関連ワード | 物品 / 形状 / 模様 / 意匠に係る物品 / 意匠の説明 / 広く知られた / 意匠の類似 / 意匠の類否 / 願書の記載 / 登録意匠 / 差止請求(差止) / 類似性(類否判断) / |
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事件 |
昭和
61年
(ワ)
7242号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1989/03/10 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 被告は、別紙目録(一)A、(一)B及び(二)記載の壁張地を製造し、譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。 二 被告は、前項の壁張地を廃棄せよ。 三 被告は、見本張、カタログその他被告の宣伝広告用資料中、一項の壁張地を表示した部分を削除又は抹消せよ。 四 訴訟費用は、被告の負担とする。 五 この判決は、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨 主文同旨二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 |
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当事者の主張
一 請求の原因1 原告は、次の(一)、(二)の意匠権(以下「本件意匠権(一)、(二)」といい、その登録意匠を「本件登録意匠(一)、(二)」という。)を有している。 (一) 出願日 昭和五六年四月二七日 登録日 昭和五九年二月二九日 登録番号 第六二六二〇九号 意匠に係る物品 壁張地 登録意匠の範囲 別紙意匠公報(一)表示のとおり(二) 出願日 昭和五六年四月二七日 登録日 昭和五八年五月二三日 登録番号 第六〇六四四四号 意匠に係る物品 壁張地 登録意匠の範囲 別紙意匠公報(二)表示のとおり2 本件登録意匠(一)、(二)の構成は、次のとおりである。 (一) 本件登録意匠(一)(1) 形状 紙によって裏打ちされた布製の平板な壁張地である。 (2) 模様ア 縞模様 幅約二三ミリメートルの均一なレピートで形成された横縞模様を有し、横縞模様を形成する線は、発泡状に隆起させたやや縦長の点状突起を、近接してほぼ規則的に横に並べたものからなり、線の幅は、約二・五ミリメートルである。 イ 地模様 横縞模様を形成する線の間の地は、緯糸を太く、経糸を細くし、この経緯糸の太さよりも大きい隙間のある目粗な布地(寒冷紗)に泥状顔料(塗布された状態において光沢のない塗膜を形成する顔料配合物)を塗工したものであり、緯糸には、わずかな太さむらがランダムにあるため、これに塗工した泥状顔料にも、右の太さむらによる付着むらを生じ、それが微妙な陰影を形成している。 (3) 色彩 横縞模様を形成する線は、淡いベージユ色であり、その線の間の地は、灰ベージユ色である。 (二) 本件登録意匠(二)(1) 形状 裏打紙にパール顔料を配合したビニル樹脂組成物を塗工した平板な壁張地である。 (2) 模様ア 抽象模様 縦二四ミリメートル、横一五ミリメートルのやや下ぶくれの菱形内に納まる植物風抽象模様を、プリントにより、三七度四五分の方向に、九七ミリメートルのレピートをもつて等間隔に散在させている。 イ 地模様 右の抽象模様を散在させた地には、布目模様がエンボスされ、その布目模様中に、長さ、太さともばらつきのある緯絣模様がほぼ均等に分布されている。 (3) 色彩 抽象模様の部分は、ベージユ色であり、地の部分は、パールトーンのアイボリー色である。 3 被告は、業として、別紙目録(一)A、(一)B及び(二)記載の壁張地(以下それぞれ「被告製品(一)A」、「被告製品(一)B」、「被告製品(二)」という。)を製造販売し、販売のために展示し、見本帳、カタログ等にこれらを表示して配布している。仮に、被告は、現在、被告製品(一)A、(一)B及び(二)を製造販売していないとしても、将来、これを再開するおそれがある。 4 被告製品(一)A、(一)B及び(二)の意匠(以下それぞれ「被告意匠(一)A」、「被告意匠(一)B」、「被告意匠(二)」という。)の構成は、次のとおりである。 (一) 被告意匠(一)A(1) 形状 紙によって裏打ちされた布製の平板な壁張地である。 (2) 模様ア 縞模様 幅約二〇ミリメートルの均一なレピートで形成された横縞模様を有し、横縞模様を形成する線は、発泡状に隆起させたやや縦長の点状突起を、近接してほぼ規則的に横に並べたものからなり、線の幅は、約二ミリメートルである。 イ 地模様 横縞模様を形成する線の間の地は、緯糸を太く、経糸を細くし、この経緯糸の太さよりも大きい隙間のある目粗な布地(寒冷紗)に泥状顔料を塗工したものであり、緯糸には、わずかな太さむらがランダムにあるため、これに塗工した泥状顔料にも、右の太さむらによる付着むらを生じ、それが微妙な陰影を形成している。 (3) 色彩 横縞模様を形成する線は、淡いベージユ色であり、その線の間の地は、灰ベージユ色である。 (二) 被告意匠(一)B(1) 形状、模様は、被告意匠(一)Aと同じである。 (2) 色彩 横縞模様を形成する線は、乳白色であり、その線の間は、灰ベージユ色である。 (三) 被告意匠(二)(1) 形状 裏打紙にパール顔料を配合したビニル樹脂組成物を塗工した平板な壁張地である。 (2) 模様ア 抽象模様 縦一六ミリメートル、横一五ミリメートルのやや下ぶくれの菱形内に納まる草花風の抽象模様を、プリントにより、三五度五〇分の方向に、九五ミリメートルのレピートをもつて等間隔に散在させている。 イ 地模様 抽象模様を散在させた地には、布目模様がエンボスされ、その布目模様中に、長さ、太さともばらつきのある緯絣模様がほぼ均等に分布されている。 (3) 色彩 抽象模様の部分は、ベージュ色であり、地の部分は、パールトーンのアイボリー色である。 5 本件登録意匠(一)、(二)と被告意匠とを対比すれば、次のとおりである。 (一) 本件登録意匠(一)と被告意匠(一)Aとの対比(1) 形状 両意匠とも、紙によつて裏打ちされた布製の平板な壁張地である点において同一である。 (2) 模様ア 両意匠とも、一定幅の均一なレピートで形成された横縞模様を有する点において同一である。両意匠は、この一定幅が、本件登録意匠(一)では約二三ミリメートルであり、被告意匠(一)Aでは約二〇ミリメートルである点において相違するが、この程度の寸法の相違は、両意匠から生ずる美感に差異をもたらさない。 イ 両意匠とも、横縞模様を形成する線が、発泡状に隆起させたやや縦長の点状突起を、近接してほぼ規則的に横に並べたものからなる点において同一である。両意匠は、この線の幅が、本件登録意匠(一)では約二・五ミリメートルであり、 被告意匠(一)Aでは約二ミリメートルである点において相違するが、この程度の寸法の相違は、両意匠から生ずる美感に差異をもたらさない。 ウ 両意匠とも、横縞模様を形成する線の間の地は、緯糸を太く、経糸を細くし、 経緯糸の太さよりも大きい隙間のある目粗な布地(寒冷紗)に、経緯糸によつて形成される格子(升目)を埋めない程度に泥状顔料を塗工したものである点において同一である。 エ 両意匠とも、緯糸には、わずかな太さむらがランダムにあるため、これに塗工した泥状顔料にも、右の太さむらによる付着むらを生じ、それが微妙な陰影を形成している点において同一である。 (3) 色彩 両意匠とも、横縞模様を形成する線は、淡いベージユ色であり、右の線の間の地は、灰ベージユ色である点において同一である。 (4) 右(1)ないし(3)によれば、被告意匠(一)Aは、本件登録意匠(一)に類似するものというべきである。 (二) 本件登録意匠(一)と被告意匠(一)Bとの対比(1) 形状及び模様については、右(一)に述べるところと同様である。 (2) 色彩 両意匠とも、横縞模様を形成する線の間の地は、灰ベージユ色である点において同一である。また、右の線は、本件登録意匠(一)では淡いベージユ色であり、被告意匠(一)Bでは乳白色である点において相違するが、この程度の色彩ないし明度の相違は、両意匠から生ずる美感に差異をもたらさない。 (3) 右(1)及び(2)によれば、被告意匠(一)Bは、本件登録意匠(一)に類似するものというべきである。 (三) 本件登録意匠(二)と被告意匠(二)との対比(1) 形状 両意匠とも、裏打紙にパール顔料を配合したビニル樹脂組成物を塗工した平板な壁張地である点において同一である。 (2) 模様ア 両意匠とも、やや下ぶくれの菱形内に納まる植物風抽象模様を、プリントにより、一定角度の方向に、一定幅のレピートをもって等間隔に散在させている点において同一である。なお、両意匠は、抽象模様が納まるやや下ぶくれの菱形の寸法が、本件登録意匠(二)では、縦二四ミリメートル、横一五ミリメートルであるのに対し、被告意匠(二)では、縦一六ミリメートル、横一五ミリメートルである点、及び右の抽象模様を等間隔に散在させる角度とレピート幅が、本件登録意匠(二)では、三七度四五分と九七ミリメートルであるのに対し、被告意匠(二)では、三五度五〇分と九五ミリメートルである点においてそれぞれ相違するが、この程度の寸法及び角度の相違は、両意匠から生ずる美感に差異をもたらさない。 イ 両意匠は、抽象模様を散在させた地に布目模様がエンボスされている点、及びその布目模様の中に、長さ、太さともばらつきのある緯絣模様がほぼ均等に分布されている点においても同一である。 (3) 色彩 両意匠とも、抽象模様の部分は、ベージユ色であり、地の部分は、パールトーンのアイボリー色である点において同一である。 (4) 右の(1)ないし(3)によれば、被告意匠(二)は、本件登録意匠(二)に類似するものというべきである。 6 以上のとおり、被告意匠(一)A、(一)B及び(二)は、本件登録意匠(一)、(二)にそれぞれ類似し、しかも、被告製品(一)A、(一)B及び(二)は、本件登録意匠(一)、(二)に係る物品と同一の壁張地であるから、前記3の被告の行為は、本件意匠権(一)、(二)を侵害するものである。 7 よって、原告は、被告に対し、本件意匠権(一)、(二)に基づき、被告製品(一)A、(一)B及び(二)の製造譲渡、又は譲渡のための展示の差止め並びに被告が所有する被告製品(一)A、(一)B及び(二)の廃棄及び被告が所有する見本帳、カタログその他の宣伝広告用資料中の被告製品(一)A、(一)B及び(二)を表示した部分の削除又は抹消を求める。 二 請求の原因に対する認否1 請求の原因1は認める。 2 同2(一)は、(1)、(2)アのうち、横縞模様であるとの点、点状突起が縦長で近接してほぼ規則的に横に並べたものからなるとの点、(2)イのうち、緯糸を太く経糸を細くしとある点及び緯糸にはわずかな太さむらがランダムにあるため、 これに塗工した泥状顔料にも右の太さむらによる付着むらを生じとする点並びに(3)は否認し、その余の事実は認め(原告のいう「微妙な陰影」は、それが地の味わいの深み又は重厚さを意味するものとして認める。)、同2(二)は、(1)を否認し、その余の事実は認める。 3 同3のうち、被告が、業として、被告製品(一)A、(一)Bを昭和六〇年四月九日から同六一年一月三一日まで、被告製品(二)を同六〇年四月九日から同六一年六月一九日までそれぞれ製造販売し、販売のために展示し、見本帳、カタログ等にこれらを表示して配布したことは認め、その余の事実は否認する。 4 同4(一)のうち、(1)及び(2)アは認め、その余の事実は否認し、同4(二)のうち、(1)の右4(一)の(1)及び(2)アに対応する点は認め、その余の事実は否認し、同4(三)のうち、(2)アの「やや下ぶくれの菱形内」とある点は否認し、その余の事実は認める。 5 同5は争う。 6 同6のうち、被告製品(一)A、(一)B及び(二)が本件登録意匠(一)、 (二)に係る物品と同一の壁張地である点は認め、その余は争う。 三 被告の主張1 本件登録意匠(一)、(二)の構成は、次のとおりである。 (一) 本件登録意匠(一)、(二)の形状 本件登録意匠(一)の意匠登録出願の「意匠の説明」の欄には、「添付見本は、 幅(横方向)が約九六cmで、長さ方向に連続する意匠に係る物品(壁張地)から幅方向に約一八・〇cm、長さ方向に約二〇・三cm切り取つたものである。」と、また、本件登録意匠(二)の意匠登録出願の願書の「意匠の説明」の欄には、 「添付見本は、幅(横方向)が約九六cmで、長さ方向に連続する意匠に係る物品(壁張地)から幅方向に約三〇・〇cm、長さ方向に約二四・〇cm切り取ったものである。」と記載されている。したがって、本件登録意匠(一)、(二)は、長さ方向には無限に連続するが、幅方向には九六cmの長さで完結する形状の壁張地の意匠である。 (二) 本件登録意匠(一)(1) 模様ア 縞模様 本件登録意匠(一)の縞模様は、縦縞模様であって、原告が主張するような横縞模様ではない。すなわち、登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添付した見本により現された意匠に基づいて定めなければならないところ、本件登録意匠(一)の意匠登録出願の願書に添付した図面代用見本は、台紙上に、その凸点縞模様が縦方向に表れるように貼付されている。また、昭和五九年五月二六日発行の本件登録意匠(一)の意匠公報には、本件登録意匠(一)の縞模様が横縞模様として表示されていたが、特許庁は、同六二年四月一〇日発行の「意匠公報の訂正」により、図面誤載のためとして、右意匠公報を縦縞模様に訂正した。ところで、訂正された意匠公報によると、右の縦縞模様は、原告が請求の原因2(一)(2)アで主張する幅のレピートで形成されており、また、この縦縞模様を形成する線は、隆起させたやや横長の点状突起を、ほとんど間隙なく接続して縦に並べたものからなり、そして、この突起は、左右の長さが不規則であつたり、一個の粒状凸点が二個又は三個に分裂したり、その上面がつぶれ、不規則な平板になつて丸みを失つているものがあつたり、更に、突起間の間隙が全くなくなつて突起と突起とが完全に密着したりするなど、全体として極めて不規則な凸点列を構成している。 イ 地模様 地模様の構成は、「緯糸」を「経糸」と読み替えるほかは、請求の原因2(一)(2)イのとおりであるが、経糸(縞と同一方向)は、緯糸の倍近い太さを持ち、 わずかに左右にゆれを示す線を形成し、また、これに粘着性のある泥状顔料が塗工されているため、経糸と緯糸とに囲まれた升目が半ば埋められた感じになっている。 (2) 色彩 縦縞模様は、明るいベージユ色であり、地模様は、やや暗いベージユ色である。 (三) 本件登録意匠(二) 模様及び色彩については、請求の原因2(二)(2)及び(3)のとおりであるが、抽象模様の構成を更に正確に述べると、次のとおりである。 (1) 抽象模様は、上中下の三つの部分から構成されている。すなわち、上部は、ほぼ正三角形に積み上げた丸い草の実を思わせる小さな玉七個からなり、中部は、開いた扇状の葉を思わせるものであり、下部は、葉を付けた紅葉の小枝三本を右、左及び中央にそれぞれ一本ずつ下向きに垂らした形を示している。また、抽象模様は、傾きの違いによる二通りのものがあつて、下部中央の小枝がやや右下方に傾いている方の模様は、上部の草の実からなる頂点が右上方に傾いており、下部中央の小枝がやや左下方に傾いている方の模様は、上部の草の実からなる頂点が左に傾いており、いずれも、模様全体の均衡が保たれている。更に、抽象模様は、中部の扇状の葉を支持点として、上部は上方に伸び、下部は下方に向かって垂れ下がり、上下の均衡感に工夫がされている。 (2) 抽象模様の散在のさせ方は、右(1)の二通りの模様のうち、一方の模様を並べた列と他方の模様を並べた列とが交互に配列され、全体における均衡感を作出している。 2 本件登録意匠(一)、(二)の要部は、公知意匠を参酌すると、次のとおりとなる。 (一) 本件登録意匠(一)(1) 本件登録意匠(一)の意匠登録出願前の公知意匠ア 寒冷紗を紙地に接着し、この寒冷紗面にベージユ色の顔料を塗布した素地を壁張地として使用したものは、被告が昭和五二年四月から販売しており、また、被告発行の商品見本帖であるサンゲツ総合壁装材見本帖七七―七九年版(乙第二号証の一ないし四)に記載されている。 イ 寒冷紗の素地上に、発泡手段によって模様を構成している壁張地は、被告が昭和五六年四月一四日から販売しており、また、被告発行の商品見本帖であるサンゲツ総合壁装材見本帖八一ー八三年版(乙第三号証の一ないし三)に記載されている。 ウ 素地にやや横長の粒状点を少しばかり間隙をおいて形成した列を等間隔で繰り返し、縦縞模様に構成したものは、壁張地と類似する物品である薄織物地について知られており、例えば、フランスのクロード・フレール社が一八九七年に蒐集した薄織物見本集(乙第四号証の一ないし四)の中にある。 (2) 本件登録意匠(一)の要部ア 比較的太めの経糸と、これより細めの緯糸からなる織地を、粘着性のある泥状顔料を塗工して滑らかにし、かつ、この織地全体を暗いベージユ色に着色した地模様を有すること。 イ 右の地模様上に、明るいベージユ色に着色され、やや隆起した横長の粒状凸点が、縦方向に、左右の長さを不規則にしたり、上下の間隙を埋めて連続させたり、 上面を不規則な平面にして丸みを失わせたり、一個の粒状凸点が場合により二個又は三個に分裂させたりしつつ、細幅帯列を形成し、この帯列間隔を約二三ミリメートルとして繰返し構成した縦縞模様を有すること。 ウ 右のア、イのとおり、地と細幅帯列がベージユの同系色であることは、抑制された落着きを審美効果とし、また、細幅帯列が点の連続ではなく、むしろ、接着して線そのものになっていること、経糸が緯糸に比べて太めであること、粘着性のある泥状顔料が升目を埋めて織地の目の密度を深め、その表面を滑らかにしていることの三点は、相乗して重厚さと豊かさを審美効果として示している。 (二) 本件登録意匠(二)(1) 本件登録意匠(二)の意匠登録出願前の公知意匠ア シケ調模様の合成樹脂地(長さや太さが不均一の無数の横筋のあるもの)にアイボリー色の顔料を塗布した素地を壁張地として使用したものは、被告が昭和五〇年五月六日から販売しており、また、同日発行の被告の商品見本帳(乙第五号証の一ないし三)に記載されている。 イ シケ調のみからなる壁張地は、訴外株式会社小川商店(商標名リバコ)が昭和五五年から販売しており、また、同訴外会社が同年に発行、頒布した見本帳である八〇〜八一年Ribaco壁装・ブレーン(乙第六号証の一ないし三)に記載されている。 ウ 素地に、素地の色彩より濃い抽象的な草花模様が千鳥状に等間隔をおいて左右交互に配置されているものは、被告が昭和四七年以来販売しており、また、訴外株式会社ドムスが昭和五六年一月二〇日から販売している(乙第七号証の一、二、第八号証の一ないし四)。 (2) 本件登録意匠(二)の要部ア 長さや太さが不均一の凹凸状の無数の横筋を表したシケ調模様で、パール調アイボリー色に着色した地模様を用いていること。 イ 地模様上に、ベージユ色に着色した下ぶくれの仮想菱形に納まる抽象的な植物模様を配し、その配列方法は、植物模様の上部の上向き方向を左右交互に変えて、 左右三七度四五分の方向に、九七ミリメートルの間隔で散列させていること。 ウ 右の植物模様は、上中下の三部からなり、上部は、草の実風の小さな玉七個をほぼ正三角形に積み上げたもの、中部は、上に向けて開いた扇状の植物の葉で、葉の先端に数個のぎざぎざがあるもの、下部は、紅葉の細い若枝を思わせる三本の小枝を、中部の扇状の取つ手を基点として三方向に、かつ、下向きに垂らしているものである。植物模様のうち、下部中央の小枝の先端が右方向に垂れているものにあつては、上部の草の実の最上端が右上方に傾けられ、また、下部中央の小枝の先端が左方向に垂れているものにあつては、上部の草の実の先端が左上方に傾けられている。 3 被告意匠(一)A、(一)B及び(二)の構成は、次のとおりである。 (一) 被告意匠(一)A(1) 形状 形状は、請求の原因4(一)(1)のとおりであるが、壁張地のような平面的な長尺物として製造される物品には、物品固有の一定の形状はあつても、創作の対象となるような形状はない。したがつて、被告意匠(一)Aも、壁張地という物品としての一定の形状を有しているだけである。 (2) 模様ア 縞模様 縞模様は、請求の原因4(一)(2)アのとおりであるほか、隆起部分の上面が卵のような丸みを帯びていること、隆起部分が次の隆起部分と癒着、接続していないこと、隆起部分が二分して中心線を形成したり、それが複雑に三分裂したりしていないことも、特徴となっている。 イ 地模様 縞模様の間の地は、経緯糸よりも大きい隙間のある目粗な布地(寒冷紗)に水状顔料を塗工したものであり、緯糸と経糸の太さは同一で、太さむらがなく、水状顔料を使用しているので、顔料の付着むらもなく、升目は深く切れていて、微妙な陰影もない。 (3) 色彩 地は、明るいベージユ色であり、縦縞模様は、ベージユ調のピンク色である。 (二) 被告意匠(一)B(1) 形状及び模様は、被告意匠(一)Aと同じである。 (2) 色彩 地は、暗いベージユ色であり、縦縞模様は、白色である(三) 被告意匠(二) 請求の原因4(三)のうち、(2)アの「下ぶくれの菱形内」とあるのを「下ぶくれの逆五角形」とするほかは、請求の原因4(三)のとおりである。なお、右のほか、抽象模様は、上中下の三つの部分からなり、上部は、つりがね風の花弁を思わせるものを二個下向きに振り分けているもの、中部は、木の葉六枚を下向きに並べたもの、下部は、三本の紅葉の小枝を思わせるものが左中右に下向きに垂れ下がっているものである。右の下部中央の小枝は、すべてやや右下方に垂れており、また、模様のすべてが同一方向の傾きで散在している。 4 本件登録意匠(一)、(二)と被告意匠(一)A、(一)B及び(二)とを対比すれば、次のとおりである。 (一) 対比のための観察距離 本件登録意匠(一)、(二)と被告意匠(一)A、(一)B及び(二)とを対比するに当たつては、次の理由により、いずれも四〇ないし五〇センチメートル離れた位置から観察して類否の判断をすべきである。すなわち、壁張地は、当業者が、 物品自体又は見本帳を眼から四〇ないし五〇センチメートル離れた距離で見比べて選択する物品であること、本件登録意匠(一)、(二)の意匠登録出願の審査をした特許庁の審査官は、一定の大きさに制限された、願書に添付した図面代用見本を、他の意匠図面又は見本などとともに、所定の審査用ラツクに立てて並べ、四〇ないし五〇センチメートル離れた距離から観察して公知意匠との類否判断をしているのであるから、裁判官の行う類否判断のための観察距離も右と同様に考えるべきである。 (二) 本件登録意匠(一)と被告意匠(一)Aとの対比(1) 本件登録意匠(一)は、縞模様が縦縞であるのに対し、被告意匠(一)Aは、縞模様が横縞であるところ、縦縞は、縞の線が強調され、多数の縦の線の醸し出す整序感に特徴があるが、横縞は、線の長さが制限され、多数の短い横線が並列したことによる整序感に特色があるから、両意匠は、全く異なった審美感を発揮している。また、本件登録意匠(一)は、縞模様の線の幅及び線と線の間隔が被告意匠(一)Aのそれらよりも広い。更に、本件登録意匠(一)は、右の縞模様の線を構成する凸点が多くの箇所で相互に癒着し、凸点と凸点との間隔はほとんどなく、 一つずつの凸点の左右の長さが不規則であつたり、凸点と凸点との間を埋めて連続させたり、凸点の上面を不規則な平板にして丸みを失わせたり、一つの凸点が二個又は三個に分裂したりしているのに対し、被告意匠(一)Aは、凸点は砕けておらず、丸みを帯び、間隔も確実に空けられて相互に癒着していない。その結果、本件登録意匠(一)は、重厚で落ち着いた審美感を打ち出しているのに対し、被告意匠(一)Aは、簡明で淡白な審美感を生じさせている。 (2) 本件登録意匠(一)は、地模様の布地の経糸が緯糸の倍近い太さであり、 しかも、太さむらが顕著に認められ、また、ここに粘着性のある泥状顔料が塗工されているため、升目が浅くなり、糸自体の持つ鋭い感覚が抑制されており、そのため、地全体が落ち着いた重厚性を持ったものとなっている。これに対して、被告意匠(一)Aは、地模様の布地の経緯糸が、ともにほぼ同一の太さであり、かつ、希釈度の高い水状塗料が塗工されているので、升目の切れが新鮮で深く、そのため、 本件登録意匠(一)に比し、新鮮、軽快、淡白なものとなつている。 (3) 本件登録意匠(一)は、地と縞とが同系色であるのに対し、被告意匠(一)Aは、そうではなく、異色間コントラストが主要な美感を生起させている。 (4) 以上のとおり、本件登録意匠(一)は、重厚、落付き、豊かさを感じさせるものであるのに対し、被告意匠(一)Aは、軽快、新鮮、淡白さを感じさせるものであつて、両意匠は、美感を異にするものである。 (三) 本件登録意匠(一)と被告意匠(一)Bとの対比 右(二)と同様である。 (四) 本件登録意匠(二)と被告意匠(二)との対比(1) 本件登録意匠(二)は、抽象模様の全体の形状が菱形であり、その上部が頂点を上にして植物の丸い実を三角形に積み上げたもの、中部が要を下にした扇形の植物の葉を思わせる図形を配したものであるのに対し、被告意匠(二)は、抽象模様の全体の形状が下ぶくれの逆五角形であり、その上部がつりがね風の花弁を思わせるものを二個下向きに振り分けたもの、中部が木の葉六葉を下向きに並べたものであつて、両意匠は、全く異なる模様である。 (2) 本件登録意匠(二)は、抽象模様の上部先端の一個の草の実が右に傾いているものは下部中央の小枝も右に、上部先端の草の実が左に傾いているものは下部中央の小枝も左にそれぞれ傾き、これによって均衡を保つているばかりでなく、この右と左に傾いている模様を交互に配列しているのに対し、被告意匠(二)は、抽象模様のすべてが同一であつて、傾きの異なるものはない。 (3) 全体として、本件登録意匠(二)は、上下左右の均衡、全体の配列における均衡に特徴があり、審美感としては堅実で「実り」を感じさせる。一方、被告意匠(二)は、審美感としては優美さで「花」を感じさせるものであり、したがつて、両意匠は、美感を異にする。 (五) 以上のとおり、被告意匠(一)A、(一)B及び(二)は、本件登録意匠(一)、(二)に類似しない。 四 被告の主張に対する原告の反論1(一) 被告の主張1(一)について 本件登録意匠(一)、(二)は、いずれも意匠に係る物品を「壁張地」として登録されているものであつて、壁張地であることのほかには、その形状について限定が加えられていない。被告が主張する願書の記載は、見本を採取した物品の説明をしたものにすぎず、これにより、「意匠に係る物品」の形状が限定されるものではない。 (二) 被告の主張1(二)について 本件登録意匠(一)の意匠登録出願の願書の「意匠の説明」の欄には、被告の主張1(一)において被告が主張するとおり記載されているところ、願書添付の見本は、縞を横縞として計測してみた場合に、右記載のとおり、幅方向(左右)の長さが約一八・〇センチメートル、長さ方向(上下)の長さが約二〇・三センチメートルとなるから、本件登録意匠(一)の縞模様は、横縞であることが明らかである。 また、本件登録意匠(一)の横縞模様を形成する線を構成する点状突起は、発泡状に隆起させたものであるため、発泡という現象の不規則性により、突起の大きさがやや不揃いになり、部分的には隣の突起とその一部において接触するものも生じているが、突起がやや縦長の点状の形状を有することは右の接触を生じている部分においても認めることができ、点状突起の隆起自体は規則的である。更に、点状突起の上面に、それを横切るような形で線状のかすかな凹部が一つ又は二つ形成されているが、この部分で突起が分裂したり、分かれたりしているわけではなく、上下につながつて一つの点状突起を形成していることに変わりはない。更にまた、本件登録意匠(一)の経緯糸の形成する升目が半ば埋められているということはない。すなわち、織地表面に塗工された顔料の塗布量は、経緯糸と空隙部分との間の凹凸を埋めない程度の微量であり、その塗工面には織地の経糸と緯糸とが交叉して構成している格子(升目)がそのまま顔料に塗り潰されずに表れているのである。 2(一) 被告の主張2(一)について 被告が被告の主張2(一)(1)ア及びイにおいて主張する被告発行の商品見本帖記載の意匠は、意匠に係る物品が壁張地であるとしても、いずれも模様及び色彩並びにそれらの結合の点において、本件登録意匠(一)と類似するところがないから、これらが本件登録意匠(一)の意匠登録出願前に公知であつたとしても、本件登録意匠(一)の範囲を定めるうえにおいて、何らの意味も有するものではない。 また、被告が被告の主張2(一)(1)ウにおいて主張する意匠は、壁張地なる物品に係るものではないから、その点で何らの意味も有しない。更に、被告が主張するクロード・フレール社の薄織物見本集は、同社の社内での保存用資料として収集保存されたものであつて、刊行物ではないから、それをたまたま被告が手に入れたとしても、そのことによつて、その意匠が「日本国内において広く知られた形状、 模様若しくは色彩又はこれらの結合」となるはずもない。以上によれば、被告の主張する各「公知意匠」によつて、本件登録意匠(一)の範囲が何らかの限定を受けることにはならない。 (二) 被告の主張2(二)について 被告が被告の主張2(二)(1)ア、イ及びウにおいて主張する各意匠は、意匠に係る物品が壁張地であるとしても、いずれも模様及び色彩並びにそれらの結合の点において、本件登録意匠(二)と類似するところがないから、これらが本件登録意匠(二)の意匠登録出願前に公知であつたとしても、本件登録意匠(一)の範囲を定めるうえにおいて、何らの意味も有するものではない。したがつて、被告の主張する各意匠によつて、本件登録意匠(二)の範囲が何らかの限定を受けることにはならない。 3 被告の主張3について 被告意匠(一)A及び(一)Bにおいても、横縞模様を形成する点状突起は、部分的に隆起凸点相互間に接触を生じており、また、隆起部分の上面の緯糸の直上の部分においては、線状のかすかな凹部を生じていて、一つ一つの形態に乱れが見られる。また、被告意匠(一)A及び(一)Bにおいても、地模様の緯糸は経糸よりも太く、緯糸に毛羽立ちがあつて、その部分に顔料の付着むらが生じている。 4(一) 被告の主張4(一)について 壁張地については、看者は、ある程度(二、三メートルないし五、六メートル)離れた距離から眺めて、その美感を感得するものである。したがつて、壁張地の意匠の類否判断は、右の距離をおいて観察した場合に、美感上差異が認められるか否かの見地からされなければならず、模様における細部の形、寸法、角度又は繰返しの数などの多少の相違は、美感上差異として認識されないものというべきである。 被告の主張は、法規上も特許庁の内規上も、何ら根拠を見出すことのできないものである。壁張地の取引形態や使用形態に照らせば、右の距離をもって観察を行うべきである。 (二) 被告の主張4(二)について 本件登録意匠及び被告意匠(一)Aは、いずれも横縞模様の点状突起の隆起自体は規則的であるが、発泡という現象の不規則性により、突起の大きさがやや不揃いとなり、部分的には隣の突起とその一部において接触するものを生じている点において共通であり、また突起の上に生ずる線状の凹部も共通に見られるところである。ただ、点状突起が相互に接触している度合は、 本件登録意匠(一)に比べて被告意匠(一)Aの方がかなり少ないが、両意匠の共通性に照らせば、右の相違は、微差にすぎず、美感上の差異をもたらすには至つていない。また、地模様については、被告意匠(一)Aに比べて本件登録意匠(一)の方が、緯糸の太さの程度がやや大きく、経緯糸の顔料によるコーティングの度合がいくらか大目であり、緯糸の毛羽立ち(太さむら)とこれに伴う顔料の付着むらもやや多く、升目の部分に塗布されている顔料の量がやや多いが、これらは、いずれも微差にすぎず、その共通点に照らせば、美感上格別の差異をもたらすものではない。更に、被告は、本件登録意匠と被告意匠(一)Aとの色彩の相違について主張するが、両意匠とも、地模様の部分については、目粗な寒冷紗の格子の目(升目)をつぶさないように光沢のない顔料を塗布することにより、極度に光沢の少ない地を作り、この地の上に発泡性材料をおいて発泡させることによつて、地の部分に比べて光沢において勝る点状突起による横縞模様を構成し、もつて地と縞との間におけるコントラストを形成しているのである。また、縞模様については、これが点状突起を規則的に横に並べたものであるところから、各点状突起間に地色が介在することになり、それが縞模様自体の色と視覚上一種の混色の現象を生ずることになる。したがつて、被告意匠(一)Aの点状突起の色は、被告の主張するように、 ベージユ調ピンクであつても、その間に介在する地のベージユ色によつて、ピンクの色調は薄められて感じられるものである。そうすると、色彩に見られる被告主張の差異は、いまだ美感上の差異をもたらすには至つていない。 (三) 被告の主張4(三)について 本件登録意匠(一)と被告意匠(一)Bとの対比については、右(二)のうち、 「ピンク」とあるのを「白」とするほかは、右(二)に述べるとおりである。 (四) 被告の主張4(四)について 被告は、抽象模様の全体の形状について、本件登録意匠(二)は菱形、被告意匠(二)は下ぶくれの逆五角形であるというが、仮にそのように見えるとしても、両者の外形はほとんど一致し、わずかに模様の上部において、本件登録意匠(二)の上端が尖つているのに対し、被告意匠(二)の上部には鋭角の部分がなく、丸みを帯びているという差異があるにとどまる。また、抽象模様自体の構成に被告が主張するような差異があつたとしても、これを見る者は、「草の実風の丸い玉」とか、 「つりがね形の花二個」というように、具象化して認識するものではなく、模様の上部は線で囲つた小さい図形の集まりとして、中部は中を黒く塗つた図形の塊としてこれを認識するのであり、下部も細い線の枝分かれしたものが三方へ張り出していると見るのが普通であつて、その左右の傾きなどという微細な点は、看者の注目を引くようなものではない。更に、被告が抽象模様の配列について主張するところは、微細にすぎるものであつて、両意匠の類似性に何ら影響しない。 |
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証拠関係(省略)
理 由一 原告が本件意匠権(一)、(二)を有することは、当事者間に争いがない。そして、被告が、被告製品(一)A、(一)Bを昭和六〇年四月九日から同六一年一月三一日まで、被告製品(二)を同六〇年四月九日から同六一年六月一九日までそれぞれ製造販売し、販売のために展示し、見本帳、カタログ等にこれらを表示して配布したことは、当事者間に争いがなく、また、被告製品(一)A、(一)B及び(二)を表示するものであることについて争いのない別紙目録(一)A、(一)B及び(二)の記載並びに被告発行の見本帳の一部であることについて争いのない検甲第三号証によれば、被告は、昭和六〇年四月、「’85ー’87新作・総合壁装材」と題する見本帳を発行し、これに被告製品(一)A、(一)B及び(二)の見本を表示していることが認められ、以上の事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告は、右の期間以降も、被告製品(一)A、(一)B及び(二)を製造販売し、販売のために展示し、見本帳、カタログ等にこれらを表示して配布するおそれがあるものと認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。 二 そこで、本件登録意匠(一)と被告意匠(一)A及び(一)B、本件登録意匠(二)と被告意匠(二)との類否について以下判断する。 1 まず、本件登録意匠(一)の構成について検討するに、成立に争いのない甲第一号証及び第六号証並びに乙第一号証の一、第九号証の一、二及び第一一号証によれば、本件登録意匠(一)の構成は、次のとおりであると認められる。 (一) 形状 紙によつて裏打ちされた布製の平板な壁張地である。 (二) 模様(1) 縞模様 幅約二三ミリメートルの間隔をおいた横縞模様を有し、横縞模様を形成する線は、やや縦長の隆起させた点状突起を、近接させて横に並べたものからなり、この突起は、個々の形状にやや不規則なものもあり、部分的には隣接する突起と接触しているものもあるが、概ね直線に近い一本の線を構成しうる程度の規則的な並べ方となつている。この突起の縦長方向の長さ、すなわち、線の幅は、約二ないし三ミリメートルである。 (2) 地模様 横縞模様を形成している線の間の地は、網の目状の隙間のある目粗な布地(寒冷紗)に顔料を塗工したものであり、その隙間は、経糸とそれよりも太い緯糸によつて、その経緯糸の太さよりも大きい升目となつている。また、緯糸にはわずかな太さむらがある。 (三) 色彩 横縞模様を形成する線は、光沢のある明るいベージユ色であり、地模様は、光沢のないやや暗いベージユ色である。 被告は、被告の主張1(一)において、本件登録意匠(一)の意匠登録出願の願書の「意匠の説明」の欄の記載を引用し、右記載によれば、本件登録意匠(一)は、長さ方向に無限に連続するが、幅方向には九六センチメートルの長さで完結する形状の壁張地の意匠である旨主張するところ、前掲甲第六号証によれば、本件登録意匠(一)の意匠登録出願の願書の「意匠の説明」の欄には、被告が引用するとおり記載されていることが認められるが、右記載内容によれば、そこには、願書添付の図面代用見本がどのような物品から切り取られたものであるかが説明されているにすぎないことが認められ、右事実から本件登録意匠(一)の形状が被告の主張するように限定されるものということはできず、したがつて、被告の右主張は、採用することができない。また、被告は、本件登録意匠(一)の縞模様は、縦縞模様であつて、横縞模様ではない旨主張するが、本件登録意匠(一)の意匠登録出願の願書の「意匠の説明」の欄には、被告が被告の主張1(一)において引用するとおり記載されており、そこには、願書添付の図面代用見本がどのような物品から切り取られたものであるかが説明されていることは、右認定のとおりであつて、右説明に従つて願書添付の図面代用見本を計測してみると、約一八・〇センチメートル×約二〇・三センチメートルの長方形の約一八・〇センチメートルの辺が幅(横)方向であり、したがつて、その縞模様は、横縞模様であることが認められる。この点に関して、被告は、右の図面代用見本は、台紙上に、その凸点縞模様が縦方向に表れるように貼付されており、また、特許庁は、「意匠公報の訂正」により、意匠公報を縦縞模様に訂正したものであるところ、右事実によると、本件登録意匠(一)の縞模様は縦縞模様である旨主張するが、前認定の願書の記載及び願書添付の図面代用見本によると、意匠の構成は横縞模様であるのに、図面代用見本はその構成とは異なつた方向に貼付されているにすぎないことが認められるから、図面代用見本の貼付の仕方から縞模様は縦縞模様であるとすることはできず、また、前掲甲第一号証、第六号証及び乙第九号証の一、二によると、本件登録意匠(一)の訂正前の意匠公報(昭和五九年五月二六日発行)には、登録意匠が願書添付の図面代用見本の向きと異なつて記載されていたため、願書の記載に合わせるため、これを訂正し、登録意匠の向きを願書添付の図面代用見本の向きに合わせるとともに、訂正前の意匠公報の説明文を削除し、そこに願書の「意匠の説明」の欄の記載をそのまま記載する内容の意匠公報の訂正がされ、その旨の意匠公報(別紙意匠公報(一))が発行されたことが認められ、右認定の事実によると、訂正後の意匠公報の内容は、右願書の内容と同様であつて、その記載によると、縞模様は横縞模様であると認められることは、前説示のとおりであるから、右意匠公報の訂正の事実から縞模様は縦縞模様であるということもできない。したがつて、被告の右主張は、いずれも採用の限りでない。 2 次に、本件登録意匠(二)の構成について検討するに、成立に争いのない甲第三号証、第七号証、乙第一号証の二、第一〇号証の一、二、第一二号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一六号証によれば、本件登録意匠(二)の構成は、次のとおりであると認められる。 (一) 形状 裏打紙に顔料を配合したビニル樹脂組成物を塗工した平板な壁張地である。 (二) 模様(1) 抽象模様 縦約一九ミリメートル、横約一五ミリメートルのやや下ぶくれの略菱形内に納まる植物風の抽象模様が、一つの模様からみて他の模様が約三七度四五分の角度の斜め上方に位置する形で等間隔に散在させてプリントされている。この間隔は、模様の中心から直近(斜め横)の模様の中心までが約九七ミリメートルである。右の抽象模様は、上中下の三つの部分から構成され、上部は、ほぼ正三角形に積み上げられた小さな丸い玉七個、中部は、要を下にして開かれた扇形の葉を模したもの、下部は、右の要の部分から三本の枝様のものが左右と中央にそれぞれ下向きに垂らされており、中央の枝様のものがやや右に傾いているものと左にやや傾いているものからなつている。 (2) 地模様 抽象模様を散在させた地には、布目模様を浮き出させ、その布目模様中に、長さ、太さともばらつきのある緯絣模様がほぼ均等に分布されている。 (三) 色彩 抽象模様の部分は、ベージユ色であり、地の部分は、パール調のアイボリー色である。 被告は、被告の主張1(一)において、本件登録意匠(二)の意匠登録出願の願書の「意匠の説明」の欄の記載を引用し、右記載によれば、本件登録意匠(二)は、長さ方向には無限に連続するが、幅方向には九六センチメートルの長さで完結する形状の壁張地の意匠である旨主張するところ、前掲甲第七号証によれば、本件登録意匠(二)の意匠登録出願の願書の「意匠の説明」の欄には、被告が引用するとおり記載されていることが認められるが、右記載内容によれば、そこには、願書添付の図面代用見本がどのような物品から切り取られたものであるかが説明されているにすぎないことが認められ、右事実から本件登録意匠(二)の形状が被告の主張するように限定されるものということはできず、したがつて、被告の右主張は、 採用することができない。 3 被告は、本件登録意匠(一)、(二)の意匠登録出願前の公知意匠が記載されているとする商品見本帳等の乙号各証を挙示して、右公知意匠を参酌すると、本件登録意匠(一)、(二)の要部は被告の主張2(一)(2)及び2(二)(2)のとおりである旨主張するところ、被告が挙示する商品見本帳等の乙号各証が被告の主張するとおりのものであるとしても、右の乙号各証の記載に照らし、被告が主張するような限定的な構成に本件登録意匠(一)、(二)の要部があると認めることは困難であり、したがつて、被告の右主張は、採用することができない。 4 次いで、被告意匠(一)A、(一)B及び(二)の構成について以下検討する。 (一) 被告意匠(一)Aを表示するものであることについて争いのない別紙目録(一)Aの記載及び被告発行の見本帳の一部であることについて争いのない検甲第三号証によれば、被告意匠(一)Aの構成は、次のとおりであると認められる。 (1) 形状 紙によって裏打ちされた布製の平板な壁張地である。 (2) 模様ア 縞模様 幅約二〇ミリメートルの間隔をおいた横縞模様を有し、横縞模様を形成する線は、やや縦長の隆起させた点状突起を、近接させて横に並べたものからなり、この突起は、個々の形状にやや不規則なものもあり、部分的には隣接する突起と接触しているものもあるが、概ね直接に近い一本の線を構成しうる程度の規則的な並べ方となつている。この突起の縦長方向の長さ、すなわち、線の幅は、約二ないし三ミリメートル前後である。 イ 地模様 横縞模様を形成している線の間の地は、網の目状の隙間のある目粗な布地(寒冷紗)に顔料を塗工したものであり、経糸とそれよりも太い緯糸によつて形成された右の隙間は、経緯糸の太さよりも大きい升目となつている。また、緯糸にはわずかな太さむらがある。 (3) 色彩 横縞模様を形成する線は、光沢のあるピンク色調の明るいベージユ色であり、地模様は、光沢のない明るいベージユ色である。 (二) 被告意匠(一)Bを表示するものであることについて争いのない別紙目録(一)Bの記載、被告物件(一)Bの現物見本であることについて争いのない検甲第一号証及び前掲検甲第三号証によれば、被告意匠(一)Bの構成は、次のとおりであると認められる。 (1) 形状及び模様は、被告意匠(一)Aの形状及び模様と同様である。 (2) 色彩 横縞模様を形成する線は、多少の光沢のある白色であり、地模様は、光沢のないやや暗いベージユ色である。 (三) 被告意匠(二)を表示するものであることについて争いのない別紙目録(二)の記載、被告製品(二)の現物見本であることについて争いのない検甲第二号証、前掲検甲第三号証、被告意匠(二)の模様の配列の位置関係を明らかにしたものであることについて争いのない検乙第四号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一七号証によれば、被告意匠(二)の構成は、次のとおりであると認められる。 (1) 形状 裏打紙にパール顔料を配合したビニル樹脂組成物を塗工した平板な壁張地である。 (2) 模様ア 抽象模様 縦約一九ミリメートル、横約一五ミリメートルの下ぶくれの略菱形内に納まる草花風の抽象模様が、本件登録意匠(二)の場合と同じ意味において約三五度五〇分の角度をもつた方向に等間隔に散在させてプリントされている。この間隔は、模様の中心から、直近(斜め横)の模様の中心までが約九五ミリメートルである。右の抽象模様は、上中下の三つの部分からなり、その上部は、つりがね風の花弁を思わせるものを二個下向きに振り分けているもの、中部は、木の葉六枚を下向きに並べたもの、下部は、三本の紅葉の小枝を思わせるものが左中右に下向きに垂れ下がつているものである。下部中央の小枝は、すべて右下方に垂れており、また、模様のすべてが同一方向の傾きで散在している。 イ 地模様 抽象模様を散在させた地には、 布目模様を浮き出させ、その布目模様中に、長さ、太さともばらつきのある緯絣模様がほぼ均等に分布されている。 (3) 色彩 抽象模様の部分は、ベージユ色であり、地の部分は、パール調のアイボリー色である。 5 そこで、以上認定の本件登録意匠(一)、(二)の構成並びに被告意匠(一)A、(一)B及び(二)の構成に基づいて両意匠の類否について検討する。 (一) 原、被告は、それぞれ類否判断のための観察距離について主張するが、本件登録意匠(一)、(二)に係る物品が壁張地であることに照らすと、観察距離は、一律に何メートルあるいは何センチメートルであると断定することはできない。すなわち、取引者又は需要者は、壁張地の取引に関与する場合、見本帳あるいは現物見本を手にとり、その模様や色彩等を眺めることによつて壁張地を選択することがありうるものと思料されるところ、その場合でも、これが居室等の壁に張り付けられるものであることから、張り付けられた後の状態を十分に意識したうえで選択することもありうると考えられ、また、壁に張り付けられて展示された壁張地を、近づいたり離れたりしながら眺めて選択することもありうるものと考えられるから、類否判断のための観察距離は、数メートルの場合も含まれるものと解するのが相当である。このような観点から以下検討することとする。 (二) 本件登録意匠(一)と被告意匠(一)Aとの類否(1) 形状 両意匠とも、紙によつて裏打ちされた布製の平板な壁張地である。 (2) 模様ア 縞模様 両意匠とも、一定幅の均一な間隔をもつて形成された横縞模様を有し、横縞模様を形成する線は、やや縦長の隆起させた点状突起を、近接させて横に並べたものからなり、この突起は、概ね直線に近い一本の線を構成しうる程度の規則的な並べ方となつていて、線の幅が二ないし三ミリメートルである点で同一である。横縞模様の間隔の幅は、本件登録意匠(一)が約二三ミリメートル、被告意匠(一)Aが約二〇ミリメートルである点で異なるほか、前記両意匠の構成の認定に供した前掲各証拠によれば、個々の点状突起の間隔が、本件登録意匠(一)より被告意匠(一)Aの方がやや広く、したがつて、被告意匠(一)Aの方が隣接する突起と接触しているものの数が少ないことが認められる。 イ 地模様 両意匠の地模様は、前認定の構成において同一である。ただ、右認定に供した前掲各証拠によれば、本件登録意匠(一)は、被告意匠(一)に比べて緯糸がやや太く、太さむらの生じている部分が多く、また、升目が顔料によつて多少埋まつている感じが強いけれども、その差異は、四〇センチメートル程度の距離を置いて観察した場合においても、判然としないことが認められる。 (3) 色彩 両意匠とも、横縞模様を形成する線は、光沢のある明るいベージユ系の色であり、地模様は、光沢のないベージユ色である点において同一であるが、被告意匠(一)Aの横縞模様を形成する線の方がピンクがかつており、また、地模様が明るい点において異なる。 (4) 以上のとおり、両意匠は、形状、模様及び色彩のいずれの点においても類似点が多く、その相違点は、壁張地という物品の意匠としては、いずれも微細なものというほかないものであつて、両意匠を全体的に観察すると、両意匠は、美感を共通にするものであり、したがつて、類似するものというべきである。 (三) 本件登録意匠(一)と被告意匠(一)Bとの類否(1) 形状、模様は、右(二)(1)及び(2)と同様である。 (2) 色彩 両意匠とも、横縞模様を形成する線は、光沢があつて、地模様よりも明るい色であり、地模様は、光沢のないやや暗いベージユ色である点において同一であるが、 横縞模様を形成する線の色が本件登録意匠(一)は明るいベージユ色、被告意匠(一)Bは白色である点において異なる。 (3) 以上のとおりであるから、色彩についての相違点を考慮してもなお、右(二)の場合と同様の理由により、両意匠は、類似するものというべきである。 (四) 本件登録意匠(二)と被告意匠(二)との類否(1) 形状 両意匠とも、裏打紙に顔料を配合したビニル樹脂組成物を塗工した平板な壁張地である。 (2) 模様ア 抽象模様 両意匠とも、縦約一九ミリメートル、横約一五ミリメートルの下ぶくれの略菱形内に納まる植物風の抽象模様が、一定の角度をもつた方向に等間隔に散在させてプリントされている点及びこの抽象模様は上中下の三つの部分からなり、その下部が三本の小枝風の模様が左右と中央に下向きに垂れ下がつているものである点において同一である。もつとも、両意匠は、抽象模様を散在させた角度が約二度弱、模様の間隔の距離が約二ミリメートル異なつているほか、抽象模様の上部、中部及び下部の構成に前認定の相違点があるが、右相違点は、四〇センチメートル程度の距離から観察した場合においても、必らずしも明確に認識できるものではない。 イ 地模様 両意匠の地模様は、前認定のとおり、同一である。 (3) 色彩 両意匠の色彩は、前認定のとおり、同一である。 (4) 以上のとおり、両意匠は、形状、地模様及び地模様の上に描かれた抽象模様の散在のさせ方並びに色彩が同一であるうえ、抽象模様が双方とも植物風であつて大きさ、形状がほぼ等しいのに対し、その相違点は、抽象模様の中の微細な点に関するものであるから、四〇センチメートル程度の距離から観察した場合においても、その相違点は、必らずしも明確に認識しうるものではなく、いずれも微細なものであつて、両意匠を全体的に観察すると、両意匠は、美感を共通にするものであり、したがつて、類似するものというべきである。 三 以上によれば、被告意匠(一)A及び(一)Bは本件登録意匠(一)の範囲に、被告意匠(二)は本件登録意匠の範囲にそれぞれ属するものといわなければならない。よつて、原告の請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法89条、仮執行の宣言について同法196条1項の規定を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 清永利亮 |
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裁判官 | 小林正 |
裁判官 | 若林辰繁 |