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関連審決 審判1998-8672
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成17行ケ10083審決取消(意匠)請求事件 判例 意匠
平成21行ケ10032審決取消請求事件 判例 意匠
関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  創作容易(容易の創作) /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  広く知られた /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 503号 審決取消請求事件
原告 ダートインダストリーズ インコーポレイ テッド
訴訟代理人弁護士 中村稔
同 松尾和子
同 熊倉禎男
同 辻居幸一
同 宮垣聡
訴訟代理人弁理士 宍戸嘉一
同 村社厚夫
同 松下満
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 山田啓治
同 藤木和雄
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/05/31
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年審判第8672号事件について平成12年8月14日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,アメリカ合衆国において1996年2月15日にした出願に基づく優先権を主張して,平成8年8月14日,意匠に係る物品を「タンブラー」とし,その形態を別紙審決書の理由の写しの別紙第一表示のとおりとする意匠登録出願(平成8年意匠登録願第24475号。以下「本願意匠」という。)をし,平成10年3月16日拒絶査定を受けたので,同年6月1日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを平成10年審判第8672号として審理した結果,平成12年8月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月30日,原告にその謄本を送達した。 2 審決の理由の要点 審決の理由は,別紙審決書理由の写し記載のとおりである。要するに,本願意匠は,特許庁総合情報館所蔵(受入昭和53年3月20日)の「glassware for the food service industry」昭和52年12月3日号第7-22頁所載のコップの意匠(特許庁意匠課公知資料番号第C53015208号。その形態は別紙審決書の理由の写しの別紙第二表示のとおり。以下「引用意匠」という。)に類似するので,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができない,とするものである。
原告主張の審決取消理由の要点
審決の理由のうち,本願意匠の形態及び引用意匠の形態についての認定(審決書2頁1行〜9行)及び本願意匠と引用意匠の共通点及び差異点についての認定(同2頁10行〜21行)は認める(ただし,差異点はこれのみに限られない。)。本願意匠と引用意匠との差異点についての判断(2頁22行〜34行)は争う。審決の結論(2頁35行〜3頁2行)は争う。
審決は,本願意匠と引用意匠の差異点を看過し(取消事由1),類否の判断を誤ったものであって(取消事由2),これらの誤りが,それぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(差異点の看過) (1) 本願意匠と引用意匠の間には,審決認定のもの以外に,次の差異点があるにもかかわらず,審決はこれらの差異点を看過した。
@ 本願意匠の,底部の直径と高さの比は,約1対2である。これに対し,引用意匠の,底部の直径と高さの比は,約1対3.1である。
A 審決は,本願意匠の凸弧面を4個と認定している。しかし、本願意匠のタンブラーの上縁部も外側に向けて凸弧を形成しているから,凸弧面の個数は,5個である。これに対し,引用意匠の凸弧面は,3個である。
B 本願意匠の凸弧面は,緩やかな形状で,凸部の頂点を認識できない。これに対し,引用意匠の凸弧面は,凸弧面の形状が明確で、凸部の略頂点となる部分を明確に認識することができる。
C 本願意匠の凸弧面は,極めて控え目に外側へ出ている。これに対し,引用意匠の凸弧面は側壁から露骨に突出し,特に最上部の凸弧面は,その上に位置する垂直部を超えてあからさまに外側へ突出している。
D 本願意匠の各凸弧面は,外周及び内周の双方に向けて凸部を形成している。すなわち,本願意匠の側壁部の厚さは均一ではなく,5つの凸弧面の部分が厚くなり,その間の4つの谷間部分が薄くなっている。これに対し,引用意匠では,側壁の厚みは均一である。
E 本願意匠は,上縁の内側に水平に線が入っているのに対し,引用意匠には,これに対応する構成は存在しない。
(2) 審決が看過したこれらの差異点は,両意匠の形態全体の基調を決定し,看者の注意を強く引く部分に係るものであるから,上記差異点の看過が審決の判断に影響を及ぼすことは明らかである。
@の差異点により,引用意匠は,本願意匠に比べ,全体的に縦長の印象を看者に与える。
AないしCの差異点により,引用意匠では,一つ一つの凸弧面が大きく際だっており,特に最上部の凸弧面は,その上に位置する垂直部を超えてまで外側に突出するほど顕著であるのに対し,本願意匠では,一つ一つの凸弧面自体は側壁全体の形状に埋没しており,5つの凸弧面全体で,一つのまとまりのある形態を構成している。
Dの差異点により,本願意匠では,各凸弧面の間の側壁が薄くなっているため,材質いかんでは,当該部位の光の透過率が凸弧面より高くなる結果,水平方向に縞模様を形成する。
Eの差異点により,本願意匠では,上縁の内側に水平の線が入っているのに対し,引用意匠では,このような線は入っていない。本願意匠に係るタンブラーのように実際に手にとって見ることの多い商品にとっては,このような内部に施された構成も,見る者の注目を引く個所である。殊に,上記のとおり,本願意匠は,各凸弧面が水平方向に縞模様を形成することから、このような上縁の内側に水平に形成された線は,これらの縞模様とあいまって,本願意匠の特徴ある形態を構成するものである。
以上の各差異点及び審決認定の差異点を総合すると,本願意匠の基本的形態は,底面を有する逆円錐台状で,底部から上端の開口部に向かって,直線的に,徐々に径が大きくなり,開口部が大きく開放されているのに対し,引用意匠の基本的形態は,底部から全体の高さの約25パーセントの部分は円柱形状,その上約65パーセントの部分は逆円錐状に上に向かって径が拡大し,上端の開口部までの10パーセントの部分がまた円柱形状をしている,ということができる。そして,引用意匠においては,逆円錐台状の個所に設けられた3つの凸弧面のうち,最上部のものの径よりも開口部の径が小さいため,上に向かって拡大した径が,開口部に向けて小さくなり,本願意匠とは反対に,開口部がすぼんだ様相を呈している。このように,本願意匠と引用意匠とは,その基本的形態が顕著に異なっている。
2 取消事由2(類否判断の誤り) 審決は,認定した差異点について,@外周面の凸弧面及び傾斜の態様の差異は,いずれも,外周面を,凸弧面と凹弧面を交互に水平状に複数段形成して,上方に向かって斜状に拡開する縦長の逆円錐台状の有底の特徴ある態様に包摂される微弱な差異であるので,類否判断を左右するほどの差異とはなり得ない,A上端の態様の差異は限られた部位における差異であるので,外周面の特徴ある態様においては類否判断に影響を与えるほどの差異とはなり得ない,と判断した。しかし,これらの判断は,本願意匠と引用意匠との顕著な差異に照らし,明らかに誤っている。
(1) @の判断について 引用意匠では,最も径の小さい下端が,全体の高さの4分の1にわたって垂直に伸び,下端より径の大きな上端も,垂直に伸びている。これによって,引用意匠の外周面は,全体の高さの4分の1を占める垂直な下端を過ぎた辺りから,突如として3つの凸弧面が外側へせり出し,下から上へ煙が昇るように,凸弧面が徐々に大きくなっていき,最後に,下端より径の大きな,最上部の凸弧面よりは径の小さい,垂直な上端がかぶさる形態を呈している。これに対し,本願意匠の外周面は,下端から上端まで同一傾斜のままであって,その間を略同一の大きさの非常に緩やかなカーブの凸弧面が均等に配置されており,引用意匠に見られる,煙がうねりながら昇っていくようなダイナミックな動きを伴った印象を一切与えることはなく,反対に,静的な安定感を与える。
このように,本願意匠は看者に安定感,安心感を与え,引用意匠は看者に奇抜な印象を与えるにもかかわらず,この顕著な差異を,「上方に向かって斜状に拡開する縦長の逆円錐台状の有底の特徴ある態様に包摂される微弱な差異であるので,類比判断を左右するほどの差異とはなり得ない」とした審決の判断は,明らかに誤っている。
(2) Aの判断について 上端の態様の差異は,下端の態様の差異とあいまって,本願意匠と引用意匠との間の顕著な差異を構成する。したがって,上端の態様の差異のみを分離して,「限られた部位における差異であるので,外周面の特徴ある態様においては類否判断に影響を与えるほどの差異とはなり得ない」とした審決の判断は,明らかに誤っている。
被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,原告主張のような違法はない。
1 取消事由1(差異点の看過)について 審決には,類否判断に必要な要素に関する限り,差異点の看過はなく,審決の差異点の認定に誤りはない。
(1) 原告は,審決が,底部の直径と高さの比の差異を看過したと主張する。しかしながら,本願意匠と引用意匠とは,上記の点について数値的な差異はあるものの,タンブラーあるいはコップのタイプとしての縦長の逆円錐台状の態様としては,両意匠とも例を挙げるまでもなくそれ自体極めてありふれた構成比率のものであり,意匠としては,その差異を格別評価するまでには至らないものであるから,詳細に数値をもって認定しなければならないものではない。
また,両意匠につき,看者の注意を最も強く引くのは「外周面」であり,底部の直径と高さの比は,「凸弧面と凹弧面を交互に水平状に複数段形成」したという外周面の看者に強く印象付ける特徴に包摂されてしまう程度のものであるから,底部と直径との関係の態様を抽出して差異点として採り上げることは,あえて行うまでもないことというべきである。
(2) 原告の主張する本願意匠の5個目の凸弧面については,凸弧面の半分よりもさらに小さい部分で開口部を形成しており,態様が他の凸弧面とは明らかに異なっている。審決は,これを,開口部付近の差異点として,「さらに詳細にみると,上端を,本願の意匠は,僅かに外方傾斜状としている」と認定している。
(3) 本願意匠の外周面の凹凸が緩やかな凸弧面であり,引用意匠の外周面の凹凸がやや高い凸弧面であるとの差異は,凸部の頂点が認識できないか認識できるかという程度の,極めて微細な差異にすぎず,前記の外周面の特徴に包摂されてしまう程度のものであるから,格別差異点として採り上げるほどのものではない。
(4) 外周面の凹凸が「控えめに」突出しているか、「露骨,あからさま」に突出しているかの差異は,前記の外周面の特徴に埋没する微細な差異にすぎず,格別差異点として採り上げるほどのものではない。
(5) 本願意匠の厚みは,断面図において初めて確認できる程度のものであり,引用意匠の厚みについても,均一であるかどうかはともかく,ともに外観に及ぼす影響はほとんどないことから,類否判断に影響を与えるまでには至らない。これを,差異点として採り上げることは,あえてするまでもないことというべきである。
(6) 上縁内側の差異は,極めてありふれた部位のしかも特徴のない一本の線模様の有無という差異であって,意匠全体からみれば,極めて部分的かつ微細な差異にすぎないので,何ら類否判断に影響を与えるものではない。これを,差異点として採り上げることは,あえてするまでもないことというべきである。
(7) 以上のとおり,原告が主張する差異点は、いずれも,採り上げるまでもない微細な差異にとどまり,また,これらの差異点を総合しても,類否判断に何ら影響を与えるには至らないものである。したがって,審決がこれらを採り上げなかったことをもって,差異点の認定に誤りがあったとすることはできない。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について 両意匠の構成態様について,審決が認定した「外周面を,凸弧面と凹弧面を交互に水平状に複数段形成」するという態様は,「上方に向かって斜状に拡開する縦長の逆円錐台状の有底の態様」とあいまって,この種意匠においては,顕著な特徴を表出し,看者に強く共通感を印象付けている。原告が主張する「ダイナミックな動きを伴った印象」か「静的な安心感を与える」かの印象の差異は,そのような印象が一般的なものであるとは必ずしもいえないうえに,仮に一般的であったとしても,上記外周面の顕著な特徴が醸し出す強い共通感の中に包摂される程度のわずかな印象の差異にすぎず,類否判断を左右する要素にまでは到底なり得ない微弱なものである。また,凸弧面の態様,外周面の傾斜の態様及び上端の態様に差異があるとしても,それら差異点に係る両意匠の態様は,いずれも,両意匠の特徴には至らないありふれたものであるから,差異としては極めて微弱なものというべきである。
原告は,上端の差異のみを分離して,「限られた部位における差異であるので,外周面の特徴ある態様においては類否判断に影響を与えるほどの差異とはなり得ない。」とした審決の判断は,明らかに誤っていると主張する。しかし,審決は,「それらの差異点を総合しても前記の両意匠が共通するとした態様を凌駕するものとは到底いえない」としており,適切に差異点を総合して判断している。
したがって,審決の類否判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 当裁判所は,本願意匠は,引用意匠と類似せず,意匠法3条1項3号に該当しないと解するのが相当であり,両意匠の類似性を認めて本願意匠の登録を拒絶した審決は,少なくともその限りにおいて意匠の類否判断を誤ったものとして,取り消されるべきであると考える。その理由は,次のとおりである。
(1) 本願意匠の形態が,別紙審決書の理由の写し別紙第一に示すとおりのものであること,引用意匠の形態が同別紙第二に示すとおりのものであること,両意匠は,外周面を凸弧面と凹弧面を交互に水平状に複数段形成して,上方に向かって斜状に拡開する縦長の逆円錐台状の有底の態様である点で,形態が共通するものであることは,当事者間に争いがない。
(2) 本願意匠と引用意匠とを比較すると,少なくとも以下の各点で,形態が相違していることが認められる。
(ア) 本願意匠は,底面の直径と高さの比が約1対2であるのに対し,引用意匠のそれは,約1対3である。
(イ) 本願意匠は,底面から上面までを略同一傾斜面状としているのに対し,引用意匠は,下方約4分の1を略垂直状に形成し,その上方を略傾斜面状としている(当事者間に争いがない。)。
(ウ) 本願意匠は,開口部が最も広がっているのに対し,引用意匠は,開口部が最上部に形成された凸弧面よりもすぼまっている。
(エ) 本願意匠の凸弧面の形状はゆるやかで,側壁の傾斜面に沿って,わずかに外側にふくらんでいるにすぎない。これに対し,引用意匠の凸弧面の形状ははっきりと外側にふくらんでおり,側壁の傾斜面から明らかに突出している。
(3) 引用意匠は,本願意匠に比べ,上記(ア)ないし(ウ)の差異点により,全体に縦長の印象を明瞭に与え,かつ,これに(エ)の差異点が加わることにより,一種奇抜な印象を与えるものとなっているということができる。
被告は,原告の主張する差異点は,いずれも,特徴という程度には至らないありふれた態様に係るもので,差異としては極めて微弱なものというべきであり,前記(1)の共通点,特に凸弧面と凹弧面と交互に水平状に複数段形成したという外周面の特徴から生ずる共通の印象を超えるような異なった印象はそこから生じない旨主張する。しかしながら,当業者を基準として創作容易性の観点から比較する場合においてはともかく,一般需要者を基準としてそれぞれの与える意匠的効果としての印象(美感)の類否の観点から両意匠を比較する場合においては,上記差異点,特に(ア)ないし(ウ)の差異点から生ずる印象(美感)の差異は,一般的には,決して小さなものではなく,共通点が,この差異を埋没させてしまうほどに強力な共通の印象(美感)をもたらす力を有するものでない限り,両意匠は全体として異なった印象(美感)をもたらすものというべきである。被告は,上記差異点(ア)につき,両意匠ともそれ自体極めてありふれた構成比率のものであり,意匠としては,その差異を格別評価するまでには至らない,と主張するが,たといそれ自体極めてありふれた構成比率のもの同士であっても,構成比率が大きく異なれば,見る者に与える印象(美感)が異なることは十分あり得ることである。ありふれたものからはありふれた印象(美感)しか生じないとしても,ありふれた印象(美感)は皆同じであって,その間に差異はない,ということにはならないのである。ところが,被告の強調する共通点である凸弧面と凹弧面を交互に水平状に複数段形成したという外周面の特徴が,当業者を基準として創作性の観点から比較する場合ではなく,一般需要者を基準として美感の類否の観点から比較する場合に,被告の主張するように強力な力を有すると認めさせる資料は,本件全証拠を検討しても見いだすことができず,その他,両意匠の前記共通点が上記力を有することは,本件全証拠を検討しても認めることはできない。
以上のとおりであるから,本願意匠は,当業者を基準として創作容易性の観点からみて登録に値しないものとする評価が許されるか否かはともかく(平成10年法律第51号による改正前の意匠法3条2項参照。なお,本願意匠を大づかみにした場合の形態(基本的形態)は,コップなどのものとして,古くから日本国内において広く知られた形状の一つであることは,当裁判所に顕著である。),意匠法3条1項3号の下で,一般需要者を基準として意匠の与える美感の観点から登録性を判断するに当たり,引用意匠との関係で,登録を拒否すべき類似の範囲に含まれるものとすることはできないというべきである。
被告の主張は,採用することができない。
2 以上述べたところによれば,本願意匠が引用意匠と類似し意匠法3条1項3号に該当するとした審決は,違法なものとして取り消されるべきである。
よって,審決を取り消すこととし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7
条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸