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事件 平成 14年 (ワ) 11150号 意匠権侵害差止等請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 久田原 昭夫
同 久世勝之
補佐人弁理士 永田良昭
同 永田元昭
被告 株式会社日本育児
訴訟代理人弁護士 滝本雅彦
補佐人弁理士 角田嘉宏
同 高石郷
同 古川安航
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2003/11/13
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、別紙イ号物件目録記載の手押し車用立席ボードの輸入、譲渡及び譲渡の申出をしてはならない。
2 被告は前項の物件を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金2822万7920円及びこれに対する平成14年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
主文第1ないし第3項同旨
事案の概要等
本件は、手押し車用立席ボードのボード部に係る意匠権を有する原告が、被告が輸入、販売する被告製品のボード部は本件意匠に類似するとして、被告に対し、意匠法37条1項、2項に基づき、被告製品の輸入、販売等の差止め等を求めるとともに、損害賠償を請求(付帯請求起算日は不法行為の後で本件訴状送達の日の翌日)している事案である。
1 基礎となる事実 次の事実は当事者間に争いがない。
(1) 原告は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)を有している。
登録番号 第1083380号 意匠に係る物品 手押し車用立席ボード 登 録 日 平成12年6月23日 出願日 平成11年2月22日 優先権主張 国名スウェーデン王国 優 先 日 平成10年8月20日 登 録 意 匠 別紙意匠公報記載のとおり (2) 被告は、業として、平成14年3月ころから、別紙イ号物件目録記載の手押し車用立席ボード(以下「被告製品」といい、被告製品のボード部の意匠を「被告意匠」という。)を中国から輸入し、日本国内で販売している。
2 争点 (1) 被告意匠は本件意匠と類似するか。
(2) 差止請求の範囲 (3) 原告の損害
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告意匠は本件意匠と類似するか)について 【原告の主張】 (1) 本件意匠 ア 本件意匠の構成 本件意匠の構成は次のとおりである(符号は別紙「本件意匠符号の説明」参照)。
a 基本的構成態様 左右に長くその四隅を円弧状のアールに形成した略長方形の板状体の立席ボード(以下単に「ボード」という。)(1)と、同ボード(1)に突設された横長円筒状の接続部(2)と、同ボード上面両側に突設された足滑り防止用の膨出部(4)とから構成され、全体として一体化した態様となっている。
b 具体的構成態様 @ ボード(1)の外周全域には、鉛直方向の補強用リブ(1a)が垂下されて、側面から見ると肉厚板状となっている。
A ボード(1)の後縁の中央部分には、全幅の約1/3ほどの長さの内側へ切れ込んだ凹部(3)が形成され、その両側の後縁は緩やかに後方に膨出するような曲線に成形されている。
B 接続部(2)の外側には大きな開口部が設けられ、該開口部の内周面にはいずれもローレットが形成されたボルト受け用貫通孔(2a)が穿設されており、また、該接続部の上面左右には小径の短円筒状ネジ孔部(2b)が突設されている。
C ボード(1)の上面両側部には、ボードの後側縁から前方に向かって次第に高く、かつ幅広に形成された平面視略水滴状膨出部(4)が突設されている。
D 底面形状は、前記外周全域の補強用リブ(1a)を除いて複数本の鉛直方向の補強用リブが形成されている。
イ 本件意匠の要部 (ア) 本件意匠は、四隅が円弧状のアールに形成され、全体的に丸みを帯びた略長方形の板状体であり、かつ四辺のうちの後縁中央部分に凹部が形成され、
さらに表面が曲面で形成された膨出部が左右に突設されているボードの全体的形状をその要部とするものである。
(イ)a 被告は、膨出部の形状が要部であると主張する。
しかしながら、被告の指摘する公知意匠(乙1、2)などにも示されているように、本件意匠の出願前に存在したボードは単純な板状で上面が平面のものであった。したがって、表面がボード全体の丸みを帯びた形状と相まって丸みを帯びた曲面をなしている膨出部がボード上面に突設されているという構成態様は、見る者の注意を強く惹くものであり、その点が本件意匠の要部をなしている。
膨出部の詳細な形状が平面視略水滴状(ティアドロップ形状)であることに見る者が注意を惹かれることはない。
b 被告は、微小突起部の位置と模様が要部であると主張する。
しかしながら、微小突起部の位置と模様は、本件意匠の全体形状に比べれば、細部にかかる構成態様であり、見る者の注意を惹く部分とはいえないから、本件意匠の要部ではない。
c 被告は、ボード部が全体的に丸みを帯び、切り立った角を作らないのは常套手段であるので、本件意匠における丸みを帯びた形状は要部ではないとしている。
しかし、被告が常套手段である証拠とするのは、本件意匠と同日に原告によって出願された意匠の公報(乙3、4)である。本件意匠の出願前に公知となっていた意匠(乙1、2)が板状で角張った形状をなしていたことからすれば、全体として丸みを帯びているという形状は、見る者に強い印象を与える全体的な形状であって、本件意匠の要部というべきである。
(2) 被告意匠(符号は別紙「イ号物件目録」参照) ア 基本的構成態様 左右に長くその四隅を円弧状のアールに形成した略長方形の板状体のボード@と、同ボード@に突設された横長円筒状の接続部Aと、同ボード上面両側に突設された足滑り防止用の膨出部Cとから構成され、全体として一体化した態様となっている。
イ 具体的構成態様 @ ボード@の外周全域には、鉛直方向の補強用リブ@-aが垂下されて、側面から見ると肉厚板状となっている。
A ボード@の後縁の中央部分には、全幅の約1/3ほどの長さの内側へ切れ込んだ凹部Bが形成され、その両側部の後縁は緩やかに膨出するような曲線に成形されている。
B 接続部Aの外側には大きな開口部が設けられ、該開口部の内周面にはいずれもローレットが形成されたボルト受け用貫通孔A-aが穿設されており、また、該接続部の上面左右には小径の短円筒状ネジ孔部A-bが突設されている。
C ボード@の上面両側部には、半球状の膨出部Cが突設されている。
D 底面形状は、前記外周全域の補強用リブ@-aを除いて複数本の鉛直方向の補強用リブが形成されている。
(3) 本件意匠と被告意匠の対比 ア 本件意匠と被告意匠の共通点 @ 本件意匠と被告意匠は、基本的構成態様が同一である。
A 本件意匠と被告意匠は、具体的態様において、ボードの上面両側部の膨出部の形状に多少の相違はあるものの、それ以外の構成態様が同一である。
イ 本件意匠と被告意匠の相違点 本件意匠と被告意匠は、具体的態様において、ボードの上面両側部の膨出部の形状において相違する。
しかしながら、膨出部が突設されていることと当該膨出部の表面が曲面をなしていることは一致しており、被告製品の膨出部の形状についての本件意匠との差異は、見る者の注意を惹かないものであるし、本件意匠の要部から容易に着想することのできる程度の差異にすぎない。
ウ よって、被告製品の意匠は、本件意匠に類似する。
エ(ア) 被告は、膨出部の形状が要部であり、この点で本件意匠と被告意匠が異なっているので、非類似であると主張する。
しかしながら、膨出部の形状そのものが要部ではないことは、前記(1)イ(イ)a記載のとおりである。この形状が、平面視略水滴状(被告のいうティアドロップ形状)か半球形状かは軽微な差異にすぎず、見る者に異なった美感を起こさせるものでもない。
ティアドロップ形状か半球形状かが軽微な差異であることは、被告製品の取扱説明書において、ティアドロップ形状の膨出部が描かれている原告製品の図面が、原告製品の取扱説明書から盗用されていることからしても、被告自身認めていたといえる。
以上から、本件意匠において、表面が曲面をなす膨出部が設けられていることが要部であり、その形状がティアドロップ形状か半球形状かは微差であるから参酌する必要はない。そして、被告製品ボード部は、表面が曲面をなす膨出部を備えている点で、本件意匠と要部において構成態様が共通しており、見る者をして本件意匠と共通した美感を起こさせる。
(イ) 被告は、微小突起部の位置と模様が要部であり、この点で本件意匠と被告意匠は異なっているので、非類似であると主張する。
しかしながら、微小突起部の位置と模様が本件意匠の要部ではないことは、前記(1)イ(イ)b記載のとおりである。
また、この点の相違は、部分的で軽微な差異に止まるものであり、見る者に異なった美感を起こさせるものではなく、本件意匠と被告製品ボード部との類否の判断には影響を及ぼさない。
【被告の主張】 (1) 本件意匠 ア 本件意匠の構成 @ 縦と横と高さの比率が6対14対1のボードである。
A 後縁の中央部分には全横幅の3分の1ほどの長さの凹部がある。
B 前縁の両端に全横幅の4分の1ほどの長さの横長円筒物が突設されている。
C 上面後方両側部にティアドロップ形状の膨出部が突設されている。
D 上面両側部に微小突起で描かれた矩形模様が配されている。
E 底面には横方向の3本のリブ(直線2本、曲線1本)が設けられている。
イ 本件意匠の要部 (ア) 本件意匠の要部は、膨出部の形状がティアドロップ形状であることと、ボード表面の滑り止め用微小突起が左右に矩形模様を配したごとく表されていることである。
(イ)a 本件意匠は、手押し車とそれを押す人の間にジョイント部を介して接合されるものなので、ボードに乗る子供が安定して立つことができる程度の表面が必要であると同時に、手押し車の走行を阻害しないためにボードの横幅は手押し車の横幅と同等又はそれ以下である必要があり、かつ、手押し車を押す人の歩行を妨げない程度の縦幅でなければならない。
手押し車を押す人の歩行の観点からすれば、ボード縦幅はできるだけ狭い方がよいが、そうするとボードに乗る子供が安全に立つだけの幅が確保できない。このような問題は子供が足を乗せる位置、すなわちボードの後縁の両端の縦幅を広くすれば解決できるのであり、その結果、後縁中央部分に凹部が形成される。
また、手押し車を押す人が誤って足をボードにぶつけた際に怪我をするおそれを回避するために、ボード全体が丸みを帯びていることは必要不可欠の形状であり、それ故に親や子供などの需要者はこの丸みを帯びた形状に安心感を覚えるのである。
したがって、以上の特徴は、いずれもボードの基本的な形状であって、意匠の特徴としてとらえるべきものではない。
b ボード上面の膨出部は、子供がボードの片端に乗ることによってボード及び手押し車が不安定な状態になることを防止する目的、及び子供がボードから足を踏み外す危険を予防する目的のものであり、本件意匠と被告ボードの基本的構成態様である。
そして、本件意匠の膨出部はボード縦幅の3分の2程度の長さのティアドロップ形状であり、意匠全体の印象に大きな影響を与えるものである。したがって、その形状は本件意匠の要部である。
c ボード上面の微小突起の位置と模様は、ボードの最も広い面積で表示されるものであり、本件意匠の細部とは到底いうことができない。
かかる微小突起は、ボードの表面に滑り止めとして配され、その形状や配置は自由に創作できる部分であり、需要者等の目に最初に止まる部分といってよく、かかる具体的構成態様は看者に強い印象を与える。したがって、微小突起の位置と配置は本件意匠の要部である。
(2) 被告意匠 被告意匠の構成は、次のとおりである。
@ 縦と横と高さの比率が6対14対1のボードである。
A 後縁の中央部分には全横幅の3分の1ほどの長さの凹部がある。
B 前縁の両端に全横幅の4分の1ほどの横長円筒物が突設されている。
C 上面後方両側部に半球形状の膨出部が突設されている。
D 上面中央部には微小突起で描かれた楕円模様が配されている。
E 底面には横方向の6本のリブが設けられている。
(3) 本件意匠と被告意匠の対比 ア 本件意匠の要部は、@膨出部の形状とAボード表面の滑り止め用微小突起である。@の膨出部について対比すると、本件意匠はティアドロップ形状であるのに対し、被告意匠は半球形状である。Aの滑り止め用微小突起について対比すると、本件意匠では、突起の密度が低く、ボード表面左右に矩形模様を配したごとく表されているに対し、被告意匠では、一辺約5ミリの正方形状の突起が密着して、
中央に楕円を配した態様に表されている。
以上からすれば、本件意匠と被告意匠は、要部において明らかに異なっており、類似性が認められない。
イ 本件意匠と被告意匠との間で同一性、類似性の認められる他の点については、次のとおりいずれも公知あるいは必然的形状であるから、類否の判断基準となり得ない。
a 本件意匠と被告意匠における、縦と横と高さの比率は公知である。
b 本件意匠と被告意匠において見られる、ボード上面前縁両端に全横幅の4分の1ほどの横長円筒物が突設されていることは、アームホルダーのソケットとして機能するための必然的な形状にすぎない。
c 底面のリブは、通常は見えない部分であるから、全体観察においては類否判断に影響を与えない。
d 原告は、「全体的に丸みを帯びたやわらかな印象」をも要部とするが、切り立った角を作らないのはこの種ボードの常套手段である。
e 原告主張の具体的構成態様@ボード部の外周に鉛直方向の補強リブが垂下され、側面から見ると肉厚板状になっていること及び同D底面形状は外周全域の補強用リブを除いて複数本の鉛直方向の補強用リブが形成されていることは、材質をプラスチックとしていることから生じる必然的形状である。また、同B接続部の外側に開口部が設けられ、開口部の内周面にローレットが形成されたボルト受け用貫通孔が穿設されており、該接続部の上面左右には小径の短円筒状ネジ穴部が突設されていることは、組立式であることから生じる必然的な形状である。
f 手押し車用立席ボードに関しては、本件意匠の出願前にドイツ連邦共和国の実用新案公報によって公知となった意匠が存在する(乙1、2)。原告製品は、この実用新案において提示されたものを組立式としたものにすぎない。
2 争点(2)(差止請求の範囲)について 【原告の主張】 被告は、手押し車用立席ボード全体を一体不可分の被告製品として流通に置き、一般ユーザーはこのようにして流通した手押し車用立席ボード全体を購入、入手する。
被告のこの行為により、原告のボード部に係る本件意匠権が侵害されているのであるから、ボード部の意匠権に基づく差止請求権は、当然に被告製品全体に対して及ぶものである。
【被告の主張】 原告は、被告が商品として販売する手押し車用の立席ボード全体(すなわち、ボンド部、ジョイント部、キャスター組立体、キャスター等からなる商品全体)を本件意匠権に基づく差止対象とするが、本件意匠権に係る物品はボード部であり、そのジョイント部(アーム、アームホルダー)、キャスター組立体、キャスター(車輪)は意匠権の範囲でない。
本件意匠権に基づく差止対象と考え得るものは、単独で取引の対象となり得るボード部のみである。
3 争点(3)(原告の損害) 【原告の主張】 被告は、平成14年3月ころから本訴提起時に至るまで、被告製品1万5160台を輸入し販売している。被告製品1台当たりの仕入れ価格(製造原価に輸入に係る運賃等の諸経費と保管倉庫代及び国内における輸送運賃を合計したもの)は1189円であり、被告製品の卸価格は平均3051円であるから、被告が被告製品を販売したことにより得た利益は1台1862円である。したがって、被告は、
被告製品の輸入、販売により少なくとも金2822万7920円の利益を得ている。
なお、需要者がボード部に着目して、立席ボード全体である製品を購入するものであることは、製品の構成上からも明らかである。したがって、立席ボード全体である被告製品の販売により被告が得た利益全体が原告の損害とされるべきものである。
【被告の主張】 被告製品の販売数量、1台当たり仕入れ価格、平均の卸価格、被告製品を販売することにより被告が得た1台当たりの利益が原告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。
本件は、ボード部のみが意匠権の対象となっているところ、それ以外のジョイント部(アーム、アームホルダー)、キャスター組立体、キャスター等及びこれらを結合するためのネジ等の各部品である被告製品全体が一体性のある物品であると仮定しても、ボード部に係る意匠権が被告製品のボード部とは無関係の他の部品に及ぶのは不当である。
原告の主張を認めると、ボード部以外の物品もまた原告から購入しなければならないこととなるが、これは、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条で禁止されている不公正取引方法(一般指定第10項)に該当する。
そうすると、本件では、仮に侵害論における原告の主張が認められるとしても、その損害は、被告製品全体の利益(1台当たり1862円)にボード部の製造原価が手押し車用立席ボード全体の製造原価に占める割合14.8%を乗じた金額である1台当たり275円の利益を基準とすべきであり、被告が販売した被告製品の数量は1万5160台であるから、原告の損害は416万9000円を超えるものではない。
当裁判所の判断
1 争点(1)(被告意匠は本件意匠と類似するか)について (1) 本件意匠の構成 別紙意匠公報(甲9)によれば、本件意匠に係る物品は、ベビーカー等の手押し車のための立席用ボードであるが、使用時にはキャスター組立体が取り付けられ、手押し車に連結されるものであり、本件意匠はボード部(ボード本体)のみを対象とするものであること、そして、本件意匠の構成は次のとおりであることが認められる。
ア 基本的構成 A 左右に長くその四隅を円弧状のアールに形成した略長方形の板状のボードにより形成される。
B 同ボード上面の前縁に、横長円筒状に突設する、ベビーカー等の手押し車との接続部が、全横幅4分の1ほどの長さで2か所ある。
C 同ボード上面の後縁両端に、突設された足滑り防止用膨出部がある。
イ 具体的構成 a ボードの外周はいずれも角が取れ、丸みを帯びた形状となっている。
b ボードの外周全域には、補強用リブが垂下され、側面からみると肉厚板状である。
c ボードの後縁の中央部分には、全幅の約1/3ほどの長さの内側に切れ込んだ凹部が形成され、その両側の後縁は緩やかに後方に膨出するような曲線に成形されている。
d 接続部の上外側には大きな開口部が設けられ、該開口部の内周面にはいずれもローレットが形成されたボルト受け用貫通孔が穿設されており、また、該接続部の上面左右には小径の短円筒状ネジ孔部が突設されている。
e ボードの上面後縁両側には、ボードの後側縁から前方に向かって次第に高く、かつ幅広に形成された平面視略水滴状膨出部が突設されている。
f ボードの上面には、eの膨出部の内側に、左右に分かれて2つの矩形状の範囲内に、微小な点状の突起が多数存在する。
g ボードの底面には、前記外周全域の補強用リブを除いて複数本の鉛直方向の補強用リブが形成されている。
(2) 被告意匠の構成 証拠(乙3ないし5、検甲2)によれば、被告意匠の構成は、次のとおりであると認められる。なお、下線部は本件意匠と異なる部分である。
ア 基本的構成 A 左右に長くその四隅を円弧状のアールに形成した略長方形の、全体的に丸みを帯びた板状のボードにより形成される。
B 同ボード上面の前縁に、横長円筒状に突設する、ベビーカー等の手押し車との接続部が、全横幅4分の1ほどの長さで、2か所ある。
C 同ボード上面の後縁両端に、足滑り防止用膨出部が突設されている。
イ 具体的構成 a ボードの外周はいずれも角が取れ、丸みを帯びた形状となっている。
b ボードの外周全域には、補強用リブが垂下され、側面からみると肉厚板状である。
c ボードの後縁の中央部分には、全幅の約1/3ほどの長さの内側に切れ込んだ凹部が形成され、その両側の後縁は緩やかに後方に膨出するような曲線に成形されている。
d 接続部の上外側には大きな開口部が設けられ、該開口部の内周面にはいずれもローレットが形成されたボルト受け用貫通孔が穿設されており、また、該接続部の上面左右には小径の短円筒状ネジ孔部が突設されている。
e ボードの上面後縁両側には、半球状膨出部が突設されている。
f ボードの上面には、eの膨出部の内側に、大きな1つの楕円形の範囲内全面に、小さい正方形状の突起 が多数存在する。
g 底面形状は、前記外周全域の補強用リブを除いて複数本の鉛直方向の補強用リブが形成されている。
(3) 本件意匠の要部について ア 証拠(甲3ないし7、乙1及び2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
手押し車用立席ボードは、手押し車の後部フレーム部にアーム等を使用して連結させ、キャスター(車輪)によってボードを水平状態にしたまま手押し車と同方向・同速度で移動させることにより、1人目の子供を手押し車に座らせた状態で、2人目の子供を立席ボードに立たせた状態で、手押し車を押すことによって同時に2人の子供を移動させることを目的とした物品である。これによって、まだ歩くことができない、あるいは歩くことに不安のある乳児等と、歩くことはできるようになったが連れて歩くには監督者において常に誘導し、注意を払わなければならないような幼い子供の2人を連れて歩こうとする者(主に親)が、手押し車に乳児等を乗せ、手押し車用立席にもう一人の幼い子供を立たせることによって、2人の子供を目の届く範囲内に置いて一緒に移動させることが可能となる。
本件意匠に係る手押し車用立席ボードのボード部は、2人目の子供の立ち位置となるボードであって、それのみでも取引の対象となる物品である。
以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、手押し車用立席ボードの需要者は、乳児等とそれより若干大きくなった幼い子供の2人を連れて移動しなければならない者(主に親)である。このような需要者は、手押し車用立席ボードを購入する際には、その使用の際の観察位置、すなわちボード部の後上方から、ボード部の上面及び後側面を中心に観察し、子供が親しみをもてるような形状であるとともに、使用の最中に子供が不用意な動きをしたことなどを原因として、子供や手押し車を押す者がけがをしないような形状になっているかについて注意を払った上で、当該製品を購入、
選択するものと推認される。
イ 証拠(乙1、2)によれば、本件意匠の意匠登録出願前に、ドイツ連邦共和国において頒布された2つのドイツ実用新案公報には、本件意匠に係る物品である手押し車用立席ボードに相当する子供用搬送装置ないし乳母車用補助踏台車に関する考案が記載されており、実施例の図面として、手押し車用立席ボードが示されていること、図示された手押し車用立席ボードは、いずれも、手押し車の後方フレーム部に、アームを使用して連結されるキャスター付きのものであり、そのボード部は、膨出部や微小突起等の凹凸がなく、角部も特に丸みを帯びるよう加工されていることが窺われず、縦長の長方形等の単純な形状を有する板でしかない上、手押し車とボードを連結するアームやキャスターはいずれもボードの下面においてボードに接続されていることが認められる。
ウ 証拠(乙3、4)によれば、原告は、本件意匠の意匠登録出願日と同日に、ボード全体が底辺の2隅を円弧状のアールに形成した略二等辺三角形を形成しており、ボード前方側面において手押し車と接続する部分を有し(したがって、ボード上面前方にはアームを取り付けるための円筒状突起は存在しない。)、さほど肉厚ではないが裏面に補強がしてあり、ボード上面後縁の2隅にはなめらかな曲面で構成される膨出部(平面視略水滴状)が突設されている、手押し車用立席ボードのボード部に係る意匠で、二等辺の周縁形状の異なる2つの意匠について、意匠登録出願し、いずれも意匠登録になったことが認められる。
エ 以上の事実によれば、公知意匠としての手押し車用立席ボードのボード部は、前記(1)アで認定した本件意匠の基本的構成AないしCをいずれも備えていないということができる。また、前記公知意匠以外に、本件意匠の出願前の手押し車用立席ボードのボード部の意匠に関する証拠は提出されていない。したがって、本件意匠は、その基本的構成AないしCにおいて、公知意匠にない新規な構成であると認められる。
上記事実と、上記アで認められる事実を併せ考慮すれば、本件意匠の構成のうちで、新規な構成でかつ看者の注意を惹く意匠の要部は、ボード全体が四隅を円弧状のアールに形成した左右に長い略長方形であって、角のない丸みを帯びた形状を有しており、四辺のうちの後縁中央部分に凹部が形成され、ボード上面の後縁には両側にそれぞれなめらかな曲面を有する膨出部が備わっているところにあるということができる。
(4) 本件意匠と被告意匠との類否について ア 被告意匠の構成は前記(2)で認定したとおりであり、それぞれ下線を付した部分が本件意匠と相違する部分である。
本件意匠と被告意匠を対比すると、基本的構成はほぼ一致しており、具体的構成においてもほとんど異なるところはない。そして、被告意匠は、前記(3)エで述べた本件意匠の要部をいずれも備えており、被告意匠は、全体として本件意匠と同様の美感を与えるものになっていると認められる。
したがって、被告意匠は本件意匠に類似するというべきである。
イ(ア) 被告は、ボード部の後縁の両側に存在するなめらかな曲面を有する膨出部の形状は、看者を強く惹きつけるものであって、要部というべきであるところ、本件意匠ではティアドロップ形状(平面視略水滴状)であり、被告意匠では半球形状であるという差異が認められるから、本件意匠と被告意匠は類似しないと主張する。
しかしながら、本件意匠の出願前の手押し車用立席ボードのボード部の形状としては、証拠上、前記(3)イ記載のような凹凸のない板状のものの存在しか認められないことからすると、看者は、本件意匠に関し、後縁両部の膨出部の存在そのものに強く惹きつけられるということができる。そして、本件意匠と被告意匠の各膨出部は、いずれもボード上面の後縁両側にあって、なめらかな曲面を有するものである点で共通しており、両者の間の平面視略水滴状か半球形状かという差異は看者の注意を強く惹くほどのものではなく、微差にすぎないというべきである。
(イ) 被告は、ボード上面の微小突起の位置と模様は、ボードの最も広い面積で表示されるものである上、ボードの表面に滑り止めとして配され、その形状や配置は自由に創作できる部分であり、需要者等の目に最初に止まる部分といってよく、かかる具体的構成態様は看者に強い印象を与える要部であるといえるところ、本件意匠ではこれが2つの矩形形状模様を描くように膨出部の横に配置されているのに対し、被告意匠では1つの楕円形状模様を描くようにボード中央に配置されているという差異が認められるから、本件意匠と被告意匠とは類似しないと主張する。
本件意匠における微小突起は、意匠公報の記載上それほど目立つものではなく、意匠の要部とはいえないが、他方、被告意匠における小突起は目に付きやすいボード上面の最も広い面積に多数存在しているので、目立たないものとはいえない。
しかしながら、被告意匠の小突起は、滑り止めとして通常用いられる形状のものと考えられ、この点に特に意匠上の特徴があるとはいえず、看者の注意を特に惹くものとはいえない。
(ウ) 被告は、左右に長い略四角形であることはこのようなボードにおいて公知であり、ボード上面前縁両端に全横幅の4分の1ほどの横長円筒物が突設されていることは、アームホルダーのソケットとして機能するための必然的な形状にすぎないと主張する。
しかしながら、被告が指摘する公知意匠(乙2)のボードは、縦に長い略四角形である。手押し車用立席ボードのボード部は、手押し車用立席ボードに立つ子供の足の置き場として十分な面積を有し、かつ手押し車を押す際に邪魔にならないような形状であればよいのであって、必ずしも左右に長い略四角形でなければならない必然性はない。したがって、手押し車用立席ボードのボード部の形状が、左右に長い略四角形であることが公知であるということはできない。
また、本件意匠の出願前に公知となっていた手押し車用立席ボード(乙1、2)は、いずれもアームがボードの下面においてボードと接続されている。さらに、原告が本件意匠の出願と同日に出願した手押し車用ボードのボード部には、このような横長円筒状突起が突設されていない(乙3、4)。したがって、
手押し車用立席ボードを手押し車と連結させるに当たってアームが必要であるとしても、そのアームをボードと接続させる方法は必ずしも上面前縁両端に横長円筒物形状を有するアームホルダーソケットによらなければならないということはできないから、この横長円筒状突起の存在を、手押し車用立席ボードのボード部に必然となる形状ということはできない。
(エ) 被告は、手押し車用立席ボードのボード部の後縁中央部の凹部は、
子供が足を乗せる位置、すなわちボードの後縁の両側の縦幅を広くするというボードに要請される形状を満たしたものにすぎないと主張する。
しかしながら、手押し車用立席ボードのボード部において、手押し車を押す者の歩行の邪魔にならないよう、ボードの縦幅はあまり広くない方がよいが、一方で子供が足を乗せる位置を確保する必要があることは是認できるものの、
その結果、後縁中央部に凹部を形成させなければならない必然性はない。また、本件意匠においても被告意匠においても凹部が浅いため(甲3ないし5、8)、凹部の存否によって手押し車を押す者の歩行障害の程度が異なるとは認められないことからすれば、凹部の存在は機能的な意義を有するものではなく、まさに意匠的な意義を有するものというべきであって、これを必然的形状ということはできない。
2 争点(2)(差止請求の範囲)について 上記1で判示したとおり、被告意匠は本件意匠に類似する。
ところで、前示のとおり、本件意匠に係る物品は、手押し車用立席ボードのボード部(ボード本体)であるところ、被告製品はボード部のみならず、ジョイント部とキャスター部を含む手押し車用立席ボード全体である(イ号物件目録参照)。
そこで、本件意匠権に基づき、被告製品全体を差止めの対象とすることができるかどうかについて検討するに、証拠(甲3ないし5)によれば、被告製品は、
ボード、車輪、アーム、ソケット用ネジ、引っ掛け用ベルト(一時的に使用しない場合の収納用ベルト)、ジョイント及びジョイントゴムが、解体された状態で1つの箱に入れて梱包され、販売されており、需要者の側で購入後これを組み立てて使用するものと認められる。そして、被告製品は、ボード部の形状の意匠に創作性が認められるところ、証拠(甲3なしい5)によれば、その販売における展示方法(インターネットに掲載されている画像やカタログ、取扱説明書等)においてもボード部が強調されていることが認められ、被告自身においても、ボード部を主としてその他の物品を付属品として位置付けた上、これらを一体として扱い、需要者においても、ボード部を購入し、その際これを直ちに使用するために必要となる付属品を共に購入するとの認識を有していると認められる。
以上の事実に照らすと、本件意匠権に基づき差止請求をなし得る範囲は、本件意匠に類似する被告意匠に係る手押し車用立席のボード部分のみならず、その付属品を含めた手押し車用立席という一体の製品に及ぶと解するのが相当である。
また、被告製品を組立完成後の手押し車用立席ボード全体としてみて、これと本件意匠とを対比した場合も、被告製品は、本件意匠に類似するボードが外部から認識できる態様でそのまま存在するものであるから、本件意匠を利用するものというべきである。したがって、この点からも、原告の本件意匠権に基づく差止請求権は、被告製品の全体に及ぶものというべきである。
3 争点(3)(原告の損害)について 証拠(甲6、7)によれば、本件意匠の実施品である原告製品が日本に輸入されて販売されていることが認められ、原告は、被告製品が輸入販売されたことにより、損害を被ったものと認められる。
そこで、損害額について検討するに、被告が平成14年3月ころから本訴提起時に至るまで、被告製品1万5160台を輸入し販売したこと、被告製品1台当たりの仕入れ価格(製造原価に輸入に係る運賃等の諸経費と保管倉庫代及び国内における輸送運賃を合計したもの)は1189円、被告製品の卸価格は平均3051円であり、被告が被告製品を販売したことにより得た利益は1台当たり1862円であることは、当事者間に争いがない。したがって、被告は、被告製品の輸入、販売により2822万7920円の利益を得たものと認められる。
ところで、本件意匠は、手押し車用立席ボード部に係る意匠であるのに対し、被告製品はボード部のみならず、車輪、アーム、ソケット用ネジ、引っ掛け用ベルト、ジョイント及びジョイントゴムが一体となった手押し車用立席ボード全体である。しかし、上記2で認定したとおり、被告製品は、本件意匠の類似範囲に属するボード部が製品の主要部分であり、その余は原価の大小はともかくとして付属品であって、格別の特徴を有するものともいえず、かつ、ボード部と上記付属品の全体が一体として販売されているものであり、需要者も主としてボード部の意匠に着目して被告製品を購入するものと推認される。したがって、本件意匠権侵害によって原告が被った損害額の算定に当たっては、被告が被告製品を輸入、販売することによって得た利益の額全部が原告の損害の額であると推定する(意匠法39条2項)のが相当である。
そうすると、被告が本件意匠権の侵害行為によって受けた利益は、上記2822万7920円であるから、この金額が被告の本件意匠権侵害行為によって原告が被った損害の額と推定される。
4 以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容する(なお、仮執行宣言の申立てについては、損害賠償の支払に関してのみこれを付することとする。)。
追加
(別紙)イ号物件目録第1イ号物件手押し車用立席商品名「バキー+ワン」第2イ号物件の説明ボード部、ジョイント(アーム、アームホルダー)部、キャスター部(キャスター組立体、キャスター(車輪))からなる手押し車用立席1図面の説明別紙図面1イ号物件のボード部後方側からの全体斜視図別紙図面2イ号物件のボード部前方側からの全体斜視図別紙図面3イ号物件のボード部接続部の拡大側面図別紙図面4イ号物件のボード部側面図別紙図面5イ号物件のボード部後側部の拡大側面図別紙図面6イ号物件のボード部底面斜視図別紙図面7イ号物件の斜視図2符号の説明@立席ボード(ボード部)@-a〜@-g補強用リブA接続部A-aボルト受け用貫通孔A-bアームホルダー固定用短円筒状ネジ孔部B凹部C膨出部D円筒状取付孔Eキャスター組立体FアームF-aアームホルダー3構成態様の説明(1)基本的構成態様左右に長くその四隅を円弧状のアールに形成した略長方形の板状体の立席ボード@と、同ボード@に突設された横長円筒状の接続部Aと、同ボード上面両側に突設された足滑り防止用の膨出部Cとから構成され,全体として一体化した態様となっている。
(2)具体的構成態様ア立席ボード@の外周全域には鉛直方向の補強用リブ@-aが垂下されて、側面から見ると肉厚板状となっている。
イ立席ボード@の後縁の中央部分には、全幅の約1/3ほどの長さの内側へ切れ込んだ凹部Bが形成され、その両側部の後縁は緩やかに膨出するような曲線に成形されている。
ウ接続部Aの外側には大きな開口部が設けられ、該開口部の内周面には何れもローレットが形成されたボルト受け用貫通孔A-aが穿設されており、また該接続部の上面左右には小径の短円筒状ネジ孔部A-bが突設されている。
エ立席ボード@の上面両側部には、半球状の膨出部Cが突設されている。
オ底面形状は、前記外周全域の補強用リブ@-aを除いて複数本の鉛直方向の補強用リブが形成されている。
4イ号物件の使用方法等の説明イ号物件は、ベビーカー等の手押し車の後部フレームに取付け、立席用ボード上に2人目の子供を立たせた状態で、同時に2人の子供を乗せて移送するための立席ボードである。
別紙図面7に示す如く、ベビーカー等の後部フレームに連結して用いる。
使用に際しては、裏側左右に設けられた円筒状取付け孔Dに別部品のキャスター組立体Eの支持部分を挿入固定する。
前縁斜め上方に突出する左右の接続部Aのボルト受け用嵌通孔A-aに、アームF一端部のアームホルダーF-aを挿入し、上部のネジ孔A-bから小ネジを螺合して固定する。
アームFの他端部を、後部フレームの両側に取付けたクリップにアダプターを介して挿入固定する。
このようにして、ボードはベビーカーに取付けられると、アームの上端を支点として上下方向に回動可能に支持されることになり、キャスター車輪が接地するとボードは水平状態を維持する。
ボードを水平にすれば、ベビーカーの載置部に乗せた子供の他にもう一人の子供をこのボード上に立たせて、同時に二人の子供を乗せて移動することができる。
(別紙)イ号物件本件意匠符号の説明
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美
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