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関連審決 無効2000-35055
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
昭和57ネ43 判例 意匠
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  組物の意匠(8条) /  創作容易(容易の創作) /  先願 /  新規性 /  公然知られた(3条1項1号) /  広く知られた /  記載された意匠 /  意匠の属する分野 /  通常の知識を有する者 /  登録意匠 /  抵触 /  無効審判 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 220号 審決取消請求事件
原告A
同訴訟代理人弁護士 舟橋直昭
同訴訟代理人弁理士 神戸真
同 前田勘次
被告 株式会社ウチコン
同訴訟代理人弁理士 小島清路
同 谷口直也
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/11
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2000-35055号事件について平成14年3月26日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いがない事実及び証拠等により容易に認定できる事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,意匠に係る物品を「側溝用ブロック」とする登録第1037733号意匠(平成6年9月5日登録出願。平成11年2月26日設定登録。別紙図面参照。以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。
(2) 被告は,平成12年1月19日,原告を被請求人として,本件意匠の登録を無効とすることを求めて特許庁に審判を請求した。
(3) 特許庁は,被告の請求を無効2000-35055号事件(以下「本件審判請求事件」という。)として審理を行った(以下,この審判手続を「前審判手続」という。)。前審判手続においては,請求人である被告が,@本件意匠は,その登録出願前に,実開昭50-62358号公報(実用新案に係る物品を硬質プラスチック製排水桝とする実用新案の出願公開公報。乙1。以下「本件引用例」という。),実開昭63-95790号公報,実開昭63-18590号公報及び実開昭58-140286号公報記載の各形状に基づいて,当業者が容易に創作をすることができたから,意匠法3条2項(平成10年法律第51号による改正前のもの。以下同じ。)に該当する,A本件意匠は,その登録出願前に日本国内において公然知られた意匠である平成6年7月26日付け株式会社丸治コンクリート工業所作成の「R側溝(リボーン側溝)RU-300A」の図面記載の意匠と同一であり又は類似するから,同法3条1項に該当するとして,本件意匠の登録を無効とすることを求めたところ,特許庁は,平成12年8月8日,被告の上記@,Aの主張をいずれも排斥し,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「前審決」という。)をし,その謄本は同月28日被告に送達された(乙2,3,弁論の全趣旨)。
(4) 被告は,前審決を不服とし,平成12年9月25日に東京高等裁判所に前審決の取消しを求める訴えを提起した(同裁判所平成12年(行ケ)第357号事件として係属)ところ,同裁判所は,平成13年3月26日に前審決を取り消す旨の判決をした。原告は,同判決を不服とし,最高裁判所に上告受理の申立てをした(同裁判所平成13年(行ヒ)第174号事件として係属)が,同裁判所は同年9月25日に上記申立てを受理しない旨の決定をし,これにより上記東京高等裁判所の判決は確定した(以下,この判決を「前訴確定判決」という。)。
前訴確定判決が前審決を取り消すべきものとした理由の要旨は,次のとおりである(乙3)。
ア 本件意匠の要部は,「側溝用ブロック」の蓋受部をほぼ「し」の字状に切り欠いて弧状面とした構成にあるというべきである。 他方,本件引用 例には,蓋受部の形状を本件意匠の蓋受部とほぼ同一の弧状面とする構成を有する「排水桝」が記載されている。
イ 「側溝用ブロック」と本件引用例に係る物品である「排水桝」とは,意匠に係る物品分野を同じくするというべきである。
ウ 「側溝用ブロック」と「排水桝」とは,いずれも本体が地面に埋設され,上面の開口部が蓋で覆われるという基本的な構成を共通にするものであるから,蓋受部の機能及び使用態様もほぼ共通するということができる。また,「側溝用ブロック」も「排水桝」も,ともにコンクリートが用いられることが多いことは公知の事実である。加えて,一般に,切り欠き部を直角状にすることなく弧状面とする構成自体,意匠の構成としてごくありふれたものというべきである。
エ 本件意匠の登録出願前に,「排水桝」の蓋受部を「し」の字状に切り欠いて弧状面とする構成は,「側溝用ブロック」の当業者において広く知られた形状であったというべきであり,かつ,この形状に基づき,側溝用ブロックの蓋受部を弧状面として本件意匠を創作することは,当業者にとって容易であったというべきである。
したがって,本件引用例記載の意匠に基づく容易創作性を否定した前審決の判断は誤りというべきである。
(5) 特許庁は,前訴確定判決を受けて,あらためて本件審判請求事件について審理を遂げ,平成14年3月26日に「登録第1037733号の登録を無効とする。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年4月5日に原告に送達された(弁論の全趣旨)。
2 本件審決の理由の要点 (1) 前訴確定判決は,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)33条1項の規定により,本件審判請求事件の再度の審理を担当する審判官を拘束するものである。
(2) 前訴確定判決の主文及び理由は前記1(4)記載のとおりであるところ,これによれば,本件意匠は,他の事由を検討するまでもなく,意匠法3条2項の規定に該当するものであるから,同法48条1項1号に該当するものである。
(3) したがって,本件意匠の登録は,意匠法48条1項の規定により,無効とすべきである。
当事者の主張
1 原告の主張 (1) 本件審決は,行訴法33条1項の規定の適用を誤り,ひいては意匠法59条2項の準用する特許法181条2項(以下,単に「特許法181条2項」という。)の規定に違反するものであり,取消しを免れない。
ア 特許法181条2項によれば,無効等審判請求事件についての審決取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は当該審判事件についてさらに審理を行い,審決をしなければならないと規定されている。
イ 確かに,審判官は,再度の審理,審決をするに当たって,行訴法33条1項の規定により審決取消判決の拘束力を受ける。そして,同判決の拘束力が及ぶ範囲は,判決主文が導き出されるに必要な事実認定及び法律判断にわたるものである。
しかし,審決取消判決は,再度の審理を担当する審判官が,同一請求の処理に当たり,判決で取り消された審決とは異なる理由をもって,結果として取り消された前の審決と同一内容の審決をすることをも禁止する拘束力を有するものではない。したがって,本件審判請求事件の再度の審理を担当する審判官は,前訴確定判決と同じ理由で,前審決と異なる結論をとるべきことになるのか,それとも,前審決とは異なる理由により,本件審判の請求は成り立たないとする前審決と同一の結論をとるべきことになるのかについて,あらためて審理を尽くさなければならない。
ウ しかるに,本件審決に係る審決書の「4.当審の判断」には,「上記の判決(前訴確定判決)の主文及び判決理由によれば,本件登録意匠は,他の事由を検討するまでもなく,意匠法第3条第2項の規定に該当するものであるから,同法第48条第1項第1号に該当するものである。したがって,同法第48条第1項の規定により,その意匠登録を無効とすべきものとする。」とだけ記載されているにすぎない。すなわち,前訴判決確定後の本件審判請求事件の再度の審理において,審判官は,行訴法33条1項の規定により前訴確定判決の拘束力を受けるとの理由だけで,本件意匠登録を無効にすべきであると形式的に結論付けているのであって,同審判官は,手続面で形式的な審理をしたのみで,内容面で上記イの観点からの実質的な審理を尽くさなかったものといわざるを得ない。したがって,本件審決は,特許法181条2項に違反している。
また,本件審決の上記の判断によれば,一旦,審決取消判決が確定すれば,機械的に取消前の審決とは逆の結論の審決が出され,その審決は二度と覆らないという結果になるが,行訴法33条1項は,審決取消判決の拘束力の絶対性を担保する規定ではない。したがって,上記の判断は行訴法33条1項に違反し違法である。
(2) 審判の審決書には審決の結論のほか,当事者が不服の訴訟を提起するについて有効な反論ができる程度に,結論に至った具体的な理由が記載されていなければならないところ,仮に審判官が,本件審判請求事件についてあらためて実質的な審理をしたものとしても,本件審決に係る審決書には本件審決の結論に至った具体的な理由が全く記載されておらず,したがって,本件審決は,当事者から有効な反論の機会を奪うものであり,手続保障の点からして瑕疵がある。
(3) 本訴のような当事者系審決取消訴訟においては,行政庁は当事者になっていないから,行訴法33条1項の規定はそのまま適用されるものではないというべきである。すなわち,行訴法33条1項は,取消判決の実効性を担保するという政策的な見地から,当該処分に関係のある行政庁に対し当該取消判決の趣旨に従うべきことを規定したにとどまり,当初の審決取消訴訟における審決取消判決を受けてされた再度の審決について取消訴訟が提起された場合に,審決取消判決が,再度の審決の取消訴訟を審理する裁判所をも当然に拘束することを規定したものではない。
そして,再度の審決の取消訴訟において,裁判所が行訴法33条1項を準用するにあたっては,同規定の背後にある公益性への配慮あるいは迅速で実効性のある訴訟の遂行と法意にかんがみて,当初の審決取消判決の理由中の認定判断から特許庁(審判官)が根拠とすべき行為規範を見出し,それとの関係において,再度の審決の適否を判断すべきである。本件についていえば,裁判所は,前訴確定判決の理由中の判断が本件審決の根拠となるべき行為規範たり得るかという観点から,本件審決の適否を審理し,かつ,前訴確定判決の理由中の認定判断と別個の理由又は事実に基づいて審決をすることの可能性を審理すべきである。
(4)ア 前訴確定判決は,本件引用例に記載された排水桝の形態を周知の形態とし,切り欠き面を弧状面とすることがごくありふれたものであると根拠もなく断定し,本件意匠は本件引用例に記載された意匠から容易に創作できるものと判断した。しかし,次項イに述べるとおり,本件意匠の創作は困難性・意外性を伴うものであり,本件引用例に記載された意匠から当業者が容易に創作できるものではないから,前訴確定判決の上記判断は,意匠法3条2項の規定の解釈適用を誤ったものであり,前訴確定判決のこの誤った判断を盲目的に容認し,本件意匠の登録を無効とした本件審決も,結果として意匠法3条2項の規定に違反してされたものというべきである。
イ 本件に適用されるべき意匠法3条2項は,現行の意匠法3条2項と異なり,意匠の登録要件について,「意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基いて容易に意匠の創作をすることができたときは,その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については,前項の規定にかかわらず,意匠登録を受けることができない。」と規定し,登録を受けることのできない意匠は,「日本国内において周知な形態に基づいて,当業者が容易に創作することができた意匠」のみとしていたのである。
本件についていえば,@本件引用例に記載された形状は側溝用ブロックを製造する当業者であるコンクリート二次製品製造業者にとっては周知のものではないし,また,A本件引用例に係る物品である排水桝は,家庭用のプラスチック製の小さな桝であるからどのような形にも容易に製造することができ,また,家庭の庭に埋設するものであるから,自動車のような大きな荷重が作用するものではなく,蓋の装着状態が特別問題になることもないのに対し,本件意匠に係る物品である側溝用ブロックは,常識的にみてコンクリート製であり,長さが約2mの大きなもので,さらに,自動車のような大きな荷重がかかる可能性があるなどの点で著しく相違するものである。側溝用ブロックの上記のような特性から,側溝用ブロックは鋼製(鉄板製)の型枠によって製造されることになるが,蓋受部の長さを2mの長さにわたって正確な曲線で「し」の字状に成型することは極めて難しく,型枠のコストが高くなるばかりでなく,不良品の発生率も高くなるし,また,側溝用ブロックの蓋受部を「し」の字状にすれば,その蓋も「し」の字状にしなければならないことになるが,蓋受部と同様に型枠の成型が極めて難しいなどの問題が発生する。さらに,コンクリート二次製品の成型においては,どうしても寸法誤差が生ずるから,側溝用ブロックの蓋受部の「し」の字状の曲面とその蓋の「し」の字状の曲面とを完全にぴったりと密着させることは極めて難しく,さらに,「排水桝」と違って多くの蓋を連続して装着しなければならないという性質から,その困難性は増加するものである。
側溝用ブロックの蓋受部に「し」の字状に切り欠いて弧状面とする構成を採用するには,上記のような困難な問題を解決しなければならないところ,本件意匠の創作者である原告は,側溝用ブロックの蓋の曲面の曲率を同ブロックの蓋受部の曲面の曲率より大きくする(曲がり具合をきつくする。)ことで,蓋受部の曲面と蓋の曲面とが線上に接触し,多少の寸法誤差があってもこれを吸収し,蓋がしっかりと蓋受部に支持されるようにし,これにより上記したような困難な問題を解決し,「側溝用ブロック」の蓋受部の内側に「し」の字の形状を採用し,美観を付与することを可能にしたのである。このように,本件引用例に係る物品である「排水桝」の蓋受部を「し」の字状に切り欠いて弧状面とする構成から,「側溝用ブロック」の蓋受部を「し」の字状に切り欠いて弧状面にする構成とする本件意匠を創作することは容易にできるものではなく,「側溝用ブロック」に上記の構成を採用した本件意匠は困難性・意外性を有するものである。
また,意匠の創作容易性を判断するにあたっては,当該意匠と引用意匠とを対比して,当該意匠が引用意匠とは全く異なった意匠効果を有するといえるか否かを基準とすべきである。しかして,本件意匠は,正背壁の上部内側に直線上に対向して2か所設けられた断面がほぼ「し」の字状の弧状面となっている蓋受部の形状が看者の視覚を通じて美観を与えるものであり,本件引用例記載のリング状の蓋受部を有する排水桝とは全く異なった意匠的効果を有することが明らかである。
(5) 意匠登録の無効審判の審理においては,当該意匠の分野についての周辺意匠を充分に考慮して,適正かつ公平な結論に至るように審理が行われなければならない。側溝用ブロックの分野における先願意匠及び後願意匠を含めた周辺意匠によれば,全体形状が一般的であっても,@蓋受部の形状に簡単な変化をつけ,A周知形状を単に付加し,あるいはB周知の形状を単に付加した上,蓋受部の形状に簡単な変化をつけることが,側溝用ブロックの意匠の新規性及び創作性を判断する上で重要な要素とされ,その新規性及び創作性が肯認されて意匠の設定登録がされている例が多いのであって,このような特許庁の一貫した審査基準からすれば,本件意匠にも新規性,創作性が認められてしかるべきである。しかるに,本件審決が上記と異なる基準により,本件意匠の登録を無効としたのは,本件意匠と周辺意匠とで登録審査基準の適用に差異を設けるものであり,本件審決には審査上の平等原則に違反する重大な瑕疵があるというべきである。
2 被告の主張 (1) 本件審決は,行訴法33条1項により,前審決を取り消した前訴確定判決の拘束力に従ってされたものであり,その認定判断は相当であって,これを取り消すべき理由はない。
(2) 原告の主張(1)について 本件審判請求事件の再度の審判手続において,審判官は,行訴法33条1項の規定により前訴確定判決が審判官を拘束するとの判断を前提に,同判決の拘束力の及ぶ認定判断に基づいて本件意匠の意匠法3条2項の規定該当性を審理判断しているのであって,審判官が本件審判請求事件の再度の審判手続において実質的な審理をしていることは明らかである。
また,本件審決は,単に,本件審判の請求は成立しないとした前審決が取り消されたとの一事をもって,機械的にこれと逆の無効審決を下したものではなく,前訴確定判決中の判決主文が導き出されるに必要な事実認定及び法律判断という具体的事情を前提に,本件意匠は意匠法3条2項の規定に該当する旨判断したものである。
原告の主張(1)はいずれも理由がない。
(3) 原告の主張(2)について 本件審決に係る審決書には,「上記の東京高等裁判所(平成12年(行ケ)第357号審決取消請求事件)の判決は,行政事件訴訟法第33条第1項の規定により,当審を拘束するものである。」との判断が記載され,それに続いて,「上記の判決主文及び理由によれば,本件登録意匠は,・・・意匠法第3条第2項の規定に該当するものである・・・」と記載されている。この記載は,審判官が,再度の審判手続において,前訴確定判決の認定判断が審判官を拘束することを前提に,この認定判断に従って本件意匠の意匠法3条2項の規定該当性を審理し,本件意匠は周知の形状である本件引用例記載の意匠に基づいて容易に創作をすることができたものである旨の判断をしたことを明らかにしたものであり,したがって,上記審決書には,本件審決の結論に至った具体的な理由が実質的に記載されているというべきである。
原告主張(2)は理由がない。
(4) 原告の主張(3)について 審決取消判決の理由中の認定判断は,再度の審決を行う行政庁たる特許庁(審判官)の行為規範としてこれを拘束するものであり,この拘束力に従った再度の審決の判断はその限りにおいて適法であって,再度の審決取消訴訟において,裁判所はこれを違法とすることができず,再度の審決取消訴訟を審理する裁判所は,当初の審決取消判決の拘束力に従った審判官の判断が適法であることを前提に審理を行うべきものである。
原告の主張(3)は理由がない。
(5) 原告の主張(4),(5)について 特許庁(審判官)が審決取消判決の拘束力に従って再度の審決をした場合は,その再度の審決に対する再度の審決取消訴訟において,上記拘束力に従った審決の判断が誤りであるとする主張立証をすることは,上記取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず,許されないと解すべきである。
原告の主張(4),(5)は,結局のところ,本件意匠は本件引用例に記載の意匠に基づいて容易に創作をすることのできないものであるとし,前訴確定判決の拘束力に従った本件審決の認定判断が誤りであるというものであるが,上記のとおり,このような主張は許されないというべきである。
当裁判所の判断
1(1) 特許法181条2項は,審判官は,審決の取消請求訴訟において裁判所がした審決取消しの判決が確定したときは,さらに審理を行い,審決をしなければならない旨規定しているから,意匠無効審判請求事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は同規定に従い,当該審判事件についてさらに審理を行い,審決をすべきことになるが,審決取消訴訟には行訴法の適用があるから,再度の審理ないし審決を行うにあたっては,審判官は,同法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力を受けるものである。そして,この拘束力の範囲は,判決主文が導き出されるに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は,再度の審決において,上記取消判決に抵触する認定判断をすることは許されないと解される。したがって,再度の審判手続において,審判官は,取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断について,これを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと,あるいは,上記主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟において,当事者が取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである旨主張し,これを裏付けるための立証をし,さらには裁判所がこれを採用し,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることはできないものというべきである。
(2) 本件についてみると,本件審判請求事件の前審判手続においては,請求人である被告が,本件意匠は,その登録出願前に,本件引用例等に記載された各形状に基づいて,当業者が容易に創作をすることができたから,意匠法3条2項に該当するなどと主張して,本件意匠の登録を無効とすることを求めたところ,前審決は,被告の各主張をいずれも排斥し,本件審判の請求は成り立たないとの審決をしたこと,被告は,これを不服として,東京高等裁判所に前審決の取消しを求める訴訟を提起したところ,同裁判所は,前記第2の1(4)記載の理由により,本件引用例に記載された意匠に基づいて本件意匠を創作することは当業者にとって容易であったとし,本件引用例に記載の意匠に基づく容易創作性を否定した前審決の判断は誤りであるとし,前審決には取消事由があるとして,これを取り消す旨の前訴確定判決をし,同判決が確定したことは,前記第2の1記載のとおりである。
そうすると,本件審判請求事件の再度の審判手続において,審判官は,前訴確定判決の拘束力を受けるから,本件引用例に記載の意匠から本件意匠をその登録出願前に当業者が容易に創作することができたとはいえないと認定判断することは許されないのであり,したがって,本件審決が,前訴確定判決の拘束力に従って,本件意匠はその登録出願前に本件引用例に記載の意匠に基づいて当業者が容易に創作できたものであるから,意匠法3条2項に該当すると判断したことは,その限りにおいて適法というべきである。
2 原告は,前訴確定判決後の再度の本件審判請求事件の審理において,審判官は,行訴法33条1項の規定により前訴確定判決の拘束力を受けるとの理由だけで,本件意匠の登録を無効にすべきであると形式的に結論付けており,実質的な審理をしていない旨主張する。
しかしながら,本件審判請求事件の再度の審判手続において,審判官が,行訴法33条1項の規定により前訴確定判決が審判官を拘束するとの判断を前提に,同判決の認定判断に基づいて本件意匠の意匠法3条2項の規定該当性を審理判断していることは前記1(2)に認定したとおりであるところ,前訴確定判決の拘束力の及ぶ範囲を定め,これに従って本件審判請求事件についてあらためて判断を下すことも実質的な審理にあたるというべきである。
なお,原告は,審決取消判決は,再度の審理を担当する審判官が,同一請求事件の処理に当たり,判決で取り消された審決とは異なる理由をもって,結果として取り消された前の審決と同一内容の審決をすることをも禁止する拘束力を有するものではない旨主張するが,本件においては,本件意匠が意匠法3条2項に該当しないとの判断を下すことは前訴確定判決の認定判断に抵触するものであり,許されないというべきである。
また,原告は,本件審決に係る審決書の「4.当審の判断」の記載によれば,一旦,審決取消判決が確定すれば,機械的に取消前の審決とは逆の結論の審決が出され,その審決は二度と覆らないという結果になるが,これは行訴法33条1項の規定に反するものである旨主張する。しかしながら,本件審決は,一旦審決取消判決が出れば,再度の審決では機械的に逆の結論になるとの判断を示しているのではなく,前訴確定判決の内容を吟味し,その拘束力の及ぶ範囲を確定した上で,本件においては,その拘束力に従えば,本件意匠は意匠法3条2項に該当することになるとの判断を示しているものである。
原告の上記主張は,いずれも採用することができない。
3 原告は,本件審決に係る審決書には,結論に至った具体的な理由が全く記載されておらず,本件審決は,当事者から有効な反論の機会を奪うものであり,手続保障の点からして瑕疵がある旨主張する。
しかしながら,上記審決書には,「上記の東京高等裁判所(平成12年(行ケ)第357号審決取消請求事件)の判決は,行政事件訴訟法第33条第1項の規定により,当審を拘束するものである。」との判断が記載され,それに続いて,「上記の判決主文及び理由によれば,本件登録意匠は,・・・意匠法第3条第2項の規定に該当するものである・・・」と記載されている。この記載は,審判官が,本件審判請求事件の再度の審判手続において,前訴確定判決が審判官を拘束することを前提に,拘束力の及ぶ同判決の認定判断に従って本件意匠の意匠法3条2項の規定該当性を審理し,本件意匠は周知の形状である本件引用例に記載の意匠に基づいて容易に創作をすることができたものである旨判断したことを明らかにしたものである。上記の記載に,本件審決の結論に至った具体的な理由の記載として欠けるところはなく,上記審決書の理由の記載は原告の防御権を侵害するものではない。
原告の上記主張は採用することができない。
4 原告は,行訴法33条1項は,取消判決により取り消された処分に関係のある行政庁に対し当該取消判決の趣旨に従うべきことを規定したにとどまり,当初の審決取消訴訟における審決取消判決を受けてされた再度の審決について取消訴訟が提起された場合に,審決取消判決が,再度の審決の取消訴訟を審理する裁判所をも当然に拘束することを規定したものではないとした上で,裁判所は,本訴においては,前訴確定判決の理由中の判断が本件審決の根拠となるべき行為規範たり得るかという観点から,本件審決の適否を審理し,かつ,前訴確定判決の理由中の認定判断と別個の理由又は事実に基づいて審決をすることの可能性を審理すべきである旨主張する。
確かに,行訴法33条1項は,審決取消判決後にされた再度の審決の取消訴訟を審理する裁判所に対する審決取消判決の拘束力を規定したものではない。しかしながら,審判官が審決取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟において,当事者が取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである旨主張し,これを裏付けるための立証をし,さらには裁判所がこれを採用し,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることはできないというべきことは,前記1(1)に説示したとおりである。このように,再度の審決の取消訴訟の審理を担当する裁判所は,上記のような訴訟の仕組みにより間接的に審決取消判決の拘束力の影響を受けるものであり,同裁判所が,審決取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断に違法性があるかどうかを審査する余地はないというべきである。
原告の上記主張は採用することができない。
5 原告は,前記原告の主張(4),(5)記載のとおり,本件意匠は本件引用例に記載の意匠に基づいて容易に創作をすることのできないものであり,また,従来の特許庁の一貫した審査基準からしても,本件意匠には新規性,創作性が認められてしかるべきであるとし,前訴確定判決の拘束力に従って本件意匠は意匠法3条2項に該当するとした本件審決の認定判断が誤りである旨主張する。
しかしながら,本件審決は前訴確定判決の拘束力に従って本件意匠は意匠法3条2項に該当する旨判断したものである(第2の2)ところ,再度の審決取消訴訟において,当事者が取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである旨主張し,これを裏付けるための立証をし,さらには裁判所がこれを採用し,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることはできないというべきことは,前記1(1)に説示したとおりである。
原告の上記主張は採用することができない。
6 以上の次第で,原告が本件審決の取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,その他,本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 橋本英史
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