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事件 |
令和
2年
(ワ)
10386号
意匠権侵害差止等請求事件
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5 原告 株式会社ドウシシャ 同訴訟代理人弁護士 小松陽一郎 同 原悠介 同 千葉あすか 10 被告 スワン電器株式会社 同訴訟代理人弁護士 鈴木修 同 磯田直也 同 炭谷祐司 15 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 20 1 被告は,別紙被告商品目録記載の送風機付き照明装置を製造し,譲渡し, 貸し渡し,輸入し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展 示を含 む。)をしてはならない。 2被 告は,前項記載の商品及びその半製品(別紙被告 商品目録記載の 形態を 具備し ているが,完成には至らないもの) を廃棄せよ。 25 3 被告は,原告に対し,750万円及びこれに対する令和2年11月17日 から支 払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,原告が,被告による別紙被告商品目録記載の商品(以下「被告商品」 という。)の製造,販売行為に関し,@被告商品の意匠(以下「被告意匠」という。) は,意匠に係る物品を「送風機付き照明器具」とする原告の意匠権(以下「原告意 5 匠権」という。)に係る意匠(以下「原告意匠」という。)に類似することから,原 告意匠権を侵害する,A被告商品は別紙原告商品目録記載の商品(以下,順に「原 告商品1−1」などといい,また,これらを併せて「原告商品」という。)の形態を 模倣したものであるから,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3 号所定の不正競争に該当する,又はB被告商品は周知の商品等表示である原告商品 10 の形態と類似の形態を使用するものであるから,不競法2条1項1号所定の不正競 争に該当するとして,被告に対し,被告商品の譲渡等の差止(意匠法37条1項又 は不競法3条1項),製造の差止(意匠法37条1項又は不競法3条2項),被告 商品及びその半製品の廃棄(意匠法37条2項又は不競法3条2項)並びに750 万円の損害賠償(意匠権侵害の不法行為(民法709条)又は不競法4条)及びこ 15 れに対する不法行為又は不正競争の日の後である令和2年1 1月17日(訴状送達 の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を 請求する事案である。 2 前提事実(証拠等を掲げていない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨 により容易に認められる事実である。なお,書証の掲記に際し,枝番号の全てを含 20 むときはその記載を省略することがある。以下同じ。) (1) 当事者 原告は,家庭用雑貨,電気製品等の製造,販売等を目的とする株式会社である。 被告は,照明器具及び電気器具の製造,卸売等を目的とする株式会社である。 (2) 原告意匠権 25 原告は,以下の意匠権(原告意匠権)を有する。 登録番号 意匠登録第 1650627 号 出願日 平成31年1月22日 登録日 令和元年12月27日 意匠に係る物品 送風機付き照明器具 図面 別紙意匠公報1の図面のとおり 5 (3)原告商品の製造,販売等 原告は,平成31年3月から,EC サイトや全国の量販店等を通じて送風機付き照 明器具である原告商品1−1の販売を開始し,また,令和2年3月から,同様に原 告商品1−2及び2の販売を開始した(甲18,19)。 原告商品1−1及び2の各形態は,それぞれ,別紙「原告商品説明書1−1」及 10 び「原告商品説明書2」のとおりである。 また,原告商品1−1と原告商品1−2の形態は,原告商品1−1では,円筒状 中空本体の上面部が中央部に略矩形の板,外周部内側から中心に向かって4本の梁 が十字状に配置されているのに対し,原告商品1−2では,円筒状中空本体の上面 部は,中央部に円形の板,外周部内側から中心部を通って再び外周部内側に至る直 15 線状1本の梁が配置されている点のみで相違している。 (4) 被告商品の製造,販売等 被告は,令和2年6月から,EC サイト等を通じ,送風機付き照明装置である被告 商品の販売を開始した。被告商品の形態は,別紙「被告商品説明書」のとおりであ る。なお,被告は,以下の意匠権を有するところ,被告商品はその実施品である。 20 (以上につき,乙3〜5,弁論の全趣旨) 登録番号 意匠登録第 1667995 号 出願日 令和2年1月30日 登録日 令和2年8月25日 意匠に係る物品 送風機付き照明装置 25 図面 別紙意匠公報2の図面のとおり 3 争点 (1) 意匠権関係 原告意匠と被告意匠の類否(争点1) (2) 不競法2条1項3号関係 被告商品の形態模倣の有無(争点2) 5 (3)不競法2条1項1号関係(争点3) ア 原告商品の商品等表示該当性(争点3−1) イ 原告商品と被告商品との形態の類否及び混同のおそれの有無(争点3−2) (4) 原告の損害額(争点4) 第3 当事者の主張 10 1 原告意匠と被告意匠の類否(争点1) (原告の主張) (1) 原告意匠と被告意匠の構成態様 原告意匠と被告意匠の各構成態様は,別紙「原告意匠の構成態様」及び「被告意 匠の構成態様」の各「原告の主張」欄記載のとおりである。 15 これに対し,被告は,同各別紙の各「被告の主張」欄記載のとおり,上記各構成 態様のうち基本的構成態様 B1 及び C1 につき一部異なる特定をしている。しかし, 基本的構成態様とは意匠の骨格をなす態様であるから,詳細に特定しようとする被 告の主張は適当でない。 また,被告は,具体的構成態様について,原告の主張につき数値等の相違を主張 20 する(構成態様 D1〜G1)と共に,原告の主張する構成態様を更に細分化した構成態 様を主張する(構成態様 I1)ところ,この点に係る被告の表現については特に争わ ない。 (2) 原告意匠と被告意匠の共通点及び差異点 ア 原告意匠と被告意匠とは,基本的構成態様のいずれも共通するほか,具体的 25 構成態様 F1 と f1も共通する。 基本的構成態様 B1 につき,原告意匠は,その円筒状中空本体の上面部にも丘状の ファンガードが存することから,この点において被告意匠との差異はない。また, 円筒状中空本体の下面部のファンガードの形状の「放射線状」とは,一般的に,中 央の一点から四方八方に放出した形をいうところ,被告意匠においてもファンガー ドが中心部から四方八方に伸び出ているから,その1本1本が湾曲線状であったと 5 しても,放射線状に配置されていることに変わりはなく,この点でも原告意匠と被 告意匠との差異はない。 イ 差異点 両意匠は,具体的構成態様 D1,E1,G1 及び I1 と d1,e1,g1及び i1 において差 異がある。 10 (3) 原告意匠の要部 ア 意匠の類否の判断に当たっては,意匠に係る物品の使用状態においてよく見 える部分を重視すべきところ,原告意匠は,「送風機付き照明器具」に関する意匠 であり,原告意匠に係る物品の使用状態は,玄関,キッチン,洗面所等の屋内の天 井という高所のごく一部に設置されるものであるから,使用者にはその細部が見え 15 にくい。また,原告意匠に係る物品は高所に設置されるものであるから,使用者は, 通常の使用状態では,下から見上げるようにこれを観察することになる。そうする と,使用者にとって,原告意匠に係る物品の円筒状中空本体の上面部や支柱体等は, 円筒状中空本体の下面部の後ろに隠されるような位置関係となり,ほとんど見えな くなる。さらに,送風機付き照明器具の物品の本来の機能は送風と発光にあり,需 20 要者は,送風部分や発光部分の形態を注視,評価するのであって,発光等と直接関 係しない円筒状中空本体の上面部や支柱体等は,需要者が主として観察する部分で はない。円筒状中空本体の側面部も,原告意匠に係る物品の使用状態においては見 えにくい箇所であるし,発光部の端部が掛かっているのみであることから,需要者 が同部位に特に注意を惹かれることはない。そもそも,天井に設置する送風機付き 25 照明器具の側面に敢えて注目することは,通常の観察方法とはいえない。 したがって,原告意匠に係る物品の円筒状中空本体の上面部,側面部,支柱体等 は,円筒状中空本体の下面部と同じ比重を有するものではなく,原告意匠の要部は, 使用状態において使用者から全範囲が看取可能であり,かつ,送風部及び発光部の 大部分を備える円筒状中空本体の下面部である。 イ 原告商品につき,その包装やオンラインストアの表示において円筒状中空本 5 体の上面部や支柱体を含む商品の全体写真が掲載され,また,店舗販売において包 装箱から取り出されて電源に接続された状態で陳列されているとしても,原告商品 の包装やオンラインストアで表示される写真は,原告商品の着脱方法や機能説明の 一環として便宜上全体を掲載しているにすぎないし,店舗販売での陳列状態は,需 要者が着目する発光部である円筒状中空本体の下面部を顧客に向ける形で陳列され 10 ており,上面部及び支柱体等は,見ようと思えば見られる状態にあるというに過ぎ ない。そうである以上,このような原告商品の陳列状態等は,原告意匠の全体が要 部であると解すべき理由にはならない。 また,被告は,原告意匠の円筒状中空本体の下面部の形状につき,原告意匠の意 匠登録時の公知意匠の形状と共通するありふれた形状であり,看者の注意を引きや 15 すい部分とはいえない旨を主張する。しかし,その指摘に係る意匠は,そもそも原 告意匠の意匠登録時において公知とはいえないものや,原告意匠に係る物品とその 用途が大きく異なるため,使用状態において,看者が商品の下面部を下方から見よ うとすることは考え難いものであるし,その点を措くとしても,原告意匠とはその 外観を大きく異にするものであることなどの差異により,意匠全体を比較した場合, 20 原告意匠とその印象を大きく異にする。このため,原告意匠の円筒状中空本体の下 面部の形状は,少なくともありふれた形状とはいえない。 (4) 類否について ア 原告意匠と被告意匠は,基本的構成態様が同一であり,また,具体的構成態 様の差異点も微細なものに過ぎず,被告の主張する差異点(後記差異点@〜I)を 25 併せ考えたとしても,以下のとおり,視覚を通じた美感を異ならせるような大きな 差異点はなく,両意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様の多くの共通点がもた らす印象を凌駕することはない。なお,被告主張に係る差異点のうち,差異点@以 外については,差異点の認定それ自体は争わない。 イ 差異点@及びCについて 差異点@については,前記のとおり,そもそも差異点とはいえない。 5 差異点Cについては,ファンガードの本数は僅かな差に過ぎず,また,渦巻き状 の曲線は非常に緩やかであり実質はほぼ直線であるから,いずれも原告意匠と異な る印象を与えるものではなく,両意匠とも密な印象を与えることに変わりはない。 ウ 差異点Bについて 原告意匠では中空部の直径が本体直径の約4分の3であるのに対し,被告意匠は 10 中空部の直径が本体直径の約3分の2であるとしても,その差は見た目では判断不 可能なほどに極めて僅かな差に過ぎない。また,中空部と本体の直径比は下面部の 透光部幅に影響するものであるが,透光部は点灯時に最も目立つ部分であるところ, 点灯時は発光により透光部の輪郭も多少ぼやけるため,これほどの僅かな幅の差が 美感に影響することはない。 15 エ 差異点Eについて 円筒状中空本体の側面部は,使用時に見えにくい箇所である。また,側面部の透 光部の幅は,点灯しない限り意識する必要もなく,意識するものでもない。このた め,被告意匠では円筒状中空本体の側面部の4分の3を透光部が占めるとしても, 原告意匠との印象の差異は僅かに過ぎず,安定感や明るさといった印象に影響する 20 ようなものでもなく,まして美感の差異に与える影響はない。 オ その他の差異点について その他の差異点は,いずれも,使用時に見えにくい箇所に係る差異に過ぎず,こ れらの差異が全体として需要者に与える美感に大きな影響を与えるとはいえない。 差異点Aについては,製品を真横から見ないと感得し難い部分であり,天井に設置 25 して使用することが想定される送風機付き照明器具を真横から見ることはほとんど 考えられない。差異点Dについては,手で触れる可能性があることと美感に影響を 与えるものか否かとは無関係である。差異点Gについても,使用状態においては支 柱体の全部ないし大部分が円筒状中空本体の下面部により覆い隠されてしまうこと に鑑みれば,需要者がそのわずかな違いに着目するとは考えられない。 カ 以上より,被告意匠は,原告意匠と類似する。 5 したがって,被告による被告商品の製造,販売行為は,原告意匠権を侵害する。 (被告の主張) (1) 原告意匠と被告意匠の構成態様 原告意匠と被告意匠の各構成態様は,別紙「原告意匠の構成態様」及び「被告意 匠の構成態様」の各「被告の主張」欄記載のとおりである。 10 (2) 原告意匠と被告意匠の共通点及び差異点 原告意匠と被告意匠とは,基本的構成態様 A2 及び C2 と a2及び c2 が共通し, その余の基本的構成態様及び具体的構成態様はいずれも異なる。 (3) 原告意匠の要部 ア 原告意匠に係る物品は,円筒状中空本体が支柱体を軸に傾斜した状態に可動 15 することが前提の送風機付き照明器具である。その需要者には消費者が含まれる。 また,原告意匠に係る物品である送風機付き照明器具は,屋内の天井等に設置さ れ,照明とサーキュレートの用途で使用されるものであり,円筒状中空本体を支柱 体を軸に傾斜した状態に可動させることによって,家具配置や人の所在位置に応じ てサーキュレートの方向を自在に変更できるようにされている。加えて,この物品 20 は,天井を含む部屋の素材,配色や他の家電,家具の色彩や位置関係と相まって, 当該部屋のインテリアの一部としても機能している。このような用途及び使用態様 に照らすと,需要者である消費者は,支柱体や円筒状中空本体の下面部及び側面部 のみならず,傾斜状態に可動させた際に視認できる円筒状中空本体の上面部につい ても,等しく注視するものといえる。 25 さらに,送風機付き照明器具である原告商品及び被告商品は,いずれも紙製の箱 ないしブリスターパックに包装され,その外観から,商品全体の意匠を看取し得る 上,原告商品については,取付時の状態や傾斜状態に稼働させた様子の写真も掲載 されて,オンライストアや実店舗で消費者向けに販売されている。また,原告商品 及び被告商品いずれも,一部店舗では,包装から取り出され,電源に接続された状 態で陳列されている。しかも,これらの商品は,需要者である消費者自ら取付けを 5 行う物品である。 このため,需要者である消費者は,オンラインストアや店舗で,送風機付き照明 器具の円筒状中空本体や支柱体を含む商品全体をくまなく看取し,インテリアの一 部として評価した上で購入を選択し,また,購入時及び取付時において,配線器具 への取付部位についても注視することになる。 10 以上から,原告意匠のうち需要者である消費者にとって注意を引きやすい部分は, 円筒状中空本体の上面部や支柱体を含む原告意匠全体である。 イ 原告が原告意匠の要部とする円筒状中空本体の下面部は,原告意匠の意匠登 録出願時の公知意匠と,円筒状中空本体は円筒状であって,中空部を備え,透光部 を有している点,中空部下面には,中空部中央に位置する円形板から直線状のファ 15 ンガードが放射線状に円筒状中空部下面とほぼ面一に形成されている点及び中空部 内には緩やかに屈曲した回転ファンが形成されている点において共通する。このよ うな公知意匠を参酌すれば,原告意匠における円筒状中空本体の下面部の形状はあ りふれたものであって,看者の注意を引きやすい部分とはいえない。 (4) 類否 20 ア 原告と被告意匠とを対比すると,看者の注意を引きやすい部分である意匠全 体について,以下の差異点がある。 (ア) 差異点@ 基本的構成態様 B2 と b2について,原告意匠では,円筒状中空本体の下面のみ放 射線状のファンガードに覆われている(B2)のに対し,被告意匠では,本体の上面 25 は放射線状及び同心円状のファンガードにより,下面は渦巻き状のファンガードに より,それぞれ覆われている(b2)。 (イ) 差異点A 具体的構成態様 D2 及び d2 について,原告意匠では,円筒状中空本体の全体が円 筒状である(D2)のに対し,被告意匠では,円筒状中空本体は,透光部は円筒状で, 透光部以外は断面が略梯形状である(d2)。 5 (ウ)差異点B 具体的構成態様 D2 及び d2 について,原告意匠では,中空部の直径が本体直径の 約4分の3である(D2)のに対し,被告意匠では,中空部の直径が本体直径の約3 分の2である(d2)。 (エ) 差異点C 10 具体的構成態様 E2 と e2について,原告意匠では,中空部中央に位置する円形板 から細い48本の直線状のファンガードが放射線状に円筒状中空部下面とほぼ面一 に形成されている(E2)のに対し,被告意匠では,中空部中央に位置する円形板か ら細い36本の湾曲線状のファンガードが渦巻き状に円筒状中空部下面とほぼ面一 に形成されている(e2)。 15 (オ) 差異点D 具体的構成態様 G2 と g2について,原告意匠では,中央に矩形の板,及び外周部 内側から中心に向かって丘状の4本の梁が十字状に配置されているだけでファンガー ドが存在しない(G2)のに対し,被告意匠では,中央に円形の板,及び外周部内側 から中心に向かって丘状の3本の梁が等間隔に配置され,該3本の梁の間に幅細の 20 15本の直線状及びそれらと交差する4本の同心円状のファンガードが形成され て いる(g2)。 (カ) 差異点E 具体的構成態様 H2 と h2について,原告意匠では,円筒状中空本体の側面視で, 透光部は下面から本体の約3分の1の高さまでであり,残りの約3分の2は非透光 25 部である(H2)のに対し,被告意匠では,透光部は下面から本体の約4分の3の高 さまでであり,残りの約4分の1は非透光部である(h2)。 (キ) 差異点F 具体的構成態様 I2 と i2について,原告意匠では,配線器具への取付部がねじ込み 型の口金部である(I2)のに対し,被告意匠では,シーリングプラグである(i2)。 (ク) 差異点G 5 具体的構成態様I2 と i2について,原告意匠では,支柱体の直径が円筒状中空本体 の直径の約5分の1である(I2)のに対し,被告意匠では,約3分の1である(i2)。 (ケ) 差異点H 具体的構成態様 I2 と i2について,原告意匠には存在しないが,被告意匠には,支 柱体の外周にスライド可能であって,突出体を覆う円筒状カバーが存在する(i2)。 10 (コ) 差異点I 具体的構成態様 J2 と j2について,原告意匠では,口金部が常に露出している(J2) のに対し,被告意匠では,シーリングプラグが側面視で円筒状カバーに隠され外部 から見えないが,配線器具への取付時には,該円筒状カバーを下にスライドさせる ことによってシーリングプラグが露出する構成となっている(j2)。 15 イ 各差異点について (ア) 差異点B及びCは,まず,差異点Cにより,ファンガードについて,原告意 匠が48本という大量の本数と直線状という形状により非常に密な印象を与えるの に対し,被告意匠では,本数が少なくかつ湾曲線状のガードが渦巻き状に配置され ていることから,より柔らかな印象を与える。また,差異点Bにより,被告意匠の 20 透光部は,原告意匠よりも大きくより明るく安定感のある印象を与える。 (イ) 差異点A及びEは,円筒状中空本体の側面部に関するものであるが,差異点 Eの存在により,被告意匠の透光部は,原告意匠よりも厚くより明るく安定感のあ る印象を与える。また,差異点Aにより,原告意匠が円筒状中空本体の側面視にお いてごつごつした印象を与えるのに対し,被告意匠では,柔らかな印象を与える。 25 (ウ) 差異点G〜Iは,支柱体に関するものであるが,まず,差異点Gにより,被 告意匠の支柱体はその太さが原告意匠よりも明らかに太く,原告意匠に比較してどっ しりとした安定的な印象を与える。また,差異点H及びIのスライドするカバーの 有無により,原告意匠では口金部が常に露出しており無機質な印象を与えるのに対 し,被告意匠では,カバーによって取付時以外はシーリングプラグが隠されている ため,インテリアとしての優れた美感を与えている。 5 (エ)差異点Fの取付部の相違は,消費者にとって取付操作の難易度が異なり,か つ,落下のおそれという安全性に関係する事項であり,消費者の注意を引く。差異 点Dの円筒状中空本体の上面部のファンガードの有無も同様に,角度調整の際等に 手で触れる可能性のある部位であるから安全性に関係し,消費者の注意を引く。 ウ 以上のとおり,原告意匠と被告意匠は,基本的構成態様が相違しているほか, 10 具体的構成態様の多くの差異点の存在によって,看者に与える印象は大きく異なり, 需要者の視覚を通じて起させる美感によれば,被告意匠は,原告意匠に類似しない。 2 被告商品の形態模倣の有無(争点2) (原告の主張) (1) 原告商品及び被告商品の形態 15 原告商品及び被告商品の各形態は,別紙「原告商品1−1の形態」,同「原告商 品1−2の形態」,同「原告商品2の形態」及び同「被告商品の形態」の各「原告 の主張」欄記載のとおりである。 (2) 原告商品1−1と被告商品の各形態の実質的同一性 ア 被告商品の形態は,原告商品1−1の形態と基本的形態において一致する。 20 また,被告主張に係る具体的形態の後記差異点A’〜K’も,前記1(原告の主張)(4) と同様であることに加え,後記イ以下の事情から,全体の美感や印象に影響を及ぼ さない微細な差異に過ぎない。なお,原告商品1−1及び被告商品の具体的形態の 差異に関する被告の表現については,積極的に争わない。 したがって,原告商品1−1と被告商品の形態の差異はわずかな改変に基づくも 25 のに過ぎず,両者は酷似していることから,実質的に同一である。 イ 差異点D’について 上面部のファンガードにつき,原告商品1−1では,円筒状中空本体の上面の外 周部内側から中心に向かって4本の梁が十字状に配置され,該4本の梁の間に幅細 の14本の直線状及びそれらと交差する4本の同心円状のファンガードが形成され ており(U1-1-1),原告意匠の具体的構成態様 G よりも被告商品の形態u1 に近づく 5 ものであって,両者の同一性が一層認められやすい。 ウ 差異点G’について 支柱体の直径を変更すること自体ありふれた手法であり,これにより被告商品に 相応の形態上の特徴がもたらされることはない。 エ 差異点J’について 10 円筒状中空本体の可動範囲の差が商品形態の同一性に何らかの影響を与えるもの とはいい難く,その差も僅か50度にとどまる。 オ 差異点K’について 原告商品1−1の基本的形態及び具体的形態の大部分を維持したまま,単に全体 的な色彩を一律に改変したのみであって,容易に着想し得るものである。 15 (3) 原告商品1−2と被告商品の形態の実質的同一性 原告商品1−2は,原告商品1−1の形状のごく一部(具体的形態 U1-1-1 に係る 部分)を変更したものであり,被告商品との実質的同一性を考える上で,原告商品 1−1と原告商品1−2を区別する必要はない。 したがって,前記(2)と同様に,原告商品1−2と被告商品の各形態は実質的に同 20 一である。 (4) 原告商品2と被告商品の形態の実質的同一性 被告商品の形態は,原告商品2の形態と基本的形態において一致する。また,原 告商品2は,原告商品1−1に比して被告商品の形態により近いものであるから, 原告商品2と被告商品の各形態の差異は極めてわずかな改変に基づくものであると 25 いえる。 したがって,原告商品2と被告商品の形態は実質的に同一である。 なお,原告商品2及び被告商品の具体的形態の差異に関する被告の表現について は,積極的に争わない。 (5) 依拠 前記((2)〜(4))のとおり,原告商品と被告商品の形態は,その基本的形態及び具 5 体的形態が実質的に同一である。したがって,被告には,原告商品の形態に依拠し た模倣の意図が推認される。 (被告の主張) (1) 原告商品及び被告商品の形態 原告商品及び被告商品の各形態は,別紙「原告商品1−1の形態」,同「原告商 10 品1−2の形態」,同「原告商品2の形態」及び同「被告商品の形態」の各「被告 の主張」欄記載のとおりである。 (2) 原告商品1−1と被告商品の各形態の差異点 ア 原告商品1−1と被告商品の各形態には,次の差異点がある。 (ア) 差異点@’ 15 基本的形態 P1-1-2 と p2について,原告商品1−1では,円筒状中空本体の上下 面は放射線状のファンガードにより覆われている(P1-1-2)のに対し,被告商品では, 本体の上面は放射線状及び同心円状のファンガードにより,下面は渦巻き状のファ ンガードにより,それぞれ覆われている(p2)。 (イ) 差異点A’ 20 具体的形態 R1-1-2 と r2について,原告商品1−1では,円筒状中空本体の全体が 円筒状である(R1-1-2)のに対し,被告商品では,円筒状中空本体は,透光部は円筒 状であり,透光部以外は断面が略梯形状である(r2)。 (ウ) 差異点B’ 具体的形態 R1-1-2 と r2について,原告商品1−1では,中空部の直径が本体直径 25 の約4分の3である(R1-1-2)のに対し,被告商品では,中空部の直径が本体直径の 約3分の2である(r2)。 (エ) 差異点C’ 具体的形態 S1-1-2 と s2について,原告商品1−1では,中空部中央に位置する円 形板から細い48本の直線状のファンガードが放射線状に円筒状中空部下面とほぼ 面一に形成されている(S1-1-2)のに対し,被告商品では,中空部中央に位置する円 5 形板から細い36本の湾曲線状のファンガードが渦巻き状に円筒状中空部下面とほ ぼ面一に形成されている(s2)。 (オ) 差異点D’ 具体的形態 U1-1-2 と u2について,原告商品1−1では,中央に矩形の板,及び 外周部内側から中心に向かって4本の梁が十字状に配置され,該4本の梁の間の周 10 囲に幅細の14本の直線状及びそれらと交差する4本の同心円状のファンガードが 形成されている(U1-1-2)のに対し,被告商品では,中央に円形の板,及び外周部内 側から中心に向かって丘状の3本の梁が等間隔に配置され,該3本の梁の間に幅細 の15本の直線状及びそれらと交差する4本の同心円状のファンガードが形成され ている(u2)。 15 (カ) 差異点E’ 具体的形態 V1-1-2 と v2について,原告商品1−1では,円筒状中空本体の側面 視で,透光部は下面から本体の約3分の1の高さまでに達し,残りの約3分の2は 非透光部である(V1-1-2)のに対し,被告商品では,透光部は下面から本体の約4分 の3の高さまでに達し,残りの約4分の1は非透光部である(v2)。 20 (キ) 差異点F’ 具体的形態 W1-1-2 と w2について,原告商品1−1では,配線器具への取付部が ねじ込み型の口金部である(W1-1-2)のに対し,被告商品では,シーリングプラグ である(w2)。 (ク) 差異点G’ 25 具体的形態 W1-1-2 と w2について,原告商品1−1では,支柱体の直径が円筒状 中空本体の直径の約5分の1である(W1-1-2)のに対し,被告商品では,約3分の 1である(w2)。 (ケ) 差異点H’ 具体的形態 W1-1-2 と w2について,原告商品1−1には存在しないが,被告商品 には,支柱体の外周にスライド可能であって,突出体を覆う円筒状カバーが存在す 5 る(w2)。 (コ) 差異点I’ 具体的形態 X1-1-2 と x2について,原告商品1−1では,口金部が常に露出して いる(X1-1-2)のに対し,被告商品では,シーリングプラグが側面視で円筒状カバー に隠され外部から見えないが,配線器具への取付時には,該円筒状カバーを下にス 10 ライドさせることによってシーリングプラグが露出する構成となっている(x2)。 (サ) 差異点J’ 具体的形態 Y1-1-2 と y2について,原告商品1−1では,突出体の角度調整によ る円筒状中空本体の可動範囲は,垂直方向に約300度である(Y1-1-2)のに対し, 被告商品では,可動範囲が垂直方向に250度である(y2)。 15 (シ) 差異点K’ 具体的形態 Z1-1-2 と z2について,原告商品1−1では,透光部,突出体及び口金 部以外は,全体として白色である(Z1-1-2)のに対し,被告商品では,透光部,ファ ン,突出体及びシーリングプラグ以外は,全体として薄茶色又は焦げ茶色の木目調 か,白色の各モデルが存在する(z2)。 20 イ 差異点A’〜C’,E’〜I’については,前記1(被告の主張)(1)イと同様であ る。また,差異点K’において,被告商品のうち薄茶色又は焦げ茶色の木目調のモデ ルは,白色の原告商品1−1と明らかに相違する。 したがって,原告商品1−1と被告商品の各形態は,実質的に同一とはいえない。 (3) 原告商品1−2と被告商品の各形態の実質的同一性について 25 原告商品1−1と原告商品1−2は,具体的形態 U1-1-2 と U1-2-2においてのみ 相違し,その余は共通している。両者の共通部分に関し,原告商品1−2と被告商 品とは,差異点@’〜C’,E’〜K’において相違する。 また,原告商品1−2と被告商品は,以下の点で相違する(差異点D’-2)。すな わち,具体的形態 U1-2-2 と u2について,原告商品1−2では,円筒状中空本体の 上面部中央に略円形の板,及び外周部内側から中心部を通って再び外周部内側に至 5 る直線状の梁とその周囲に幅細の14本の直線状及びそれらと交差する4本の同心 円状のファンガードが形成されている(U1-2-2)のに対し,被告商品では,上面部中 央に円形の板,及び外周部内側から中心に向かって丘状の3本の梁が等間隔に配置 され,該3本の梁の間に幅細の15本の直線状及びそれらと交差する4本の同心円 状のファンガードが形成されている(u2)。 10 したがって,原告商品1−2と被告商品の各形態は,実質的に同一とはいえない。 (4) 原告商品2と被告商品の形態の実質的同一性について ア 原告商品2と被告商品の各形態には,次の差異点がある。 (ア) 差異点@’’ 基本的形態 P2-2 と p2について,原告商品2では,円筒状中空本体の上下面は放 15 射線状のファンガードにより覆われている(P2-2)のに対し,被告商品では,本体の 上面は放射線状及び同心円状のファンガードにより,下面は渦巻き状のファンガー ドにより,それぞれ覆われている(p2)。 (イ) 差異点A’’ 具体的形態 R2-2 と r2について,原告商品2では,中空部の直径が本体直径の約 20 4分の3である(R2-2)のに対し,被告商品では,中空部の直径が本体直径の約3 分の2である(r2)。 (ウ) 差異点B’’ 具体的形態 S2-2 と s2について,原告商品2では,中空部中央に位置する円形板 から細い48本の直線状のファンガードが放射線状に円筒状中空部下面とほぼ面一 25 に形成されている(S2-2)のに対し,被告商品では,中空部中央に位置する円形板か ら細い36本の湾曲線状のファンガードが渦巻き状に円筒状中空部下面とほぼ面一 に形成されている(s2)。 (エ) 差異点C’’ 具体的形態 U2-2 と u2について,原告商品2では,外周部内側から中心部を通っ て再び外周部内側に至る直線状の1本の梁と,その周囲に幅細の14本の直線状及 5 びそれらと交差する4本の同心円状のファンガードが形成されている(U2-2)のに 対し,被告商品では,3本の梁が等間隔に配置され,該3本の梁の間に幅細の15 本の直線状及びそれらと交差する4本の同心円状のファンガードが形成されている (u2)。 (オ) 差異点D’’ 10 具体的形態 V2-2 と v2について,原告商品2では,円筒状中空本体の側面視で, 透光部は下面から本体の約3分の1の高さまでに達し,残りの約3分の2は非透光 部である(V2-2)のに対し,被告商品では,透光部は下面から本体の約4分の3の 高さまでに達し,残りの約4分の1は非透光部である(v2)。 (カ) 差異点E’’ 15 具体的形態 W2-2 と w2について,原告商品2では,支柱体の直径が円筒状中空本 体の直径の約5分の1である(W2-2)のに対し,被告商品では,約3分の1である (w2)。 (キ) 差異点F’’ 具体的形態 W2-2 と w2について,原告商品2には存在しないが,被告商品には, 20 支柱体の外周にスライド可能であって,突出体を覆う円筒状カバーが存在する(w2)。 (ク) 差異点G’’ 具体的形態 X2-2 と x2について,原告商品2では,ねじ込み型の口金部又はシー リングプラグが常に露出している(X2-2)のに対し,被告商品では,シーリングプ ラグが側面視で円筒状カバーに隠され外部から見えないが,配線器具への取付時に 25 は,該円筒状カバーを下にスライドさせることによってシーリングプラグが露出す る構成となっている(x2)。 (ケ) 差異点H’’ 具体的形態 Y2-2 と y2について,原告商品2では,突出体の角度調整による円筒 状中空本体の可動範囲は,垂直方向に約300度である(Y2-2)のに対し,被告商 品では,可動範囲が垂直方向に250度である(y2)。 5 (コ)差異点I’’ 具体的形態 Z2-2 と z2について,原告商品2では,透光部,突出体及びねじ込み 型の口金部又はシーリングプラグ以外は,全体として白色である(Z2-2)のに対し, 被告商品では,透光部,ファン,突出体及びシーリングプラグ以外は,全体として 薄茶色又は焦げ茶色の木目調か,白色の各モデルが存在する(z2)。 10 イ 差異点A’’,B’’,D’’,E’’,H''及びI’’については,前記(2)イと同様であ る。これに加え,差異点F’’及びG’’のスライドするカバーの有無により,原告商品 2がねじ込み型の口金部又はシーリングプラグが常に露出しており無機質な印象を 与えるのに対し,被告商品では,カバーによって取付時以外はシーリングプラグが 隠されているため,インテリアとしての優れた美感を与えているほか,原告商品2 15 のうちねじ込み型の口金部のものは,シーリングプラグである被告商品と一見して 相違する。 したがって,原告商品2と被告商品の各形態は,実質的に同一とはいえない。 (5) 依拠 前記(2)〜(4)のとおり,被告商品と原告商品との間には看者に大きな異なる印象を 20 与える差異点が多数存在する。また,被告は,もともと被告が販売していたサーキュ レーション機能を持ったシーリングファンライト「UZUKAZE ~うずかぜ~」(以下 「被告先行商品」という。)の新たなバリエーションとして,原告を含む他社製品 に依拠することなく独自に,脱衣所やキッチン等の比較的狭いスペースにも設置で きるように同商品の小型モデルとして被告商品を開発した経緯がある。さらに,原 25 告商品1−2及び原告商品2は,被告が,被告商品の形態すなわち被告意匠の創作 を完成させて意匠登録出願をした令和2年1月30日より後の同年3月に販売が開 始されたものである。 以上から,被告商品は,原告商品に依拠したものとはいえない。 3 原告商品の商品等表示該当性(争点3−1) (原告の主張) 5 (1)特別顕著性 原告商品は,サーキュレーターと照明器具を一体化させた形状であるところ,他 製品と異なり,天井空間を利用して天井に直接差し込んで使用するための形態をな すものであって,円筒状中空本体の中央に7枚の回転ファン及び48本のファンガー ドを形成することにより,安全かつ送風力に優れた印象を与えるデザインとなって 10 いる。また,支柱体を軸として,中空部本体上方から可動部を有する円筒状の支柱 体を突出させることで,コンパクトなデザインを維持したまま角度調整を可能とす る独自の形態を有する。 このように,原告商品は,コンパクトかつ安全性・送風力に優れた印象を与える ものとして,同種製品にはない形態上の特徴があり,これに接する需要者に対し, 15 目新しく,強い印象を与えるものである。また,このような形態は,商品の技術的 な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に 由来するものではない。 したがって,原告商品は,同種商品と異なる顕著な特徴を有し,他社商品と明確 に区別できるものであるから,特別顕著性が認められる。 20 (2) 周知性 原告商品は,平成31年3月〜令和3年4月の約26か月間に合計16万台以上 に達する販売実績があり,販売金額も約7億0500万円以上に達する。また,原 告は,原告商品の広告宣伝費や販売促進費等として,平成31年1月〜令和3年5 月の間に,原告商品のみに関しては1255万円余,原告商品を含むものとしては 25 432万円余の合計1688万円余を支出している。さらに,原告商品は,パブリ シティとして少なくとも30件以上の多数の媒体に積極的に取り上げられている。 これらの事情に加え,原告商品は,「送風機付き照明器具」としての商品形態に特 異性があること等から,商品等表示として周知性を獲得している。 (被告の主張) (1) 特別顕著性の欠如 5 天井に設置するサーキュレーターと照明器具を一体化させた商品については,原 告商品が販売開始される前から,被告先行商品や原告のサーキュライト,公知意匠 に係る商品等が存在した。また,サーキュレーターと照明器具を一体化させた商品 において,回転ファンと安全のためのファンガードが設けられることは一般的であ り,原告商品は,他製品とは単にその本数が異なるものに過ぎない。さらに,照明 10 器具の分野においては,従前から支柱体の可動による角度調節が可能な商品は存在 した。このように,原告が原告商品の形態の特別顕著性の根拠として指摘する事情 は,原告商品の販売が開始される以前より照明器具の分野において一般的に存在し ていたものであるか,抽象的な機能の説明や評価であることから,原告商品の形態 の特別顕著性を裏付けるものではない。 15 (2) 周知性の欠如 原告主張に係る原告商品の販売実績等については,これを客観的に裏付ける証拠 はない。また,原告は,原告商品ごとに区別することなく原告商品の販売実績等を 主張するにとどまる。さらに,原告指摘に係るいずれの媒体においても,販売主体 として原告の名称が紹介されており,それによって出所表示は明らかであって,原 20 告商品の形態をもって出所表示機能が発揮されているわけではない。雑誌の発行部 数等やウェブ媒体の閲覧数,TV 媒体の視聴率等,実際に周知性獲得につながったこ とを裏付ける証拠もない。 4 原告商品と被告商品との形態の類否及び混同のおそれの有無(争点3−2) (原告の主張) 25 原告商品と被告商品は,その基本的形態及び具体的形態が実質的に同一であり酷 似しているから,需要者等にとって,その商品主体が同一であるか,少なくとも緊 密な営業上の関係があるものと誤信するおそれがある。 したがって,被告の被告商品の販売等により,需要者に誤認混同が生じている。 (被告の主張) 原告商品と被告商品の各形態には,看者に大きな異なる印象を与える差異点が多 5 数存在することから,両者の類似性は否定され,かつ,混同のおそれも認められな い。 5 原告の損害額(争点4) (原告の主張) 被告は,遅くとも令和2年4月1日以降,現在に至るまで,業として被告商品を 10 製造販売している。 被告による被告商品の販売数量は月間500台を下ることはなく,その単価は少 なくとも1台当たり5000円を下ることはない。また,被告における被告商品の 利益率は,少なくとも40%である。 したがって,被告による意匠権侵害行為又は不正競争によって,原告が,令和2 15 年4月〜同年9月の間に受けた損害は,600万円を下らない(意匠法39条2項, 不競法5条2項)。 また,被告の意匠権侵害行為又は不正競争と相当因果関係のある弁護士費用は, 差止請求を考慮して150万円とするのが相当である。 (被告の主張) 20 否認又は争う。 第4 当裁判所の判断 1 原告意匠と被告意匠の類否(争点1)について (1) 登録意匠とそれ以外の意匠との類否の判断は,需要者の視覚を通じて起こさ せる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)。具体的には,両意匠の基本的構成 25 態様及び具体的構成態様とその共通点ないし差異点を把握した上で,意匠に係る物 品の用途や使用態様,公知意匠等を参酌して,需要者の最も注意を引きやすい部分, すなわち要部を把握し,要部において両意匠の構成態様が共通するか否か,差異が ある場合はその程度や需要者にとって美感を異にするものか否かを重視して,両意 匠が全体として美感を共通にするか否かによって判断するのが相当である。 (2) 原告意匠及び被告意匠の構成態様 5ア 原告意匠の構成態様 別紙意匠公報1の図面及び弁論の全趣旨によれば,原告意匠の基本的構成態様及 び具体的構成態様は,別紙「原告意匠の構成態様」の「裁判所の認定」欄記載のと おり認められる。 このうち,基本的構成態様 B3 については,基本的構成態様とは意匠の基本的骨格 10 をなすものとして大掴みに把握される意匠の構成,態様をいうところ,原告意匠の 円筒状中空本体の上面には,十字状の部材が設けられており,これも原告意匠の基 本的骨格をなすものと把握するのが相当である。また,当該部材は,その形状及び 配置に鑑みると,主として原告意匠に係る物品の鉛直方向にかかる荷重を支える機 能を果たすもの,すなわち,ファンガードではなく梁として理解するのが相当であ 15 る。 イ 被告意匠の構成態様 別紙「被告商品説明書」及び弁論の全趣旨によれば,被告意匠の基本的構成態様 及び具体的構成態様は,それぞれ,別紙「被告意匠の構成態様」の「裁判所の認定」 欄記載のとおり認めるのが相当である。なお,基本的構成態様 b3 については,原告 20 意匠の基本的構成態様 B3 と同様の理由による。 (3) 原告意匠と被告意匠の各構成態様の共通点及び差異点 原告意匠と被告意匠の各構成態様を対比すると,原告意匠の基本的構成態様 A3 及 び C3並びに具体的構成態様 F3 と,被告意匠の基本的構成態様 a3 及び c3 並びに具 体的構成態様 f3 が共通点であり,それ以外の構成態様が差異点であると認められる。 25 (4) 原告意匠の要部 ア 原告意匠に係る物品の需要者,用途及び使用態様 証拠(甲5〜16,18,19,26〜48,乙8,20〜22)及び弁論の全趣 旨によれば,原告意匠に係る物品(送風機付き照明器具)である原告商品は,サー キュレーターとシーリングライトが一体化したもので,原告の従来の同種商品では リビングや寝室が主な設置場所であったのに対し,より狭い空間に設置可能とする 5 ために小型化して開発されたものであること,トイレ,洗面所,脱衣所やキッチン 等の狭小スペースにおいて,その天井等に備え付けられた電球ソケットに円筒状の 支柱体上部に形成されたねじ込み式の口金部を差し込んで設置し,照明機能と空気 循環機能を兼ね備え,使用者の好みに合わせて円筒状中空本体(ファン及びライト の部分)の角度を調節することができるものであることが認められる。また,この 10 ような用途及び使用態様に鑑みると,その需要者は,このような送風機付き照明器 具の購入者,使用者である一般消費者である。 イ 需要者が注目する部分 (ア) 前記認定に係る需要者,用途及び使用態様に鑑みると,原告意匠に係る物品 の使用者は,その使用に際し,これを下方又は斜め下方から上方に視線を向けて視 15 認する機会が最も多いと見られる。この場合,送風及び発光の両機能を果たす部位 を主要な構成要素とする円筒状中空本体の下面部が使用者の注意を最も引くことは 多言を要しないが,使用者が視認し得る具体的な部位には,更に円筒状中空本体の 側面及び支柱体も含まれ,他方で,円筒状中空本体の上面部や口金部が視認される 機会はかなり限られる。したがって,原告意匠のうち需要者の注意を最も引く部分 20 は,円筒状中空本体の下面部を中心としつつも,これに準ずるものとして側面部並 びに支柱体(ただし,口金部を含まない。)を含めて考えるのが相当である。 (イ) 原告の主張について この点につき,原告は,原告意匠の要部は円筒状中空本体の下面側のみである旨 を主張する。 25 しかし,前記のとおり,原告意匠に係る物品が天井に設置されるからといって, 使用者は,これを常に真下から視認するわけではない。すなわち,当該物品が一定 の広がりを有する空間に設置されることが前提となっている以上,例えば当該空間 の端部からは,当該物品を斜め下方から見上げる形となる。また,円筒状中空本体 が可動のものとして構成されていることから,その角度調節のいかんによっては, 真下からであっても円筒状中空本体の側面部が視認可能となり,いわんや斜め下方 5 から視認した場合,円筒状中空本体の側面部及び支柱体の視認はより容易になる。 これらの事情を踏まえると,この点に関する原告の主張は採用できない。 (ウ) 被告の主張について この点につき,被告は,原告意匠の要部はその全体である旨を主張する。 しかし,まず,前記のとおり,原告意匠に係る物品の使用時における視認可能な 10 部位は主に円筒状中空本体の下面部及び側面部並びに支柱体である。円筒状中空本 体の上面部は,原告意匠に係る物品が多くの場合天井部に設置されるであろうこと を考えると,円筒状中空本体の角度調節によりその上面部が視認可能となる場合は あり得るとしても,その機会はかなり限られる。まして,当該物品の使用状態では, 口金部分は,その性質上通常は視認し得ない。 15 また,証拠(甲5,18〜22,49〜51,乙6〜8)によれば,原告商品の包 装箱においては,斜め下方から撮影した商品画像及びイメージ図並びに真横方向か らのイメージ図が掲載されていること,店頭では実物も展示されており,その意匠 全体が視認可能な状態に置かれていること, サイトにおいても包装箱と同様の商 EC 品画像等が掲示されていることが認められる。加えて,原告商品は使用者が自ら取 20 付作業を行うと共に,円筒状中空本体の角度調節を行うことが想定されているとこ ろ,その際には,原告意匠の全体又はほぼ全体が視認可能となる。もっとも,これ らの場合の視認可能性は,購入検討時や取付時といった限られた場面でのみ存する ものであって,こうした場面で視認可能であるとしても,それをもって原告意匠の 要部に含まれるということはできない。加えて,購入に際しインテリアの一部とし 25 て機能することが考慮されるとしても,その評価の際に重視されるのは使用状態で 視認可能な部分であって,使用状態で視認困難な部分とは自ずと軽重が異なると見 られる。 さらに,被告は,円筒状中空本体の下面部につき,原告意匠の形状は,公知意匠 を参酌すればありふれた形状であって,看者の注意を引きやすい部分とはいえない 旨を主張する。しかし,そもそも,意匠とは,様々な要素の組合せ全体から構成さ 5 れる全体としての視覚情報が最終的に意味を有するものであり,一部に公知意匠が 含まれても,他の要素と併存することで異なる意匠を構成することも想定されるた め,要部認定に際しては,公知の意匠を参酌するものの,公知の意匠が包含される ことをもって,直ちにその部分が要部から排除されるべきものとまではいえないと 解される。その点を措くとしても,被告が主張する公知意匠のうち,乙11に示さ 10 れる商品に係る意匠については,そもそも,当該意匠が原告意匠の意匠登録出願前 に公知になったことを認めるに足りる的確な証拠はない。他方,乙14及び16に 係る各意匠については,いずれも,原告意匠の円筒状中空本体の下面部に相当する 部分の意匠は,原告意匠と一部共通するものもあるとはいえ,全体として見れば, 相違する部分故に,需要者に対し,両意匠が異なる意匠であるとの印象を強く与え 15 るものである。そうである以上,これらの公知意匠の存在ゆえに,原告意匠の円筒 状中空本体の下面部の形状がありふれたものであるとまではいえない。 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する被告の主張は採用 できない。 (5) 原告意匠と被告意匠の対比 20 ア 前記のとおり,原告意匠と被告意匠は,原告意匠の基本的構成態様A3 及び C3 並びに具体的構成態様 F3 と,被告意匠の基本的構成態様 a3 及び c3 並びに具体 的構成態様 f3 において共通し,それ以外の構成態様において相違する。 イ 基本的構成態様について 基本的構成態様 B3 及び b3 の差異点は,円筒状中空本体の上面において,原告意 25 匠では梁が配置されている(B3)のに対し,被告意匠では,梁が配置されると共に 放射状及び同心円状のファンガードにより覆われているように形成されている(b3) 点である。 しかし,この差異点は,円筒状中空本体の上面部に係るものであるため,原告意 匠の要部には含まれない。 ウ 具体的構成態様について 5 (ア)具体的構成態様 D3 と d3 具体的構成態様 D3 と d3の差異点は,円筒状中空本体の形状(差異点A)及び円 筒状中空本体の中空部の直径が本体直径に対して占める割合(差異点B)である。 このうち,差異点Aについては,その形状の違いから,原告意匠では存在感を感 じさせる印象を与えるのに対し,被告意匠では,すっきりとした印象を与えるとい 10 える。 他方,差異点Bに関し,円筒状中空本体の下面部につき原告意匠と被告意匠を対 比すると,中空部の占める割合の大小により,相対的に透光部の占める割合の大小 が異なることで,原告意匠ではすっきりとした印象を与えるのに対し,被告意匠で は,透光部がより強く存在感を示す印象を与えるといえる。 15 (イ) 具体的構成態様 E3 と e3 具体的構成態様 E3 と e3の差異点は,原告意匠では中空部下面に48本の直線状 のファンガードが放射状に形成されている(E3)のに対し,被告意匠では,中空部 下面に36本の湾曲線状のファンガードが放射状に形成されている(e3)点である (差異点 A)。 20 この差異点 A に関し,円筒状中空本体の下面部につき原告意匠と被告意匠を対比 すると,ファンガードの本数及び形状から,原告意匠では,やや密であり,かつ, 直線的でシャープな印象を与えるのに対し,被告意匠では,やや疎であり,かつ, 曲線的で柔らかな印象を与えるといえる。 (ウ) 具体的構成態様 G3 と g3 25 具体的構成態様 G3 と g3の差異点(差異点D)は,円筒状中空本体の上面部に関 するものであり,原告意匠の要部に含まれない部分のものである。 (エ) 具体的構成態様 H3 と h3 具体的構成態様 H3 と h3の差異点(差異点E)は,円筒状中空本体の側面視にお ける透光部が本体に対して占める下面からの高さの割合である。 この差異点に関し,円筒状本体の側面部につき原告意匠と被告意匠を対比すると, 5 具体的構成態様D3 と d3の場合と同様に,その割合の大小が異なることで,原告意 匠ではすっきりとした印象を与えるのに対し,被告意匠では,透光部がより強く存 在感を示す印象を与えるといえる。 (オ) 具体的構成態様 I3 と i3 具体的構成態様 I3 と i3の差異点(差異点F〜H)は,原告意匠の支柱体はねじ込 10 み型の口金部を有し,その直径が円筒状中空本体の直径の約5分の1である(I3)の に対し,被告意匠の支柱体は,シーリングプラグを有し,その直径が円筒状中空本 体の直径の約3分の1であり,かつ,支柱体の外周にスライド可能で突出体を覆う 円筒状カバーを有する(i3)点である。 この差異点に関し,まず,支柱体がねじ込み型の口金部を有するかシーリングプ 15 ラグを有するかについては,原告意匠の要部に含まれない部分のものである。他方, 円筒状中空本体の直径に対する支柱体の直径の割合や円筒状のカバーの有無が異な ることにより,原告意匠の支柱体は全体的にすっきりとした印象を与えるのに対し, 被告意匠の支柱体は,安定感や存在感を示す印象を与える。 (カ) 具体的構成態様 J3 と j3 20 具体的構成態様 J3 と j3の差異点(差異点I)は,原告意匠と異なり被告意匠の支 持体がシーリングプラグを有することを前提として,側面視における当該シーリン グプラグの視認可能性に関するものであるが,原告意匠の口金部は要部に含まれず, また,被告意匠のシーリングプラグは使用状態において外部から見えない部分であ るから,この差異点は原告意匠の要部に含まれない部分のものである。 25 (キ) 具体的構成態様 K3 と k3 具体的構成態様 K3 と k3の差異点は,円筒状中空本体の可動範囲が,原告意匠で は垂直方向に約240度である(K3)のに対し,被告意匠では約250度である(k3) 点である(差異点 B)。しかし,この差異点 B は,そもそも微差といえる程度にと どまるものである上,使用者にとって,使用状態では視認困難なものである。 エ 以上のとおり,要部を踏まえた原告意匠と被告意匠の共通点及び差異点を総 5 合的に考慮すると,原告意匠の構成は,全体的にすっきりとして洗練された印象を 与えるのに対し,被告意匠の構成は,全体的に存在感を示しつつも,柔らかく安定 感のある印象を与えるものであって,これらの印象がそれぞれの意匠全体に与える 影響は強く,原告意匠と被告意匠に接した需要者は,両意匠から異なる印象を強く 感じるものと見られる。 10 したがって,原告意匠と被告意匠とは,基本的構成態様においておおむね共通す るものの,具体的構成態様における差異点がその共通点により生ずる美感を凌駕し, 全体として需要者の視覚を通じて起こさせる美感を異にするというべきであって, 被告意匠は,原告意匠と類似するとはいえない。これに反する原告の主張は採用で きない。 15 (6) 小括 以上より,被告による被告商品の製造販売等は原告意匠権を侵害するものとはい えないから,その余の点につき論ずるまでもなく,原告は,被告に対し,原告意匠 権に基づく差止及び廃棄請求権並びに原告意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償 請求権を有しない。 20 2 被告商品の形態模倣の有無(争点2)について (1) 商品形態の模倣とは,他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の 形態の商品を作り出すことをいうところ(不競法2条5項),不競法2条1項3号 がいわゆるデッドコピーの禁止を目的とするものであることから,実質的に同一の 形態であるといえるためには,作り出された商品の形態が他人の商品の形態と同一 25 であるか,又は,実質的に同一といえるほどに酷似していることを要する。 (2) 原告商品1−1と被告商品の形態の実質的同一性について ア 原告商品1−1の形態 別紙「原告商品説明書1−1」及び弁論の全趣旨によれば,原告商品1−1の基 本的形態及び具体的形態は,別紙「原告商品1−1の形態」の「裁判所の認定」欄 記載のとおり認めるのが相当である。なお,基本的形態 P1-1-3 において梁の配置を 5 含む点については前記1(2)アと同様であり,また,円筒状中空本体の空洞部の上面 部のファンガードの形状に関しては,放射状であることと同心円状であることの両 形状を殊更区別すべき理由がないことによる。 イ 被告商品の形態 別紙「被告商品説明書」及び弁論の全趣旨によれば,被告商品の基本的形態及び 10 具体的形態は,別紙「被告商品の形態」の「裁判所の認定」欄記載のとおり認める のが相当である。基本的形態 p3 については,前記アと同様である。 ウ 原告商品1−1と被告商品との共通点及び差異点 原告商品1−1と被告商品の各形態を対比すると,原告商品1−1の基本的形態 の全て及び具体的形態 T1-1-3 と,被告意匠の基本的形態の全て及び具体的形態 t3 が 15 共通点であり,それ以外の形態が差異点であると認められる。 すなわち,原告商品1−1と被告商品の各形態とは,差異点A’,B’,D’〜K’の ほか,具体的形態 S1-1-3 と s3につき,原告商品1−1では,中空部中央に位置する 円形板から細い48本の直線状のファンガードが放射状に円筒状中空部下面とほぼ 面一に形成されている(S1-1-3)のに対し,被告商品では,中空部中央に位置する円 20 形板から細い36本の湾曲線状のファンガードが放射状に円筒状中空部下面とほぼ 面一に形成されている(s3)点で相違する(差異点 C)。 エ 検討 原告商品1−1と被告商品の各形態の差異点のうち,差異点A’,B’,E’〜I'及 びC は,原告意匠と被告意匠の差異点A,B,E〜I及びA と同じである。そうで 25 ある以上,少なくとも差異点B’,E’,G’,H’及び C については,原告意匠と被告 意匠とが差異点B,E,G,H及び A により異なる美感を生じるのと同様に,原告 商品1−1と被告商品の各形態につき,需要者に異なる美感を生じさせるものとい える。また,これらの差異点の存在にもかかわらずなお両商品の形態が酷似し,実 質的に同一というべき事情は見当たらない。 したがって,原告商品1−1と被告商品の各形態は実質的に同一であるとは認め 5 られないから,被告商品は,原告商品1−1の形態を模倣したものということはで きない。これに反する原告の主張は採用できない。 (3) 原告商品1−2と被告商品の実質的同一性 前提事実(3),別紙「原告商品説明書1−1」及び弁論の全趣旨によれば,原告商 品1−2の基本的形態及び具体的形態は,別紙「原告商品1−2の形態」の「裁判 10 所の認定」欄記載のとおり認めるのが相当である。基本的形態 P1-2-3 については, 前記(2)アと同様である。 原告商品1−2と被告商品の各形態を対比すると,原告商品1−2の基本的形態 の全て及び具体的形態 T1-2-3 と,被告意匠の基本的形態の全て及び具体的形態 t3 が 共通点であり,それ以外の形態が差異点であると認められる。すなわち,原告商品 15 1−2と被告商品の各形態とは,差異点A’,B’,D’〜K’及び C において相違する。 そうすると,前記(2)エと同様の理由により,原告商品1−2と被告商品の各形態 は実質的に同一であるとは認められず,被告商品は,原告商品1−2の形態を模倣 したものということはできない。これに反する原告の主張は採用できない。 (4) 原告商品2と被告商品との実質的同一性 20 別紙「原告商品説明書2」及び弁論の全趣旨によれば,原告商品2の基本的形態 及び具体的形態は,別紙「原告商品2の形態」の「裁判所の認定」欄記載のとおり 認めるのが相当である。基本的形態 P2-3 については,前記(2)アと同様である。 原告商品2と被告商品の各形態を対比すると,原告商品2の基本的形態の全て及 び具体的形態 T2-3 と,被告意匠の基本的形態の全て及び具体的形態 t3 が共通点で 25 あり,それ以外の形態が差異点であると認められる。すなわち,原告商品2と被告 商品の各形態とは,差異点A’’,C’’〜I’’及び C において相違する。 このうち,差異点A’’,D’’〜F’’及び C は,原告意匠と被告意匠の差異点B,E, G,H,A と同じである。そうである以上,少なくとも差異点A’’,D’’〜F’’及び C については,原告意匠と被告意匠とが差異点B,E,G,H及びA により異なる 美感を生じるのと同様に,原告商品2と被告商品の各形態につき,需要者に異なる 5 美感を生じさせるものといえる。また,これらの差異点の存在にもかかわらずなお 両商品の形態が酷似し,実質的に同一というべき事情は見当たらない。 したがって,原告商品2と被告商品の各形態は実質的に同一であるとは認められ ないから,被告商品は,原告商品2の形態を模倣したものということはできない。 これに反する原告の主張は採用できない。 10 (5) 小括 以上より,被告商品は,原告商品のいずれとの関係でも,その形態を模倣したも のとはいえないから,被告による被告商品の販売等は不正競争(不競法2条1項3 号)に当たらない。そうである以上,その余の点につき論ずるまでもなく,原告は, 被告に対し,不競法3条に基づく差止及び廃棄請求権並びに同法4条に基づく損害 15 賠償請求権を有しない。 3 原告商品の商品等表示該当性(争点3−1)について (1) 商品の形態は,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではない が,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある ところ,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,「商品等表示」 20 (不競法2条1項1号)に該当するためには,商品の形態が客観的に他の同種商品 とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,その形態が特定の事業 者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実 績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示す るものとして周知になっていること(周知性)を要するものと解される。 25 (2) この点につき,原告は,原告商品の他製品と異なる特徴として,@天井空間 を利用して天井に直接差し込んで使用するための形態をなすものであること,A円 筒状中空本体の中央に7枚の回転ファン及びファンガードを形成することにより, 安全かつ送風力に優れた印象を与えるデザインとなっていること,B支柱体を軸と して,中空部本体上方から可動部を有する円筒状の支柱体を突出させることで,コ ンパクトなデザインを維持したまま角度調整を可能とすることを挙げ,原告商品の 5 形態には特別顕著性がある旨を主張する。 しかし,証拠(甲5の2,5の3,18,19,26,乙2,31〜34)及び弁 論の全趣旨によれば,本件の口頭弁論終結時点までの間に,EC サイト上,原告及び 被告以外の第三者により,天井に設置する送風機付きの照明器具で,室内空間に向 けられた面に送風ファン及びライトが設けられ,かつ,送風ファンよりも室内空間 10 側に送風ファンを覆う形状のファンガードが設けられた商品が複数種類販売されて いること,それらの商品には,支柱体に取り付けられた上記部位が可動な構成となっ ているものも複数含まれることが認められる。これらの商品は,それぞれ,原告が 原告商品の形態の特別顕著性の根拠とする上記@〜Bと共通するものといってよい 構成を備えたものといえる。また,上記@については,被告先行商品や原告商品に 15 先立つ原告の商品にも見られる特徴であると認められる(甲5の1,乙2,弁論の 全趣旨)。上記Aについては,回転ファンの枚数はともかく,円筒状中空本体の中 央に回転ファン及びファンガードを形成すること自体は,原告商品の販売開始前に 同様の構成の商品が市場において販売されていたことが認められる(乙14〜17)。 上記Bについては,少なくとも照明器具の分野においては,原告商品に先立ち,支 20 柱体との接続部を可動とすることで発光部位の角度調整が可能となる商品が存在し ていたことが認められる(乙27)。上記各事情を総合的に考慮すると,その他の 形態上の特徴を踏まえても,原告商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕 著な特徴を有していると認めるに足りる事情は見当たらない。 したがって,原告商品の形態は,いずれも,「商品等表示」(不競法2条1項1 25 号)に該当しない。これに反する原告の主張は採用できない。 そうすると,被告商品は,原告の商品等表示を使用したものとはいえず,被告に よる被告商品の販売等は不正競争(不競法2条1項1号)に当たらないから,その 余の点につき論ずるまでもなく,原告は,被告に対し,不競法3条に基づく差止及 び廃棄請求権並びに同法4条に基づく損害賠償請求権を有しない。 第5 結論 5 よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとお り判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 10 裁判長裁判官 杉浦正樹 15 裁判官 20 杉浦一輝 裁判官 25 峯健一郎 (別紙) 被告商品目録 商品名を「LED 小型ファンシーリング UZUKAZEmini」とする,送風機付き照明 5 装置 以上 (別紙) 原告商品目録 1−1 商品名 「サーキュライト」 5型番 DSLS60 1−2 商品名 「サーキュライト」 型番 DSLS61 10 2 商品名「サーキュライト」 型番 DSLS60C(ソケット型) DSLH60(引掛けシーリングプラグ型) 以上 15 別紙意匠公報1,2につき添付省略 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2021/11/25 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
事実及び理由 | |
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全容
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