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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12ワ17877意匠権侵害禁止請求事件 判例 意匠
平成11ワ7185特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ17875商標権等移転登録請求事件 判例 意匠
平成11ワ58意匠権侵害行為差止等請求事件 判例 意匠
平成10ワ12225特許権侵害行為差止等請求事件 平成13ワ143損害賠償等請求事件 判例 特許
関連ワード 物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  先願 /  類似の意匠 /  意匠の類否 /  全体観察 /  本意匠 /  登録意匠 /  損害賠償 /  類似性(類否判断) /  損害額 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 11203号 損害賠償請求事件
原告 株式会社アンクラフト
同代表者代表取締役 【A】
同訴訟代理人弁護士 鎌田邦彦
同 山本哲男
同補佐人弁理士 板谷康夫
被告 ダイハツ工業株式会社
同代表者代表取締役 【B】
同訴訟代理人弁護士 小松 陽一郎
同訴訟復代理人弁護士 福田 あやこ
同補佐人弁理士 小谷悦司
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/02/20
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は、原告に対し、金6000万円及びこれに対する平成11年10月30日から支払済みまで年5分の割合のよる金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、主位的に、被告が製造販売する軽自動車が原告の有する意匠権を侵害するとして、予備的に、被告は、原告との間で原告のデザイン、制作に係る試作車の内外装のデザイン及び構成を採用する場合には、その使用権について正式契約を締結する旨の合意をし、あるいは信義則上の義務を負っていたにもかかわらず、原告と正式契約することなく同デザイン及び構成を採用した軽自動車を製造販売したとして、それにより被った損害の賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等 (1) 原告は、主として自動車等の工業デザインを営む株式会社であり、被告は、軽自動車等の製造販売を営む株式会社である。
(2) 原告は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、同意匠権に係る登録意匠を「本件登録意匠」、同意匠権に係る意匠公報を「本件意匠公報」という。)を有している。
ア 出願日 平成4年10月30日 イ 登録日 平成6年3月14日 ウ 登録番号 第899766号 エ 意匠に係る物品 乗用自動車 オ 登録意匠 別紙意匠公報記載のとおり (3)ア 原告は、平成元年ころから、被告の委託を受けて、コンセプトカー(モーターショーへ出展するような車両)のデザインと制作を行うようになった。
原告の行うコンセプトカーのデザインと制作とは、具体的には、フロアパネルと足回りについては被告から提供を受けた台車を利用するものの、それ以外の外装と内装については、外装の板金やドアの構造から内装の貼り付けに至るまですべてデザインし、それを試作車に仕上げることを内容とする。
イ 原告は、次のとおり、被告から請け負って、東京モーターショーに出展するコンセプトカーのデザインと制作をしたが、同モーターショーにおける原告デザイン、制作によるコンセプトカーの評判は良かった。
(ア) 平成元年5月 「ダンボ」 代金1250万円 (イ) 平成元年5月 「シャレード4WW」 代金1800万円 (ウ) 平成3年3月 「ダンボ2」 代金2500万円 (エ) 平成5年1月 「パーソナルクーペ」 代金6360万円 (4) 原告は、平成4年5月ころ、当時被告のPP(プロダクトプランニング)センターにおけるモーターショーの総括担当主査であった【C】(以下「【C】」という。)から台車の提供を受け、平成5年11月初めころまでに、同台車を利用して試作車「X8-C」を完成した。
本件登録意匠は、原告が、X8-Cの意匠を基にして出願したものである。
(5) 被告は、平成10年11月30日ころから、軽自動車であるオプティCX(Opti CX)、オプティCL(Opti CL)、オプティビークス(Opti Beex)、オプティエアロダウンビークス(Opti AERODOWN Beex)を、全国的に製造、販売している(以下、オプティCX及びオプティCLを「イ号物件」、オプティビークスを「ロ号物件」、オプティエアロダウンビークスを「ハ号物件」といい、それぞれの意匠を「イ号意匠」、「ロ号意匠」、「ハ号意匠」という。)。
(6) イ号ないしハ号意匠は、車体側面のサイドライン(ドア上部の面違いハイライトライン)及びドア外板の形状(断面図に表われる形状)の点について争いがあるほかは、イ号意匠が別紙「被告主張イ号図面」、ロ号及びハ号意匠が別紙「被告主張ロ号、ハ号図面」各記載のとおりである。
上記相違点について、被告は上記各図面記載のとおりであると主張するのに対し、原告は、別紙「原告主張イ号図面」及び別紙「原告主張ロ号、ハ号図面」の「右側面図」及び「内部機構省略A-A線拡大端面図」とおりであると主張する。
(7) 被告は、ロ号(ハ号)意匠(但し、図面代用写真を使用)について、平成10年3月24日、意匠登録出願(意願平10-8325号)をし、平成11年3月12日、意匠登録(登録意匠番号第1039384号)を受けた。
また、被告は、イ号意匠(但し、図面代用写真を使用)について、平成10年3月24日、ロ号意匠を本意匠とする類似意匠登録出願(意願平10-8326号)をし、平成11年3月12日、意匠登録(登録意匠番号第1039384号の類似1)を受けた(乙1、2の各2)。
2 争点 (1) イ号ないしハ号意匠は本件登録意匠に類似するか。
(2) 被告に予約契約違反ないし信義則上の義務違反があるか。
(3) 損害の発生及び額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(イ号ないしハ号意匠は本件登録意匠に類似するか。)について 〔原告の主張〕 (1) 本件登録意匠について ア 本件登録意匠の基本的構成及び具体的構成は、別紙「本件登録意匠とイ号意匠の対比表(原告主張)」の「本件登録意匠」欄記載のとおりである。
イ 本件登録意匠は、乗用軽自動車タイプ(車体前後長に対する前後車輪のホイールベース長の比率が大きく、前・後ホイールと車体前・後端との間のオーバーハング長の比率が小さいもの)で、ハードトップスタイル(センターピラーが存在しないか、又は存在しないように見えるタイプ)を実現し、しかも、短いリアデッキを設けて、3ボックスセダン(横から見たとき、エンジンボックス、車室、トランクと3個の箱をつなげた形になるタイプ)を採用したものである。
軽自動車は、車体の全長や全幅の物理的な規制から、ハードトップスタイルの3ボックスセダンを採用すると、十分な車内空間がとれなかったり、車体の強度や安全性が十分に保てなかったりするなどの致命的な欠陥が生じやすく、また、ヘッドクリアランス(搭乗者の頭部の空間)を大きくとるために車体の全高を高くすると、車体のバランスを悪くしたりスポーティー感を失ったりするという欠点が生じることになる。
本件登録意匠は、軽自動車の持つこのような制約及び欠点を克服するため、エンジンボックスを、車体全長に対して相対的に短く前下がりの大きいボンネットを有したショートノーズ形態とし、車室ボックスを、ルーフ部を後方に伸ばしつつリアウインドウ部が後ろ下がりに傾斜する形態とし、トランクボックスを、車高に対して比較的高い位置に短いリアデッキを設けたハイデッキ形態としたものであり、こうした構成により、広い車内空間・車体の強度・安全性をすべて満足させながら、スポーティー感を演出し、軽自動車として、初めてハードトップスタイルの3ボックスセダンを実現した画期的な意匠である。
したがって、本件登録意匠のうち、上記に関わる構成、すなわち、基本的構成の(1)〜(3)(特に(3))、及び具体的構成の「前方の意匠」の(1)、「側方の意匠」の(2)、(4)が最も看者の注意を惹く部分といえる。
ウ また、一般的に乗用自動車の場合、看者は、一番に車全体のフォルム(シルエット)、次に側方及び前方を見渡せる斜め前方から見た形状に、注意を惹きつけられる。
そうすると、本件登録意匠の要部は、上記の軽自動車におけるハードトップスタイルの3ボックスセダンの実現に関わり、しかも車全体のフォルム(シルエット)として看者の注意を惹く部分である基本的構成の(1)〜(3)(特に(3))、及び具体的構成の「前方の意匠」の(1)、「側方の意匠」の(2)、(4)、それに加えて、
斜め前方から見た場合に看者の注意を惹く部分である具体的構成の「前方の意匠」の(3)のうち「フロントバンパーが高さ方向の幅を大きくして厚みを持たせ、かつ、
その上端辺の高さ位置を比較的高くしている点」、「側方の意匠」の(3)のうち「サイドラインがウェッジシェイプ姿勢をしている点」であるというべきである。
(2) 本件登録意匠とイ号ないしハ号意匠の対比 ア 本件登録意匠及びイ号意匠の基本的構成及び具体的構成は、別紙「本件登録意匠とイ号意匠との対比表(原告主張)」記載のとおりであり、それぞれの意匠の構成は、同対比表の下線部分において異なり、それ以外の部分は同じである。
イ 本件登録意匠及びロ号意匠の基本的構成及び具体的構成は、別紙「本件登録意匠とロ号意匠との対比表(原告主張)」記載のとおりであり、それぞれの意匠の構成は、同対比表の下線部分において異なり、それ以外の部分は同じである。
ウ ハ号意匠は、基本的構成の(4)の全長と全高と全幅の各長さの比が約72対29対31(ロ号意匠では約72対30対31)となる点を除いては、基本的構成、具体的構成ともロ号意匠と同じであり、全長と全高と全幅の各長さの比は近似している。
(3) 本件登録意匠とイ号ないしハ号意匠の類否 以上のとおり、イ号ないしハ号意匠は、本件登録意匠の前記要部をすべて備えており、そのほかの点でも、構成上多くの共通点を有する一方で、相違点は消費者の注意を惹かない細部又はオプション的部分にすぎない。すなわち、両意匠はその外観を全体的に観察して美感が類似しており、イ号ないしハ号意匠は本件意匠に類似する。
(4) 被告の主張する本件登録意匠の基本的構成、要部についての反論 ア 被告は、本件登録意匠の基本的構成から乗用軽自動車との限定をはずしている。
しかし、本件登録意匠形状、全長と全高と全幅の比からすれば、本件登録意匠は乗用軽自動車に係るものであり、需要者にとって乗用軽自動車か普通乗用自動車かという区分は基本的で重要なものであるから、意匠の基本的構成の要素というべきであるし、意匠の類否を判断する上で大きく考慮すべきである。
イ 被告は、2ドアである(4ドアでない)ことを基本的構成に含めるが、
意匠創作上2ドアから4ドアへの移行は極めて容易で、実際、同じ車種であっても4ドアと2ドアの両タイプがある場合が多く、2ドアか否かは、基本的構成の要素というべきではない。
ウ 被告は、車室ボックスのルーフ部やトランクボックスやリアデッキの車体全長に対する比、長さ等を基本的構成に含めるが、これらは基本的構成として細かすぎる上、看者にはほとんど差異が看てとれない違いをおおげさに表現しており適切ではない。
エ 被告は、側方のサイドライン(キャラクター・ライン)を基本的構成及び要部に含めるが、看者から見て車の側方の意匠は車全体の概形や斜め前方の意匠に比べて比重が低く、基本的構成及び要部に含めるべきではない。
〔被告の主張〕 (1) 原告の主張は争う。
(2) 本件登録意匠について ア 本件登録意匠の基本的構成及び具体的構成は、別紙「本件登録意匠とイ号意匠との対比表(被告主張)」の「本件登録意匠」欄記載のとおりである。
イ 原告は、本件登録意匠を「軽自動車」としているが、本件登録意匠の「意匠に係る物品」は「乗用自動車」であって「軽自動車」に特定したものではなく、そのように特定することもできない。普通乗用自動車か小型乗用自動車あるいは軽乗用自動車かは、エンジンの排気量の大きさも含めて決まるのであり、形や大きさのみで決まるのではない。意匠に係る物品が単に「乗用自動車」とあれば、普通乗用自動車か小型乗用自動車あるいは軽乗用自動車であるかを特定しないでこれらいずれにも適用可能な意匠と一般に解されている。
また、著名な自動車のデザイン雑誌である「Car Styling」の1989年5月号に掲載されている「Alfa Romeo ES30」の写真とその開発経過を示すモデル写真(乙4)には、原告主張の要部中「ショートノーズ形態」を除く他の構成要素をことごとく備える乗用自動車の意匠が、同「Car Styling」の1989年11月号に掲載されている自動車のモデル写真(乙5)には、ショートノーズ形態をも含む原告が要部と主張するすべての構成要素が示された本件登録意匠に酷似する乗用自動車の意匠がそれぞれ示されている。
したがって、原告主張の構成要素をもって本件登録意匠の要部とすることはできない。
ウ 乗用自動車のデザインの分野では、自動車の外観を構成するボンネット、ランプ、フェンダー、バンパー、トランク等の各構成要素や、「ショートノーズ形態」、「ウェッジシェイプ姿勢」「オーバーハング長の比率を小さくする」等のデザインコンセプト上の基本的な形態はほぼ出尽くしており、デザイナーが考えたデザインコンセプトに沿って、それら周知ないし公知の部分的形態に多少の変化をつけ、機能上の制約下において適宜組み合わせて、フロントビュー、サイドビュー、リアビューなどの一定のまとまりのある部分をデザインし、かつ、全体として統一がとれるよう各部分部分の構成を組み合わせることによりデザインされているのが現実といえる。
したがって、乗用自動車にあっては、フロントビュー全体、サイドビュー全体、リアビュー全体の各々が看者の注意を強く惹く一定のまとまりのある部分といえる。
本件登録意匠には、客観的にみて、新規な特徴ある部分といい得る部分はほとんど存在しないが、フロントビュー及びサイドビューからリアビューにかけての一定のまとまりのある部分として捉えた際、別紙「本件登録意匠の要部とイ号意匠との対比表(被告主張)」の「本件登録意匠の要部」欄記載の3点に特徴があるから、同構成部分を本件登録意匠の要部とすべきである。
(3) 本件登録意匠とイ号ないしハ号意匠の対比 ア 本件登録意匠及びイ号意匠の基本的構成及び具体的構成は、別紙「本件登録意匠とイ号意匠との対比表(被告主張)」記載のとおりであり、それぞれの意匠の構成は、同対比表の下線部分において異なり、それ以外の部分は同じである。
イ 本件登録意匠とロ号、ハ号意匠の基本的構成及び具体的構成は、別紙「本件登録意匠とロ号、ハ号意匠との対比表(被告主張)」記載のとおりであり、
それぞれの意匠の構成は、同対比表の下線部分において異なり、それ以外の部分は同じである。
(4) 本件登録意匠とイ号ないしハ号意匠の類否 本件登録意匠の要部と、それに対応するイ号ないしハ号意匠の構成部分の対比は、別紙「本件登録意匠の要部とイ号意匠との対比表(被告主張)」、別紙「本件登録意匠の要部とロ号、ハ号意匠との対比表(被告主張)」各記載のとおりであり、同対比表の下線部分において異なり、それ以外の部分は同じである。すなわち、イ号ないしハ号意匠は、本件登録意匠の要部において、短いリアデッキ(トランクリッドの上面)を有している点で共通しているものの、他の要部においてことごとく相違しているとともに、基本的形態、及びフロントビュー、サイドビュー、リアビューなどの各部分の具体的形態においても、いずれも相違点が共通点をはるかに凌駕しており、イ号ないしハ号意匠と本件登録意匠は、全体観察上非類似の意匠であることは明白である。
なお、被告は、イ号意匠及びロ号(ハ号)意匠の意匠登録出願手続において、本件登録意匠を添付した「早期審査に関する事情説明書」を提出しているから、特許庁は、本件登録意匠との対比をも検討した上で、本件登録意匠とは非類似と判断し、イ号意匠及びロ号(ハ号)意匠を登録査定しているのであり、このことからも、本件登録意匠とイ号ないしハ号意匠が非類似であることは明らかである。
2 争点(2)(被告に予約契約違反ないし信義則上の義務違反があるか。)について 〔原告の主張〕 (1)ア 原告は、コンセプトカーのデザインの取引を通じて被告のデザイン部門の責任者である【C】主査等との間で信頼関係を深めていた。そのような状況の下で、原告は、平成4年4月21日ころ、【C】に対し「超高級ワールドミニ企画〔超安全ミニ〕」という企画書(甲3)を提出し、全く新しい軽自動車を開発したい旨申し入れた。そして、同年5月ころ、原告は、【C】から台車の提供を受けた。また、同年10月15日ころ、上記企画書の趣旨を更に進めて、車体のバランスと販売戦略を具体化した「新しいパッケージバランスによる『コンパクトミニ』オリジナル軽自動車のご提案」なる企画書(甲4)を【C】に提出したところ、賛同を得た。このような過程を経て、原告は、新型軽自動車X8-Cの企画、開発(外装及び内装のデザイン並びに試作車の制作)に取り組み、平成5年11月初めころまでに完成したが、その開発に要した費用は原材料費及び外注費だけでも3000万円を超えた。
イ 原告は、平成5年11月、X8-Cを【C】に提示したが、その際、原告代表者は、「見て良かったら採用してほしい。良くないのであれば他社へ持ち込むので、その場でどちらかはっきりしてほしい。」と申し入れたところ、【C】は、「良ければ社内的に採用する方向で動くので是非見たい。」と返事した。同年11月18日、原告代表者は、【兵庫県<以下略>】にある原告の工場において、
【C】にX8-Cを見せてその特徴を逐一説明したところ、【C】は「これはすごい。『軽』を超えた車だ。採用する方向でいく。そのために何人かの人に見せたい。」と述べた。
ウ 原告代表者は、平成6年1月8日、東条町の原告工場において、【C】と被告の【D】取締役にX8-Cを見せて、過去のダイハツ車との比較バランス表を示し、ベンツやBMWとも比較しながら、X8-Cの特徴を逐一説明したところ、【D】取締役は、驚嘆し、「これは是非5万台以上作りたい。」「被告で採用するから他社には絶対に見せないように。正式に採用するためにこれからいろいろな人に見せなければならない。」と述べた。
エ 原告代表者は、同年3月10日、被告の【E】専務取締役、【F】次長、【G】課長、【H】係長に、同年5月28日、【I】専務取締役、【J】取締役製品企画部長に、それぞれX8-Cを開示しその特徴を説明したところ、全員がX8-Cを絶賛した。
(2) X8-Cは、今までにない斬新な特徴を有しており、その主なものは次のとおりである。
ア 軽自動車で初めてのハードトップスタイル。
イ 軽自動車で初めてのリアデッキを持った3ボックスセダン。
ウ 車全体のフォルムについて、ボンネットは短く前下がりのショートノーズ形態であって、ルーフ部を後方に伸ばしつつリアウインドウ部を後ろ下がりに傾斜させ、リアデッキは高い位置に短いハイデッキ形態であるというフォルムを持たせた(これにより、軽自動車としては広い社内空間を確保しながら、しかも、スポーティーで流麗なフォルムを実現した。)。
エ ルーフとピラーの構成について、フロントピラーを太くし、フロントピラー・センターピラー・リアピラーとルーフとの左右両端部を一体でプレス成型し、ハードトップとしての強度をアップした。
オ サイドラインの構成について、前傾姿勢(ウエッジシェイプ)とし、フォルムにスポーティーさと流麗さを持たせた。
カ ドアのプレスラインの工夫と補強材により、剛性感の高いドアの締まり具合を実現した。
キ フロントバンパー及びリアバンパーを共に大きな一体型バンパーとした(これによりスポーティーさを演出した。)。
ク 丸型ヘッドライトを採用した。
ケ 内装に2トーンのファブリックを採用した(これにより高級感を演出した。)。
(3) 前記(1)の経緯によれば、原告と被告は、平成6年5月28日ころまでに、被告がX8-Cの内外装のデザイン及び構成を採用する場合は、原告との間で上記デザイン等の使用権について実施許諾又は譲渡契約を正式に締結することとし、被告は正式契約の申込みの権利を有し、原告は他社に持ち込まないことを内容とする合意(予約契約)が成立したものというべきである。
(4) 仮に、原告と被告との間で上記予約契約が成立していないとしても、被告は、契約締結に向けて原告と緊密な信頼関係に入ったのであるから、原告によって開示されたX8-Cの技術的特徴を原告の承諾なしに利用しないという信義則上の義務を負ったというべきである。
(5) 被告は、原告と正式契約を締結しないまま、平成10年11月30日、イ号ないしハ号物件を発表し全国的な製造販売を開始したが、イ号ないしハ号物件は、いずれも、細部の設計事項に差異はあるものの、前記(2)記載のX8-Cの特徴をすべて備えており、X8-Cの内外装のデザイン及び構成を実質的に採用したものというべきであって、被告には、予約契約違反ないし信義則上の義務違反がある。
〔被告の主張〕 (1) 原告の主張(1)のうち、被告の取締役や社員らが原告工場に赴き原告制作に係るX8-Cを見たことは認め、その余の事実は否認し、同(2)ないし同(5)は争う。
【C】は、当時、被告のモーターショーの企画担当者であり、X8-Cを採用する方向で動くというようなことを言う立場にはなかった。また、【C】が原告に台車を提供したことは、原告代表者の申し入れに応じて好意で行ったものにすぎず、デザイン委託の趣旨を含むものではない。
(2) 被告会社の【C】らは、原告代表者からプレゼンテーションを受けて、原告工場に赴いてX8-Cを見に行っただけであり、しかも被告のデザイン部署の者は同行していない。こうしたことは、社会で一般に行われているところであり、被告が原告の提案を採用しなかったとしても、何ら法的な問題にはならない。
また、原告は、X8-Cのプレゼンテーションがあったと主張する平成5年11月8日時点では、X8-Cの意匠につき既に意匠出願していた(その登録になった意匠が本件登録意匠)のであるから、X8-Cのプレゼンテーションに際し、同意匠に係る権利は法的に守られていた。
(3) 被告は、従来から軽自動車の「オプティ」を販売してきたが、フルモデルチェンジを行うこととし、平成7年秋から、社内のデザイン部署で多くのスケッチを展開し、関係部署とのディスカッションを経て、同年12月に2案に絞り込んだ上、具体的な開発に入ったものである。
被告は多くのデザイナーを抱えており、これらデザイナーが、原告のプレゼンテーションとは無関係の時期に、既存の他の自動車のデザインを参考にするなどして、独自にイ号ないしハ号意匠を創作したものであって、デザイン関係者はX8-Cを見ていないし、原告からX8-Cの写真や図面をもらったこともない。
(4) 原告は、X8-Cが今までにない斬新な特徴を有していると主張し、その主なものとして原告の主張(2)、ア〜ケ各記載の9項目を挙げるが、それらの項目は、何ら斬新なものではなく、抽象的なイメージ論にすぎない。以下、各項別に反論する。
ア 原告の主張(2)アについて 被告は、昭和46年8月ころ、2ドアハードトップスタイルの軽自動車である「フェローMAXハードトップ」を製造販売しているから、X8-Cが、軽自動車で初めての2ドアハードトップではない。
なお、イ号ないしハ号物件は、軽自動車初の4ドアハードトップである。
イ 同イについて リアデッキを持った3ボックスセダンの軽自動車(トランクのあるもの)は、以前から多く製造販売されており、被告も、昭和41年11月ころから「フェロー」を製造販売している。なお、前記「フェローMAXハードトップ」もトランクを有している。
ウ 同ウないしオについて 原告が主張する「車全体のフォルム」、「ルーフとピラーの構成」、
「サイドラインの構成」は、いずれもデザインの特徴を具体的に特定したものではなく、イメージにすぎないものであり、意匠の類比判断において考慮されるべきものではない。また、このように表現できる車は多く販売されており、何ら目新しいものではない。
エ 同カについて 「ドアのプレスライン」については、デザインの特徴を述べたものではない。
オ 同キについて 「フロントバンパー及びリアバンパーを共に大きな一体型バンパーとした」というのは、他の多くの車に共通する極めて一般的な構造であり、何ら意匠上の特徴とはいえない。
カ 同クについて 「丸型ヘッドライト」については、多くの車が丸型ヘッドライトであり、被告が平成4年1月から販売した初代軽自動車オプティは丸型ヘッドライトである。
キ 同ケについて 「内装に2トーンのファブリックを採用」している点も、大部分の車に共通することである。
したがって、イ号ないしハ号物件が、原告がX8-Cの特徴として主張する事項と共通する特徴を備えているとしても、それらは新規なデザインや構造ではないのであるから、そのことをもって、原告の企画開発したX8-Cの内外装のデザイン及び構成を実質的に採用したものということはできない。
3 争点(3)(損害の発生及び額)について 〔原告の主張〕 (1) 意匠権侵害による損害 被告は、平成10年12月から平成11年9月末日までの間に、イ号物件、ロ号物件、ハ号物件を少なくとも合計5万台以上製造し、一台約100万円で販売しており、これまでに少なくとも500億円以上売り上げている。
本件登録意匠権の実施について受けるべき金員は、売上額の少なくとも3%が相当であり、原告の損害額は金15億円を下らないというべきである。
原告は、被告に対し、前記金15億円のうち金6000万円を請求する。
(2) 予約契約違反ないし信義則上の義務違反による損害 原告の企画開発について正式契約に至っておれば、原告が本件開発に要した時間及び費用、原被告の過去の取引例に照らして、契約金額は少なくとも6000万円を下らない。
また、被告がイ号ないしハ号物件を製造販売したことにより、原告が開発したX8-Cは市場における斬新さを喪失し、他へ実施許諾する機会が失われたが、X8-Cの実施許諾料は少なくとも6000万円を下らない。
よって、原告は、被告の予約契約違反ないし信義則上の義務違反により少なくとも6000万円の損害を被った。
〔被告の主張〕 原告の同主張事実は否認する。
争点に対する判断
1 争点(1)について (1) 本件登録意匠の構成 別紙意匠公報によれば、本件登録意匠の構成は次のとおりであると認められる。
ア 基本的構成 a 車体の四隅に車輪を配置した乗用自動車であって、車体前後長に対する前後車輪のホイールベース長の比率が大きく、前・後ホイールと車体前・後端との間のオーバーハング長の比率が小さく、かつ、車体について全長に対する全高の比率の大きい、いわゆる乗用軽自動車タイプである。
(なお、本件登録意匠の「意匠に係る物品」は「乗用自動車」であり「軽自動車」との限定はない。もっとも、本件登録意匠の自動車の全長と全高と全幅の各長さ比が約72対33対31であることは当事者間に争いはなく、弁論の全趣旨によれば、この比率は本件登録意匠が軽自動車タイプであることを示すものであることが認められるから、本件登録意匠は、直接には軽自動車を対象として構成された意匠であると解される。) b 2ドア・ハードトップスタイル(センターピラーが存在しないか、又は存在しないように見えるタイプ)の3ボックス(横から見たとき、エンジンボックス、車室、トランクと3個の箱をつなげた形になるタイプ)セダンである。
c エンジンボックスは車体全長に対して相対的に短く、大きく前下がりになったボンネットを有するショートノーズ形態であって、車室ボックスはルーフ部を後方に伸ばしつつリアウインドウ部が後ろ下がりに傾斜する形態を有し、トランクボックスは車体全長に対して極めて短く(車体全長を1としてトランクボックスの長さは0.028)、リアウインドウ部の下端部より後方にサイドウインドウ下辺のラインの延長線上で車高に対して比較的高い位置に極めて短いリアデッキ(トランクリッドの上面)を設けたハイデッキ形態を有している。
d 全長と全高と全幅の各長さの比は、約72対33対31である。
イ 前方の意匠(フロントビューデザイン)の構成 a エンジンボックスは、大きく前下がりとなるショートノーズ形態のボンネットを有している。
b ボンネットは、前端で下方に曲がっており、その中央寄り左右に後方側に向けてわずかに広がるプレスラインが、フロントウインドウ下端部からフロントバンパーの上部まで達している。
c プレスラインを挾んで左右両側に各々外側が大きく内側が小さい大小2つの丸型ヘッドランプと、その更に外側に左右1つずつのウインカーヘッドランプとがボンネットに設けられている。
d フロントバンパーは、高さ方向の幅を大きくして厚みを持たせ、その左右に、比較的大きい横長の長方形状のロアー・グリル(エアダクト)を有する。
e ラジエターグリルを有しない。
ウ 側方の意匠(サイドビューデザイン)の構成 a 左右1つ宛計2つの窓ガラスにサッシュのない扉が配設されたハードトップスタイルの2ドアタイプであり、側方に表われるエンジンボックス、車室ボックス及びトランクボックスの形状は、前記基本的構成cに示すとおりである。
b 車体側面中央には、後方に向かって緩やかに上がっていく2本の幅広で平行なサイドラインが描かれており、このうちの上側のラインはドアの取っ手を横切っており、この2本のラインに挟まれた部分は内側へ一段落ちたフラットな帯状の凹みラインとなっており、この帯状部分を挟んでボディ側面全体は緩やかな凸面となっている。
c 上記帯状ラインの後側端にリアランプの一部が方形に表われており、
フロントフェンダーの前扉寄りにサイドターンランプが設けられている。
d フロントピラーからリアピラーまで継ぎ目のない、なだらかな曲線ないし円弧状の連続的なピラーとし、センターピラーはない。
エ 後方の意匠(リアビューデザイン)の構成 a 前記基本的構成cに示したとおり、トランクボックスは、リアウインドウ部の下端辺より後方にサイドウインドウ下辺ラインの延長線上で車高に対して比較的高い位置に極めて短いリアデッキ(トランクリッドの上面)が設けられ、その後端部が側面視でほぼ直角に下方に折り曲げられている。
b サイドビューに表われているサイドウインドウ下辺のライン及び前記帯状部分がそのまま連続してリアに回り込み、車体後部中央に帯状のフラットな凹み部分を形成し、該帯状部分の左右両端にほぼ方形状のリアランプが配設され、該帯状部分の下端辺は、リアバンパーの上端に近接してトランクリッドの開口端が形成されている。
c リアバンパーは、高さ方向の幅を大きくして厚みを持たせ、かつ、その上端辺の高さ位置を比較的高くし、また、下端辺は左右両側がわずかに垂れ下がり、その間が逆U字状とされている。
d ほぼ台形状のリアウインドウが下方に向け傾斜して設けられている。
オ 平面視の意匠の構成 ルーフの左右両端部にフロントピラーと連続して凹状のラインが後方に向けリアウインドウの上辺の手前まで形成されている。
(2) イ号ないしハ号意匠の構成 イ号ないしハ号意匠が、車体側面のサイドライン(ドア上部の面違いハイライトライン)及びドア外板の形状(断面図に表われる形状)の点を除き、イ号意匠が別紙「被告主張イ号図面」、ロ号及びハ号意匠が別紙「被告主張ロ号、ハ号図面」のとおりであることは、当事者間に争いがない。
証拠(甲2、6、7、乙6の1ないし4)によれば、イ号ないしハ号意匠の上記相違点に関する部分は、別紙「被告主張イ号図面」及び別紙「被告主張ロ号、ハ号図面」記載のとおりであると認められる。なお、前掲証拠によれば、イ号ないしハ号物件の車体側面のサイドラインについては、車体側面が連続した滑らかな曲面をなしており、照明の反射により、別紙「原告主張イ号図面」及び別紙「原告主張ロ号、ハ号図面」の各右側面図に表されたドアの取っ手を横切るライン付近にハイライトラインを看取できることもあることが認められる(しかし、このハイライトラインをイ号ないしハ号意匠の構成として図面に記載するのは相当でない。)。
別紙「被告主張イ号図面」及び別紙「被告主張ロ号、ハ号図面」によれば、イ号ないしハ号意匠の構成は、次のとおりであると認められる。
(イ号意匠) ア 基本的構成 a 車体の四隅に車輪を配置した乗用自動車であって、車体前後長に対する前後車輪のホイールベース長の比率が大きく、前・後ホイールと車体前・後端との間のオーバーハング長の比率が小さく、かつ、車体について全長に対する全高の比率の大きい、いわゆる乗用軽自動車タイプである。
b 4ドア・ハードトップスタイル(センターピラーが存在しないか、又は存在しないように見えるタイプ)の3ボックス(横から見たとき、エンジンボックス、車室、トランクと3個の箱をつなげた形になるタイプ)セダンである。
c エンジンボックスは車体全長に対して相対的に短く、わずかに前下がりになったボンネットを有するショートノーズ形態であって、車室ボックスはルーフ部を後方に伸ばしつつリアウインドウ部が後ろ下がりに傾斜する形態を有し、トランクボックスは車体全長に対して比較的短く(車体全長を1としてトランクボックスの長さは0.068)、リアウインドウ部の下端部より後方にサイドウインドウ下辺のラインの延長線上で車高に対して比較的高い位置に短いリアデッキ(トランクリッドの上面)を設けたハイデッキ形態を有している。
d 全長と全高と全幅の各長さの比は、約72対30対31である。
イ 前方の意匠(フロントビューデザイン)の構成 a エンジンボックスは、若干前下がりとなるショートノーズ形態のボンネットを有している。
b ボンネットは、前端で下方に曲がっており、その中央寄り左右に後方側に向けて大きく広がる略V字状のプレスラインが、フロントウインドウ下端部からラジエターグリルの上部まで達している。
c プレスラインを挾んで左右両側に各々1つの大きな丸型ヘッドランプが設けられ、この丸型ヘッドランプの後方のボンネットとフロントフェンダー上方の側部とから、丸型ヘッドランプの丸型形状の円弧面が連続して形成されている 。
d フロントバンパーは、高さ方向の幅を大きくして厚みを持たせ、その中央部に横長の比較的大きいロアー・グリル(エアダクト)が設けられ、その左右に横長のフロントウィンカーランプが設けられている 。
e ボンネットの前端とフロントバンパーとの間の前面中央に、四隅に丸みを持った逆台形状の大きなラジエターグリルが設けられている 。
ウ 側方の意匠(サイドビューデザイン)の構成 a 左右2つ宛計4つの窓ガラスにサッシュのない扉が配設されたハードトップスタイルの4ドアタイプであり、側方に表われるエンジンボックス、車室ボックス及びトランクボックスの形状は、前記基本的構成cに示すとおりである。
b 車体側面の扉下方部には、前後のバンパーの上端を結ぶラインが内方へ凹む弧面に形成され、この扉下方のラインとサイドウインドウ下辺との間は、前面の丸型ヘッドランプの後方に形成された弧面の延長として外方へ膨らむ滑らかな弧面となっている 。
c 車体側面にリアランプの一部が表われることはなく、フロントフェンダーの前扉寄りにサイドターンランプが設けられている。
d フロントピラーからリアピラーまで継ぎ目のない、なだらかな曲線ないし円弧状の連続的なピラーとし、車内にセンターピラーが設けられている。
エ 後方の意匠(リアビューデザイン)の構成 a 前記基本的構成cに示したとおり、トランクボックスは、リアウインドウ部の下端辺より後方にサイドウインドウ下辺ラインの延長線上で車高に対して比較的高い位置に短いリアデッキ(トランクリッドの上面)が設けられ、その後端部が後方に若干傾斜して下方に折り曲げられている。
b サイドビューに表われているサイドウインドウ下辺のライン及び前記扉下方部のラインは、いずれも後端部で途切れていてリアに連続しておらず、扉下方のラインとサイドウインドウ下辺との間に形成された弧面は、リア部後端面で垂直に切り落され、丸みを帯びた三角形状のフラットな面となっており、その面に上が小さく下が大きい2つの丸型リアランプが左右対称に配置されており、また、トランクリッドの開口端はリアバンパーに食い込む位置まで垂下し、かつ、トランクリッドの後面中央に大きな方形の凹みが形成されている 。
c リアバンパーは、高さ方向の幅を大きくして厚みを持たせ、かつ、その上端辺の高さ位置を比較的高くし、また、下端辺は左右両側がわずかに垂れ下がり、その間が逆U字状とされており、リアバンパーの左側にバックランプが設けられている 。
d ほぼ台形状で上端左右角部が丸みを持ったリアウインドウが下方に向け傾斜して設けられている。
オ 平面視の意匠の構成 ルーフの左右両端部にフロントピラーと連続して凹状のラインが後方に向けリアウインドウまで連続して形成されている。
(ロ号、ハ号意匠) ア 基本的構成 イ号意匠の基本的構成aないしdと同じ(ただし、ハ号意匠では、構成dの全長と全高と全幅の各長さの比が約72対29対31である。)。
イ 前方の意匠(フロントビューデザイン)の構成 a イ号意匠aと同じ。
b ボンネットは、前端で下方に曲がっており、その中央寄り左右に後方側に向けて大きく広がる略V字状のプレスラインが、フロントウインドウ下端部からラジエターグリルの上部まで達している。
c プレスラインを挾んで左右両側に各々1つの大きな丸型ヘッドランプと、その内側に各々1つの小さな丸型のフロントフォグランプが設けられ、丸型ヘッドランプの後方のボンネットとフロントフェンダー上方の側部とから、丸型ヘッドランプの丸型形状の円弧面が連続して形成されており、かつ、ボンネットの中央には、上方に膨出し前方に向けて偏平な開口部を有するエア吸入口が形成されている。
d イ号意匠dと同じ。
e イ号意匠eと同じ。
ウ 側方の意匠(サイドビューデザイン)の構成 イ号意匠のaないしdと同じ。
エ 後方の意匠(リアビューデザイン)の構成 a イ号意匠aと同じ。
b イ号意匠bと同じ。
c リアバンパーは、高さ方向の幅を大きくして厚みを持たせ、かつ、その上端辺の高さ位置を比較的高くし、また、下端辺は左右両側がわずかに垂れ下がり、その間が逆U字状とされており、リアバンパーには左右に長いエアーアウトレット風の凹みが設けられ、その左側にバックランプが設けられている 。
d ほぼ台形状で上端左右角部が丸みを持ったリアウインドウが下方に向け傾斜して設けられているとともに、このリアウインドウの上辺及び左右両側辺にわたって別体のリアスポイラーが装着されている 。
オ 平面視の意匠の構成 イ号意匠と同じ。
(3) 本件登録意匠の要部について 意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等も参酌して、取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。
そこで、本件登録意匠の要部を検討すると、本件登録意匠に係る物品である「乗用自動車」においては、取引者、需要者は、基本的構成上の特徴のほか、特に、前方及び側方のデザインに注意を惹きつけられるものであり(このことは、自動車のカタログ(乙6、7、9の1、10の1)においても、側方及び前方を見渡せる斜め前方から見たデザインを示す写真が、他の部分の写真に比べて比較的大きく、印象付けるように掲載されていることからも明らかである。)、また、自動車の実際の走行状況においては、後方のデザインは、前方や側方のデザインと同じように看者の目に触れることになる上、自動車を使用する者は、後方からトランクへの収納を行うなど、後方から車に接することも少なくなく、前記各カタログにも後方のデザインが掲載されていることが認められることからしても、後方のデザインについても看者の注意を惹く部分に含めるべきである。
原告は、本件登録意匠は、軽自動車として初めてハードトップスタイルの3ボックスセダンを実現したものであり、エンジンボックスを車体全長に対して相対的に短い前下がりのショートノーズ形態とし、車室ボックスを、ルーフ部を後方に伸ばしつつリアウインドウ部が後ろ下がりに傾斜する形態とし、トランクボックスを車高に対して比較的短い位置に短いリアデッキを設けたハイデッキ形態としたこと等に特徴がある旨主張する。
なるほど、軽自動車に限れば、原告が主張するような前下がりショートノーズのエンジンボックスとリアハイデッキ形態のハードトップスタイルの3ボックスセダンという基本的構成を備えた意匠は、本件登録意匠の出願前に公知であったという証拠はない。しかし、証拠(乙4、5、9の1)によれば、軽自動車に限定しなければ、自動車のデザイン雑誌「Car Styling」の1989年11月号にハードトップ、3ボックス、ショートノーズという特徴を備えた普通乗用自動車のモデル写真が掲載されているし、同誌の同年5月号に掲載されている著名なスポーツカー「アルファロメオ(Alfa Romeo)ES30」の写真とその開発経過を示すモデル写真には、原告が本件登録意匠の特徴として挙げる構成のうちショートノーズ形態を除く他の構成要素をほぼ備えた乗用自動車の意匠が示されていること、被告は、昭和40年代に、センターピラーのない2ドアハードトップの軽自動車「フェローMAXハードトップ」を製造販売していたことが認められる。また、本件証拠上認められる自動車の登録意匠(いずれも本件登録意匠より先願のもの)には、登録意匠番号第790602号、同第803465号、同第638644号、同第725041号、同第804374号、同第775957号(以上、甲14添付の意匠公報)、
同第887651号、同第889962号、同第913518号(以上、乙1の1添付の意匠公報)、同第889790号(乙7添付の意匠公報)があり、これらの意匠によれば、ドアの数(2ドアか4ドアか)、ヘッドランプ、リアランプ及びウインカーランプの形状及び設置位置、サイド及びボンネットのライン形状、ラジエターグリルの有無、バンパー形状等、さまざまなデザインがあり、それぞれの構成要素は、フロントビュー、サイドビュー、リアビューの各デザインを印象付ける重要な役割を果たしており、看者の注意を惹く構成部分であることがうかがわれる。
以上の事実に照らせば、原告主張のような本件登録意匠の全体的構成も、
看者の注意を惹く重要な要素であることは否定できないが、そこだけを要部として把握することは相当でなく、前方、側方及び後方から見た意匠の構成の具体的構成も無視できないものというべきである。
以上の観点からすれば、本件登録意匠の要部は次の構成に存するものと認めるのが相当である。
ア 全体的構成について a 車体の四隅に車輪を配置した乗用自動車であって、車体前後長に対する前後車輪のホイールベース長の比率が大きく、前・後ホイールと車体前・後端との間のオーバーハング長の比率が小さく、かつ、車体について全長に対する全高の比率の大きい、いわゆる乗用軽自動車タイプである。
b 2ドア・ハードトップスタイルの3ボックスセダンである。
c エンジンボックスは車体全長に対して相対的に短く、大きく前下がりになったボンネットを有するショートノーズ形態であって、車室ボックスはルーフ部を後方に伸ばしつつリアウインドウ部が後ろ下がりに傾斜する形態を有し、トランクボックスは車体全長に対して極めて短く、リアウインドウ部の下端部より後方にサイドウインドウ下辺のラインの延長線上で車高に対して比較的高い位置に極めて短いリアデッキを設けたハイデッキ形態を有している。
イ 前方の意匠(フロントビューデザイン)の構成 a エンジンボックスは、大きく前下がりとなるショートノーズ形態のボンネットを有している。
b ボンネットの中央寄り左右に後方側に向けてわずかに広がるプレスラインが、フロントウインドウ下端部からフロントバンパーの上部まで達している。
c プレスラインを挾んで左右両側に各々外側が大きく内側が小さい大小2つの丸型ヘッドランプと、その更に外側に左右1つずつのウインカーヘッドランプとがボンネットに設けられている。
d フロントバンパーの左右に、比較的大きい横長の長方形状のロアー・グリル(エアダクト)を有する。
e ラジエターグリルを有しない。
ウ 側方の意匠(サイドビューデザイン)の構成 a ハードトップスタイルの2ドアタイプであり、側方に表われるエンジンボックス、車室ボックス及びトランクボックスの形状は、前記基本的構成cに示すとおりである。
b 車体側面中央には、後方に向かって緩やかに上がっていく2本の幅広で平行なサイドラインが描かれており、このうちの上側のラインはドアの取っ手を横切っており、この2本のラインに挟まれた部分は内側へ一段落ちたフラットな帯状の凹みラインとなっており、この帯状部分を挟んでボディ側面全体は緩やかな凸面となっている。
エ 後方の意匠(リアビューデザイン)の構成 a 前記基本的構成cに示したとおり、トランクボックスは、リアウインドウ部の下端辺より後方にサイドウインドウ下辺ラインの延長線上で車高に対して比較的高い位置に短いリアデッキが設けられている。
b サイドビューに表われているサイドウインドウ下辺のライン及び前記帯状部分がそのまま連続してリアに回り込み、車体後部中央に帯状のフラットな凹み部分を形成し、該帯状部分の左右両端にほぼ方形状のリアランプが配設され、該帯状部分の下端辺は、リアバンパーの上端に近接してトランクリッドの開口端が形成されている。
(4) 本件登録意匠とイ号ないしハ号意匠との類否 イ号ないしハ号意匠の構成は先に認定したとおりであり、それぞれ下線を付した部分が本件登録意匠と相違する部分である。そして、本件登録意匠の構成とイ号ないしハ号意匠の構成とを対比すると、基本的構成においてはほとんど一致しているといえるが、前方、側方及び後方の意匠の構成においては、共通点もあるが、相違点も多く存在し、これらの相違点のかなりの部分は、本件登録意匠の要部にかかわるものである。
本件登録意匠の要部とイ号ないしハ号意匠との相違点を挙示すると、次のようである。
a 全体的構成について、ドア数以外の構成はほぼ同じであるが、2ドアと4ドアと異なる。
b 前方の意匠(フロントビューデザイン)について、ボンネットの前下がりの程度、ボンネット上のプレスラインの形状、ラジエターグリルの有無、フロントバンパーのロアー・グリル(エアダクト)が左右か中央か、フロントウインカーランプの位置等についての差異がある。
c 側方の意匠(サイドビューデザイン)について、ドア数の違いのほか、
サイドラインの形状、車室ボックスの後方へ伸びる程度等の差異がある。
d 後方の意匠(リアビューデザイン)について、サイドラインのリアへの連続性の有無、リアランプの形状及び数、トランクリッドの開口端の位置等についての差異がある。
e イ号意匠については、フロントランプの数が左右1つ宛か2つ宛かとの差異も存する。
上記相違点のうちa、cのドア数の点は、同一シリーズの乗用自動車において2ドアと4ドアの両タイプを製造販売することがあることからみても、意匠の上ではさほど重視すべき相違点ではないとも考えられる。しかし、本件登録意匠の要素に係るその余の差異部分は、いずれもフロントビューデザイン、サイドビューデザイン、リアビューデザインを印象づける重要な要素であって、イ号ないしハ号意匠は、意匠の要部において、本件登録意匠とは多くの点で顕著に異なっている。
したがって、イ号ないしハ号意匠と本件登録意匠とは、基本的構成の類似点等を考慮しても、全体として美感を異にするというべきであり、イ号ないしハ号意匠が本件登録意匠に類似するものとは認められない。
(5) 以上によれば、原告の本件意匠権侵害に基づく請求は理由がない。
2 争点(2)について (1) 原告が、平成元年から平成3年にかけて被告から東京モーターショーへ出展するためのコンセプトカー「ダンボ」、「シャレード4WW」、「ダンボ2」及び「パーソナルクーペ」のデザインと制作を請け負ったこと、原告が、平成4年5月ころ【C】から台車の提供を受け、平成5年11月初めころまでに、同台車を利用して試作車「X8-C」を完成したことは、前記第2、1、(3)、(4)記載のとおりである。これらの事実と証拠(甲3〜5、8の1〜6、9の1〜6、10〜15、乙7、8の1、2、証人【C】、原告代表者本人、弁論の全趣旨)を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 【C】は、昭和60年から平成3年10月まで被告デザイン部長の地位にあり、その後デザイン部主査を経て、平成4年3月から平成8年8月に他定年退職するまでの間、PP(プロダクトプランニング)センターに所属し、モーターショーの総括担当主査の地位にあり、上記の「パーソナルクーペ」のモーターショーへの出展には直接関与した。原告は、上記4台のコンセプトカーをいずれも被告から提供を受けた台車(中古の自動車)を用いて制作した。そのうち、「ダンボ」及び「シャレード4WW」のデザインと制作を請け負うに際しては、原告と被告の間で契約書を取り交わすことなく、仕事にとりかかった後に、被告に対し、見積書や請求書を提出し、それに基づいて代金の支払を受けたが、その後に請け負った「ダンボ2」のデザインと制作については、制作途中の段階までに、開発委託の内容、
委託費等を定めた「車両開発委託契約書」(乙8の1)及び機密保持を定めた「機密保持契約書」(乙8の2)を原告と被告商品開発本部との間で取り交わし、「パーソナルクーペ」のデザインと制作についても、機密保持条項を含む業務委託契約書(甲15)を取り交わしており、後者の契約書にはPPセンター主査【C】の記名押印がある。
イ 原告代表者は、新しいコンセプトの軽自動車の開発を提案することを企画し、平成4年4月21日、「超高級ワールドミニ企画[超安全ミニ]」と題し、足まわり、駆動系、エンジン系、室内及びボディの安全性、機能等に関する仕様の概略を記載した軽自動車サイズの高級ミニカーの企画書(甲3)を作成して、そのころ、【C】に対し、これを示して試作車制作のための台車の提供を願い出た。
【C】は、同年5月、右申出に応じて、原告に対し、廃車予定の被告の台車(中古車)を手配して、試作車制作のための提供した。
ウ 原告代表者は、同年10月13日、「新しいパッケージバランスによる『コンパクトミニ』オリジナル軽自動車のご提案」なる企画書(甲4)を作成し、
これを【C】に提示した。同企画書は、高性能化する軽自動車に対する近い将来の動向を示唆した新しいバランス感覚の軽自動車を原告において開発したとして、量産車の時期モデルの参考及び平成5年年秋に予定されているモーターショーの参考出品車として、検討し採用してほしいという趣旨のものであった。
同企画書には、提案事項として「1.長さ、幅、高さによる新しいバランスの提案」「2.高性能、超軽量、15インチ、タイヤ・ホイールの装着」「3.新ノッチバックスタイルと従来にない室内広さの確保」「4.CI、DIを考慮した新フロントフェイスの提案」が記載され、仕様について具体的に記載されるなど、先の企画書(甲3)の内容を更に進めたものであった。
エ 原告代表者は、平成4年10月30日、当該試作車に採用する意匠、すなわち本件登録意匠について意匠登録出願し、そのころから具体的な制作にとりかかり、外注費と材料費で3000万円程度の費用をかけて、平成5年11月初めころ「X8-C」と命名した試作車を完成させた。
オ X8-Cは、本件登録意匠に示された特徴、すなわち、全体に腰高で、
高いリアデッキを持ち、ハードトップであるセダンであるなどの外装デザインの特徴ほか、次のような構造的な特徴及び内装デザインの特徴を備えている。
(ア) ルーフとピラーの構成について、フロントピラーを太くし、フロントピラー・センターピラー・リアピラーとルーフとの左右両端部を一体でプレス成型し、ハードトップとしての強度をアップしたこと。
(イ) ドアのプレスラインの工夫と補強剤により、剛性感の高いドアの締まり具合を実現したこと。
(ウ) フロントバンパー及びリアバンパーを共に大きな一体型バンパーとしたこと。
(エ) 内装に2トーンのファブリックを採用したこと。
カ 原告代表者は、平成5年11月8日、【C】に対し、X8-Cの開発が終わったことを告げ、「見て良かったら採用して欲しい。」などと述べたことから、【C】は、X8-Cを見てみることとし、X8-Cを持ち出すことは機密保持上問題があったため、その数日後、【兵庫県<以下略>】にある原告の工場に赴いた。
そして、原告代表者は、【C】に対し、X8-Cを見せてその特徴を説明したところ、【C】は、X8-Cのデザイン等の良さを評価し、被告社内の他の者にも見てもらうこととした。
キ そして、平成6年1月8日、【C】と被告の【D】取締役が原告工場を訪れたことから、原告代表者は、X8-Cを見せるとともに、他車との比較をしたり、X8-Cと過去の被告車両との比較バランス表(甲5)を見せたりしながらその特徴を説明したところ、【D】取締役らは、X8-Cの座席にすわって居住空間、視界、ステアリング操作等の確認をしたり、ドアやトランクを開閉したりするなどした上、そのデザイン等の良さを評価して賛辞を述べ、さらに被告の他の者にも見てもらうこととなった。
その後、同年1月31日に【C】、【D】取締役ほか数名が、同年3月10日に【E】専務取締役、【F】次長、【G】課長、【H】係長らが、同年5月28日に【I】専務取締役、【J】取締役製品企画部長らが、それぞれ上記原告工場を訪れ、原告代表者は、被告の取締役や社員らに、上記のように、X8-Cを見せてその特徴を説明したところ、被告の取締役や社員らは、上記のようにX8-Cの居住性等を確認した上、そのデザイン等の良さを評価して賛辞を述べるなどした。
ク 原告代表者は、上記経緯において、被告との間でX8-Cを採用する旨の合意が成立したと思い、【C】に対し、正式契約の締結を催促したところ、平成6年12月初めころ、【C】から、被告では市販量産車について社外のデザインを採用した例がなく今回も採用できない旨の返答を得たため、【C】に対し、再度、
同返答の理由を問い質す趣旨の手紙を送付したものの、結局、被告は、X8-Cを採用するには至らなかった。
上記事実が認められる。証人【C】は、【C】が「超高級ワールドミニ企画[超安全ミニ]」と題する企画書や「新しいパッケージバランスによる『コンパクトミニ』オリジナル軽自動車のご提案」と題する企画書をいずれも受け取っていないと供述するが、「新しいパッケージバランスによる『コンパクトミニ』オリジナル軽自動車のご提案」と題する企画書(甲4)の宛名は【C】であって、しかも当時、【C】がモーターショーを担当していたことからしても、これを【C】に提示しなかったとはにわかに考え難く、同証人の証言は、ほぼ同趣旨の書面である「超高級ワールドミニ企画[超安全ミニ]」と題する企画書に関する供述部分も含め採用できず、その他、乙7(【C】の陳述書)及び証人【C】の証言中、前記認定に反する部分は採用できない。また、原告が、被告の取締役や社員らがX8-Cを見た際に述べたと主張する具体的な発言内容については、前記認定の限度において認められ、甲14(原告代表者の陳述書)及び原告代表者の供述中、前記認定を超える具体的発言内容については採用できない。
(2)ア 原告は、@平成6年5月28日ころまでに、被告がX8-Cの内外装のデザイン及び構成を採用する場合は、原告との間で上記デザイン等の使用権について実施許諾又は譲渡契約を正式に締結することとし、被告は正式契約の申込みの権利を有し、原告は他社に持ち込まないことを内容とする合意(予約契約)が原告と被告の間で成立した、A仮に、上記予約契約が成立していないとしても、被告は、
契約締結に向けて原告と緊密な信頼関係に入ったのであるから、原告によって開示されたX8-Cの技術的特徴を原告の承諾なしに利用しないという信義則上の義務を負ったというべきであると主張する。
イ まず、予約契約の成立について検討する。
前記認定の事実関係によれば、原告は新しいコンセプトの軽自動車の開発を提案することを企画し、2度にわたり企画書を作成して【C】に提示し、試作車制作のため、【C】から被告の台車(中古車)の提供を受けた上で、試作車の制作にとりかかり、相当の時間と費用を要してX8-Cを完成させたものであり、また、被告の取締役や社員らは数度にわたって原告工場を訪れX8-Cを実見して原告代表者の説明を受け、賛辞を呈するなどしたものであり、これらの経緯からすれば、原告代表者において、被告がX8-Cを量産車に採用する方向で検討してくれるものと期待するのも無理からぬ状況にあったとはいえる。
しかし、原告とX8-Cに関して主として折衝した【C】は、当時モーターショーの担当主査の地位にあって、量産車の開発の責任者といった立場にはなかったものであるし、被告の取締役や社員らが原告工場でX8-Cを見た際に、そのデザイン等を評価し、賛辞を述べたにしても、被告においてX8-Cの内外装のデザインや構成を採用したいとの趣旨の発言があったとまでは認められない。さらに、X8-Cに先立ち原告が制作してモーターショーに出展されたコンセプトカーの「ダンボ2」及び「パーソナルクーペ」の契約の際には、少なくとも制作途中の段階において契約書が取り交わされているのに対し、X8-Cに関しては契約書等は全く取り交わされていない。X8-Cのように、金額が数千万円ないし1億円を超えるような試作車の制作ないしそのデザイン・構成の採用という、会社の業務上の極めて重要であって、しかも多額の出費につながる事項について会社間で合意をする際には、契約書を締結するのが通常であると考えられる。また、「ダンボ2」及び「パーソナルクーペ」の制作に関しては機密保持の約定も契約書に盛り込まれていることからもうかがわれるように、開発する自動車のデザインの使用権について、将来実施許諾や譲渡契約の正式締結を予定するのであれば、秘密保持について合意するのが当然と考えられるが、X8-Cについては、そのような合意がなされた事実はうかがわれず、かえって、原告は意匠登録出願を行い、平成6年3月14日には登録になり、同年5月28日には意匠公報も発行されているのである(別紙意匠公報)。
上記のような事情を考慮すると、X8-Cの内外装のデザイン及び構成の採用する場合に、デザイン等の使用権について実施許諾又は譲渡契約を将来正式に締結するとの拘束を生じさせるような予約契約の合意が原告と被告の間で成立したものと認めるには足りないというべきである。
ウ 次に、信義則上の義務について検討するに、前記認定の事実によれば、
被告の取締役や社員らは、原告が開発したX8-Cを被告の量産車として採用してもらいたいという原告の意向を受けて、数度にわたり原告工場に赴き、被告以外の他社には開示されていなかったX8-Cを見て説明を受けるという関係にあったのであるから、原告が主張するように、被告は、その製造販売する量産車にX8-Cの技術的特徴を原告の許諾を得ることなく利用しないという信義則上の義務を負うに至ったものと解する余地がある。
しかし、前記のように、原告・被告間で具体的な合意が認められない以上、上記のような信義則上の義務が生じるとしても、それは、デザインについては、意匠権の侵害となる程度の類似性を有するデザインを採用する場合、その他の構成については、原告から開示を受けなければ被告が実施できなかったような新規な構成を採用する場合に限られるものというべきである。
しかるところ、原告が平成10年11月30日ころから製造販売を開始した軽自動車の「オプティ」シリーズに属するイ号ないしハ号物件の外装デザインは、本件登録意匠とほぼ同じであるから(甲9の1ないし5)、本件登録意匠とイ号ないしハ号意匠との類否として既に検討したように、全体としてX8-Cのデザインと類似するものではない。
さらに、原告がX8-Cの特徴として主張する外装デザイン以外の構造的な要素及び内装デザインの要素を含む前記(1)、オ記載の各構成(争点(2)に関する原告の主張(2)のエ、カ、キ及びケ各記載の構成要素)について、甲14(原告代表者の陳述書)には、従来の軽自動車では採用されていなかった旨の記載があるが、そうした構成が普通自動車には採用されていたが軽自動車の採用がなかったものであるとしても、ルーフとピラー、ドアのプレスライン、一体型バンパー、内装に使われるファブリックの種類等のボディや内装の構成について、軽自動車で従来採用されていなかったというだけで、直ちに原告から開示を受けなければ被告が実施できなかったような新規な構成であるとすることはできない。その他、原告主張の構成が原告から開示を受けなければ被告が実施できなかったような新規な構成であることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告に信義則上の義務違反があったとも認められない。
(3) 以上によれば、原告の予約契約違反ないし信義則上の義務違反に基づく請求は理由がない。
3 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
追加
別紙被告主張イ号図面別紙被告主張ロ号、ハ号図面別紙原告主張イ号図面別紙原告主張ロ号、ハ号図面別紙本件登録意匠とイ号意匠との対比表(原告主張)別紙本件登録意匠とロ号意匠との対比表(原告主張)別紙本件登録意匠とイ号意匠との対比表(被告主張)別紙本件登録意匠とロ号、ハ号意匠との対比表(被告主張)別紙本件登録意匠の腰部とイ号意匠との対比表(被告主張)別紙本件登録意匠の腰部とロ号、ハ号意匠との対比表(被告主張)
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝
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