関連ワード | 物品 / 形状 / 機能美 / 意匠に係る物品 / 広く知られた / 意匠の類否 / 登録意匠 / 差止請求(差止) / 権利濫用(権利の濫用) / 類似性(類否判断) / 損害額 / |
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事件 |
平成
10年
(ワ)
4397号
意匠権侵害差止等請求事件
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原告 株式会社ユニオン右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 深井 潔右補佐人弁理士 【B】 被告 株式会社満点商会右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 金子光一 右補佐人弁理士 【D】 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 1999/10/19 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 被告は、別紙ハ号物件目録記載の物件を製造、販売してはならない。 二 被告は、別紙ハ号物件目録記載の物件を掲載した商品カタログを廃棄せよ。 三 被告は、原告に対し、金二二万七三五〇円及びこれに対する平成一〇年五月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 四 原告のその余の請求を棄却する。 五 訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 六 この判決は、第三項に限り、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
一 被告は、別紙イ号及びハ号物件目録記載の物件を製造、販売してはならない。 二 被告は、別紙イ号及びハ号物件目録記載の物件を掲載した商品カタログを廃棄せよ。 三 被告は、原告に対し、金九二二万七三五〇円及びこれに対する平成一〇年五月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 |
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当事者間に争いのない事実
一 原告の有する意匠権 原告は、次の各意匠権を有する(以下、1の意匠権を「本件第一意匠権」、その意匠を「本件第一意匠」といい、2の意匠権を「本件第二意匠権」、その意匠を「本件第二意匠」という。)。 1 登録番号 第八〇八三八六号 意匠に係る物品 消火器収納用具 登録日 平成二年一一月一六日 出願番号 意願昭六三-四九六九七号 出願日 昭和六三年一二月二一日 登録意匠 別紙第一意匠目録記載のとおり2 登録番号 第九五九〇七五号 意匠に係る物品 消火器スタンド 登録日 平成八年五月一〇日 出願番号 意願平四-一三二〇五号 出願日 平成四年四月三〇日 登録意匠 別紙第二意匠目録記載のとおり二 被告の行為 被告は、別紙イ号物件目録記載の消火器収納用具(以下「イ号物件」といい、その意匠を「イ号意匠」という。)を「MH-900」との品番で、ハ号物件目録記載の消火器収納用具(以下「ハ号物件」といい、その意匠を「ハ号意匠」という。)を「MH-1200」との品番で、それぞれ製造、販売し、また、右各物件を掲載したカタログを発行している。 |
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争点
一1 イ号意匠は本件第一意匠と類似するか。 2 本件第一意匠は無効原因を内包し、これに基づく権利行使は権利濫用となるか。 二 ハ号意匠は本件第二意匠と類似するか。 三 損害額 |
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争点に関する当事者の主張
一1 争点一1(イ号意匠と本件第一意匠の類否)について【原告の主張】 (一) 本件第一意匠の基本形状及び各部の具体的形状は、別表一【原告の主張】欄記載のとおりである。 (二) イ号意匠の基本形状及び各部の具体的形状は、別表三【原告の主張】欄記載のとおりである。 (三) 対比 イ号意匠と本件第一意匠を比較すると、次のとおり、両者は類似している。 (1) 両者は、基本形状がすべて共通し、また、各部の具体的形状のうち、 開口部の周縁に僅かに突出する極細の縁取りが設けてある点、箱体の横幅と奥行きと高さの比率の点が共通する。これらはこの種物品にとって意匠の類否を判断する上で重要な事項であり、これらを共通とする両者の意匠は明らかに類似する。 なお、両者は具体的形状のうちの上部形状や開口部の上下辺の形状、 止め金具の有無において差異が見られるが、これらは両意匠の類否を判断する上では僅かな相違であって、意匠全体の類似性を否定する程度のものではない。 (2) 甲第八号証に掲載されている消火器収納用具は、横断面が円形の円筒形状を基本形状とするものであるから、本件第一意匠の要部である「前面を弧状面とし背面を平坦面とする、横断面形状がいわゆる略蒲鉾形を呈する縦長の箱体」という基本形状を備えていないから、これをもって本件第一意匠の要部が細部形状に限定されることにはならない。また、消火器収納用具と何の関連もないものの形状を引用してする被告の主張は失当である。 なお、本件第一意匠は形状のみからなる意匠であるから、両者の対比においては文字あるいは文字表示部なるものは捨象して考えるべきである。 (四) よって、イ号意匠は本件第一意匠と類似する。 【被告の主張】 (一) 本件第一意匠の基本形状及び各部の具体的形状は別表一【被告の主張】欄記載のとおりである。 (二) イ号意匠の基本形状及び各部の具体的形状は別表三【被告の主張】欄記載のとおりである。 (三) 対比 イ号意匠と本件第一意匠を比較すると、次のとおり、両者は類似していない。 (1) 原告が本件第一意匠を出願する以前から、立体の形状が円筒若しくは蒲鉾形の半円筒の消火器収納容器が市場に流通していた。そもそも、蒲鉾形というのは立体の基本形状であって意匠の要部ではなく、この点が類似することをもって両意匠が類似するとはいえない。 したがって、両者の類否を判断する際には、原告の主張する基本形状を捨象し、両者の具体的形状に注目して類否を判別するのが相当である。 (2) 両者の開口部の形状は、略砲弾型か略小判型かの明らかな相違があり、全体的に見ても美感を異にする。また、箱体に形成された開口部の位置や大きさ、箱体との比率の相違から、本件第一意匠は閉鎖的な感を呈するのに対し、イ号意匠は開放的な印象を与え、見る者をしてデザインの違いを感じさせる。さらに、 イ号物件は、消火器を出し入れする開口部が直線的なラインと小さな弧で処理されており、消火器を取り出す際に左右前方に触れることがあっても取り出しやすい形状になっている。 加えて、消火器収納用具は、単に消火器を保護するのみならず、その存在場所をアピールすることが重要であるから、表示部分の形状は意匠の重要な要部であるというべきである。イ号意匠は天板面に「消火器」なる漢字と英字の文字が表示され、その天板面は手前に緩傾斜しているために視認性が良いのに対し、本件第一意匠の表示部は、正面上部あるいは正面下部の垂直面であると考えられるから、要部形状が明らかに異なる。 (四) よって、具体的形状を異にする本件第一意匠とイ号意匠は類似しない。 2 争点一2(本件第一意匠には無効原因が存するか)について 【被告の主張】 (一) 本件第一意匠は、その出願前に公然知られていた消火器収納用具(検乙第四号証)の意匠と類似している。両者は、本件第一意匠が背面を平坦面とする横断面形状がいわゆる略蒲鉾型であるのに対し、検乙第四号証の意匠が背面も正面も同様弧状面とする、横断面形状が略円形である点が相違するが、背面形状は目立たず、壁面等に沿って消火器収納用具を設置するためには背面を平坦としなければならないから、右相違点は意匠の要部とはなり得ない。 したがって、本件第一意匠は意匠法3条1項3号により意匠登録を受けることができなかったものであり、同法48条1項1号により無効である。 (二) 本件第一意匠の基本形状はごくありふれたものであり、断面形状が蒲鉾形である点は前掲公知意匠と相違するが、これも従前から周知の形状であり、開口部の下辺中央部分に水平部分を設けることも従前から周知である。すなわち、本件第一意匠は、この種意匠が属する分野においてよく知られた各要素を、普通に知られた方法により配置結合したものにすぎない。 したがって、本件第一意匠は意匠法3条2項により意匠登録を受けることができなかったものであり、同法48条1項1号により無効である。 (三) よって、このような無効原因を有する権利に基づく請求は、権利の濫用として許されない。 【原告の主張】 本件第一意匠は、「前面を弧状面とし、背面を平坦面とする、横断面形状がいわゆる略蒲鉾形を呈する縦長の箱体を基本形状とし、この箱体前面の下方寄りに僅かにずらし、上下に僅かな余地部を残し横幅の略いっぱいに、上下辺を弧状に左右辺は垂直とする縦長の略長円形状を呈する大きな開口部を側面の略中央部分までを抉り取るように形成した」ものであり、横断面形状が蒲鉾形であるという要部形状を備えない検乙第四号証と類似しないばかりか、出願前に広く知られた形状に基づいて容易に創作できたものでもない。 二 争点二(ハ号物件と本件第二意匠の類否)について【原告の主張】1 本件第二意匠の基本形状及び各部の具体的形状は別表二【原告の主張】欄記載のとおりである。 2 ハ号意匠の基本形状及び各部の具体的形状は別表四【原告の主張】欄記載のとおりである。 3 対比 本件第二意匠とハ号意匠を比較すると、次のとおり、両者は類似しているというべきである。 (一) 本件第二意匠とハ号意匠を対比すると、両者は、基本形状がすべて共通し、 具体的形状において差異が認められる。 前記両者の共通点は、この種物品にとって意匠の類否を判断する上における重要な事項であり、この事項を共通とする両者の意匠は明らかに類似する。なお、両者は具体的形状において差異がみられるものの、これらの差異は両意匠の類否を判断する上では僅かな部分的な相違であって、意匠全体の類似性を否定する程度のものではない。 (二) 本件第二意匠の形状は、消火器収納用具としては従来の形状とは根本的に異なる極めて斬新かつ画期的なものとして創作されたのであり、ありふれたものではない。すなわち、「一枚の板体を曲げることにより底部と傾斜した立ち上がり部を形成し、立ち上がり部に円形の窓を形成した」基本形状は、消火器収納用具の常識を打破した画期的な形状そのものである。この点が共通であれば、その他の細部の形状に差があったとしても、両意匠は別異の印象を与えるものではなく、両者を非類似とすることはできない。 被告が両者の違いであると主張する部分は、要部形状が共通である範囲内に埋没する微差にすぎない。 4 よって、ハ号意匠は本件第二意匠と類似する。 【被告の主張】1 本件第二意匠の基本形状は別表二【被告の主張】欄記載のとおりである。 2 ハ号意匠の基本形状は別表四【被告の主張】欄記載のとおりである。 3 対比 原告が本件第二意匠の基本形状と主張する形状は、極めてありふれた形状であり、看者の注意を引く部分とはなり得ない。 両者は開口部の形状を異にする。全体的にみて、本件第二意匠の貫通孔は、正面から見て略楕円形状であり、ハ号意匠のそれは正面視半円であるところに顕著な特徴があるから、看者が別異の印象を受けるものというべきである。また、本件第二意匠は、立ち上がり部が台板よりも長く延びて不安定であるのに対し、ハ号意匠は立ち上がり板が上方に高く延びることなく安定感があり、しかも、立ち上がり板の貫通孔は正面視半円形でそれに連続して水平板にも正面視半円形の貫通孔が形成されているので、緊急時の消火器の取り出しに支障がなく、機能美さえ備えている。 それゆえに、貫通孔の形状の違いとさらに形態の安定感の差異こそが意匠の要部であるから、両者は類似しない。 4 よって、ハ号意匠は本件第二意匠と類似しない。 三 争点三(損害)について【原告の主張】1 被告は、過去二年間にわたり、イ号物件を合計約二〇〇〇個、総販売高約三〇〇〇万円で販売した。被告のイ号物件の販売による利益率は三〇パーセントであるので、右行為により被告が得た利益は、九〇〇万円である。 2 被告は、平成八年六月二〇日から平成一〇年四月一七日まで、ハ号物件を合計二〇四台、総販売高一〇二万七〇三〇円で販売した。 被告がハ号物件の販売により得た利益は、右販売高から販売に要する原価七九万九六八〇円(一台当たり三九二〇円)を控除した二二万七三五〇円である。 3 被告の右各利益額は原告の損害額と推定される。 【被告の主張】 原告の主張のうちハ号物件にかかる部分は認める。その余は争う。 |
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当裁判所の判断
一 争点一1について 1 甲第一号証によれば、本件第一意匠の基本形状及び各部の具体的形状は別表五【本件第一意匠の構成】欄に記載のとおりであると認められる。 2 検乙第一号証によれば、イ号意匠の基本形状及び各部の具体的形状は別表五【イ号物件の構成】欄に記載のとおりであると認められる。 3(一) 本件第一意匠とイ号意匠の意匠を比較すると、両者は、前面を弧状面とし背面を平坦面とする、横断面形状がいわゆる略蒲鉾形を呈する縦長の箱体であり、箱体の前面の中央部よりやや下方寄りに、上下に余地部を残して、正面視で縦長楕円形の開口部が、側面視で略中央部分の深さまで抉り取るように形成されているという基本的形状及び開口部の周縁が僅かに膨出する極細の縁取りがされている点、箱体の横幅、奥行き、高さの各比率が略一対〇・八対三である点が共通している。他方、両者は、箱体上部の形状が、本件第一意匠は水平面であるのに対し、イ号意匠は、背面部に細い帯状の余地部を残して前方へ緩やかな角度で傾斜させている点、開口部の形状が、本件第一意匠は緩やかな湾曲線で構成されているのに対し、イ号意匠は、ごく緩やかな湾曲線と小さな弧状の湾曲線の組み合わせにより大きく抉り取るように構成されている点、及び本件第一意匠は背面板に止め金具が設けられているのに対し、イ号意匠にはこれが設けられていない点が異なるものということができる。 (二) 本件第一意匠に係る物品及びイ号物件は、いずれも消火器収納用具であり、開口部内に消火器を収納した上で建物内の部屋、廊下等に設置されるのが通常の使用態様であると考えられるところ、背面及び底面が平坦面であり、前面が開口部が設けられている弧状面であるという全体形状からすれば、いずれも、箱体背面側を壁面等に密着させ、床面に設置されるものであることは明らかである。そして、その内部に収納される消火器の一般的な大きさ及び右に述べた通常の使用態様から、これら物品の看者は、箱体の正面あるいは斜め前方のやや上方から観察するのが通常であるということができる。 そうすると、これらの意匠において、看者の注意を最も引く、いわゆる要部と考えられる部分は、右の看者の視点から見た全体の形状及び箱体上面及び開口部の具体的形状にあるというべきである。 (三) そこで、右の観点から両意匠を比較すると、両意匠は、全体の基本形状が背面を平坦面とし、前面を弧状面とする横断面略蒲鉾形の箱体で、前面に正面視略楕円形の開口部を設けているという点で共通するものの、本件第一意匠は、上面形状が水平面であり、全体の高さの約七分の一の幅を有する余地部を残して開口部が設けられていること、また、開口部の上部逆U字型部分の湾曲が緩やかであることから、上部側の余地部を強く意識させ、開口部が全体の中心より下方に配置しているという印象を与えるのに対し、イ号意匠は、上面形状を前面に緩やかに傾斜させ、かつ、緩やかな湾曲線と小さな弧状の湾曲線を組み合わせることによって開口部を大きく抉り取る形状で形成していることから、その上部の傾斜面のデザイン的特徴から受ける印象が強いのみならず、全体のうちの上部側の余地部を強く意識させることなく、開口部が全体の中央部に大きく取られているという印象を与えるものであるということができる(右のような形状から受ける印象の差異は、特に斜め前方から観察した場合に顕著であるといえる。)。右の差異は、両意匠の基本形状の共通性からくる印象の共通性を凌駕し、看者に異なる美感を与えるものというべきである。 甲第八号証、検乙第四号証によれば、本件第一意匠の意匠登録出願前に、消火器収納容器として、箱体の全体形状を円筒形とし、その前面の上下に全体の高さのそれぞれ約六分の一ずつの幅を有する余地部を残して、中央に上下辺を逆U字形状ないしU字形状の弧状に、左右辺を垂直に形成した大きな縦長楕円形状を呈する開口部を設けた態様の商品が存在したことが認められる。一方、本件全証拠によっても、本件第一意匠の意匠登録出願前に、消火器収納容器としては、横断面形状が略蒲鉾形を呈する縦長の箱体の構成としたものが存在したとは認められない。したがって、本件第一意匠において、箱体前面に正面視で縦長略楕円形状の開口部を設けた点自体は必ずしも新規な構成ではないが、特に全体の基本形状を、背面が平坦面で、前面が弧状をなす横断面略蒲鉾形とした点は、従来の消火器収納容器の意匠には見られない新規な箇所であり、需要者の最も注意を引く部分である。 しかし、右の形態が本件第一意匠とイ号意匠とで共通する点を斟酌しても、前記の相違部分が見る者に与える印象の違いの強さと対比すると、両意匠の美感が全体として異なるとの前記判断を左右するには至らない。 したがって、本件第一意匠とイ号意匠を類似するものということはできない。 右認定判断と異なる特許庁の判定の結果(甲第三号証)は採用することができない。 4 よって、イ号物件に関する原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。 二 争点二について 1 甲第一三号証によれば、本件第二意匠の基本形状及び各部の具体的形状は別表六【本件第二意匠の構成】欄に記載のとおりであると認められる。 2 検乙第三号証によれば、ハ号意匠の基本形状及び各部の具体的形状は別表六【ハ号物件の構成】欄に記載のとおりであると認められる。 3(一) そこで、本件第二意匠とハ号意匠を比較すると、両者は、長方形の板状の部材を屈曲して、平面視中央部に貫通孔を設けてなるものであり、平面視長方形の台座の前端から斜め後方に向けて台座と同幅の立ち上がり部を立設し、さらに立ち上がり部あるいは立ち上がり部と連続する水平部に略楕円形状の貫通孔を設けている点が共通している。他方、本件第一意匠は、立ち上がり部を屈折させずにそのまま斜め後方に延設しているのに対し、ハ号意匠は立ち上がり部の中途から、台座と平行方向に後方へ屈折されて水平部を構成している点が異なるということができる。 (二) ところで、両意匠に係る物品は消火器収納用具(消火器スタンド)であるところ、その形状及び用途から、これらは床面に設置されるものであることは明らかであり、前記のとおり、消火器の一般的な大きさからすれば、看者は、これらの意匠を、正面上方あるいは斜め前方の上方から見下ろす形で観察するのが通常であるということができる。そうすると、これらの意匠において、看者の注意を最も引く、いわゆる要部と考えられる部分は、右の看者の視点から見た全体の形状及び上面、開口部の形状にあるというべきである。 (三) そこで右の観点から両意匠を比較すると、両意匠は、前記のとおりいずれも一枚の板状部材を湾曲あるいは屈折させ、平面視中央部に略円形の貫通孔を設けた極めて単純な形状をしているものである。 甲第七号証、第九号証、第一〇号証、乙第一号証、第六号証、第二六号証の一及び弁論の全趣旨によれば、右のような基本形状を有する消火器収納用具は、本件第二意匠が出願された当時、他に類似するものがなく、消火器収納用具として極めて斬新な形状のものであったことが認められる。前記のとおり、本件第二意匠とハ号意匠は、立ち上がり部をそのまま後方に延設しているか、あるいは中途の部分で台座と平行方向へ屈折して延設しているかについて形状に差異があるが、 前記の看者の視点から両意匠を観察した場合、右形状の差異は、特に正面上方から観察した場合には目立つものではなく、また、斜め前方の上方から観察した場合には、両者の形状の差異は認められるものの、前記本件第二意匠の全体形状の斬新性からすれば、なお、全体形状の類似性に埋没する程度の微差にすぎないものというべきである。また、ハ号意匠は、台座部に四つの小突起を下方に向けて突出させている点でも本件第二意匠と形状が異なるが、この点は、右の看者の視点から見た場合にほとんど目立つものではない。 被告は、ハ号物件は、貫通孔の形状が正面視半円形であり、本件第二意匠の形状とは異なると主張するが、前記のとおり、両意匠に係る物品において、看者は、正面上方あるいは斜め前方の上方から見下ろす形で観察するのが通常であるというべきであって、これを正面視で見るのが通常の観察態様であるということはできない。そして、看者の通常の視点から見た場合の両意匠の貫通孔の形状は、本件第二意匠が楕円形であるのに対し、ハ号物件が円形あるいはこれをやや変形させたものである点が異なるとしても、右の相違点は、前記の本件第二意匠の全体形状の類似性に埋没する微差にすぎないことは変わりがない。 4 よって、ハ号物件の意匠と、本件第二意匠は類似するというべきである。 三 争点三について ハ号物件の製造、販売により、被告が得た利益が二二万七三五〇円であることは、当事者間に争いがない。 意匠法39条2項により、右金額は、原告の損害額と推定される。 四 よって、原告の請求は、主文第一項ないし第三項の限度で理由がある(第一項及び第二項については、仮執行宣言を付すのは相当でないから、これを付さないこととする。)。 (平成一一年七月一九日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 渡部勇次 |
裁判官 | 水上周 |