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関連審決 審判1999-15617
関連ワード 意匠の利用 /  意匠の創作 /  物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  広く知られた /  意匠の属する分野 /  通常の知識を有する者 /  意匠の類否 /  願書の記載 /  意匠性 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 188号 審決取消請求事件
原告 小岩金網株式会社
訴訟代理人弁理士 山口朔生、河西祐一
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 伊勢孝俊、藤木和雄、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/28
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第15617号事件について平成13年3月15日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成10年8月10日、意匠に係る物品を「金網」とし、形態を次頁本願意匠に示す意匠(本願意匠)につき意匠登録出願をしたが(平成10年意匠登録出願第23045号)、平成11年8月20日拒絶査定があったので、平成11年9月29日審判請求をしたが(平成11年審判第15617号)、平成13年3月15日、本件審判請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は同年4月4日原告に送達された。
本願意匠 2 審決の理由の要点 本願意匠は、縦横それぞれ10本の細幅な相対する帯板を平行に、それぞれ平行する帯板をほぼ等間隔に編組みしていわゆる「四つ目編み」とし、各交差部は、編組みしたときに上側を構成する部位を帯板の厚さを高さとして扁平なほぼ倒「コ」の字状に折り曲げて、正面側が四角形状を呈する隆起部分とし、各隆起部分の内側に下側の帯板を嵌合し、背面全体を平担な態様とした織金網である。
これに対し、審査において「本願意匠は、複数本の帯状体を縦、横に組んだ周知の四つ目編み(例えば、書籍「木竹工芸の事典」第491頁にもみられる。)にし、その重合部(交叉部)の一方を単に凹状にしたとするまでのものにすぎないから、出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項の規定に該当する。」として平成11年4月15日拒絶の理由を通知し、その後平成11年8月20日拒絶の査定がなされた。
原告(審判請求人)は、審判請求の理由として、本願意匠は、通常使用する丸鋼線を、帯板状の鋼材に置き換えた点、帯鋼材を単に四つ目編み状に編み込むだけでなく、各帯鋼材を嵌め合い構造にして、交差部に四つの四角い隆起部を形成した点において創作性の高い二段階の変形が成されており、周知の四つ目編みの単なる商業的変形ではなく、容易に意匠の創作をすることができたものではないから、意匠法第3条第2項の規定には該当しない旨主張した。
そこで、本願意匠を意匠全体として考察すると、まず、金網の素材について、この種物品分野においては、本件出願前より、金網の素材として線材ばかりでなく、板材のものも使用することが広く知られていることは、例えば、昭和59年11月5日特許庁総合情報館受入れの理工学社1984年4月25日発行の「建築用語図解辞典」の「かなあみ(金網)」に「針金又は薄板鉄を加工した網」の記述があることからも、また、昭和63年1月9日特許庁発行の公開実用新案公報、実用新案出願公開昭和63年2531号、考案の名称「平角線による金網」の第1図及び第3図に帯状板を使用して金網を製造する考案が記載されていることからも明らかである。
さらに、板様のものを使用して、四つ目編みに編組みをすることも、この種物品分野に限らず、例えば、笊、篭等の各種竹製品にみられる幅の広いいわゆる「へね竹」を素材として亀甲編み、四つ目編み等の編組みをすることが広く知られているところである。
したがって、金網の素材として帯板を使用して、四つ目編みに編組みしたことを、本願意匠のみの特徴とすることができず、この点に意匠の創作があったものと認められない。
次に、金網の交差部分について、本願意匠は、隆起部分が四角形に表された点については、該部分の折曲げを垂直としたことによるものであって、この種物品に限らず隆起部分を形成するに当たり、
その素材や太さ等を勘案して折曲げ部分を垂直に形成することもしないことも、ごく普通に行われていることであり、また、各隆起部分内側に、該下側の帯板が嵌合して、背面全体を平担とすることも、この種物品分野に限らず、一方の凹部に他方の素材を嵌め込むという普通に見られる周知の態様であつて、当業者であれば容易に想到できる程度の方法にすぎないから、この点についても格別の創作があったものとは認められない。
そうすると、本願意匠について、前記創作性に係わる原告のいずれの主張も採用することができず、
本願意匠は、織金網の素材として細幅な帯板を使用し、これを広く知られた四つ目編みに編組みしたものといわざるを得ない。
以上のとおりであるから、本願意匠は、出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであると認められる。
したがって、本願意匠は意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。
原告主張の審決取消事由
別紙(原告主張の審決取消事由)に記載のとおり、本願意匠は周知形状から容易に創作することができたものでなく、これに反する審決の認定、判断は誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
別紙(審決取消事由に対する被告の反論)に記載のとおり。
当裁判所の判断
1 原告が取消事由として主張するところは、要するに、本願意匠は以下の点において、従来の金網にはない斬新な、装飾性の極めて高い、新しい金網であり、意匠法第3条第2項に該当しないとするものである。
@「四つ目編み」ではない。
A曲線が存在しない。代わって直線だけで構成してある。
B一定間隔で素材の幅に変化が見られる。
C特異な隆起部が一定間隔で存在する。
D表面と裏面の形状が相違する。
2 上記@の点について判断するに、乙第2号証(「竹編組デザイン資料」(通商産業省工業技術院産業工芸試験所 工芸連合部会編組研究会。昭和42年5月26日特許庁意匠課資料係受入)の第13頁に表された「四つ目」の図、乙第3号証(「建築大辞典第2版」(株)彰国社1993年発行)の第1708頁の「よつめあみ(四つ目編み)」の項の記載、及び乙第1号証(審決引用の「木竹工芸の事典」((株)朝倉書店1985年発行)第491頁によれば、四つ目編みとは、縦横の複数本の編竹を平行に相対し、その間隔を等しくして編んだものをいい、竹製品の基本的な編み方の一つとされるものであることが認められる。
このように、四つ目編みの形状あるいは模様は、従来から様々な分野において、応用することが広く知られていることが明らかであり、乙第4号証(実開昭56-87235号)の第1図ないし第5図、及び乙第5号証(実開昭59-109827号)の第1図ないし第4図並びにこれに関連する記載によれば、金網や鋼材等の物品分野においても、四つ目編みの形状あるいは模様を応用することが、ごく普通に行われているものと認めることができる。
本願意匠は、意匠に係る物品を「金網」とするものであり、その形態から素材として金属製の帯板を用いていることが明らかであるが、この種物品の属する分野においては、使用の目的に応じて素材を適宜変更することが、従来よりごく普通に行われているところであることは、審決で示されているように「建築用語図解辞典」の241頁(甲第1号証の3)の「かなあみ(金網)」の項の記載(針金又は薄鉄板を加工した網)及び実開昭63-2531号(甲第1号証の4)の第1図と第3図及びこれに関連する記載(帯板を使用して金網を製造する考案が記載されている。)によって、認めることができる。
したがって、金網の素材として金属製の帯板を用いたことに、本願意匠の格別の特異性があるとはいうことはできない。
そうすると、本願意匠は、縦横の複数本の帯板を平行に相対し、その間隔を等しくして編んだものであって、金網とするために、ありふれた手法により、帯板を素材に用いて周知の四つ目編みに基づいた編み目を形成した程度のものということができ、その全体の構成、その編まれた態様をみれば、周知の四つ目編みに基づいたものと認識するのが自然であって、本願意匠は四つ目編みではないとする原告の主張は、理由がない。
3 前記1のAの曲線か直線かの点について判断するに、本願意匠は、素材の厚みは薄く、縦横材が密着して交差している態様のものであり、交差部は、形態全体から観ると、その部分を特に注視してみた場合にようやく気付く程度であって、格別目立つものとは認め難い。そして、本願意匠の交差部はより直線的な態様のものであるということができるが、乙第6号証(実開昭55-23751号)の第2図ないし第4図及びこれに関連する記載、並びに乙第7号証(実開昭55-60234号)の第2図ないし第5図及びこれに関連する記載によれば、曲線的な態様のものも直線的な態様のものも既に知られていることが認められるのであり、本願意匠の交差部の態様は、ごく普通に知られた範囲内の一態様の範囲内のものであると認めることができ、この態様において、
本願意匠が顕著な特徴を有するものということはできない。
4 前記1のB及びCの素材の幅及び隆起部の点について判断するに、本願意匠の正面図において、縦材と横材が交差する部分ごとに素材の幅に変化が見られるが、これは、作図上における線の表現であり、縦横材の幅そのものに変化はないことが、本願意匠の「分解した状態の参考図」から明らかである。したがって、本願意匠のその態様は、顕著な特徴を有するとはいい難く、格別創作を必要とするほどの特異性はない。
原告は、本願意匠の交差部に別の鋼板を取り付けたような印象を与え、また、卍模様あるいは風車のような模様を表出させて格子模様+卍模様の印象を与えるなどとし、交差部に特異な隆起部が観られるとも主張するが、この主張は、上記のような交差部を別の視点から述べたものにすぎず、本願意匠に格別創作を必要とするほどの特異性がないとの上記判断を左右するものではない。
原告は、本願意匠について、素材間の間隔が素材より広い旨主張するが、これは、
金網の目の大きさに関するものであり、前記乙第6号証の第3図、乙第4号証の第3図、第5図及び乙第5号証の第1図によれば、これを大きくしたり小さくしたりすることは使用の状況に応じて適宜行われるところであるものと認められる。本願意匠の金網の目の大きさが、この適宜行われるところを凌駕して顕著な特徴のある大きさともいうことは到底できず、この点において格別創作を必要とするほどの特異性はない。
5 前記1のDの表面と裏面の形状の点について判断するに、原告は、本願意匠について、表面と裏面の形状が相違する旨主張するが、本願意匠のように、交差部の一方側を隆起状に他方側を平担状とすることは、金網の物品の属する分野において、格別創作を必要とするほどの特異性はないものと認められる(ちなみに、前記乙第7号証の第5図に、表面が隆起状で裏面が平坦状である態様が表されていることが認められる。)。
6 その他、本願意匠には、周知形状から容易に創作することができたものでないとすべき形態上の特異性は認めることはできず、その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができないものというべきであり、これと同旨の審決の判断に誤りはない。
結論
よって、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成14年2月7日口頭弁論終結)
追加
別紙(原告主張の審決取消事由)1周知形状とは?(1)拒絶の理由。
本件出願の拒絶の理由は、「その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができたものであると認められる。したがって本願意匠は、意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。」というものであった。
そして「日本国内において広く知られた形状模様若しくは色彩又はこれらの結合」(「周知形状」と略称されている)の例として「木竹工芸の事典」491頁における竹で編んだ「四つ目編み」の図を根拠としている。
(2)「周知形状」とは?ではここでいう「周知形状」とはどの程度のものであるか?平成10年、特許庁発行の「意匠審査基準」では、周知形状の例として、三角形、四角形、二重丸、
三角柱、多角柱、多角筒、あるいは円錐、角錐、球体などがあげられている。このような形状を「周知形状」と称することに異存はない。
(3)「周知形状」の幅は?審決では「四つ目編み」もここでいう「周知形状」であると判断している。
審査基準で示された、円柱や角錐などであれば、図面がなくともその形状のイメージは容易に想像できる。
そうすれば、どの程度の変形が「周知形状」か、「創作された意匠」か、そのラインはある程度予想することができる。
しかし「四つ目編み」にあっては、審査基準に示されたような具体的なイメージは形成できない。
その結果、どの程度の変形が「周知形状」であり、どの程度の変形が「創作された意匠」であるのか、そのラインは当業者が予想することができない。
「周知形状」であるとしてもその変形は無限に存在するものであり、変形の幅を特定することができないからである。
したがって、原告は抽象的な「四つ目編み」に対して反論することができない。
そこで原告は抽象的な「四つ目編み」のイメージに対する反論ではなく、例示された「木竹工芸の事典」491頁の図W.214「四つ目編み」を対象とし、これを「引用例」、又は「周知の四つ目編形状」として取消事由を記載する。
2「四つ目編み」であるか?(1)「四つ目編み」ではない。
本願意匠は「四つ目編み」の変形ではなく、その下位概念でもない。
「四つ目編み」とは引用例にあるように、竹製品において、帯状の竹を交互に密に編んだもの。
「幅が同一の素材」による「曲線の連続」で構成してある。
審決では本願意匠を『縦横それぞれ6本の細幅な帯板を〈中略〉それぞれ平行する帯板を略ぼ等間隔に編組していわゆる「四つ目編み」とし、』として、まず「四つ目編み」の一種類と認定している。
しかし本願意匠は元来「四つ目編み」ではなく、したがって「四つ目編み」の一部を変形させたものではなく、その下位概念の形状ではない。
(2)「四つ目編み」とは別のカテゴリーなぜ、四つ目編みの一種ではなく、別の概念に属するもの、といえるか?審決引用文献(「木竹工芸の事典」490頁、491頁)の記載で明らかなように、「四つ目編み」とは、
「六つ目網」、「笊目編み」、「網代編み」などと並ぶ、編み方の一種である。
上記のような「編み」はいずれも、幅が同一の素材による、曲線の連続で構成してある。
これに対して本願意匠は、「四つ目編み」に変形を加えたものではない。
なぜなら、@素材の幅に外見上の変化を与えてあり、A曲線部は全く存在しないからである。
なぜ、素材の幅に外見上の変化が与えてあり、曲線部が全く存在しないのか?創作者は、古来の「四つ目編み」の存在などを全く意識していなかったからである。
「四つ目編み」を全く意識していなかったから、その創作の成果物には、極端な変形が行われており、その結果興味深いリズム感を生み出すことができたのである。
このように本願意匠は、従来の竹製品の概念には含まれない、全く別個の独立したカテゴリーを形作っているということができる。
(3)審決の誤解この点審決では次のように判断している。
『本願意匠は、織金網の素材として細幅な帯板を使用し、これを広く知られた四つ目編に編組したものといわざるを得ない』。
すなわち、まず竹製品の分類である「四つ目編み」の中に含めている。そして、本願意匠はこの「四つ目編み」の交差部に変形を与えただけである、と判断している。
しかし上記したように本願意匠の創作者は、「四つ目編み」の存在を全く意識していないのだから、
本願意匠は元来「四つ目編み」ではなく、「四つ目編み」のカテゴリーに属するものではない。
したがって、上記審決のような認定は誤りである。
3「曲線」部分が存在するか?(1)曲線が一切存在しない。
本願意匠には「曲線」が一切存在しない。
すべて「直線」の組み合わせである。
すべて直線の組み合わせであるために、本願意匠は「男性的」「剛直さ」「力強さ」を感じさせる。
(2)周知の「四つ目編み」形状は「曲線」のみ「四つ目編み」形状は「曲線」だけによって構成してある。
本願意匠とは全く反対に、「直線」部分は一切存在しない。
すべて「曲線」の組み合わせである。
すべて曲線の組み合わせであるために、「四つ目編み」形状は「女性的」「柔軟さ」「優しさ」を感じさせる。
4素材の幅は同一か?(1)本願意匠の素材の幅本願意匠の素材の幅は同一には見えない。
実際の素材の幅は同一なのであるが、一定の間隔をおいて幅の広い部分が形成してあるように見える。これが交差部である。
交差部が幅広に見えるのは、なぜか?交差部において素材を、素材の厚さに等しい深さで直角に折り曲げ、四角い隆起部を形成してあるからである。
この隆起部の外幅は、素材の幅に素材の板厚の2倍を加えた寸法である。
そのために隆起部には顕著な寸法差、「ずれ」が生じるのである。
(2)周知の「四つ目編み」形状の幅は一定「四つ目編み」形状の素材の幅はすべて一定である。どこにも幅の変化する部分は見られない。
その結果、「四つ目編み」形状は見るものに対して、極めて単調で、淡白な印象を与えることになる。
(3)幅の変化が与える印象本願意匠では、素材の交差部において、顕著な寸法差、「ずれ」が存在する。
この「ずれ」が、交差部ひとつ置きに、縦横交互に一定の間隔で連続している。
その結果、本願意匠は見るものに対してダイナミックで心地よいリズム感を与えることになる。
殊に実際の立体物品となると「ずれ」部が光陰で強調され、より強いリズム感を見るものにもたらす。
5隆起部の特異性(1)本願意匠の隆起部(1)-1帯板の交差状態をカモフラージュ本願意匠には多数の「隆起部」が等間隔で分散してある。
木製品、竹製品の網において「隆起部」が形成できないことはもちろん、金属の網においても、無駄に「隆起部」を形成したような物品は存在しない。
それに対し本願意匠の隆起部を外部から見ると、縦横の帯板の交差部に、長方形の鋼板を溶接で取り付けたような印象を与える。
あたかも、交差部に別の鋼板を取り付けたような構成であるから、その結果、交差部の交差状態が隆起部の存在によってカモフラージュされ、覆い隠されてしまったように見える。
(1)-2カモフラージュの効果それでは、交差部における帯板の交差状態がカモフラージュされることによっていかなる効果がもたらされるのか?それは見るものをして「編み込んでいる」という印象を払拭させる効果である。
「編み込んでいる」という印象があると、だれしも素材を曲げて組み合わせていることを想定するのが普通である。
その結果、それを見るものは柔和で、曲線的な印象を受けるのである。
そうでなくても直線的な本願意匠は、帯板の交差状態を覆い隠すことで、結果として、更に直線的なイメージを増幅させることになる。
したがって,交差部が曲線になっている引用例との、見るものに与える印象、美感の差はますます歴然となるのである。
(1)-3隆起部があやなす卍状模様本願意匠の、一組四箇所の隆起部を見ると、前記の特徴はより明確顕著となる。
本願意匠の長方形の隆起部は隣接する隆起部と縦横を違えて並んでいる。
隆起部が縦横二つずつ四方に、交互に並ぶことで、卍模様のような、あるいは風車のような模様を表出させる。
このことは見るものに、「格子模様+卍状模様」の印象を与え、それがもたらす美感は引用例を遥かに凌ぐ。
しかも、当該隆起部の本願意匠に占める割合は高いので、全体として意匠性が高く、結果として見るものをして、明白に他との区別を付けさせることになる。
(2)「四つ目編み」形状の交差部(2)-1引用例の交差部は編込み「四つ目編み」形状の交差部は、だれが見ても、素材が縦横に組み合わされていることが明白である。
全く交差部を隠しておらず、そこに意匠的な装飾は施されていない。
なおかつ、編み込んでいることがわかるので、ただでさえ交差部分が曲線になっている引用例は、更に曲線的な印象を増幅させることになる。
(2)-2隆起部の施されていない引用例引用例の交差部には、何の装飾も施されていない。ただ緩やかに盛り上がっているのみである。
本願意匠のような角張った隆起部を持たない引用例は、全体の印象が扁平であり、かつ緩やかに曲線的で、柔和なものである。
また、本願意匠のような全体に等間隔で散りばめられた、連続するアクセントもなく、平凡である。
このように、見るものにとって本願意匠の「隆起部」の特異性は際立っているのであり、この隆起部を『隆起部分を形成することもしないことも、ごく普通に行われていること』とした審決は誤解である。
(3)実物の特異性意匠に係る物品は実物として市場に流通する。
本願意匠は隆起部が施されている。
その結果、斜め方向から光りが当たると際立って突出した印象を与える。
これに対して「四つ目編」は曲線の連続である。
そのために陰影は徐々に変化することになる。
したがって、際立って突起、突出した感じは生じない。
意匠が実際に物品として流通に置かれた場合には、様々な角度から観察される。よって、本願意匠の特異性は流通過程においては更に顕著となる。
6空間と素材とのバランス(1)本願意匠の素材の間隔は?本願意匠と引用意匠とでは、隣接する素材間の間隔が大きく異なる。
本願意匠の素材の間隔は、[素材の幅]対[素材の間隔]は3:5である。
すなわち本願意匠では、素材の幅3に対して、素材の幅よりも広い間隔5のリズムを、見るものに与えることができる。
(2)引用意匠の素材の間隔は?引用意匠ではどうか?素材間の間隔は、素材の幅の約1/2である。
すなわち引用意匠では、素材の幅1に対して、素材の幅よりも狭い間隔のリズムを、見るものに与える。
間隔の違いは縦横に影響するから、面積が相当に変化する。
その結果、わずかな寸法の違いでも、大きな面積差となって現れ、見るものに大きな印象の違いを与える。
(3)間隔の違いは重要か?引用例は「四つ目編み」の一例であり、そこから生じるリズムは印象の違いには問題にならないと考えるかもしれない。
しかし、網目の間隔はその物品の需要者にとっては重要な問題である。
どんな用途に使用するにせよ、網の目の間隔が目的に合致していなければその用途に適さない。
米を入れる容器の網の目が大きく開いていたら、全部漏れてしまう。
魚を取る網の目があまり狭かったら水が排出しないから魚を取り込めない。
このように素材の間隔は需要者にとって、物品との関係で極めて重要な要素を占めている。
そうであれば、本願意匠と、引用意匠とは需要者にとって明確に区別して認識されるものである。
7表裏両面の形状は同一か?(1)本願意匠は表裏が異なる。
本願意匠は表裏の形状が異なる。
表面には一定間隔で隆起部が分散して存在するが、裏面には全く隆起部が存在しない。
一般に金網は表裏の形状が同一である。
したがって、本願意匠のように、表裏の形状が異なる金網は、物品として販売される場合に需要者に際立った違和感、際だった印象を与える。
(2)引用意匠は表裏同一。
周知の「四つ目編み」形状では、表面に隆起部が存在しない。
したがって表裏の形状は全く同一である。
表裏における形状の相違、違和感は全くない。
(3)表裏の形状が異なる利点本願意匠では表裏の形状が異なっている。
そのため、商品としての価値が高い。すなわち表面のみに隆起部を見せるような使い分けができる。
その結果、意匠の利用の幅が広がり、見るものに与える美感の幅も広がる。
表面と裏面とを用途に合わせて使い分けることができるので機能的でもある。
8結論以上検討したように、本願意匠は意匠登録を受けることができるものである。
すなわち、本願意匠は@「四つ目編み」ではない。
A曲線が存在しない。代わって直線だけで構成してある。
B一定間隔で素材の幅に変化が見られる。
C特異な隆起部が一定間隔で存在する。
D表面と裏面の形状が相違する。
このように、本願意匠は従来の金網にはない斬新な、装飾性の極めて高い、創作性のある金網である。
別紙(審決取消事由に対する被告の反論)1周知形状について原告は、審決においていわゆる四つ目編みの一例として示した、「木材工芸の事典」の第491頁の「四つ目編」の項の記載の内容(乙第1号証)により表された図(原告は、「引用例」又は、「周知の四つ目編形状」と称す)を捉えて、直接本願意匠と比較し縷々相違している旨主張するが、本件は、本願意匠と前記の「引用例」における意匠の類否を問題とするものではないから、その主張は失当である。
2四つ目編みについて原告は、本願意匠について、素材の幅に外見上の変化を与えてあり、曲線部は全く存在しないから、四つ目編みではない旨主張する。
しかしながら、四つ目編みとは、例えば、「竹編組デザイン資料」の第13頁に表された「四つ目」の図(乙第2号証)、また、「建築大辞典第2版」の第1708頁の「よつめあみ(四つ目編み)」の項の記載の内容(乙第3号証)、さらに、乙第1号証のように、縦横の複数本の編竹を平行に相対し、その間隔を等しくして編んだものをいい、竹製品の最も基本的な編み方の一つとされるものである。
すなわち、四つ目編みの形状あるいは模様は、従来より様々な分野において、応用することが広く知られているところであり、この種物品の属する分野においても、例えば、特許庁発行の実開昭56-87235号(乙第4号証)の第1図ないし第5図及びこれに関連する記載の内容、また、実開昭59-109827号(乙第5号証)の第1図ないし第4図及びこれに関連する記載の内容に見られるように、四つ目編みの形状あるいは模様を応用することが、ごく普通に行われていることは明らかである。
また、本願意匠は、素材として金属製の帯板を用いているが、この種物品の属する分野においては、使用の目的に応じて素材を適宜変更することが、従来よりごく普通に行われているところであり、
例えば、審決で示したように、「建築用語図解辞典」の241頁の「かなあみ(金網)」の項の記載の内容(甲第1号証の3)によっても、また、特許庁発行の実開昭63-2531号(甲第1号証の4)の第1図と第3図及びこれに関連する記載の内容にも、帯板を使用して金網を製造する考案が記載されていることによっても明らかであるから、金網の素材として金属製の帯板を用いたことに、格別の特異性があるとはいい難い。
そうとすると、本願意匠は、縦横の複数本の帯板を平行に相対し、その間隔を等しくして編んだものといわざるを得ず、結局のところ、金網とするために、ありふれた手法により、帯板を素材に用いて周知の四つ目編みに基づいた編み目を形成した程度にすぎないものというほかなく、それは本願意匠の後面の態様からも明白なことである。
さらに、原告は、四つ目編みを全く意識していなかったことをいうが、その主観的な意図の有無により、その客観的評価及び認定が左右されるものではないことはいうまでもない。
以上のとおり、本願意匠は、その全体の構成、その編まれた態様をみれば、周知の四つ目編みに基づいたものと認識するのがごく自然であって、原告のいう四つ目編みではないとの主張は失当である。
3曲線について原告は、本願意匠について、曲線は存在せず直線だけで構成してある旨主張する。
しかしながら、縦横材がかなりの厚みのものであったり、交差部の隆起部分がかなり高いものであったりした場合はともかく、本願意匠のように、厚みの薄い素材のものであって、縦横材が密着して交差している態様のものであれば、その交差部は、形態全体から観ると、その部分を特に注視してみた場合に、ようやく気付く程度であって、格別目立つとはいい難いところであり、また、その交差部を厳密な直角に成形することが、技術的にも難しいことも勘案すると、結局のところ、より曲線的な態様か又はより直線的な態様かどうかであって、例えば、特許庁発行の実開昭55-23751号(乙第6号証)の第2図ないし第4図及びこれに関連する記載の内容、さらに、実開昭55-60234号(乙第7号証)の第2図ないし第5図及びこれに関連する記載の内容に見られるように、曲線的な態様のものも直線的な態様のものも既に知られていることからも、本願意匠のその態様は、ごく普通に知られた範囲内の一態様にすぎないといわざるを得ず、顕著な特徴を有するとはいい難いものであって、格別創作を必要とするほどの特異性はないものであるから、その主張は失当である。
なお、付け加えれば、実質上同一の意匠を表していると思われるところの、「本願意匠を掲載したカタログ(甲第3号証)」の第2頁左側の図、並びに、「本願意匠を写した写真(甲第4号証)」によっても、
交差部に曲線が全く存在しないとはいい難いから、原告の主張には整合性がない。
また、原告は、本願意匠と「周知の四つ目編形状」について、その直線と曲線の違いを理由に、美感の相違を主張するが、本件は、前記のとおり、本願意匠と「周知の四つ目編形状」の類否を問題とするものではないから、その主張自体失当であり、さらにまた、前記のとおり、格別創作的なものではないから、原告の主張は、その前提においても失当である。
4素材の幅について原告は、本願意匠について、一定の間隔で素材の幅に変化が見られる旨主張する。
しかしながら、それは縦材と横材が交差した帯板の板厚程度の交差部(原告は、「ずれ」と称す)を、
作図上、線として表しているまでにすぎないものであって、縦横材の幅そのものに変化はなく、また、
原告が殊更強調する図面上の「ずれ」も、もう一方(縦材においては横材、横材においては縦材)の幅のせいぜい10分の1程度のものであって、形態全体から観れば、ごく微細なものにすぎないから、本願意匠のその態様は、顕著な特徴を有するとはいい難く、格別創作を必要とするほどの特異性はないものであるから、その主張は失当である。
なお、付け加えれば、本願意匠の立体的態様である甲第3号証及び甲第4号証を参酌しても、その幅の変化はそれほど意識されないものであり、また、例えば、同様な交差部を有する乙第6号証の第3図、乙第7号証の第4図のいずれにも、原告の主張する「ずれ」が、作図上、線として表されていないことからも、本来、立体的な交差部を、正面図という平面的な図によって強調している感があるといわざるを得ない。
5隆起部について原告は、本願意匠について、交差部に別の鋼板を取り付けたような印象を与え、また、卍模様あるいは風車のような模様を表出させて格子模様+卍模様の印象を与え、さらに、斜め方向から光が当たると際立って突出した印象を与えるから、特異な隆起部が一定間隔で存在する旨主張する。
しかしながら、交差部に別の鋼板を取り付けたような印象を与えるという点、及び、格子模様+卍模様の印象を与えるという点については、帯板の板厚程度の部分が隆起していることに変わりはなく、その交差部は、前記のように、格別目立つとはいえないものであって、ごく普通に見た場合にはそのような印象を与えるとは想定し難く、また、その主張は交差部の傾斜の程度に帰着するところでもあり、さらに斜め方向から光が当たると際立って突出した印象を与えるという点については、光の効果であり形状自体の態様ではなく、いずれにしても格別創作を必要とするほどの特異性はないものであるから、その主張は失当である。
6素材間の間隔について原告は、本願意匠について、素材間の間隔が素材より広い旨主張する。
しかしながら、それは言い換えれば、いわゆる金網の目の大きさのことであって、金網の目を大きくしたり小さくしたりすることは、例えば、乙第6号証の第3図、乙第4号証の第5図のように、その目の大きさを各種表したものが知られており、使用の状況に応じて適宜行われるところでもあって、本願意匠のその目の大きさも、顕著な特徴のある大きさともいい難いものであり、ごく普通に知られた範囲内における一態様にすぎず、格別創作を必要とするほどの特異性はないものであるから、その主張は失当である。
7表面と裏面の形状について原告は、本願意匠について、表面と裏面の形状が相違する旨主張する。
しかしながら、表面の交差部の態様については、前記したように、格別目立つ態様とはいえないところ、本願意匠のように、交差部の一方側を隆起状に他方側を平担状とすることは、この種物品の属する分野において、例えば、乙第7号証の第5図にも、表面が隆起状で裏面が平坦状である態様が表されているように、表面と裏面の形状を異にすることがごく普通に知られているところであり、格別創作を必要とするほどの特異性はないものであるから、その主張は失当である。
8結論について原告は、本願意匠について、周知形状から容易に創作できたものでなく、意匠法第3条第2項に該当するとして拒絶されるものでないから、本件審決は全体として事実誤認の違法があり取り消されるべきである旨主張する。
しかしながら、本願意匠は、願書の記載及び願書に添付の図面を、立体的かつ総合的に捉えて形態全体から観れば、前記のとおり、ごく普通の帯板を素材に用いて、周知の四つ目編みに基づき、ありふれた手法により、金網の意匠を表した程度にすぎないものというほかないから、その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実