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関連審決 審判1998-17012
審判1999-1518
関連ワード 物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  条約 /  3条1項3号 /  記載された意匠 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  工業上利用 /  類似性(類否判断) /  パリ条約 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 526号 審決取消請求事件
原告 カーノードメタルボックスナームローゼ フェン ノートシャップ
訴訟代理人弁理士 生沼徳二
同 伊藤克博
同 石橋政幸
同復代理人弁理士 岩田慎一
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 市村節子
同 林栄二
同 藤正明
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/27
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第1518号事件について平成13年7月3日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文1,2項と同旨
前提となる事案等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,1995年(平成7年)10月5日イギリス国にした出願に基づきパリ条約第4条の規定による優先権を主張し,平成8年4月5日,意匠に係る物品を「包装用缶」とし,形態を別紙審決書写し(以下「審決書」ともいう。)の別紙第一に示す意匠(以下「本願意匠」という。)につき意匠登録出願をしたが(平成8年意匠登録願第9495号),平成10年10月16日付けで拒絶査定(以下「本件審査」という。)があったので,平成11年1月29日付けで審判請求をしたが(平成11年審判第1518号,以下「本件審判」という。),平成13年7月3日,本件審判請求は成り立たないとの審決があり(以下「本件審決」という。),その謄本は同月24日原告に送達された(出訴期間として90日附加)。
2 審決の理由 本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,平成8年意匠登録願第9495号の本願意匠は,意匠に係る物品が「包装用缶」であり,その形態を別紙第一に示すとおりとしたものであるとし,別紙第二の外国雑誌「PACKAGING」1993年4月号31頁左下に掲載された3本の缶を示す写真版のうちの左端に示された「包装用缶」の意匠を引用の意匠(以下「引用意匠」という。)として対比,検討し,本願意匠は,引用意匠に類似し,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができないものであるとした。
原告主張の審決取消事由の要点
1 取消事由1(審理対象の誤り) (1) 原告は,イギリス国に出願した出願番号第2050968号の「包装用缶のふた」の意匠につき優先権主張をして,意匠登録出願をしたところ,特許庁は,この出願を平成8年意匠登録願第9495号であると原告に通知した。
ところが,特許庁は,平成8年意匠登録願第9495号につき,意匠に係る物品を「包装用缶」として審査し,平成10年10月16日付けで拒絶査定をした。原告は,これを不服として,意匠に係る物品を「包装用缶のふた」と記載した平成11年1月29日付け審判請求書を特許庁に提出し,さらに,意匠登録出願の意匠に係る物品は「包装用缶のふた」である旨を記載して,平成11年3月29日付け審判請求理由補充書を提出した。特許庁は,本件審判事件(平成11年審判第1518号)につき意匠に係る物品を「包装用缶」として審理した結果,平成13年7月3日付で,本件審判の請求は成り立たないとの本件審決をし,その謄本は同月24日原告に送達された。
本件平成8年意匠登録願第9495号の意匠に係る物品は「包装用缶のふた」であるにもかかわらず,審決では,意匠に係る物品を「包装用缶」として認定を誤り,審理した意匠は,審決書の別紙第一記載のものとしたのであるが,別紙第一の図面に記載されたのは「包装用缶」の意匠であり,「包装用缶のふた」の意匠と異なることが明らかである。
以上のように,本件審決は,本件意匠登録出願の願書に記載した意匠に係る物品を誤り,願書に添付された図面に記載された意匠とは異なった意匠を審理した結果,その結論を誤ったものである。
(2) ちなみに,本件審決で審理対象とされた「包装用缶」の意匠は,イギリス国での出願番号第2050969号であり,「包装用缶のふた」の意匠と同日に原告が意匠登録出願したものである。特許庁は,この「包装用缶」の出願を平成8年意匠登録願第9494号であると原告に通知した。しかし,同出願については,「包装用缶のふた」として審査した結果,平成10年6月26日付けで拒絶査定した(以下「別件審査」という。)。原告は,これを不服として,意匠に係る物品を「包装用缶」と記載した平成10年10月26日付け審判請求書を特許庁に提出し,さらに,意匠登録出願の意匠に係る物品は「包装用缶」である旨を記載して,審判請求の理由の欄を補正した審判請求書を添付した平成11年3月29日付け手続補正書(方式)を提出した。特許庁は,この審判事件(平成10年審判第17012号,以下「別件審判」という。)につき意匠に係る物品を「包装用缶のふた」として審理した結果,平成13年7月13日付けで,本件審判の請求は成り立たないとの審決をし(以下「別件審決」という。),その謄本は同年8月1日原告に送達された。
(3) 要するに,特許庁は,本件出願と同時にされた別件の出願とを取り違えて審査,審判をするという誤りを犯し,審理の対象を見誤り,審決を誤ったものである。
2 取消事由2(類似性の判断の誤り) 取消事由1の手続の瑕疵が仮に治癒されたとしても,審決は,本願意匠(「包装用缶」。審決書に別紙第一「本願の意匠」として添付されたもの)と引用意匠との差異点に対する類否判断を誤った結果,結論を誤ったものであり,違法として取り消されるべきものである。
(1) 審決は,本願意匠と引用意匠の類否を検討するに当たり,両意匠の差異点のひとつとして,「(イ)天板上面の周縁について,上端で内向きに折り返された後,本願の意匠は,やや緩やかな角度(垂直方向に対しほぼ40度)で下降する傾斜面をなして細溝に至るものであるのに対し,引用のものは,その傾斜の角度が本願のものより垂直に近い,急な角度のものと認められる点」を挙げた(審決書2頁22ないし25行)上,「差異点のうち(イ)の点は,両意匠とも,天板上面について,巻き締められた周縁に対し,全体が凹陥面状を呈し,周縁に沿って細溝が形成されたものである点では共通しており,更に仔細にみても,その周縁について,上端で内向きに折り返された後,下降する傾斜面をなしてそのまま細溝に至るものである点,でも共通するところであって,その差は,この下降する傾斜面の,傾斜の角度の差に帰す程度のものであるところ,この種の缶体においては,該部の傾斜には,従来より種々の角度のものが認められ,本願のもののごとく比較的緩やかなものも,普通にみられることを考慮すると,形態全体としてみれば,その差異は,天板上面について,周縁に対し全体を凹陥面状とし,周縁に沿って細溝が形成された共通点の中での差異とせざるを得ず,その差異が類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。」と判断している(審決書2頁下から9行ないし3頁3行)。
本願意匠は,周縁がやや緩やかな角度(垂直方向に対し外向きほぼ40度)で立ち上がった傾斜壁(傾斜面)を形成し,そのため,天板中央のほぼ平坦部分の面積が相対的に減少している。これに対して,引用意匠は,周縁が急峻に立ち上がったやや垂直の側壁を形成し,そのため,天板中央のほぼ平坦部分がふたの表面の大部分を占めている。したがって,包装用缶の表面の上部から観察したとき,本願意匠では,周縁の傾斜壁が深い影とならず,周縁の傾斜壁が明瞭に視野に入り,天板中央部のほぼ平坦部分に対して周縁の傾斜壁が強調した形態で表面全体の意匠に特別顕著な外観を与え,それに対して,引用意匠は,鋭い外縁を有するやや垂直な側壁が深い影となって明瞭に視野に入らず,中央部のほぼ平坦部分の形態が表面全体の意匠の特徴部分を形成し,その結果,両意匠は看者にとって異なる美感を呈しているのである。
本願意匠に係る物品「包装用缶」の一般的な需要者は,飲料等を加工製造して,包装用缶に封入する業者及び飲料入り包装缶を購入販売する流通販売業者,並びに,飲料入り包装缶を購入する一般消費者である。そのうち,特に,一般消費者は,飲料を飲むにあたり,包装用缶の上部表面(天板)中央の把持片を引っ張って開口を開ける際に,包装用缶の上部表面を注視する。上部表面を注視したとき,本願意匠では周縁の傾斜壁が明瞭に視野に入るため,引用意匠の側壁が深い影となって明瞭に視野に入らないものとは,異なる美感を呈するのである。
審決は,「下降する傾斜面の,傾斜の角度の差に帰す程度のもの」と,両意匠の角度の差の程度のみに拘泥して,その角度の差によってもたらされる意匠の異なる美感を顧慮していない。したがって,審決は,「差異点は,前記のとおりいずれも類否判断に及ぼす影響が微弱で,相俟った効果を考慮しても,共通点が形成する全体の基調を覆すには至っておらず」と,その差異点である傾斜壁の角度が全体の基調に及ぼす美感に対する影響を無視した結果,その類否判断を誤ったものである。
(2) 審決は,「本願のもののごとく比較的緩やかなものも,普通にみられる」と認定しているが,その事実は知らない。むしろ,本件意匠登録出願に対応する出願が各国になされ,「包装用缶」の意匠は,本件意匠登録出願の優先権主張の根拠となった原出願をした英国を始め,韓国等の国で既に登録されている事実からすると,審決の認定は根拠がないものと思料される。審決で引用した引用意匠は英文で記載された外国雑誌であるにもかかわらず,本件意匠登録出願に対応する意匠が既に英国,韓国で登録されている。少なくともこれらの国では,本願意匠は,引用意匠と同一でない,あるいは非常に似ていないと認定されたものである。
さらに,本願意匠の,表面中央部の開口線及び把持片の形態から明らかなように,本願意匠に係る物品「包装用缶」は飲料用液体の封入用である。食品用の包装用缶とは異なる内部液体圧力に対する要求から,本願意匠が創作される前は,飲料用包装用缶の上部表面の周縁側壁の傾斜角は15度以下で,ほとんど垂直にして,圧力要件を満足する必要があると考えられていたものである。原告は,技術的問題を解決した発明をなした結果,包装用缶の上部表面の周縁側壁の傾斜角を比較的緩やかにすることができたのであり,その発明に対して各国で特許出願をして,欧州特許(EP0828663)及び米国特許(US6065634)を取得し,かつ,本願意匠を創作し,前述したように各国に出願し,多数の国で登録を得たものである。したがって,審決の「本願のもののごとく比較的緩やかなものも,普通にみられる」との認定に関する事実は,原告は知らない。
被告は,この点に関し,乙第9〜12号証を提出するが,「普通にみられ」というには,単に,引用された各乙号証の公報文献にその形態のものが記載されて,公然知られる状態になっただけでは足りず,その形態のものがこの種類の物品に採用されて,そのため,当業者がその形態のものを現実に通常見ることができることを要すると解すべきである。その意匠に係る物品の現実の流通過程において,当該分野の取引者あるいは需要者が「普通にみられる」と認識していたことを立証すべきである。
(3) 被告は,不定形,不確定の光の効果を美感として類否判断することはできない旨を主張するが,意匠法での「意匠」とは,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいうのであるから,意匠は光の存在下で視認するものである。意匠が物品の形状の場合は,物品は空間に所定の範囲に存在するものであり,光により物品の影が存在する場合があるのである。意匠法での登録の対象となる意匠は,工業上利用可能性を要請されている。
したがって,意匠の類否判断も,比較的恒常的な条件下でなされるべきであるとはいえ,意匠に係る物品工業上利用される現実の世界では,光の強弱,光の方向,光源の性質等が一定とは限らないのであるから,意匠に係る物品を視覚を通じて観察した場合,時,所により異なることは当然予測されることである。その様な場合を含め,現実に則して類否判断をすることが,意匠法の想定するところである。本願意匠では,周縁の傾斜壁は角度が大きいため,上面から視認した場合,全周にわたり深い影ができず,明るく見えるので,比較的に確定的に美感を起こさせるのに対し,引用意匠では,傾斜壁がやや垂直のため深い影となるので,両意匠は全体に異なる美観を呈するのである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(審理対象の誤り)に対して 特許庁は,原告からの出願に対し,「包装用缶のふた」につき平成8年意匠登録願第9494号と,「包装用缶」につき平成8年意匠登録願第9495号とそれぞれ出願番号を付した。ところが,出願番号を相互に取り違えて原告に通知した。
「包装用缶」に係る本件出願(平成8年意匠登録願第9495号)につき拒絶査定がされ,原告の申立てによる本件審判(平成11年審判第1518号)の審理過程で,本願意匠が特許庁の原本によれば,出願内容が「包装用缶」に係るものであるにもかかわらず,請求人(原告。以下「原告」ともいう。)から提出された審判請求書では本願意匠が「包装用缶のふた」と記載され,一方,同日出願の別件出願の意匠については,原本では出願内容が「包装用缶のふた」に係るものであるにもかかわらず,別件の審判請求書では「包装用缶」と記載されていることから,請求人(原告)側において,両出願の間で,何らかの誤認などがあるのではないかとの感触を得て,審判請求人(原告)の代理人に対し,平成13年1月ころ,電話で確認を求めた。その後,本件審判手続において,同年2月1日付けで,本件審査段階と異なる新たな引用意匠(これが本件審決における引用意匠)を示した拒絶理由通知書(乙第5号証)を請求人(原告)に通知した。これに対し,原告は,同年5月16日付け意見書(乙第6号証)を提出したが,この意見書の中で,原告は,本願意匠が,原本のとおり「包装用缶」に係るものであることを確認の上,上記拒絶理由を正確に把握し,引用意匠を正しく理解し,その上で「包装用缶」に係る両意匠を対比し,適切に主張,反論をしたものである。以上のとおり,出願番号通知の過誤による行き違いはあったが,審理の過程でその行き違いは実質上解消され,上記のように,原告は適正に意見を述べ,本件審判ではその意見を検討の上,認定,判断したのであるから,審決に何ら問題はない。
2 取消事由2(類似性の判断の誤り)に対して (1) 原告は,審決が傾斜角度の差が美感に及ぼす影響を無視していると主張し,本願意匠の傾斜壁が明瞭に視野に入り,強調した形で特別顕著な外観を与えるとする。しかし,本願意匠の周縁の傾斜の程度も従来にもみられる程度のものであり(乙第9〜12号証),形態全体として観察すると,本願意匠の傾斜面が中央に向けて大きく形成されているようなものではなく,本願意匠,引用意匠ともに缶体上面の縁際の付近にとどまる範囲で形成されたものであって,しかも缶体上面の縁際から円環状に一回りする面を形成して下方に入り込むという共通する態様の中でみられる缶体の内側へ入り込む角度の差であるから,缶体を縦に切断して切断面として対比すればともかく,それぞれを上方から俯瞰した場合には,凹陥自体も浅いことから,その入り込む角度の差は,特にはっきりとは際立たず,本願意匠の傾斜壁が特に強調された形態の特別顕著な外観として看者の視覚をとらえるまでには至っていない。
原告は,傾斜壁の深い影についても言及するが,影は,光の当たる方向,光の強弱,光源の性質等により様々に変化するものと考えられ,また該部のような円環状に一回りする壁面については,全周が一律に同じ調子で深い影ができたり,一律に明るい調子となったりするとも考え難く,このような不定形,あるいは不確定の光の効果を美感として類否判断することはできない。
したがって,本件審決が,両意匠を形態全体として観察して,「両意匠とも,天板上面について,巻き締められた周縁に対し,全体が凹陥面状を呈し,周縁に沿って細溝が形成されたものである点では共通しており,更に仔細にみても,その周縁について,上端で内向きに折り返された後,下降する傾斜面をなしてそのまま細溝に至るものである点,でも共通するところであって,その差は,この下降する傾斜面の,傾斜の角度の差に帰す程度のもの」(審決書2頁32〜37行)とし,その角度については出願前にもみられる程度のもので,本願意匠が独自に備える特徴ではないことを考慮に入れ,審決が,「形態全体としてみれば,その差異は,天板上面について,周縁に対し全体を凹陥面状とし,周縁に沿って細溝が形成された共通点の中での差異とせざるを得ず,その差異が類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。」(同2頁最終行〜3頁3行)とした判断に誤りはない。
(2) 原告は,把持片(プルトップ)及びこれを取り囲む枠取りが全体形態に及ぼす影響については何ら考慮に入れていないが,これらには従来から様々なものが認められ,その共通性は,両意匠の類否判断に極めて強い影響を及ぼすものである。
審決は,これらの点を含めて検討し,両意匠は類似するものと判断した。
(3) 原告は,本願意匠が英米などで登録されているというが,登録要件は必ずしもわが国と一致するものではなく,本件類否判断と同列に論じることはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(審理対象の誤り)について (1) 証拠(甲第1,3,4号証,第5号証の1,第6号証の2,3,5,乙第1ないし4号証)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
原告は,1995年10月5日付けでイギリス国に出願した出願番号第2050968号の「包装用缶のふた」及び同第2050969号の「包装用缶」についての各意匠につき,平成8年4月5日,パリ条約4条の規定による優先権を主張して,意匠登録出願をした。特許庁は,「包装用缶のふた」に関する出願について平成8年意匠登録願第9494号として,「包装用缶」に関する出願について平成8年意匠登録願第9495号として受理した。しかし,特許庁は,原告に対し,出願番号通知をした際,出願番号を取り違え,「包装用缶のふた」について第9495号,「包装用缶」について第9494号として通知し,原告はその旨認識した。
平成8年意匠登録願第9495号(包装用缶)について平成10年10月16日付けで拒絶の査定がされ(本件審査),平成11年1月29日付けの原告による審判請求を受けて,平成11年審判第1518号事件として審理されたが(本件審判),平成13年7月3日に審判請求は成り立たない旨の審決がされた(本件審決)。この審決の取消請求訴訟が本件である。
他方,平成10年6月26日付けで平成8年意匠登録願第9494号(包装用缶のふた)についても拒絶の査定がされ(別件審査),平成10年10月26日付けの原告による審判請求を受けて,平成10年審判第17012号事件として審理されたが(別件審判),平成13年7月13日に審判請求は成り立たない旨の審決がされた(別件審決)。この審決の取消請求訴訟が当庁平成13年(行ケ)第536号事件(以下「別件訴訟」という。)である。
本件訴訟の前提となる一連の手続は,イギリス国出願の第2050969号の「包装用缶」の意匠についてされた平成8年意匠登録願第9495号,平成11年審判第1518号事件であるが,これらは,いずれも「包装用缶」の意匠を対象としてされた。
もっとも,特許庁は,原告に対して出願番号を取り違えて「包装用缶のふた」を第9495号,「包装用缶」を第9494号と通知したのであるが,特許庁の原本,出願マスターデータでは,前記のとおり,「包装用缶」について平成8年意匠登録願第9495号とされており,特許庁は,その後の本件審査手続,本件審判手続でも一貫して「包装用缶」の意匠を対象に審査,審判をしている。
(2) 以上によれば,原告は,本件出願である平成8年意匠登録願第9495号が「包装用缶のふた」の意匠を対象とするものであると認識していたのであり,その原因は,特許庁が誤ってそのように出願番号を通知したからにほかならない。しかしながら,客観的には,本件一連の手続の対象は,イギリス国出願の第2050969号として出願された「包装用缶」の意匠であり,特許庁もこれを対象として本件審査,審判を行ったものである。したがって,特許庁が審理対象を誤ったまま本件審査及び本件審判を行ったものとは認められない。
(3) なお,特許庁の出願番号の通知における過誤があり,原告に審理対象を誤解させる結果となったことは否めないので,原告に対する手続保障の点についてみておく。
前記(1)に認定の事実に加え,証拠(甲第3,4号証,第5号証の1,2,乙第5,6号証)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
原告は,本件審査における拒絶の査定を不服とし,審判請求をし(甲第5号証の1),審判請求理由補充書を提出したが(甲第5号証の2),本願意匠に係る物品は「包装用缶」であるのに「包装用缶のふた」であると誤って認識していた。その後,特許庁審判官は,本件審判手続及び別件審判手続において,出願された意匠に係る物品につき,原告から提出された前記書面の記載が相互に取り違えられて記載されていることから,何らかの誤認などがあるのではないかとの感触を得て,審判請求人(原告)の代理人に対し,平成13年1月ころ,電話で確認を求めた。その後,本件審判手続に関し,平成13年2月1日付けで,本件審査段階とは異なる新たな引用意匠(本件審決書の別紙第二に引用された外国雑誌記事掲載の写真版のうち左端の包装用缶の意匠)を示した拒絶理由通知書(乙第5号証)を請求人(原告)に通知した(同年2月16日発送)。この拒絶理由通知書には,意見があれば3か月以内に意見書を提出するようにと促す内容も含まれていた。これに応じて,原告は,同年5月16日付け意見書を提出し,その中で,事件の表示を「平成11年審判第1518号,平成8年意匠登録願第9495号」と記載した上,本件審判で対象となっている意匠に係る物品が「包装用缶」であることを明記して意見を述べた(乙第6号証)。
以上によれば,本件審判の過程において,原告に対して,本件審判において真に検討対象とされるべき物品「包装用缶」に関する主張立証をする機会が付与されたものと評することができ,本件においては,原告に対する手続保障は確保されていたということができる。
(4) 以上検討したところによれば,取消事由1(審理対象の誤り)についての原告の主張は採用することができない。
2 取消事由2(類似性の判断の誤り)について (1) 原告は,本件「包装用缶」の意匠につき,缶の天板部分において,周縁がやや緩やかな角度(垂直方向に対し外向きほぼ40度)で立ち上がった傾斜壁(傾斜面)を形成し,そのため,天板中央のほぼ平坦部分の面積が相対的に減少しているが,引用意匠は,周縁が急峻に立ち上がったやや垂直の側壁を形成しているので,天板中央のほぼ平坦部分がふたの表面の大部分を占めている点が異なるとし,その結果,包装用缶の表面の上部から観察したとき,本願意匠では,周縁の傾斜壁が深い影とならず,周縁の傾斜壁が明瞭に視野に入り,天板中央部のほぼ平坦部分に対して周縁の傾斜壁が強調した形態で表面全体の意匠に特別顕著な外観を与え,それに対して,引用意匠は,鋭い外縁を有するやや垂直な側壁が深い影となって明瞭に視野に入らず,中央部のほぼ平坦部分の形態が表面全体の意匠の特徴部分を形成し,その結果,両意匠は看者にとって異なる美感を呈していると主張する。そして,審決は,この点につき,「下降する傾斜面の,傾斜の角度の差に帰す程度のもの」と,両意匠の角度の差の程度のみに拘泥して,その角度の差によってもたらされる意匠の異なる美感を顧慮せず,「差異点は,前記のとおりいずれも類否判断に及ぼす影響が微弱で,相俟った効果を考慮しても,共通点が形成する全体の基調を覆すには至っておらず」と,その差異点である傾斜壁の角度が全体の基調に及ぼす美感に対する影響を無視した結果,その類否判断を誤ったものであると主張する。
(2) そこで,審決書の別紙第一「本願の意匠」として示された「包装用缶」の意匠(本願意匠)及び検甲第1号証の包装用缶(もっとも把持片(プルトップ)の形状などにおいて別紙第一の図面とは異なる点もあるので,補助的に考慮する)と,別紙第二「引用の意匠」に記載された写真版のうち左端の包装用缶の意匠(引用意匠)とを対比しつつ検討する。なお,以下においては,引用意匠と本願意匠とを同じ条件で対比するため,本件審決と同様に,引用意匠である前記別紙第二の写真版の左端の包装用缶を180度回転させて把持片が左方に向くものとして本願意匠の図面と対比する。
a 両意匠は,ともに,飲料用液体を封入するための「包装用缶」に係るものであると認められる。そして,まず看者の目を引くとともに両意匠の基本的な骨格を形成するのは缶全体の形態であるので,これを概観すると,両意匠は,ともにほぼ縦長円筒状であり,上端寄りを斜状に縮径して,上端に天板を巻き締め状に固着した缶体である点で共通しており,ただ,缶体下端の態様については,本願意匠が斜状にすぼまっているのに対し,引用意匠は,写真版に写っていないことから態様が明らかでないことが認められる(審決中の差異点(ハ)。以上は,原告も争っていない。)。
缶体下端の点についてみると,本願意匠の態様自体が一般的にみられるものであって特に特徴のみられないものであるので,引用意匠のその部分の態様は明らかではないが,意匠の類否判断を左右するほどの影響があるものとは認められない。そうすると,両意匠は,缶全体の形態として極めて類似しており,この点において本願意匠に特段の特徴は認められない。
b 次に把持片(プルトップ)を引き上げて缶を開けることから,目を引きやすいとみられる天板上面部分の対比判断も重要となる。そこで,天板上面についてみる。
(a) 天板の基本的な構成態様をみると,両意匠ともに次のように共通している(原告もこの点自体を争う趣旨ではない。)。すなわち,巻き締められた周縁に対し,全体が凹陥面状を呈し,さらに周縁に沿って細溝が形成されたものであり,天板中央に,ほぼ駒形状の把持片を横に鋲着し,その後端が左方に向くものとし,把持片先端の山形状を呈する部分の先(右)方に,大小の曲率の円弧からなるほぼ半月状の枠取りを,その凹湾状の部分を把持片の山形状に沿わせて表し,その突弧状の部分の外周沿いに,開口線を刻設し,この開口線及び把持片を取り囲む態様で,ほぼ横長方形状で右寄りの開口線に沿う部分がほぼ正円形状に膨らむ枠取りを,浅い凹陥状に表した基本的な構成態様となっている。
そして,天板上部の構成要素を具体的にみると,両意匠は,以下の点でも共通している(原告もこの点自体を争う趣旨ではない。)。すなわち,把持片は,両側辺は後端(左方)に向けてわずかな曲線状を呈して拡がり,角部を小さく丸みを付けて後端辺全体を緩やかな弧状としたもので,先端寄りに位置する小円板状の鋲の周囲を正方形状に凹陥させ,その後方に,これとほぼ同じ大きさの正円状の孔を表したものである。また,ほぼ半月状の枠取りは,全周がやや太幅状に縁取られたものである。開口線及び把持片を取り囲む枠取りについて,右寄りのほぼ正円形状に膨らむ部分は,左寄りのほぼ横長方形状に対しわずかに幅の広いもので,左端において,把持片との間に等幅状のわずかな隙間を空けて表されている。
(b) 以上に対して,両意匠の差異点として,審決が認定するとおり,前記(ハ)のほか次のものが認められる。すなわち,(イ) 天板上面の周縁についてみると,両意匠ともに上端で内向きに折り返されているが,折り返された後,本願意匠は,やや緩やかな角度(垂直方向に対しほぼ40度)で下降する傾斜面をなして細溝に至るものであるのに対し,引用意匠は,その傾斜の角度が本願のものより垂直に近い,急な角度のものと認められる。(ロ) 開口線及び把持片を取り囲む枠取りについてみると,本願意匠は,把持片を取り囲む部分が直線状であるのに対し,引用意匠は,曲線状で,後端寄りがやや幅広である。
(c) 原告は,前記のとおり,特に上記差異点の(イ)を強調して主張する。
確かに,本願意匠は,やや緩やかな角度(垂直方向に対しほぼ40度)で下降する傾斜面をなして細溝に至るものであるのに対し,引用意匠は,その傾斜の角度が本願のものより垂直に近い,急な角度のものと認められることは前記のとおりであり,そのため,天板中央のほぼ平坦部分の面積を比較すると,本願意匠の方が相対的に減少しているといえ,また,包装用缶の表面の上部から観察したとき,本願意匠では,引用意匠と比べると,周縁の傾斜壁が視野に入りやすいことも認められる。その結果,両意匠は,看者に対し,光の作用による影の点も含め,一定の異なった印象を与えるであろうことも推認される。
しかしながら,上記部分の構成は,天板上面において,巻き締められた周縁に対し,全体が凹陥面状を呈し,さらに周縁に沿って細溝が形成されているという共通の構成となっていることは前認定のとおりであり,上記の傾斜面は,その周縁上端から細溝に至る面をいうものであり,結局,傾斜面の傾斜角度が異なることによって生じる差異であると認められる。そして,周縁上端からみた天板中央部分の凹陥の程度は浅いものと認められるので,本願意匠の傾斜面がほぼ40度であるとはいっても,引用意匠に比べて,傾斜面が大幅に天板中央部分に入り込んで,天板中央のほぼ平坦部分の面積が顕著に狭くなっているとは認められないし,両意匠において発生するであろう影についての差異に著しいものがあるとまでは認めるに足りない。また,本願意匠の傾斜面の角度は,平成7年当時においても,既に公開された乙第9ないし12号証の意匠公報又は公開実用新案公報においてみられる程度のものであることも認められる。
(d) その他,前記(ロ)の差異点は,引用意匠の曲線もごく緩やかなもので,後端寄りをやや幅広とする度合いもさほど顕著なものでなく,開口線及び把持片を取り囲む態様で枠取りを表した前記(a)の共通点の中での微差にとどまる。
また,原告の主張中には,本願意匠には,把持片の後端寄りに2つの小さな長方形が正円形の孔の両側にあるのに対し,引用意匠にはそのような長方形がないことも差異である旨の指摘があるが,これも前記(a)の共通点の中での微差にとどまる。
c 以上をもとに検討するに,原告が主張する前記(イ)に関する差異については,前記b(c)のとおりである。そして,両意匠の基本的な骨格を形成する缶全体の態様は,前認定のとおり極めて類似しており,看者の目を引くとみられる天板上面部分については,前認定のとおり,両意匠の基本的な構成態様が共通しており,特に消費者が直接手を触れる把持片(プルトップ)及びその周辺部分の形態は,様々なバリエーションが想定されるにもかかわらず,両意匠は,細かい点を除き,共通点が多いという状況の下では,(イ)の差異点が類否判断に及ぼす影響は微弱であるといわざるを得ない。よって,その余の差異点を総合してみても,前記共通点が形成する両意匠の全体の基調を覆すに足りるものとは認められない。
(3) よって,両意匠は,全体として類似するものであって,本願意匠は,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができないとした本件審決の認定,判断は是認し得るものであり,取消事由2(類似性の判断の誤り)についての原告の主張は採用することができない。
なお,原告は,本願意匠と同じものが既に英国,韓国で登録されていること,前記周縁側壁の傾斜角については缶内部の液体圧力に対する技術的問題が関係しており,原告は欧州及び米国において特許を取得した発明でこれを解決した結果,傾斜角を比較的緩やかにすることができたことなども主張するが,いずれも意匠の類似性に関する前記認定,判断を覆すに足りるものではない。
3 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利
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