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関連ワード 意匠の実施 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  新規性 /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  権利濫用(権利の濫用) /  損害額 / 
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事件 平成 9年 (ワ) 21694号 損害賠償請求事件
原告 株式会社タナカ右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 永田晴夫 右補佐人弁理士 【B】
被告 株式会社カナイ右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 矢島邦茂
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1999/08/27
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、原告に対し、金一四五六万六五三五円及びこれに対する平成九年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告は、原告に対し、一八〇七万〇四四〇円及びこれに対する平成九年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、意匠権侵害による損害賠償請求をする事案である。
一 争いのない事実等1 タナカスチール工業株式会社(以下「タナカスチール工業」という。)は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)を有していたところ、原告は、平成九年六月三〇日、タナカスチール工業を合併した。
出 願 日 平成四年五月一二日 登 録 日 平成八年六月一一日 登録番号 第九六二二五一号 意匠に係る物品 羽子板ボルト 登録意匠 別紙意匠公報(以下「本件公報」という。)記載のとおり2 本件意匠の構成は、次のとおりである(甲二、弁論の全趣旨)。
(以下の単位を付していない数値は、矩形板の短辺を一とする割合的数値であり、本判決中の意匠に関する記述における同様の数値も、すべて同趣旨である。)(一) 短辺と長辺との割合をほぼ一対三・二とし、厚みをほぼ〇・〇八とした矩形板の下方(本件公報中正面図)を一方から他方へ加圧してU字状溝を形成し、右U字状溝部の高い側(同左側面図中右側)へ長さほぼ四・八、直径ほぼ〇・二八のボルトの一部を重ねてボルトとU字状溝の背部とをスポット溶接した羽子板ボルトである。
(二) 右U字状溝の長さはほぼ一・五、外幅はほぼ〇・五六であり、完全溝長さはほぼ〇・八である。完全溝部の外側には、短幅ほぼ〇・二で、長幅ほぼ〇・五六、
間隔ほぼ〇・五の突条が設けてあり、右突条とボルト端部とをスポット溶接してある。
U字状溝部の外側に形成される隆起部分の形状は、逆U字形(正面図)であり、
矩形板の平坦面との境界線は明瞭である。
U字状溝部の背面の高さは均一である。
(三) ボルトは全長ほぼ四・八で、重なり部がほぼ一・〇であり、他端にほぼ一・一のねじ部がある。
(四) 矩形板の上端から下方へほぼ〇・六の中央位置に、内径ほぼ〇・三三の円孔が穿設され、該円孔から下方へほぼ〇・六の中央位置へ、内径ほぼ〇・一四の円孔が穿設してある。
矩形板上端の両角部分は直角である。
(五) 矩形板とボルト部は平行である。
3 被告は、平成八年六月一一日から平成九年六月一五日までの間に、別紙目録(一)ないし(三)記載の羽子板ボルト(以下、それぞれ「被告製品(一)」ないし「被告製品(三)」といい、これらをまとめて「被告製品」という。また、それぞれの意匠を「被告意匠(一)」ないし「被告意匠(三)」といい、これらをまとめて「被告意匠」という。)を、別紙販売実績一覧表のとおり、業として製造販売した(甲三、
検甲五、六、弁論の全趣旨)。その販売総額は四一二五万八四〇〇円であった。
4 被告意匠の構成は、次のとおりである。
(一) 被告意匠(一)の構成(甲三、弁論の全趣旨)(1) 短辺(四〇ミリメートル)と長辺との割合をほぼ一対三・二とし、厚みをほぼ〇・〇八とした矩形板の下方(正面図中下部)を左方から右方へ(左側面図)加圧してU字状溝を形成し、右U字状溝部の高い側(左側面図中右側)へ、長さほぼ四・八で、直径ほぼ〇・二八のボルトの一部を重ねてボルトとU字状溝の背部をスポット溶接してある。
(2) 右U字状溝の長さはほぼ一・五で、外幅はほぼ〇・五六であり、完全溝長さはほぼ〇・八であり、完全溝部の外側には、短幅ほぼ〇・二で、長幅ほぼ〇・五六、
間隔ほぼ〇・五の突条が設けてある。右突条が前記ボルトとのスポット溶接部である。
U字状溝部の外側に形成される隆起部分の形状は、時計方向に九〇度回転させたC字形(正面図)であり、矩形板の平坦面との境界線はやや不明瞭である。
U字状溝部の背面は、ボルト下部に向かって切り下げられている。
(3) ボルトは全長ほぼ四・八で、重なり部がほぼ一・〇であり、他端にほぼ一・一のねじ部がある。
(4) 矩形板の上端から下方へ(孔の中心)ほぼ〇・六三の位置に、一辺が〇・三三の正方形孔が穿設され、その下方(中心間距離)ほぼ〇・七八の位置に、一辺が〇・三三の正方形孔が穿設してある。
矩形板上端の両角部分が丸くなっている。
(5) 矩形板のボルトの溶接されていない側の先端は、ボルト部の設けられている側へ若干跳ね上がってボルト部に対して斜めに設けられている。
(二) 被告意匠(二)の構成(検甲五、弁論の全趣旨)(1) 短辺(四〇ミリメートル)と長辺との割合をほぼ一対三・〇五とし、厚みをほぼ〇・〇八とした矩形板の下方(正面図中下部)を左方から右方へ(左側面図)加圧してU字状溝を形成し、右U字状溝部の高い側(左側面図中右側)へ、長さほぼ五・五で、直径ほぼ〇・二五のボルトの一部を重ねて、U字状溝部の背部とボルトの当接部とをスポット溶接してある。
(2) 右U字状溝の長さはほぼ一・三三で、外幅はほぼ〇・五八であり、完全溝長さはほぼ〇・六三であり、完全溝部の外側には、短幅ほぼ〇・二三で、長幅ほぼ〇・三三、間隔ほぼ〇・三八の突条が設けてある。右突条が前記ボルトとのスポット溶接部である。
U字状溝部の外側に形成される隆起部分の形状は、時計方向に九〇度回転させたC字形(正面図)であり、矩形板の平坦面との境界線はやや不明瞭である。
U字状溝部の背面はボルト下部に向かって切り下げられている。
(3) ボルトは全長ほぼ五・五で、重なり部がほぼ〇・六七であり、ボルトの他端にほぼ一・〇五のねじ部がある。
(4) 矩形板の上端から下方へ(孔の中心)ほぼ〇・六三の位置に、一辺が〇・三三の正方形孔が穿設され、その下方(中心間距離)ほぼ〇・七八の位置に、一辺が〇・三三の正方形孔が穿設してある。
矩形板上端の両角部分が丸くなっている。
(5) 矩形板のボルトの溶接されていない側の先端は、ボルト部の設けられている側へ若干跳ね上がってボルト部に対して斜めに設けられている。
(三) 被告意匠(三)の構成(検甲六、弁論の全趣旨)(1) 短辺(四〇ミリメートル)と長辺との割合をほぼ一対三・〇五とし、厚みをほぼ〇・〇八とした矩形板の下方(正面図中下部)を左方から右方へ(左側面図)加圧してU字状溝を形成し、右U字状溝部の高い側(左側面図中右側)へ、長さほぼ四・七五で、直径ほぼ〇・二五のボルトの一部を重ねて、U字状溝部の背部とボルトの当接部とをスポット溶接してある。
(2) 右U字状溝の長さはほぼ一・三三で、外幅はほぼ〇・五八であり、完全溝長さはほぼ〇・六三であり、完全溝部の外側には、短幅ほぼ〇・二三で、長幅ほぼ〇・三三、間隔ほぼ〇・三八の突条が設けてある。右突条が前記ボルトとのスポット溶接部である。
U字状溝部の外側に形成される隆起部分の形状は、時計方向に九〇度回転させたC字形(正面図)であり、矩形板の平坦面との境界線はやや不明瞭である。
U字状溝部の背面はボルト下部に向かって切り下げられている。
(3) ボルトは全長ほぼ四・七五で、重なり部がほぼ〇・七八であり、ボルトの他端にほぼ一・〇五のねじ部がある。
(4) 矩形板の上端から下方へ(孔の中心)ほぼ〇・六三の位置に、一辺が〇・三三の正方形孔が穿設されている。
矩形板上端の両角部分が丸くなっている。
(5) 矩形板のボルトの溶接されていない側の先端は、ボルト部の設けられている側へ若干跳ね上がってボルト部に対して斜めに設けられている。
二 争点1 被告意匠は本件意匠に類似しているかどうか(原告の主張)(一) 本件意匠は、ボルトと矩形板とを溶接するに当たり、矩形板の一側をU字状溝に形成し、その背部にボルトの一部を重ねてスポット溶接した点が従来になかった斬新な点であり、これが本件意匠の要部である。
(二) 本件意匠と被告意匠は、右要部を共通にし、寸法もほぼ同一であるから、被告意匠は本件意匠に類似する。
(被告の主張)(一) 矩形板とボルト部が段違いに形成されている羽子板ボルトは、昭和五四年三月一〇日に公開され、昭和五七年に登録された実用新案(登録番号昭五七ー四二四九、以下「本件実用新案」という。)に示されている。この羽子板ボルトをスポット溶接で製造しようとすれば、矩形板の一側をU字状に加圧形成し、その背部に溶接せざるを得ないのであるから、本件意匠の出願当時、矩形板の一側をU字状溝に形成し、その背部にボルトの一部を重ねてスポット溶接した点は公知であり、この点は本件意匠の要部とはならない。
(二) 羽子板ボルトの矩形板に設けられる透孔は、ボルトを通すためのものであり、この孔には六角ボルトが通されることから、円形に形成されるのが普通であって、本件意匠でも、従来の例に倣い円孔が設けられている。これに対し、被告意匠では、敢えてこれを角孔にしており、この点が見た者に極めて新鮮な印象を与える特徴となっている。
また、本件意匠は矩形板とボルト部が平行に形成されているのに対し、被告意匠では、矩形板のボルト部の設けられていない側の先端がボルト部の設けられている側へ跳ね上がってボルト部に対して斜めに設けられている。従来、直線的に伸びるように設計されがちであった羽子板ボルトを右のとおり斜めの形状にしたことで、
被告意匠は格別な印象を与えるものである。
以上のとおり、被告意匠は、本件意匠には見られない独創的な構成によって、本件意匠からは得られない被告意匠特有の美感を呈するから、両意匠が類似しているとはいえない。
2 タナカスチール工業が、被告に対し、被告製品の製造販売を承諾していたかどうか(被告の主張) 被告は、被告製品の販売を開始するに当たり、住友林業株式会社(以下「住友林業」という。)資材部社員【D】に対し、住友林業におけるタナカスチール工業のシェアーを絶対に侵さないことを約束するので、被告が被告製品を製造販売することについてタナカスチール工業の承諾をとってもらいたい旨申し入れた。
その後、【D】は、被告に対し、「被告が生産体制に入るまでの数か月間においてタナカスチール工業からの回答は何らなかった。」と述べて、被告製品を買い受けることを了承し、被告製品の住友林業への供給が始まった。
以上の事実からすると、タナカスチール工業は、被告製品の製造販売について、
黙示的に承諾をしていたというべきである。
(原告の主張) タナカスチール工業が、被告製品の製造販売について、黙示的に承諾した事実はない。
3 本件請求は権利の濫用であるかどうか(被告の主張) 右1(被告の主張)(一)のとおり、本件意匠の出願当時、矩形板の一側をU字状溝に形成し、その背部にボルトの一部を重ねてスポット溶接した点は公知であり、
本件意匠のそれ以外の点にも、新規性はないから、本件意匠権は無効である。したがって、本件請求は権利の濫用である。
(原告の主張)本件意匠の出願当時、矩形板の一側をU字状溝に形成し、その背部にボルトの一部を重ねてスポット溶接した点は公知ではなかった。 4 原告の損害額(原告の主張) タナカスチール工業は、本件意匠の実施品(以下「原告製品」という。)を製造販売していた。
被告の平成八年六月一一日から昭和九年六月一五日までの間の販売個数は九六万個であるところ、これは原告製品についてのタナカスチール工業の生産能力を超えるものではない。
原告製品の粗利益による利益率は三○・五九パーセントであるから、原告の損害額は、販売代金総額(四一二五万八四〇〇円)に右比率を乗じた額(一二六二万〇九四四円)に、弁護士費用(二四三万円)及び弁理士費用(一二〇万円)を加えた一六二五万〇九四四円を下回ることはない。
(被告の主張) 住友林業は、平成五年秋、これまで全く取引のなかったタナカスチール工業から原告製品の売込みを受けた。
そこで、住友林業は、同年一一月、これまで取引のあった建築金物業者である被告、株式会社カネシン及び松田金属工業株式会社並びにタナカスチール工業の四社を集め、右四社に対してエリア分けを指示した。右エリア分けの指示は絶対的なものであり、この範囲を超える原告製品の納品はあり得ないから、タナカスチール工業は、右エリア分けの指示に反して住友林業に原告製品を販売することはできなかった。また、被告が被告製品を販売した他の会社においても同様の事情が存した。
したがって、タナカスチール工業は、原告製品を被告製品と同じ数だけ販売することができなかった事情が存するというべきである。
また、利益率は、粗利益ではなく、販売費及び一般管理費を差し引いた純利益を基礎に求めるべきである。
争点に対する判断
一 争点1について1(一) 証拠(乙四の一)及び弁論の全趣旨によると、羽子板ボルトは、主として木造構造を用いる建築物の構築において、柱と、梁や土台等の横架材とを連結するために用いられるものであること、その使用方法は、平板部側を横架材に沿わせ、
平板部に設けられた取付用の孔と横架材に穿設されたボルト挿入用の貫通孔とにボルトを通し、そのボルトの先端側にナットを装着して平板部を横架材に固着し、一方、羽子板ボルトのボルトネジ側を、横架材が連結される柱に穿設されたボルト挿入用の貫通孔に挿入して先端にナットを装着するというもので、横架材と柱との連結を補助する目的で用いられるものであること、以上の事実が認められる。
(二) 証拠(甲六の一、二)及び弁論の全趣旨によると、本件実用新案に係る実用新案公報には、別紙図面(一)の羽子板ボルトの図面が掲載されていること、この羽子板ボルトは、矩形板の一端をU状断面をなすように屈曲成形し、U状断面部の両縁部にボルト部の一端を溶接したもので、矩形板の他端平坦部に大小一個ずつの円形の透孔が穿設してあり、ボルト部の他端には雄ねじが形成してあること、以上の事実が認められる。
(三) 証拠(乙一)及び弁論の全趣旨によると、財団法人日本住宅・木材技術センターが編集発行する「軸組工法用金物規格(Zマーク表示金物)」と題する冊子(平成二年四月版)には、別紙図面(二)の二種類の羽子板ボルト(羽子板ボルトSB・F及び同SB・E)の図面が掲載されていること、羽子板ボルトSB・Fは矩形板の一端にボルトの一端を溶接したものであること、羽子板ボルトSB・Eは矩形板の一端をU状断面をなすように屈曲成形し、U状断面部の両端部にボルトの一端を溶接したものであること、右両羽子板ボルトとも、矩形板の他端平坦部に大小一個ずつの円形の透孔が穿設してあり、ボルトの他端には雄ねじが形成してあること、以上の事実が認められる。
2(一) 前記第二の一の事実及び右1(二)及び(三)で認定した事実に弁論の全趣旨を総合すると、羽子板ボルトにおいて、矩形板の一端にボルトの一端を溶接した形態及び矩形板の一端をU状断面を形成するように屈曲成形した上、その両縁部にボルトを溶接した形態は、本件意匠出願時において知られていたが、本件意匠のように、矩形板の一端がU字状溝を形成し、かつ右U字状溝部の高い側(背部)にボルトの一端を溶接した形態の羽子板ボルトは、本件意匠出願時には知られていなかったものと認められるから、本件意匠において最も取引者の注意をひく点は、矩形板の一端がU字状溝を形成し、かつ右U字状溝部の高い側(背部)にボルトの一端を溶接した点にあるというべきである。
(二) 被告は、本件実用新案の羽子板ボルトのように矩形板とボルト部を段違いに形成するものを、スポット溶接によって製作しようとすれば、本件意匠のようにならざるを得ない旨主張するが、矩形板の一端にU字状溝を形成しつつ、右U字状溝の内側にボルトの一端を挿入してスポット溶接することが可能であるから(別紙図面(三)参照)、被告の右主張は採用できない。
(三) 前記第二の一4のとおり、被告意匠は、いずれも、矩形板の一端がU字状溝を形成し、かつ右U字状溝部の高い側(背部)にボルトの一端が溶接されている。
3(一) 前記第二の一のとおり、本件意匠において矩形板に設けられる透孔は円形であるところ、被告意匠において矩形板に設けられる透孔は角孔である。
しかし、右1(一)で認定した事実によると、羽子板ボルトの矩形板の一端に最低一個の透孔を設けることは、その用法上必然的なものであり、円形及び正方形はいずれもそれ自体は周知の形態であることが明らかであるから、被告が主張するように羽子板ボルトにおいて矩形板に角孔を設けたものが従前存しなかったとしても、
本件意匠と被告意匠の右の程度の差異をもって被告意匠が本件意匠と異なる美感を呈するということはできない。
(二) 前記第二の一のとおり、@正面図においてU字状溝部の外側に形成される隆起部分の形状が、本件意匠では逆U字形であり、その境界線も明瞭であるのに対し、被告意匠では、時計方向に九〇度回転させたC字形であり、その境界線もやや不明瞭になっている、A本件意匠は矩形板とボルト部が平行に形成されているのに対し、被告意匠では、矩形板のボルトの溶接されていない側の先端が、ボルト部の設けられている側へ若干跳ね上がってボルト部に対して斜めに設けられている、B本件意匠の矩形板上端の両角部分が直角であるのに対し、被告意匠では右両角部分が丸くなっている、C本件意匠のU字状溝部の背面の高さは均一であるのに対し、
被告意匠では、U字状溝部の背面がボルト下部に向かって切り下げられている、という差異があるほか、本件意匠と被告意匠では、各部分の大きさの割合も必ずしも同じではない。しかし、これらの差異はいずれも全体の美感を左右するほどの大きな差異ということはできないから、被告意匠は、本件意匠と全体的な形状が似ているということができる。
4 以上述べたところを総合すると、被告意匠は本件意匠に類似し、被告製品の製造販売は本件意匠権を侵害するものであるということができる。
二 争点2について 被告製品の販売を開始するに当たり、被告と住友林業資材部社員【D】との間で、被告が前記第二の二2被告の主張で主張するような事実があったとしても、タナカスチール工業から【D】に返答がなかったというのみであるから、直ちに、タナカスチール工業が、被告製品の製造販売について、承諾していたと認めることはできない。また、証拠(乙八)及び弁論の全趣旨によると、被告が被告製品の製造販売を開始したのは、平成六年八月であると認められるから、被告が主張する右事実があったとしても、それはそのころのことであると認められるところ、当時は本件意匠権はいまだ登録されていないから、タナカスチール工業は本件意匠権の侵害を理由として被告製品の製造販売の差止めを求めることはできなかったのであり、
そのような時期にタナカスチール工業が被告製品の製造販売を承諾していたからといって、本件意匠権登録後も被告製品の製造販売を承諾していたということはできない。
したがって、争点2についての被告の主張は採用できない。
三 争点3について 右一のとおり、本件意匠の出願当時、矩形板の一側をU字状溝に形成し、その背部にボルトの一部を重ねてスポット溶接した形態が知られていたとは認められないから、本件意匠権が無効であるとは認められず、争点3についての被告の主張は、
採用できない。
四 争点4について1 証拠(甲四、二五ないし二七、甲三二の二)及び弁論の全趣旨によると、タナカスチール工業は、平成四年一二月以来本件意匠の実施品(原告製品)を製造販売していたこと、タナカスチール工業の原告製品の生産能力は、年間四五〇万個を超えるものであったこと、平成八年一〇月から平成九年九月までの間に、タナカスチール工業及び同社を合併した原告は三四五万八五〇二個の原告製品を生産したこと、以上の事実が認められ、これらの事実によると、タナカスチール工業は、平成八年六月一一日から平成九年六月一五日までの間において、被告製品の製造販売量である九六万個について実施の能力を有していたものと認められる。
2 被告は、住友林業に対する被告製品の納入分については、納入業者間で担当エリアが設定されており、これは絶対的なものであるから、原告は右エリア分けに反して住友林業に販売することができなかったという事情があり、また、被告が被告製品を販売した他の会社においても同様の事情が存したから、タナカスチール工業は、原告製品を被告製品と同じ数だけ販売することができなかった事情が存する旨主張するので、この点について判断する。
(一) 証拠(甲二四、乙二、乙六の五ないし七、乙七の一、二)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(1) 平成五年一一月二六日、タナカスチール工業、被告、松田金属鉱業株式会社及び株式会社カネシンの四社が住友林業住宅本部資材部の主催する金物メーカー会議に参加した。この会議において、右四社が平成六年度に住友林業に納入する金物についての計画シェアが納入場所ごとの数量とともに定められた。
(2) 右会議において、平成五年度まで納入実績のなかったタナカスチール工業が、
平成六年度の羽子板ボルトの住友林業への納入分として、五三パーセントの計画シェアを取得したが、タナカスチール工業が五三パーセントの計画シェアを取得することができたのは、原告製品の納入単価が三八円と低廉であり、機能的にも優れたものであったためである。
(3) 被告は、別紙図面(二)の羽子板ボルトを納入していたが、タナカスチール工業に対抗するため、前年度単価四八円で納入していた羽子板ボルトを、原告同様三八円の単価で納入せざるを得なくなった。
(4) 平成七年度以降も、住友林業に納入する羽子板ボルトについては、納入業者毎の計画シェアが定められ、それに従って納入されてきた。
(二) 右(一)認定の事実に、前記二で認定した被告が平成六年八月に被告製品の製造販売を開始した事実を総合すると、住友林業に納入する羽子板ボルトについては、納入業者毎の計画シェアが定められ、それに従って納入されてきたが、計画シェアは、固定的なものではなく、製品の価格や性能によって変動するものであったこと、原告製品は、価格が低廉で、機能的にも優れたものであったこと、以上の事実が認められるから、被告が平成八年六月一一日以降に被告製品の製造販売をしなかったとしても、タナカスチール工業はそれに相当する原告製品を住友林業に販売することができなかったとまで認めることはできない。
(三) 被告が被告製品を販売した他の会社について、被告が平成八年六月一一日以降に被告製品の製造販売をしなかったとしても、タナカスチール工業がそれに相当する原告製品を販売することができなかったというべき事情を認めるに足りる証拠はない。
(四) したがって、被告の右主張は採用できない。
3(一) 証拠(甲二七、二九、三〇、甲三二の一、二、甲三三の一ないし五、甲三四、甲三五の一、二)及び弁論の全趣旨によると、タナカスチール工業の平成八年度下期(平成八年一〇月一日から平成九年三月三一日)の総売上高は二四億六〇三二万七五七四円であること、タナカスチール工業及び原告は、平成八年一〇月から平成九年九月までの間に、原告製品を、三四五万八五〇二個販売し、売上高は一億七二八六万五二六一円であったこと、タナカスチール工業及び原告における原告製品の製造原価は一個当たり二九・一五円であること、タナカスチール工業の平成八年度下期の販売費及び一般管理費(運送費を含む)の額は三億四三九五万六七二七円であること、以上の事実が認められる。
(二) 右(一)で認定した事実によると、タナカスチール工業及び原告における原告製品の平均販売単価は、次のとおり四九・九八円であると認められる。
一億七二八六万五二六一円÷三四五万八五〇二個=四九・九八円 また、右(一)で認定した事実によると、タナカスチール工業の平成八年度下期の総売上高並びに販売費及び一般管理費を二倍した上、原告製品の一年分の売上高に対応させて案分比例した額は、次のとおり二四二三万五三八八円であると認められる。
二四億六〇三二万七五七四円×二=四九億二〇六五万五一四八円 三億四三九五万六七二七円×二=六億八七九一万三四五四円 一億七二八六万五二六一円÷四九億二〇六五万五一四八円 ×六億八七九一万三四五四円=二四一六万六七六九円 そして、右販売費及び一般管理費を原告製品の一年分の本数で除して、原告製品一個当たりに割り振った額は、次のとおり約七・〇〇円となる。
二四一六万六七六九円÷三四五万八五〇二個≒七・〇〇円 もっとも、一年間に三四五万八五〇二個の原告製品を製造販売しているタナカスチール工業及び原告において、九六万個を増産して販売したからといって、同一比率で販売費及び一般管理費が増加するとは考えられないので、右販売費及び一般管理費をそのまま控除することは相当ではないが、右費用には運送費のような個数に比例して増加する費用も含まれており、以上の諸事情を考慮すると、タナカスチール工業における原告製品一個当たりの販売費及び一般管理費の額は五・〇〇円として計算するのが相当である。
(三) 以上によると、タナカスチール工業における原告製品一個当たりの純利益の額は一五・八三円であり、その純利益率は三一・六七パーセントであると認められる。その計算式は、次のとおりである。
四九・九八円-二九・一五円-五・〇〇円=一五・八三円 一五・八三円÷四九・九八円≒〇・三一六七4 前記第二の一3のとおり、被告製品の販売総額は四一二五万八四〇〇円であるから、原告は、意匠法39条1項により、次のとおり一三〇六万六五三五円の損害を被ったものと認められる。
四一二五万八四〇〇円×〇・三一六七=一三〇六万六五三五円5 弁論の全趣旨によると、原告は、被告による本件意匠権侵害のために本訴を提起し、弁護士費用及び弁理士費用を支出することを余儀なくされたものと認められるところ、本訴の内容、認容額等諸般の事情を総合すると、被告の本件意匠権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用及び弁理士費用相当額は、一五〇万円であると認められる。
6 そうすると、原告の損害総額は、一四五六万六五三五円となる。
一三〇六万六五三五円+一五〇万円=一四五六万六五三五円四 よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 榎戸道也
裁判官 杜下弘記
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