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関連審決 無効2000-35085
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  一意匠一出願(7条) /  冒認出願(冒認) /  公然知られた(3条1項1号) /  3条1項3号 /  類似する意匠 /  部品 /  登録意匠 /  実用新案権 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 374号 審決取消請求事件
原告 大湖産業株式会社
訴訟代理人弁理士 楠本高義
被告 株式会社パロマワークス
訴訟代理人弁理士 宮崎伊章
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/05/30
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2000-35085号事件について平成13年7月9日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,意匠に係る物品を「スクリーン用取り付け器具」とする登録意匠第1056415号の意匠(平成10年5月1日出願,平成11年9月3日設定登録,以下「本件意匠」という。その形態は別紙審決書の理由の写し別紙一記載のとおりである。)の意匠権者である。
被告は,平成12年2月8日,本件意匠の登録を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,この請求を無効2000-35085号事件として審理し,その結果,平成13年7月9日に,「登録第1056415号の登録を無効とする。」との審決をし,同月23日,その謄本を原告に送達した。 2 審決の理由の要点 審決の理由は,別紙審決書の理由の写し記載のとおりである。要するに,本件意匠は,その出願前において日本国内で公知であった,審判甲第3号証(本訴甲第5号証)における別添の写真で特定される商品(ロールブラインドの取り付け器具の意匠(以下「甲号意匠」という。その形態は別紙審決書の写し別紙第二記載のとおりである。)と類似する意匠であるから,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができない,というものである。
原告主張の審決取消理由の要点
審決の理由中,「第三 当審の判断」の「2.本件登録意匠」は認める。
「3.甲号意匠」のうち,審判甲第1号証(本訴甲第3号証),審判甲第3号証(本訴甲第5号証),審判甲第7号証(本訴甲第9号証),審判甲第10号証(本訴甲第12号証),審判甲第11号証(本訴甲第13号証)の記載内容の認定は認め,これらの証拠によって,甲号意匠が本件意匠の登録出願前において日本国内において公知となったことが証明されたことは否認する。「4.本件登録意匠と甲号意匠の対比」及び「4.(判決注・「5.」の誤記であると認める。)類比判断」は認める。
審決は,甲号意匠に係る商品が本件意匠の登録出願前に我が国に輸入されたことによって公知となったとの誤った認定をし(取消事由1),仮に上記輸入の事実が認められたとしても,同商品は,原告の考案した本件意匠を冒認した者によって,原告の意思に反して製造,販売されたものであるから,甲号意匠は,意匠法4条1項の適用により,同法3条1項1号に該当するに至らなかったものとみなされるべきであるのに,これを看過した(取消事由2)。これらの誤りが,それぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(甲号意匠の公知性についての認定の誤り) (1) 審決は,株式会社湯川家具(以下「湯川家具」という。)の商品開発部次長であるAの宣誓供述書(大阪法務局所属の公証人Hの認証に係るもの。甲第12号証(審判甲第10号証))により,甲号意匠が本件意匠登録の出願前において日本国内で公知であったことが証明された,とした。
しかし,湯川家具は,本件意匠に係る「取り付け器具」を含む商品を輸入し,日本国内で販売することによって,原告の有する意匠権及び実用新案権を侵害しており,本件意匠に関し,原告と係争関係にある。また,原告と湯川家具とは,本件意匠とは別の原告の登録意匠(意匠登録1005599号)に関しても係争関係にある。このような立場にある湯川家具と被告とは,利害が一致する。
特に,供述人であるAは,本件意匠に係る「取り付け器具」を含む商品を輸入販売する上で主導的立場にある者である。このような利害関係人である同人の宣誓供述書は信用性に乏しく,証明力がないといわざるを得ない。これに基づき,甲号意匠が日本国内で公知であったことを認めたのは,審決の誤りである。
(2) 甲号意匠が本件意匠登録の出願前において日本国内において公知であったことを裏付けるものとして審決が挙げる次の各証拠は,いずれも,証明力がないものである。
ア 審決は,甲第3号証(審判甲第1号証)によれば,1998年2月7日にタイワンバンブーカーテンエンタープライズ株式会社(以下「タイワンバンブーカーテン社」という。)が湯川家具に対して,ロールブラインド PI NO.120197」を輸出したことが明らかである,とする。
しかし,甲第3号証は,湯川家具に対し「ロールブラインド PI NO.120197」を輸出したということを証明するにとどまり,その中に含まれていた「取り付け器具」の種類を特定する記述を含むものではないから,「取り付け器具」の意匠を証明するものではない。
イ 審決は,甲第5号証(審判甲第3号証)及びそれを補充する甲第12号証(審判甲第10号証)によれば,湯川家具が,甲第5号証に添付された写真に係る商品を取付け指示書とともに,タイワンバンブーカーテン社から,1998年2月5日付けのインボイスによって,日本国内に輸入したことが明らかである,とする。
しかし,上記各証拠は,甲第5号証に添付された写真に係る商品(ロールカーテン)が輸入されたことを証明するにとどまり,その中に写真に示された取付け器具と取付け指示書が入っていたことを証明するものではない。ロールブラインドの販売形態として,そのロールブラインドを取り付けるための取付け器具とその取付け説明書が入っていたと推認することができることは認める。しかし,1998年2月5日付けで日本国内に輸入されたロールブラインドが,1999年12月7日の撮影時まで在庫として残っていたという証拠はなく,輸入された商品と撮影された商品との同一性,特にその中に付属品として入っている取付け器具と取付け説明書の同一性は証明されていないというべきである。
ウ タイワンバンブーカーテン社は,湯川家具とも被告とも取引のある共通の貿易商社である。タイワンバンブーカーテン社はEの利欣カーテン有限公司からスクリーンを仕入れているから,湯川家具と被告とが輸入する商品スクリーンが同じであれば,その付属部品として包装容器の中に入っている取付け器具(ブラケット)も同じであることが推定できる。
被告の元代表取締役のBが原告に送付した平成10年8月18日付けの「台湾製新型ブラケット日本国内使用の件」と題する書面(甲第16号証)には,「来年度,新規積み込み商品にこのブラケットを新規採用するについて,何ら・・・」との記載があり,この記載によれば,甲号意匠にかかる新型ブラケットは,平成10年(1998年)8月18日の時点では,まだ日本国内に輸入されていなかったことになるというべきである。同じスクリーンの輸入に当たり,全く同じ製品の製造・販売のルートが同じであるのに,被告には旧型のブラケットが付属品として添付され,湯川家具には新型のブラケットが付属品として添付されているということはあり得ないことだからである。
(3) 乙第5号証は,同様の商品を多数取り扱っている中で,約2年半前の商品の「付属品」がどのような形状,構造をしていたか記憶しているとは到底考えられないことから,信用することができない。同号証が平成12年9月21日付けで作成されたのであれば,審判段階で提出されてしかるべきなのに,提出されていなかったことから,その作成時期についても疑問がある。
2 取消事由2(冒認の事実の看過) (1) 審決は,甲第9号証(審判甲第7号証),第13号証(審判甲第11号証)によれば,甲第5号証に添付された写真に撮影されている商品に係る取付指示書に記載された「スクリーン用取付け器具」と略同一の意匠が,中華民國専利公報(以下「台湾公報」という。)公告編號第386414号(1998年1月8日出願,2000年4月1日公告)の添付図面の第一図ないし第五図に開示されているから,甲号意匠は,1998年1月8日の当時,既に台湾において創作がなされていたことを推認することができるとした。
しかし,上記台湾公報において,そこに開示されている発明の発明者であるとされているC(以下「C」という,)は,同発明やそれに関する意匠の真の発明者・創作者ではない。真の発明者・創作者は,原告の従業員であるD(以下「D」という。)及び後記Fである。すなわち,Cは,上記発明や意匠を冒認した者なのである。
冒認の経緯は,次のとおりである。
従来のスクリーンの取付け器具は,日本国内の需要者にとって非常に使いにくい形状・構造をしていたため,原告は,その代表者の指示により,新たな取付け器具を開発した。原告代表者は,その開発の過程で,台湾のスクリーンメーカーのF(以下「F」という。)に相談し,さらに,金属製の取付け器具を量産するため,金型の製作が可能であるか否かの意見を得るために,Cを交えて相談し,「取付け器具」の最終製品の形状・構造・寸法を決定する過程で,試作と取付実験を重ねた。Cは,原告の「取付け器具」の内容を知り得る立場にあるだけでなく,いち早く取付け器具を製造できる立場にあったため,この立場を利用して,原告及びFに無断でいち早く台湾で特許出願したものであり,同出願は,冒認出願であることが明らかである(甲第17,第19号証参照)。
仮に,Cが本件意匠の出願前に同意匠に係る取付器具を製造し,それが日本国内に輸入された結果,我が国において,公然知られるに至ったものであるとすれば,それは発明者・創作者であるD及びFの意思に反するものであるから,意匠法4条1項の適用により,同法3条1項1号に該当するに至らなかったものとみなされるべきである。
(2) 被告が,Cが甲号意匠に係る商品の発明者であるとの主張の根拠として提出した乙第3,第4号証は,事実に反する内容が記載されており,信用することができないものである(乙第4号証につき,甲第21号証参照。)。
Cは,従来から,スクリーンメーカーの注文に応じてブラケットを製造していただけの者であるから,同人が,新たなブラケットを自ら費用を投資して開発しなければならない理由は全くない。Cは,最終需要者と接することはほとんどないから,それまでのブラケットにどのような欠陥があるのかを認識することはなく,新しいブラケットを開発する動機が全くないので,新たなブラケットを開発できるわけがない。これに対し,原告は,最終需要者と接する立場にあって,仕事の上でブラケットを取り付ける機会も多く,その間に,需要者から原告に寄せられる苦情や,原告自ら感じる不便さの原因となる点を改善したいと欲するに至るのは,当然の成り行きである。原告が使用していたブラケットの開発者であるFと,原告代表者とは,懇意にしている間柄であることから,必然的に両者の間で従来のブラケットを基礎にして新型ブラケットの開発がなされたのである。そして,本件登録意匠の原形となる発明が完成した後,Fの従来のブラケットを製造し,かつそのブラケットを原告に販売していたCが新型のブラケットを製造することになり,Cが実際にブラケットを製造するまでに,孔の大きさや位置などの設計変更を重ねた。最終形状が定まったところで,原告とFとの間で,それぞれの国内の事情から,それぞれが単独で出願することにしたのである(Fの特許出願につき甲第15号証)。
被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,審決に原告主張のような誤りはない。
1 取消事由1(甲号意匠の公知性についての認定の誤り)について (1) 原告は,湯川家具のAの宣誓供述書(甲第12号証)は,利害関係人の供述を記載したものとして,信用性に乏しく,証明力がない旨主張する。
しかし,同宣誓書は,被告とは直接の取引関係のない別個独立した会社に所属する個人の証明であり,当該会社又は個人は,本件の審判請求人でもない。公証人の面前で宣誓した上なされた同宣誓供述書中の供述内容には,信用性があるというべきである。
上記宣誓供述書中の供述内容の信用性は,Cが台湾彰化裁判所において公証人の前で供述した宣誓書(乙第3号証),利欣(りきん)カーテン有限会社のEが同裁判所において同様に供述した宣誓供述書(乙第4号証),タイワンバンブーカーテン社のジェネラルマネージャーであるGの証明書(甲第8号証)によっても裏付けられる。
アイク株式会社のIの確認書(乙第5号証)によれば,アイク株式会社は,捷興企業股价有限公司に,甲号意匠に係るロールブラインド及び取付け金具を発注し,1998年3月27日の送り状(送り状番号:CH-0327/98)によって,日本国内に輸入し,遅くとも1998年4月30日以前に店頭販売を目的として,同月10日付けの伝票番号274259号によって,岡山県都窪郡の佐藤綿業株式会社に販売したことが認められる。
(2) 原告は,甲第3号証(タイワンバンブーカーテン社のインボイス)中には「ロールブラインド PI NO.120197」の中に含まれていた取付け金具の種類を特定する記述は一切ない,としている。
しかしながら,甲第5号証(Aの証明書)及び甲第12号証(Aの宣誓供述書)には,上記取付け金具の種類が写真,台湾中華民國専利公告386414号及び取付け説明書によって特定されており,甲第12号証には,「ロールブラインドPI NO.120197」のインボイスが別紙4として添付されている。これらの証拠と甲第3号証とを併せ考慮すると,甲第3号証のロールブラインドに含まれていた取付け金具が甲号意匠に係るものであることを認めることができる。
(3) 原告は,甲第5号証(Aの証明書)及び甲第12号証(Aの宣誓供述書)は,その中の写真に撮影された商品が我が国に輸入されたことを証明するだけで,甲号意匠に係る商品の「取付け指示書」が入っていた事実までは証明していない,と主張する。
しかし,前記Cの宣誓供述書(乙第3号証),Eの宣誓供述書(乙第4号証)及びGの証明書(甲第8号証)と,甲第5,第12号証とを併せ考慮すると,甲号意匠に係る商品の「取り付け指示書」が入っていた事実を認めることができる。
(4) 原告は,1998年2月5日付けで日本国内に輸入されたロールブラインドが,1999年12月7日の撮影時まで在庫として残っていたという証拠はなく,輸入された商品と撮影された商品との同一性,特にその中に付属品として入っている取付け器具と取付け説明書の同一性は証明されていない,と主張する。
しかし,甲第5,第12号証は,写真に撮影された商品そのものが1998年2月5日付けで日本国内に輸入された商品そのものであることを証明しているものではなく,写真で特定される商品が1998年2月5日付けで日本国内に輸入された商品と同一の意匠のものであることを証明しているものであるから,原告の上記主張は,主張自体失当である。
2 取消事由2(冒認の事実の看過)について 原告は,Cが原告の本件意匠を冒認した者である,と主張する。
しかし,上記冒認の事実は,何ら証明されていない。
かえって,Cの宣誓供述書(乙第3号証)によれば,Cが台湾公報公告第386414号の記載の甲号意匠に係る取付け金具を開発した者であり,原告代表者は金具の孔の位置を改良した一人にすぎない者であることが認められる。
当裁判所の判断
1 取消事由1(甲号意匠の公知性についての認定の誤り)について 甲第3号証(1998年2月5日付けインボイス。乙第8号証はその翻訳),甲第5号証(証明願及び証明書),甲第8号証(タイワンバンブーカーテンエンタープライズ株式会社作成の証明書。乙第11号証はその翻訳),甲第9号証(台湾経済部中央標準局作成の書簡。乙第12号証はその翻訳),甲第10号証(台湾経済部中央標準局作成の納付領収書。乙第13号証はその翻訳),甲第12号証(A作成の宣誓供述書)を総合すると,Cは,台湾において,本件意匠登録の出願前である1998年1月8日付けで,甲号意匠を実施例として含むブラケット(ブラインド取付け器具)の特許出願をしたこと,湯川家具は,本件意匠登録の出願前である同年2月に,台湾のタイワンバンブーカーテンから甲号意匠に係るブラケットが付属したロールブラインドを我が国に輸入し,同製品は,そのころ,我が国において,店頭で展示販売されたことを認めることができる。
後記2のとおり,Cの上記特許出願時である1998年1月8日より前に原告の従業員であるDと台湾のスクリーンメーカーのFと,台湾の金型製作業者であるCとの間で,甲号意匠の形状をしたブラケットの製造について協議がなされたことが認められ,この事実によれば,Cは,上記特許出願のころ,甲号意匠に係る製品を台湾において製造,販売していたことを推認することができる。このことは,上記輸入の事実を認めるための有力な支えとなる。
原告は,上記甲第5号証及び甲第12号証の作成者であるAの勤務先である湯川家具は,本件意匠及び別件の登録意匠に関し,原告と係争関係にある会社であるから,これらの証拠の記載内容は,信用することができない,と主張する。しかしながら,仮に,湯川家具が原告と係争関係にある者であるとしても,そのことから,直ちに,甲第5及び第12号証の記載内容を信用することができないと断定することができるものではないことは,いうまでもないことである。
原告は,被告の元代表取締役のBが原告に送付した平成10年8月18日付けの「台湾製新型ブラケット日本国内使用の件」と題する書面(甲第16号証)の「来年度,新規積み込み商品にこのブラケットを新規採用するについて,何ら・・・」との記載によれば,甲号意匠に係る新型ブラケットは,平成10年8月18日の時点では,まだ日本国内に輸入されていなかったことになるというべきである,と主張する。しかしながら,同号証の記載からは,被告が,平成10年8月18日に時点で新型ブラケットを輸入していなかったことが推認されるにとどまり,そのことから,湯川家具も同時点で新型ブラケットを輸入していなかったことを推認することはできない,というべきである。原告の主張が成り立つためには,被告が輸入しない製品は,およそ湯川家具において輸入することはない,ということが認められなければならないが,このようなことは,何ら立証されていない。
他にも上記認定を覆すに足りる証拠はない。
以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(冒認の事実の看過)について 原告は,本件意匠の創作者はD及びFであり,上記輸入された甲号意匠に係る商品は,Cによって,冒認された意匠(台湾公報の公告編號第386414号(1998年1月8日出願。2000年4月1日公告)の第一,第五図に開示された意匠)に基づき製作されたものであるから,甲号意匠は,原告代表者及びFの意思に反して,我が国において公然知られるに至ったものとして,意匠法4条1項の適用により,同法3条1項1号に該当しないものとみなされるべきである,と主張する。
甲第17号証(D作成の「宣誓書」と題する書面),甲第19号証(F作成の「宣誓書」と題する書面),甲第26号証(C作成の書面)中には,D及びFが本件意匠の創作者である旨の,原告の上記主張にそう供述の記載がある。
しかしながら,上記供述記載の内容を裏付けるものとして提出された甲第23号証は,本件意匠とは異なる意匠のブラケットの仕様書であり,甲第24号証(FAX送信状)及び甲第25号証(ブラケット構想図A案及びB案)は,1996年(平成8年)において,ブラケットに不良品が発生したことから,原告が台湾の会社に対し,新しいブラケットについての提案をしたことが記載されているものの,そこに記載されているブラケットの意匠は,本件意匠とは異なるものであることからすれば,D及びFが本件意匠の創作者であることを裏付けるには足りないというべきである。
上記甲第17,第19,第26号証によれば,Cが甲号意匠を実施例として含むブラケットの特許出願をした1998年1月8日より前に,原告従業員のDと,台湾のスクリーンメーカーのFと,台湾の金型製作業者であるCとの間で,甲号意匠の形状をしたブラケットの製造について協議がなされたこと,が認められる。しかしながら,上記3名のうち,誰が甲号意匠の創作者であるかについては,乙第3号証(Cの宣誓書)中には,Cが甲号意匠に係る製品を発明し,上記特許出願(その公告公報は甲第13号証)をした旨の供述記載があり,同記載や,上記3名のうち現実に製品を製作するのはCであること,に照らすと,D及びFだけが甲号意匠ないしこれと類似する本件意匠を創作したとの甲第17,第19,第26号証中の供述記載をにわかに採用することはできない。一般に,複数の者が関与した発明ないし創作について,誰を発明者ないし創作者と認めるべきかについては,認定判断が微妙なことが多く,本件においても,上記各証拠から,甲号意匠の創作者はD及びFであってCではないことを認めるには足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
原告の主張は採用することができず,取消事由2は,理由がない。
3 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき理由は見当たらない。
よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸