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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21ネ3051意匠権侵害差止等請求控訴事件 判例 意匠
平成14ネ4786意匠権侵害差止等請求控訴事件 判例 意匠
平成13ネ5158意匠権侵害等に基づく差止請求控訴事件 判例 意匠
平成21ネ2110損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成17行ケ10135審決取消(意匠)請求事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の保護 /  意匠の実施 /  意匠の創作 /  美的形態 /  物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  意匠の説明 /  一意匠一出願(7条) /  公然知られた(3条1項1号) /  3条1項3号 /  類似する意匠 /  意匠の属する分野 /  通常の知識を有する者 /  部品 /  願書の記載 /  物品の同一性 /  形態の類似 /  本意匠 /  登録意匠 /  権利を専有 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 17年 (ネ) 10079号 意匠権侵害差止等請求控訴事件

控訴人 株式会社伊藤製作所代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 渡辺隆夫
同 弁理士 近藤彰
被控訴人 有限会社ケイズインターナショナル 代表者取締役
訴訟代理人弁護士 伊藤亮介
同 手島厚
同 長井真之
同 弁理士 菅原俊樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/10/31
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,別紙物件目録記載(各商品形態をカラーで表示したほかは,原判決別紙物件目録と同じ。)の商品を輸入し,販売し,販売の申出をしてはならない。
(3) 被控訴人は,同目録記載の商品を廃棄せよ。
(4) 被控訴人は,控訴人に対し,455万円及びこれに対する平成16年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(6) 仮執行の宣言 2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
1 本件は,意匠に係る物品名が「カラビナ」の意匠権を有する控訴人が,別紙物件目録記載の商品の販売等をしていた被控訴人に対し,その販売等の行為が上記意匠権を侵害するとして,上記商品等の販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を請求した事案である。原審は,上記商品が登録意匠の権利範囲に属するとは認められないとして,控訴人の請求を棄却したため,控訴人は,これを不服として控訴しているものである。
2 前提となる事実(以下の事実のうち,証拠を掲記したもの以外は当事者間に争いのない事実である。) (1) 有限会社岡島製作所(以下「岡島製作所」という。)は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その意匠を「本件登録意匠」という。)を取得した。
登録番号 第1156116号 意匠に係る物品 カラビナ 出願日 平成11年8月31日 登録日 平成14年8月30日 (2) 控訴人は,岡島製作所から,本件意匠権を譲り受け,平成16年2月17日付けで,権利移転の登録がされた。
(3) 本件登録意匠の構成態様は,次のとおりである(甲2,12)。なお,数値は,全幅(横幅)を100とした場合の寸法比率を表している。
ア 全体の態様 上部が連続する半双円形状で,半双円の両側を中間に向かう直線状の斜向辺とし下端を小円弧で連続したハート形で,一方の斜向辺の一部を開口可能とした作動杆としているものである。
イ 全体の縦横比 全幅(横幅)100に対して縦長が90である。
ウ 上部半双円の形態 半径25の半円を並べ,上部より25の位置で隣接円と小円弧状に連続させた形態である。
エ 斜向辺の構成態様 斜向辺は,内角が72度で,前記上部半双円の接線方向から延長されている。
オ 作動杆の構成態様 作動杆は,48.8の長さを有し,下方部分が枢結され,枠内方に回動して枠を開口する構成である。
カ 枠を構成する丸棒及び作動杆の直径は10である。
(4) 一方,被控訴人は,インターネットのホームページにおいて,別紙物件目録<イ号物品>記載の商品番号CR1018-BK,同CR1018-BL,同CR1018-GR,同CR1018-RD,同CR1018-SV,同CR1018-GDの同一形状で色彩のみが相違する6種類のハートカラビナキーチェーンと,同目録<ロ号物品>記載の商品番号CR1019-BK,同CR1019-BL,同CR1019-GR,同CR1019-RD,同CR1019-SV,同CR1019-GDの同一形状で色彩のみが相違する6種類のミニハートカラビナキーチェーン(いずれもアルミニウム,メタル製のハート型の形状をしたアクセサリー。以下,イ号物品及びロ号物品を併せて「被控訴人商品」という。)を掲載して,少なくとも平成15年4月から現在まで被控訴人商品の輸入,販売及び販売の申出をしている(甲3,4,乙16)。
(5) 被控訴人商品の形態は,次のとおりである(甲12)。なお,数値は,上記(3)と同様である。
ア イ号物品の形態 (ア) 全体の態様 上部が連続する半双円形状で,半双円の両側を中間に向かう直線状の斜向辺とし下端を小円弧で連続したハート形で,一方の斜向辺の一部を開口可能とした作動杆としているものである。
(イ) 全体の縦横比 全幅(横幅)100に対して縦長が86.9である。
(ウ) 上部半双円の形状 半径25.4の半円を並べ,上部より20.5の位置で隣接円と小円弧状に連続させた形態である。
(エ) 斜向辺の構成態様 斜向辺は,内角が79度で,前記上部半双円の接線方向から延長されている。
(オ) 作動杆の構成態様 作動杆は,49.2の長さを有し,下方部分が枢結され,枠内方に回動して枠を開口する構成である。
(カ) 枠を構成する丸棒及び作動杆の直径は9.34である。
(キ) 色彩 着色が施されている。
(ク) 小リング体を備えている。
イ ロ号物品の形態 (ア) 全体の態様 上部が連続する半双円形状で,半双円の両側を中間に向かう直線状の斜向辺とし下端を小円弧で連続したハート形で,一方の斜向辺の一部を開口可能とした作動杆としているものである。
(イ) 全体の縦横比 全幅(横幅)100に対して縦長が88である。
(ウ) 上部半双円の形状 上部半双円部分は,半径25の半円を並べ,上部より21の位置で隣接円と小円弧状に連続させた形態である。
(エ) 斜向辺の構成態様 斜向辺は,内角が79度で,前記上部半双円の接線方向から延長されている。
(オ) 作動杆の構成態様 作動杆は,46の長さを有し,下方部分が枢結され,枠内方に回動して枠を開口する構成である。
(カ) 枠を構成する丸棒及び作動杆の直径は9.6である。
(キ) 色彩 着色が施されている。
(ク) 小リング体を備えている。
当事者の主張
1 控訴人の主張 (1) 本件登録意匠に係る物品の範囲 ア 意匠権の権利範囲について定める意匠法24条は,「登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真,ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。」と規定しているところ,同条の「願書の記載」とは,願書中の「意匠に係る物品」,「意匠に係る物品の説明」,「意匠の説明」の項に記載されている事項と解される。
出願人である岡島製作所は,願書の「意匠に係る物品の説明」欄に,「本願意匠に係る物品は,登山用具や一般金具としても使用される他,キーホルダーやチェーンの部品等の,装飾用としても使用されるものである」と記載して,「カラビナ」に装飾用として使用される物品が含まれることを明確にしているから,本件登録意匠に係る物品の範囲は,キーホルダーとして使用されるカラビナにも及ぶものである。
イ 意匠法施行規則の別表一(以下,単に「別表一」ともいう。)のいずれにも属しない物品について出願する場合に,「意匠に係る物品の説明」として上記のように記載することは,特許庁の意匠登録出願の願書及び図面の記載に関するガイドライン(乙7,以下「特許庁ガイドライン」という。)に解説されているところである。
岡島製作所は,特許庁ガイドラインに沿って,願書の「意匠に係る物品の説明」欄に,上記のとおり,「本願意匠に係る物品は,登山用具や一般金具としても使用される他,キーホルダーやチェーンの部品等の,装飾用としても使用されるものである」と記載して,「カラビナ」に装飾用として使用される物品が含まれることを明確にしており,登録審決においても,「その意匠は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものである」とされて登録されているから,本件登録意匠の権利範囲を定めるに当たっては,「意匠に係る物品の説明」欄の記載を参酌すべきであり,そうすると,本件登録意匠に係る物品の範囲は,キーホルダーとして使用されるカラビナにも及ぶことが明らかである。
ウ 「カラビナ」の用語は,小物バッグ,キーホルダー,ショルダーバッグ等といった種々の使用形態を備えた物品(甲18〜20)について普通に使用されているのみならず,被控訴人自身においても,「キーチェーン」(甲4,5)に「カラビナ」の用語を用いているのである。また,意匠登録関係においても,「滑車付カラビナ」(甲25),「送電線延線時の防護ネット用カラビナ」(甲26),「墜落防止帯用カラビナ」(甲27,28)といった登山用具以外の物品にも使用されているのであるから,「カラビナ」という名称の物品は,登山用具に限定されるものではなく,「リング体の一部がスプリング付開閉杆構造を備えている器具」という概念でとらえられる基礎製品というべきである。したがって,本件登録意匠は,願書の「意匠に係る物品」欄の「カラビナ」の記載と,「意匠に係る物品の説明」欄の記載から,「キーホルダーとして使用されるカラビナ」も本件登録意匠の権利範囲と解することに何の問題もない。
(2) 出願経過の参酌 ア 出願人の岡島製作所は,キーホルダーやアクセサリーの部品,カバン部品等として使用するための物品について,控訴人代理人弁理士近藤彰に意匠登録出願を依頼したが,単に「キーホルダー」,「ネックレス部品」,「チェーン部品」に用途を限定して出願すると,それ以外の物品について権利が及ばないおそれがあるので,本件に係る意匠登録出願(以下「本件出願」という。)において,「意匠に係る物品」欄を「カラビナ」とするとともに,願書の「意匠に係る物品の説明」欄に「本願意匠に係る物品は,登山用具や一般金具としても使用される他,キーホルダーやチェーンの部品等の,装飾用としても使用できるものである」と記載した。そして,岡島製作所は,出願から登録に至るまで,一貫して登山用具,一般金具としてもキーホルダー等の部品としても使用できる物品を対象としてきたものである。それにもかかわらず,出願から登録に至る過程において,審査官・審判官から一意匠一出願の原則を定める意匠法7条に違反しているとの指摘がなかったのであるから,出願人としては,物品の範囲を登山用具,一般金具としてもキーホルダー等の部品としても使用できる物品について出願したことが適切であると考えるのが当然であり,登録後になって,同条を根拠として意匠権の対象物品を限定することは,出願人が分割,補正によって対応する機会を奪う結果となるから,登山用具に限定解釈することは許されないものというべきである。
イ 原判決は,「『意匠登録出願は,経済産業省令に定める物品の区分により意匠ごとにしなければならない。』(意匠法7条)と定められており,1個の物品につき1出願をすべきところ,同法施行規則において,『キーホルダー』という物品名が明示されていることからすると,『キーホルダー』が1個の物品であり,カラビナとは別個の物品であると認められるから,本件登録意匠の出願においては,キーホルダーという物品を対象としたのではなく,カラビナという物品を対象としたものと解するのが相当である。」(同14頁15行目〜21行目)と判断し,意匠法7条を根拠として「キーホルダーとして使用されるカラビナ」を除外している。
しかし,意匠法7条は,意匠に係る物品として物品の包括的名称を採用すると,その意匠の権利範囲が不明確となるために整理上又は手続の便宜上の必要から発した手続上の注意規定であって,意匠の権利範囲を決定するための実体的規定ではないと解すべきである。
すなわち,意匠法における物品は,無体物としての意匠に関するものであるから,個々の物がその独自の存在性を失うことなく集合した物であっても,それらの物に形態全体を一体的に支配することが可能である以上,それは一体の客体となり得ることを意図したものと解釈すべきである。そして,意匠法7条は,一意匠一出願主義の前提の下に,その権利の内容,そこに含まれる意匠を明確に了解する便を得るための便宜上若しくは整理上の必要から発したものであって,本質的ないし内部的理由により発したところとは異なる手続上の要請によるものである。同条は,物品の区分の具体的規定を経済産業省令に委ね,省令は,その物品の区分を具体的物品の名称をもって表に挙げ例示しているのであるから,意匠法施行規則の物品の区分はあくまでも例示である。そして,特許庁ガイドライン(乙7)には,「物品の区分」とは別に「意匠分類」があり,約7000の「物品名」が掲載されており,「【意匠に係る物品】の欄を記載するにあたっては,『別表1』の『物品の区分』と併せて『意匠分類』もぜひ参考にしてください。」(4頁)と明記されている。すなわち,「物品の区分」の物品名が例示的であり,例示されていない物品が存在することは法の予定しているところである。
意匠登録を受けようとする者が,物品の区分に記載されていない物品名で,創作した意匠の保護を求めて出願する場合に,取引市場において採用されている一般名称を採用することは当然であり,物品の区分に例示されていない名称を物品名とする場合に,当該物品の範囲を明確にするために「意匠に係る物品の説明」を記載している。
ウ 被控訴人は,意匠法7条に基づく別表一の物品区分を「意匠に係る物品」の欄に記載すべきであるとし,そのことから,逆に「意匠に係る物品の説明」は,物品の理解のために補助的に記載されるものであるとし,「意匠に係る物品の説明」は,新規物品物品の区分にない物品名を記載する場合に,願書の「意匠に係る物品」欄に記載された物品の理解のために補助的に記載されるものであり,これによって,出願に係る物品本来の用途・機能が変更されたり,拡張されたりすることはない旨主張する。
しかし,上記イのとおり,別表一に例示されていない物品が存在する場合に,「物品の区分」として取引市場において採用されている一般名称を採用することは当然であり,その物品の範囲を明確にするために「物品の説明」の記載があるのである。被控訴人の主張は,物品の区分を根拠にして,そこから逆に「意匠に係る物品の説明」は「補助的に記載されるもの」とするのであって,妥当ではない。
エ 包袋禁反言の原則に違反しないことについて 被控訴人は,控訴人が,本件登録意匠に係る物品の範囲は,キーホルダーとして使用されるカラビナにも及ぶと主張することについて,包袋禁反言の原則に違反する旨反論するが,失当である。すなわち,出願人である岡島製作所は,願書の「意匠に係る物品の説明」欄に,「本願意匠に係る物品は,登山用具や一般金具としても使用される他,キーホルダーやチェーンの部品等の,装飾用としても使用されるものである」と記載しており,この「意匠に係る物品の説明」は補正されずに登録されているから,当然に,その対象は,願書に記載された「意匠に係る物品の説明」で特定されるカラビナであり,登山用具としても,また,一般金具やキーホルダー,チェーン部品としても使用されるカラビナを意味するものである。このように,出願人は,本件登録意匠の権利範囲を「登山用具」に限定したり,他の用途のカラビナを除外したりしていないから,包袋禁反言の原則に反するということはない。
(3) 本件登録意匠の権利範囲と被控訴人商品 以上のとおり,本件登録意匠は,登山用具に特定されたカラビナだけではなく,キーホルダー等に使用される物品も含めて権利取得されたものであるから,被控訴人商品は本件登録意匠の意匠の権利範囲に含まれる。
(4) 本件登録意匠と被控訴人商品の形態の類似性 ア 上記第2の2(3)の本件登録意匠の構成態様と同(5)の被控訴人商品の形態を対比すると,全体がカラビナ構造を備えたハート型形状をしている点で共通し,全体の縦横比,上部半双円の形状,斜向辺の構成態様,作動杵の構成態様及び太さ比率で酷似するが,被控訴人商品が色彩を有している点及び付属リングを備えているのに対して,本件登録意匠にこれらがない点で相違する。
イ しかし,本件登録意匠は,色彩が特定されていない形状のみで構成される意匠であるから,被控訴人商品が色彩を有していたとしても,本件登録意匠との類否判断に影響を与えず,また,小リング体が付属している点についても,小リング体がカラビナ本体(枠体)から分離されるので,本件登録意匠との類否判断に影響を与えない。そうすると,本件登録意匠と,小リング体を除いた被控訴人商品の形態は,全体の構成態様はもとより,細部の具体的な構成態様においても酷似といえるほど共通しており,被控訴人商品が本件登録意匠に類似することは明らかである。
(5) 控訴人の損害 ア 被控訴人は,本件登録意匠に類似する被控訴人商品を1か月平均1000個販売し,1個当たり350円を下らない利益を挙げたから,平成15年4月から平成16年4月までの間に455万円(350円×1000個×13=4,550,000円)の利益を得ている。
イ 岡島製作所ないし控訴人は,被控訴人の本件意匠権侵害により,意匠法39条2項に基づき,被控訴人の得た上記利益額と同額の損害を被った。岡島製作所は,控訴人に本件意匠権を譲渡するまでの間に生じた自己の損害賠償請求権を控訴人に譲渡し,平成16年5月19日到達の書面により,その旨被控訴人に通知した。
(6) 請求 よって,控訴人は,本件意匠権に基づき,被控訴人に対し,被控訴人商品の輸入,販売,販売の申出の差止め及び同商品の廃棄,並びに,本件意匠権の侵害による損害賠償として455万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年6月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 被控訴人の主張 (1) 本件登録意匠に係る物品の範囲について ア 「カラビナ」とは,「岩登り用具。ハーケンとザイルとを連絡するための金属製の輪。一部分が開閉できる。」(広辞苑第5版,乙10)と記載されているように,登山用具であり,鋼鉄その他の金属を材料とする一定の強度が必要不可欠な登山用具であり,用途・機能がアクセサリー(装身具)であるキーホルダーとは全く異なるものである。したがって,本件意匠権に係る物品の範囲は,一定の強度が必要とされる物品であるところの,登山用具である「カラビナ」について成立したものであり,本件意匠権の権利範囲は,登山用具である「カラビナ」に限定されるものである。
願書の「意匠に係る物品」欄に記載された「カラビナ」は,これが登山用具としての用途を有する「カラビナ」と理解することで,初めて,意匠法7条に従って「カラビナ」を他の物品区分と明確に区分し,また,同法24条に従って,予定する物品面と形態面による登録意匠の権利範囲の確定を合理的に達成することができるのである。
イ 控訴人は,岡島製作所が,特許庁ガイドラインに沿って,願書の「意匠に係る物品の説明」欄において,「カラビナ」に装飾用として使用される物品が含まれることを明確にしており,登録審決も,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものとして登録を認めたことを理由に,本件登録意匠の権利範囲を定めるに当たっては,「意匠に係る物品の説明」欄の記載を参酌すべきである旨主張する。
しかし,別表一の物品の区分に記載された物品名は,用途・機能で区別されるものであり,当該物品の区分に該当するものが存在しない場合には,当該意匠を物品の区分と同程度の区分による物品の区分を願書の「意匠に係る物品」欄に記載しなければならず(同別表の備考欄二),この場合,願書の「意匠に係る物品の説明」欄にその物品の使用の目的,使用の状態等物品の理解を助けることができるような説明を記載することを求めている(意匠法施行規則2条様式第2の備考39)。すなわち,「意匠に係る物品の説明」は,新規物品物品の区分にない物品名を記載する場合に,願書の「意匠に係る物品」(出願に係る物品)の欄に記載された物品の理解のために補助的に記載されるものであり,これによって,出願に係る物品本来の用途・機能が変更されたり,拡張されたりすることは許されないのである。
本件についてみると,本件登録意匠の「カラビナ」という物品名は,登山用具という用途・機能によって特定されており,明確である。したがって,本件出願の意匠に係る物品の説明の「本願意匠に係る物品は,登山用具や一般金具として使用される他,キーホルダーやチェーンの部品等の装飾用としても使用されるものである。」という補助的説明によって用途・機能が登山用具である「カラビナ」に対する意匠権の範囲がキーホルダーやアクセサリーにまで拡大されるわけではない。そのように解釈すべきであるからこそ,本件出願は,審査,審判の過程において,一意匠一出願の原則(意匠法7条,17条3号)に違反するとされなかったのである。上記補助的説明は,複数の異なる意匠を想起させる不適切な記載とされる可能性もあり,「カラビナ」の理解を助けるために記載されたものであるから,「登山用具であるカラビナそれ自体を用途の異なる一般金具,キーホルダー,チェーンの部品等にも使用出来る。」という意味に解釈するほかない。
ウ 控訴人は,「カラビナ」という名称の物品は,登山用具に限定されるものではなく,「リング体の一部がスプリング付開閉杆構造を備えている器具」という概念でとらえられる基礎製品というべきである旨主張する。
しかし,意匠法における「物品」概念は,一般社会における自由な商品名称の使用によって変動するものではなく,また,本件意匠権は,控訴人が主張するような商品の「一般名称」に対して成立しているのではないから,一般名称として使用されているとの社会的事実を根拠として本件意匠権の権利範囲を論じることは失当である。
意匠権は,特定の用途・機能によって意味付けられた物品美的形態について成立するものであり,意匠権の権利範囲を画する物品は,用途・機能によって意味付けられるところの物品の名称によって特定されるため,意匠権の権利範囲である意匠に係る物品の同一性は,物品の用途・機能の相違によって判断されるべきものである。
「カラビナ」という用語がアクセサリーやキーホルダーその他に商業的に変形されて使用されているとしても,実体はアクセサリーやキーホルダーであってカラビナではないから,本件意匠権における「カラビナ」の権利範囲には何らの影響も及ぼさない。
(2) 出願経過の参酌について ア 控訴人は,出願人である岡島製作所は,出願から登録に至るまでの出願経過において,一貫して,登山用具としてもキーホルダーとしても使用できる物品を対象としてきたものであり,審査官・審判官からも意匠法7条に違反しているとの指摘はなかったとして,後に,同条を根拠として意匠権の対象物品を限定することは,出願人が分割,補正によって対応する機会を奪う結果となり,許されない旨主張する。
しかし,願書の記載内容を変更していなくとも,願書の記載の解釈が変わることは十分にあり得るのであり,何ら不合理ではない。典型的には,審査段階における意見書の記載によって審査対象についての審査官の解釈が修正され,また,審判段階においては,審判請求書の記載によって拒絶査定に係る審理対象についての審査官の解釈が審判官によって修正される。これらは,審査官,審判官が出願人の主張を理解することによって本来の出願内容を正しく把握した結果である。
本件において,岡島製作所は,意匠法施行規則の別表一に記載のない「カラビナ」という物品意匠に係る物品として出願することにより権利範囲をあいまいにし,かつ,願書の「意匠に係る物品の説明」欄で権利範囲をできるだけ広く解釈できるようにする意図があったものと推測される。カラビナの物品面における不確実さは,審判段階において,岡島製作所が審判段階で提出した審判請求書の主張を,審判官が意匠の登録要件に沿うように正しく把握することによって,ようやく解消され,その結果,拒絶査定が撤回されて本件意匠権の登録が認められたのである。
イ 控訴人は,原判決が意匠法7条の解釈を誤っていると主張する。しかし,同条の規定するとおり,意匠登録出願は,意匠法施行規則で定める物品の区分(別表一の物品の区分欄に記載の物品名)により,意匠ごとにしなければならないものであり,同条が,意匠に係る物品として物品の包括的名称を採用すると,その意匠の権利範囲が不明確となるために整理上又は手続の便宜上の必要から発した手続上の注意規定であるとする控訴人の主張は失当である。
ウ 包袋禁反言の原則の違反 控訴人が被控訴人に対し,本件登録意匠に係る物品の範囲がキーホルダーに対しても及ぶと主張することは,包袋禁反言の原則に照らし許されない。
すなわち,本件出願の出願人である岡島製作所は,平成12年5月2日付け意見書(甲11の4)及び拒絶査定不服審判請求書(甲11の6)において,「本願意匠に係る物品であるカラビナは,一般的にそのほとんどが長円形状若しくは瓢箪形状を採用しており」,「それ以外の形状は,機能上の理由により,前記形状を基に若干の変更を加えた程度のものしかありません。」,「ハート形自体はありふれていますが,今まで意匠的創作を施されることがなかったカラビナにおいて,そのハート形を採用したという点が,容易に創作することができない点であります。」,「本願意匠はカラビナとしては特殊な形状であり」などと主張していたが,アクセサリーやキーホルダーが一般に長円形状若しくは瓢箪形状を採用しているといえないことはいうまでもないことであり,長円形状若しくは瓢箪形状以外の形状が機能上の理由により採用されにくいことは登山用具としてのカラビナの特徴であり,アクセサリー類のキーホルダーにおいて形状が制約される必然性は極めて低く,登山用具としてのカラビナは,安全性・実用性が第一であることから,デザイン的な要求は後退し,ハート形という実用性を欠き,機械的強度的に極めて不利な装飾的な形状は採用されなかったのであるから,岡島製作所は,登山用具としての「カラビナ」を前提とした主張をして本件登録意匠の登録を得たものといわざるを得ない。
ところが,岡島製作所から本件意匠権の譲渡を受けた控訴人は,被控訴人に対し,「キーホルダー等に使用される物品も含めて権利を取得したものである。」と主張しているが,これは,岡島製作所が権利成立過程で前提としていた「カラビナ」とは登山用具であるとの主張に反するものであり,包袋禁反言の原則に照らし許されないものである。
(3) 本件登録意匠の権利範囲と被控訴人商品について 本件登録意匠は,以上のとおり,登山用具であるカラビナを物品の区分として成立したものであるところ,被控訴人商品はキーホルダーであるから,本件意匠権の効力は及ばない。
(4) 本件登録意匠と被控訴人商品の形態の類似性について 控訴人のこの点に関する主張は争う。
(5) 控訴人の損害について 控訴人のこの点に関する主張は争う。
当裁判所の判断
1 本件登録意匠に係る物品について (1) 控訴人は,本件登録意匠に係る物品の範囲は,キーホルダーとして使用されるカラビナにも及ぶと主張する。
そこで検討すると,本件登録意匠に係る意匠公報(甲2)には,「意匠分類 E3-00」,「意匠に係る物品 カラビナ」と記載され,本件出願の願書(甲11-1)の「意匠に係る物品」欄に「カラビナ」,「意匠に係る物品の説明」欄に,「本願意匠に係る物品は,登山用具や一般金具として使用される他,キーホルダーやチェーンの部品等の,装飾用としても使用されるものである。」と記載されているところ,分類リスト・(現行)日本意匠分類・Dターム(乙17)によれば,「意匠分類 E3-00」は,「その他の運動競技用品」を表示する意匠分類記号であり,この分類に含まれる物品として「ピッケル」,「ハーケン」,「ハングライダー」,「応援具」等が挙げられているが,「カラビナ」は挙げられていないことが認められる。また,意匠法施行規則の別表一の「二六 運動競技用品」の区分中「その他の運動競技用品」の欄には,「体操用鉄棒,ピッケル,ハーケン,バーベル,ダンベル,エクスパンダー,猟銃,空気銃」が挙げられており,「カラビナ」の記載はないことが明らかである。
一般に,「カラビナ」(Karabiner)とは,「岩登り用具。ハーケンとザイルとを連絡するための金属製の輪。一部分が開閉できる。」(広辞苑第5版,乙10),「岩登り用具の一。岸壁に打ち込んだハーケンとザイルを連絡する鋼鉄製の輪」(大辞林第2版)を意味するものとされており,その他の証拠(乙2,3,9,11〜13)を併せ考えると,「カラビナ」は,上記の意味の物品として一般名称化しているものと認められる。
そうすると,本件登録意匠に係る意匠公報に,「その他の運動競技用品」を意味する「意匠分類 E3-00」の記載があることとあいまって,本件登録意匠に係る物品の「カラビナ」とは,「ピッケル」,「ハーケン」と同様に岩登り用具の一つであり,岩登り用具ないし登山用具として使用される「カラビナ」を意味するものと解するのが相当である。
(2) 控訴人は,岡島製作所は,特許庁ガイドラインに沿って,願書の「意匠に係る物品の説明」欄に,「本願意匠に係る物品は,登山用具や一般金具としても使用される他,キーホルダーやチェーンの部品等の,装飾用としても使用されるものである」と記載して,「カラビナ」に装飾用として使用される物品が含まれることを明確にしており,登録審決においても,「その意匠は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものである」とされて登録されているから,本件登録意匠の権利範囲を定めるに当たっては,「意匠に係る物品の説明」欄の記載を参酌すべきであるとして,本件登録意匠に係る物品の範囲は,キーホルダーとして使用されるカラビナにも及ぶ旨主張する。
しかし,意匠法7条は,「意匠登録出願は,経済産業省令に定める物品の区分により意匠ごとにしなければならない。」と規定し,これを受け,意匠法施行規則7条は,「意匠法第7条の経済産業省令で定める物品の区分は,別表第一の物品の区分の欄に掲げるとおりとする。」と規定し,別表第一では,商品を大きく「製造食品及び嗜好品」,「衣服」,「服飾品」等65項目に分類した上,それぞれを更に,例えば,「製造食品及び嗜好品」については「製造食品」「嗜好品」に,「衣服」については「下着」,「寝衣」,「洋服」,「和服」,「エプロン等」に,「服飾品」については,「靴下等」,「帽子等」,「ネクタイ,ハンカチ等」,「帯等」,「その他の服飾品」に分類し,それぞれの分類項目の下に,より具体的な物品(これが「物品の区分」である。)を例示列挙しており,これらの分類の仕方によると,別表一は,物品を,物品の使用の目的,使用の状態等によって区分しているものと理解することができる。
意匠に係る物品」の記載について,別表一の備考1では,「この表の下欄に掲げる物品の区分に属する物品について意匠登録出願をするときは,その物品の属する物品の区分を願書の『意匠に係る物品』の欄に記載しなければならない。」とし,備考2で,「この表の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは,その下欄に掲げる物品の区分と同程度の区分による物品の区分を願書の『意匠に係る物品』の欄に記載しなければならない。」としており,また,意匠法施行規則2条1項によれば,願書の記載は様式第二により記載されなければならないと規定されているところ,様式第二の備考39において,「別表第一の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは,『【意匠に係る物品の説明】』の欄にその物品の使用の目的,使用の状態等物品の理解を助けることができるような説明を記載する。」と規定している。
そうすると,登録意匠における物品の範囲は,「意匠に係る物品」の欄に記載された物品の区分によって確定されるべきものであり,「意匠に係る物品の説明」の欄の記載は,「意匠に係る物品」の欄に記載された物品の理解を助けるためのものであるから,物品に関する願書の記載は,願書の「意匠に係る物品」に記載された物品の区分によって確定されるのが原則であり,「意匠に係る物品の説明」の記載によって物品の区分が左右されるものではない。
本件についてみると,本件登録意匠の願書の「意匠に係る物品」欄には「カラビナ」との記載があり,「意匠に係る物品の説明」欄には「本願意匠に係る物品は,登山用具や一般金具として使用される他,キーホルダーやチェーンの部品等の,装飾用としても使用されるものである。」との記載があることは,上記(1)のとおりである。
「カラビナ」は,別表一の物品の区分の中に含まれていないから,備考2の「この表の下欄に掲げる物品の区分のいずれかにも属さない物品」に該当するところ,上記(1)のとおり,「カラビナ」は,登山用具の一つとして一般名称化しているから,願書の「意匠に係る物品」欄に「カラビナ」と記載している本件出願においては,第26類の「運動競技用品」の「その他の運動競技用品」中の「ピッケル」,「ハーケン」といった物品の区分と同程度の区分による物品の区分として明確に把握することができるというべきである。
ところで,上記のとおり,「意匠に係る物品の説明」欄には「本願意匠に係る物品は,登山用具や一般金具として使用される他,キーホルダーやチェーンの部品等の,装飾用としても使用されるものである。」との記載があるが,意匠の物品名は,もっぱら「意匠に係る物品」によって定められるのであって,「意匠に係る物品の説明」は,その物品の使用の目的,使用の状態,等物品の理解を助けることができるような説明を記載するものであるから,上記記載は,例えば,登山用具のカラビナがキーホルダーやチェーンの部品等の,装飾用として使用されることがあるとの意味のない説明をしているにすぎないものと理解するほかない。
(3) また,控訴人は,別表一のいずれにも属しない物品について出願する場合に,「意匠に係る物品の説明」として上記のように記載することは,特許庁ガイドラインに解説されている旨主張する。
ア そこで,特許庁の意匠登録出願の願書及び図面の記載に関するガイドライン(乙7,平成16年1月)についてみると,次のとおりの記載がある。
(ア) 「第2章2.【意匠に係る物品の説明】の欄の記載について」の「(1) 基本的な説明」 「意施2条1項に定める様式2備考39には,『別表第一の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは,願書の「【意匠に係る物品の説明】」の欄にその物品の使用の目的,使用の状態等物品の理解を助けることができるような説明を記載する。』とあります。この【意匠に係る物品の説明】の欄は,新規な物品を意匠登録出願するときに物品の使用の目的,使用の状態等を記載するために設けられたものですが,物品に関する一般的な説明をする際にも使用されています。また,多機能物品の場合も,必要に応じて願書の【意匠に係る物品の説明】の欄にその物品の使用方法等の説明を記載すべきことは,第2章 願書記載のガイドライン(基本編)1.【意匠に係る物品】の欄の記載について (3)『物品の区分』についての記載例 A物品が多機能物品である場合に 記載したとおりです。」 (イ) 「第2章 願書記載のガイドライン(基本編)1.【意匠に係る物品】の欄の記載について」の「(3)『物品の区分』についての記載例」の「@『物品の区分』が『別表1』の下欄に見当たらない場合」 「例えば『サクソホーン』という管楽器の意匠を出願する場合,『物品の区分』及び【意匠に係る物品の説明】の欄の記載について考えてみましょう。『別表1』の『物品の区分』には,管楽器等としてトランペット,クラリネット,たて笛等が掲載されています・・・が,『サクソホーン』は,載っていません。このように,『別表1』の『物品の区分』のいずれにも属さない物品については,『別表1』の『物品の区分』と同程度の区分による『物品の区分』を記載することとなっています・・・。そこで『楽器』や『管楽器』とした場合はどうか,他の『物品の区分』と比較してみると総括的名称であり適当でないことがわかります・・・。」 (ウ) 「A 物品が多機能物品である場合」 「物品が多機能物品である場合は,『物品名』が『別表1』の下欄の『物品の区分』に掲載されていないことが多く,新たに考えることが必要になります。この場合は以下を参考にしてください。多機能物品の『物品名』の多くは,それに含まれる複数の物品(機能)の『物品名』を一つにまとめたものとしています。このような場合は,それぞれの物品(◯◯と××)を『◯◯付き××』のように表わすのが適当です。◯◯と××の表わし方(順序)については,どちらの形状または機能が主であるかを判断して,主となる方を後にして表わします。三以上の機能を有する物品の場合にも同様に主となる方を最後にして『△△,◯◯付き××』のように表わします。しかし,『△△兼◯◯兼××』とか『△△付き◯◯付き××』といった表現は適当ではありません。」 イ 特許庁ガイドラインの上記記載によると,多機能物品の場合,必要に応じて願書の【意匠に係る物品の説明】の欄にその物品の使用方法等の説明を記載すべきことは明らかであるが,総括的名称は適当でないとされており,また,「△△兼◯◯兼××」とか「△△付き◯◯付き××」といった表現も適当ではないとされているから,登山用具と一般金具と装身用具を包含する総括的名称としての「カラビナ」の記載が妥当でないことは明らかである。
付言すると,そもそも,本件登録意匠物品が,実際には,「意匠に係る物品の説明」欄に記載されている多機能物品であるとすれば,「意匠に係る物品」欄に「カラビナ」と記載すべきでなく,上記ガイドラインに従えば,「キーホルダー用カラビナ」などとすべきであったものである。
いずれにせよ,控訴人の上記主張が採用できないことは,明らかである。
(4) 次に,控訴人は,「カラビナ」という名称の物品は,登山用具に限定されるものではなく,「リング体の一部がスプリング付開閉杆構造を備えている器具」という概念でとらえられる基礎製品というべきである旨主張する。
証拠(甲25〜28)によれば,「滑車付カラビナ」,「送電線延線時の防護ネット用カラビナ」,「墜落防止帯用カラビナ」という物品名の意匠について意匠権の設定登録がされていることが認められる。そして,上記物品名から明らかなとおり,「滑車付」,「送電線延線時の防護ネット用」,「墜落防止帯用」という物品の使用の目的,使用の状態等を示す語句と一体となっているものである。このことは,意匠登録実務において,「カラビナ」の語が,上記の使用の目的,使用の状態等の連結具として,いまだ一般名称化されておらず,使用の目的,使用の状態等を示す語句と一体となって初めて物品が明りょうになることを示しているものというべきである。
また,証拠(甲18〜20)によれば,小物バッグ,キーホルダー,ショルダーバッグの連結具に,「カラビナ」の名称が使用されていることが認められるが,いずれもファッション性の高い商品にアクセサリーの一部として使用されているものであって,「リング体の一部がスプリング付開閉杆構造を備えている器具」という概念でとらえられる基礎製品として一般名称化しているとはいい難い。
さらに,被控訴人は,その販売等している被控訴人商品を「ハートカラビナキーチェーン」と称しているが,商品名の中に「カラビナ」の語が含まれているのみであって,独立した物品名となっているわけではない。
その他,本件全証拠を検討しても,「カラビナ」が「リング体の一部がスプリング付開閉杆構造を備えている器具」という,いわば上位概念でとらえられる物品として一般名称化していることを認めるに足りる証拠を見いだすことはできない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用の限りでない。
2 出願経過の参酌について (1) 控訴人は,出願人である岡島製作所は,出願から登録に至るまで,一貫して登山用具,一般金具としてもキーホルダー等の部品としても使用できる物品を対象としてきたものであり,審査官・審判官からも意匠法7条に違反しているとの指摘がなかったのであるから,出願人としては,物品の範囲を登山用具,一般金具としてもキーホルダー等の部品としても使用できる物品について出願したことが適切であると考えるのが当然であり,登録後になって,同条を根拠として意匠権の対象物品を限定することは,出願人が分割,補正によって対応する機会を奪う結果となるから,登山用具に限定解釈することは許されない旨主張する。
そこで,検討すると,証拠(甲11の1ないし7)によれば,次の事実が認められる。
ア 岡島製作所は,平成11年8月31日付けで本件出願をしたが,その願書の「意匠に係る物品」欄には「カラビナ」,「意匠に係る物品の説明」欄には「本願意匠に係る物品は,登山用具や一般金具として使用される他,キーホルダーやチェーンの部品等の,装飾用としても使用されるものである。」との記載がされていた。
イ 審査官は,平成12年3月23日付けで,本件出願を意匠法17条の規定により拒絶すべきものとする旨の拒絶理由通知書を作成し,同月31日,岡島製作所に発送した。その理由は,「この意匠登録出願の意匠は,下記に示すように,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められますので,意匠法第3条第2項の規定に該当します。」というもので,下記として「本願の意匠は,『カラビナ』に係るものですが,単に,ありふれたハート形の環状の底部側の斜状部分に,この種意匠の属する分野において,例を挙げるまでもないほど極普通に見受けられる開閉金具を設けた程度に過ぎません。」と記載されていた。
ウ 岡島製作所は,審査官に対し,同年5月2日付けで意見書を提出した。
その意見書の内容は,「(1)本願の拒絶理由は,本願意匠が意匠法第3条第2項の規定により,登録を受けることができないというものでありますが,次に述べるように,本願意匠は独自の美感を備えた意匠であり,前記拒絶理由は妥当を欠くものと思料します。(2)本願意匠に係る物品であるカラビナは,一般的にそのほとんどが長円形状若しくは瓢箪形状を採用しており,それ以外の形状は,機能上の理由により,前記形状を基に若干の変更を加えた程度のものしかありません。拒絶理由では本願意匠を,ありふれたハート形に,カラビナにおいて普通にみられる開閉金具を設けたにすぎないとしています。しかし,ハート形自体はありふれていますが,今まで意匠的創作を施されることがなかったカラビナにおいて,そのハート形を採用したという点が,容易に創作することができない点であります。従いまして,本願意匠はカラビナとしては特殊な形状であり,充分に意匠的創作を施してありますので,登録されるべきものと思料します。」などというものであった。
エ 審査官は,同年6月19日付けで,上記意匠登録出願を同年3月23日付けで通知した理由により拒絶すべきものとするとの拒絶査定を作成し,同年6月23日,岡島製作所に発送した。拒絶査定の理由は,「意見書を提出され,本願の意匠は,カラビナにおいてハート形を採用した点が,容易に創作することができない点である旨主張されましたが,この意匠の属する分野において,やはり,ハート形は普通に見受けられることから,容易に創作をすることが出来たと認められますので,意見書の主張は採用することができません。」というものであった。
オ その後,岡島製作所は,拒絶査定不服の審判を請求した。その審判請求書の中で,「本願意匠が登録されるべき理由」及び「むすび」として,上記ウ(2)と同じ主張をした。
カ そして,上記拒絶査定に対する審判においては,平成14年7月11日,原査定を取り消し,本願の意匠を登録すべきものとする審決がされたが,その理由は,「本願は,平成11年8月31日の出願であって,その意匠は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものである。そして,本願の意匠について原査定の拒絶理由を検討するとその拒絶理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。」というものであった。
(2) 上記認定の事実によると,本件出願に係る審査及び審判段階において,審理の対象となった物品は「カラビナ」で区分される物品であり,それ以上のものでもそれ以下のものでもない。
上記のとおり,岡島製作所は,願書の「意匠に係る物品の説明」欄に「本願意匠に係る物品は,登山用具や一般金具として使用される他,キーホルダーやチェーンの部品等の,装飾用としても使用されるものである。」と記載しているが,審査及び審判段階で,その点については全く問題にされていないのであって,願書の「意匠に係る物品」欄の記載にかかわらず,その範囲をキーホルダーの領域に拡大することをうかがわせる記載は見当たらない。
そうすると,本件登録意匠は,出願から登録に至るまで,一貫して,登山用具としてもキーホルダーとしても使用できる物品を対象としてきたことを前提とする控訴人の主張は,その前提において既に誤っているというほかなく,採用の限りでない。
(3) 控訴人は,意匠法7条を根拠として,本件登録意匠に係る物品につき,「キーホルダーとして使用されるカラビナ」を除くことは許されない旨主張する。
しかし,意匠法7条は,「意匠登録出願は,経済産業省令で定める物品の区分により意匠ごとにしなければならない。」と規定し,いわゆる一意匠一出願の原則を採用することを明らかにしている。したがって,一つの意匠登録出願で,二つ以上の意匠の区分を包含する意匠の登録を求めることは許されていないことが明らかである。本件についてみると,「登山用具」,「一般金具」,「キーホルダーやチェーンの部品等の,装飾用としても使用されるもの」を包含する「カラビナ」を一つの出願で行うことは,同条に違反するものというべきである。同条が,意匠に係る物品として物品の包括的名称を採用すると,その意匠の権利範囲が不明確となるために整理上又は手続の便宜上の必要から発した手続上の注意規定であって,意匠の権利範囲を決定するための実体的規定ではないと解すべきである旨の控訴人の主張は,独自の見解であって,採用の限りでない。
(4) 控訴人は,意匠登録を受けようとする者が,物品の区分に記載されていない物品名で,創作した意匠の保護を求めて出願する場合に,取引市場で採用されている一般名称を採用することは当然であり,物品の区分に例示されていない名称を物品名とする場合に,当該物品の範囲を明確にするために「意匠に係る物品の説明」を記載するものである旨主張する。
しかしながら,上記1(2)のとおり,物品に関する願書の記載は,願書の「意匠に係る物品」に記載された物品の区分によって確定されるのが原則であり,「意匠に係る物品の説明」の記載によって物品の区分が左右されるべきものではないから,控訴人の上記主張は,独自の見解に基づくものであって,採用の限りでない。
3 本件登録意匠の権利範囲と被控訴人商品の類否について 控訴人は,本件登録意匠と,小リング体を除いた被控訴人商品の形態は,全体の構成態様はもとより,細部の具体的な構成態様においても酷似といえるほど共通しており,被控訴人商品が本件登録意匠に類似することは明らかであると主張するので,物品の類否の観点から,被控訴人商品が本件登録意匠の権利範囲に属するか否かについて検討する。
意匠法2条は,「この法律で『意匠』とは、物品(物品の部分を含む。第8条を除き、以下同じ。)の形状模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」と規定しており,意匠は「物品」の外観に関するものであるから,物品を離れての意匠はあり得ないところであって,「物品」とその「形状模様若しくは色彩又はこれらの結合」とは不可分一体の関係にあるものと解すべきである。一方,同法23条本文は,「意匠権者は,業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。」と規定するところ,「物品」については明示されていないが,「物品」とその「形状模様若しくは色彩又はこれらの結合」とが不可分一体であることは上記のとおりであり,また,同法3条1項3号の意匠についての「類似」の概念は,一般需要者に対して登録意匠と類似の美観を生じさせるものと解され(最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁参照),物品についての「類似」も,同法3条1項3号の意匠についての「類似」と同じ概念であるということができる。したがって,同法23条本文は,意匠権の効力が,「登録意匠及びこれに類似する意匠」についてその「登録意匠に係る物品と同一又は類似の物品」に及ぶことを定めたものというべきであり,意匠権の効力が及ぶ「登録意匠に係る物品と類似の物品」とは,登録意匠又はこれに類似する意匠物品に実施した場合に,当該物品の一般需要者において意匠権者が販売等をする物品と混同するおそれのある物品を指すものと解するのが相当である。
本件において,本件登録意匠に係る物品は,上記1(1)のとおり,岩登り用具ないし登山用具として使用される「カラビナ」であるのに対して,被控訴人商品は,上記第2の2(4)のとおり,アルミニウム,メタル製のハート型の形状をしたアクセサリーである。
そうすると,被控訴人商品と本件登録意匠に係る物品とは,物品の使用の目的,使用の状態等が大きく相違していることが明らかであり,たとえ,被控訴人商品の形態と本件登録意匠の構成態様とが似ているとしても,被控訴人商品の一般需要者が具体的な取引の場で被控訴人商品と本件登録意匠に係る「カラビナ」とを混同するおそれがあるとは認め難いから,被控訴人商品は,物品の類否の観点からも,本件登録意匠の権利範囲に属するとはいえず,本件意匠権の効力は及ばないものというべきである。
4 以上のとおり,被控訴人商品の販売等を行う被控訴人の行為が控訴人の本件意匠権を侵害するものということはできないから,控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 青柳馨
裁判官 宍戸充
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