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関連審決 無効2000-35606
関連ワード 意匠の実施 /  意匠の創作 /  物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  組物の意匠(8条) /  3条1項3号 /  頒布された刊行物 /  類似する意匠 /  物品の機能 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  全体観察 /  登録意匠 /  類似性(類否判断) /  無効審判 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 373号 審決取消請求事件
原告 タキゲン製造株式会社
訴訟代理人弁護士 浅田千秋
同 水谷高司
同 弁理士 増田守
被告 阪和工材株式会社
訴訟代理人弁理士 杉本丈夫
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/04/25
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2000-35606号意匠登録無効審判事件について平成13年7月13日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、意匠の形態を別紙第一(本件登録意匠図)のとおりとし意匠に係る物品を「貨物トラックの荷台扉開閉用ハンドルの掛金」とする登録第957117号意匠(平成3年12月28日出願、平成8年4月8日設定登録、以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。被告は、平成12年10月31日、本件登録意匠について無効審判を請求した。特許庁は、この請求を無効2000-35606号審判事件として審理し、平成13年7月13日、「登録第957117号の登録を無効とする。」旨の審決をし、その謄本は同年8月2日、原告に送達された。
2 審決の理由 1.本件登録意匠 本件登録意匠は、平成3年12月28日に意匠登録出願し、平成8年4月8日に意匠登録第957117号として意匠権の設定の登録がされたものであり、願書及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「貨物トラックの荷台扉開閉用ハンドルの掛金」とし、その形態を、別紙第一に示すとおりとしたものである。
2.甲号意匠 甲号意匠は、本件登録意匠の出願前の平成3年2月25日に国内において頒布された刊行物である特許庁発行の公開特許公報「平成3年特許出願公開第43576号」(発明の名称を「扉開閉用ハンドルの掛金装置」とする)に記載の第1図ないし第12図及び、これに関連する記載によって示された「扉開閉用ハンドルの掛金」の意匠(以下「甲号意匠」という。)であって、その形態を、別紙第二に示すとおりとしたものである。
3.本件登録意匠と甲号意匠との比較検討 両意匠は、共に、貨物トラックの荷台の観音開き式扉の外表面の下部中央寄りに固定され使用に供されるもので、ロックパイプに一側を回動可能に軸支した扉開閉用ハンドルの中間部を、掛け金レバーのフックの内側にくわえ込んだ形で係合することにより、前記ハンドルを扉閉鎖位置に保持する機能を果たす物品であって、意匠に係る物品が、その機能及び使用目的が同一の物品であって、その形態については、主として以下の共通点及び差異点が存在する。
T すなわち、まず共通点について、
(1) 全体が、トラックの外表面に固定される略縦長矩形状の基台部の前面下方側略4分の3を、略倒縦長四角錐台形状に前方に向かって膨出させ、その上方中央を略縦長形状に切り欠き、その切り欠き部の左右各上端側に凹部を設けて左右1対のハンドル挿入凹部を形成し、切り欠き部にやや長い略縦長長方形板状の掛け金レバーを上下回動自在に枢着し、その前面下方には鍵部を設け、その内部にはスプリング機構を内蔵する本体部とし、基台部の上方略4分の1の面は薄板状のハンドル導入部とした基本的構成のもので、
各部の具体的な態様において、
(2) 略倒縦長四角錐台形状の膨出部は、その頂面を前面に、その底面を後面に、前方に向かって窄まる位置方向に配し、その前面(頂面)は縦幅が横幅の略2倍、その奥行きを、前面の横幅よりやや短いものとし、その外周面は、上面側を正面視水平面状、その余の面(左右側面及び下面)をやや急な斜面状とし、後端側を極細の略垂直面状に面取りしている点、
(3) 本体部の上方中央の略縦長形状の切り欠き部は、その縦幅及び横幅を、本体部前面の縦幅及び横幅に対して各々略2分の1とし、その深さを本体部の奥行きと略同大とする点、
(4) 本体部のハンドル挿入凹部は、側方視本体部上端後面側を方形状に切り欠いた態様である点、
(5) 掛け金レバーは、その前面の縦幅はその横幅の略4倍の大きさで、その前面は左右方向に極緩やかな弧面状で、その上端面の後方側は後方に向かって下がる斜面状とし、上方後方側に側方視略矩形状の凹部を設けハンドル噛み部を形成し、
上下略中央位置で本体部切り欠き面内周に枢着され、その前面は、本体部前面と略面一致状に滑らかに連続し、その上端は本体部上端より上方に、その全長の略5分の1が突出し、枢軸を支点として回動するもので、ハンドル噛み部と本体部のハンドル挿入凹部は、側方視方形状の貫通孔状に現れる点、
(6) 基台部の背面側は、側方視垂直線状に現れる点、
(7) ハンドル導入部は、内方側より外周縁に向かって徐々に薄板状となる極緩やかな斜面状である点、
(8) 鍵部は、本体部前面下方に、外周輪郭を小円形として取り付けられている点、が認められる。
U 一方、差異点として、各部の具体的な態様において、
(イ) 本体部及び掛け金レバーの前面の側方視の態様につき、本件登録意匠は、垂直線状であるのに対して、甲号意匠は、上下端から中央部にかけて僅かに前方に膨出する弧状である点、
(ロ) 本体部の下面につき、本件登録意匠は、正面視その下辺側稜線が水平線状で、その斜面状の外周面が左右の斜面状の外周面と同幅同型斜面であるのに対して、甲号意匠は、正面視その下辺側稜線が緩やかな曲線状で、その斜面状の外周面は左右の斜面状の外周面より幅狭急斜面である点、
(ハ) 本体部の前面下方につき、甲号意匠は、上方の面に比して僅かに低い段落ち面状であるのに対して、本件登録意匠は段落ち面状ではない点、
(ニ) 本体部の中央の切り欠き部に対する掛け金レバーの装着態様につき、本件登録意匠は、その切り欠き部の下方部分がやゝ幅広となって掛け金レバーと僅かな隙間を生じさせているのに対して、甲号意匠は、全長同幅で幅広部分が設けられていない点、
(ホ) 掛け金レバーにつき、本件登録意匠は、正面視上下同幅であるのに対して、甲号意匠は、正面視上方部分が先細状である点、
(ヘ) 鍵部の位置について、本件登録意匠は、本体部前面下方の余地部の左右中央に設けられているのに対して、甲号意匠は、右寄り部位に設けられている点、
(ト) ハンドル導入部の前面形状につき、本件登録意匠は、本体部の横幅より幅広の角丸横長形状で、縦に直線状の3本の筋模様が表れているのに対して、甲号意匠は、上方に向かって本体部の横幅より斜状に狭まる略台形状で、筋模様を有さない点、
(チ) 取付けのためのボス孔につき、本件登録意匠は、基台部の本体部上端左右際に各1個、鍵部の下方に1個設けられているのに対して、甲号意匠は、基台部の本体部上端左右際に各1個、鍵部の下方左右端に各1個設けられている点、
が認められる。
V そこで、上記の差異点と共通点について検討する。
まず、差異点については、(イ)の点は、側方から観察すると、確かに感得される差異であるが、両意匠はともに面一致に連続して左右方向に極緩やかな弧状の膨出面状を呈することから、正面及び斜め方向から観察すると強い差異感をもたらすものでなく、共通点(2)ないし(5)に比して、その差異感が薄められるところの膨出面における上下方向の僅かな膨出態様の有無にすぎないもので、微弱な差異にすぎず、
(ロ)の点は、この部分のみを注視して観察すると確かに認識される差異であるが、共に左右隅を丸角状とし、その間の狭い部分における差異でもあって、この差異によって本件登録意匠に独特の特徴を与えるほどのものではなく、全体の共通点(2)に比して、部分的な、微弱な差異にすぎず、
(ハ)の点は、狭い部分における僅かな段差の有無にすぎず、この差異によって本件登録意匠に独特の特徴をもたらしているとまでいえるものでなく、共通点(2)ないし(5)及び(8)の中に埋没する微弱な差異にすぎず、
(ニ)の点は、極微細な部分の態様における、微弱な差異にすぎず、
(ホ)の点は、掛け金レバーの上方部分のみを注視して比較すると、確かに差異点といえるものであるが、掛け金レバー全体としてみれば大差といえるものではなく、さらに形態全体としてみれば極狭い部分における微弱な差異にすぎず、
(ヘ)の点は、僅かな位置の違いにすぎず、概ね同部位に配置されている同大同形のもので、微弱な差異にすぎず、
(ト)の点は、本件登録意匠の3本の縦筋模様もその凹凸はないもので、ともにハンドルを誘導し滑らかに下方のハンドルの噛み部及びハンドル引掛部に挿入されるための導入部として本体部の上方に延設状に設けられ、その外周端に向かって漸次薄く形成されている斜面状の板状部で、トラックの荷台の外表面に取り付けられる使用状態時においては、そのトラックの外表面に滑らかに連続して略一体化するもので、ハンドルを誘導し滑らかに下方のハンドルかみ合わせ部に挿入される導入部として当然に形成される滑り板状の態様で、その略下半部分は、挿入されるハンドルの奥に隠れてしまうものでもあって、全体の共通点(1)ないし(8)に比して、微弱な差異にすぎず、
(チ)の点は、ごく小さな部分の態様の差異にすぎず、また造形的にみて従たる付随的なものであり、微弱な差異にすぎない。
W 以上のとおり、各差異点は、いずれも微弱な差異にすぎず、両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。そして、これらの差異点を総合したとしても、いまだ両意匠の類否判断を左右するほどのものとなり得ない。
これに対して、前記共通点については、(1)の点は、全体の基本的な構成態様であって、形態全体の骨格及び基調を決定付けており、本件登録意匠に先行する同種物品の意匠には類似の機構及び形態を有するものが見られない特徴的な態様であって、その類否判断に及ぼす影響は、極めて大きいもので、その具体的な構成態様の(2)ないし(8)の点も、両意匠において主要部の具体的な態様の共通点であって、
その類否判断に与える影響は、大きいものであって、これらの共通点が相俟って生じる意匠的効果は、両意匠の形態の大部分を占め、両意匠の形態上の基調を決定づけ看者の注意を強く惹くところで両意匠の類否の判断を左右する支配的な要素と認められる。
以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においても、
共通点が両意匠の類否判断を左右する要素を構成し、差異点を凌駕しているものであるから、意匠全体として類似するものというほかない。
X したがって、本件登録意匠は、意匠法3条1項3号に規定する意匠に該当し、同条の規定に違反して意匠登録されたものであり、同法48条1項1号に該当し、無効とすべきものである。
原告主張の審決取消事由
1 認否 本件登録意匠と甲号意匠が、その意匠に係る物品の機能及び使用目的において同じであること、また、その形態において審決が認定したとおりの共通点(1)ないし(8)及び差異点(イ)ないし(チ)を有することは認める。
2 本件登録意匠と甲号意匠の類否判断の誤り(取消事由) (1)共通点は公知・周知の形状であること(第1点) 審決が本件登録意匠と甲号意匠の共通点であると認定した、基台部と膨出部と掛け金レバーよりなる基本的構成態様は、この種物品の本来の機能を達成するために、また、製品各部の機械的強度を確保しながら製品の材料コストを節減するために、この種物品について必然的かつごく普通に採用される程度の構成であるにすぎない。このように普通に採用され、よく見受けられる形態は、看者の注意をさして惹くことのないものであり、意匠の類否判断において支配的要素とならない。したがって、上記形態において共通点があっても、本件登録意匠が直ちに甲号意匠に類似するということにならない。
審決が共通点として指摘した基本的構成態様の大部分は、甲号意匠が創案された当時、既に公知ないし周知であった。したがって、共通点(1)についての審決の判断、「(1)の点は、全体の基本的構成態様であって、形態全体の骨格及び基調を決定付けており、本件登録意匠に先行する同種物品の意匠には類似の機構及び形態を有するものが見られない特徴的な態様であって」は、その前提を欠き、「その類否判断に及ぼす影響は、極めて大きい」という結論も誤っている。同様の理由により、
具体的構成態様の(2)ないし(8)についての判断も、誤っている。
(2)本件登録意匠の意匠設計上の主眼点(第2点) 原告は、この種物品の意匠分野における「基台部と膨出部と掛け金レバーからなる本件登録意匠の基本的構成態様は公知ないし周知の形態である」との前提認識のもとに、具体的構成態様において先行意匠と顕著な差異を生じさせることを主眼点として、意匠設計を行い、掛け金レバーの上方後方側凹部と、基台部上面のハンドル導入部について、意匠設計に工夫を凝らし、また、審決で差異点と認定された箇所の意匠設計にも相応の配慮をしたものである。
本件登録意匠では、上記設計方針に基づき、ハンドル導入部は、本体部の横幅より幅広の角丸横長長方形状であり、このハンドル導入部の左右両肩部が本体部の左右側面の延長線より外側に張り出していることによって、本体部の正面視における全体形状は、上辺部が下辺部に比較して明らかに長く、尻窄まりとなった下向きに凸の角部が丸められた六角形状となっている。このように、本件登録意匠では、この種物品の意匠ではその類否判断を左右する支配的要素となるハンドル導入部について、独創的な意匠設計を施している。
これに対し、甲号意匠では、ハンドル導入部は上に向かうほど横幅寸法が減少していく先細り台形状に形成されており、そのため、本体部の正面視における全体形状は、上辺部に比較して下辺部が明らかに長く、各角部に丸みをもたせた上向きの凸の六角形状となっている。甲第3号証のカタログの公知意匠も、ハンドル導入部は、甲号意匠と同様に、先細り台形状に形成されている。
このように、本件登録意匠は、公知意匠及び甲号意匠とは正反対の発想により、
ハンドル導入部を本体部の横幅よりも幅広に形成したものである。
(3)本件登録意匠と甲号意匠の美感上の差異(第3点) 本件登録意匠は、その形態により、バイソン(野牛)の顔を抽象化したようなビジュアルなデザインイメージが生ずる。これに対し、甲号意匠では、バイソンの顔を抽象化したイメージは全く感得されない。このように、両意匠は、美的印象において顕著な差異があり、非類似である。
(4)審理不尽(第4点) 審決は、原告が主張した上記(2)の全体観察による差異や上記(3)のデザインイメージの違いについて判断していない。この点において、審決には審理不尽ないし判断の遺脱がある。
(5)両意匠の類否 以上のとおり、両意匠の共通点は、この種物品の機能達成上普通に採用されている基本的構成態様であって、この種物品の分野ではよく見受けられるものであり、
看者の注意をよく惹かないところであるから、両意匠の類否判断を左右する要素ではない。これに対して、ハンドル導入部は、基本的構成態様における構成の共通性からともすれば起きやすい自他製品の誤認混同の可能性をうち消すために、種々の創作的工夫が凝らされるところであり、看者の注意をよく惹くところであり、このような具体的構成態様における構成の異同は、意匠の類否判断を大きく左右する。
両意匠は、ハンドルの挿入操作に際してよく注視されるところであり類否判断を左右する支配的要素となっているハンドル導入部の具体的構成態様において顕著に相違しており、美的印象に大きな相違が生じるのであるから、意匠全体として観察すると、互いに非類似であるといわざるを得ない。被告は、ハンドル導入部は、ハンドル掛金の使用時には下半分がハンドルによって隠れてしまうものであるから、本件登録意匠の要部とならないと主張するが、扉が開放されているときはハンドルは掛金から取り外されているのであるから、ハンドルが挿入されている状態だけを重視して類否判断をすることは許されない。
以上のとおり、意匠全体としてみると、本件登録意匠においてはハンドル導入部こそが意匠の要部であり、甲号意匠との対比においてハンドル導入部に独創的は意匠設計を施している本件登録意匠は、甲号意匠とは非類似である。
よって本件登録意匠が意匠法3条1項3号に規定する意匠に該当するとして、本件登録意匠の登録を無効とした審決は誤りであり、取り消されるべきである。
被告の反論の要点
1 本件登録意匠と甲号意匠の共通点は、両意匠の差異点をはるかに凌駕し、意匠全体として両意匠が類似するとした審決の判断に誤りはない。
2 原告の主張に各個に反論する。
(1)原告主張の第1点に対して 本件登録意匠の意匠登録出願日の前に、この種物品(ハンドル掛け金)において普通に採用されていたものは、乙第1号証ないし乙第7号証に記載されているような形態のものであって、審決が共通点として認定した(1)の基本的構成態様及び(2)ないし(8)の具体的構成態様を備えたものは、乙第7号証(平成3年6月10日発行の雑誌「コマーシャルモーター」)に表された日本フルハーフ株式会社のハンドル掛け金(甲号意匠のハンドル掛け金)を除いて、全く見ることができない。
上記日本フルハーフ株式会社のハンドル掛け金(甲号意匠)は、平成3年に発行された特殊車及び商業車に関する代表的な総合誌である「コマーシャルモーター」に初めて登場していることから、平成3年の始めころより販売され出したものであることが分かる。したがって、甲号意匠は、原告の主張するような「周知性を獲得したありふれた意匠」ではない。
(2)同第2点に対して 本件登録意匠と甲号意匠の共通点を備えたハンドル掛け金は、上記(1)のとおり、「ありふれた形態」にはなっていないのであるから、原告の主張はその前提において失当である。
意匠設計者が意匠に係る物品の創作に際して、美感のみならず、機能やコスト削減等を考慮することは当然であり、その結果、同一機能を備え且つ同一用途に供するハンドル掛け金であっても、乙第1号証ないし第6号証及び乙第7号証(ただし甲号意匠掲載頁を除く)に示されるような形態の異なる他種類のハンドル掛け金が創作されることになるのである。ハンドル掛け金を創作すれば当然に審決が認定した共通点である基台部と膨出部と掛け金レバーを有する基本的構成態様のものとなる、という原告の主張は誤っている。なお、甲第3号証(フランスのポミエ社のカタログ)に記載されたものは、甲号意匠や本件登録意匠と共通の構成態様を有するものではないので、共通点に係る基本的構成がありふれたものであるとの原告主張を支持するものではない。
原告は、「本件登録意匠の基本的な構成は公知ないし周知の形態である」との認識を前提として「ハンドル導入部の具体的形態の意匠設計に工夫を凝らした」と主張するが、そもそも本件登録意匠の基本的構成態様(共通点)を備えた「ハンドル掛け金」は周知の意匠ではないのであるから、ハンドル導入部の形態に本件登録意匠の特徴ないし独創性があるとの主張は、失当である。
原告は、ハンドル導入部の具体的構成態様の違いにより、基台部の正面視における全体形状が、本件意匠では「尻窄まりとなった下向きに凸の六角形状」であるのに対して、甲号意匠では「下向きに角部が丸められた、上向きに凸の六角形状」であると主張するが、六角形状とすることは明らかに無理があり、審決認定のとおり、両者とも略縦長矩形状というべきものである。
この種「ハンドル掛金」の基台部は、金属製の平板状の扉の外表面にねじ等によって固定される。したがって、扉体への固定の安定性を確保する必要から、平盤状であること及びある程度の大きさ(接触面積)を有する四角状又は矩形状であることが望ましい形態となるのであり、従来から、扉に取付固定する「ハンドル掛金」の基台部の多くは、正面形状が矩形状に形成されている。したがって、公知の基台部の形状を、本件登録意匠のようにハンドル導入部の横幅寸法を基台部中央部よりも大きくした矩形状に変更することには何らの創作性も要しない。逆に、原告の主張からすると、原告は日本フルハーフ株式会社のハンドル掛金(甲号意匠)の基台部の正面形状のみを若干変更することによって、本件登録意匠に係る物品を製作したとも想定することができるのである。
(3)同第3点(美的印象の差異)に対して 争う。
(4)同第4点(審理不尽)について 争う。
(5)両意匠の類否 両意匠の共通点である基本的構成態様は公知ないし周知の形状であるからその部分を除いて基台部(原告のいう本体部)の一部であるハンドル導入部を意匠の要部、すなわち類否判断を大きく左右する支配的要素としてみるべきである、という原告の主張は、誤っている。
なお、本件登録意匠には2つの類似意匠(乙第9、第10号証)が付随しているが、三者はいずれも審決が認定する基本的構成態様(共通点)を各々備えているものの、原告が意匠の要部であるというハンドル導入部の具体的構成形態は各々異なるものである。ハンドル導入部の形態が種々のものが本件登録意匠の類似意匠として登録されたという事実からも、本件登録意匠の要部は、審決のいう基本的構成形態(共通点)にあることは明白である。
また、ハンドル導入部は、本件登録意匠に係る物品の使用時にはその下半分がハンドルによって隠れてしまうものであるのに対し、ハンドル掛け金の基本的構成態様(共通点)の部分は使用中常時外部から見ることのできるものであり、この点からも、ハンドル掛け金の基本的構成態様(共通点)の方が本件登録意匠の要部であるということができる。
審決は、全体観察をベースにしながら差異点と共通点が各々意匠全体に占める重要性を対比し、両意匠は類似するとしたものであり、その認定判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件登録意匠に係る物品、本件登録意匠の形態、甲号意匠の形態及び本件登録意匠と甲号意匠の一致点及び差異点は、審決の認定するとおりであり、これらの点については原告も争わないところである。
2 原告は、審決が両意匠の共通点であり、両意匠の類否判断を左右する支配的要素であると認定した基本的構成態様(共通点(1))は、本件意匠登録出願当時、周知の形態であり、また、この種「ハンドル掛金」について必然的かつごく普通に採用される程度のありふれた形状であると主張するので、まず、この点について検討する。
(1)証拠及び弁論の全趣旨によれば、@甲号意匠は、日本フルハーフ株式会社が平成1年7月11日に特許出願した平成1年特許出願第177177号の公開公報(特開平3-43576号公報、乙第1号証)の図に表されたものであること、
A特殊車及び商業車に関する代表的な業界誌の一つと認められる「コマーシャルモーター」の平成3年6月10日発行号(「臨時増刊号 ’91商業車セールスガイド」、乙第7号証)には、各種車両の写真が掲載されており、その中の日本フルハーフ株式会社の製品を掲載したページ(514頁、597頁)には、車両を撮影した写真中に甲号意匠の実施品であるハンドル掛け金が写っているが、同じ雑誌の平成2年12月10日発行号(「臨時増刊号 ’91 商業車・特装車 車体関連製品ガイド」、乙第6号証)には、甲号意匠の実施品とみられるハンドル掛け金は見当たらないこと、B日新工業株式会社開発課作成の1989年(平成1年)10月24日付け試験報告書(乙第13号証の1ないし4)には、甲号意匠の実施品と認められる品番1143-322-1号のハンドル掛け金について行われた破壊強度試験の報告が記載されていること、C同社において平成3年3月23日付けで甲号意匠の実施品と認められるハンドル掛け金の製作図面(図番1143-355)が作成され(乙第14号証の1、同図右肩に表示された図面経歴には「マーク位置変更 89・12・25」、「品番変更及び1143-355-02追加 90・3・17」の記載がある。)、また、同じ製品を表した図面(図番1143-410)に1991年2月27日付けで日本フルハーフ株式会社の承認印が押されていること、以上の事実が認められる。以上の@ないしCに認定の事実からすると、甲号意匠は、これを実施したものと認められるハンドル掛け金が日本フルハーフ株式会社製の車両に取り付けられて市場に供給されており、同ハンドル掛け金を装備した車両が本格的に販売され出した時期は必ずしも明らかではないが、前掲各証拠から判断して、平成3年(1991年)の始め頃と推認され、少なくとも、それ以前に大きく遡ることはないと認められる。なお、原告は、トラックの総合情報誌である業界紙「月刊ニュートラック」の平成1年11月25日発行号(甲第6号証)に掲載された日本フルハーフ社製のバン型車両の写真に甲号意匠の実施品であるハンドル掛け金が写っていると主張するが、同写真からはハンドル掛け金の形状を明確には特定し難いうえ、仮に写っているものが甲号意匠の実施品であるとしても、写真はそのころ開催されたモーターショーに出品された車両を撮影したものであると認められることから、それ以前に、甲号意匠の実施品が大量に市場に供給されていたことを示すものとはいい難く、甲号意匠の実施品を装備した車両が本格的に販売され出した時期が平成3年(1991年)の始め頃より前に大きく遡ることはないとの上記認定を左右するものではない。
そして、以上に認定した日本フルハーフ社製ハンドル掛金の販売開始時期及び本件登録意匠の出願(平成3年12月28日)までの販売期間(仮に販売開始時期が平成1年後半としても、約2年余である。)、平成2年末の時点では業界誌である「コマーシャルモーター」の各種商業車を紹介した臨時増刊号「’91商業車セールスガイド」にも甲号意匠の実施品が表れていないこと、及び同誌平成3年6月発行号に掲載された各種貨物車両の写真をみると同時期に甲号意匠とは形態を異にする多品種のハンドル掛け金が使用されていることなどを総合すると、甲号意匠の実施品である日本フルハーフ社のハンドル掛け金は、原告主張のように「ハンドル掛け金の市場を席捲していた」とまでは認めることができない。
したがって、甲号意匠は周知となっており、その基本的構成態様がありふれた形態と認識される程度にまで至っていたという原告の主張は、採用することができない。
また、原告は、甲号意匠と本件登録意匠の共通点とされた基本的構成態様は、ハンドル掛金の機能上当然に採用されるありふれた形態にすぎない旨主張するが、乙第7、第8号証の雑誌(「コマーシャルモーター」)に掲載された写真や貨物自動車の扉開閉用ハンドルについてなされた各種発明・考案(乙第2号証ないし乙第5号証)の例を見ても、ハンドル掛金には甲号意匠と異なる各種の形態のものが存在したことが窺われるのであって、両意匠に共通する基本的構成態様をありふれた形態と認めることはできない。むしろ、前示各証拠に照らすと、甲号意匠の基本的構成態様は、先行する同種物品の意匠には類似の機構及び形態を有するものが見られない特徴的な態様であるということができる。
したがって、両意匠の共通点に係る基本的構成態様が看者の注意を惹かない「ありふれたもの」であるとする原告の主張も、採用することができない。
3 以上の認定を前提として、本件登録意匠と甲号意匠の一致点及び相違点について検討評価する。
審決は、本件登録意匠と甲号意匠の各差異点は、いずれも微弱な差異にすぎず、
意匠の類否判断に与える影響は微弱であり、これらの差異点を総合してもいまだ両意匠の類否判断を左右するほどのものとなり得ないのに対し、両意匠の共通点である基本的な構成態様(共通点(1))は、形態全体の骨格及び基調を決定付けており、本件登録意匠に先行する同種物品の意匠には類似の機構及び形態を有するものが見られない特徴的な態様であって、その類否判断に及ぼす影響は、極めて大きいうえ、具体的な構成態様における共通点(2)ないし(8)も、両意匠における主要部の具体的な態様の共通点であってその類否判断に与える影響は大きく、これらの共通点が相俟って生じる意匠的効果は、両意匠の形態の大部分を占め、両意匠の形態上の基調を決定づけ看者の注意を強く惹くところで両意匠の類否の判断を左右する支配的な要素と認められる、との理由により、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、
形態においても、共通点が両意匠の類否判断を左右する要素を構成し、差異点を凌駕しているものであるから、意匠全体として類似する旨判断した。
この審決の認定、判断は、両意匠の相違点の認定、評価及び全体観察に基づく類否判断の結論及びその理由付けのいずれについても、本件各証拠に照らし相当なものであり、これを是認することができる。
4 原告は、本件登録意匠は、そのハンドル導入部の形態に特徴があるもので、
ハンドル導入部の形態に工夫を凝らすことにより、意匠全体として「バイソンの顔」をイメージさせる印象を作出しているものであり、ハンドル導入部の形態はこの種「ハンドル掛金」の周知の形態ないしありふれた形態(甲号意匠と共通する基本的構成態様)を前提としたときに、最も注意を惹く部分であって、本件登録意匠の要部である旨主張する。
原告のこの主張を考慮して本件登録意匠を見ると、なるほど正面図からは、人間、ロボットあるいは動物の顔面を想起させる印象を受けないでもないが、そのような指摘がなければ、本件登録意匠の看者が一般に甲号意匠と大きく異なる特定の印象(例えば、原告の主張するバイソンの顔をイメージさせる印象)を受けるとまでは認めることができない。そして、両意匠に共通する基本的構成態様を周知のありふれた形態であるということができないことは、前示のとおりである。さらに、
「ハンドル掛金」の使用態様を考えると、ハンドル導入部は「ハンドル掛金」を扉に取り付けるための基台部の一部を構成しているものであって、扉へ取り付けた後は扉とほぼ一体状となって認識されることになり、とりわけ大きな意匠的効果を奏するとは考え難い。しかも、一般に、平面状の扉にハンドル掛金を取り付ける基台部がほぼ平板状となることは見やすい道理であり、その平面形状として矩形を採用し、あるいは、矩形を若干変形させたものを採用することに格別の意匠的創意を要するとは認め難く、むしろ、両意匠に共通する基本的構成態様を備えたハンドル掛金において、平板状の基台部の平面形状は、機構変更や機能上の支障を生じることなく形状変更することが最も容易なところであると考えられる。そして、本件登録意匠の基本的構成態様を前提として、ハンドル導入部の平面形状を、基台部の本体部よりも横幅の大きい角丸横長長方形状としたことを特に独創的な意匠設計とまで評価することはできない。
以上の理由により、ハンドル導入部の正面形状が甲号意匠と相違しているという点に本件登録意匠の創作性があると認めることは困難であり、両意匠は、全体として観察すると、共通点が差異点を凌駕しているものであって、類似する意匠というべきである。
結論
以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき理由は見いだせない。よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実
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