関連ワード | 物品 / 意匠に係る物品 / 完成品 / 意匠の類否 / 登録意匠 / 差止請求(差止) / |
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事件 |
平成
10年
(ワ)
24986号
意匠権侵害差止等請求事件
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原告 帝人株式会社右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 菊池 武右補佐人弁理士 【B】 被告 株式会社フクダ産業右代表者代表取締役 【C】 被告 フクダバイタルテック株式会社右代表者代表取締役 【D】 被告 フクダ電子株式会社右代表者代表取締役 【E】 被告 エフアンドエル株式会社右代表者代表取締役 【E】 被告ら訴訟代理人弁護士 出井直樹 同 桐原和典 同 臼井隆行 被告ら補佐人弁理士 【F】 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1999/11/30 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 原告の請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
一 被告らは、別紙目録記載の物件を製造し、販売し、リースし、展示してはならない二 被告らは、その占有する前項記載の各物件(仕掛品及び完成品)及びその製造用金型を廃棄せよ。 |
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事案の概要
本件は、医療用酸素濃縮機に係る意匠権を有する原告が、被告らが製造、販売及びリースしている酸素濃縮機が、原告の右意匠権を侵害すると主張して、右物件の製造、販売、リース及び展示の差止め並びに仕掛品、完成品及び製造用金型の廃棄を求めているものである。 一 争いのない事実等1 原告は次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)を有している。 出 願 平成六年四月一一日登 録 平成八年五月二一日登録番号 第九六〇二五五号意匠に係る物品 医療用酸素濃縮機登録意匠 別紙意匠公報記載のとおり2 本件意匠は、医療用酸素濃縮機に係るもので、その構成態様は次のとおりである(以下「構成態様(1)」などという。甲二の一、弁論の全趣旨)。 (1) 全体が正背面、左右側面及び平底面を有する略直方体の凾体であり、この凾体の正面部は、表面が横方向にアール状にやや膨らんでいる垂直面部と平面部の四・五分の一位にかけて後方に傾斜した傾斜面部とからなり、かつ前記垂直面部と傾斜面部との接辺は下方にアール状にやや膨らんでいる。 (2) 右凾体の正面部において、垂直面部の上側部には、左部にフィルターを備えた空気採取口が設けられており、右部に設けられた奥深の凹室部に加湿器が収容されている。空気採取口と凹室部の下端及び上端レベルは同位である。 (3) 右凾体の正面部において六分の一位を占める傾斜面部には、左側から順に、電源スイッチ、酸素濃縮気体の設定流量値や積算使用時間の表示部、酸素濃縮気体の流量設定用つまみ、酸素濃縮気体の流れを確認する視流計、酸素濃縮気体取出用ノズルが配置されている。 (4) 右凾体の平面部は、前記正面傾斜面部における配置状態全体が上方から見えるとともに傾斜面部の下辺がアール状にやや膨らんで見えるほかは、水平である。 (5) 右凾体の左右側面部は垂直面である。 (6) 右凾体の背面部は垂直面である。 (7) 右凾体の底面部の四隅には移動車輪が取り付けられている。 3 被告株式会社フクダ産業(以下「被告フクダ産業」という。)は、別紙目録記載の医療用酸素濃縮機(以下「イ号製品」という。)を製造し、イ号製品は、被告株式会社フクダバイタルテック(以下「被告バイタルテック」という。)、被告フクダ電子株式会社(以下「被告フクダ電子」という。)、被告株式会社エフアンドエル(以下「被告エフアンドエル」という。)と順次譲渡され、日本全国の販売会社にリースされている(甲五の一及び二、乙一七、弁論の全趣旨)。 4 イ号製品の意匠(以下「イ号意匠」という。)は次の構成を備えている(甲五の一及び二、乙一七、弁論の全趣旨)。 (1) 全体が正背面、左右側面及び平底面を有する略直方体の凾体であり、この凾体の正面部は、表面が横方向にアール状にやや膨らんでいる垂直面と平面部の四分の一位にかけて後方に傾斜した傾斜面とからなり、かつ垂直面部と傾斜面部との接辺は下方にアール状にやや膨らんでいるが、接辺部分は面取りされ、垂直面部と傾斜面部の明確な境界線は形成されていない。垂直面部の左側中央部から右側下方にかけて浅い凹み巾の流曲線が形成されている。 (2) 右凾体の正面部において、垂直面部の上側部には、左部にフィルターを備えた三個の細巾口の空気採取口が設けられており、右部に傾斜面部の下辺よりやや上方位置から垂直面部にかけて奥深の凹室部が設けられており、そこに加湿器が収容されている。凹室部の下端レベルは空気採取口のそれよりもやや下方に位置する。 (3) 右凾体の正面部において四分の一位を占める傾斜面部には、左側から順に、電源スイッチ、酸素濃縮気体の流量用設定用つまみ、酸素濃縮気体の設定流量値と積算使用時間のデジタル表示部、酸素濃縮気体の流れを確認する視流計、酸素濃縮気体取出用ノズルが配置されているが、右設定流量のデジタル表示部と流量設定用つまみは、傾斜面部中で前者が上、後者が斜め下に配置されており、流量設定用つまみのほぼ横に積算使用時間のデジタル表示部が配置されている。 (4) 右凾体の平面部は、前記正面部の傾斜面部における配置状態全体が上方から見えるとともにアール状にやや膨らんだ傾斜面部の下辺及び加湿器を収容する奥深の凹室部が見えるほかは、水平である。この水平面の左側中央部やや後方から右側中央部やや前方にかけて浅い段部が形成されている。 (5) 右凾体の左右両側部は垂直であり、上方寄りに手掛部が設けられている。 (6) 右凾体の背面部は垂直面であり、下方寄りの左右にコード掛け具が設けられている。 (7) 右凾体の底面部の四隅には移動車輪が取り付けられている。 二 争点 イ号意匠が本件意匠に類似するといえるかどうか(原告の主張)1 本件意匠の要部は次の四点である。 (一) 構成態様(1)につき、全体が略直方体の凾体の正面部は、表面が横方向にアール状にやや膨らんでいる垂直面部と、平面部のほぼ四分の一くらいにかけて後方に傾斜した傾斜面部とからなり、垂直面部と傾斜面部との接辺は下方にアール状にやや膨らんでいる点(二) 構成態様(2)につき、凾体の正面垂直面部の上側を、左右に二分して、左部には空気採取口を、右部には加湿器を収容する奥深の凹室部を設けている点(三) 構成態様(3)につき、凾体の正面傾斜面部には、スイッチ、つまみ、視流計、 ノズル等の操作部が略横一列に配置されるとともに、酸素濃縮気体の設定流量値等の表示部を配置している点(四) 構成態様(4)につき、凾体の平面部は、正面傾斜面部の配置が上方から見えるとともに、正面垂直面部との境界線がアール状にやや膨らんで見える点2 本件意匠とイ号意匠の類否 イ号意匠には本件意匠と相違する点もあるが、イ号意匠は本件意匠の要部である構成態様の全てを備えており、その結果、イ号意匠は、看者に対して、全体として本件意匠と共通した印象を与えるから、イ号意匠は本件意匠と類似する。 (被告の主張)1 本件意匠の要部は次の二点である。 (一) 傾斜面部の操作部に配置された酸素濃縮気体流量設定つまみ、押しボタン式スイッチ及び酸素濃縮気体の設定流量や積算使用時間の表示部の具体的形態と具体的位置関係(二) 空気採取口及び加湿器収容用凹室部の具体的形態と具体的位置関係2 イ号意匠は、本件意匠の要部について次の(一)及び(二)のとおり、著しく相違しており、両意匠に全く別異の美感をもたらしているから、イ号意匠は本件意匠と類似するものではない。 (一) 傾斜面部の操作部の配置 本件意匠では、傾斜面部全体がそのまま操作部となっており、傾斜面部の中に、 さらにスイッチや表示部をくくったパネル部を設けたりはしていない。操作部で最も大きな印象を与える円盤状の流量設定用つまみについては、傾斜面部操作部の中央やや右寄りに、押しボタン式スイッチや表示部とは独立して、これらのスイッチや表示部とは横一列に配置されている。 これに対して、イ号意匠では、傾斜面部左寄りに、傾斜面部とは区別された青色のほぼ長方形のパネル部が配され、スイッチ、表示部はすべてこの中にまとめられ、流量設定用つまみは、この長方形のパネル部の内部に半分以上がくい込んだ形態となっている。右に述べた傾斜面部とは区別された青色のパネルの中に、さらに二重に配された暗色の長方形の表示部があり、流量設定用つまみは、その下辺左寄りにかかり、その二分の一ほどが暗色の表示部の外に出る位置に配されている。暗色の表示部上方やや右寄りに設定流量表示部、右下に使用時間表示部があり、流量設定用つまみが設定の切り替えにより設定流量や積算使用時間の表示を指し示し、 設定と表示の関係が強調されている。 (二) 空気採取口及び加湿器収容用凹室部 本件意匠では、空気採取口も加湿器収容用凹室部も、ほぼ同じ大きさ、形の、縦横の比率があまり異ならない長方形であり、両者は上端及び下端のレベルがいずれも同位に、正面垂直面部上方に左右に並べられている。 これに対し、イ号意匠では、空気採取口は、縦横の比率が約一対一・八の横長の長方形、加湿器収容用凹室部は縦横の比率が約一対○・八の縦長の長方形であり、 左右に並べられた両者の上端及び下端のレベルはいずれも同位ではない。特に上端は、空気採取口は正面垂直面部にあるのに対し、加湿器収容用凹室部は傾斜面部にまで大きくくい込んでおり、上方から加湿器の一部が、上方斜め前方からは加湿器のほぼ全体が観察できる形態となっている。 |
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争点に対する判断
一 本件意匠の要部について1 証拠(乙七、一九、二〇)によると、本件意匠の出願時において、医療用酸素濃縮機について、別紙公知意匠目録(一)ないし(三)記載の各意匠(以下「本件公知意匠(一)」などといい、これらの意匠をまとめて「本件公知意匠」という。)が公知であったことが認められる。 2(一) 本件公知意匠は、いずれも全体が正背面、左右側面及び平底面を有する略直方体の凾体であり、正面部は垂直面部と後方に傾斜した傾斜面部とからなっている。 (二) 本件公知意匠(一)は、凾体の正面部において、垂直面部の上側部の左部にフィルターを備えた空気採取口を設け、右部に設けた奥深の凹室部に加湿器を収容するものである。 (三) 本件公知意匠は、いずれも凾体の正面部の傾斜面部に、電源スイッチなどの操作部が配置されている。 (四) 本件公知意匠(二)及び同(三)は、凾体の平面部において、正面傾斜面部における配置状態全体が上方から見えるほかは、水平になっている。また、本件公知意匠(一)は、凾体の平面部において、正面傾斜面部における配置状態の一部が上方から見える。 (五) 本件公知意匠は、いずれも凾体の左右側面部が垂直である。 (六) 本件公知意匠は、いずれも背面部が垂直である。 (七) 本件公知意匠は、いずれも凾体の底面部の四隅には移動車輪が取り付けられている。 3(一) 前記第二の一(争いのない事実等)2及び右2認定の事実によると、本件意匠の構成態様のうち、@全体が正背面、左右側面及び平底面を有する略直方体の凾体であり、この凾体の正面部は、垂直面部と傾斜面部とからなっていること(構成態様(1))、A右凾体の正面部において、垂直面部の上側部には、左部にフィルターを備えた空気採取口が設けられており、右部に設けられた奥深の凹室部に加湿器が収容されていること(構成態様(2))、B傾斜面部に、電源スイッチなどの操作部が配置されていること(構成態様(3))、C凾体の平面部は、正面傾斜面部における配置状態全体が上方から見えること(構成態様(4))及びD構成態様(5)ないし(7)は、出願時に知られていたものと認められるから、以上の点のみが要部ということはできない。 (二) 右(一)で述べたところに、本件意匠の構成態様のうち、垂直面部、傾斜面部及び平面部の意匠が、特に、看者の視覚に強く訴えると考えられることを総合すると、本件意匠の要部は、右(一)@ないしD並びに<ア>垂直面部の表面が横方向にアール状にやや膨らんでいること、<イ>傾斜面部の後方への傾斜が平面部の四・五分の一位にかけてのものであること、<ウ>垂直面部と傾斜面部との接辺が下方にアール状にやや膨らんでいること(以上、構成態様(1))、<エ>垂直面部上側部の空気採取口と加湿器収容用の凹室部の下端及び上端レベルが同位であること(構成態様(2))、<オ>凾体の正面部において、傾斜面部が六分の一位を占めること、<カ>傾斜面部に設けられた操作部の配置が、左側から電源スイッチ、酸素濃縮気体の設定流量値と積算使用時間のデジタル表示部(以下「デジタル表示部」という。)、酸素濃縮気体の流量設定用つまみ(以下「つまみ」という。)、酸素濃縮気体の流れを確認する視流計(以下「視流計」という。)、酸素濃縮気体取出用ノズル(以下「ノズル」という。)の順で横一列になっていること(以上、構成態様(3))及び<キ>平面部からは傾斜面部の下辺がアール状に膨らんで見えること(以上、構成態様(4))であると認められる。なお、右<ア>ないし<キ>のうち、<キ>は<ア>から当然に導かれるものであり、<ウ>は、<ア>、<イ>及び<オ>から導かれるものである。 (三) そうすると、本件意匠の要部は、右(一)@ないしDのほか、次のAないしDであると整理することができる(以下「要部A」などという。)。 A 垂直面部の表面が横方向にアール状にやや膨らんでいることB 傾斜面部が、平面部の四・五分の一位を占め、正面部の六分の一位を占めることC 垂直面部上側部の空気採取口と加湿器収容用の凹室部の下端及び上端のレベルが同位であることD 傾斜面部に設けられた操作部の配置が、左側から電源スイッチ、デジタル表示部、つまみ、視流計、ノズルの順に横一列になっていること二 本件意匠とイ号意匠の類否について1 前記第二の一(争いのない事実等)4及び右一で述べたところに基づき、イ号意匠が本件意匠と類似するかどうかについて判断する。 (一) 右一3(一)@ないしD イ号意匠は、右一3(一)@ないしDを備えている。 (二) 要部A イ号意匠の正面部を構成する垂直面部と傾斜面部のうち、垂直面部は表面が横方向にアール状にやや膨らんでいるから、イ号意匠は本件意匠の要部Aを備えるものである。 しかし、証拠(乙二一ないし二三)と弁論の全趣旨によると、冷蔵庫、電気せんたく機等の電気製品において、凾体の垂直面部の表面を横方向にアール状に膨らませることは、本件意匠の出願当時には、広く行われていたものと認められる。 (三) 要部B イ号意匠の傾斜面部は平面部の四分の一位を占めるとともに、正面部の四分の一位を占める。 したがって、イ号意匠の傾斜面部の面積が、凾体の表面積に占める割合は、要部Bによって示される本件意匠のそれよりも明らかに大きく、右傾斜面部が平面部及び垂直面部との間に形成する角度も、本件意匠のそれとは異なっているから、イ号意匠が本件意匠の要部Bを備えるものということはできない。 (四) 要部C イ号意匠の正面部において、垂直面部の上側部左部には空気採取口があり、右部には加湿器収容用の凹室部があり、空気採取口と凹室部の下端レベルは、凹室部の方がやや下位にある程度である。 しかし、空気採取口が垂直面部に収まっているのに対して、凹室部は傾斜面部にまでかかっており、その上端レベルは明らかに凹室部の方が上位にあるから、イ号意匠が本件意匠の要部Cを備えるものということはできない。 (五) 要部D イ号意匠の傾斜面部に設けられた操作部には、左から順に電源スイッチ、つまみ、表示部、視流計、ノズルが配置されており、右配置の順序が要部Dとは明らかに異なる。 また、要部Dでは、操作部は単純に横一列に配置されているのに対して、イ号意匠では、本件意匠に比べて、表面積に占める傾斜面部の面積の割合が大きいため、 操作部の配置も自由度が高く、表示部とつまみが上下二段に配置されている。 したがって、イ号意匠が本件意匠の要部Dを備えるものということはできない。 2 右1で述べたところによると、本件意匠とイ号意匠は、全体として美感を異にするものといわざるを得ないから、これらが類似するとは認められない。 三 以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がないので、棄却することとする。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 榎戸道也 |
裁判官 | 杜下弘記 |