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関連審決 審判1979-5209
関連ワード 意匠の実施 /  意匠の創作 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  意匠登録を受ける権利 /  先願 /  先願権 /  類似する意匠 /  類似の意匠 /  後願の意匠 /  意匠の類否 /  願書の記載 /  本意匠 /  先出願(29条の2) /  登録意匠 /  権利を専有 /  差止請求(差止) /  類似性(類否判断) /  無効審判 / 
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事件 昭和 57年 (行ケ) 106号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1986/05/29
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和五四年審判第五二〇九号事件について昭和五七年三月三一日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告主文同旨の判決二 被告1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 訴外亡【A】(以下、「【A】」という。)は、昭和五一年五月一七日、意匠に係る物品を「排水用コンクリートブロツク」とする別紙(一)に記載のとおりの構成から成る意匠につき登録出願したが、同人は昭和五二年二月七日死亡した。
昭和五三年一月二八日右意匠につき【A】を登録名義人とする設定登録(登録第四七六九四三号、以下、右登録に係る意匠を「本件登録意匠」という。)がなされたところ、被告は、昭和五四年五月八日【A】を被請求人として本件登録意匠につき登録を無効にすることの審判を請求し、昭和五四年審判第五二〇九号事件として係属した。
特許庁審判長は、昭和五四年八月二日付(発送日八月一〇日)で【A】宛に答弁書の催告書、審判請求書副本を発送し、特許庁長官はその頃同じく【A】宛に審判番号等に関する通知書を発送し、原告は、右発送日頃に右各書類を事実上受領した。
原告は、審判長に対し、【A】は前記日時に死亡したこと、本件意匠権は原告を含む【A】の相続人間の協議により原告が相続することに決し、その旨の移転登録手続を準備中であることから、前記審判事件について答弁書提出期日指定の取消し又は期日の延期を求める旨を記載した昭和五四年九月一七日付上申書を戸籍謄本を添付して提出した。
昭和五四年一〇月二〇日【A】の相続人間において、本件意匠権は原告が取得する旨の遺産分割協議が成立し、原告は昭和五五年三月一八日原告を権利者とする旨の移転登録申請をなし、同年四月二五日右移転登録がなされた。
昭和五七年三月三一日前記審判事件について、「登録第四七六九四三号意匠の登録は、これを無効とする。」との審決がなされ、その謄本は同年四月二八日原告に送達された。
二 審決の理由の要点 本件登録意匠は、昭和五一年五月一七日登録出願し、昭和五三年一月二八日に登録されたものであつて、意匠に係る物品を「排水用コンクリートブロツク」とし、
その態様は、全体を細長いU字形の構成とし、その底面には、左右に大きい同形の横長方形を呈する透孔部が設けられ、そのため平面には、横方向には上下両端に、
縦方向には左右両端と中央に平担なる若干の余白部分が形成されており、そして縦方向の該部は下方にやや突出させた態様としており、他方、左右両側壁の外側は、
その上端部は巾狭い帯状に外方に突出させ、その下端部は斜状に短く切截し、側壁の内側は、下端部に短い湾曲面を形成したものであつて、両側壁全体は、上方に向つて僅かに巾広く傾斜状としたものであることが、願書添付の図面及び願書の記載によつて認められる。
これに対し、昭和五〇年一月一四日登録出願し、昭和五二年一月二七日に登録された意匠登録第四四六〇〇三号類似第一号の意匠(以下、「引用意匠」という。その構成については別紙(二)参照。)は、意匠に係る物品を「排水用ブロツク」とし、その態様は、全体を細長いU字形の構成とし、その底面には、左右に大きい同形の横長方形を呈する透孔部が設けられ、そのため平面には、横方向には上下両端に、縦方向には左右両端と中央に平担なる若干の余白部分が残されており、そして縦方向の該部は下方にやや突出させた態様としており、他方、左右両側壁の外側は、その下端部は斜状に短く切截し、側壁の内側は、下端部に短い湾曲面を形成したものであつて、側壁全体は、上方に向つて僅かに巾広く傾斜状としたものであることが、その記載から認められるものである。
そこで両意匠を比較検討すると、両者は前記認定の通り、両側壁外側の上端部における帯状の突出部の有無において差異があることは認められるとしても、しかしその他の点については、これ又既に認定の通り、両者は共に全体を細長いU字形の構成とし、その底面には、共に二個の長方形の透孔部がほぼ同位置に形成され、下方部には前記の如くにほぼ同形、同位置の突出部を形成するなど、両者間には差異はみられず、しかもこれら共通点は、各部の態様のすべてにわたり、ほぼ全体を支配する所であるから、やはり相当に注意の引かれる所である。
これに反して前記の差異は、請求人(被告)指摘の如く、かかる突出部の有無は、この種の物品としては、他にもみられる所で、その差異点自体が、創作の要部をなすという程のものでもない上に、全体からみても又限られた一部にすぎず、してみればかかる差異は、前記共通点を凌駕して、大きく注意の引かれるものとは認められず、したがつて、全体としての意匠は、両者は未だ互いに類似の範囲をでないものとするのが相当である。
そして、引用意匠は、その登録出願日は、前記の記載の通りのものであることが認められる所から、本件登録意匠は意匠法第9条第1項の規定に違反して登録されたものであることは明らかであり、してみれば、本件登録意匠について、同条同項の規定に基づいて、その登録の無効を主張する請求人(被告)の主張は、理由があり、その所論に違法はなく、したがつて本件登録意匠の登録は、前記の規定に基づいて、これを無効とすべきものとする。
三 審決を取り消すべき事由1 手続上の違法(一) 本件審判請求は意匠法第52条によつて準用される特許法第132条第2項に違反する不適法なものであり、右不適法な請求に基づいてなされた審決は違法である。すなわち、【A】の死亡により本件意匠登録を受ける権利は【A】の相続人である原告ほか五名の共有となり、本件審判請求時において本件意匠権も右六名の共有であつたところ、被告は、【A】が死亡していることを知りながら、右共有者全員を被請求人とすることなく、【A】を被請求人として本件審判を請求したものであるから、右請求は不適法である。
被告は、【A】の相続人間において遺産分割協議が成立したことにより、原告が単独で本件意匠権を承継取得し、本件審判請求時における実質上の被請求人は原告であるから、「被請求人【A】」という表示は原告を被請求人として表示したものとみるべきである旨主張する。
しかしながら、ことは単なる被請求人の表示の問題ではなく、本件意匠権を処分する権限を有する者としての当事者適格に係るものであるところ、遺産分割前の相続財産に関する審判当事者適格の問題と遺産分割の遡求効とは何ら関連がなく、被告の右主張は理由がない。すなわち、意匠権が共有に係るものであるときは、当該共有者全員を被請求人とすべきことは必要的共同審判に関する前記規定上明らかであるところ、前記のとおり、本件審判請求時においては本件意匠権は【A】の相続財産の一部として原告ほか五名の共有に属していたのであるから、原告ほか五名を被請求人とすべきであり、原告は、少なくとも遺産分割協議成立時又は原告名義への移転登録時までは持分権者にすぎず、単独での審判追行権能を有していなかつたのであるから、本件審判係属中に原告が本件意匠権を単独で取得するに至つたとしても、審判請求時に遡つて独立の当事者適格を取得するわけではない。
次に、被告は、本件審判請求当時本件意匠権が【A】の相続人らの共有に係るものであつたから、右相続人全員を被請求人とすべきであつたとしても、【A】の相続人らは意匠法第36条、特許法第98条第2項所定の相続による意匠権承継の届出をしておらず、右当時本件意匠権の登録名義人は【A】であつたから、被告としては、【A】の相続人全員を被請求人として表示する必要はなく、【A】を被請求人と表示してした本件審判請求は適法である旨主張する。
しかしながら、相続その他の一般承継の場合は移転登録なくして権利移転の効果が生ずるのであるから、【A】の死亡と同時に同人の権利は相続人に移転し、したがつて、たとえ権利承継の届出がなされていなくても、爾後本件意匠権に関して、
【A】を名宛人とする如何なる行為もその効力を生ずる余地はないものといわざるをえず、被告の右主張は理由がない。
また、被告は、必要的共同審判において共有者全員を被請求人とすべきことは審判請求時に具備しなければならない要件ではなく、審決の前提となる要件であるから、審決時に本件意匠権の主体であり、したがつて被請求人適格を有する者は原告一人であつた以上、本件審判手続には必要的共同審判の規定の適用はない旨主張する。
しかしながら、特定の財産権についての争訟の手続当事者を実体上の権利者と一致させようというのが争訟法の基本原理であり、個々の手続は、その行為の都度処分権限を有するものによつてなされた場合にのみ有効なのであるから、被告の右主張は失当である。
更に、被告は、本件審判請求について必要的共同審判の規定が適用されるべきであるとしても、原告は相続により本件意匠権を承継取得しており、また、その攻撃防禦の機会も充分に与えられていたのであるから、右共同審判に関する規定違反は治癒されている旨主張する。
しかしながら、当事者適格の具備は審判手続の係属の有効要件であつて、後発的事情によつて治癒される性質のものではないし、原告には防禦の機会は与えられていなかつたのであるから、右主張は失当である。
(二) 仮に、前項の主張が理由がなく、本件審判請求は適法であるとしても、本件審判手続には、意匠法第68条第2項によつて準用される特許法第23条第24条所定の手続を怠り、原告を審判手続に関与させないでなされた違法がある。
本件審判請求は、登録名義人ではあるが、すでに死亡している【A】を被請求人としてなされたものであるから、手続開始とともに直ちに手続の中断が発生する(あるいは発生している)ものというべきである。けだし、中断制度は、本来当事者が争訟の係属中死亡等の事由により争訟の追行権を喪つたことによつて、争訟手続がその成立要件を欠き、紛争解決の申立て却下のやむなきに至ることを救済する制度であるが、その点で本件の場合はこれと同視しうるものであるからである。したがつて、本件において、審判の請求とともに手続の中断が生じたものとして、原告が審判長宛に前記昭和五四年九月一七日付上申書を提出したとき、又は本件意匠権につき原告に対する移転登録手続の申請がなされたとき(右上申書の提出又は移転登録手続の申請は意匠法第36条、特許法第98条第2項所定の権利承継の届出とみなされるべきものでもある。)に、職権により原告に対し受継を命ずべきであつたにもかかわらず、審判官は受継命令を発することなく審判手続を進行させたものである。
そのため原告は当事者として審判手続に関与することなく、単に審決書謄本の送達を受けたにすぎない。
被告は、手続の中断が生ずるのは、手続開始後当事者が死亡した場合に限るのであつて、本件の場合は手続の中断が生じる余地はない旨主張する。
しかしながら、一旦なされた手続の法律上の効果を維持することと、正当な争訟追行権者の出現をまつこととの調整手段である点に中断制度の意義を認めるとすれば、本件の場合に、被告による審判の請求と同時に中断の状態になつたものとするのが法の精神に妥当するものというべきである。
また、被告は、本件審判手続において原告には代理人が選任されていたから手続は中断しない旨主張するが、代理人が選任されている場合には手続は中断しないというのは、代理権の授与があつた後に当事者が死亡した場合のことであるから、本件に適用のないことは明らかであり、右主張は理由がない。
更に、被告は、本件審判手続において中断が生じ、職権により受継手続がなされるべきであつたとしても、被告主張のような事情のもとにおいては、審判官による受継手続懈怠の瑕疵は治癒されている旨主張するが、特許庁における手続の違法の是正又は補充は特許庁側がなすべき事柄であつて、原告にはその違法の是正又は補充に協力する義務はなく、したがつて、仮に被告主張のような事情が存したとしても、そのことによつて審判手続の違法が治癒されるものではない。
(三) 前(一)、(二)の主張が理由がないとしても、審決は、原告に本件審判請求に対する答弁の機会を与えることなくなされたものであつて違法である。
私人の財産権の得喪の結果を招来し、そのため法が特に当事者争訟構造の手続を採用している無効審判手続において、本件のように、当事者が死亡し、かつ、将来新当事者となることを予想される者から、当事者の死亡、予想される新当事者の氏名及びその者の登録準備等の事実を届出て、先になされた答弁書提出期日の指定の取消し又は右期日の変更を求める届出があつた場合には、当該審判機関が相当な期間内に右期日指定の取消し又は期日の変更を許さない決定をしない以上、右期日指定は取り消されたものとするのが信義則からいつて相当である。
本件において、特許庁が昭和五四年八月二日付でなした【A】宛の答弁書の提出催告に対し、原告は、前記昭和五四年九月一七日付上申書を提出して、先になされた答弁書提出期日の指定の取消し又は期日の延期を求めたにもかかわらず、何らの応答もなかつたのであるから、前記答弁書の提出催告は取り消されたものというべきである。
したがつて、審決は、原告に答弁の機会を与えずになされた違法のものである。
この点について、被告は、右上申書提出時から審決時までに原告には充分攻撃防禦の機会が与えられていたから、右違法は存しない旨主張するが、原告には、被告の不適法な審判請求や特許庁の違法な手続の是正又は補充に協力すべき義務はないのである。
2 実体上の違法(一) 審決が、本件登録意匠と、引用意匠の本意匠である登録第四四六〇〇三号意匠(以下、「本意匠」という。その構成については別紙(三)参照。)との類否判断をなさず、引用意匠との類否判断を行い、意匠法第9条第1項を適用して本件登録意匠の登録を無効としたことは、次に述べる理由により違法である。
意匠法第9条第1項は、創作物として同一性のある各独立の意匠につき重複する登録を阻止するため、意匠登録出願が重複した場合には、意匠創作の日時の先後に関係なく、先出願者にのみ登録を認めるという政策的な出願処理規定にすぎないものであるから、右規定の趣旨を越えた範囲にまで拡張して適用することが許されないことはいうまでもない。
一方、同法第10条の類似意匠の意匠登録制度においては、出願人は登録意匠権者に法定されており、第三者が行う類似意匠の意匠登録出願は認められていないのであるから、その意味においては、意匠法第9条第1項におけるような重複出願が生ずる余地のないものである。
右のように、本来的に重複出願を予定している規定である意匠法第9条第1項を、同法第10条に規定される、重複出願を予定しない類似意匠の登録制度に適用することは、適用又は準用を許す特別の明文規定がない限り論理上成り立ちえないことであつて、審決が本件登録意匠本意匠との類否判断をすることなく、引用意匠との類否判断をなして、意匠法第9条第1項を適用したことは明らかに違法な擬律であるといわざるをえない。
そして、本件事案に即して実体的に考えても、本件につき意匠法第9条第1項を適用することが不合理であることは、次に述べるところから明らかである。すなわち、意匠法第10条第2項は、意匠登録を受けた類似意匠にのみ類似する意匠については、類似意匠の登録を受けることができないと定めており、これによれば、意匠法は、登録を受けた類似意匠には類似するが、本意匠と区別される程度に異なる意匠は別意匠の範囲にあるものとしているのである。ところが、審決のように、本件登録意匠本意匠との類否を判断することなく、類似意匠である引用意匠との類否判断だけを行い、意匠法第9条第1項を適用することが許されるとすると、本来本意匠権利者が意匠法第10条第2項によつて権利取得を許されず、したがつて権利主張が不可能とされる領域において第三者の権利取得を妨害しうることになり、
意匠法が定める本意匠の権利範囲を実質上拡張するという不当な結果を招来することになる。
被告は、先願権の範囲と意匠権の効力が及ぶ範囲は必ずしも一致するものではない旨主張するが、意匠法が明らかに類似意匠としての登録を許さないとした範囲にまで本意匠権の効力が及ぶとするのは法理論の矛盾であつて、被告の右主張は理由がないものというべきである。
以上の次第で、類似意匠の意匠登録出願と独立の意匠登録出願との間では意匠法第9条第1項を適用すべきでなく、先後願関係における類否判断は、常に本意匠との関係においてなされるべきであるし、かつ、そのことによつて何らの不都合も生じないのである。
そして、本件登録意匠本意匠は、排水用ブロツクとして別個の意匠であつて類似関係にないのであるから、引用意匠との類否判断に基づき、本件登録意匠の登録を無効とした審決の違法は明らかである。
(二) 仮に、前項の主張が理由がないとしても、本件登録意匠と引用意匠とは、
意匠に係る物品は同一であるものの、その形状を異にし、類似していないものというべきであつて、これに反する審決の認定は誤つており違法である。
別紙(一)ないし(三)によれば、本意匠、引用意匠及び本件登録意匠における各部の構成比は次表のとおりである。
〈12620-001〉 引用意匠は、登録第四四六〇〇三号意匠を本意匠とし、その類似一号として登録されたものであるから、両者の基本的構成は共通するものというべきところ、右表及び別紙(二)、(三)から明らかなとおり、本意匠と引用意匠は、排水ブロツクとして、平板な二枚の長方形の側壁とこれを支持連結する二本の底梁から構成され、全長に対して高さ、幅ともほぼ二分の一の寸法となつており、全幅の約一三パーセント(引用意匠は約一四・四パーセント)以上の厚さをもつ二枚の側壁がそれ以上の厚みをもつた底梁で連結され、底面に大きな(全平面積に対し、本意匠では約七〇パーセント、引用意匠では約五〇パーセント)長方形の排水孔が設けられていることを基本的に共通の特徴とするものであつて、右共通点こそ引用意匠の基本的な構成というべきである。
これに対し、本件登録意匠は、全長に対して高さは約三・四分の一、幅は約二・四分の一の寸法となつており、側壁は引用意匠のものより薄く、しかも引用意匠のものとは違つて、下降するにつれて断面積を増加しながら内方に屈曲伸長したものであつて、この側壁を、側壁と一体に形成した底板と側壁の厚さの三倍にも達する太い三本の連結梁で支持することによつて底板に排水孔(全平面積に対し約四〇パーセント)を穿設したものである。
右のとおり、本件登録意匠と引用意匠とは、基本的な構成各部の形状を全く異にするものであつて、類似していないことは明らかである。
ちなみに、本件登録意匠は、幅広で、底の浅い流水路を形成し、かつ、側面土圧が比較的小さな土地に適するとの印象を生じさせるのに対し、引用意匠は、幅が狭く、底の深い流水路を形成し、かつ、側面土圧が比較的大きな土地に対しても使用しうるとの印象を与えるものであり、水路設計者、土木事業者等の当業者に与える印象は全く別異のものである。
審決は、本件登録意匠、引用意匠とも全体を細長いU字形の構成としたものと認定しているが、本件登録意匠は周知の梯形断面ブロツクの分類に属するものであるのに対し、引用意匠はむしろ、ありふれた矩形断面ブロツクの変形と認識されるものであるから、両意匠を一括してU字形の構成とするのは誤りである。
また、審決は、引用意匠の側壁の内側は下端部に短い湾曲面を形成したものであると認定しているが、引用意匠のAーA断面図に明らかなように、引用意匠の側壁の内側下端は湾曲しておらず、審決の右認定も誤りである。
被告の答弁及び主張
一 請求の原因一、二の事実は認める。
二 同三は争う。審決に原告主張の違法はない。
1 手続上の違法の主張について(一) 本件審判請求当時、【A】が死亡していたことを被告が知つていたことは認めるが、本件審判請求が必要的共同審判に関する規定に違反する不適法なものである旨の主張は争う。
【A】の相続人間において原告主張の遺産分割協議が成立したことにより、原告が単独で本件意匠権を承継取得したものであり、本件審判請求時における実質上の被請求人は原告であるから、「被請求人【A】」という表示は原告を被請求人として表示したものとみるべきである。特許法第132条第2項違反をいう原告の主張は、その前提において失当である。
仮に、本件審判請求当時本件意匠権が【A】の相続人らの共有に係るものであつたから、右相続人全員を被請求人とすべきであつたとしても、意匠法第36条、特許法第98条第2項によれば、意匠権を相続した場合には遅滞なくその旨を特許庁長官に届出なければならないのに、【A】の相続人らは該届出をせず、本件審判請求当時本件意匠権の登録名義人は【A】であつたから、被告としては、【A】の死亡を知つていたとしても、【A】の相続人全員を被請求人として表示する必要はなく、【A】を被請求人と表示していた本件審判請求は適法である。
また、必要的共同審判の制度は、共有者各自について権利関係が区々にならないよう審決の判断の合一的な確定を目的とするものであるから、共有者全員を被請求人とすべきことは審判請求時に具備しなければならない要件ではなく、審決の前提となる要件である。したがつて、本件審判請求時においては本件意匠権が【A】の相続人らの共有に係るものであつたとしても、審決時には原告一人が本件意匠権の主体であり、したがつて被請求人適格を有していたのであるから、本件審判手続には必要的共同審判の規定の適用はないものというべきである。
仮に、本件審判請求について必要的共同審判の規定が適用されるべきであるとしても、原告は相続により本件意匠権を承継取得しており、また、その攻撃防禦の機会も充分に与えられていたのであるから、右規定違反の瑕疵は治癒されているものというべきである。
(二) 原告は、本件審判手続には、意匠法第68条第2項によつて準用される特許法第23条第24条所定の手続を怠り、原告を審判手続に関与させずになされた違法がある旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、本件審判請求の被請求人は原告とみるべきものであつて、そもそも手続の中断の問題を生じないのであるから、原告の右主張は理由がないものというべきである。仮に中断の問題を生じうるとしても、本件審判手続においては原告に代理人が選任されているのであるから、この点からいつても、右手続は中断せず(意匠法第68条第2項、特許法第24条、民事訴訟法第208条第213条)、受継手続を経る必要のなかつたものである。すなわち、本件の場合、審判手続の係属前に【A】は死亡しており、その死亡後に審判請求がなされ、原告に代理人が選任されたものであるから、民事訴訟法第213条を適用することはできないが、同条の規定の趣旨、すなわち、選任された代理人は審判手続関係を熟知しており、代理人に手続を続行させても支障を生じないこと、当事者の保護に欠けるところもないとの趣旨からして、右規定が類推適用されるべきである。
なお、この場合、代理人の選任によつて審判請求時にさかのぼつて右規定が類推適用されるのであつて、審判手続の当初から中断は生じないものとみるべきである。
仮に、本件審判手続において中断が生じ、職権により受継手続がなされるべきであつたとしても、原告は前述のとおり相続による本件意匠権承継の届出を怠つていたこと、遺産分割により、審判手続当初から原告が本件意匠権の権利者であつたこと、本件審判手続において原告には代理人が選任されていたこと、代理人が選任されながら受継の申立てを怠つていたこと、遺産分割後審決まで相当の期間があり、
その間、原告には防禦の機会が充分にあつたことなどからすれば、審判官による受継手続懈怠の瑕疵は治癒されているものというべきである。
(三) 原告は、本件審判手続において、原告に答弁の機会が与えられることなく審決がなされたものであつて違法である旨主張する。
しかしながら、原告は、昭和五四年九月一七日付の前記上申書を審判長に提出し、更に同年一〇月二〇日の遺産分割協議により本件意匠権を承継取得したが、その後、審決がなされた昭和五七年三月三一日までの長期間にわたつて、充分攻撃防禦の機会を与えられていたにもかかわらず理由なく放置していたものであつて、本件審判手続においては意匠法第52条によつて準用される特許法第134条第1項の手続を怠つた違法は全くなく、原告の右主張は理由がないものというべきである。
2 実体上の違法の主張について(一) 意匠法では、本意匠とは別個に類似意匠の登録を受けることができるが、
右類似意匠の登録は、意匠権の保護を強化するために、本意匠とは別個に独立の意匠登録として意匠法が特別に定めた制度であり、本意匠と類似意匠とは、登録の要件及び効力に関して、特別の定め(同法第50条)を除き、それぞれ独立しているのである。これを意匠法第23条についてみるに、同条によれば、意匠権は、登録意匠及びこれに類似する意匠について効力を有するものとされているが、同条にいう「登録意匠」には、本意匠のほかに、それとは別個の登録された類似意匠をも含むことは明らかであつて、類似意匠の意匠権はそれに類似する意匠についてもその効力が及ぶのである。
右のとおり、類似意匠の登録は本意匠とは別個独立のものであり、意匠法第9条第1項においても類似意匠の先願権を排除していないから、類似意匠の登録出願を右規定における先願として取り扱いうることは明らかである。
そうすると、意匠法第9条第1項を適用するに当たつて、後願の意匠につき、先願本意匠と同一又は類似か否かに判断しなければならないというものではなく、
先願の類似意匠とのみ類否判断を行つても何ら差し支えないものというべきである。
原告が、後願の意匠について、先願本意匠との類否判断が必要であるとしているのは、意匠権は本意匠に類似する範囲の意匠についてのみその効力が及ぶことを前提としているのではないかと考えられるが、意匠法第9条第1項は、出願という事実に基づいて競願関係をどのように処理するかという問題に関するものであるのに対し、意匠権の効力の範囲は、第三者との関係でどこまで権利の効力を及ぼすかの問題であるから、先願権の範囲は意匠権の効力が及ぶ範囲と必ずしも一致するものではなく、原告の主張はその論拠を有しないものというべきである。
以上のとおりであつて、審決が、本件登録意匠本意匠との類否判断をなさず、
引用意匠との類否判断を行い、意匠法第9条第1項を適用して、本件登録意匠の登録を無効としたことは違法である旨の原告の主張は理由がないこと明らかである。
(二) 本件登録意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品が同一であり、具体的な構成態様に若干の相違点があるとしても、要部である基本的構成態様において一致しているものであるから、互いに類似しているものというべく、審決の認定に誤りはない。
原告は、本意匠と引用意匠について、長さ、高さ、幅等の寸法、比例関係が共通点を有し、該共通点からすると、本件登録意匠と引用意匠とは類似していない旨主張するが、次に述べる点からして理由がないものというべきである。すなわち、本件登録意匠は、長方形底部の前後辺に横長長方形の側壁を起立させて形成し、上方に向つてやや開き、底部の左右辺及び中央に縦に帯状に梁を残して長方形透孔部を設け、正背面の下辺に梁の端面が突出したように形成して基本的構成形態としている。
右基本的構成形態においては、本件登録意匠と引用意匠及び本意匠とは共通しており、この共通点が類似性の有無の判断において重視されなければならない。排水ブロツクとして、その全長、高さ、幅等の各部の寸法、各部の相対比率などは、使用目的によつて変更されるべき性質のもので、二義的ともいうべきものであつて、要部となるものではないし、本件登録意匠と引用意匠との具体的構成形態の相違は軽微なものである。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一及び二の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。
1手続上の違法の有無について(一) 原告は、本件審判請求は意匠法第52条によつて準用される特許法第132条第2項に違反する不適法なものであり、右不適法な請求に基づいてなされた審決は違法である旨主張するので、右主張の当否について検討する。
当事者間に争いのない請求の原因一の事実によれば、昭和五二年二月七日【A】が死亡したことにより、本件意匠登録を受ける権利は原告ほか五名が共同相続し、
本件審判請求時において本件意匠権は右相続人の共有に属していたが、昭和五四年一〇月二〇日右相続人間において成立した遺産分割協議により、相続開始の時にさかのぼつて本件意匠登録を受ける権利は原告が取得し、したがつて、設定登録時より本件意匠権は原告の単独所有に帰したものというべきである。
また、請求の原因一掲記のとおり、原告において、特許庁審判長が昭和五四年八月二日付(発送日八月一〇日)で【A】宛に発送した答弁書の催告書及び審判請求書副本、特許庁長官がその頃同じく【A】宛に発送した審判番号等に関する通知書をいずれも右発送日頃事実上受領し、更に、審判長に対し答弁書提出期日指定の取消し又は期日の延期を求める旨の昭和五四年九月七日付上申書を戸籍謄本を添付して提出したことも当事者間に争いがない。
叙上の事実関係に基づき、すでに進行した手続を振り返つて、手続・効果の帰属者を判定するために当事者を確定するという観点からみると、死亡している【A】を被請求人と表示して本件審判請求をした被告の合理的意思は本件意匠権を単独で相続し、移転登録も経由した原告を被請求人として相手どる趣旨であり、また、原告が現実に被請求人たるべき者として行動した点を参酌すれば、本件審判請求の被請求人は原告であると認めるのが相当である。
それ故、本件審判請求当時本件意匠権が【A】の相続人六名の共有であつたから、被請求人は右相続人六名であつたとすべきであるとの前提に立つて、本件審判請求の不適法をいう原告の主張は、その前提において失当とするほかない。
原告は、遺産分割前の相続財産に関する審判当事者適格の問題と遺産分割の遡求効の問題とは関連がないなどとして、右説示に反する主張をなしているが採用することはできない。
なお、原告は、被告が【A】の死亡していることを知りながら(被告が本件審判請求当時、【A】がすでに死亡していることを知つていたことは、当事者間に争いがない。)、【A】を被請求人として本件審判請求をなした点をも、共同審判に関する前記規定違反の主張に関連して問題としているが、本件審判事件は、その請求当初より原告と被告間において有効に係属したものと認めるのが相当であること前説示のとおりであり、被告が【A】の死亡していることを知つていたこと自体はその結論を左右するものではなく、原告の主張は採用できない。
(二) 次に、原告は、本件審判手続には、意匠法第68条第2項によって準用される特許法第23条第24条所定の手続を怠り、原告を審判手続に関与させないでなされた違法がある旨主張する。
しかしながら、前記説示のとおり、本件審判事件は、その請求当初より原告と被告間において有効に係属しているのであるから、審判手続の中断を生ずべき事由はなく、原告の右主張は理由がない。
原告は、本件審判手続開始とともに直ちに手続は中断するとして縷々主張するが、独自の見解に基づくものであつて到底採用できない。
(三) 更に、原告は、審決は原告に本件審判請求に対する答弁の機会を与えることなくなされたものであつて違法である旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、原告は、昭和五四年八月一〇日頃【A】宛の答弁書の催告書等の書類を事実上受領したうえ、審判長に対し、同年九月一七日付上申書を提出し、同年一〇月二〇日に成立した遺産分割に基づき、本件意匠権について、昭和五五年四月二五日原告を権利者とする移転登録がなされた経緯に鑑みれば、審判長が原告に対し、改めて答弁書提出期日の指定をなさなかつたからといつて、直ちに、原告に対して答弁書提出の機会を与えなかつたものと認めるのは相当でなく、本件審判手続に意匠法第52条によつて準用される特許法第134条違反が存したか否かは、本件審判手続において、原告に実質的に答弁の機会が与えられていたか否かによつて決すべきものと解するのが相当であるところ、前記経緯及び移転登録がなされてから審決までの間に優に二年弱の期間があつたことからすると、原告としては、その間に充分本件審判請求に対する答弁をなしえたものと認めるのが相当であつて、本件審判手続に原告主張の違法が存したものと認めることはできない。
以上のとおりであつて、本件審判手続の違法を主張する請求の原因三、1、
(一)ないし(三)はいずれも理由がない。
2 実体上の違法の有無について(一) 原告は、審決が本件登録意匠本意匠との類否判断をなさず、類似意匠である引用意匠との類否判断を行い、意匠法第9条第1項を適用して、本件登録意匠の登録を無効としたことは違法である旨主張する。
しかしながら、意匠法第9条第1項は、同一の意匠の創作には一個の意匠権を設定するという意匠法の精神に則り、また、他人の意匠・商品から自己を識別させて類似・同一商品との競争で優位に立つという意匠創作の意義を全うさせるため、同一又は類似の意匠が複数登録出願されて競願関係が発生した場合、出願の日の前後によつて登録の許否を決めようとする趣旨に出たものであり、右条項において、類似意匠の意匠登録出願は先願としての資格を有しないものとして除外されてはいないことからすれば、類似意匠の意匠登録出願も右規定における先願たる資格を有し、その出願日後になされた、該類似意匠に類似する意匠の登録出願は拒絶されるものというべきである。ところで、意匠法第23条の規定によれば、意匠権者は業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有し(右類似意匠を登録して類似の範囲を明確にしておけば、積極的にそれを実施することが容易となり、更に、後述の第三者の権利侵害に対し適確な法的救済を求めることができるところから、意匠法第10条所定の類似意匠登録制度が存する。)、したがつて、第三者が本意匠又は類似意匠と同一の意匠を違法に実施した場合には、差止(同法第37条)等の救済を求めることができるが、第三者が類似意匠に類似する意匠を実施したことを根拠に救済を求めることはできない。しかし、このことは権利侵害に対する法的救済の合理的範囲の画定の見地から心然的に要請されるところであり、
この局面において、類似意匠に類似する意匠の実施に対し法的救済が及ばないからといつて、意匠法第9条第1項の規定の適用上類似意匠に先願たる資格を認めることが許されないということにはならない。したがつて、右条項を適用するに当たつて、後願の意匠につき、常に先願本意匠と同一又は類似か否かを判断しなければならないというものではなく、先願の類似意匠とのみ類否判断を行うことは何ら違法ではないものというべく、原告の右主張は理由がない。
原告は、意匠法第10条第2項には、意匠登録を受けた類似意匠にのみ類似する意匠については、類似意匠の登録を受けることができないと定められているにもかかわらず、審決のように本件登録意匠本意匠との類否を判断することなく、類似意匠である引用意匠との類否判断だけを行つて、意匠法第9条第1項を適用すると、意匠法が定める本意匠の権利範囲を実質上拡張するという不当な結果を招来するとして、右規定を適用するに当たつては、本意匠との類否を判断することが必要であると主張する。
おもうに、類似意匠制度はもとの登録意匠に類似する範囲においてのみ意匠登録を認めて権利者の保護を図るものであるから、その範囲を越える場合に権利の保護が与えられないことは当然のことであり、意匠法第10条第3項の規定はこの事由を明らかにしたにすぎないものであるが、このことは、競願関係を処理する同法第9条第1項の規定の前述の趣旨に照らし類似意匠に先願たる資格を認めるかどうかに係りのあることではなく、右規定の適用上、後になされた、類似意匠に類似する意匠の意匠登録出願を拒絶すべきものとしたからといつて、何ら本意匠の権利範囲を不当に拡張したことにはならないこと明らかである。原告の右主張は採用できない。
(二) そこで、本件登録意匠と引用意匠との類否について判断する。
(1) 本件登録意匠及び引用意匠の意匠に係る物品が同一であることは、当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第二号証によれば、本件登録意匠は、横長長方形状とした底部の両長辺部分に横長長方形状とした側壁を上方にやや拡開し起立させて形成し、
底部の左右辺部分及び中央に梁状とした横桟を設けて側壁の外側下辺の両端及び中央にそれらを突出させて形成し、底部に各横桟及び長辺部分によつて囲まれた二つの長方形状開口部を設けて基本的構成態様とするものであること、その具体的構成態様は次のようなものであること、すなわち、(イ)排水用コンクリートブロツクの長辺部分と高さとの比は約三・四対一、右長辺部分側壁の外側上端間の長さとの比は約二・四対一、排水用コンクリートブロツクの高さと側壁の外側上端間の長さとの比は約一対一・四、側壁の高さと側壁の内側上端間の長さとの比は約一対一・六であること(別紙(四)参照)、(ロ)側壁は上辺から下辺にかけてわずかであるが漸次厚くしたものであるが、その幅は全体が薄いものであり、側壁の外側上端部分を一定の幅でやや厚い縁状としてその余の部分を平担面としたものであること、(ハ)側壁の外側下端部の各横桟間について稜部を斜めに面取りしたものであること、(ニ)側壁の左右端部の内壁及び左右辺の横桟の左右端部の上端を一連に細幅に切欠してU字形状に凹部を設けていること、(ホ)左右辺の横桟の下方角部は直角状としたものであること、(ヘ)底部の左右辺と中央の横桟の高さは同じであることが認められる。
成立に争いのない甲第三号証によれば、引用意匠は、横長長方形状とした底部の両長辺部分に横長長方形状とした側壁を上方にやや拡開し起立させて形成し、底部の左右辺部分及び中央に梁状とした横桟を設けて側壁の外側下辺の両端及び中央にそれらを突出させて形成し、底部に各横桟及び長辺部分によつて囲まれた二つの長方形状開口部を設けて基本的構成態様とするものであること、その具体的構成態様は次のようなものであること、すなわち、(イ)排水用ブロツクの長辺部分と高さとの比は約二対一、右長辺部分と側壁の外側上端間の長さとの比は約二対一、排水用ブロツクの高さと側壁の外側上端間の長さとの比は約一対一、側壁の高さと側壁の内側上端間の長さとの比は約一対一であること(別紙(四)参照)、(ロ)側壁は上辺から下辺にかけてほぼ一定幅のものであつて、その幅は厚く、側壁の外側は全体を平坦面としたものであること、(ハ)側壁の外側下端部の各横桟間について稜部を直角としたものであること、(ニ)側壁の左端部外側及び左辺の横桟下端部を一連に細幅に切欠して、側壁及び横桟の一部をU字形状にやや突出させ、側壁の右端部内側及び右辺の横桟上端部を一連に細幅に切欠して、U字形状に凹状を設けていること、(ホ)左右辺の横桟の下方角部は角切状に切欠したものであること、
(ヘ)底部の中央横桟の高さを左右辺部分の横桟の高さよりやや低くしたものであることが認められる。
(2) 右認定事実によれば、本件登録意匠と引用意匠とは前記基本的構成態様を共通にするものであることが認められるところ、成立に争いのない甲第六ないし第八号証、第一七号証によれば、右基本的構成態様のうち、横長長方形状とした底部の両長辺部分に横長長方形状とした側壁を上方にやや拡開し起立させて形成し、底部に梁状とした横桟を設けて横桟及び底部の両長辺部分によつて囲まれた長方形状開口部を設けたものは、両意匠に係る物品と同種の物品に関する意匠において、引用意匠の意匠登録出願前からよく知られていたものであることが認められるから、
右の構成部分が看者の注意を惹くものと認めることはできない。
ところで、横桟を側壁の外側下辺の両端及び中央に突出させて形成した態様が引用意匠の意匠登録出願前公知もしくは周知であつたことを認むべき証拠はなく、両意匠に係る物品の種類、形態からみて、右の態様は看者の注意を惹く部分であると認められるが、この種の物品の使用目的を考慮すると、右の部分にのみ意匠としての特徴が存するものとすることはできず、更に、ブロツク全体の長さと高さ、側壁の高さ、側壁の外側上端間の長さ、側壁の内側上端間の長さ相互の構成比によつてもたらされる形態の特徴及び側壁の形状も看者の注意を惹く部分であると認められるから、両意匠の類否は、これらの点を総合し、全体的に観察して判断すべきものと解するのが相当である。
そこで、本件登録意匠と引用意匠とを対比すると、(イ)両意匠の長辺部分及び高さ、側壁の高さ、側壁の外側上端間の長さ、側壁の内側上端間の長さ相互の各構成比は前記認定のとおりであつて、本件登録意匠は、引用意匠との対比において高さに対する長辺部分の比率が高く、また、幅が広くて底の浅いものであるのに対し、引用意匠は、本件登録意匠との対比において高さに対する長辺部分の比率が低く、また幅が狭くて底の深いものである、(ロ)本件登録意匠の側壁は、上辺から下辺にかけてわずかではあるが漸次厚くしたものであるが、引用意匠の側壁との対比において全体的に薄いものであり、側壁の外側上端部は一定の幅でやや厚い縁状とし、その余の部分は平坦面とされ、側壁の外側下端部の稜部は斜めに面取りされているのに対し、引用意匠の側壁は、ほぼ一定幅のものであつて、本件登録意匠の側壁との対比において厚いものであり、側壁の外側は全体が平坦面とされ、側壁の外側下端部の稜部は直角である、という点で相違しているが、右(イ)、(ロ)の相違が相まつて、本件登録意匠は軽快で、華奢な印象を与えるものであるのに対し、引用意匠は重厚で、堅牢な印象を与えるものであり、これらの相違点をも総合して考慮すると、本件登録意匠と引用意匠とは、横桟を側壁の外側下辺の両端及び中央に突出させて形成した態様において共通するものの、
全体的にみて著しく異なつた美感を生じさせるものと認めるのが相当であつて、本件登録意匠と引用意匠とは類似していないものというべきである。
以上のとおりであつて、本件登録意匠と引用意匠とは類似しているとした審決の認定は誤りであり、右認定を前提として本件登録意匠の登録を無効とした審決は違法である。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 蕪山嚴
裁判官 竹田稔
裁判官 濱崎浩一
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