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関連審決 審判1999-15615
関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 213号 審決取消請求事件
原告 小岩金網株式会社
訴訟代理人弁理士 山口朔生、河西祐一
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 伊勢孝俊、藤木和雄、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/28
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第15615号事件について平成13年3月26日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成10年8月10日、意匠に係る物品を「金網」とし、形態を次頁本願意匠に示す意匠(本願意匠)につき意匠登録出願をしたが(平成10年意匠登録出願第23043号)、平成11年8月20日拒絶査定があったので、平成11年9月20日審判請求をしたが(平成11年審判第15615号)、平成13年3月26日、本件審判請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は同年4月11日原告に送達された。
本願意匠 2 審決の理由の要点 審査において拒絶の理由に示した引用公知意匠は、「特許庁資料館所蔵(受入昭和37年10月11日)の外国雑誌“Architectural Design”1962年7月号第A-70頁所載の写真版によって現されたRibbon Wireworkの意匠(特許庁意匠課公知資料番号第3811343号)であって、その形態は次のとおりのものである。
そこで、本願意匠と引用公知意匠を比較すると、両意匠は意匠に係る物品が一致し、その形態については、細幅な帯板を二本で一組の帯体とし、この複数本の帯体(審決は「帯体三本」と説示したが、
本訴において被告は「複数の帯体」との説示に訂正した。この点につき原告は特に争っていない。)を縦横それぞれ平行に相対し、かつ、等間隔に編組みして全体をいわゆる「井桁格子」に表した基本的な構成態様が共通し、具体的な態様においても、帯体は、二本の帯板をわずかに間隔を開けて平行に配したものとし、この帯体を縦横交互に編組みして、中央を正方形の極小空間部、該周囲の上下、
左右を細い長方形の、四隅を正方形の空間部とした態様を一単位とし、これらを四方へ連続して形成し、各交差部は、正背面側にわずかに隆起した態様の織金網とした点が共通する。
他方、@本願意匠は、交差部が垂直に隆起しているのに対し、引用公知意匠は、緩傾斜に隆起している点、A本願意匠は、帯板の幅を中央の空間部の一辺の約1/3としているのに対し、引用公知意匠は、約1/5としている点に差異が認められる。
そこで、上記の共通点及び差異点を総合し、両意匠の類否を意匠全体として観察すると、前記に共通するとした細幅な帯板二本を一組として井桁格子に編組みした織金網の基本的な構成態様及び具体的な態様は、ごくありふれた態様ではあるが、これが形態全体に及び、両意匠の形態上の特徴を顕著に表出しているところであり、形態全体の基調を形成し、類否判断を左右する支配的要素を成すところと認められる。
これに対し、差異点である@の交差部の隆起については、共に細幅な帯板二本を一組にした帯体を、いわゆる「井桁格子」に編組みしたという共通する態様の中での交差部を垂直に隆起したか否かの差異であり、その本願意匠の隆起の高さもごくわずかであること、また、金属板等を交差して編組みする場合に従来よりみられる態様であることを勘案すると、原告代理人が主張するように本願意匠独自の特徴とすることともできず、両意匠の共通感を覆すほどの別異感を惹起させるものともいえない。
したがって、この差異によって類否判断が左右されるものではない。Aの帯板の幅についても、本願意匠の帯板が引用公知意匠に比較して、やや太いものであるとしても、形態全体からみれば、両意匠の共通する印象に影響を与えるものではない。
そうして、これらの差異点が相まって表出する相乗効果を勘案しても、両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
以上のとおり、両意匠は意匠に係る物品が一致し、形態においても共通点が差異点を凌駕するものであるから、本願意匠は引用公知意匠に類似することを免れない。
したがって、本願意匠は意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。
原告主張の審決取消事由
別紙(原告主張の審決取消事由)に記載のとおり、本願意匠は引用公知意匠に類似するものではなく、これに反する審決の認定、判断は誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
別紙(審決取消事由に対する被告の反論)に記載のとおり。
当裁判所の判断
1 原告が取消事由として主張するところは、要するに、本願意匠は以下の点において、従来の金網にはない斬新な、装飾性の極めて高い、新しい金網であって、意匠法第3条第1項第3号に該当しないとするものである。
1.「井桁格子」の範囲から逸脱している。
2.引用公知意匠のような「緩傾斜」部分が存在しない。直線だけで構成してある。
3.一定間隔で素材の幅にリズミカルな変化が見られる。
4. 特異な隆起部が一定間隔で存在する。
5.機能的な金網では素材の幅の影響は大きく、幅の相違が異なった印象を与える。
2 上記1.について判断するに、原告は、本願意匠は特殊な変形を加えているから、井桁格子の範囲を超えている旨主張するが、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば、帯板の間隔は、使用の状況に応じて適宜変更される程度のありふれた手法による間隔にすぎず、また、空間部の態様についても同様であり、さらに、
各交差部についても、帯板を縦横交互に編組みしたことにより表れる一般的な態様にすぎず、さらにまた、帯板を縦横交互に編組みすることもそれらを四方に連続することも、ごく普通に行われるところであると認められるのであって、特殊な変形が加わっているということはできない。
なお、原告は、拒絶理由にない井桁格子という発想を持ち出した審決は違法であると主張するが、審決は、本願意匠と拒絶理由で示した引用公知意匠とを比較検討するに際して、両意匠に共通する構成態様としていわゆる井桁格子の比較基準に言及しているものであり、新たな拒絶理由が示されているものでない。原告の上記主張は理由がない。原告の準備書面中には、引用文献(「特許庁資料館所蔵(受入昭和37年10月11日)の外国雑誌“Architectural Design”1962年7月号第A-70頁所載の写真版)が不鮮明であり、意匠の形態が特定しないとの主張部分も存するが、引用文献からは、意匠の形態を十分に特定することができ、審決が、そこに記載の意匠をもって引用公知意匠とした点に誤りはない。
3 前記1の2.の緩傾斜の点について判断するに、引用文献の記載全体によれば、
引用公知意匠は、縦横の略帯状材が普通に上下に交差し、その交差部に格別特異な態様が見られないものと認められ、その略帯状材はそれほど厚みのない帯板状のものと認識されるのであり、その交差部もごく普通の隆起状と認識される。そして、その編組みされた態様は、縦横の帯板をそれぞれ2本一組で井桁とし、かつ、格子に編組みしたものと認められるから、いわゆる井桁格子に編組みしたということができ、緩傾斜が形成されているものと認めることができる。
本願意匠も、縦横の帯板をそれぞれ2本一組で井桁とし、かつ、格子に編組みしたという点で、引用公知意匠と共通し、帯板という厚みの薄い縦横材が密着して交差している態様であるから、その交差部は、形態全体から観ると、その部分を特に注視してみた場合に、ようやく気付く程度であって、格別目立つとはいうことはできない。原告は、本願意匠は直線の組み合わせであると主張するが、部分的な差異を捉えて述べるにすぎないものであり、原告主張に係る本願意匠と引用公知意匠との差異は、
微細な部分の傾斜が、より緩いかより急かという程度のごくわずかな差異にすぎず、
両意匠を別異とするほどの差異を生ずるものではない。
4 前記1の3.の素材の幅について判断するに、本願意匠の正面図において、縦材と横材が交差する部分ごとに素材の幅に変化が見られるが、これは、作図上における線の表現であり、縦横材の幅そのものに変化はないことが、本願意匠の「分解した状態の参考図」から明らかであり、格別顕著な特徴を有するともいい難いものであるから、この幅の変化が見られるという点は、全体の印象に大きな影響を与えるとはいい難い。
また、原告主張に係る図面上の「ずれ」も、板厚の分、すなわち他方(縦材においては横材、横材においては縦材)の幅の10分の1程度にとどまるものであって、形態全体から観れば、微細なものにすぎず、井桁格子に編組みしたという、本願意匠及び引用公知意匠との間の共通感を覆すほどの別異感を惹起させるものということはできない。
5 前記1の4.の隆起部の点について判断するに、原告は、本願意匠は、交差部に別の鋼板を取り付けたような印象を与え、格子模様+卍模様の印象を与えるなどと主張するが、交差部については帯板の板厚程度の部分が隆起している程度を越えるものではなく、格別目立つとはいえないものであって、ごく普通に見た場合に、原告主張のような印象を与えるものと認めることはできない。したがって、原告主張の上記の点をもって、本願意匠と引用公知意匠とを別異のものとするほどの差異を生じさせるものとは認めることはできない。
6 前記1の5.の素材の幅の相違の点について判断するに、素材の幅を金網の目の大きさの幅と比較してみると、本願意匠は、約3分の1であるのに対し、引用公知意匠は、約5分の1であると認められ、形態全体から観れば、ごくわずかな差異にすぎないものと認められる。また、乙第6号証(実開昭55-23751号)の第3図及び実開昭56-87235号(乙第4号証)の第3図、第5図によれば、金網の素材の幅を各種表したものが知られていることが認められ、本願意匠のその幅も、格別顕著な特徴のある幅であると認めることもできず、井桁格子に編組みしたという、両意匠の共通感を覆すほどの別異感を惹起させるものということはできない。
7 以上説示したところ以外に、本願意匠が引用公知意匠との対比において意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するものであることを左右すべき事由は認めることはできず、本願意匠が同号に該当するものとして意匠登録を受けることができないとした審決に誤りがあるものとは認められない。
結論
よって、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成14年2月7日口頭弁論終結)
追加
別紙(原告主張の審決取消事由)1「井桁格子」が基本態様か?(1)「井桁格子」の意味は?審決でいきなり「井桁格子」という発想が出現した。
拒絶理由にも、拒絶査定にも存在しなかった発想である。
拒絶理由でも、拒絶査定でも、「刊行物記載の意匠に類似する」というものであった。
ところが審決ではこれまで存在しなかった「井桁格子」が出現し、かつ審決で重要な部分を占めている。
すなわち審決では、本願意匠と、特許庁意匠課公知資料番号第3811343号(引用公知意匠)とが「全体をいわゆる「井桁格子」に表した基本的な構成態様が共通し」、「交差部の隆起については、共に細幅な帯板二本を一組とした帯体を、いわゆる「井桁格子」に編組したという共通する態様の中で」と記載してある。
このような重要な要件である「井桁格子」の発想に対する反論の機会を与えずになした拒絶審決は違法である。
(2)本願意匠は「井桁格子」の範囲から逸脱している。
上記したように審決では、まず全体をいわゆる「井桁格子」に表した基本的な構成態様が共通している、とした。その上で、次のような記載が続いている。
すなわち「具体的な態様においても、
@帯体は、二本の帯板をわずかに間隔を開けて平行に配したものとし、
Aこの帯体を縦横交互に編組みして、
B中央を正方形の極小空間部(とし)、
C該周囲の上下、左右を細い長方形の(空間部とし)、
D四隅を正方形の空間部とした態様を一単位とし、
Eこれらを四方に連続して形成し、
F各交差部は、正背面側にわずかに隆起した態様の織金網とした点が共通する。」ここにあげた@〜Fまでの特殊な変形が加わっているにもかかわらず、本願意匠が「井桁格子」とどこが「共通する」のか?これだけの特徴があれば、少なくとも本願意匠は「井桁格子」の範囲から逸脱していることは明らかである。
すなわち本願意匠は、「井桁格子」の概念には含まれない、全く別個の独立したカテゴリーを形作っているのである。
したがって審決において「井桁格子」に関する記載は誤りである。
2「緩傾斜」部分が存在するか?(1)「緩傾斜」部分が一切存在しない。
本願意匠には「緩傾斜」が一切存在しない。
すべて「直線」の組み合わせである。
すべて直線の組み合わせであるために、本願意匠は「男性的」「剛直さ」「力強さ」を感じさせる。
(2)引用公知意匠は「緩傾斜」。
引用公知意匠は帯板交差部に「緩傾斜に隆起」していると記載してある。
交差部分が緩傾斜を形成している引用公知意匠は全体としてなだらかな印象を持つ。
したがって、引用公知意匠は「女性的」「柔軟さ」「優しさ」を感じさせる。
3素材の幅に変化はあるか?(1)本願意匠の素材の幅本願意匠の素材の幅は同一には見えない。
実際の素材の幅は同一なのであるが、一定の間隔をおいて幅の広い部分が形成してあるように見える。これが交差部である。
交差部が幅広に見えるのは、なぜか?交差部において素材を、素材の厚さに等しい深さで直角に折り曲げ、四角い隆起部を形成してあるからである。
この隆起部の外幅は、素材の幅に素材の板厚の2倍を加えた寸法である。
そのために隆起部には顕著な寸法差、「ずれ」が生じるのである。
(2)引用公知意匠の幅は一定引用公知意匠の素材の幅はすべて一定である。どこにも幅の変化する部分は見られない。
その結果、引用公知意匠は見るものに対して、極めて単調で、淡白な印象を与えることになる。
(3)幅の変化が与える印象本願意匠では、素材の交差部において、顕著な寸法差、「ずれ」が存在する。
この「ずれ」が、交差部ひとつ置きに、縦横交互に一定の間隔で連続している。
その結果、本願意匠は見るものに対してダイナミックで心地よいリズム感を与えることになる。
殊に実際の立体物品となると「ずれ」部が光陰で強調され、より強いリズム感を見るものにもたらす。
4隆起部の特異性(1)本願意匠の隆起部(1)-1帯板の交差状態をカモフラージュ本願意匠には多数の「隆起部」が等間隔で分散してある。
本願意匠の係る物品たる金網において、無駄に「隆起部」を形成したような物品は存在しない。
これを外部から見ると、縦横の帯板の交差部に、長方形の鋼板を溶接で取り付けたような印象を与える。
あたかも、交差部に別の鋼板を取り付けたような構成であるから、その結果、交差部の交差状態が隆起部の存在によってカモフラージュされ、覆い隠されてしまったように見える。
(1)-2カモフラージュの効果は?交差部における帯板の交差状態がカモフラージュされることによってどういう効果がもたらされるのか?それは見るものをして「編み込んでいる」という印象を払拭させる効果である。
「編み込んでいる」という印象があると、だれしも、素材を曲げて組み合わせていることを想定するため、見るものは柔和で、曲線的な印象を受ける。
そうでなくても直線的な本願意匠は、帯板の交差状態を覆い隠すことで、結果として、更に直線的なイメージを増幅させることになる。
したがって、交差部が曲線になっている引用公知意匠との、見るものに与える印象、美感の差はますます歴然となるのである。
(1)-3隆起部があやなす「卍模様」本願意匠においては、当該隆起部が四つでワンセットとなって一つの模様を形成している。
本願意匠の長方形の隆起部は隣接する隆起部と縦横を違えて並んでいる。
縦横二つずつの長方形の隆起部が四方に交互に並ぶことで、卍模様のような、あるいは風車のような模様を表出させる。
このことは見るものに、「格子模様+卍状模様」の印象を与え、それがもたらす美感は引用公知意匠を遥かに凌いでいる。
しかも、当該隆起部の本願意匠に占める割合は高いので、全体として装飾性が高く、結果として見るものをして、明白に他との区別を付けさせることになる。
(2)引用公知意匠の交差部(2)-1帯板が交差していることは明白。
引用公知意匠の交差部は、だれが見ても、素材が縦横に組み合わされていることが明白である。
全く交差部を隠しておらず、そこに意匠的な装飾は施されていない。
なおかつ、編み込んでいることがわかるので、ただでさえ交差部分が曲線になっている引用公知意匠は、更に曲線的な印象を増幅させることになる。
(2)-2隆起部の施されていない引用公知意匠引用公知意匠の交差部には、何の工夫も施されていない。ただ緩やかに盛り上がっているのみである。
本願意匠のような角張った隆起部を持たない引用公知意匠は、全体の印象が扁平であり、かつ緩やかに曲線的で、柔和なものである。
また、隆起部を持たないので、本願意匠のような全体に連続するアクセントもなく、平凡である。
このように、見るものにとって本願意匠の「隆起部」の特異性は際立っているのであり、この隆起部を以って『本願意匠独自の特徴とすることもできず、両意匠の共通感を覆すほどの別異感を惹起させるものとも云えない』とした審決は誤解である。
(2)-3実物の特異性意匠に係る物品は実物として市場に流通する。
本願意匠は隆起部が施されているため、斜め方向から光りが当たると際立って突出した印象を与える。
これに対して引用公知意匠のような井桁格子の金網は曲線の連続であるため陰影は徐々に変化するはずである。際立って突起、突出した感じは生じない。
実際に物品として流通に置かれた場合には、様々な角度から観察される。したがって、本願意匠の特異性は流通過程においては更に顕著となる。
5帯板の幅。
(1)「金網」は機能的な物品
審決では「帯板の幅について」として次のように判断している。
すなわち、「本願意匠の帯板が引用公知意匠に比較して、やや太いものであるとしても、形態全体からみれば、両意匠の共通する印象に影響を与えるものではない」と。
しかし金網とは極めて単純な構成によって成り立っている物品である。
衣料品や包装容器のような、見る者の嗜好を狙った技巧的な装飾を施すことができない、極めて機能が中心の物品である。
そうであるとすれば、その素材の太さの相違は物品が与える印象に大きく影響することは明らかである。
(2)華奢な引用公知意匠。豪快な本願意匠。
金網が機能的な物品であり、技巧的な装飾を施すことが困難であることは、需要者が十分に理解している。
すると、需要者が引用公知意匠にかかる物品と本願意匠にかかる物品とを比較した場合に、際立った違いを強い印象として受けることは確実である。
際立った違いを言葉で表せば、「華奢な引用公知意匠」と、「豪快な本件意匠」であるということができるだろう。
6結論上述のごとく、本願意匠は意匠登録を受けることができるものである。
すなわち、本願意匠は、
1.「井桁格子」の範囲から逸脱している。
2.引用公知意匠のような「緩傾斜」が存在しない。直線だけで構成してある。
3.一定間隔で素材の幅にリズミカルな変化が見られる。
4.特異な隆起部が一定間隔で存在する。
5.機能的な金網では素材の幅の影響は大きく、幅の相違が異なった印象を与える。
このように、本願意匠は従来の金網にない、斬新で装飾性の極めて高い、新しい意匠である。
別紙(審決取消事由に対する被告の反論)1井桁格子について原告は、拒絶理由にない井桁格子を持ち出した審決は違法と主張する。
しかしながら、審決は、本願意匠と拒絶理由で示した引用公知意匠とを比較検討するに際して、両意匠に共通する構成態様としていわゆる井桁格子という認定をしたまでであって、新たな拒絶理由に基づいて認定判断したものでないから、原告の主張は失当である。
また、原告は、本願意匠について、審決における具体的な態様の記載を捉えて、特殊な変形を加えているから、井桁格子の範囲を超えている旨主張する。
しかしながら、その特殊な変形という点については、審決の具体的な態様の記載の全体を示していて、何を指しているのか具体的ではないが、帯板の間隔とすると、その間隔は、使用の状況に応じて適宜変更される程度のありふれた手法による間隔にすぎず、また、空間部の態様についても同様であり、さらに、各交差部についても、帯板を縦横交互に編組みしたことにより表れる一般的な態様にすぎず、さらにまた、帯板を縦横交互に編組みすることもそれらを四方に連続することも、ごく普通に行われるところであって、いずれにしても、特殊な変形を加えているとはいい難いから、その主張は失当である。
2緩傾斜について原告は、引用公知意匠に緩傾斜が形成されているか否か、文献が不鮮明であって明確に理解できないとしつつも、本願意匠について、引用公知意匠のような緩傾斜が存在せず直線だけで構成してある旨主張する。
しかしながら、引用公知意匠は、引用文献の記載全体によれば、縦横の略帯状材がごく普通に上下に交差し、その交差部に格別特異な態様が見られないものであるから、その略帯状材はそれほど厚みのない帯板状のものと認識するのが自然であり、その交差部も極普通の隆起状と認識するのが至極当然であって、その編組みされた態様を見ると、縦横の帯板をそれぞれ2本一組で井桁とし、かつ、
格子に編組みしたものといえるから、いわゆる井桁格子に編組みしたといい得るものであり、緩傾斜が形成されていることを十分に認定できるものである。
そうして、本願意匠も、縦横の帯板をそれぞれ2本一組で井桁とし、かつ、格子に編組みしたという点で共通するものであって、帯板という厚みの薄い縦横材が密着して交差している態様のものであるから、その交差部は、形態全体から観ると、その部分を特に注視してみた場合に、ようやく気付く程度であって、格別目立つとはいえないから、原告の主張する直線の組み合わせであるという点は、部分的な差異にすぎないといわざるを得ない。
また、その交差部を、厳密な直角に成形することが、技術的に難しいことも勘案すると、結局のところ、本願意匠と引用公知意匠との差異は、極微細な部分の傾斜が、より緩いかより急かという程度のごくわずかな差異にすぎず、両意匠を別異とするほどの差異を生ずるとはいい難い。
さらに、例えば、特許庁発行の実開昭55-23751号(乙第6号証)の第2図ないし第4図及びこれに関連する記載の内容、並びに、実開昭55-60234号(乙第7号証)の第2図ないし第5図及びこれに関連する記載の内容にも見られるように、この種物品の属する分野において、緩傾斜のものも急傾斜のものも既に知られていることによっても、本願意匠のその態様は、ごく普通に知られた範囲内の一態様にすぎず、格別顕著な特徴を有するとはいい難いものであって、いわゆる井桁格子に編組みしたという、両意匠の共通感を覆すほどの別異感を惹起させるものとはいえないから、その主張は失当である。
なお、付け加えれば、実質上同一の意匠を表していると思われるところの、「本願意匠を掲載したカタログ(甲第3号証)」の第2頁左側の図、並びに、「本願意匠を写した写真(甲第4号証の1及び2)」によっても、交差部に緩傾斜が全く存在しないとはいい難いから、原告の主張には整合性がない。
3素材の幅の変化について原告は、本願意匠について、一定の間隔で素材の幅に変化が見られる旨主張する。
しかしながら、それは縦材と横材が交差した帯板の板厚程度の交差部(原告は、「ずれ」と称す)を、
作図上、線として表しているまでにすぎないものであって、縦横材の幅そのものには引用公知意匠と同様に何ら変化はなく、格別顕著な特徴を有するともいい難いものであるから、原告の主張する幅に変化が見られるという点は、全体の印象に大きな影響を与えるとはいい難い。
また、原告が殊更強調する図面上の「ずれ」も、もう一方(縦材においては横材、横材においては縦材)の幅のせいぜい10分の1程度のものであって、形態全体から観れば、極微細なものにすぎず、いわゆる井桁格子に編組みしたという、両意匠の共通感を覆すほどの別異感を惹起させるものとはいえないから、その主張は失当である。
なお、付け加えれば、本願意匠の立体的態様である甲第3号証及び甲第4号証を参酌しても、その幅の変化はそれほど意識されないものであり、また、例えば、同様な交差部を有する乙第6号証の第3図、乙第7号証の第4図のいずれにも、原告の主張する「ずれ」が、作図上、線として表されていないことによっても、本来、立体的な交差部を、正面図という平面的な図によって強調している感があるといわざるを得ない。
4隆起部について原告は、本願意匠について、交差部に別の鋼板を取り付けたような印象を与え、また、卍模様あるいは風車のような模様を表出させて格子模様+卍模様の印象を与え、さらに、斜め方向から光が当たると際立って突出した印象を与えるから、特異な隆起部が一定間隔で存在する旨主張する。
しかしながら、交差部に別の鋼板を取り付けたような印象を与えるという点、及び、格子模様+卍模様の印象を与えるという点については、帯板の板厚程度の部分が隆起していることに変わりはなく、その交差部は、前記のように、格別目立つとはいえないものであって、ごく普通に見た場合にはそのような印象を与えるとは想定し難く、また、その主張は交差部の傾斜の程度に帰着するところでもあるから、両意匠を別異とするほどの差異を生ずるとはいい難いものであって、さらに、斜め方向から光が当たると際立って突出した印象を与えるという点については、光の効果であり形状自体の態様ではなく、
いずれにしても、いわゆる井桁格子に編組みしたという、両意匠の共通する印象に影響を及ぼすものではないから、その主張は失当である。
5素材の幅の相違について原告は、本願意匠について、素材の幅の影響は大きく、幅の相違が異なった印象を与える旨主張する。
しかしながら、両意匠の素材の幅を、いわゆる金網の目の大きさの幅と比較すると、本願意匠は、約3分の1であるのに対し、引用公知意匠は、約5分の1であって、形態全体から観れば、ごくわずかな差異にすぎず、また、金網の素材の幅を広くしたり狭くしたりすることは、例えば、乙第6号証の第3図、特許庁発行の実開昭56-87235号(乙第4号証)の第5図のように、その幅を各種表したものが知られており、使用の状況に応じて適宜行われるところでもあって、本願意匠のその幅も、格別顕著な特徴のある幅ともいい難いものであり、ごく普通に知られた範囲内における一態様にすぎず、いわゆる井桁格子に編組みしたという、両意匠の共通感を覆すほどの別異感を惹起させるものとはいえないから、その主張は失当である。
6結論について原告は、本願意匠について、引用公知意匠とは縷々相違しているとして、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当せず、登録を受けることができるものである旨主張する。
しかしながら、原告の主張する差異点は、前記のとおり、いずれも理由がなく、これらの差異点が相まって表出する相乗効果を勘案しても、両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
そうすると、審決のとおり、両意匠は意匠に係る物品が一致し、形態においても共通点が差異点を凌駕するものであるから、本願意匠は引用公知意匠に類似することを免れない。
したがって、本願意匠は意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実