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関連審決 審判1980-21140
関連ワード 物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  類似する意匠 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) / 
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事件 昭和 60年 (行ケ) 96号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1986/06/24
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和五五年審判第二一一四〇号事件について昭和六〇年四月二六日にした審決を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告主文同旨の判決2 被告 「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
請求の原因
1 特許庁における手続の経緯 【A】は、昭和五三年五月一八日、意匠に係る物品を「包装用箱」とする別紙第一の図面記載のとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(昭和五三年意匠登録願第二〇二九七号)をしたところ、昭和五五年八月五日拒絶査定があつたので、同年一一月二五日審判を請求し、昭和五五年審判第二一一四〇号事件として係属したが、原告は昭和五七年八月五日【A】から本願意匠について登録を受ける権利を譲り受け、同月六日被告に届出をしたが、昭和六〇年四月二六日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年五月三〇日原告に送達された。
2 判決の理由の要点(一) 本願意匠は、願書及び願書に添付した図面等の記載全体から、意匠に係る物品を「包装用箱」とし、意匠に係る形態を図面等によつて現したとおりにしたものであり、その全体としての構成態様を別紙第一に示すとおりにしたものと認める。
(二) これに対し、昭和五二年二月一七日特許庁発行の実開昭五二-二二三四〇号公開実用新案公報(考案の名称「折畳箱」、以下「引用公報」という。)所載の意匠(以下「引用意匠」という。)は、同公報の記載全体から、意匠に係る物品を「包装用箱」とし、意匠に係る形態を図面等によつて現したとおりにしたものであり、その全体としての構成態様を別紙第二に示すとおりにしたものと認める(但し、審決は第7図及び第8図は挙げていない。)。
(三) そこで、両意匠を比較すると、両意匠は、まず、意匠に係る物品について、使用目的を同一にした同種の物品と認められる。
次に、意匠に係る形態について、円板状の台紙を折り畳むことにより特定した底部、胴部、蓋部が一体に現れるよう形成したものであつて、その全体の周面形状を逆正多角錐台筒状にした点、胴部から蓋部までのひだにつき、胴部の各稜角線の部位に折り目線が斜状に現れるよう三角形状のひだ部を形成した点、その各ひだの上方側を胴部に対して三角形状に突出した庇状に現れるよう形成した点、更に蓋部の上面で台紙の各合わせ目線が中心から等間隔放射状に現れるよう形成した点等の各部の基本的形状及びそれらによつて構成した全体の基本的な構成態様が一致しているものと認められる。更に、全体の具体的な構成態様においても、後記の各点につき、それぞれ差異が認められるのみであつて、その余の点につき、ほぼ一致しているものと認められる。
すなわち、両意匠は、各部の具体的な態様のうち、周面形状につき、本願意匠は、八角錐台筒状としているのに対し、引用意匠は、一二角錐台筒状とした点、蓋部の各合わせ目の態様につき、本願意匠は、あきをやや広めにし、その面のみをやや暗調子にしているのに対し、引用意匠は、細幅の線状とし、その線を他の面と同調子に現わしている点等に差異が認められる。
以上の一致点、差異点等を総合して、両意匠を全体として考察するに、両意匠における各差異点は、いずれも箱体の具体的な態様のうちの一部分又は細部等の差異と認められるものであり、それらのうち、全体の角数の差異点は、「包装用容器」の分野において、容体の基本的形状を四角形から一六角形までの各種の正多角箱体、筒体、錐台形体等にしたものが一般化しており、本願意匠が引用意匠に基づき、一般化していた八角形のものに改変をした結果生じた差異にすぎないものであり、蓋部の各合わせ目の差異点は、本願意匠が、その部位につき、僅かに広幅の条状面にし、その面を単純な暗調子のものに改変した結果生じた部分的な差異にすぎないものであり、いずれも全体の具体的な構成態様を著しく変更したと認められる程の差異ということはできない。
以下のとおり、本願意匠は、引用意匠と前記の各点につき、それぞれ差異点が認められるものであるが、その余において前記のとおり一致点が認められるものであり、全体として引用意匠に類似するものといわざるをえない。
したがつて、本願意匠は、意匠法第3条第1項第3号に規定した意匠に該当するものであるから、意匠登録をすることができない。
3 審決の取消事由 審決は、本願意匠と引用意匠とを対比判断するに当たり、両意匠の差異点を看過、誤認し、かつ審決認定の差異点についての認定、判断を誤つた結果、本願意匠は引用意匠に類似するものと誤つて判断したものであるから、違法であつて取消されるべきである。
(一) 本願意匠と引用意匠とは、審決認定のように、意匠に係る物品を共通にすること、意匠に係る形態について、円板状の台紙を折り畳むことにより特定した底部、胴部、蓋部が一体に現れるように形成したものであつて、胴部から蓋部までのひだにつき、胴部の各稜角線の部位に折り目線が斜状に現れるよう三角形状のひだ部を形成した点、更に蓋部の上面で台紙の各合わせ目が中心から等間隔放射状に現れるよう形成した点で一致していることは、争わない。
しかしながら、審決が両意匠は意匠に係る次の各形態において一致していると認定したのは誤りである。
(1) 全体の周面形状を逆正多角錐台筒状とした点 本願意匠は、側面において、蓋部を形成するひだが底面とほぼ平行に形成されているため、側面から観察すると、蓋部の面はほとんど見えず、審決認定のとおり、
逆正多角錐台筒状の形状をなしている。
これに対し、引用意匠は、側面において、蓋部を形成するひだが胴部より上面中心に向けてほぼ斜め上方向へ立ち上がつているため、側面から観察すると、蓋部の上面が側面に現れ、全体的形状はいわゆる茶巾しぼりのような形状をなしており、
これを逆正多角錐台筒状ということはできない。
(2) ひだの上方側を胴部に対して三角形状に突出した庇状に現れるように形成した点 胴部から蓋部に至るひだにつき、本願意匠は、審決認定のとおり、(底面から観察すると)胴部の各稜角線の部位に折り目線が斜状に現れるよう三角形状のひだ部を形成し、(側面から観察すると)その各ひだの上方側を胴部に対して三角形状に突出させ、
庇状に現れるよう形成されている。
これに対し、引用意匠は、そのひだを底面より観察すると、胴部に対して三角形状に現れているが、ひだを形成する胴部の各稜角線の折り目が僅かに現れているだけであるから、側面から観察すると、胴部に対して庇状に現れるひだは、突出する分量がきわめて僅かであつて、本願意匠のような三角形状に突出した庇状とは全く異なるものである。
(二) 本願意匠と引用意匠とは、容体の周面形状及び蓋部の各合わせ目の態様において差異があることは、審決認定のとおりである。
しかしながら、両意匠の容体の周面形状の差異は、審決認定のような単なる角数の差異ではなく、全体的形状において、本願意匠が逆正八角錐台筒状としているのに対し、引用意匠が茶巾しぼり形状としている点の差異であるから、両意匠の容体の周面形状の差異につき、本願意匠が引用意匠に基づき、「一般化していた八角形のものに改変した結果生じた差異にすぎない」とした審決の判断は誤りである。
また、蓋部の合わせ目の態様については、本願意匠は、引用意匠のように円形の台紙を折り畳んだものではなく、台紙の周端縁に沿つて円弧状の凸部と凹部を交互に設けたものを折り畳むものであり、これを箱状に折り畳んだとき、上方から観察すると、蓋部に放射状に現れる台紙の周端縁の円弧状の二辺によつて台紙裏面があたかも花弁のごとき図形を形成するようにし、かつ台紙裏面を模様として強く印象づけるために他の部分より濃い色で着色されているものであるから、本願意匠の蓋部の合わせ目の態様を、「あきをやや広めにし、その面のみをやや暗調子に現し」とした審決の認定は誤りである。また、この種の折畳箱において、従来円形の台紙を折り畳んだことにより、台紙の周端縁がほぼ完全に重なり合つて蓋部を構成する形状は数多く存在するが、本願意匠のように蓋部において花弁のごとき図形を形成したものはないから、両意匠の蓋部の合わせ目の差異点につき、「本願意匠が、その部位につき、僅かに広幅の条状面にし、その面を単純な暗調子のものに改変した結果生じた部分的な差異にすぎない」とした審決の判断は誤りである。
(三) 前記(一)及び(二)の事実に基づき、本願意匠と引用意匠とを対比すると、両意匠は次の点において顕著な差異がある。
(1) 基本的形状において、本願意匠は逆正八角錐台筒状としているのに対し、
引用意匠は茶巾しぼり形状としている。
この点について、被告は、別紙第二の第2図及び第3図は、引用意匠の容体の開口途中の態様を現したものであり、引用意匠の容体の蓋部上面中央を下方へ押せば、本願意匠の正、背図面とほぼ同形の逆正多角錐台筒状となる(別紙第二第8図参照)旨主張するが、別紙第二の第2図、第3図及び第7図は、引用意匠の容体の最終的折り畳み状態を現すものであつて、このことは、引用公報の図面の簡単な説明の項に、「第2図は同折畳んだ状態の正面図、第3図は同左側面図、(中略)第8図は第7図に於て上壁、及び、折込壁を下方に傾斜させた状態を示す図である。」引用公報第一頁右欄第九行ないし第一五行)と記載されていることから明らかである。
また、被告は、本願意匠の容体の蓋部上面中央を上方へ引き上げれば、引用公報の第2図及び第3図とほぼ同形の茶巾しぼり形となる旨主張するが、この主張は単に容体を展開する際の一過程の形態をとらえているにすぎず、本願意匠はその蓋部を引き上げたまま使用されることはない。
更に、被告は、両意匠の角数の差は、多角形という概念の中に包括しうる程度のことである旨主張するが、両意匠は、その基本的形状において単に角数に差があるだけでなく、底面形状を八角形としたこと(本願意匠)と、一二角形としたこと(引用意匠)とにより、それぞれの容体上面に現れるひだの向き、該ひだによつて形成される三角形状の外方突出部の大小等、全体形状に大きな差異を生じるものであつて、これを単に角数の差とのみしかとらえない被告の主張は失当である。
(2) 本願意匠は、胴部の各稜角線の部位に折り目線が斜状に現れるよう三角形状のひだ部を形成し、その各ひだの上方側を胴部に対して三角形状に突出させ、庇状に現れるよう形成されているのに対し、引用意匠は、ひだを形成する胴部の各稜角線の折り目が僅かに現れているだけであつて、本願意匠のような特徴を有する三角形状に突出した庇状に形成されたひだを有するものではない。
この点について、被告は、引用意匠のひだは、本願意匠のひだに比べて突出する分量がやや少なめではあるが、その差はきわめて僅かである旨主張するが、前記(一)(2)のとおり、両意匠のひだの突出する分量には大きな差異があり、この差異は、看者が両意匠を全体的に観察したとき、本願意匠は角部毎にびだが大きく外方に張り出したきわめて荒々しく角張つた八角の筒状胴部を有するのに対し、引用意匠は起伏の小さい比較的滑らかな一二角の筒状胴部を有するという全く別異の印象を与えるものである。
(3) 蓋部は、この種の包装用箱に係る意匠において看者の最も注意を引くところであるが、本願意匠は、側面より観察すると、蓋部は底面とほぼ平行に形成されており、また、上方から観察すると、蓋部に現れる台紙の周端縁の円弧状の凸部と凹部によつて他の部分より濃い色で着色された台紙裏面があたかも花弁のごとき模様を形成するものであるのに対し、引用意匠は、蓋部を形成するひだが銅部より上面中心に向けてほぼ斜め上方へ立ち上がつているため、側面より観察すると、蓋部の上面が側面に現れており、また、上方から観察すると、蓋部の平面形状は中心部分に放射状に現れる台紙の周端縁がほぼ完全に重なり合つているが、蓋部が上方に立ち上がつているため、台紙の周端縁によつて形成される一二本の放射状の隙間が上方からのぞかれるにすぎないものであつて、両意匠は看者に異なつた印象を強く与えるものである。
この点について、被告は、蓋部上面の合わせ目における差異は、左右両方向へ突円弧状に広がる二辺のずれによつて生じた花弁様図形(本願意匠)と、左右両方向へやや直線に近い突円弧状に広がる二辺のずれによつて生じた花弁様図形(引用意匠)との違いであつて微差にすぎず、本願意匠において花弁様図形が他の部分より濃い色で現されている点にも、創作性は認められない旨主張する。
しかしながら、前述のとおり本願意匠は、台紙の周端縁に円弧状の凸部と凹部を交互に設けたものを箱状に折り畳んだとき、上方から観察すると、蓋部に放射状に現れる該周端縁の凸部と凹部によつて台紙裏面が花弁様図形を形成するようにしたものであり、この図形の部分は台紙裏面(折り畳まれた状態の内面側)が容体の外部上面に露出する部分であり、この部分に他の部分より濃い色で着色を施したことにより容体の蓋部の中心から外周縁近傍にかけて他の部分より濃い色の花弁様図形が放射状に大きく現れ、これによつて、単に円形状台紙を箱状に折り畳んだだけでは得られないきわめて斬新な美感を生じさせるものである。これに対し、引用意匠においては、蓋部を構成する折り畳み片が上方に立ち上がつていることによる端縁の合わせ目の僅かな開きや容体作成時のずれが、蓋部の平面形状に現れているにすぎず、二本の線の間隔は看者に無視される程度の僅かなものであり、したがつて、
引用意匠においては放射状の花弁様図形が現れているということはできない。
したがつて、両意匠は、全体として観察すると、前記(1)ないし(3)のような顕著な差異があり、本願意匠は、看者に対し引用意匠とは明らかに異なつた美感を与えるものであるから、本願意匠は引用意匠に類似する意匠であるとした審決の判断は誤りである。
被告の答弁及び主張
1 請求の原因1及び2の事実は、認める。
2 同3の審決の取消事由の主張は、争う。
審決の認定、判断は正当であつて、審決には原告主張のような違法の点はない。
(一) 容休の周面形状について 本願意匠と引用意匠とは、ともに意匠に係る物品を包装用箱とし、内容物の出し入れをする際は、蓋部を上方へ引つぱり上げて開口するものであるところ、別紙第二の第2図及び第3図は、引用意匠の容体の開口途中の態様を現したものであり、
引用意匠の容体の蓋部上面中央を下方へ押せば、本願意匠の正、背面図とほぼ同形の逆正多角錐台筒状となり(別紙第二弟8図参照)、また、本願意匠の容体の蓋部上面中央を上方へ引き上げれば、別紙第二第2図及び第3図とほぼ同形の茶巾しぼり状となる。したがつて、本願意匠と引用意匠との周面形状は互いに共通するものである。
また、八角形と一二角形とは、角数からみれば四個の差であるが、通常、この差は多角形という概念に包括しうる程度のことであるから、本願意匠のような八角錐台筒状も引用意匠のような一二角錐台筒状も、多角錐台筒状という点では共通するものである。
(二) ひだについて 引用意匠のひだは、本願意匠のひだに比べて、胴部に対して突出する分量がやや少なめではあるが、その差はきわめて僅かであり(別紙第一の正面中央縦断面図右側端の部位及び別紙第二の第7図9の部位参照)、ひだを胴部の各稜角線の部位に細長三角形状に形成している点では両意匠は共通するものである。
(三) 蓋部について 蓋部上面の合わせ目における差異は、左右両方向へ突円弧状に広がる二辺のずれによつて生じた花弁様図形(本願意匠)と、左右両方向へやや直線に近い突円弧状に広がる二辺のずれによつて生じた花弁様図形(引用意匠)との違いであり(別紙第二第4図参照)、本願意匠における該図形の二辺の円弧は、引用意匠より円弧の半径がやや小さいため、面積が僅かに広めに現れたにすぎないものであつて、両意匠とも、円弧状の辺を基調として区切られた花弁様図形が放射状に現れるという点では共通するものであり、その面積の差は、両意匠に共通する花弁様図形という印象を破る程強いものではなく、徴差にすぎない。
また、本願意匠の蓋部の合わせ目に形成された花弁様図形は、他の部分より暗調子で現されている点については、その部位を単純なツートンの調子にしたまでのものであるからほとんど創作性を認められず、引用意匠との差異は徴差にすぎない。
以上のとおり、本願意匠と引用意匠とは、前記の差異点を除き、審決認定のとおり、全体の基本的な構成態様及びその余の具体的な構成態様において一致し、全体として互いに類似するものである。
証拠関係(省略)
理 由1 請求の原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
(一) 本願意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品を包装用箱とし、意匠に係る形態について、円板状の台紙を折り畳むことにより、特定した底部、胴部、蓋部が一体に現れるように形成したものであることは、当事者間に争いがない。
そこで、まず、両意匠の基本的な構成様態について検討すると、成立に争いのない甲第二号証によれば、本願意匠は、底面から観察すると、胴部の各稜角線の部位に折り目線が斜状に現れるよう三角形状のひだ部を形成し、かつ側面から観察すると、その各ひだの上方側を胴部に対して三角形状に突出させ、庇状に現れるように形成し、また、胴部から更に上方の蓋部を形成するひだを底面とほぼ平行に形成しているため、本願意匠を側面から全体的に観察すると、その周面形状は逆正多角錐台筒状をなし、また、蓋部の上面には各合わせ目が中心から等間隔放射状に現れるよう形成していることが認められる。
一方、前示争いのない事実及び成立に争いのない甲第三号証によれば、引用意匠は、その全体としての構成態様を別紙第二(第7図及び第8図を含む。)に示すとおりにしたものであり、底面から観察すると、胴部の各稜角線の部位に折り目線が斜状に現れるよう三角形状のひだ部を形成し、かつ側面から観察すると、その各ひだの上方側を胴部に対して三角形状に緩やかに突出させ、庇状に現れるように形成し、胴部から更に上方の蓋部を形成するひだを、蓋部の側面寄りの部分から中心に向けて斜め上方へ立ち上がるように形成しているため、引用意匠を側面から全体的に観察すると、その周面形状はいわゆる茶巾しぼり様の形状をなし、また、蓋部の上面には各合わせ目が中心から等間隔放射状に現れるよう形成していることが認められる。
そこで、前記認定事実に基づき、両意匠の基本的な構成態様を対比すると、両意匠は、蓋部の上面において、台紙の合わせ目が中心から等間隔放射状に現れるように形成した点において一致し、かつ、胴部に形成したひだについても、各ひだの上方側が庇状に突出する分量に差があるものの、その差は僅かであつて、該ひだを胴部に対して三角形状に突出させ、庇状に現れるよう形成している点で共通している(この点において、各ひだの上方側が庇状に突出する分量の差を強調し、両意匠の差異をいう原告の主張部分は採用しない。)が、両意匠を側面から観察した場合の周面形状において、本願意匠は逆正多角錐台筒状であるのに対し、引用意匠は茶巾しぼり様の形状である点において顕著な差異があるというべきである。
被告は、別紙第二第2図及び第3図は、引用意匠の容体の開口途中の態様を現したものであり、引用意匠の容体の蓋部上面中央を下方へ押せば、本願意匠の正、背面とほぼ同形の逆正多角錐台筒状となり(別紙第二第8図参照)、また、本願意匠の容体の蓋部上面を上方へ引き上げれば、別紙第二第2図及び第3図とほぼ同形の茶巾しぼり状となるから、両意匠の周面形状は互いに共通する旨主張する。
しかしながら、前掲甲第三号証によれば、引用公報の図面の簡単な説明中には、
「第1図は本考案折畳函の展開図、第2図は同折畳んだ状態の正面図、第3図は同左側面図、第4図は同平面図、(中略)第7図は第4図のA-A線に於て切截した断面拡大図、第8図は第7図に於て上壁、及び、折込壁を下方に傾斜させた状態を示す図である。」(引用公報第一頁右欄第九行ないし第一五行)と記載されていることが認められ、また、成立に争いがなく、かつ引用公報に掲載された実願昭和五〇-一〇六六〇〇号実用新案の登録願書に添付された明細書ならびに図面のマイクロフイルムの複写物であることについても争いのない甲第六号証によれば、右明細書の考案の詳細な説明中には、「本考案は底壁(2)上に側壁(5)を立てた時の高さに相応する程度の内容物(例えば、ちらしずし)を載置し、罫線(1)に於て屈折して側壁(5)を大体直立状になし、罫線(4)から上壁(8)、折込壁(10)を内側に屈折するとともに、罫線(6)、(7)に於て屈折して折込壁(9)を側壁(5)の、同(10)を上壁(8)の各内側に折込むものである。これが折畳まれた状態であつて、この状態に於て上壁全体の中央部を押圧すれば上壁(8)、及び、折込壁(10)の全体は罫線(4)から第8図図示のように下方に傾斜する。折畳んだ本考案折畳函を多数積重ねる場合にはこの上壁(8)、及び、
折込壁(10)を下方に傾斜させた状態に於てなす。」(明細書第三頁第四行ないし第一七行)と記載されていることが認められ、これらの認定事実によれば、引用意匠を図示した別紙第二第2図及び第3図は、引用意匠の容体が折り畳まれて完成した状態を現したものであつて、開口途中の態様を現したものでないことは明らかであり、別紙第二第8図は、折り畳まれて完成した状態にある引用意匠の容体を多数積重ねる場合に折込壁を下方に傾斜させた状態を図示したものであるから、これをもつて引用意匠の周面形状が逆正多角錐台筒状であるということはできない。また、意匠の類否判断に当たつて、意匠登録出願に係る意匠(「甲意匠」)が当該意匠に係る物品の種類、性質に則した通常の使用状態における当該物品の形状等によつて構成されるものであることが明らかである場合、意匠登録出願に係る意匠と対比すべき意匠(「乙意匠」)についても、右と同じ状態における当該物品の形状等のものとしてこれを把握すべきことは当然である。そして、甲意匠に係る物品形状等がその物品の有する機能に基づいて変化しうるものであつても、その変化した形状等について意匠登録を受ける趣旨が願書に明示されていない以上、甲意匠の変化した形状等を想定して、これと乙意匠の通常の使用状態における物品の形状等を対比することは許されない理であり、本件において、本願意匠と引用意匠の周面形状を対比する場合においても、両意匠に係る物品が折り畳まれて容体として完成した状態が通常の使用状態であると認められる以上、その状態で対比すべきであり、
本願意匠の容体の蓋部上面を上方へ引き上げたときの状態と引用意匠の容体の折り畳まれた状態とを対比することは相当でないことは、意匠に係る物品の種類、性質及び本件出願の趣旨、すなわち、前掲甲第二号証によれば、本願意匠の容体について「上面に順次折り畳まれている部分のいずれかを摘み上げることによつて開」く(意匠登録願書の意匠に係る物品の説明第一、第二行)と説明されてはいるものの、蓋部上面を上方に引き上げたときの状態がどのようなものであるか確定的な形状は示されておらず、その形状について意匠登録を受ける趣旨は右願書に何ら記載されていないことが認められることに照らしても明らかであるから、被告の前記主張はいずれも採用することができない。
(二) 次に、審決認定の両意匠の具体的な態様の差異点について検討すると、両意匠の周面形状の具体的な態様は、前掲第二、第三号証によれば、胴部に現れた形状において、本願意匠は八角形状であるのに対し、引用意匠は一二角形状である点において差異があるものと認められるが、周面形状については、右の具体的な態様の差異について判断するまでもなく、その基本的な構成態様において、本願意匠は逆正多角錐台筒状であるのに対し、引用意匠は茶巾しぼり様の形状である点において顕著な差異があることは、前記(一)において述べたとおりである。また、蓋部の合わせ目の具体的な態様は、前掲甲第二、第三号証によれば、本願意匠は、円板形の台紙の周端縁に沿つて、円弧状の凸部と凹部とを交互に設け、かつ該凸部の円弧とこれと対称位置に描かれた円弧とから成る紡鍾形部分を他の部分より濃い色で着色し、この台紙を折り畳むことにより、上面から観察すると、蓋部を構成する折り畳み片の端縁(台紙の周端縁)の合わせ目が凹凸の円弧によつて画されて計八個の紡鍾形を成すものを等間隔放射状に形成するようにし、かつ、紡鍾形を成す該合わせ目がそれとほぼ相似形の前記台紙の着色紡鍾形部分により他の部分より濃い色が現れるように形成したものであるのに対し、引用意匠は、円板状の台紙を折り畳む際に、蓋部を構成する折り畳み片を上方に立ち上がらせたことにより、上面から観察すると、その端縁(台紙の周端縁)の合わせ目に一二個の細幅、縦長の隙間を等間隔放射状に形成するようにしたものと認められるから、両意匠は、蓋都の合わせ目の具体的な態様において、本願意匠は、各合わせ目が他の部分よりも濃い色に着色され、蓋部の中心から花弁様に明確に現れているのに対し、引用意匠は、各合わせ目が蓋部の中心から細幅、縦長の隙間として現れているにすぎない点において顕著な差異があるというべきである。
被告は、蓋部上面の合わせ目における差異は、左右両方向へ突円弧状に広がる二辺のずれによつて生じた花弁様図形(本願意匠)と左右方向へやや直線に近い突円弧状に広がる二辺のずれによつて生じた花弁様図形(引用意匠)との違いであつて微差にすぎず、また、本願意匠の花弁様図形が他の部分より暗調子で現されている点についても殆ど創作性が認められない旨主張する。
しかしながら、前記認定事実によれば、本願意匠における花弁様図形は単なる台紙の折り畳み片の端縁(台紙の周端縁)のずれによつて生じたものではなく、円板状の台紙の周端縁に沿つて円弧状の凸部と凹部とを交互に設け、これを折り畳むことによつて生じたものであるのに対し、引用意匠の折り畳み片の端縁に形成された図形は細幅、縦長の隙間であつて花弁様図形といえないことは前記認定の通りであり、また、本願意匠においては、花弁様図形が他の部分より濃い色で現されていることによりこの図形が花弁様に明確に現れ、看者に引用意匠とは異なつた美感を与えるものであつて、この点にも創作性を認めることができるから、被告の前記主張はいずれも理由がない。
(三) 本願意匠と引用意匠とは、ともに意匠に係る物品を包装用箱とするものであつて、この物品の性質上、看者はこれを主として側面及び上面から観察するものであるから、周面形状及び蓋部の合わせ目の態様は、それぞれの意匠の支配的要素であり、看者の注意を最も惹きやすい要部をなすものというべきところ、前記(一)及び(二)の認定事実によれば看者において両意匠を側面から観察すると、
本願意匠は逆正多角(八角)錐台筒状であるのに対し、引用意匠は茶巾しぼり様の形状であり、上面から観察すると、本願意匠は台紙の折り畳み片の端縁(台紙の周端縁)によつて他の部分より濃い色で着色された花弁模様が放射状に形成されているのに対し、引用意匠は台紙の折り畳み片の端縁によつて細幅、縦長の隙間が放射状に形成されているものであつて、両意匠を全体として観察するときは、両意匠から受ける美感はそれぞれ異なるものといわなければならない。
以上のとおりであつて、本願意匠は引用意匠とは別異の意匠というべきであるから、本願意匠は引用意匠に類似するものとした審決の判断は誤りであり、その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は違法として取消すべきである。
3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 蕪山嚴
裁判官 竹田稔
裁判官 濱崎浩一