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関連審決 無効2000-35237
関連ワード 意匠の保護 /  意匠の創作 /  物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  創作容易(容易の創作) /  意匠公報に掲載 /  公然知られた(3条1項1号) /  広く知られた /  意匠の属する分野 /  通常の知識を有する者 /  登録意匠 /  出願変更(13条) / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 281号 審決取消請求事件
原告三橋良夫
訴訟代理人弁護士 吉武賢次
同 神谷巌
被告 株式会社サンヨーケミカル
訴訟代理人弁理士 清原義博
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/01/31
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2000-35237号事件について平成13年5月8日にした審決を取り消す。
前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は、意匠に係る物品を「事務用パンチのパンチ刃」とする登録第1000668号意匠(昭和62年7月27日出願された特願昭62-185443号から出願変更、平成9年10月3日設定登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。
被告は、平成12年4月27日、本件意匠の登録無効の審判を請求し、特許庁は、この請求を無効2000-35237号事件として審理した結果、平成13年5月8日、「登録第1000668号の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は同月22日に原告に送達された。
2 審決の理由 別紙審決書の写しのとおり、本件意匠は、その形態が願書添付図面に示されるとおりのものであるところ(審決書別紙第一「本件登録意匠」参照)、本件意匠の登録出願前に、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、日本国内ににおいて広く知られた公開特許公報所載の公開昭和56年5月28日の特開昭56-62799号(甲第3号証)の第2図及び第3図(審決書別紙第二「甲号意匠」参照、以下「引用意匠」という。)に示される形状に基いて容易に意匠の創作をすることができたものといわざるを得ないから、意匠法(平成10年法律第51号による改正前のもの、以下「法」という。)3条2項の規定に該当し、その登録は無効とすべきである旨認定、判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
1 取消事由1(引用意匠の周知性認定の誤り) 審決は、引用意匠について、本件意匠の意匠登録出願前に日本国内において広く知られた形状であると誤って認定した結果、当業者がこれに基いて容易に創作をすることができたものと判断した点において違法があり、取り消されるべきである。
(1) 「広く知られた」の意義 法3条2項規定の日本国内において「広く知られた」状態とは、単に「公然知られた」状態では足りず、日本国内において現実に広く知られた状態を意味するものと解すべきである。この点は、現行意匠法の規定と対比すれば明らかである。すなわち、平成10年法律第51号により改正された現行法にあっては、3条2項は「日本国内・・・において公然知られた」と規定されており、このように改正された趣旨は創作容易性の水準を引き上げるためであるとされている。
そこで、「公然知られた」状態と「広く知られた」状態との違いについてみると、意匠審査の運用基準(平成10年12月特許行発行、甲第2号証)によれば、
公然知られた(公知)」とは、不特定多数の者にとって、単に知られ得る状態にあるだけでは足りず、現実に知られている状態にあることを要すると説明され、
広く知られた」とは、公知のうち、その名称をいえば、証拠を出すまでもなく思い浮かべることができる状態であると説明されている。
判例(東京高判昭和63年7月26日、無体集20巻2号333頁)によれば、
「本条第2項の規定は、意匠登録出願前に、その出願にかかる意匠がすでに日本国内において広く知られている、いわゆる周知の形態にもとづいて容易に創作をすることができるものであるときは、意匠としての創作性が低く、意匠権という独占的、排他的な権利を付与することが相当でないことを理由として、右出願にかかる意匠について意匠登録を受けることができないとしたものと解されるから、右にいう周知の形態であるというには、その意匠が単に不特定多数の人に知られ得る状態におかれただけでは足りず、当該意匠の属する分野において、通常の知識を有する者、すなわち当業者がその形態を現実に認識していたことが必要であって、その意匠の形態について、当業者である創作者が知らないということができないほど知れわたっていることを要する」旨判示されている。
(2) 引用意匠の周知性について 引用意匠は、特開昭56-62799号公報(甲第3号証)の第2図及び第3図に記載されており、同公報によって、「公然知られた」状態となっていることは明らかであるが、これによっては、いまだ「広く知られた」状態となっているとはいえない。
ところが、審決は、引用意匠について、日本国内において現実に広く知られたことを認めるに足りる証拠が他にないにもかかわらず、上記公報に記載されたとの一事をもって広く知られたものと即断したものであって、かかる認定判断は、経験則に反し、また、証拠に基づかないものというべきである。
(3) 被告の主張に対する反論 被告は、判決例を挙げて、刊行物記載のものが公知であるか、あるいは、周知であるかの判断は、「引用意匠の公知の期間」と「本件意匠と引用意匠の物品分野の異同」等を判断の根拠にして判断されなければならない旨主張している。
「周知」の語について、「広辞苑」(甲第4号証)には、「あまねく知ること、
知れわたっていること」の意味として紹介されており、また、「周知」の語に相当する概念は、意匠法の他にも、商標法4条1項10号又は32条1項に「需要者の間に広く認識されている商標」、不正競争防止法2条1項1号に「需要者の間に広く認識されているもの」とそれぞれ規定されており、これらの「周知」についての各法律の法意は、「広く知られている事実状態」を指すものと理解、認識し得るところであるから、単に「知られ得る状態」にあっただけでは足りず、不特定多数の者に現実に広く知られていなければ、周知であるとはいえないものである。
特許公報や公開公報は専門的な資料であるから、一般人なかんずく研究者や開発者を除き取引業界における人であっても頻繁に見るものとはいい難いばかりでなく、公開公報は審査されていないものも含まれているものであるから、その発行量が多いことも併せ考えると、引用意匠が掲載されている特開昭56-62799号公報がたとえ約6年間公然知り得る状態に置かれていたとしても、この一事をもって不特定多数の者に現実に広く知られていた、すなわち「周知」の状態にあったとは到底いえないものであり、被告の主張は、理由がない。
2 取消事由2(創作容易性の判断の誤り) 審決は、本件意匠について、引用意匠から容易に創作をすることができたものと判断した点において、創作容易性の判断を誤った違法があり、取り消されるべきである。
(1) 引用意匠は、穿孔器におけるパンチ刃であって、上方に突出する取付け筒を設けたものである。この上方に突出する取付け筒は、これを本体の取付孔に嵌合させるものであるから、その外周面を作用面とするものである。
これに対し、本件意匠は、穿孔器におけるパンチ刃であって、下方に突出する取付け筒を設けたものである。この下方に突出する取付け筒は、この内側の孔を突出した取付軸に嵌合させるものであるから、その内周面を作用面とするものである。
このように、本件意匠と引用意匠とは、その取付構造を異にするものであることは明らかである。
ところで、意匠法上、「意匠」とは、物品の形状模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものであるから、専ら物品の形態に関する創作を保護するものであって、特許法又は実用新案法で保護される技術思想を含んでいないことは論ずるまでもない。
したがって、意匠の創作容易性を判断する場合、技術思想を同一にする、すなわち、技術思想の変更を伴わない範囲内での創作容易性が問題とされるのでなければならない。
本件についてこれをみるに、上記のとおり、引用意匠における上方に突出した取付け筒は、これを取付孔に嵌合させるものであり、その外周面を作用面とする構造であるから、この構造を前提として意匠の創作がなされる。そして、かかる意匠の創作が容易であるか否かは、その創作の範囲における形態の変化性について判断されるべきである。
これに対し、本件意匠における下方に突出した取付け筒は、その内側に設けた孔を突出した取付軸に嵌合させる構造のものであるから、かかる構造を前提として意匠の創作がなされるものである。
そうすると、引用意匠から本件意匠を創作するためには、取付構造の変更までも含めた創作を行うこととなるが、このように意匠の創作にとどまらず、技術思想の創作ないし変更をも伴う場合には、意匠の創作の範囲を超えたものとなり、推考容易性を判断すべき枠を越えたものとなるというべきである。
したがって、審決はかかる枠を越えて創作された本件意匠を引用意匠から容易に創作をすることができたものと判断した点において違法であり、取り消されるべきである。
(2) 被告の主張に対する反論 被告は、意匠法における意匠の保護範囲に特許法及び実用新案法にいう技術思想の創作が含まれないことはいうまでもなく、意匠法に技術的思想の概念を持ち込めない以上、創作物の技術的構成の相違、すなわち技術的思想の相違によって意匠の創作容易性が左右されることはあり得ない旨主張している。
本件意匠における意匠の創作容易性についてみると、本件意匠と引用意匠は、意匠に係る物品の基本的構造が異なるものである。
したがって、意匠の創作はその範囲においてなされるものであるから、これを同一の創作範囲にあるものとして意匠の創作の容易性を判断するのは違法である。
被告の反論の要点
1 取消事由1(引用意匠の周知性認定の誤り)に対して (1) 法3条2項が規定する周知の意義についてみると、「意匠」(高田忠著、有斐閣発行、乙第1号証)によれば、「日本国内において広く知られたというのは、日本国内の一般大衆の間で広く知られている場合だけでなく、当業者の間で広く知られていれば十分である。またここで「広く」とは一人や二人では広くとはいえないが、テレビで何度も放送されたり、業界雑誌等に発表されて何千部も印刷されて配布されたり、実用新案公報、意匠公報などに掲載されれば広く知られたと見てよい。」とされている。
また、東京高判平成12年6月14日(平成11年(行ケ)第222号審決取消請求事件、乙第2号証)は、「ある意匠が周知であるというためには、当該意匠が一般に知られ得る状態に置かれただけでは足りず、当業者の多くが当該意匠を現実に認識していることを要すると解すべきであるが、他方、公開実用新案公報がその出願に係る技術内容を一般公衆に知らせることを目的として広く頒布されていることは明らかであり、また、上記各公開実用新案公報の公開日は、前記認定のとおり、本件出願の約6年ないし11年前であるうえ、その考案は、いずれも本件意匠の分野に属する溝蓋に関するものであって、溝蓋に関する当業者の目に触れることの多い文書というべきである。したがって、上記各考案の意匠が側溝用溝蓋としてありふれたものであることも考え併せると、これら意匠が本件出願当時、当業者に周知の形態であったとする審決の認定に誤りはない。」旨判示し、東京高判平成11年7月13日(平成10年(行ケ)第42号審決取消請求事件、乙第3号証)は、「公開実用新案公報は、実用新案登録出願に係る技術内容を一般公衆に知らせることを目的として特許庁長官が刊行頒布するものであって、全国数十か所以上の公衆閲覧所のほか、多くの団体、企業にも頒布されていることが認められる。そして、甲第7ないし第9号証の2刊行物が刊行されてから、本件登録意匠の登録出願まで5年以上を経過しているから、この間に上記各刊行物ないしその複写物を閲覧した者は非常に多数にのぼるものと推認される。したがって、甲第7ないし第9号証の2刊行物記載の意匠は、本件登録意匠の登録出願前に日本国内において広く知られていたことが認められる。原告は、公開実用新案公報の発行件数が膨大であるから、当業者にとって、そのすべてを閲覧して内容を精査することが不可能であるから、甲第7ないし第9号証の各2刊行物記載の意匠は、本件登録意匠の登録出願前に日本国内において広く知られていなかった旨主張する。しかし、当業者は、その取り扱う物品等に関する工業所有権関係の情報に大きな関心を持ち、これを収集しているものと容易に推認されるところであるから、原告の主張は、採用することができない。」と判示している。
以上の文献及び判例によれば、実用新案公報、意匠公報、公開特許公報等の官報に掲載され意匠登録出願前に何年にもわたって公開された意匠は、法3条2項に規定される「広く知られた」意匠、すなわち周知の意匠であると見てよいことは明らかである。
なお、原告が引用している東京高判昭和63年7月26日と本件とでは事案の背景が全く相違している。
すなわち、原告が引用する上記判例における引用意匠は、その意匠に係る物品を「卓上電気計算機」とする意匠であって、昭和55年5月8日発行の意匠公報に掲載されたものであり、他方、上記判例における出願意匠は、その意匠に係る物品を「チョコレート」とする意匠であって、引用意匠が上記意匠公報に掲載された約4ヶ月後の同年9月29日に出願されたものである。そこで、上記判例は、@引用意匠の意匠公報発行後わずか4ヶ月後という短期間で出願意匠が出願されていること、A 引用意匠と出願意匠とでは、その意匠に係る物品が、それぞれ「卓上電気計算機」(引用意匠)と「チョコレート」(出願意匠)であると全く異にするため、チョコレートの当業者が引用意匠を見る蓋然性は極めて低いことを理由に、引用意匠が周知であるとは認定することはできないと結論付けている。
上記判例によれば、法3条2項規定の「広く知られた」を認定するに当たって、
「引用意匠の公知の期間」と「本件意匠と引用意匠の物品分野の異同」を判断の根拠にしていることが分かる。
これに対し、本件では、@引用意匠(特開昭56-62799号(昭和56年5月28日発行)における第2及び3図)の公報発行後、6年余に及ぶ長期間を経て本件意匠(昭和62年7月27日出願(特許出願日援用))が出願されており、A引用意匠(パンチ刃)と本件意匠(パンチ刃)は物品が同一であるため、本件意匠に係るパンチ刃の当業者が引用意匠を見る蓋然性は極めて高い(ちなみに、本件の場合は、引用意匠の出願人と本件意匠の出願人が同一であるから、本件意匠の創作者が引用意匠を見る蓋然性はほぼ100%であると推認することができる。)のであるから、本件意匠の出願時において、引用意匠は、公知性の平均レベルをはるかに超えて周知性を具備するものになっていたと見るべきである。
(2) 原告は、「広辞苑」に掲載された「周知」の意義を挙げるとともに、
「広辞苑」に示された一般的な「周知」の程度が、意匠法、商標法、不正競争防止法の各法律において画一的に当てはまる旨を主張している。
しかしながら、法3条2項における「日本国内において広く知られた」の程度、
商標法4条1項10号における「需要者の間に広く認識されている」の程度、不正競争防止法2条1項1号における「需要者の間に広く認識されている」の程度は、
それぞれ法の趣旨に応じて個別に解釈されるべきものであって、画一的かつ固定的に解釈されるべきものではなく、原告の上記主張は失当である。
2 取消事由2(創作容易性の判断の誤り)に対して 原告は、意匠の創作に加えて、技術思想の創作ないし変更をも伴う場合には意匠の創作の範囲を越えたものとなり、推考容易性を判断すべき枠を越えたものとなるから、本件審決はかかる枠を越えて創作された本件意匠を引用意匠から容易に創作をすることができたと判断した点において違法であり、取り消されるべきである旨主張しているる。
しかしながら、原告の上記主張の論旨には矛盾があり、決して認められるべきものではない。
すなわち、原告は、一方では、「意匠法上「意匠」とは物品の形状模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるものであるから、専ら物品の形態に関する創作を保護するものであって、特許法又は実用新案法で保護される技術思想を含んでいないことは論ずるまでもない。」と主張し、意匠法における意匠の保護範囲が技術思想とは無関係である旨を主張している。
それにもかかわらず、原告は、他方では、「引用意匠から本件意匠を創作するためには取付構造の変更までも含めた創作を行うこととなるが、このように意匠の創作にとどまらず、技術思想の創作ないし変更をも伴う場合には、意匠の創作の範囲を越えたものとなり、推考容易性を判断すべき枠を越えたものとなるというべきである。」と主張し、ここでいきなり技術思想の概念を持ち出し、これを意匠の創作容易性否定のための根拠としている。
意匠法における意匠の保護範囲に特許法及び実用新案法にいう技術思想の創作が含まれないことはいうまでもないが、意匠法に技術的思想の概念を持ち込めない以上、創作物の技術的構成の相違、すなわち技術的思想の相違によって意匠の創作容易性が左右されることはあり得ない。
したがって、原告の上記主張は、明らかに失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用意匠の周知性認定の誤り)について 引用意匠は、昭和56年5月28日公開の特開昭56-62799号の公開特許公報の第2図及び第3図に示された形状のものであり、他方、本件意匠は、昭和62年7月27日に出願された特願昭62-185443号から出願変更されたものであることは争いがなく、これによると、本件意匠は、引用意匠が公開された後、
6年以上経過して出願されたものと認められる。
また、本件意匠は、意匠に係る物品を「事務用パンチのパンチ刃」とするものであるところ、甲第3号証によれば、引用意匠の形状が示された特開昭56-62799号の発明に係る物品は、「穿孔器におけるパンチ刃」であり、「用紙等に孔あけを行う穿孔器のパンチ刃に関するもの」(甲第3号証1頁(2)欄20行ないし2頁(3)欄1行)であると認められるから、両意匠に係る物品は、相互に同一のものであることは明らかである。
以上の各事実によれば、他に特段の事情がない限り、本件意匠の登録出願前において、引用意匠に係る形状は、これと同一の物品に係る本件意匠の属する分野における当業者の間に、既に広く知られ、現実に認識されていたものと推認することができるというべきであり、この認定を妨げるに足りる特段の事情ないし証拠は認めることができない。
したがって、これと同旨の審決の認定に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は、採用することができない。
2 取消事由2(創作容易性の判断の誤り)について 意匠法上の「意匠」とは、物品の形状模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものであるから(意匠法2条1項)、同法は、専ら物品の形態に係る創作を保護するものであって(同法1条参照)、特許法又は実用新案法で保護される技術的思想の創作(特許法、実用新案法各1条2条1項参照)を保護するものでないことは明らかである。
したがって、引用意匠と本件意匠に係る物品が同一である場合に、物品ないしその構造が有する技術的思想がそれぞれ相違しているか否かということは、両意匠間の創作容易性の判断に直接かかわるものではないというべきであり、原告の「両意匠間で技術思想の創作ないし変更をも伴う場合には、意匠の創作の範囲を越えたものとなり、推考容易性を判断すべき枠を越えたものとなるというべきである」旨の主張は、到底採用することができない。
また、原告は、本件意匠と引用意匠は、意匠に係る物品の基本的構造が異なるものであり、意匠の創作はその範囲においてなされるものであるから、これを同一の創作範囲にあるものとして意匠の創作の容易性を判断するのは違法であるとも主張している。
しかしながら、本件意匠と引用意匠との間において、その基本的構成態様(構造)において相違する点があることから、直ちに両意匠間の創作容易性が否定されたり、同一の創作範囲にないものと解すべき根拠はなく、原告の上記主張は、理由がない。
そして、甲第1号証(審決書)によれば、審決は、原告が本件意匠と引用意匠との相違点として指摘する「パンチ刃の取付け筒」に関して、本件意匠の基本的構成態様として、「中央の取付孔を、その取付孔の外周から垂下する略短円筒状に形成している点」を認定した上で(5頁3行ないし8行)、「この種の物品において、
取付け筒、すなわち、嵌合部を筒状に形成することは極く一般的であり、その嵌合部を上に突出させるか、下方に垂下させるかは、設計上適宜選択されるものであることを勘案すると、その点に特筆すべき創作は見いだせないといわざるを得ない。」から、本件意匠の取付け筒は、引用意匠に係る上方に突出させる態様の周知の形状の取付孔部を、当業者であれば極めて容易に着想し得る「取付孔の外周から垂下する略短円筒状」に形成した程度のものであって、当業者が容易に意匠の創作をすることができたものである旨の判断をしており(5頁28行ないし6頁32行)、その判断過程において誤りはないものと認められる。
したがって、原告の取消事由2の主張も、採用することができない。
3 結論 以上のとおり、原告主張の審決の取消事由はすべて理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 橋本英史
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