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関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  実施料相当額 /  損害額 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 18356号 意匠権に基づく差止等請求事件
原告 アイエスティー株式会社
同訴訟代理人弁護士 寒河江孝允
同 武藤元
被告 アルインコ株式会社
同訴訟代理人弁護士 加藤幸江
同 中務尚子
同補佐人弁理士 藤川忠司
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/04/30
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録1及び2記載の各作業用足場を製造,販売してはならない。
2 被告は,原告に対し,金4707万円及びこれに対する平成14年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,別紙物件目録1,2記載の各作業用足場(以下それぞれ「被告製品1」,「被告製品2」といい,併せて「被告各製品」という。)を製造販売する被告の行為が,原告の有する意匠権を侵害すると主張して,被告の同行為の差止及び損害賠償を求めている事案である。
1 争いのない事実等(認定事実は適宜証拠を付した。) (1) 原告の意匠権 原告は,以下の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件登録意匠」という。)の共有持分を有している(甲1)。
意匠に係る物品 作業用足場 イ 登録番号 第903265号 ウ 出願日 平成4年9月21日 エ 登録日 平成6年4月22日 オ 登録意匠 別紙意匠公報(以下「本件公報」という。)記載のとおり (2) 被告は,業として,被告各製品を製造,販売している。
2 争点及び当事者の主張 (1) 被告各製品の意匠(以下,被告製品1の意匠を「被告意匠1」,被告製品2の意匠を「被告意匠2」といい,併せて「被告各意匠」という。)は,本件登録意匠に類似するか。
(原告の主張) ア 本件登録意匠の要部(特徴的部分) (ア) 本件登録意匠の特徴的部分は,以下のとおりである。
A 正面図において,開脚の状態で,足場となる水平板,左右に略105度の角度で脚部が存在し,この脚部は伸縮可能に上部と下部とに分かれる。水平板中央部片側に把手部が存在する。
B 平面図において,穴部の多数存在する横長方形状の足場,左右に末広がり状の脚部,脚部に2段の梯子状の桟がある。水平板中央部片側に把手部が存在する。
C 右側面図において,上部脚部のうち,上部脚部全体の約5分の1の長さに相当する部分が,上部脚部の上端から左右垂直に垂下し(以下「垂下部」という。),該垂下部に続き,左右外方にやや末広がりに台形状を形成し,該脚部には2本の桟部が横張りされ,下部脚部は足場の高さ調整をするため上部脚部に挿入可能となるべくやや細めに形成され,脚部最下端には補強部を設けてある。足場となる水平板左側には把手部が突起している。
D 底面図において,水平板の中央部を仕切っている,縦直線状の補強部材が渡り込まれている。
E 折畳状態の正面図,底面図において,脚部の4箇所の端部は,左右互いに対向する形となっている。
(イ) 公知意匠との関係 被告は,本件登録意匠の要部(特徴的部分)について,以下の公知意匠を考慮して認定すべきであると主張する。しかし,以下の公知意匠は本件登録意匠とは異なるから,要部認定に影響を及ぼさない。
a 乙1,2について 乙1,2の極東産業株式会社の「スライドダイバ」は,スライドステージ式であるため,水平板部分が,長方形状の囲い式収納板のような形状で,水平板の長手方向が,複数本の横長棒の集合によって形成される形状である。したがって,上記製品は,水平板の形状が本件登録意匠と全く異なる。また,同製品の脚部は,カタログ記載の写真図から見る限り,どのような形状か不明であるし,製作図面の平面図を見ると,上部脚と下部脚の形状が見つけ穴とロック金具(23)によるロック式の形状であるから,本件登録意匠形状とは異なる。
b 乙3について 乙3の考案は,梯子であるため,本件登録意匠の足場に相当する水平板が存在せず,水平板の形状が対比不可能である。また,乙3の図面の梯子と本件登録意匠とは,脚部の横桟,水平板と脚部との連結形状及び折り畳み状態の形状に大きな差異がある。
イ 被告各意匠の構成 被告各意匠の構成は,以下のとおりである。
(ア) 被告意匠1の構成 a 正面図において,開脚の状態で,足場となる水平板,左右に略105度の角度で脚部が存在し,この脚部は伸縮可能に上部と下部とに分かれる。
b 平面図において,穴部の多数存在する横長方形状の足場,左右に末広がり状の脚部,脚部に2段の梯子状の桟がある。
c 右側両図において,上部脚部の上端から左右外方にやや末広がりに台形状の脚部を形成し,該脚部には2本の桟部が横張りされ,下側桟部と上記脚部間には補強部材が設けられ,下部脚部は足場の高さ調整をするため中部脚部に挿入可能となるべくやや細めに形成され,脚部最下端には補強部が設けられている。
d 底面図において,足場横長方向に3本の補強線が設けられている。
e 折畳状態において,脚部の4箇所の端部は左右互いに対向している。
(イ) 被告意匠2の構成 a 正面図において,開脚の状態で,足場となる水平板,左右に略105度の角度で脚部が存在し,この脚部は伸縮可能に上部と下部に分かれる。水平板中央部に把手部が存在する。
b 平面図において,横長方形状の足場,左右に末広がり状の脚部,脚部に2段の梯子状の桟がある。足場中央部片側に把手部が存在する。
c 右側面図において,上部足場より足場側面の長さの5分の1程の長さに相当する部分が左右垂直に垂下し,該垂下部に続き,左右外方にやや末広がり台形状の脚部を形成し,該脚部には2本の桟部が横張りされ,下部脚部は足場の高さ調整をするため上部脚部に挿入可能となるべくやや細めに形成され,脚部最下端には補強部を設けてある。足場左側部に把手部が突起している。
d 底面図において,足場に横長方向に中央に1本の補強線が設けられている。
e 折畳状態において,脚部の4箇所の端部は左右互いに対向している。
ウ 本件登録意匠と被告各意匠との対比 被告各意匠の構成は,本件登録意匠の特徴的部分とほぼ同一であり,全体的観察において,本件登録意匠と被告各意匠は酷似する。
(ア) 被告意匠1との対比 a 正面図において,被告意匠1の形状は本件登録意匠とほぼ同一である。被告意匠1には,足場中央部に把手部がないが,把手部は本件登録意匠においても付随的部分にすぎず,対比上無視できる形状部である。
b 平面図において,被告意匠1の形状は本件登録意匠とほぼ同一である。被告意匠1には,足場中央部片側に把手部がないが,これは付随的部分にすぎず,対比上は無視できる部分である。
c 右側面図において,被告意匠1の形状は本件登録意匠とほぼ同一である。被告意匠1には,足場左側端部の把手部の突起がないが,この有無により美観に違いは生じない。
d 底面図において,渡込みの補強部材が本件登録意匠では縦にI字形であるのに対し,被告意匠1では3本の横長状の補強線がある点において相違するが,同相違点は,通常看者の目を引くところではなく,意匠としては,些細な部分として無視できる程度の違いである。
e 折畳状態において,被告意匠1の形状は本件登録意匠とほぼ同一である。
(イ) 被告意匠2との対比 a 正面図において,被告意匠2の形状は本件登録意匠とほぼ同一である。
b 平面図において,被告意匠2の形状は本件登録意匠とほぼ同一である。被告意匠2においては足場平面には穴部が存在せず,本件登録意匠においては足場平面に多数の穴部が存在するが,穴部の有無はヴァリエーションの範囲内であって,意匠の対比上,両者が類似することを左右するものではない。
c 右側面図において,被告意匠2の形状は本件登録意匠とほぼ同一である。
d 底面図において,渡込みの補強部材が本件登録意匠では縦にI字形であるのに対し,被告意匠2では横長方向に1本の補強線であるとの点において相違するが,同相違点は,通常看者の目を引くところではなく,意匠としては,些細な部分として無視できる程度の違いである。
e 折畳状態において,被告意匠2の形状は,本件登録意匠とほぼ同一である。 (被告の反論) ア 本件登録意匠の要部(特徴的部分)について (ア) 認否 原告が本件登録意匠の特徴と主張する部分は,いずれも本件登録意匠に係る物品である「作業用足場」の基本的な構成であって,その実質的機能を確保するために不可欠な形状であり,また,いずれも本件登録意匠の出願前に公知となっている。したがって,同部分は,意匠の要部として看者の注意を引く部分とはいえない。
また,本件登録意匠の水平板には多数の「小孔」は存在しない。本件公報記載のA-A断面図及びB-B断面図によれば,水平板上の模様は「穴部」ではなく,「上方に山形に凸な平面視円形の突起」のみから形成されているというべきである。
(イ) 反論 本件登録意匠の特徴は,以下のとおりである。
a 水平板について (a) 水平板の板面に多数の突起と平坦面とが形成され,これら多数の突起と平坦面が本件登録意匠の平面図に示す形状ないし模様からなる。
(b) 水平板の前側縁部の垂下板部に平面視で略扁平U字状に突出した全体に同じ厚みの帯板状の把手が形成されている。
b 脚部支柱について (a) 前後一対の脚部支柱は,側面視において,その上部側途中でくの字状に湾曲し,該湾曲点から上側が垂直部となり,それより下側が下部に広がるような末広がり台形状の傾斜部を呈する形状からなる。
(b) 伸縮調整部材の表面には円板状のつまみが大きく突出して形成されている。
c 水平板と一対の脚部支柱とを連結する連結部分について (a) 水平板の端板端面に横方向に突出して前後一対の脚部支柱が突設されており,これによって平面図(平面視)において,水平板の端板端面と前後一対の脚部支柱とその上部横桟とに囲まれて大きな空間部を形成している。
(b) 水平板と脚部支柱とを連結するブラケットは,その外周縁が角張った直線状外周縁に形成され,水平板の端板端面,脚部支柱の上端面及び両ブラケットの角張った外周縁とによって全体として直線で統一されている。
(c) 水平板と一対の脚部支柱との連結部分を覆うブラケットは,その周縁全域が角張った直線形状に形成され,全体として内側に大きく突出した略平行四辺形のブラケットを形成している。
イ 被告各意匠の構成 被告各意匠の構成は,以下のとおりである。
(ア) 被告意匠1の構成 a 足場となる平面視長方形状の水平板101の左右両端部に脚部102,102が取り付けられている。
b 脚部102は,前後一対の脚部支柱103,103からなり,脚部支柱103は水平板101側に取り付けられる径の大きな上部支柱104と,上部支柱104にスライド自在に嵌合される径の小さな下部支柱105とからなる。
c 右側面図及びA―A断面図に示すように,前後一対の脚部支柱103,103の上部支柱104の中間部と下端部には前後方向に横桟106,107が取り付けられている。
d 上部支柱104の下端部と下端部の横桟107とのコーナー部には正面視三角形状の伸縮調整部材108が取り付けられている。
e 前後一対の脚部支柱103,103は,正面視において水平板101に対し略105度の角度で起立するようになっており,またその起立状態から水平板101の裏側に折り畳まれるようになっている。
f 脚部102を形成する前後一対の脚部支柱103,103は,右側面図及びA―A断面図に示すように,側面視において,その上端部127から下端部まで直線状に形成され,その上端部127を起点として,下部が広がるような末広がり台形状に形成されている。
g 折畳状態の正面図,平面図及び底面図に示すように,前後一対の脚部支柱103,103の折畳状態においては,左右の脚部支柱103,103は互いに重なることがなく,互いの端具133,133が突き合わせ状態となっている。
h 平面視長方形状の水平板101の左右長手方向幅と前後方向幅は3.5対1の割合に形成され,該水平板101の板面には,平面図及びC-C端面図に示すように,表裏に貫通する多数の径の大きな円形穴109と径の小さな円形穴110が左右長手方向及び前後幅方向に略交互に,かつ,穴列の位相が1/2ピッチずつずれて千鳥足状に形成されており,このうち径の大きな円形穴109はC-C端面図に示すように水平板板面より若干盛り上がって形成されている。
i 平面図に示すように,水平板101の左右長手方向両端部付近には水平板板面の全体の略20%が円形穴109,110の設けられていない平坦面111に形成され,平坦面111の前後方向両端部付近に,径の小さい円形穴110よりも径の若干大きな円形穴112がそれぞれ1個ずつ形成されている。
j 水平板101の板面には,平面図及びC-C端面図に示すように,長手方向に沿う3条の細い突条対113が形成されている。
k 水平板101の長手方向に沿う前後両側縁部には,正面図及びC-C端面図に示すように,下向きに垂下する垂下板部114が一体に形成され,垂下板部114の上縁部は水平板板面より上方に突出する細い側縁突条115が形成されている。
l 水平板101の板面より上方に突出する径の大きい円形穴109,3条の突条対113及び側縁突条115のそれぞれの突出量は同一に形成されている。したがって,水平板101に形成されている径の大きな円形穴109は,水平板板面から若干もりあがっているが,正面図及び背面図から明らかなように,上記の突条対113と側縁突条115に遮られて,正面視及び背面視において,円形穴109は現れない。
m 水平板101の裏面側には,底面図及びC―C端面図に示すように,前後幅方向中央部に幅広な補強リブ116が,その前後幅方向に間隔をおいて幅狭な補強リブ17がそれぞれ長手方向に平行に形成されている。
n 水平板101の左右長手方向両端部には,表面にアールをつけた湾曲面119を備えた端板120が設けられ,該端板120はE-E拡大図に示すように上部表面が湾曲面119を形成し,下部底面が平坦面121を形成し,内部を中空部122となっている略扇形状の中空型材によって形成されている。なお,平面図及び右側面図に示すように,湾曲面119の表面には前後方向に向く複数の筋線123が形成されている。
o 前記端板120の前後両端部には,正面図,背面図,特に,D-D拡大図に示すように,前記中空部122を塞ぐようにして,上縁部が端板120の湾曲面119と同じアールをつけた湾曲縁124となったブラケット125が取り付けられている。該ブラケット125には鍵穴状の貫通孔126が形成されている。したがって,水平板1の左右長手方向両端部は,表面にアールをつけた湾曲面119を備えた端板120と,上縁部に端板120の湾曲面119と同じアールをつけた湾曲縁124を備えたブラケット125とによって,稜線で統一された形状となっている。
p 前後一対の脚部支柱103,103は,その起立状態では,E-E拡大図及びD-D拡大図に示すように,その上端部127が前記水平板両端部の端板120の下部平坦面121に略当て付けられ,脚部支柱103,103の外側面128が端板120の湾曲面119に略面一に沿うよう形成されている。
q 前後一対の脚部支柱103,103の上部正面には,正面図,背面図,特にD-D拡大図に示すように,前記端板側ブラケット125の湾曲縁124に側縁129が面一に沿うようブラケット130が取り付けられ,該ブラケット130には特異な形状の正面視略扇形状のブラケット片131が一体延設され,この扇形状ブラケット部131と,端板側ブラケット125とが枢軸132で枢着して連結され,該枢軸132を中心に前後一対の脚部支柱103,103が水平板101との間の略105度の起立角度位置から水平板101の裏側に折り畳むことができるようになっている。
r 前後一対の脚部支柱103,103の折畳状態においては,折畳状態の正面図に示すように,前後一対の脚部支柱103,103の枢着端部側が扇形状ブラケット片131を介して水平板101の裏面から浮き上がり状となっており,一対の脚部支柱103,103の下端部の端具133が水平板101の裏面中央部に当接して,一対の脚部支柱103,103が水平板101の長手方向の幅内において,水平板101の中央部側に傾斜した状態に折り畳まれるようになっている。
(イ) 被告意匠2の構成 a 足場となる平面視長方形状の水平板101の左右両端部に脚部102,102が取り付けられている。
b 脚部102は,前後一対の脚部支柱103,103からなり,脚部支柱103は水平板101側に取り付けられる径の大きな上部支柱104と,上部支柱104にスライド自在に嵌合される径の小さな下部支柱105とからなる。
c 右側面図及びA―A断面図に示すように,前後一対の脚部支柱103,103の上部支柱104の中間部と下端部には前後方向に横桟106,107が取り付けられている。
d 上部支柱104の下端部と下端部の横桟107とのコーナー部には正面視三角形状の伸縮調整部材108が取り付けられている。
e 前後一対の脚部支柱103,103は,正面視において水平板101に対し略105度の角度で起立するようになっており,またその起立状態から水平板101の裏側に折り畳まれるようになっている。
f 脚部102を形成する前後一対の脚部支柱103,103は,右側面図及びA―A断面図に示すように,側面視において,その上端部127から下端部まで直線状に形成され,その上端部127を起点として下部が広がるような末広がり台形状に形成されている。
g 折畳状態の正面図,平面図及び底面図に示すように,前後一対の脚部支柱103,103の折畳状態においては,左右の脚部支柱103,103は互いに重なることがなく,互いの端具133,133が突き合わせ状態となっている。
h 平面視長方形状の水平板101の左右長手方向幅と前後方向幅は略4対1の割合に形成され,該水平板101の板面には,平面図及びC-C端面図に示すように,その前後方向に凹部と凸部とが交互に形成され,凹部と凸部とはそれぞれ長手方向に向く凹状溝109と凸条110として表れ,このうち凸条110の表面には複数の長手方向に向く模様線111が刻設されている。
i 水平板101の長手方向に沿う前後両側縁部には,正面図及びC-C端面図に示すように,下向きに垂下する垂下板部112が一体に形成され,そのうち前側縁部の垂下板部112の長手方向中央部には,平面視で略扁平U字状に突出して,その中央部側に肉厚で両端部側が肉薄となる把手113が溶接によって固着されている。
j 水平板1の裏面側には,底面図及びC―C端面図に示すように,前後幅方向中央部に長手方向に向く幅広な補強リブ114が形成されている。
k 水平板1の左右長手方向両端部には,表面にアールをつけた湾曲面119を備えた端板120が設けられ,該端板120はE-E拡大図に示すように上部表面が湾曲面119を形成し,下部底面が平坦面121を形成し,内部を中空部122となっている略扇形状の中空型材によって形成されている。なお,平面図及び右側面図に示すように,湾曲面119の表面には前後方向に向く複数の筋線123が形成されている。
l 前記端板120の前後両端部には,正面図,背面図,特に,D-D拡大図に示すように,前記中空部122を塞ぐようにして,上縁部に端板120の湾曲面119と同じアールをつけた湾曲縁124を備えたブラケット125が取り付けられている。該ブラケット125には鍵穴状の貫通孔126が形成されている。したがって,水平板1の左右長手方向両端部は,表面にアールをつけた湾曲面119を備えた端板120と,上縁部に端板120の湾曲面119と同じアールをつけた湾曲縁124を備えたブラケット125とによって,稜線で統一された形状となっている。
m 前後一対の脚部支柱103,103は,その起立状態では,E-E拡大図及びD-D拡大図に示すように,その上端部127が前記水平板両端部の端板120の下部平坦面121に略当て付けられ,脚部支柱103,103の外側面128が端板120の湾曲面119に略面一に沿うよう形成されている。
n 前後一対の脚部支柱103,103の上部正面には,正面図,背面図,特にD-D断面図に示すように,前記端板側ブラケット125の湾曲縁124に側縁129が面一に沿うようブラケット130が取り付けられ,該ブラケット130には特異な形状の正面視略扇形状のブラケット片131が一体延設され,この扇形状ブラケット部131と,端板側ブラケット125とが枢軸132で枢着して連結され,該枢軸132を中心に前後一対の脚部支柱103,103が水平板101との間の略105度の起立角度位置から水平板1の裏側に折り畳むことができるようになっている。
o 前後一対の脚部支柱103,103の折畳状態においては,折畳状態の正面図に示すように,前後一対の脚部支柱103,103の枢着端部側が扇形状ブラケット片131を介して水平板101の裏面から浮き上がり状となっており,一対の脚部支柱103,103の下端部の端具133が水平板101の裏面中央部に当接して,一対の脚部支柱103,103が水平板101の長手方向の幅内において,水平板101の中央部側に傾斜した状態に折り畳まれるようになっている。 ウ 本件登録意匠と被告各意匠との対比 被告各意匠は,以下のとおり本件登録意匠の特徴的部分をいずれも備えていないので,本件登録意匠に類似しない。
(ア) 被告意匠1との対比 a 足場である水平板 (a) 本件登録意匠の水平板は,その平面視において,左右長手方向幅と前後方向幅の割合が略4対1の割合で形成されている。これに対し,被告意匠1の水平板101の同割合は略3.5 対1であり,左右長手方向幅と前後方向幅の割合が異なる。
(b) 本件登録意匠にあっては,水平板の板面には多数の突起が形成されている。これに対し,被告意匠1では,水平板101の板面に,該板面より若干盛り上がった円形穴(貫通する孔)109,110及び112が形成されており,板面の模様が異なる。
(c) 本件登録意匠にあっては,突起の配列状態が,水平板の前後幅方向の中央部に,突起が形成されていない帯状の平坦面が左右長手方向に沿って形成され,この帯状の平坦面を挟んで,その前後両側にそれぞれ左右長手方向に沿って突起の列が3列ずつ所定の間隔で互いに平行に形成されている。これら突起のピッチは各列とも同じであるが,3列の突起の列のうち,中央の列の突起は,左右長手方向において左右の列の突起の位置の中間に位置しているので,位置が1/2だけずれた状態である。したがって,上記各配列の突起が平坦面を挟んで前後両側に独立して形成された模様を現出している。
これに対し,被告意匠1にあっては,水平板101の板面には,表裏に貫通する多数の径の大きな円形穴109と径の小さな円形穴110が左右長手方向及び前後幅方向に略交互に,かつ,穴列の位相が1/2ピッチずつずれて千鳥足状に形成されており,このうち径の大きな円形穴109は水平板板面より若干盛り上がって形成されている。また,水平板101の左右長手方向両端部付近には,水平板板面の全体の略20%が円形穴109,110の設けられていない平坦面111に形成され,平坦面111の前後方向両端部付近に,径の小さい円形孔110よりも径の若干大きな円形穴112がそれぞれ1個ずつ形成されている。また,水平板101の板面には,長手方向に沿う3条の細い突条対113が形成されている。さらに水平板101の前後両側縁部には,下向きに垂下する垂下板部114が一体に形成され,垂下板部114の上縁部は水平板板面より上方に突出する細い側縁突条115が形成される。水平板101の板面より上方に突出する径の大きい円形穴109,3条の突条対113及び側縁突条115のそれぞれの突出量は同一に形成されている。したがって,水平板101に形成されている径の大きな円形穴109は,水平板板面から若干盛り上がっているが,上記突条対113と側縁突条115に遮られて,円形穴109は現れない。
以上のとおり,本件登録意匠と被告意匠1の水平板の板面に現れる形状ないし模様は大きく異なる。
(d) 本件登録意匠にあっては,水平板の前後両側縁部に,下向きに垂下する垂下板部が一体に形成され,そのうち前側縁部の垂下板部の長手方向中央部に,平面視で略扁平U字状に突出した,全体に同じ厚みの帯板状の把手がボルトによって固着されている。これに対し,被告意匠1では,水平板101に何ら把手は突設されていない。
b 脚部を構成する一対の脚部支柱 (a) 本件登録意匠は,左右の脚部支柱がその上部側途中で「く」の字状に湾曲している。これに対し,被告意匠1の脚部支柱は「く」の字状に湾曲しておらず,上端から下端まで直線状に形成されている。
(b) 本件登録意匠の一対の脚部支柱には,正面視三角形状の伸縮調整部材が取り付けられ,該伸縮調整部材の表面には円板状のつまみが大きく突出して形成されている。これに対し,被告意匠1に取り付けられた正面視三角形状の伸縮調整部材108の表面は,平坦面に形成されている点で異なる。また,本件登録意匠の伸縮調整部材に比較して,被告意匠1の伸縮調整部材108は2倍以上の大きさに形成されている点において異なる。
c 水平板と一対の脚部支柱とを連結する連結部分 (a) 本件登録意匠にあっては,水平板の端板端面と,前後一対の脚部支柱と,その上部横桟とに囲繞された大きな空間部が表れている。これに対し,被告意匠1にあっては,水平板101の両端部の底面に当てるようにして,一対の脚部支柱103,103が形成されており,脚部支柱103,103の上部横桟106と水平板101との間には,ほとんど空間部が形成されていない。
(b) 本件登録意匠にあっては,水平板の板面とその上縁が面一に形成されたブラケットが,外周縁が角張った直線状外周縁に形成され,水平板の端板端面,脚部支柱の上端面及び両ブラケットの角張った外周縁とによって全体として直線で統一された形状となっている。これに対し,被告意匠1にあっては,水平板1の左右長手方向両端部は,表面にアールをつけた湾曲面119を備えた端板120と,上縁部に端板120の湾曲面119と同じアールをつけた湾曲縁124を備えたブラケット125とによって,稜線で統一された形状となっている。
(c) 本件登録意匠では,水平板と,一対の脚部支柱との連結部分を覆うブラケットは,その周縁全域が角張った直線形状に形成され,全体として内側に大きく突出した略平行四辺形を形成している。これに対し,被告意匠1にあっては,水平板101と一対の脚部支柱103,103との連結部分を覆うブラケット125,130は,その外周縁に統一してアールがつけられており,その内周縁は,正面視略扇形状の特異な形状のブラケット片131によって形成されている。
(イ) 被告意匠2との対比 a 足場である水平板 (a) 本件登録意匠においては,水平板の板面に多数の突起が形成されている。これに対し,被告意匠2では,水平板101の板面に長手方向に向く凹状溝109と凸状110が形成され,点状の突起は全く形成されていない。
(b) 本件登録意匠にあっては,突起の配列状態が,水平板の前後幅方向の中央部に,突起が形成されていない帯状の平坦面が左右長手方向に沿って形成され,この帯状の平坦面を挟んで,その前後両側にそれぞれ左右長手方向に沿って突起の列が3列ずつ所定の間隔で互いに平行に形成されている。これらの突起のピッチは各列とも同じであるが,3列の突起の列のうち,中央の列の突起は,左右長手方向において左右の列の突起の位置の中間に位置しているので,位置が1/2だけずれた状態である。したがって,上記3列の配列の突起が平坦面を挟んで前後両側に独立して形成された模様を現出している。
これに対し,被告意匠2にあっては,水平板101の板面に,その前後方向に凹部と凸部とが交互に形成され,凹部と凸部とはそれぞれ長手方向に向く凹状溝109と凸条110として表れ,このうち凸条110の表面には複数の長手方向に向く模様線111が刻設されている。
以上のとおり,本件登録意匠と被告意匠1の水平板の板面に現れる形状ないし模様は大きく異なる。
(c) 本件登録意匠にあっては,水平板の前後両側縁部に,下向きに垂下する垂下板部が一体に形成され,そのうち前側縁部の垂下板部の長手方向中央部に,平面視で略扁平U字状に突出した,全体に同じ厚みの帯板状の把手がボルトによって固着されている。これに対し,被告意匠2には,垂下板部112の幅に相当する幅広で,中央部側に肉厚で両端部側が肉薄となる把手113が固着されている。
b 脚部を構成する一対の脚部支柱 (a) 本件登録意匠は,左右の脚部支柱がその上部側途中で「く」の字状に湾曲している。これに対し,被告意匠2の脚部支柱は「く」の字状に湾曲しておらず,上端から下端まで直線状に形成されている。
(b) 本件登録意匠の一対の脚部支柱には,正面視三角形状の伸縮調整部材が取り付けられ,該伸縮調整部材の表面には円板状のつまみが大きく突出して形成されている。これに対し,被告意匠2に取り付けられた正面視三角形状の伸縮調整部材108の表面は,平坦面に形成されている点で異なる。また,本件登録意匠の伸縮調整部材に比較して,被告意匠2の伸縮調整部材108は2倍以上の大きさに形成されている点において異なる。
c 水平板と一対の脚部支柱とを連結する連結部分 (a) 本件登録意匠にあっては,水平板の端板端面と,前後一対の脚部支柱と,その上部横桟とに囲繞された大きな空間部が表れている。これに対し,被告意匠2にあっては,水平板101の両端部の底面に当てるようにして,一対の脚部支柱103,103が形成されており,一対の脚部支柱103,103の上部横桟106と水平板101との間には,ほとんど空間部が形成されていない。
(b) 本件登録意匠にあっては,水平板の板面とその上縁が面一に形成されたブラケットが,外周縁が角張った直線状外周縁に形成され,水平板の端板端面,脚部支柱の上端面及び両ブラケットの角張った外周縁とによって全体として直線で統一された形状となっている。これに対し,被告意匠2にあっては,水平板1の左右長手方向両端部は,表面にアールをつけた湾曲面119を備えた端板120と,上縁部に端板120の湾曲面119と同じアールをつけた湾曲縁124を備えたブラケット125とによって,稜線で統一された形状となっている。
(c) 本件登録意匠では,水平板と一対の脚部支柱との連結部分を覆うブラケットは,その周縁全域が角張った直線形状に形成され,全体として内側に大きく突出した略平行四辺形を形成している。これに対し,被告意匠2にあっては,水平板101と一対の脚部支柱103,103との連結部分を覆うブラケット125,130は,その外周縁に統一してアールがつけられ,その内周縁は,正面視略扇形状の特異な形状のブラケット片131によって形成されている。
(2) 損害の額 (原告の主張) ア 原告は,本件意匠権の持分2分の1を有する。
イ 被告は,被告製品1を,平成8年1月1日から平成14年7月30日までの間に合計3万9000基製造販売し,合計8億9700万円を売上げ,被告製品2を,平成11年1月1日から平成14年7月30日までの間に合計4万2000基製造販売し,合計6億7200万円を売り上げた。
ウ 本件意匠権の実施料相当額は,売上の6%である。
エ したがって,原告が受けた損害額は,4707万円である。
(8.97億円+6.72億円)×6%×1/2=4707万円 (被告の主張) イ及びウは否認する。アは知らない。
被告が被告製品1を製造販売したのは,平成8年10月ころからであり,被告製品2を製造販売したのは,平成11年6月ころからである。
当裁判所の判断
1 本件登録意匠について (1) 本件登録意匠の構成 証拠(甲2)によれば,本件登録意匠の構成は,以下のとおりであると認められる。
ア 正面図 正面図において開脚の状態で,足場となる水平板と,同水平板に対して左右に略105度の角度で開く脚部が存在し,この脚部は上部(以下「上部脚部」という。)と,上部脚部よりやや細い下部(以下「下部脚部」という。)とに分かれている。水平板と左右の脚部を繋ぐヒンジ部は,脚支柱の上部に取り付けたヒンジ板の内側上辺が略弧状となっている。水平板表面には,上方に僅かに突出している多数の小半円形(後記のとおり,平面図では小円形)が設けられている。水平板の長手方向中央部の側面に把手部が存在する。
イ 平面図 平面図において横長長方形状の1枚の天板からなる足場(水平板)と,上端の端を水平板の前後幅と同幅とし,左右に末広がり状(略「ハ」の字状)に開く形状の脚部がある。脚部には2段の梯子状の桟が設けられている。足場部分を構成する水平板の左右長手方向幅と前後方向幅は約4対1の割合に形成されている。
足場表面には,前後方向中央に長手方向に沿って細幅帯状に余地部を設け,その前後には,多数の小円形が2121の配列で千鳥足状に形成されている。脚支柱及び横桟は,それぞれ略四角柱状に形成されている。水平板の長手方向中央部の側面に把手部が存在する。
ウ 右側面図 右側面図において,上部脚部は,上方から上部脚部の約5分の1程の長さまで左右垂直に垂下し(垂下部),該垂下部に続いて左右外方にハの字状に末広がりとなる。上部脚部には2本の桟部が横張りされ,下部脚部は,上部脚部よりもやや細めに形成され,脚部最下端にはキャップ状の部材が設けられている。最下段の横桟の両端に,小突片が設けられている。 エ 底面図 底面図において,左右長手方向中央部にI字型の補強部材が渡し込まれている。
オ 折畳状態の正面図,平面図 折畳状態の正面図,平面図において,脚部の4箇所の端部は,ほぼ隙間なく左右互いに対向する形となっている。
(2) 本件登録意匠の要部(特徴的部分) ア 事実認定 証拠(乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 一般に作業用足場は,その用途上当然に,足場となる平板部の左右両側に二本の支柱と複数本の横桟からなる略梯子状の脚部を左右対称に設け,平板部と脚部の連結部分にヒンジ部を設けて脚部が折り畳み可能であるという基本的な構成を備えている。
(イ) 本件登録意匠の登録出願前の昭和63年9月1日に発行された「総合カタログ KYOKUTO」(極東産機株式会社発行)には,「スライドダイバ」と称するアルミ製台場の写真が掲載されている。同スライドダイバの意匠の構成は,以下のとおりである。
a 開脚の状態で,平面視横長長方形状の水平なスライド式天板を用いた足場部分を備え,同足場部分に対して左右に略105度の角度で開く脚部が存在し,脚部は,上部脚部と,上部脚部内に収納され得るやや細い下部脚部とに分かれた構成となっている(なお,写真からは必ずしも明らかでないが,乙2中の同製品を製造した株式会社ピカコーポレーションの昭和58年12月9日付け製作図面を参酌すれば,上記のとおりの構成であると認められる。)。上部脚部の上端は足場部分の前後幅と同幅であり,左右に末広がり状(略「ハ」の字状)に開いている。
水平板の左右両端部に設けたブラケットと脚部支柱の上端部に設けたブラケットとは枢軸で枢着して連結されている。
b 上部脚部には2本の桟部が横張りされ,脚部最下端にはキャップが設けられている。脚支柱及び横桟は,それぞれ略四角柱状に形成されている。
c 折畳状態において左右の脚部支柱は左右互いに対向する形となっている(ただし,スライドダイバのうち品番62-5111,型式SD-200の製品)。
(ウ) また,上記カタログには,「アルミステージ(ピカコーポレーション)」として,細長い長方形の水平板の表面に,滑り止めのための円形状の小孔が3333の配列で千鳥足状に形成されている足場板の写真が,また,「スチールステージ(アルインコ)」として,細長い長方形の水平板の前後方向中央に,長手方向に沿って連続して上方へ突出した筋部を設け,その前後に1111の配列で千鳥足状に滑り止めのための円形状の小孔が形成されている足場板の写真が,それぞれ掲載されている。
イ 要部(特徴的部分)についての判断 上記認定事実を基礎として,本件登録意匠の要部(特徴的部分)を認定判断する。
(ア) 本件登録意匠の要部は,以下のとおりであると認められる。
A 正面図及び平面図において,水平板の長手方向中央部の片側側面に把手部が存在する。
B 平面図において,水平板表面の前後方向中央に長手方向に沿って細幅帯状に余地部を設け,その前後に2121の配列で小円形が千鳥足状に形成されている。
C 側面図において,上部脚部全体の約5分の1の長さに相当する部分が,上部脚部の上端から左右垂直に垂下し,該垂下部に続く部分が,左右外方にやや末広がりに台形状となる。
D 折畳状態の正面図において,脚部の4箇所の端部は,左右互いにほぼ隙間なく対向する。
(イ) この点について,原告は,第2の2(1)(原告の主張)ア(ア)のとおり主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。
すなわち,原告が本件登録意匠の要部であると主張する構成のうち,@正面図において,開脚の状態で,足場となる水平板,左右に略105度の角度で開く脚部が存在し,この脚部が伸縮可能に上部と下部とに分かれる点,A平面図において,穴部の多数存在する横長方形状の足場,左右に末広がり状の脚部,脚部に2段の梯子状の桟がある点,B右側面図において,上部脚部が左右外方にやや末広がりに台形状の脚部を形成し,該脚部には2本の桟部が横張りされ,下部脚部は足場の高さ調整をするため上部脚部に挿入可能となるべくやや細めに形成され,脚部最下端には補強部を設けてある点は,いずれも作業用足場においてありふれた公知の意匠であり,看者の注意を引く部分とは認められない(なお,本件登録意匠の足場には,表面に小円形があるだけで,穴部は存在しない。)。
また,作業用足場の通常の使用態様からすれば,その裏面の構成は,看者の注意を引く部分とはいえず,原告が本件登録意匠の要部であると主張する構成のうち,C底面図において,水平板の左右長手方向中央部に縦直線状の補強部材が渡り込まれている点も,本件登録意匠の要部とすることはできない。
2 被告各意匠の構成 証拠(乙4の1ないし22,5の1ないし22)及び弁論の全趣旨によれば,被告各意匠の構成は,以下のとおりであると認められる。
(1) 被告意匠1の構成 ア 正面図 正面図において,開脚の状態で,足場となる水平板と,同水平板に対して左右に略105度の角度で開く脚部が存在し,この脚部は伸縮可能に上部脚部と下部脚部とに分かれている。水平板の左右長手方向両端部には,表面にアールをつけた湾曲面を備えた端板がそれぞれ設けられ,同端板の前後両端部には,上縁部が端板の湾曲面と同じアールをつけたブラケットが取り付けられている。足場の左右長手方向両端部は,端板の湾曲面とブラケットの湾曲縁とによって緩やかに曲がる稜線を形成し,脚部支柱の外側面は,上記湾曲面と略面一となるように形成されている。
イ 平面図 平面図において,横長長方形状の足場部分(水平板)と,上部脚部の上端を水平板の前後幅と同幅とし,左右に末広がり状(略「ハ」の字状)に開いた脚部があり,脚部には2段の梯子状の桟が設けられている。足場部分を構成する水平板の左右長手方向幅と前後方向幅は約3.5対1の割合に形成されている。水平板表面には,左右長手方向に水平板を4等分する3組(2本1組)の細い突条が形成され,各突条の前後両側には,左右長手方向両端部付近の余地部を残して,それぞれ1111の配列で円形状の多数の小孔(円形穴109)が千鳥足状に形成され,同小孔のうち水平板の前後方向両端に形成された小孔及び中央2列に形成された小孔の間には,さらに小さい径の孔(円形穴110)が上記小孔(円形穴109)と交互に形成されている。また,水平板の上記余地部の前後方向両端部付近には,上記小さい径の孔(円形穴110)よりも径の若干大きい小孔(円形穴112)がそれぞれ1個ずつ形成されている。水平板の長手方向両端部の端板の湾曲面には,前後方向に複数の筋線が設けられている。脚支柱及び横桟は,それぞれ略四角柱状に形成されている。
ウ 右側面図 右側面図において,上部脚部は,上端から左右外方に直線状に末広がり(「ハ」の字状)に形成されている。上部脚部には2本の桟部が横張りされ,下部脚部は足場の高さ調整をするため上部脚部に挿入可能となるべくやや細めに形成され,脚部最下端には端具が設けられている。下段の横桟の両脇に,三角形状の伸縮調整部材が設けられている。
エ 底面図 底面図において,左右長手方向に沿って直線状の補強部材が3本渡し込まれている。
オ 折畳状態の正面図,平面図 折畳状態の正面図,平面図において,脚部の4箇所の端部は,ほぼ隙間なく左右互いに対向する。
(2) 被告意匠2の構成 ア 正面図 正面図において,開脚の状態で,足場となる水平板と,同水平板に対して左右に略105度の角度で開く脚部が存在し,この脚部は伸縮可能に上部脚部と下部脚部とに分かれている。水平板の左右長手方向両端部には,表面にアールをつけた端板がそれぞれ設けられ,同端板の前後両端部には,上縁部に端板の湾曲面と同じアールをつけたブラケットが取り付けられている。足場の左右長手方向両端部は,上記端板の湾曲面とブラケットの湾曲縁とによって緩やかな曲線を形成し,脚部支柱の外側面は,上記湾曲面と略面一となるように形成されている。水平板の左右長手方向中央部の側面に把手部が存在する。 イ 平面図 平面図において,横長長方形状の1枚の天板からなる足場部分(水平板)と,上端の端を水平板の幅と同幅とし,左右に末広がり状(略「ハ」の字状)に開いた脚部があり,脚部には2段の梯子状の桟が設けられている。足場部分を構成する水平板の左右長手方向幅と前後方向幅は約4対1の割合に形成されている。
水平板表面には,左右長手方向に凸条(7本)と凹状溝(6本)とが交互に形成され,凸条部分の表面には,多数の筋線が左右長手方向に刻設されている。水平板の長手方向両端部の端板の湾曲面には,前後方向に複数の筋線が設けられている。脚支柱及び横桟は,それぞれ略四角柱状に形成されている。水平板の左右長手方向中央部の側面には,略扁平U字状で,中央部側が肉厚で両端部側が肉薄となる把手部が設けられている。
ウ 右側面図 右側面図において,上部脚部は,上端から左右外方に直線状に末広がり(「ハ」の字状)に形成されている。上部脚部には2本の桟部が横張りされ,下部脚部は足場の高さ調整をするため上部脚部に挿入可能となるべくやや細めに形成され,脚部最下端には端具が設けられている。下段の横桟の両脇には,三角形状の伸縮調整部材が設けられている。
エ 底面図 底面図において,左右長手方向に直線状の補強部材(補強リブ)が1本渡し込まれている。
オ 折畳状態の正面図,平面図 折畳状態の正面図において,脚部の4箇所の端部は左右互いに相当な隙間を空けて対向する。
3 本件登録意匠と被告意匠1との対比 (1) 本件登録意匠の要部(特徴的部分)と被告意匠1の構成とを対比する。
A 正面図及び平面図において,本件登録意匠には,水平板の長手方向中央部片側側面に把手部が存在する。これに対し,被告意匠1には存在しない。
B 平面図において,本件登録意匠は,水平板表面の前後方向中央に,長手方向に沿って細幅帯状に余地部を設け,その前後に2121の配列で小円形が千鳥足状に形成されている。これに対し,被告意匠1では,水平板表面に,左右長手方向に水平板を4等分する3組(2本1組)の細い突条が形成され,各突条の両側には,左右長手方向両端部付近の余地部を残して,それぞれ1111の配列で円形状の多数の小孔(円形穴109)が千鳥足状に形成され,同小孔のうち水平板の前後方向両端に形成された小孔及び中央2列に形成された小孔の間には,さらに小さい径の孔(円形穴110)が上記小孔(円形穴109)と交互に形成され,これに加えて,水平板の上記余地部の前後方向両端部付近には,上記小さい径の孔(円形穴110)よりも径の若干大きい小孔(円形穴112)がそれぞれ1個ずつ形成されている。
このように,本件登録意匠と被告意匠1の平面視における水平板表面の形状が大きく異なり,特に,本件登録意匠の水平板表面は,小円形が千鳥足状に配列されているのみであるのに対し,被告意匠1の水平板の表面には水平板を4等分する3組の細い突条が形成され,しかも千鳥足状に配列されているのは小円形ではなく,小孔(円形穴109)である点において,両者はかなり美観を異にする。
C 側面図において,本件登録意匠の上部脚部は,全体の約5分の1の長さに相当する部分が上端から左右垂直に垂下し,該垂下部に続き,左右外方にやや末広がりとなり,全体としてゆるやかな「く」の字状を形成していることにより,脚部全体が上部で引き締まってスマートな印象を与える。これに対し,被告意匠1の上部脚部には,垂下部が存在せず,上部脚部が直線状に左右外方に末広がりの形状を形成しているため,脚部全体が単調で特段の印象を生じさせない。
D 折畳状態の正面図及び平面図において,本件登録意匠と被告意匠1は,脚部の4箇所の端部が左右互いにほぼ隙間なく対向するという点で共通する。
(2) 以上のとおり,被告意匠1は,折畳状態の脚部の構成を除き,本件登録意匠の要部を具備していない。両者は折畳状態の脚部の構成において共通するが,この点は物品の性質上,看者の関心を引きにくい部分であるから,類似の美観を生じさせるとはいえない。また,本件登録意匠と被告意匠1とは,作業用足場の意匠において割合的に最も大きな部分を占め,看者が強く注目する部分である足場部分(水平板)が,本件登録意匠においては幅と長さの割合が約1対4と細長いのに対し,被告意匠1においては約1対3.5と,より安定した形状となっており,その結果,本件登録意匠が,前記脚部の垂下部の形状と相まって全体としてほっそりとしたスマートな印象を与えるのに対し,被告意匠1は,全体として太めのどっしりとした印象を与えている。さらに,開脚状態において,被告意匠1は,足場部分の両端部が湾曲面を形成し,脚部支柱の外側面と略面一となっていることから,足場の両端部から脚部にかけて丸みを帯びた滑らかな印象を与えるのに対し,本件登録意匠では,略四角柱状の脚部の上端部が足場部分の両端部側面に接して露出していることから,角張った印象を与えている。
これらの点を総合すれば,被告意匠1を全体として観察したときに,本件登録意匠と類似の美観を看者に生ぜしめるとは認められず,両意匠が類似しているということはできない。
4 本件登録意匠と被告意匠2の対比 (1) 本件登録意匠の要部(特徴的部分)と被告意匠2の構成とを対比する。
A 正面図及び平面図において,本件登録意匠と被告意匠2とは,水平板の長手方向中央部の片側側面に把手部が存在するという点で共通する。
B 平面図において,本件登録意匠は,水平板表面の前後方向中央に,長手方向に沿って細幅帯状に余地部を設け,その前後に2121の配列で小円形が千鳥足状に形成されている。これに対し,被告意匠2では,水平板表面に,左右長手方向に凸条(7本)と凹状溝(6本)とが交互に形成され,凸条部分の表面には,多数の筋線が左右長手方向に刻設されている。
このように,本件登録意匠と被告意匠2とは,水平板表面の形状が大きく異なっており,このため看者の受ける美観は,大きく異なる。
C 側面図において,本件登録意匠の上部脚部は,全体の約5分の1の長さに相当する部分が上端から左右垂直に垂下し,該垂下部に続き,左右外方にやや末広がりとなり,全体としてゆるやかな「く」の字状を形成していることにより,脚部全体が上部で引き締まってスマートな印象を与える。これに対し,被告意匠2の上部脚部には,垂下部が存在せず,上部脚部が直線状に左右外方に末広がりの形状を形成しているため,脚部全体が単調で特段の印象を生じさせない。
D 折畳状態の正面図及び平面図において,本件登録意匠は,脚部の4箇所の端部が左右互いにほぼ隙間なく対向している。これに対し,被告意匠2は,相当な隙間を空けて対向している。
(2) 以上のとおり,被告意匠2は,把手部の構成を除き,本件登録意匠の要部を具備していない。両者は把手部の構成において共通するが,この点は物品の性質上,それほど看者の注目を引く部分とはいえない。また,本件登録意匠と被告意匠2とは,作業用足場の意匠において割合的に最も大きな部分を占め,看者が強く注目する部分である足場部分(水平板)の表面の形状が大きく異なり,そのため看者が受ける美観は大きく異なる。さらに,開脚状態において,被告意匠2は,足場部分の両端部が湾曲面を形成し,脚部支柱の外側面と略面一となっていることから,足場の両端部から脚部にかけて丸みを帯びた滑らかな印象を与えるのに対し,本件登録意匠では,略四角柱状の脚部の上端部が足場部分の両端部側面に接して露出していることから,角張った印象を与えている。
これらの点を総合すれば,被告意匠2を全体として観察したときに,本件登録意匠と類似の美観を看者に生ぜしめるとは認められず,両意匠が類似しているということはできない。
5 以上によれば,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 大寄麻代