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関連審決 審判1998-17012
審判1999-1518
関連ワード 物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  条約 /  新規性 /  3条1項3号 /  記載された意匠 /  意匠の属する分野 /  通常の知識を有する者 /  意匠の類否 /  意匠の要旨 /  工業上利用 /  類似性(類否判断) /  パリ条約 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 536号 審決取消請求事件
原告 カーノードメタルボックスナームローゼ フェン ノートシャップ
訴訟代理人弁理士 生沼徳二
同 伊藤克博
同 石橋政幸
同復代理人弁理士 岩田慎一
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 市村節子
同 林栄二
同 藤正明
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/27
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年審判第17012号事件について平成13年7月13日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
前提となる事案等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,1995年(平成7年)10月5日イギリス国にした出願に基づきパリ条約第4条の規定による優先権を主張し,平成8年4月5日,意匠に係る物品を「包装用缶のふた」とし,形態を別紙審決書写し(以下「審決書」ともいう。)の別紙第一に示す意匠(以下「本願意匠」という。)につき意匠登録出願をしたが(平成8年意匠登録願第9494号),平成10年6月26日付けで拒絶査定(以下「本件審査」という。)があったので,平成10年10月26日付けで審判請求をしたが(平成10年審判第17012号,以下「本件審判」という。),平成13年7月13日,本件審判請求は成り立たないとの審決があり(以下「本件審決」という。),その謄本は同年8月1日原告に送達された(出訴期間として90日附加)。
2 審決の理由 本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,平成8年意匠登録願第9494号の本願意匠は,意匠に係る物品が「包装用缶のふた」であり,その形態を別紙第一に示すとおりとしたものであるとし,別紙第二の外国雑「PACKAGING」1993年4月号31頁左下に掲載された3本の缶を示す写真版のうちの左端に示された「包装用缶のふた」の意匠を引用の意匠(以下「引用意匠」という。)として対比,検討し,本願意匠は,引用意匠に類似し,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができないものであるとした。
原告主張の審決取消事由の要点
1 取消事由1(審理対象の誤り,手続の違法) (1) 審理対象の誤り a 原告は,イギリス国に出願した出願番号2050969号の「包装用缶」の意匠につき優先権主張をして,意匠登録出願をしたところ,特許庁は,この出願を平成8年意匠登録願第9494号であると原告に通知した。
特許庁は,平成8年意匠登録願第9494号につき,意匠に係る物品を「包装用缶のふた」として審査し,平成10年6月26日付けで拒絶査定をした。原告は,これを不服として,意匠に係る物品「包装用缶」と記載した平成10年10月26日付け審判請求書を特許庁に提出し,さらに,意匠登録出願の意匠に係る物品は「包装用缶」である旨を記載し,審判請求の理由を補正した審判請求書を添付した手続補正書(方式)を提出した。特許庁は,本件審判事件(平成10年審判第17012号)を意匠に係る物品を「包装用缶のふた」として審理した結果,平成13年7月13日付けで,本件審判の請求は成り立たないとの本件審決をし,その謄本は同年8月1日原告に送達された。
本件平成8年意匠登録願第9494号の意匠に係る物品は「包装用缶」であるにもかかわらず,本件審決では,意匠に係る物品を「包装用缶のふた」として認定を誤り,審理した意匠は,審決書の別紙第一記載のものとしたのであるが,別紙第一の図面に記載されたのは「包装用缶のふた」の意匠であり,「包装用缶」の意匠と異なることが明らかである。
以上のように,本件審決は,本件意匠登録出願の願書に記載した意匠に係る物品を誤り,願書に添付された図面に記載された意匠とは異なった意匠を審理した結果,その結論を誤ったものである。
b ちなみに,本件審決で審理対象とされた「包装用缶のふた」の意匠は,イギリス国での出願番号2050968号であり,「包装用缶」の意匠と同日に原告が意匠登録出願したものである。特許庁は,この「包装用缶のふた」の出願を平成8年意匠登録願第9495号であると原告に通知した。しかし,同出願については「包装用缶」として審査し,平成10年10月16日付けで拒絶査定した(以下「別件審査」という。)。原告は,これを不服として,意匠に係る物品を「包装用缶のふた」と記載した平成11年1月29日付け審判請求書を特許庁に提出し,さらに,意匠登録出願の意匠に係る物品は「包装用缶のふた」である旨を記載して,審判請求理由補充書を提出した。特許庁は,この審判事件(平成11年審判第1518号,以下「別件審判」という。)を意匠に係る物品「包装用缶」として審理した結果,平成13年7月3日付けで,本件審判の請求は成り立たないとの審決をし(以下「別件審決」という。),その謄本は同月24日原告に送達された。
c 要するに,特許庁は,本件出願と同時にされた別件の出願とを取り違えて審査,審判をするという誤りを犯し,審理の対象を見誤り,審決を誤ったものである。
(2) 手続の違法 a 原告は,別件審判の係属中に,特許庁から電話で,別件審判の対象である意匠に係る物品は「包装用缶」であるから,「包装用缶」に関する意見書を提出するようにと指示された。その後,平成13年2月1日付けで拒絶理由通知書(乙第5号証)が送付された。原告は,特許庁側に何らかの誤りがあるのではないかと思いつつも,指示に従って,平成13年5月16日付け意見書(乙第6号証)を提出した。しかし,原告としては,本件における出願の意匠に係る物品が「包装用缶」であると認識し,依然として特許庁側に何らかの誤りがあるのではないかと思料していたので,本件審判においても,特許庁から意見書の提出等の釈明を求められるものと思料していたものであリ,本件審判において,特許庁から本件出願の意匠に係る物品は「包装用缶のふた」とするとの指示,あるいはその趣旨の拒絶理由通知書が送付されたならば,それに対応すべく準備していたところ,そのような指示も拒絶理由通知書も発せられることなく,審理が終結され,本件審決がされたものである。
このように,原告は,本件における出願の意匠に係る物品が「包装用缶」と認識していたのに対し,特許庁は,「包装用缶のふた」と認識した上で審査,審理したもので,出願内容について双方の認識は一致していない。別件審判において特許庁の指示に沿って「包装用缶」に関する意見書を提出したからといって,直ちに,本件が「包装用缶のふた」と認識したとはいい得ないし,別件における出願に対する審理が本件を審理したことにはならない。結局,原告は,意匠に係る物品が「包装用缶」の意匠登録出願に関する意見を述べる機会を得たのみで,意匠に係る物品が「包装用缶のふた」の意匠登録出願に関しては,審判係属中に実質的に意見を述べる機会を得ることなく,審判請求は成り立たないとの本件審決を受けたものである。これは,出願番号通知の誤りという手続の瑕疵に基づくものにほかならず,本件審決は違法であり,取り消されるべきものである。
b 被告は,本件審判請求書の「包装用缶のふた」の意匠についての主張で,実質的に原告の主張は尽きていると考えられる旨主張する。しかし,「包装用缶」と「包装用缶のふた」の意匠とでは,引用意匠に対する共通点及び差異点を異にするのは明らかであり,原告もその趣旨の主張をしている。それらの共通点及び差異点が意匠の類否判断に与える影響は,個別の意匠ごとに変化するのであるから,「包装用缶」と「包装用缶のふた」の意匠とでは引用意匠との類否判断を異にし,意匠に係る物品を「包装用缶」として作成された本件審判請求書の主張中に,「包装用缶のふた」の意匠に関する主張が一部含まれていたとしても,実質的に原告の主張が尽きていると認められるべきものではない。
2 取消事由2(類似性の判断の誤り) 取消事由1記載の手続の瑕疵が仮に治癒されたとしても,審決は,本願意匠(「包装用缶のふた」。審決書に別紙第一「本願の意匠」として添付されたもの)と引用意匠との類否判断につき,次の2つの観点で誤っている。
(1) 審決は,引用意匠の形態を見誤った結果,本願意匠と引用意匠との共通点の認定を誤り,差異点を看過し,ひいては類否判断を誤ったものである。
a 審決は,引用意匠が斜め上方からの包装用缶を表わした写真版であって,包装用缶のふたを特定すべき意匠を表わしていないにもかかわらず,引用意匠を「包装用缶のふたの意匠であって」と認定し(審決書1頁下から3行),また,本願意匠と引用意匠につき「両意匠は,(1)全体が薄い円形板状のもの」(同2頁2行)と引用意匠の形態を見誤った結果,本願意匠と引用意匠との共通点の認定を誤って,差異点を看過したものである。本願意匠は,全体の形状を皿状とした「包装用缶のふた」であり,これに対して引用意匠は,全体の形状をほぼ縦長円筒状とし,上端寄りを斜状に縮径した「缶体」であって,両意匠は,そもそも全体の形状を全く異にし,非類似と認められるべきものである。
本願意匠では,周縁の緩やかな傾斜壁と中央のほぼ平坦部分との境に存在する環状溝が外側壁(傾斜壁との境界)と内側壁(中央のほぼ平坦部との境界)とを有し,これら外側壁と内側壁は中央のほぼ平坦部分にほぼ垂直で互いにほぼ平行なため,環状溝が皿状の底のほぼ円筒形状糸きり部を構成している。本願意匠では,平坦な外周縁が,緩やかな傾斜壁に連続している。したがって,本願意匠の底面図,断面図を見るに,本願意匠は,平坦な外周縁と,緩い角度の傾斜壁と,底にほぼ円筒形状糸きり部とを有する皿状のものとして観察される。それに対して,引用意匠に表わされた缶のふた部分は,鋭い外縁を有する円筒状のやや垂直な側壁と中央のほぼ平坦部分とからなる円筒形状のものとして観察されるが,その断面或いは側面の形状は表わされていず,その缶のふた部分の全体形状は特定することができない。
本願意匠は,周縁がやや緩やかな角度(垂直方向に対し外向きほぼ40度)で立ち上がった傾斜壁を形成し,そのため,中央のほぼ平坦部分の面積が相対的に減少している。これに対して,引用意匠は,円筒状の周縁が急峻に立ち上がったやや垂直の側壁を形成し,そのため,中央のほぼ平坦部分がふたの表面の大部分を占めている。したがって,包装用缶のふた及び包装用缶の表面の上部から観察したとき,本願意匠では,周縁の傾斜壁が深い影とならず,周縁の傾斜壁が明瞭に視野に入る。そのため,周縁の傾斜壁は表面全体の意匠に特別顕著な外観を与え,ほぼ平坦な外周縁及び中央部のほぼ平坦部分の形態とともに表面全体の意匠を形成している。それに対して,引用意匠は,鋭い外縁を有する円筒状のやや垂直な側壁のために,その側壁が深い影となって明瞭に視野に現れず,中央部のほぼ平坦部分の形態が表面全体を占め,鋭い外縁とともに引用意匠の顕著な特徴部分を形成する。
上述のように,本願意匠は,全体に皿状の外形で,その表面は,明瞭に視野に入る周縁の傾斜壁のために,周縁の傾斜壁が表面全体の意匠に特別顕著な外観を与え,ほぼ平坦な外周縁及び中央部のほぼ平坦部分の形態とともに表面全体の意匠を形成する。これに対し,引用意匠は,包装用缶のふた部分全体の外形が定かでなく,その表面は,鋭い外縁を有するやや垂直な側壁が深い影となって明瞭に視野に現れず,中央部のほぼ平坦部分の形態が表面全体の意匠の特徴部分を形成する。このため,本願意匠は,引用意匠の包装用缶のふたの部分とは異なる意匠的美感を呈すると認められるものである。
したがって,かかる引用意匠の包装用缶そのものが,本願意匠に係る物品「包装用缶のふた」と非類似なるのみならず,引用意匠の包装用缶のふたの部分も,本願意匠とは,表面の美感を異にし,両意匠は互いに非類似と認められるべきものである。
b また,意匠の類否を判断するに当たっては,当業者の日常での包装用缶のふたの取引で,そのふたの表面の外観,全体の形状等から受ける美的感覚によるべきである。
本願意匠に係る物品「包装用缶のふた」は,包装用缶本体とは別個に製造され,取引される物品であり,本願意匠の類否判断の主体である取引者・需要者(いわゆる当業者)は包装用缶本体及び包装用缶のふたの製造業者及びその流通業者並びにこの種の包装用缶本体及び包装用缶のふたを購入し,飲料等を加工製造して,包装用缶に封入する業者など専門知識を有する者である。包装用缶本体及び包装用缶のふたの取引に当たり,当業者は,包装用缶本体との整合性をみるため「包装用缶のふた」を手に取るなどして,包装用缶のふたの表面(正面図)のみならず,側面(底面図)及び裏面(背面図)をも直接観察するものである。当業者にとって,意匠的美感は,これら包装用缶のふたの表面に重点が置かれるものの,ふたの背面,側面,及び斜視図の全体からも生ずるものである。
被告は,ふたの外周縁すなわち傾斜壁に連続する缶の胴部に巻き締められる部分が上面が平坦で先端が下向きに屈曲するほぼ「つ」の字状を呈する態様は周知のものというが,引用された乙号証の文献に記載され公知であっても,これらの文献に記載されただけでは周知のものとはいえない。周知の形態であるというには,その意匠が単に不特定多数の人に知られ得る状態におかれただけでは足りず,当該意匠の属する分野において,通常の知識を有する者,すなわち当業者がその形態を現実に認識していたことが必要であって,その意匠の形態について,当業者である創作者が知らないということができないほどに知れわたっていることを要すると解すべきである。
仮に,その形態が周知であっても,「包装用缶のふた」は独立の物品として,缶本体に巻き締めずに取引されるものであり,また,ふたの外周縁は,「全体の形状を皿状」に構成する一要素であり,外観上の特徴である。したがって,引用意匠との類否判断に当たって,「ふたの外周縁」とほぼ同じ形状のものが周知であるからといって,「包装用缶のふた」の意匠から無視し得るものではない。引用意匠は,鋭い外縁を有する円筒状のやや垂直な側壁を有するふた部分と認識される物であるから,「包装用缶のふた」の意匠とはその外観を著しく異にし,「ふたの外周縁」は意匠の類否判断に影響を与えるものと認められるべきである。
c 被告は,さらに,本願意匠の細溝(環状溝)に関する反論をするが,「包装用缶のふた」が缶体とは別個に取引される実情を無視している。本願意匠の類否判断の主体である当業者は包装用缶本体及び包装用缶のふたの製造業者及びその流通業者並びにこの種の包装用缶本体及び包装用缶のふたを購入し,飲料等を加工製造して,包装用缶に封入する業者など専門知識を有する者である。包装用缶本体及び包装用缶のふたの取引に当たり,当業者は,包装用缶本体との整合性をみるため「包装用缶のふた」を手に取るなどして,包装用缶のふたの表面(上面)のみならず,側面及び裏面(下面)も視認の対象とし,直接観察するものである。当業者にとって,意匠的美感は,これら包装用缶のふたの表面に重点が置かれるものの,ふたの背面,側面,及び斜視図の全体からも生ずるものである。また,細溝(環状溝)の両側壁がほぼ平行であるため,ふたの側面に,糸きり形状が明瞭に表われ,本願意匠の特徴の1つであり,類否判断に当たり,考慮されるべきものである。
(2) 仮に,引用意匠の形状の一部を確定することができず,そのため差異点を看過して,当該引用意匠として特定し得る限度で類否判断を行なったことが違法でないとしても,審決は本願意匠と引用意匠との差異点に対する類否判断を誤ったものである。
a 審決は,共通点と差異点との検討にあたり,「両意匠の差は,立ち上がる角度の差に帰す程度のものであるところ,この種の缶体においては,該部の傾斜には,従来より種々の角度のものが認められ,本願のもののごとく比較的緩やかなものも,普通にみられることを考慮すると,形態全体としてみれば,その差異が類否判断に及ぼす影響は微弱なものとせざるを得ない。」と判断している(審決書2頁下から7〜3行)。
本願意匠は,周縁がやや緩やかな角度(垂直方向に対し外向きほぼ40度)で立ち上がった傾斜壁を形成し,そのため,中央のほぼ平坦部分の面積が相対的に減少している。これに対して,引用意匠は,周縁が急峻に立ち上がったやや垂直の側壁を形成し,そのため,中央のほぼ平坦部分がふたの表面の大部分を占めている。
また,本願意匠の包装用缶のふたは,表面上部外周縁の缶本体に取り付けるべき部分がほぼ平坦部を形成している。これに対して,引用意匠は,缶体の上端に天板を巻き締め状に固着し,周縁上端は鋭い円筒状の外縁を形成している。
したがって,包装用缶のふた及び包装用缶の表面の上部から観察したとき,本願意匠では,周縁の傾斜壁が深い影とならず,周縁の傾斜壁は明瞭に視野に入るため,表面全体の意匠に特別顕著な外観を与え,ほぼ平坦な外周縁及び中央部のほぼ平坦部分の形態とともに表面全体の意匠を形成している。それに対して,引用意匠は,鋭い外縁を有するやや垂直な側壁が深い影となって明瞭に視野に現れず,中央部のほぼ平坦部分の形態が表面全体の意匠の特徴部分を形成し,その結果,両意匠は看者にとって異なる美感を呈しているのである。審決は,両意匠の角度の差の程度のみに拘泥して,その角度の差によってもたらされる意匠の異なる美感を顧慮していない。したがって,審決は,形態全体としてみれば,その差異が類否判断に及ぼす影響は微弱なものとせざるを得ないと,その差異点が及ぼす美感に対する影響を無視した結果,その類否判断を誤ったものである。なお,この類否の判断基準は,前述したように当業者の日常での包装用缶のふたの取引で,そのふたの表面の外観,全体の形状等から受ける美的感覚によるべきである。
b 審決は,「本願のもののごとく比較的緩やかなものも,普通にみられる」と認定しているが,原告はその事実は知らない。むしろ,本件意匠登録出願に対応する出願が各国になされ,「包装用缶のふた」の意匠は,本件意匠登録出願の優先権主張の根拠となった原出願をした英国を始め,米国,韓国等の国で,既に登録されている事実からすると,審決の認定は根拠がないものと思料される。審決で引用した引用意匠は英文で記載された外国雑誌であるにもかかわらず,本件意匠登録出願に対応する意匠が既に英国,米国で登録されている。少なくともこれらの国では,本願意匠は,引用意匠と同一でない,あるいは非常に似ていないと認定されたものである。
さらに,本願意匠の,表面中央部の開口線及び把持片の形態から明らかなように,本願意匠に係る物品「包装用缶のふた」は飲料用液体の封入用である。食品用の包装用缶のふたとは異なる内部液体圧力に対する要求から,本願意匠が創作される前は,飲料用包装用缶のふたの側壁の傾斜角は15度以下で,ほとんど垂直にして,圧力要件を満足する必要があると考えられていたものである。原告は,技術的問題を解決した発明をなした結果,包装用缶のふたの側壁の傾斜角を比較的緩やかにすることができたのであり,その発明に対して各国で特許出願をして,欧州特許(EP0828663)及び米国特許(US6065634)を取得し,かつ,本願意匠を創作し,前述したように各国に出願し,多数の国で登録を得たものである。したがって,審決の「本願のもののごとく比較的緩やかなものも,普通にみられる」との認定に関する事実は,原告は知らない。
被告は,この点に関し,乙第16〜19号証を提出するが,「普通にみられ」というには,単に,引用された各乙号証の公報文献にその形態のものが記載されて,公然知られる状態になっただけでは足りず,その形態のものがこの種類の物品に採用されて,そのため,当業者がその形態のものを現実に通常見ることができることを要すると解すべきである。その意匠に係る物品の現実の流通過程において,当該分野の取引者あるいは需要者が「普通にみられる」と認識していた事を立証すべきである。
c 被告は,不定形,不確定の光の効果を美感として類否判断することはできない旨を主張するが,意匠法での「意匠」とは,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいうのであるから,意匠は光の存在下で視認するものである。意匠が物品の形状の場合は,物品は空間に所定の範囲に存在するものであり,光により物品の影が存在する場合があるのである。意匠法での登録の対象となる意匠は,工業上利用可能性を要請されている。
したがって,意匠の類否判断も,比較的恒常的な条件下でなされるべきであるとはいえ,意匠に係る物品工業上利用される現実の世界では,光の強弱,光の方向,光源の性質等が一定とは限らないのであるから,意匠に係る物品を視覚を通じて観察した場合,時,所により異なることは当然予測されることである。その様な場合を含め,現実に則して類否判断をすることが,意匠法の想定するところである。本願意匠では,周縁の傾斜壁は角度が大きいため,上面から視認した場合,全周にわたり深い影ができず,明るく見えるので,比較的に確定的に美感を起こさせるのに対し,引用意匠では,傾斜壁がやや垂直のため深い影となるので,両意匠は全体に異なる美観を呈するのである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(審理対象の誤り,手続の違法)に対して (1) 特許庁は,原告からの出願に対し,「包装用缶のふた」につき平成8年意匠登録願第9494号と,「包装用缶」につき平成8年意匠登録願第9495号とそれぞれ出願番号を付した。ところが,出願番号を相互に取り違えて原告に通知した。
「包装用缶のふた」に係る本件出願(平成8年意匠登録願第9494号)及び「包装用缶」に係る別件の出願(同第9495号)につきいずれも拒絶査定がされ,原告の申立てにより,本件審判手続(平成10年審判第17012号)及び別件審判手続(平成11年審判第1518号)が始まった。
ところが,本件審判手続では,出願内容が「包装用缶のふた」であるにもかかわらず,審判請求人(原告。以下「原告」ともいう。)から提出された審判請求書等の書面には「包装用缶」と記載され(甲第5号証の1,2),他方の別件審判手続では,出願内容が「包装用缶」であるにもかかわらず,請求人(原告)から提出された審判請求書等の書面には「包装用缶のふた」と記載されている(甲第6号証の3,4)ことから,何らかの誤認などがあるのではないかとの感触を得て,審判請求人(原告)の代理人に対し,平成13年1月ころ,電話で確認を求めた。その後,別件審判手続において,平成13年2月1日付けで,別件審査段階と異なる新たな引用意匠を示した拒絶理由通知書(乙第5号証)を請求人(原告)に通知した。これに対し,原告は,同年5月16日付け意見書(乙第6号証)を提出したが,この意見書の中で,原告は,別件の出願(平成8年意匠登録願第9495号)の意匠が「包装用缶」に係るものであることを確認し,その上で意見を述べた(乙第6号証)。
前記の出願番号の相互取り違えは,同時審理中の2件の出願についてのものであるから,上記のように別件の出願が正しく認識された時点で,他方の本件出願についても正しく認識されたと考えるべきものであり,別件及び本件の審判の段階で双方の出願内容の認識に食い違いがないことになったものである。
本件審判手続については,平成13年6月18日の審理終結日に至るまで,同年1月ころの特許庁からの電話により食い違いが確認されてから4か月以上,本件についても原本どおりであると確認されたと考えられる別件の拒絶理由通知(発送が同年2月16日)から3か月以上,さらに,前記のとおり,原告が別件の意見書を提出し,別件及び本件について出願内容の認識に食い違いがないことが明らかになった同年5月16日からほぼ1か月の期間があった。原告は,この間,請求理由の補充等により主張する期間があったにもかかわらず主張をしなかった。なお,本件においては,本件審査の過程で発した拒絶理由通知書(乙第7号証)により「包装用缶のふた」の意匠に対して,既に引用意匠が通知されているので,本件審判手続において,新たに拒絶理由を通知する理由はない。そこで,本件審判手続では,請求人(原告)の主張は,本件審判請求書の記載から十分に把握することができるとして,審理を終結し,本件審決をしたものである。
(2) 本件審判請求書(手続補正書による補正後のもの。甲第5号証の1,2)では,確かに,意匠に係る物品を「包装用缶」とされているが,「包装用缶のふた」の主張としても,請求人(原告)の主張のポイントが十分に把握することができる。すなわち,前記審判請求書では,缶本体に関する主張は特にされておらず,蓋部の周縁の傾斜が引用意匠と異なり,蓋全体の印象が異なる旨の主張である。この主張を請求人(原告)が「包装用缶のふた」として主張した別件の審判請求理由補充書(甲第6号証の4)の主張と比較してみても,「本願意匠の要旨」の記載内容,「両意匠の差異点」の記載内容は,双方の請求書において実質的に一致しており,この点からみても請求人(原告)の「包装用缶のふた」としての主張は,本件請求書において,過不足なく記載され,十分に述べていると考えられる。また,前記の電話確認の際に,特許庁から本願意匠が「缶のふた」であるとした場合の主張を尋ねたところ,請求人(原告)側から,缶のふたとしても,周縁の傾斜に特徴がある旨を聞き,双方で本件請求書の主張内容について確認し,特許庁から,必要であれば更に書面で主張をしていただきたいが,当面の審理においては,蓋の周縁の傾斜については請求書の記載から読みとれるので,請求書の主張を「缶のふた」の主張と置き換えて請求人の主張として把握し,審理に入りたい旨を伝え,これが了承された。
(3) 以上のとおりであり,新たに原告の主張,立証などの機会を求めるまでもないと判断したことに違法はなく,本件審決に審理不尽もなく,出願番号の通知の瑕疵が審決に影響を及ぼすものとはいえない。
2 取消事由2(類似性の判断の誤り)に対して (1) 本件審決は,審決書に別紙第二「引用の意匠」として添付された写真版の左端に示された包装用缶のふたの意匠を引用意匠としているが,写真版であっても,表出された陰影,ハイライト,明度差,あるいは形状線の変化等を総合して,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合を合理的に認識することができるのであれば,これを刊行物に記載された意匠として抽出して類否判断の対象とすることに何ら問題はなく,その意匠が他の物品と結合した状態で記載されていたとしても同様である。また,その認定は,類否判断に影響を及ぼすものについて認定すれば足りるのであり,ことさら仔細な模様類否判断を左右するに至らないものまで認定する必要はない。
前記別紙第二の写真版は,上面が閉塞された3本の飲料缶が表されたものであるが,この種の飲料缶は,上面において胴部とは別体に構成された天板が缶胴部に巻き締め状に固着されて形成されることが普通で,上記写真版において左端に表された飲料缶の上端に缶本体(胴部)とは別体に構成された天板を認めることができ,本件審決はこれを抽出して「包装用缶のふた」と認め,類否判断の対象としたものである。この「包装用缶のふた」の全体形状については,上記写真版において,缶本体に固着され,斜め上方から表されたもので,断面図,側面図等は表されていないが,看者の視覚を最もよくとらえ,形態上の特徴を最もよく表すふたの上面の態様が明瞭に表されており,そして,この種の飲料缶のふたは,アルミ材,スチール材等のごく薄い金属素材がプレスされて全体が同じ厚みの薄肉状に成形され(把持部を除く)表裏は凹凸が反転してほぼそのまま表れると考えるのが普通であるから,たとえ断面図等がなくても,この種の意匠の分野の通常の知識を有する者であれば,当該写真版に表れた陰影,ハイライト,明度差,物品の形態を表す形状線の変化等を総合することにより,本願意匠の新規性判断をするに十分に,その全体形状を認識することができるものである。
確かに,本願意匠は,蓋体が缶に巻き締められる前の態様が表されたものであるため,外周縁すなわち傾斜壁に連続する缶の胴部に巻き締められる部分が上面が平坦で先端が下向きに屈曲するほぼ「つ」の字状を呈する態様で表されている。しかし,この先端が下向きに屈曲してほぼ「つ」の字状を呈する態様は,この種の飲料缶のふたの巻き締め前の態様として周知のもので(乙第11〜14号証),引用意匠との差は,単に巻き締め前か後の差に帰する程度のもので,その詳細は類否に影響を及ぼすようなものではない。
原告は,本願意匠の裏面がほぼ円筒形状糸きり部を構成している点が引用意匠では特定することができないとするが,引用意匠においても,内周壁の下端に当たる位置に,中央の平坦部より一段低い溝底があることを示す筋が認められ,蓋体が薄い金属素材で成形されることから,この溝は当然に裏面にそのまま隆起状を呈すると考えられ,両意匠に実質的な差異はない。原告は,その両側壁がほぼ平行であるとも主張するが,この種のふたの下面は,巻き締められて使用される時には缶の内面に当たることから,上面に比べて看者の視覚をとらえ難く,類否に及ぼす影響は弱く,特徴的な態様ともいえず,その両側壁が平行であるか否か等についての詳細は類否に影響を及ぼすような差異ではなく,上面から見てもごく幅の細い溝の内壁面という視認し難い部分の態様に関するものであるから,類否判断に何らの影響を及ぼすものではない。
原告は,本願意匠の全体が皿状で,引用意匠の全体が円筒形状とするが,周壁の傾斜に差異があることについては,審決も認定,判断しており,問題はない。
(2) 原告は,審決がこの傾斜角度の差が美感に及ぼす影響を無視していると主張し,本願意匠の周縁の傾斜壁が明瞭に視野に入り,強調した形態で表面全体に特別顕著な外観を与えるとする。しかし,本願意匠の周縁内側の傾斜壁の角度は従来にもみられる程度のものであり(乙第16〜19号証),また,その傾斜壁は,中央に向けて大きく形成されているようなものではなく,本願意匠,引用意匠ともに,外周付近にとどまる範囲で傾斜面状に形成されたもので,差異は,その傾斜面状に立ち上がるその角度の差にとどまる程度のもので,立ち上がる上下幅についても,ふたの径に比してごく低いものであるから,両意匠についてその差は特に顕著な差異として看者の視覚をとらえるほどのものとはいえない。
原告は,傾斜壁の深い影についても言及するが,影は,光の当たる方向,光の強弱,光源の性質等により様々に変化するものと考えられ,また該部のような円環状に一回りする壁面については,全周が一律に同じ調子で深い影ができたり,一律に明るい調子となったりするとも考え難く,このような不定形,あるいは不確定の光の効果を美感として類否判断することはできない。
したがって,本件審決が,差異点(イ)について,「両意匠とも,全体を薄い円形板状のものとし,周縁を上方に立ち上げ,先端を外側へ巻き込むものとして,内側全体が凹陥面状を呈するものとした点で共通し,更に仔細にみても,垂直方向に対して外向きの,上拡がり状に立ち上がるものである点,でも共通しており,両意匠の差は立ち上がる角度の差に帰す程度のもの」(審決書2頁30〜37行)とし,その角度については出願前にもみられる程度のもので,本願意匠が独自に備える特徴ではないことを考慮に入れ,形態全体として観察し,「その差異が類否判断に及ぼす影響は微弱なものとせざるを得ない。」(同2頁36〜37行)とした判断に誤りはない。
(3) 原告は,把持片(プルトップ)及びこれを取り囲む枠取りが全体形態に及ぼす影響については何ら考慮に入れていないが,これらには従来から様々なものが認められ,その共通性は,両意匠の類否判断に極めて強い影響を及ぼすものである。
審決は,これらの点を含めて検討し,両意匠は類似するものと判断した。
また,原告は,本願意匠が英米などで登録されているというが,登録要件は必ずしもわが国と一致するものではなく,本件類否判断と同列に論じることはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1のうち審理対象の誤りについて (1) 証拠(甲第1,3,4号証,第5号証の1,第6号証の2,3,5,乙第1ないし4号証)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
原告は,1995年10月5日付けでイギリス国に出願した出願番号2050968号の「包装用缶のふた」及び同2050969号の「包装用缶」についての各意匠につき,平成8年4月5日,パリ条約4条の規定による優先権を主張して,意匠登録出願をした。特許庁は,「包装用缶のふた」に関する出願について平成8年意匠登録願第9494号として,「包装用缶」に関する出願について平成8年意匠登録願第9495号として受理した。しかし,特許庁は,原告に対し,出願番号通知をした際,出願番号を取り違え,「包装用缶のふた」について第9495号,「包装用缶」について第9494号として通知し,原告はその旨認識した。
平成8年意匠登録願第9494号(包装用缶のふた)について平成10年6月26日付けで拒絶の査定がされ(本件審査),同年10月26日付けの原告による審判請求を受けて,平成10年審判第17012号事件として審理されたが(本件審判),平成13年7月13日に審判請求は成り立たない旨の審決がされた(本件審決)。この審決の取消請求訴訟が本件である。
他方,平成10年10月16日付けで平成8年意匠登録願第9495号(包装用缶)についても拒絶の査定がされ(別件審査),平成11年1月29日付けの原告による審判請求を受けて,平成11年審判第1518号事件として審理されたが(別件審判),平成13年7月3日に審判請求は成り立たない旨の審決がされた(別件審決)。この審決の取消請求訴訟が当庁平成13年(行ケ)第526号事件(以下「別件訴訟」という。)である。
本件訴訟の前提となる一連の手続は,イギリス国出願の2050968号の「包装用缶のふた」の意匠についてされた平成8年意匠登録願第9494号,平成10年審判第17012号事件であるが,これらは,いずれも「包装用缶のふた」の意匠を対象としてされた。
もっとも,特許庁は,原告に対して出願番号を取り違えて「包装用缶のふた」を第9495号,「包装用缶」を第9494号と通知したのであるが,特許庁の原本,出願マスターデータでは,前記のとおり,「包装用缶のふた」について平成8年意匠登録願第9494号とされており,特許庁は,その後の本件審査手続,本件審判手続でも一貫して「包装用缶のふた」の意匠を対象に審査,審判をしている。
(2) 以上によれば,原告は,本件出願である平成8年意匠登録願第9494号が「包装用缶」の意匠を対象とするものであると認識していたのであり,その原因は,特許庁が誤ってそのように出願番号を通知したからにほかならない。しかしながら,客観的には,本件一連の手続の対象は,イギリス国出願の2050968号として出願された「包装缶用のふた」の意匠であり,特許庁もこれを対象として本件審査,本件審判を行ったものである。したがって,特許庁が審理対象を誤ったまま本件審査及び本件審判を行ったものとは認められない。その限りで原告の主張は採用することができない。
2 取消事由1のうち手続の違法について そこで,本件審査,審判手続が「包装用缶のふた」の意匠を対象に行われたにもかかわらず,特許庁の前記過誤により,原告がこれらの審理対象を「包装用缶」の意匠であると誤解したまま手続が進められてきたのではないか,それが本件審判手続に違法があるものとして,取消事由となり得るかどうかが問題となる。
(1) 前記1(1)に認定の事実のほか,証拠(甲第3,4号証,第5号証の1,2,第6号証の2ないし4,乙第5ないし8号証,第10号証)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a 特許庁審査官は,本件審査(平成8年意匠登録願第9494号)の過程で,原告の出願代理人に対し,平成9年7月11日付けで,この登録出願の意匠は,外国雑誌「PACKAGING」平成5年4月号31頁所載の写真(審決書別紙第二の写真と同じもの)一番左の「包装用缶のふた」の意匠に類似するものであるので,意匠法3条1項3号に該当する旨の理由を付した拒絶理由通知書(乙第7号証)を送付した。そして,特許庁審査官は,平成10年6月26日付けで,前記拒絶理由通知書によるものと同じ理由により「包装用缶のふた」の意匠登録出願について拒絶の査定をし,その謄本が原告に送付されたが,謄本には,意匠に係る物品が「包装用缶のふた」であること,意匠登録出願番号が「意願平8-9494」であることが明記されている(甲第4号証)。
原告は,この査定を不服とし,本件審判請求をしたが,平成10年10月26日付け審判請求書には,審判事件の表示としては平成8年意匠登録願第9494号と記載されているものの,意匠に係る物品としては「包装用缶」と記載されていた(甲第5号証の1)。原告は,平成11年3月29日付けの手続補正書を提出し,審判請求書の理由欄を補正したが,その書面では,拒絶査定の理由において外国雑誌に掲載された「包装用缶のふた」が引例意匠とされたと記載しつつも,意匠に係る物品を依然として「包装用缶」とし,理由においても「包装用缶」であることを前提に主張を展開している(甲第5号証の2)。なお,同書面には,拒絶査定において「包装用缶のふた」が引用されたことが誤りであるとの指摘はなく,むしろ,出願意匠に係る物品も引用された例も「包装用缶」であるとの前提で対比などの主張をしていることがうかがわれる。
b 他方,特許庁審査官は,別件審査(平成8年意匠登録願第9495号)の過程でも平成10年3月20日付けの拒絶理由通知書(乙第8号証)を送付した。その理由は,当該意匠登録出願の意匠は,特許庁発行の意匠公報記載の意匠登録第831176号の包装用容器に表わされている形状に類似するものであるので,意匠法3条1項3号に該当する旨をいうものであった。そして,特許庁審査官は,平成10年10月16日付けで,前記拒絶理由通知書によるものと同じ理由により「包装用缶」の意匠登録出願について拒絶の査定をし(別件審査),その謄本が原告に送付されたが,謄本には,意匠に係る物品が「包装用缶」であること,意匠登録出願番号が「意願平8-9495」であることが明記されている(甲第6号証の2)。
原告は,この査定を不服とし,審判請求をしたが,その平成11年1月29日付け審判請求書には,審判事件の表示としては平成8年意匠登録願第9495号と記載されているものの,意匠に係る物品としては「包装用缶のふた」と記載されていた(甲第6号証の3)。原告は,平成11年3月29日付けの審判請求理由補充書を提出したが,その書面でも,審判事件の表示としては平成11年審判第1518号,平成8年意匠登録願第9495号と記載されているものの,前記同様に意匠に係る物品としては「包装用缶のふた」であるとし,拒絶査定の理由において引用された物品が「包装用缶」であって,物品において既に非類似であるとの指摘もみられたが,全体としては,「包装用缶のふた」を前提として主張等がされている(甲第6号証の4)。
c さらに,前記a記載の本件出願の拒絶査定(「包装用缶のふた」に関するもの)については本件審判手続(平成10年審判第17012号)が,前記b記載の別件出願の拒絶査定(「包装用缶」に関するもの)については別件審判手続(平成11年審判第1518号)が進められたが,本件審判手続では,出願された意匠に係る物品が「包装用缶のふた」であるにもかかわらず,原告から提出された前記書面には「包装用缶」と記載され,別件審判手続では,「包装用缶」であるにもかかわらず,原告から提出された前記書面には「包装用缶のふた」と記載されていることから,特許庁審判官は,何らかの誤認などがあるのではないかとの感触を得て,審判請求人(原告)の代理人に対し,平成13年1月ころ,電話で確認を求めた。
その後,別件審判手続に関し,平成13年2月1日付けで,前記b記載の意匠公報とは異なる新たな引用意匠(審決書別紙第二に引用された外国雑誌掲載の写真版のうち左端の包装用缶の意匠)を示した拒絶理由通知書(乙第5号証)を請求人(原告)に通知した(同年2月16日発送)。この拒絶理由通知書には,意見があれば3か月以内に意見書を提出するようにと促す内容も含まれている。これに応じて,原告は,同年5月16日付け意見書を提出し,その中で,事件の表示を「平成11年審判第1518号,平成8年意匠登録願第9495号」と記載した上,別件審判で対象となっている意匠に係る物品が「包装用缶」であることを明記して意見を述べた(乙第6号証)。これにより,原告は,別件審判において,「包装用缶」との正しい認識のもとに意見を述べることができた。
本件審判手続においては,特許庁から原告に対し,別件のように拒絶理由通知書などの書面が送付されることもなく,また,原告から追加の主張書面が出されることもなく,平成13年6月18日に審理が終結され(乙第10号証),同年7月13日付けで本件審決がされた。
(2) 以上によれば,本件は,要するに,特許庁の過誤により,2件の意匠登録出願の番号が原告に対して相互に取り違えて通知され,その結果,原告が対象となる意匠に係る物品を取り違えたまま主張をするなどの手続を続けた事案であり,このようになった原因は,挙げて特許庁が出願番号を取り違えて通知したという過誤にある。審理の対象が何かということは,審判手続の根幹をなす最も重要な事項のひとつであり,当事者にとっても主張の対象という根本的な事項に誤りを生じさせるものであり,手続保障という観点からすれば,重大な過誤というべきである。したがって,このような事務過誤を犯した特許庁としては,特段の事情のない限り,原告に対し,本件審判において真に検討対象とされるべき意匠に係る物品について,主張立証をする機会を付与する必要があったというべきである。
そこで,前記認定事実をみると,別件審判手続においては,特許庁から原告に対して拒絶理由通知書が送付され,原告に対して拒絶理由を通知するとともに,意見があれば意見書を提出することが促され(乙第5号証),原告は,これに応じて意見書を提出し,それまで意匠に係る物品が「包装用缶のふた」であることを前提にされていた主張が,正しく「包装用缶」を前提とした主張となった(乙第6号証)。しかし,本件審判手続においては,このようなことがないまま審理が終結され,本件審決に至っており,結局,原告の主張は,誤った「包装用缶」を前提とするものが存在するのみであって,正しく「包装用缶のふた」を前提とした主張書面は提出されていない。そして,本件審判手続においては,前記のとおり,審判官から審判請求人(原告)の代理人に対する電話により,誤認などがあるのではないかと確認をしたことは認められるものの,出願番号通知の訂正書面を送付するなどした形跡はなく,原告に対して,正しい「包装用缶のふた」に関して主張立証があればするように促すなど,主張立証の機会を与えたことをうかがわせる証拠もない。
したがって,特許庁の本件審判における手続においては,出願番号を誤って通知し,特許庁はこれを認識したのであるから,原告に対して,本件審判において真に検討対象とされるべき意匠に係る物品について,主張立証をする機会を付与する必要があったのに,これを怠った手続上の瑕疵があるというべきである。そして,この瑕疵は,審決の結論に影響を及ぼし得る可能性を否定することはできない。
(3) 被告は,前記のとおり,別件審判の過程で前記の意見書が出されるなどして,別件出願が正しく認識された時点で,他方の本件出願についても正しく認識されたと考えるべきものであること,原告が平成13年6月18日の本件審判の審理終結日に至るまで,請求理由の補充等により主張する期間があったにもかかわらず主張をしなかったこと,別件審判とは異なり,本件審判手続においては,新たに拒絶理由を通知する理由はないこと,本件審判請求書(手続補正書による補正後のものを含む。甲第5号証の1,2)と原告が「包装用缶のふた」として主張した別件の審判請求理由補充書(甲第6号証の4)の主張とを比較してみても,内容が実質的に一致しており,本件審判請求書の主張を「包装用缶のふた」の主張としてみても,原告の主張のポイントが十分に把握できること,特許庁から原告に対し,主張は審判請求書の記載から読みとれるので,「缶のふた」の主張と置き換えて把握し,審理に入りたい旨を伝え,これが了承されたことなどを主張する。
しかしながら,本件審判手続と別件審判手続とは併合されておらず,各別に審理されるべきものであるから,本件審判手続において出願番号の訂正書面を送付するなどの措置を取るべきであった。また,被告が主張するような特許庁審判官と原告(代理人)との口頭のやりとりがあったことについては本件証拠上は必ずしも明確ではなく,仮に,被告主張のような口頭の了承があったのであれば,原告からその旨の書面の提出を受けるか,少なくとも上記了承を公式の審判記録に残す手だてを講じるべきであった(こうすることで,原告に対する手続保障がされたことを公証し得る。)が,そのような措置がとられたことを示す証拠はない。さらに,仮に本件が審判段階において改めて拒絶理由通知をすべき場合に当たらないとしても,原告に主張立証の機会を付与するには,適宜の方式で通知し,そのことを審判記録に残すことで足りるものと解されるので,この点は結論を左右しない。なお,上記のとおり,本件審判と別件審判とは,あくまで別の審判事件であり,主張立証はそれぞれ別個のものであって,たまたま両審判を担当する審判官がいたとしても,取り違えられた相互の主張を対比して実質的に同じであると認定し,前記のような機会を付与する必要はないとか,機会を付与しなかった瑕疵が審決の結論に影響を及ぼし得ないと即断することは許されない。いずれにしても,本件においては,特許庁が前記の主張立証をする機会を付与することを怠った瑕疵があるというほかなく,上記被告の主張を検討しても,これが正当化される事案であるとは認められない。
(4) 以上のとおり,原告主張の取消事由1(2)(手続の違法)については理由があり,その余の点について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきである。
3 結論 よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利
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