関連審決 | 無効2000-35698 |
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関連ワード | 物品 / 形状 / 意匠に係る物品 / 公然知られた(3条1項1号) / 3条1項3号 / 類似する意匠 / 意匠の類否 / 登録意匠 / 類似性(類否判断) / 無効審判 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
458号
審決取消請求事件
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原告 セブン工業株式会社 原告補助参加人 株式会社エヌ・シー・エヌ 原告及び原告補助参加人訴訟代理人 弁理士 柴田淳一 被告 株式会社シェルター 訴訟代理人 弁護士 熊倉禎男、田中伸一郎 弁理士 笹島富二雄、宮滝恒雄、 松原美代子 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/09/10 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の請求
特許庁が無効2000-35698号事件について平成13年9月7日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、意匠に係る物品を「梁固定用金具」とし、形態を別紙1審決の別紙第1のとおりとする登録第899148号意匠(平成4年(1992年)5月7日出願、平成6年(1994年)2月24日登録。以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。本件意匠について、被告が意匠登録無効審判を請求し(無効2000-35698号)、平成13年9月7日「登録第899148号の登録を無効とする。」との審決があり、その謄本は同月18日に原告に送達された。 2 審決の理由の要旨 審決は、別紙1審決の「理由」に記載のとおり、本件登録意匠は、審決の別紙第2に示された甲号意匠と類似する意匠であって、意匠法3条1項3号に該当するものであるから、本件意匠の登録を無効とすべきである旨、認定判断した。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
1 甲号意匠の認定の誤り (1) 審決は、「のごみふれあい楽習館」の建築確認申請書(甲第3号証の1)に添付された図面(甲第3号証の4)に基づいて、甲号意匠の形態を次のとおり認定した。 【甲号意匠の形態】 (1) 使用時において、柱側に接する背板と、梁の内側に挿入される差込板とがT字状をなすように直交し一体的に形成された基本的構成態様のものであること。 (2) 背板は、縦長の長方形板で、その前面側の中央上下2カ所に、底板を有する大きい短円筒形突出部を現し、その各中央部にボルト用の円孔を設けたものであること。 (3) 差込板は、縦長の長方形板で、背板のボルト用の円孔に対応する2カ所に、やや大きい「コ」の字状の切り欠きを形成し、反対側の端部寄りに円孔3個を上下一列に設けたものであること。 (4) 背板の構成比率について、幅と高さの比を略1:4とし、2個のボルト用の円孔の位置を、幅中央の線上で背板の高さを1:5:1に分割した部位とし、 短円筒形突出部の直径を背板幅より僅かに小さいものとしていること。 (5) 差込板の構成比率について、高さを背板と略同じとし、幅と高さの比を略4:7とし、切り欠きの開口幅を背板の短円筒形突出部の直径よりやや小さくしたものであること。 しかし、この甲号意匠の認定は誤りである。甲第3号証の4の図面は、左右2つの図面からなっており、その左側の図(側面図)からは、被告の主張するような短円筒状突出部を備えたシアプレートの形態は把握し得ない。むしろ、左側の図面に忠実に従うなら、このシアプレートには「短円筒状突出部」などは形成されておらず、突出部の形状が「かすがい状」であるとみることが合理的である。 (2) 審決における上記甲号意匠の認定は、被告が甲第3号証の4の図面から把握される形態を示す斜視図であると主張して提出した甲第6号証の図2(別紙2参照)に沿ったものと思われるが、甲第3号証の4の図面(左側の図と右側の図からなる)からは、審決の認定したように甲号意匠を特定することはできない。 (3) 審決における甲号意匠の認定は、甲第5号証(「大スパン木構造の今-木造建築物設計施工の手引き」(財)日本住宅・木材技術センター、平成2年7月発行)のシアプレートの図と甲第3号証の4の図面とを組み合わせることによってなされたものである。しかし、2つの意匠を組み合わせを甲号意匠と認定して類否判断の対象とすることは、許されない。 (4) 甲第3号証の4の図面に忠実に意匠の形態を特定するとき、甲号意匠は、次の【改甲号意匠】(甲第7号証のB図参照)のとおり特定されるべきである。要は、改甲号意匠には、短円筒形突出部がないということである。 (1) 使用時において柱側に接する背板と、梁の内側に挿入される差込板とがT字状をなすように直交し一体的に形成された基本的構成態様のものであること。 (2) 背板は、縦長の長方形板で、その前面側の中央上下2カ所に、形状の特定されないシアプレートとおぼしき部材が配置されていること。 (3) 差込板は、縦長の長方形板で、背板のボルト用の孔(円孔とはいえない) に対応する2カ所に、やや大きい「コ」の字状の切り欠きを形成し、反対側の端部寄りに円孔3個を上下一列に設けたものであること。 (4) 背板の構成比率について、幅と高さの比を略1:4とし、2個のボルト用の円孔の位置を、幅中央の線上で背板の高さを1:5:1に分割した部位とし、 短円筒形突出部の直径を背板幅より僅かに小さいものとしていること。 (5) 差込板の構成比率について、高さを背板と略同じとし、幅と高さの比を略4:7とし、切り欠きの開口幅をシアプレートとおぼしき部材の上下幅よりもやや小さくしたものであること (5) 現実には、シアプレートを梁用固定金具とは、一体的に取り扱われることがないものであって、被告が示した斜視図(別紙2の甲第6号証の図2)に示されるような独立一体化した物品としては存在し得ない。 2 本件意匠と甲号意匠との類否判断の誤り 審決は、引用例とされるべき意匠を誤って甲号意匠として類否判断したものであり、対比されるべき意匠は、上記改甲号意匠である。改甲号意匠には、短円筒形突出部がないから、本件意匠と類似しないことは明らかである。 |
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被告の反論の要点
1 甲号意匠の認定の誤りに対して 審決における甲号意匠の認定に誤りはない。 (1) 甲第3号証の4の図面は、梁用固定金具の態様及び梁用固定金具が取り付けられる柱等にあらかじめ用意される必要のある彫り込みに関する情報を示すためのものである。したがって、同号証の左側の図面は、図面全体としては側面視の図面であるが、切断面の情報が不可欠な部分については、側面からみた切断面のみを記載する方法を用いて表示したものと考えられる。したがって、図面の一部に側面視と異なる図面表現がみられるとしても、この図を側面視からの図面として認定した審決に誤りはない。 また、同号証の右側の図面において、一般的に破線は、物の背後に隠れて見えなくなっている部分の態様を示す「かくれ線」として使用されるから、右側の図の破線で示された部分は、背板の向こう側にあるシアプレートの外側輪郭(円形)の形状線と考えられる。 以上の点から、側面よりみた形状(左側の図面)のシアプレートと表示された部分は、シアプレートの切断面を示した図であり、背面視の図面(右側の図面)に表された破線によって示された形状は、シアプレートとされる部分の外側輪郭の形状とみることによって、二つの図面の間には合理的な関連性が生まれて、底板を有する短円筒形の立体形状として理解することが可能になる。甲第3号証の4の図面は、上記のように理解することによってのみ、立体形状としての理解が得られるのである。図面中に記載された「シアプレート 2-67」等の文字情報をも考慮すれば、甲号意匠は、審決の認定どおりのものと認められるのである。 (2) 原告の主張のように、甲第3号証の4の図面を個々に切り離して考えることは、図面の理解として極めて不合理、不自然である。 (3) 審決は、甲第5号証に示されたシアプレートと甲第3号証の4の図面を組み合わせて甲号意匠を認定したのではなく、あくまでも甲第3号証の4の図面に基づいて甲号意匠を認定したものである。原告の主張は失当である。 (4) 原告が改甲号意匠として特定した内容は、非合理的である。 (5) 原告は、甲第6号証の2の図面のような独立一体化した物品は存在し得ないと主張するが、乙第6号証(「のごみふれあい楽習館の工事アルバムから抜粋した写真)からは、背板の正面側に上下2個の円筒形突出部を形成した梁固定金具の存在を確認することができる。原告の主張は、失当である。 2 本件意匠と甲号意匠の類否判断の誤りに対して 審決の認定判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 甲号意匠の認定について (1) 本件の争点は、佐賀県鹿島市役所に提出された「のごみふれあい楽習館」の建築確認申請書(甲第3号証の1)に添付された図面(甲第3号証の4)に示された小梁ジョイントの意匠が、審決の認定したとおり「短円筒状突出部」を形成したものか否かという点にある。 なお、「のごみふれあい楽習館」が平成4年3月27日に建築確認され、甲第3号証の4の図面がそのころ公然知られるに至ったこと、甲第3号証の4の図面に示されたものが小梁ジョイントであることは、当事者間に争いがない。 (2) 甲第3号証の4の図面は、左側と右側の2つの図からなっており、両図は、その態様からみて、それぞれ、小梁ジョイントの側面視の形状を示した図(以下「左側の図」という。)と背面視の形状を示す図(以下「右側の図」という。)であると認められる。そして、左側の図によれば、小梁ジョイントの背板には引き出し線で「シアプレート」と表示された突出部が形成されている。 (3) この「シアプレート」と表示された突出部について、原告は、図面からはその形状を把握することができないと主張するのに対し、被告は、「シアプレート」との文字情報をも考慮して甲第3号証の4の図面を総合的に理解すれば、同図面から、審決が認定したとおりの、底板を有する短円筒形突出部を底板の前面側中央の上下2カ所に形成した形状を把握することができると主張する。 そこで検討するに、乙第2号証(「木質構造建築読本」株式会社井上書院1988年11月25日発行)には、シアプレートについて、「シアプレートは図3.22(a)に示すように、リングにつばを付けた形をしており、同図(b)のように主として鋼板と木材の接合に用いられるが、同図(c)のように木材と木材とを接合することもできる。専用の刃物を用い、先にあけたボルト用の孔をガイドとして木材の彫込みを行う。」(195頁)との説明があり、図3.22(a)に、円盤状の底板の外周縁にリング状の突出部を立ち上げた形状、同図(b)、(c)にシアプレートの断面形状(黒塗りでかすがい形)が示されている。そして、同図(b)(c)に示されたシアプレートの断面形状は、甲第3号証の4の左側の図の上下2カ所に示された突出部と同じ形状であると認められる。また、乙第3号証(原告作成の審判事件答弁書)によれば、原告も、「シアプレート」とは円盤状の底板と底板と取り巻くように配置されたリング状の壁部とによって構成された物品であって、従来から業界で広く用いられている建築部材の一種である、旨主張していたことが認められる。してみると、「シアプレート」の語からは、底板の外周にリング状の突出部を設けた形状が想起されるということができる。 そこで、引き出し線で示された「シアプレート」という文字情報をも念頭に置き、左側の図と右側の図を対応させて甲第3号証の4の図面を見れば、右側の図(背面視の形状)の上下2カ所に描かれた円形の破線が、左側の図でシアプレートと表示された突出部を外側輪郭を表した形状線(背板の背面側からは隠れて見えないので、破線表示されている。)であることは明らかである。したがって、甲第3号証の4の図面には、背板の前方側の中央上下2カ所に短円筒形の突出部を形成した形態を把握することができる。 (4) 原告は、左側の図からは背板の前方に形成された突出部が円筒形であることは把握し得ないと主張するが、シアプレートが短円筒形の立ち上がり部を有する、周知の建築部材であることを勘案すれば、その形状との連想によりシアプレートと表示された部分の形状も短円筒形であると自然に観念されるというべきであるから、原告の主張は採用することができない。これに反する結論を述べた原告提出の甲第15号証(弁理士恩田博宣作成の鑑定書)は採用しない。 原告は、また、左側の図が側面視の状態を示す図面であるとすると、シアプレートと表示された突出部の形状は、かすがい状と理解されるものであると主張する。 しかしながら、甲第3号証の4の図面が使用される目的からみて、木材側に形成されるべき切り込み部の情報を与えるために、左側の図の一部を、正確な側面視状態を表す図法とは異なる図法で表現することは十分に理由があると考えられる上、右側の図と照らし合わせると、前記突出部は、短円筒状であるとする方が建築現場のの常識に即した理解というべきである。原告の主張は、甲第3号証の4の図面の右側の図との関係を考慮することなく、左側の図だけを切り離して突出部の形態を論じている点において、合理性に欠けるものであり、採用することができない。 (5) 以上のとおりであるから、本件意匠登録出願前に公然知られたものとなった甲第3号証の4の図面には、審決が甲号意匠として認定したとおりの、背板の前面側の中央上下2カ所に「底板を有する大きい短円筒形突出部を現し」た意匠が示されていると認められる。よって、審決における甲号意匠の認定に誤りはなく、 原告主張の取消事由1は理由がない。 2 本件意匠と甲号意匠との類否 本件意匠と甲号意匠との類否に関する原告の主張は、要するに、本件意匠と対比されるべきものは原告主張の改甲号意匠であるというにあり、審決のした本件意匠と審決認定の甲号意匠との類否判断を積極的に争うものではない。 そして、本件意匠と甲号意匠とを対比し両意匠の類否について検討すると、審決のした両意匠の対比及び類否の判断(審決の理由の「3.本件登録意匠と甲号意匠との比較検討」及び「4.類否判断」)は、いずれも正当なものであると認められる。 したがって、原告主張の取消事由2は、理由がない。 3 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由1、2はいずれも理由がない。 よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 田中昌利 |