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関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  部品 /  意匠の類似 /  先使用(29条) /  登録意匠 /  類似範囲 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  通常実施権 /  抵触 /  損害額 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 10809号 損害賠償等請求事件
原告 芳澤鉛錫株式会社
訴訟代理人弁護士 満村和宏
被告 フソー化成株式会社
訴訟代理人弁護士 保田 眞紀子
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/04/10
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、原告に対し、金800万円及びこれに対する平成11年5月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、別紙商品目録1及び2記載のエアコン据付台について、被告の有する登録第1039096号の意匠権に基づき、その製造、使用、又は譲渡のための展示の差止めを求める権利を有しないことを確認する。
事案の概要
1 争いのない事実等(当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により認められる。) (1) 原告は、各種非鉄金属製品売買並びに空調機器及びそれらの付属部品の販売を業とする株式会社であり、被告は、プラスチック成形加工及び販売を業とする株式会社である。
(2) 本件意匠権 被告は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件意匠」という。)を有している。
登録番号 第1039096号 意匠に係る物品 据付台 出願日 平成3年9月21日 登録日 平成11年3月12日 登録意匠 別添意匠公報(乙2)のとおり (3) 原告は、別紙商品目録記載1ないし4のエアコン室外機の据付台(以下、
目録の番号に応じて、「本件商品1」のように表記する。)を製造、販売している。
(4)ア 本件商品1及び2は、台形の取付台の上面の片端に細い溝が形成され、
中央に円形の模様があり、もう片方にビス取付のための穴(本件商品1)又は突起(本件商品2)が設けられた態様を有しており、本件商品1及び2の意匠は本件意匠の類似範囲内にある(当事者間に争いがない。)。
イ 本件商品3及び4は、取付台本体の中央部分に凹みをつけた形状を呈しており、本件商品3及び4の意匠は本件意匠の類似範囲内にない(当事者間に争いがない。)。
(5) 被告は、本件意匠登録後の平成11年5月ころ、訴外株式会社ダイエー・ロジスティック・システムズ(以下「ダイエー」という。)を含む得意先に対し、
本件意匠権が登録されたことを説明し、侵害品については厳正な態度で臨むつもりであると伝えた(以下「本件申入れ」という。)。
(6) ダイエーは、原告に対し、被告との間で意匠権の問題を解決しない限り本件商品の供給契約は結べない旨通告した。
そこで、原告は、被告に対し、平成11年6月25日付け通知書により、
ダイエーに対する本件申入れの撤回及び原告が通常実施権を有していることの確認を要求したが、被告からの応答はなかった。また、そのころ、原告は被告に対して内容証明郵便を送付したが、被告は受領を拒否した。
2 争点 (1) 原告は、本件商品1及び2について、先使用権に基づく通常実施権を有するか(本件商品1及び2の製造販売が開始された時期は、本件意匠の登録出願がされた平成3年9月21日よりも前か。)。
(2) 被告のダイエーに対する本件申入れを含む言動及び原告の通知に対する被告の対応は、原告に対する業務妨害行為に当たるか。
(3) 損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(先使用権)について 【原告の主張】 原告は、平成元年ころから、本件商品1もしくはこれに類似する商品を製造し、株式会社三菱電機サービスセンター(以下「三菱電機」という。)ほか数社に販売してきているから、先使用権に基づく通常実施権を有する。
【被告の主張】 (1) 原告のパンフレット(甲9)には、本件商品1(PY-40)の販売時期が1992年(平成4年)7月以降であることが明記されている。また、納品書(控)には、平成元年5月に「樹脂製クーラー取付台PY-40」が納品された旨の記載があるが(甲6の1〜4)、商品記号を変更しないままモデルチェンジすることは間々あることであり、商品記号が同一であることをもって、平成元年5月に製造販売された取付台PY-40が、平成4年7月作成のパンフレットに記載されている本件商品1とは限らない。
むしろ、原告は、甲9のパンフレットが発行された平成4年7月までは、
平成2年2月1日発行のカタログ(甲5)に記載されたクーラー取付台(PY-40)を製造販売していたと推測されるところ、同取付台は、上面に設けられた位置決め用ストッパーの取付穴位置が一方に偏っており、取付穴が横方向の中央にある本件商品とは明らかに異なっている。
すなわち、平成元年5月に販売されていたクーラー取付台PY-40は、
平成2年2月1日発行の前記カタログに記載されているものと同じで、本件商品1とは形態が異なるものであり、これによれば、原告が本件商品1を本件意匠の登録出願前に販売していたとはいえない。
(2) 本件商品2(PY-41)は、本件意匠登録出願前に製造販売したものではない。
2 争点2(業務妨害行為)について 【原告の主張】 (1) 原告は、ダイエーとの間で本件商品4(PY-41N)の取引交渉をしており、ダイエーの担当者から取引開始の内諾を得た直後、被告から意匠権侵害の主張をされた。被告の営業担当者は、ダイエーの担当者であるAに対し、「その商品は、被告会社の意匠権に抵触しますよ。」と明言し、その際、意匠権に関する書類を見せながら、「会話の内容を録音しますよ。」と言ったとのことである。
普通の営業行為であれば、同業他社の商品を「その商品」と具体的に指摘し、外形的に本件意匠の類似範囲に含まれないと判断される商品(PY-41N)であることを認識しながら、あえてそれが本件意匠権に抵触すると明言することなど考えられず、PY-41Nの形状と本件意匠の相違からすると、被告の行為は、
意図的な取引妨害行為であるというべきである。
(2) 被告がダイエーに対し、本件意匠権の侵害品については厳正な態度で臨むつもりであると伝えた結果、原告は、ダイエーから、被告との間で話合いによる解決ができない限り、取引はできないと言われた。その結果、本件商品1及び2のみならず、本件商品3及び4についても、意匠権侵害の問題が生じているかのごとき誤解が生じ、ダイエーから取引の停止を受けている。
原告は、被告に対し、平成11年6月15日付け通知書により、ダイエーに対する申出の撤回及び原告が通常実施権を有することの確認を普通郵便で要求し、同文書は、遅くとも同月末日には被告に到達した。しかし、被告は、原告がダイエーと取引できない状態にあり、しかも、その原因が被告のダイエーに対する申出にあることを認識しながら、原告の申出を無視した。これは、自らが作出した原告の取引上の窮状を助長し、商取引上通常行われる正当な行為の範囲を逸脱するものとして、違法な業務妨害行為に当たるというべきである。
【被告の主張】 (1) 被告の申入れは、自己製品の販売促進・営業行為であり、商取引上通常行われる正当な行為である。また、被告は、原告及びダイエーその他いかなる第三者に対しても、本件商品3及び4が本件意匠権を侵害していると申し向けたことはない。
(2) 原告代表者の陳述書(甲19)によれば、原告が、平成9年5月ころから、
本件商品1及び2を本件商品3及び4に切り替えて販売したとのことであるが、もし、そのころ、ダイエーとの間で本件商品3及び4の納入もしくは納入の交渉をしていたのであれば、切り替え後2年を経過した平成11年になって、被告が原告の営業を妨害したということはあり得ない。
3 争点3(損害額)について 【原告の主張】 原告は、被告の取引妨害により、ダイエーと平成11年夏の取引を開始することができなくなり、単価80円、10万個の取引額計800万円につき損害を被った。
【被告の主張】 原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(先使用権)について (1) 証人B(現在原告の空調部材部長)は、原告において平成元年3、4月ころに本件商品1(PY-40)を製品化したと証言しており、証拠(甲5、20の1・2)によれば、三菱電機発行の「エアコン配管部材」と題するカタログ(甲20の1)には、「『クーラー取付台PY-40』4月以降発売予定」の記載があり、同カタログ添付の「1989エアコン配管部材価格表」(甲20の2)には、クーラー取付台PY-40の価格が掲載されていること、平成2年2月1日の発行日付のある三菱電機発行の「斡旋品総合カタログ」(甲5)にも「クーラー取付台品番PY-40」の写真が掲載されていることが認められる。しかし、これらのカタログに掲載された取付台PY-40の写真には、台の上面の端に本件商品2(PY-41)と同様の突起があり、本件商品1(PY-40)と異なる形状を呈している。この点について、証人Bは、カタログに写っている取付台は、本件商品1よりやや遅れて発売を始めた本件商品2(PY-42)であり、カタログの型番の表示はPY-41とすべきところを誤ってPY40としたものであると証言する(なお、本件商品1と2の違いは台の上面の端に穴があるか突起があるかの点である。)。しかし、カタログの写真からは、掲載された取付台に、本件商品1、2と同様の上面中央の円形及び突起と反対側の細溝の存在を看取することができない。
したがって、平成元年及び平成2年時点の三菱電機のカタログによっては、同カタログに掲載された「クーラー取付台PY-40」が本件商品1又は2であるとは推認できない。
また、証拠(甲6の1〜4)によれば、原告は、平成元年5月10日及び同月12日、株式会社富士商会(以下「富士商会」という。)を通じて、有限会社豊陽(以下「豊陽」という。)から、樹脂製クーラー取付台PY-40を各2000個仕入れていることが認められるが、前記のとおり、平成元年時点で販売されたPY-40が本件商品1と同一形状の取付台であったことを認めるに足りる証拠はないから、これらの納品書の存在をもって、原告が平成元年当時、本件商品1を製造、販売していたとは推認できない。
(2) 証拠(甲7の1〜4)によれば、平成3年5月28日、豊陽からダイエーに対して樹脂製クーラー取付台が納品されたことが認められるが、同納品書は、納品された取付台の品番が記載されていないので明らかでなく、これによって、平成3年以前において、原告が本件商品1、2を製造、販売していたことを推認することはできない。
さらに、原告が本件商品1(PY-40)及び本件商品2(PY-41)の金型であるとして提出した写真(甲15)に写っている金型には、凸型の横側に「クラー台2号型 3.7.25」の文字が白字で書かれていることが認められるが、この文字及び数字を誰がいつ書いたものであるかは、本件全証拠によっても明らかでなく、原告の空調部材部長である証人Bも、同日付の根拠は明らかでないと証言している。
加えて、証人Bは、同金型は、本件商品1(PY-40)と本件商品2(PY-41)の双方を成型するため、ビス取付け用の穴(PY-40)あるいは突起(PY-41)用の差異に応じて、金型にピン(入れ子)を差し込んだり取りはずしたりすることができると証言するが、裁判所に本件商品1及び2として提出された検甲3、4は、その内側のリブの高さが異なっているから、証人Bが証言するように、同金型にピン(入れ子)を差し込んだり取りはずしたりすることで本件商品1及び2(検甲3、4)が成型されるものとは認められない。
また、甲15、17からうかがわれる同金型の突き出しピンの位置は、検甲3、4の裏側に形成された突き出しピンの押痕の位置と異なっている。
以上を考慮すると、同金型が、実際に平成3年7月25日時点で製作されていた本件商品1、2の金型であるとは推認できず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
原告の主張に副う証人Bの証言及び甲19(同人の陳述書)は、確たる裏付けを欠き、採用することができない。
(3) 以上によれば、原告が、本件意匠の出願日である平成3年9月21日までに本件商品1、2を製造、販売していた事実を認めることはできない。
なお、証拠(甲9)によれば、原告は、平成4年7月、本件商品1の図面を付した「エアコン室外機取付架台(PY-40)」に「ライトベース」の名称を付けて、販売用チラシを作成していたことが認められ、証拠上、別紙商品目録1記載の形状の本件商品1の販売が確認できる時期は平成4年7月ころ(本件意匠の登録出願より後)が最初である。
よって、原告には、本件意匠権について、先使用に基づく通常使用権(意匠法29条)を認めることはできない。
2 争点(2)(業務妨害行為)について (1) 証拠(甲10の1、甲11、18、21、乙7、証人B、被告代表者本人)によれば、次の事実が認められる。
ア 被告代表者は、平成3年9月に登録出願した本件意匠が、平成11年3月12日に意匠登録されたことから、同年4月ころ、顧客等を回り、本件意匠権が登録になったことを説明するとともに、各社担当者に対し、「今まで類似品に悩まされてきましたが、おかげで意匠権として登録になりました。これからは類似品と思われるものを買ったら注意して下さい。あまりひどいところがあれば、それなりの手を打たざるを得ません。」と述べた。
イ 被告は、ダイエーにエアコン据付台を納入しており、平成11年4月ころ取引継続の通知を受けていたことから、被告代表者は、平成11年4月又は5月ころ、ダイエーの担当者であるAのところに、意匠登録証のコピー及び意匠公報を持って挨拶に行き、他の顧客に対するのと同様の説明をした。その際、被告代表者は、「芳澤鉛錫(原告)、マックス、ゴールド工業、コウワ工業、タントウ工業、
桃陽電線がエアコン据付台を出しているので、これから類似品があるかどうか検討してみる。」と述べた。
ウ 原告は、平成11年3月ころ、本件商品4(PY-41N)をダイエーに納品する商談をまとめて、同年4月まではこれを納品していた。しかし、同年5月18日、Aから原告の東京支店長であるCに対し、被告の出願意匠が登録になり、それを使うことによって問題が起きることから、被告の意匠問題について対応するようにという電話があり、同月27日には、Aから、原告に対し、被告と和解するまで、出荷を停止してほしいとの申入れがあったことから、同年5月以降、原告からダイエーへのエアコン据付台の納入は停止された。
エ 一方、被告は、平成11年5月ころ、従来パテを購入していた取引先の富士商会から、今後は取引を停止し、パテを売らないとの通告を受けた。被告は、
代わりの仕入先を探し、製品の供給を遅らせることは免れたが、富士商会の行動を不審に思い、調査したところ、富士商会が原告に本件商品3、4を納入していることが判明した。被告は、その後、富士商会から、原告が話合いをしたいと言っていると連絡を受けたが、被告は、パテの販売を中止させる行為に出る前に話し合いをするのが常識であると言ってこれを断り、取引先のシャープエンジニアリング株式会社から同様の申出があった時も、富士商会には電話をかけたが、原告には電話をかけず、原告から送付された平成11年6月25日付け内容証明郵便の受領も拒否した。
(2) 前記認定事実によれば、被告は、平成11年4月ころ、ダイエーの担当者であるAに対し、本件意匠が登録されたことを告知し、今後は本件意匠の類似品があればしかるべき対処をする旨通告したことが認められるものの、被告が、原告の本件商品3、4を具体的に特定して、この商品が本件意匠権を侵害していると言ったり、ダイエーが原告の商品を販売した場合には、ダイエーであっても法的措置を取るという趣旨の発言をした事実は認められず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
以上によれば、被告は、本件商品3、4が本件意匠権を侵害していないことを知りながら、意図的に、原告からダイエーに対するこれらの商品の納入を妨害したということはできず、かえって、被告の申入れは、自社商品に関して意匠権登録がされたことを取引先に宣伝し、自社商品の販売促進を図るための営業行為であり、商取引上通常行われる正当な行為の範囲であったというべきである。
そして、被告のAに対する発言が、商取引上通常行われる正当な行為の範囲内にある以上、被告が原告から送付された通告書に応答することなく、また、原告からの内容証明郵便の受領を拒否したことも、これを被告が作出した原告の取引上の窮状を助長し、商取引上通常行われる正当な行為の範囲を逸脱する違法な業務妨害行為と評価することはできない。
3 以上によれば、原告の請求には理由がない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝