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関連審決 無効2004-88032
関連ワード 意匠の実施 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  意匠公報に掲載 /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  記載された意匠 /  寄せ集め /  類似の意匠 /  物品の機能 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  ありふれた部分 /  登録意匠 /  類似範囲 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10274号 審決取消請求事件
原告 株式会社ユーエイキャスター
訴訟代理人弁護士 小松陽一郎
同 福田あやこ
同 宇田浩康
同 井崎康孝
同 辻村和彦
同 井口喜久治
同 川端さとみ
訴訟代理人弁理士 福島三雄
同 小山方宜
同 向江正幸
同 面谷和範
被告 株式会社内村製作所
訴訟代理人弁理士 大塚 忠
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/09/28
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1)特許庁が無効2004-88032号事件について平成17年2月16日にした審決を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成15年5月26日に登録出願(以下「本件出願」という。)され,同年10月24日に設定登録(意匠登録第1192386号)された,意匠に係る物品を「キャスター」とし,別紙審決書写し添付の別紙第一の意匠(以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
被告は,平成16年10月15日,特許庁に対し,本件登録意匠の登録を無効とすることについて審判の請求をした。特許庁は,同請求を無効2004-88032号事件として審理をした上,平成17年2月16日,「登録第1192386号の登録を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月28日,原告に送達された。
2 審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件登録意匠は,意匠に係る物品を「運搬車用キャスター」とする別紙審決書写し添付の別紙第二の意匠登録第946347号の意匠(平成8年2月9日発行の意匠公報(甲2。審決における甲第1号証)に記載。昭和61年8月29日出願。以下「引用意匠」という。)と類似し,意匠法3条1項3号に該当するものであって,同号の規定に違反して登録されたものであるから,無効とすべきである,というものである。
審決がその判断の前提として認定した本件登録意匠と引用意匠との共通点及び差異点は,次のとおりである。
[共通点] (1)全体が,水平な略平板状の取付板と,その取付板の下部に,ベアリング部を介して回動自在に設けた略円筒形状の本体と,本体下端寄りに水平に設けた車軸ボルトによって支持した車輪とからなる,基本的な構成態様のものである点, 各部の具体的な態様において, (2)取付板は,四隅を小円弧状に隅切りした略隅丸正方形状であって,四隅寄りに取付ボルト用の小円孔を設けており,中央に本体取付用主軸の頭部が円形に現れ,その周囲にベアリング受け溝を円環状に設けたものである点, (3)本体は,取付板の一辺よりやや短い横幅であって,下側の正面及び背面側を切り欠いて,上部の円筒部と,下部の左右一対の脚部とからなるものである点, (4)車輪は,幅(厚さ)が直径よりも短い,略倒円柱形である点, (5)脚部は,正面寄り略半分を内側に窪ませて平坦状の軸受部を形成し,そこに車軸ボルトを本体の中心軸よりやや正面側に偏心して設けている点, (6)本体の切欠部は,正面側が下方に開放した略コ字形状であり,背面側が下広がりに開放する略等脚台形状である点, (7)本体上部と取付板との間のベアリング部周囲に,本体とほぼ同幅で薄い円柱形状部材を設けている点, (以下,順に「共通点(1)」などという。) [差異点] (イ)本体上部の正面側形状について,本件登録意匠は,正面側切欠部とほぼ同幅で角張った庇部を突出形成しているのに対して,引用意匠は円筒形状である点, (ロ)本体上部と取付板との間に設けられた円柱形状部材について,形状が,本件登録意匠の方が引用意匠より厚く,また,本件登録意匠は,暗調子であるのに対して,引用意匠は,明調子である点, (ハ)軸受部の側面視形状について,本件登録意匠は,正面側端部を上方が正面側にやや傾斜する直線状とし,上部の境界線を正面側が上がる傾斜直線状としているのに対して,引用意匠は,平坦部の正面側端部をほぼ垂直状とし,上部の円筒形状部との境界線をほぼ水平状としている点, (ニ)本体切欠部の形状について,正面側切欠部の上辺の二隅を,本件登録意匠は略直角状としているのに対して,引用意匠は円弧状としており,背面側切欠部の上辺を,本件登録意匠は上方に膨らむ円弧状としているのに対して,引用意匠は水平な直線状としている点, (以下,順に「差異点(イ)」などという。)
原告主張の取消事由の要点
審決は,本件登録意匠と引用意匠との共通点及び差異点の認定判断を誤り,両意匠の構成態様の主要な点を看過した結果,本件登録意匠とが類似するとの誤った結論に至ったものであるから,取り消されるべきである。
1 審決の共通点の評価について (1)審決が認定した,全体の基本的な構成態様の共通点(1)並びに具体的な態様の共通点(2)ないし(4)は,本件出願時のみならず,引用意匠の出願時以前からキャスターに周知の構成である。すなわち,引用意匠の出願時以前から既に公知であった甲4,甲7ないし12は,いずれも共通点(1)ないし(4)を備えている。意匠の類似範囲は,それ以前から存在する公知意匠を前提として確定されなければならない。しかるに,審決は,引用意匠の出願以前からキャスターにおいて広く採用されている周知の構成を引用意匠の要部と認定して本件登録意匠との共通点としているものであり,これが誤りであることは明らかである。
(2)また,要部以外の構成,すなわち審決が「相俟って,類否判断に及ぼす影響は相当大きい」とした共通点(5)ないし(7)も,甲4,甲7ないし12がいずれも備える周知の構成にすぎない。
(3)審決が認定した共通点(1)ないし(7)は,いずれも,多数の公知意匠がそれぞれ単独ですべてを備えるものであるから,これらの共通点(1)ないし(7)の組合せが新規であるということもできない。すなわち,前掲甲4,甲7ないし12のほか,被告提出に係る乙4ないし7,乙10に記載された意匠も,それぞれ単独で共通点(1)ないし(7)をすべて備えている。このように審決の挙げる共通点(1)ないし(7)は,組合せを含めて普遍化した構成態様であるから,類否判断の要素として評価すべきではない。
(4)引用意匠の出願以前から存在する公知意匠の存在を前提として,引用意匠が公知意匠との関係で意匠的創作として有する特徴点を明確にした上で,本件登録意匠との類否判断を行えば,後記4に記載のとおり,本件登録意匠と引用意匠は非類似であることが明らかである。
2 審決の共通点の認定について (1)共通点(1),(3)について 審決は,共通点(1),(3)において,本件登録意匠の本体を「円筒形状」と認定しているが,誤りである。すなわち,本件登録意匠の本体は,ベアリング部のすぐ下から外方に突出する角張った庇部が本体外周の約4分の1を占める前方後円形であり,本体上部を360°にわたって完全な円筒形状とする引用意匠とは顕著に相違しているものであるから,両意匠の本体を差異点として認定すべきだったのである。
(2)共通点(5)について 審決は,共通点(5)において,本件登録意匠の軸受部を「正面寄り略半分を内側に窪ませた」と認定しているが,誤りである。すなわち,本件登録意匠では,脚部の上部では正面寄り約7分の1を内側に窪ませ,脚部の下部では約5分の3を内側に窪ませており,横幅が異なる幅で上部から下部まで連続して窪ませており,「略半分」とは到底いうことができないものであって,脚部の下部(上下の約2分の1)のみを略正方形状に正面寄り半分を内側に窪ませた引用意匠とは異なるものである。
(3)共通点(7)について 審決が共通点(7)において「円柱形状部材を設けている点」を共通点としたのは,誤りである。すなわち,引用意匠では,フェルト製の薄い布材が介在されているだけであり,社会通念に基づいて「円柱形状部材」とはとても認識できるものではない。つまり,上下方向にある程度の高さがある場合に初めて「円柱形」と認識できるのであって,単なる円形の薄い布切れを「円柱形」と認識することは極めて不自然である。これに対して,本件登録意匠の対応部位は,上下方向に明確に把握できる程度の「高さ」があり,円柱形状部材と認識できるものであるから,両者は相違する。
審決がこの顕著な差異を有する部分を共通点(7)としたのは明白な誤りであり,審決がこの共通点(7)を「‥‥‥相俟って,類否判断に及ぼす影響は相当大きい。」(審決書6頁8行〜9行)としているのは,不当に共通性を強調するものというほかない。
3 審決の類否判断(差異点の評価)について (1)差異点(イ)について 審決は,差異点(イ)に関して,「(イ)の本体上部の正面側形状については,切欠部の上部に庇部を形成しているか否かの差異であるが,両意匠が本体を略円筒形状としている中で,正面側切欠部の上部という限られた部位における,本体の幅の略8分の1程度の突出幅の小さな庇部の有無にすぎず,また,本件登録意匠の庇部形状が,先端を本体の円筒形と略同心円の円弧状としていることから,円筒形状としている甲号意匠(判決注:本判決における「引用意匠」を指す。以下,審決の引用部分につき,同様である。)の同部とさほど顕著な差異があるものとは認められず,類否判断に与える影響は微弱である。」(審決書6頁11行〜17行)としている。
しかし,審決が,@「両意匠が本体を略円筒形状としている」,A「本体の幅の略8分の1程度の突出幅の小さな庇部の有無にすぎず」,B「本件登録意匠の庇部形状が,先端を本体の円筒形と略同心円の円弧状としている」としているのは,誤りないし不当な過小評価である。
(2)差異点(ロ)について 審決は,差異点(ロ)として,「本体上部と取付板との間に設けられた円柱形状部材について,形状が,本件登録意匠の方が甲号意匠より厚く,また,本件登録意匠は,暗調子であるのに対して,甲号意匠は,明調子である点」(審決書5頁30行〜32行)としている。全く目立たない薄い布切れを挟んだにすぎず,ほとんど意匠が施されていないに等しい引用意匠のベアリング部外周と,上下方向に明確に認識できる高さがあり,且つ,色調が引用意匠とは対照的な本件登録意匠の対応部位とは,全く異なる意匠的効果を奏するというべきである。差異点(ロ)に関する審決の判断(審決書6頁18行〜31行)は,このような差異を不当に過小評価するものというべきである。
(3)差異点(ハ)について 審決は,差異点(ハ)として,「軸受部の側面視形状について,本件登録意匠は,正面側端部を上方が正面側にやや傾斜する直線状とし,上部の境界線を正面側が上がる傾斜直線状としているのに対して,甲号意匠は,平坦部の正面側端部をほぼ垂直状とし,上部の円筒形状部との境界線をほぼ水平状としている点」(審決書5頁33行〜36行)としている。しかしながら,かかる判断は,本件登録意匠の軸受部及び引用意匠の軸受部についての正確な認定に基づくものではない。
本件登録意匠の軸受部は, @)正面側端部を上方が正面側に約10°傾斜する直線状とし, A)上部の境界線を正面側上方に約30°上がる傾斜直線とすると共に, B)傾斜直線の上端を,本体の正面側から約7分の1の位置で上方に向かって垂直に曲折して庇部の側面に連続し, C)傾斜直線の下端を下方に向かって垂直に曲折する ことにより,本体部の側面に斜め下向き魚形の平坦部を形成しているのである。
これに対し,引用意匠の軸受部は, @)平坦部の正面側端部をほぼ垂直状とし, A)上部の円筒形状部との境界線をほぼ水平状とすると共に, B)平坦部の後方側境界線を垂直下方に下ろす ことにより,本体部側面の下半分のみにほぼ正方形の平坦部を形成しているのである。
このように,審決は,本件登録意匠の軸受部及び引用意匠の軸受部を正確に認定せず,両意匠の差異を不当に小さく認定した結果,当該差異点が類否判断に与える影響の評価についても誤りを犯している。すなわち,本件登録意匠の軸受部は,従来意匠にはない特徴的な形(斜め下向き魚形)を呈するものであり,さらに,軸受部の機能を果たすための必要面積をはるかに超える大きな領域をあえて平坦部に形成されてなるものであることから,本件登録意匠の顕著な特徴を構成するものであり,本件登録意匠と引用意匠との類否判断に大きな影響を与えることは明らかである。
(4)両意匠の寸法比率における差異点の看過について さらに,審決は,本件登録意匠と引用意匠との間に,各部寸法比率の大きな差異が存在するにもかかわらず,これを看過するという重大な誤りを犯している。すなわち,本件登録意匠と引用意匠とは,キャスターの全高(取り付け高さ),水平・垂直寸法比,本体幅(本体幅と取付板の一辺の長さとの比),車輪幅,車輪径など,各部寸法比率において大きく異なっているのである。特に,全高(水平・垂直寸法比),全高と車輪径の比,車輪径と車輪幅の比などにおいては顕著に相違しており,該寸法比率の顕著な差異は両意匠の類否判断に大きな影響を与えるというべきである。
このように,審決は,本件登録意匠と引用意匠との間におけるキャスターの全高,水平・垂直寸法比,本体幅,車輪径,車輪幅,偏心距離等の各部寸法比率の大きな差異を看過し,該差異点が類否判断に与える影響を全く検討しておらず,その結果,誤った類否判断をなしているのである。
4 公知意匠の存在を前提とした類否判断について (1)引用意匠の出願以前から存在する公知意匠の存在を前提として,引用意匠が公知意匠との関係で意匠的創作として有する特徴点を明確にした上で,本件登録意匠との類否判断を行えば,次のとおり,本件登録意匠と引用意匠は非類似であることが明らかである。
(2)引用意匠は,次のような基本的構成態様からなる。
@ 水平な略平板状の取付板と,この取付板の下側にベアリング部を介して水平回転自在に設けられた基部を有する本体と,この本体下端寄りに水平に設けた車軸ボルトによって支持された車輪とで構成されている。
A 取付板は,略四角形状であって,四隅寄りに小円孔が設けられており,中央に本体取付用主軸の頭部が円形に現れ,その周囲にベアリング受溝が同心円状に設けられている。
B 本体は,取付板よりやや小さい基部を備え,下部の正面側及び背面側を切り欠いていて,下部に左右一体の脚部が形成されている。
C 脚部には,正面寄りの下端部が内側に窪まされて平面状の軸受部が形成されており,その軸受部に車軸ボルトが本体の中心軸より正面側に偏心して設けられている。
(3)また,引用意匠は,上記基本的構成態様に加えて,次のような具体的特徴を有している。
@ 本体は,上部に360°にわたって完全なる円筒形の筒状部が形成されている。
A ベアリング部の周囲には,幅細で艶のないフェルトパッキンが備えられている。
B 正面側切欠部は,下方に開口した略コの字形状をしており,この略コの字形状の切断縁の2隅は緩やかな円弧状をしている。
C 背面側切欠部は,下広がりに開放する略等脚台形状をしている。
D 本体は,側面図において,(イ)下部の正面側が垂直に,(ロ)背面側が外側に膨らむ略円弧状に切り欠かれている。
E 脚部の軸受部は,正面側下隅と背面側上隅が円弧状をした略正方形状の平面であり,縦幅は本体部の3分の1程度,横幅は脚部の2分の1程度である。この軸受部は,側面図において,本体部の面積の約6分の1強である。
F 車軸ボルトからニップルが側方(正面図における左方)に大きく突出している。
G 車輪は,幅広の略倒円柱形をしている。
H 車輪の前方端は,取り付け板の内側で本体の外側に位置する。
I 車輪の径は,本体の径の約6分の5である。
J 本体部の径は,取付板の約4分の3である。
K 全高と取付板の幅は同程度である。
(4)しかしながら,引用意匠が出願以前から公知の意匠の有する形状を単に寄せ集めて構成されただけのものであることは,既に前記1において記載したとおりであるところ,この点を勘案すれば,引用意匠は,上記具体的特徴の@,D,E及びFを要部とするものであり,かかる要部を備えることにより,円筒形状を特に強調したものである。
(5)引用意匠に対応した形で本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様を述べると,次のとおりである。
(基本的構成態様) @ 水平な略平板状の取付板と,この取付板の下側にベアリング部を介して水平回転自在に設けられた基部を有する本体と,この本体下端寄りに水平に設けた車軸ボルトによって支持された車輪とで構成されている。
A 取付板は,略四角形状であって,四隅寄りに小円孔が設けられており,中央に本体取付用主軸の頭部が円形に現れ,その周囲にベアリング受溝が同心円状に設けられている。
B 本体は,取付板よりやや小さい基部を備え,下部の正面側及び背面側を切り欠いていて,下部に左右一体の脚部が形成されている。
C 脚部には,正面寄りの下端部が内側に窪まされて平面状の軸受部が形成されており,その軸受部に車軸ボルトが本体の中心軸より正面側に偏心して設けられている。
(具体的構成態様) @ 本体には,正面側切欠部の上に,水平方向に大きく張出し角張った庇部が形成されている。この庇部は,両側面が平面に形成されており,底面視においてコ字形に形成されている。
A ベアリング部の周囲には,幅太で全面黒色のカバーが巻かれている。
B 正面側切欠部は,下方に開口した略コの字形状をしており,この略コの字形状の切断縁の2隅は直角である。
C 背面側切欠部は,上方に膨らむ円弧状に丸まっており,下広がりに開放している。
D 本体は,側面視において,(イ)下部の正面側は,やや正面方向に傾斜する斜辺に形成され上部は水平方向に折れ曲がって庇部に接続する。また,(ロ)背面側は,背面方向に行くにしたがって,斜め上方にほぼ真っ直ぐに切れ上がっており,全体としては略山形状である。
E 脚部の軸受部は,前方側下隅と後方側上隅が円弧状をし,軸受部と脚部との境界線がボルトの上部において正面方向に行くにしたがって上方へ延びて庇部まで達する。この軸受部と庇部側面が一体となって形成される平滑部は特徴的な形状(斜め下向き魚形)の平面であり,縦幅は本体部の4分の3強,横幅は脚部の3分の2程度である。この平滑部は,側面図において,本体部の面積の約4割を占めている。
F 脚部にニップルは存在しない。
G 車輪は,幅広の略倒円柱形をしている。
H 車輪の前方端は,取付板の外側かつ庇部の内側に位置する。
I 車輪の径は,本体の径と約同一である。
J 本体部の径は,取付板の約6分の5である。
K 全高は取付板の幅よりやや大きく,縦長である。
(6)本件登録意匠と引用意匠とを比較すると,基本的構成態様@ないしCと具体的構成態様Gにおいて共通するが,既に上記1において述べたとおり,これら引用意匠の特徴はいずれも要部ということができないから,類否判断においてかかる共通点を重要視することはできない。他方,本件登録意匠と引用意匠とは,具体的構成態様@ないしF,HないしKなど,多くの点において相違している。そして,引用意匠の要部である具体的構成態様@(円筒形の筒状)D(側面の形状)E(軸受部の特徴)及びF(ニップル)について,本件登録意匠がその特徴を有さず全く異なった形状である。
また,かかる個別の差異点のみならず,全体的な観察を行った場合にも,本件登録意匠と引用意匠とは,全く異なる印象を看者に与える。すなわち,本件登録意匠は,(a)水平方向に大きく張出し角張った庇部と,(b)ベアリング部周囲の幅広で全面黒色のカバーと,(c)側面図において本体部の面積の約4割をも占める特徴的な形状(斜め下向き魚形)の平滑部と,(d)側面の山形形状を特徴としているものであって,これにより角張った,ごつごつした印象を与えるのに対し,引用意匠は円筒形が特に強調された丸っこい印象を与えるものであり,両意匠は全体的な印象が大きく異なる。
上記によれば,本件登録意匠と引用意匠とは,美感を異にする非類似の意匠であることは明らかである。したがって,これを類似するとした審決の判断は誤っている。
被告の反論の要点
1 審決の共通点の評価について 原告は,要するに,審決における本件登録意匠と引用意匠の共通点(1)ないし(6)について,これを認めた上で,共通点(1)ないし(7)の構成態様は,キャスター意匠一般に共通するありふれた形態であって,看者の注意を惹く形態ではないから,当該構成態様が共通することを理由に,本件登録意匠と引用意匠とが類似すると判断したのは誤りであると主張し,共通点(1)ないし(7)の周知性を裏付けるために甲号証記載の公知意匠を挙げる。
引用意匠は,平成7年11月に登録され,平成8年2月発行の意匠公報に掲載されたものであり,また,被告は,引用意匠の実施品であるキャスターを遅くとも昭和62年頃から現在まで18年の長期にわたって大量に販売している。したがって,引用意匠は,本件登録意匠の出願日である平成15年5月26日までには周知となっていたものである。引用意匠自体が周知なのであるから,共通点(1)ないし(7)が周知ないしありふれた形態であることは,他の公知意匠を挙げるまでもなく認められる事実である。
本件審判においては,引用意匠について意匠法上の権利保護の範囲が問題となっているものではなく,本件登録意匠につき意匠法による保護を与えることの当否が問題とされているのである。したがって,侵害訴訟における意匠の類否判断とは異なり,本件登録意匠と引用意匠との類否判断においては,本件登録意匠の登録適格性,すなわち本件登録意匠に公知(周知)の引用意匠に見られないような看者の注意を惹く点が存するか否かを問題にすれば足りるのであり,引用意匠について,その出願前の公知意匠との関係で要部を認定した上で,本件登録意匠との類否判断をすべき旨をいう原告の主張は,失当である。
2 審決の共通点の認定について 原告は,共通点(1)ないし(4)が周知ないしありふれた形態であるから,それが看者の注意を最も強く惹く部分,すなわち,意匠の要部とはならないと主張する。
しかしながら,ある意匠において,周知ないし公知であり,ありふれたものとなっている部分が,当該意匠の要部,すなわち,看者の注意を最も強く惹く部分となることはいくらでもあり得ることである(東京高裁平成14年(行ケ)381号事件判決,東京高裁昭和54年(行ケ)201号事件判決参照)。意匠に係る物品の機能,用途に応じ,看者の注目する部分が,ありふれた部分に定まることもあるし,また,ありふれた部分を含む意匠を全体として観察するとき,当該ありふれた部分以外の部分にありふれた部分を超える美感を生じさせるだけの力がない場合に,ありふれた部分が当該意匠の要部となることもある。
本件登録意匠と引用意匠における意匠に係る物品は,いずれも低床,超重荷重用のキャスターで,半導体製造装置,液晶パネル製造装置のような産業用機器等の大重量の機器の下部に取り付けて用いられるものである。この種キャスターの需要者にとっては,支持する機器の安定性,高さ制限,キャスターの耐荷重性,移動性が重要であり,需要者は,キャスターの機能・用途によりその取捨選択を決定するのである。このため,需要者は,直感的に,キャスターの全高(取り付け高さ),水平・垂直寸法比,車輪径およびその偏心距離等に注目する。したがって,共通点である基本的構成態様(1)及び具体的構成態様(2)ないし(4)が看者たる需要者にまず注目されると考えるのが合理的であり,審決がこれらの構成を「形態の大部分を占める主要部を構成して,意匠全体の基調をなしており,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼす」と認定していることに誤りはない。
3 審決の類否判断について (1)原告は,審決の挙げる共通点(1)ないし(7)が周知ないしありふれた形態であるから,それが看者の注意を最も強く惹く部分となり得ないと主張する一方,これらの部分を超えて看者の注意を惹く特徴部分と主張する部分,すなわち(a)正面側に水平方向に張り出した角張った庇部,(b)ベアリング部周囲の黒色のカバー,(c)軸受部に連続する平滑部,(d)側面の山形形状の構成が要部というものと解される。
(2)しかしながら,上記構成(a)については,審決認定のとおり,「本体を略円筒状としている中で,正面側切欠部の上部という限られた部位における,本体の幅の略8分の1程度の突出幅の小さな庇部であり,また先端を本体の円筒形と略同心円の円弧状としていることから,円筒形状としている甲号意匠の同部とさほど顕著な差異があるものとは認められず」,さらに,キャスターにおいて同部に庇部を設けることは古くから行われてきたありふれた手法であることからすれば,それ自体,看者の注意を惹く力がそれほど強いものとは認められない。したがって,庇部の有無が,類否判断に与える影響は微弱であるとする審決の認定に誤りはない。
上記構成(b)については,本件登録意匠は元来色彩を有する意匠ではないから,この部位を「黒色のカバー」ということはできない。そこで審決は,この部位を「暗調子の薄い円柱形状部材」と認定し,適正に評価を行っている。審決は,同部位の形状について,引用意匠の同部位との大きさの微小な相違を認めたうえで,看者が着目するほどの差異でないとし,また明暗調子の差異については,材質の違いによって各種明暗調子のものが見られる部位でもあるので,特段看者がその差異に着目するほどのものではないとし,いずれも類否判断に及ぼす影響が微弱であると評価しているのであって,誤りはない。
上記構成(c),すなわち,平滑部(軸受部)の形状については,例えば意匠登録第1035514号(乙9)のほか乙7,8に見られるように,ありふれたものである。これに対して,平滑部を囲む円筒形状部の形態は,キャスターの耐荷重性を直感させるものであるから,看者に強い印象を与える。すなわち,本件登録意匠及び引用意匠において,平滑部(軸受部)の形状と表裏をなす円筒形状部は,本体の略上半分のさらに背面寄りの略半分を占め,平滑部(軸受部)の背面側において脚部の略下端まで,また軸受部の上部まで及び,車軸ボルトの背面側及び上部を囲んでおり,これが,看者にキャスターの耐荷重性の高さを強く印象づけ,本件登録意匠における平滑部の限られた部位の差異はこの共通の印象に埋没してしまうものである。したがって,審決が,軸受部の側面視形状の差異について,「上部の境界線という限られた部分における傾斜の態様の差異であって,両意匠が,本体略下半分の正面寄り(略半分)に平坦部を形成して軸受部としている共通性に対して,部分的で微弱な差異に止まり,形態全体の基調に影響を与えるほどの要素でもないから,類否判断に与える影響は微弱である」とする評価に誤りはない。
上記構成(d),すなわち,本体側面視のいわゆる山形形状については,既にありふれたものであるし(乙10,12),引用意匠と比較して,側面視した場合においてのみ認識されるわずかな差異であり,また上記庇部(a)と共に上記平滑部(c)を形成する部位であるから,上記平滑部同様,「部分的で微弱な差異に止まり,形態全体の基調に影響を与えるほどの要素でもないから,類否判断に与える影響は微弱である」とする審決の評価に誤りはない。
当裁判所の判断
1 審決の共通点の評価について 原告は,審決が認定した共通点(1)ないし(7)の構成態様は,キャスター意匠一般に共通するありふれた形態であって,看者の注意を惹く形態ではないから,当該構成態様が共通することを理由に,本件登録意匠と引用意匠とが類似すると判断したのは誤りであると主張する。
本件訴訟において,原告は共通点(1)ないし(7)の組合せが周知のものであるとして,甲4,甲7ないし12,乙4ないし7,乙10を挙げるが,これらの意匠をみるに,これらのうちには共通点(1)ないし(7)のうちいくつかを備え,また,共通点(1)ないし(7)のすべてを備えるもの(甲4の別紙4に記載の「FAULTLESSキャスター」,甲12の2枚目上段記載の意匠)もあることが認められる。また,本件登録意匠の出願前に引用意匠が周知となっており,共通点(1)ないし(7)が周知ないしありふれた形態であったことは被告もこれを認めるところである。
しかしながら,意匠法3条1項3号該当性の判断においては,登録出願に係る意匠が公知の意匠に見られないような看者の注意を惹く点を有するかどうかを検討すれば足りるものであって,その際に,当該対比に用いる公知意匠についてそれ以前の公知意匠に見られない特徴的部分の範囲を確定することを要するものではない。
本件において,引用意匠における共通点(1)ないし(7)の組合せが,引用意匠の出願前の公知意匠に既に見られるものであり,また,引用意匠自体が周知となることにより本件登録意匠の出願前に既にありふれたものとなっていたとしても,これらの組合せが本件登録意匠及び引用意匠において,意匠全体における支配的部分を占め,意匠的まとまりを形成し,看者の注意を強く惹くものであるときは,これを両意匠に共通して見られる特徴として類否判断を行うのは,当然というべきである。
2 審決の共通点の認定について (1)本件登録意匠(甲1)と引用意匠(甲2)とを比較すると,審決の指摘するとおり,まず,両意匠は,いずれも,基本的な構成態様として「全体が,水平な略平板状の取付板と,その取付板の下部に,ベアリング部を介して回動自在に設けた略円筒形状の本体と,本体下端寄りに水平に設けた車軸ボルトによって支持した車輪とからなる,基本的な構成態様のものである点」(共通点(1)),具体的な構成態様として,「取付板は,四隅を小円弧状に隅切りした略隅丸正方形状であって,四隅寄りに取付ボルト用の小円孔を設けており,中央に本体取付用主軸の頭部が円形に現れ,その周囲にベアリング受け溝を円環状に設けたものである点」(共通点(2)),「本体は,取付板の一辺よりやや短い横幅であって,下側の正面及び背面側を切り欠いて,上部の円筒部と,下部の左右一対の脚部とからなるものである点」(共通点(3))及び「車輪は,幅(厚さ)が直径よりも短い,略倒円柱形である点」(共通点(4))が,意匠としての基調をなし,全体としての美感を支配するものということができる。加えて,両意匠は,具体的構成態様として,「脚部は,正面寄り略半分を内側に窪ませて平坦状の軸受部を形成し,そこに車軸ボルトを本体の中心軸よりやや正面側に偏心して設けている点」(共通点(5)),「本体の切欠部は,正面側が下方に開放した略コ字形状であり,背面側が下広がりに開放する略等脚台形状である点」(共通点(6)),「本体上部と取付板との間のベアリング部周囲に,本体とほぼ同幅で薄い円柱形状部材を設けている点」(共通点(7))において,共通するものである。
(2)原告は,共通点(1),(3)について,本件登録意匠に庇部が存在することを挙げて,審決が本体を「円筒形状」と認定していることを非難するが,審決は,本体を「円筒形状」と認定する一方で,庇部の存在を差異点(イ)として認定しているものであり,審決の認定に原告の主張するような誤りがあるということはできない。また,原告は,共通点(5)について,本件登録意匠の脚部の窪みの形状を挙げて,審決が軸受部につき「正面寄り略半分を内側に窪ませた」と認定していることを非難するが,審決は,軸受部につき上記のとおり認定する一方で,両意匠の窪みの形成の相違に基づく軸受部の側面視形状の差異を差異点(ハ)として認定しているものであり,審決の認定に原告の主張するような誤りがあるということはできない。さらに,原告は,共通点(7)について,引用意匠に「円柱形状部材」が存在するということはできないと主張する。しかし,審決は,両意匠につき「円柱形状部材を設けている点」を共通点として認定する一方で,両者の「円柱形状部材」の形状の差異を差異点(ロ)として認定しているものであり,審決の認定に原告の主張するような誤りがあるということはできない。
3 審決の類否判断(差異点の評価)について (1)原告は,審決の差異点(イ),(ロ)及び(ハ)についての認定判断を誤りであると主張する。
しかしながら,本件登録意匠(甲1)と引用意匠(甲2)とを比較すると,審決の指摘するとおり,本体上部の正面側形状における切欠部の上部の庇部の存否(差異点(イ))は,庇部の位置,形状や大きさに照らし,看者の注意を惹くような差異とはいえず,類否判断に与える影響はわずかなものといわざるを得ない。本体上部と取付板との間に設けられた円柱形状部材の厚さ等の相違(差異点(ロ))も,当該円柱形状部材自体がその位置,大きさ等に照らして意匠全体において目立たない部分にすぎないことや差異の程度などからすれば,この点も類否判断に与える影響は微弱である。また,軸受部の側面視形状の相違(差異点(ハ))も,およそ傾斜の態様という看者の目を惹きにくいものであって,しかも,側面視において,本件登録意匠が線画として表現されることによって初めて看取することが可能な程度のものであり,差異の程度に照らしても,類否判断に影響するとしても極めて微弱な影響を与えるにすぎない。
上記のとおり,審決の差異点(イ),(ロ)及び(ハ)の認定及びこれらの差異点が類否判断に与える影響についての判断に誤りがあるということはできない。
(2)原告は,審決は,本件登録意匠と引用意匠との間に各部寸法比率の大きな差異が存在するにもかかわらず,これを看過するという誤りを犯していると主張する。
しかしながら,本件登録意匠(甲1)と引用意匠(甲2)とを比較すると,両意匠の間には,審決の指摘する共通点(1)ないし(7)が共通することが認識されるものであるが,一方,原告の挙げるキャスターの全高,水平・垂直寸法比,本体幅,車輪径,車輪幅,偏心距離等の各部寸法比率における差異は,看者が一見して認識するものではなく,その注意を惹くものとは到底いえないから,この点の差異が類否判断に影響するものとはいえない。
(3)上記のとおり,審決の差異点の認定判断には,原告の主張するような誤りがあるということはできない。
4 原告の公知意匠の存在を前提とした類否判断の主張について 原告は,引用意匠の出願以前から存在する公知意匠の存在を前提として,引用意匠が公知意匠との関係で意匠的創作として有する特徴点を明確にした上で,本件登録意匠との類否判断を行えば,本件登録意匠と引用意匠は非類似である旨を主張する。
しかしながら,意匠法3条1項3号該当性の判断においては,登録出願に係る意匠が公知の意匠に見られないような看者の注意を惹く点を有するかどうかを検討すれば足りるものであって,その際に,当該対比に用いる公知意匠についてそれ以前の公知意匠に見られない特徴的部分の範囲を確定することを要するものではないことは,上記1において説示したとおりである。
原告の上記主張は,類否判断における共通点の認定につきその前提において既に誤っているものであり,その結果,共通点として認定すべき点を先行の公知意匠に存在するものとして除外する誤りを犯しているほか,両意匠の差異点を過大に評価しているものであって,上記2,3において説示したところに照らしても,採用することができない。
5 結論 本件において,本件登録意匠と引用意匠を比較すれば,審決の指摘するとおり,共通点(1)ないし(4)は,共通点(5)ないし(7)と相まって,視覚的な印象としての両意匠の強い類似性を示しているものであって類否判断に支配的な影響を与えるものということができ,他方,差異点(イ)ないし(ニ)はいずれもその内容に照らし,類否判断に与える影響は微弱なものにすぎないから,両意匠は類似するというべきであり,本件登録意匠が意匠法3条1項3号に違反して登録されたものとした審決の認定判断に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りは認められない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二