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関連審決 審判1999-19074
関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  色分け /  モチーフ /  意匠に係る物品 /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 271号 審決取消請求事件
原告 株式会社力王
訴訟代理人弁護士 宇井正一
同 笹本摂
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 伊藤晴子
同 藤木和雄
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/27
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第19074号事件について平成13年5月7日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成10年4月14日、意匠に係る物品を「長靴」とし、その形態を別添審決謄本写し別紙第一記載のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)につき意匠登録出願をした(意願平10-10446号)が、平成11年10月6日に拒絶査定を受けたので、同年11月29日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成11年審判第19074号事件として審理した上、
平成13年5月7日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月23日原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願意匠は、平成9年5月31日月星化成株式会社発行、同年6月20日工業所有権総合情報館受入のカタログ「97 SHOES COLLECTION WINTER」20頁所載の型番672HZ01113461466の長靴の意匠(特許庁意匠課資料番号第HC09011633号。その形態は、同審決謄本写し別紙第二記載のとおり。以下「引用意匠」という。)に類似し、意匠法3条1項3号に該当するものであるから、意匠登録を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本願意匠及び引用意匠の認定(審決謄本1頁理由欄1行目〜12行目)は認める。
審決は、本願意匠と引用意匠の共通点の認定を誤る(取消事由1)とともに、両意匠の差異点の認定を誤り(取消事由2)、また、両意匠の類否の判断を誤った(取消事由3)結果、本願意匠は意匠法3条1項3号に該当するとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(共通点の認定の誤り) (1) 審決は、本願意匠及び引用意匠について、「両意匠は、全体を、@膝下長さの脚筒部最上部に太幅帯状履き口カバー部を設けた所謂長靴型としたものであって、A正面甲部中央に極細横長リブ複数本による略縦長円形状配列部を設け、B該リブ配列部の上方に沿う一回り大きな凸弧状線の左右下端を踵補強片頂部まで浅い略凹弧状線とする一本のやや太い略波状のラインを配し、C爪先部に略三日月状の補強片を、D踵部に上辺を円弧状とした略山形状の補強片をそれぞれ配し、また、
E一定幅の帯状靴底外周面を設けた基本的構成態様において共通し、また、具体的な態様においても、F(ア)ライン部を、その周囲の大半の面と異なる調子として調子分けがなされている点、G(イ)靴底外周面全面に筋条模様を配し、さらに、
該同面の上端周縁に沿った細横線一本を配している点、H(ウ)履き口カバー部のその正面上方の紐通し穴から緊締用細紐を結んで垂下している点、が主に共通する」(審決謄本2頁2行目〜14行目。ただし、@〜Hの符号は、原告の主張に従い、便宜上付したものである。)と認定するが、以下のとおり、誤りである。
(2) @及びHの点については、履き口カバー部の広さ、長さ、色づかいで構成される形態の相違から、その意匠全体に与える影響は全く異なっており、単純に「太幅帯状」ということはできない。
Aの点については、「横長リブ」を甲部前面に配列する手法は従来から採用されているものであって、殊更共通点として指摘するに及ばない。
B及びFの点については、本願意匠の波状ラインは、引用意匠のものと波動曲線が全く異なり、看者に与える美感が全く相違する。本願意匠の波状ラインは、他の補強片と融合して固有の模様を創出するモチーフとして作用しており、単独で使用されている引用意匠の波状ラインとは異なるから、これを共通点とすることは誤りである。
Cの点については、「半月型」と「三日月型」は当業界において別タイプの爪先補強片として識別されており、本願意匠の爪先補強片の形状は「略半月状」というべきであるから、これを「略三日月状」とした認定は誤りである。
Dの点については、引用意匠の踵補強片は、三角形状であって、「上辺を円弧状」とするものでないから、誤りである。
E及びGの点については、両意匠の有する靴底外周面は、靴底部全体をもって、他の構成部との関係で判断されるべきである。
2 取消事由2(差異点の認定の誤り) (1) 審決は、本願意匠と引用意匠との主な差異点として、「1)各部の明暗調子について、本願意匠は、ライン部、履き口カバー部、爪先部、踵部及び靴底外周面上縁横線部を暗調子とし、その他の略全面を明調子としているのに対して、引用意匠は、ライン部及び靴底外周面上縁横線部を明調子とし、その他の全面を暗調子としている点、2)履き口カバー部の縦幅について、本願意匠の方が引用意匠のそれに比してかなり太幅としている点」(審決謄本2頁15行目〜20行目)を認定するが、以下のとおり、誤りである。
(2) 上記1)の点については、本願意匠においては、履き口カバー部と各補強片が有機的に結合して固有の色分け模様を創出する視覚的効果を有するところ、この相乗的効果を見落とし、単に履き口カバー部と各補強片を個別にとらえ、これを差異点として認定している点で誤りである。他方、引用意匠においては、「A」マークが波形ラインとともに最大の特徴的模様を形成しているのに、これを看過している。
上記2)の点については、履き口カバー部の形態についても、その全体に影響する視覚的効果により判断すべきところ、そのような関連性に触れることなく差異点の認定をしているのは誤りである。
(3) さらに、審決は、以下のような重要な差異点を看過している。
ア 本願意匠では、履き口カバー部の高さが引用意匠の履き口カバー部の高さの2〜3倍あり、全体の高さの約4分の1を占めており、単に紐通し程度の印象しか与えない引用意匠の履き口カバーとは異なる重要な特徴を形成している。また、本願意匠の履き口カバー部は暗色であって、他の部分の明色から際立った印象を与えるものである。
イ 本願意匠の爪先補強片が爪先部分に大きく広く配置されていることは上記のとおりであり、これは、本願意匠に係る長靴が足先を保護する安全靴に使用されるからである。加えて、本願意匠の爪先補強片と踵補強片とは、暗い濃い同色で配置され、明るく薄い色の本体甲部に対し、明暗、濃淡のコントラストをもって強調されるとともに、爪先補強片と踵補強片とがバランスをとってマッチングされてその存在感が強調され、本願意匠の際立った特徴を形成している。
これに対し、引用意匠においては、爪先補強片は全体的に見て存在が希薄であるのに対し、踵補強片は極めて大きく、本願意匠におけるような両者のバランスやマッチングは見いだせない。
ウ 本願意匠のライン部は、後側が踵補強片の上部に流れて水平となるように配置され、背面中央に配された同色の垂直太帯片に一体化して溶け込んでいるのに対し、引用意匠のライン部の後側は、アキレス腱部まで伸びるように大きく配置された踵補強片の上縁部に立ち上がってとぎれており、背面部に対する一体化もない。なお、引用意匠は、本願意匠にはない白抜きの「A」マークを加えている点でも、全体の印象を著しく変化させている。
エ 引用意匠では、靴底部と靴甲部を隔てる縁取りテープがよく目立つのに対し、本願意匠ではこのような目立つ態様で表されておらず、両者の視覚的印象は異なる。
オ 本願意匠では、甲部外周面より一回り大きく突き出した靴底外周面を有し、靴底部には、側面からも観察し得る鋸歯と高いヒールを有するほか、底面には、特徴的なノンスリップパターンが配置されている。これに対し、引用意匠では、靴底外周面は甲部外周面と同一面で構成され、ヒールは低く、底面の形態は不明である。
カ 本願意匠は、明調子の本体部に対して、高さの高い履き口カバー部、ライン部、大きな形状の爪先の補強片、踵補強片及び背面垂直太帯がそれぞれ暗調子で構成されている結果、これらが全体として強調され、強く印象づけられることになり、引用意匠との差異を明確にしている。
キ 本願意匠では、胴部が、甲部から前方上方へ向かって広がる前面稜線と、足首辺りに明らかな絞り込みを有する背面稜線とにより、漏斗形を形成し、胴部に続く甲部は、上方へ膨らんで丸みを帯びた爪先部と後方へ膨出した踵部とを有する。これに対し、引用意匠では、足首部分から胴部を経て履き口カバー部に至る外形は、ほぼ同じ太さの円筒形であり、足首辺りの絞り込みは明らかでないし、甲部爪先部分が偏平形状である点でも異なる。
3 取消事由3(類否判断の誤り) (1) 審決は、本願意匠と引用意匠の類否について、「両意匠において共通する前記基本的構成態様は、とりわけ全体を、膝下長さの脚筒部最上部に太幅帯状履き口カバー部を設けた所謂長靴型とし、正面甲部中央に極細横長リブ複数本による略縦長円形状配列部を設け、該リブ配列部の上方に沿う一回り大きな凸弧状線の左右下端を踵補強片頂部まで浅い略凹弧状とする一本のやや太い略波状のラインを配した基本的構成態様は、形態全体の大部分を占め、形態上の骨格を形成し、両意匠の特徴を表出するところであるから、共通する具体的態様と相俟って、両意匠の全体の基調を決定づけるところとなり、意匠の類否判断を支配するといわなければならない」(審決謄本2頁24行目〜32行目)、「これに対して、前記差異点は、類否判断に影響を及ぼす要素としては微弱なものといわざるを得ない」(同頁33行目〜34行目)とし、さらに、「その他にも請求人主張のライン部の形状の差異、
爪先部及び踵部の各補強片の大小差等が認められるものの、それらは意匠全体の中で部分的かつ特徴のない微弱な態様差にすぎないことから類否判断上ほとんど問題にするに至らないものである」(同3頁8行目〜11行目)と判断するが、誤りである。
(2) 本願意匠と引用意匠の共通点は、長靴に広く採用されているありふれた形態にすぎず、これらの共通点は、両意匠が類似とされる根拠となるものではない。
審決の上記判断は、上記2で述べた本願意匠と引用意匠の明確に異なる形態上の特徴を過小評価するものといわなければならない。
引用意匠及び本願意匠のそれぞれについて、総合的に観察した場合、引用意匠の長靴の全体的形状は、履き口に短寸の紐通し部を有し、偏平爪先を備えた甲部を有し、その間に上から下までほぼ同一寸法の長い筒状胴部を有する従来長靴の一つのタイプと把握することができる。そのような形状の引用意匠の長靴において、需要者の注意を惹く要素は、全体の色彩と明度を異にするライン部と胴部側面の「A」マークであり、これが他の同種の長靴から引用意匠のものを区別する大きな特徴というべきである。そして、靴底外周面も、同様に明度を異にし、明確な凹凸模様を有する点で、需要者の注意を惹く部分となり得るが、履き口の紐通し部、
爪先補強片及び踵補強片は、目立たないようにデザインされている。これに対し、
本願意匠の長靴の全体的形状は、縦長で幅広の履き口カバー部、盛り上がった爪先を持つ甲部、甲部外周より一回り大きい外周と独自のノンスリップパターンを有する靴底部を備え、くびれと張りのある引き締まった美感を呈する漏斗型胴部を有するものと把握することができる。そして、本願意匠のライン部、爪先補強片及び踵補強片は、半円状弧曲線を基調に構成され、履き口カバー部及び背面垂直太帯片とともに、本体とは異なる統一的明度で彩色されることにより、それぞれが装飾模様モチーフを構成し、その有機的結合により、見る角度によって異なる固有の装飾模様を構成して、美的彩色効果を発揮している。また、履き口カバー部と背面垂直太帯片が幅広かつ直線的であることにより全体の外観にボリューム感、
重厚感、安定感を与える一方、ライン部、爪先補強片及び踵補強片の円弧状稜線により、愛らしさと優しさをも感じさせるものである。
このように、本願意匠と引用意匠は、意匠全体の構成及び美感を全く異にし、取引者、需要者において、両者を瞬時に識別し得るものであり、混同することはあり得ない。
(3) 本願意匠は、正面観察、背面観察、側面観察、底面観察及び平面観察が可能なものであるが、引用意匠は、斜視図のみをもって特定されるものであり、側面観察以外では、その形状が不明であって、両意匠の比較を行うことができない。この点において、引用意匠は、本願意匠の意匠登録を否定すべき根拠として不十分なものである。
(4) 審決は、ある物品分野において常とう的に行われている周知の手法は意匠上特段高く評価し得ないとの判断手法を用いている(審決謄本2頁35行目〜末行、3頁3行目〜7行目)が、このような判断手法は不合理というべきである。すなわち、上記の判断手法からは、意匠法3条1項3号の趣旨に関し、意匠の高度な創作を保護するという創作説的発想を読み取ることができるところ、同号の立法趣旨は、需要者が市場で物品を混同することを防ぐことにある(最高裁昭和49年3月19日判決・民集28巻2号308頁等参照)から、この点において審決の上記判断手法は誤りであるし、両意匠の差異が、それ自体に着目した場合にどれほど大きくとも、意匠上評価され得ない結果となりかねない点、意匠の各構成部分を全体の中でとらえず個別分離して評価する点、同様の手法が共通点の評価においては用いられていない点において、不合理である。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(共通点の認定の誤り)について 原告は、両意匠の履き口カバー部を単純に「太幅帯状」ということはできない旨主張するが、長靴の履き口部については、カバーがないものや、あっても縦幅がかなり短いものもある中で、両意匠の履き口カバー部の共通点として「太幅帯状」と認定したものであって、誤りはない。
原告は、「横長リブ」は従来から採用されているものであって、殊更共通点として指摘するに及ばない旨主張するが、該当部分に凹凸模様のないものや、あっても様々な形態のものがある中で、両意匠の共通点として「横長リブ」を認定したもので、誤りはない。
原告は、本願意匠の波状ラインは、看者に与える美感を相違するからこれを共通点とすることは誤りである旨主張するが、ライン模様にも、稲妻型、V字型、
「く」の字型など、様々な態様がある中で、本願意匠と引用意匠の共通する形状を認定したものであって、誤りはない。
原告は、本願意匠の爪先補強片の形状は「略半月状」であって、これを「略三日月状」とした認定は誤りである旨主張するが、本願意匠のものは、半月に達していない状態のものであるから、その認定に誤りはない。
原告は、引用意匠の踵補強片は三角形状であって、「上辺を円弧状」とした認定は誤りである旨主張するが、本願意匠の踵補強片は、甲部前面部に向けて緩やかに弧状をなしているから、その認定に誤りはない。
2 取消事由2(差異点の認定の誤り)について (1) 原告は、本願意匠においては、履き口カバー部と各補強片が有機的に結合して固有の色分け模様を創出する視覚的効果を有する旨主張するが、この点は、引用意匠においても同様である。また、「A」マークについては、格別のデザイン的処理もされていないものであって、類否判断上欠くことのできないものとして採り上げるまでもないものである。
原告は、履き口カバー部の形態について、その全体に影響する視覚的効果により判断することなく差異点の認定をしているのは誤りである旨主張するが、審決は、両意匠の類否判断を行うのに必要な範囲で差異点を挙げたにとどまり、その認定自体、誤りはない。
(2) 原告が重要な差異点の看過として主張するところは、以下のとおり、いずれも失当である。
ア 原告は、履き口カバー部の高さ及び明暗の差を主張するが、そのような差は、この種物品の意匠におけるバリエーションの範囲内のものであるから、意匠的観点から高く評価することはできない。
イ 原告は、爪先補強片の大小差、形状差及び明暗差について主張するが、
看者の注意を惹くものではないし、爪先補強片と踵補強片のマッチングをいう点についても、この種物品においてごく普通に行われていることであり、バリエーションの範囲内にとどまる。
ウ 原告は、ライン部の後側から背面の態様の差を主張するが、背面という比較的注目されない部位におけるわずかな差にすぎず、看者の注意を惹くものとはいえない。
エ 原告は、引用意匠の靴底部と靴甲部を隔てる縁取りテープについて主張するが、カラーバリエーションに基づく明暗調子の差異にすぎず、格別に評価するほどのものではない。
オ 原告は、靴底部の差異について主張するが、靴底部のみの意匠であればともかく、長靴全体の意匠にあっては、その主張する差異は微差にすぎない。
カ 原告は、明暗の調子の差異について主張するが、この種物品分野において、形状及び模様をそのままに、コントラスト、色彩等を変化させたものを種々用意することは周知のことであって、明暗の調子の差もそのようなバリエーションの範囲内にとどまる。
キ 原告は、本願意匠の胴部は漏斗形を形成するのに対し、引用意匠ではほぼ同じ太さの円筒形である旨主張するが、引用意匠においても、履き口カバー部から下方に緩やかにすぼまり、踵の上の部分で緩やかに湾曲しているから、両者はこの点で共通する。この態様は、人体の足の外形に即応したものであって、長靴における周知のものである。
3 取消事由3(類否判断の誤り)について (1) 原告は、本願意匠と引用意匠の共通点は長靴に広く採用されているありふれた形態にすぎず、他方、審決は、本願意匠と引用意匠の明確に異なる形態上の特徴を過小評価するものである旨主張する。しかし、共通点が周知の態様であったとしても、本件のように、差異点に格別見るべき点がないときは、両意匠の大部分を占め、その基調を形成する共通部分が類否判断の要部となり得るというべきである。なお、原告の主張する差異点が格別評価することができないことは、上記2のとおりである。
(2) 原告は、引用意匠を全体として観察すれば、需要者の注意を惹く要素は、
ライン部と胴部側面の「A」マークである旨主張する。しかし、長靴の分野においては、機能上の制約は比較的小さく、表面の態様、造形上の自由度は高い物品といってよく、現に全体形状及び各部の態様に種々の態様が存在するところ、このような多様な諸態様をさしおいて、引用意匠に接した需要者が、ライン部と胴部側面の「A」マークだけを認識するとは考えられない。
(3) 原告は、ある物品分野において常とう的に行われている周知の手法は意匠上特段高く評価し得ないとの審決の判断手法は不合理である旨主張するが、審決は、両意匠について意匠全体を観察し、各部分を全体との関係で比較検討するに際し、特に両意匠の共通点と差異点の比較考量において、各差異点の相対的重み付け、すなわち類否判断に及ぼす要素としての軽重の検討を行っているものであって、何ら不合理なものではない。原告の主張は、審決の具体的な認定判断から遊離して、恣意的な推測に基づいてこれを論難するにすぎず、失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(共通点の認定の誤り)について 取消事由1として原告の主張するところは、本願意匠と引用意匠がともに膝下長さのいわゆる長靴型をしたものであるという以外、そのほとんどの共通点の認定は誤りであるというものであるが、両意匠を対比検討すれば、両意匠が、審決の認定するとおりの共通する構成態様を有することは明らかというべきである。すなわち、履き口カバー部を「太幅帯状」と認定した点については、本願意匠の履き口カバー部の方が引用意匠のものと比較してかなり太幅であることは原告の主張するとおりであるが、そもそも長靴にあっては、本願意匠及び引用意匠のように紐通し部のある履き口カバー部を有するものばかりでなく、単に履き口に縁取り等を施した態様のもの(平成7年11月月星化成株式会社発行の「96 SHOES COLLECTION SPRING」79頁〔乙第4号証の2〕所載のもの、平成9年4月アサヒコーポレーション発行の「’97 Winter Shoes Catalog」16頁〔乙第5号証〕所載の「グリップGT200」、「スノーヤング」、「焼底紳士」等)、紐通し部のある履き口カバー部を有するものであっても、その幅の狭いもの(前掲乙第5号証所載の「グリップGT781UL」等)、「帯状」というよりは巾着状というべき態様のもの(前掲「96 SHOES COLLECTION SPRING」81頁〔乙第4号証の3〕中段に所載のもの等)等の多様なものがある中で、本願意匠と引用意匠の履き口カバー部の共通する形状を、「太幅帯状」と認識することはむしろ当然のことであって、この点の審決の認定に誤りはないというべきである。しかも、審決は、この共通点を前提としつつ、別途「差異点2)」(審決謄本2頁19行目)として原告の主張する幅の差異を抽出して認定しているところである。また、爪先補強片の形状を「略三日月状」と認定した点については、確かに、本願意匠の爪先補強片は引用意匠のものと比較して大きいものであるが、弦に相当する部分は明らかに欠けており、原告の主張するように「半月状」とまではいえないものであるから、これを「略三日月状」とした認定を誤りということはできない。さらに、原告は、引用意匠の踵補強片は三角形状である旨主張するが、審決の認定するとおり、上辺を円弧状としていることは明らかであって、この点の原告の主張も理由がない。その他、原告がるる述べる点は、類否の判断に及ぼす影響の軽重をいう趣旨であれば格別(この趣旨としては後述する。)、一致点の認定の誤りをいう主張としては、いずれも採用することができない。
2 取消事由2(差異点の認定の誤り)について 審決は、本願意匠と引用意匠の差異点について、特に「主な差異点」(審決謄本2頁15行目)として、前記第3の2(1)で原告の引用する認定をするとともに、その他の差異点については、類否の判断中で、「その他にも請求人主張のライン部の形状の差異、爪先部及び踵部の各補強片の大小差等が認められるものの、それらは意匠全体の中で部分的かつ特徴のない微弱な態様差にすぎないことから類否判断上ほとんど問題にするに至らないものである。そして、これらの微弱な差異点を総合しても、意匠全体として、前記共通点を凌駕して類否判断を左右すると認めることはできない」(同3頁8行目〜13行目)との判断をしていることから、以下、差異点の看過をいう原告の主張については、当該差異点が類否の判断に及ぼす影響を踏まえて検討することとする。
(1) 原告は、本願意匠においては、履き口カバー部と各補強片が有機的に結合して固有の色分け模様を創出する視覚的効果を有するところ、審決は、この相乗効果を見落としている旨主張する。確かに、本願意匠における履き口カバー部、爪先補強片及び踵補強片は、いずれも本体部との明暗のコントラストが比較的明確な暗色とされているのに対し、引用意匠の履き口カバー部、爪先補強片及び踵補強片は、本体部との明暗のコントラストが明確でないという差異を認めることができる。そして、この点は、原告の主張する履き口カバー部の太さの差異及び爪先補強片の大きさの差異と相まって、本願意匠の履き口カバー部、爪先補強片及び踵補強片の強調された構成態様を形成することになり、これらがさほど目立たない引用意匠を対比した場合に、最も目につく差異点ということができる。
しかし、審決は、原告の主張するような履き口カバー部、爪先補強片及び踵補強片の有機的結合ないし相乗効果について直接触れていないものの、その具体的な要素というべき各部の明暗調子の差異(差異点1)、履き口カバー部の縦幅の差異(差異点2)、爪先部及び踵部の各補強片の大小差(審決謄本3頁8行目〜9行目)等については、明確に差異点として認定し、あるいは言及した上で、その類否判断に及ぼす影響について検討しているのであるから、ただちに差異点の認定に誤りがあったということはできない。また、実質的に見ても、本願意匠や引用意匠のように、太幅帯状の履き口カバー部、三日月状の爪先補強片及び山形状の踵補強片を有する長靴の先行意匠において、履き口カバー部、爪先補強片及び踵補強片の全部又は各補強片を同様の配色とし、その周囲とのコントラストを明確にする態様のものは、例えば、広島化成株式会社発行、平成9年7月4日特許庁意匠課受入の「AUTUMN&WINTER COLLECTION ’97」24頁〔乙第3号証の1〕4〜6段目所載のもの、同25頁〔同号証の2〕2、3段目所載のもの、前掲乙第5号証左欄所載の「グリップGT780UL」等に示されているように、広く採用されているありふれた態様にすぎないといわざるを得ない。しかも、これらの意匠において、形状及び模様を共通としつつ、これに明暗の調子の異なる彩色を施すことにより様々なカラーバリエーションを用意するということは、ごく普通に行われている常套的な手法にすぎないことが認められる。これらの点を総合すれば、上記の差異点が、本願意匠と引用意匠との類否の判断に決定的な影響を及ぼすとは考えられない。
したがって、上記の点について、審決に差異点の認定の誤りがあったとはいえない。
(2) 次に、原告は、引用意匠においては、「A」マークが波形ラインとともに最大の特徴的模様を形成しているのに、これを看過した誤りがある旨主張するところ、確かに、審決は、引用意匠の「A」マークについて直接言及していない。しかし、この「A」マークは、ありふれた活字体を用いて、胴部側面に白抜きの「A」の文字を表しているにすぎないものであって、字体、配置、大きさ、色づかい等において、格別の意匠的な工夫が施されているとは認められないものである。しかも、長靴の胴部側面に、商品名やメーカー名又はその略称等をワンポイント的に用いることは、前掲乙第3〜第5号証(各枝番を含む。)所載の各意匠に普通に見られるありふれた態様にすぎない。そうすると、上記のような「A」マークが引用意匠の最大の特徴であるとは、到底認められず、これを差異点として明示しなかったことが誤りとはいえない。
(3) 進んで、原告が重要な差異点の看過として主張する点について、以下、順次検討する。
ア 原告は、履き口カバー部の高さの差異並びに爪先補強片及び踵補強片の大きさの差異について主張する(前記第3の2(3)ア、イ)が、これらの差異について、審決が明示的に言及していることは上記のとおりであるから、これらの差異点を看過した誤りがあるとはいえない。
イ 原告は、本願意匠と引用意匠のライン部の波形模様形状の差異及び背面垂直太帯片との一体化について主張する(前記第3の2(3)ウ)。しかし、本願意匠のライン部も、引用意匠のライン部も、ともに、正面甲部から胴部にかけて設けられた横長リブによる突起模様のやや上から、くるぶし付近に向けて後方にやや膨らんだ曲線を描いて急激に下がり、くるぶし付近からは後方に向けて曲線の向きを変えて成るライン模様を構成する点で、その全体における配置及び波形模様形状を共通にしているというべきである。なお、両意匠のライン部の、特に後側の配置が異なることは原告の主張するとおりではあるが、このような波形のライン部を有する長靴の先行意匠において、当該ライン部の波形模様は極めて多様な形状のものが示されている(前掲乙第3号証の1、2参照)中で、両意匠の上記のようなライン部の波形模様形状は、むしろ共通点が顕著というべきものであり、上記のようなライン部後側の配置の差異は、例えば、同号証の1の4段目所載の先行意匠に見られるバリエーションの範囲内のものにすぎないというべきである。
なお、原告は、ライン部と背面垂直太帯片との関係についても主張するが、一般に、長靴の意匠において、背面からの観察でしか看取することのできない態様が看者の注意を惹くとは考え難い上、本願意匠の背面垂直太帯片についても、
構造上の継ぎ目と思われる中央線に沿って太帯を配したにすぎない態様のものであって、格別に看者の注意を惹くような要素があるとは認められないものである。
そうすると、原告の主張する上記の点をもって、差異点を看過した違法があるということはできない。
ウ 原告は、引用意匠では靴底部と靴甲部を隔てる縁取りテープが目立つ点で本願意匠と視覚的印象が異なる旨主張する(前記第3の2(3)エ)が、本願意匠の靴底部上端周縁にも、これに沿った細横線による縁取りが認められるから、その差異は、当該縁取り部の明暗の調子によるものにすぎないと解される。そして、長靴の各部において、明暗の調子の異なる様々なカラーバリエーションを用いることがごく普通に行われている常とう的な手法にすぎないことは前示のとおりであって、
これが類否の判断にさほど影響を及ぼすとは考えられないから、これらの点を差異点として明示的に認定しなかったことが誤りということはできない。
エ 原告は、本願意匠の靴底部について、甲部外周面より一回り大きい外周面、鋸歯、高いヒール及び特徴的なノンスリップパターンを有する点で引用意匠のものと異なる旨主張する(前記第3の2(3)オ)。しかし、引用意匠の靴底部もヒールを有し、底面の具体的な態様は明らかでないものの、凹凸を備えること自体は認められるものである。そうすると、これら原告の主張する差異点は、長靴全体の中で比較的目立ちにくい部分の微細な差異をいうものにすぎず、両意匠の類否の判断に影響を及ぼすような差異ということはできない。
オ 原告は、本願意匠では、胴部が漏斗型を形成し、丸みを帯びた爪先部と後方へ膨出した踵部を有するのに対し、引用意匠では、胴部はほぼ同じ太さの円筒形であり、爪先部分も偏平形状である旨主張する(前記第3の2(3)カ)。しかし、
引用意匠において、胴部が、履き口部から足首に向けて先すぼまりに構成されるとともに、後部足首付近に絞り込みが見られる点、爪先部が上方に膨らむ丸みを帯びている点、踵部が後方に若干張り出している点において、本願意匠の態様と、程度の差こそあれ、基本的には軌を一にするものである。そして、その程度の差も顕著なものとはいい難く、このような共通する構成態様からもたらされる印象の共通性を上回るものとは認められない。
(4) 以上によれば、原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(類否判断の誤り)について (1) 上記2の認定判断も踏まえて、本願意匠と引用意匠とを全体として観察するに、両意匠とも、膝下長さのいわゆる長靴型のものであって、太幅帯状の履き口カバー部、ほぼ三日月状の爪先補強片、上辺を円弧状とする踵補強片を有するとともに、正面甲部から胴部にかけて横長リブ数本による突起模様を設け、そのやや上から、踵補強片上端部に向かう波状のラインを配し、帯状靴底外周面を設けた基本的構成態様において共通するものということができる。そして、具体的な構成態様においても、上記ライン部の波形模様(上記(1)ウ参照)のほか、靴底部上端周縁に沿った細横線を配した態様、履き口カバー部正面上方の紐通し穴から緊締用細紐を結んで垂下した態様等において共通するものである。これらの共通点は、両意匠の形態全体を見た場合に、その大部分を占めるものであって、特に、履き口カバー部、爪先補強片、踵補強片、リブによる突起模様及び波形ラインといった各部の共通する構成態様は、いわゆる長靴型としてその全体形状がおのずと規定されやすい長靴の意匠にあって、その美的印象を左右する変化を与えることとなり、看者の注意を最も惹き、意匠全体の基調を決定付ける支配的な要素となると解するのが相当である。
他方、本願意匠と引用意匠の主要な差異点は、本願意匠における履き口カバー部、爪先補強片及び踵補強片は、本体部との明暗の明確なコントラスト並びに履き口カバー部の幅の太さ及び爪先補強片の大きさが相まって、これらの構成部分が強調されているのに対し、引用意匠の履き口カバー部、爪先補強片及び踵補強片は、本体部との明暗のコントラストが明確でなく、これらの構成部分がさほど目立たない点であると解されるが、この差異点に係る本願意匠の態様が、先行意匠に広く採用されているありふれた形態にすぎないことは前示のとおりであって、これが上記の共通点に係る両意匠の支配的な美的印象を上回るほどの影響を両意匠の類否の判断に及ぼすとはいえない。
そして、その余の差異点として原告のるる主張する点は、いずれも共通点に埋没する程度の微差にすぎないものか、ありふれたバリエーションの範囲内のもの、あるいは長靴にあっては看者の注意を惹かない目立たない背面や底面の態様に係るものであることは、これまでに判断したとおりであって、これらの点が、両意匠の類否の判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまるといわざるを得ない。
(2) 原告は、引用意匠は、斜視図のみをもって特定されるものであり、側面観察以外では、その形状が不明である旨主張する。確かに、引用意匠において、背面及び底面の態様において明らかでない部分はあるが、これらの点が、本件における本願意匠との類否の判断に当たってさほど重要な要素となり得ないことは前示のとおりであるから、上記のような明らかでない態様があるからといって、そのことのみから、引用意匠が、意匠法3条1項3号を適用する根拠としての適格性を欠くものとはいえない。
また、原告は、ある物品分野において常とう的に行われている周知の手法は意匠上特段高く評価し得ないとの審決の判断手法は不合理である旨主張するが、
意匠の類否の判断上、両意匠の共通点と差異点が類否の判断に及ぼす影響を検討するに当たって、ある物品分野において常とう的に行われている周知の手法について、その重み付けを減殺するという手法自体、何ら非難するに当たらず、この点に関して原告のるる述べる点は、審決の説示の趣旨を正解しないものとして失当というべきである。
(3) したがって、原告主張の取消事由3も理由がない。
4 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利
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