関連ワード | 意匠の保護 / 意匠の利用 / 物品 / 物品の形状 / 形状 / 模様 / 意匠に係る物品 / 法上の意匠 / 類似する意匠 / 部品 / 類似物品 / 非類似物品 / 登録意匠 / 差止請求(差止) / 損害賠償 / 利用関係 / 類似性(類否判断) / 損害額 / |
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事件 |
平成
14年
(ワ)
5556号
意匠権侵害差止等請求事件
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原告 狭山精密工業株式会社 訴訟代理人弁護士 伊藤真 補佐人弁理士 峯唯夫 被告 日本サーボ株式会社 訴訟代理人弁護士 橘高郁文 補佐人弁理士 澤木誠一 同 澤木紀一 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2003/01/31 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は,別紙目録1記載の減速機付きモーター(以下,「イ号物件」という。)及び同目録2記載の減速機付きモーター(以下「ロ号物件」といい,イ号物件と併せて「被告製品」という。)を,製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸し渡しの申し出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む)をしてはならない。 2 被告は,その占有にかかる前項記載の各物件を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,金2090万円及びこれに対する平成14年3月22日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
1 本件は,後掲意匠権を有する原告が,被告に対し,被告がイ号物件及びロ号物件を製造販売する等の行為は原告の意匠権を侵害するとして,それらの行為の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めている事案である。 2 争いのない事実等 (1) 原告は,次の意匠権を有している(以下「本件意匠権」といい,この意匠にかかる登録意匠を「本件登録意匠」という。)。 意匠に係る物品 減速機 登録番号 第798521号 出願日 昭和61年7月22日 登録日 平成2年7月16日 登録意匠 別紙意匠公報(以下「本件公報」という。)記載のとおり (2) 被告は,平成7年ころより,DME34Kシリーズと称してイ号物件を製造,販売している。イ号物件は,モーターに減速機を取り付けたものであって,その形状は別紙目録1記載のとおりであり,イ号物件から分離した減速機部分の形状は別紙目録3記載のとおりである。 (3) その後,被告は,平成14年ころまでに,イ号物件における減速機部分の形状を変更し,ロ号物件を製造,販売している。ロ号物件もモーターに減速機を取り付けたものであって,その形状は別紙目録2記載のとおりであり,ロ号物件から分離した減速機部分の形状は別紙目録4記載のとおりである。 |
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争点及び当事者の主張
1 本件の争点 (1) 本件登録意匠の構成態様 (2) 本件登録意匠の要部 (3) 被告製品の意匠の構成態様 (4) 本件登録意匠と被告製品の意匠との類否 (5) 被告製品における意匠の利用関係 (6) 損害の発生及び額 2 当事者の主張 (1) 争点(1)について (原告の主張) 本件登録意匠の構成態様は,次のとおりである。 ア 基本的構成態様 内部に減速ギアが収納された筒状のケーシングの出力側端(本件公報の右側面図の左側。以下「出力側端」という。)に,フランジを形成し,前記出力側端は塞板で閉塞し,この塞板に軸受けを突設し,この軸受けから回転軸を突出させている。 イ 具体的構成態様 (ア) プロポーション 前記ケーシングの直径と長さの比は約3:2である。 (イ) フランジ フランジは,正面視隅丸正方形であって,四隅に透孔が形成してある。 (ウ) 軸受け 軸受けは,塞板の正面視上部に偏芯して設けてある。 (エ) ケーシングのモーター側端の形状 前記ケーシングのモーター側端(本件公報の右側面図の右側。以下「モーター側端」という。)は周縁部に段部を形成して中央部をわずかに膨出させ,モーターを取り付けるための膨出部を形成している。 A 膨出部は,中央部に比較的大径の透孔が設けてあり, B 背面視において,頂部及び下部両側がケーシングの外縁方向に突出した変形円輪郭であり, C 前記頂部の突出部に縦長の透孔が,また,下部の2つの突出部にやや縦長の透孔がそれぞれ設けてあり,前記下部の2つの突出部の間に丸孔が設けてある。 (被告の主張) 本件登録意匠の構成態様は,次のとおりである。 ア 基本的構成態様 一端が開口した円筒状のケーシングの出力側端に四辺形のフランジを形成し,前記開口を円形の塞板で閉塞し,この塞板に軸受けを突設し,この軸受けから回転軸を突出させている。 イ 具体的構成態様 (ア) プロポーション 前記ケーシングの直径と長さの比は約3:2である。 (イ) フランジ A フランジ部は,正面視において,中央部が円形に削られた隅丸正方形であって,四隅に透孔が形成してある。 B フランジ部は,全般に平面状に形成されているが,円形に削られた中央縁部は円弧状に90度屈曲して円筒状のケーシング部分と連続している。 (ウ) 塞板 A 塞板は,全般に平面状に形成されているが,周縁部は円弧状に90度屈曲している(内部機構を省略したA-A線断面図参照)。すなわち,塞板の全体の形状は底の浅い円筒形の入れ物状ないし縁のついた丸いお盆状となっている。 B 塞板の平面状部分とフランジ部の平面状部分とは同一平面上に設けられている。 (エ) 軸受け及び回転軸 A 軸受け及び回転軸は,塞板の正面視上部に偏芯して設けてある。 B 軸受けの軸方向の長さと,軸受けから突出した回転軸の長さはほぼ同じである。 (オ) ケーシングのモーター側端の形状 A ケーシングのモーター側端は,中央部をわずかに膨出させて段部を形成している。 B 膨出部は,背面視において,頂部及び下部両側がケーシングの外縁方向に突出した変形円輪郭であり,中央部に比較的大径の透孔が設けてあり,前記頂部の突出部に縦長の透孔が,また,下部の2つの突出部にやや縦長の透孔がそれぞれ設けてあり,下部の2つの突出部の間に丸い透孔が設けてある。 (2) 争点(2)について (原告の主張) 本件登録意匠に関する出願前公知意匠の存在を考慮すると,本件登録意匠の要部は,次の2点である。 ア 円筒状としたケーシングの出力側端に略正方形のフランジを形成した点 イ ケーシングのモーター側端は周縁部に段部を形成して中央部をわずかに膨出させ,モーター取付部である膨出部を形成した点。すなわち,膨出部の存在自体であり,その形状は問題ではない。 (被告の主張) 本件登録意匠に関する出願前公知意匠には,略正方形ないし隅丸正方形のフランジや,円筒状のケーシングのモーター側端において,中央部をわずかに膨出させて段部を形成している点が示されている。また,頂部及び下部両側がケーシングの外縁方向に突出した変形円輪郭を設け,その突出部に,孔を設けることも,従来から行われている普通の構成である。 これら公知意匠の存在を前提に,あえて,公知意匠にない本件登録意匠の構成態様を抽出するならば,次の点しかないから,次の点が,本件登録意匠の要部というべきである。 ア 塞板の周縁部の形状,すなわち,塞板は,全般に平面状に形成されているが,周縁部は円弧状に90度屈曲している点 イ 塞板とフランジ部の位置,すなわち,塞板の平面状部分とフランジの平面状部分とが同一平面上に設けられている点 ウ 軸受けの軸方向の長さと軸受けから突出した回転軸の長さの比,すなわち,軸受けの軸方向の長さと,軸受けから突出した回転軸の長さはほぼ同じである点 エ ケーシングのモーター側端の膨出部の背面形状のうち,頂部の突出部に縦長の透孔が,また,下部の2つの突出部にやや縦長の透孔がそれぞれ設けてある点 (3) 争点(3)について (原告の主張) ア イ号物件の構成態様 (ア) 全体の構成態様 イ号物件は,円柱状のモーターの出力側端に減速機を取り付けたものであって,前記モーター部分と減速機部分とはねじにより着脱可能に取り付けられている。そして,両者の取付部分は,後述する減速機部分の膨出部の存在により僅かな間隙が形成されており,そのため,イ号物件において減速機部分は独立して認識されるものである。 (イ) 減速機部分の構成 A 基本的構成態様 内部に減速ギアが収納された筒状のケーシングの出力側端に,フランジを形成し,前記ケーシングの出力側端は塞板で閉塞し,この塞板に軸受けを突設し,この軸受けから回転軸を突出させ,前記ケーシングのモーター側端は周縁部に段部を形成して中央部をわずかに膨出させ,モーター取付部となる膨出部を形成してある。 B 具体的構成態様 a プロポーション 前記ケーシングの直径と長さの比は,約3:2である。 c フランジ フランジは,正面視隅丸正方形であって,四隅に透孔が形成してある。 d 軸受け 軸受けは,塞板の正面視上部に偏芯して設けてある。 e モーター側端にある膨出部の形状 (a) 膨出部は,中央部に比較的大径の透孔が設けてあり, (b) 背面視において,頂部及び下部両側がケーシングの外縁方向に突出した変形円輪郭であり, (c) 前記頂部の突出部に縦長の透孔が,また下部の2つの突出部に正円の透孔がそれぞれ設けてあり,下部の2つの突出部の間に丸孔が設けてある。 イ ロ号物件の構成態様 (ア) 後記(イ)のモーター側端にある膨出部の形状の点を除き,前記ア記載のイ号物件の構成態様と同一である。 (イ) モーター側端にある膨出部の形状 A 膨出部は,中央部に比較的大径の透孔が設けてあり, B 背面視において,頂部及び下部両側がケーシングの外縁方向に突出した変形円輪郭であり, C 前記各突出部に正円の透孔がそれぞれ設けてある。 (被告の主張) ア イ号物件の構成態様 (ア) 全体の構成態様 一端に四辺形のフランジが形成されかつ開口部を有する筒状の第1のケーシング(減速機部分)と,該第1のケーシングの他端にその一端を連結し他端には開口部を有する,該第1のケーシングと略同型,同一素材かつ同色であるが,これより長い円筒状の第2のケーシング(モーター部分)と,前記第1のケーシングの前記開口部を閉塞する円形の第1の塞板と,この塞板に突設された軸受けと,この軸受けから突出する回転軸とよりなるもので,また,第1のケーシングと第2のケーシングは,その連結部分は見えないため,両者共にその連結されている端部の形状は,開口部,孔,凹部,凸部等の有無,大きさ,数ないし位置等が全く認識できない構成態様。 これを詳しく述べれば,モーター部分の出力軸を減速機部分の中心孔に挿入した後,モーター部分の一端面に減速機部分の一端面を対接し,減速機部分の取付孔をモーター部分の一端面の取付ねじ孔に合致させ,これにねじを螺合してモーター部分に減速機部分を固定した後,内部ギヤを減速機部分内にその一端面から挿入し,減速機部分内にこれを固定するもので,減速機部分はモーター部分から簡単に取り外すことができないものである。 (イ) 減速機部分の構成態様 A 基本的構成態様 一端が開口した円筒状のケーシングのその一端に四辺形のフランジを形成し,前記開口を円形の塞板で閉塞し,この塞板に軸受けを突設し,この軸受けから回転軸を突出させている。 B 具体的構成態様 a 塞板の形状 塞板は,ありきたりの平板であって屈曲しておらず,その周縁部には3つの取付ねじがある。 b 塞板とフランジの位置関係 塞板の平面状部分はフランジの平面状部分より一段引っ込んだ位置に設けられている。 c 軸受けと回転軸の関係 軸受けの軸方向の長さと軸受けから突出した回転軸の長さとの比は約1:2であり,回転軸の方がずっと長いという形状をしている。 d モーター側端の形状 (a) ケーシングのモーター側端は,中央部をわずかに膨出させて段部を形成している。 (b) 膨出部は,背面視において,頂部及び下部両側がケーシングの外縁方向に突出した変形円輪郭であり,中央部に比較的大径の透孔が設けてあり,頂部の突出部に縦長の透孔が,また,下部の2つの突出部及びその間に3つの丸い透孔がそれぞれ設けてある。 イ ロ号物件の構成態様 (ア) 後記(イ)記載のモーター側端にある膨出部の形状の点を除き,前記ア記載のイ号物件の構成と同一である。 (イ) モーター側端にある膨出部の形状 膨出部は,背面視において,頂部及び下部両側がケーシングの外縁方向に突出した変形円輪郭であり,中央部に比較的大径の透孔が設けてあり,前記3つの突出部にそれぞれ丸い透孔が設けてある。 (4) 争点(4)について (原告の主張) 前記(3)(原告の主張)のとおり,被告製品において減速機部分は独立して認識されるものであるから,本件登録意匠との類否判断の対象となるべき被告製品は,イ号物件及びロ号物件の減速機部分である。 前記(3)(原告の主張)のとおり,イ号物件及びロ号物件の減速機部分の意匠は,前記(2)(原告の主張)の本件登録意匠の要部を備えているから,本件登録意匠と類似する。 (被告の主張) 本件登録意匠は減速機の意匠であるのに対し,被告製品の意匠は減速機付きモーターの意匠であるから,そもそも両者は非類似物品であり,意匠的にも非類似である。被告製品のうち減速機部分は,互換性がなく,独立して取引の対象にはならないものであるから,被告製品の減速機部分は独立した意匠法上の意匠の対象にはなり得ない。 (5) 争点(5)について (原告の主張) 意匠法において「意匠の使用」が実施の一態様とされていること,意匠法26条において,自己の意匠が他人の登録意匠又はこれに類似する意匠を「利用」するものである場合には,自己の意匠を実施することができない旨規定していることからすると,@他の登録意匠又はこれに類似する意匠の全部を包含すること,A他の登録意匠の特徴を破壊することなく包含すること,B他の構成要素と区別しうる態様において包含すること,以上の要件を満たす限り,被告製品は本件登録意匠を利用ないし包含しているといえるから,本件意匠権を侵害しているというべきである。 そして,(a)前述のとおり,イ号物件及びロ号物件の減速機部分の意匠はいずれも本件登録意匠の要部を備えているものであり,減速機部分の意匠は,本件登録意匠に類似すること,(b)被告製品において減速機部分とモーター部分とはねじにより結合されているにすぎず,その間には明瞭な間隙が存在し,両者は視覚的に分割されているし,その間隙から減速機部分のモーター側端に形成された膨出部もはっきりと視認できることからすると,被告製品は本件登録意匠を利用ないし包含していることになり,本件意匠権を侵害している。 仮に,被告製品において,減速機部分の要部の全体が外部から見えないとしても,被告製品には,その部品として,本件登録意匠と実質的に同一といえるほどに酷似した減速機部分が組み込まれている以上,見えるか見えないかということは重視されるべきではなく,このような場合,たとえ意匠の一部が外部から見えないとしても,意匠の利用関係を認めるべきである。なぜなら,意匠法は,意匠の持つ「形態価値」を保護するものであり,「形態価値」には「機能的工夫により生じた形状の意匠的価値」も含まれるのであるところ,「機能的工夫により生じた形状の意匠的価値」が発揮され利用されるためには,必ずしも形態が目で見える必要はなく,したがって,外部から見えないことは意匠の利用関係を否定する根拠となるものではないからである。確かに,意匠法2条において,意匠とは「視覚を通じて美観を起こさせるもの」と定義され,物品の外部から見えない形態は意匠登録の対象から外されている。しかしながら,かかる定義規定と「使用」概念とを結びつけなければならない必然性はない。意匠保護の前提として,「目に見える形態」として「工夫の成果」が表現されていることが要件とされているとしても,「工夫の成果」が目に見える態様で「実施」されなければ保護されないと解すべき根拠はない。特に本件では,本件登録意匠の「形態価値」はモーターとの結合を前提として造形された意匠である点にあるから,それが不当に利用されたか否かの判断に際しては,モーターと減速機を結合させる「組み立て場面」と,減速機付きモーターとして「使用される場面」に注目しなければならないのであって,単に「流通過程」のみに着目し,減速機部分が単独では取引されていないことを理由として意匠の保護を否定することは意匠法の目的から見て妥当な結論ではない。 (被告の主張) 本件登録意匠と被告製品の減速機部分の意匠を対比すると,被告製品の減速機部分の意匠は,@塞板周縁部の形状,A塞板とフランジ部との位置,B軸受けの軸方向の長さと軸受けから突出した回転軸の長さの比及びC膨出部の背面形状において,本件登録意匠と顕著な相違点があり,前記(2)(被告の主張)の本件登録意匠の要部を備えていないから,両者の類似性を認めることはできない。したがって,原告主張に係る意匠の利用関係ないし包含関係は,認められない。 また,意匠の利用関係ないし包含関係が成立するためには,意匠中に他人の登録意匠の全部がその特徴を破壊することなく,他の部分と区別しうる態様において存在することを要し,もしこれが混然一体となって彼此区別し得ないときは利用関係の成立は否定されるというべきところ,前記(3)(被告の主張)のとおり,被告製品はいずれも,モーター部分と減速機部分とは略同型の同一素材かつ同一色でねじにより密着して取り付けられており,両者間には間隙は全くなく,混然一体となって彼此区別し得ないものであるから,被告製品について本件登録意匠の利用関係ないし包含関係は成立しない。 さらに,意匠法上の意匠とは意匠法2条で定義されているように「視覚を通じて美観を起こさせるもの」をいい,物品の外部に表れた部分の意匠を意味し,内部にあって外部から見えない部分の意匠を意味しないというべきところ,被告製品において減速機部分をモーター部分から独立して認識しようとしても,減速機部分のモーター側端の意匠は外部から全く見ることができない。ところが,本件登録意匠はモーター側端の膨出部の背面形状にも要部の1つと見られる大きな特徴が存するから,結局,膨出部の意匠が全く見えない被告製品について本件登録意匠の利用関係ないし包含関係は成立しない。 (6) 争点(6)について (原告の主張) ア 被告製品の販売に基づく原告の損害 (ア) 被告は,イ号物件を,平成7年から平成12年までの間に,1台当たり1000円で,約5万台販売している。したがって,現在までの被告製品の販売数量は6万台を下らないものと推定されるから,イ号物件の販売金額は少なくとも6000万円を下ることはない。 (イ) 被告の現在までのロ号物件の販売数量は3000台を下らないものと推定されるから,ロ号物件の販売金額は300万円を下ることはない。 (ウ) イ号物件及びロ号物件における被告の利益率は,30パーセントを下ることはない。 (エ) したがって,原告の受けた損害額は,意匠法39条2項により,次のとおり,1890万円となる。 (6000万円+300万円)×30%=1890万円 イ 弁護士費用及び弁理士費用 被告の本件意匠権侵害と相当因果関係を有する弁護士費用及び弁理士費用は,それぞれ100万円(合計200万円)が相当である。 (被告の主張) 原告の主張する損害の発生及び額については,否認ないし争う。 |
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争点に対する判断
1 争点(1)について 証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によると,本件登録意匠の構成態様は次のとおりと認められる。 (1) 基本的構成態様 本体は,内部に減速ギアが収納された深い鍋型の円筒状のケーシングであり,その開口した一端である出力側端に,フランジを形成し,出力側端を塞板で閉塞し,この塞板に軸受けを突設し,この軸受けから回転軸を突出させている。 (2) 具体的構成態様 ア プロポーション ケーシングの直径と長さの比は,約3:2である。 イ フランジ (ア) フランジは,正面視において,中央部が円形に削られた環状の隅丸正方形であって,厚さは2ミリメートル程度と薄く,四隅に正円型の透孔が形成してある。 (イ) フランジは,全般に平面状に形成されているが,円形に削られた中央縁部が円弧状に90度屈曲して円筒状のケーシングと連続している。 ウ 塞板 (ア) 塞板は,全般に平面状に形成されているが,塞板の周縁部は円弧状 に90度屈曲している。 (イ) 塞板の平面状部分とフランジ部の平面状部分とは同一平面上に設けられている。 エ 軸受け及び回転軸 (ア) 軸受け及び回転軸は,塞板の正面視において,上部に偏芯して設けてある。 (イ) 軸受けの軸方向の長さと,軸受けから突出した回転軸の長さはほぼ同じである。 オ ケーシングのモーター側端の形状 (ア) ケーシングのモーター側端は,中央部をわずかに膨出させて周縁部に段部を形成している。 (イ) 膨出部は,背面視において,頂部及び下部両側の3か所が膨出部分の円周に沿ってほぼそれぞれ120度の角度をおいてケーシングの外縁方向に突出した変形円輪郭であり,その中央部に膨出部の直径に比して約3分の1ほどの直径を有する比較的大径の透孔が設けてあり,頂部の突出部には縦長の透孔が,また,下部の2つの突出部にはやや縦長の透孔がそれぞれ設けてあり,その下部の2つの突出部の間に正円型の透孔が設けてある。 2 争点(2)について (1) 証拠(甲22,乙2ないし14,乙15の1,乙16,17)及び弁論の全趣旨によると,本件登録意匠に関する公知意匠は,次のとおりであると認められる。 ア 意匠登録第282532号の小型同期電動機にかかる意匠公報(昭和43年6月14日発行。乙2)記載の電動機の減速機部分は,内部に減速ギアが収納された円筒状のケーシングであり,その開口した一端である出力側端に,フランジを形成し,出力側端を塞板で閉塞し,この塞板に軸受けを突設し,この軸受けから回転軸を突出させており,フランジは,中央部が円形に削られた隅丸正方形で厚みのある環状のフランジであり,そのフランジの四隅には透孔が形成されている。 昭和46年11月3日付けのシンクロナスモーターのカタログ(乙6),昭和53年9月1日付けステッピングモーターのカタログ(乙7),昭和54年3月8日付け4相ステッピングモーターのカタログ(乙8,9),昭和59年付けのシンクロナスモーターのカタログ(乙12,13),昭和56年付けのシンクロナスモーターのカタログ(乙14)記載の電動機の減速機部分は,いずれも,内部に減速ギアが収納された円筒状のケーシングであり,その開口した一端である出力側端に,フランジを形成し,出力側端を塞板で閉塞し,この塞板に軸受けを突設し,この軸受けから回転軸を突出させており,フランジは,中央部が円形に削られた隅丸正方形で厚みがなく薄い環状のフランジであり,そのフランジの四隅には透孔が形成されている。 イ 意匠登録第479007号の変速機にかかる意匠公報(昭和53年6月27日発行。甲22)には,内部に減速ギアが収納された円筒状のケーシングであり,その開口した一端である出力側端を塞板で閉塞し,この塞板に軸受けを突設し,この軸受けから回転軸を突出させており,開口されていないケーシングの端面の中央部が円形にわずかに膨出し周縁部との間に段部を形成している変速機の意匠が示されている。また,意匠登録第353289号の電動機にかかる意匠公報(昭和47年10月25日発行。乙10),意匠登録第522112号の電動機にかかる意匠公報(昭和55年1月25日発行。乙11)及び意匠登録第547663号の電動機にかかる意匠公報(昭和55年12月26日発行。乙4)には,いずれも開口されていない円筒状のケーシングの端面の中央部が円形にわずかに膨出し周縁部との間に段部を形成している電動機の意匠が示されている。もっとも,これらの膨出部の具体的な形状は,本件登録意匠のモーター側端の具体的な形状とは異なる。また,二相サーボモーターのJIS規格に関する刊行物(昭和56年1月31日発行。乙16)や出願公開昭61-104752の実用新案公報(公開日昭和61年7月3日。乙17)に記載されているモーターの意匠の形状も,本件登録意匠のモーター側端の具体的な形状とは明らかに異なる。 (2) 上記(1)ア認定の事実からすると,本件登録意匠の構成態様のうち,原告が要部であると主張する,ケーシングの出力側端に略正方形のフランジを形成した点は,本件登録意匠の要部であると認めることはできないし,フランジが薄く,四隅に正円型の透孔が形成してある点も,本件登録意匠の要部であると認めることはできない。 また,原告は,ケーシングのモーター側端の中央部に膨出部を形成した点が,本件登録意匠の要部であると主張するが,単に中央部に膨出部を形成するというのみでは,あまりに抽象的であるうえ,上記(1)イ認定のとおり,変速機について,中央部に膨出部を形成したものが存し,物品が異なるものの,電動機についても,中央部に膨出部を形成したものが存在する(側面から見た場合には,これらの膨出部と本件登録意匠の膨出部は,膨出部である点において区別がつかないものと考えられる)から,この点も,これのみでは,本件登録意匠の要部であると認めることはできない。 本件登録意匠の要部は,ケーシングのモーター側端の具体的な形状,すなわち,ケーシングのモーター側端は中央部をわずかに膨出させて周縁部に段部を形成しており,その膨出部は,背面視において,頂部及び下部両側の3か所が膨出部分の円周に沿ってそれぞれ約120度の角度をおいてケーシングの外縁方向に突出した変形円輪郭であり,その中央部に膨出部の直径の3分の1程度の直径を有する比較的大径の透孔が設けてあり,前記頂部の突出部及び下部の2つの突出部に透孔がそれぞれ設けてある構成態様にあるものというべきである。 (3) 被告は,膨出部の背面形状のうち,膨出部に設けられた透孔の形状が要部である旨主張するが,本件登録意匠の透孔の形状は,透孔の形状としては通常あり得る形態にすぎないというべきであるから,要部とは認められない。その他,被告が主張するところの,塞板の周縁部の形状,塞板とフランジ部の位置関係,軸受けの軸方向の長さと軸受けから突出した回転軸の長さの比は,いずれも詳細に観察して初めて気づく程度の些細な特徴にすぎないから,要部とは認められない。 3 争点(3)について 当事者間に争いのない事実,証拠(甲28,乙15の1・2,検甲1,2)及び弁論の全趣旨によると,被告製品の構成態様は次のとおりであると認められる。 (1) イ号物件の構成態様 ア 全体の構成態様 (ア) 開口されている一端にフランジが形成されている円筒状の第1のケーシング(減速機部分)と,該第1のケーシングの他端に,その一端を連結し他端には開口部を有する円柱状の第2のケーシング(モーター部分)とからなる。 (イ) 前記第1のケーシングは前記開口部を閉塞する円形の塞板と,この塞板に突設された軸受けと,この軸受けから突出する回転軸よりなる。 (ウ) 第2のケーシングの直径は第1のケーシングの直径と略同一であり,その長さは第1のケーシングの約2倍であって,第1のケーシングと連結していない他端の開口部は,プラスチック製の塞板で閉塞されている。 (エ) 第1のケーシングと第2のケーシングの連結部分は,ねじによって固定されており,後記イ(イ)Eaの第1のケーシングの膨出部の存在により,僅かな間隙が形成されているが,後記イ(イ)Ebの形状全体は外部からは認識できない。 イ 第1のケーシング(減速機部分)の構成態様 (ア) 基本的構成態様 本体は,内部に減速ギアが収納された深い鍋型の円筒状のケーシングであり,その開口した一端である出力側端に,フランジを形成し,ケーシングの出力側端は塞板で閉塞し,この塞板に軸受けを突設し,この軸受けから回転軸を突出させている。 (イ) 具体的構成態様 A プロポーション ケーシングの直径と長さの比は,約3:2である。 B フランジ フランジは,正面視において,中央部が円形に削られた環状の隅丸正方形であって,厚さは2ミリメートル程度でごく薄く,四隅に正円型の透孔が形成してある。 C 塞板 a 塞板は,全般に平面状に形成されており,その周縁部には3つの小さな取付ねじがある。 b 塞板の平面状部分とフランジ部の平面状部分とは同一平面上ではなくわずかな段差が設けられている。 D 軸受け及び回転軸 a 軸受け及び回転軸は,塞板の正面視において,上部に偏芯して設けてある。 b 軸受けの軸方向の長さと,軸受けから突出した回転軸の長さの比は,約1:2である。 E ケーシングのモーター側端の形状 a モーター側端は,中央部をわずかに膨出されて周縁部に段部を形成している。 b 膨出部は,背面視において,頂部及び下部両側の3か所が膨出部分の円周に沿ってほぼそれぞれ120度の角度をおいてケーシングの外縁方向に突出した変形円輪郭であり,その中央部に膨出部の直径に比して約3分の1ほどの直径を有する比較的大径の透孔が設けてあり,前記頂部の突出部には縦長の透孔が,また,下部2つの突出部には正円型の透孔がそれぞれ設けてあり,前記下部の2つの突出部の間にその突出部の透孔と略同径の正円型の透孔が設けてある。 (2) ロ号物件の構成態様 ア 後記(イ)のモーター側端にある膨出部の形状の点を除き,前記ア記載のイ号物件の構成態様と同一である。 イ モーター側端にある膨出部の形状 (ア) 膨出部は,背面視において,頂部及び下部両側の3か所が膨出部分の円周に沿ってほぼそれぞれ120度の角度をおいてケーシングの外縁方向に突出した変形円輪郭であり,その中央部に膨出部の直径に比して約3分の1ほどの直径を有する比較的大径の透孔が設けてあり, (イ) 前記3つの突出部にそれぞれ正円型の透孔が設けてある。 4 争点(4)(5)について (1) 本件登録意匠に係る物品と被告製品の物品とを対比すると,本件登録意匠に係る物品は減速機であるのに対し,被告製品は,減速機部分にモーター部分を連結して一個の物品となした減速機付きモーター(ギヤードモーター)であるから,両者は物品が異なり,被告製品の意匠は本件登録意匠と同一又は類似であるということはできない。 また,原告が主張するように,利用関係による意匠権の侵害が認められるとしても,前記認定に係る本件登録意匠の要部は,前記3認定の事実からすると,被告製品の意匠においては,外部から認識できないから,このような場合には,利用関係が存すると認めることはできず,したがって,利用関係による意匠権の侵害も認められない。 (2) この点,原告は,本件登録意匠との類否判断の対象となるべき製品は,被告製品の減速機部分であると主張するが,前記認定のとおり,減速機部分は,ねじでモーター部分と固定されており,減速機部分は減速機付きモーターの一構成部分にすぎないというべきであるから,被告製品の減速機部分のみを切り離して本件登録意匠との類否判断の対象とすることはできないというべきである(もっとも,利用関係の判断に当たっては,減速機部分のみを類否判断の対象にすることがあり得るが,利用関係も成立しないことは前述のとおりである。)。 また,原告は,意匠法は意匠の持つ「形態価値」を保護するものであり,「形態価値」を保護するためには保護されるべき意匠が物品の流通過程で見えるかどうかは問題ではなく,モーターと減速機を結合させる「組み立て場面」と,減速機付きモーターとして「使用される場面」に注目しなければならないと主張するが,意匠法において意匠とは,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美観を起こさせるものをいい(意匠法2条1項),また,意匠保護の根拠は,流通過程における混同防止にあると解されるから,意匠法の保護の対象となるのはあくまで物品の外観であって,外観に現れず,視覚を通じて認識することがない物品の隠れた形状は,意匠権侵害の判断に当たっては考慮することはできないというべきであり,この点は,利用関係の判断に当たっても変わらないというべきである。原告が主張するように,モーターと減速機を結合させる「組み立て場面」や,減速機付きモーターとして「使用される場面」に注目したとしても,減速機付きモーターにおいて登録意匠の要部が外観に現れなければ,意匠権侵害といえないことは,前述のとおりであって,これらに注目したところで結論が変わるものではない。 5 以上のとおり,本件意匠権侵害の事実が認められないから,本訴請求は理由がない。よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 東海林保 |
裁判官 | 瀬戸さやか |