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関連ワード 意匠の実施 /  意匠の創作 /  物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  創作容易(容易の創作) /  一意匠一出願(7条) /  新規性 /  客観的創作性 /  類似する意匠 /  意匠の属する分野 /  通常の知識を有する者 /  物品の機能 /  意匠の類否 /  先使用(29条) /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  通常実施権 /  権利濫用(権利の濫用) /  損害額 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 27317号 意匠権侵害差止等請求 事件
平成 14年 (ワ) 2980号 意匠権侵害差止等請求 事件
原告(反訴被告) 株式会社カンダ
訴訟代理人弁護士 藤巻元雄
補佐人弁理士 牛木理一
被告(反訴原告) 旭化成株式会社
被告(反訴原告) サランラツプ販売株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 山本隆司
同 井奈波 朋子
同 足立佳丈
同補佐人弁理士 水野尚
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/08/22
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本訴原告の請求をいずれも棄却する。
2 反訴被告は,反訴原告ら各自に対し,それぞれ金25万円及びこれに対する平成14年2月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じて,本訴原告の負担とする。
4 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 本訴請求 (1)被告ら(反訴原告ら。以下単に「被告ら」という。)は,別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の穴あきセパレート紙を製造し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその製造若しくは貸渡しのために展示してはならない。
(2)被告らは,前項の各穴あきセパレート紙を廃棄せよ。
2 反訴請求 主文第2項同旨
事案の概要
本訴請求は,せいろう用中敷きに係る意匠権を有する原告(反訴被告。以下単に「原告」という。)が,被告らに対し,被告(反訴原告)旭化成株式会社(以下「被告旭化成」という。)が製造し,被告(反訴原告)サランラツプ販売株式会社(以下「被告サランラップ販売」という。)が販売している「クックパー クッキングシート 穴あきセパレート紙 まる型(直径150mm)」及び「クックパー クッキングシート 穴あきセパレート紙 まる型(直径130mm)」が,原告の有する意匠権を侵害すると主張して,これらの各クッキングシートの製造販売等の差止め及び廃棄を請求するものである。これに対して,被告らは,被告らの上記各クッキングシートはいずれも原告の意匠権に係る意匠と類似しないなどとして,これを争っている。
また,反訴請求は,原告が被告らの取引先2社に対し,平成13年10月31日付け内容証明郵便で,被告らの上記各クッキングシートが原告の意匠権に係る意匠の範囲に属する類似品である旨記載した警告書を送付した行為は,虚偽の事実を告知,流布したものであり不正競争行為に当たると主張して,不正競争防止法2条1項14号,4条に基づき,被告らが原告に対して損害賠償を請求するものである。これに対して,原告は,被告らの上記各クッキングシートは原告の意匠権に係る意匠に類似しているから,虚偽の事実を告知,流布したとはいえないなどとして,これを争っている。
1 前提となる事実関係(当事者間で争いのない事実並びに弁論の全趣旨及び各文末尾記載の証拠により認められる事実) (1)当事者 原告は,一般家庭金物の製造及び販売等を目的とする株式会社である。被告旭化成は,化学繊維及びその他の繊維の加工,販売等を目的とする株式会社であり,被告サランラップ販売は,包装用フィルムの仕入及び販売等を目的とする株式会社である。
(2)原告の意匠権 原告は,下記の意匠権を有する(以下,これを「本件意匠権」といい,当該意匠権に係る登録意匠を「本件登録意匠」という。)。
登録番号 登録第1077019号 出願日 平成11年3月31日 登録日 平成12年4月21日 意匠に係る物品 せいろう用中敷き 登録意匠 本判決末尾添付の意匠公報(甲1。以下「本件意匠公報」という。)に記載のとおり (3)被告らの行為 被告旭化成は,別紙イ号物件目録記載のクッキングシートを「クックパー クッキングシート 穴あきセパレート紙 まる型(直径150mm)」の品名で(以下「イ号物件」といい,その意匠を「イ号意匠」という。),別紙ロ号物件目録記載のクッキングシートを「クックパー クッキングシート 穴あきセパレート紙 まる型(直径130mm)」の品名で(以下「ロ号物件」といい,その意匠を「ロ号意匠」という。)それぞれ製造販売し,被告サランラップ販売は,イ号物件及びロ号物件を被告旭化成から購入してそれぞれ販売している。
(4)イ号意匠,ロ号意匠の形状 ア イ号意匠は,別紙イ号物件目録に記載したとおり,円形状の用紙本体に多数個の透孔を形成した形状からなる意匠である。円形状の用紙本体の直径は,150mmである。透孔の個数は一定していない。周縁部にかかる透孔もある。透孔の位置をみると,透孔は,等間隔の仮想平行横線とこれと斜め格子状に交差する等間隔の仮想平行縦線との交点部分に分布している(甲17の1〜3)。
イ ロ号意匠は,別紙ロ号物件目録に記載したとおり,円形状の用紙本体に多数個の透孔を形成した形状からなる意匠である。円形状の用紙本体の直径は,130mmである。透孔の個数は一定していない。周縁部にかかる透孔もある。透孔の位置をみると,透孔は,等間隔の仮想平行横線とこれと斜め格子状に交差する等間隔の仮想平行縦線との交点部分に分布している(甲18の1〜3)。
(5)被告らの取引先に対する警告書の送付 原告は,被告らの取引先であるヤマコー株式会社及び江部松商事株式会社(以下「ヤマコーら」という。)に対し,被告らの製造,販売するイ号物件,ロ号物件が原告の本件登録意匠の範囲に属する類似品であることは明らかである旨を記載した下記の警告書を,いずれも平成13年10月31日付内容証明郵便で送付した(甲12,13。以下,これらを併せて「本件警告書」という。)。
すなわち,原告がヤマコー株式会社に対して送付した警告書(甲12)には,「貴社が現在取扱われている『クックシート・穴開き丸形』は,当社が専有する意匠登録第1077019号に係る登録意匠の範囲に属する類似品であることは明らかです。」との記載があり,原告が江部松商事株式会社に対して送付した警告書(甲13)には,「貴社が現在取扱われている『穴あきクックパー』は,当社が専有する意匠登録第1077019号に係る登録意匠の範囲に属する類似品であることは明らかです。」との記載がある。
2 争点 (1)イ号意匠,ロ号意匠は本件登録意匠と類似するか(争点1) (2)本件登録意匠に係る意匠登録には無効理由が存在することが明らかであり,本件意匠権に基づく差止め等の請求は権利の濫用に当たり許されないか(争点2) (3)被告らは,本件登録意匠について先使用による通常実施権を有するか(争点3) (4)原告がヤマコーらに対し,本件警告書を送付した行為は,虚偽の事実を告知,流布したものとして,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当し,原告は賠償責任を負担するか(争点4) (5)原告の不正競争行為により被告らの被った損害額(争点5) 3 争点に関する当事者の主張 (1)争点1(イ号意匠,ロ号意匠と本件登録意匠との類否) 【原告の主張】 本件登録意匠は,円形状の用紙本体に多数個の透孔を形成した形態からなることを特徴とする意匠である。
本件登録意匠とイ号意匠,ロ号意匠を比較すると,両者は,用紙本体に多数個の透孔を定間隔に形成している点において共通する。この点は,本件登録意匠においても,イ号意匠,ロ号意匠においても,意匠の要部とみるべき部分である。
したがって,本件登録意匠とイ号意匠,ロ号意匠とは,これを見る者がその外観から受ける印象,美感は同じであり,取引者・需要者において混同を生ずるので,両者は類似しているというべきである。
従来の意匠には,透孔を有するものとしては金属製のすのこ又はガーゼ用の布製の中敷きが存在していたにすぎないのであり,単に紙製のシートだけの態様からなるものでは,透孔を有するものは存在しなかった。そして,本件登録意匠に係る物品の形態は,その意匠登録出願の願書における「意匠に係る物品の説明」の項に記載しているとおり,せいろうの底面部に敷くための紙製シートであるから,従来の意匠に透孔が全く構成されていなかったことに照らすと,本件登録意匠は,そのシートに多数個の透孔を構成した態様を創作したところに特徴があるというべきである。すなわち,本件登録意匠の同形態は,せいろうという物品の用途,機能に伴う態様ではなく,それ自体で十分美的創作性を発揮している態様であって,この形態が同時に当該物品の機能を向上させるために役立つとしても,その意匠的効果は変わらないというべきである。
【被告らの反論】 ア 本件登録意匠は,シート状の円形板状体に形成された多数個の透孔を中心部に1個とそれを中心とした3つの同心円状にそれぞれ散点的に配置したものである。他方,イ号意匠,ロ号意匠は,シート状の円形板状体に形成された多数個の透孔を斜めの仮想格子状の各交点に配置したものである。
意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取引者・需要者の最も注意をひく部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠とが,意匠の要部において構成要素を共通にしているか否かを観察することが必要である。
しかるところ,本件登録意匠に係る物品は,せいろう用中敷きである。すなわち,調理の際,調理器具であるせいろう内部の底面に調理の素材とせいろう内部の底面が直接接しないように敷くために用いる料理用円形板状体である。そして,せいろうは,素材を蒸して調理する場合に用いられる円形状の調理器具であるから,本件登録意匠に係る物品は必然的に表面は円形状となる。また,本件登録意匠に係る物品は,せいろう内部の底面に調理の素材とせいろう内部の底面が直接接しないように敷くために用いられるものであるから,その肉厚がほとんど認められない板状体になる。さらに,本件登録意匠に係る物品は,蒸し器として使われるせいろうの性質を減殺することなく蒸しもの料理を仕上げるために用いられるものであるから,その機能として蒸気を均等に通過させることが必要であり,本件登録意匠には必然的に多数個の透孔が設けられることになる。
したがって,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様に照らせば,本件登録意匠については,原告主張のように「円形状の用紙本体に多数個の透孔を形成したという形状」を要部と考えることはできない。
ウ 本件登録意匠の出願日(平成11年3月31日)よりも前に,次のとおり,円形状用紙本体に多数個の透孔を形成した形状を有する意匠が公知公用となっていたのであるから,公知意匠に照らしても,本件登録意匠について,円形状の用紙本体に多数個の透孔を形成したという形状を要部と考えることはできない。
@ 被告らは,平成9年4月から平成12年末まで,別紙ハ号物件目録記載のクッキングシート(以下「ハ号物件」といい,その意匠を「ハ号意匠」という。)を製造,販売していた。
ハ号物件の材質は紙であり,ハ号意匠の形状は,シート状の円形板状体に形成された多数個の透孔を,等間隔で平行する複数の横線と複数の斜線よりなる斜めの仮想格子状の各交点に配置したものである(甲9の2)。
被告旭化成は,被告サランラップ販売に委託して,平成7年ころから,透孔を形成する前のイ号物件,ロ号物件の円形状用紙自体を,「クックパー」の名称で多目的用に製造,販売していた。しかるに,被告旭化成は,平成9年4月ころから,取引先からの要請によりせいろう用中敷きとして,「クックパー」に多数個の透孔をあけた物品であるハ号物件(品名は,「クックパー(穴あき)」)を,受注生産品として販売するようになり,平成12年末まで販売を続けた。
被告らが,平成9年4月から平成12年末までの間,ハ号物件を製造,販売していたことは,ユーザーの実施証明書(乙1の1〜3),販売代理店の実施証明書(乙1の4〜8),加工業者の実施証明書(乙1の9〜11)から明らかである。また,平成11年1月中旬における一取引の取引帳票(乙2の1〜7)によれば,ユーザー取次店である株式会社ニシショウがハ号物件4ケース(2万枚)を注文し,この注文について,被告旭化成の販売代理店である株式会社尚美堂が被告サランラップ販売に発注し(乙2の1),被告サランラップ販売が加工業者である伊藤景加工開発株式会社を通じて(乙2の2)下請加工会社である株式会社蝶理プロテックに加工,出荷を指示し(乙2の3,乙2の4),株式会社蝶理プロテックが株式会社ニシショウに納品する(乙2の5)とともに,伊藤景加工開発株式会社に売上伝票(乙2の6)及び請求書(乙2の7)を発行したことが分かる。
A 原告は,「せいろう用中敷き」として金属製の円形板状体に多数個の透孔を形成した物品を,本件登録意匠の登録出願日である平成11年3月31日より前に公然と実施していた(乙3)。本件登録意匠は,意匠の要素とならない材質について,金属を紙に変えたものにすぎない。
エ 上記によれば,本件登録意匠における特徴点は,「シート状の円形板状体に形成された多数個の透孔を中心部に1個とそれを中心とした3つの同心円状に散点的に配置した態様」にしかないというべきであるところ,イ号意匠,ロ号意匠における透孔の配置は,本件登録意匠における透孔の配置と全く異なっていることが明らかであるから,本件登録意匠とイ号意匠,ロ号意匠とが類似しているということはできない。
【原告の再反論】 ア 被告らは,本件登録意匠の特徴は,「シート状の円形板状体に形成された多数個の透孔を中心部に1個とそれを中心とした3つの同心円状にそれぞれ散点的に配置した形態」にあると主張するが,仮にそのように認識し得るとしても,見る者はなお,本件登録意匠は,「円形状の用紙本体に多数個の透孔を形成した形態」であると感受するのであって,こちらの方を重視すべきである。なぜなら,意匠とは,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって「視覚を通じて美感を起こさせるもの」をいう(意匠法2条1項)とされている以上は,見る者の感性による感受性を重視すべきだからである。
また被告らは,イ号意匠,ロ号意匠の特徴について,「シート状の円形板状体に形成された多数個の透孔を斜めの仮想格子状の各交点に配置した形態」であると主張するが,仮にそのように認識し得るとしても,見る者はなお,イ号意匠,ロ号意匠は,「円形状の用紙本体に多数個の透孔を形成した形態」であると感受するのであって,こちらの方を重視すべきであることは,本件登録意匠について上述したのと同様である。
そうすると,本件登録意匠とイ号意匠,ロ号意匠は,いずれも円形状の用紙本体に多数個の透孔を形成した形態からなり,そこから感受する印象ないし美感は同じというべきであるから,イ号意匠,ロ号意匠は本件登録意匠に類似するということができ,その透孔の並び方がどのようになっているかは,需要者・取引者(すなわち見る者)にとっては関係のない態様である。
イ 被告らは,本件登録意匠に係る物品の用途,機能について検討するに当たり,せいろうは円形状の調理器具であるから,本件登録意匠に係る物品形状は,必然的に円形状になると主張するが,せいろうには方形のものもあるから,円形状になることが必然であるとは必ずしもいえない。また被告らは,本件登録意匠に係る物品であるせいろう用中敷きは,蒸気を均等に通過させることが必要であるから,本件登録意匠は必然的に多数個の透孔が設けられることになると主張する。しかし,被告らは,透孔の全くない円形状用紙の「クックパー」を製造販売していたころ,その製品に多数個の透孔を形成し,改良して創作したものが本件登録意匠である。そうすると,本件登録意匠に係る物品の性質,用途,使用態様に照らして本件登録意匠は「円形状の用紙本体に多数個の透孔を形成したという態様」を要部と考えることができないとの被告らの主張は,失当というべきである。すなわち,本件登録意匠においては,円形状に形成した用紙本体に多数個の透孔を形成した形態にこそ,従来の意匠にない新規な創作性が認められるのであって,この点が取引者・需要者の最も注意をひく特徴なのであるから,これを要部というべきである。
ウ 被告らは,公知意匠としてハ号意匠が存在すると指摘し,甲9の2がこれに当たり,平成9年4月から平成12年末まで製造販売したと主張するが,被告らがハ号物件を平成9年4月から平成12年末まで製造販売したという事実は,原告は知らない。また,甲9の2はハ号意匠と同一のものとみることはできないし,ハ号意匠がいつ公知公用となっていたかについての証明もない。
@ この点,乙1の1〜10の証明書に付された物件に係る意匠が存在したとしても,これらの意匠はハ号意匠とは異なるし,これらをもって本件登録意匠が公知公用であったということもできない。なぜなら,乙1の1〜10の証明書は,いずれも被告らがその取引先に依頼して提出を受けたものであるから信用性が低く,また,乙1の1〜10の証明書に添付されている物件は「穴あきセパレート紙」とあるが,この用紙にあけられている多数の透孔はいずれも一方面から他方面にかけて釘のような道具を突っ込んであけた形状であり,各開口部の周囲にはバリが出て菊花状にめくれた形態になっているものであって,各開口部の表裏周面がきれいに裁断された多数の透孔を設置している本件登録意匠の形態とは類似していないからである。
A また,乙2の1,3〜6には,「クックパー130φ穴あき」「130φ穴あき」「クックパー(穴あき)」「クックパー(穴あき)130φ」「クックパー(穴)」などと記載されているが,これらは,ハ号物件そのものを指しているということはできない。
被告らは,上記のとおり,透孔の全くない円形状用紙の「クックパー」を製造販売していた。しかし,被告らが主張しているような,平成9年4月ころから「クックパー」に多数個の透孔をあけた「クックパー(穴あき)」を被告らが受注生産品として販売したことは,原告は知らない。被告サランラップ販売が多数個の透孔をあけた「クックパー」の販売を開始したのは,月刊「専門料理」平成13年10月号(甲5)に「新登場」と記載されているように,平成13年10月である。
B さらに,乙3(写真)の物件A,B,Cは,原告において製造・販売していた物品ではあるが,これらの物品はステンレス鋼によって構成されているものである。そして,本件登録意匠は,素材が「紙」であることを基本的な構成要素としていることについては,本件登録意匠の登録出願の願書にあえて「従来はステンレス鋼のすのこ」であることを明記していることからしても明らかである。
エ なお,被告らは,意匠はこれを形成する部材の性質を問わないから,本件登録意匠の特徴を説明するに当たっては,「円形状に形成された用紙本体」というべきではなく「シート状の円形板状体」というべきであると主張するが,失当である。なぜなら,本件登録意匠においては,上記のとおり,「用紙」であることがその基本的要素だからである。すなわち,意匠法6条3項は,当業者が願書に添付したひな形等によってはその意匠に係る物品の材質等を理解することができないためその意匠を認識することができないときは,当該物品の材質等を願書に記載しなければならないと規定しており,これを受けて,原告は,本件登録意匠の登録出願の願書に「本物品は,せいろうの口径に合わせてその底面部に敷くための専用の紙製のシートである」と材質を記載したものだからである。
(2)争点2(本件登録意匠における無効理由の存否) 【被告らの主張】 本件登録意匠は,次のとおり新規性及び創作性を欠くから,本件登録意匠に係る意匠登録が無効であることは明らかである。したがって,原告による本件意匠権に基づく本訴請求は,権利の濫用に当たり許されない。
新規性の欠如 本件登録意匠の登録出願日である平成11年3月31日よりも前に,ハ号物件に係るハ号意匠が公知意匠として存在していた(乙1,2)。
また,原告自身,本件登録意匠の登録出願日より前に,「せいろう用中敷き」について金属製の円形板状体に多数個の透孔を形成した形態の意匠を公然と実施していた(乙3)。さらに,同一又は類似の物品について,本件登録意匠の登録出願日より前に,円形板状体に多数個の透孔を形成した形態の意匠が公知であった(乙4)。しかるに,物品の材質は意匠の要素とならないところ(意匠法2条1項参照),このように公然と実施され又は公知となっている意匠に係る物品につき,意匠の対象とならない板状体の材質を金属から紙に変えた物品に係る意匠が本件登録意匠にほかならない。したがって,仮に原告が主張するように,本件登録意匠の要部が円形状用紙又は円形板状体に多数個の透孔を形成した形態にあるとすれば,かかる形態は公知公用であるから,本件登録意匠新規性を欠くものである。
イ 創作性の欠如 本件登録意匠は,原告主張のような「円形状の用紙本体に多数個の透孔を形成した形態」には特徴がなく,透孔の配置に関して「シート状の円形板状体に多数個の透孔を中心部に1個とそれを中心とした3つの同心円状にそれぞれ散点的に配置した形態」に特徴がある。しかるに,透孔の配置に関して同心円状に散点的に形成することは,ありふれた方法である。また,透孔の配置に関して同心円状に散点的に形成する形態は,公知の意匠であったものである(乙3,4)。これらに照らせば,本件登録意匠が,本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に創作できることが明らかであるから,本件登録意匠は創作性を欠くものである。
【原告の反論】 ア 新規性欠如の主張について 被告らの主張は,争う。乙1の1〜10の証明書に添付されている物件は「穴あきセパレート紙」とあるが,この用紙にあけられている多数の透孔はいずれも一方面から他方面にかけて釘のような道具を突っ込んであけた形状になっており,各開口部の周囲にはバリが出て菊花状にめくれた形態になっている。したがって,乙1の1〜10の証明書に添付されている物件の形態は各開口部の表裏周面がきれいに裁断された多数の透孔を設置している本件登録意匠の形態とは類似しないから,本件登録意匠には新規性があるというべきである。また,乙3(写真)に示された物件があることによって本件登録意匠が公知とすることができないことは,上述したとおりである。
イ 創作性欠如の主張について 被告らの主張は,争う。意匠法3条2項にいう「容易に意匠の創作をすることができたとき」とは,客観的創作性を有するときという意味ではなく,「創作力」又は「創作容易性」という意味である。そして,本件登録意匠は十分創作力を有する意匠である。
(3)争点3(先使用による通常実施権の有無) 【被告らの主張】 被告らは,本件登録意匠の登録出願日である平成11年3月31日より前の平成9年4月ころから,本件登録意匠を知らないでハ号意匠を自ら創作して,ハ号物件を製造販売していた。したがって,被告らは,本件登録意匠の登録出願の際,現に日本国内において本件登録意匠類似する意匠であるハ号意匠の実施である事業をしていた者に当たるから,意匠法29条により,その実施している意匠(ハ号意匠)及び事業の目的の範囲内において,本件意匠権について通常実施権を有する。そして,イ号意匠及びロ号意匠は,ハ号意匠と実質的に同一であり些細な差異しかないのであるから,これらの意匠についても,被告らは通常実施権を有する。
【原告の反論】 被告らは,ハ号意匠を善意で業として実施していたから意匠法29条により本件意匠権について通常使用権を有すると主張する。しかし,被告らがハ号意匠を実施した事実はないから,被告らの主張は,その前提を欠き,失当である。
(4)争点4(本件警告書送付の不正競争行為該当性等) 【被告らの主張】 ア 不正競争行為該当性 前記「前提となる事実関係」欄に記載のとおり,原告は,平成13年10月31日付内容証明郵便で,被告らの取引先であるヤマコーらに対し,被告らの製造,販売するイ号意匠,ロ号意匠が原告の本件登録意匠の範囲に属する類似品であることは明らかである旨記載した本件警告書を送付した(甲12,13)。
しかし,前述したとおり,イ号意匠,ロ号意匠は本件登録意匠に類似しないから,イ号物件,ロ号物件が本件意匠権を侵害しているとの本件警告書は,虚偽の事実を記載したものというべきである。
原告は,ヤマコーらへの本件警告書の送付によって上記のとおり虚偽の事実を告知,流布し,被告らの社会的信用を毀損した。また,被告らと原告とは,せいろう用中敷きの商品市場において競争関係にある。したがって,原告の行為は,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当する。
イ 原告の故意過失 原告は,意匠法研究の第一人者として広く認知されている弁理士の鑑定,助言,代理など全面的補佐を受けて本件警告書を送付している。同弁理士の著書には,意匠権にかかる物品の用途・機能に伴う態様自体は要部たりえない旨記述されているところ,本件において原告が要部として主張する「円形状用紙本体に多数個の透孔を形成したという態様」は,本件登録意匠に係る「せいろう用中敷き」という物品の用途,機能から必然的にもたらされる態様である。したがって,原告は,原告が要部として主張する上記態様は本件登録意匠の要部とはなりえず,円形状用紙本体に多数個の透孔を形成したという態様においてのみ本件登録意匠と共通し,透孔の配列において全く異なるイ号物件,ロ号物件の製造,販売が本件意匠権を侵害するものではないという事実を知っていたか,又は知らなかったことに過失があったというべきである。
また,原告自身,「せいろう用中敷き」として金属製の円形板状体に多数個の透孔を形成した形態の意匠を,本件登録意匠の登録出願日(平成11年3月31日)より前から公然と実施していたものであり(乙3),そのなかには,当該透孔を仮想格子状に多数形成した形態のものも,当該透孔を同心円状に多数形成した形態のものもあった。この点に照らせば,原告は,弁理士の補佐を受けるまでもなく,金属製シートを紙製シートに変えたにすぎない「円形状の用紙本体に多数個の透孔を形成した形態」には,新規性がなく本件登録意匠の要部となり得ないことを容易に判断し得たというべきであるから,原告がヤマコーらに本件警告書を送付した行為には過失があったというべきである。
加えて,被告旭化成は,本件警告書の送付前に,原告に対し,イ号意匠,ロ号意匠が透孔の存在位置や形状において本件登録意匠と異なり権利侵害に当たらないとの見解を示していた(甲7,11)。したがって,原告は,イ号物件,ロ号物件の製造,販売が本件意匠権を侵害しているかどうかさらに慎重に検討すべきであったのに,これを怠って漫然本件警告書を送付したのであるから,過失があったというべきである。
【原告の反論】 ア 不正競争行為該当性について 被告らは,本件警告書の送付行為が不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に当たると主張するが,失当である。本件警告書の送付行為は,原告の被告らに対する警告について被告らが不誠実な対応をしたことが招いた結果である。すなわち,被告らによる原告への回答書(甲7,9の1,11)には,担当者に本件紛争を誠意をもって解決しようとする態度が見られず,被告らが本件訴訟に至るまで裏付け資料(乙1の1〜3,5,6,8)を提出しなかったからこそ,原告は被告らが客観的な証拠を示し得ないものと判断し,ヤマコーらに対して本件警告書を送付したのである。したがって,原告による本件警告書の送付行為は,意匠法37条1項に基づく正当な権利行使であるというべきである。
そして,不正競争防止法2条1項14号にいう「虚偽の事実」とは客観的真実に反する事実のことであるところ,本件において,ヤマコーらは,被告らが製造,販売しているイ号物件,ロ号物件を商品カタログに登載して販売している会社である。したがって,イ号物件,ロ号物件の販売が本件意匠権を侵害する以上,本件警告書の記載が「虚偽の事実」とはいえない。また,同号の「告知」とは,自己の関知する事実を特定の人に対して個別的に伝達する行為をいい,「流布」とは事実を不特定多数人に対して知られるような態様に広める行為をいうが,本件警告書の送付は,このいずれにも当たらない。
イ 原告の故意過失について 被告らは,イ号意匠及びロ号意匠が本件登録意匠と類似していないことを前提に,専門家の補佐を受けた原告には故意・過失があると主張する。しかし,前述のように,イ号意匠及びロ号意匠は本件登録意匠と類似しているのであるから,そもそも上記被告らの主張は,その前提を欠き,失当である。
本件登録意匠は,従来から存在するステンレス製のすのこやガーゼ様の布製の中敷きとは異なり,あくまで「紙製のシート」に多数の透孔が構成されたとの形態について,新規性及び創作力が認められて意匠登録されたのである。したがって,「円形状の用紙本体に多数個の透孔を形成した形態」には,新規性がなく本件登録意匠の要部となり得ないことを容易に判断し得たとの被告らの上記主張は,失当である。
意匠権者が,権利侵害の疑いのある相手方企業に対して警告状を発するのはごく普通に行われているものであるところ,本件において,被告らは原告に対する書簡(甲11)等,不誠実な対応に終始していたから,原告がヤマコーらに本件警告書を送付したのは無理からぬところであり,これに過失があるということはできない。
(5)争点5(被告らの損害額) 【被告らの主張】 原告はヤマコーらへ本件警告書を送付することによって,虚偽の事実を告知,流布し,被告らが意匠権侵害を行う反社会的企業であるかのような印象を第三者に生じさせ,被告らの社会的信用を毀損したものであるから,これによって被告らが被った損害額は,被告ら各自についてそれぞれに25万円を下らない。
【原告の反論】 被告らの被ったと主張する損害額は,全く根拠がないものであり,これを争う。
当裁判所の判断
1 争点1(イ号意匠,ロ号意匠と本件登録意匠との類否)について (1)本件登録意匠の構成 本件登録意匠は,本件意匠公報(甲1)記載の図面代用見本又はひな形によって現されたとおりのものであり,意匠に係る物品を「せいろう用中敷き」とするものであることが認められる。本件意匠公報の記載によれば,本件登録意匠の意匠登録出願の願書には,その意匠に係る物品である「せいろう用中敷き」の説明として,「本物品は,せいろうの口径に合わせてその底面部に敷くための専用の紙製のシートである。口径の異なる数種類のせいろうの底面部に合う直径を有するシートをそれぞれ用意するもので,従来はステンレス製のすのこ又はガーゼ様の布製の中敷きであったが,本物品は使い捨てとなるものである。」と記載されていることが認められる。
本件登録意匠の基本的構成は,円形状シートにおいて,多数の同形同大の円形状の小さな透孔がほぼ均等に分布しているという形状にあり,具体的構成は,25個の円形状の小さな透孔が,円形状シートの中心点に1個,その中心点からみて3つの仮想同心円上に,内側の円から7個,7個,10個,それぞれほぼ等間隔をもって散点状に分布しているという形状にあると認められる。
(2)イ号意匠,ロ号意匠の構成 前記「前提となる事実関係」欄記載の事実に証拠(甲3の1,2,甲4の1,2,甲5,甲17の1〜3,甲18の1〜3)及び弁論の全趣旨を総合すれば,イ号物件は,品名を「クックパー クッキングシート まる型(直径150mm)」とするセイロ蒸し用の穴あきセパレート紙であって,その材質はシリコーン樹脂加工耐油紙であり,その外形は直径150mmの円形状耐油紙に直径6mmの多数(約28個)の円形状の透孔がほぼ均等に分布している形態であること,ロ号物件は,品名を「クックパー クッキングシート まる型(直径130mm)」とするセイロ蒸し用の穴あきセパレート紙であって,その材質はシリコーン樹脂加工耐油紙であり,その外形は直径130mmの円形状耐油紙に直径6mmの多数(約21個)の円形状の透孔がほぼ均等に分布している形態であること,イ号物件及びロ号物件はいずれも,穴があいていることから蒸気が通りやすく,裏表なく両面使えるという機能的特徴を有することが,認められる。
そして,イ号意匠,ロ号意匠の基本的構成は,円形状シートにおいて,多数の同形同大の透孔がほぼ均等に分布しているという形状にあり,具体的構成は,多数(イ号意匠においては約28個,ロ号意匠においては約21個)の円形状の小さな透孔(直径6mm)が,等間隔の仮想平行横線とこれと斜め格子状に交差する等間隔の仮想平行縦線との交点部分に分布しているという形状にあると認められる。
(3)本件登録意匠の要部 そこで,本件登録意匠の要部について検討するに,前記「前提となる事実関係」欄記載の事実に証拠(甲9の2,甲19,乙1の1〜10,乙2の1〜7,検甲1〜4)及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告らは,平成7年ころから,透孔が分布していない矩形状及び円形状のクッキングシートを「両面つかえるセパレート紙」とのうたい文句で,陶板焼・セイロ料理用に製造・販売していたこと,被告らは,本件登録意匠の意匠登録出願日(平成11年3月31日)よりも前である平成9年4月ころから平成12年末まで,直径約130oの円形状のセパレート紙に多数(約21個)の同形同大の円形状の小さな透孔(直径6o)が等間隔の仮想平行横線とこれと斜め格子状に交差する等間隔の仮想平行縦線との交点部分に分布しているものを製造・販売し,この形状の穴あきセパレート紙が,次の@〜Iのとおり市場において流通したことが認められる。
@ 沖縄県国頭郡所在のムーンビーチ・リゾート株式会社は,被告サランラップ販売から仕入れた穴あきセパレート紙を,平成10年から平成12年1月まで使用した(乙1の1)。
A 沖縄県国頭郡所在のJALプライベートリゾートオクマは,被告サランラップ販売から仕入れた穴あきセパレート紙を,平成10年から平成12年1月まで使用した(乙1の2)。
B 沖縄県名護市所在の名護国際観光株式会社(ブセナテラス)は,被告サランラップ販売から仕入れた穴あきセパレート紙を,平成10年から平成12年1月まで使用した(乙1の3)。
C 大阪市天王寺区所在の株式会社尚美堂は,被告サランラップ販売から仕入れた穴あきセパレート紙を,平成9年から平成13年1月まで業務用に販売した(乙1の4,乙2の1)。
D 岡山市浦安南町所在の大森食品株式会社は,被告サランラップ販売から仕入れた穴あきセパレート紙を,平成10年から平成12年1月まで業務用に販売した(乙1の5)。
E 沖縄県宜野湾市所在の有限会社アンカー商事は,被告サランラップ販売から仕入れた穴あきセパレート紙を,平成10年から平成12年1月まで販売した(乙1の6)。
F 沖縄県宜野湾市所在のオザックス株式会社沖縄営業所は,被告サランラップ販売から仕入れた穴あきセパレート紙を,平成10年から平成13年1月まで販売した(乙1の7)。
G 沖縄県宜野湾市所在の有限会社沖縄ウチハラは,被告サランラップ販売から仕入れた穴あきセパレート紙を,平成10年から平成12年1月まで販売した(乙1の8)。
H 埼玉県草加市所在の伊藤景加工開発株式会社は,被告サランラップ販売から委託を受けた旭化成ポリフレックス株式会社から再委託され,平成9年4月から平成12年9月までの間,株式会社蝶理プロテックに,穴あきセパレート紙の製造を委託した(乙1の9,乙2の2,3)。
I 千葉県浦安市所在の株式会社蝶理プロテックは,被告サランラップ販売から委託を受けた旭化成ポリフレックス株式会社からさらに委託された伊藤景加工開発株式会社から再委託され,平成9年4月から平成12年9月までの間,穴あきセパレート紙を製造した(乙1の10,乙2の6,7)。
これらによれば,円形状のセパレート紙に多数の同形同大の円形状の小さな透孔がほぼ均等に分布している形状のクッキングシートが本件登録意匠の意匠登録出願日(平成11年3月31日)より前に,公然と実施され,公知であったと認められるから,こうした形状を本件登録意匠の特徴的部分ということはできず,これを要部ということはできない(なお,これらのクッキングシートにおいては透孔の各開口部の周囲にバリが出て菊花状にめくれた形態となっていることが認められるが,これらは成形工具の切れ味が必ずしも十分でなかったことによって生じたものであり,背景に暗色の台紙等を置いて初めて認識できる程度の微細なものであるから,クッキングシート全体としての美感に影響を与えるものではなく,これらのクッキングシートの形状を前記のように認定するに当たって妨げとはなるものではない。) 原告は,乙1の1〜10の証明書はいずれも被告らがその取引先に依頼して提出を受けたものであるから信用性が低く,乙2の1〜7の取引書類において対象とされた商品が円形状のセパレート紙に多数の同形同大の円形状の小さな透孔がほぼ均等に分布している形状のクッキングシートであることは証明されていない旨を主張する。しかし,乙1の1〜10の証明書は,いずれも,特許庁長官を名宛人とした「実施証明書」として,会社名,代表者ないし担当者の名称が記名され,代表者ないし担当者の印が押印され,当時の取引の対象とされた穴あきセパレート紙の現物が添付されているものであって,その形式,内容に照らして十分信用することができるというべきである。そして,乙1の1〜10の証明書に乙2の1〜7の取引書類を総合すれば,円形状のセパレート紙に多数の同形同大の円形状の小さな透孔がほぼ均等に分布している形状のクッキングシートが上記@〜Iの取引の対象であったことを優に認めることができる。
上記によれば,本件登録意匠の基本的構成である,円形状シートにおいて,多数の同形同大の円形状の小さな透孔がほぼ均等に分布しているという形状は,本件登録意匠の出願前の公知意匠において既に認められ,公然知られていたものであるから,これをもって本件登録意匠の特徴的部分ということはできない。そうすると,本件登録意匠については,せいぜい,その具体的構成である,25個の円形状の小さな透孔が,円形状シートの中心点に1個,その中心点からみて3つの仮想同心円上に,内側の円から7個,7個,10個,それぞれほぼ等間隔をもって散点状に分布しているという形状をもって,その特徴部分と認めることができるにとどまるものである。したがって,本件登録意匠においては,このような特徴部分を要部というべきである。
(4)類否の判断 上記認定の本件登録意匠の要部を前提として,本件登録意匠とイ号意匠,ロ号意匠との類否について検討する。
前記のとおり,本件登録意匠の要部は,25個の円形状の小さな透孔が,円形状シートの中心点に1個,その中心点からみて3つの仮想同心円上に,内側の円から7個,7個,10個,それぞれほぼ等間隔をもって散点状に分布しているという形状にある。これに対して,イ号意匠,ロ号意匠においては,多数(イ号意匠においては約28個,ロ号意匠においては約21個)の円形状の小さな透孔が,等間隔の仮想平行横線とこれと斜め格子状に交差する等間隔の仮想平行縦線との交点部分に分布しているものであって,この点は,一見して明らかな相違と認められ,見る者に異なる印象を与えるというべきである。
本件登録意匠とイ号意匠,ロ号意匠は,いずれも意匠に係る物品がせいろう用中敷き(クッキングシート)という同一製品であり,また,円形状シートにおいて,多数の同形同大の円形状の小さな透孔がほぼ均等に分布している形状である点において共通するものであるが,上記(3)において検討したように,上記の形状は本件登録意匠の要部ということができないから,この点の共通性をもってイ号意匠,ロ号意匠が本件登録意匠に類似するということはできない。
かえって,イ号意匠,ロ号意匠においては,円形状のセパレート紙の周縁上に掛かって,あるいは周縁に極めて近接して透孔が存在している場合もあると認められるのであり,このような相違点からも,円形状のセパレート紙の周縁上に掛かり,あるいは周縁に極めて近接した位置の透孔が存在しない本件登録意匠とは,見る者に異なる印象を与えるということができる。
上記によれば,イ号意匠,ロ号意匠は,これを見る者にとって,本件登録意匠とは,美感上異なる印象を与えるものというべきである。したがって,イ号意匠,ロ号意匠は本件登録意匠に類似しないものと認めるのが相当である。
2 争点2(本件登録意匠における無効理由の存否)について 上記1において判示したところによれば,その他の争点について判断するまでもなく,原告の本訴請求はいずれも理由がないというべきであるが,なお,念のために,争点2についても付加的に判断することとする。
上記認定のとおり,円形状シートにおいて,多数の同形同大の円形状の小さな透孔がほぼ均等に分布している形態は,本件登録意匠の意匠登録出願日(平成11年3月31日)より前に,既に公然と実施され,公知であったと認められる。
そして,前記の「前提となる事実関係」欄記載の事実並びに証拠(乙3〜6,検乙1の1〜3)及び弁論の全趣旨によれば,金属製等の円形状のせいろう用中敷きにおいて,透孔を同心円状に散点的に配置することは,普通に見受けられるものであって,そのような透孔の配列には格別の意匠上の創作性は存在しないこと(原告自身も,本件登録意匠の出願前に透孔をこのように配列した金属製のせいろう用中敷きを製造販売していた。)が認められる。そうすると,こうした透孔の配列を円形状のクッキングシートのせいろう用中敷きにおいて採用し,25個の円形状の小さな透孔が,円形状シートの中心点に1個,その中心点からみて3つの仮想同心円上に,内側の円から7個,7個,10個,それぞれほぼ等間隔をもって散点状に分布しているという形状である本件登録意匠を創作することは,本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者にとって容易であったというべきである。
したがって,本件登録意匠は,意匠法3条2項の規定に反して意匠登録されたものであって,無効理由を有することが明らかといわなければならない。
上記によれば,本件意匠権に基づいて,イ号物件,ロ号物件の製造・販売等の差止め及び廃棄を求める原告の本訴請求は,権利の濫用に当たり許されないというべきである(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第3小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)。
したがって,この点からしても,原告の本訴請求はいずれも理由がない。
3 争点4(本件警告書送付の不正競争行為該当性等)について そこで,次に,被告らの反訴請求に理由があるかどうかについて検討する。
(1)不正競争行為該当性 上記認定のとおり,イ号意匠,ロ号意匠は本件登録意匠に類似しない上,本件登録意匠は創作性を欠き,その意匠登録が無効であることが明らかというべきところ,前記「前提となる事実関係」欄に記載のとおり,本件警告書(甲12,13)には,被告らのクッキングシートである「クックシート・穴開き丸形」「穴あきクックパー」が原告の本件登録意匠の範囲に属する類似品であることは明らかである旨が記載されているというのであるから,原告がヤマコーらに対し本件警告書を送付した行為は,「虚偽の事実」を告知,流布したものといわなければならない。そして,被告らと原告が,せいろう用中敷きの商品市場において競争関係にあることは,当事者間に争いがない。したがって,原告がヤマコーらに対し本件警告書を送付した行為は,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するというべきである。
(2)原告の故意過失 証拠(甲7,甲9の1,2,甲11,乙3,検乙1の1〜3)及び弁論の全趣旨によれば,原告自身,本件登録意匠の意匠登録出願日(平成11年3月31日)より前から,金属製の円形板状体に多数個の透孔を形成した意匠の製品を「せいろう用中敷き」として,製造販売していたこと,原告は,本件警告書の送付前に,被告旭化成から,イ号意匠,ロ号意匠が透孔の存在位置や形状において本件登録意匠と異なり権利侵害に当たらないとの見解を,既に平成9年に製造販売されていたという意匠の実施品の現物と共に示されていたことが認められる。原告は,このような状況の下において,イ号意匠,ロ号意匠が本件登録意匠に類似するものと軽信して,被告らの取引先であるヤマコーらに対して本件警告書を送付したものであるから,原告の本件警告書の送付行為に少なくとも過失が存在することは明らかである。
原告は,本件警告書の送付は被告らの不誠実な対応が招いた結果であると主張するが,原告の主張するところは,原告による本件警告書の送付を不正競争行為と認定する上で何らの妨げとなるものではないし,原告の過失を認定する妨げとなるものではない。また,被告らの回答(甲7,9の1,2,11,14,16)の内容に照らせば,被告らの対応をもって不誠実なものということもできない。
4 争点5(被告らの損害額)について 前記「前提となる事実関係」欄に記載のとおり,原告は,被告らのイ号物件,ロ号物件が本件登録意匠の範囲に属する類似品である旨の虚偽の事実を記載した本件警告書を,被告らの取引先であるヤマコーらに送付したものであるが,原告の上記行為により,被告らの社会的信用が毀損されたと認められる。そして,本件警告書送付に先立つ原告と被告らとの交渉経緯,本件警告書の内容,その他本件に現れた一切の事情を併せ考慮すれば,被告らの被った損害額は,少なくとも被告らの主張する各自25万円を下回るものではないと認められる。
5 結論 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の本訴請求はいずれも理由がなく,各25万円及び平成14年2月22日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の遅延損害金の支払を求める旨の被告らの反訴請求は,いずれも理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 和久田道雄
裁判官 田中孝一