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関連審決 無効2022-880001
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事件 令和 5年 (行ケ) 10066号 審決取消請求事件
5
原告(無効審判請求人) 小林瓦工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 鯉沼敦規
同 中前佑一 10
被告(同被請求人) 丸鹿セラミックス株式会社
同訴訟代理人弁護士 稲垣篤史
同 橋本勇輝 15 同池戸友有子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/12/21
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2022−880001号事件について令和5年6月6日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由【略語】本判決では以下の略語を用いる。
(略語) (意味)・本件登録意匠意匠に係る物品を「瓦」とする意匠登録第1697530号の意25 匠(意匠権者は被告)。原告が請求した本件無効審判の対象。
・引用意匠:本件登録意匠の出願前に意匠公報に掲載された、意匠に係る物品を1「瓦」とする意匠登録第1663938号の意匠(意匠権者は原告ほか 2 社)・本件コの字模様:本件審決が本件登録意匠と引用意匠の共通点4として認定した男瓦のコの字模様(本件登録意匠では白色に着色されている部分)・本件長方形模様:本件コの字模様に囲まれた略長方形の模様(本件登録意匠では5 地色である褐色の部分。なお、本件審決では「非ライン部」と表現している。)第1 請求主文同旨第2 事案の概要1 特許庁における手続の経緯等(争いのない事実)10 (1) 被告は、令和2年9月1日、本件登録意匠につき、意匠に係る物品を「瓦」とする意匠登録出願(意願2020−18477)をし、令和3年9月30日に設定登録を受けた(意匠登録第1697530号)。
(2) 原告は、令和4年1月5日、本件登録意匠について、本件登録意匠の出願前である令和2年7月20日に発行された意匠公報に掲載された引用意匠に15 類似する意匠であって、意匠法3条1項3号により意匠登録を受けることができないものであるとして、本件無効審判を請求した(無効2022−880001号)。
(3) 特許庁は、令和5年6月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同月15日原告に送達された。
20 (4) 原告は、同月23日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 本件登録意匠及び引用意匠(1) 本件登録意匠に係る図面は、別紙「本件登録意匠の図面」のとおりである。
なお、別紙「本件登録意匠と引用意匠の対比」の<本件登録意匠>欄の各図面は、引用意匠の各図面に対応する図面について、一部図面の名称を引用25 商標に合わせて変更し、適宜回転させたものである(以下、原則として図面の名称は上記変更後のものを用いる。)。
2(2) 引用意匠に係る図面及び参考図は、別紙「本件登録意匠と引用意匠の対比」の<引用意匠>欄の各図面及び別紙「引用意匠のその他の図面」のとおりである。
3 本件審決の理由の要旨5 (1) 本件登録意匠及び引用意匠の意匠に係る物品は、共に瓦であって、瓦の需要者は、瓦を用いて屋根工事を行う建設業者等や屋根工事の施主であるといえる。その屋根工事を行うに際して、建設業者等は、瓦の設置や、非設置箇所との接合方法などにも気を配ることから、瓦の背面の形状等に着目することとなり、また、複数の瓦を上下左右に連続して組み合わせることから、瓦10 の平面、底面、左側面及び右側面の形状等にも着目し、全方向から瓦を観察するというべきである。したがって、両意匠の類否判断においては、正面から見た形状等(形状模様若しくは色彩又はこれらの結合)のみならず、上記需要者の視点から、全方向から見た瓦の各部の形状等を評価すべきである。
(2) 本件登録意匠形状等、引用意匠の形状等、これらを対比した共通点、相15 違点及びその評価は、別紙「本件審決の理由の要旨」及び別紙「本件審決が認定した形状等の共通点と相違点」のとおりである。
(3) 共通点4(男瓦の両側部と上部に下方開口とした本件コの字模様が形成されていること、同模様においてコ字状のラインの内側線が男瓦の外側線と略平行に形成されていること)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいもの20 の、それ以外の共通点はいずれも影響が小さいので、共通点を総合すると、
意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。
他方、左側面視に係る相違点2、右側面視に係る相違点3及び底面視に係る相違点4が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きく、背面視に係る相違点1並びに男瓦の形状及び本件コの字模様に係る相違点5が及ぼす影響も一定25 程度認められるから、相違点6〜8が及ぼす影響が小さいとしても、相違点を総合すると、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすということができる。
3(4) したがって、本件登録意匠と引用意匠の相違点が類否判断に及ぼす影響が大きく、両者の共通点が需要者に与える美感を覆して本件登録意匠と引用意匠を別異のものと印象付けるものであるから、本件登録意匠は引用意匠に類似するということはできない。
5 4 本件審決の取消事由本件登録意匠と引用意匠との類否判断の誤り第3 当事者の主張1 原告の主張(1) 瓦の意匠の注意を引く部分について10 瓦の意匠において、瓦を葺いたときに外観できず隠れる部分は、需要者の注意を強く引く部分ではない。
被告は、葺いたときに隠れる部分の機能について主張するが、瓦の品質は、
一部の型の瓦についてはJIS規格で標準化されている(甲53の2)。
本件登録意匠及び引用意匠の形状である「本葺一体瓦」についても、JI15 S規格こそないものの、同様の基準で各メーカーが品質を維持しており、
いずれも品質に極端な差はなく、雨漏り等の支障を来すことはない。例えば、瓦の補修工事においては既設のものと同一の瓦を使用することが通常であるが、生産中止、納期の遅れ等の関係から、形状等が同様な他の瓦を使用することもある。
20 (2) 本件登録意匠と引用意匠の由来について引用意匠は、本物の漆喰を使用せずに沖縄の伝統的な屋根瓦を再現することを目的として、本件審決が認定した共通点1〜7の形状等としたものである。
そして、引用意匠の出願前から、女瓦(平瓦部分)と男瓦(半円筒形部分)25 を一体とした「本葺一体瓦」は、多くの既製品がある公知の形状であり、そのうち女瓦の表面に段差のある製品として、段付き飛鳥野瓦(甲12の2)、
4万葉瓦(甲7の8、甲12の3)などがあった。
段付き飛鳥野瓦は本件登録意匠の、万葉瓦は引用意匠のベースとなったものであり、いずれも共通点1〜3、5〜7の形状等を有している。
他方、本件審決が認定した相違点の多くは、段付き飛鳥野瓦と万葉瓦との5 間にみられる差異である。従来から公知の既製品にみられる差異は、需要者の注意を強く引く部分ではない。
(3) 共通点4(本件コの字模様)について本件コの字模様は、従来の瓦にない非公知の模様であり、瓦を葺いたときに漆喰で塗り固めた沖縄の伝統的な屋根瓦のような印象を与える部分であっ10 て、需要者の注意を最も強く引く形態である。
なお、平4−27013公開実用新案公報(甲9)の第2図のようにコの字の開口を上方とした模様とした場合、本件登録意匠及び引用意匠の瓦を葺いた外観(甲16、17の1)と異なり、男瓦部分が浮いたような印象となる等(甲45の1頁中段の写真、甲46の2〜甲47の3)、美観が大きく15 異なる。
(4) 相違点の評価について本件審決の認定する相違点は、@公知の既製品である段付き飛鳥野瓦と万葉瓦にみられる差異にすぎないもの(相違点1、2、6、7)、A瓦葺きした後は外観できない部分に係るもの(相違点1、2)、B本件登録意匠及び20 引用意匠の要部である本件コの字模様における些末な差異にすぎないもの(相違点5)、C図面上確認できない差異又は両意匠を見る角度による差異であって、実質的な相違点とはいえないもの(相違点5@、B、6)であり、
いずれも類否判断に及ぼす影響は小さいものである。これを過大に評価した本件審決の判断は誤りである。
25 2 被告の主張本件審決の類否判断は、一般的で適切な基準に基づく合理的なものであって、
5その判断に誤りはない。
(1) 瓦の意匠の注意を引く部分について瓦の需要者である建設業者等は、葺き上がった状態で見える部分のみならず、見えなくなる部分についても、後記の水返しや取付構造等、瓦の重要な5 機能につながる形状に注意を払い、形状全体に目を通して選定する(乙4)。
瓦業者の製品紹介用ウェブサイトやパンフレット(乙5〜11)において、
葺き上がりの様子だけでなく瓦一枚ごとに各方向からみた形状を示し、その形状の有する機能について具体的に説明されているのは、そのためである。
本件登録意匠についていえば、男瓦の一段低く形成された円弧部分にある10 2本の水平溝(具体的構成態様d)は、この部分に入り込んだ雨水を樋のように女瓦の谷の部分へ導くための工夫である。また、女瓦の上端寄りに複数形成されている水平帯状の凸部(具体的構成態様e)は、釘穴から浸入する水のオーバーフローを防ぐ「水返し」の機能を有している。女瓦の左下端が切り欠くように斜めに形成されている部分(具体的構成態様f)は、外観上15 の独自性のほか、水はけを向上するとともに施工時の瓦同士の位置の調整をしやすくするための工夫である。
(2) 共通点4(本件コの字模様)について原告は、本件コの字模様は従来の瓦にない非公知の模様であると主張するが、瓦に沖縄瓦調の模様を付すことは引用意匠以前において公知であり、コ20 の字の開口を下方とした模様も公知である。被告は、平成10年頃、男瓦に本件コの字模様を付した瓦を試作し(甲36)、プレゼンテーションを行っていた。
(3) 相違点の評価についてア 相違点に関する原告の主張の多くは、両意匠の図面ではなく、それぞれ25 原告製品及び被告製品とされるものの比較写真(甲43)に基づくものと解されるところ、上記写真は、各瓦の形状がそれぞれ両意匠の図面と6異なる等、比較の対象及び方法が不適切である。
また、原告が挙げる引用意匠の「正面視した参考斜視図」は、製図にゆがみがある上、他の6図面と齟齬しており、あくまで参考図の意味合いしかない。
5 イ 相違点5に関し、本件登録意匠は、本件コの字模様のラインが上方に向かって広がっているため、瓦を葺いた際、ラインが上下左右に一直線にそろい、モダンでシャープな印象を与える。これに対し、引用意匠は、
同ラインの幅が一定であるため、瓦を葺いた際、ラインの上下左右にがたつきが生じ(甲17の1)、カントリー調で素朴な印象を与える。こ10 のような相違が類否判断に及ぼす影響は大きいというべきである。
第4 当裁判所の判断1 原告主張の取消事由の判断に先立って、本件登録意匠と引用意匠に先行する関係公知意匠を概観し、それら公知意匠に対する両意匠の位置づけを明らかにしておく。
15 証拠(甲7の3〜10、甲8、9、12の1〜3、甲13、32、33)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本葺一体瓦の開発屋根瓦の葺き方としては、通常の引掛け桟葺工法のほか、平瓦と丸瓦を組み合わせて葺く伝統的な本葺き工法があるところ、本葺き工法で施工された20 屋根瓦は、半円筒形の丸瓦の連なりが屋根の勾配に沿って手前から奥に向かって整然と延びる姿がひと際目を引き、豪華、重厚な印象を与えることとなり、高級な瓦葺きとして社寺伽藍等の伝統建築に主に用いられてきた。しかし、この工法では、施工日数が長くなり工費も高くなる、重量が大きくなるなどの難点があり、これを解決するため、平瓦(女瓦)と丸瓦(男瓦)を一25 体成型した「本葺一体瓦」といわれる瓦が開発されるに至った。この瓦では、
葺き上がりの外観は本葺き工法のものと異ならない一方、本葺き工法と比較7して、部材が減り施工が容易となることによる工期短縮、軽量化、コストダウンが図れるほか、一体成型のためにずれにくく、急勾配の屋根にも対応できる等のメリットがあり、広く普及することとなった。
(2) 飛鳥野瓦5 ア 本葺一体瓦の代表的なものとして、瓦寅工業株式会社を意匠権者とする登録意匠(意匠登録第549771号、昭和53年8月22日出願、昭和55年12月22日意匠登録、甲7の10)があり、「飛鳥野瓦」との商品名で製造販売され、広く知られるに至っていた(その意匠は、本件登録意匠出願時までに周知のものになっていたと認められる。)。な10 お、飛鳥野瓦には、女瓦部分が上下二段に見えるように中央近傍を左右に横切る段差が設けられているタイプ(段付き)と、これがないタイプ(段なし)がある(甲8、12の1、2)。
イ 本件登録意匠は、以下に述べるとおり、本件コの字模様以外の構成態様において、段付き飛鳥野瓦の意匠をほぼ踏襲したものといえる。
15 すなわち、@女瓦の凹み部から上がり勾配に連続して半円筒形の男瓦を一体化(本件登録意匠の基本的構成態様A)、A男瓦の上側に縮径段差部を形成(同B)、B女瓦の中央近傍を左右に横切る段差及びその位置(同C、D)、C縮径段差部の2本の細い溝及び右側端の傾斜(本件登録意匠の具体的構成態様d)、D女瓦上端寄りの複数の水平帯状の凸部(同e)、
20 E女瓦の左下端の斜め形成(同f)、F正面視全高:全幅が約1:1.1(同k)が共通している。
そして、背面視に係る具体的構成態様g、左側面視に係る同h、右側面視に係る同i、底面視に係る同jの異同は判然としないが、少なくとも、
飛鳥野瓦のカタログ等(甲8、12の1、2)から把握できる限り(つま25 り多くの需要者が認識できる範囲で)、有意の差があるようには見えない。
(3) 本葺一体瓦のバリエーション8本葺一体瓦の細部の構成態様に関しては、飛鳥野瓦の構成態様以外にも、
下記のような様々なバリエーションがあり、これらの意匠も本件登録意匠の出願以前に公知になっていたと認められる。
ア 飛鳥野瓦は、本件登録意匠の具体的構成態様d、fと同様、右上(縮径5 段差部右側端)と左下(女瓦左下端)がそれぞれ斜めに切り欠いたように形成されているのに対し、右上及び左下ともに斜めの切り欠きがなく、
ほぼ直角に形成されているものがある(商品名「万葉」及び「陽光」、
甲7の9)。
イ 縮径段差部には、本件登録意匠のように、2 本の細い水平溝を形成した10 もの(飛鳥野瓦、甲8、12の2)のほか、細い水平溝が 1 本のもの(甲7の10)、引用意匠のように水平溝はなく平坦なもの(甲7の1、8)もある。
ウ 女瓦の上端寄りに左右に延びる凸部を形成するのは、雨水の逆流を防ぐ「水返し」と呼ばれる役割を担うものとして広く採用されている構成で15 あるが、その具体的な形状に関しては、本件登録意匠(具体的構成態様e)と同様、複数の水平帯状のもの(甲7の9、10、甲 9、12の1)、本件引用意匠と同様、波線状の凸部が1本のもの(甲12の3)、
波線状の凸部が2本のもの(甲7の8)など、多様なものがある。
エ 男瓦の形状は、飛鳥野瓦は上方に向かって逆?の字状に広がる円筒形で20 あるが(甲12の2)、幅が均一の円筒形のもの(甲7の1、7〜10、
甲12の1)や、下方に向かって?の字状に広がる円筒形のもの(甲13)もある。
オ 本葺一体瓦を底面から見ると、略S字型を270度回転させた形状になるが、その縦横比、女瓦と男瓦の接合部の曲がり具合の違い(すなわち25 扁平の程度)についても、様々な形状のものがある(甲7の5、9、甲12の1)。
9(4) 沖縄赤瓦風の疑似漆喰模様ア 沖縄では、本葺き工法に際して、瓦の接合部を漆喰で固める方法が伝統的に用いられており、瓦の赤色と漆喰の白色のコントラストが形成する外観は、「沖縄赤瓦」又は「琉球赤瓦」と呼ばれ、南国の風土と調和す5 る美観が高く評価されてきた。
このような沖縄赤瓦の特徴を本葺一体瓦に反映させる工夫として、本葺一体瓦に白色の模様を付して、実際には漆喰を使用することなく沖縄赤瓦と同様の外観を実現しようとする考案、意匠が広く知られるに至った。
本件登録意匠出願前の公知文献としては、以下のものがある。
10 (ア)平成4年3月4日公開の実開平4−27013号公報(甲9)に、
「平瓦と丸瓦を連結した瓦の少なくとも外周端面一部に白色素材を漆喰止め状に取着け…たものは、重合部を合わせて順次瓦を葺き固定してゆくだけで屋根葺き後は瓦全体が白色素材で囲まれた漆喰止め状となるので」(同公報5頁)、「屋根全体が漆喰止め状を呈するので沖15 縄の民家風となって建物にアクセントを添えるという外観上の効果をも併せ奏し得るものである。」(9〜10頁)等の記載とともに、男瓦の左右端と男瓦及び女瓦の下端に白色素材を用いた図面(第2図)が示されている。
(イ)また、平成11年7月21日公開の特開平11−193600号公報20 (甲13の1)には、平瓦と丸瓦を一体とした瓦について「…漆喰の白色を出すと、琉球瓦と同様な雰囲気となる。」(【0046】)、
「そのために、前記のS字状の屋根瓦8の下端や上端(すなわち小口)の少なくとも表面(上面)を白色にすることが好ましい。」(【0047】)との記載があるが、一部を白色とした瓦の図面はない。
25 イ 上記2つの公知文献には、本葺一体瓦の男瓦部分等に白色の模様を施して漆喰で施工したような外観を作出するアイデアと、コの字の開口を上10方とした模様の意匠(甲9の第2図)は記載されているが、本件登録意匠と引用意匠に共通する本件コの字模様のように開口を下方とした意匠は示されていない。
ウ ところで、東京地方裁判所令和2年(ヨ)第22075号事件決定(甲3)5 及び東京高等裁判所令和3年(ラ)第10002号事件決定(甲4)によれば、原告が平成29年2月16日(なお、引用意匠の出願日は同年6月16日)に建築設計事務所にデータ送信したパンフレットには、原告が製造した本件コの字模様と同様の疑似漆喰模様を施した本葺一体瓦の写真が掲載されていたと認められるが、同日以前に、本件コの字模様が10 公然知られた瓦の意匠であったことを裏付ける証拠はなく、その後も、
原告又は被告が製造する瓦を除き、本件コの字模様が瓦に用いられていることを裏付ける証拠はない。
被告は、引用意匠出願前の平成10年頃、本件コの字模様を付した瓦を試作し、プレゼンテーションを行った旨主張するが、関係証拠(甲315 6〜38)によっても、その事実を認めるには足りない。
2 取消事由について(1) 本件登録意匠と引用意匠のそれぞれの基本的構成態様及び具体的構成態様については、一応、本件審決の認定(別紙「本件審決の理由の要旨」の該当欄)のとおりであると認められるので、以下、これを前提に検討する(ただ20 し、本件登録意匠と引用意匠の対応する図面同士を比較して相違点を認定している部分は、図面同士の比較という限りで誤りはないものの、角度や見え方の違いを踏まえた立体形状の認識において的確でない又は分かりにくい部分もあるので、この点は、後記検討の該当部分で指摘する。)。
(2) 原告は、本件登録意匠及び引用意匠において、需要者の注意を最も強く引25 く形態は共通点4に係る本件コの字模様であり、他方、相違点1〜8は、実質的な相違点とはいえないか、又は類否判断に及ぼす影響の小さいものにす11ぎないとして、これと異なる本件審決の判断の違法を主張するので、この点について、以下検討する。
(3) 本件コの字模様の要部該当性についてア まず、本件登録意匠も引用意匠も、基本的な部分では周知の本葺一体瓦5 を踏襲する意匠であることは明らかである。そして、本葺一体瓦の葺き上がりの外観は伝統的な本葺き工法のものと同様であり、半円筒形の丸瓦(男瓦)の連なりが屋根の勾配に沿って手前から奥に向かって整然と延びる姿がひと際目を引き、豪華、重厚な印象を与えるものと認められる。したがって、そのような男瓦の連なりに係る形状及び模様が、看者10 の注意を強く引く部分ということができる。
イ 本件登録意匠は、上記アに加え、具体的構成態様 a〜c、lのとおり、
褐色の地色に本件コの字模様を白色で表している点に特徴があるところ、
これが上記1(4)アで認定した沖縄赤瓦風の疑似漆喰模様を意図していることは明らかである。具体的には、本件登録意匠に係る瓦を屋根瓦とし15 て施工した場合、半円筒形の男瓦の連なりが、漆喰をイメージさせる白色によってくっきりと枠取られるとともに、その連なりの中ほどに、白色で囲まれた地色(褐色)の本件長方形模様が規則的に表れる形になり、
このような褐色と白色の模様の造形及びコントラストが形成する外観は、
南国情緒を演出するものとして極めて印象的なものといえる。
20 本件登録意匠の本件コの字模様は、看者の美感に強く訴求するものと解される。
ウ 引用意匠については、色彩は表されていないものの、本件登録意匠と共通する本件コの字模様を備えるものであり、先行する意匠として、沖縄赤瓦風の疑似漆喰模様が広く知られていたこと(前記1(4)ア)を踏まえ25 ると、引用意匠の主たる実施態様として、褐色の地色と白色の本件コの字模様の組合せが想定されていたことは明らかである。そうすると、本12件登録意匠に関して上記イで述べたところは、引用意匠にも妥当するものと解される。
エ 以上の点に加え、本件登録意匠は、本件コの字模様以外の構成態様において、周知の段付き飛鳥野瓦の意匠をほぼ踏襲したものである(上記15 (2))のに対し、本件登録意匠及び引用意匠が共通して有する共通点4に係る本件コの字模様は、公知意匠には見られない引用意匠の新規な創作部分であることも、要部認定において大きな意味を持つ重要なポイントとなる。
すなわち、本葺一体瓦に白色の模様を付して、実際には漆喰を使用する10 ことなく沖縄赤瓦と同様の外観を実現しようとする疑似漆喰模様自体は、
本件登録意匠及び引用意匠の出願前に広く知られていたものであるが、
開口を下向きにした本件コの字模様の意匠に関しては、これを開示する公知文献等は見当たらない(上記1(4)イ、ウ)。
この点について補足するに、甲9の公報の第2図(上記1(4)ア(ア))に15 は、本件コの字模様(下方開口)と異なり、上方開口のコの字の模様が開示されているが、その違いは、葺き上がりの外観に次のような有意な違いを生じさせると考えられる。
すなわち、本葺一体瓦において、男瓦を上下に連ねていく際、下段の男瓦の上方に設けた縮径段差部に上段の男瓦を重ねるようにすることで、
20 面一になるように工夫されているが、特に沖縄赤瓦風の疑似漆喰模様において、上下の男瓦の接合部が瓦の地色(褐色)と白色の模様の境目になる場合、当該接合部は自ずと目につき易い部分となり、その処理には細心の配慮が求められることになると考えられる。
このような観点から見るに、甲9の公報の第2図の公知意匠のように上25 方開口のコの字模様を採用した場合、男瓦の下端面は白色になる(甲46の2〜甲47の3参照)のに対し、本件コの字模様のように下方開口13のコの字模様を採用した場合、男瓦の下端面は地色となる(本件登録意匠の前方から見た斜視図及び底面図参照)。後者の方が接合部は目立たず、自然な連続感を演出したい意匠に適していると考えられる一方、前者は、瓦を重ね合わせた立体感を素朴に表現するものといえる(そのよ5 うな施工例として、甲45の1頁の中段の写真を参照)。このような違いにつき、もとより優劣を言うことはできないが、葺き上がりの印象を左右する要素となることは明らかである。
オ 以上に述べたところを総合すれば、本件登録意匠と引用意匠において、
看者の注意を最も強く引く形態(要部)は、両者に共通する下方開口の10 本件コの字模様であり、その共通性こそ、類否判断に最も強い影響を及ぼすものというべきである。
本件審決は、この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められるとしつつ、共通点全体としての評価において類否判断に及ぼす影響は小さいと判断する。しかし、この判断は、本葺一体瓦及びこれを15 前提とする疑似漆喰模様の瓦において看者の注意を引く部分の確定、先行の周知・公知意匠との関係での本件コの字模様及びそれ以外の構成態様の評価、公知の上方開口のコの字模様と本件の共通点4に係る下方開口の本件コの字模様の違い等について、検討が不十分なまま示されたものといわざるを得ない。
20 (4) 相違点の評価について本件審決は、別紙「本件審決が認定した形状等の共通点と相違点」の2に記載のとおり、本件登録意匠と引用意匠の構成態様の相違点1〜8を認定するので、これらが両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。
ア 瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない構成態様について(相違点25 1、2、6、7関係)相違点1(背面形状)、同2(女瓦の左端部の壁)、同6(男瓦の縮14径段差部の溝の有無及び右側端部の角度)、同7(@女瓦の上端寄りの凸部の形状、A左下端の角度)は、瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない構成態様に関するものである。そこで、本件登録意匠意匠に係る物品である瓦における、このような相違点の位置づけ、類否判断へ5 の影響の程度について、検討しておく。
そもそも瓦は、本来的に屋根等を葺くための建築部材であって、施工を前提としない瓦単体のコレクターといった需要者を想定するのは現実的でない。瓦屋根の建築物を注文し、その所有者等となる施主が中心的な需要者であり、そうした需要者の求める美観が施工後の外観に係るも10 のであることは多言を要しない。瓦屋根を施工する建築業者、瓦の販売業者等も需要者ではあるものの、そうした立場の需要者であっても、最終的には施主の満足を得させる施工後の外観が最も重視されるものと考えられる。そうすると、瓦を葺いた施工後の状態から看取できない構成態様が意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまると15 いうべきである。
被告は、瓦の需要者である建築業者等は葺き上がった状態で見えなくなる部分についても瓦の重要な機能につながる形状に注意を払い形状全体に目を通して選定する旨主張する。しかし、意匠の類否は基本的に「需要者の視覚を通じて起こさせる美観」に基づいて判断されるべきも20 のであり、機能と造形は両立し得るものではあるが、機能のみに着眼した被告の主張をそのまま採用することはできない。
よって、瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない相違点1、2、
6、7が、類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまるというべきである。なお、相違点6、7に関しては、本葺一体瓦において採25 用される公知の形状のバリエーションの範囲内の違いにすぎないものであるから(前記1(3)ア〜ウ)、この点においても、当該相違点が類否判15断に及ぼす影響は限定的なものと解される。
イ 底面形状の縦横比について(相違点4関係)本件登録意匠と引用意匠の各底面図を対比すると、略S字型の縦横比が本件登録意匠で約1:5、引用意匠で約1:3になるという本件審決の5 認定自体は誤りではなく、これは、本件審決も指摘するとおり、本件登録意匠の上記略S字型の形状が引用意匠のものに比べて扁平であることを意味すると理解できる。
しかし、本葺一体瓦を施工する場合、男瓦の軒口は「軒巴」などと呼ばれる円形の飾り瓦で覆われるため(甲12の2、甲19)、上記略S字10 型の形状は外観上視認できなくなる。そうであっても、例えば男瓦の盛り上がり具合の違いといった形で上記の違いを間接的に認識できる可能性もないではないが、立体形状を認識し易い斜視図(引用意匠では参考斜視図)を比較しても、本件登録意匠と引用意匠の男瓦の盛り上がり具合等に有意の違いが生じているようには見えない。そのほか、上記の程15 度の底面形状の縦横比の相違が、瓦を葺き上げた外観に実質的な美観の違いを生じさせることを示す証拠はない。
以上に加え、上記略S字型の縦横比(扁平の程度)の違いは、公知意匠のバリエーションの範囲内と解されること(上記1(3)オ)も勘案すると、
上記相違点は、類否判断にさほど影響を及ぼすものとはいえない。
20 ウ 男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態等について(相違点3、5関係)(ア)本件審決は、本件登録意匠と引用意匠の各対応図面ごとに相違点を認定しているため、立体形状として認識・把握すれば同じ特徴を、各方向視ごとに別々に表現するような形式になっており分かりにくいので、
25 相違点3、5に含まれる男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態に係る相違点を整理・再構成すると、下記@〜Bのとおりとなる(な16お、本件審決は、相違点3、5として、下記@〜B以外の要素にも言及している部分があるが、本件登録意匠と引用意匠のそれぞれの図面における角度の違いや作図方法の違いによる見え方の違いにすぎないものであり、実質的な相違点ということはできない。)。
5 @ 本件登録意匠の男瓦は上方に向かって逆ハの字状に広がる円筒形であるのに対し、引用意匠の男瓦は少なくとも真上から見る幅が均一の円筒形である。
A 本件登録意匠においては、引用意匠と比べて、本件コの字模様の両側部の幅が若干広く、本件長方形模様の幅は若干狭い。
10 B 本件登録意匠の本件コの字模様の部分は本件長方形部分と面一であるが、引用意匠の本件コの字模様はわずかに段差状に隆起している。
(イ)上記相違点@〜Bは、いずれも、本件登録意匠及び引用意匠の構成態様のうち、看者の注意を強く引く部分である男瓦の連なりの形状及び模様に関するもの(上記(3))であるから、その相違点が、両意匠の類15 否判断に一定の影響を及ぼすことは否定できない。
しかし、相違点@は、本葺一体瓦において採用される公知の形態のバリエーションの範囲内の違いにすぎないし(前記1(3)エ)、相違点A、
Bは、従前の意匠には見られなかった新規な創作部分である本件コの字模様に係る共通点を備えた上での、当該模様の些末な違いにすぎな20 い。もちろん、新規な形態を創作した先行意匠を下敷きとして踏襲しつつも、それにプラスして需要者の注意を一層強く引くような新しい美観を取り入れたという評価ができれば、当該新しい美観に係る印象が共通点に係る印象を覆し、類否判断にも相対的に強い影響を及ぼすということもあり得るところであるが、相違点A、Bが、両意匠の共25 通点である本件コの字模様の持つ強い訴求力を覆すほどの新しい美観を生じさせるものとは到底認められない。
17よって、上記相違点@〜Bは、類否判断に一定の影響を及ぼすものではあるが、本件コの字模様に係る共通点4と比較して、意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものと解すべきである。
(ウ)以上に対し、被告は、相違点5により、本件登録意匠の瓦を葺いた際、
5 引用意匠と異なり、本件コの字模様に係るラインが上下左右に一直線にそろいモダンでシャープな印象を与える旨主張する。
しかし、本件審決が共通点4として認定しているとおり、本件登録意匠も引用意匠も、本件コの字模様の内側左右のラインは略平行であるから、本件コの字模様に囲まれた本件長方形模様が連続して一直線10 状に表れる形態において、両者に異なるところはないはずである。被告が指摘する甲17の1の写真は、本件長方形模様が一直線状に並ぶのを視認するのに適した上下方向からの角度ではなく、左右方向に近い斜めの角度からの写真であるために、被告のいう「本件コの字模様に係るラインが上下左右に一直線にそろいモダンでシャープな印象」15 と異なる印象になっているにすぎない。
被告の上記主張は採用できない。
エ 色彩の有無について(相違点8関係)引用意匠に色彩は表されていないものの、上記(3)ウで述べたとおり、
沖縄赤瓦風の疑似漆喰模様が周知となっていることを踏まえると、その20 相違は類否判断に実質的な影響を及ぼすものとはいえない。なお、この点は、本件審決も同趣旨の判断をしており、当事者もこれを争っていない。
(5) まとめ以上のとおり、本件登録意匠と引用意匠の要部は、本葺一体瓦において看25 者の注意を強く男瓦の連なりに係る構成部分であり、かつ、従来の意匠に見られなかった新規の創作に係る本件コの字模様というべきである。その共通18性が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きく、他方、両者の相違点の中には、類否判断に一定程度の影響を及ぼす点はあるものの、その影響は相対的に小さいと判断せざるを得ず、全体として評価すれば、本件登録意匠は引用意匠に類似するというべきである。これと異なる本件審決の判断には、
5 意匠法3条1項3号類否判断を誤った違法がある。
3 結論よって、原告の主張する取消事由には理由があるから、本件審決を取り消すこととし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部10裁判長裁判官宮 坂 昌 利裁判官15 本 吉 弘 行裁判官頼 晋 一19別紙 本件登録意匠の図面【前方から見た斜視図】5 【後方から見た斜視図】20【正面図】【平面図】521【右側面図】【背面図】22【左側面図】【底面図】523別紙 本件審決が認定した形状等の共通点と相違点1 形状等の共通点(共通点1)正面視において、左端部に壁が設けられ右側に連続する女瓦の凹み部5 から他方部に向けて上がり勾配に連続して形成された半円筒形の男瓦を一体化し、底面図において略S字型を270度回転させた瓦形状としている。
(共通点2)男瓦の上側隅角部分には、他の瓦を直上に重ねて瓦葺きし面一状に重ね合わせられるよう、径を縮小した段差(縮径段差部)が形成されている。
(共通点3)女瓦の中央部近傍に左右に横切る段差が設けられており、その段差は、
10 瓦上辺から下辺の間におよそ6対4の割合の位置で形成されている。
(共通点4)男瓦の両側部と上部に、コ字状のラインを270度回転して下方開口とした縦長の模様(本件コの字模様)が形成されており、同模様において、コ字状のラインの内側線が、男瓦の外側線と略平行に形成されている。
(共通点5)女瓦の左端部の壁には、瓦上辺から下辺を約2:1に内分する位置に、
15 傾斜段差が形成されており、左側面から見ると、女瓦の左端部の壁は、斜めクランク状に表されている。
(共通点6)右側面から見ると、男瓦の外側線のほぼ中間位置に、クランク状の段差が形成されている。
(共通点7)正面から見た全高:全幅の比率は、約1:1.1である。
20 2 形状等の相違点(相違点1)本件登録意匠の背面には、女瓦の上辺から下辺を約2:1に内分する位置に、傾斜段差が形成されている。これに対して、引用意匠では、背面に上側端と、下側端と、中央下に3つの凸部が横方向に形成されており、上端側凸部の右隣には、縦長の凸部が形成されている。A−A断面図によれば、上端側25 と中央下の凸部に挟まれた部分の凹みの深さは、中央下と下側端の凸部に挟まれた部分の凹部の深さの約4倍である。中央下の凸部の上下、下側端の凸部の34上、及び縦長凸部の左右は、それぞれテーパー状に表されている。
(相違点2)左側面から見て本件登録意匠の女瓦の左端部の壁は、男瓦を覆い隠すように、瓦の右端寄りに表されている。これに対して、引用意匠の女瓦の左端部の壁は、瓦のほぼ中央に表されている。
5 (相違点3)右側面から見ると、本件登録意匠の男瓦の外形線の右方には、女瓦の背面はほとんど表れておらず、右側面下端に表された、男瓦の非ライン部:男瓦のライン部:女瓦背面の比は、約2:3:1である。これに対して、引用意匠では、男瓦の外形線の右方に女瓦の背面が表れており、その背面の幅は右側面全幅の約1/3を占めており、右側面下端に表された、男瓦の非ライン部:10 男瓦のライン部:女瓦背面の比は、約1:1:1である。
(相違点4)底面から見た下端面の略S字型の縦横比が、約1:5(本件登録意匠)か約1:3(引用意匠)かで相違し、略S字型の中間部分が屈曲状(本件登録意匠)か滑らかな弧状(引用意匠)かで相違する。すなわち、本件登録意匠の略S字型は引用意匠に比べて扁平であって、中間で折れ曲がるように表されて15 いる。
(相違点5)@男瓦に形成されたコ字状のラインの模様において、その左右と上側ラインの幅は、本件登録意匠では男瓦の横幅の約4分の1であるが、引用意匠では男瓦の横幅の約6分の1である。Aまた、本件登録意匠では、コ字状のラインの模様の部分が男瓦表面の他の部分と面一であるが、引用意匠では、コ字20 状のラインの模様の部分が男瓦表面の他の部分から僅かに段差状に隆起しており、その段差はテーパー状であって、段差の幅(隆起の厚み)は一様である。
Bさらに、本件登録意匠の男瓦の左端及び右端は略逆ハ字状に上方にいくにつれてしだいに広がっている。
(相違点6)本件登録意匠では、右上端に位置する男瓦の縮径段差部の表面には細25 い水平溝が2つ形成されており、同部分の右側端は左側に傾斜している。これに対して、引用意匠では、縮径段差部の表面は平坦に形成されており、同部分35の右側端は、男瓦の右側端と略平行に形成されている。
(相違点7)@女瓦の上端寄りに、水平帯状の凸部が複数形成されているか(本件登録意匠)、波線状の凸部が一本形成されているか(引用意匠)で相違し、A女瓦の左下端が斜めに形成されているか(本件登録意匠)、女瓦の左下端が直5 角に形成されているか(引用意匠)で相違する。
(相違点8)本件登録意匠では、コ字状のラインの模様の部分は白色で表され、それ以外の部分は褐色に表されているが、引用意匠には色彩は表されていない。
36
事実及び理由
全容