて設けている共通した態様の中での多少の差異であって,類否

10 判断に与える影響は微弱であるといえる。差異点3については,タッ

チパネルを操作する需要者にその差異が明確に把握されないタッチパ

ネル部下側面の差異であって,共通点Aによる視覚的印象を別異とす

るものではないといえる。

d 本件意匠と被告意匠とを意匠全体として対比すると,本体正面に表

15 示部を埋め込んだ構成としている意匠とは別異の,タッチパネル部が

機器本体から浮き出し,使用者に圧迫感を与えない軽快な印象が形成

されているところに共通する視覚的印象が形成されている。これに対

して,差異点は,構成が共通する中での多少の差異であって,上記の

共通する視覚的印象を凌駕して意匠全体の基調を別異とするまでの差

20 異を生じさせるものではない。

e 以上から,本件意匠と被告意匠とは類似する。

イ 被控訴人の主張

(ア) 本件意匠の認定

本件意匠の構成態様は,次のように認定される(別紙2「参考図2」

25 参照)。

a 基本的構成態様


6
上部を後方に傾斜させた縦長長方形状のディスプレイと,ディスプ

レイを収容する縦長略長方形状のケーシングの正面部分とから構成さ

れ,自動精算機本体の上部右側に配置されたタッチパネル部である。

b 具体的構成態様

5 @ タッチパネル部は,縦横比が略1.7:1となっており,約15度

の角度で後傾させられている。

A ケーシングの正面部分はディスプレイと略相似形であり,ディス

プレイと同一面を形成する枠部と,枠部の外周を囲み正面から背面

に向けて側面視末広がりに傾斜する傾斜面部が設けられている。

10 B 傾斜面部は,上側部分の外縁上側,左側部分の外縁左側,右側部

分の外縁右側,下側部分の外縁左右側において周側面と接し,下側

部分の外縁下側において自動精算機本体と接するものと されてい

る。

C 傾斜面部の下側部分の幅は,傾斜面部の上側部分及び左右側部分

15 の幅よりも略4倍の幅広に形成されている。

D 傾斜面部の下側部分は,傾斜面部の上側部分の外縁上側から傾斜

面部の下側部分の外縁下側までの直線長さの約15分の1の幅に

形成されている。

c 控訴人の主張(前記ア(ア))に対して

20 控訴人は,基本的構成態様について,タッチパネル部が「本体の上

辺より上方に突出し」,「平板状」であると認定することができると

主張するが,筐体の上端部は破線で表示されていて上端の位置は特定

されておらず,また,タッチパネル部の背面が破線で表示されていて

タッチパネル部の厚みが特定されておらず,上記控訴人が主張するよ

25 うな態様は認定できない。本件意匠の意匠登録を受けようとする部分

の位置,大きさ,範囲については,「自動精算機本体の上部右側に配


7
置された」といった認定で必要かつ十分である。

(イ) 被告意匠の認定

被告意匠の構成態様は,次のように認定される。

a 基本的構成態様

5 上部を後方に傾斜させた縦長長方形状のディスプレイと,ディスプ

レイを収容する縦長略長方形状のケーシングの正面部分からなる,券

売機本体の上部左側に配置されたタッチパネル部である。

b 具体的構成態様

@ タッチパネル部は,縦横比が略1.3:1となっており,約30

10 度の角度で後傾させられている。

A ケーシングの正面部分はディスプレイと略相似形であり,ディ

スプレイと同一面を形成する枠部と,枠部の外周を囲み正面から

背面に向けて側面視末広がりに傾斜する傾斜面部及び傾斜面部

の下側部分の外縁下側と接する周側面の下側面とからなる。

15 B 傾斜面部は外縁の全てにおいて周側面と接するようされてい

る。

C 傾斜面部の幅は上下側部分及び左右側部分のいずれも等幅に

形成されている。

D 傾斜面部の下側部分は,傾斜面部の上側部分の外縁上側から周

20 側面の下側面の背面側縁までの直線長さの略128分の1の幅,

周側面の下側面は,同略64分の1の幅に形成されている。

(ウ) 共通点

本件意匠と被告意匠とは,次の点で共通する。

a 基本的構成態様

25 上部を後方に傾斜させた縦長長方形状のディスプレイと,ディスプ

レイを収容する縦長略長方形状のケーシングの正面部分とからなる,


8
本体の上部に配置されたタッチパネル部である点。

b 具体的構成態様

ケーシングの正面部分はディスプレイと略相似形でありディスプレ

イと同一面を形成する枠部と,枠部の外周を囲み正面から背面に向け

5 て側面視末広がりに傾斜する傾斜面部を有している点。

(エ) 差異点

本件意匠と被告意匠とは,次の点に差異がある。

(差異点A)控訴人が主張する差異点2と同じ。

(差異点B)本件意匠の傾斜面部は,上側部分,左側部分及び右側部分

10 の外縁及び下側部分の外縁左右側において周側面と接し,下側部分

の外縁下側において自動精算機本体と接するものとされているが,

被告意匠の傾斜面部は,外縁の全てにおいて周側面と接するものと

されている点。

(差異点C)本件意匠の傾斜面部は下側部分の幅が上側部分及び左右側

15 部分の幅の約4倍の幅とされているが,被告意匠の傾斜面部はすべ

て等幅に形成されている点。

(差異点D)本件意匠の傾斜面部の下側部分は,傾斜面部の上側部分の

外縁上側から傾斜面部の下側部分の外縁下側までの直線長さの約

15分の1の幅に形成されているが,被告意匠の傾斜面部の下側部

20 分は,傾斜面部の上側部分の外縁上側から周側面の下側面の背面側

縁までの直線長さの略128分の1の幅,周側面の下側面は,同略

64分の1の幅に形成されている点。

(オ) 類否判断

a 被告製品と本件意匠に係る物品が類似することは認める。

25 b 仮に,タッチパネル部を本体の上辺より上方に突出させている点を

共通点に認定したとしても,本件意匠登録出願前に頒布された刊行物


9
である韓国意匠商標公報30−0600546(甲12)に記載され

た意匠(以下「公知意匠A」という。別紙4「公知意匠図A」に図面

の一部を示す。),同韓国意匠商標公報30−0627528(甲1

3)に記載された意匠(以下「公知意匠B」という。別紙5「公知意

5 匠図B」に図面の一部を示す。)及び同韓国意匠商標公報30−07

05951(甲14)に記載された意匠(以下「公知意匠C」という。

別紙6「公知意匠図 C」に図面の一部を示す。)によると,タッチパ

ネル部が筐体から突出しているものや,タッチパネル部は筐体と別体

に構成され,筐体の上面に取り付けられたアームに支持されて筐体上

10 方に配置されものが自動精算機の公知の態様として認められるから,

上記共通点のような態様のタッチパネル部は出願前からありふれたも

のであり,この点が類否判断に与える影響はほとんどない。

c 差異点Aに係るタッチパネル部の縦横比の相違や後傾角度の相違が

類比判断に与える影響は微弱であり,差異点Bに係る傾斜面と周側面

15 との境界に現れる角の有無が類否判断に与える影響は弱い。

しかしながら,差異点 C に係る本件意匠の構成態様は,需要者に対

し,傾斜面部を枠部周囲の装飾であると認識させ,特に,傾斜面部の

下側部分の幅の太さを印象付ける視覚的効果を,また,差異点Dに係

る本件意匠の構成態様は,需要者に対し,タッチパネル部の下側部分

20 が本体から前方に突出していることを明確に認識させる視覚的効果を

それぞれ生じさせているのであり,類否判断に与える影響は大きい。

d 本件意匠と被告意匠とを意匠全体として対比すると,本件意匠は,

需要者に対してタッチパネル部と本体の境界を明確に認識させ,タッ

チパネル部が本体とは別体であるといった印象を形成するのに対し,

25 被告意匠は,需要者に対してタッチパネル部の下側部分の突出をほと

んど認識させず,本体正面にタッチパネル部を埋め込んだ態様に近い


10
態様であり,タッチパネル部と本体とが一体となった統一感や滑らか

さを印象づけるのであり,本件意匠と被告意匠とは,需要者に与える

視覚的効果が全く異なる。

e 以上から,本件意匠と被告意匠とは類似しない。

5 ? 争点2(本件意匠登録は無効審判により無効にされるべきか)について

原判決の「事実及び理由」欄の第2の4?に記載されたとおりであるから,

これを引用する。

? 争点3(控訴人の損害額)について

原判決の「事実及び理由」欄の第2の4?に記載されたとおりであるから,

10 これを引用する。

第3 当裁判所の判断

1 争点1(被告意匠は本件意匠と類似するか)について

? 物品

引用に係る原判決の「事実及び理由」欄の第2の2(2)エ及び(3)のとおり,

15 本件意匠に係る物品は自動精算機であり,被告製品はタッチパネル式の券売

機である。両者は,物品として類似すると認められ,この点は当事者間にも

争いがない。

? 本件意匠の構成態様

本件意匠登録出願に係る願書に添附した図面の記載は,引用に係る原判決

20 の「事実及び理由」欄の第2の2(2)オのとおりであるところ,本件意匠の構

成態様は,次のとおりであると認められる。なお,部分意匠たる本件意匠の

位置,大きさ,範囲は,破線で示されたにすぎない筐体との関係で決せられ

るものであり,タッチパネル部の筐体からの突出の具体的な比率,タッチパ

ネル部と筐体との大きさの具体的な比率,タッチパネル部が筐体に占める具

25 体的な比率までもが本件意匠の内容となるものではなく,タッチパネル部が

本体の正面上部右側に本体の上辺より上方に突出し後傾する態様で設けら


11
れているとの限度で構成態様になり得るにすぎないというべきである。

ア 基本的構成態様

上部を後方に傾斜させた縦長長方形状のディスプレイと,ディスプレイ

を収容する縦長略長方形状のケーシングの正面部分であり,タッチパネル

5 部が自動精算機本体の正面上部右側に本体の上辺より上方に突出して配

置されている。

イ 具体的構成態様

@ タッチパネル部は,縦横比が約1.7対1となっており,約15度の

角度で後傾させられている。

10 A タッチパネル部下側部分が自動精算機本体の正面から前方に突出す

る態様で設けられている。

B ケーシングの正面部分は,ディスプレイと略相似形であり,ディスプ

レイと同一面を形成する枠部(等幅額縁状枠部)がある。

C 枠部の外周を囲み正面から背面に向けて側方視末広がりに傾斜する

15 傾斜面部(別紙1「参考図1」では面取り部)が設けられており,傾斜

面部(下側部分を除く。)は,上側部分の外縁上側,左側部分の外縁左

側,右側部分の外縁右側において,ディスプレイ正面に対して垂直方向

に設けられた周側面に接する。

D 傾斜面部の下側部分(なお別紙1「参考図1」では「周側面(下側部)

20 と表記されているが,「面取り部(下側部)」とするのが正しい。)は,

傾斜面部の上側部分の外縁から傾斜面部の下側部分の外縁下側まで(控

訴人が主張する「タッチパネル部正面縦幅」と同義であると解される。)

の直線長さの約15分の1ないし17分の1の幅に形成されて,傾斜面

部の上側部分及び左右側部分の幅よりも約4倍の幅広に形成されてい

25 る。

? 被告意匠の構成態様


12
被告意匠は,引用に係る原判決の「事実及び理由」欄の第2の2(3)のと

おりであるところ,被告意匠の構成態様は,次のとおりであると認められ

る。

ア 基本的構成態様

5 上部を後方に傾斜させた縦長長方形状のディスプレイと,ディスプレイ

を収容する縦長略長方形状のケーシングの正面部分とからなるタッチパ

ネル部が本体の正面上部左側に本体の上辺より上方に突出して配置され

ている。

イ 具体的構成態様

10 @ タッチパネル部は,縦横比が約1.3:1となっており,約30度の

角度で後傾させられている。

A ケーシングの正面部分はディスプレイと略相似形であり,ディスプレ

イと同一面を形成する枠部(等幅額縁状枠部)がある。

B 枠部の外周を囲み正面から背面に向けて側面視末広がりに傾斜する

15 傾斜面部が設けられており,傾斜面部の下側縁は,ディスプレイ正面に

対して垂直方向に設けられた周側面に接する。

C 傾斜面部は,下側部分を含めて,いずれも傾斜面部の上側部分の外縁

上側から周側面の下側面の背面側縁までの直線長さの約128分の1

の幅であり,傾斜面部の下側縁と接する周側面は,同約64分の1の幅

20 に形成されている(当事者双方にその正確性について争いがない控訴理

由書記載の被告製品図面による。なお,控訴人は,別紙3の「被告製品

参考図」や被告製品のカタログ(甲4)を基に計測した値として,前記

第2の4(1)ア(イ)bBのとおり主張するが,仮にこの主張に基づくとし

ても,上記認定の傾斜面部の幅(約128分の1)と周側面の幅(約6

25 4分の1)の合計幅(約128分の3)に相当する部分の幅を約37分

の1とするものであって,両者の幅の相違が視覚に与える影響は極めて


13
わずかなものにすぎず,結論に影響は生じない。)。

? 共通点

本件意匠と被告意匠とは,次の点で共通する。

ア 基本的構成態様

5 上部を後方に傾斜させた縦長長方形状のディスプレイと,ディスプレイ

を収容する縦長略長方形状のケーシングの正面部分とからなるタッチパ

ネル部が,本体の正面上部に本体の上辺より上方に突出して配置されてい

る。

イ 具体的構成態様

10 @ ケーシングの正面部分はディスプレイと略相似形である。

A ディスプレイと同一面を形成する枠部(等幅額縁状枠部)がある。

B 枠部の外周を囲み正面から背面に向けて側面視末広がりに傾斜する

傾斜面部を有している。

? 差異点

15 本件意匠と被告意匠とは,次の点に差異がある。

ア 本件意匠のタッチパネル部は,本体正面上部の右側に設けられているの

に対して,被告意匠のタッチパネル部は,本体正面上部の左側に設けられ

ている点(控訴人主張差異点1と同旨)。

イ 本件意匠のタッチパネル部は,縦横比が約1.7対1として約15度の角

20 度で後傾させられているのに対して,被告意匠のタッチパネル部は,縦横

比が約1.3対1として約30度の角度で後傾させられている点(控訴人主

張差異点2及び被控訴人主張差異点Aと同旨)。

ウ 本件意匠のタッチパネル部は,タッチパネル部下側部分が本体の正面か

ら前方に突出する態様で設けているのに対し,被告意匠のタッチパネル部

25 は,そのような態様となっていない点。

エ 本件意匠は,傾斜面部の下側部分が,傾斜面部の上側部分の外縁上側か


14
ら傾斜面部の下側部分の外縁下側までの直線長さの約15分の1ないし

17分の1の幅であり,傾斜面部の上側部分及び左右側部分の幅よりも約

4倍の幅広に形成されているのに対し,被告意匠は,傾斜面部は下側部分

も含めて,いずれも傾斜面部の上側部分の外縁上側から周側面の下側面の

5 背面側縁までの直線長さの約128分の1の幅であり,傾斜面部の下側縁

と接する周側面の下側面は,同約64分の1の幅に形成されている点(被

控訴人主張差異点C及びDと同旨)。

? 類否判断

登録意匠とそれ以外の意匠とが類似であるか否かの判断は,需要者の視

10 覚を通じて起こさせる美感に基づいて行われ(意匠法24条2項),具体

的には,意匠に係る物品の性質,用途,使用形態,公知意匠にはない新規

な創作部分の有無等を参酌して,需要者の注意を惹きやすい部分を把握

し,そのような部分において両意匠が共通するか否かを中心としつつ,全

体としての美感が共通するか否かを検討すべきである。

15 イ 本件意匠の具体的構成態様は前記?のとおりであるところ,タッチパネ

ルの縦横比や後傾角度をどのように構成するかによっては,ありふれた範

囲内の差しか生じないのであり,また,ディスプレイの枠を等幅に構成す

るのはありふれた手法であるから,具体的構成態様@及びBが美感に与え

る影響は微弱である。したがって,前記(4)イの共通点に係る具体的構成態

20 様@及びA並びに前記(5)イの差異点が類否判断に与える影響はほとんど

ない。

ウ また,本件意匠の基本的構成態様に関して,次のような公知意匠がある。

公知意匠A(意匠に係る物品「クレジットカードのポイント照会による

商品券販売」)は,傾斜面から下方に向かって側面視「く」字状に形成さ

25 れた基台上にディスプレイ部が筐体より一段高く形成され,薄板状のディ

スプレイ部の相当程度が筐体の上端部から突出しているディスプレイ部


15
について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり,

ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状であるものと認め

られる。

また,公知意匠B(意匠に係る物品「無人発券機」)は,傾斜面から下

5 方に向かって側面視「く」字状に形成された基台上にディスプレイ部が筐

体より一段高く形成され,薄板状のディスプレイ部の相当程度が筐体の上

端部から突出しているディスプレイ部について,上方を後方に傾斜させた

ディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケーシング

が縦長略長方形状であるものと認められる。

10 さらに,公知意匠C(意匠に係る物品「金融自動化機器」)は,筐体上

部においてアーム状の部品で接続されて正面視で筐体の上端部から突出

しているような外観を呈するディスプレイ部について,上方を後方に傾斜

させたディスプレイが縦長略長方形状であり,ディスプレイを収容するケ

ーシングが右上に突出部分があるほか縦長略長方形状であるものと認め

15 られる。

これらによると,本件意匠登録出願前に,自動精算機又はそれに類似す

物品の分野において,筐体の上端部から一定程度突出するディスプレイ

部について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であ

り,ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状である意匠が知

20 られていたものといえるし,より一般的に考えても,自動精算機又はそれ

に類似する物品のディスプレイ部において利用者が見やすくタッチしや

すい形状を得るためには,本件意匠のような基本的構成態様とすることが

社会通念上も極めて自然かつ合理性を有するものと考えられる。

そうすると,本件意匠の基本的構成態様は,新規な創作部分ではなく,

25 自動精算機又はこれに類似する物品に係る需要者にとり,特に注意を惹き

やすい部分であるとはいえず,需要者は,筐体の上端部から一定程度突出


16
し上方を後方に傾斜させたディスプレイ部であること自体に注意を惹か

れるのではなく,これを前提に,更なる細部の構成から生じる美感にこそ

着目するものといえるから,本件意匠の基本的構成態様が美感に与える影

響は微弱である。したがって,共通点に係る基本的構成態様が類否判断

5 与える影響はほとんどないし,また,タッチパネル部を本体正面上部の右

側に設けるか左側に設けるかによっては,ありふれた範囲内の差しか生じ

ないから,前記(5)アの差異点も類否判断に与える影響はほとんどない。

エ 以上からすると,本件意匠については,前記(2)イの具体的構成態様A,

C及びDが需要者の注意を惹きやすい部分となるから,前記(4)イの共通点

10 に係る具体的構成態様B並びに前記(5)ウ及びエの各差異点が類否判断

与える影響が大きい。

そこで検討するに,本件意匠と被告意匠とは傾斜面部を有する点におい

て共通するといっても,下側部分も含めて,被告意匠の傾斜面部の幅,あ

るいはこれにその下側縁と接する周側面の幅を合わせた合計幅は極めて

15 わずかな広さしかないのに対し,本件意匠は,傾斜面部の上側及び左右側

部分の幅(傾斜面部の上側部分の外縁上側から傾斜面部の下側部分の外縁

下側までの直線長さを仮に50cmとすると,0.75cm前後となる。)

に対する傾斜面部の下側部分の幅(上記の仮定によれば,3cm前後とな

る。)に極端に差を設けることによって,下側部分が顕著に目立つように

20 設定されており,しかも,傾斜面部の下側部分に本体側から正面側に向け

た高さを確保することにより,タッチパネル部が本体の正面から前方に突

出する態様を構成させているというべきである。そして,需要者は,様々

な離れた位置から自動精算機を確認し,これに接近していくものであり,

正面視のみならず,斜視,側面視から生じる美感がより重要であるといえ

25 るところ,本件意匠の傾斜面部の下側部分の目立たつように突出させられ

た構成は需要者に大きく着目されるといえ,この構成態様により,本件意


17
匠はディスプレイ部全体が浮き出すような視覚的効果を生じさせている

と認められる。他方,被告意匠は,傾斜面部と周側面がわずかな幅にすぎ

ず(上記の仮定によれば,合計しても1.2cm前後にすぎない。),ディ

スプレイ部がただ単に本体と一体化しているような視覚的効果しか生じ

5 ないと認められる。したがって,差異点から生じる印象は,共通点から受

ける印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠とは,たとえディス

プレイ部の位置等に共通する部分があるとしても,全体として,異なった

美感を有するものと評価できるのであり,類似しないものというべきであ

る。

10 ? 控訴人の主張について

ア 控訴人は,被告意匠の具体的構成態様として,タッチパネル部下側面が

本体の正面から前方に突出する態様で設けられている旨を主張する(前記

第2の4?ア(イ)b@)。

しかしながら,被告意匠においては,傾斜面部は下側部分も含めて,い

15 ずれも傾斜面部の上側部分の外縁上側から周側面の下側面の背面側縁ま

での直線長さの約128分の1の幅であり,傾斜面部の下側縁と接する周

側面は,同約64分の1の幅で形成されているから,両者を合わせても,

需要者にディスプレイ部と本体との間に高低差があるとの印象を与える

ことはないといえ,タッチパネル部下側面を突出する態様であると認定す

20 ることは相当ではない。

したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

イ 控訴人は,タッチパネル部が本体の正面上部に,本体の上辺より上方に

突出し後傾する態様で設けた点が本件意匠の要部である旨を主張する(前

記第2の4?ア(オ)b)。

25 しかしながら,そもそも部分意匠たる本件意匠の位置,大きさ,範囲は,

タッチパネル部が本体の正面上部右側に本体の上辺より上方に突出し後


18
傾する態様で設けられているとの限度で構成態様になり得るにすぎない

ことは,前記(2)において説示したとおりであるし,上記限度では,本件意

匠の構成態様は,新規な創作部分ではなく,需要者の注意を強く惹くとこ

ろではないことも,前記(6)ウにおいて説示したとおりである。

5 したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

ウ 控訴人は,差異点3(おおむね前記(5)エの差異点に相当する。)に係る

構成態様は,タッチパネルを操作する需要者にその差異が明確に把握され

ないものである旨を主張する(前記第2の4?ア(オ)c)。

しかしながら,本件意匠の斜面部下側部分は,傾斜面上側及び左右側部

10 分より幅広に構成され,これは自動精算機に正対する需要者に対しても明

確に認識できるものであるところ,控訴人自身が本件意匠の特徴であると

主張しているタッチパネル部が機器本体から浮き出したような印象は,タ

ッチパネル部が本体の上辺より上方に突出し後傾する態様で設けた点よ

りは,本件意匠のタッチパネル部の下側面が本体の正面から前方に突出す

15 る態様で設けられていること(前記(5)ウの差異点),本件意匠の傾斜面部

の下側が傾斜面部の上側及び左右側より幅広に構成されていること(同エ

の差異点)から主として生じているものといえ,差異点3は,需要者にそ

の差異を明確に把握されるものである。

したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

20 エ 控訴人は,被告意匠もタッチパネル部が機器本体から浮き出したような

印象を与える旨を主張する(前記第2の4?ア(オ)d)。

しかしながら,そのような印象は,前記ウのとおり,本件意匠のタッチ

パネル部下側面が本体の正面から前方に突出する態様で設けられている

こと(前記(5)ウの差異点),本件意匠の傾斜面部の下側が傾斜面部の上側

25 及び左右側より幅広に構成されていること(同エの差異点)から主として

生じるものであり,そのような構成を有していない被告意匠からは,上記


19
の印象は受けないと認めるのが相当である。

したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

? 小括

以上のとおり,被告意匠は本件意匠に類似するとはいえず,そのほかに控

5 訴人がるる主張する点を考慮しても,この結論を左右し得ない

2 結論

以上の次第であるから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の

請求はいずれも理由がなく,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当で

ある。

10 よって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のと

おり判決する。



知的財産高等裁判所第4部



15




裁判長裁判官

菅 野 雅 之



20




裁判官

本 吉 弘 行



25




20
裁判官

中 村 恭




21
(別紙1) 参考図1




22
(別紙2) 参考図2




23
(別紙3) 被告製品参考図




24
(別紙4) 公知意匠図A




25
(別紙5) 公知意匠図B




26
(別紙6) 公知意匠図C




27
28