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関連審決 審判1997-12598
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 398号 審決取消請求事件
原告 元旦ビューティ工業株式会社代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士福田賢三
同 福田武通
同 福田伸一
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
同 【E】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/27
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成9年審判第12598号事件について平成12年9月6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成7年10月30日、別紙審決書の理由の写しの別紙第1(本願の意匠)表示の意匠について、意匠に係る物品を「屋根用カバー材」として意匠登録出願をしたが(以下、これを「本願出願」といい、その意匠を「本願意匠」という。)、平成9年6月6日に拒絶査定を受けたので、同年7月28日、拒絶査定不服の審判請求をした。特許庁は、これを平成9年審判第12598号事件として審理した結果、平成12年9月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同月22日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由 審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、本願意匠は、平成3年3月27日特許庁発行の意匠公報所載、意匠登録第703092の類似1号の意匠(別紙審決書の理由の写しの別紙第2(引用の意匠)表示の意匠。
以下「引用意匠」という。)と意匠に係る物品が共通しており、その形態について、両意匠の共通点は、総合的に相互の類似性を強く表出しているものと認められるのに対し、差異点は、いずれも類否を左右する要素となり得ず、これら差異点が相まって奏する効果を考慮しても、上記共通点によって惹起される強い類似性を凌駕するものではなく、本願意匠は引用意匠と類似するものと認められるから、本願意匠は意匠法3条1項3号に該当し意匠登録を受けることができない、とするものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決書の1頁1行ないし下から3行を認める。1頁末行ないし2頁20行のうち、[共通点](1)の「全体の基本的構成態様について」(1頁末行)、(4)の「鍔状部下端の折り返しについて、内側へ沿うように上方へ折りかえされている点」(2頁8行及び9行)、[差異点](ロ)の「引用の意匠は、やや大きく角丸に折り返し、」(2頁17行)を争い、その余を認める。2頁第21行ないし3頁7行を争う。
審決は、本願意匠と引用意匠との共通点に関して誤った認定をし(取消事由1)、類否判断を誤り(取消事由2)、その結果、本願出願は意匠法3条1項3号に該当し意匠登録を受けることができないとの誤った結論を導いたものであり、違法であるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願意匠と引用意匠との共通点に関する誤った認定) (1) 審決は、共通点(1)(審決が本願意匠と引用意匠との共通点(1)として認めたものをいう。「共通点(2)」ないし「共通点(5)」及び「差異点(イ)」ないし「差異点(ハ)」についても同様である。)を「全体の基本的構成態様」におけるものと認定している。
本願意匠と引用意匠との間に共通点(1)があることは事実である。しかし、この共通点は、本願意匠及び引用意匠に係る物品(以下「この種物品」という。)においては避けることのできない構成態様に係るものであり、したがって、この種物品一般の共通点であって、決して、本願意匠と引用意匠に固有の共通点であるわけではない。
すなわち、この種物品は、おおむね、隣り合う屋根板に上から被さるものであるから、その部分(以下「カバー部」ということがある。)の断面形状は、山形でなければならず、また、隣り合う屋根板を弾性的にしっかりと係止する機能を発揮する必要があるから、その高さの途中に内側への括れを伴う略倒「へ」字状の係止部を形成しなければならない。したがって、共通点(1)は、この種物品を創作するに際して必然的に導かれる構成態様であって、創作者は、この態様を大前提にして、各種の意匠の創作を行わざるを得ないのであるから、その共通性をもって本願意匠と引用意匠の「全体の基本的構成態様」における共通点と判断することはできない。
審決は、本願意匠及び引用意匠のそれぞれにおける全体の基本となる態様の認識を誤って、基本となる態様ではない共通点(1)に係る態様を基本的態様としたため、
意匠の類否の判断において同共通点を過大に評価し、さらには、各差異点の評価も誤り、ひいては類否判断の結論をも誤ったものである。
(2) 審決は、共通点(4)として、「鍔状部下端の折り返しについて、内側へ沿うように上方へ折りかえされている点」(審決書2頁8行及び9行)を認定している。
本願意匠が上記態様のものであることは事実である。しかし、引用意匠においては、鍔状部下端が、鍔状部分と折り返し部分との間に、板材の厚さの2倍程度の間隔を形成するように大きく折り返されており、その間隔部分は極めて明瞭に看取される。つまり、引用意匠の上記折り返しは、内側に沿うように上方に折り返されたものとはいえないのである。この点でも、審決は共通点についての認定を誤っている。
2 取消事由2(類否判断の誤り) (1) 共通点(1)は、前記のとおり、本願意匠に係る物品において避けることのできない構成態様に係る共通点であるから、これを見る者は、物品の原始的機能を表明したものであると理解するにとどまり、両意匠の類以性を判断する要素として理解することはない。
(2) 本願意匠と引用意匠との差異は、第1に、本願意匠は、全体的にスリムであり、略逆V字状に看取されるものであるのに対して、引用意匠は、全体的にゆったりとしており略逆U字状に看取されるものである。第2に、本願意匠は、各種角部分について明瞭な角部を形成しているのに対して、引用意匠は、いずれもゆったりとした曲線的な処理が施されているものである。第3に、本願意匠は、鍔状部下端の折り返しに関し、内側にぴったりと沿うように、そして、短く形成しているのに対して、引用意匠は、鍔状部と離間して大きく、そして、長く形成されたものである。
これを審決の認定した差異点でいえば、次のとおりである。
差異点(イ)についてみると、本願意匠は、三角山状に関連させるように係止部形状についても角張った態様となし、その結果、見る者に全体として鋭い視覚イメージを想起させるようにしているのに対し、引用意匠は、凸弧状に関連させるように係止部形状についても丸まった態様となし、その結果、見る者に全体として穏やかな視覚イメージを与えるようにしている。
差異点(ロ)についてみると、本願意匠は、鍔状部に沿って押し潰すように小さく角丸に、しかも、極めて短く折り返したものであり、その存在が見る者の視覚に与える影響は極めて少ない。また、そのような態様は、本願意匠の全体イメージ(鋭さ)を更に推し進めるものである。これに対して、引用意匠は、鍔状部と離間して大きく、しかも、鍔状部の長さにほぼ等しい程度に長く折り返したものであり、引用意匠全体を観察した場合、その占める割合が大きいことに原因して、その存在を、見る者の視覚に強く訴えるものである。そして、そのような態様(滴状の間隔、大きな丸み)は、引用意匠の全体イメージ(穏やかさ)を更に推し進めるものである。
差異点(ハ)についてみると、屈曲角部の処理は、見る者における本願意匠と引用意匠に対する視覚イメージの形成に十分に寄与している。すなわち、本願意匠は、
先に説明したように、全体として鋭い視覚イメージを醸し出すことを念頭に創作されたものであり、上記処理は、見る者に「鋭さ」の表れとして理解されるものである。一方、引用意匠は、全体として穏やかな視覚イメージを醸し出すことを念頭に創作されたものであると推測され、上記処理は、見る者に「穏やかさ」の表れとして理解されるものである。
このように、両意匠を全体的に観察すれば、上記差異によって、本願意匠は、見る者に「鋭さ」の印象を、引用意匠は、見る者に「穏やかさ」の印象を与えるものである。そして、上記差異は、物品として避けて通ることができない形状に原因する共通点を凌駕するものであり、その結果、両意匠は、全体として全く別異な(正反対な)視覚イメージを見る者に与え、明確に区別されるものである。
(3) このように、審決は、必然的に生ずる共通点を過大に評価し、上記差異点に原因する全体イメージの相違を過小に評価し、その結果、両意匠を類似するものと判断しているのであり、著しい誤りを犯すものである。
被告の反論の要点
審決の認定判断はいずれも正当であり、審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(本願意匠と引用意匠との共通点に関する誤った認定)について (1) 原告は、共通点(1)は、この種物品において必要不可欠な態様に係るものである旨主張する。
しかし、本願意匠に係る物品のカバー部及び係止部の形態は、特定の形状に限定される必然性はなく、これについての新規な意匠を開発することが十分に可能である。また、その開発に当たって、従来から存する多様な形態の中から適宜選択することも可能であるし、そのカバー部及び係止部の形状を決めるに当たり、従来から存する多様な形状の中から選択し、新たな形態を創出することも可能である。要するに、上記カバー部及び係止部の形態は、屋根板等の継ぎ目部分の形状、屋根板等の板面部分の相互間隔、また、組み合わせる吊り子の形状に応じて多種多様な形態が創出され得るものである。現に、この種物品の形態で、その断面形状の概略を山形としないもの(乙第1号証〜第5号証)、その高さの途中に内側への括れを伴う略倒「へ」字状の係止部を形成しないもの(甲第7号証〜第10号証、乙第6号証〜第10号証)も普通に知られているのである。
したがって、共通点(1)は、この種物品を創作するに際して必然的に導かれる構成態様であるとはいえず、また、創作者がこの態様を前提にして各種意匠の創作を行わざるを得ないということもできない。
(2) 審決は、本願意匠と引用意匠とを対比して、両意匠の共通する特徴点を踏まえ、「鍔状部下端の折り返しについて、内側へ沿うように上方へ折りかえされている点」(審決書2頁8行及び9行)を共通点(4)として認定したうえ、原告主張の、
引用意匠の鍔状部下端が、鍔状部分と折り返し部分との間に板材の厚さの2倍程度の間隔を形成するように、やや大きく折り返した点については、その折り返し間隔及び折り返し長さの差異に着目し、これを差異点(ロ)として摘示しているのである。したがって、共通点(4)に関する審決の認定には何らの誤りもない。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について (1) 原告は、両意匠の差異点を、本願意匠は「全体的にスリムであり、略逆V字状」、引用意匠は「全体的にゆったりとしており略逆U字状」等と言い換え、両意匠は、全体として全く別異な視覚イメージを見る者に与え、明確に区別されるものであると主張する。
しかし、原告主張の上記差異点は、いずれも、両意匠の類否を左右する要素とはなり得ないものであり、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。
また、差異点(イ)についてみると、本願意匠の丈高山形部の屈曲部は、鈍角のものであり、その表面が滑らかに加工されているから、そこに鋭い視覚イメージは認められず、それは、各屈曲部位における曲げ面処理に係わる、部分的な微弱な差異にすぎない。
差異点(ロ)についてみると、両意匠の折り返し部の差異は、さほど目立たないものである。そして、従来から、この種の、板金を屈曲加工して形成する建築用外装材のカバー材等において、その端部処理として、本願意匠のようにわずかな空隙を設ける程度に小さく角丸に折り返すことも、引用意匠のようにやや大きく角丸に折り返すことも、いずれも普通に行われている常套の加工手段であったから、両意匠の折り返し部は、いずれも、格別特徴ある折り返し態様とはいえない。加えて、本願意匠の当該部位の態様は、引用意匠の当該部位の態様よりもさらに特徴のないものであり、その差異を殊更採り上げて、本願意匠の態様を評価することはできない。
差異点(ハ)についてみると、原告のいう屈曲角部の処理の手法の差異は、各屈曲部位における曲げ面処理に係わる部分的な微弱な差異にすぎず、両意匠の共通点に希釈される程度にすぎないものである。
(2) 結局、両意匠は、基本的構成態様の共通点(1)が、共通点(2)、共通点(3)と協調して、カバー材としての形態の基調となるところを形成して、見る者に両意匠の共通感を印象づけており、また、共通点(4)、共通点(5)をも加味した総合的な効果として両意匠の類似性を強く表出していると認められるのである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本願意匠と引用意匠との共通点に関する誤った認定)について (1) 本願意匠と引用意匠とが、いずれも、意匠に係る物品を「屋根用カバー材」とするものであることは、当事者間に争いがない。
(2) 別紙審決書の理由の写しの別紙第1(本願の意匠)表示の意匠(本願意匠)と同第2(引用の意匠)表示の意匠(引用意匠)とを対比すれば、審決が認定するとおり、両意匠は、
全体の基本的構成態様について、一定の断面形状で長手方向に連続する長尺材であって、その左右対称的に屈曲する断面形状の概略が、丈高山形とした裾部の近くに、内側への括れを経て外側へ鍔状に拡がる、略倒「へ」字状の係止部を形成した点(共通点(1)) 係止部の鍔状部外端が、上方山形部側面の延長線上にあり、その両側面の上方への延長線の交差角度が略30度である点(共通点(2)) 係止部の形成比率について、鍔状部幅が括れ部幅より広く、この鍔状部の縦幅が全体の幅の略4分の1を占める点(共通点(3)) 鍔状部下端の折り返しについて、内側へ沿うように上方へ折りかえされている点(共通点(4)) 断面視において、全体の縦幅が全体の横幅より大きい点(共通点(5)) で共通し、
上方山形部上面について、本願意匠は三角山状として、その稜線を現しているのに対して、引用意匠は凸弧状の曲面状である点(差異点(イ)) 鍔状部下端の折り返し部について、本願意匠は、わずかな空隙を設ける程度に小さく角丸に折り返し、その長さが鍔状部の略3分の1であるのに対して、引用意匠は、やや大きく角丸に折り返し、先端が鍔状部の上部近くまで達する長さである点(差異点(ロ)) 係止部を形成する屈曲部について、本願意匠は角張っているのに対して、引用意匠は角丸状である点(差異点(ハ)) で差異があることを優に認めることができる。
(3) 原告は、共通点(1)は、この種物品を創作するに際して必然的に導かれる構成態様であって、創作者は、この態様を大前提にして、各種の意匠の創作を行わざるを得ないのであるから、その共通性をもって本願意匠と引用意匠の「全体の基本的構成態様」における共通点と判断することはできない旨主張する。
しかしながら、共通点(1)は、両意匠のそれぞれの全体を大づかみに観察したときに把握される構成態様を客観的に表わしたものであることが明らかであり、審決のいう「全体の基本的構成態様」がこの意味でありそれ以上に出るものでないことは、審決の説示全体に照らして明らかである。そして、共通点(1)がこのようなものであるとすると、それに関する認定の正しさが、この種物品を創作するに際して必然的に導かれる態様であるかどうかによって左右されることはあり得ない。残るのは、両意匠の類否の判断において同共通点にどのような評価を与えるかということだけである。原告の上記主張は、失当である。
(4) 原告は、共通点(4)について、引用意匠は、鍔状部下端が、鍔状部分と折り返し部分との間に、板材の厚さの2倍程度の間隔を形成するように大きく折り返されているものであり、その間隔部分は極めて明瞭に看取されるものであり、引用意匠の上記折り返しは、本願意匠のように、内側に沿うように上方に折り返えされたものとはいえない旨主張する。
しかし、審決をよく読めば、差異点(ロ)において、原告主張の「板材の厚さの2倍程度の間隔」とまで詳細ではないものの、「鍔状部下端の折り返し部について、
本願の意匠は、僅かな空隙を設ける程度に小さく角丸に折り返し、その長さが鍔状部の略3分の1であるのに対して、引用の意匠は、やや大きく角丸に折り返し、先端が鍔状部の上部近くまで達する長さである点」で差異があると認定しているのであり、原告主張の引用意匠の構成態様は、審決において差異点として評価されているということができる。原告の上記主張は、採用できない。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について (1) 原告は、共通点(1)は、本願意匠に係る物品において避けることのできない構成態様に係る共通点であるから、これを見る者は、物品の原始的機能を表明したものであると理解するにとどまり、両意匠の類以性を判断する要素として理解することはない旨主張する。
原告主張のとおり、この種物品が隣り合う屋根板に上から被さるものであるとしても、そのカバー部の断面形状が山形でなければならない必然性がないことは、明らかである(乙第6号証、第7号証参照)。
また、原告主張のとおり、隣り合う屋根板を弾性的にしっかりと係止する機能を発揮する必要があるとしても、その高さの途中に内側への括れを伴う略倒「へ」字状の係止部を形成しなければならない必然性がないことも、明らかである(乙第6号証〜第8号証、第10号証参照)。
したがって、原告の上記主張は、その前提において既に誤っているものである。
(2) 両意匠は、共通点(1)に示される基本的構成態様(大づかみに把握された全体の構成態様)において、全体としてまとまった意匠を形成し、見る者に視覚を通じて一つの美感を与えていると認められる。しかも、両意匠は、具体的構成態様である共通点(2)ないし(5)においても共通の形状となっている。これらを考慮すれば、上記共通の形状の範囲内で具体的形状に差異があるとしても、その差異によって見る者に相異なった特別な美感を与える要素が付加されない限り、意匠登録の可否の基準としての類似の範囲内にとどまるものというべきである。
そこで、具体的形状の差異によって見る者に相異なった特別な美感を与える要素が付加されるかどうかについて検討する。
(3) 前記の差異点(イ)ないし(ハ)は、いずれも、共通点(1)に示される基本的構成態様を前提とする局部的な差異であるというべきである。
そして、差異点(イ)の、上方山形部上面が「三角山状」か「凸弧状の曲面状」か、差異点(ロ)の、鍔状部下端の折り返し部が「わずかな空隙を設ける程度に小さく角丸に折り返し、その長さが鍔状部の略3分の1である」か「やや大きく角丸に折り返し、先端が鍔状部の上部近くまで達する長さである」か、差異点(ハ)の、係止部を形成する屈曲部が「角張っている」か「角丸状である」かは、いずれも、屈曲部の形状をどの程度に角張らせるか、丸まらせるかという、程度の問題にすぎないものということができ、しかも、ありふれた差異にすぎないから、このような差異によって、格別に見る者の注意を引き付け、見る者に特別な美感を与えるものということはできない。
原告は、差異点(イ)ないし(ハ)に基づく美感の相違を強調し、両意匠を全体的に観察すれば、上記差異によって、本願意匠は、見る者に「鋭さ」を、引用意匠は、
見る者に「穏やかさ」を与えるものであり、上記差異は、物品として避けて通ることができない形状に原因する共通点を凌駕するものであり、その結果、両意匠は、
全体としてまったく別異な(正反対な)視覚イメージを見る者に与え、明確に区別される旨主張する。
しかしながら、上記差異は、いずれも、共通点(1)に示される基本的構成態様を前提とする局部的な差異であり、しかも、ありふれた差異にすぎない。「鋭さ」、
「穏やかさ」といっても程度の問題にすぎず、両意匠における「鋭さ」、「穏やかさ」それ自体に格別の美感があるものともいえない。原告の主張は、採用できない。
なお、原告は、原告独自の視点から両意匠の差異点を主張している。しかしながら、第1の、本願意匠は、全体的にスリムであり、略逆V字状に看取されるものであるのに対して、引用意匠は、全体的にゆったりとしており略逆U字状に看取されるという点は、差異点(イ)によって既に評価されているものである。第2の、本願意匠は、各種角部分について明瞭な角部を形成しているのに対して、引用意匠は、
いずれもゆったりとした曲線的な処理が施されているという点は、差異点(ロ)によって既に評価されているものである。第3の、本願意匠は、鍔状部下端の折り返しに関し、内側にぴったりと沿うように、そして、短く形成しているのに対して、引用意匠は、鍔状部と離間して大きく、そして、長く形成されたものであるという点は、差異点(ハ)によって既に評価されているものである。結局、原告の上記差異点の主張は、差異点(イ)ないし(ハ)を言い換えたにすぎないものである。
以上によれば、本件意匠は、引用意匠における類似の範囲内にとどまるものということができる。
(4) 原告は、本願意匠の各構成部分において、たとい技術的な意味においての斬新性といったようなものがないとしても、本願意匠は、その全体の形状において、視覚上、引用意匠とは明瞭に区別されるから、両意匠が類似しているとはいえない旨主張する。
しかしながら、審決が、両意匠が意匠法3条1項3号にいう意味で類似している、すなわち、両意匠は意匠法3条1項3号の要求する程度に区別されないと判断したものであることは、審決の説示全体に照らして明らかであり、審決の上記判断が正当であることは上述のとおりである。原告の主張は採用できない。
3 そうすると、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がなく、その他、審決の認定判断にはこれを取り消すべき瑕疵が見当たらない。よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 宍戸充