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関連審決 審判1998-19746
関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  意匠の類否 /  願書の記載 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 330号 審決取消請求事件
原告 株式会社大廣製作所
訴訟代理人弁理士 早瀬憲一
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 遠藤京子、藤木和雄、茂木静代
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/06/07
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成10年審判第19746号事件について平成12年7月18日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成8年2月9日、意匠に係る物品を「理美容用椅子の脚」とし、形態を別紙本願意匠図面のとおりとする意匠(本願意匠)につき意匠登録出願(平成8年意匠登録願第3171号)をしたが、平成10年10月27日拒絶査定があったので、平成10年12月14日審判の請求をし、平成10年審判第19746号事件として審理された結果、平成12年7月18日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年8月7日原告に送達された。
2 審決の理由の要点 (1) 引用意匠 審査手続において、拒絶の理由として引用した意匠(引用意匠)は、本願の出願日前、平成7年4月7日に出願され、平成10年2月27日に設定の登録がなされた意匠登録第1009382号の意匠であって、願書の記載によれば、意匠に係る物品が「理美容用椅子昇降用脚」であって、形態は、願書の記載及び願書に添付した図面の記載のとおりである(本判決別紙引用意匠図面参照)。
(2) 対比 そこで、本願意匠と引用意匠を比較すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、また、形態については、主として以下の共通点と差異点がある。
すなわち、共通点として、(1)全体が、基台部と昇降用アーム部から構成されるものであって、基台部は、台座部、ポンプカバー部及び足踏みスイッチ部から成り、台座部をやや厚みのある平面視略隅丸縦長長方形状の板体とし、ポンプカバー部を、やや扁平の略縦長直方体状の略後半部上方に、前部中央に開口部を有する略直方体状の突出部を段状に形成して、側面視で略「L」の字状を呈するカバー体とし、それを台座部上面略中央に突設し、ポンプカバー部後方の台座部上面中央に略横長平板体状の足踏みスイッチ部を突設したものとし、昇降用アーム部を、やや太い略角棒状とした昇降用外アームの前端上面に小開口部を設け、そこに、側面視で略「へ」の字状に屈曲し、昇降用外アームよりもやや短くて、一回り細い略角棒状とした昇降用内アームの前端を挿入して、昇降用外アームの前端左右両側面に回動自在に軸着し、昇降用外アームの後端をポンプカバー部前面の開口部に挿入して回動自在に装着したものとし、さらに、昇降用内アームの略後端上面には、小円柱状の座板支持ブラケットを立設したものとし、そうして、使用時には、基台部に内在する駆動体により、昇降用外アームと昇降用内アームとが連動して、座板を水平状態を保持して上下に平行移動させるものとした基本的な構成態様のものである点、
また、その具体的な態様において、(2)基台部の台座部につき、平面視においてやや大きな丸みを付けた略隅丸縦長長方形状を呈し、その前後両端を外方に略弧状に膨出し、横幅を前方に向かって漸次やや幅狭としたやや厚みのある板体として、
下部周側面を垂直面とし、その上部全体を基台部略中央のポンプカバー部下端に向かって内上がりのやや緩やかな斜面状としている点、(3)ポンプカバー部につき、やや扁平の略縦長直方体の略後半部上方に略直方体状の突出部を段状に形成して、下段部と上段部(後部突出部)を略同高とし、縦幅が台座部縦幅の略6割で、
高さは台座部横幅の略4割の大きさのものとし、平面視では略隅丸縦長長方形状を呈し、その前両隅の丸みはやや大きく、後両隅の丸みはやや小さくし、正面視では略上隅丸長方形状を呈し、その上両隅の丸みはやや大きくし、横幅を下方に向かって漸次やや幅広とし、側面視では上隅丸の略「L」の字状を呈し、その前上隅の丸みはやや大きく、後部突出部の後上隅の丸みはやや小さくしたものとし、略直方体状の後部突出部は、前部の縦中央にやや大きな略太帯状の開口部を設け、その両隣のほとんどを略前下がり状の面に形成して、その下端を平面視で左右両端から開口部下端までぐるりと巡る、やや大きく膨出する略弧状を呈するものとし、面切り替わりの境界部の上面の左右方向から左右両側面の略上下方向にかけては稜線部を表したものとし、また、周側面略下端寄りには横方向に沿ってわずかに段部を形成して、略横線状の稜線部を表し、後面略中央にはスイッチを配した略隅丸矩形状の浅い凹陥部を形成している点、(4)足踏みスイッチ部につき、ポンプカバー部横幅と略同幅とした略横長平板状のものとし、周側面は外下がりの斜面状とし、上面縦中央にはやや幅広の浅い凹陥部を設け、その両隣の左右上面を足踏み部としたもので、ポンプカバー部の後端部に接して突設し、下端外方には台座部に被着してわずかに薄く突出する板状フランジ部を連設している点、(5)昇降用アーム部につき、昇降用外アームの太さをポンプカバー部横幅の略3割とし、長さはポンプカバー部の縦幅と略同程度の長さとして、その前端を下部隅丸の前下がりの斜面状とし、座板支持ブラケットは、下部に小円盤状のフランジを有し、その中央に小円柱状の軸を立設して成るものとし、昇降用内アームの略後端には、座板支持ブラケットのフランジ押さえ棒を挿入した略小円筒状の突出部を略水平に連設している点、
がある。
一方、差異点として、(イ)台座部につき、本願意匠は、平面視において、左右両端及び前後両端を外方にわずかに膨出する略弧状としているのに対して、引用意匠は、平面視において、左右両端を直線状とし、後端を外方にわずかに膨出する略弧状とし、前端は外方にやや大きく膨出する略弧状としている点、(ロ)ポンプカバー部につき、本願意匠は、後部突出部前部の開口部両隣全体を略前下がり状の面に形成して、該部を略球面状の膨出面とし、また、略下端寄りに、前面左右両端寄りの下端から立ち上がり、左右両側面の略下端寄りを水平に走り、その後端寄りでやや上方に膨らみ、後面左右両端寄りの下端まで達する、わずかに突出する段部を形成して、略横帯状の薄い突出面を表しているのに対して、引用意匠は、後部突出部前部の開口部両隣を、その後部をやや残して略前下がり状の面に形成して、該部を斜面状とし、また、略下端寄りに、左右両側面の略前端寄りの下端から立ち上がり、略下端寄りを水平に走り、そのまま後面を水平に巡る、わずかに窪む段部を形成して、略横帯状の浅い凹陥面を表している点、(ハ)足踏みスイッチ部につき、
本願意匠は、平面視略横長長方形状の平板状として、後両隅はやや大きな隅丸とし、前端全体をポンプカバー部の後下端に接する略凹弧状とし、中央の凹陥部を平面視で前すぼまりの略卵形状とし、左右それぞれの足踏み部に「D」の字状又は「U」の字状の突条を表し、その上面をわずかに後下がりの斜面状とし、下端に連接した板状フランジ部をポンプカバー部横幅と略同幅の略矩形状として、ポンプカバー部後下端から台座部後端までの台座部上面略中央を薄く覆うものとしているに対して、引用意匠は、平面視略横長長円形状の平板状とし、前端中央部がポンプカバー部の後下端に接するものとし、中央の凹陥部を平面視で一定の横幅の略太帯状とし、足踏み部上面を水平面とし、下端に連接した板状フランジ部をポンプカバー部の後下端から台座部後端までの台座部上面全体を薄く覆うものとしている点、
(ニ)昇降用アーム部につき、本願意匠は、昇降用内アームの後端を垂直軸の略円柱状に形成して上部に座板支持ブラケットを突設し、その後部に斜め前方略水平に、フランジ押さえ棒を挿入した略小円筒状の突出部を連接しているのに対して、
引用意匠は、昇降用内アームの後端で、座板支持ブラケット突設位置の後方に、フランジ押さえ棒を挿入した略小円筒状の突出部を水平に連接している点、がある。
(3) 判断 そこで、上記の共通点と差異点について総合的に検討するに、共通点については、(1)の基本的な構成態様の共通点は、両意匠の形態の全体にかかわりその骨格を構成するところであり、具体的な態様の共通点のうち、(3)の点は、基台部の相当部分を占めて台座部から大きく突出するポンプカバー部全体に係り、特に、
やや扁平の略縦長直方体状の略後半部上方に略直方体状の突出部を段状に形成して、平面視では略隅丸縦長長方形状を呈し、正面視では略上隅丸長方形状を呈し、
側面視では上隅丸の略「L」の字状を呈するものとし、略直方体状の後部突出部は、前部縦中央に略太帯状の開口部を設け、その両隣のほとんどを略前下がり状の面に形成して、その下端を平面視で左右両端から開口部下端までぐるりと巡る、やや大きく膨出する略弧状を呈するものとした点は、ポンプカバー部の特徴をよく表すところであり、その大きさについての共通点と相まってポンプカバー部の共通感を強く惹起するものであり、(4)の点は、足踏みスイッチ部の態様を具体的に表すものであり、特に、ポンプカバー部横幅と略同幅とした略横長平板状のものとし、上面縦中央にはやや幅広の浅い凹陥部を設け、その両隣の左右上面を足踏み部とし、ポンプカバー部の後下端に接して突設したものとした点は近接するポンプカバー部の共通点(3)と相まって基台部の共通感をより高める働きをし、また、
(2)及び(5)の点も、比較的類型的ではあるものの、全体のうちの相当部分を占める部分に係るものであって、両意匠の全体としての共通感を惹起する一定の働きをし、結局、これらの共通点は、それぞれが類否判断に一定の影響を及ぼし、特に、(3)のうち、ポンプカバー部の特徴をよく表すところとした点は、両意匠の特徴として類否判断に大きな影響を及ぼし、それぞれが相まって両意匠の全体の基調を形成しており、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものである。
一方、前記差異点について、(イ)の点については、台座部端部の膨出の有無及び膨出の程度に係る差異であるが、本願意匠の態様はむしろ普通のもので何ら特徴がなく、引用意匠も、その前端の膨出の程度がやや大きいものではあるが、特徴といえるほどのものでなく、全体としては具体的な態様(2)の台座部についての共通点に包摂される程度の小さな差異といえ、その類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。(ロ)の点については、周側面略下端寄りに形成した段部の差異は、本願意匠も引用意匠も、ともに、その段部は、薄くあるいは浅く段部を形成しただけの付加的なものであり、単に該部を突出させたか窪ませたかという程度の差異であって、さほど目立つものとはいえず、段部の形成範囲の差異も、周側面略下端寄り横方向に表したものとする両意匠の共通する印象を越えるものとはいえず、その差異は格別顕著なものでなく、全体としては軽微な差異にとどまり、また、開口部両隣の面の態様の差異は、その形成範囲及び具体的な形状において、特に、本願意匠は該部を球面状とし、引用意匠は該部を斜面状とした点でやや顕著なものであるが、この点を考慮したとしてもなお、具体的な態様(3)のやや扁平の略縦長直方体状の略後半部上方に略直方体状の突出部を段状に形成して、平面視では略隅丸縦長長方形状を呈し、正面視では略上隅丸長方形状を呈し、側面視では上隅丸の略「L」の字状を呈するものとし、略直方体状の後部突出部は、前部縦中央に略太帯状の開口部を設け、その両隣のほとんどを略前下がり状の面に形成して、その下端を平面視で左右両端から開口部下端までぐるりと巡る、やや大きく膨出する略弧状を呈するものとした特徴的な共通点の中で見られる差異であり、この共通点が惹起する強い共通感、さらには両意匠の共通点が奏する全体の基調を圧して両意匠に別異感を与えるには至らないというべきで、全体として見れば、ポンプカバー部についての共通点の中での部分的な差異といえ、周側面略下端寄りに形成した段部の差異と相まって相乗的な効果が生じることを考慮したとしてもなお、それらの差異が類否判断に及ぼす影響は軽微なものにとどまるといわざるを得ない。(ハ)の点については、板状フランジ部は、本願意匠も引用意匠も、ともに、台座部上面を薄く覆っただけのもので、ほとんど目立たず、本願意匠の中央凹陥部は、単に前すぼまりとした程度のもので、特徴といえるほどのものでなく、足踏み部の突状も小さな付加的なものにすぎず、結局、その差異は、前端全体をポンプカバー部の後下端に接するものとしたか否かの差異に帰結するものであり、本願意匠の前端全体をポンプカバー部の後下端に接するものとした点は、具体的な態様(4)の、ポンプカバー部横幅と略同幅とした略横長平板状のものとし、上面縦中央にはやや幅広の浅い凹陥部を設け、その両隣の左右上面を足踏み部とし、ポンプカバー部の後下端に接して突設したものとした共通点の中で見られる差異で、全体としてはこの共通点に包摂される程度の小さな差異にとどまり、その類否判断に及ぼす影響は微弱なものといえる。(ニ)の点については、昇降用内アームの後端付近という限られた部分に見られる差異であり、全体としては小さな差異であり、その類否判断に与える影響は微弱なものである。
そうして、上記の差異点が相まって相乗的な効果が生じることを考慮してもなお、前記両意匠の共通点が奏する全体の基調を覆すには至らないものである。
以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、その形態について、両意匠の共通点は、両意匠の全体の基調を形成し、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものであるのに対し、差異点は、いずれも類否判断に及ぼす影響が軽微ないし微弱なものであり、共通点を凌駕することができず、結局、両意匠は全体として類似するものといわざるを得ない。
(4) 審決の結論 したがって、本願意匠は、意匠法9条1項に規定する最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当せず、同条同項の規定により、意匠登録を受けることができない。
原告主張の審決取消事由
1 基本的な構成態様に係る共通点(1)の認定について 審決説示中の「共通点として、(1)全体が、基台部と昇降用アーム部から構成されるものであって、基台部は、台座部、ポンプカバー部及び足踏みスイッチ部から成り、台座部をやや厚みのある平面視略隅丸縦長長方形状の板体とし、ポンプカバー部を、やや扁平の略縦長直方体状の略後半部上方に、前部中央に開口部を有する略直方体状の突出部を段状に形成して、側面視で略「L」の字状を呈するカバー体とし、それを台座部上面略中央に突設し、ポンプカバー部後方の台座部上面中央に略横長平板体状の足踏みスイッチ部を突設したものとし、昇降用アーム部を、やや太い略角棒状とした昇降用外アームの前端上面に小開口部を設け、そこに、側面視で略「ヘ」の字状に屈曲し、昇降用外アームよりもやや短くて、一回り細い略角棒状とした昇降用内アームの前端を挿入して、昇降用外アームの前端左右両側面に回動自在に軸着し、昇降用外アームの後端をポンプカバー部前面の開口部に挿入して回動自在に装着したものとし、さらに、昇降用内アームの略後端上面には、小円柱状の座板支持ブラケットを立設したものとし、そうして、使用時には、基台部に内在する駆動体により、昇降用外アームと昇降用内アームとが連動して、座板を水平状態を保持して上下に平行移動させるものとした基本的な構成態様のものである点、」の部分のうち、「全体が、基台部と昇降用アーム部から構成されるものであって、基台部は、台座部、ポンプカバー部及び足踏みスイッチ部から成り、」の部分((a))は、これを認める。
「台座部をやや厚みのある平面視略隅丸縦長長方形状の板体とし、」の部分((b))は、これを否認する。「略隅丸」は本願意匠、引用意匠のいずれに対しても表現が不正確であり、本願意匠、引用意匠のそれぞれにおいては、それぞれ異なる態様で、「縦長長方形状」とはいえないものであるからである。
「ポンプカバー部を、やや扁平の略縦長直方体状の略後半部上方に、前部中央に開口部を有する略直方体状の突出部を段状に形成して、側面視で略「L」の字状を呈するカバー体とし、それを台座部上面略中央に突設し、ポンプカバー部後方の台座部上面中央に略横長平板体状の足踏みスイッチ部を突設したものとし、」の部分((c))は、これをおおむね認める。
「昇降用アーム部を、やや太い略角棒状とした昇降用外アームの前端上面に小開口部を設け、そこに、側面視で略「ヘ」の字状に屈曲し、昇降用外アームよりもやや短くて、一回り細い略角棒状とした昇降用内アームの前端を挿入して、昇降用外アームの前端左右両側面に回動自在に軸着し、昇降用外アームの後端をポンプカバー部前面の開口部に挿入して回動自在に装着したものとし、」の部分((d))は、否認する。すなわち、本願意匠においては、「昇降用外アームよりもやや短くて、」は、「昇降用外アームよりもかなり短くて、」とすべきである。
「さらに、昇降用内アームの略後端上面には、小円柱状の座板支持ブラケットを立設したものとし、」の部分((e))は、これを否認する。引用意匠では、「昇降用内アームの後端からかなり前端寄りの位置の上面に、座板支持ブラケットを立設して」いるものである。
「そうして、使用時には、基台部に内在する駆動体により、昇降用外アームと昇降用内アームとが連動して、座板を水平状態を保持して上下に平行移動させるものとした」の部分((f))は、「平行移動」は単に、「移動」でいいはずである点を除いてこれを認める。「基本的な構成態様のものである点、」については、これをほぼ認める。
以上のことより、審決のいう「本願意匠の基本的な構成態様」と考えるべきものは、「基台部は、台座部、ポンプカバー部及び足踏みスイッチ部から成り、台座部をやや厚みのある平面視で各隅を各辺とスムーズに連続するよう滑らかに丸くした縦長の台形形状に近い長方形状の板体とし、ポンプカバー部を、やや扁平の略縦長直方体状の略後半部上方に、前部中央に開口部を有する略直方体状の突出部を段状に形成して、側面視で略「L」の字状を呈するカバー体とし、それを台座部上面略中央に突設し、ポンプカバー部後方の台座部上面中央に略横長平板体状の足踏みスイッチ部を突設したものとし、昇降用アーム部を、やや太い略角棒状とした昇降用外アームの前端上面に小開口部を設け、そこに、側面視で略「ヘ」の字状に屈曲し、昇降用外アームよりもかなり短くて、一回り細い略角棒状とした昇降用内アームの前端を挿入して、昇降用外アームの前端左右両側面に回動自在に軸着し、昇降用外アームの後端をポンプカバー部前面の開口部に挿入して回動自在に装着したものとし、さらに、昇降用内アームの後端上面には、小円柱状の座板支持ブラケットを立設したものとし、そうして、使用時には、基台部に内在する駆動体により、昇降用外アームと昇降用内アームとが連動して、座板を水平状態を保持して上下に移動させるものとしたもの」である。
これに対し、審決がいう「引用意匠の基本的な構成態様」と考えるべきものは、
「基台部は、台座部、ポンプカバー部及び足踏みスイッチ部から成り、台座部をやや厚みのある平面視で各隅をそれぞれ膨出させた略縦長長方形状の板体とし、ポンプカバー部を、やや扁平の略縦長直方体状の略後半部上方に、前部中央に開口部を有する略直方体状の突出部を段状に形成して、側面視で略「L」の字状を呈するカバー体とし、それを台座部上面略中央に突設し、ポンプカバー部後方の台座部上面中央に略横長平板体状の足踏みスイッチ部を突設したものとし、昇降用アーム部を、やや太い略角棒状とした昇降用外アームの前端上面に小開口部を設け、そこに、側面視で略「ヘ」の字状に屈曲し、昇降用外アームよりもやや短くて、一回り細い略角棒状とした昇降用内アームの前端を挿入して、昇降用外アームの前端左右両側面に回動自在に軸着し、昇降用外アームの後端をポンプカバー部前面の開口部に挿入して回動自在に装着したものとし、さらに、昇降用内アームの後端からかなり前端寄りの位置の上面には、小円柱状の座板支持ブラケットを立設したものとし、そうして、使用時には、基台部に内在する駆動体により、昇降用外アームと昇降用内アームとが連動して、座板を水平状態を保持して上下に移動させるものとしたもの」である。
2 具体的な態様に係る共通点の認定について (1) 台座部の共通点(2)について 審決説示中の「また、その具体的な態様において、(2)基台部の台座部につき、平面視においてやや大きな丸みを付けた略隅丸縦長長方形状を呈し、その前後両端を外方に略弧状に膨出し、横幅を前方に向かって漸次やや幅狭としたやや厚みのある板体として、下部周側面を垂直面とし、その上部全体を基台部略中央のポンプカバー部下端に向かって内上がりのやや緩やかな斜面状としている点、」については、これを否認する。前述したように、本願意匠と引用意匠の台座部は、それぞれ異なる態様で、「略隅丸縦長長方形状」と異なっている。
すなわち、本願意匠は、縦と横の比が4.5:3.5(平均)の縦長長方形状の横幅を、
前端近くの横幅が3、後端近くの横幅が4と、漸次変化するものとし、かつ4つの隅を、それぞれ滑らかに弧状に変化する4つの辺とスムーズに連続するよう丸く滑らかに変化するものとしたものである。
これに対し、引用意匠は、「略縦長長方形状」を変形させたものではあるかもしれないが、前方辺に関しては辺とはいえないほどに大きく丸く膨出したものであり、後方辺に関してもその幅は大きいが、両側の隅を膨出させた感じでこれも辺とはいえないような感じのものであり、本願意匠の台座部の平面形状と、引用意匠の台座部の平面形状とはその雰囲気、印象が異なるものである。特に本願意匠は後方から前方に伸びていく感じで均整のとれた感じの審美感を与えるものであるが、引用意匠はずんぐりむっくりした感じで、本願意匠のような審美感はない。
(2) ポンプカバー部の共通点(3)について 審決説示中の「(3)ポンプカバー部につき、やや扁平の略縦長直方体の略後半部上方に略直方体状の突出部を段状に形成して、下段部と上段部(後部突出部)を略同高とし、縦幅が台座部縦幅の略6割で、高さは台座部横幅の略4割の大きさのものとし、平面視では略隅丸縦長長方形状を呈し、その前両隅の丸みはやや大きく、後両隅の丸みはやや小さくし、正面視では略上隅丸長方形状を呈し、その上両隅の丸みはやや大きくし、横幅を下方に向かって漸次やや幅広とし、側面視では上隅丸の略「L」の字状を呈し、その前上隅の丸みはやや大きく、後部突出部の後上隅の丸みはやや小さくしたものとし、略直方体状の後部突出部は、前部の縦中央にやや大きな略太帯状の開口部を設け、その両隣のほとんどを略前下がり状の面に形成して、その下端を平面視で左右両端から開口部下端までぐるりと巡る、やや大きく膨出する略弧状を呈するものとし、面切り替わりの境界部の上面の左右方向から左右両側面の略上下方向にかけては稜線部を表したものとし、また、周側面略下端寄りには横方向に沿ってわずかに段部を形成して、略横線状の稜線部を表し、後面略中央にはスイッチを配した略隅丸矩形状の浅い凹陥部を形成している点、」については、これを否認する。
すなわち、「その前両隅の丸みはやや大きく、後両隅の丸みはやや小さくし」は、「前両隅の丸み」については、「その前上隅の丸み」ではなく、「前両隅を含む前辺の丸み」というべきである。「面切り替わりの境界部の上面」については、
これも意味不明であるが、本願意匠においては、上記ポンプカバー部本体とその後部カバーとの間の平面視での境界線のすぐ前に、左右方向に延びる稜線(若干の段差により形成される線)が形成され、その左右両側部分で該稜線が前方下方に向かって伸びていっているもののことをいっているものと思われる。これに対応する引用意匠の部分は、まず、ポンプカバー部本体とその後部カバーとの間の平面視での境界線よりかなり前方にて左右方向に走る線があるが、これは、側面視略「L」の字状を呈するカバー体の、いわゆる「後方突出部」の平面視での前方外形線であり、これは、上記本願意匠の、「稜線(若干の段差により形成される線)」のある位置よりかなり前にあり、両者で随分異なるものである。また、側面視略「L」の字状を呈するカバー体の、いわゆる「後方突出部」前部に位置する、斜面状の表面を形成する部分が、審決が「その後部を残して略前下がり状の面に形成して」といっている該「後部」の部分であるが、その残す「後部」に相当する部分、及びその前の「略前下がり状の面に形成した部分」に相当する部分は、本願意匠においては、ともに、非常に曲面的で、全体が大きく曲面的に変化し、かつ、上下の両部分がスムーズにつながっているものであり、その表面の曲面の形は、まろやかで、なめらかで、優雅な感じを与えるものであるのに対し、引用意匠では、上記残す「後部」の斜面状を形成する部分と、前下がり状の面を形成する部分とは、その平面視からも明らかなように、非常に別体的な感じのものであり、本願意匠における、それに相当する部分が、連続的に面が変化する感じであるのと随分異なるものである。それは、引用意匠における上記残す「後部」の平面視において、三角形の斜辺となる曲線が形成されていることに現れており、これらの両部分に関して、審決のいう「面切り替わりの境界部の上面の左右方向から左右両側面の略上下方向にかけては稜線部を表したものとし、」の記述は、本願意匠と引用意匠とに、ともに妥当するものではないことが分かる。
なお、審決が「前下がり状の面を形成する」という、開口部の両隣の部分の外側面の線は、引用意匠の平面視においてもちろん見られ、ポンプカバー部本体の平面視の両側面の線に非常に近接するものであるが、これと、審決のいう、「境界部の上面の左右方向から左右両側面の略上下方向にかけて」見られる「稜線部」との関係は、必ずしも明確ではない。このように、この「境界部の上面の左右方向から左右両側面の略上下方向にかけては稜線部を表したものとし、」の部分は明確ではなく、また、本願意匠と引用意匠の共通点といえるものではない。
さらに、「周側面略下端寄りには横方向に沿ってわずかに段部を形成して、略横線状の稜線部を表し、」については、本願意匠においては、ポンプカバー部本体の周縁部に、凸状となる部分を、その両側部全体に、ポンプカバー部後部カバーの両側部、及びその後面にも表れるように、さらにはポンプカバー部本体の前部両側部にも表れるように設けているものである。これに対し、引用意匠は、ポンプカバー部本体の下端周縁部に、その前方部を除く両側部、及びポンプカバー部後部カバーの側面及び後面の全周にわたって、凹部となる帯状凹陥部を設けており、このように段部といっても両意匠で異なり、共通点といえるものではない。
また、「後面略中央にはスイッチを配した略隅丸矩形状の浅い凹陥部を形成している」については、本願意匠は、かなり縦長で、下方部分が円弧状であり、かつ、
コンセントとスイッチとが、上下に離れて配置されているが、引用意匠は、その縦方向の長さが短く、全体が四角で、コンセントとスイッチの距離も小さく、本願意匠と引用意匠の凹陥部は、その美感上も随分異なる印象を与えるものである。
(3) 足踏みスイッチ部の共通点(4)について 審決説示中の「(4)足踏みスイッチ部につき、ポンプカバー部横幅と略同幅とした略横長平板状のものとし、周側面は外下がりの斜面状とし、上面縦中央にはやや幅広の浅い凹陥部を設け、その両隣の左右上面を足踏み部としたもので、ポンプカバー部の後端部に接して突設し、下端外方には台座部に被着してわずかに薄く突出する板状フランジ部を連設している点、」については、これを否認する。板状フランジ部の設け方は、後述するように両者で異なるものである。
(4) 昇降用アーム部の共通点(5)について 審決説示中の「(5)昇降用アーム部につき、昇降用外アームの太さをポンプカバー部横幅の略3割とし、長さはポンプカバー部の縦幅と略同程度の長さとして、
その前端を下部隅丸の前下がりの斜面状とし、座板支持ブラケットは、下部に小円盤状のフランジを有し、その中央に小円柱状の軸を立設して成るものとし、昇降用内アームの略後端には、座板支持ブラケットのフランジ押さえ棒を挿入した略小円筒状の突出部を略水平に連設している点、がある。」については、これを否認する。フランジ押さえ棒を挿入した突出部の設け方は、以下のとおり、両者で異なる。
すなわち、審決は、昇降用アーム部につき、本願意匠は、座板支持ブラケットの後部に斜め前方略水平に、フランジ押さえ棒を挿入した突出部を連設しているのに対し、引用意匠は、昇降用内アームの後端で、座板支持ブラケット突設位置の後方に、フランジ押さえ棒を挿入した突出部を水平に連設している点を、昇降用アーム部の差異点として挙げながら、この差異を、「昇降用内アームの後端付近という限られた部分に見られる差異であり、」というが、このように、フランジ押さえ棒を挿入した突出部を、座板支持ブラケットに対して、どちらの方向から該座板支持ブラケットに向かうよう取り付けるかは、操作性と、外観、美感の両観点から、大きな差があるものである。すなわち、引用意匠においては、フランジ押さえ棒は、座板支持ブラケットに、理美容椅子の座を取り付ける際に、ポンプカバー部の背面である後方から、該押さえ棒を回転操作して、座板支持ブラケットへの座の固定を実現するものであるが、この後方からの操作は、操作空間が狭い環境においては、大変操作がしづらいものであるのに対して、本願意匠においては、フランジ押さえ棒は座板支持ブラケットに対し、斜め前方からこれに向かうものであるため、理美容椅子を配置する空間が狭いものであっても、フランジ押さえ棒を使用しての、座板支持ブラケットへの座の固定の操作は、非常に容易にこれを実現できるものである。また、この部分の形状は、その外観上も、後に述べるように、昇降用アーム部の形状とともに、随分異なる外観、美感を与えるものである。
3 差異点の認定について (1) 台座部の差異点(イ)について 審決説示中の「一方、差異点として、(イ)台座部につき、本願意匠は、平面視において、左右両端及び前後両端を外方にわずかに膨出する略弧状としているのに対して、引用意匠は、平面視において、左右両端を直線状とし、後端を外方にわずかに膨出する略弧状とし、前端は外方にやや大きく膨出する略弧状としている点、」については、これを否認する。上述したとおり、両意匠の台座部の形状は異なるものである。
(2) ポンプカバー部の差異点(ロ)について 審決説示中の「(ロ)ポンプカバー部につき、本願意匠は、後部突出部前部の開口部両隣全体を略前下がり状の面に形成して、該部を略球面状の膨出面とし、また、略下端寄りに、前面左右両端寄りの下端から立ち上がり、左右両側面の略下端寄りを水平に走り、その後端寄りでやや上方に膨らみ、後面左右両端寄りの下端まで達する、わずかに突出する段部を形成して、略横帯状の薄い突出面を表しているのに対して、引用意匠は、後部突出部前部の開口部両隣を、その後部をやや残して略前下がり状の面に形成して、該部を斜面状とし、また、略下端寄りに、左右両側面の略前端寄りの下端から立ち上がり、略下端寄りを水平に走り、そのまま後面を水平に巡る、わずかに窪む段部を形成して、略横帯状の浅い凹陥面を表している点、」については、これを否認する。ポンプカバー部の各部の形状が両意匠でどのように異なるかは上述したとおりである。
(3) 足踏みスイッチ部の差異点(ハ)について 審決説示中の「(ハ)足踏みスイッチ部につき、本願意匠は、平面視略横長長方形状の平板状として、後両隅はやや大きな隅丸とし、前端全体をポンプカバー部の後下端に接する略凹弧状とし、中央の凹陥部を平面視で前すぼまりの略卵形状とし、左右それぞれの足踏み部に「D」の字状又は「U」の字状の突条を表し、その上面をわずかに後下がりの斜面状とし、下端に連設した板状フランジ部をポンプカバー部横幅と略同幅の略矩形状として、ポンプカバー部後下端から台座部後端までの台座部上面略中央を薄く覆うものとしているのに対して、引用意匠は、平面視略横長長円形状の平板状とし、前端中央部がポンプカバー部の後下端に接するものとし、中央の凹陥部を平面視で一定の横幅の略太帯状とし、足踏み部上面を水平面とし、下端に連設した板状フランジ部をポンプカバー部の後下端から台座部後端までの台座部上面全体を薄く覆うものとしている点、」については、これをほぼ認める。しかるに、「下端に連接した板状フランジ部をポンプカバー部の後下端から台座部後端までの台座部上面全体を」という表現は、非常に不正確であり、これは、
「板状フランジ部をボンプカバー部の後下端線の台座部上の全幅にわたる延長線の後方の台座部後端までの台座部上面全体を」というべきものである。
(4) 昇降用アーム部の差異点(ニ)について 審決説示中の「(ニ)昇降用アーム部につき、本願意匠は、昇降用内アームの後端を垂直軸の略円柱状に形成して上部に座板支持ブラケットを突設し、その後部に斜め前方略水平に、フランジ押さえ棒を挿入した略小円筒状の突出部を連設しているのに対して、引用意匠は、昇降用内アームの後端で、座板支持ブラケット突設位置の後方に、フランジ押さえ棒を挿入した略小円筒状の突出部を水平に連設している点、がある。」については、これを否認する。
フランジ押え棒を挿入した突出部は、座板支持ブラケットに対して、どのような方向、位置に設けたかをいうべきであって、「昇降用内アームの略後端」に対して、どこに、どのように設けたかを考えるべきではない。本願意匠と引用意匠とでは、「昇降用内アーム」、及び「フランジ押え棒を挿入した突出部」は、異なるものとなっている。すなわち、引用意匠においては、昇降用内アームは、昇降用外アームと同様に、非常に長いものとなっており、該昇降用内アームの、後端よりではあるが、途中に座板支持ブラケットを設け、該座板支持ブラケットと上記昇降用内アームの上端との間に、上記「フランジ押え棒を挿入した突出部」を設けている。
したがって、該突出部による、上記座板支持ブラケットに対するフランジ押え棒による支持、固定の操作は、装置全体の後方よりこれを行う。これに対し、本願意匠では、「フランジ押え棒を挿入した突出部」は、昇降用内アームの上端(後端)に座板支持ブラケットを設け、これに対して、斜め前方からこれに向かうように、設けている。したがって、該突出部による、上記座板支持ブラケットに対するフランジ押さえ棒による支持、固定の操作は、装置の側方の前方寄り、よりこれを行う。
このように、「フランジ押え棒を挿入した突出部」及び「昇降用内アーム」を含む部分の外観は、両者で異なるものである。
4 共通点の評価について (1) 共通点(1)の評価について 審決説示中の「上記の共通点と差異点について総合的に検討するに、共通点については、(1)の基本的な構成態様の共通点は、両意匠の形態の全体にかかわりその骨格を構成するところであり、」については、これを否認する。共通点として(1)の基本的な構成態様を否認していることによる。
(2) 共通点(3)の評価について 審決説示中の「具体的な態様の共通点のうち、(3)の点は、基台部の相当部分を占めて台座部から大きく突出するポンプカバー部全体に係り、特に、やや扁平の略縦長直方体状の略後半部上方に略直方体状の突出部を段状に形成して、平面視では略隅丸縦長長方形状を呈し、正面視では略上隅丸長方形状を呈し、側面視では上隅丸の略「L」の字状を呈するものとし、略直方体状の後部突出部は、前部縦中央に略太帯状の開口部を設け、その両隣のほとんどを略前下がり状の面に形成して、
その下端を平面視で左右両端から開口部下端までぐるりと巡る、やや大きく膨出する略弧状を呈するものとした点は、ポンプカバー部の特徴をよく表すところであり、その大きさについての共通点と相まってポンプカバー部の共通感を強く惹起するものであり、」については、否認する。共通点としての具体的な態様(3)ポンプカバー部を否認していることによる。
また、@「その前両隅の丸みはやや大きく、後両隅の丸みはやや小さくし」は、
「前両隅の丸み」については、「その前上隅の丸み」ではなく、「前両隅を含む前辺の丸み」というべきである。A「その前上隅の丸みはやや大きく、後部突出部の後上隅の丸みはやや小さくしたものとし、」については、「後部突出部の前上隅の丸み」、についても言及すべきである。「後部突出部の前上隅の丸み」については、差異点であるというのであれば、「その前上隅の丸み」、「後部突出部の丸み」、 「後部突出部の前上隅の丸み」の三者の全体に差異があるものとして、差異点として論述すべきである。
(3) 共通点(4)の評価について 審決説示中の「(4)の点は、足踏みスイッチ部の態様を具体的に表すものであり、特に、ポンプカバー部横幅と略同幅とした略横長平板状のものとし、上面縦中央にはやや幅広の浅い凹陥部を設け、その両隣の左右上面を足踏み部とし、ポンプカバー部の後下端に接して突設したものとした点は近接するポンプカバー部の共通点(3)と相まって基台部の共通感をより高める働きをし、」については、否認する。共通点としての具体的な態様(4)足踏みスイッチ部を否認していることによる。
(4) 共通点(2)、(5)の評価について 審決説示中の「また、(2)、及び(5)の点も、比較的類型的ではあるものの、全体のうちの相当部分を占める部分に係るものであって、両意匠の全体としての共通感を惹起する一定の働きをし、結局、これらの共通点は、それぞれが類否判断に一定の影響を及ぼし、特に、(3)のうち、ポンプカバー部の特徴をよく表すところとした点は、両意匠の特徴として類否判断に大きく影響を及ぼし、それぞれが相まって両意匠の全体の基調を形成しており、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものである。」については、これを否認する。
すなわち、「比較的類型的ではあるものの、」の意味が不明である。また、「両意匠の全体としての共通感を惹起する一定の働きをし」は、全体のうちの相当部分を占める部分に係るものであるため、この働きをしている、といおうとしているものと思われるが、共通点(2)、(5)の点を論じていて、突然、「特に、(3)のうち」として、(3)を論じてしまっているのも理解困難であり、「それぞれが相まって両意匠の全体の基調を形成しており、」の「それぞれが」が、何を指しているのかも不明である。さらに、この文章の全体の趣旨としては、「(2)、及び(5)の点も、(3)の点も、全体のうちの相当部分を占める部分に係るものであって、両意匠の全体としての共通感を惹起する一定の働きをし、これらの共通点は、それぞれが類否判断に一定の影響を及ぼし、かつ、それぞれが相まって両意匠の全体の基調を形成しており、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものである。」と主張しているものと思われるが、これに関しては、上述したように、各部の形状の説明、記述が不正確であることにより、全体の総合的な正しい類否の判断や、審美性、審美感の正しい判断ができなくなっており、これにより、間違った結論を導くこととなっている、ものである。
5 差異点の評価について (1) 台座部の差異点(イ)の評価について 審決説示中の「一方、前記差異点について、(イ)の点については、台座部端部の膨出の有無及び膨出の程度に係る差異であるが、本願意匠の態様はむしろ普通のもので何ら特徴がなく、引用意匠も、その前端の膨出の程度がやや大きいものではあるが、特徴といえるほどのものでなく、全体としては具体的な態様(2)の台座部についての共通点に包摂される程度の小さな差異といえ、その類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。」については、これを否認する。差異点(イ)の台座部を否認したことによる。
すなわち、本願意匠と引用意匠の台座部の差異については、上述したとおりであるが、本願意匠と引用意匠の台座部の差異は、「台座部端部の膨出の有無及び膨出の程度に係る差異である」といえるものではない。仮に、「前記差異点の、(イ)の点が、台座部端部の膨出の有無及び膨出の程度に係る差異である」としても、
「本願意匠の態様はむしろ普通のもの」、というのは、何をもって「普通のもの」というのか不明である。本願意匠の台座部の形状について、審決は、「本願意匠は、平面視において、左右両端及び前後両端を外方にわずかに膨出する略弧状としている」といっているが、この説示は不正確であって、適切ではなく、本願意匠の台座部は、「略縦長長方形状の幅を前方に向けて漸次細くなるようにした」ものであって、後方から前方に伸びるスマートな感じを与えるものである。これに対し、
引用意匠は、「平面視において、左右両端を直線状とし、後端を外方にわずかに膨出する略弧状とし、前端は外方にやや大きく膨出する略弧状としている」と審決もいうように、ずんぐりむっくりした感じのものであり、本願意匠のような、前方へ伸びる均整のとれたスマートな感じを与えるものではない。すなわち「台座部端部の膨出の有無及び膨出の程度」という概念で引用意匠と比較すべきものではない。
(2) ポンプカバー部の差異点(ロ)の評価について(その1) 審決説示中の「(ロ)の点については、周側面略下端寄りに形成した段部の差異は、本願意匠も引用意匠も、ともに、その段部は、薄くあるいは浅く段部を形成しただけの付加的なものであり、単に該部を突出させたか窪ませたかという程度の差異であって、さほど目立つものとはいえず、段部の形成範囲の差異も、周側面略下端寄り横方向に表したものとする両意匠の共通する印象を越えるものとはいえず、
その差異は格別顕著なものでなく、全体としては軽微な差異にとどまり、」については、これを否認する。
すなわち、審決は、「単に該部を突出させたか窪ませたかという程度の差異であって、さほど目立つものとはいえず」というが、本願意匠は、台座部、ポンプカバー部、昇降用アーム部、座板支持ブラケットと、下から上に見ていくにつれて、大きいものが徐々に細くなっていっている感じがあるものであり、ポンプカバー部の下側周縁部の凸状の段部は、この全体が下から上に向かって細くなっていく感じの一部を構成しているものである。したがって、ポンプカバー部の「周側面略下端寄りに形成した段部」は、「本願意匠も引用意匠も、ともに、薄くあるいは浅く段部を形成しただけの付加的なものであり、単に該部を突出させたか窪ませたかという程度の差異である」といえるものではなく、さらに、「段部の形成範囲の差異も、
周側面略下端寄り横方向に表したものとする両意匠の共通する印象を越えるものとはいえず」、といえるものではない。本願意匠は、上述の下から上に向けて細くなっていく感じにより、すなわち、その一部として、ポンプカバー部の周側面下端縁に形成した段差部が、その上のポンプカバー部の周側面より若干突出していることにより、上記台座部、及びこのポンプカバー部に、安定した感じを与えており、上記台座部の前方に細くなっていくスマートな感じとともに、立体的にも、安定した非常にスマートな感じを与えているものである。これに対し、引用意匠では、ポンプカバー部の周側面下端縁に形成した段差部は、くぼんでいて、上記した本願意匠におけるような、安定した感じを与えるものではないのみならず、上記引用意匠のくぼみ部分は、ポンプカバー部の背面全周を含み、両側面の後半部分に、一部その前方部にもわたって設けられているが、該かなり高さの高いくぼみは、上記両側面の後半部分の途中から、該両側面の前方よりの位置までの間に、急激にその高さが低くなって、該前方よりの位置で切れており、この大きな帯状の窪み部を含む引用意匠のポンプカバー部の側面を含む外観は、本願意匠におけるような安定した感じのない、落ち着いた感じのない外観となっている。
(3) ポンプカバー部の差異点(ロ)の評価について(その2) 審決説示中の「また、開口部両隣の面の態様の差異は、その形成範囲及び具体的な形状において、特に、本願意匠は該部を球面状とし、引用意匠は該部を斜面状とした点でやや顕著なものであるが、この点を考慮したとしてもなお、具体的な態様(3)のやや扁平の略縦長直方体状の略後半部上方に略直方体状の突出部を段状に形成して、平面視では略隅丸縦長長方形状を呈し、正面視では略上隅丸長方形状を呈し、側面視では上隅丸の略「L」の字状を呈するものとし、略直方体状の後部突出部は、前部縦中央に略太帯状の開口部を設け、その両隣のほとんどを略前下がり状の面に形成して、その下端を平面視で左右両端から開口部下端までぐるりと巡る、やや大きく膨出する略弧状を呈するものとした特徴的な共通点の中で見られる差異であり、全体として見れば、ポンプカバー部についての共通点の中での部分的な差異といえ、周側面略下端寄りに形成した段部の差異と相まって相乗的な効果が生じることを考慮したとしてもなお、それらの差異が類否判断に及ぼす影響は軽微なものにとどまるといわざるを得ない。」については、これを否認する。
すなわち、ポンプカバー部の各部の形状が両意匠でどのように異なるかは上述したとおりであり、審決もいうとおり、「開口部両隣の面の態様」は、「本願意匠は該部を球面状とし、引用意匠は該部を斜面状とした」、点で「顕著なものである」、ばかりでなく、百歩譲って、本願意匠と引用意匠とが、「具体的な態様(3)のやや扁平の略縦長直方体状の略後半部上方に略直方体状の突出部を段状に形成して、平面視では略隅丸縦長長方形状を呈し、正面視では略上隅丸長方形状を呈し、側面視では上隅丸の略「L」の字状を呈するものとし、略直方体状の後部突出部は、前部縦中央に略太帯状の開口部を設け、その両隣のほとんどを略前下がり状の面に形成して、その下端を平面視で左右両端から開口部下端までぐるりと巡る、やや大きく膨出する略弧状を呈するものとした」、特徴的な共通点を有するものであったとしても、本願意匠における該部の形、特にその表面の曲面の形は、まろやかで、滑らかで、優雅な感じを与えるものであるのに対し、引用意匠の該部の感じは、屹立した、硬い感じを与えるものであり、審決がいう、「この共通点が惹起する強い共通感、さらには両意匠の共通点が奏する全体の基調」を、それぞれ異なるものとしているものである。さらには、上述したように、本願意匠においては、ポンプカバー部の周側面下端縁に突状の段差部が形成されていることは、本願意匠を下方から上方に向けて細くなっていく感じ、これにより安定した感じを与えているものであり、一方、引用意匠は、ポンプカバー部の周側面下端縁に、その形状も随分異なる帯び状の窪み部を設けており、不自然な感じを与えるものであり、
その点をも含め、その全体の形状がかもし出す雰囲気を考慮すれば、ポンプカバー部の形状の差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きいものであるというべきである。
(4) 足踏みスイッチ部の差異点(ハ)の評価について 審決説示中の「(ハ)の点については、板状フランジ部は、本願意匠も引用意匠も、ともに、台座部上面を薄く覆っただけのもので、ほとんど目立たず、本願意匠の中央凹陥部は、単に前すぼまりとした程度のもので、特徴といえるほどのものでなく、足踏み部の突条も小さな付加的なものにすぎず、結局、その差異は、前端全体をポンプカバー部の後下端に接するものとしたか否かの差異に帰結するものであり、本願意匠の前端全体をポンプカバー部の後下端に接するものとした点は、具体的な態様(4)の、ポンプカバー部横幅と略同幅とした略横長平板状のものとし、
上面縦中央にはやや幅広の浅い凹陥部を設け、その両隣の左右上面を足踏み部とし、ポンプカバー部の後下端に接して突設したものとした共通点の中で見られる差異で、全体としてはこの共通点に包摂される程度の小さな差異にとどまり、その類否判断に及ぼす影響は微弱なものといえる。」については、これを否認する。
本願意匠と引用意匠の板状フランジ部はその形状が大きく異なり、「板状フランジ部は、本願意匠も引用意匠も、ともに、台座部上面を薄く覆っただけのもの」、
といえるものではない。すなわち、本願意匠の板状フランジ部は、台座部の前後方向の全体にわたって帯状に設けられているが、引用意匠においては、板状フランジ部は、前方は、ポンプカバー部の底部と同じ形状に設けられており、また、後方部分は、ボンプカバーの後方部分で台座部の全幅にわたる形に広がったのち、該台座部の全幅にわたって設けられており、両意匠の板状フランジ部は異なるものとなっている。さらに、審決は、本願意匠の足踏みスイッチ部につき、「本願意匠の中央凹陥部は、単に前すぼまりとした程度のもので、特徴といえるほどのものでなく、」といい、また、「足踏み部の突条も小さな付加的なものにすぎず、」といい、さらに、「結局、その差異は、前端全体をポンプカバー部の後下端に接するものとしたか否かの差異に帰結する」という。しかし、この点は、本願意匠の足踏みスイッチ部が、「ポンプカバー部の後方に配置された、該ポンプカバー部とほぼ同幅の横長の矩形板状体よりなり」、その前端全体がポンプカバー部の後下端と接しており、上述したポンプカバー部の形状とマッチして、非常に落ち着いた安定した感じを与えるものとなっており、一方、引用意匠の足踏みスイッチ部は、中央凹陥部の左右に、それぞれ半楕円形状のような左右の足踏み部が接合するように設けられており、この中央凹陥部、及び左右の足踏み部の形状から、左右の足踏み部が中央凹陥部に付着している感じを与えるものであり、これは、上記本願意匠の、ポンプカバー部とマッチした感じとはその与える印象が異なるものである。したがって、この差異は、単に、「結局、その差異は、前端全体をポンプカバー部の後下端に接するものとしたか否かの差異に帰結するものであり、」といえるものではなく、「具体的態様(4)のポンプカバー部・・・とした共通点の中で見られる差異で、全体としてはこの共通点に包摂される程度の小さい差異にとどまり、」といえるものではない。
(5) 昇降用アーム部の差異点(ニ)の評価について(その1) 審決は、「(ニ)の点については、昇降用内アームの後端付近という限られた部分に見られる差異であり、全体としては小さな差異であり、その類否判断に与える影響は微弱なものである。」というが、この点については、否認する。
審決は、(ニ)昇降用アーム部につき、本願意匠は、昇降用内アームの・・・座板支持ブラケットを突設し、「その後部に斜め前方略水平に」、フランジ押さえ棒を挿入した・・・突出部を連設しているのに対し、引用意匠は、「昇降用内アームの後端で、座板支持ブラケット突設位置の後方に」、フランジ押さえ棒を挿入した・・・突出部を水平に連設している点、を、昇降用アーム部の差異点として挙げながら、この差異を、「昇降用内アームの後端付近という限られた部分に見られる差異であり、・・・」というが、この、本願意匠と引用意匠との差異点である、
「フランジ・・・突出部を、座板支持ブラケットに対して、どちらの方向から該座板支持ブラケットに向かうよう取り付けるかは、操作性と、外観、美感の両観点から、大きな差があるものである。すなわち、引用意匠においては、フランジ押さえ棒は、座板支持ブラケットに理美容椅子の座を取り付ける際に、ポンプカバー部の背面である後方から、該押さえ棒を回転操作して、座板支持ブラケットへの座の固定を実現するものであるが、この後方からの操作は、操作空間が狭い環境においては、大変操作がしづらいものであるのに対して、本願意匠においては、フランジ押さえ棒は、座板支持ブラケットに対して、斜め前方からこれに向かうものであるため、理美容椅子を配置する空間が狭い環境であっても、フランジ押さえ棒を使用しての、座板支持ブラケットへの座の固定の操作は、非常に容易にこれを実現することができるものである。
(6) 昇降用アーム部の差異点(ニ)の評価について(その2) さらに、昇降用外アームと昇降用内アームとからなる昇降用アーム部についても、本願意匠と引用意匠とでは随分異なるものとなっている。すなわち、本願意匠においては、昇降用外アームは長いものであり、一方、昇降用内アームは短いものであるのに対し、引用意匠では、昇降用外アームも昇降用内アームも、ほぼ同じくらいの長さのものとなっている。これは、上述したフランジ押さえ棒の配置と関連しており、引用意匠では、フランジ押さえ棒を昇降用内アームの長さ方向と同じ方向に、昇降用内アームの上端近傍に設けた座板支持ブラケットに向かうように設けているため、上記昇降用内アームが、該フランジ押さえ棒の長さ分だけ長く必要となっているのに対し、本願意匠では、フランジ押さえ棒を、昇降用内アームの上端近傍の座板支持ブラケットに対して、斜め前方からこれに向かうように取りつけているため、その長さが短くて済んでいるものである。そして、このような昇降用外アームと昇降用内アームの長さの比の差異により、この昇降用アーム部は、本願意匠と引用意匠とで随分異なる外観、印象を与えるばかりでなく、特に、本願意匠においては、台座部、ポンプカバー部並びに足踏みスイッチ部、昇降用外アーム、昇降用内アーム、と順次上方に上がっていくにつれ細くなっているものであり、このような大きさ、太さの変化のない引用意匠とは、与える印象、感覚が随分異なるものとなっている。したがって、この点は、審決がいうように、「昇降用内アームの後端付近という限られた部分に見られる差異であり、全体としては小さな差異であり、その類否判断に与える影響は微弱なものである。」といえるものではない。
6 総合判断について 審決は、「そうして、上記の差異点が相まって相乗的な効果が生じることを考慮してもなお、前記両意匠の共通点が奏する全体の基調を覆すには至らないものである。」という。しかしながら、審決が、「上記の差異点」という各点は、上述のように、それぞれ、大きな差異であって、大きな外観、印象上の異なる感覚を与えるものであり、それらが相乗的な効果をも生ぜしめるものであることを考慮すれば、
これによって、前記両意匠の共通点が奏する全体の基調をも、充分に覆すに至るものというべきである。
7 取消事由の結論 したがって、審決が、「以上のとおりであって、両意匠は、意匠にかかる物品が共通し、その形態について、両意匠の共通点は、両意匠の全体の基調を形成し、両意匠の類否判断に支配的に影響を及ぼすものであるのに対し、差異点は、いずれも類否判断に及ぼす影響が軽微ないし微弱なものであり、共通点を凌駕することができず、結局、両意匠は全体として類似するものといわざるを得ない。」と説示したのは誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
1 基本的な構成態様に係る共通点(1)の認定について (1) 原告は、審決が、台座部について、「平面視略隅丸縦長長方形状」とした点に対し、「略隅丸」は、表現が不正確であり、両意匠のそれぞれにおいて、「縦長長方形状」とはいえないものであるから、否認する、と主張する。そして、本願意匠は、「各隅を各辺とスムーズに連続するよう滑らかに丸くした縦長の台形形状に近い長方形状」としたものであるのに対し、引用意匠は、「各隅をそれぞれ膨出させた略縦長長方形状」としたものと主張する。
しかしながら、審決は、類否判断の前提となる形態の認定において、その具体的な認定に先立ち、まず、その骨格となる態様を概括的に把握し、これを「基本的な構成態様」として認定したものである。
確かに、両意匠の台座部は、本願意匠のみならず引用意匠も、共に横幅を前方に向かって漸次やや幅狭としているものである。しかしながら、その、前方に窄む度合いは、両意匠共に、さほど大きいものではなく、基本的な構成態様として全体を概括的に捉え、全体としては、「略・・縦長長方形状」とし、そして、両意匠は、
その隅部を、それぞれ丸弧状としているから、「略隅丸縦長長方形状」としたものであり、誤りはない。
そして、原告のいう「台形形状に近い」点については、具体的な態様に係る共通点(2)の項で、「横幅を前方に向かって漸次やや幅狭とした」と認定し、両意匠の各端部(原告のいう「各辺」)の態様についても、共通点(2)の項で、「前後両端(すなわち、前辺及び後辺)を外方に略弧状に膨出し」と認定し、差異点(イ)の項で、「本願意匠は、・・・左右両端(すなわち、左辺及び右辺)及び前後両端を外方にわずかに膨出する略弧状としている」、「引用意匠は、・・・左右両端を直線状とし、後端を外方にわずかに膨出する略弧状とし、前端は外方にやや大きく膨出する略弧状としている」と具体的に認定し、類否判断に及ぼす影響を検討している。
したがって、原告の主張にはいずれも理由がなく、審決が形態を全体として捉え、「略隅丸縦長長方形状」としたことに誤りはない。
(2) 原告は、審決が、昇降用アーム部について、昇降用内アームは昇降用外アームよりも「やや短くて」とした点に対し、本願意匠においては、「かなり短くて」とすべきである、と主張し、また、審決が、座板支持ブラケットの立設位置を昇降用内アームの「略後端」上面とした点に対し、引用意匠は、「後端からかなり前端寄り」であるから、否認する、と主張する。
しかしながら、始めに、両意匠の昇降用アーム部は、昇降用外アームの上方に昇降用内アームが軸着されたものであるが、共に昇降用内アームは、昇降用外アームよりも短いものであり、基本的な構成態様として全体を概括的に把握する場合、
「やや短くて」としかいいようがない。すなわち、本願意匠の「昇降アームを下げた状態の左側面図」と、これに対応する引用意匠の右側面図を対比しても、昇降用内アームは、昇降用外アームの略半分以上の長さのものであるから、共に「やや短い」としかいいようがない。なお、厳密に、「やや短い」、「かなり短い」と認定しても、この程度の長さの差は類否判断上、何ら結論に影響を及ぼさないものである。
次に、原告は、引用意匠の座板支持ブラケットの立設位置は、昇降用内アームの「後端からかなり前端寄り」であり、「略後端」ではない、と主張する。
しかしながら、全体形態の中で該部を捉える場合、引用意匠についても後端寄りであることは明らかで、原告主張のごとく「かなり前端寄り」と捉えるのは誤りである。そして、引用意匠の座板支持ブラケットの立設位置が昇降用内アームの後端からやや前方に寄った位置である点は、差異点(ニ)の項で認定したとおりであり、これは、フランジ押さえ棒を挿入した突出部の長さ分だけ、昇降用内アームの後端から前方に寄った位置となったものであるが、フランジ押さえ棒を挿入した突出部の長さ自体が、わずかなものであるから、審決が、座板支持ブラケットの立設位置を昇降用内アームの「略後端」上面としたことに誤りはなく、また、その位置の差が類否判断に影響を及ぼすほどのものでないことは、差異点(ニ)についての評価の項で判断したとおりである。
2 具体的な態様に係る共通点の認定について (1) 台座部の共通点(2)について 原告は、審決が、台座部について、「平面視においてやや大きな丸みを付けた略隅丸縦長長方形状を呈し、その前後両端を外方に略弧状に膨出し、横幅を前方に向かって漸次やや幅狭とした」とした点に対し、本願意匠は、「縦長長方形状の横幅を、前端近くの横幅が3、後端近くの横幅が4と、漸次変化するものとし」、「4つの隅を、それぞれ滑らかに弧状に変化する4つの辺とスムーズに連続するよう丸く滑らかに変化するものとした」ものであり、引用意匠は、「「略縦長長方形状」を変形させたものではあるかもしれないが」、「前方辺に関しては辺とはいえないほどに大きく丸く膨出したものであり」、「後方辺に関してもその幅は大きいが、
両側の隅を膨出させた感じでこれも辺とはいえないような感じのものであり」、両意匠の台座部の平面形状は、その雰囲気、印象が全く異なるものであるから、否認する、と主張する。
しかしながら、審決は、平面視「略隅丸縦長長方形状」とした基本的な構成態様のものである両意匠の台座部について、さらに具体的に観察し、台座部の各隅部の丸みは、両意匠共に、やや大きなものであり、台座部の前後両端は、その膨出の程度においてやや差異があるものの、両意匠共に、外方に膨出する略弧状としたものであり、また、両意匠共に、台座部の横幅を前方に向かって漸次やや幅狭としたものである、と認定したものである。
そして、原告がいう、引用意匠の態様が「前方辺に関しては辺とはいえないほどに大きく丸く膨出したもの」である点については、審決は、差異点(イ)の項で引用意匠は、「前端は外方にやや大きく膨出する略弧状としている」と認定し、類否判断に及ぼす影響を検討している。
したがって、「両意匠の台座部の平面形状は、その雰囲気、印象が全く異なるものである」との原告の主張には理由がなく、審決が、台座部の具体的な態様に係る共通点として、「平面視においてやや大きな丸みを付けた略隅丸縦長長方形状を呈し、その前後両端を外方に略弧状に膨出し、横幅を前方に向かって漸次やや幅狭とした」と認定したことに誤りはない。
(2) ポンプカバー部の共通点(3)について (2)-1 原告は、審決が、「平面視では略隅丸縦長長方形状を呈し、その前両隅の丸みはやや大きく、後両隅の丸みはやや小さくし」とした点に対し、「前両隅の丸み」は、「前両隅を含む前辺の丸み」というべきであるから、否認する、と主張する。
しかしながら、この項は、ポンプカバー部を全体として把握したもので、まず、
平面視の全体を「略隅丸縦長長方形状」と捉えた上で、その前部の両隅の丸みは大きく緩やかで、後部の両隅の丸みがこれに対しやや小さいものであることを認定したものである。単に、前辺(端)のみを抽出して認定したものではない。
なお、ポンプカバー部の前端を、さらに子細に観察すると、両意匠共に、原告のいうように、前端の中央付近もわずかに丸みを帯びたものであることが看取されるが、類否判断の前提としては、「前両隅の丸みはやや大きく」と表現すれば足りるものである。
(2)-2 原告は、審決が、「面切り替わりの境界部の上面の左右方向から左右両側面の略上下方向にかけては稜線部を表したものとし」とした点に対し、この点は、意味が明確ではなく、また、両意匠の共通点といえるものではないから、否認する、と主張する。
しかしながら、審決は、開口部の両隣である左右各々の部分に形成された「略前下がり状の面」の態様の認定において、その形成範囲(周端)を捉えて、まず、
「略前下がり状の面」の下端の態様について述べ、次に、「略前下がり状の面」の「上端」と「左端」あるいは「右端」の態様について述べたものである。「略前下がり状の面」の「上端」、「左端」あるいは「右端」は、後部突出部における「略前下がり状の面」と「その周りの面」との「面切り替わりの境界部」に当たり、その態様を具体的に観察すると、該部に稜線が表れており、審決は、稜線の具体的な態様を捉えて、「面切り替わりの境界部の上面の左右方向から左右両側面の略上下方向にかけては稜線部を表したものとし」としたものである。
また、「引用意匠の平面視で左右方向に走る線は、本願意匠の平面視で左右方向に延びる稜線のある位置よりかなり前にある」と原告が主張する両意匠の差異点については、審決は、差異点(ロ)の項で、後部突出部前部の開口部両隣に形成した略前下がり状の面について、「本願意匠は、・・・開口部両隣全体を・・・形成・・・引用意匠は、・・・開口部両隣を、その後部をやや残して・・・形成」と認定し、差異点(ロ)の評価の項において、「開口部両隣の面の態様の差異は、その形成範囲及び具体的な形状において」とし、類否判断に及ぼす影響を検討している。
したがって、審決が、「面切り替わりの境界部の上面の左右方向から左右両側面の略上下方向にかけては稜線部を表したものとし」とした点に誤りはなく、原告の主張には理由がない。
なお、原告は、審決が摘示する「略前下がり状の面に形成して」の部分を、「ポンプカバー部の略前半部(後部突出部を除いた部分)の上面」の部分と誤解し、審決が摘示する「その後部」の部分を、「開口部両隣の左右部分における、その後部をやや残して、その余」の部分と誤解しているように思われる(別紙被告説明図参照)。したがって、この誤解を前提にして、審決が、「面切り替わりの境界部の上面の左右方向から左右両側面の略上下方向にかけては稜線部を表したものとし」とした点の記述が妥当でないと主張するところでもあり、原告の主張は、その前提において誤りがあると思われる。
そして、原告は、ポンプカバー部の略前半部(後部突出部を除いた部分)と後部突出部について、本願意匠は、連続的に面が変化する感じのものであるのに対し、
引用意匠は、非常に別体的な感じのものである、と両意匠の差異点を主張しているものと解される。
なるほど、本願意匠の右(左)側面図と引用意匠の左(右)側面図を対比すれば、ポンプカバー部の略前半部(後部突出部を除いた部分)と後部突出部とが連接する部分が、本願意匠は、凹弧状の丸みを付けたものであるのに対して、引用意匠は、そのような丸み付けがなく、境界が実線で作図されている。そして、審決は、
この部分の態様については、両意匠の共通点として「その下端を平面視で左右両端から開口部下端までぐるりと巡る、やや大きく膨出する略弧状を呈するものとし」の認定で足りるとし、丸み付けの有無の差異については認定していない。しかしながら、当該連設部分は造形上の細部に係るものであり、しかも、この種物品分野に限らず、一般に、面と面の連接部分に丸み付けをすることも、面と面の連接部分に丸み付けをしないで境界線を表すことも、共に、例示するまでもなくありふれた造形上の手法によるものであって、両意匠の当該連接部分の丸み付けの有無に係る態様は、共に特徴といえるものではなく、また、引用意匠の当該連接部分は、ごく緩い角度で連接されたものであり、上述の差異が、両意匠の類否判断に与える影響は微弱であり、したがって、審決が、上述の差異について認定していない点は、審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(2)-3 原告は、審決が、「周側面略下端寄りには横方向に沿ってわずかに段部を形成して、略横線状の稜線部を表し」とした点に対し、段部といっても両意匠は、凹凸あるいは形成範囲で全く異なり、共通点といえるものではないから、否認する、と主張する。
ポンプカバー部の周側面略下端寄りの段部を具体的に見ると、突出状か凹陥状かで差異があり、また、その形成範囲についても、両意匠で若干異なる。
そこで、審決は、まず、全体として、周側面が面一状でなく、下端寄りが浅い(薄い)段状に処理されており、その稜線が略横線状として看取されることを捉え、共通点としては、「周側面略下端寄りには横方向に沿ってわずかに段部を形成して、略横線状の稜線部を表し」と認定し、その上で、差異点(ロ)の項で、「本願意匠は、・・・略下端寄りに、前面左右両端寄りの下端から立ち上がり、左右両側面の略下端寄りを水平に走り、その後端寄りでやや上方に膨らみ、後面左右両端寄りの下端まで達する、わずかに突出する段部を形成して、略横帯状の薄い突出面を表している・・・引用意匠は、・・・略下端寄りに、左右両側面の略前端寄りの下端から立ち上がり、略下端寄りを水平に走り、そのまま後面を水平に巡る、わずかに窪む段部を形成して、略横帯状の浅い凹陥面を表している」と認定している。
したがって、原告の主張には理由がない。
(2)-4 原告は、審決が、「後面略中央にはスイッチを配した略隅丸矩形状の浅い凹陥部を形成している」とした点に対し、本願意匠は、かなり縦長で、下方部分が円弧状であり、かつ、コンセントとスイッチとが、上下に離れて配置されているが、引用意匠は、その縦方向の長さが短く、全体が四角で、コンセントとスイッチの距離も小さく、両意匠の凹陥部は、その美感上も随分異なる印象を与えるものであるから、否認する、と主張する。
しかしながら、ポンプカバー部後面の略隅丸矩形状の凹陥部を、さらに子細に観察すると、いくつかの差異点が看取されるが、これらの差異点は、該凹陥部のみを注視して捉えることができるわずかな差異にすぎず、両意匠の特徴となる部分に係る差異でもなく、両意匠の類否判断に与える影響がほとんどないものであり、したがって、審決は、これらの差異点を認定していないが、このことが、審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(3) 足踏みスイッチ部の共通点(4)について 原告は、審決が、足踏みスイッチ部の具体的な態様に係る共通点として、
「(4)足踏みスイッチ部につき、・・・板状フランジ部を連設している点」とした点に対し、板状フランジ部の設け方は、両意匠で全く異なるから、否認する、と主張する。
しかしながら、両意匠は、共に足踏みスイッチ部の下端外方に板状フランジ部を連設しており、原告の主張には理由がなく、審決に誤りはない。
(4) 昇降用アーム部の共通点(5)について 原告は、審決が、昇降用アーム部の具体的な態様に係る共通点として、「(5)昇降用アーム部につき、・・・昇降用内アームの略後端には、座板支持ブラケットのフランジ押さえ棒を挿入した略小円筒状の突出部を略水平に連設している点、がある。」とした点に対し、フランジ押さえ棒を挿入した突出部の設け方は、両意匠で全く異なり、操作性と、外観、美感の両観点から、大きな差があり、また、昇降用外アームと昇降用内アームの長さの比の差異に係る昇降用アーム部の形状と共に、随分異なる外観、美感を与えるものであるから、否認する、と主張する。
しかしながら、審決は、昇降用アーム部についての差異を、差異点(ニ)の項で認定し、類否判断に及ぼす影響を検討しており、したがって、原告の主張には理由がない。
3 差異点の認定について (1) 台座部の差異点(イ)について 原告は、審決が、台座部の差異点(イ)として、「台座部につき、・・・略弧状としている点」については、上述したとおり、両意匠の台座部の形状は全く異なるものであるから、これを否認する、と主張する。
しかしながら、原告の主張は、審決の、台座部についての基本的な構成態様に係る共通点の認定及び具体的な態様に係る共通点の認定を否認することを前提とするものであるが、当該台座部についての審決の認定に誤りがないことは、共通点の認定に関して述べたとおりであり、原告の主張には理由がない。
(2) ポンプカバー部の差異点(ロ)について 原告は、審決が、ポンプカバー部の差異点(ロ)として、「ポンプカバー部につき、・・・凹陥面を表している点」とした点に対し、ポンプカバー部の各部の形状がどのように異なるかは上述したとおりであるから、否認する、と主張する。
しかしながら、具体的な共通点の認定に関して述べたとおり、審決に誤りはなく、原告の主張には理由がない。
(3) 昇降用アーム部の差異点(ニ)について 原告は、審決が、昇降用アーム部の差異点(ニ)として、「昇降用アーム部につき、本願意匠は、昇降用内アームの後端・・・上部に座板支持ブラケットを突設し、その後部に斜め前方略水平に、フランジ押さえ棒を挿入した・・・突出部を連接しているのに対して、引用意匠は、昇降用内アームの後端で、座板支持ブラケット突設位置の後方に、・・・水平に連接している点、がある。」とした点に対し、
「昇降用内アーム」の長さ、及び「フランジ押さえ棒を挿入した突出部」の配置態様が、両意匠で、全く異なるものであるから、否認する、と主張する。
しかしながら、フランジ押さえ棒を挿入した突出部の配置態様についての原告の主張は、専ら、審決との表現上の差について述べるものであり、その表現上の差は、審決の結論に影響を及ぼすものではない。また、審決は、両意匠の昇降用外アームに対する昇降用内アームの長さの差異を直接には認定していないが、基本的な共通点の認定に関して述べたとおり、両意匠の間の長さの差はわずかで類否判断に影響せず、審決の結論に何ら影響を及ぼすものではないから、あえて認定するまでもないものである。
4 共通点の評価について 原告は、審決が、両意匠の共通点の評価について、「共通点については、・・・両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものである。」とした点に対し、否認する、と主張し、その理由として概ね、各部の形状の説明、記述が不正確であることにより、全体の総合的な、正しい類否判断の判断や、審美性、審美感の正しい判断ができなくなっており、これにより、間違った結論を導くこととなっているものである、と主張する。
しかしながら、審決の、共通点の認定に誤りがないことは、前記のとおりである。原告の主張は、いずれも、審決の認定を誤りとする前提に立つもので、理由がないものである。
そして、審決は、まず、基本的な構成態様の共通点の(1)について評価判断し、次に、基本的な態様の共通点(3)について評価判断し、さらに、その次に共通点(4)について評価判断し、最後に、共通点(2)及び(5)について評価判断したものであり、これらの評価判断を受けて、「結局」とし、(1)〜(5)の、これらの共通点は、それぞれが類否判断に一定の働きをするものであると評価判断したものである。そして、その上で、特に、(3)のうち、「ポンプカバーにつき、やや扁平の略縦長直方体状の略後半部上方に略直方体状の突出部を段状に形成して、平面視では略隅丸縦長長方形状を呈し、正面視では略上隅丸長方形状を呈し、側面視では上隅丸の略「L」の字状を呈するものとし、略直方体状の突出部は、前部縦中央に略太帯状の開口部を設け、その両隣のほとんどを略前下がり状の面に形成して、その下端を平面視で左右両端から開口部下端までぐるりと巡る、やや大きく膨出する略弧状を呈するものとした」点は、両意匠の特徴として類否判断に大きな影響を及ぼすものであると評価判断したものであり、以上の評価判断を受けて、最後に、(1)〜(5)の、これらの共通点は、それぞれが相まって両意匠の全体の基調を形成しており、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものであると評価判断したものである。
なお、原告のいう「後部突出部の前上隅の丸み」は、本願意匠が、ポンプカバー部の後部突出部前部の開口部両隣に形成した略前下がり状の面を略球面状の膨出面としたことにより表れる丸みであり、引用意匠は、当該略前下がり状の面を斜面状としており、そのような丸みは表れていない。したがって、「後部突出部の前上隅の丸み」は、両意匠の共通点ではなく、審決は、ポンプカバー部の差異点(ロ)として、「本願意匠は、・・・略球面状の膨出面とし、・・・引用意匠は、・・・斜面状とし、」と認定しているところである。
また、原告は、審決のいう「比較的類型的ではあるものの」の意味が不明であると主張するが、基本的な構成態様の共通点(1)と具体的な態様の共通点(2)及び(5)の各項で審決が認定した台座部及び昇降用アーム部の態様につき、その概略は、理美容用脚における台座部及び昇降用アーム部の態様として従来より見られるものであるから、審決は、「(2)及び(5)の点も、比較的類型的ではある」としたものであり、そして、意匠の類否判断において、比較的類型的な態様は、そうではない態様に比して相対的に、類否判断に与える影響が小さいといえることから、これを前提として類否判断をすべく、「比較的類型的ではあるものの」としたものである。
5 差異点の評価について (1) 台座部の差異点(イ)の評価について 原告は、両意匠の台座部の差異は、「台座部端部の膨出の有無及び膨出の程度に係る差異である」といえるものではなく、本願意匠の台座部は「略縦長長方形状の幅を前方に向けて漸次細くなるようにした」ものであって後方から前方に伸びるスマートな感じのものであるが、引用意匠は、ずんぐりむっくりした感じのものである、と主張する。
しかしながら、本願意匠は、台座部の左右両端を、外方にわずかに膨出する略弧状としているが、その膨出の程度はごくわずかであり、隅部が大きく丸み付けられた隅丸であることとも相関連して、引用意匠との差は目立たない。また、台座部の前端を、本願意匠は外方に「わずかに」膨出する略弧状としているのに対し、引用意匠は外方に「やや大きく」膨出する略弧状としているが、引用のものの膨出もごく緩やかなものであり、両意匠とも隅部が大きく丸み付けられた点とも相関連して、その差異は目立たない。
したがって、審決が、両意匠の台座部の差異について、「台座部端部の膨出の有無及び膨出の程度に係る差異である」とし、類否判断に及ぼす影響は微弱なものとした点に誤りはない。
原告は、両意匠の台座部の感じが異なると主張するが、本願意匠のみならず、引用意匠も、台座部の横幅を前方に向かって漸次やや幅狭としたものであり、上述のとおり、引用意匠の台座部の膨出の程度はやや大きいものではあるが、特徴といえるほどのものではなく、また、本願意匠の「前後両端及び左右両端を外方にわずかに膨出する略弧状とした」台座部の態様は、普通のものであり、何ら特徴がないものである。
したがって、台座部の差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は弱く、台座部の差異は、原告主張の、前方に伸びるスマートな感じとずんぐりむっくりした感じとして形態全体の別異の印象を看者に印象付けるまでのものには至っていない。
以上のとおりであって、審決が、差異点(イ)について、「類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。」と評価判断した点に誤りはない。
なお、原告は、審決のいう「普通のもの」について、何をもって「普通のもの」というのか不明である、と主張するが、本願意匠の台座部のごとく「左右両端を外方にわずかに膨出する略弧状とした態様」及び「前端の膨出の度合いの少ない態様」は、この種の理美容用脚において、従来より見られるものであるから(乙第1号証ないし乙第3号証)、審決は、「本願意匠の態様はむしろ普通のもの」と判断したものである。
(2) ポンプカバー部の差異点(ロ)の評価について (2)-1 原告は、審決が、「周側面略下端寄りに形成した段部の差異は、・・・格別顕著なものではなく、全体としては軽微な差異にとどまり」と評価判断した点に対し、本願意匠は、台座部から座板支持ブラケットまで、下から上に向かって細くなっていく感じがあり、段差部が、その上の周側面より若干突出していることにより、台座部及びポンプカバー部に安定した感じを与えており、台座部のスマートな感じと共に、安定した非常にスマートな感じを与えているものであり、一方、引用意匠の段差部は、窪んでいて、しかも、両側面の前方寄りの位置で切れており、
安定した感じのない、落ち着いた感じのないものとなっているから、否認する、と主張する。
しかしながら、引用意匠も、各部の大きさに着目すると、全体が下から上に向かって細くなっていく感じがあるものといえ、また、本願意匠の段部の突出はごく薄く、引用意匠の段部も、ポンプカバー部の左右両側面の略前端寄りの部分で切れてはいるが、その窪みはごく浅く、両意匠の段部は共に、ポンプカバー部の周側面の土台をなす態様を大きく変えることなく、周側面下端寄りに略横線状の稜線部を表したものであり、形態を全体として観察する場合、「やや扁平の・・・略弧状を呈するものとした」ポンプカバー部の特徴的な共通点の中で見られるもので、その差異はさほど目立たず、むしろ、周側面下端寄りに段部を形成して略横線状の稜線部を表した共通点が両意匠の共通感を惹起するところでもあり、段部の差異が、原告主張の、本願意匠は「安定した非常にスマートな」感じのものであり、引用意匠は、「安定した感じのない、落ち着いた感じのない」もの、というほどの、両意匠別異の印象を看者に印象付けるまでのものには至っていない。
したがって、審決が、差異点(ロ)について、「周側面略下端寄りに形成した段部の差異は、・・・格別顕著なものではなく、全体としては軽微な差異にとどまり」と評価判断した点に誤りはない。
(2)-2 原告は、審決が、「開口部両隣の面の態様の差異は、・・・やや扁平の略縦長直方体状の略後半部上方に略直方体状の突出部を段状に形成して、平面視では略隅丸縦長長方形状を呈し、正面視では略上隅丸長方形状を呈し、側面視では上隅丸の略「L」の字状を呈するものとし、略直方体状の突出部は、前部縦中央に略太帯状の開口部を設け、その両隣のほとんどを略前下がり状の面に形成して、その下端を平面視で左右両端から開口部下端までぐるりと巡る、やや大きく膨出する略弧状を呈するものとした特徴的な共通点の中で見られる差異であり、・・・類否判断に及ぼす影響は軽微なものにとどまるといわざるを得ない。」と評価判断した点に対し、開口部両隣の面の態様は、本願意匠は、球面状とし、引用意匠は斜面状とした点で顕著なものであるばかりでなく、百歩譲って、両意匠が、「やや扁平の・・・略弧状を呈するものとした」特徴的な共通点を有するものであったとしても、本願意匠の該部は、まろやかで、滑らかで、優雅な感じであり、引用意匠の該部は、屹立した、硬い感じであり、全体の基調を異なるものとしており、さらには、ポンプカバー部周側面下端縁についての両意匠の異なる感じも含め、全体の形状がかもし出す雰囲気を考慮すれば、ポンプカバー部の形状の差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きいものというべきであり、両意匠は、全く類似しないというべきであるから、否認する、と主張する。
しかしながら、この種の理美容用脚においては、基台部に対し上下に移動可能な座支持部が設けられることは避け得ないとしても、その具体的な態様には、従来より様々なものが見られるところ(乙第1号証ないし乙第3号証及び参考資料2ないし参考資料7参照)、本願の意匠は、基台部を台座部、ポンプカバー部及び足踏みスイッチ部から成るものとし、その上方に昇降用外アームと昇降用内アームから成る昇降用アーム部を設けたものであり、そのポンプカバー部を「やや扁平の・・・略弧状を呈するものとした」ものである。そして、この点は、両意匠の特徴をよく表すものである。確かに、本願意匠は、開口部両隣の面を球面状とし、引用意匠は、該部を斜面状としている。しかしながら、本願意匠の該部を球面状とした点は、球面状として膨出する程度もごくわずかで、引用意匠の該部も下端が平面視で弧状を呈し、すなわち、前面を前方に膨出させた曲面状を呈するものであり、本願意匠は、上述の両意匠の特徴的な共通点に係る態様において、引用意匠の、前方に膨出する曲面状を呈する斜面状とした該部を単に改変して膨出させ球面状とした程度のものともいえ、また、ポンプカバー部の略前半部(後部突出部を除いた部分)と後部突出部の連接する部分について、本願意匠は、凹弧状の丸みを付けて、該両部をなだらかに連接しているのに対して、引用意匠は、そのような丸み付けがなく、図面上、境界線として表されているが、実際には連接部の角度もごく緩く、接合部(後部突出部の略前下がり状の面の下端)自体が、平面視で弧状を呈し、前面を前方に膨出する曲面状とする点では、両意匠は共通し、立体として観察する場合、その差異はさほど目立たず、この点については、前記のとおり、両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。さらに、ポンプカバー部の周側面下端寄りに形成した段部の差異は、前項で述べたとおり、全体としては軽微な差異にとどまるものである。したがって、これらの点を考慮すると、ポンプカバー部の開口部両隣の面の態様の差異は、上述の両意匠の特徴的な共通点を凌駕して、両意匠を別異のものとするほどのものとはいえず、この差異が、ポンプカバー部の周側面下端寄りに形成した段部の差異と相まって生じる効果を考慮してもなお、原告主張の、「その全体の形状がかもし出す雰囲気を考慮すれば、ポンプカバー部の形状の差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きいものというべきであり」、両意匠は、全く類似しないというべきであるとは到底いえない。
以上のとおりであって、審決が、差異点(ロ)について、「開口部両隣の面の態様の差異は、・・・類否判断に及ぼす影響は軽微なものにとどまるといわざるを得ない。」と評価判断した点に誤りはない。
(3) 足踏みスイッチ部の差異点(ハ)の評価について 原告は、審決が、差異点(ハ)について、「板状フランジ部は、・・・台座部上面を薄く覆っただけのもので、・・・結局、その差異は、前端全体をポンプカバー部の後下端に接するものとしたか否かの差異に帰結するものであり、・・・その類否判断に及ぼす影響は微弱なものといえる。」とした点に対し、本願意匠の板状フランジ部は、台座部の前後方向の全体にわたって帯状に設けられており、引用意匠とは形状が大きく異なり、板状フランジ部は、両意匠共に、「台座部上面を薄く覆っただけのもの」とはいえない、さらに、両意匠の足踏みスイッチ部は、印象が全く異なり、したがって、「結局、その差異は、前端全体をポンプカバー部の後下端に接するものとしたか否かの差異に帰結するものであり」とはいえないから、否認する、と主張する。
しかしながら、本願意匠は、台座部の上面のみを注視すると、ポンプカバー部の左端及び右端各々の下端近傍から台座部の前端まで延びる、分割線様の細筋が看取される。原告は、この細筋を捉えて、本願意匠は、板状フランジ部が台座部の後から前まで帯状に設けられていると主張するものと解されるが、台座部の上面前部には、分割線様の細筋が看取されるのみで、原告のいう帯状の板状フランジ部は設けられていない。したがって、原告の主張は、その前提において誤りがある。
なお、本願意匠の分割線様の細筋各々は、台座部上面に表された、単なる一本線模様程度のものにすぎず、両意匠の類否判断に影響を与えるものではないから、審決が、台座部の差異として、本願意匠の分割線様の細筋について認定するまでもないものである。
また、原告は、本願意匠の足踏みスイッチ部は、「非常に落ち着いた、安定した感じ」であり、引用意匠のものは、「左右の足踏み部が中央凹陥部に付着している感じ」であると主張する。
しかしながら、引用意匠のものは、全体をポンプカバー部横幅と略同幅とした略横長の平板状として、その上面の中央を単に浅く窪ませたものであって、左右足踏み部と中央凹陥部が全体として一体の平板状をなすものであり、この点は、本願意匠のものも同様であり、さらに、本願意匠の足踏みスイッチ部の前端は、その全体がポンプカバー部の後下端と接しているものであるが、引用意匠のものの前端も、
その全体ではないものの、足踏みスイッチ部の横幅の略1/3に当たる中央部分がポンプカバー部の後下端と接しているものであり、以上の点を考慮すると、足踏みスイッチ部のみを注視すればともかく、意匠全体として見れば、両意匠の足踏みスイッチ部についての差異点は、該部についての共通点を凌駕して、両意匠を別異のものと看者に印象付けるほどの異なる印象をもたらすものではないといえる。
以上のとおりであって、原告の主張には理由がなく、審決が、差異点(ハ)について、「板状フランジ部は、・・・その類否判断に及ぼす影響は微弱なものといえる。」と評価判断した点に誤りはない。
(4) 昇降用アーム部の差異点(ニ)の評価について 原告は、審決が、「(ニ)の点については、昇降用内アームの後端付近という限られた部分に見られる差異であり、全体としては小さな差異であり、その類否判断に与える影響は微弱なものである。」と評価判断した点に対し、操作性と、外観、
美感の両観点から、大きな差があるから、否認する、と主張する。
しかしながら、両意匠は、昇降用アーム部の後端付近に座板支持ブラケット及びフランジ押さえ棒を挿入した突出部を配した点では共通するものであり、そして、
フランジ押さえ棒を挿入した突出部の長さも、両意匠共にごく短いものであるから、審決が、形態を全体として観察し、「(ニ)の点については、昇降用内アームの後端付近という限られた部分に見られる差異であり、全体としては小さな差異であり、その類否判断に与える影響は微弱なものである。」と評価判断した点に誤りはない。
また、昇降用外アームと昇降用内アームの長さの比の差異とも関連して、原告がいう、台座部から昇降用内アームまで、「順次上方に上がっていくにつれ細くなっている」との点は、両意匠において、むしろ共通する事項であり、両意匠の昇降用アーム部の差異は随分異なる外観、美感を与えるものとの原告の主張には理由がない。 なお、原告は、フランジ押さえ棒を挿入した突出部を座板支持ブラケットに対しどちらの方向から取り付けたかで操作が容易か否かの差があるとするが、操作性の良し悪しは、意匠の類否判断に直接関与しない。
6 総合判断について 原告は、審決は、「そうして、上記の差異点が相まって相乗的な効果が生じることを考慮してもなお、前記両意匠の共通点が奏する全体の基調を覆すには至らないものである。」というが、差異点は、大きな差異であって、大きな外観、印象上の異なる感覚を与えるものであり、差異点の相乗効果を考慮すると、これによって、
両意匠の共通点が奏する全体の基調をも、充分に覆すに至るものであり、かつ、審決のいう、「前記両意匠の共通点が奏する全体の基調」は、審決の共通点についての記述があいまいであるため、非常に大まかであいまいなものとなっている、と主張する。
しかしながら、審決の、差異点の評価判断に誤りがないことは、差異点の評価に関して述べたとおりであり、また、審決の、共通点の認定に誤りがないことは、共通点の認定に関して述べたとおりであり、原告の主張には理由がない。差異点は、
いずれも類否判断に及ぼす影響が軽微ないし微弱なものであり、差異点の相乗効果を考慮してもなお、両意匠の共通点が奏する全体の基調を覆すには至らない。
したがって、審決が、「そうして、上記の差異点が相まって相乗的な効果が生じることを考慮してもなお、前記両意匠の共通点が奏する全体の基調を覆すには至らないものである。」と判断した点に誤りはない。
当裁判所の判断
1 原告の主張は、詳細にわたっているが、その要点とするところを、本願意匠と引用意匠の形態部分に即して整理すると、以下のとおりである。
@(台座部) 両意匠は、「台座部がやや厚みのある平面視略隅丸縦長長方形状の板体とする」との点で共通するものではなく、両意匠の台座部の平面形状は、その雰囲気、印象が全く異なる。
A(昇降用アーム部-昇降用内アームの長さ) 本願意匠においては、昇降用内アームは「昇降用外アームよりもやや短く」ではなく、「昇降用外アームよりもかなり短く」と評価されるべきである。
B(ポンプカバー部) ポンプカバー部は、本願意匠においては、上下の両部分がスムーズにつながっていて連続的に面が変化し、表面曲面の形は、まろやかでなめらかで優雅な感じを与えるものであるのに対し、引用意匠では、「後部」の斜面状を形成する部分と、前下がり状の面を形成する部分とは別体的な感じのものである点で異なる。
また、ポンプカバー部の周側面略下端寄りに形成された段部は、本願意匠と引用意匠とでは、凸状か凹状かの差異があり、形成範囲も異なっている。
C(足踏みスイッチ部) 足踏みスイッチ部の形態も、両意匠の間で大きく異なっており、印象が異なる。
D(昇降用アーム部-昇降用内アームの後部) 昇降用内アームの後部における座板支持ブラケット及びフランジ押さえ棒を挿入した突出部の設け方は、本願意匠と引用意匠とでは全く異なっており、座板支持ブラケットへの座の固定を実現する方法が異なっている。
2 この整理に即して、以下判断する。
(1) 台座部 @の主張に係る台座部の形態について、審決は、両意匠の共通点として「台座部がやや厚みのある平面視略隅丸縦長長方形状の板体とする」点を挙げ、その上で、
差異点として(イ)のように説示して、これについて、「本願意匠の態様はむしろ普通のもので何ら特徴がなく、引用意匠も、その前端の膨出の程度がやや大きいものではあるが、特徴といえるほどのものでなく、全体としては具体的な態様(2)の台座部についての共通点に包摂される程度の小さな差異といえ、その類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。」と判断しているのであり、この関係の原告の主張を斟酌してみても、その説示の過程に誤りがあるということはできない。
(2) 昇降用アーム部-昇降用内アームの長さ Aの主張に係る両意匠の昇降用アーム部は、昇降用外アームの上方に昇降用内アームが軸着されたものであるところ、昇降用内アームは、昇降用外アームよりも短いことは、両意匠図面からみて明らかであり、「やや」との表現に厳密さが欠けるにしても、審決が基本的な構成態様の認定をした際に、両意匠の昇降用アーム部が「やや短い」点で共通すると認定した点に誤りがあるとは認められない。
(3) ポンプカバー部 Bの主張に係るポンプカバー部の形態についての原告の主張は、ポンプカバー部中、審決が「その後部を残して略前下がり状の面に形成して」といっている「後部」に相当する部分、及びその前の「略前下がり状の面に形成した部分」に相当する部分は、本願意匠においては、ともに、非常に曲面的で、全体が大きく曲面的に変化し、かつ、上下の両部分がスムーズにつながっていて連続的に面が変化し、表面曲面の形は、まろやかでなめらかで優雅な感じを与えるものであるのに対し、引用意匠では、「後部」の斜面状を形成する部分と、前下がり状の面を形成する部分とは別体的な感じのものである点で異なる、また、周側面略下端寄りに形成された段部の形状、形成範囲も異なる、というものである。
しかしながら、審決は、ポンプカバー部についての両意匠の差異点(ロ)を認定した上、対比判断においても、原告が主張する表面曲面の態様及び段部についての差異を指摘し、類否判断に及ぼす影響を判断している。すなわち、段部の差異はさほど目立つものではなく、軽微な差異にとどまるものとし、表面曲面の態様の差異については、「開口部両隣の面の態様の差異は、・・・特に、本願意匠は該部を球面状とし、引用意匠は該部を斜面状とした点でやや顕著なものである」と評価しているが、「この点を考慮したとしてもなお、具体的な態様(3)の・・・特徴的な共通点の中で見られる差異であり」、この点の差異は、(3)の特徴的な共通点が奏する全体の基調を圧して両意匠に別異感を与えるには至らないとしている。審決は更に、この点の差異が「全体として見れば、ポンプカバー部についての共通点の中での部分的な差異」であって、「段部の差異と相まって相乗的な効果が生じることを考慮したとしてもなお、それらの差異が類否判断に及ぼす影響は軽微なものにとどまるといわざるを得ない。」と結論づけている。当裁判所は、審決のこの判断につき、原告の上記主張その他これに関連する主張を考慮に入れて両意匠のポンプカバー部を対比検討したが、この点に関する審決の判断部分は、その説示に照らし優に支持することができ、原告の主張するように誤りがあると認めることはできない。
(4) 足踏みスイッチ部 Cの主張に係る足踏みスイッチ部の形態に関する原告の主張の要点は、本願意匠が、ポンプカバー部の後方に配置された、該ポンプカバー部とほぼ同幅の横長の矩形板状体よりなり、その前端全体がポンプカバー部の後下端と接しており、上述したポンプカバー部の形状とマッチして、非常に落ち着いた、安定した感じを与えるものとなっているのに対し、引用意匠は、中央凹陥部の左右に、それぞれ半楕円形状のような左右の足踏み部が接合するように設けられており、この中央凹陥部、及び左右の足踏み部の形状から、左右の足踏み部が中央凹陥部に付着している感じを与えるものであり、これは、本願意匠の、ポンプカバー部とマッチした感じとはその与える印象が異なる、というにある。
しかしながら、原告の主張するような点を考慮しても、足踏みスイッチ部の形態に関し、審決は(ハ)の差異点を認定し、「結局、その差異は、前端全体をポンプカバー部の後下端に接するものとしたか否かの差異に帰結するものであり、」とし、「具体的態様(4)のポンプカバー部・・・とした共通点の中で見られる差異で、全体としてはこの共通点に包摂される程度の小さい差異にとどまり、その類否判断に与える影響は微弱なものである。」とした審決の説示に誤りがあるということはできない。
(5) 昇降用アーム-昇降用内アームの後部 Dの主張に係る昇降用アームの後部における座板支持ブラケット及びフランジ押さえ棒を挿入した突出部の設け方についての原告の主張の根拠は、引用意匠においては、座板支持ブラケットに、理美容椅子の座を取り付ける際に、ポンプカバー部の背面である後方から、該押さえ棒を回転操作して、座板支持ブラケットへの座の固定を実現するものであるが、この後方からの操作は、操作空間が狭い環境においては、大変操作がしづらいものであるのに対して、本願意匠においては、フランジ押さえ棒は座板支持ブラケットに対し、斜め前方からこれに向かうものであるため、理美容椅子を配置する空間が狭いものであっても、フランジ押さえ棒を使用しての、座板支持ブラケットへの座の固定の操作は、非常に容易にこれを実現し得るものである、また、この部分の形状は、その外観上も、昇降用アーム部の形状とともに、随分異なる外観、美感を与えるものである、というものである。
しかしながら、操作の容易性は意匠の類否判断に直接結び付くものではなく、また、原告の外観、美感についての主張をもってしても、座板支持ブラケット及びフランジ押さえ棒を挿入した突出部の設け方に関し、審決がした判断、すなわち、
「(ニ)の点については、昇降用内アームの後端付近という限られた部分に見られる差異であり、全体としては小さな差異であり、その類否判断に与える影響は微弱なものである」との説示部分に誤りがあると認めることはできない。
以上のとおり、原告の上記主張はいずれも理由がない。
3 上記主張その他、原告が種々主張するところをも吟味し、両意匠の共通点及び差異点を考察しつつ、看者に与える印象ないし美感を対比するに、両意匠は全体として類似するものと認めることができるのであって、「上記の差異点が相まって相乗的な効果が生じることを考慮してもなお、前記両意匠の共通点が奏する全体の基調を覆すには至らないものである。」とし、「両意匠は、意匠に係る物品が共通し、その形態について、両意匠の共通点は、両意匠の全体の基調を形成し、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものであるのに対し、差異点は、いずれも類否判断に及ぼす影響が軽微ないし微弱なものであり、共通点を凌駕することができず、結局、両意匠は全体として類似するものといわざるを得ない。」とした審決の判断に誤りがあるということはできない。
結論
よって、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成13年4月17日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実