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関連審決 不服2002-6520
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  広く知られた /  頒布された刊行物 /  類似する意匠 /  意匠の類否 /  具体的な意匠 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 280号 審決取消請求事件

原告 ベーベーエス・クラフトファールツオイグテクニク・アクチェンゲゼルシャフト
訴訟代理人弁理士 鈴江正二
同 木村俊之
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 伊勢孝俊
同 藤正明
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/12/18
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2002-6520号事件について平成15年3月11日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文1,2項と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,その形態を別紙審決書の写し別紙第1記載のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)について,意匠に係る物品を「自動車用ホイール」として,1999年(平成11年)6月23日にドイツ連邦共和国においてした特許出願に基づく優先権を主張して,平成11年12月24日に意匠登録出願(以下「本件出願」という。)をし,平成14年1月25日に拒絶査定を受けたので,平成14年4月16日,これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は,同請求を不服2002-6520号事件として審理し,その結果,平成15年3月11日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月3日にその謄本を原告に送達した。出訴期間として90日が付加された。
2 審決の理由の要点 審決の理由は,別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本願意匠は,その出願前において頒布された刊行物である特許庁総合情報館所蔵(受入1995年8月7日)の世界知的所有権機関(WIPO)国際事務局発行の国際事務局意匠公報1995年7月31日号第2720頁所載の自動車用車輪の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH08004431号。その形態は別紙審決書の写し別紙第2記載のとおりである。以下「引用意匠」という。)に類似する意匠であるから,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができない,というものである。
上記結論を導くに当たり,審決が認定した本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点は次のとおりである(以下,下記差異点を,順に「差異点(1)」,「差異点(2)」などという。)。
(共通点) 1「全体の基本的構成態様について,短円筒体の前後端を鍔状に形成してリム部とし,そのリム部前端の内側に,中央を凹陥したハブ部とその周囲に湾曲状のスポーク部を形成して成る盤体状のディスク部を設けた点」 2「各部の具体的態様について, (1)スポーク部は略Y字状のスポークを放射状に複数本形成して,そのスポーク間に,V字状の透孔とその透孔より中心方向へ稍長めのU字状の透孔を交互に複数個設けた点, (2)ハブ部は略円形状に形成してその周縁にボルト孔を等間隔に複数個設け,その中央にハブシャフト孔を設けた点」 (差異点) 「(1)略Y字状のスポークの数について,本願意匠は,7本としているのに対し,引用意匠は,8本としている点, (2)ボルト孔について,本願意匠は,ハブ部の内側に設けているのに対し,引用意匠は,ハブ部とスポーク部の境界上に設けている点, (3)透孔について,本願意匠は,各透孔の幅を略等しいものとしているのに対し,引用意匠は,U字状の透孔よりV字状の透孔の幅を稍広くしている点, (4)ハブ部周縁について,引用意匠は,その周縁の各ボルト孔の間に極小孔を設けているのに対し,本願意匠は,その極小孔を設けていない点, (5)スポーク部の先端部について,本願意匠は,リム部の前面と略面一としているのに対し,引用意匠は,リム部の前面より稍奥まっている点」
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,引用意匠の認定を誤って,本願意匠と引用意匠との差異点の認定を誤り,本願意匠と引用意匠との差異点を看過し,本願意匠と引用意匠の類否の判断を誤ったものであって,これらの誤りがそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1 差異点の認定の誤り 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点について,「(3)透孔について,本願意匠は,各透孔の幅を略等しいものとしているのに対し,引用意匠は,U字状の透孔よりV字状の透孔の幅を稍広くしている」(審決書2頁16行〜18行)と認定し,これに基づき,「(3)透孔については,引用意匠がU字状の透孔よりV字状の透孔の幅を稍広くしているとしても,各透孔の幅を略等しいとしている本願意匠に比して,その幅の差はそれ程大きなものでなく,・・・(3)の本願意匠の態様は,格別看者の注意を引くものとはいい難い」(審決書2頁34行〜38行)と判断した。
しかし,引用意匠は,U字状の透孔のリム部側開口縁の幅をV字状の透孔のリム部側開口縁の幅と比べて略半分にしており,V字状の透孔よりもU字状の透孔の幅を大幅に小さくしている(甲第5号証。特にFig.4(別紙A)参照)。
審決は引用意匠におけるU字状の透孔の幅とV字状の透孔の幅との大きさの違いの認定を誤り,その結果,これらの幅の比較についての両意匠の差異点の認定を誤って,誤って認定した差異点を前提に,両意匠の類否を判断するに至った。上記誤りが審決の結論に影響することは明らかである。
2 差異点の看過 本願意匠と引用意匠との間には,審決が認定した差異点以外に,次の差異点がある。審決は,これらの差異点を看過した。
@ U字状の透孔について,本願意匠は,U字状の透孔の幅をハブ部からリム部に向けて先すぼまり状に形成せず,U字の開口幅をリム部側において最も広くし,U字の相対向する2辺に相当する2本のスポークがリム部との接続部付近で略平行になるようにするとともに,その幅がハブ部側に向かうにつれて次第に狭くなるように形成しているのに対し,引用意匠は,リム部側の開口幅を狭くし,リム部側からハブ部側へ向かう途中部で最大幅となるように中膨れ形状を形成している点(甲第5号証のFig.2(別紙A)参照)。この結果,引用意匠では,U字状の透孔の形状がリム部に向かうにつれ先すぼまり状になり,U字状というより馬蹄形(卵型あるいは茄子型)に形成される。
(以下「差異点@」という。) A 本願意匠は,Y字状スポークの根元部を太く形成しているのに対し,引用意匠は,Y字状スポークの根元部を両側からえぐるように細く形成している点(本願意匠の正面図(別紙審決書写し添付別紙1)及び甲第5号証のFig.2(別紙A)参照)。
(以下「差異点A」という。) B 本願意匠は,隣り合うY字状スポークの根元部と根元部の間(U字状の透孔のハブ部寄り周縁)を曲線的(曲面的)に形成しているのに対し,引用意匠では,直線的(平面的)な部分を残している点。
(以下「差異点B」という。) C 本願意匠は,全体的に曲線を多用するとともに,各スポークとリム部との接続部を肉厚状に形成して両者を滑らかに接続させているのに対し,引用意匠では,各スポークを根元部からリム部に向けて真っ直ぐ形成し,両者の接続を鋭角的に行っている点。
(以下「差異点C」という。) D 盤体状のディスク部について,本願意匠は,中央部の凹部が明瞭で,中央部自体も大きいのに対し,引用意匠は,中央部の凹部が明瞭でなく,中央部自体も小さい点(本願意匠の正面図・斜視図(別紙審決書写し別紙1)及び甲第5号証のFig.1,Fig.2(別紙A)参照) (以下「差異点D」という。) 審決が看過した上記各差異点は,両意匠の印象を決定し,看者の注意を強く引く部分に係るものである。
差異点@に係る構成により,本願意匠では,Y字状スポークのシャープに分岐した印象を和らげて,ハブ部からリム部へ流れるようなフォルムを形成し,各スポークの向きが略放射状に整った印象を看者に与える。これに対し,引用意匠では,本願意匠のようなスムーズ感がなく,各スポークが鋭く分岐したシャープな印象を看者に与える。
差異点Aに係る構成により,本願意匠は,Y字状スポークの根元部を太くしているため,ボリューム感があり,力強い印象を看者に与えるだけでなく,各スポークがスムーズにハブ部から延出したような印象が表出され,Y字状に鋭く分岐した印象が和らげられている。これに対し,引用意匠は,Y字状スポークの根元部を両側からえぐるように細く形成しているため,やせて繊細な印象を看者に与えるだけでなく,各スポークの延出方向が,まずハブ部から根元部が延び,それが分岐してリム部へ至るというように2段階的に切り替わるため,複雑な印象が強調され,Y字形状が強く印象に残る構成となっている。
差異点B及びCに係る構成により,本願意匠は,全体的に曲線を多用するとともに,各スポークとリム部とを滑らかに接続させていることになり,しなやかでソフトな印象を与えるのに対し,引用意匠は,随所に直線部分を多用し,しかも各スポークとリム部とを鋭角的に接続させていることになり,全体的にシャープで幾何学的形状の印象を看者に与える。
差異点Dに係る構成により,本願意匠は,ディスク部のボリューム感が一層強調され,ハブ部からリム部へ大きく広がるような躍動感を与えるのに対し,引用意匠にはこのような躍動感はなく,こぢんまりした印象を看者に与える。
審決の認定した差異点に差異点@ないしDを加えてこれらを総合すると,次のようにいうことができる。
本願意匠は,Y字状スポークのシャープな印象を和らげ,ハブ部からリム部へ一貫してスムーズに流れるようなフォルムを形成するとともに,ハブ部からリム部へ大きく広がるような躍動感とボリューム感を表出しているのに対し,引用意匠は,本願意匠のようなスムーズな印象はなく,ボリューム感に欠ける一方,繊細で,各Y字状スポークのシャープで複雑に分岐した印象を看者に強く訴えかける。
差異点@ないしDが両意匠の類否判断に影響を及ぼすことは明らかであるから,これらの差異点を看過した審決の違法は明白である。
3 類否判断の誤り (1) 審決は,本願意匠と引用意匠との類否判断に当たり,「先ず,両意匠に共通するとした全体の基本的構成態様については,形態全体の基調を表象するものであって,また,各部の具体的態様の(1)(判決注・スポーク部は略Y字状のスポークを放射状に複数本形成して,そのスポーク間に,V字状の透孔とその透孔より中心方向へ稍長めのU字状の透孔を交互に複数個設けた点)および(2)(判決注・ハブ部は略円形状に形成してその周縁にボルト孔を等間隔に複数個設け,その中央にハブシャフト孔を設けた点)については,形態上の特徴を表出するものであり,これらの共通する態様が相俟って,両意匠の醸し出す形態全体の印象を,同じにする程の共通感を奏するものであるから,類否判断に影響を及ぼすといわざるを得ない。」(審決書2頁24行〜28行)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
自動車用ホイールの意匠を形態的に分類すると,@ディッシュ(皿形状)タイプ,Aスポーク(支柱状)タイプ,Bメッシュ(網目状)タイプ(クロススポークタイプともいう),Cスパイラル(渦巻状)タイプ,Dワイヤータイプに大きく分けられる(甲第12,第13号証)。審決が認定する基本的構成態様における両意匠の共通点及び具体的態様における共通点(1)(2)は,いわゆるメッシュタイプ(クロススポークタイプ)として広く知られた自動車用ホイールの一般的形態を述べたものにすぎず,この種物品ではごく普通のありふれた形態であって,このような形態は類否判断を左右する支配的要素とはなり得ないものである。上記共通点は,本件出願に係る優先日(以下「本願優先日」という。)前に既に周知の形態である(甲第6ないし第11号証参照)。
意匠の類否は,意匠に係る物品の一般需要者を基準にして判断すべきである。本願意匠の「自動車用ホイール」の需要者は,自動車メーカーなどの取引者や車愛好家など,この種物品の形態に広く通じているため,メッシュタイプとしてありふれた形態が特に目を引く部分として認識されることはない。
自動車用ホイールは,近年,自動車のドレスアップパーツとして注目され,車体のデザインはもとより,タイヤのトレッドパターンやエアロパーツなど,他の部位のデザインとも深く関連して商品の選択がなされる傾向にある。このため,この種物品の需要者は,自動車の他の部分のデザインとの調和に配慮しつつ,細部におけるわずかな形態の差異にも十分な注意を払って商品選択を行う。
需要者は,メッシュタイプ(クロススポークタイプ)として類型化された意匠に,更にどのような意匠的工夫がなされているか,という点に着目して自動車用ホイールを選択購入するのであり,生産者(創作者)としても,このような需要者の動向を前提として意匠を創作するのである。
審決は,上記物品の特性及び需要者の特性を考慮しないまま,ありふれた形態に重きをおいて本願意匠と引用意匠の類否判断を行ったものであり,その判断が誤りであることは明らかである。
(2) 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(1))として認定した略Y字状のスポークの数について,「本願意匠の出願前,この種物品の属する分野において,略Y字状のスポークの数を7本とすることも8本とすることも,適宜選択される範囲内の変更にすぎ」ない,と判断した(審決書2頁31行〜33行)。
しかし,意匠の類否は,創作者の立場からの創作の難易の度合いを基準にするのではなく,需要者の立場から美感の共通性を基準にして,判断すべき事柄である。創作者の立場では略Y字状のスポークの数を7本とすることも8本とすることも容易であったとしても,これをもって直ちに需要者の立場で得られる美感が共通するということはできない。
本願意匠の需要者は,自動車用ホイールに広く精通した専門的知識を有する者であることは前述したとおりである。このような需要者は,スポークの数や透孔の数・大きさ・形状に大きな関心を持っている。スポークの数が異なれば,当然,透孔の数や大きさや形状にも変化が生じる。このような変化を通じて異なる印象を受けるのは,この種の物品に通じた需要者であれば当然である。
さらに,スポークの本数が多くなれば,それだけ形状の複雑さも増し,力強さが薄れる一方,全体的に繊細で複雑な印象を与えることになる。このような傾向が引用意匠の繊細な印象を一層強め,本願意匠の力強い印象を更に強めている。
審決は,これらの点を考慮せず,又は過小評価したものであり,誤りであることが明らかである。
(3) 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(2))として認定したボルト孔の位置について,「ボルト孔をハブ部の内側に設けることも,ハブ部とスポーク部の境界上に設けることも,従来より,極普通になされる範囲内の改変にすぎ」ない,と判断した(審決書2頁33行〜35行)。
しかし,本願意匠は,単にボルト孔をハブ部の内側に設けているだけでなく,ディスク部の中央部自体を引用意匠よりも明らかに大きく目立つように形成し,そのボリューム感のあるディスク部の中心部付近を比較的深く凹陥させて明瞭にハブ部を形成し,その深く明瞭なハブ部内にボルト孔をすべて配置しているため,ボルト孔がハブ部内にまとまりよく収められた印象を与えるとともに,ハブ部からリム部に向かって大きく広がったディスク部によってボルト孔がすっぽり包み込まれたような印象を与える。これに対し,引用意匠では,ディスク部の中央部自体が小さい上,中心部付近の凹陥も浅く,また,明瞭でないハブ部とスポーク部の境界上に大きさの異なるボルト孔と極小孔とを設けているため,平板でこぢんまりした印象を与える。また,ボルト孔からU字状透孔の周縁までの距離が短いことが,看者に窮屈な印象を与える。
ディスク部は,この種の物品の中心部に位置し,最も目に付きやすい部分というべきであるから,ディスク部における両意匠の印象上の相違は,類否判断に大きな影響を与えるというべきである。
この点についての印象上の相違が類否判断に及ぼす影響を微弱と判断した審決の誤りは明白である。
(4) 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(4))として認定したハブ部周縁について,「引用意匠が極小孔を設けているとしても,その極小孔は顕著な特徴を有するとはいえないから,その極小孔の有無はほとんど評価でき」ない,と判断した(審決書3頁3行〜5行)。
しかし,目の肥えたこの種物品の需要者にとっては,極小孔の有無といえども無視ないし過小評価することはできないというべきである。
殊に,引用意匠は,ディスク部自体が小さく,その小さなディスク部に大きさの異なるボルト孔と極小孔とを交互にアクセントをつけるように設けているため,極小孔の存在が特に目立ちやすくなっている。
これに対し,本願意匠には,このような極小孔が設けられていないため,すっきりした印象を看者に与える。
このような美感上の相違を考慮せず,極小孔の有無は両意匠のありふれた共通点に包含される部分的な差異にすぎない,と評価した審決の判断は明らかに誤りである。
(5) 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(5))として認定したスポーク部の先端部について,「引用意匠がリム部の前面より稍奥まっているとしても,リム部の前面と略面一としている本願意匠に比して,その奥行きはそれ程大きなものではなく,・・・本願意匠の態様は,格別目立つものとはいい難いものであって,その差異は,形態全体から観れば,前記の両意匠の共通点に包含される部分的な差異にすぎず,類否判断に及ぼす影響は微弱というほかない」(審決書3頁5行〜10行)と判断した。
しかし,本願意匠は,各スポークの先端部をリム部の前面と面一に形成していることから,リム部-スポーク部-ハブ部の一体感が生じているのに対し,引用意匠では,スポーク部の先端をリム部内周面に当接させる状態としていることから,スポーク部をリム部にはめ込んだ感じを与え,リム部とスポーク部との一体感が生じない。このため,本願意匠と引用意匠とでは,明らかに異なった美感を与えている。そして,このスポーク部をはめ込んだ印象は,スポーク部先端とリム部内周面との接合部の奥行きの深さにかかわらず生じるものなのである。
本願意匠は,各スポークの先端部をリム部の前面と面一に形成するだけでなく,各スポークとリム部との接続部を肉厚状に形成しているため,各スポークの先端部からリム部への滑らかな印象がより強調されている。これに対し,引用意匠では,各スポークの先端部がリム部の前面より奥まっているため,両者の間に段差が生じる上,各スポークを根元部からリム部に向けて真っ直ぐ形成し両者の接続を鋭角的に行っているため,各スポークがリム部によって唐突に切断された印象を与え,各スポークの先端部からリム部への滑らかな印象が全くない。
本願意匠では,ディスク部の中心部付近を比較的深く凹陥させてハブ部を明瞭に形成しているため,上述の各スポークの先端部をリム部の前面と面一に形成していること及び各スポークとリム部との接続部を肉厚状に形成していることとあいまって,ハブ部からリム部まで一貫したスムーズ感を看者に与える。これに対し,引用意匠では,ディスク部の中心部の凹陥が浅く,スポーク部とハブ部との境界もあいまいであり,さらに,馬蹄形状の透孔を挟んで隣接する2本のスポークの間隔がリム部側に向かうほど狭まる結果,各スポークの屈曲がシャープで繊細な印象を与え,本願意匠のようなスムーズで力強い印象に欠ける。
このような美感上の相違を考慮せず,ありふれた形態に係る両意匠の共通点を重視して類否判断をした審決は,明らかに誤りである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,審決に原告主張のような誤りはない。
1 原告の主張1(差異点の認定の誤り)について 引用意匠が,リム部側開口縁において,U字状の透孔の幅をV字状の透孔の幅の略半分にしていることは事実である。しかし,引用意匠が,U字状の透孔の幅をV字状の透孔の幅の略半分にしているのは,リム部側開口縁という透孔の一部分においてのことにすぎない。審決が幅と述べているのは,一般的にいうところの幅,すなわち,この場合は,U字状の透孔とV字状の透孔のそれぞれの全幅(最大幅)を指しているものである。幅という語をこのような一般的な意味で用いる限り,引用意匠は,U字状の透孔の幅を,V字状の透孔の幅と比べて,3分の2程度としているということができる。審決がその幅の差の程度を「稍」と認定したことに誤りはない。
2 原告の主張2(差異点の看過)について 意匠の類否判断においては,両意匠の差異点につき,具体的な細部にわたり,そのすべてを認定した上で,両意匠の類否を判断する必要はなく,両意匠の基本的な形状と特徴的な形状における共通点と差異点を認定した上で,その類否についての判断をすれば足りる,と解すべきである。原告主張の差異点@ないしDは,いずれも,細部のささいな差異にすぎないものであるか,若しくは,両意匠のその部分の態様がいずれもごく普通のありふれた態様であるかであって,特徴的な態様ということはできず,格別注目して評価するほどの差異とはいえず,形態全体に及ぼす影響も微弱なものであって,看者に与える印象を左右するようなものではない。これらの差異点を,本願意匠と引用意匠との差異点として殊更取り上げる必要はない。
(1) 差異点@について 本願意匠は,U字状の透孔のリム部側を引用意匠に比べてやや広げた程度で,それほど差のあるものでないから,U字状の透孔を形成したという共通点を変更するものではない。透孔の形状を多少変形することは,本願優先日前において,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎない(乙第1,第2号証,第8及び第9号証の各1,2)。上記差異は,原告もU字状として共通すると認めているところの透孔の一部分におけるささいな差異にすぎない。
(2) 差異点Aについて 本願意匠は,Y字状スポークの根元部を引用意匠に比べてやや幅広にした程度でそれほど差のあるものではないから,Y字状のスポークを形成したという共通点を変更するものではない。スポークの根元部を多少太くすることも,細くすることも,本願優先日前において,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎない(乙第1,第3,第4号証)。上記差異は,原告もY字状として共通すると認めているところのスポークの一部分におけるささいな差異にすぎない。
(3) 差異点Bについて 引用意匠のU字状透孔のハブ部寄り周縁における直線的な部分はごくわずかであるから,U字状透孔のハブ部周縁の態様の差異は,その部分を注視して初めて認識することができる程度の,ささいな差異にすぎない。
(4) 差異点Cについて 原告主張の差異は,スポークの先端部が前方から見てリム部と弧状に接続しているか否かであり,本願意匠のその弧状の接続部は,ささいな部分であるから格別目立つとはいい難い。スポークとリム部との接続部を弧状にすることも,しないことも,本願優先日前にごく普通に知られた範囲内の変形であり(乙第1,第2,第5,第6号証),その差異はスポークの一部分のささいな差異にすぎない。
(5) 差異点Dについて ディスク部の態様における差異は,自動車用ホイールの大きさに起因して中央部の大きさが変化することによるものであり,本願意匠は,引用意匠に比べて,中央部を大きくした程度でそれほど差のあるものでないから,中央を凹陥したハブ部とその周囲に湾曲状のスポーク部を形成して成る盤体状のディスク部を形成したという共通点を変更するものではない。ディスク部の中央部の凹陥を明瞭とすることも,しないことも,いずれも,本願優先日前に,この種物品の属する分野においてごく普通に知られた範囲内の変形であり(乙第1,第4,第7号証,第10及び第11号証の各1,2),その差異はディスク部の一部分のささいな差異にすぎない。
3 原告の主張3(類否判断の誤り)について (1) 意匠法にいう意匠とは,意匠の創作として秩序立てられた一つの全体形態としてのまとまり,のことであるから,当該物品に一般的な形状であっても,当該形状部分を含めた全体としての両意匠の構成態様を対比し,類否の判断を行うべきである。
原告は,本願意匠に係る物品の需要者は,自動車メーカー等の取引者や車愛好家等のこの種物品の形態に広く通じているため,メッシュタイプとしてありふれた形態が特に目を引く部分として認識されることはない,と主張する。しかし,本願意匠に係る物品の需要者をこの種物品に広く精通した専門的知識を有する者に限定してとらえるべき理由はない。一般的に,自動車用ホイールを購入する場合には,自動車用ホイール単体及びタイヤを車輌本体とともに購入するものであること,既に,この種の物品が広く普及していることに照らすと,その需要者には,原告の主張する専門的知識を有する需要者だけでなく,専門的知識を持たない多数の一般需要者も含まれると想定するのが自然である。このような物品に係る意匠の類否は,専門的な知識を持たない需要者をも含んだ一般需要者を基準にして判断すべきである。
専門的知識を有する者についてみた場合,よく注目するのは,むしろ,新規に創作されたところであり,ありふれた差異点は,単なるバリエーションとして注目される度合いが低い,ともいい得る。一般需要者は,もともと,細部の形態の差異にそれほど注意を払うとはいい難い。いずれにせよ,差異点がありふれたものである場合には,その差異点は,判断要素としてそれほど評価することができない。
(2) 略Y字状のスポークの数(差異点(1))について この種物品に通じた需要者であれば,スポークの数の変化を通じて異なる印象を受けることがあり得るとしても,通常は,専門的知識を有する者であれば,むしろ,ありふれた変更,あるいは単なるバリエーションと認識するのが自然であって,注目する度合いは低いというべきである。一般需要者の場合には,一目で判別することができる数であればともかく,その数が多くなれば,その部分を注意深く観察しなければ数の違いを認識することはできない。
スポークの数を7本とすることも,8本とすることも,本願優先日前において,この種物品の属する分野において,ごく普通に知られていること(乙第5,第12,第13号証)に照らすと,一般需要者が,スポークの数の変化を的確に認識するのはむずかしく,数の違いにより異なる印象を受けるとは限らない。
本願意匠と引用意匠とのスポークの数の差は,適宜選択される範囲の変更にすぎず,その差異は,原告がいうほどには,看者に印象の違いを与えるものではない。
(3) ボルト孔(差異点(2))について 原告は,本願意匠は,ハブ部からリブ部へ向かって大きく広がったディスク部によってボルト孔がすっぽり包み込まれたような印象を与えるのに対し,引用意匠では,明瞭でないハブ部とスポーク部の境界上に大きさの異なるボルト孔と極小孔とを設けているため,平板でこぢんまりした印象を与えると主張する。
原告がいう点は,本願意匠のスポークの根元部分の幅が広いことから,ディスク部の中央部が大きく見えるということである。しかしながら,本願意匠のスポークの根元部分の幅は,引用意匠のものに比べて,やや広い程度で,それほど差のあるものではない。その差異は,スポーク部の数の変化による影響であることも勘案すると,Y字状のスポークの一部分におけるささいな差異にすぎないということができる。スポークの根元部分を多少太くすることも,細くすることも,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎない(乙第1,第3,第4号証)。ハブ部がこの種物品の最も目に付きやすい部分であるとしても,両意匠のハブ部の態様は,いずれも,本願優先日前に,ごく普通に知られた範囲内の変形であり(乙第1,第5,第7,第14号証),格別看者の注意を引くとはいえないから,ハブ部の態様における差異は,両意匠の類否の判断において,ほとんど評価することができない。
ディスク部における両意匠の差異は,車輌に装備した使用状態をも考慮すると,看者に原告がいうほどに印象の違いを与えるとはいい難い。
(4) ハブ部周縁(差異点(4))について 本願意匠は,極小孔を設けていない一般的な態様である。ハブ部あるいはその周縁に極小孔を設けることも,設けないことも,本願優先日前において,この種物品の属する分野において,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎない(乙第1,第3,第7号証)。両意匠のハブ部のボルト孔も極小孔もごく普通の態様で何ら特徴がなく,看者がこの点に関心を持つことはほとんどない。極小孔の有無についてほとんど評価することができないとした審決に誤りはない。
(5) スポーク部の先端部(差異点(5))について 原告が主張するリム部とスポーク部との一体感の有無,各スポークの先端部からリム部への滑らかな印象の有無は,リム部とスポーク部の接続部の段差の有無によって生じる印象の差異に集約される。引用意匠の接続部の段差は,段差のない本願意匠に比べ,やや奥まっている程度でそれほど大きなものではない。その差異は,形態全体からみれば,格別目立つものではなく,両意匠に共通する全体の基本的構成態様,及び,各部の具体的態様の共通点に包含される部分的な差異にすぎない。
スポークとリム部との接続部に段差を設けることも,設けないことも,本願優先日前,この種物品の属する分野において,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎず(乙第1,第2,第6号証),格別看者の注意を引くことはない。このような差異が類否判断に及ぼす影響は微弱というほかない。
当裁判所の判断
1 原告の主張1(差異点の認定の誤り)について 審決は,本願意匠と引用意匠の差異点の一つとして「(3)透孔について,本願意匠は,各透孔の幅を略等しいものとしているのに対し,引用意匠は,U字状の透孔よりV字状の透孔の幅を稍広くしている」(審決書2頁16行〜18行)と認定し,これに基づき「(3)の透孔については,引用意匠がU字状の透孔よりV字状の透孔の幅を稍広くしているとしても,各透孔の幅を略等しいものとしている本願意匠に比して,その幅の差はそれ程大きなものでなく,・・・(3)の本願意匠の態様は,格別看者の注意を引くものとはいい難い」(審決書2頁35行〜39行)と判断した。
原告は,引用意匠はU字状の透孔のリム部開口縁の幅を,V字状の透孔に比べ略半分にして,大幅に小さくしているから,審決の上記引用意匠の認定及びこれに基づく差異点の認定は誤りである,と主張する。
引用意匠における透孔について,リム部開口縁の幅だけをみるならば,U字状の透孔のそれは,V字状の透孔のそれの略半分であると認められることは,原告の主張するとおりである(甲第5号証。審決書添付別紙1,2及び判決別紙A参照)。しかしながら,審決中には,透孔の幅が何を意味するかについての格別の記載はない。そうである以上,リム部開口縁の幅に上記のような差異があるとしても,透孔についての審決の上記認定を誤りとすることはできない。むしろ,審決は,透孔の全体について幅を比較した場合の印象,あるいは,それぞれの透孔の最大幅同士を比較した結果を述べたものとみるべきである。引用意匠において,U字状の透孔の幅とV字状の透孔の幅とを上記のように比較した場合,V字状の透孔の幅はU字状の透孔の幅よりやや広いと評価することができる。これと同旨の審決の引用例の認定及びこれに基づく差異点の認定に誤りはない。
原告の主張は,採用することができない。
2 原告の主張2(差異点の看過)について 原告は,審決が差異点@ないしDを看過したと主張する。
しかしながら,以下に述べるとおり,原告の指摘する差異点は,本願意匠と引用意匠との差異点として具体的に取り上げてそれについての評価を説示するまでもないものであると評価することができるから,審決がこれらを差異点として認定しなかったことを,誤りとすることはできない。
(1) 差異点@(U字状の透孔の形状)について 原告は,U字状の透孔の形状について,本願意匠は,U字状の透孔の開口幅をリム部側において最も広くし,U字の相対向する2辺に相当する2本のスポークがリム部との接続部付近で略平行になるようにするとともに,その幅がハブ部に向かうにつれて次第に狭くなるように形成しているのに対し,引用意匠は,リム部側の開口幅を狭くし,リム部側からハブ部側へ向かう途中部で最大幅となるように中膨れ形状を形成している,との差異点を指摘し,審決は,この差異点を看過した,と主張する。
本願意匠と引用意匠との間には,原告の主張するとおりの差異があることが認められる。しかしながら,U字状の透孔の形状についての両意匠の差異点は,物理的にみれば,本願意匠がU字状の透孔のリム部側の部分の広さを引用意匠に比べてやや拡げた程度のことにすぎないと認められる。このようにU字状の透孔のリム部側の部分の広さを多少変形することは,本願優先日前において,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められる(乙第1,2号証,第8,第9号証の各1,2)。このような差異により美感に一定以上に大きい相違が生じると認めさせる資料も見いだせないから,上記差異点は,類否判断に影響を及ぼすことのない,ささいな差異にすぎないと評価するほかない。
(2) 差異点A(Y字状スポークの形状)について 原告は,本願意匠は,Y字状スポークの根元部を太く形成しているのに対し,引用意匠はY字状スポークの根元部を両側からえぐるように細く形成している,との差異点を指摘し,審決は,この差異点を看過した,と主張する。
本願意匠と引用意匠との間には,原告の主張するとおりの差異があることが認められる。しかしながら,Y字状スポークの根元部の太さについての両意匠の差異点は,物理的には,本願意匠が引用意匠に比してやや太いという程度のことにすぎないと認められる。このようにスポークの根元部を多少太くすることも細くすることも,本願優先日前において,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められる(乙第1,第3,第4号証。)。この程度の差異が美感上一定以上に大きい相違をもたらすと考えさせる資料も見いだせないから,上記差異点は,類否判断に影響を及ぼすことのない,ささいな差異にすぎないと評価するほかない。
(3) 差異点B(隣り合うY字状スポークの根元部と根元部との間の形状)について 原告は,本願意匠は,隣り合うY字状スポークの根元部と根元部の間(U字状の透孔のハブ部寄り周縁)を曲線的(曲面的)に形成しているのに対し,引用意匠では,直線的(平面的)な部分を残している,との差異点を指摘し,審決は,この差異点を看過した,と主張する。
本願意匠と引用意匠との間には,原告の主張するとおりの差異があることが認められる。しかしながら,引用意匠におけるY字状スポークの根元部と根元部の間の直線的な部分はごくわずかにすぎず,しかも,その直線部は,その周囲の曲線部と滑らかに接続していることから,全体としてはU字状透孔のハブ部寄り周縁は曲線的な印象を与えるものであることが認められる。すなわち,本願意匠も引用意匠も,全体的にみてハブ部寄り周縁を曲線的に形成しているという印象を看者に与える点において共通しているということができる。このような状況の下で,上記差異点により美感上一定以上に大きい相違が生じると認めさせる資料も見いだせない。この差異点は,類否判断に影響を及ぼすことのない,ささいな差異にすぎないと評価するほかない。
(4) 差異点C(スポークとリム部との接続部の形状等)について 原告は,本願意匠は,全体的に曲線を多用するとともに,各スポークとリム部との接続部を肉厚状に形成して両者を滑らかに接続させているのに対し,引用意匠では,各スポークを根元部からリム部に向けて真っ直ぐ形成し,両者の接続を鋭角的に行っている,との差異点を指摘し,審決は,この差異点を看過した,と主張する。
本願意匠と引用意匠との間には,原告の主張するとおりの差異があることが認められる。上記の差異は,スポークの先端部が前方から見てリム部と弧状に接続しているか否かの差異である(スポーク部の先端部がリム部の前面と略面一であるか否かの差異については,審決が差異点として認定し,判断している。)。しかしながら,両意匠のいずれにおいても,物理的にみて,スポークとリム部との接続部が意匠全体の中に占める割合はごくわずかにすぎず,当該部分が注目される度合いは,一般的にいえば,低いというべきである。しかも,このようにスポークとリム部との接続部を弧状にすることも,しないことも,本願優先日前において,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められる(乙第1,第2,第5,第6号証。)。この程度の差異が一定以上に大きい美感上の相違をもたらすと認めさせる資料も見いだせない。原告主張の上記差異点は,類否判断に影響を及ぼすことのない細部のささいな差異にすぎないと評価するほかない。
(5) 差異点D(盤体状のディスク部の形状)について 原告は,盤体状のディスク部の形状について,本願意匠は中央部の凹部が明瞭で中央部自体も大きいのに対し,引用意匠は中央部の凹部が明瞭でなく,中央部自体も小さい,との差異点を指摘し,審決は,この差異点を看過した,と主張する。本願意匠と引用意匠との間には,原告の主張するとおりの差異があることが認められる。しかしながら,中央部の大きさ及び中央部の凹部の差異は,ごくわずかなものであり,しかも,このようにディスク部の中央部の凹部を明瞭とすることもしないことも,本願優先日前において,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められる(乙第1,第4,第7号証,第10,第11号証の各1,2)。この程度の差異により美感上大きな相違が生じると認めさせる資料も見いだせない。原告主張の上記差異点は,類否判断に影響を及ぼすことのない細部のささいな差異にすぎないと評価するほかない。
以上のとおりであるから,審決が差異点@ないしDを取り上げなかったことに誤りはない。
原告の主張は,いずれも採用することができない。
3 原告の主張3(類否判断の誤り)について (1) 自動車用ホイールの形態は,一般に,大きく,@ディッシュ(皿形状)タイプ,Aスポーク(支柱状)タイプ,Bメッシュ(網目状)タイプ,Cスパイラル(渦巻状)タイプ,Dワイヤータイプに分かれ,本願意匠及び引用意匠の形態は,いずれも,メッシュタイプに属するものである(甲第12,第13号証及び弁論の全趣旨)。
原告は,審決が認定する本願意匠と引用意匠の共通点(基本的構成態様における共通点及び具体的態様における共通点(1),(2))は,いわゆるメッシュタイプ(クロススポークタイプ)として広く知られた自動車用ホイールの一般的態様を述べたものにすぎず,この種物品ではごく普通のありふれた周知の形態であることから,類否判断を左右する支配的要素とはなり得ない,と主張する。
しかしながら,いわゆるメッシュタイプの自動車用ホイールに多種多様なものがあることは,弁論の全趣旨で明らかであり(原告準備書面(第2回)添付の参考資料参照),審決が認定した両意匠の共通点は,決して,メッシュタイプの自動車用ホイールの一般的態様ではない。審決が認定した共通点は,両意匠の具体的比較により抽出された相当に具体的な形のものである。また,意匠に係る物品において,ごく普通のありふれた形態であるからといって,その形態がおよそ意匠の類否判断を左右する支配的要素となることはない,などとということができないことは明らかである。類否判断の対象となる意匠間の共通点が類否判断を左右する支配的要素となるか否かは,意匠間の差異点との相対的な関係において決せられるべきものである。差異点がほとんど問題にならない程度のごくわずかなものであれば,共通点とされる形態がごく普通のありふれた形態であったとしても,その形態は類否判断を左右するものとなり得るというべきである。
原告は,本願意匠の自動車用ホイールの需要者は,自動車メーカーなどの取引者や車愛好家など,この種物品の形態に広く通じているため,メッシュタイプとしてありふれた形態を特に目を引く部分として認識することはなく,細部におけるわずかな形態の差異にも十分な注意を払って商品選択を行う,需要者は,メッシュタイプとして類型化された意匠に更にどのような工夫がなされているか,という点に着目して自動車用ホイールを選択購入するのである,などとして,審決は,このような物品の特性及び需要者の特性を考慮しないまま,ありふれた形態に重きを置いて意匠の類否判断を行ったものであって,誤っている,と主張する。
しかしながら,本件における類否判断の基準となる自動車用ホイールの需要者をこの種物品の形態に広く通じている者に限定すべき根拠は,本件全資料を検討しても見いだすことができない。必ずしもこの種物品の形態に詳しくない需要者を含む一般需要者を類否判断の基準とすべきである(一般需要者中には,細部におけるわずかな形態の差異にも十分な注意を払って商品選択を行う専門的な需要者も含まれる。しかし,仮に,このような者を基準としたとしても,形態の差異がありさえすれば,それがわずかなものであっても常に意匠としての類似性が否定される,ということになるわけのものではないことは明らかである。意匠間の形態の差異が類否判断に影響を及ぼすかどうかは,あくまで,具体的な意匠を比較し共通点と差異点を抽出したうえで,個別具体的に検討すべきである。ありふれた形態であっても,具体的事情によって類否判断を左右するものとなり得ることは上述のとおりである。)。
原告の主張は,採用することができない。
(2) 原告は,審決が,本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(1))として認定した略Y字状のスポークの数について,「本願意匠の出願前,この種物品の属する分野において,略Y字状のスポークの数を7本とすることも8本とすることも,適宜選択される範囲内の変更にすぎ」ないと判断した(審決書2頁31行〜33行)のは,差異点を過小評価したものであって誤りである,と主張する。
しかしながら,本願意匠及び引用意匠に接した一般需要者において,両意匠間の略Y字状のスポークの数の違いを一目で認識することは困難であり,かつ,スポークの数に違いがあっても両意匠から受ける印象は,さほど異ならないということができる。
また,本願優先日当時,メッシュタイプの自動車用ホイールにおいて,略Y字状のスポークの数を7本とすることも,8本とすることも,この種物品の属する分野においてごく普通に知られていることであると認められる(乙第5,第12,第13号証)。このため,細部における形態の差異に注意を払う専門的な需要者等において,スポークの数の違いに気付いたとしても,それによって両意匠についてさほど異なる印象を受けることはないというべきである。
原告の主張は,採用することができない。
(3) 原告は,審決が本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(2))として認定したボルト孔の位置について,「ボルト孔をハブ部の内側に設けることも,ハブ部とスポーク部の境界上に設けることも,従来より,極普通になされる範囲内の改変にすぎ」ないと判断した(審決書2頁33行〜35行)のは,差異点を過小評価したものであって,誤りである,と主張する。
しかしながら,両意匠を比較するならば,上記のボルト孔の位置の違いは,微細なものであって看者にさほど異なる印象を与えるものでないことは明らかである。
原告は,本願意匠は,引用意匠に比べディスク部の中央部が大きく,中心部付近を比較的深く凹陥させて明瞭にハブ部を形成していることから,本願意匠では,ハブ部からリブ部へ向かって大きく広がったディスク部の中央部によってボルト孔がすっぽり包み込まれたような印象を与えるのに対し,引用意匠では,明瞭でないハブ部とスポーク部の境界上に大きさの異なるボルト孔と極小孔とを設けているため,平板でこぢんまりした印象を与える,と主張する。
原告が本願意匠においてディスク部の中央部が大きいといっているのは,本願意匠においては,引用意匠に比べ,スポークの根元部分の幅が広いため,ディスク部の中央部が大きく見えるということである。しかしながら,スポークの根元部を多少太くすることも,細くすることも,本願優先日前において,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められることは,前記2(2)で説示したとおりである。また,ディスク部の中央部の凹部を明瞭とすることも,しないことも,本願優先日前において,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められることは,前記2(5)で説示したとおりである。
本願優先日当時,自動車用ホイールにおいて,ボルトの位置を両意匠のような位置にそれぞれ設けることは,いずれも,この種物品の属する分野においてごく普通に知られていることであると認められる(乙第1,第5,第7,第14号証)。このため,前記専門的な需要者等において,ボルトの位置の違いに気付いたとしても,それによって両意匠についてさほど異なる印象を受けるとはいえないものというべきである。
原告の主張は採用することができない。
(4) 原告は,審決が本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(4))として認定したハブ部周縁について,「引用意匠が極小孔を設けているとしても,その極小孔は顕著な特徴を有するとはいえないから,その極小孔の有無はほとんど評価でき」ないと判断した(審決書3頁3行〜5行)のは,差異点を過小評価したものであって,誤りである,と主張する。
しかしながら,両意匠を比較するならば,上記の極小孔の有無による違いは,軽微なものであって看者にさほど異なる印象を与えるものでないことは明らかである。
ハブ部あるいはその周縁に極小孔を設けることも,設けないことも,本願優先日前において,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められる(乙第1,第3,第7号証)。
前記専門的な需要者等において,極小孔の有無の違いに気付いたとしても,その差異点が軽微なものであるため,両意匠についてさほど異なる印象を受けるとはいえないものというべきである。
原告の主張は採用することができない。
(5) 原告は,審決が本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(5))として認定したスポークの先端部について,「引用意匠がリム部の前面より稍奥まっているとしても,リム部の前面と略面一にしている本願意匠に比して,その奥行きはそれ程大きなものではなく,・・・本願意匠の態様は,格別目立つものとはいい難いものであって,その差異は,形態全体から観れば,前記の両意匠に包含される部分的な差異にすぎず,類否判断に及ぼす影響は微弱というほかない」(審決書3頁5行〜10行)と判断したのは,差異点を過小評価したものであって,誤りである,と主張する。
しかしながら,両意匠を比較するならば,上記のスポークの先端部の形状の違いは,軽微なものであって看者にさほど異なる印象を与えるものでないことが明らかである。
スポーク部とリム部との接続部に段差を設けることも,設けないことも,本願優先日前において,ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められる(乙第1,第2,第6号証)。
前記専門的な需要者等において,スポーク部の先端部の形状の違いに気付いたとしても,その差異点が軽微なものであるため,両意匠についてさほど異なる印象を受けるとはいえないものというべきである。
原告の主張は採用することができない。
(6) 審決認定の各差異点(差異点(1)ないし(5))及び原告主張の差異点(差異点@ないしD)を総合しても,前記共通点を凌駕して類否判断を左右すると認めることはできない。これと同旨の審決の認定判断に誤りはない。
結論
以上によれば,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久
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