関連審決 | 審判1997-20428 |
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関連ワード | 意匠の創作 / 物品 / 形状 / 意匠に係る物品 / 一意匠一出願(7条) / 新規性 / 3条1項3号 / 頒布された刊行物 / 記載された意匠 / 意匠の類似 / 意匠の類否 / 全体観察 / 登録意匠 / 類似性(類否判断) / |
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事件 |
平成
10年
(行ケ)
303号
審決取消請求事件
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原告 株式会社神戸珠数店代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁理士 【B】 同 【C】 被告 有限会社ヤマダ代表者取締役 【D】 訴訟代理人弁護士 木内道祥 同 谷池洋 同弁理士 【E】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2000/01/18 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が平成9年審判第20428号事件について平成10年8月19日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨2 被告 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、意匠に係る物品を「根付け」とし、その形態を別紙のとおりとする、登録第713925号意匠(昭和60年4月30日登録出願、昭和62年6月26日設定登録。以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。 原告は、平成9年12月1日、本件意匠の登録無効の審判を請求し、特許庁は、 平成9年審判第20428号事件として、これを審理した結果、平成10年8月19日に、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決をし、同月27日、その謄本を原告に送達した。 2 審決の理由 審決の理由は、別添審決書の理由の写しのとおりである。要するに、本件意匠は、仮に請求人(原告)提出の各証拠によって周知の形状が認められるとしても、 それに基づいて容易に創作をすることができたものではないから、意匠法3条2項に規定する意匠に該当せず、また、請求人(原告)提出の本件意匠の登録出願前に頒布された刊行物に記載された意匠に類似してもいないから、意匠法3条1項3号にも該当せず、その登録を無効とすることはできない、とするものである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、第1(請求人の申立て及び理由)、第2(被請求人の答弁の趣旨及び理由)は認め、第3(当審の判断)は、一部認める部分もあるが、全体としては争う。 審決は、本件意匠につき、創作の容易性の認定判断を誤り、また、新規性についての認定判断を誤り、その結果、意匠法3条2項にも3条1項3号にも該当しないと判断したものであり、違法であるから、取り消されるべきである。 1 取消事由1(意匠法3条2項該当性判断の誤り) 本件意匠が、細紐による小さな輪を結び玉を介して形成し、その結び玉から3本の細紐を垂らし、結び玉の下部に若干の余地を残したうえ、そのうちの2本にそれぞれ5個の丸玉(弟子玉)とその下に1個の瓶型玉を通し、他の1本には10個の丸玉を通し、それらの玉の下部に、瓶型玉を通した2本には瓶型玉から頂部までとほぼ等しい長さの太紐を垂らし、他の1本にはごく短い太紐を垂らし、それら太紐の先端に、丸玉の約2倍の径で結び紐状の大丸玉の態様の小田巻きを吊した構成態様のものであることは、審決も認めるとおりである。 (1) 周知意匠の認定の誤り 審決は、本件意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた部分の形状及び先端の小田巻き部の形状のいずれについても、その出願前に周知であったと認定しなかったが、誤っている。 甲第5号証(昭和59年8月20日株式会社井筒発行発行の「授与品 昭和59年・カタログ」193頁)に掲載されている(A)の数珠、甲第6号証(平成2年6月15日東京美術発行の「東京国立博物館図版目録 仏具篇」101頁)に掲載されている(302)の数珠、甲第7号証(昭和47年頃株式会社翠雲堂発行の「翠雲堂年報 昭和47年度 第19号」45頁)に掲載されている134の数珠をよくみれば、本件意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた部分の形状が、本件意匠の出願前に周知であったことを認定することができる。これらの証拠が不鮮明だとか、立証趣旨が不明だとかを理由とし、これを確認せずに周知性を認めなかったのは、不当である。 甲第14号証(昭和57年1月1日株式会社安藤発行の「安藤商報 第436号」103頁)、甲第22号証(大本山百萬遍知恩寺において昭和55年善導大師1300年御遠忌記念に製作された「百萬遍数珠」の写真及び同数珠の由来の説明文)から、房の先端を小田巻きとする数珠が存在したことが認められ、甲第3号証の1ないし12(株式会社やまぐちの「56年度下半期製造指図書」等)、甲第12号証(昭和58年9月20日発行の意匠公報)、甲第20号証(1999年2月10日日本放送出版協会発行の「NHK婦人百科 やさしい飾り結び」)によれば、従前から、小田巻きを先端にした根付けが存在していたことが認められるので、本件意匠の先端の小田巻き部の形状は、数珠のものとしても根付けのものとしても、本件意匠の登録出願前に周知であったことが明らかである。 (2) 創作性についての判断の誤り 審決は、創作性についての判断において、数珠の房部を根付けとすることの容易性と、数珠の房型の根付けの先端部を小田巻きにすることの容易性に区分して、前者については、請求人(原告)が、本件意匠の登録出願前に、数珠の房部を根付けに応用したような例があったことを立証しておらず、また、職権調査によっても数珠の房部を根付けとした例を発見することができなかったとして、これを根拠に、 数珠の房部を根付けとした着想は、いわば「コロンブスの卵」とも考えられるから、一定の創作力を要するものであって、当業者において容易な創作ではないと判断し、後者については、本件意匠が数珠の房部の形状を応用していることに関して、数珠の房部の形状は伝統的にかなり様式化され、その改変には宗教的制約もあろうと考えられることからすれば、その房部に係る創作は比較的自由度が少なく、 房部の先端を元来の普通の房や鉱物製の玉のもの等しかなかったところにおいて、 小田巻きにした着想は、単なる交換や組み合わせとはいい切れず、たとい兼業者であっても一定の創作力を要するものであると認められると判断し、本件意匠が容易に創作し得たことを否定した。しかし、これらの審決の判断は、次のとおり、すべて誤っている。 (イ) 数珠と装身具とをともに業の対象とする者にとって、周知の小田巻きの根付けを出発点として、これに数珠の房部に見られるような形状を適宜組み合わせることによって本件意匠に至ることは、日常的になしている商業的変形にすぎず、何の創作性をも必要としない。 審決は、数珠の房部を根付けとした着想は、いわば「コロンブスの卵」であるとしているが、本件意匠は、根付けに係るものであるから、数珠の房部を創作性判断の出発点とすべき必然性は全くない。審決が、数珠の房に関連づけて本件意匠の創作性を判断したのは、不当である。 (ロ) 審決は、請求人(原告)が、本件意匠の登録出願前に、数珠の房部を根付けに応用したような例があったことを立証しておらず、また、職権調査によっても数珠の房部を根付けとした例を発見することができなかったとして、これを根拠に、 数珠の房部を根付けとした着想に創作性があると判断している。 しかし、数珠の房部を根付けとした例が見当たらないとしても、そのことが直ちにそのような根付けの意匠の創作困難性に結び付くものではない。なぜなら、数珠の房部に用いられるものは、宗教界の影響が強かった時代の名残で、荘厳性に反するような用途に転用することを憚り、近年に至るまで、装身具的用途に転用することを差し控えてきたという事情があり、また、各宗派用の数珠は、種々ある房部と組み合わせて、日常的変形によって、多数の形状の製品が作られてきたものの、そのうちで、現実に流通するのは需要者の趣向に合致したわずかな製品のみであり、 その他の多くは、カタログ等に掲載されることもなく、市場から姿を消していくのが業界の実情であるという事情もあるからである。 (ハ) ひも状の物体において、その末端をほつれないように止めることは、日常的になされることであり、装飾性を加味するため、組み紐、飾り結び又は数珠の房のように金具、撚り房様、切房様又は梵天、小田巻き様の飾りを付する方法で止めることも業者の技術的常識の範囲であって、これら公知のいずれの形態のものを使用するかは、需要供給の関係に支配される日常的商業的変形の一種である。本件意匠において、小田巻きを先端部とすることは、前述のとおり、数珠又は根付けによって周知のものの転用にすぎず、なんらの創意工夫はなく、業者の日常的な技術的活動の範囲内の事柄である。 2 取消事由2(意匠法3条1項3号該当性判断の誤り) 本件意匠及び類似意匠をみると、いずれも輪、結び、弟子玉の数及び配列、瓶型玉、先端部は、ほぼ同一の構成で、その先端部が小田巻きとなっている形状であるが、瓶型玉、弟子玉、紐の形状又は色彩を異にしている。意匠の要部とは、全体形状として共通し、かつ、一見して特徴を示す部分であるから、本件意匠の要部は、 先端の小田巻き部である。 そうすると、本件意匠の要部は、公知の刊行物である第3号証の1ないし12又は甲第12号証の根付けの小田巻き状をなす部分と類似しているから、本件意匠には新規牲がなく、意匠としての創作性はないものである。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(意匠法3条2項該当性判断の誤り)について(1) 周知意匠の認定の誤りについて 原告は、甲第6号証、甲第7号証に掲載の数珠から、本件意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた部分の形状の周知性を認定できると主張するが、これらの書証は、いずれも不鮮明であり、審決の認定を覆すに足りない。 (2) 創作性についての判断の誤りについて)(イ) 原告は、数珠と装身具とをともに業の対象とする者にとっては、周知の小田巻き根付けを出発点として、これに数珠の房部に見られるような形状を適宜組み合わせることによって本件意匠に至ることは、日常的になしている商業的変更の範囲に属するものにすぎず、何らの創作性をも必要としない旨主張する。 しかし、原告は、公知の小田巻き根付けから本件意匠の根付けに想到し得るとする根拠を何ら示していない。従来、根付けを製造販売する当業者は、同様に数珠の製造販売をする者であっても、根付けに数珠の房部に見られる編目、結び等を適宜組み入れるようなことは行っていなかったのであり、そうであれば、公知の小田巻き根付けから本件意匠の根付けに想到することも容易ではないはずである。したがって、本件意匠は、数珠又は根付けの単なる商業的変形によるものではなく、審決で示されたとおり、数珠の房部を根付けとした着想や先端を小田巻きとした着想に創作力が認められ、容易に創作できたものでないことは明らかである。 原告は、本件意匠は、根付けであるから、数珠の房部を創作性判断の出発点とすべき必然性は全くない旨主張する。しかし、原告は、根付けを出発点として本件意匠に想到する可能性について、全く根拠を示していないから、本件意匠が容易に創作できたということはできない。 (ロ) 原告は、数珠の房部を模した根付けがなかったのは、宗教上の理由であって創作の容易性とは関係がないなどと主張する。しかし、いかなる理由があるにせよ、数珠の房部を根付けとしたものが存在しなかったことは事実であり、それ自体が、数珠の房部を根付けとすることの非容易性を示している。原告は単に数珠や根付けの例を示すのみで、数珠の房部を根付けとすることが容易であることを証明する証拠を全く示していない。 (ハ) 原告は、紐を使用する物品において、その末端部がほつれないように止めることは、日常的になされることであるとし、本件意匠において、小田巻きを根付けの先端部としたことは、単に紐部分の先端を止める手段としてごくありふれた小田巻きを付けたにすぎず、なんらの創意工夫に値しないと主張する。しかし、原告の主張は、紐の末端部を止める方法として小田巻きを付することが公知であり、創意工夫を要しないといっているにすきず、数珠の房型の根付けの先端部を小田巻きにすることの非容易性に対する反論とはなっていない。 2 取消事由2(意匠法3条1項3号該当性判断の誤り)について 原告は、意匠の要部とは、全体形状として類似意匠と共通し、かつ、一見して特徴を示す部分であるから、本件意匠の要部は、先端の小田巻き部であって、公知の刊行物である第3号証の1ないし12又は甲第12号証の根付けの小田巻き状をなす部分と類似するから新規性はない旨主張する。しかし、意匠の類否判断は、全体観察をもってすべきものであり、しかも、本件意匠と類似意匠とは、先端の小田巻き以外にも、紐や玉の形態が共通していることが明らかであるから、先端の小田巻きのみを要部として類否判断を行い、本件意匠が、公知の刊行物である第3号証1ないし12又は甲第12号証の根付けの小田巻き状をなす部分に類似するという主張は、全く不当である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(意匠法3条2項該当性判断の誤り)について(1) 本件意匠が、細紐による小さな輪を結び玉を介して形成し、その結び玉から3本の細紐を垂らし、結び玉の下部に若干の余地を写したうえ、そのうちの2本にそれぞれ5個の丸玉(弟子玉)とその下に1個の瓶型玉を通し、他の1本には10個の丸玉を通し、それらの玉の下部に、瓶型玉を通した2本には瓶型玉から頂部までとほぼ等しい長さの太紐を垂らし、他の1本にはごく短い太紐を垂らし、それら太紐の先端に、丸玉の約2倍の径で結び紐状の大丸玉の態様の小田巻きを吊した構成態様のものであることは、甲第1号証及び弁論の全趣旨で明らかであり、審決も認めるところである。 (2) 周知意匠の認定の誤りについて(イ) 本件意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた部分の形状の周知性 甲第5号証(昭和59年株式会社井筒発行の「授与品昭和59年・カタログ」)及び弁論の全趣旨によれば、「授与品 昭和59年・カタログ」の193頁の(A)の数珠は、多数個の小玉と2個の親玉とを、中通し紐を使用して環状に連結して数珠を形成し、この数珠の親玉のうちの1個には、その親玉から3本の細紐を垂らし、親玉の下部に若干の余地を残したうえ、そのうちの2本にそれぞれ6個の丸玉(弟子玉)とその下に1個の瓶型玉を通し、他の1本には10個の丸玉を通し、それらの玉の下部に、瓶型玉を通した2本には瓶型玉から頂部までとほぼ等しい長さの太紐を垂らし、他の1本にはごく短い太紐を垂らし、それら太紐の先端に、丸玉の約3倍の径で丸玉の態様の梵天房を吊した構成態様のものであることが認められる。 上記事実に、甲第6号証(平成2年6月15日東京美術発行の「東京国立博物館図版目録 仏具篇」101頁)に掲載されている明治時代作成の(302)の数珠の形状をも考慮すると、本件意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた部分の形状は、その出願前に周知となっていたものと認められる。 (ロ) 先端小田巻き部の形状の周知性 甲第3号証の1ないし12(株式会社やまぐちの「56年度下半期製造指図書」等)、甲第12号証(昭和58年9月20日発行の意匠公報)によれば、遅くとも本件意匠の登録出願当時には、根付けの先端を小田巻きとした形状が広く知られていたことが認められる。 また、甲第22号証(大本山百萬遍知恩寺において昭和55年善導大師1300年御遠忌記念に製作された数珠の写真及び数珠の由来の説明文)及び弁論の全趣旨によれば、知恩寺では、昭和20年と同55年に巨大な数珠を製作し、これらをいずれも堂内の天井から吊り下げて参拝者が見ることができるようにしていること、 これらの房部の先端は小田巻きとなっていることが認められ、甲第14号証(昭和57年1月1日株式会社安藤発行の「安藤商報 第436号」103頁)によれば、昭和57年ころには、房部の先端が小田巻き状となった数珠がカタログに掲載され、かつ、販売されていたことが認められ、これらの事実によれば、遅くとも本件意匠の登録出願当時には、数珠の房部の先端を小田巻きとした形状が広く知られていたことが認められ、したがって、小田巻き使用することは、根付けについても数珠の房部の先端についても、本件意匠の登録出願前に周知の事実であったものということができる。 (3) 創作性についての判断の誤り(イ) 前記認定のとおり、本件意匠の四つ目ひも房部の形状は、数珠のものとしては、その登録出願前に周知となっていたものであり、また、小田巻きを根付けにも数珠の房部の先端にも使用することも、本件意匠の登録出願前に周知の事実となっていたものであるから、根付けと数珠の房部はともに飾りとしての共通の性質を有することをも併せ考えるときは、これらを組み合わせて、本件意匠の形状に想到することは、それを妨げる特別な事情が認められない限り、当業者にとって容易であったことが明らかなものと判断すべきである。 (ロ) この点について、審決は、原告が、本件意匠の出願前に、数珠の房部を根付けに応用したような例があったことを立証しておらず、また、職権調査によっても数珠の房部を根付けとした例を発見することができなかったとして、これを根拠に、数珠の房部を根付けとした着想は、いわば「コロンブスの卵」とも考えられるから、一定の創作力を要するものであって、当業者において容易な創作ではないと判断している。 確かに、数珠の房部を根付けにした例が現実に見当たらないとの事実は、それ自体、数珠の房部を根付けとする意匠的発想自体の非容易性を認定するための一つの相当に有力な根拠になり得るものである。しかしながら、その例が現実に見当たらないことの原因としては、それに至る意匠的発想の非容易性しかあり得ないわけではなく、それ以外に、社会的、経済的要因なども考えられるところであるから、例が見当たらないとの事実を決定的なものとして過大視することは許されないものというべきである。 他方、弁論の全趣旨によれば、本件意匠の登録出願当時、数珠と根付けをともに業として扱う者は、被告を含めて数多く存在していたことが明らかであり、このこと自体、数珠と根付けとの間に商品としての密接な関連が存在することを物語るものであり、このような業者は、根付けにせよ数珠にせよ、その形状を細部にわたって熟知していたものと認められる。そのことは、さらに、純粋に意匠的観点からみるときは、数珠を根付けに、あるいは、根付けを数珠に応用することを極めて容易にするものというべきである。特に根付けに限っていえば、根付けが、数珠と異なり、宗教的儀式に用いられるものではなく、煙草入れ、巾着などの紐の先端に付け、これらを帯に挟んだ際の滑り止めなどとするものであることは、当裁判所に顕著であり、したがって、その形状の選択に当たって、数珠のような宗教的制約を受けにくいことは自明である。 しかも、前記認定のとおり、先端小田巻きの形状が数珠にも根付けにも応用され、また、外形的にみると、数珠の房部も根付けも下げ飾りとしての機能を併せ持っているといい得るものであるから、本件意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた部分について、数珠の房部の形状を根付けに利用するという意匠的着想を困難ならしめる事情は見出せない。 特に、甲第1号証及び乙第1号証ないし第3号証によれば、@被告は、平成6年3月8日に本件意匠の類似意匠の登録出願をするに際し、当該意匠に係る物品を「装飾用下げ飾り」とし、その説明において、「この物品は、ネックレス、ペンダント、数珠、その他装身具に取り付けて用いるさげ飾りである。」と記載していること、A被告は、平成8年、意匠に係る物品を「根付け」あるいは「根付け」及び「装身用下げ飾り」とする本件意匠に係る意匠権を含む三つの意匠権(出願日はいずれも昭和60年4月30日)を根拠として、原告に対し、各登録意匠に類似する形状の下げ飾りを取り付けた数珠の製造、販売の中止などを求める訴訟を提起し、 確定勝訴判決を得ていることが認められ、これらの事実によれば、被告は、平成6年当時、本件意匠に係る物品の「根付け」が数珠の下げ飾り(すなわち、房部)にも用いられるものであると考えていたと思われ、しかも、意匠に係る物品として上記説明の加えられた意匠を本件意匠の類似意匠として登録出願している以上、本件意匠の登録出願当時においても、同様に考えていたものと思われ、このことも、数珠の房部の形状を根付けに利用するという着想が困難なものとはいえないという事実を裏付けるものということができる。 そうすると、たとい数珠の房部を根付けとした資料が見当たらないとしても、その原因は、意匠としての着想の困難さ以外の社会的、経済的要因に求めるべきであり、数珠の房部を根付けとする着想が困難であったとの認定に結び付けることはできないものというべきである。以上のとおりであるから、審決の前記判断が誤っていることは明らかである。 また、審決は、本件意匠が数珠の房部の形状を応用していることに関して、数珠の房部の形状は伝統的にかなり様式化され、その改変には宗教的制約もあろうと考えられることからすれば、その房部に係る創作は比較的自由度が少なく、房部の先端を、元来の普通の房や鉱物製の玉のもの等しかなかったところにおいて、小田巻きにした着想は、単なる組合せや交換とはいい切れず、たとい兼業者であっても一定の創作力を要するものであると判断している。 しかしながら、本件意匠に係る商品は「根付け」であるから、本件意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた部分の形状に、先端の小田巻き部を組み合わせる発想が生じ得るかどうかを検討すればよいのであって、数珠の房部の先端を小田巻きにするという着想の難易を論ずること自体、無意味なことというべきである。また、前記認定のとおり、数珠の房部の先端を小田巻きにした形状が周知であったのであるから、「房部の先端を、元来の普通の房や鉱物製の玉のもの等しかなかった」との前提も誤りである。 そうすると、上記審決の判断も、誤っていることが明らかである。 (ハ) 以上、検討したところによれば、数珠のものとして周知となっていた、本件意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた部分の形状と、根付けのものとしても数珠のものとしても周知となっていた、先端小田巻きの形状とを組み合わせ、これを根付けとして、本件意匠に想到することは、当業者が容易になし得たものというべきである。 2 そうすると、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由があることが明らかである。そこで、これを認容して審決を取り消すこととし、 訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 山田知司 |
裁判官 | 宍戸充 |