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関連審決 審判1999-7406
関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  色分け /  意匠に係る物品 /  一意匠一出願(7条) /  公然知られた(3条1項1号) /  3条1項3号 /  頒布された刊行物 /  類似する意匠 /  類似の意匠 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  本意匠 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 317号 審決取消請求事件
原告 株式会社トンボ鉛筆代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 竹沢荘一
同 中馬典嗣
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
同 【E】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/22
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第7406号事件について平成12年7月12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成9年1月14日、別紙審決書写しの別紙第一(以下、単に「別紙第一」という。)のとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について、意匠に係る物品を「マーキング用ペン先」として、意匠登録出願(平成9年意匠登録願第620号)をしたところ、平成11年4月16日に拒絶査定を受けたため、同月28日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を平成11年審判第7406号事件として審理した結果、平成12年7月12日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同月31日、原告にその謄本を送達した。
2 審決の理由 別紙審決書の写しのとおり、本願意匠は、カタログ「ポートレックス多孔性プラスチックマーカーチップ」(エー・エム・アール株式会社発行、平成5年9月9日特許庁受入れ所蔵。以下「乙第1号証刊行物」という。)の1頁所載のX-4035の表示のある筆記具用ペン先の意匠(以下「引用意匠」という。その形状は、別紙審決書写しの別紙第二(以下、単に「別紙第二」という。)のとおりである。)に類似するから、意匠法3条1項3号に該当すると認定判断した。
原告の審決取消事由の要点
審決の理由1(本願意匠)、2(引用意匠)は認める。同3(両意匠の対比)は、「両意匠は、意匠に係る物品が共通して」(1頁の下から6行)いること、「共通点」が、「全体が、ペン先部と軸挿入部から構成されており」(1頁下から3行〜2行)、「そのペン先部の後方に、それよりやや径の小さい丸棒状の軸挿入部を同心状に延設している点」(2頁1行〜2行)、「軸挿入部の細い丸棒状について、ペン先部よりやや径の小さいものとし、軸挿入部後方の丸棒状を徐々に細径として逆円錐台状に形成している」(2頁3行〜5行)こと、並びに審決認定の差異点(イ)(ただし、「ペン先露出部」が軸挿入部ではない部分を意味することを前提とする。)及び差異点(ロ)が本願意匠と引用意匠との差異点であることを認め、その余を争う。同4(類否判断)、5(まとめ)は争う。
審決は、@共通点を誤認し、A共通点の影響について判断を誤り、B差異点(イ)ないし(ニ)についての判断をすべて誤り、C差異点を看過し、D判断を遺脱したものであって、これらの誤りが、それぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
1 共通点の誤認 審決は、「ペン先部について、細い丸棒状の先方略半分の両側を左右対称に、先方を尖らせて斜状に切截し、側面視略放物線状の削ぎ面を表し、また、ペン先部先端を上方から下方に向け緩やかな斜状に形成し、」(1頁下から2行〜2頁1行)との共通点を認定したが、誤りである。
(1) 本願意匠においては、別紙第一の左側面図及び右側面図から明らかなように、「ペン先部の先方を尖らせて」はおらず、丸みを持たせてある。
(2) 「側面視略放物線状の削ぎ面」に関し、本願意匠は、別紙第一の正面図の方向(引用意匠では、別紙第二の図を時計方向に90度回転させたうえ、正面から見た方向。以下「正面図の方向」という。)から見たとき、ペン先先端部の右側が下り勾配状に切除された形態の削ぎ面を有する。一方、引用意匠には、このようなペン先先端部の右側の下り勾配状の切除された形態は存在しないから、この点において、両意匠は異なる。
(3) 本願意匠は、ペン先部の先方に丸みをもたせているから、ペン先部先端を上方から下方に向けて、単純な「緩やかな斜状に形成し」たものではない。
2 共通点の影響についての判断の誤り 審決は、「両意匠に共通する基本的構成態様の点は、・・・その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。」(2頁23行〜26行)と判断したが、誤りである。
審決認定に係る基本的構成態様の共通点は、要するに、マーキング用ペン先という物品の基本的形態の一類型にすぎない。物品のこのような基本的形態は、意匠の類否判断において、低く評価すべきである。
また、上記共通点は、その大半が、本願意匠に係る物品にとって周知ないし公知の形態であり、本願意匠の要部と認定されるべきものではない。したがって、
上記「共通点」が類否判断に及ぼす影響は、大きいものではない。
3 差異点(イ)についての判断の誤り 本願意匠と引用意匠における2本と1本という放物線状の数の差異は、単なる放物線状の数の差異としての意味を超えた、大きな意味を持っている。すなわち、引用意匠は1種類の部材から構成されているのに対し、本願意匠は2種類の部材、すなわち、ペン先部の内部がインクに対して高含浸性である部材で形成され、
その周面層がインクに対して非含浸性である部材で覆われている。そのため、本願意匠は、引用意匠には見られない異なる質感の部材の組合せによる独特の意匠美を有するのである。この点、が両意匠の類否判断に及ぼす影響は、大きいものである。
4 差異点(ロ)についての判断の誤り 審決は、差異点(ロ)について、軸挿入部のみを比較したときは明らかな差異というべきであることを認めながら、「使用時においては目に触れない部分の態様の差異であることを考慮すると、・・・その影響は、微弱に止まる」(2頁下から5行〜3行)と判断したが、誤りである。
本願意匠に係る物品である「マーキング用ペン先」は、独立して取引されているものであり、その取引の過程において、意匠の観察が最も多くなされるものである。したがって、審決の上記判断は、意匠の類否判断における基本的前提を誤るものであり、この誤りが審決の結論に与える影響は、誠に大きいというべきである。
5 差異点(ハ)についての判断の誤り 審決は、差異点(ハ)について、「本願意匠は、先端部を上面視小円弧状に丸めているが、仮に、引用意匠が尖っているものであったとしても、・・・その影響は、微弱なものといわざるを得ない。」(2頁末行〜3頁3行)と判断したが、誤りである。
本願意匠に係る物品が「マーキング用ペン先」であることを考慮すれば、取引者・需要者は、ペン先先端部の形態に最も注目するのが取引の現実である。したがって、ペン先先端部の形態における差異は、意匠の類否判断上、大きな差異となるものである。
なお、審決は、引用意匠の上面視の態様が不明であると認定するが、引用意匠には、本願意匠における先端部が上面視小円弧状の形態と同一・類似の形態は存在しないことが明らかである。
6 差異点(ニ)についての判断の誤り 審決は、差異点(ニ)について、「物の表面をいわゆるツートンカラーにすることが常套的な手法であることを考慮すると、その影響は、微弱なものといわざるを得ない。」(3頁4行〜5行)と判断したが、誤りである。
本願意匠には、削ぎ面下方に2本の放物線が存し、その放物線状の縁部も、
縁取り状に暗調子である。このことと、本願意匠に係る物品が「マーキング用ペン先」であることとを併せ考慮すれば、この色彩の相違は、用いられる部材の相違によって生まれる、単なる色彩の相違を超えた質感の相違として理解されるものというべきである。このように理解される相違は、意匠の類否判断上、大きな力を有するものである。
7 差異点の看過 本願意匠は、正面図において、ペン先先端部の右側が下り勾配状に切除された形態を有する。そのために、右側面図において、ペン先部の暗調子の周囲の上端に2本の弧状線が観察され、その上側に白色のペン先先端部が視認されるという独特の形態を有する。
一方、引用意匠には、このようなペン先先端部の右側の下り勾配状の切除された形態は存在しない。
この点においても、本願意匠と引用意匠は、顕著な差異を有する。
8 判断遺脱 原告は、平成11年7月26日提出の審判請求理由補充書において、本願意匠と引用意匠が、「全体の構成比において相当の差異を有する」、「f.最大軸径に対する長さの倍率が、本件意匠において、ほぼ5倍であるのに対し、引用意匠においては、ほぼ10倍であり、しかも、段差についても、本件意匠においては、1箇所の段差を有し、かつその段差の程度も軸径に対して甚小であるのに対し、引用意匠においては、2箇所の段差を有し、かつ各段差の程度も、本件意匠におけるよりも大きいものである。このため、両意匠に接する需要者は、引用意匠からは、専ら細長くデザインされた意匠としての印象を受けるのに対し、本件意匠からは、全く逆の太く短くデザインされた意匠であるとの印象を受ける。しかも、引用意匠は、ペン先端部の切截傾斜面との境界としての曲線以外は、すべて直線で構成されていることから、前記の細く長いデザインであるとの印象と相侯って、いわゆるシャープ、鋭敏、鋭角、硬などのイメージの意匠美として映ずる。これに対し、本件意匠は、前記の太く短いデザインであるとの印象に加えて、色彩の異なる部材で構成されているために、各構成部材毎の軸径に対する長さの倍率も注目され易く、この倍率は、全体の倍率よりも更に小さくなり、その結果として、一層、本件意匠は、太く短いデザインであるとのイメージが増大される。従って、両意匠は、この視点からも意匠上の美感が全く異なり、相互に非類似の意匠とされるべきものである」と主張した。にもかかわらず、審決は、これに関する判断をしていない。
また、原告は、審判請求理由補充書において、「c.本件意匠は、単なる2色の色分けではなく、2部材から構成される。2部材による構成と単なる2色の色分けとは、本質的に異なる。2部材で構成されることは、A〜A線断面図以外に、
6面図の各図面において明瞭に示されている。2部材で構成する場合、実際にはインキに対して高含浸性の部材(本件図面において白色部分)と非含浸性の部材(本件図面において黒色部分)で構成し、非含浸性部材の使用により、たとえば定規を用いて線引き作業などを行う際に、インキが定規に付着する不都合を防止することができる。この2部材による構成は、本願に係わる物品には、従来見られない処であり異なる質感の2部材の組合せから構成される意匠として、1部材のみから構成される引用意匠とは異なる特有の意匠美が醸し出される。d.しかも、本件意匠においては、用いる2部材が、異なる色彩を有するものであり、このため6図面の各図面において、2部材を同じ色彩とした場合に比較して、異なる色彩が相互に変化を織りなし特有のデザイン美が形成されている。e.本件意匠におけるペン先端部近傍の切截傾斜面の一端部に形成された短い切截面の存在も、色彩の異なる部材の使用により、クローズアップされ、左側面図にみられるように、本件意匠に特有の特徴あるデザイン美が形成されている」とも主張したのに、審決は、
この主張に対する判断をも遣脱している。
被告の反論の要点
1 共通点の誤認について (1) 審決は、「先方略半分の両側を左右対称に、」とし、続けて、「先方を尖らせて斜状に切截し、」と説示していることから明らかなように、両側面から見た態様(正面図の方向から見た形状)を認定したものである。そして、両意匠をこの方向から見た形状は、先方が尖っていることが明らかである。
(2) 本願意匠の、正面図の方向から見たときにおける、ペン先先端部の右側が下り勾配状に切除された形態の削ぎ面は、言われて初めて認識できる程度のものであり、意匠全体からみれば、極めて小さな差異である。また、この「ペン先先端部の右側が下り勾配状に切除された形態」は、本願意匠に係る物品においては、ごく普通のありふれた態様であって、その類否判断に及ぼす影響は、極めて微弱なものであり、あえて認定しなければならい差異とはいえない。
(3) 審決は、両意匠の基本的構成態様を、「ぺン先部先端を上方から下方に向けて緩やかな斜状に形成し」と認定したものである。原告は、その「斜状に形成」した具体的態様が、本願意匠は、審決にいう側面視(正面図の方向から見た場合)において、緩やかな円弧状である点を主張するものと推察されるが、その点は、両意匠の差異点(ハ)として認定している。
2 共通点の影響についての判断の誤りについて 両意匠に共通する基本的構成態様は、それが、先行意匠に見られる公知の形態であったとしても、全体の骨格をなすところであって、形態全体の基調を決定づけ、両意匠の類似感を強くもたらすものであり、その類否判断に及ぼす影響は、大きいものである。
3 差異点(イ)についての判断の誤りについて 本願意匠に2種類の部材が用いられていることは、別紙第一のA-A線断面図を注視することにより、斜めのハッチング線が施された部分と暗調子部分との間に境界があることが認識できて初めて、推測できるものである。まして、本願意匠に係る物品の通常の大きさを考慮すると、その意匠の外観としては、暗調子の部分と明調子の部分のトーン差(濃淡の差)にすぎないものと認識して差し支えないものである。
4 差異点(ロ)についての判断の誤りについて 意匠の類否判断は、その一般需要者への販売状態を勘案して、ペン先部がマーキングペンの軸本体に挿入された状態の美感を主として問題とすべきであるから、ペン先が軸の先端から突き出た部分こそを、類否判断の要素として相対的に高く評価すべきものである。
原告のいうマーキング用ペン先の取引者が、具体的にどのような中間業者を指すものか不明である。しかし、いずれにせよ、その取引者も、軸の先端から突き出し、一般需要者の目に触れる部分の態様を重要視すると考えるのが相当である。
もともと、マーキングペンの軸挿入部は、多種多様なものがあり、その形状は、そのマーキングペンの用途及び軸本体側の受入部の形状に応じて、適宜選択決定されるものであるから、類否判断の要素としてさほど評価することのできないものである。もっとも、本願意匠及び引用意匠の軸挿入部の態様の双方あるいはいずれか一方に格別の特異性があるならば、別異に考えることもできようが、いずれの意匠の軸挿入部の態様についても、このような特異性は認められないのである。
5 差異点(ハ)についての判断の誤りについて ペン先先端部は、ペン先部のごく一部分であり、ペン先先端部が小円弧状であるか否かの差異は微差である。
6 差異点(ニ)についての判断の誤りについて 原告は、差異点(ニ)について、色彩の相違は、単なる色彩の相違を超えた、
用いられる部材の相違による質感の相違であると主張する。しかし、本願意匠が、
極めて薄い部材をコーティングしているものであることを考慮すると、その相違は、削ぎ面を除く周囲全体が暗調子であるか否かの差異として捉えれば十分というべきである。
本願意匠において、削ぎ面を除く周面全体を暗調子としたことにより、放物線状の削ぎ面が引用意匠のものに比べてより目立つということはあるものの、その削ぎ面自体ありふれた態様であるため、削ぎ面が明調子であることは、さほど際立たない。
本願意匠に係る出願は、当初、平成8年意匠登録願第13284号を本意匠とする類似意匠登録願としてされたものである。ところが、この平成8年意匠登録願第13284号の該当部位は、暗調子のものではない。すなわち、ペン先部の削ぎ面を除く周面全体が暗調子のものとそうでないものとが互いに類似する意匠であることは、原告自身、認めていたことなのである。
7 差異点の看過について ペン先先端部の右側近傍の下り勾配状切除は、ペン先部の形状のごく細部の一部分であって、類否判断に及ぼす影響は、極めて微弱であるから、あえて採り上げるまでもないものというべきである。
8 判断遺脱について (1) 審決は、本願意匠と引用意匠の全体の長さ及び段差部の相違については、
差異点(ロ)において認定判断している。
(2) 意匠は、物品の外観に係る創作を保護対象とする(意匠法2条1項)ものであるから、本願意匠が有する機能的効果を述べる原告の審判請求理由補充書の主張(c)は、失当である。
本願の願書添付図面には、色彩が付されておらず、色彩を意匠の要件として請求するものとは認められない。本願意匠は用いる2部材が異なる色彩を有するという、原告の審判請求理由補充書の主張(d)については、審決の「本願意匠は、削ぎ面を除く周面全体が暗調子である」との判断が正当なのである。
原告の審判請求理由補充書の主張(e)の、「短い切截面」若しくは、
「下り勾配状に切除された形態の削ぎ面」は、極めて小さな差異であって、あえて認定しなければならない差異ではないことは、前述のとおりである。
(3) したがって、審決に判断遺脱はない。
当裁判所の判断
1 共通点の誤認について (1) ペン先部についての、審決の、「細い丸棒状の先方略半分の両側を左右対称に、」(1頁下から2行)、「先方を尖らせて斜状に切截し、」(同頁下から2行〜末行)の説示は、どの方向から観察しているのかを明示しないままになされたものであり、表現において不適切ではあるものの、前者(「細い丸棒状の先方略半分の両側を左右対称に、」)は、本願意匠の左右側面図の方向(引用意匠では、別紙第二の上下の方向。以下、この方向を、「側面図の方向」という。)から見た形状を、後者(「先方を尖らせて斜状に切截し、」)は、正面図の方向から見た形状を認定したものと認められる。そして、両意匠を正面図の方向から見ると、いずれも先方が尖った形状であるから、審決の説示を誤りということはできない。
(2) 審決の「側面視略放物線状の削ぎ面を表し、」は、本願意匠の左右側面図とは異なる方向を、何の定義もせずに「側面視」と呼ぶものであって、誤解を招きかねない不適切な説示ではあるものの、上記「側面視」は、正面図の方向から見たことを指すと認められる。
正面図の方向から見て、本願意匠には、ペン先先端部の右側が下り勾配状に切除された形態の削ぎ面が存在し、引用意匠には、これがないことは認められるものの、これは、両意匠を対比して相当注意深く見なければ気付かない程度のものであって、意匠全体からみて、極めて小さな差異といわざるを得ない。しかも、乙第3号証(「プラチナ製品カタログ」平成5年9月9日特許庁受入れ所蔵)、第4号証(「トンボ鉛筆総合カタログ」同日特許庁受入れ所蔵)、第5号証(登録第896556号意匠の意匠公報。平成6年4月14日発行)によれば、マーキング用ペンのペン先先端部の先方を尖らせて斜状に切截した形状において、その逆側も、
わずかに下り勾配状に切除された形態の削ぎ面を有する(これにより、この削ぎ面と前記斜状に切截した面とが略直角となる。)ことは、ありふれたものであって、
格別看者の注意を引くものではないと認めることができる。そうだとすると、審決が、この差異点を認定しなかったことを、審決の結論に影響を及ぼすものとまではいうことができない。
(3) 原告は、本願意匠について、ペン先部の先方に丸みをもたせているから、
単純な「緩やかな斜状に形成し」たものではないと主張する。
しかし、両意匠が、ぺン先部先端を上方から下方に向けて緩やかな斜状に形成したものであることは、明らかである。そして、審決は、差異点(ハ)として、
本願意匠のペン先先端部について、「側面視(判決注・正面図の方向から見たことをいう。)緩やかな円弧状とし、先端部が上面視(判決注・側面図の方向から見ることをいう。)小円弧状であるのに対し、」(2頁15行〜16行)として、ペン先部の先方に丸みをもたせていることを認定しているから、審決のこの点の認定に誤りはない。
2 共通点の影響についての判断の誤りについて 原告は、審決認定に係る基本的構成態様の共通点は、マーキング用ペン先という物品の基本的形態の一類型であるから、マーキング用ペン先に係る意匠の類否判断においては低く評価すべきであると主張する。
しかし、乙第1号証(乙第1号証刊行物)、第8号証(審判請求理由補充書)中の「甲第5、第6号証」(「TOKYOHATCo,LTDカタログ」昭和53年7月15日発行)、第13号証(特開平6-92083号公報)、第16号証(特開平7-76196号公報)によれば、審決認定に係る基本的構成態様の共通点は、すべてのマーキング用ペン先に共通するものではないこと、マーキング用ペン先には多種多様な形状のものがあり、そのうちのごく一部のマーキング用ペン先だけが審決認定に係る基本的構成態様の共通点を持つものであることが認められる。そうである以上、マーキング用ペン先の類否判断において、審決認定に係る基本的構成態様の共通点を軽視することは、許されるべきことではない。
また、原告は、上記共通点は、その大半が、本願意匠に係る物品にとって周知ないし公知の形態であるから、上記「共通点」が類否判断に及ぼす影響は、大きいものではないと主張する。
しかし、審決認定に係る基本的構成態様が、意匠全体の骨格をなす構成態様であることは、明らかである。そして、物品の意匠について、細部にわたる点はともかく、全体の骨格をなす構成態様について、看者が気付かないとか、注意をひかれないとか、などということは考えられない。したがって、意匠の類否判断に当たり、審決認定に係る基本的構成態様について、それが周知ないし公知であることを理由に軽視することは許されるものではない。
3 差異点(イ)についての判断の誤りについて 原告は、本願意匠について、質感の異なる2種類の部材、すなわち、ペン先部の内部がインクに対して高含浸性の部材で形成され、その周面層がインクに対して非含浸性の部材で覆われていると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。もっとも、本願意匠のペン先部は、削ぎ面を除く周囲全体が暗調子であるけれども、直ちにこれを、「インクに対して非含浸性部材」であるということはできない。すなわち、周囲全体について、削ぎ面と同質の部材を暗調子としたものを使用したとしても、意匠の観点から見る限りにおいては、本願意匠と異なる別のものとなる筋合いのものではないのである。なお、乙第17号証(特開平8-267982号公報)によれば、マーキング用ペン先において、質感の異なる2種類の部材を用い、削ぎ面を除く周囲全体を暗調子とすることは、本願出願前から目新しいものではなかったことが認められる。
そして、本願意匠のペン先部が、削ぎ面を除く周囲全体が暗調子であることについて、審決は、差異点(ニ)において認定判断しているから、差異点(イ)についての判断に当たり、審決がこれを考慮しなかったことにも誤りはない。
4 差異点(ロ)についての判断の誤りについて (1) マーキング用ペン先は、ペン軸に挿入された状態で最終需要者に販売されるものであるから、その取引において、最も重視されるのは、最終需要者に販売される段階で取引者・需要者の目に触れるペン先部であるというべきである。ちなみに、原告も、「本願意匠に係る物品が『マーキング用ペン先』であることを考慮すれば、取引者・需要者は、ペン先先端部の形態に最も注目するのが取引の現実である。 」(前記第3の5)と主張するところである。
軸挿入部は、ペン軸に挿入するに当たっては、ペン軸の受入れ部の形状との適合性が問題となるのであって、意匠的価値が問題となるわけではなく、また、
ペン軸に挿入された後は、看者の目に触れなくなるから、軸挿入部の意匠が取引者・需要者に注目される程度は、その大きさに比べて相対的に低いものと認められる。
(2) もっとも、甲第4号証(原告平成12年12月12日の作成証明願及び日本マーキングペン工業会専務理事【F】同日作成の証明書)、乙第1号証によれば、マーキング用ペン先は、ペン軸に装着される前に、独立した商品として取引されていることが認められる。そして、軸挿入部を独立した商品として取引する場合には、ペン軸の受入れ部の形状との適合性が問題となるから、取引者・需要者が、
軸挿入部を無視するということはないというべきである。そうである以上、マーキング用ペン先の意匠の類否を判断するに当たっては、軸挿入部の与える影響についても検討すべきである。
(3) 乙第6号証(登録第969662号意匠の意匠公報。平成8年12月4日発行)、第7号証(登録第835407号公報の意匠。平成4年4月30日発行)第9号証(実開平3-19091号公報)、第10号証(実開平3-95284号公報)、第11号証(実開平5-93873号公報)、第12号証(実開平6-53186号公報)によれば、本願意匠の軸挿入部の形態は、本願出願前から、ありふれたものであったことが認められる。
また、乙第1号証(X-4347、X-4060、X-4396の表示のあるもの)、第16号証(図2ないし4のもの)によれば、マーキング用ペン先のような筆記具用ペン先の軸挿入部において、引用意匠のように、全体が長い丸棒状で、ペン先側から末端に向う途中に一段細径に形成され、更に末端寄りで逆円錐台状となっている形態は、本願出願前から、ありふれたものであったことが認められる。もっとも、一段細径に形成された箇所が、引用意匠は、丸棒状の略中央であるの対し、乙第1号証のX-4347、X-4060、X-4396の表示のあるものは、丸棒状の中央よりもややペン先部寄りであり、乙第16号証の図2ないし4のものは、それよりも更にペン先部寄りであるけれども、この程度の差異は、引用意匠を特に特徴付けるものということはできない。
以上の事実、及び軸挿入部の意匠が取引者・需要者に注目される程度が、
その大きさに比べて相対的に低いことに照らせば、差異点(ロ)について、取引者・需要者が、特段特徴といえる点のない引用意匠の軸挿入部に対し、更にありふれたものである本願意匠の軸挿入部について、特に注意をひかれると認めることはできない。
(4) したがって、差異点(ロ)の影響が微弱に止まるとした審決の判断は、結論において相当というべきである。
5 差異点(ハ)についての判断の誤りについて 審決の「本願意匠は、側面視(判決注・正面図の方向から見たことをいう。)緩やかな円弧状とし、先端部が上面視小円弧状である」(2頁15行〜16行)における上面視とは、審決全体の記載、特に「本願意匠は、先端部を上面視小円弧状に丸めている」(2頁末行〜3頁1行)の表現から、側面図の方向(別紙第一の左右側面図の方向)から見たことを指すものと認められる。
乙第6、第7号証及び弁論の全趣旨によれば、正面図の方向に対応する方向から見た場合に、引用意匠と同様の先端部の形状を示すマーキング用ペン先であって、側面図の方向に対応する方向から見た場合に先端部が小円弧状となっているものは、本願出願前からありふれていたことが認められるから、仮に、引用意匠の先端部が、側面図の方向から見た場合に尖っているとしても、基本的構成態様の共通点を凌駕するほどのものではないものというべきである。
6 差異点(ニ)についての判断の誤りについて 原告は、本願意匠のこの色彩の相違が、意匠を実現する物品において用いられる部材の相違による質感の相違を示す相違であることを前提として、それが、意匠の類否判断上、大きな差異となると主張する。
しかし、本願意匠を実現する物品について、質感の異なる2種類の部材が用いられなければならないと認めることができないのは、前示のとおりである。原告の主張は、前提を欠くものであって、差異点(ニ)についての審決の判断に誤りはない。なお、仮に、性質の異なる2種類の部材が用いられなければ本願意匠を実現するものとはいえないとしても、意匠の類否は、外観の形状模様・色彩により判断されるべきものであって、高含浸性であるか非含浸性であるかというような機能の相違を評価すべきものではない。そうである以上、本願意匠に係る物品の通常の大きさをも考慮すれば、部材間の性質の相違は、意匠の観点から見る限り、色彩の相違としての意味を超えることはほとんどないものというべきである。
7 差異点の看過について 原告は、本願意匠は、正面図において、ペン先先端部の右側が下り勾配状に切除された形態を有する、そのために、右側面図において、ペン先部の暗調子の周囲の上端に2本の弧状線が観察され、その上側に白色のペン先先端部が視認されるという独特の形態を有すると主張する。
しかし、原告主張に係る「独特の形態」は、正面図の方向から見て、ペン先先端部の右側が下り勾配状に切除された形態と、差異点(ニ)からもたらされるものであることが明らかである。
そして、本願意匠において、正面図の方向から見て、ペン先先端部の右側が下り勾配状に切除された形態は、相当注意深く見なければ気付かない程度のものであること、及び、本願意匠のように、マーキング用ペンのペン先先端部の先方を尖らせて斜状に切截した形状において、その右側(正面図における方向)も、わずかに下り勾配状に切除された形態の削ぎ面を有することも、ありふれたものであって、看者の注意を引くものではないことは、前認定のとおりである。また、差異点(ニ)についての審決の判断に誤りがないことも、前認定のとおりである。しかも、
これらからもたらされる、別紙第一の右側面図において、ペン先部の暗調子の周囲の上端に2本の弧状線が観察され、その上側に白色のペン先先端部が視認されることも、ごくわずかな箇所であって、微細な相違というべきである。したがって、審決がこの点を差異点として摘示しなかったことが、審決の結論に影響を及ぼすということはできない。
8 以上の点を総合し、本願意匠と引用意匠とを全体として観察すると、両意匠の共通点が両者の差異点を凌駕しているというべきである。したがって、両意匠は、類似するものと認められる。
9 判断遺脱について 審決において、ある意匠が、意匠法3条1項3号に該当し、同条同項柱書きの規定により、意匠登録を受けることができないと判断する場合には、その意匠と、意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた特定の意匠か、意匠登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された特定の意匠とが、類似であることを判断しなければならない(審決がこの点を判断していることは、審決自体から明らかである。)。しかし、それ以上に、原告が、前記第3の8において、平成11年7月26日提出の審判請求理由補充書において主張したとする点に対する応答を、審決書に逐一記載しなければ判断遺脱となる、などという筋合いのものではない。原告の主張は、失当である。
10 以上のとおりであるから、 原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 宍戸充
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