関連審決 |
審判1990-8551 |
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関連ワード | 物品 / 物品の形状 / 形状 / 模様 / 色分け / 意匠に係る物品 / 一意匠一出願(7条) / 新規性 / 公然知られた(3条1項1号) / 3条1項3号 / 類似する意匠 / 置換 / 意匠の類似 / 意匠の類否 / 類似性(類否判断) / |
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事件 |
平成
7年
(行ケ)
33号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1995/09/26 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が平成2年審判第8551号事件について平成6年11月24日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告主文同旨の判決2 被告(1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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請求の原因
1 特許庁における手続の経緯 原告は、意匠に係る物品を「タイムカード」とする別紙第一(色彩は登録願書添付の図面原本表示のとおりである。)記載の意匠(以下「本願意匠」という。)について、昭和62年2月4日意匠登録出願(昭和62年意匠登録願第4037号)をしたところ、平成2年3月30日拒絶査定を受けたので、同年5月16日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成2年審判第8551号事件として審理した結果、平成6年11月24日「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決をし、その謄本は、平成7年1月19日原告に送達された。 2 審決の理由の要点(1) 本願意匠の構成態様は前項記載のとおりである。 (2)@ これに対して、本出願前の昭和49年5月22日より東京・晴海で開催された第49回ビジネスショーにおいて公然と頒布された「アマノBカード」と表示されたタイムカードの意匠の形態は、別紙第二(色彩は上記タイムカード原本表示のとおりである。以下「引用意匠」という。)に示すとおりである。 A そこで、本願意匠と引用意匠とを比較すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態においては、両面使用の縦長長方形状のタイムカード用紙(本願意匠は、使用前の状態において通常のタイムカードの2倍の左右幅を有するものであるが、その左半部を表面、右半部を裏面として、中央の上下方向に表わされた中心線及び折り曲げミシン線によって2つに折り畳んだ使用状態時の態様で引用意匠と比較する。)の表裏面において、各々の全面を、横の罫線で、約上段2/7、中段4/7、下段1/7に大きく3分割し、上段を表示欄、中段を記録欄、下段をその他の欄としたものであって、表示欄は、上縁に沿って一杯に暗調子の細幅帯状部を表わし、その下方を横の罫線で上下に略2等分し、記録欄は、縦横の罫線で複数列の多数段状となるよう多数の横長長方形の区画を表わした基本的構成態様が共通するものである。 また、具体的態様においても、記録欄については、左端及び右端の列の区画は、 横幅を多少狭いものとし、最上段は、見出し欄としたものであって、その区画については、縦幅を多少大きくし、左端の1区画と右端の3区画を除いた部分を横の罫線でさらに上下に略2等分したものであって、その内の下段における左右両端の2つの区画については、略全体を暗調子とした具体的態様においても共通するものである。 他方、差異点としては、 イ.本願意匠は、使用前の状態において通常のタイムカードの2倍の左右幅を有するものであるが、使用時には、中央の上下方向に表わされた中心線及び折り曲げミシン線によって二つに折り畳んだ状態でその表裏面を使用するものであるのに対して、引用意匠は、通常の大きさのタイムカードであって、その表裏面を使用するものである点、 ロ.表示欄の上縁に沿って表わした暗調子の細幅帯状部について、本願意匠は、表面側を青色のべた塗り、裏面側を青色の極く細かい斜め格子状としているのに対して、引用意匠は、表面側を青色のべた塗り、裏面側を赤色のべた塗りとしている点、 ハ.表示欄の上縁に沿って暗調子の細幅帯状部を表わした下方部について、本願意匠は、表裏面とも横の罫線で上下に略2等分して上下段としているのに対して、引用意匠は、表面側については上段の欄を縦横の罫線で再分割し、裏面側は上下段とも縦横の罫線で再分割している点、 ニ.記録欄に表わした見出し欄の略全体を暗調子とした2つの区画について、本願意匠は、表裏面とも中央部の横長長方形状の白色部分を除いた全面を青色の細かな水玉模様地としているのに対して、引用意匠は、表面の区画全面を青色のべた塗り、裏面の区画全面を赤色のべた塗りとしている点、 ホ.下方のその他の欄について、本願意匠は、表裏面とも無模様であるのに対して、引用意匠は、表裏面とも縦横の罫線で再分割している点、 に差異が認められる。 B そこで、これらの共通点と差異点とを総合して、両意匠を全体として考察すると、前記の共通するとした基本的構成態様及び具体的態様は、両意匠の全体的な形態の特徴を最もよく表わすものであり、また、看者の注意を強く惹くところのものと認められるので、意匠の類否判断を左右する要部をなすものと認められる。 これに対して、具体的態様における差異点をみると、 イ.について、本願意匠は、使用前の状態において、引用意匠の2倍の左右幅を有するもので、使用時においては、中央の上下方向に表わされた中心線及び折り曲げミシン線によって2つに折り畳んだ状態でその表裏面を使用するものである点については、本出願前よりこのような態様のタイムカードは、普通に知られていて、本願意匠独自の特徴あるものではなく、使用時において、引用意匠と同様の形状となり、その表裏面を使用する本願意匠と引用意匠とは、意匠上大差のあるものとはいえず、 ロ.の表示欄の上縁に沿って表わした暗調子の細幅帯状部の裏面側について、本願意匠は、青色の極く細かい斜め格子状としているのに対して、引用意匠は、赤色のべた塗りとしている点の差異については、表面側と裏面側を区別するのに態様を各々変えている点では、両者ともに一致しており、本題意匠は、極く細かい斜め格子状であるから、引用意匠とは、階調が僅かに相違する程度の軽微な差異と認められ、 ハ.の表示欄における暗調子の細幅帯状部の下方部についての差異は、この種の分野において、本出願前より本願意匠のようにカードの同部を横の罫線で上下に略2等分して単純に上下段としているものもあり(例えば、特許庁資料館所蔵、受入昭和48年12月6日の外国雑誌「GAYLORD」1973―74の45頁の上方左端所載、No.135の雑誌請求カードの意匠)、部分的な改変であって、本願意匠独自の特徴として採り上げることができず、その差異は、類否判断を左右する要素として微弱なものと認められ、 ニ.の記録欄に表わした見出し欄の略全体を暗調子とした2つの区画についての差異は、本願意匠の中央部に表わされた横長長方形状の白色部分は、小さいものであるので、意匠全体として見ると目立たず、両意匠は、記録欄の同位置に略全体を暗調子とした見出し用の区画を表わしたという共通する態様に埋没する軽微なものといわざるを得ず、 ホ.のその他の欄についての差異も、本願意匠のように表裏面とも無模様とすることは、本出願前より普通になされていることであるので、類否判断を左右する要素として微弱なものと認められる。 そうして、これらの差異点を総合しても前記の共通するとした基本的構成態様及び具体的態様における共通点を凌駕するものとは到底いえない。 C 以上のとおり、本願意匠は、引用意匠と意匠に係る物品が一致しており、形態においても、その形態上の特徴を最もよく表わし、また、看者の注意を惹くところのものと認められる要部が共通するものであるから、両意匠は、類似するものというほかない。 したがって、本願意匠は、その出願前に国内において公然知られた意匠に類似するものであるから、意匠法3条1項3号に該当し、意匠登録を受けることができない。 3 審決の取消事由 審決の認定判断のうち、審決の理由の要点(1)、(2)@、Aは認める、Bイ.ロ.ニ.は争い、ハ.ホ.は認める、Cは争う。 審決は、本願意匠と引用意匠の差異点イ.ロ.ニ.に対する判断を誤り、その結果、本願意匠と引用意匠は類似すると判断し、本願意匠は、意匠法3条1項3号に該当し、意匠登録を受けることができないとしたものであって、違法であるから取り消されるべきである。 (1) 差異点イ.に対する判断の誤り 本願意匠は、通常のタイムカードの倍の大きさの紙に片面印刷したものであるのに対して、引用意匠は、1枚のカードの表裏面に印刷されている。本願意匠は、タイムカードとして出退勤時刻を打刻する際には折り畳んで使い、後に集計作業などをする際には展開して使用する。 本願意匠を畳んだ状態では、引用意匠と形状が同じになってしまうが、上記のように形状が違うことは重要な相違である。意匠の一要素たる「物品の形状」として相違しているのであり、見る者に与える印象が大いに違い、意匠としての類似性を否定するのに十分である。 審決は、本願意匠について、基本的にこれを折り畳んだ状態でのみ比較しており、失当である。また、必要に応じて広げて見ることができるのは、事務処理上便利であるという背景もあることから、この形状の相違は看過されるべきではない。 被告が主張するように、折り畳んで使用する形状のタイムカードは、本出願前既に知られていたものであることは、原告も争うものではない。しかしながら、原告は、本願意匠と引用意匠とは類似していないと主張しているのであり、折畳み型であることは意匠の1要素たる「物品の形状」として相違することを主張しているのであって、折畳み型の新規性を主張しているわけではないから、この点について創作性が見られないのは当然である。 (2) 差異点ロ.に対する判断の誤り 表示欄の上縁に沿って表わした暗調子の細幅帯状部について、本願意匠は、表面側を青色のべた塗り、裏面側を青色の極く細かい斜め格子状としているのに対して、引用意匠は、表面側と裏面側とで青色と赤色を使い分けており、どちらもべた塗りとなっている。 意匠は、「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」として定義されている(意匠法2条1項)。色彩は意匠の構成要素であり、色彩の相違は、一般に、 意匠としての類似性を否定するのが通常である。 本願意匠は、単色印刷であり、これに対して、引用意匠は、表面側と裏面側を青色と赤色で別々に使い分けている。この色彩の相違によって、見る者に与える印象が大きく相違している。 審決は、この差異点について、表面側と裏面側を区別するのに態様を各々変えている点では、両者ともに一致していると判断している。なるほど、面の区別という機能のためには、これらは共通するものであろう。しかしながら、見る者の印象についていえば、これは重要な相違である。 被告は、1色の色彩で表わされている場合にそれを置き換えても新規な意匠を創作したことにならないと指摘する。かかる指摘自体は当然のことであるが、本願意匠については当てはまらない立論である。 本願意匠は、引用意匠と比較して、色彩の相互関係に相違があるうえ、加えて斜め格子状で表わされていることによって、見る者に対する印象が大きく相違している。 (3) 差異点ニ.に対する判断の誤り 記録欄に表わした見出し欄の略全体を暗調子とした2つの区画について、本願意匠は、表裏面とも中央部の横長長方形状の白色部分(実際の商品では、ここに項目名が入る。)を除いた全面を細かな水玉模様地としているのに対して、引用意匠は、表面側を青色のべた塗り、裏面側を赤色のべた塗りとしている。 審決は、この点についても、その差異は、記録欄の同位置に略全体を暗調子とした見出し用の区画を表わしたという共通する態様に埋没する軽微なものとしているが、前項(2)と同じ理由で、見る者の印象についていえば、重要な相違である。 被告は、水玉模様などの相違があるにしても、「目から一定の距離を置いて観察するものである」、「意匠全体に占める大きさが必ずしも顕著でない」などと指摘して、なお本願意匠と引用意匠とは類似すると主張するが、かかる指摘は失当である。本願意匠の面積の相当部分を占める枠の部分は、タイムカードとしての機能から、殆ど一意的にデザインが決まってしまうものであり、その面積が大きく、かつ共通しているからといって、意匠として類似していると理解するのは誤りである。 特徴付けられる枠の外の部分に相違があれば、意匠としても非類似である。 |
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請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1、2は認める、同3は争う。審決の認定判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。 2(1) 差異点イ.に対する判断の誤りについて@ 原告は、「本願意匠は、通常のタイムカードの倍の大きさの紙に片面印刷したものであるのに対して、引用意匠は、1枚のカードの表裏面に印刷がされている。 …このように形状が違うことは重要な相違である。意匠の一要素たる「物品の形状」として相違しているのであり、見る者に与える印象が大いに違い、意匠としての類似性を否定するのに十分である。」と主張する。 しかしながら、出願に係る意匠が意匠登録されるためには、登録に値する一定の客観的な創作がなされていることが必要であり、この客観的な創作の判断にあたっては、その出願前の周知の形態及び公知意匠との比較において、その意匠が実質的に創作されたところの態様が、当該意匠の類否判断上の要部を形成するところとなり、また、その要部の態様が視覚上の認識においても看者の注意を惹くところとなるものでなければならない。その余の要部以外の部分の態様は、要部における態様に対して、類否判断に与える影響は相対的に小さなものになる。 これを本件についてみるに、本願意匠の全体の形状が引用意匠の横方向に倍の大きさとしている点については、タイムカードとしての主たる使用の状態において、 本願意匠と同様に通常のタイムカードの大きさになることを前提として、横方向に通常のタイムカードの倍の大きさとした態様のものが、本出願前から多数存在したことが明らかである(乙第2号証ないし第6号証)から、当業者には、このような意匠は本出願前から広く知られていたとするのが相当である。したがって、全体の形状を本願意匠のように横方向に倍の大きさとすることは、当業者であれば着想容易なものであって、この点に創作性は殆ど認められず、類否判断上の要部に当たらないものであるから、本願意匠の全体形状の態様については、類否判断上の評価は低いというほかはない。 また、本願意匠のように広げた状態で片面に記録欄などを表わす罫線などの模様を印刷表示することも、本出願前から当業者には広く知られていたとするのが相当であるから、この点についても要部に当たらず、類否判断上の評価は低いものである。 そうすると、本願意匠の全体形状を、通常のタイムカードの倍の大きさとし、片面に印刷した点は、いずれも本出願前より広く知られていた態様であるから、本願意匠の形態上の特徴を表出しているものということはできず、意匠全体として観察すると、この点の態様は類否判断上の評価が低く、原告が主張する両意匠の形状の相違をもって意匠の類似性を否定することはできない。 A 原告は、「審決は、本願意匠について、基本的にこれを折り畳んだ状態でのみ比較しており、失当である。」と主張する。 両意匠の物品であるタイムカードの使用の態様をみると、その機能として、これをタイムレコーダーのカード挿入口に挿入することによって出退勤時刻が印字され、さらに、通常はタイムレコーダーに近接して設置されたタイムカード用棚に1枚ごとに保管されるものである。 本願意匠はこの主たる使用の状態において、2つに折り畳んで使用されるものであって、それによって、引用意匠と縦長長方形状の同一の大きさになり、本願意匠も引用意匠のように、あたかも1枚のカードの表裏面に模様が表わされたかのような状態になることが想定され、また、そのように使用されることを前提に表裏面の模様が創作されているといわざるを得ない。 したがって、本願意匠についてタイムカードとしての物品性を考慮し、その主たる使用の態様である印字及び保管されるときの状態、すなわち、2つに折り畳んだ状態の態様で引用意匠と対比することは、何ら問題がなく、妥当である。 原告が主張する形状の差異は、本願願書に添付された見本の状態、すなわち、本願意匠の一部の使用状態の態様を示す、広げた状態の態様(原告は、必要に応じて広げて見ることができるのは事務処理上便利であると主張するが、この点は、本出願前から公知の事実であって(乙第2号証)、本願意匠の特徴とは認められない。)のみをもって、引用意匠と比較したものであって、その形状の違いから、本願意匠が引用意匠に類似しないとする主張は、本願意匠の物品性を考慮した形態(その物品が通常使用されるタイムカードとしての属性を有した形態)を無視したものであるから、意匠の本質を省みないものであって、妥当ではない。 (2) 差異点ロ.に対する判断の誤りについて@ 原告は、「色彩の相違は、一般に、意匠としての類似性を否定するのが通常である。」と主張するところ、意匠法2条1項の規定からして、色彩が意匠を構成する要素であることは疑いのないところである。 そこで、物品に表わされた色彩が意匠の類否判断上に与える影響について検討するに、すべての物品に色彩(透明性は除く)は存在しており、それらの色彩は、色相、明度、彩度などの違いによって、無数存在することも顕著な事実である。したがって、色彩そのものについては、既に存在しているものであるから、それ自体には創作の余地がないというべきである。そうであるから、意匠全体が1色の色彩で表わされている場合に、その色彩のみを他の色彩に置換することは、1つの色彩を単に選択する程度の創作にすぎず、また、意匠を実施する場合は、通常、形状が同じで色彩のみを違えた製品を販売する場合が多いことも事実であることに鑑みれば、色彩の置換はそのことによって新規性のある意匠を創作したものということはできない。 次に、2色以上の色彩によって構成される意匠については、2色以上の色彩によって表わされることによって、色彩の違いにより生じる模様(色分け模様)が意匠に表われることとなり、この場合は、形状と模様を意匠全体として総合的に観察して類否判断がなされることは、従来からの一般的な見方である。 このように、「色彩の相違は、一般に、意匠としての類似性を否定するのが通常である。」との原告の主張は、何ら根拠のない独自の見解といわざるを得ない。 本願意匠は表裏面の模様をすべて青色で表わしているのに対して、引用意匠は表面側の模様を青色で、裏面側の模様を赤色で別々に表わしている。原告は、「この色彩の相違によって、見る者に与える印象が大きく相違している。」と主張するが、意匠の類否判断は、前述したとおり、色彩の差異によって模様としての意匠的効果が認められるかどうかの問題であって、色彩が違えば見る者に与える印象が大きく相違するから類似しないということにはならない。 そして、両意匠とも、その色彩がタイムカードの表裏面にそれぞれ分離して表わされたものであるから、色彩の違いによる色分け模様として認識されるものとはいえず、また、本願意匠についてタイムカードとしての主たる使用状態である2つに折り畳んだ状態においては、引用意匠と同様に表裏面を同時に観察することができず、これによって、色彩を異にしたことによる意匠的効果は殆ど認められないというほかはない。 したがって、本願意匠は、単に裏面側の色彩を表面側の色彩と同一の色彩に置換した程度の創作にすぎず、類否判断に与える影響は微弱なものである。 A 表示欄の上縁に沿って表わした暗調子の細幅帯状部について、原告は、「本願意匠は、表面側を青色のべた塗り、裏面側を青色の極く細かい斜め格子状としているのに対して、引用意匠は、表面側と裏面側とで青色と赤色を使い分けており、どちらもべた塗りとなっている。」と主張する。 しかしながら、この細幅帯状部は、そこに表わされている色彩そのものよりも、 むしろ意識的に上縁に他の罫線状の模様と違う帯状模様を表わしたことによる意匠的効果が大きいというべきであり、そのうえ、本願意匠も引用意匠と同様に、裏面側の色彩を表面側の色彩と異にしている。すなわち、本願意匠の裏面側が青色の極く細かい斜め格子状に表われている点は、一般的に同一の色で印刷されていることと、その印刷によって表わされたものの視覚上の認識とは別個の問題であって、本願意匠のように極く細かい斜め格子状に印刷したことによって生じる視覚上の認識は、格子状の模様としてより、むしろ、極く細かい斜め格子状に印刷したことによる青色と白色との色の並置混合の効果によって、表面側のべた塗りの青色よりも明度の高い青色(淡い青色)として認識されるから、本願意匠も表面側と裏面側では視覚上の色彩を異にしているのである。 このように、両意匠は共通している。 (3) 差異点ニ.に対する判断の誤りについて 記録欄に表わした見出し欄の略全体を暗調子とした2つの区画について、原告は、「本願意匠は、表裏面とも中央部の横長長方形状の白色部分を除いた全面を細かな水玉模様地としているのに対して、引用意匠は、表面側を青色のべた塗り、裏面側を赤色のべた塗りとしている。」と主張する。 まず、暗調子の区画の中央部に横長長方形状の白色部分を設けている点について、この中央の白色部分は、この区画の中の一部であり、かつ小さなものであるうえ、この白色部分には引用意匠において文字が表わされていることと同様に、本願意匠についても使用時には文字などが表示されることは物品としての機能上必要であることが十分に推測されるところであり、本願意匠に文字などが表わされた使用時の態様を考慮すれば、白色部分の視覚的効果は一層微弱なものとして看取されるというほかはない。 次に、本願意匠が暗調子の区画の色彩を中央の白色部分を除いて青色の細かな水玉模様としている点については、この水玉模様は細かいものであるから、この種物品の使用の態様、すなわち、使用に際して使用者は本物品を手に持って目から一定の距離を置いて観察するものであるから、この模様は、前記(2)Aで述べた本願意匠の裏面側上縁の細幅の帯状模様の色彩と同様に淡い青色として認識され、水玉模様としたことによる意匠的効果は極めて微弱なものに止まるものである。 そうすると、本願意匠は、引用意匠の裏面側を赤色のべた塗りとしている色彩を、単に淡い青色に色彩を変更した程度のものであることに帰するから、これを意匠全体として観察した場合、両意匠とも同じ部位に色彩を表わした態様及びその部位が意匠全体に占める大きさが必ずしも顕著でないことを勘案すれば、この差異が意匠全体に与える影響は極めて微弱なものである。 したがって、両意匠の記録欄に表わした見出し欄のうち暗調子とした区画の態様の差異は、いずれも微弱なものである。 (4) 以上のとおり、本願意匠は、引用意匠と対比すると、形態上の特徴を最もよく表わし、また、看者の注意を惹くと認められる要部が共通するものであるから、審決が両意匠は類似するとして、本願意匠が意匠法3条1項3号に該当すると判断したことは正当であって、審決に違法はない。 |
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証拠関係(省略)
理 由 |
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請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(審決の理由の要点)
は、当事者間に争いがない。 審決の認定判断のうち、本願意匠と引用意匠の構成態様が別紙第一、別紙第二のとおりであること、本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品が共通すること、本願意匠と引用意匠とは、審決3項(2)A認定のような基本的構成態様において共通し、以下の差異点を除いて具体的構成態様においても共通すること、具体的構成態様のうち差異点として同認定のイ.ないしホ.が存すること、上記共通するとした基本的構成態様、具体的構成態様は意匠の要部と認められること、前記差異点のうち差異点ハ.ホ.については同項(2)B認定の理由から類否判断を左右する要素としては微弱であることは、当事者間に争いがない。 |
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そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。
1(1) 差異点イ.に対する判断の誤りについて@ 本願意匠は、使用前の状態において通常のタイムカードの2倍の左右幅を有するものであるが、使用時には、中央の上下方向に表わされた中心線及び折り曲げミシン線によって表面を2つに折り畳んだ状態でその表裏面を使用するものであるのに対して、引用意匠は、通常の大きさのタイムカードであって、その表裏面を使用するものであることは、当事者間に争いがない。 そこで、意匠の類否判断の方法について検討するに、意匠登録に際し、登録出願に係る意匠が公知意匠と類似する意匠であるときは意匠登録の要件を具備しないとされるのは、当該意匠に係る物品が流通過程に置かれ、取引の対象とされる場合において、取引者、需要者が両意匠を類似していると認識することにより当該物品の誤認混同を生じないようにするためであると解されるから、その類否判断は、両意匠の構成を全体的に観察したうえ、取引者、需要者が最も注意を惹く意匠の構成、 すなわち要部がどこであるかを当該物品の性質、目的、用途、使用態様などに基づいて認定し、その要部に表われた意匠の形態が看者に異なった美感を与えるか否かによって判断すべきものと解される。 そして、意匠とは、「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」(意匠法2条1項)であるから、「物品の形状」もその1つの構成要素であるところ、別紙第一及び第二によれば、本願意匠は通常の2倍の左右幅を有し、表面のみに表示欄、記録欄などを印刷表示し裏面は白紙とし、使用時に表面を2つに折り畳んでその表裏面を使用するものであるのに対し、引用意匠は、通常のタイムカードの大きさであって、使用前の表面及び裏面にそれぞれ表示欄、記録欄を印刷表示し、その表裏面を使用するものであるから、両意匠の形状は明らかに相違している。そして、タイムカードは、通常、販売の際にも、使用の際にも、取引者、需要者に手にとって扱われるものであることを考えれば、タイムカードが上記のような形状のものであるということも前記審決認定の両意匠に共通する基本的構成態様、具体的構成態様とともに取引者、需要者の注意を惹く要部であり、そして、この点に存する両意匠の差異は看者に異なった美感を与えるというべきである。 A 被告は、横方向に通常のタイムカードの2倍の大きさとした態様のものは、本出願前から当業者に広く知られていた旨主張し、このことは原告も認めるところである。しかしながら、被告のいうような、創作性が認められないものは意匠の類否判断をするうえでの要部に当たらないとする主張は採ることができず、ありふれた形状であっても、当該意匠の支配的部分を占め、意匠的まとまりを形成して、看者の注意を惹くものであれば、意匠の要部たり得るのであり、前示タイムカードという物品の流通、使用の態様からすると、その物品に係る本願意匠においては、この形状の差異は、類否判断上の評価として看過し得ないものというべきである。 また、被告は、本願意匠のように広げた状態で片面に記録欄などを表わす罫線などの模様を印刷表示することも、本出願前から当業者には広く知られていたと認められるから、この点についても要部に当たらないとするが、この主張も同様の理由から採用することができない。 (2) 差異点ロ.及びニ.に対する判断の誤りについて@ 表示欄の上縁に沿って表わした暗調子の細幅帯状部について、本願意匠は、表面を2つに折り畳んだ状態での表面側を青色のべた塗り、裏面側を青色の極く細かい斜め格子状としているのに対して、引用意匠は、表面側を青色のべた塗り、裏面側を赤色のべた塗りとしていることは、当事者間に争いがなく、また、記録欄に表わした見出し欄の略全体を暗調子とした2つの区画について、本願意匠は、表面を2つに折り畳んだ状態での表裏面とも中央部の横長長方形状の白色部分を除いた全面を青色の細かな水玉模様地としているのに対して、引用意匠は、表面の区画全面を青色のべた塗り、裏面の区画全面を赤色のべた塗りとしていることは、当事者間に争いがない。 前示(1)@のように、意匠においては、「色彩」もその構成要素の1つであるところ、タイムカードは、通常、販売及び使用に際し、取引者、需要者に手にとって扱われるものであること前述のとおりであるから、その表示欄や記録欄に施された色彩も、前記(1)A認定の構成態様とともに、取引者、需要者の注意を惹く意匠の要部であるというべきである。 そして、表示欄の前記暗調子の細幅帯状部について、本願意匠は、前記表面側を青色のべた塗り、前記裏面側を青色の極く細かい斜め格子状としており、この青色の極く細かい斜め格子状は、全体として見れば淡い青色と認識し得るから、本願意匠は、前記表面側を青色、前記裏面側を淡い青色という青色1色の濃淡で変化を示していると認められるのに対して、引用意匠は、表面側を青色のべた塗り、裏面側を赤色のべた塗りとし、2色を使用している点において、両意匠に表わされた色彩に差異がある。 また、記録欄の青色の細かな水玉模様地は、上記認定と同じように、淡い青色と認識されるといえるから、本願意匠は、前記表裏面とも淡い青色1色を使用しているといえるところ、引用意匠は、表面側を青色のべた塗り、裏面側を赤色のべた塗りと色彩を変えている点において、両意匠に表われた色彩には差異がある。 そして、両意匠の上記表示欄及び記録欄に表わされた色彩の差異は、濃淡の青色ないし淡い青色に対し、青色と赤色のべた塗りという顕著な差異であり、この差異は、看者に異なった美感を与えるというべきである。 A 被告は、差異点ロ.について、色彩そのものは既に存在しているもので創作の余地がなく、本願意匠と引用意匠ともタイムカードの表裏面にそれぞれ分離して表わされたものであるから、色彩の違いによる色分け模様として認識されるとはいえず、また、本願意匠について、タイムカードとしての主たる使用状態である表面を2つに折り畳んだ状態においては、その表裏面を同時に観察することができないから、色彩を異にしたことによる意匠的効果は殆ど認められず、したがって、本願意匠のその表裏面の色彩の相違が類否判断に与える影響は微弱なものである旨、また、この細幅帯状部は、意識的に上縁に他の罫線状の模様と違う帯状模様を表わしたことによる意匠的効果が大きく、そこに表わされている色彩そのものは、さしたる美感の相違をもたらさない旨主張する。 しかしながら、前示のとおり、意匠において色彩も構成要素の1つであり、表示欄の暗調子の細幅帯状部の前記表裏面の色彩は、表示欄の上縁という部分に表わされたものであっても、記録欄中の見出し欄に表わされた色彩とともに、看者の注意を惹き、両意匠における色彩の顕著な差異は意匠的効果をもたらし、看者に異なる美感を与えるものであり、また、本願意匠を折り畳んだ状態のみで引用意匠と比較すべきであるともいえないから、その主張を採用することはできない。 B 被告は、差異点ニ.について、区画の中央部の白色部分は、区画の一部にすぎず、小さなものであるうえ、この白色部分に文字などが表わされた使用時の態様を考慮すれば、白色部分の視覚的効果は一層微弱なものとして看取されるし、さらに、本願意匠のこの白色部分を除いた青色の細かな水玉模様は、前記裏面側上縁部の細幅帯状模様の色彩と同様に淡い青色として認識され、水玉模様としたことによる意匠的効果は極めて微弱なものに止まり、そうすると、本願意匠は、引用意匠の裏面側を赤色のべた塗りとしている色彩を、単に淡い青色に色彩を変更した程度のものであることに帰し、この差異が意匠全体に与える影響は極めて微弱なものであると主張する。 しかしながら、前示のとおり、本願意匠の水玉模様が淡い青色と認識されることはそのとおりであるが、本願意匠がこの淡い青色1色を使用しているのに対して、 引用意匠は、表面側と裏面側で青色と赤色と色彩を変えて2色を使用していて、看者に異なる美的印象を与えるというべきであり、これらの色彩的効果による態様の差異が微弱であるとすることはできない。 (3) 以上に判示したように、本願意匠と引用意匠とは、具体的構成態様のうち看者の注意を惹く要部において類似するとはいえないから、前示第1項認定の基本的構成態様、具体的構成態様における共通点にかかわらず、両意匠が類似するということはできず、これと異なる審決の認定判断は誤りであるといわざるを得ず、審決は違法であって、取消しを免れない。 |
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よって、原告の本訴請求は、理由があるからこれを認容することとし、訴訟
費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 竹田稔 |
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裁判官 | 関野杜滋子 |
裁判官 | 持本健司 |