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関連審決 審判1994-8664
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10367審決取消請求事件 判例 意匠
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平成11行ケ275審決取消請求事件 判例 意匠
平成17行ケ10227審決取消請求事件 判例 意匠
平成15行ケ565審決取消請求事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  創作容易(容易の創作) /  一意匠一出願(7条) /  新規性 /  同一物 /  広く知られた /  記載された意匠 /  意匠の属する分野 /  寄せ集め /  物品の機能 /  同一物品 /  動的意匠 /  登録意匠 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 10年 (行ケ) 42号 審決取消請求事件
原告 株式会社シマノ代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 【B】
同 【C】
被告 ダイワ精工株式会社代表者代表取締役 【D】
訴訟代理人弁理士 【E】
同 【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1999/07/13
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成6年審判第8664号事件について平成9年12月24日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文同旨
請求の原因
1 特許庁における手続の経緯 原告は、意匠に係る物品を「釣竿」とする別紙審決書別紙第一の写しのとおりの意匠登録第880636号意匠(平成元年4月10日意匠登録出願、平成5年7月26日に設定登録、以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。被告は、平成6年5月18日に本件登録意匠に係る意匠登録の無効の審判を請求した。
特許庁は、同請求を平成6年審判第8664号事件として審理した上、平成8年3月14日に「登録第880636号意匠の登録を無効とする。」旨の審決をしたので、原告は、平成8年6月21日に上記審決の取消訴訟を東京高等裁判所に提起し、平成9年5月29日に上記審決を取り消す旨の判決がされたところ、特許庁は、更に審理した上、同年12月24日に再び「登録第880636号意匠の登録を無効とする。」旨の審決をし、その謄本を平成10年1月16日に原告に送達した。
2 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。以下、審決の認定した本件登録意匠の元竿部及び竿尻キャップの構成態様を「Aの態様」、釣竿において、各中間竿を元竿又は後方の中間竿に収納した状態で自在に固定及び伸長を可能とすることにより、釣竿の伸長時の全長を何段階かに変更調節できるようにした点及びその収納固定した中間竿の先端部分が元竿先端から階段状に露出した態様となる点を「bの態様」、釣竿において、元竿寄りの2本の中間竿のみを限定して、各中間竿を元竿又は後方の中間竿に収納した状態で自在に固定及び伸長を可能とすることにより、釣竿の伸長時の全長を何段階かに変更調節できるようにし、その収納固定した中間竿の先端部分が元竿先端から階段状に露出した態様となる点を「Bの態様」、穂先部及び第3中間竿より先の中間竿の各先端部が、収納時において、それぞれ後方の中間竿中に埋没した態様となるものである点を「Cの態様」、第1から第6までの中間竿及び穂先部について、そのそれぞれの長さが元竿と略同長で、前方のものが後方のものより細径のものとした点を「Dの態様」という。また、審決書の理由第四2[A](1)記載のカタログの部分(審決書別紙第二)を「甲第2号証刊行物」、同[A](2)記載のカタログの部分(審決書別紙第三)を「甲第3号証刊行物」、同[A](3)記載のカタログの部分(審決書別紙第四)を「甲第4号証刊行物」、同[A](4)記載のカタログの部分(審決書別紙第五)を「甲第5号証刊行物」、同[A](5)記載のカタログの部分(審決書別紙第六)を「甲第6号証刊行物」、同[B](1)記載の公開実用新案公報(審決書別紙第七)を「甲第7号証の2刊行物」、これに係る願書及び添付の明細書を「甲第7号証の1明細書」、同[B](2)記載の公開実用新案公報(審決書別紙第八)を「甲第8号証の2刊行物」、これに係る願書及び添付の明細書を「甲第8号証の1明細書」、同[B](3)記載の公開実用新案公報(審決書別紙第九)を「甲第9号証の2刊行物」、これに係る願書及び添付の明細書を「甲第9号証の1明細書」、同[C](1)記載の雑誌の部分(審決書別紙第十)を「甲第12号証刊行物」、同[C](2)記載の雑誌の部分(審決書別紙第十一)を「甲第13号証刊行物」、同[C](3)記載の雑誌の部分(審決書別紙第十二)を「甲第14号証刊行物」とそれぞれいう。
3 審決の取消事由 審決の理由第一ないし第三は認める。同第四の1のうち、10頁10行ないし18行及び11頁14行ないし17行は争い、その余は認める。同第四の2のうち、Dの態様が周知であるとした点は認め、その余は争う。
審決は、周知性の判断を誤り、創作性の判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(周知性の判断の誤り)イ 取消事由1(1)(Aの態様について) 審決引用に係る甲第2ないし第6号証刊行物に記載された意匠は、1企業の全部で何頁もあるカタログの中のたった1頁に掲載された意匠であるから、これらカタログの発行により知られ得る状態におかれたものであったとしても、周知の形状になったとはいえない。
ロ 取消事由1(2)(Bの態様について)(イ) 甲第7ないし第9号証の各2刊行物は、公開実用新案公報であるが、公開実用新案公報は、未審査の段階で発行されるものであって、その発行件数は膨大であり、当業者にとって、そのすべてを閲覧して内容を精査することは到底不可能である。したがって、これらの公報が発行された事実をもって、この種意匠の属する分野において、これらの公報に記載された意匠を周知の形状であると認定することは許されない。
(ロ) 審決は、甲第7ないし第9号証の各1明細書中の考案の詳細な説明の欄の記載を引用し、いわゆる振出し竿の全長を自在に調節可能とすることを周知の技法と認定した。しかし、明細書の考案の詳細な説明の欄は、公開実用新案公報における開示の対象に含まれていないから、その記載があるという事実だけで、これが周知であるとはいえない。
ハ 取消事由1(3)(Cの態様について) 甲第12ないし第14号証刊行物記載の意匠は、全部で何頁もある雑誌の中の1頁に掲載されたものにすぎないから、これらの雑誌の発行により知られ得る状態におかれたものであったとしても、周知の形状になったとは到底いえない。
ニ 取消事由1(4)(全体について)(イ) 審決は、本件登録意匠がBを除くAないしDの態様を寄せ集めると、周知な振出し竿の形状と一致するとし、同時にBの態様が周知の技法及び態様に該当するため、本件登録意匠は全体として周知な形状であると結論付けたものである。しかし、この種振出し竿においては、従来、本件登録意匠のように元竿の先端部から2本の中間竿の端部を突出してなる収納態様は全く見られず、また、審決引用の刊行物にも、この収納態様そのものは一切開示されていない。したがって、審決は、本件登録意匠について、部分的に周知でない形状、すなわち、Bの態様があるにもかかわらず、全体としてみれば周知であると判断したものであり、周知性に関する判断に誤りがある。
(ロ) 審決は、Bの態様を除くAないしDの態様とBの態様のそれぞれが周知であるとした上で、全体として本件登録意匠が周知であると結論付けている。しかし、
仮に両者が周知であるとしても、意匠は本来全体として1つのまとまりを有し、そこに創作的価値が見出されるものであることからすれば、Bの態様を除くAないしDを寄せ集めた態様とBの態様との間には一体的な関係が必要である。ところが、
審決は、このような一体的な関係を一切検討することなく、全体として周知であるとしたから、審決における周知性の判断は失当である。
(2) 取消事由2(創作性の判断の誤り)イ 取消事由2(1)(Aの態様について) 審決は、Aの態様について、甲第2ないし第6号証刊行物記載の意匠に基づいて創作容易であると判断した。しかし、甲第2ないし第6号証刊行物記載の意匠は、
いずれも写真であって部分斜視図のみからなるため、その形状を十分認定できないものであるが、Aの態様とはその態様を異にするものである。すなわち、甲第2号証刊行物記載の意匠は、元竿のグリップ部の先端側が極端な極細形状である点で本件登録意匠とは異なる。甲第3号証刊行物記載の意匠は、いずれも元竿のグリップ部と先端側が略同径である点で本件登録意匠とは異なり、また、これらの意匠の元竿の形状も、それぞれ異なる。甲第4号証刊行物記載の意匠は、その元竿のテーパ部が細長態様である点で本件登録意匠とは異なる。甲第5号証刊行物記載の意匠は、元竿の形状がそれぞれ異なる。甲第6号証刊行物の意匠は、元竿の中間のテーパ部が明確でないばかりか、グリップ部と先端部側との径の大小も、本件登録意匠とは異なる。
ロ 取消事由2(2)(Bの態様について) 甲第7ないし第9号証の各1明細書の記載を詳細に検討すれば、上記各明細書記載の考案は、いずれも振出し竿について、いかに釣場の状況に応じて1本の釣竿ですませることができるかを追求するものであり、いわば振出し竿の全長の長さ調節のための技術的手段を開示したものであって、本件登録意匠のような元竿よりの一部の中間竿のみを突出させた収納形状は、一切明示されていない。
甲第7号証の2刊行物記載の意匠は、元竿自体がほぼ同径からなり、元竿の先端からわずかに第1中間竿の端部のみが突出してなるが、これは、収納形状を開示しているとはいえず、本件登録意匠とは顕著な差異が認められる。甲第8号証の2刊行物記載の意匠は、一部の中間竿及び穂先が突出した、いわば使用状態の形状を表してなるものであり、本件登録意匠とは本質的に異なる。甲第9号証の2記載の意匠は、元竿自体の形状が本件登録意匠のものとは明らかに異なる。しかも、上記意匠は、元竿からすべての中間竿の端部及び穂先を階段状に突出させ全体として釣竿先端部がピラミッド形状を呈してなる収納形状が開示されており、この形状と本件登録意匠形状は明らかに別異のものである。
審決が上記各意匠の形状に基づき本件登録意匠創作容易であると判断したのは、結局、釣竿の全長を調節する「技法」なる概念により推認した結果にすぎず、
このように形状に基づくことなく本件登録意匠の創作性を否定することは、決して許されるべきではない。
ハ 取消事由2(3)(Cの態様について) 甲第12ないし第14号証刊行物記載の各意匠は、すべて元竿のみが表れているもので、この元竿内に穂先若しくは中間竿が収納されているか否か不明である。また、仮に穂先や第3中間竿より先の中間竿が収納されているとしても、同時に第1及び第2中間竿も収納された態様からなっており、これは、いわば従来の振出し竿を開示したにすぎないものである。したがって、穂先及び中間竿のすべてを収納した元竿の形状のみからなる上記各意匠と、第1、第2中間竿の端部を階段状に突出させた形状からなる本件登録意匠とは、明らかにその形状を異にするものであるから、上記各意匠から本件登録意匠が容易に創作できるとは考えられない。
また、審決は、前記Bの態様とCの態様が合わさることにより、本件登録意匠の創作のポイントである元竿側から第1及び第2の中間竿のみを露出してなる態様が容易に創作できると判断している。しかし、B及びCの態様には、本件登録意匠の創作ポイントである第1及び第2中間竿の端部のみを階段状に突出してなる形状が一切明示されていないのである。そうとすれば、B及びCの態様を合わせたとしても、本件登録意匠の上記形状を創作できるとは考えられない。
ニ 取消事由2(4)(全体について) 本件登録意匠は、各構成態様、特に、Aの態様の元竿の形状と、Bの態様の2本の中間竿のみが露出した態様が有機的に結合して一体不可分の「まとまりある意匠」を構成しているにもかかわらず、審決は各態様を分離し、分離した態様毎に個別に創作性を判断した。しかし、意匠は、各態様がまとまった全体形状にあるものである以上、審決のような個別、分離判断は、意匠の創作性の判断としては誤りである。
ホ 取消事由2(5)(創作課題と使用形態について) 釣竿の分野においては、例えば渓流で源流部に入ると、川幅が狭くなり、ポイントが小さくなって、元竿を縮めて使う必要がある。本件登録意匠は、このような場合に、数種類の長さに使い分けて使用することができ、かつ、縮めた状態でも全くガタつきが生じず、しかも、縮めた中間竿を必要に応じて素早くワンタッチで取り出せる釣竿を提供することを創作課題とするものである。本件登録意匠は、上記課題を達成するために、元竿先端部から元竿寄りの2本の中間竿の先端部のみを階段状に露出させると共に、元竿の形態を大径円筒部からなるグリップ部と該グリップ先端のテーパ部と該テーパ部の先端側の小径部によって形成し、かつ、元竿内の2本の中間竿の外周面と元竿の内壁面とは上記小径部内においては近接状態とし、グリップ部内においては大なる隙間を形成してなる。
甲第7ないし第9号証の各2刊行物記載の考案は、振出し竿において、ふくらみ、リングないし径大部を設けて元竿に対して各中間竿を自在に調節可能とし、任意の位置に中間竿の位置決めを可能としたものであって、本件登録意匠のように実際に魚がかかった際に、とっさに全長の長さを3種類に長くしたり、短くしたりすることを課題としたものではないのみならず、このような創作思想もない。
このように、本件登録意匠は、2本の中間竿のみを元竿の先端部に露出させることによって、釣竿全長を3種類に使い分けて使用可能とすることに最大の創作課題がある。ところが、審決は、これを看過して、中間竿間の長さ調節可能が本件登録意匠であると解し、長さ調節可能な甲第7ないし第9号証の各2刊行物記載の意匠から創作が容易である旨判断したが、これは不当な判断である。
また、本件登録意匠は、釣竿の全体の長さを3種類に使い分けて使用できるものである。一方、甲第7ないし第9号証の各2刊行物記載の意匠は、全長を使い分けするものではなく、中間竿間の長さを調節するものである。ところが、審決は、このような使用形態の異なる文献の内容から本件登録意匠の創作が容易である旨判断したが、これは失当である。
請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1、2の事実は認める。同3は争う。
2 被告の主張(1) 取消事由1についてイ 取消事由1(1)について(イ) 甲第2ないし第6号証刊行物は、いずれも日本国内において広く知られて周知に至っていたものであり、そこに記載された意匠は周知であった。
(ロ) また、意匠の開発ないし出願をするに当たって、当該意匠に係る物品に関連する情報を収集調査することは当然に行われていることであり、上記刊行物記載の意匠は、当業者にあっては、広く知られていたものとするのが相当である。
ロ 取消事由1(2)について(イ) 甲第7ないし第9号証の2刊行物は、それらの公開から本件登録意匠の出願日までの間10年6か月ないし5年3か月の期間が経過しており、この間に全国の閲覧所等においてこれらの公報を閲覧した者はおびただしい数に上るから、本件登録意匠の出願時においては、不特定多数の者が知得し、周知の状態に至っていた。
(ロ) 審決が、なお書きで甲第7ないし第9号証の各1明細書の記載に触れた点は、審判における原告の主張に対して補足的に指摘したまでのものであり、明細書の記載を引用するまでもなく、bの態様は周知である。また、上記各明細書は、何人も容易に閲覧することができるものであるから、周知といっても過言ではない。
ハ 取消事由1(3)について 甲第12ないし第14号証刊行物記載の意匠についても、前記イ(ロ)と同様であって、当業者には広く知られていたものとするのが相当である。
ニ 取消事由1(4)について(イ) 審決には、「本件登録意匠は全体として周知な形状である」旨の記載はなく、審決はその旨の判断をしたものではないから、これを前提とする原告の主張は、失当である。
(ロ) 審決は、本件登録意匠が全体として周知であるとしたものではない。
意匠法3条2項(平成10年法律第51号による改正前のもの、以下同じ。)の規定は、いくつかの形状模様、色彩を組み合わせる場合も包含するものであるから、寄せ集め又は結合した周知の構成要素相互の関係についての制約はなく、これらが一体的な関係である必要はない。
本件登録意匠の場合は、周知の態様と認定された各態様も同一構成の同一物品における各部位の態様であって密接な関連があり、そのまとまりとしても特別な創作があるとは認められないものであるから、本件登録意匠は容易に創作することができたものである。
(2) 取消事由2についてイ 取消事由2(1)について 審決は、甲第2ないし第6号証刊行物記載の意匠の態様とAの態様が同一であると判断しているのではない。Aの態様は、上記各刊行物記載の意匠の態様に基づいて、当業者ならば誰でもが普通に加えるであろう程度の改変を加えたまでのものであって、創作としては同一といい得るほどに共通しているから、審決は、ほぼ一致と判断しているのであって、上記各刊行物記載の意匠の態様と本件登録意匠の態様に差異があるのは当然である。
ロ 取消事由2(2)について 審決は、甲第7ないし第9号証の各2刊行物について、bの態様が開示されているとしているものであって、これらを本件登録意匠の態様と同一の態様としているものではないから、上記各刊行物記載の意匠の態様と本件登録意匠の態様に差異があるのは当然である。
原告は、あたかも意匠の分野における創作容易の判断には、技法によって形成される形状の入る余地が全くないかのように主張する。しかし、意匠は物品に関するものであり、意匠の創作に当たっては、目的とする物品の機能、構造、加工技術を含む技法等を考慮しつつ一つの形状にまとめるものであり、まして、本件登録意匠のように変化する意匠(動的意匠)には、機構などの技法が介在するものであって、本件登録意匠の場合にも、その創作に当たっては、当然この種物品における技法を考慮しているものであるから、その意匠の創作容易性の判断には、物品をまとめるに当たって介在する技法についても、当然判断されてしかるべきである。
ハ 取消事由2(3)について 原告は、Cの構成について容易に創作できるとは考えられない旨主張するけれども、審決は、Cの態様が日本国内において既に広く知られていたものと認められると判断しているものであって、創作容易性について判断しているものではないから、上記主張は失当である。
ニ 取消事由2(4)について 原告の主張するまとまりとしての判断は、新規性における類否判断においてされるものであるところ、本件の場合は、創作容易性の判断であるから、意匠の構成要素を個別に分離判断することは当然である。
そして、前記(1)ニで述べたとおり、意匠法3条2項の規定の適用については、組み合わされた形状模様、色彩が一体的な関係である必要はなく、また、全体としての本件登録意匠についても、本件登録意匠と密接な関連のある技法及び態様からの商業的変形にすぎないものであって、特別な創作があるとは認められないものである。
ホ 取消事由2(5)について 審決の判断は、意匠法3条2項の規定に準拠しているものであり、原告の主張する釣竿を3種類に使い分けて使用するということと、中間竿間の長さを調節するという着想、創作課題や創作目的の相違は、特許、実用新案のような技術的思想としては相違する結果があるとしても、意匠法による創作容易性の判断の要素とはならない。
証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。
理 由
請求の原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。
審決の取消事由について判断する。
1 取消事由1について(1) 取消事由1(1)について 乙第1号証の1ないし55、第2号証の1ないし44、第3号証の1ないし43、第4号証、第5ないし第9号証の各1、2、第10号証、第11ないし第16号証の各1、2、第17号証、第18ないし23号証の各1、2、第24号証、第25号証の1、2及び弁論の全趣旨によれば、甲第2ないし第5号証刊行物は、被告の商品カタログであるところ、被告は、上記各刊行物が刊行された当時、全国各地に約20か所の営業所・出張所を有する釣具等のメーカーであったこと、上記各刊行物は、本件登録意匠の登録出願前に、少ないものでも8万部以上が印刷されると共に上記被告の各営業所・出張所を始め、被告の取引先の釣具店や数万人以上の来場者があった展示会において不特定多数の者に対し頒布されていたことが認められ、以上の事実によれば、甲第2ないし第5号証刊行物記載の意匠は、本件登録意匠の登録出願前に日本国内において広く知られていたことが認められる。
乙第24号証及び弁論の全趣旨によれば、甲第6号証刊行物は、株式会社オリムピックの商品カタログであるところ、同社は、同刊行物の刊行された当時、釣具の業界紙において、被告(昭和20年設立で平成3年ころには資本金約64億円となっていたこと及び上記営業所・出張所数からして、同刊行物の刊行当時において、
相当大規模な企業であったと認められる。)や原告(昭和15年設立で平成8年ころには資本金約356億円となっていたことからして、同刊行物の刊行当時において、相当大規模な企業であったと認められる。)らと同列に扱われている釣具の総合メーカーであることが認められ、上記事実によれば、甲第6号証刊行物も、同日に特許庁資料館に受け入れられている甲第5号証刊行物と同様、本件登録意匠の登録出願前に多数部が不特定多数の者に頒布されていたものと推認されるから、同号証刊行物記載の意匠は、本件登録意匠の登録出願前に日本国内において広く知られていたことが認められる。
(2) 取消事由1(2)についてイ 乙第26号証及び弁論の全趣旨によれば、公開実用新案公報は、実用新案登録出願に係る技術内容を一般公衆に知らせることを目的として特許庁長官が刊行頒布するものであって、全国数十か所以上の公衆閲覧所のほか、多くの団体、企業にも頒布されていることが認められる。そして、甲第7ないし第9号証の2刊行物が刊行されてから、本件登録意匠の登録出願まで5年以上を経過しているから、この間に上記各刊行物ないしその複写物を閲覧した者は非常に多数にのぼるものと推認される。したがって、甲第7ないし第9号証の2刊行物記載の意匠は、本件登録意匠の登録出願前に日本国内において広く知られていたことが認められる。
ロ 原告は、公開実用新案公報の発行件数が膨大であるから、当業者にとって、そのすべてを閲覧して内容を精査することが不可能であるから、甲第7ないし第9号証の各2刊行物記載の意匠は、本件登録意匠の登録出願前に日本国内において広く知られていなかった旨主張する。しかし、当業者は、その取り扱う物品等に関する工業所有権関係の情報に大きな関心を持ち、これを収集しているものと容易に推認されるところであるから、原告の主張は、採用することができない。
ハ 原告は、審決が、甲第7ないし第9号証の各1明細書中の考案の詳細な説明の欄の記載を引用して、いわゆる振出し竿の全長を自在に調節可能とすることを周知の技法と認定したことを前提として、これが周知ではない旨主張する。しかし、審決は、甲第7ないし第9号証の各2刊行物記載の意匠を引用して、bの態様が周知であったと認定したものであって、甲第7ないし第9号証の各1明細書中の考案の詳細な説明の欄の記載を引用したものではないことは、審決の説示から明らかである。原告の主張は、前提を欠くものであって、失当である。
(3) 取消事由1(3)について 乙第32、第33号証によれば、甲第12、第13号証刊行物は、少ないものでも8万部発行されたことが認められ、第14号証刊行物も、その性質上、多数部が発行されたものと推認されるから、上記各刊行物記載の意匠は、本件登録意匠の登録出願前に日本国内において広く知られていたことが認められる。原告は、上記意匠が、全部で何頁もある雑誌の1頁に掲載されたものであることを理由として周知ではない旨主張するけれども、雑誌が何頁もあれば個々の頁は閲読されなくなるなどというものではないから、上記主張は失当である。
(4) 取消事由1(4)について 原告は、審決が、本件登録意匠は全体として周知な形状であると結論付けたことを前提として、その判断が誤りである旨主張する。しかし、審決は、「本件登録意匠は、全体として本件登録意匠の出願前において既に日本国内において広く知られた形状(態様)に基づいて当業者が容易に創作をすることができたもの」(18頁14行ないし18行)であると認定判断しているのであって、本件登録意匠は全体として周知な形状であるとしたものではないことは、審決の説示から明らかである。原告の主張は、前提を欠くものであって、失当である。
2 取消事由2について(1) 取消事由2(1)について 原告は、甲第2ないし第6号証刊行物記載の意匠の態様がAの態様とは異なるとして、Aの態様の創作が容易ではなかった旨主張する。しかし、上記各刊行物記載の意匠の態様とAの態様との差異は、微差であって、Aの態様は、上記各刊行物記載の意匠の態様に基づいて、当業者が普通に加えるであろう程度の改変を加えた程度のものと認められる。原告の主張は、採用することができない。
(2) 取消事由2(2)についてイ 甲第7ないし第9号証の各2刊行物によれば、bの態様は、本件登録意匠の登録出願前に日本国内において広く知られていたことが認められる。そして、Bの態様は、bの態様について、各中間竿を元竿又は後方の中間竿に収納した状態で自在に固定及び伸長を可能とするについて、元竿寄りの2本の中間竿のみを限定したものにすぎないから、bの態様から当業者が容易に創作をすることができたものと認められる。
ロ 原告は、甲第7ないし第9号証の各2刊行物について、本件登録意匠のような第1、第2中間竿の端部のみを元竿から階段状に突出させた形状が示されていない旨主張する。しかし、甲第7ないし第9号証の各2刊行物に元竿よりの一部の中間竿のみを突出させた収納形状が明示されておらず、その態様自体は周知ではなくても、bの態様が周知である以上、元竿寄りの2本の中間竿のみを限定することは、
容易に創作をすることができたものであることは前認定のとおりである。したがって、甲第7ないし第9号証の各2刊行物について、本件登録意匠のような元竿よりの一部の中間竿のみを突出させた収納形状が明示されていないことは、上記認定を左右するものではない。
また、原告は、審決が、本件登録意匠創作容易であると判断したのは、釣竿の全長を調節する「技法」なる概念より推認した結果であり、形状に基づかずに本件登録意匠の創作性を否定した旨主張する。しかし、Bの態様は、bの態様から当業者が容易に創作をすることができたものであって、bの態様が形状ではないということはできないから、原告の主張は、採用することができない。原告は、bの態様のうちの、「釣竿において、各中間竿を元竿又は後方の中間竿に収納した状態で自在に固定及び伸長を可能とすることにより、釣竿の伸長時の全長を何段階かに変更調節できるようにした点」を形状ではないと主張するものと解されるけれども、上記は、伸長した状態、一部の中間竿を元竿に収納して伸長した状態というように、
釣竿の伸長時の全長が何段階かに変化する動的意匠であることを意味するものであって、このように形状が変化する動的意匠であることをもって、それが形状ではないということはできないのである。ちなみに、本件登録意匠においても、収納状態、全竿を伸ばした状態、一本の中間竿を元竿に収納した状態というように、全長が何段階かに変化する動的意匠であるが、これが形状ではないとは解されないところである。
(3) 取消事由2(3)について 原告は、穂先及び中間竿のすべてを収納した元竿の形状のみからなる甲第12ないし第14号証刊行物記載の意匠と、第1、第2中間竿の端部を階段状に突出させた形状からなる本件登録意匠とは、明らかにその形状を異にするものであるから、上記各意匠から本件登録意匠が容易に創作できるとは考えられない旨主張する。しかし、Cの態様のみから第1、第2中間竿の端部を階段状に突出させた形状が容易に創作できなければならないものではない。すなわち、前記(2)のとおり、Bの態様のうち、元竿寄りの2本の中間竿のみを限定して、収納固定した中間竿の先端部分が元竿先端から階段状に露出した態様は容易に創作することができたものであり、Cの態様が周知である以上、両者を組み合わせれば、必然的に第1、第2中間竿の端部を階段状に突出させた形状となるものであるから、原告の主張は、採用することができない。
(4) 取消事由2(4)について 原告は、本件登録意匠について、審決は各態様を分離し、分離した態様毎に個別に創作性を判断したことを前提として、これを誤りである旨主張する。しかし、審決は、「本件登録意匠は、全体として本件登録意匠の出願前において既に日本国内において広く知られた形状(態様)に基づいて当業者が容易に創作をすることができたもの」(18頁14行ないし18行)として、本件登録意匠の全体について容易に意匠の創作をすることができた旨判断しているから、原告の主張は、前提を欠くものである。なお、AないしDの態様は、いずれも釣竿という同一物品に係る形状であるから、これを組み合わせることは極めて容易である。したがって、AないしDの態様が日本国内において広く知られた形状ないしこれから創作容易である以上、これらを組み合わせてなる本件登録意匠も、当業者が日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に創作をすることができたものと認められるから、上記審決の判断にも誤りはない。
(5) 取消事由2(5)について 原告は、本件登録意匠は、2本の中間竿のみを元竿の先端部に露出させることによって、釣竿全長を3種類に使い分けて使用可能とすることに最大の創作課題があり、また、釣竿の全体の長さを3種類に使い分けて使用できるものであるのに、審決は、中間竿間の長さの調節をするものであり、使用形態の異なる甲第7ないし第9号証の各2刊行物記載の意匠から創作が容易である旨判断したから、誤りである旨主張する。
しかし、本件登録意匠は、当業者が日本国内において広く知られた形状から創作することができたものであることは前記認定のとおりである。原告の主張は、本件登録意匠は日本国内において広く知られた形状と比べて、技術的な課題及び技術的な理由による作用効果が相違ないし優れていることを根拠として本件登録意匠の創作の困難を主張するものであるが、意匠は、視覚を通じて美感を起こさせるものであって、技術的思想の創作ではないから、技術的な課題及び技術的な理由による作用効果が相違ないし優れているとしても、そのことをもって意匠の創作が困難となるというものではない。
したがって、原告の主張は、採用することができない。
3 なお、原告は、本件登録意匠について、中間竿が6本よりなるとした審決の認定を争う。しかし、本件登録意匠における全竿を伸ばした状態を示す正面図及び平面図によれば、本件登録意匠の中間竿は6本よりなるものと認められるけれども、
仮にそうではないとしても、前記1、2の認定を左右するものではないから、上記は審決の結論に影響を及ぼすものではない。
また、原告は、審決の認定した本件登録意匠の収納形態の要約を争う。なるほど、上記要約においては、収納時において第1及び第2の中間竿の先端部のみが階段状に露出することが記載されていない。しかし、審決は、本件登録意匠の形態の詳細は、審決書別紙第一の写しのとおりのものである旨認定した上で、収納時において第1及び第2の中間竿の先端部のみが階段状に露出することを意味することになるB、Cの態様が日本国内において広く知られた形状ないしこれから創作容易であると認定判断して結論を導いているのであるから、結局、上記要約の記載の不足は、審決の結論に影響を及ぼすものではない。なお、原告は、上記第1及び第2の先端部の中間竿の突出長さが同一の長さであることをも記載しなければならないとの趣旨で争うものとも解されるけれども、階段状に露出するということは、各突出長さが同一であるということであるから、原告の主張が上記の趣旨であるならば、
採用することはできない。
4 以上のとおりであるから、本件登録意匠は当業者が日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に創作をすることができたとした審決の認定判断に誤りはなく、審決には、原告主張の違法はない。
結論
よって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日・平成11年5月27日)
裁判長裁判官 清永利亮
裁判官 山田知司
裁判官 宍戸充
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