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関連審決 無効2000-35049
関連ワード 物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  先願 /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  意匠の類否 /  全体観察 /  登録意匠 /  類似性(類否判断) /  無効審判 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 316号 審決取消請求事件
原告 熊本不二コンクリート工業株式会社 代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 中村智廣
同 三原研自
同 弁理士 佐々木 功
同 川村恭子
被告 株式会社ヤマウ代表者代表取締役 【B】
訴訟代理人弁理士 松尾 憲一郎
同 内野美洋
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/14
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2000-35049号事件について平成12年7月11日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、意匠に係る物品を「側溝用蓋」とし、その形態を別添審決謄本写し別紙第一記載のとおりとする登録第1048996号意匠(平成9年6月19日意匠登録出願、平成11年6月4日意匠登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。
被告は、平成12年1月18日、原告を被請求人として、本件意匠に係る意匠登録の無効の審判を請求した。
特許庁は、同請求を無効2000-35049号事件として審理した上、同年7月11日に「登録第1048996号の登録を無効とする。」との審決をし、
その謄本は同年8月2日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件意匠は、その意匠登録出願前の発行に係る意匠公報に記載された、意匠に係る物品を「みぞぶた」とし、その形態を同審決謄本写し別紙第二記載のとおりとする登録第831293号意匠(昭和62年7月8日意匠登録出願、平成3年11月29日意匠登録、以下「引用意匠」という。)と意匠に係る物品が一致し、形態においても意匠の要部において共通し、両意匠は類似するものであるから、意匠法3条1項3号の規定に違背して登録されたものであって、その登録は無効とすべきものであるとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決の理由中、本件意匠と引用意匠の意匠に係る物品が一致するとの認定は認める。
審決は、本件意匠と引用意匠の形態における共通点及び差異点の認定を誤り、かつ、引用意匠の公知性を看過し、その類否判断を誤って、本件意匠と引用意匠とが形態において類似するとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(類否判断の誤り) (1) 全体の基本的構成態様における共通点の認定の誤り 審決は、本件意匠と引用意匠とが、「やや肉厚の方形状の板状体を蓋本体とし、この蓋本体の左右両側の裏面に、蓋本体の左右両側面と面一に断面形状を略逆台形状とする角柱状の脚部を設け、正面形状を扁平な略逆U字状に形成し、蓋本体には略横長々方形状を呈する複数の排水孔を、中央に僅かな間隔部分を設け左右に並列して穿設した全体の基本的構成態様において共通する」(審決謄本4頁1行目〜5行目)と認定したが、排水孔の形状が「略横長々方形状を呈する複数の排水孔を・・・設け」た点で共通すると認定した場合には、後記のとおり、両意匠の間で顕著な差異を有する排水孔両端部の形状を把握することができないから、単に「横長の複数の排水孔を・・・設け」た点を共通点として認定すべきであり、審決の上記認定は誤りである。
その余の基本的構成態様における共通点の認定は認める。
(2) 各部の具体的構成態様における共通点の認定の誤り 審決は、本件意匠と引用意匠とが、「脚部の裏面に細幅帯状の底板を貼着し、排水孔を左右に7個ずつ計14個を並列し、該排水孔の表面周縁を極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成して、中央の間隔部分の表面を排水孔の縁取り部分の深さと同じ深さの部位に形成し、該間隔部分が蓋本体の表面から極く僅かに凹陥したことにより、左右の排水孔どうしの縁取り部分が連続するような態様に表した各部の具体的な構成態様においても共通する」(審決謄本4頁5行目〜11行目)と認定したが、以下の各点が共通点であるとする認定は誤りである。
ア 「排水孔を左右に7個ずつ計14個を並列し」たとの点 本件意匠の排水孔は当該認定のとおりであるが、引用意匠においては、
左右の排水孔の中央に、蓋本体の厚みの略3分の1程度に形成された部分仕切り体が設けられているにすぎず、これによって左右の排水孔は分断されていないのであるから、左右が直列した排水孔が7個並列しているのであって、「左右に7個ずつ計14個を並列し」ているのではない。
イ 「該排水孔の表面周縁を極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成し」たとの点 本件意匠の排水孔の表面周縁の縁取り部分は当該認定のとおりであり、
上部から垂直に見た場合の縁取り部の幅と排水孔の空隙部の幅との比は1:10である。これに対し、引用意匠における排水孔の表面周縁の縁取り部分は相当な幅と深さをもった倒L状の段々面であって、その垂直部分の高さと水平部分の幅と排水孔の空隙部の幅との比は0.5:1:3である。したがって、引用意匠における排水孔の表面周縁の縁取り部分は、本件意匠と共通する「極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分」ではない。
ウ 「該排水孔の・・・中央の間隔部分の表面を排水孔の縁取り部分の深さと同じ深さの部位に形成し、該間隔部分が蓋本体の表面から極く僅かに凹陥した」との点 本件意匠の排水孔中央部の間隔部分は当該認定のとおりであるが、引用意匠において「間隔部分」に相当するものは、上記アのとおり、7個の排水孔の中央上部に設けられた部分仕切り体にすぎないから、本件意匠と同じ「間隔部分」と認定した場合には、その差異を明確に識別することができない。
また、引用意匠において上記「間隔部分」は蓋本体の表面から相当な深さで凹陥しており、本件意匠と共通する「蓋本体の表面から極く僅かに凹陥し」たものではない。
(3) 差異点の認定の誤り 審決は、本件意匠と引用意匠とが、「a.蓋本体の形状について、本件登録意匠(注、本件意匠)は、縦長矩形状であるのに対し、引用の意匠(注、引用意匠)は、略正方形である点、また、b.本件登録意匠は、蓋本体の表面周縁と裏面の前後縁に、極く細い面取りを現しているのに対し、引用の意匠は、現していない点、c.排水孔の左右側面寄りの端部形状について、本件登録意匠は、隅丸の略コ字状に形成したいる(注、「形成している」の誤記と認める。以下、訂正後の表記による。)のに対し、引用の意匠は、円弧状に形成している点、また、d.排水孔の縁取り部分について、本件登録意匠は、斜状に形成しているのに対し、引用の意匠は、略L字状に形成している点、e.左右の排水孔間の間隔部分の厚みについて、本件登録意匠は、蓋本体の厚みより排水孔の縁取りの深さの分低くした厚みに形成しているのに対し、引用の意匠は、蓋本体の厚みの1/3程度の厚みに形成している点、f.蓋本体の前後面について、本件登録意匠は、中央に略横長々方形状に凹陥する手掛け部分を設けているのに対し、引用の意匠は、左右両端寄りの部位に略方形状の小突起を設けている点の各部の具体的な構成態様において差異が認められる」(審決謄本4頁12行目〜25行目)と認定した。
上記認定のうち、差異点a及び同eは認めるが、以下の各点における認定は誤りである。
ア 差異点bの「本件登録意匠は、蓋本体の表面周縁と裏面の前後縁に、極く細い面取りを現している」との点 本件意匠の蓋本体の表面周縁及び裏面前後縁における面取り部分は相当の幅をもった形状であり、例えば本件意匠の排水孔の表面周縁の縁取り部分の幅とは明らかに相違するものである。したがって、上記(2)のイのとおり、本件意匠の排水孔の表面周縁の縁取り部分を「極く細幅」と認定したことと比較すると、上記面取り部分につき「極く細い面取り」と同じような表現で認定することは誤りである。
イ 差異点cの「排水孔の左右側面寄りの端部形状について、本件登録意匠は、隅丸の略コ字状に形成している」との点 「隅丸」との認定は、端部が丸みを有しているものと認識させるが、本件意匠の端部形状は角張った「略コ字状」であるから、上記認定は誤りである。
ウ 差異点dの「排水孔の縁取り部分について、本件登録意匠は、斜状に形成しているのに対し、引用の意匠は、略L字状に形成している」との点 上記(2)のイのとおり、本件意匠の排水孔の縁取り部分はごく細幅で斜状に形成してあり、単に「斜状に形成している」と認定するのは誤りである。また、
引用意匠の排水孔の縁取り部分は倒L状の段々面であるから、「略L字状に形成している」との認定も誤りである。
(4) 本件意匠と引用意匠の類否判断の誤り ア 審決は、本件意匠と引用意匠との各差異点につき部分的観察に終始し、
これらの差異点に係る本件意匠及び引用意匠の各態様が、ともに「周知の態様」、
「普通の態様」、「ありふれた態様」等であるとして、本件意匠と引用意匠の類否判断から除外した上、「両意匠の特徴は、前記に共通するとした各部の具体的な構成態様のうち、略横長々方形状を呈する排水孔を中央に僅かな間隔部分を設け左右に7個ずつ計14個を並列して穿設し、該排水孔の表面周縁を極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成し、中央の間隔部分の表面を排水孔の縁取り部分の深さと同じ深さの部位に形成し、該間隔部分が蓋本体の表面から極く僅かに凹陥していることにより、左右の排水孔どうしの縁取り部分が連続するような態様に表したところにあるといえる。そうして、この各部の具体的な構成態様の共通点は、引用の意匠(注、引用意匠)の出願前には見受けられない新規な態様であり、かつ、
両意匠の全体の基本的構成態様にみられる共通点と相俟って醸し出す印象は、両意匠の類否判断を決定づける支配的要素をなすところと言わざるを得ない」(審決謄本4頁31行目〜5頁2行目)と認定判断した。
しかしながら、意匠の類否判断は、先願又は公知若しくは周知の意匠と比較して相違する部分及び共通する部分の全体に対する軽重の度合を考慮し、意匠全体として、各部分の態様の全体に対する統一、調和等の関係を考察した、いわゆる全体観察の方法によってされるべきものである。そして、公知又は周知の意匠との対比において、普通の態様又は普通に見られる差異であることは、類否判断と直接の関係はない。それにもかかわらず、審決が、部分的な形態が周知又は公知であることを理由に、その部分の形態を除外して類否判断をしたことは誤りというべきである。
イ また、審決が、上記のとおり、本件意匠及び引用意匠の各部の具体的な構成態様の共通点であり、両意匠の特徴(要部)であって、引用意匠の出願前には見受けられない新規な態様であるとして挙げた点のうち、「略横長々方形状を呈する排水孔を中央に僅かな間隔部分を設け左右に7個ずつ計14個を並列して穿設し」たとの点が両意匠の共通点ではないことは、上記(1)及び(2)のアのとおりである。また、「排水孔の表面周縁を極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成し、中央の間隔部分の表面を排水孔の縁取り部分の深さと同じ深さの部位に形成し、該間隔部分が蓋本体の表面から極く僅かに凹陥していることにより、左右の排水孔どうしの縁取り部分が連続するような態様に表した」との点は、いずれも引用意匠の出願前に発行された登録第551357号意匠公報、登録第561797号意匠公報及び実開昭60-130891号公報にそれぞれ記載された溝蓋に表されており、引用意匠の出願前において公知であった。被告は、これらの溝蓋が「中央の間隔部分の表面を排水孔の縁取り部分の深さと同じ深さの部位に形成し」た形態を備えていないと主張するが、少なくとも、実開昭60-130891号公報記載の溝蓋はこのような形態を備えているものであり、また、登録第551357号意匠公報及び登録第561797号意匠公報に記載された溝蓋についても、排水孔の縁取り部分と間隔部分の表面が完全に同じ高さではないというわずかな差異をとらえて強調するものにすぎない。そうすると、審決が、上記の各点を両意匠の特徴(要部)であるとしたことは誤りである。
ウ 本件意匠の特徴(要部)は、縦長長方形の蓋本体に、中央の間隔部分によって分離された各列7個ずつ、計14個の独立した排水孔を形成し、各排水孔の周縁内側にはごく細幅の面取り部を設けた上、面取り部のごく僅かな肉厚分だけ中央の間隔部分を低くし、各排水孔の長手方向端部は略コ字状に角張って形成されている点にあり、他方、引用意匠の特徴(要部)は、略正方形の蓋本体に、その横幅に近い長さを有する7個の排水孔を形成し、当該排水孔の中央に、蓋本体の厚みの略3分の1の厚みを有する部分仕切り体を設け、また、各排水孔の周縁内側に垂直に段々部を設け、中央の部分仕切体の上端面を上記段々部の下段面と平面一体となるよう形成し、各排水孔の長手方向端部は半円弧状に形成した点にある。
上記のような本件意匠と引用意匠との差異は両意匠の形態の全体に及んでおり、特に排水孔の形状における差異は著しく、両意匠の全体を観察したときは、両者の有する美感は著しく相違していて、共通点をはるかに凌駕していることは明白である。
したがって、本件意匠と引用意匠とは非類似であるというべきである。
被告の反論
1 審決の認定及び判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(類否判断の誤り)について (1) 全体の基本的構成態様における共通点の認定の誤りについて 原告は、排水孔の形状につき、審決が「略横長々方形状を呈する複数の排水孔を・・・設け」た点で共通すると認定したのに対し、単に「横長の複数の排水孔を・・・設け」た点を共通点として認定すべきであると主張するが、「略横長々方形状」とする方が形状の正確な表現に近く、原告主張の「横長の」との表現では漠然としすぎている。
(2) 各部の具体的構成態様における共通点の認定の誤りについて ア 原告は、引用意匠においては、排水孔の中央に蓋本体の厚みの略3分の1程度に形成された部分仕切り体が設けられているにすぎず、排水孔はこれによって左右に分断されていないから、その数は7個であって、「左右に7個ずつ計14個を並列し」ているのではないと主張する。
しかし、排水孔が「孔」である以上、雨水を通過させる「貫通孔」でなければならず、単なるくぼみ部ではない。したがって、排水孔の個数とは、このような「貫通孔」が何個あるかということであり、引用意匠においても「左右に7個ずつ計14個」であることは明らかである。なお、原告が指摘する「間隔部分」(仕切り体)の厚みの相違は、側溝用蓋の使用形態や取引形態に照らして看者に視認されることの少ない裏面における軽微な差異であるにすぎない。
イ 原告は、引用意匠においては、排水孔の表面周縁の縁取り部分は相当な幅と深さをもった倒L状の段々面であって、本件意匠と共通する「極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分」ではないと主張する。
しかし、引用意匠の縁取り部分の幅は、本件意匠と比較すると、図面上約2倍の幅を有するものの、蓋本体の全体表面積に比べればごく僅かな幅としか認識されないものであり、「極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成し」たとの審決の認定に誤りはない。
ウ 原告は、引用意匠において「間隔部分」に相当するものは、7個の排水孔の中央上部に設けられた部分仕切り体にすぎないと主張するが、上記アのとおり、引用意匠においても左右に7個ずつ、計14個の排水孔が存在するのであるから、その中間部分にある仕切り部分を「間隔部分」と表現することに支障はない。
また、原告は、引用意匠において「間隔部分」は蓋本体の表面から相当な深さで凹陥しており、「蓋本体の表面から極く僅かに凹陥し」たものではないとも主張するが、引用意匠における「間隔部分」の凹陥の深さは、本件意匠と比較すると、図面上約2倍であるものの、溝蓋全体の高さに比べればごく僅かとしか認識されないものであり、「間隔部分が蓋本体の表面から極く僅かに凹陥した」との審決の認定に誤りはない。
(3) 差異点の認定の誤りについて ア 原告は、差異点bにつき、本件意匠の蓋本体の表面周縁及び裏面前後縁における面取り部分は相当の幅をもった形状であり、審決が、排水孔の表面周縁の縁取り部分と同じように「極く細い面取り」との表現で認定したことは誤りであると主張するが、この点についての審決の認定に誤りはない。
イ 原告は、差異点cにつき、本件意匠の排水孔の左右側面寄りの端部形状は角張った「略コ字状」であるから、審決が「隅丸の略コ字状に形成している」と認定したことが誤りであると主張するが、本件意匠の排水孔の端部は、角部に丸みを有した形状であり、審決はそれを「隅丸」と表現したものであるから、上記認定に誤りはない。
ウ 原告は、差異点dにつき、本件意匠の排水孔の縁取り部分はごく細幅で斜状に形成してあり、また、引用意匠の排水孔の縁取り部分は倒L状の段々面であるから、審決が、「本件登録意匠は、斜状に形成しているのに対し、引用の意匠は、略L字状に形成している」と認定したことが誤りであると主張するが、上記(2)のイのとおり、排水孔の縁取り部分は、両意匠とも「極く細幅」である点で共通しており、斜状であるか、略L字状であるかの差異があるにすぎない。なお、原告主張の「倒L状」という表現はどのような形状を意味するのか理解し難く、不適切である。
(4) 本件意匠と引用意匠の類否判断の誤りについて ア 原告は、意匠の類否判断は、いわゆる全体観察の方法によってされるべきものであるのに、審決は、部分的観察に終始し、部分的な形態が周知又は公知であることを理由に、その部分の形態を除外して類否判断をした誤りがあると主張するが、審決は、意匠の全体観察に基づいてその要部を認定し、この要部が意匠全体にどのような影響を及ぼすかを判断しているものであり、このような手法は審決例、判決例において確立されたものであって、何らの誤りもない。
イ また、原告は、「排水孔の表面周縁を極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成し、中央の間隔部分の表面を排水孔の縁取り部分の深さと同じ深さの部位に形成し、該間隔部分が蓋本体の表面から極く僅かに凹陥していることにより、左右の排水孔どうしの縁取り部分が連続するような態様に表した」との点が、登録第551357号意匠公報、登録第561797号意匠公報及び実開昭60-130891号公報にそれぞれ記載された溝蓋に表されており、引用意匠の出願前において公知であったと主張する。
しかしながら、これらの公報に記載された溝蓋は、いずれも、審決の「新規な態様」であるとの認定において最も肝要な「中央の間隔部分の表面を排水孔の縁取り部分の深さと同じ深さの部位に形成し」たとの形態を備えていないものであるから、原告の主張は失当である。
ウ 以上のとおり、審決のした本件意匠と引用意匠との特徴(要部)の認定及びこれに基づく両意匠が類似するとの判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由(類否判断の誤り)について (1) 全体の基本的構成態様における共通点の認定の誤りについて 本件意匠と引用意匠とが「やや肉厚の方形状の板状体を蓋本体とし、この蓋本体の左右両側の裏面に、蓋本体の左右両側面と面一に断面形状を略逆台形状とする角柱状の脚部を設け、正面形状を扁平な略逆U字状に形成し、蓋本体には略横長々方形状を呈する複数の排水孔を、中央に僅かな間隔部分を設け左右に並列して穿設した全体の基本的構成態様において共通する」(審決謄本4頁1行目〜5行目)とした審決の認定に対し、原告は、「略横長々方形状を呈する複数の排水孔を・・・設け」たとの認定では、両意匠の間で顕著な差異を有する排水孔両端部の形状を把握することができないから、単に「横長の複数の排水孔を・・・設け」た点を共通点として認定すべきであると主張する。
しかしながら、本件意匠及び引用意匠の排水孔は、全体として、略平行に左右に形成された横長直線状の長辺、これと略垂直に直線状に形成された中央間隔部分寄りの短辺及び左右側面寄りの端部とから成る形状である点で共通しているのであって(引用意匠においても中央間隔部分によって左右の排水孔が分断されているものと認められることは後記のとおりである。)、意匠全体の基本的構成態様として認定する場合に、このような共通する全体形状の特徴を「略横長々方形状」と表現することが誤りであるとまでいうことはできない。また、審決は、「排水孔の左右側面寄りの端部形状について、本件登録意匠(注、本件意匠)は、隅丸の略コ字状に形成しているのに対し、引用の意匠(注、引用意匠)は、円弧状に形成している点」(審決謄本4頁15行目〜17行目)を各部の具体的な構成態様における差異点cとして認定しているのである(「隅丸の」との認定に誤りがないことは後記のとおりである。)から、両意匠の左右側面寄りの端部形状の差異を看過するものでもない。
したがって、審決の全体の基本的構成態様における共通点の認定に、上記原告主張の誤りがあるということはできない。
(2) 各部の具体的構成態様における共通点の認定の誤りについて ア 原告は、引用意匠においては、左右の排水孔の中央に蓋本体の厚みの略3分の1程度に形成された部分仕切り体が設けられているにすぎず、これによって左右の排水孔は分断されていないから、排水孔を「左右に7個ずつ計14個を並列し」ているのではない旨主張する。
そして、審決が各部の具体的な構成態様における差異点eで認定するとおり、「左右の排水孔間の間隔部分の厚みについて、・・・引用の意匠(注、引用意匠)は、蓋本体の厚みの1/3程度の厚みに形成している」(審決謄本4頁19行目〜22行目)ことは当事者間に争いがなく、そうすると、引用意匠においては、間隔部分の下端は蓋本体の下面にまで達しておらず、したがって、その排水孔は、縁取りの深さ分を考慮外とすれば、蓋本体の表面からおおむね3分の1程度の深さまでは左右別々であるが、それ以降蓋本体の下面までは左右が一体となっているものと認められる。
しかしながら、一般に、排水孔において、雨水の流れ込む表面から相当程度の厚みの部分が別々の孔によって形成されている場合には、その下部で各孔が一体となっていたとしても、取引者、需要者は、これを独立した別々の排水孔と認識すると考えるのが自然である。加えて、引用意匠の意匠にかかる物品である溝蓋は、その使用時において、蓋本体の表面で排水孔が中央間隔部分により分断され、
左右別々であることが一見して目に付くのに対し、蓋本体の表面からおおむね3分の1程度の深さから下の部分で左右一体となっていることが極めて視認し難いことは明らかであり、そうであれば、その取引時においても、蓋本体の表面で排水孔が中央間隔部分により分断され、左右別々であることは取引者、需要者の注意を惹くのに対し、蓋本体の下部で左右一体となっていることはその注意をさほど惹かないものと推認される。そうすると、引用意匠の排水孔は、蓋本体の表面からおおむね3分の1程度の深さから更に下の部分で左右一体となっている点よりも、蓋本体の表面からおおむね3分の1程度の深さまで左右別々である点に意匠的な特徴があるものというべきであり、したがって、審決が、引用意匠について、「複数の排水孔を、中央に僅かな間隔部分を設け左右に並列して穿設した」(審決謄本4頁4行目〜5行目)点及び「排水孔を左右に7個ずつ計14個を並列し」(同4頁6行目〜7行目)た点を本件意匠との共通点として認定した上で、「左右の排水孔間の間隔部分の厚みについて、本件登録意匠(注、本件意匠)は、蓋本体の厚みより排水孔の縁取りの深さの分低くした厚みに形成しているのに対し、引用の意匠(注、引用意匠)は、蓋本体の厚みの1/3程度の厚みに形成している点」(同4頁19行目〜22行目)を両意匠の差異点として認定し、引用意匠の排水孔が下部で左右一体となっている趣旨を表したことに誤りはない。
なお、被告作成の本件の意匠登録無効審判請求に係る請求書(甲第18号証)には、本件意匠及び引用意匠の双方に関して、その排水孔につき「横長手状の横長孔を7個穿設し」、「各横長孔の横幅中央に仕切り体を形成して各横長孔を等長の左右横長溝に区分けしている」旨記載されている(3頁20行目〜21行目、同頁24行目〜27行目、4頁28行目〜29行目、5頁3行目〜6行目)ところ、その表現は必ずしも適切ではないが、結局、引用意匠に係る排水孔の個数が本件意匠と等しいとの趣旨をいうものであって、上記認定を妨げるものではない。
イ 原告は、本件意匠においては、上部から垂直に見た排水孔の表面周縁の縁取り部の幅と排水孔の空隙部の幅との比が1:10であるのに対し、引用意匠における排水孔の表面周縁の縁取り部分は、相当な幅と深さをもった倒L状の段々面であって、その垂直部分の高さと水平部分の幅と排水孔の空隙部の幅との比は0.5:1:3であるから、本件意匠と共通する「極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分」ではないと主張する。確かに、排水孔の表面周縁の縁取り部の幅長(なお、当該縁取り部が、本件意匠では斜状に形成され、引用意匠では略L字状に形成されていることは、各部の具体的な構成態様における差異点dで認定されているところであり、本件意匠では、その斜面の幅を、引用意匠では、垂直部、水平部双方の幅を考慮すべきである。)を、排水孔の空隙部の幅長と対比した場合の構成比には、本件意匠と引用意匠とで相違があること、また、引用意匠の縁取り部分において水平部の幅長が垂直部の幅長より多少長いことが認められる。
しかしながら、いずれの縁取り部の幅長であっても、取引者、需要者において、それが排水孔の表面周縁の縁取り部を構成するものと認識できる程度のものであり、かつ、いずれの縁取り部の幅長も、蓋本体表面の全長又は蓋本体の厚みと比較すれば、極く細幅ということのできるものであって、排水孔の空隙部の幅長と対比した場合の構成比が取り立てて取引者、需要者の注目を集めるものとも認められないから、審決が「排水孔の表面周縁を極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成」(審決謄本4頁7行目〜8行目)することを、本件意匠と引用意匠の各部の具体的構成態様における共通点と認定したことに誤りはない。
ウ 原告は、引用意匠において「間隔部分」に相当するものが7個の排水孔の中央上部に設けられた部分仕切り体にすぎないから、本件意匠と同じ「間隔部分」と認定した場合には、その差異を明確に識別することができず、また、引用意匠の上記「間隔部分」は蓋本体の表面から相当な深さで凹陥しているから、本件意匠と共通する「蓋本体の表面から極く僅かに凹陥し」たものではないと主張する。
しかしながら、審決が、「複数の排水孔を、中央に僅かな間隔部分を設け左右に並列して穿設した」(審決謄本4頁4行目〜5行目)点及び「排水孔を左右に7個ずつ計14個を並列し」(同4頁6行目〜7行目)た点並びに「排水孔の表面周縁を極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成」(同4頁7行目〜8行目)する点を本件意匠と引用意匠との共通点として認定したことに誤りがないことは、上記ア及びイのとおりであるから、これを前提として、「該排水孔の・・・中央の間隔部分の表面を排水孔の縁取り部分の深さと同じ深さの部位に形成し、該間隔部分が蓋本体の表面から極く僅かに凹陥した」(同4頁7行目〜9行目)との点を本件意匠と引用意匠との共通点として認定したことにも、原告主張の誤りがあるということはできない。
(3) 差異点の認定の誤りについて ア 原告は、差異点bにつき、本件意匠の蓋本体の表面周縁及び裏面前後縁における面取り部分は相当の幅をもった形状であって、本件意匠の排水孔の表面周縁の縁取り部分の幅とは明らかに相違するから、上記表面周縁及び裏面前後縁における面取り部分を、排水孔の表面周縁の縁取り部分と同様の「極く細い面取り」との表現で認定することは誤りであると主張する。
しかしながら、本件意匠の蓋本体の表面周縁及び裏面前後縁における面取り部分の幅長と排水孔の表面周縁の縁取り部分の幅長とに多少の相違があることは認められるが、いずれにしても、取引者、需要者において、それが蓋本体の表面周縁及び裏面前後縁における面取り部分又は排水孔の表面周縁の縁取り部を構成するものと認識できる程度のものであり、かつ、いずれの幅長も、蓋本体表面の全長又は全幅長と比較すれば、ごく細いと表現できるものであるから、審決が、「本件登録意匠(注、本件意匠)は、蓋本体の表面周縁と裏面の前後縁に、極く細い面取りを現している」(審決謄本4頁13行目〜14行目)と認定したことに誤りはない。
イ 原告は、差異点cの「排水孔の左右側面寄りの端部形状について、本件登録意匠(注、本件意匠)は、隅丸の略コ字状に形成している」(審決謄本4頁15行目〜16行目)との認定につき、「隅丸」との認定が端部が丸みを有しているものと認識させるから、上記認定は誤りであると主張するが、当該「隅丸の略コ字状に形成している」との認定に照らして、「隅丸」は隅(角部)が丸みを付して形成されていること表現するものであって、排水孔の左右側面寄りの端部全体が丸みを有する趣旨でないことは極めて明白であり、かつ、本件意匠の略コ字状の端部の隅(角部)は丸みを付して形成されているから、審決の上記認定に誤りはない。
ウ 原告は、差異点dの「排水孔の縁取り部分について、本件登録意匠(注、本件意匠)は、斜状に形成しているのに対し、引用の意匠(注、引用意匠)は、略L字状に形成している」(審決謄本4頁17行目〜19行目)との認定につき、本件意匠の排水孔の縁取り部分はごく細幅で斜状に形成してあり、単に「斜状に形成している」と認定するのは誤りであると主張するが、審決が、「排水孔の表面周縁を極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成」(同4頁7行目〜8行目)することを、本件意匠と引用意匠の各部の具体的構成態様における共通点と認定したことに誤りのないことは、上記(2)のイのとおりであるところ、上記差異点dは、当該排水孔の縁取り部分における形状の差異点を認定したものであるから、
本件意匠につき上記共通点に包含される「ごく細幅」であることを、ことさら含めて認定する必要がないことは明らかである。
また、原告は、引用意匠の排水孔の縁取り部分は倒L状の段々面であるから、「略L字状に形成している」との認定も誤りであると主張するところ、確かに、引用意匠の縁取り部分において、水平部の幅長が垂直部の幅長より多少長いことが認められるが、その差は、上記(2)のイのとおり、「排水孔の表面周縁を極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成」するとの認定に包含される程度のものであるにすぎない上、倒L状との表現も曖昧である(その表現自体からは、例えば「」状ではなく、「 」状とも受け取れる。)から、引用意匠の縁取り部分の形状を「略L字状」と表現することが不相当とはいえない。
したがって、審決の上記認定に原告主張の誤りはない。
(4) 本件意匠と引用意匠の類否判断の誤りについて ア 原告は、審決が、本件意匠と引用意匠との各差異点につき部分的観察に終始し、これらの差異点に係る各態様がともに「周知の態様」等であるとして、本件意匠と引用意匠の類否判断から除外したとし、意匠の類否判断は各部分の態様の全体に対する統一、調和等の関係を考察したいわゆる全体観察の方法によってされるべきものであるから、審決が、周知又は公知であることを理由に部分的な形態を除外して類否判断をしたことは誤りであると主張する。
しかしながら、審決の説示(審決謄本4頁26行目〜6頁10行目)に照らして、審決は、両意匠の特徴が、各部の具体的な構成態様の共通点のうち、新規な態様である「略横長々方形状を呈する排水孔を中央に僅かな間隔部分を設け左右に7個ずつ計14個を並列して穿設し、該排水孔の表面周縁を極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成し、中央の間隔部分の表面を排水孔の縁取り部分の深さと同じ深さの部位に形成し、該間隔部分が蓋本体の表面から極く僅かに凹陥していることにより、左右の排水孔どうしの縁取り部分が連続するような態様に表した」(審決謄本4頁32行目〜38行目)点にあって、これが両意匠の全体の基本的構成態様における共通点と相まって醸し出す印象が、両意匠の類否判断を決定付ける要素であるのに対し、各部の具体的な構成態様における差異点a〜fは、当該差異点に係る本件意匠の態様及び引用意匠の態様がともに側溝用蓋等の意匠において普通に知られているもので、周知の態様の中でされた変更の範囲内のものであり、あるいは細部における部分的で軽微な差異であって、これらの差異点を総合しても、上記各部の具体的な構成態様の共通点が全体の基本的構成態様における共通点と相まって醸し出す類似するとの印象を凌駕するとはいえないとして、両意匠が類似するものと判断したものであることが認められる。
したがって、審決が、本件意匠と引用意匠との各差異点につき、原告の主張するように、部分的観察に終始し、これらの差異点に係る各態様がともに周知又は公知であることを理由に、これらを除外して本件意匠と引用意匠の類否判断をしたものでないことは明らかなところである。
そして、上記のような判断手法に格別の不合理性はなく、かつ、それが意匠の類否判断において一般に用いられるものであることは当裁判所に顕著であり、さらに、その具体的内容においても特段の誤りがあるものとは認められない。
イ なお、原告は、審決が両意匠の特徴であるとした態様のうち、「排水孔の表面周縁を極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成し、中央の間隔部分の表面を排水孔の縁取り部分の深さと同じ深さの部位に形成し、該間隔部分が蓋本体の表面から極く僅かに凹陥していることにより、左右の排水孔どうしの縁取り部分が連続するような態様に表した」との部分が、登録第551357号意匠公報、登録第561797号意匠公報及び実開昭60-130891号公報にそれぞれ記載された溝蓋に表されており、引用意匠の出願前において公知であったと主張する。
しかしながら、上記登録第551357号意匠公報(甲第21号証)及び登録第561797号意匠公報(甲第22号証)に記載された溝蓋においては、
間隔部分の表面が、蓋本体の表面から凹陥してはいるものの、排水孔の縁取り部分の深さよりは高い部位に形成されていて、間隔部分の左右の排水孔同士の縁取り部分が連続するような態様でないことは明らかである。
また、実開昭60-130891号公報(甲第23号証)の図面に記載された溝蓋においては、その第1、第2、第4〜第6図の図示(なお、第4図における中央間隔部分の幅長は第1、第5図のそれと比較して長めに表示されているが、実用新案登録出願に係る願書に添附された図面は設計図のような正確性が求められるものではなく、上記の程度の不正確さがあっても必ずしも不自然ではない。)及び「図中1は・・・幅狭なスリット状排水孔2を長さ方向に一定ピッチで設けた溝蓋本体で、この溝蓋本体1は長さ方向両側に位置し下方に向けて一体的に突設した溝蓋支承用の突条3,4と、前記排水孔2を2条ずつ間に入れる間隔で一体的に裏面突設された前記溝蓋支承用突条3,4と直交し、この突条3,4間を一体的に結合する多数本の補強用突条5とを有し」(4頁5行目〜13行目)、「第1図はこの考案の一実施例による溝蓋の平面図、第2図は第1図のU-U線に沿う縦断面図、・・・第4図は第1図のW-W線に沿う横断面図、第5図は第1図の裏面図、第6図はこの考案の・・・要部断面図」(8頁3行目〜8行目)との各記載からみて、排水孔2の長手方向両側面が、隣接する台形状の断面形状を有する連結体によって成り、当該連結体の下部には、一つおきに逆台形状の補強用突条5が形成されていて、中央間隔部分は、その表面が上記連結体表面より僅かに低く、またその下面は補強用突条5が形成されていない連結体の下面と同じ高さに形成されており、さらに連結体表面は長さ方向両側に位置する突条3、4の表面より僅かに低く形成されていること、したがって、当該溝蓋の中央間隔部分の位置はおおむね乙第9号証の斜視図のとおりであることが認められる。甲第25号証の斜視図に示された溝蓋の中央間隔部分の位置は上記実開昭60-130891号公報(甲第23号証)の第4、第5図と明白に食い違うものであり、採用することができず、また、甲第31号証の第2図赤色部分も中央間隔部分の位置としては明らかに誤りである。そうすると、上記実開昭60-130891号公報に記載された溝蓋においても、間隔部分の表面が、排水孔の縁取り部分の深さ(上記連結体の台形状の断面形状の下底の位置)よりは高い部位に形成されていて、間隔部分の左右の排水孔同士の縁取り部分が連続するような態様でないことは明らかである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ また、原告は、本件意匠の特徴(要部)が、縦長長方形の蓋本体に、中央の間隔部分によって分離された各列7個ずつ、計14個の独立した排水孔を形成し、各排水孔の周縁内側にはごく細幅の面取り部を設けた上、面取り部のごく僅かな肉厚分だけ中央の間隔部分を低くし、各排水孔の長手方向端部は略コ字状に角張って形成されている点にあるのに対し、引用意匠の特徴(要部)が、略正方形の蓋本体に、その横幅に近い長さを有する7個の排水孔を形成し、当該排水孔の中央に、蓋本体の厚みの略3分の1の厚みを有する部分仕切り体を設け、また、各排水孔の周縁内側に垂直に段々部を設け、中央の部分仕切体の上端面を上記段々部の下段面と平面一体となるよう形成し、各排水孔の長手方向端部は半円弧状に形成した点にあって、その差異が共通点をはるかに凌駕すると主張する。
しかしながら、本件意匠及び引用意匠の特徴が、各部の具体的な構成態様の共通点のうち「略横長々方形状を呈する排水孔を中央に僅かな間隔部分を設け左右に7個ずつ計14個を並列して穿設し、該排水孔の表面周縁を極く細幅で僅かに内方に凹陥する縁取り部分を形成し、中央の間隔部分の表面を排水孔の縁取り部分の深さと同じ深さの部位に形成し、該間隔部分が蓋本体の表面から極く僅かに凹陥していることにより、左右の排水孔どうしの縁取り部分が連続するような態様に表した」(審決謄本4頁32行目〜38行目)点にあるとの審決の認定に誤りのないことは、前示各認定判断に照らして明らかであり、本件意匠及び引用意匠の特徴(要部)についての原告の主張のうち、上記審決の認定と食い違う部分は採用し難く、したがって、それを前提とする差異点が共通点を凌駕するとの主張も採用することができない。
2 以上によれば、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利