審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17ネ10079意匠権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 意匠 |
平成21ワ2726意匠権侵害差止等請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成13ネ5158意匠権侵害等に基づく差止請求控訴事件 | 判例 | 意匠 |
平成16ワ14355意匠権侵害差止等請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成21ネ3051意匠権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 意匠 |
関連ワード | 物品 / 形状 / 模様 / 意匠に係る物品 / 組物の意匠(8条) / 先願 / 一意匠一出願(7条) / 新規性 / 同一物 / 公然知られた(3条1項1号) / 3条1項2号 / 3条1項3号 / 頒布された刊行物 / 記載された意匠 / 類似する意匠 / 意匠の属する分野 / 完成品 / 部品 / 意匠の類似 / 意匠の類否 / 願書の記載 / 同一物品 / 類似物品 / 関連意匠(10条) / 本意匠 / 登録意匠 / 類似範囲 / 差止請求(差止) / 損害賠償 / 不当利得 / 類似性(類否判断) / 損害額 / 消滅時効 / |
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元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
事件 |
平成
14年
(ワ)
457号
意匠権及び不正競争防止法に基づく差止等請求事件
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原告 株式会社タカギ・パックス 訴訟代理人弁護士 久世表士 同訴訟復代理人弁護士 後藤昌弘 補佐人弁理士 廣江武典 同 宇野健一 被告 オーエッチ工業株式会社 被告 川村産業株式会社 被告両名訴訟代理人弁護士 岡田春夫 同 小池眞一 同 石井靖子 同 矢倉信介 補佐人弁理士 安田敏雄 同 岡本宜喜 同 吉田昌司 同 喜多秀樹 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2003/04/15 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告らは、別紙イ号ないしニ号物件目録記載の物件を製造し、販売し、輸入し、譲渡し、譲渡のために展示してはならない。 2 被告らは、前項の物件を廃棄せよ。 3 被告らは、原告に対し、各自金3289万6000円及びこれに対する被告オーエッチ工業株式会社については平成13年7月1日から、被告川村産業株式会社については同年同月3日から、支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、2つの意匠権の侵害及び不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争を理由として、侵害行為の差止め(意匠権に基づく差止請求は後記の本件意匠権Bのみ)と損害賠償ないし不当利得返還請求を求めた事案である。 1 争いのない事実等 (1) 本件意匠権 ア 本件意匠権A 原告は、次の意匠権を、平成14年6月10日に存続期間満了により消滅するまで有していた(以下「本件意匠権A」といい、その意匠を「本件意匠A」という。)。 登録番号 第713500号 出願日 昭和59年6月27日 登録日 昭和62年6月10日 意匠に係る物品 荷崩れ防止ベルト 登録意匠 別紙意匠公報A-1記載のとおり 本件意匠権Aには、別紙意匠公報A-2ないし7記載のとおり、本件意匠Aを本意匠とする類似第1号ないし第6号の類似意匠(平成10年法律第51号による改正前の意匠法〔以下「旧意匠法」という。〕22条)の意匠登録が存在する(これらの類似意匠を「類似意匠A-1」等という。)。 イ 本件意匠権B 原告は、次の意匠権を有している(以下「本件意匠権B」といい、その意匠を「本件意匠B」という。)。 登録番号 第872785号 出願日 平成元年11月30日 登録日 平成5年4月6日 意匠に係る物品 荷崩れ防止ベルト 登録意匠 別紙意匠公報B-1記載のとおり 本件意匠権Bには、別紙意匠公報B-2ないし6記載のとおり、本件意匠Bを本意匠とする類似第1号ないし第5号の類似意匠の意匠登録が存在する(これらの類似意匠を「類似意匠B-1」等という。)。 (2) 原告製品 原告は、本件意匠Aに対応する荷崩れ防止ベルトを「パレマジック」の商品名(以下「原告製品A」という。)で、本件意匠Bに対応する荷崩れ防止ベルトを「L型恐力パレバンド」の商品名(ただし、同商品名の商品には、角型金具を使用したものと面ファスナーを使用したものとがあるが、本件で対象とするのは、面ファスナーを使用したものである。以下「原告製品B」という。)でそれぞれ販売してきた(以下、原告製品A及びBを併せて「原告製品」という。)。 (3) 被告製品 被告オーエッチ工業株式会社(以下「被告オーエッチ工業」という。)は、平成8年12月ころから、別紙イ号ないしニ号物件目録記載の荷崩れ防止ベルト(以下、イ号ないしニ号各物件目録記載の製品をそれぞれ「イ号物件」等と、その意匠を「イ号意匠」等といい、イ号ないしニ号物件を総称して「被告製品」という。ただし、「ニ号意匠」は、ニ号物件のうちファスナー側のベルトである「ファスナー側のFM」の意匠を指す。)を製造、販売している。 2 争点 〔意匠権に基づく請求〕 (1) イ号ないしハ号意匠は、本件意匠Aと類似するか。 (2) ニ号意匠は本件意匠Bに類似し、ニ号物件の意匠は全体として本件意匠Bの利用意匠といえるか。 (3) 本件意匠A及び本件意匠Bの意匠登録には、無効理由があることが明らかか。 〔不正競争防止法に基づく請求〕 (4) 被告製品の製造、販売は、不正競争防止法2条1項1号にいう不正競争行為に当たるか。 ア 原告製品の商品形態には、原告の商品表示として周知性があるか。 イ 被告製品の商品形態は、原告製品と類似するか。 〔意匠権・不正競争防止法共通〕 (5) 被告川村産業株式会社(以下「被告川村産業」という。)は、被告製品を販売し、又は今後販売するおそれがあるか。 (6) 仮に、原告が被告らに対し、意匠権侵害又は不正競争防止法に基づく損害賠償請求権を有するとしても、平成10年6月5日までの分については消滅時効が完成しているか。 (7) 原告の損害額ないし損失額。 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(イ号ないしハ号意匠は、本件意匠Aと類似するか)について 【原告の主張】 (1) 本件意匠Aの要部について ア 本件意匠Aの基本的構成態様及び具体的構成態様は、別紙【本件意匠Aの構成】の原告欄記載のとおりである。本件意匠Aと同種物品である「荷崩れを防止する製品の分野」に属する公知意匠(甲21・図@〜S参照)を勘案すると、本件意匠Aの出願時、さらにはその後現在に至るまで、本件意匠Aの形態を備えた公知意匠は存在しない。したがって、本件意匠Aの要部は、荷崩れ防止ベルトという一つの物品上に統一的に具現された、 A 極めて細幅な矩形帯状ベルトにおいて、 B その一端部に環状留具が設けられ、 C その他端部にはつまみ代部が設けられ、 D 上記つまみ代部に続けて、矩形短寸法及び矩形長寸法の雌雄面ファスナーが、いずれも同一面に取着されている、 という基本的構成態様である。 イ 類似意匠A-5 このことは、本件意匠Aの類似意匠である類似意匠A-5についての特許庁の審査結果からも明らかであり、類似意匠A-5が類似意匠登録されたことからすれば、本件意匠Aの要部は、本意匠と類似意匠A-5が共通して具備する基本的構成態様にあり、「雌雄面ファスナーを分離配設したか連続配設したか、ライン模様があるかないか」の差異点に係る部分形態は要部にならない。 (2) 被告らは、本件意匠Aの要部の認定に関して考慮されるべき要素として種々の事項を主張するが、これらは、いずれも次のとおり失当である。 ア 看者 本件における看者は、本件意匠の属する物流分野、貨物取扱用機械器具の分野における取引者と需要者の両者、あるいは取引者又は需要者のいずれか一方であり、被告ら主張のように、主たる看者を作業者のみに限定して検討しなければならない理由はない。 イ 公知意匠 被告らが提出する公知意匠(乙15、16)は、いずれも本件意匠Aに係る物品「荷崩れ防止ベルト」とは意匠に係る物品の用途、機能が異なり、同種物品に係る意匠とはいえないから、本件意匠Aの要部の特定に当たりこれを参酌することはできない。 (ア) 本件意匠Aに係る物品「荷崩れ防止ベルト」は、パレット上に積載し外周4〜5メートルの複数列・複数段の荷物群に巻き付けることを目的とする物品であり、意匠分類G1-00の「貨物取扱い用機械器具」の意匠分類に属する(甲42の1・2)。「物流、貨物取扱い用機械器具」の分野において、同一の目的及び用途を有する「従来の荷崩れ防止ベルト」には、「留め具6を設け、ベルト本体1の同一面の雌雄面ファスナー2・4を設けたもの」は存在せず(甲21)、 このような使用態様は、物品の性質に基づき必然的に想定される使用態様ではない。 (イ) 米国特許第3942636号公報(乙15)第7図記載の意匠に係る物品は、意匠分類J6「保安機械器具等」に属する「消防分野において消火を目的として使用する可撓性導管(消火ホース)」であり、「荷崩れ防止ベルト」とは用途、機能が異なり、両意匠の属する分野にいかなる関連性もない非類似の物品である。 また、「布製ベルト7」は、「方形の包帯に着脱不可能に固着された当該部分のみを自在に取り外して使用できない、方形の包帯の一部分」であり、交換部品として独立の取引対象にならないから、意匠法上の物品としても部品としても成立不可能であり、類否判断の対象とはなり得ない。 さらに、「布製ベルト7」の用途、機能、使用状態は、本件意匠Aに係る物品と全く異なり、用途同一、機能同一とはいえない。本件意匠Aに係る願書の記載及び図面によれば、「荷崩れ防止ベルト」という物品は、その長尺さ故に上記米国特許公報(乙15)記載の消火ホースの「布製ベルト部分」に用いることは不可能である。 (ウ) 米国特許第3307872号公報(乙16)第1図に記載された意匠は、意匠に係る物品が、人体の保護器材等の「医療用器械器具」あるいは「家具(椅子)」及び「その付属品」という、「荷崩れ防止ベルト」とは用途、機能が異なる非類似の物品であり、両意匠の属する分野にはいかなる関連性もない。 ウ 出願経過の参酌と包袋禁反言の適用の基礎について 原告が本件意匠Aに係る意匠登録出願の拒絶理由通知(乙1の5)を受けて提出した意見書(乙1の6)の中で、実開昭55-30241号公報(乙17)記載の意匠との相違点として主張した4つの構成態様(@ベルト長さに対する雌雄面ファスナーの長さ・配置、Aつまみ代部の有無、B雌雄面ファスナーの相対長さ、C雌雄面ファスナー間の間隔)は、一つの引例との関係でなされた主張であり、しかも全体でなく一部分についてなされたものにすぎないから、被告製品の意匠を含む他のすべての意匠に対して適用され、あるいは普遍的・絶対的に認められる本件意匠の要部とはならない。そもそも、本件意匠Aに係る意見書の一部分、つまり「雌雄面ファスナー間の配設間隔に係る差異点、要部」に関する主張は、上記(1)イのとおり、類似意匠A-5に係る後の特許庁の判断により否定されている。 (3) 本件意匠Aとイ号意匠の対比 イ号物件(「MS」:「スタンダードマジック」)の意匠(イ号意匠)と本件意匠Aとは、別紙【本件意匠Aの構成態様】及び【イ号意匠の構成】の各原告欄のとおり、本件意匠Aの基本的構成態様A〜D並びに具体的構成態様a@、b、 c、d@及びdAにおいて共通し、以下の点で形態上の差異を有する。 aA 本件意匠Aは帯状ベルトの表面に模様がないのに対し、イ号物件は長さ方向に1条のライン模様が施されている。 dB 本件意匠Aは雌雄面ファスナーの間に間隔が設けられているのに対し、イ号物件は間隔がない。 そうすると、本件意匠Aとイ号意匠は、物品及び意匠の要部である基本的構成態様A〜Dが共通するのに対し、両者の相違点はいずれも細部の付随的構成要素に係るものにすぎず、基本的構成態様の共通性を凌駕するものではない。さらに、類似意匠A-5がイ号物件の形態と同一であることによれば、イ号意匠が本件意匠Aに類似することは明らかである。 (4) ロ号物件(「ML」:「ロングマジック」)及びハ号物件(「MA」:「アジャスターマジック」)は、イ号物件との対比において、内方に設けられた雌(雄)ファスナーが「より長く」(ロ号物件)又は「より短く」(ハ号物件)形成され、あるいは「アジャスター」が設けられている点(ハ号物件)のみが相違するが、これらの差異点も本件意匠Aの要部である基本的構成態様A〜Dを離れた些細な差異にすぎない。ロ号意匠及びハ号意匠は、本件意匠Aと要部の構成を共通にするものである。よって、ロ号意匠及びハ号意匠も本件意匠Aに類似する。 【被告らの主張】 (1) イ号ないしハ号意匠と本件意匠Aとの共通点及び相違点 本件意匠Aの構成態様は、別紙【本件意匠Aの構成】の被告欄のとおりである。これに対し、イ号ないしハ号物件の各その第1(50o幅)とその第2(25o幅)の意匠の構成は、別紙【イ号意匠の構成】【ロ号意匠の構成】【ハ号意匠の構成】の各被告欄のとおりである。イ号ないしハ号意匠と本件意匠Aとは基本的構成態様A、C、Dにおいて共通するが、次の点において相違する(共通点及び相違点の詳細は、被告らの平成14年12月2日付け準備書面(第5回)添付の対比表参照)。 ア 基本的構成態様B 本件意匠Aは、雌雄面ファスナー2・4の間に「間隔3」があるが、イ号ないしハ号意匠は、いずれも雌雄面ファスナー2’・4’(符号はイ号意匠のものを用いる。以下同じ。)が連続して取り付けられており間隔がない。 イ 具体的構成態様a (ア) 本件意匠Aでは、雌雄面ファスナー2・4と間隔3から成る調整可能区域がベルト全長に対し占める割合が約28%であるが、イ号意匠は、雌雄面ファスナー2’・4’から成る調整可能区域がベルト全長に対し占める割合が約24〜18%、ロ号意匠は約37〜29%、ハ号意匠は約13〜10%である。 (イ) 本件意匠Aでは、ベルト本体1の雌雄面ファスナー2・4が取り付けられた面(表面)に模様がないが、イ号ないしハ号意匠では、ベルト本体1’の表面に、青地に黒色又は黒字に黄色の「ライン模様」が全長にわたり1条付されている。また、イ号ないしハ号意匠では、雌雄面ファスナー2’・4’がそれぞれの矩形状の外縁に沿って縫い付けられているため、裏面側に矩形枠状のミシン目が顕出される。 ウ 具体的構成態様d (ア) 本件意匠Aは、ベルト本体1の他端部折り返し部の巻き付けを「表面側から裏面側に」行うのに対し、イ号ないしハ号物件はベルト本体1の他端部折り返し部の巻き付けを「裏面側から表面側に」行い、留め具への巻き付け方が逆である。また、折り返し部の縫い付けに当たり、ベルト本体1’の表面側に、重なり部分の正方形枠状とクロス状のミシン目が顕出される。 (イ) 本件意匠Aの留め具6は、縦4p:横8pの幅広な矩形形状であるが、イ号ないしハ号物件の留め具6’は、縦2.8p:横5.8pの縦長の矩形形状である。 (2) 本件意匠Aにおいて看者の注意を惹くべき部位の特定 本件意匠Aの要部を把握するに当たっては、次の各要素が考慮されるべきである。 ア 看者 本件意匠Aの要部の特定に際しては、最終使用者である作業者(需要者)を主な看者と捉え、本件意匠Aに係る物品の通常の使用態様である作業過程及び最終使用時において、作業者(需要者)の注意を惹くべき部位に位置付けられる意匠的要素を検討すべきである。 本件意匠Aに係る物品は、パレット上に載置した多数の荷物の外周に巻き付けて荷崩れを防止するために用いられる「物品」であるから、締結作業に当たり、必然的に留め具6の周辺部位に「正面位置」が設定され、それに伴い「側面位置」及び「背面位置」が設定される。最終使用時には、雌雄面ファスナーは、ほとんどが折り返されるため、留め具6を含むベルト両端部で形成される「外部露出面」が「正面」として看者の注意を惹く部位に位置付けられる。 さらに、作業者は、締結作業の際、「間隔3」を主な折り返し部位として、雌雄面ファスナー2・4を留め具6をもって力一杯折り返す。この部位が「折り返し時着視部」及び「締結時正面」として作業者の注意を惹くべき部位となる。 このような「物品」の通常の使用態様を考慮すると、本件意匠Aにおいて需要者の注意を惹くべき箇所は、次のとおりとなる。 (ア) 本件意匠Aは、ベルト本体1の同一面上に配置される雌雄面ファスナー2・4の配列に一つの特徴がある。「間隔3」は、締結作業時に「折り返し」部位として作業者が着目する部位であり、その有無は、看者の注意を惹くべき部位における相違点となる。 (イ) ベルト本体1の同一面上に配置される雌雄面ファスナー2・4の具体的形状・構成比は、配列上の美感の基調を左右する事項であるとともに、締結作業時において作業者が最も着目する部位であり、その相違は、「調整可能区域」として、本件意匠Aに係る物品本来の使用方法を左右する要素となり、購入者が注意を払わざるを得ない部位である。 (ウ) 作業過程及び最終使用時において、「正面位置」かつ「外部露出面」となる「留め具6に対するベルト本体1への巻き付け方」及び「留め具6の幅広な矩形枠状形状」に関する相違点は、看者の注意を惹くべき部位における相違点となる。 (エ) 本件意匠Aは、最終使用時において、雌雄面ファスナー2・4の折り返しによって締結され、シンプルな美感を完成させることに一つの意匠的本質を置くものである。したがって、イ号意匠ないしハ号意匠と本件意匠Aとの相違点である、作業過程及び最終使用時において「外部露出面」における「鮮やかな色彩上での相違を伴い全周にわたって存在するライン模様」、「ミシン目が装飾的にも目立つ雌雄面ファスナー2’等、4’等のベルト本体1’への縫い付け方」、「最も目立つ位置に位置する商品ラベル」、及び、ハ号意匠と本件意匠Aとの相違点である「アジャスターによりほとんどの長さ調整を行う」という点は、均質・等質な形状の模様のないベルトが連続するという形で顕在化される本件意匠Aの全体美感の基調を異ならしめる事項として顕著な相違点となる。 イ 周知・公知意匠の参酌の範囲 (ア) 本件意匠Aにおいて、看者の注意を惹くべき部位を特定するに際しては、周知・公知意匠として、米国特許第3942636号公報(乙15)記載の「布製ベルト7」、米国特許第3307872号公報(乙16)記載の「サポートベルト12」、実開昭55-30241号公報(乙17)記載の「締結バンド」の意匠を参酌するのが相当である。 乙15、16を参酌すれば、本件意匠Aの基本的構成態様AないしD及び具体的構成態様bないしdは、出願時において周知・公知であることが判明し、また、乙17を参酌すれば、本件意匠Aの基本的構成態様A及びDは出願時において公知であり、基本的構成態様Bは「間隔3」を設けないことを除いて出願時において公知であり、具体的構成態様も多くが公知であることが判明する。 (イ) 原告は、乙15〜17の公知意匠は、本件意匠Aと意匠に係る物品が異なるから、本件意匠Aの新規な部位を判断するに当たり参酌することができないと主張する。しかし、物品の用途及び機能の同一性は、あくまで引用意匠との間で比較・検討する際の相対的な概念であり、一義的に外延が決定される事項ではない。物品の性質等を勘案して一義的な用途(目的)を定めるような物品でない場合、主な用途(目的)の違いは、双方の使用態様の相違に係る形態観察の段階で考慮すれば足りる。原告の主張は、物品の異同を過度に強調するもので相当でない。 乙15の「布製ベルト7」は、折り畳まれた荷物たる可撓性水管1を縛るために使用され(用途同一)、可撓性水管1がばらばらになるのを防止する機能を有するものであるから(機能同一)、独立した取引対象となる物品であり、本件意匠に係る物品である「荷崩れ防止ベルト」と同一又は類似の物品である。 また、乙16の「サポートベルト12」は、流通過程に置かれた場合、調整用の「サポートベルト11」と分離した形で存在し得るものであり、主な使用態様の場は本件意匠Aと異なるが、一本のベルトとして物を緊縛する用途に使用し得る物品として、本件意匠Aとその形態を対比することができる。「サポートベルト12」は、「サポートベルト11」と協同して、人の胴体38を壁面37に縛り付けておくために使用するのが通常の使用態様であるが、両者は、物体同士(胴体38と壁面37)を縛るために使用され(用途同一)、その際に物体同士がばらばらになるのを防止する機能を有するものであるから(機能同一)、本件意匠に係る物品である「荷崩れ防止ベルト」と同種の分野に属する物品である。 ウ 出願経過参酌 原告は、本件意匠Aの出願に際し、拒絶理由通知(乙1の5)に引用された実開昭55-30241号公報(乙17)記載の「締結バンド」の意匠との相違を説明するべく、昭和61年6月25日付け意見書(乙1の6)3頁において、 本件意匠Aの特徴的要素を、次のとおり説明した。 @ ベルトの長さ4960o(pとの記載は誤記)に対してファスナー雄部が15p。 A ベルトの長さ4960oに対してファスナーの雌部の距離は76p。 B ベルトの右端の2pの余裕 C ファスナーの雄部とファスナーの雌部の距離は46p。 当該構成要素のうち@、A及びCの各要素は、本件意匠Aの基本的構成態様A+B及び具体的構成態様a+bに関する指摘であり、Bの要素は、基本的構成態様C及び具体的構成態様cに関する指摘である。上記イで説明したとおり、これらの各要素は乙15、16に既に開示されていたありふれた内容でしかなかった以上、原告が上記意見書で主張した具体的な数値割合自体を本件意匠Aの要部と理解せざるを得ないものである。さらに、当該意見書が乙17記載の意匠との相違点として強調した各構成態様に係る事実(特に「間隔3」の存在)は、自ら登録を得るために公知意匠との相違点と主張した以上、包袋禁反言の観点からしても、上記@〜Cの各構成態様がすべて結合している点をもって要部と判断せざるを得ない。 (3) 本件意匠Aとイ号ないしハ号意匠との類否判断 ア 上記(2)によれば、本件意匠Aとイ号ないしハ号意匠は、共通する部位が需要者(作業者)の注意を惹かず、かつ、ありふれた部位であるのに対し、相違する部位は、需用者(作業者)が注意を払わざるを得ない部位、又は本件意匠Aの特徴的な部位を構成する事項である。そうすると、本件意匠Aとイ号ないしハ号意匠は、意匠上の要部を共通にしておらず、共通部分もありふれた内容でしかないから、類似しない。 イ この点について、原告は、類似意匠A-5がイ号物件の形態と同一であることによれば、イ号ないしハ号意匠が本件意匠Aに類似することは明らかであると主張する。 しかし、原告は、類似意匠A-5の出願に際し、@「雄面ファスナー2」の図示を曖昧に記載することにより「間隔3」の有無の判別を困難にせしめ、 A類似意匠A-5と本件意匠Aとの意匠的要素の共通性を保つべく、被告製品の具体的形態に次のとおり意図的な変更(つまみ代部5、雌雄面ファスナー2・4からなる「調整区域」をベルト全体長の約3分の1にし、雄面ファスナー2と雌面ファスナー4の割合を厳密に1対5に保ち、留め具6の具体的形状を本件意匠Aと同様にし、留め具6を固定するベルトの巻き付けが荷物側になるようにする。)を加えて類似意匠登録出願を行った。また、原告は、類似意匠A-5の登録出願当時、被告オーエッチ工業から被告製品と本件意匠Aの相違点として指摘されていた「色鮮やかなライン模様の有無」に関し、色彩要素に係る特定を唯一行った類似意匠A-6においてその旨を図示することはなかった。 原告が、このような不当な出願を行った上で、被告製品が本件意匠に類似すると特許庁が確定的に判断したと主張するのは、類似意匠A-5の出願が、本来判定制度によるべきところに類似意匠制度を利用し、特許庁の判断を騙取せんと企図した出願であったと自認するに他ならない。なお、原告が類似意匠A-5の類似意匠登録出願につき、被告各製品の形態と類似しているとの認識を持っていたのであれば、そもそも類似意匠A-5の類似意匠登録出願は意匠法3条1項1号及び3号により瑕疵ある出願として無効原因を包含することを自認していたものに他ならない。 そうすると、本件意匠Aの要部把握に当たって類似意匠A-5を参酌するのは適切でない。 2 争点(2)(ニ号意匠は本件意匠Bに類似し、ニ号物件の意匠は全体として本件意匠Bの利用意匠といえるか)について 【原告の主張】 (1) 本件意匠Bに係る荷崩れ防止ベルトは2本一組で使用される物品であり、 本件意匠Bに係る面ファスナー側のベルトと他の1本の「リング側のベルト」が連結されることにより全体で「両端部にL形フックを備えた荷崩れ防止ベルト」(完成品)を形成する。この場合、組合せ全体としては、本件意匠Bの形態とは異なる一つの荷崩れ防止ベルトとなるが、なおそこには、本件意匠Bの構成要素及び本質的特徴のすべてを損なうことなく、かつ他の1本のリング側のベルトと区別し得る態様で本件意匠Bが取り入れられている。したがって、2本一組に組み合わせて販売することが可能なベルトにおいて、本件意匠Bに係る物品を一方側に組み合わせて販売することは、その全体において意匠法26条1項又は2項に基づく利用意匠に該当し、本件意匠権Bを侵害するものである。 なお、本件意匠Bに係るベルトを交換用部品として単体で製造販売することが侵害を構成することはいうまでもない。 (2)ア 本件意匠Bの基本的構成態様及び具体的構成態様は、別紙【本件意匠Bの構成】の原告欄記載のとおりである。そして、「縦巻き使用型の、フック金具を備える荷崩れ防止ベルト」という同種物品に係る従来の公知意匠(甲21・図O〜S参照)を勘案すると、本件意匠Bの出願時、更にはその後現在に至るまで、本件意匠Bの形態を備えた公知意匠は存在しない。したがって、本件意匠Bの要部は、 荷崩れ防止ベルトという一つの物品上に統一的に具現された、 A 細幅の矩形帯状ベルトにおいて、 B その一端部にL形フックが設けられ、 C その他端部にはつまみ代部が設けられ、 D 上記つまみ代部に続けて、矩形短寸法及び矩形長寸法の雌雄面ファスナーが、いずれも同一面に取着されている、 という基本的構成態様にある。 イ 類似意匠B-5 このことは、本件意匠Bの類似意匠である類似意匠B-5についての特許庁の審査結果からも明らかである。類似意匠B-5は、拒絶理由の通知もなく登録されたから、本件意匠Bと類似意匠B-5は、「雌雄面ファスナーを分離配設したか連続配設したか」、「ライン模様が有るか無いか」で相違するものの、要部が共通しており類似し、さらに、すべての先行公知意匠に対しては要部が異なり非類似であると判断された。すなわち、本件意匠Bの要部については、類似意匠B-5についての特許庁の審査結果によれば、本件意匠B(本意匠)と類似意匠B-5とが共通して具備する基本的構成態様A〜Dにあり、「雌雄面ファスナーを分離配設したか連続配設したか」、「ライン模様が有るか無いか」の差異点に係る部分形態は本件意匠Bの要部とはならない。 (3) 被告らは、本件意匠Bの要部の認定に関して考慮されるべき要素として種々の事項を主張するが、これらは、いずれも次のとおり失当である。 ア 看者 本件における看者は、本件意匠の属する物流分野、貨物取扱用機械器具の分野における取引者と需要者の両者、あるいは取引者又は需要者のいずれか一方である。 イ 周知・公知意匠 被告が提出する「サポートベルト」に係る公知意匠(乙16)は、本件意匠Bに係る物品と同種物品に係る意匠ではない。本件意匠Bの要部を認定するに当たって参酌されるべきでない。これを認めるならば、「荷崩れ防止ベルト」に係る本件意匠権Bの効力は、物流あるいは貨物取扱い用機械器具分野を越えて、「物体同士を縛るために使用され、ばらばらになるのを防止するすべての物品」、例えば「医療用機械器具」「車いすの付属品(ベルト部分)」、あるいは「家具」「理美容いすの付属品(ベルト部分)」にまで及ぶこととなるが、これが許されないことと同様その主張の誤りは明らかである。 (4) ニ号物件(商品名「フック付マジック」、品番「FM」)のファスナー側のベルト(以下「ファスナー側のFM」という。)の意匠(ニ号意匠)の構成は、 別紙【ニ号意匠(ファスナー側のFM)の構成】の原告欄記載のとおりである。ニ号意匠は、「面ファスナーの縫い付け方の違い」「品名、品番、会社名に係るラベルの有無」、「アジャスター取付部の縫い付け方の違い」等の相当注意深く見なければ気づかない程度の極めて小さな相違点を除いて、類似意匠B-5と同一の構成態様を有する。したがって、ニ号意匠は、本件意匠Bに類似する。 【被告らの主張】 (1) 本件意匠Bとニ号意匠との共通点及び相違点 本件意匠Bの構成態様は、別紙【本件意匠Bの構成】の被告主張欄のとおりであり、ニ号意匠の構成態様は、別紙【ニ号意匠(ファスナー側のFM)の構成】の被告主張欄のとおりである。 ニ号意匠と本件意匠Bを対比すると、基本的構成態様C、Dにおいて共通するが、基本的構成態様Aにおいて、ベルトの連続性がなくアジャスターを備えている点、及び基本的構成態様Bにおいて、雌雄面ファスナー2’・ 4’を「連続して」貼り付けている点において相違するほか、次の点で相違する(共通点及び相違点の詳細は、被告らの平成14年12月2日付け準備書面(第5回)添付の対比表参照)。 ア 基本的構成態様A及び具体的構成態様a a 本件意匠Bは、ベルト本体1が全長約2.1mであるのに対し、ニ号意匠は、ベルト本体1’がアジャスター調整を加味しても、全長約2.3〜4.6mであり、ベルトの全長及び幅の関係が本件意匠Bと相違する。 b 本件意匠Bは、ベルト本体1の中間部に雌面ファスナーが位置し(乙39)、雌雄面ファスナー2・4が設けられた区域(以下「調整区域」という。)の長さがそれが設けられていない区間(以下「非調整区域」という。)よりも長いが、ニ号意匠は、雌雄面ファスナー2’・4’が設けられた調整区域の長さ(58p)が、アジャスター調整を加味しても、非調整区域の長さ(約4.1m〜1.7m)よりもはるかに小さい。 c 本件意匠Bは、ベルト本体1に模様が付されていないが、ニ号意匠は、ベルト本体1’の雌雄面ファスナー2’・4’が設けられている面に「ライン模様」が付されている。 イ 基本的構成態様B及び具体的構成態様b a 本件意匠Bでは、雌雄面ファスナー2・4の間に「間隔3」を設けているが、ニ号意匠では、雌雄面ファスナー2’・4’が連続して貼り付けられている。 b ニ号意匠では、裏面側に(少なくともその一部は最終使用時には外部露出部となる。)矩形枠状のミシン目が顕出される。 c 本件意匠Bは、雄面ファスナー2より雌面ファスナー4の方が長いが、ニ号意匠では、雄面ファスナー2’が15pで雌面ファスナー4’が40pと、後者が前者のおよそ2倍程度であり、ある程度大きい。 d ニ号意匠では、短区間の雌雄面ファスナー2’・4’に連続して、 『パレットベルト/品番/オーエッチ工業株式会社』に係る表示が表面に表記される形で長さ約10pのラベルがベルト本体1’の表面から裏面にわたって貼り付けられている。 ウ 基本的構成態様C及び具体的構成態様c 本件意匠Bでは、U字上の特別の「把手部材」を雌雄面ファスナー2、 4が貼り付けられた面と逆の面に取り付けるが、ニ号意匠においては、ベルト本体1’の他端部に雄面ファスナー2’を設けない形でつまみ代部 5’を設けているにすぎず、ベルト本体1’とは異なる別部材で「把手部材」を採用する形態ではない。 エ 基本的構成態様D及び具体的構成態様d 本件意匠Bでは、留め具6が「ベルト本体1の他端部折り返し部」が「巻き付け」られて固定される。ニ号意匠では、ベルト本体1’の他端部がループ部6A’を通って折り返された後、アジャスターの中軸に巻き付けられて固定される。留め具6’自体は、アジャスター中軸に巻き付けられた中で、ベルト本体1’の折り返し内を自在に移動し得るよう構成されている。 (2) 本件意匠Bの要部把握に際しては、次の要素を考慮すべきである。 ア 看者 本件意匠Bの要部の特定に際しては、最終使用者である作業者(需要者)を主な看者と捉え、本件意匠Bに係る物品の通常の使用態様である作業過程及び最終使用時において、いかなる部位が看者である作業者(需要者)の注意を惹くべき部位であるかを検討すべきである。通常の使用態様下において看者である需要者の注意を惹くべき箇所は、次のとおりとなる。 (ア) 「ファスナー側のベルト」という本件意匠Bに係る物品の性格、用途から勘案すると、パレットに積み上げた荷物の外周をリング側のベルトと協同して巻き付け可能であることが商品購入の前提である。需要者は、長さ及び幅の具体的相関関係に注意を払わざるを得ない。特に、リング側のベルトに届いて折り返しを行えるかという意味で、長さ部分に注意が払われざるを得ない。 (イ) 作業者が調整幅に意識的な注意を払うことからすれば、リング側のベルトと協同して締め付け作業を行うファスナー側のベルトにおいて、調整区域である雌雄面ファスナー2・4とその余のベルト本体1の占める割合は、2個一組のベルトを組み合わせて締結作業を行う際の調整幅として注意が払われざるを得ない部位である。 (ウ) 締結作業時において、作業者は折り返し箇所に着目する。雄面ファスナー2と雌面ファスナー4との間の空白部分の「間隔3」及び下方向に引き下げる把手部材は、作業者の注意を惹く部位である。また、雄面ファスナー2より長尺に設定される雌面ファスナー4の具体的割合は、締め付け力を調整すべき最大範囲を特定する構成として、作業者の注意を惹く部材となる。 (エ) 本件意匠Bは、上下方向の外周の内、底辺たるパレット部分を除く3辺を略同一長さのリング側のベルトと協同して巻き付け作業を行う物品に係る意匠である。締結作業において、ベルト本体1と向き合う高さ位置での「正面」があり、かつ、最終使用時点で外部に現れる「外部露出面」と外部に顕れることのない「荷物側面」とがある以上、その看者の注意を惹く部位を判断する上で区別が必要である。 イ 周知・公知意匠 (ア) 本件意匠Bの要部を特定するには、周知・公知意匠として、実開平1-63633号公報(乙18)第1図右側記載の「ベルト部材3b」の意匠に加え、2分割したベルトの締結方法(ロープ用緊張具)として周知形状を明記している米国特許第3307872号公報(乙16)の「サポートベルト12」を参酌すべきである。本件意匠Bは、登録後現在まで、特許庁において「G1-04」「ロープ用緊張具」と意匠分類されており、本件意匠Bに係る物品は、「リング側のベルトと協同して両者による荷物の緊縛固定に当たって、ロープを緊張させる物品」といえる。2個一組のベルトを組み合わせ締結しロープを緊張させる物品は、乙16、乙18、乙38(実開昭49-44690号公開実用新案公報)に記載されたベルトのように、同種物品たる一分野を構成している。したがって、これらの公知意匠を参酌して本件意匠Bの特徴を検討することに問題はない。 (イ) 上記公知意匠に加え、本件意匠Aに係る意匠公報(甲1の1)及び実開昭61-32051号公報(乙19)を参酌すれば、本件意匠Bの基本的構成態様AないしD及び具体的構成態様bは、本件意匠B出願時において周知・公知であった。また、ループ部6A及びフック6Bを備えるという本件意匠Bの留め具6の形状(具体的構成態様d)は、平成元年1月13日発行の包装タイムス(甲5)において、留め具の形状を備えた2個一組のベルトが市場に出回り周知意匠となっていた。実開平1-63633号公報(乙18)第1図右側記載の「ベルト部材3b」の意匠から明らかなとおり、単体としてはありふれた形状である。 ウ 類似意匠B-5 原告は、類似意匠B-5が登録された事実をもって、本件意匠Bに「間隔3」を設ける点が要部でないと主張するが、上記主張には合理的根拠がないだけでなく、類似意匠B-5は、原告と被告オーエッチ工業との間の本件意匠権Bに関する交渉が行き詰まった際、ニ号物件と本件意匠Bとの判定を求めることなく類似意匠出願をしたものであり、被告製品の形態と類似意匠B-5が類似すると主張すること自体、類似意匠B-5の出願が意匠法3条1項1号及び3号に該当する無効理由を包含する瑕疵ある出願であることを自認するものである。 類似意匠B-5と同じ平成10年12月28日付けでされた本件意匠Bを本意匠とする類似意匠の出願は、類似意匠B-2〜5の4点である。これらの類似意匠において第一に目を惹くところは、雄面ファスナー2、間隔3及び雌面ファスナー4により構成される「調整可能区域」が「ベルト本体1」の大半を占める点である。 全体美感における印象の共通性を度外視して、ニ号意匠のように、短尺の「雄面ファスナー2’」(15p)に連続してこれよりある程度長い(40p)「雌面ファスナー4’」が配置された場合にまで、本件意匠Bの「間隔3」の有無や「ライン模様」の有無が全体美感を左右しない要素であると考える余地はない。 (3) 共通点及び相違点の評価 上記(1)(2)によれば、ニ号意匠と本件意匠Bの共通点はありふれた部位にしか存在せず、以下のとおり、看者の注意を惹く部位において発生する顕著な相違点が全体美感を異ならしめている。 ア 乙18の「ベルト部材3b」を参酌すると、本件意匠Bの一つの特徴は、雌雄面ファスナー2、4及び間隔3からなる調整可能区域がベルト本体1の大半を占めることにあるが、ニ号意匠においては、雄面ファスナー2’が15pで雌面ファスナー4’が40pであり、全長2.3m〜4.6mのベルト本体1’よりもはるかに小さいため、このことは、看者の注意を惹くべき部位における相違点となる。 イ 上下方向に締結作業を行う2個一組商品に係る本件意匠B及びニ号物件において、「間隔3」の有無は、締結作業時に折り返し部位として作業者が着目する部位であるから、ニ号意匠に「間隔3」が存在しないことは、看者の注意を惹くべき部位における相違点となる。 ウ 荷崩れを防止するためベルト体を用いる通常の使用態様を、パレット上に載置される荷物の量を常識的に把握して想定した場合、最終使用時において、本件意匠Bは、ベルト本体1の全長が約2.1mであるため、荷物上方でリング側のベルトによって下方向に折り返され、雌雄面ファスナー2・4と留め具6が荷物の「正面」側に並び、これらの結合関係が一体化した美感として完成される。これに対し、「ファスナー側のFM」は、アジャスター調整を加味しても、全長約2.3〜約4.6mであり、これを約56pの「リング側のFM」と組み合わせるときは、「ファスナー側のFM」は上方向へ折り返されることになる。そうすると、雌雄面ファスナー2’・4’と留め具6’とは、正面位置と背面位置に分離され、看者の注意を惹くべき部位における相違点となる。 エ 本件意匠Bにおいては、締結作業を行うに際して、作業者がこれを把持して引き下げ、最終使用時にも垂れ下がる形で表面上の凹凸を形成することのないベルト本体から独立したU字状の把手部材5が設けられているのに対し、ニ号意匠では、先端部に雄面ファスナー2’を設けないことによりつまみ代部5’を形成しており、この相違点は、看者の注意を惹くべき部位における相違点となる。 オ 本件意匠Bの全体美感は、均質・等質な形状の模様のないベルトが連続する形で顕在化される。ニ号意匠には、作業過程及び最終使用時において、外部露出面に「鮮やかな色彩上での相違を伴い全周にわたって存在するライン模様」(FM-Eでは3本線)、「ミシン目が装飾的にも目立つ雌雄面ファスナー2’・4’のベルト本体1’への縫付け方」、「最も目立つ位置に位置する商品ラベル」及び「アジャスターによりほとんどの長さ調整を行う」点における相違がある。これらは、全体美感の基調を異ならしめる事項として顕著な相違点となる。 (4) 上記(1)〜(3)によれば、本件意匠Bとニ号意匠とは、その意匠上の要部を共通にしておらず、共通部分も単にありふれた内容でしかないから類似しない。原告は、2本一組のニ号物件の意匠は本件意匠Bを利用するものであると主張するが、利用意匠の成否に判断に当たっては、全体の物品の中で一部の意匠が混然一体とならずに独立した美感としてされているかとの評価を前提とするものである以上、「ファスナー側のFM」と本件意匠Bとの類比を判断する以上に、「リング側のFM」との組合せという通常の使用態様における看者の注意を惹くべき部位の印象の強弱を更に考慮せざるを得ない。したがって、仮に、ニ号物件の通常の使用態様で「ファスナー側のFM」が混然一体とならずに独立した美感が形成され得るとしても、ニ号意匠と本件意匠Bとが類似していない以上、本件意匠Bの利用意匠でないことは明らかである。 3 争点(3)(本件意匠A及び本件意匠Bの意匠登録には、無効理由があることが明らかか)について 【被告らの主張】 本件意匠Aは、上記1【被告らの主張】(2)イのとおり、乙15ないし17に記載された意匠と比較して、意匠権として保護されるべき実体を欠く無効原因がある。したがって、本件意匠Aの意匠登録は、その意匠登録が意匠法3条1項3号及び同条2項に違反してされたものとして、意匠法48条1項1号の無効原因が存在することが明らかである。 本件意匠Bは、上記2【被告らの主張】(2)イのとおり、乙16、乙18等に記載された意匠と比較すれば、意匠権として保護されるべき実体を欠く無効原因がある。したがって、本件意匠Bの意匠登録は、その意匠登録が意匠法3条1項3号及び同条2項に違反してされたものとして、意匠法48条1項1号の無効理由が存在することが明らかである。 【原告の主張】 本件意匠A及びBは、いずれもその出願前における「物流分野において、パレット上に積み重ねた多数個の荷物の荷崩れ防止を目的として使用する、貨物取扱い用機械器具に属する物品荷崩れ防止ベルト」には見ることのできない、基本的形態自体に新規性及び独創性を有する斬新な意匠であり、無効理由がないことは明白である。 4 争点(4)(被告製品の製造、販売は、不正競争防止法2条1項1号にいう不正競争行為に当たるか)について (1) 同ア(原告製品の商品形態には、原告の商品表示として周知性があるか)について 【原告の主張】 ア 原告製品A(商品名「パレマジック」)は、上記1【原告の主張】(1)で本件意匠Aの要部とされる基本的構成態様A〜Dの外観形態(以下「形態A」という。)を備えており、原告製品B(商品名「L型恐力パレバンド」)は、上記2【原告の主張】(1)で本件意匠Bの要部とされる基本的構成態様A〜Dの外観形態(以下「形態B」という。)を備えている。 イ 原告は、昭和60年秋ころから原告製品Aを、平成2年ころから原告製品Bをそれぞれ販売し、その販売促進に当たり、次のような広告宣伝活動を行った。その結果、遅くとも平成6年秋ころには、形態A及び形態Bは、原告製品を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至った。 (ア) 原告は、平成元年から平成10年までの間、ほぼ毎月「L型恐力パレバンド」の名称を記載した広告を、株式会社日報アイ・ビー発行の全国誌「週刊包装タイムス」に掲載している。同誌の現在の発行部数は、全国5万6000部である。 (イ) 原告は、パンフレット、カタログを作成し、営業活動や展示会で配布している。パレマジックは平成元年ないし平成3年、平成4年合計1万7000枚、L型恐力パレバンドは平成4年に4000枚作成し、いずれも営業活動や展示会等で配布している。カタログ集については、平成5年から平成12年までの間に合計5万2500部作成し、営業活動や展示会などで配布している。 (ウ) 全国包装産業名鑑の平成4年版、平成6年版、平成8年版、全国包装関連企業ガイドの1999年(平成11年)版、2001年(平成13年)版に、包装関連資材カタログ集の1992年版ないし1998年版に、包装関連器材カタログ集の1999年(平成11年)版、2002年(平成14年)版に、いずれも「パレマジック」「L型恐力パレバンド」の広告が掲載されている。 (エ) 原告は、社団法人日本包装技術協会主催の展示会「東京パック」に、昭和61年、昭和63年、平成4年、平成6年、平成8年、平成10年、平成12年に原告製品を出展し、平成7年には「大阪パック」に出展した。 ウ また、本件意匠Aに係る意匠公報が昭和62年9月19日に、類似意匠A-1に係る意匠公報が平成5年7月9日に、同2に係る意匠公報が同年10月22日に、同3に係る意匠公報が同年10月22日に、本件意匠Bに係る意匠公報が同年7月14日に、類似意匠B-1に係る意匠公報が同年7月16日に、それぞれ発行されている。 これらの意匠公報の発行から数年を経過することによって、本件意匠A及び本件意匠Bに係る荷崩れ防止ベルトの形態は、物流分野、貨物取扱い用機械器具の分野における取引者及び需要者の間において周知となり、その使用状態もまた各意匠公報記載の「使用状態を示す参考図、参考斜視図」によって周知となった。 したがって、原告製品の形態が原告製品の商品表示として周知性を獲得したことは明らかである。 【被告らの主張】 原告製品の外観が、不正競争防止法2条1項1号に定める周知商品表示性を獲得したとはいえない。 ア 原告製品は、本来、一般消費者向けの大量消費型商品ではなく、パレットという物品輸送システムの備品を利用する専門業者をエンドユーザーとする特定業務用の取扱商品である。このような商品に関しては、機能性の観点から商品を選択し、求める機能を有すべき商品の型番、メーカー名に係る表示部分に基づき商品の受発注を行うのが通常である。このような商品では、装飾的で選択的な商品の外観・形状に依拠した取引実態とはなり得ない。 まして、原告が商品表示と主張する形態A及びBは、実質、構造・機能に関する事項であり、需要者である専門業者において、商品を識別して、出所を信頼すべき由縁と評価し得るところはない。 イ 「パレマジック」なる商品名を有する本件意匠A対応原告製品については、原告が主張する具体的な原告製品の種類自体が不明確であり、「L型パレバンド」に関しては、その販売開始時期にすら疑問がある。まして、「L型恐力パレバンド」の商品名は、原告主張の周知商品表示性に係る要素を有さない2個の留め具を利用する商品にも使用されており、原告が提出する書証は、販売開始時期を裏付けるところがない。原告が広告宣伝を行った根拠として提出する資料には、単に製品名又は原告の商号が媒体に取り上げられていることを示す意義しかなく、面ファスナーの有無すら記載がなく、具体的な原告製品の形態を示すところがない。 ウ 現在、市場においては、トラスコ中山株式会社の製造販売する結束ベルト「マジック結束テープ」(乙43)、原告が販売代理店として取り扱っている旨カタログに記載されている株式会社クラレの「フリーマジック ストラップ」(乙44)、「マジクロス」という面ファスナーの供給会社であるカネボウベルタッチ株式会社が発行するリーフレット(乙46の1〜4)において、用途例の一つとして記載される「各種結束帯」(乙46の1)等、面ファスナーを利用したベルト類は数多く製造・販売されており、原告製品の商品形態に原告が主張するような商品表示性は認められない。 (2) 同イ(被告製品の商品形態は、原告製品と類似するか)について 【原告の主張】 原告製品と被告製品は、いずれも同一の用途に用いられ、かつ同一の機能を有するとともに、被告製品の商品形態は、原告製品と同一の特徴的形態を有するものであって、両者は酷似する。なお、被告製品は、被告製品の実物を写真撮影したもののほか、カタログ写真(甲7)として記載されたものによっても特定されるべきである。被告カタログの「サイズ」欄を見て被告製品を発注すれば、当該意味される数値の製品が販売されるのであるから、この「サイズ」欄により特定される製品は、被告オーエッチ工業が製造・販売する被告製品そのものである。被告らは、原告製品が周知となっていることを承知の上で、原告製品に酷似した形態の被告製品を、意図的に原告製品と誤認混同させる態様で消費者に対し販売しており、 事実、被告製品について原告に販売問い合わせや発注書のファックスが来るほどである。 【被告らの主張】 原告の主張は争う。被告製品の形態は、カタログ写真に撮影された物品の形態も含めて、原告の主張する周知商品表示とは、需要者が商品を混同するほどに類似していない。 5 争点(5)(被告川村産業は、被告製品を販売し、又は今後販売するおそれがあるか)について 【原告の主張】 被告川村産業は、平成8年12月ころから、被告オーエッチ工業と共同して、被告製品を業として製造、販売している。 【被告らの主張】 被告川村産業は、被告製品を実際に販売したことはなく、平成9年9月ころの一時期にその取扱製品の一部に加え、販促活動を行ったが、実際には全く販売に至らなかった。 6 争点(6)(損害賠償請求権のうち、平成10年6月5日までの分について消滅時効が完成しているか)について 【被告らの主張】 本件意匠権A及びBの意匠権侵害に基づく損害賠償請求及び不正競争防止法2条1項1号に基づく損害賠償請求に関しては、平成10年7月23日付け通知書(甲15の1)のとおり、少なくとも、原告の認識においては、本件訴訟において意匠権侵害及び不正競争防止法違反を根拠として請求する損害賠償請求権を基礎付ける損害及び加害者の事実を当該通知書発送の時点で認識していたことが明らかである。したがって、本件訴訟を岐阜地方裁判所に提起した平成13年6月6日から3年以上前の平成10年6月5日までの損害賠償請求部分に関しては、民法724条の規定により既に消滅時効期間が満了している。 被告らは、それぞれ上記消滅時効を援用する。 【原告の主張】 被告ら主張の消滅時効の起算点は争わない。しかし、原告は、不当利得の返還を併せて請求しているのであり、少なくとも平成8年12月1日以降(甲6カタログ定価表記載の日付)の総額について、損害が認定されるべきである。 7 争点(7)(原告の損害額ないし損失額)について 【原告の主張】 被告らは、少なくとも平成8年12月ころから被告製品の製造販売を開始しており、少なくとも月に800枚を単価1600円、平成10年からは月1000枚を単価1600円で製造販売している。その純利益は40%であり、被告らは、 本件意匠権A及びBの侵害行為及び不正競争行為により、少なくとも1枚当たり640円の利益を不当に得ているものである。 (平成8年12月から平成9年まで) 800枚/月×1600円×13ヶ月×40%=6,656,000円 (平成10年1月から平成13年5月まで) 1000枚/月×1600円×41ヶ月×40%=26,240,000円 したがって、被告らは少なくとも合計3289万6000円の利益を得ているものであり、被告らが受けた上記利益額は、意匠法39条2項及び不正競争防止法5条1項により、原告が受けた損害の額と推定される。また、被告らは、上記各行為により同額の利得をし、原告は、同額の損失を被った。 よって、原告は、被告ら各自に対し、損害賠償請求又は不当利得返還請求として、上記3289万6000円及び本件訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求する。 【被告らの主張】 争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)(イ号ないしハ号意匠は、本件意匠Aと類似するか)について (1) 本件意匠Aの構成 別紙意匠公報A-1(甲1の1)及び乙1の2、4(本件意匠Aに係る意匠登録願及び添付図面)によれば、本件意匠Aの構成は、次のとおりであると認められる。 ア 基本的構成 A 極めて細幅な長尺帯状のベルト本体である。 B ベルト本体の表面の一端につまみ代部が設けられている。 C ベルト本体の表面には、つまみ代部に続けて、短寸法の雄面ファスナーと、それよりも長寸法の雌面ファスナーが、一定の間隔を置いて離れた状態で取り付けられている(以下、この雄面ファスナーと雌面ファスナーとの間の部分を「雌雄間隔」という。)。 D ベルト本体の他端に環状留具が設けられている。 イ 具体的構成 a@ ベルト本体は、幅寸法と長さ寸法の比率が約1:100と極めて大きい。 A ベルト本体の表面(雌雄面ファスナーが設けられている面)及び裏面にはいずれも模様がない。 B ベルト本体のうち、雌雄面ファスナーと雌雄間隔を合わせた調整可能区域がベルト全長に占める割合は約3割弱である。 b つまみ代部は、ベルト本体の表面に取着された雄面ファスナーよりも先端側に面ファスナーを取付しないことにより、長さ2〜3pの矩形状に形成されている。 c@ 雌雄面ファスナーは、いずれもベルト本体とほぼ同じ幅の細長い矩形帯状に形成され、ベルト本体の表面に貼り付けられている。 A 雌面ファスナーの全長は、雄面ファスナーの全長よりも大きく、雄面ファスナーと雌雄間隔と雌面ファスナーの各長さの比率は、約1:3:5である。 d 環状留具は、輪郭が幅広の矩形枠状を呈しており、その一側軸には、 ベルト本体の折り返し部が表面から裏面に向かって巻き付けられることにより連結されている。 (2) イ号ないしハ号意匠の構成 イ号ないしハ号物件が、別紙イ号ないしハ号物件目録記載のとおりであることは当事者間に争いがない。別紙イ号ないしハ号物件目録によれば、イ号ないしハ号意匠の構成は、次のとおりであると認められる(なお、下線部は、上記(1)で認定した本件意匠Aの構成態様との相違点である。)。 (イ号意匠) ア 基本的構成 A 極めて細幅の長尺帯状のベルト本体である。 B ベルト本体の表面の一端につまみ代部が設けられている。 C ベルト本体の表面には、つまみ代部に続けて、短寸法の雄面ファスナーと、それよりも長寸法の雌面ファスナーが間隔を設けることなく連続した状態で取り付けられている。 D ベルト本体の他端に環状留具が設けられている。 イ 具体的構成 a@ ベルト本体は、幅寸法と長さ寸法の比率が約1:78〜108(イ号物件その第2では約1:156〜216 )と極めて大きい。 A ベルト本体の表面(雌雄面ファスナーが設けられている面)には、 ライン模様が全体にわたり1条設けられており、 裏面には模様がない。 B ベルト本体のうち、雌雄面ファスナーを合わせた調整可能区域の長さが全長に占める割合は約24%ないし約18%である 。 b つまみ代部は、ベルト本体の表面に取り付けられた雄面ファスナーよりも先端側(約3p)には面ファスナーを取り付けないことにより、矩形状に形成されている。 c@ 雌雄面ファスナーは、いずれもベルト本体とほぼ同じ幅の細長い矩形帯状に形成され、ベルト本体の表面に貼り付けられている。 A 雌面ファスナーの全長(80p)は、雄面ファスナーの全長(15p)よりも大きく、雄面ファスナーと雌面ファスナーの各長さの比率は、約1:5である。 d 環状留具は、輪郭が矩形枠状を呈しており、その一側軸には、ベルト本体の折り返し部が裏面から表面に向かって巻き付けられることにより連結されている。 (ロ号意匠) ア 基本的構成 イ号意匠の基本的構成AないしDと同じ。 イ 具体的構成 a@ ベルト本体は、幅寸法と長さ寸法の比率が約1:84〜108(ロ号物件その第2では約1:168〜216 )と極めて大きい。 A イ号意匠の具体的構成aAと同じ。 B ベルト本体のうち、雌雄面ファスナーを合わせた調整可能区域の長さが占める割合は約37ないし約29パーセントである 。 b イ号意匠の具体的構成bと同じ。 c@ イ号意匠の具体的構成c@と同じ。 A 雌面ファスナーの全長(140p)は、雄面ファスナーの全長(15p)よりもはるかに大きく、雄面ファスナーと雌面ファスナーの各長さの比率は、約1対9である。 d イ号意匠の具体的構成dと同じ。 (ハ号意匠) ア 基本的構成 A 極めて細幅な長尺帯状のベルト本体であり、途中にアジャスターを備えている。 その余は、イ号意匠の基本的構成BないしDと同じ。 イ 具体的構成 a@ ベルト本体は、幅寸法と長さ寸法の比率が約1:86〜110(ハ号物件その第2は約1:172〜220 )と極めて大きい。 A イ号意匠の具体的構成aAと同じ。 B ベルト本体のうち、雌雄面ファスナーを合わせた調整可能区域の長さが占める割合は約13ないし約10%である。 b イ号意匠の具体的構成bと同じ。 c@ イ号意匠の具体的構成c@と同じ。 A 雌面ファスナーの全長(40p)は、雄面ファスナーの全長(15p)よりもある程度大きく、雄面ファスナーと雌面ファスナーの各長さの比率は、 約1:2.6である。 d イ号意匠の具体的構成dと同じ。 (3) 本件意匠Aの要部について 意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等も参酌して、取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。 そこで、本件意匠Aの要部を検討する。 ア 証拠(甲1の1、甲17の3、乙48、検甲5)及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠Aに係る物品である「荷崩れ防止ベルト」とは、物流分野・貨物運送分野において、パレットと呼ばれる約1メートル四方の荷台上に縦横方向共に多数載置された荷物群の荷崩れを防止する目的で使用される物品であり、その通常の使用態様は、パレットに多数積み重ねた荷物群の全外周にわたり長尺状のベルトを周回状に巻き付けて強度に締付固定する(横巻タイプ)ことによって、多数個の積荷を前後、左右、上下方向への揺れに対抗し得るよう一体化し、パレット上に結束された状態でフォークリフト等で運搬できるようにするものであることが認められる。 上記事実によれば、「荷崩れ防止ベルト」の需要者は、フォークリフト運送・コンテナ輸送を行う物流分野の専門業者に限定され、上記物品の購入選択は、物流・貨物運送分野の専門的知識を有するこれらの業者(取引者)が行うことになるが、このような専門的知識を有する取引者は、美感のみならず機能的な形態にも十分に注意を払った上で当該商品を購入、選択するものと推認される(なお、 被告は、看者を作業者に限定すべきであると主張するが、実際に「荷崩れ防止ベルト」なる物品を購入する者は作業者ではなく、当該物流・運送会社の流通担当者であり、これらの者も職務上当然に専門的知識を有するのであるから、これら取引者を要部認定の際の「看者」から除外する必要はない。)。そして、上記認定の「荷崩れ防止ベルト」の機能及び使用態様を考慮すると、このような物流分野の専門的知識を有する取引者が「荷崩れ防止ベルト」(横巻タイプ)という商品を選択するに当たっては、当該商品によって、パレット上に縦横両方向に多数個積載された荷物を運送中の揺れによっても崩れない程度に、横方向に強固に結束することが可能か否かという点に最も注意を惹き付けられるものと推認されるから、取引者は、有効締付寸法や結束力の強さを調節する機能を示す調整可能区域(雄面ファスナー、雌面ファスナー及び雌雄間隔)及び結束部の構成態様に、強く注意を惹かれるものと認めるのが相当である。 イ 公知意匠 (ア) 同一物品に係る意匠について 本件意匠Aの意匠登録出願前に公知であった「荷崩れ防止ベルト」に係る意匠は、実公昭51-71283号公報記載の意匠(甲21・図@)のみであるが、同意匠は、極めて細幅の長尺環状のエンドレスベルトであって、4か所にゴムバンドを取り付けるという基本的構成を有し、上記(1)アで認定した本件意匠Aの基本的構成態様AないしDのいずれも備えているものではない。 他方、本件意匠Aの先願の「荷崩れ防止ベルト」の意匠として、登録意匠番号第685396号及びその類似1・2(甲21・図A〜C)があり、これらの意匠は、極めて細幅の長尺帯状のベルト本体であること(基本的構成態様A)、ベルト本体の一端に環状留具が設けられていること(同D)という2点で、 本件意匠Aの基本的構成態様と共通する。 (イ) 同種物品に関する公知意匠について a 本件意匠Aの意匠に係る物品である「荷崩れ防止ベルト」は、上記アのとおり、多数個の荷物を長尺状のベルトで締結固定する結束具としての用途を有する物品であるところ、証拠(乙15)によれば、本件意匠の意匠登録出願前に、複数回折り重ねた可撓性導管(消防用ホース)を方形の包帯に縫い付けた長尺状ベルトで締結固定する結束具という点で「荷崩れ防止ベルト」と同一の機能を有するが、結束の対象物が可撓性導管である点で用途を異にする物品(類似物品)に係る意匠として、米国特許第3942636号公報第4図及び第7図記載「布製ベルト7」(以下「公知意匠A1」という。)が存在していたことが認められる。 b 公知意匠A1は、@細幅な長尺帯状のベルト本体7である、Aベルト本体の表面の一端につまみ代部が設けられている、Bベルト本体の表面に、つまみ代部に続けて、短寸法の雄面ファスナー3bとそれよりも長寸法の雌面ファスナー3aが一定の間隔を置いて離れた状態で取り付けられている、Cベルト本体の他端に環状留具が設けられているという、本件意匠Aとほぼ共通する基本的構成態様を備えている。 また、公知意匠A1と本件意匠Aを具体的構成態様について対比すると、@本件意匠Aではベルト本体の長さを約5mとし、幅寸法と長さ寸法の比率が約1:100であるのに対し(上記(1)イa@)、公知意匠A1ではベルト本体の長さを約1mとし、幅寸法と長さ寸法の比率が約1:40であること、C本件意匠Aでは雌面ファスナーと雌雄間隔と雄面ファスナーの各長さの比率が約1:3:5であるのに対し(上記(1)イcA)、公知意匠A1では約1:1:3であること、C本件意匠Aのつまみ代部は長さ2〜3pの矩形状に形成されているのに対し(上記(1)イb)、公知意匠A1のつまみ代部は雄面ファスナーの長さと同程度に長いことという4点においてのみ相違するにすぎず、その余の具体的構成(上記(1)イaA、c@、d)はいずれも共通し、雌雄面ファスナーと間隔を合わせた調整可能区域がベルト全長に占める割合が本件意匠Aでは約3割弱である点も(上記(1)イaB)、公知意匠A1では約35%と類似している。しかも、上記具体的構成態様における相違点@(ベルト本体の長さ及び幅寸法と長さ寸法の比率)は、ベルト本体の長さを結束の対象物の大きさに応じて適宜変更することは通常のことであると考えられる。 c この点について、原告は、公知意匠A1に係る物品は、「保安機械器具等」に属する物品であって、「物流、貨物取扱い用機械器具」の分野に属する本件意匠Aに係る物品「荷崩れ防止ベルト」とは、意匠の属する分野に関連性がない非類似の物品に係るものであるから、本件意匠Aの類否判断に当たり、公知意匠A1を参酌すべきではないと主張する。しかし、意匠の類比判断のために意匠の要部を認定するに当たって、公知意匠を参酌するのは、公知意匠は取引者・需要者がしばしば目にし得ることから、登録意匠の構成のうちで公知意匠と共通の部分は、 看者の注意を惹くとはいえない場合があり、また、公知意匠又はこれと類似する意匠は意匠登録を受けられないのであるから、意匠の類似範囲を定めるに際して斟酌すべきであると考えられるからである。このような観点からすると、公知意匠と登録意匠との物品の類否の判断は、物品の用途及び機能を基準とすべきであり、公知意匠と登録意匠が物品の用途又は機能において同一であれば、そのような公知意匠の存在を登録意匠の要部認定に当たって斟酌すべきである。そして、上記aのとおり、公知意匠A1に係る物品が本件意匠Aに係る物品と機能を同一にし、用途のみを異にする類似物品である以上、本件意匠Aの類似範囲を判断するについて、公知意匠A1を参酌し得ないとする理由はない。 また、原告は、公知意匠A1の「布製ベルト7」は、意匠法上の物品としても部品としても成立不可能であり、類否判断の対象となり得ないとも主張するが、乙15によれば、「布製ベルト7」は、可撓性水管を包む包帯2に縫い付けられた部品であり、本体と分離した形で独立して取引対象となり得ると認められるから、上記原告の主張は失当である。 (ウ) 本件意匠Aの意匠登録出願経過について a 証拠(乙17)によれば、本件意匠Aの意匠登録出願前に、複数の物品をベルトで締結固定する結束具としての機能を有するが、対象物が釣竿、スキー具、書籍等の小・中型物品である点で本件意匠Aに係る物品と用途を異にする物品(類似物品)に係る意匠として、実開昭55-30241号公報第2図記載の「結締バンド」の意匠(以下「公知意匠A2」という。)が存在することが認められる。 公知意匠A2は、@細幅な長尺帯状のベルト本体1aである、Aベルト本体の表面の一端につまみ代部が設けられていない、 Bベルト本体の表面の一端から略同一長さの雄面ファスナー2aと雌面ファスナー3aが間隔なく連続した状態で 取り付けられている、Cベルト本体の他端5aに環状留具(尾錠)4aが設けられているという基本的構成態様を有しており、つまみ代部を有しない点、雄面ファスナーと雌面ファスナーの間に間隔がない点及び、両者の長さの比率が約1:1である点で、本件意匠Aと相違していることが認められる。 b また、本件意匠Aの意匠登録出願に対しては、昭和61年3月12日付けで、特許庁審査官から、本件意匠Aは、出願前に日本国内において公然知られた意匠である公知意匠A2と類似する意匠であるから意匠法3条1項3号に該当するとの理由で、拒絶理由通知(乙1の5)が発せられたが、これに対し、原告は、同年6月25日付け意見書(乙1の6)を提出し、その中で、公知意匠A2と本件意匠Aを非類似とする理由として、「結束部の形態は意匠上も重視され、要部とされるべきであります。」と主張し(同3頁3〜4行)、本件意匠Aの特徴について、「(1)ベルトの長さ4960p(oの誤記と認める。)に対してファスナーの雄部は15pであること。(2)ベルトの長さ4960p(前同)に対してファスナーの雌部は76pであること。(3)ベルトの右端からファスナーの雄部まで2pの余裕があること。(4)ベルトの雄部とファスナーの雌部の距離は46pあること。」と主張し(同3頁7〜14行)、公知意匠A2と本件意匠Aの相違点についても、公知意匠A2では「ベルトの先端にファスナーの雄部が付着してあり、その雄部の端からファスナーの雌部が付着してあること」(同4頁1〜3行)、「ファスナーの雄部の長さを1とした場合ファスナーの雌部は、1.02であり、ほぼ同じ長さであること。」(同4頁7〜9頁)と主張し、その結果、本件意匠Aは意匠登録に至ったことが認められる。 c 以上によれば、原告は、本件意匠Aの意匠登録出願の経過において、本件意匠Aのうち、拒絶理由通知の引用例とされた公知意匠A2と比較して看者の注意を強く惹く部分が、@雄面ファスナーと雌面ファスナーの間に間隔(雌雄間隔)が存在すること、Aベルト本体の全長4960o(496p)に対して調整可能区域(雄面ファスナー15p、雌面ファスナー76p、雌雄間隔46p)が占める割合が約3割弱(27%)であること、B雄面ファスナーと雌雄間隔と雌面ファスナーの比率が約1:3:5であること、Cベルトの一端に面ファスナーを設けないことにより形成されるつまみ代部が存在することの4点にあるとの限定的見解を表明し、その結果、本件意匠Aについて意匠登録査定を得たものと評価せざるを得ないから、原告が本件意匠権Aに基づく侵害訴訟において、本件意匠Aの要部が上記@ないしCと異なる基本的構成態様A〜Dにあると主張することは、上記出願経過における陳述と矛盾するというべきである。 (エ) 以上の事実によれば、本件意匠Aにおいて、基本的構成Aの「極めて細幅の長尺帯状のベルト本体であること」や、同Bのうちの「ベルト本体の表面(すなわち同一面)に雄面ファスナーと雌面ファスナーが取り付けられていること」は、本件意匠Aの最も基本的かつ特徴的な構成であり、そのベルト全体に占める大きさや機能等からいっても、取引者や需要者の注意を惹く部分でないとはいえないが、本件意匠Aの要部はこれらの構成部分にとどまるのではなく、特に、公知意匠A1、A2を参酌すると、有効締付寸法や結束力の強さを調節する調整可能区域におい中、雌面ファスナーの長さが雄面ファスナーの長さより大きく、かつ雄面ファスナーの間に雌雄間隔が設けられている点は、本件意匠Aの要部であると捉えるのが相当である(なお、本件意匠Aにおいて、雄面ファスナーと雌雄間隔と雌面ファスナーの各長さの比率は1:3:5であるが、平成元年3月27日に出願された類似意匠A-2、3に照らすと、この1:3:5という比率に限定して意匠の要部を認定することは相当ではない。)。 ウ 類似意匠A-5について この点について、原告は、本件意匠Aについて類似意匠A-5が類似意匠登録されたことを考慮すれば、本件意匠Aの要部は、本意匠と類似意匠A-5に共通する基本的構成態様A〜Dにあると主張するので、この点について、以下検討する。 (ア) 証拠(甲1の6、乙6の1〜3)によれば、類似意匠A-5は、平成10年12月28日付けで類似意匠登録願がされ、平成12年1月21日、意匠登録第713500号の類似5号として類似意匠登録がされたものであり、その基本的構成態様及び具体的構成態様は、次のとおりと認められる(下線部は本件意匠Aと異なる部分である)。 a 基本的構成態様 (a) 極めて細幅な長尺帯状のベルト本体である。 (b) ベルト本体の表面の一端につまみ代部が設けられている。 (c) ベルト本体の表面には、つまみ代部に続けて、短寸法の雄面ファスナーと、それよりも長寸法の雌面ファスナーが、間隔を設けることなく連続した状態で 取り付けられている。 (d) ベルト本体の他端に環状留具が設けられている。 b 具体的構成態様 (a)@ ベルト本体は、幅寸法と長さ寸法の比率が約1:100で極めて大きい。 A ベルト本体の表面(雌雄面ファスナーが設けられている面)には、ライン模様が全体にわたり1条設けられており、 裏面には模様がない。 B ベルト本体のうち、雌雄面ファスナーを合わせた調整可能区域が全長に占める割合は約36%である。 (b) つまみ代部は、ベルト本体の表面に取り付けられた雄面ファスナーよりも先端側に面ファスナーを取り付けないことにより、矩形状に形成されている。 (c)@ 雌雄面ファスナーは、いずれもベルト本体とほぼ同じ幅の細長い矩形帯状に形成され、ベルト本体の表面に貼り付けられている。 A 雌面ファスナーの全長は、雄面ファスナーの全長よりも大きく、雄面ファスナーと雌面ファスナーの各長さの比率は、約1:5である。 (d) 環状留具は、輪郭が幅広の矩形枠状を呈する。その一側軸には、ベルト本体の折り返し部が表面から裏面に向かって巻き付けられることにより連結されている。 これによれば、類似意匠A-5は、雌雄面ファスナーの間に間隔がないこと(上記a(c))において、本件意匠Aの基本的構成態様(上記1、(1)アC)と相違し、@ベルト本体の表面にライン模様が全体にわたり1条設けられていること(上記b(a)A)、A雄面ファスナーと雌面ファスナーの各長さの比率が約1:5であること(上記b(a)B)において、本件意匠Aの具体的構成態様(上記1、(1)イaA、同cA)と相違していることが認められる。 (イ) 他方、上記(ア)で認定した類似意匠A-5の基本的構成態様及び具体的構成態様を、上記(2)で認定したイ号意匠の構成と比較すると、両者は、基本的構成態様をすべて同一とし、具体的構成態様においても、環状留具に対するベルト本体の折り返し部が裏面から表面に向けて巻き付けられているという微細な相違(上記(2)イd、上記b(d))以外は、上記(ア)で類似意匠A-5が本件意匠Aと相違すると認められた基本的構成態様、具体的構成態様(上記2イaAと上記a(c)、上記(2)イcAと上記b(a)A、上記(2)イcAと上記b(a)B)ともにイ号意匠と共通していることが認められ、類似意匠A-5は、むしろ本件意匠Aよりもイ号意匠に強く類似する意匠であると認められる。 他方、証拠(甲6、7)によれば、イ号ないしハ号物件は、遅くとも平成8年には、これを掲載したカタログが市場に頒布され、販売が開始されていたことが認められるから、イ号意匠は、類似意匠A-5の類似意匠登録出願がされた平成10年12月28日時点では、日本国内において公然知られ、かつ日本国内で頒布された刊行物に記載された意匠であり、類似意匠A-5との関係では、本意匠の出願後、類似意匠の登録出願前に公知となった他人の意匠(中間介在意匠)に該当するものといえる。 (ウ) 旧意匠法10条1項は、「意匠権者は、自己の登録意匠にのみ類似する意匠について類似意匠の意匠登録を受けることができる。」と規定していたが、類似意匠の意匠登録出願について、本意匠の意匠権者を優遇する特別の規定を設けていなかったから、類似意匠登録出願については、本意匠の意匠登録出願と類似意匠の意匠登録出願との中間に公知となった意匠が介在する場合には、その類似意匠登録出願は、意匠法3条1項による拒絶理由を有し(意匠法17条1項1号)、仮にいったん類似意匠登録を受けることがあったとしても、その類似意匠登録は、意匠法3条1項の規定に違反してされたものとして、意匠法48条1項1号の無効理由を有することが明らかであるというべきである。 (エ) そうすると、類似意匠A-5は、上記(イ)のとおり、本意匠である本件意匠Aの出願後、類似意匠登録出願前に日本国内で公知となったイ号意匠に類似する意匠であるから、イ号意匠が本件意匠Aに類似するか否かにかかわらず、類似意匠A-5の意匠登録出願は、本来意匠法3条1項3号に当たるものとして意匠法17条1号にいう拒絶理由を有するものであり、平成12年1月21日なされた類似意匠登録(第713500号の類似5号)も、意匠法3条1項の規定に違反してされたものとして、意匠法48条1項1号の無効理由を有することが明らかである。 以上によれば、類似意匠A-5は、本件意匠Aの類似意匠として類似意匠登録されてはいるが、上記のとおり、無効理由を有することが明らかなものであるから、少なくとも、本件意匠Aの要部認定に当たり、類似意匠A-5を参酌するのは、相当でないというべきである。したがって、類似意匠A-5の類似意匠登録出願に対し特許庁が類似意匠A-5が本件意匠Aに類似すると判断した事実は、 本件訴訟における本件意匠Aについての類比判断に当たって拘束力を持つものではない。 (4) 本件意匠Aとイ号ないしハ号意匠との類否について イ号ないしハ号意匠の構成は上記(2)で認定したとおりであり、それぞれ下線を付した部分が本件意匠Aと相違する部分である。そして、本件意匠Aの構成とイ号ないしハ号意匠の各構成とを対比すると、基本的構成においてはほとんど一致しているといえるが、看者の注意を強く惹き付け、有効締付寸法や結束力の強さを調節する機能を示す調整可能区域(雌雄面ファスナーの長さ及び雌雄間隔)及び結束部の構成態様において相違点が相当存在する。特に、イ号意匠ないしハ号意匠は、いずれも、雄面ファスナーと雌面ファスナーの間に雌雄間隔が設けられておらず、この点で、本件意匠Aの要部の構成と明らかに異なっている。その結果、イ号意匠ないしハ号意匠は、いずれも、全体として看者に異なった美感を与えるものになっていると認められる。したがって、イ号意匠ないしハ号意匠は、本件意匠Aに類似しない。 2 争点(2)(ニ号意匠は本件意匠Bに類似し、ニ号物件の意匠は全体として本件意匠Bの利用意匠といえるか)について (1) 本件意匠Bの構成 別紙意匠公報B-1(甲2の1)及び乙8の2、4(本件意匠Bに係る意匠登録願及び添付図面)によれば、本件意匠Bの構成は、次のとおりであると認められる。 ア 基本的構成 A 細幅で長尺の矩形帯状ベルトである。 B ベルト本体の一端部にはL型フックが設けられている。 C ベルト本体の他端部にはつまみ代部が設けられている。 D 上記つまみ代部に続けて、短寸法の雄面ファスナーと、それよりも長寸法の雌面ファスナーが、一定の間隔(雌雄間隔)を置いて離れた状態で取り付けられている。 イ 具体的構成 a@ ベルト本体は、幅寸法と長さ寸法の比率が約1:37である。 A ベルト本体の表面(雌雄面ファスナーが取り付けられていない面)及び裏面には模様がない。 B ベルト本体の長さに、雌雄面ファスナーと雌雄間隔を合わせた調整可能区域が占める割合は約7割である。 b ベルト本体の一端部に設けられたL型フックは、内部にベルトを挿通できるスリットを有するループ部と、このループ部の中央から一体に突設された側面視においてL型のフック金具により構成されている。このL型フックは、ループ部にベルトの折り返し部を表面から裏面に向かって巻き付けることにより連結されている。 c つまみ代部は、ベルト本体の一端から長手方向に突出するように、同ベルト本体の一端に取り付けられた細長いU字状の突出把手部材を取り付けることにより構成されている。 d@ 雌雄面ファスナーは、いずれもベルト本体とほぼ同じ幅の細長い矩形帯状に形成され、ベルト本体の表面に貼り付けられている。 A 雄面ファスナーの全長は、雌面ファスナーより相当短く、雄面ファスナーと間隔と雌面ファスナーの各長さの比率は、約1:1:7である。 (2) ニ号物件のうち「ファスナー側のFM」の構成 ニ号物件が、別紙ニ号物件目録記載のとおりであることは当事者間に争いがない。別紙ニ号物件目録によれば、2本一組で使用されるニ号物件のうち、ニ号意匠に相当する「ファスナー側のFM」の意匠の構成は、次のとおりであると認められる(なお、下線部は、上記(1)で認定した本件意匠Bの構成態様との相違点である。)。 ア 基本的構成 A 細幅で長尺の矩形帯状ベルトである。 B ベルト本体の一端部にはL型フックが設けられ、その付近にアジャスターが設けられている 。 C ベルト本体の他端部にはつまみ代部が設けられている。 D 上記つまみ代部に続けて、短寸法の雄面ファスナーと、それよりも長寸法の雌面ファスナーが間隔を設けることなく連続した状態で取り付けられている。 イ 具体的構成 a@ ベルト本体は、幅寸法と長さ寸法の比率が約1:88である。 A ベルト本体の表面(雌雄面ファスナーが取り付けられている面)には、ライン模様が全体にわたり1条(ニ号物件の第3では3条)設けられており、 裏面には模様がない。 B ベルト本体の長さに、雌雄面ファスナーを合わせた調整可能区域が占める割合は約12〜15%である。 b ベルト本体の一端部に設けられたL型フックは、内部にベルトを挿通できるスリットを有するループ部と、このループ部の中央から一体に突設された側面視においてL型のフック金具により構成されている。このL型フックは、ループ部にベルトの折り返し部を裏面から表面に向かって巻き付けることにより連結されている。 c つまみ代部は、ベルト本体の表面に取り付けられた雄面ファスナーよりも先端側(約3p)に面ファスナーを取り付けないことにより、矩形状に形成されている。 d@ 雌雄面ファスナーは、いずれもベルト本体とほぼ同じ幅の細長い矩形帯状に形成され、ベルト本体の表面に貼り付けられている。 A 雄面ファスナーの全長(15p)は、雌面ファスナーの全長(40p)より短く、雄面ファスナーと雌面ファスナーの各長さの比率は、約1:2.6である。 (3) 本件意匠Bの要部について ア 証拠(甲2の1、甲17の3、乙48、検甲5)によれば、本件意匠Bの意匠に係る物品である「荷崩れ防止ベルト」は、本件意匠Aと同じく、物流分野・貨物運送分野において、パレットと呼ばれる約1メートル四方の荷台上に縦横共に多数載置された荷物群の荷崩れを防止して、フォークリフト等でパレットと共に運搬する目的で使用される物品であるが、本件意匠Bに係る「荷崩れ防止ベルト」の場合、2本一組で使用されるものであり、その通常の使用態様は、両端にL型フックを備えた長尺状の2本のベルト(そのうちの1本が本件意匠Bに係る面ファスナーを取り付けたファスナー側のベルトであり、これと組み合わせられるのがリング側のベルトである。)をパレットの下端の隙間に引っ掛け、荷物群の縦方向に掛け渡した上で2本のベルトを結束固定する(縦巻タイプ)ことによって、多数個の積荷を前後、左右、上下方向への揺れに対抗し得るよう一体化するものであることが認められる。 したがって、「荷崩れ防止ベルト」(縦巻タイプ)の需要者は、本件意匠A(横巻タイプ)の需要者と同じく、フォークリフト運送・コンテナ輸送を行う物流分野の専門業者に限定され、上記物品の購入選択は、物流・貨物運送分野の専門的知識を有するこれらの業者(取引者)が行うことになるところ、このような専門的知識を有する取引者は、美感のみならず機能的な形態にも十分に注意を払った上で当該商品を購入・選択するものと推認される。そして、上記認定の「荷崩れ防止ベルト」の機能及び使用態様を考慮すると、このような物流分野の専門的知識を有する取引者(作業者には限られない。)が「荷崩れ防止ベルト」(縦巻タイプ)という商品を選択するに当たっては、当該商品により、パレット上に縦横共に多数個積載された荷物を運送中の揺れによっても崩れない程度に「ファスナー側のベルト」と「リング側のベルト」で縦方向に強固に結束することが可能かという点に最も注意を惹き付けられると推認されるから、取引者は、2本のベルトの有効締付寸法や、結束の簡便さ、結束力の強さ等を調節する機能を示す調整可能区域(雌雄面ファスナーの長さ及び雌雄間隔)及び結束部の構成態様に、強く注意を惹かれるものと認めるのが相当である。 イ 公知意匠 (ア) 同一物品に係る意匠について 本件意匠Bの意匠登録出願前に公知であった「荷崩れ防止ベルト」(縦巻タイプ)に係る意匠には、実開昭55-166762号公報の第1図及び第2図に記載された意匠(甲21・図O)、実開昭57-172758号公報の第1図及び第2図記載の意匠(甲21・図P)があり、本件意匠Bの先願で意匠に係る物品を「荷崩れ防止ベルト」とする意匠として、登録意匠番号第875943及び第875944号(甲21・図R〜S)が存在するが、これらの意匠の「ファスナー側のベルト」は、相対する「リング側のベルト」に設けられた締結金具3aに挿通するように構成された、極めて細幅な長尺帯状のベルト本体であること(基本的構成A)以外は、本件意匠Bの基本的構成態様B〜Dといずれも共通点を有しないものと認められる。 (イ) 同種物品に関する公知意匠について a 本件意匠Bの意匠に係る物品である「荷崩れ防止ベルト」は、上記アのとおり、多数個の荷物を長尺状のベルトで締結固定する結束具としての用途を有する物品であるが、証拠(乙16)によれば、本件意匠Bの意匠登録出願前に公開された、米国特許第3307872号公報第1図には、「環状留具16を端部に付した調整側のベルト11」と「雄面ファスナー31と間隔35と雌雌面ファスナー12を付した、調整側のベルト11と一対になるベルト12」という2本一組のベルトの組合せにより、患者の胴部を車椅子等に締結固定する結束具という点で「荷崩れ防止ベルト」と同一の機能を有するが、結束の対象が人の胴体である点で用途を異にする「サポートベルト」なる物品(類似物品)に係る意匠の部品として、「一対になるベルト12」(以下「公知意匠B1」という。)が記載されている。 公知意匠B1の基本的構成は、@細幅で長尺の矩形帯状ベルトであり、Aベルト本体の一端部には車椅子の支柱等に通すためのリング36が設けられ、B他端側につまみ代部は存在しないが、 C他端側の先端から、短寸法の雄面ファスナー31と、それよりも長寸法の雌面ファスナー32が間隔35を置いて離れた状態で取り付けられているというものであり、具体的構成態様は、@ベルト本体の表面及び裏面には模様がない、B雌雄面ファスナー及び雌雄間隔による調整可能区域がファスナー側のベルト本体のほとんどを占めている、C雄面ファスナーと間隔と雌面ファスナーの比率が約4:2:9と いうものであることが認められる。 この点について、原告は、公知意匠B1に係る物品は、「家庭用器具機械」「車椅子の付属品(ベルト部分)」「家具」「理美容椅子の付属品(ベルト部分)」であり、「物流、貨物取扱い用機械器具」の分野に属する本件意匠Bに係る物品とは、意匠の属する分野に関連性がない非類似の物品に係るものであるから、本件意匠Bの類似判断を定めるに当たり公知意匠B1を参酌すべきではないと主張する。しかし、前記1(3)イ(イ)cで述べたとおり、意匠の要部認定のために公知意匠を参酌するに当たって、公知意匠と登録意匠の物品の類否の判断は、物品の用途及び機能を基準とすべきであるから、公知意匠B1に係る物品が本件意匠Bに係る物品と用途を同一にし、ただ機能のみを異にする類似物品である以上、本件意匠Bの類似範囲を判断するについて、公知意匠B1を参酌し得ないとする理由はない。 b また、本件意匠Bの意匠登録出願前である平成元年4月24日に公開された、考案の名称を「荷崩れ防止ベルト」とする実開平1-63633号公開実用新案公報(乙18)の第1図右側記載の「ベルト部材3b」(以下「公知意匠B2」という。)は、本件意匠Bとの関係では、意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠であるが(意匠法3条1項2号)、その基本的構成は、@細幅で長尺の矩形帯状ベルト3bであり、Aベルト本体の一端部にL型フック5bが設けられている、Bベルト本体の他端部につまみ代部は設けられていない、Cベルト表面には雄面ファスナーと雌面ファスナーが設けられていない というものであり、具体的構成態様も、@ベルト本体の表面及び裏面には模様がない、Aベルト本体の一端側に設けられたL型フックも、内側にベルトを挿通できるスリットを有するループ部と、このループ部から一体に突設された側面視L字のフック金具により構成されているものであるということが認められる。 (ウ) 以上に基づき、本件意匠Bの要部を検討すると、本件意匠Bの基本的構成態様AないしDは、本件意匠Bの基本的な構成であって、看者の注意を惹くと考えられるから、意匠の要部であることは否定できない。しかし、本件意匠Bの要部は上記基本的構成態様にとどまるものではない。すなわち、本件意匠Bの具体的構成態様cにいう「ベルト本体の一体から長手方向に突出するように、同ベルト本体の一体に取付られた細長いU字状の突出把手部材」は、それまでの公知意匠にない新規な印象を与え、看者である需要者に対し、本件意匠Bの結束部のデザインの新規性を強く印象付ける重要な役割を果たすのみでなく、同把手部材により2本のベルトをより強く結束するという効果を検討したとき無視できない印象を与えるものといえる。また、本件意匠Bの具体的構成態様aBの「ベルト本体の長さに、 雌雄面ファスナーと雌雄間隔を合わせた調製可能区域が占める割合は約7割である」という点と、dAのうち、「雄面ファスナーと雌雄間隔と雌面ファスナーの各長さの比率が約1:1:7」という点は、看者の注意を惹きやすい調整可能区域に関わるものであり、前者はベルト本体の長さに占める調整可能区域の割合が非常に大きいことで、美感上特徴的であるし、後者は公知意匠B1、B2と比較して看者に新規な印象を与える点であるから、やはり本件意匠Bの要部ということができる。 ウ 類似意匠B-5について 原告は、本件意匠Bについて類似意匠B-5が類似意匠登録されたことによれば、本件意匠Bの要部は、本意匠と類似意匠B-5に共通する基本的構成態様にあると主張するので、この点について以下検討する。 (ア) 証拠(甲2の6、乙13の1〜3)によれば、類似意匠B-5は、 平成10年12月28日、類似意匠登録願がなされ、平成12年1月21日、意匠登録第872785号の類似5号として類似意匠登録がされたものであり、その基本的構成態様及び具体的構成態様は、次のとおりであると認められる(下線部は本件意匠Bと異なる部分である)。 a 基本的構成態様 (a) 極めて細幅で長尺な矩形帯状ベルトである。 (b) ベルト本体の一端にはL型フックが設けられ、その近傍にアジャスター が設けられている。 (c) ベルト本体の他端部にはつまみ代部が設けられている。 (d) 上記つまみ代部に続けて、短寸法の雄面ファスナーとそれよりも長寸法の雌面ファスナーが雌雄間隔を設けることなく連続した状態で設けられている。 b 具体的構成態様 (a)@ ベルト本体は、幅本体と長さ寸法の比率が(アジャスター非使用時で)約1:41と相当大きい。 A ベルト本体の表面(雌雄面ファスナーが取り付けられている面)には、全体にわたり1条設けられており、 裏面には模様がない。 B ベルト本体の長さに雌雄面ファスナーを合わせた調整可能区域が占める割合は約63%である。 (b) ベルト本体の一端部に設けられたL型フックは、内部にベルトを挿通できるスリットを有するループ部と、このループ部の中央から一体に突設された側面視においてL型のフック金具により構成されている。このL型フックは、 ループ部にベルトの折り返し部を表面から裏面に向かって巻き付けることにより連結されている。 (c) つまみ代部は、ベルト本体の表面に取着された雄面ファスナーよりも先端側(約3p)に面ファスナーを取り付けないことにより、矩形状に形成されている。 (d)@ 雌雄面ファスナーは、いずれもベルト本体とほぼ同じ幅の細長い矩形帯状に形成され、ベルト本体の表面に貼り付けられている。 A 雄面ファスナーの全長は、雌面ファスナーの全長より短く、雄面ファスナーと雌面ファスナーの各長さの比率は、約1:3である。 以上によれば、類似意匠B-5は、基本的構成態様のうち、@ベルト本体一端のL字型フックの付近にアジャスターが設けられていること(上記a(b))、A雄面ファスナーと雌面ファスナーの間に間隔がないこと(上記a(d))において本件意匠Bと相違し、具体的構成態様においても、@つまみ代部に、細長いU字状の突出把手部材を取り付けることなく、単に雄面ファスナーの先端側に面ファスナーを取付しないことにより矩形状に形成されていること(上記b(c))、 A雄面ファスナーと雌面ファスナーの比率(上記b(d))という4点において、本件意匠Bと相違していることが認められる。 (イ) 他方、上記(ア)で認定した類似意匠B-5の構成を、上記(2)で認定したニ号意匠の構成と比較すると、両者は、基本的構成態様のうち、ともに本件意匠Bと異なる点と認定された、@L字型フック付近のアジャスターの存在(上記(2)アB、上記(ア)a(b))、Aつまみ代部に続けて、短寸法の雄面ファスナーと、それよりも長寸法の雌面ファスナーが間隔を設けることなく連続した状態で取り付けられていることを共通にしている上(上記(2)アD、上記(ア)a(d))、具体的構成においても、ともに本件意匠Bとは異なる点と認定された、@ベルト本体の表側(雌雄面ファスナーが取着されている面)にライン模様が全体にわたり設けられていること(上記(2)イaA、上記(ア)bA)、Aつまみ代部が雄面ファスナーの先端側(約3p)に面ファスナーを取付しないことにより矩形状に形成されていること(上記(2)イc、上記(ア)b(c))、C雄面ファスナーと雌面ファスナーの各長さの比率が約1:2.6又は約1:3であること(上記(2))をいずれも共通にしており、両者の相違点は、L型フックのループでのベルトの折り返し部を裏側から表側に向かって巻き付けるか(ニ号意匠)、ベルトの表側から裏側に向かって巻き付けるか(類似意匠B-5)という看者の注目をほとんど惹かない部分のみである。そうすると、類似意匠B-5は、むしろ本件意匠Bよりもニ号意匠により類似する意匠であると認められる。 他方、証拠(甲6、7)によれば、ニ号意匠に係る「FM側のベルト」を含む2本一組の「荷崩れ防止ベルト」は、遅くとも平成8年にはカタログが市場に頒布され、販売が開始されていたことが認められるから、ニ号意匠は、類似意匠B-5の類似意匠登録出願がされた平成10年12月28日時点では、日本国内において公然知られ、日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠となっており、ニ号意匠は、類似意匠B-5との関係では、本意匠(本件意匠B)の出願後、類似意匠登録出願前に公知となった他人の意匠(中間介在意匠)に該当する。 (ウ) そうすると、類似意匠B-5は、本意匠である本件意匠Bの出願後、 類似意匠登録出願前に公知となった他人の意匠(ニ号意匠)に類似する意匠であるから、前記1で判示したところと同じく、ニ号意匠が本件意匠Bに類似するかに否かにかかわらず、類似意匠B-5の類似意匠登録は、無効理由が存在することが明らかであり、本件意匠Bの要部を認定するに当たり参酌するのは相当でないというべきである。 (4) 本件意匠Bとニ号意匠の類否について ア ニ号物件の「ファスナー側のFM」の意匠(ニ号意匠)の構成は上記(2)で認定したとおりであり、それぞれ下線を付した部分が本件意匠Bとの相違点である。 そして、本件意匠Bとニ号意匠の構成態様を比較検討すると、両者の共通点は、基本的構成態様A、Cに限られるのに対し、ニ号意匠は、@雌雄面ファスナーの間に雌雄間隔が設けられておらず、本件意匠Bの基本的構成態様Dを欠き、 Aつまみ代部がベルト本体の先端に雄面ファスナーを取り付けないことにより構成されており、「つまみ代部がベルト本体の一端から長手方向に突出するように、同ベルト本体の一端に取り付けられた細長いU字状の突出把手部分を取り付けることにより構成されている」という本件意匠Bの具体的構成態様cを欠如し、Bベルト本体の長さに、雌雄面ファスナーを合わせた調整可能区域が占める割合は約12〜15%であり、同割合が約7割である本件意匠Bの具体的構成aBと異なり、さらに、C雄面ファスナーの全長が雌面ファスナーより相当短く(約2:5)、雌雄面ファスナーの間に雌雄間隔もないため、「雄面ファスナーと雌雄間隔と雌面ファスナーの比率が1:1:7である」という本件意匠Bの具体的構成態様dAをも欠如している。 イ 以上によれば、ニ号意匠は、本件意匠Bの要部のかなりの部分を具備しておらず、全体として本件意匠Bとは異なった美感を生じるものというべきである。したがって、ニ号意匠は本件意匠Bに類似せず、「ファスナー側のFM」と「リング側のFM」を2本一組で用いるニ号物件の意匠が、全体として本件意匠Bを利用するものということはできない。 3 前記1及び2によれば、争点(3)(本件意匠A及び本件意匠Bの意匠登録には、無効理由があることが明らかか)について判断するまでもなく、原告の本件意匠権A及びBの侵害を理由とする請求は、いずれも理由がない。 4 争点(4)ア(原告製品の商品形態には、原告の商品表示として周知性があるか)について (1) 原告製品A及びBは、前記1(3)及び2(3)で詳述したとおり、物流分野・貨物運送の分野において、パレットと呼ばれる約1メートル四方の荷台状に多数載置された荷物を周回状に巻き付けて強度に締付固定し(横巻タイプ)、又は、両端にフックを備えた長尺状の2本のベルトをパレットの下端にぞれぞれ掛け渡した上で両者を強度に結束固定する(縦巻タイプ)という商品であるから、原告製品の需要者は、一般需要者ではなく、主として物流・貨物分野の知識を有する物流分野の専門家(取引者)及び使用者であると認められる。このような需要者は、機能性の観点から製品を選択するのが通常であるといえる。 (2) 不正競争防止法2条1項1号は、他人の商品表示として需要者の間に広く認識されている(周知性のある)ものと同一若しくは類似の商品表示を使用して需要者に混同を生じさせることにより、表示に化体した他人の信用にフリー・ライドして顧客を獲得しようとするような行為を不正競争の一つとしたものである。したがって、同号にいう商品表示(商品を表示するもの)は、その商品が特定の者の商品であること(出所)を他から区別して認識できるものであることを要する。 原告は、原告製品A及びBの商品形態が商品表示として識別性を有し、周知性を獲得した旨主張するところ、原告のいう「商品形態」とは、商品の外観、形状の全体を指すものと解される。しかるところ、商品の形態は、通常、主として商品の機能を発揮させ、又は美感を高めるなどの目的から適宜選択されるものであって、本来商品の出所を表示することを目的として選択されるものではない。しかし、商品の形態が他の業者の商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品形態が長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間でも商品の形態について強力な宣伝広告がされるなどにより大量に販売されたような場合には、商品の形態が特定の者の商品であることを示す商品表示として需要者の間で広く認識されることがあり得、そのような場合には、商品の形態が、不正競争防止法2条1項1号にいう商品表示として保護されることがあると解される。 (3) 原告製品A(パレマジック)及び同B(L型恐力パレバンド)は、それぞれ、本件意匠A及びBの対応商品(ただし、本件意匠A及びBそのものの正確な実施品とはいえない。)であるが、前記1、2で判示したところからすれば、原告製品が需要者の注意を惹く形態上の特徴は、本件意匠A及びBの要部として認定したところと概ね同様であると考えられる。 (4) そこで、次に、原告による原告製品の宣伝広告活動において、原告製品の商品形態が長期間継続的かつ独占的に使用されたか、又は、短期間でも商品の形態について強力な宣伝広告がされるなどにより大量に販売されたような場合に当たるかどうかについて検討する。 ア 証拠(甲17の3)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和60年秋ころから原告製品A(商品名「パレマジック」)を、また、平成元年11月30日に本件意匠Bの意匠登録出願をして間もない時期ころから原告製品Bを「L型恐力パレバンド」の商品名で販売してきたこと、「L型恐力パレバンド」の名称は、面ファスナーを用いた原告製品Bのほか、2個の角型金具を使用した製品にも用いており、こちらは、平成元年1月ころから販売していることが認められる。 イ 証拠(甲17の2)によれば、原告の平成2年4月25日付けカタログで「パレマジック」(原告製品A)の宣伝がされ、商品写真の表示には、環状留具を中心に左右約5pのベルトの写真が掲載されているが、原告製品Aの形態上の特徴の存在は表示されておらず、単に「面ファスナー採用…脱着はワンタッチ」「汎用性にすぐれている…パレット数量の兼用可能」「布ベルトを使用…製品、ケース等に適度になじみます」との宣伝文が裏面に記載されているにすぎないことが認められる。 ウ 証拠(甲5、16)によれば、原告製品は、発行部数全国5万6000部の株式会社日報アイ・ビー発行の「週刊包装タイムス」に、平成元年から平成10年までの間、ほぼ毎月「L型恐力パレバンド」の広告を掲載してきたことが認められるが、広告に用いられた写真には、長尺帯状の荷崩れ防止ベルトであることは分かっても、それ以上に商品の特徴的な形態が表示されていたわけではない。また、証拠(甲17の1ないし3)によれば、原告は、平成元年10月から平成12年12月の間に、「パレマジック」のカタログを4回、「L型恐力パレバンド」のカタログを1回、その他カタログ集を13回製作したことが認められる。しかし、 弁論の全趣旨によれば、原告製品は、需要者から発注があった場合に作成される受注生産による商品であると認められるところ、原告製品の発売以来原告製品A、Bがどの程度市場において販売されたかは明らかでない。 エ 原告が頒布したカタログの記載をみると、原告製品A(パレマジック)及び原告製品B(L型恐力パレバンド)について次の記載がある。 (ア) 原告は、原告製品Aに「パレマジック」の名称を付し、環状金具を中心としてベルトの一部の写真を掲載している。しかし、「特長」として「マジックテープR採用…脱着はワンタッチ」「汎用性に優れている…兼用可能」「布バンドを使用……製品、ケース等に適度になじみます」と記載されているにすぎない(甲17の3)。 (イ) 原告は、「L型恐力パレバンド」について、その取り扱い方法として、「@L型金具をパレットのスキ間から入れる。(両サイド共)」「Aバンドを下から上に通す。」「Bバンドを上の金具をまくように下の金具へ通じ引けばしまる。」「C長さ調節する場合は金具を下に(ロック解除)」「D長さ調節後は金具を上に(ロック)」とカタログに記載し、2個の金属製留め具で長さを調節する製品(これは原告製品Bではない。)であることを示す写真及び説明図を掲載し、特長として「パレットへの脱着はL型金具がスピーディにします。引きしめ、ゆるめは角型金具で自在です。バンドの長さが自在に調節できます。」と記載されており(甲17の3・9頁、甲33)、原告製品Bの商品形態上の特徴については、特段の記載がない。 オ 原告は、平成4年版、平成6年版、平成8年版の全国包装産業名鑑、1999年版、2001年版の全国包装企業関連ガイドに広告を掲載したが(甲18の1〜15)、これらの広告には、「パレマジック」「パレバンド」「恐力パレバンド」「L型恐力パレバンド」「パレフレンド」「パレマキ」「パレマット」などの原告が製造、販売する荷崩れ防止バンドの商品名が記載され、若しくは、甲17の3のカタログと同様の写真が掲載されているのみであり、原告製品の独特の商品形態について強力に宣伝広告された形跡は認められない。 カ 証拠(甲19の1〜13、20)によれば、原告は、包装・物流等の新技術の創造等をテーマとする展示会「東京パック」へ、昭和61年、昭和63年、平成4年、平成6年、平成8年、平成10年、平成12年に商品を出展し、平成7年に行われた展示会「大阪パック」にも商品を出展していることが認められる。しかし、これらの展示会には、数十社ないし数百社が出展しており、これらの展示会に出展した原告のパンフレットには、「パレバンド」、「パレフレンド」、「恐力パレバンド」、「L型恐力パレバンド」、「パレマジック」といった商品名が掲載されているのみで、原告製品の商品形態について強力に宣伝広告された形跡は認められない。 キ 市場における競合商品についてみると、少なくとも、平成8年12月ころからは、原告製品の競合商品である被告商品が存在している。そして、平成14年現在、市場においては、マジックテープ(面ファスナー)を使用し環状金具で引っ掛けて止めるという態様で、パレット用の荷崩れ防止ベルトにも使用できる結束ベルトとして、トラスコ中山株式会社の「マジック結束テープ」があり(乙43)、 結束するものの大きさに合わせて1本のテープにフックとループの機能を備えた「フリーマジック」なる雌雄ファスナーと環状留具を用いた株式会社クラレの「フリーマジック ストラップ」(乙44)などの雌雄面ファスナーと金具を用いた結束具が流通していることが認められる。 (5) 以上によれば、原告製品A、Bは、いずれも、その商品の形態が他の業者の製造、販売する面ファスナーを使用した同種の商品と識別し得る程度の独特の特徴を有するものではなく、商品の形態について強力な宣伝広告がされたとも認められず、その販売数量が大量であったと認めるに足りる証拠もない。そうすると、需要者である物流・貨物分野の知識を有する物流分野の専門家(取引者)及び使用者の間で、原告製品A及びBの商品形態が、他の面ファスナーを使用した梱包ベルトと区別して、原告の商品であることを認識できるような商品表示性を有し、周知性を獲得したとみることはできない。 (6) よって、不正競争防止法2条1項1号の不正競争を理由とする原告の請求は、原告製品A、Bのいずれについても認めることができない。 5 以上の次第で、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。 |
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追加 | |
(別紙)イ号物件目録(「MS」:「スタンダードマジック」)その第1.(50mm巾)その1.(「-N:ナイロン)イ号物件目録(「MS」:「スタンダードマジック」)その第1.(50mm巾)その2.(「-P:ポリプロピレン)イ号物件目録(「MS」:「スタンダードマジック」)その第2.(25mm巾)その2.(「-P:ポリプロピレン)イ号物件目録(「MS」:「スタンダードマジック」)その第2.(25mm巾)その1.(「-N:ナイロン)ロ号物件目録(「ML」:「ロングマジック」)その第1.(50mm巾)その1.(「-N:ナイロン)ロ号物件目録(「ML」:「ロングマジック」)その第1.(50mm巾)その2.(「-P:ポリプロピレン)ロ号物件目録(「ML」:「ロングマジック」)その第2.(25mm巾)その1.(「-N:ナイロン)ロ号物件目録(「ML」:「ロングマジック」)その第2.(25mm巾)その2.(「-P:ポリプロピレン)ハ号物件目録(「MA」:「アジャスターマジック」)その第1.(50mm巾)その1.(「-N:ナイロン)ハ号物件目録(「MA」:「アジャスターマジック」)その第1.(50mm巾)その1.(「-P:ポリプロピレン)ハ号物件目録(「MA」:「アジャスターマジック」)その第2.(25mm巾)その1.(「-N:ナイロン)ハ号物件目録(「MA」:「アジャスターマジック」)その第2.(25mm巾)その2.(「-P:ポリプロピレン)ニ号物件目録(「FM」:「フック付マジック」)その第1.(「-N:ナイロン)ニ号物件目録(「FM」:「フック付マジック」)その第2.(「-P:ポリプロピレン)ニ号物件目録(「FM」:「フック付マジック」)その第3.(「-E:ポリエステル)本件意匠Aの構成イ号意匠の構成ロ号意匠の構成ハ号意匠の構成本件意匠Bの構成ニ号意匠(ファスナー側のFM)の構成 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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