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関連審決 審判1998-11272
関連ワード 物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  広く知られた /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 2号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁理士亀井弘勝
同 稲岡耕作
同 川崎実夫
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 岩井芳紀
同 藤木和雄
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/05/24
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第11272号事件について平成12年11月21日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,意匠に係る物品を「戸車用レール」とし,その形状を別紙審決書添付の別紙1(本願の意匠)記載のとおりとする意匠について,平成7年8月10日,意匠登録出願をしたが,平成10年5月19日,拒絶査定を受けたので,これを不服として,同年7月15日,拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は,これを平成10年審判第11272号事件として審理した結果,平成12年11月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年12月11日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願意匠は,平成5年8月9日に特許庁が発行した意匠公報掲載の登録第874516号意匠(以下「引用意匠」という。その形状は,別紙審決書添付の別紙2(引用意匠)記載のとおりである。)に類似するから,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができない,とするものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,本願意匠及び引用意匠の認定の部分,両意匠の共通点及び相違点の認定の部分は認める。共通点及び相違点についての判断の部分のうち,相違点(3)及び(5)に係る部分は認め,その余は争う。結論の部分は争う。
1 審決の採用した観察方法の誤り 審決は,「共通点(1)の全体の基本構成は,意匠の骨格を成すとともに,意匠の基調を形成するものであり,これに共通点(2)のレールの全幅に占める戸車走行溝の寸法比率における共通性及び(3)の脚片の態様における共通性が加味されることによって,両意匠間に強い類似性をもたらしている」(審決書2頁26行〜30行)としている。しかし,審決における意匠の観察方法は,共通点についての評価を不当に重視し,相違点についての評価を不当に軽視するものであり,判断の前提について既に誤りがある。なぜならば,本願意匠と引用意匠との間に重要な相違がある場合には,それが,本願意匠及び引用意匠を見る者に,共通点が与えるものを凌駕する印象を与え,共通点に基づく類似性を減殺することがあるからである。
2 共通点についての判断の誤り 審決は,共通点について,前記1のとおり,共通点(1)に,同(2)及び(3)が加味されて,両意匠間に強い類似性をもたらしていると判断している。しかし,共通点(1)に,同(2)及び(3)が加味されたからといって,直ちに,両意匠間に強い類似性をもたらしているとはいえない。この判断は,共通点についての評価を不当に重視するものであり,誤っている。
3 相違点についての判断の誤り (1) 相違点(1)(戸車走行溝の態様の相違)について 審決は,「相違点(1)の戸車走行溝の態様における差異については,本願の意匠のY型溝がこの種の物品において従来より広く知られた態様であって,本願の意匠を特徴付けるものとは成し得ないものであるとともに,意匠を全体的に観察した場合には,共通点(2)に示すレールの全幅に占める戸車走行溝幅の寸法比率における共通性及び,溝の開口端付近の内壁面が両意匠とも傾斜面であることの共通性に希釈されるものであることを考慮すれば,その差異は共通点(1)の共通性を凌ぐものではない。」(審決書2頁31行〜37行)と判断しているが,この判断は誤りである。
(イ) 本願意匠のY型溝,すなわち,「溝の底部から深さ略4分の3付近までの内壁面を垂直面とし,その上端から開口端に至る部分を緩やかな傾斜面とした」断面略矩形の広くゆったりとした印象の戸車走行溝の形状は,本願出願当時,広く知られてはいなかった。
被告は,上記広く知られていたとの事実を裏付けるために,乙第1号証及び第2号証を提出している。しかし,上記乙各号証に係る戸車レールは,本願意匠が3本の溝を有する広幅の複列形による戸車レールを対象としているのに対し,1本しか溝のない,細くて,しかも,外形において本願意匠とは全く異なる単列形の戸車レールであるから,引用例として不適切である。
(ロ) 仮に,本願意匠のY型溝が本願出願当時広く知られた形状であったとしても,本願意匠のY型溝と,引用意匠の,溝の内壁面を一様な傾斜面とした溝,すなわち,内壁面に垂直面が少しもない鋭い溝のイメージを生じさせるV型溝とは,何人が見ても明瞭に相違しているものである。そして,戸車を走行させるのに最も重要な部分となる戸車走行溝の形状は,当事者の間で,戸車用レールの意匠を特徴付ける最も重要な要素とされており,当業者が,戸車用レールを比較検討するに当たって,機能の観点から,最も重点的に取り上げる部分である。したがって,戸車走行溝の形状の相違の与える印象が,レールの全幅に占める戸車走行溝の寸法比率の共通性(共通点(2))の与える印象によって希釈されることはあり得ない。
戸車走行溝の形状が戸車用レールの意匠を特徴付ける最も重要な要素であることは,戸車走行溝の形状以外の点では異なるところがないといってよい,甲第4号証(意匠登録第914591号)及び甲第5号証(意匠登録第954499号)の意匠が,本願出願前に別個の意匠として登録されていることからも裏付けられる。
(2) 相違点(2)(レール表面における条溝の有無)について 審決は,「相違点(2)のレール表面における条溝の有無については,本願の意匠の条溝の態様が滑り止めとしてはありふれた態様であって,本願の意匠を特徴付けるものとは成し得ず,その有無にともなう視覚的効果の差異も微弱であって,両意匠の類否を左右するものではない。」(審決書2頁38行〜3頁2行)と判断するが,この判断は誤っている。
本願意匠においては,戸車走行溝間となる左右の表面には,それぞれ条溝を15本ずつ,左右のレール外側縁部の表面には,それぞれ条溝を3本ずつ形成している。仮に,条溝自体は,滑り止めとしてありふれているとしても,このように多くの条溝がレール表面に目立つように形成されている以上,そのような多数の条溝が形成されていない引用意匠と比べると,見る者に,十分に視覚上の相違,言い換えれば,意匠的相違を印象づけることになるのである。条溝自体は従前から公知であるとしても,どのような外形のレールに形成されるかの組合せ次第で意匠としての構成は変わるのである。したがって,レール表面における多数の条溝の有無は,両意匠を対比検討するうえで,大きな相違と評価されるべきであり,これを軽視した審決は,失当である。
(3) 相違点(4)(脚片の本数の相違)について 審決は,「相違点(4)の脚片の本数における差異については,共通点(1)に係る脚片の配置態様及び,共通点(3)に示す個々の脚片の態様における共通性に希釈されるものであるとともに,当該部位が意匠に係る物品の使用時においては,レールの裏側に隠れてしまう部位であることを考慮すれば,その差異は局所的なものに止まり,共通点(1)に示す全体的共通性を凌ぐものではない。」(審決書3頁7行〜12行)と判断しているが,この判断は誤っている。
引用意匠の場合,戸車走行溝が下方に向かって鋭いV型溝であって,着地面積が少なく不安定感が否めないので,2本ずつ合計4本の脚片を有している。一方,本願意匠の場合,戸車走行溝が断面略矩形状で広い底部を有しているため,着地の安定性があり,1本ずつ合計2本の太めの脚片で全体の均衡を維持している。このように,脚片の本数は,戸車用レールとして最も重要な要素となる戸車走行溝の形状と関連を有しているものであるから,脚片の本数の相違による印象の相違は,共通点(3)の与える印象によって希釈されるものではない。
脚片の本数の相違が,戸車用レールの意匠における重要な要素であることは,脚片の本数以外の点では異なるところがないといってよい,甲第6号証(意匠登録第952146号)及び甲第7号証(意匠登録第989582号)の意匠が,本願出願前に別個の意匠として登録されていることからも裏付けられる。
また,審決は,脚片が裏側に隠れてしまう部位であるとの理由で,その本数の相違を軽視している。しかし,意匠に係る物品において,使用時には隠れる部分であっても,物品の取引段階で十分に見て確認できるものであれば,意匠の構成要素としては無視できないことであり,このことは,多くの判例において指摘されているところである。先述したとおり,戸車用レールの意匠において,脚片の本数は,重要な要素であり,当業者は,物品の流通段階で,当然これに注目しているのである。
脚片の本数の相違を軽視した審決は,両意匠の評価において明らかな誤りを犯すものである。
4 全体的観察 上述したとおり,本願意匠と引用意匠との間には,戸車走行溝の態様の相違(相違点(1)),レール表面における多数の条溝の有無の相違(同(2)),脚片における本数の相違(同(4))という極めて重要な相違があり,これらの相違は,互いにあいまって,本願意匠及び引用意匠を見る者に,共通点(1)ないし(3)が与えるものを凌駕する印象を与え,そのため,本願意匠は,全体として,引用意匠とは別異な視覚的効果をもたらす意匠となっているのである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は,正当であり,審決を取り消すべき理由はない。
1 審決の採用した観察方法の誤りについて 審決は,公知事実からの隔たりや使用状態を考慮しつつ,各相違点に係る本願意匠の態様を評価し,個々の相違点が表出する効果及びこれらがあいまって表出する効果,すなわち,類似性に抗する異質な視覚効果を十分把握したうえで,共通点に基づく視覚効果と対比させ,全体的にそれぞれの優劣を衡量し,その結果,各相違点に係る本願意匠の態様には,本願意匠を全体的に特徴付けるものはなく,その相違は,各共通点によってもたらされる両意匠の類似性を凌ぐほどのものではないと判断したものである。相違点を不当に軽視しているのでないことは,いうまでもないことである。
2 共通点についての判断の誤りについて 共通点(1)の全体の基本構成は,意匠の骨格を成すとともに意匠の基調を形成するものであって,その形態的共通性は,観察者に強く印象づけられるものであり,これに他の共通点が加わることにより,本願意匠と引用意匠の共通性は,さらに強められ,両意匠間に強い類似性をもたらすに至っているのである。
3 相違点についての判断の誤りについて (1) 相違点(1)(戸車走行溝の態様の相違)について (イ) 本願意匠のように上端付近がY型に拡がった溝は,本願出願前に既に広く知られていたものであり,このことは,乙第1号証(実開平4-第30681号)及び第2号証(実用新案登録第3001761号公報)からも裏付けられる。
(ロ) 原告主張のように,本願意匠の戸車走行溝を「断面略矩形」の溝とみることができるとしても,「断面略矩形」の溝は,引用意匠の断面視V型の溝と同様に,戸車走行溝としては基本的なものであるとともに,極めてありふれた形態であり(乙第3号証(実公昭29-第469号公報)参照),開口端付近の小幅な傾斜面についても,角部に施される面取りの域を出ないものであって,そこに特筆すべき創意を見出すことはできない。したがって,たとい,溝の形状のみを対比した場合に,その相違が明瞭であるとしても,全体的にみれば,到底,本願意匠を特徴付けるものとすることはできない。
戸車走行溝の形状が,機能上重要な要素であり,当業者が購買に当たり当然にその相違に留意するとしても,物品の全体形状を構成要素とし,視覚を通じて美感を起こさせることを要件とする意匠においては,機能上の重要性のみをもって,一概に,戸車走行溝の形状がレールの意匠を特徴付ける最重要の要素であると決めつけることはできない。
(ハ) 原告の主張は,意匠の構成要素としての共通点と相違点の軽重を総合的に評価することをせず,もっばら戸車走行溝の形状差のみに拘泥した恣意的なものであり,失当である。
(2) 相違点(2)(レール表面における条溝の有無)について 本願意匠のレール表面における条溝の態様は,滑り止めとしてありふれたものである(乙第4号証(実開平3-第72777号公報),第5号証(実開平4-第39242号公報)参照)。そして,この種の条溝のもたらす視覚効果が微弱であって,全体の基本構成における共通性を凌ぐものではないことは,原告が意匠権者である登録第952146号意匠とその類似1号意匠(乙第6号証及び乙第7号証)を対比観察してみても明らかである。
(3) 相違点(4)(脚片の本数の相違)について 脚片における本数の相違についての評価は,審決に記載したとおりであり,技術的な効果はともかく,意匠の構成要素としては,格別の評価をすることのできないものである。
4 全体的観察の誤りについて 争う。
当裁判所の判断
1 審決の採用した観察方法の誤りについて 原告は,審決が,共通点を不当に重視した旨主張する。
しかしながら,審決が,本願意匠と引用意匠との構成態様の共通点と相違点を抽出し,これらの軽重を総合的に評価し,結論を導き出していることは,審決の説示自体に照らして明らかであり,この検討の仕方自体には何らの誤りもない。原告の主張は採用できない。
2 共通点についての判断の誤りについて (1) 本願意匠と引用意匠とが次の各点で共通していることは,当事者間に争いがない。
@ 断面視左右対称形に屈曲する薄板状の扁平な戸車用レールであって,表面の大部分を面一の水平面とし,該水平面の中央部と両側部の3個所に戸車走行溝を1本ずつ,合計3本設け,両側にある戸車走行溝の開口端部外縁から側端の接地部にかけてのレール外側縁部を断面視略円弧状の丸面とし,各戸車走行溝間の水平面の裏面側に長手方向に続く脚片を均等に配置し,さらに戸車走行溝裏面,脚片下端及びレール外側縁部下端の各接地個所を面一に揃えて成る全体の基本構成(共通点(1)) A レールの全幅に占める戸車走行溝の寸法比率について,該溝の開口幅を全幅の略10分の1程度としていること(共通点(2)) B 脚片の態様について,断面視縦長の長方形状であって,水平面の裏面に対して直角に配置していること(共通点(3)) (2) 上記共通点(1)は,本願意匠及び引用意匠を大づかみに把握した場合における全体の構成態様ということができ(基本的構成態様),この基本的構成態様によって全体としてまとまった一つの意匠を形成し,見る者に視覚を通じてまとまった一つの美感を与えていると認められる。
そして,両意匠は,両者が,具体的構成態様である共通点(2)及び(3)においても共通していることを考慮すれば,上記共通の形状の範囲内で具体的形状に相違があるとしても,その相違によって見る者に相異なった特別な美感を与える要素が付加されない限り,意匠法3条1項3号の意匠登録の可否の基準としての類似の範囲内にとどまるものというべきである。
3 相違点についての判断の誤りについて (1) 本願意匠と引用意匠とが次の各点で相違していることは,当事者間に争いがない。
@ 戸車走行溝の態様について,本願の意匠においては,溝の底部から深さの略4分の3付近までの内壁面を垂直面とし,その上端から開口端に至る部分を緩やかな傾斜面とした通称Y型溝であるのに対し,引用意匠においては,溝の内壁面を一様な傾斜面とした通称V型溝であること(相違点(1)) A レール表面における条溝の有無について,本願の意匠においては,レール表面全体に長手方向に続く条溝を等間隔に多数形成しているのに対し,引用意匠にはそのような条溝が無いこと(相違点(2)) B レール外側縁部における丸面の態様について,本願の意匠においては,比較的浅い傾斜で緩やかに湾曲する断面視略円弧状としているのに対し,引用意匠においては,断面視略4分の1円弧状であること(相違点B) C 脚片の本数について,本願の意匠においては,戸車走行溝間に1本ずつ配置しているのに対し,引用意匠においては,戸車走行溝間に2本ずつ配置していること(相違点C) D レールの全高に対する全幅の比率について,本願の意匠においては,全幅が全高の略24倍弱であるのに対し,引用意匠においては,全幅が全高の略16倍弱であること(相違点D) (2) 相違点(1)(戸車走行溝の態様の相違)について (イ) 本願意匠の戸車走行溝の断面形状(審決にいう「通称Y型溝」,原告のいう「断面略矩形」の形状)は,戸車用レールの分野を離れて一般的にみた場合,極めてありふれたものであり,当業者のみならず一般通常人であっても,日常的に目にする形状であることは,当裁判所に顕著である。
戸車用レールの分野についてみると,乙第1号証(実開平4-第30681号),第2号証(特許庁が平成6年9月6日に発行した実用新案登録第3001761号公報)によれば,戸車走行溝は,戸車がその上を転動するものであること,戸車の半径方向の断面形状には,本願出願前に,半円形のもの,矩形のもの,円板の厚みを2段階に変えたものが存在していたことが認められる。戸車走行溝は,これらの戸車が転動し得るような溝でなければならないのであるから,その断面形状は,必然的に,特殊な形状ではなく,戸車の形状に合わせて,基本的に,V型溝,矩形あるいはY型溝のいずれかを選択し,これに若干の設計変更を加える程度のものとなることが明らかである。
本件においては,引用意匠のものはV型溝であるのに対して,本願意匠のものは,通称Y型溝(原告のいう「断面略矩形」)であって,いずれもごくありふれた断面形状というべきであるから,そこによほど特異な要素が見いだせない限り,格別に見る者の注意を引き付け,見る者に特別な美感を与えるものではなく,したがって,これを意匠登録の根拠となるべき新たな意匠的特徴とみる余地はないというべきである。ところが,本件全証拠を検討しても,本願意匠にそのような新たな特異な要素を認めることはできない。
(ロ) 原告は,本願意匠のY型溝と,引用意匠の,溝の内壁面を一様な傾斜面とした溝,すなわち,内壁面に垂直面が少しもない鋭い溝のイメージを視覚するV型溝とは,何人が見ても明瞭に相違しているものである,そして,戸車を走行させるのに最も重要な部分となる戸車走行溝の形状は,当事者の間で,戸車用レールの意匠を特徴付ける最も重要な要素とされており,当業者が,戸車用レールを比較検討するに当たって,機能の観点から,最も重点的に取り上げる部分である,したがって,戸車走行溝の形状の相違の与える印象が,レールの全幅に占める戸車走行溝の寸法比率の共通性(共通点(2))の与える印象によって希釈されることはあり得ない旨主張する。
しかしながら,本願意匠と引用意匠の溝の形状のみを比べて相違があったからといって,上述したとおり,意匠登録の根拠となるべき新たな意匠的特徴がなく,格別に見る者の注意を引き付け,見る者に特別な美感を与えるものではない以上,その程度のものとしか評価できないのである。
また,たとい,戸車走行溝の形状が,戸車を走行させるのに重要であるとしても,そのことは,機能に関する事柄であって,美感に関する事柄ではない。したがって,戸車走行溝の相違が,直ちに,新たな意匠的特徴に結びつくということにはならない。
(3) 相違点(2)(レール表面における条溝の有無)について (イ) 物の表面に条溝を設けることは,戸車用レールの分野を離れて一般的にみた場合,極めてありふれた事柄であり,当業者のみならず一般通常人であっても,日常的に目にするものであることは,当裁判所に顕著である。このことは,戸車用レールの分野においても同様にいうことができるものと認められる。
結局,レール表面に条溝を設けるかどうかは,通常ありふれた意匠的な設計変更の範囲内の事項であり,到底,見る者に特別な美感を与えるとはいい難い。
(ロ) 原告は,仮に,条溝自体としては,滑り止めとしてありふれているとしても,このように多くの条溝がレール表面に目立つように形成されている以上,そのような多数の条溝が形成されていない引用意匠と比べると,見る者に,十分に視覚上の相違,言い換えれば,意匠的相違を印象づけることになる旨主張する。
しかしながら,本願意匠において,多くの条溝がレール表面に目立つように形成されているとしても,それがありふれた形状である以上,その相違によって見る者に従来のものと相異なった特別な美感を与える要素とはならないというべきである。
(4) 相違点(4)(脚片の本数の相違)について 脚片の本数は,着地の安定性のためのもので,通常ありふれた意匠的な設計変更の範囲内の事項というべきであるから,戸車走行溝間に配置されている脚片が,1本か2本かで,見る者の注意を特に引きつけるほどの新たな意匠的な特徴が加わるものとはいえない。
原告は,脚片の本数は,戸車用レールの意匠における重要な要素である旨主張する。
しかしながら,戸車走行溝間に配置されている脚片を1本にしようが,2本にしようが,通常ありふれた意匠的な設計変更の範囲内の事項というべきである以上,その相違によって見る者に従来のものと相異なった特別な美感を与える要素となり得ないことは,明白である。
4 全体的観察について 上記2及び3に認定したところによれば,原告主張の,戸車走行溝の態様の相違,レール表面における多数の条溝の有無,脚片における本数の相違を検討しても,これらの相違によって見る者に相異なった特別な美感を与える要素が付加されるということはできない。したがって,本願意匠は,引用意匠に類似するから,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができない,とした審決の判断に誤りはない。
5 結論 以上によれば,原告主張の審決取消事由は,理由がなく,その他,審決の認定判断にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 宍戸充