関連ワード | 物品 / 形状 / 模様 / 意匠に係る物品 / 登録意匠 / 差止請求(差止) / 損害賠償 / 類似性(類否判断) / 損害額 / |
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事件 |
平成
14年
(ワ)
16938号
意匠権侵害差止等請求事件
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原告 アイエスティー株式会社 同訴訟代理人弁護士 寒河江 孝允 同 武藤元 被告 株式会社住軽日軽エンジニアリング 被告補助参加人 日本商事株式会社 被告補助参加人 ジー・オー・ピー株式会社 上記3名訴訟代理人弁護士 小林幸夫 補佐人弁理士 久保司 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2003/03/28 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は,別紙物件目録記載の作業用足場を製造,販売してはならない。 2 被告は,原告に対し,金5400万円及びこれに対する平成14年8月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,別紙物件目録記載の作業用足場(以下「被告物件」という。)を製造販売する被告の行為が,原告の有する意匠権を侵害するとして,被告の同行為の差止及び損害賠償を求めている事案である。 1 争いのない事実 (1) 原告の意匠権 原告は,以下の意匠権(以下「本件意匠権」といい,この意匠に係る登録意匠を「本件登録意匠」という。)の持分2分の1を有している。 ア 意匠に係る物品 作業用足場 イ 登録番号 第903265号 ウ 出願日 平成4年9月21日 エ 登録日 平成6年4月22日 オ 登録意匠 別紙意匠公報(以下「本件公報」という。)記載のとおり (2) 被告は,業として,被告物件を製造,販売している。 2 争点及び当事者の主張 (1) 被告物件の意匠(以下「被告意匠」という。)は,本件登録意匠に類似するか。 (原告の主張) ア 本件登録意匠の要部(特徴的部分) 本件登録意匠の特徴的部分は,以下のとおりである(争いがある部分には,下線を付した。)。 A 正面図において,開脚の状態で,足場となる水平板,左右に略105度の角度で脚部が存在し,この脚部は伸縮可能に上部と下部に分かれる。 水平板中央部片側に把手部が存在する。 B 平面図において,4242又は2121の配列の穴部の多数存在する横長方形状の足場,左右に末広がり状の脚部,脚部に2段の梯子状の桟がある。 足場中央部片側に把手部が存在する。 C 右側面図において,上部脚部のうち,上部脚部全体の約5分の1の長さに相当する部分が,上部脚部の上端から左右垂直に垂下し(以下「垂下部」という。),該垂下部に続き,左右外方にやや末広がりに台形状の脚部を形成し,該脚部には2本の桟部が横張りされ,下部脚部は足場の高さ調整をするため上部脚部に挿入可能となるべくやや細めに形成され,脚部最下端には補強部を設けてある。 D 底面図において,台場の中央部を仕切っている,縦直線状に補強部材が渡り込まれている。 E 折畳状態の正面図,底面図において,脚部の4箇所の端部は,左右互いに対向する形となっている。 イ 被告意匠の構成 被告意匠の構成は,以下のとおりである(争いがある部分には,下線を付した。)。 (ア) 基本的構成 平面図横長長方形状の平板部の左右両側に二本の支柱と複数本の横桟からなる略梯子状の脚部を対称状に設け,平板部表面に多数の小孔を形成し,平板部と脚部の連結部分にヒンジ部を設けて脚部を折り畳み可能とした。 (イ) 正面図 正面図において,開脚の状態で,足場となる水平板,左右に略105度の角度で脚部が存在し,この脚部は伸縮可能に上部と下部に分かれる。足場左右に折畳補強部がある。 左右の脚部は,下方が上部脚部内に入り込み伸び縮みする伸縮脚の構成としたもので,脚支柱を略四角柱状に,横桟を略角棒状に 形成し,脚部の上端の端を平板部の幅と同幅とし,両脚部の脚支柱の正面図及び各脚部の側面図を略「ハ」の字状に拡開した。最下段の横桟の両端に小さな突片を設け,脚支柱の尾端にキャップを設けた。左右のヒンジ部は,脚支柱の上部に取り付けたヒンジ板の内側上辺を略弧状とした。 (ウ) 平面図 平面図において,穴部の多数存在する横長方形状の足場,左右に末広がり状の脚部,脚部に2段の梯子状の桟がある。足場左右の折畳補強部がある。 平板部において,多数の小円孔を,千鳥状に2121(中央部)及び1212(両側部)の配列で複数列形成し,中央長手方向に細幅帯状に余地部を設け, 小円孔は,上方に僅かに突出し,頂部にごく小さい円孔が表れている。 (エ) 右側面図 右側面図において,上部脚部のうち,上部脚部全体の約5分の1の長さに相当する部分が,上部脚部の上端から左右垂直に垂下し,該垂下部に続き, 左右外方にやや末広がりに台形状の脚部を形成し,該脚部には2本の桟部が横張りされ,下部脚部は足場の高さ調整をするため中部脚部に挿入可能となるべくやや細めに形成され,脚部最下端には補強部を設けてある。 足場から折畳み補強部が垂下し,該略中央部にさらに横棒状の補強部材よりなる。 (オ) 底面図 底面図において,逆ハ字形の補強部材が渡り込まれている。 (カ) 折畳状態の正面図,平面図 折畳状態の正面図,平面図おいて,脚部の4箇所の端部は左右互いに対向する形となっている。 ウ 本件登録意匠と被告意匠との対比 (ア) 被告意匠は,本件登録意匠の特徴的部分と概略同一の構成を備えている。 a 正面図において,被告意匠の形状は本件登録意匠と略同一である。 被告意匠には,水平板中央部に把手部がないが,把手部は本件登録意匠においても付随的部分にすぎない。 b 平面図において,被告意匠の形状は本件登録意匠と略同一である。 被告意匠には,補強部が存在するが,これは付随的部分にすぎない。 c 右側面図において,被告意匠の形状は,本件登録意匠と略同一である。 d 底面図において,渡込みの補強部材が,被告意匠では逆ハ字形であるのに対して,本件登録意匠では縦にI字形である点で相違する。しかし,上記相違は,底面であり,通常看者の目を引くところではなく,些細な部分での相違にすぎない。 e 折畳状態の正面図,側面図において,被告意匠の形状は,本件登録意匠と略同一である。 (イ) 以上によれば,被告意匠は,本件登録意匠の基本的構成と同一の基本的構成態様及び略同一の具体的構成態様を備えている。特に,@平板部において,円形状の多数の小円孔を,類似する具体的配列パターンで千鳥状に複数列形成した点,A左右の脚部は,下方が伸縮する伸縮脚の構成としたもので,脚支柱を略四角柱状に,横桟を略角棒状に形成し,脚部の上端の幅を平板部の幅と同幅とし,両脚部の脚支柱の正面図及び各脚部の側面図を略「ハ」の字状に拡開した点,が共通しており,同共通点は,看者の注意を最も強く惹く部分に存在する。 (ウ) 一方,被告意匠と本件登録意匠とは,被告意匠に@足場中央部に把手部がない,A開止め金具が存在する,B折畳補強部が存在する,C渡込みの補強部材が,本件登録意匠では縦にI字型であるのに対し,被告意匠では逆ハ字形である,D平板部の態様において,本件登録意匠は表面には小円孔のみが表れているのに対し,被告意匠では表面の小円孔間に長手方向と平行な横線を表している,E小円孔の配列構成について,本件登録意匠は横6列構成としているのに対し,被告意匠では全体で横8列構成としている,という点で相違する。 しかし,@ないしBはいずれも本件登録意匠の付随的部分にすぎないし,Cは底面部分であり,通常看者の目を引くところではないから,いずれも全体の類似性を左右するものではない。またD,Eは,本件登録意匠と被告意匠が,多数の小円孔を千鳥状に複数列を設けたという点で共通していることに照らせば,小円孔の列の数のわずかな相違は,天板における意匠としての模様の様々な選択肢の範囲内のものであって,形態全体から見れば共通するということができる。その他,被告が主張する相違点は,本件登録意匠と被告意匠との類似性に影響を与えるものではない。 (エ) したがって,被告意匠は本件登録意匠に類似する。 エ 公知意匠に対する反論 被告は,本件登録意匠の要部認定の際に以下の公知意匠を考慮すべきであると主張する。しかし,以下のとおり,いずれも本件登録意匠の要部に影響を与えるものではない。 (ア) 乙3について 乙3掲載の「スライドダイバ」の下部脚部を観察しても,本件登録意匠の上部から下部脚部に至る形状のような,「上部脚部が下部脚部を収納する形の伸縮状の形状」となっていることは看取できない。すなわち,上記「スライドダイバ」の脚部は,上部から下部脚部下端部までが一体構成となって,脚部全体が面一の一貫した細長脚の形状をしている。 (イ) 乙4について 乙4は,本件登録意匠出願より後の平成10年6月1日に作成されたものであり,乙4掲載の図面は,本件登録意匠に基づいて製造された原告の製品を示すものである。 (ウ) 乙5について 乙5は,「脚立」の先行意匠であり,本件登録意匠とは足場の形状が相違する。すなわち,本件登録意匠が,平面図横長長方形状の平板部及びその表面に多数の小孔から成る形状であるのに対し,乙5では,足場部が長手方向両側に細長状の縁板が架設され,中央空間を挟んで横長方形状横幅3分の1幅の平板2枚が長手方向に架設された形状である。 (被告の反論) ア 本件登録意匠の要部(特徴的部分)について (ア) 正面図 「開脚の状態で,足場となる水平板,左右に略105度の角度で脚部が存在しこの脚部は伸縮可能に上部と下部に分かれる」構成は本件登録意匠の特徴とはいえない。すなわち,「脚部が伸縮可能に上部と下部に分かれる」構成は,意匠公報の図面から看取することができないし,仮にBーB断面図に記載されているとしても,脚支柱は略四角柱状であり,看者には内部の露出した構造は見えないはずであるから,本件登録意匠の要部となり得ない。また,上記構成は,アルミニウム製の作業用足場としての基本的形態であり,すべて公知意匠(乙2,5)に含まれているから,本件登録意匠の要部とはいえない。 (イ) 平面図 「穴部の多数存在する横長方形状の足場,左右に末広がり状の脚部,脚部に2段の梯子状の桟がある」構成は本件登録意匠の特徴とはいえない。すなわち,右側面図においては脚部に渡された2つの横の部材の太さが違っており,意匠公報の図面上,2段目の部材が「桟」に当たるかどうか不明であるから,「脚部に2段の梯子状の桟」とはいえない。また,上記構成は,アルミニウム製の作業用足場としての基本的形態であり,すべて公知意匠(乙3。また,穴部の多数存在する形状については乙6,脚部及び桟の形状については乙12)に含まれているから,本件登録意匠の要部とはいえない。 (ウ) 右側面図 「やや末広がりに台形状の脚部を形成し,該脚部には2本の桟部が横張りされ,下部脚部は足場の高さ調整をするため上部脚部に挿入可能となるべくやや細めに形成され,脚部最下端には補強部を設けてある」構成は本件登録意匠の特徴とはいえない。すなわち,同構成は,乙4に示されるように,通常の作業用足場として当然備わった形態であり,乙3の公知意匠にも含まれている。 (エ) 折畳状態の正面図,底面図 「折畳状態の脚部の4箇所の端部は,左右互いに対向する形となっている」構成が本件登録意匠の特徴の一部であることは認めるが,正確には,「隙間なく対向する」とすべきである。 イ 被告意匠の構成について (ア) 左右の脚部の脚支柱が「略四角柱状」であること及び横桟について「略角棒状」であることは否認する。被告意匠における脚支柱は,別紙物件目録添付の図面に記載されているとおり「略コの字状」である。また,被告意匠の横桟は,同図面に記載されているように,中が空洞になっており「略角管状」である。 (イ) 平板部において,「細幅帯状に余地部を設け,」ていることは否認する。被告意匠の平板部には,ストライプ状の模様が形成されていて,中央長手方向に細帯状に余地部はない。 (ウ) 右側面図において,「上部脚部のうち,上部脚部全体の約5分の1の長さに相当する部分が,上部脚部の上端から左右垂直に垂下し」ていること,「脚部最下端には補強部を設けてある」ことは否認する。 ウ 本件登録意匠と被告意匠との対比 被告意匠と本件登録意匠とは,以下のような相違点があり,全体として観察したときには,看者に全く異なる印象,美観を与えるから,両者は類似していない。 @ 天板の枚数 本件登録意匠は天板が1列であるのに対し,被告意匠は天板が3列であり,それゆえに境界線も外部に現れている。天板の大きさと模様は最も看者の注意を引く部分である。 A 天板の幅と長さの割合 本件登録意匠の天板の幅と長さの割合が「1対4」であるのに対し,被告意匠は「1対3」である。本件登録意匠は細長い一枚の天板からなっているのに対して,被告物件は,通常の作業用足場と違って,幅を500ミリメートルに広げたところに大きな特徴があり,その結果,看者に,広く平らな作業床により,今までに無い安全性を確保できる安定した天板という印象,美感を与える点で,異なった印象,美感を与える。 B 天板のストライプ模様 本件登録意匠は,天板にストライプ模様がないのに対し,被告意匠には存在する。すなわち,被告物件の天板模様は単に穴が羅列しているだけでなく,穴がストライプで囲まれた帯の中に収まり,点と線の混在する独自の模様を形成している。1本のストライプは数本の細線の集合からなり,幅広の天板でスベリ止めの役割を果たしている。 C 天板のパンチングの配列 本件登録意匠は,天板のパンチングの配列が,424242であるのに対し,被告意匠は,両端の天板の配列が121212,中央の天板が212121であり,看者に与える印象が異なる。なお,原告は,被告意匠の配列が「横8列」であると主張するが,被告意匠の配列は「横9列」である。 D ステイの有無 本件登録意匠にはステイ(天板と脚部の間に斜めに渡された,脚部の開止め金具)がないのに対し,被告意匠にはステイが存在し,正面図,側面図いずれからも看者に相当異なった印象を与える。 E 折畳状態における主脚の重なり具合 折畳状態において,本件登録意匠は,主脚が,隙間なく対向しているのに対し,被告意匠は,主脚が約110ミリメートルの隙間を有する。 F 把手部の有無 本件登録意匠には把手があるのに対し,被告意匠には把手が存在せず,これにより,看る者に相当に異なる印象を与える。 G 垂下部の有無 本件登録意匠には,垂下部があるのに対し,被告意匠には存在しない。 H 天板底面部の補強部材 本件登録意匠は,天板底面部の補強部材がI型であるのに対し,被告意匠は,補強部材がハ型である。 I 脚部最下部の補強部の有無 本件登録意匠には脚部最下部に補強部(キャップ)があるのに対し,被告意匠には存在しない。 J 脚開閉ストッパーの形状 本件登録意匠は,脚開閉ストッパーがL形状であるのに対し,被告意匠は,○形状である。 K 桟部の滑止め 本件登録意匠は桟部に滑止めが無いのに対し,被告意匠は滑止めのための6本の線がある。 L 主脚の側面の模様 本件登録意匠は,主脚の側面に模様がないのに対し,被告意匠は太い線2本,細い線2本がある。 M 脚部の積重ね用のスペーサーの有無 本件登録意匠は,スペーサーがないのに対し,被告意匠は,スペーサーが,各脚の2段目の桟に2個ずつ,合計4個ついている。 N 天板側面の模様 本件登録意匠は,天板側面に模様がないのに対し,被告意匠は3本線がある。 O 桟の太さ 本件登録意匠は,2段目が太く,1段目が細い桟があるのに対し,被告意匠は,2本とも同じ太さの桟がある。作業台においては昇降時の安全の確保は利用者にとって重要な点であり,看者は昇降する時に上下の桟の太さを確認するので,桟の太さはデザイン上大きな相違といえる。 (2) 損害の額 (原告の主張) ア 原告は,本件意匠権の持分2分の1を有する。 イ 被告は,被告物件を,平成12年8月1日より平成14年10月31日までの間に合計2万7000基製造及び販売し,合計10億8000万円を売り上げた。 ウ 本件意匠権の実施料相当料率は6%である。 エ したがって,原告が受けた損害額は,3240万円である。 10億8000万円×6%×1/2=3240万円 (被告の主張) 否認ないし争う。 |
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当裁判所の判断
1 本件登録意匠について (1) 本件登録意匠の構成 証拠(甲2)によれば,本件登録意匠の構成は,以下のとおりであると認められる。 ア 正面図 正面図において開脚の状態で,足場となる水平板と,同水平板に対して左右に略105度の角度で脚部が存在し,この脚部は上部(以下「上部脚部」という。)と,下部(以下「下部脚部」という。)とに分かれている。水平板と左右の脚部を繋ぐヒンジ部は,脚支柱の上部に取り付けたヒンジ板の内側上辺が略弧状となっている。水平板表面には,上方に僅かに突出している多数の小円孔が設けられている。水平板中央部の側面に把手部が存在する。 イ 平面図 平面図において横長長方形状の1枚の天板からなる足場(水平板)と,上端の端を水平板の幅と同幅とし,左右に末広がり状(略「ハ」の字状)に開いた脚部がある。脚部には2段の梯子状の桟が設けられている。足場表面には,中央長手方向に細幅帯状に余地部を設け,その左右には,円形状の多数の小孔が2121の配列で千鳥状に形成されている。脚支柱及び横桟は,それぞれ略四角柱状に形成されている。 ウ 右側面図 右側面図において,上部脚部は,上方から上部脚部の約5分の1程の長さまで左右垂直に垂下し(垂下部),該垂下部に続いて左右外方にハの字状に末広がりとなる。上部脚部には2本の桟部が横張りされ,下部脚部は,上部脚部よりもやや細めに形成され,脚部最下端にはキャップ状の部材が設けられている。最下段の横桟の両端に,小突片が設けられている。 エ 底面図 底面図において,I字型の補強部材が渡し込まれている。 オ 折畳状態の正面図 折畳状態の正面図において,脚部の4箇所の端部は,隙間なく左右互いに対向する形となっている。 (2) 本件登録意匠の要部(特徴的部分) ア 事実認定 証拠(乙2ないし6,11,12)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 一般に作業用足場は,その用途上当然に,足場となる平板部の左右両側に二本の支柱と複数本の横桟からなる略梯子状の脚部を左右対称状に設け,平板部と脚部の連結部分にヒンジ部を設けて脚部を折り畳み可能という基本的な構成を備えている。 (イ) 昭和60年8月10日第4刷の「仮設機材構造基準とその解説」(社団法人仮設工業会編集発行)によれば,社団法人仮設工業会が設定する仮設機材認定基準においては,建築工事に用いる金属製足場板には,使用時において作業者の足元が滑らないように,足場板の踏面に,凹凸又は穴開け加工を施すこととされていることに照らすならば,足場板表面に穴開けがしてある作業用足場は周知である。 (ウ) 本件登録意匠の登録出願前の昭和61年2月1日に発行された「総合カタログ インテリア業務用」(極東産機株式会社出版)には,「スライドダイバ」と称するアルミ製施行用台場の写真が掲載されている。同スライドダイバの意匠の構成は,以下のとおりである。 a 開脚の状態で,水平なスライド式天板を用いた足場部分を備え,同足場部分に対して左右に略105度の角度で脚部が存在し,脚部は,上部脚部と,上部脚部内に収納され得るよう,やや細い下部脚部とに分かれた脚部を有する構成となっている(なお,写真からは必ずしも明らかでないが,カタログの説明文に「スライドステージに伸縮脚をつけ・・折畳式伸縮脚立は自由な長さに調整でき」と記載されていること,脚部に伸縮調整手段が設けられていることから,上記のとおりの構成であると推認される。)。脚部の上端の端は足場部分の幅と同幅であり,左右に末広がり状(略「ハ」の字状)に開いている。 b 脚部には2本の桟部が横張りされ,脚部最下端にはキャップが設けられている。脚支柱及び横桟は,それぞれ略四角柱状にそれぞれ形成されている。 (エ) 昭和63年9月1日に発行された「総合カタログ インテリア業務用 No3」(極東産機株式会社出版)には,「アルミステージ(ピカコーポレーション)」として,細長い長方形の水平板の表面に,円形状の小孔が,3333の配列で千鳥状に形成されている足場部分の写真が,また,「スチールステージ(アルインコ)」として,細長い長方形の水平板の中央長手方向に,連続して上方へ突出した筋部を設け,その左右に1111の配列で千鳥状に円形状の小孔が形成されている足場部分の写真が,それぞれ掲載されている。 イ 要部についての判断 上記認定事実を基礎として,本件登録意匠の要部(特徴的部分)を認定判断する。 (ア) 本件登録意匠の要部は,以下のとおりであると認められる。 A 正面図及び平面図において,水平板中央部片側に把手部が存在する。 B 平面図において,水平板表面の中央長手方向に細幅帯状に余地部を設け,その左右に2121の配列で円孔部が千鳥状に形成されている。 C 側面図において,上部脚部全体の約5分の1の長さに相当する部分が,上部脚部の上端から左右垂直に垂下し,該垂下部に続き,左右外方にやや末広がり台形状の脚部を形成する。 D 折畳状態の正面図において,脚部の4箇所の端部は,左右互いに隙間なく対向する。 (イ) この点について,原告は,第2の2の(1)(原告の主張)アのとおり主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。 すなわち,原告が本件登録意匠の要部であると主張する構成のうち,@正面図において,開脚の状態で,足場となる水平板,左右に略105度の角度で脚部が存在し,この脚部は伸縮可能に上部と下部に分かれる点,A平面図において,穴部の多数存在する横長方形状の足場,左右に末広がり状の脚部,脚部に2段の梯子状の桟がある点,B右側面図において,上部脚部が左右外方にやや末広がりに台形状の脚部を形成し,該脚部には2本の桟部が横張りされ,下部脚部は足場の高さ調整をするため中部脚部に挿入可能となるべくやや細めに形成され,脚部最下端には補強部を設けてある点は,いずれも作業用足場においてありふれた公知の意匠であり,看者の注意を引く部分とは認められない。 また,作業用足場の通常の使用態様からすれば,その裏面の構成は,看者の注意を引く部分とはいえず,原告が本件登録意匠の要部であると主張する構成のうち,C底面図において,台場の中央部に縦直線状の補強部材が渡り込まれている点も,本件登録意匠の要部とすることはできない。 2 被告意匠の構成 証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,被告意匠の構成は,以下のとおりであると認められる。 ア 基本的構成 平面図横長長方形状の平板部の左右両側に二本の支柱と複数本の横桟からなる略梯子状の脚部を対称状に設け,平板部表面に多数の小孔を形成し,平板部と脚部の連結部分にヒンジ部を設けて脚部を折り畳み可能とした。 イ 正面図 正面図において,開脚の状態で,足場となる水平板と,同水平板に対して左右に略105度の角度で脚部が存在し,この脚部は伸縮可能に上部脚部と下部脚部とに分かれている。水平板と左右の脚部の間に,斜めのステイ(開止め金具)が渡されている。水平板と左右の脚部を繋ぐヒンジ部は,脚支柱の上部に取り付けたヒンジ板の内側上辺が略弧状となっている。水平板表面には,上方に僅かに突出している多数の小円孔が設けられている。 ウ 平面図 平面図において,横長長方形状の3枚の天板からなる足場部分(水平板)と,上端の端を水平板の幅と同幅とし,左右に末広がり状(略「ハ」の字状)に開いた脚部がある。脚部には2段の梯子状の桟が設けられている。足場部分を構成する3枚の天板のうち,中央の天板表面には2121の配列で,その左右に1212の配列で円形状の多数の小孔が千鳥状に形成されている。脚支柱及び横桟は,それぞれ略四角柱状に形成されている。足場左右にステイがある。 エ 右側面図 右側面図において,上部脚部は,上方から上部脚部全体の約7分の1の長さに相当する部分が左右垂直に垂下し,該垂下部に続き,左右外方にハの字状に末広がりである。上部脚部には2本の桟部が横張りされ,下部脚部は足場の高さ調整をするため上部脚部に挿入可能となるべくやや細めに形成され,脚部最下端にはキャップが設けられている。ステイが水平板から上部桟部付近にまで垂下し,さらに横棒状の補強部材がある。 オ 底面図 底面図において,逆ハ字形の補強部材が渡り込まれている。 カ 折畳状態の正面図 折畳状態の正面図において,脚部の4箇所の端部は左右互いに約11センチメートルの間をおいて対向する。 3 本件登録意匠と被告意匠との対比 (1) 本件登録意匠の要部と被告意匠の構成とを対比する。 ア 正面図及び平面図において,本件登録意匠は,水平板中央部片側に把手部が存在するのに対し,被告意匠には存在しない。 イ 平面図において,本件登録意匠は,水平板の中央長手方向に細幅帯状に余地部を設け,その左右に2121の配列で円孔部が千鳥状に形成されているのに対し,被告意匠においては,水平板を構成する3枚の天板のうち,中央の天板に2121の配列で,その左右の天板に1212の配列で円孔部が千鳥状に形成されているという点で異なる。また,被告意匠の水平板表面には,円孔部の配列の間に縦線が形成されているのに対し,本件登録意匠にはなく,円孔のみから構成されるため,両者の美観は異なる。 ウ 側面図において,本件登録意匠と被告意匠とは,上部脚部の一部が上部脚部の上端から左右垂直に垂下し,該垂下部に続き,左右外方にやや末広がりとなるという構成において共通する。しかし,垂下部の長さが,本件登録意匠では,上部脚部全体の約5分の1に相当し,脚部全体に引き締まった印象を与えているのに対し,被告意匠では,上部脚部全体の約7分の1の長さであり,その結果,垂下部が全体の形状に影響を与えていない点において,両者は異なる。 エ 折畳状態の正面図において,本件登録意匠は,脚部の4箇所の端部が左右互いに隙間なく対向するのに対し,被告意匠は,脚部の4箇所の端部が,左右約11センチメートルの隙間を挟んで対向する。 (2) 以上のとおり,被告意匠は,本件登録意匠の要部をいずれも具備しているとはいえず,一部共通する点があっても,看者に類似の美感を与えているとはいえない。また,本件登録意匠と被告意匠とは,作業用足場の意匠において割合的に最も大きな部分を占め,看者が強く注目する部分である足場部分(水平板)が,本件登録意匠においては幅と長さの割合が約1対4と細長いのに対し,被告意匠においては約1対3と,より安定した形状となっており,その結果,本件登録意匠が,前記脚部の垂下部の形状と相まって全体としてほっそりとしたスマートな印象を与えるのに対し,被告意匠は,前記ステイの存在と相まって,全体として太めのどっしりとした印象を与えている。これらの点を総合すれば,被告意匠を全体として観察したときに,本件登録意匠と類似の美観を看者に生ぜしめるとは認められず,両意匠が類似しているということはできない。 4 以上によれば,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 大寄麻代 |
裁判官 | 今井弘晃 |